運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2003-16308
関連ワード 発明者 /  改良発明 /  新規性 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  単一性 /  パリ条約 /  優先権 /  実質的に同一 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  国際公開 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10244号 審決取消請求事件
原告アンドリッツインコーポレーテッド
訴訟代理人弁理士中村静男,渋谷健
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人柳和子,坂崎恵美子,森川元嗣,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/06/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2003−16308号事件について平成19年2月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決第2事案の概要本件は,原告がした後記特許出願(以下「本願」という。)に対し拒絶査定がされたため,これを不服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本願(甲1)出願人:原告(出願時の名称:アールストロームマシーナリーインコーポレーテッド)発明の名称:「セルロースパルプ製造装置のスクリーン板」出願番号:特願2000-32224号出願日:平成12年2月9日(パリ条約による優先権主張:1999(平成11)年2月10日,アメリカ合衆国)手続補正日:平成15年3月28日(甲5。以下「本件手続補正書(審査)」といい,これによる手続補正を「本件補正」と,本願に係る本件補正後の明細書(甲1,5)を「本願明細書」とそれぞれいう。)拒絶査定日:平成15年5月28日(甲6)(2)審判請求手続審判請求日:平成15年8月25日(甲7。不服2003-16308号)審決日:平成19年2月27日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成19年3月9日2発明の要旨審決が対象とした本件補正後の請求項19の記載は,次のとおりである(以下,この請求項に係る発明を「本願発明」という。)。
【請求項19】「スクリーン板であって,平行な頂辺と底辺と,平行な第一と第二側辺であって前記頂辺と底辺に垂直な第一と第二側辺とを有する四角形の金属板と,前記金属板に設けられた複数のスロット領域であって,各スロット領域において幅が2〜13mmである各スロットが,前記辺の一つに対する傾斜角αが30〜60度となるように複数配置されている,複数のスロット領域と,前記金属板の前記スロット領域の間に設けられた複数の陸領域と,から構成されることを特徴とするスクリーン板。」3審決の要点審決は,本願発明は,後記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができず,よって,「本件審判の請求は,成り立たない。」とした。
(1)1996(平成8)年8月29日に頒布された国際公開第96/26315号パンフレット(甲3。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)「複数のスロットが形成されている長方形のスクリーン板であって,スロットが水平方向,即ち,長方形の下辺に対する傾斜角αが30〜60度であり,幅が1〜5mmであり,更に,金属板に複数のスロットを機械加工により製造された,スクリーン板」(2)本願発明と引用発明との対比ア一致点「スクリーン板であって,四角形の金属板と,前記金属板に設けられたスロット領域であって,スロット領域において幅が2〜13mmである各スロットが,前記辺の一つに対する傾斜角αが30〜60度となるように複数配置されている,スロット領域とを含むスクリーン板」イ相違点「スクリーン板が,本願発明では,複数のスロット領域と,前記複数のスロット領域の間に設けられた複数の陸領域とから構成されるのに対して,引用発明では,スロット領域が一つであり,本願発明に係る前記複数の陸領域も具備していない点。」(3)相違点についての判断「スクリーン板において,1枚の金属板に複数のスロットの一群からなるスロット領域を複数形成させた構造とすることは,本願前周知のことであって,スロット領域を複数形成させた構造のスクリーン板とすることは,対象となるスクリーン板の大きさ,又は形成させるスロットの長さあるいはスロット領域の幅等の所要の仕様に応じて,当業者が適宜選択し,採用し得ることで,その際,上述したとおり,1枚のスクリーン板上に複数のスロット領域を設ける以上,当然に,スロット領域の間に陸領域が存在することとなることも自明である。
してみると,上記相違点の如く複数のスロット領域と,複数の陸領域とを有する構造のスクリーン板とすることは,格別の創意を要せず,また何らの困難性もないものである。
しかも,上記相違点に基づく本願発明のスクリーン板の効果は,本願明細書の段落【0003】に『閉塞問題を最小限に抑えながら,スクリーンの機能を更に向上させ,製作を容易にするものである。』と記載され,また,段落【0028】に『本発明のスクリーンアセンブリ10,およびスクリーン板13,113,213,313などは,回分または連続式蒸解缶,特に連続式蒸解缶において従来のスクリーンに比較して向上した運転性を有する。これらは,閉塞に強く,国際特許第96/26315号公報に関連する他の利点を有し,更に国際特許第96/26315号公報記載のスクリーンに比較して,向上した強度,向上した作業性,設置の容易性,製造の容易性を提供する。』と記載されているにすぎず,そのような効果は,引用例並びに周知技術から当業者が予測できる程度のことであるから,上記相違点に基づく効果においても,格別のものを認めることはできない。
したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(4)審決の「むすび」「以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。」第3審決取消事由の要点審決は,以下のとおり,審判請求手続において手続違背を犯した上,本願に係る特許請求の範囲(本件補正後のもの。以下,特に断らない限り同様である。)の請求項1に記載された発明(以下「本願請求項1発明」という。)についての判断を遺脱し,また,相違点についての判断を誤り,さらに,本願発明が奏する顕著な効果を看過した結果,「本件審判の請求は,成り立たない。」と判断したものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(手続違背)(1)ア特許庁審査官(以下,単に「審査官」という。)は,原告に対し,平成14年9月27日付け拒絶理由通知書(甲2。以下「本件拒絶理由通知書」という。)をもって,本願に係る拒絶理由を通知した(以下「本件拒絶理由通知」という。)ところ,本件拒絶理由通知書の記載(「してみれば,本願の請求項・・・15乃至20・・・に係る発明は引用発明と相違するものではない。」)に照らせば,本願に係る拒絶理由は,本願発明が引用発明と同一であり,新規性を欠くことを理由としたものといえる。
イそこで,原告は,審査官に対し,平成15年3月28日,意見書(甲4。以下「本件意見書」という。)を提出し,本願発明のスクリーン板が引用発明のスクリーンと構成が相違すること,当該構成の相違により強度,作業性が向上するとの技術的効果が得られることなどを主張した。
ウところが,審査官は,本願について,同年5月28日付けで,拒絶査定(甲6。以下「本件拒絶査定」という。)をしたが,その備考欄の「してみれば,引用発明においても,本願発明の『陸領域』に相当するスクリーンバーが存在するから,この点において相違しない。」との記載に照らせば,本件拒絶査定の理由も,引用発明が本願発明と実質的に同一であることを理由としたものといえる。
エそこで,原告は,本件審判請求の理由を記載した同年11月26日付け手続補正書(甲8。以下「本件手続補正書(審判)」という。)において,引用発明のスクリーンバーが本願発明の陸領域に相当するものでないこと,本願発明が引用発明に比べて強度,作業性等の利点を有することなどを主張した。
オところが,特許庁審判合議体(以下,単に「審判合議体」という。)は,新たに拒絶理由を通知することなく,平成19年2月27日,前記第2,3のとおり,本願発明と引用発明との相違点を認定した上,本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨の審決をした。
(2)拒絶査定不服審判請求に係る審決における認定を,審査における認定と大きく変更する場合には,審判合議体は,審判請求人に対し,新たに拒絶理由を通知して意見陳述の機会を与えるべきであるところ,上記(1)のとおり,審判合議体は,原告に対し,新たな拒絶理由を通知して意見陳述の機会を与える手続を採らずに,審査における拒絶の理由と実質的に異なる拒絶の理由によって本件審判請求を不成立とする審決をしたものであるから,審決には,特許法159条2項において準用する同法50条本文(以下,準用の根拠条文の記載は省略する。)の規定に違反した手続違背がある。
2取消事由2(本願請求項1発明についての判断の遺脱)(1)本願に係る特許請求の範囲は,請求項1ないし請求項31から成り,うち,請求項1及び請求項19が独立請求項,請求項2ないし請求項18が請求項1の従属請求項,請求項20ないし請求項31が請求項19の従属請求項である。
(2)本願請求項1発明の要旨は,次のとおりである。
【請求項1】「蒸解缶でセルロースパルプを製造するのに用いられるスクリーンであって,前記スクリーンが,フレームと該フレームに固定された金属製スクリーン板とを備え,前記スクリーン板は,複数のスロット領域を有し,各スロット領域には複数のスロットが形成されており,前記スクリーン板が,前記スロットが水平または垂直に対して30〜60度の傾斜角αを有するように,前記蒸解缶内に配置され,その際,複数の陸領域が前記スクリーン板のスロット領域とスロット領域との間に設けられることを特徴とするスクリーン。」(3)上記のとおり,本願請求項1発明と本願発明とは,前者が「スクリーン」,後者が「スクリーン板」である点においてわずかに相違しているものの,下記アないしウのとおりの共通の構成要件を有するものである。
アスクリーン板が,複数のスロット領域を有し,各スロット領域には複数のスロットが形成されていること。
イ前記スロットが水平または垂直に対して30〜60度の傾斜角度を有すること。
ウ複数の陸領域が前記スクリーン板のスロット領域とスロット領域との間に設けられていること。
(4)上記のとおり,本願請求項1発明は,本願発明と共通の構成要件(上記(3)アないしウ)を有するものであり,本願発明と技術的に密接に関連するものであるから,両者は,本件審判請求手続において一括して審理することが可能であり,そのために審理期間が大幅に長期化することも考えられない(かえって,審決のような審理の方法を採用すると,審決が取り消されて事件が特許庁に再係属した場合,本願発明についての再審理とともに,本願請求項1発明の審理を新たに行う必要が生じるのであるから,効率が悪く,審理の長期化を招くことになる。)。したがって,審決は,本願発明のみならず,本願請求項1発明についても,本件審判請求の理由の有無を判断すべきであったというべきである。
また,拒絶査定不服審判請求の手続においては,可能な限り審判請求人(出願人)の利益を図るような審理方法を採用すべきところ,本件拒絶理由通知書,本件手続補正書(審査),本件意見書,本件拒絶査定及び本件手続補正書(審判)の内容に照らせば,審査官が,本願請求項1発明及び本願発明の両者について審査し,本件拒絶査定をしたことは明らかであるし,原告は,本件審判請求に当たり,全請求項(請求項1〜31)に相当する高額の手数料(22万円)を納付した上,本件審判請求手続において,本願請求項1発明及び本願発明の両者の特許性について主張していたのであるから,この点からも,審決は,本願請求項1発明についても,本件審判請求の理由の有無を判断すべきであったといえる(本件審判請求手続は,本来あるべき審理の姿に著しく反するものである。)。
しかしながら,審決は,本願発明についてのみ判断をし,本願請求項1発明についての判断を遺脱したものであるから,違法であるといわざるを得ない。
(5)なお,被告は,「両発明が『わずかに相違している』などといえるものではない」,「本願請求項1発明が本願発明と技術的に密接に関連するものであろうとなかろうと,本願が全体として拒絶されるべきものであることに変わりはない」と主張する。しかしながら,本願請求項1発明と本願発明とが技術的な関連性を有しないのであれば,審査官は,原告に対し,両発明が発明の単一性の要件を満たさないとの拒絶理由を通知し,本願発明について出願の分割をする機会を与えるべきであったにもかかわらず,本件審査手続において,そのような拒絶理由通知はされていない。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)(1)審決は,相違点についての判断に当たり,「スクリーン板において,1枚の金属板に複数のスロットの一群からなるスロット領域を複数形成させた構造とすることは,本願前周知のことであって,」と認定した上,この認定に基づいて,「上記相違点の如く複数のスロット領域と,複数の陸領域とを有する構造のスクリーン板とすることは,格別の創意を要せず,また何らの困難性もないものである。」と判断した。
(2)しかしながら,上記「本願前周知のことであ(る)」との認定は,本願発明の基本的かつ特徴的で特に重要な構成要件について,何ら公知文献を示すことなくされたものであって,我が国の審査実務慣行に著しく反するものであり,違法であるから,当該認定に基づいてされた相違点についての審決の上記判断も,違法である。
(3)被告は,「現行の審査実務において,発明特定事項周知技術として認定する際に公知文献を提示しないことは,枚挙にいとまがないほど通常に行われている慣行であるし,特許庁の審査基準においても,周知技術の認定に当たり,必ず公知文献を提示しなければならないとされているわけでない。」と主張するが,特許出願に係る発明の特徴的構成要件のうち重要なものについて,公知文献を提示することなく周知技術であると認定することを認めると,当該出願が具体的な理由なく拒絶され,出願人の利益が著しく損なわれることになるから,特許出願に係る発明の構成要件について,公知文献を提示することなく周知技術であると認定することが認められるのは,当該構成要件が,発明の前提要件又は発明の特徴的構成要件であっても重要でないものである場合に限られると解すべきである。
(4)また,被告は,「『スクリーン板が,複数のスロット領域を有し,各スロット領域には複数のスロットが形成されている』構造とするとの発明特定事項周知技術であることは,乙1〜6の各公知文献からも明らかである。」と主張するが,乙1〜6の各公知文献は,いずれも,「スクリーン」に複数のスロットからなるスロット領域を複数設けることしか開示しないものであるから,これらの各公知文献から,上記構造が周知技術であると認定することはできない(なお,乙1〜6の各公知文献を根拠とする被告の主張は,「スクリーン板」と「スクリーン」とを同一視するものであり,取消事由2に対する被告の後記反論と矛盾するものである。)。
4取消事由4(顕著な効果の看過)(1)審決は,「上記相違点に基づく本願発明のスクリーン板の効果は,・・・引用例並びに周知技術から当業者が予測できる程度のことであるから,上記相違点に基づく効果においても,格別のものを認めることはできない。」と判断した。
(2)しかしながら,審決は,上記判断における「周知技術」の特定をしないなど,上記判断の根拠を全く示していないほか,本願発明は,本願明細書にも記載があるとおり,次のとおりの顕著な効果を奏するものであるから,審決には,当該効果を看過した誤りがある。
ア本願発明は,スクリーン板に複数の陸領域が存在し,スクリーン板の開口面積が小さく,かつ,複数の陸領域の間に存在するスロット領域における各スロットの長さがはるかに短いことにより,引用発明に比べて,パルプがスロットを閉塞するのを防止することができる。また,このことにより,本願発明は,スクリーン板の開口面積が小さいにもかかわらず,蒸解液の循環性にも優れるものである。
イ本願発明は,スクリーン板に複数の陸領域が存在することや,陸領域に支持ピンを設けることにより,引用発明のスクリーンに比べて強度が向上し,スクリーン板のたわみ等の問題を解消することができる。
ウ本願発明は,一つのスロット領域と他のスロット領域との間に陸領域を設けることにより,各スロット領域における各スロットの長さを大幅に短くすることができるため,スロットへのチップの詰まり(閉塞)を最小限に抑えて蒸解缶を長期間運転することができ,スクリーンの作業性(操業性)が向上する。
(3)被告は,「審決は,本願発明が奏する効果を具体的に認定した上,当該効果が相違点に係る本願発明の構成に基づくものであり,当該構成が周知技術にすぎないので,当該効果は当業者が予測できる程度のものであるとして,その判断の根拠を示している」と主張するが,取消事由3において主張したとおり,上記構成が周知技術であると認定することはできないのであるから,被告の上記主張は,前提において既に誤っている。
第4被告の反論の骨子1取消事由1(手続違背)に対して(1)ア特許法158条の規定によれば,拒絶査定不服審判請求手続においては,審査官による拒絶査定の理由とその結果を維持した審決の理由とが異なっている場合であっても,審決が採用した拒絶理由が審査手続において出願人に通知されていれば,これを審判請求手続において改めて通知しなくても,審決が特許法159条2項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に基づいて判断したこととなるものではない。
イこれを本件についてみるに,審決が本件審判請求を不成立とした理由は,「本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」というものであるところ,この理由(引用文献(引用例)を含む。)は,審査官が,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定をもって原告に通知していた拒絶の理由(本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定に記載された理由4(進歩性欠如)(以下,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定に記載された理由3及び4を,それぞれ,単に「理由3」及び「理由4」ということがある。))と同じであるから,審決が,「査定の理由と異なる拒絶の理由」に基づいて判断したものとはいえない。
(2)審査官は,原告に対し,本件補正前の特許請求の範囲の請求項19(以下,同請求項に記載された発明を「本願当初発明」という。)を前提として,本件拒絶理由通知をしたものであるところ,本件拒絶理由通知書には,理由4として,「引用例に基づいて容易想到である」との理由が記載され,また,原告は,引用例を熟知していたのであるから,本件拒絶理由通知を受けた原告としては,当然,本願当初発明と引用発明との間に相違する事項が存在すること及びその内容を正確に理解し,また,「本願当初発明には,引用発明と相違する事項はあるが,その相違点は容易である」と審査官が判断していることを理解していたといえる。
このことは,原告が本件補正により相違点を明確にしたことからも明らかである。
(3)審決は,本願当初発明と本願発明との構造上の相違を正確に把握した上,本件意見書及び本件手続補正書(審判)において原告が主張するのと同様に相違点を認定し,これについての判断をしたものである。
すなわち,審決が認定した相違点は,本件補正により生じ,また,原告が認識し,意見を述べていた相違点と何ら異なるものではない。
そして,審決は,審査手続において既に原告に通知していた理由4を採用することとし,本願発明が引用例及び周知技術に基づいて容易想到であると判断したものであるから,審決が,「査定の理由と異なる拒絶の理由」に基づいて判断したものとはいえない。
(4)上記(2)のとおり,原告は,本願に係る拒絶の理由が理由4であることを認識していたものである。
すなわち,原告は,本件意見書及び本件手続補正書(審判)において,本願発明が引用発明を改良したものであり,本願発明と引用発明との間に明確な構造上の相違点が存在し,本願発明は引用発明ではないこと,本願発明が当該相違点により引用発明における問題点を解消した顕著な効果を奏するものであって,引用発明から容易に発明をすることができたものではない旨主張していた。
したがって,原告は,審査官及び審判合議体が,理由4により本願を拒絶すべきものとしていることを十分に理解し,認識していたといえる。
そうすると,審決が本件審判請求を不成立とした理由が,「審査の理由と異なる拒絶の理由」に該当するとはいえないし,本件拒絶理由通知新規性の欠如のみを指摘していた旨及び審判合議体が原告に対し意見を述べる機会を与えなかった旨の原告の主張は失当である。
(5)以上のとおりであるから,審決には,特許法50条本文の規定に違反する手続違背はない。
2取消事由2(本願請求項1発明についての判断の遺脱)に対して(1)原告は,本願発明についてのみ本件審判請求の理由の有無を判断し,本願請求項1発明について当該判断をしなかった審決は違法である旨主張する。
しかしながら,平成14年法律第24号による改正前の特許法49条(以下「旧法49条」という。)柱書は,「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定するところ,この規定は,特許出願が,限定列挙された同条各号のいずれかに該当する場合,その特許出願について,拒絶査定という行政処分をすべきことを規定したものであり,1つの特許出願に複数の請求項に係る発明が含まれている場合,そのうちのいずれか1つの請求項に係る発明についてであっても,当該発明が同条各号のいずれかに該当するときは,その特許出願全体について拒絶をすべき旨の査定をしなければならないものと解すべきである。
これを本件についてみるに,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は,旧法49条2号にいう「その特許出願に係る発明が・・・第二十9条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき。」に該当するというべきである。
したがって,その余の請求項に係る発明について判断するまでもなく,本願については,これを全体として拒絶すべき旨の査定をしなければならないのであるから,審決が,本願請求項1発明について本件審判請求の理由の有無についての判断を示すことなく「本件審判の請求は,成り立たない。」と判断した点に違法はない。
(2)原告は,本願請求項1発明が本願発明と技術的に密接に関連するものであることを理由に,審決は本願請求項1発明についても本件審判請求の理由の有無を判断すべきであった旨主張する。
しかしながら,審決が,仮に本願請求項1発明について当該判断をしたとしても,上記(1)のとおり,本願発明について旧法49条2号に該当するとの判断をする以上,本願は全体として拒絶されるべきものであるから,本願請求項1発明が本願発明と技術的に密接に関連するものであろうとなかろうと,本願が全体として拒絶されるべきものであることに変わりはない。したがって,原告の上記主張は,失当である。
(3)なお,原告は,「本願請求項1発明と本願発明とは,前者が『スクリーン』,後者が『スクリーン板』である点においてわずかに相違しているものの・・・。」と主張する。
しかしながら,本願請求項1発明が,蒸解缶用であり,かつ,蒸解缶中への配置も特定された「スクリーン」の発明であるのに対し,本願発明は,蒸解缶との関わりについての規定がない単なる「スクリーン板」の構造のみが特定された発明であり,本願請求項1発明のように紙の製造に係るスクリーン板に限定されるものではない。したがって,「スクリーン板」であれば,どのような用途(分野)のものであっても,本願発明が属する技術分野のものとなるのであり,両発明が「わずかに相違している」などといえるものではないから,原告の上記主張は,誤りである。
3取消事由3(相違点についての判断の誤り)に対して(1)そもそも「周知技術」とは,その技術分野において一般的に知られている技術であって,例えば,当該技術に関し,相当多数の公知文献が存在し,業界に知れ渡り,又は文献を例示する必要がないほどよく知られている技術である。
(2)また,現行の審査実務において,発明特定事項周知技術として認定する際に公知文献を提示しないことは,枚挙にいとまがないほど通常に行われている慣行であるし,特許庁の審査基準においても,周知技術の認定に当たり,必ず公知文献を提示しなければならないとされているわけでない。
(3)以上のとおりであるから,審決が,公知文献を示すことなく「スクリーン板において,1枚の金属板に複数のスロットの一群からなるスロット領域を複数形成させた構造とすることは,本願前周知のことであ」ると認定したことが,我が国の審査実務慣行に著しく反するものであるとの原告の主張は,理由がなく,したがって,当該主張を前提に,相違点についての審決の判断の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠くものとして失当である。
(4)なお,「スクリーン板が,複数のスロット領域を有し,各スロット領域には複数のスロットが形成されている」構造とするとの発明特定事項周知技術であることは,乙1〜6の各公知文献からも明らかである。
4取消事由4(顕著な効果の看過)に対して(1)原告は,審決が,「上記相違点に基づく本願発明のスクリーン板の効果は,・・・格別のものを認めることができない。」との判断の根拠を示していない旨主張するが,審決は,本願発明が奏する効果を具体的に認定した上,当該効果が相違点に係る本願発明の構成に基づくものであり,当該構成が周知技術にすぎないので,当該効果は当業者が予測できる程度のものであるとして,その判断の根拠を示しているのであるから,原告の上記主張は,失当である。
(2)本願明細書には,「閉塞問題を最小限に抑え」,「スクリーン機能を更に向上」,「製作を容易にする」,「向上した運転性」といった漠然とした効果に加え,「向上した強度」,「向上した作業性」,「設置の容易性」,「製造の容易性」といった引用発明と比較した効果の記載があるにとどまり,これらの効果がどの程度のものであるかについては,明らかでないし,また,これらの効果は,相違点に係る本願発明の構成が周知技術にすぎない以上,引用発明に周知技術を適用することにより当然に奏するものにすぎないから,当業者が予測できる程度のものである。そして,原告が主張する,「耐閉塞性」,「強度」及び「作業性」についても,所詮,上記周知技術の構造に基づく効果を説明するものにすぎない。
なお,本願発明は,一般的なスクリーン板の構造についての発明であり,原告が主張するような蒸解缶に用いたスクリーン板という特定の装置における効果について判断する必要はない(仮に,当該特定の装置における効果をみるとしても,それは,当業者が予測できる程度のものである。)。
(3)以上のとおりであるから,審決に,本願発明が奏する顕著な効果を看過した誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(手続違背)について(1)掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア本件補正前の請求項19の記載(甲1)は,次のとおりである。
「【請求項19】スクリーン板であって,実質的に平行な頂辺と底辺と,実質的に平行な第一と第二側辺であって前記頂辺と底辺に実質的に垂直な第一と第二側辺とを有する実質的に四角形の金属板と,前記金属板に開けられた複数のスロットであって,前記辺の一つに対する傾斜角αとして約30〜60度となるように配置され,幅が約2〜13mmである前記スロットと,前記金属板の前記スロット部の間に設けられた複数の陸領域と,から構成されることを特徴とするスクリーン板。」イ本件拒絶理由通知書(甲2)の本件拒絶査定の理由とされた部分(本願当初発明に係るもの)は,次のとおりである。
「(理由3)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された引用例に記載された発明・・・であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
(理由4)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された引用例に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記(・・・)・・・理由3及び4について請求項・・・15乃至20・・・について引用例には,水平面に対して,傾斜角30〜60°で配置されたスロットを有するスクリーンが記載されている。そして,引用例の4頁32行乃至34行には,フレームとフレームに固定されたスクリーンプレートを備えることが記載されている。
してみれば,本願の請求項・・・15乃至20・・・に係る発明は,引用発明と相違するものではない。」ウ本件意見書(甲4)の本件拒絶理由通知書に記載の上記イの内容に対応する記載部分は,次のとおりである。
「IV.理由3(特許法29条1項違反)および理由4(特許法29条2項違反)(1)理由3および理由4において,本件請求項・・・15乃至20・・・の発明は,引用例により,その新規性乃至進歩性がないと認定されています。
(2)審査官殿ご指摘のように,引用例には,水平面に対して,傾斜角30〜60°で配置されたスロットを有するスクリーンが記載され,そして,引用例の4頁32行乃至34行には,フレームとフレームに固定されたスクリーンプレートを備えることが記載されていますが,引用例は,・・・本願発明における必須の構成要件,すなわち,スクリーン板が複数のスロット領域と複数の陸領域とを含み,一つの陸領域が一つのスロット領域と他のスロット領域との間に設けられている,という構成要件およびこれによってもたらされる,スクリーン板の強度および作業性の向上という技術的効果を開示していません。
従って,引用例によって,・・・本願発明・・・を新規性および進歩性なしとすることはできないものと思料します。
?X.結語以上述べたように,・・・拒絶理由3および4は理由がないものと考えます。」エ本件拒絶査定(甲6)の内容は,次のとおりである。
「この出願については,本件拒絶理由通知書に記載した理由3及び4によって,拒絶をすべきものである。
なお,本件意見書及び本件手続補正書(審査)の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。
備考引用例の5頁2行乃至20行には,スクリーンプレートがスクリーンバー16を備えることが記載されており,スロットの間隔tはスロットの幅sの1.5-2倍の長さであることが記載されている。してみれば,引用発明においても,本願発明の『陸領域』に相当するスクリーンバーが存在するから,この点において相違しない。」オ本件審判請求(甲7)の理由(甲8)の要旨は,次のとおりである。
「III.本件発明が特許されるべき理由1.本件発明の構成(1)・・・(2)・・・本願請求項1発明と本願発明(本書において,これら両発明を総称して『本件発明』という)とは,・・・次の共通の構成要件(a)〜(c)を有することを特徴とする。
(a)スクリーン板が,複数のスロット領域を有し,各スロット領域には複数のスロットが形成されていること。
(b)前記スロットが水平または垂直に対して30〜60度の傾斜角αを有すること。
(c)複数の陸領域が前記スクリーン板のスロット領域とスロット領域との間に設けられていること。
2.引用発明の構成・・・引用発明は,次の構成要件を有する。
(a')スクリーン板が,スクリーン板の全面に渡って伸びている複数のスロットを有すること・・・。
(b')各スロットは水平面に対して傾斜角30〜60度で傾斜していること・・・。
3.本件発明と引用発明との対比(1)・・・本願の発明者は,引用例の技術内容を熟知しており,・・・引用発明を改良したものが,本件発明である。
・・・(3)・・・上述したように,本件発明は引用発明の改良発明であることから,両発明には明確な構成上の相違点が存在する。
すなわち,本件発明と引用発明とは,スクリーン板に設けられたスロットの傾斜性に関する前者の構成要件(b)と後者の構成要件(b')において共通するが,残りの構成要件である,本件発明における構成要件(a)および(c)の組み合せと引用発明における構成要件(a')とは明確に相違する。
・・・・・・引用発明は,本件発明の構成要件(a)と相違する構成要件(a')を有し,また本件発明の構成要件(c)を有しないので,本件発明と発明の構成が顕著に相違することが明らかである。
(4)次に本件発明の効果について述べると,本件発明は・・・パルプが閉塞しにくく,引用例に記載のスクリーンに比較して,向上した強度,作業性,設置の容易性,製造の容易性等の利点を達成するものである。
(5)上記(3)で述べたように本件発明は引用発明とその構成が相違し,また上記(4)で述べたように,本件発明は引用発明における問題点を解消した顕著な効果を得たものであるから,本件発明は引用発明と同一ではないだけでなく,同発明から容易に発明できたものではない。
(6)原審審査官殿は,本件拒絶査定の備考欄において,引用発明において,スクリーンバー16が本件発明の『陸領域』に相当すると認識され,この点において引用例に記載のスクリーンは本件発明のスクリーンと相違しないと認定された。
しかしながら,・・・本件発明において,引用発明のスクリーンバーに対応するものは,・・・陸領域15ではない。
従って,引用発明におけるスクリーンバーを本件発明における陸領域と同一視した原審審査官殿の上記認定は妥当ではない。
(7)・・・IV.むすび以上のとおり,本件請求項に係る各発明は引用発明と同一ではなく,また引用例から当業者が容易に発明することができたものではない。」(2)審決は,前記第2,3のとおり,本願発明と引用発明との相違点を「スクリーン板が,本願発明では,複数のスロット領域と,前記複数のスロット領域の間に設けられた複数の陸領域とから構成されるのに対して,引用発明では,スロット領域が一つであり,本願発明に係る前記複数の陸領域も具備していない点。」と認定した上,本願発明の相違点に係る構成のうち,「スクリーン板において,1枚の金属板に複数のスロットの一群からなるスロット領域を複数形成させた構造とすること」は「本願前周知のこと」であり,「当業者が適宜選択し,採用し得ることである。」などとして,「本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断し,引用発明及び周知技術を根拠に,本願発明が特許法29条2項の規定に該当することを,本件拒絶査定不服審判請求不成立の理由としたものである。
(3)ア特許法159条2項は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には同法50条の規定を準用するものと定めている。
これを本件についてみると,前記のとおり,審決は,本願発明は引用発明及び周知技術から容易に想到することができたものであり,特許法29条2項に該当するとしたものであるから,審査段階において上記理由が通知されていることが必要となり,これを欠くときは改めて拒絶理由を通知しなければならないこととなる。そこで,この点について検討すると,前記(1)イによれば,本件拒絶理由通知書には,引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項に該当する旨の記載があり,また,同(1)エによれば,本件拒絶査定においては,本件拒絶理由通知書に記載した上記理由により特許法29条2項に該当するとしたものであるから,以上によれば,結局,審決前に告知された具体的な拒絶理由は引用例の指摘だけであり,その余は特許法29条2項の条文を摘示したに止まるものといわざるを得ない。
ところで,特許法50条が拒絶の理由を通知すべきものと定めている趣旨は,通知後に特許出願人に意見書提出の機会を保障していることをも併せ鑑みると,拒絶理由を明確化するとともに,これに対する特許出願人の意見を聴取して拒絶理由の当否を再検証することにより判断の慎重と客観性の確保を図ることを目的としたものと解するのが相当であり,このような趣旨からすると,通知すべき理由の程度は,原則として,特許出願人において,出願に係る発明に即して,拒絶の理由を具体的に認識することができる程度に記載することが必要というべきである。これを特許法29条2項の場合についてみると,拒絶理由通知があったものと同視し得る特段の事情がない限り,原則として,出願に係る発明と対比する引用発明の内容,対比判断の結果である一致点及び相違点,相違点に係る出願発明の構成が容易に想到し得るとする根拠について具体的に記載することが要請されているものというべきである。
これを本件についてみると,前記のとおり,本件においては,引用例の指摘こそあるものの,一致点及び相違点の指摘並びに相違点に係る本願発明の構成の容易想到性についての具体的言及は全くないのであるから,拒絶理由通知があったものと同視し得る特段の事情がない限り,拒絶理由の通知として要請されている記載の程度を満たしているものとは到底いえないものといわざるを得ない。
イ進んで,上記特段の事情の存否について検討するに,被告は,原告は引用例を熟知していたのであるから,本件拒絶理由通知を受けた原告としては,当然,本願当初発明と引用発明との間に相違する事項が存在すること及びその内容を正確に理解し,また,『本願当初発明には,引用発明と相違する事項はあるが,その相違点は容易である』と審査官が判断していることを理解していたといえる。」,「原告は,審査官及び審判合議体が,理由4により本願を拒絶すべきものとしていることを十分に理解し,認識していたといえる。」などと主張する。
確かに,上記(1)ウ及びオの本件意見書及び審判請求の理由の各記載によれば,原告は,引用例の技術内容を熟知しており,本願当初発明又は本願発明と引用発明との間に審決が認定したのと同一の相違点が存在することを認識していたものと認められるし,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定に拒絶の理由として理由4(進歩性の欠如)が記載されていたのであるから,その具体的理由は不明であるものの,審査官が,当該相違点に係る構成について当業者が容易に想到し得るものと判断したこと自体は理解することができたものと推認することができ,そうであるとすれば,この限度で拒絶理由通知を不要とする特段の事情があったものと一応いうことができる。
しかしながら,上記のとおり,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定には,当業者が,引用発明との相違点に係る本願当初発明又は本願発明の構成を容易に想到し得たとする具体的理由については,それが周知技術を根拠とする点も含めて全く述べられていない上,当該容易想到性の存在が当業者にとって根拠を示すまでもなく自明であるものと認めるに足りる証拠もないから,原告において,本願当初発明又は本願発明と引用発明との間に相違点が存在することを認識し,かつ,審査官が当該相違点の構成について当業者が容易に想到し得るものと判断していることを理解することができたからといって,そのことをもって,原告が,本願当初発明又は本願発明が引用発明を根拠に特許法29条2項の規定に該当するとの拒絶理由の通知を受けたものと評価することはできない。
そして,審査官において,原告は引用発明を熟知しており,本願発明との相違点も理解し得たはずであるとの認識であったとするならば,本願発明の相違点に係る構成の容易想到性こそが最も重要な論点であり,原告においてもその具体的根拠を知りたいと考えるであろうことは明らかであるから,何よりもこの点について審査官の考え方を根拠と共に示して原告の意見を聴取することが重要であったはずであるのに,審査官は,この点に関する具体的見解及びその根拠を何ら示していないことは前示のとおりである。
また,被告は,原告において,審判合議体も,理由4を採用して本願を拒絶すべきものとしていることを十分に理解し,認識していたと主張するが,仮にこのような事実があったとしても拒絶理由通知を不要とするものではないから,主張自体失当というべきである。
ウさらに,被告は,「審決が認定した相違点は,本件補正により生じ,また,原告が認識し,意見を述べていた相違点と何ら異なるものではない。」と主張するが,上記イにおいて説示したところに照らせば,同様に,そのことをもって,原告が,本願当初発明又は本願発明が引用発明を根拠に特許法29条2項の規定に該当するとの拒絶理由の通知を受けたものと評価することはできない。
エその他,原告が,本願当初発明又は本願発明が引用発明を根拠に特許法29条2項の規定に該当するとの拒絶理由の通知を受けたものと認めるに足りる証拠はない。
(4)以上によれば,本件拒絶理由通知書において原告に対し通知された拒絶の理由は,理由3のみであり,本件拒絶査定が採用した拒絶の理由も,理由3のみであるというべきであるから,審判合議体は,特許法159条2項の規定にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」を発見したにもかかわらず,同法50条本文に規定する手続を採ることなく,当該「異なる拒絶の理由」を採用して審決をしたものというほかない。したがって,審決には,同条本文の規定に違反する手続違背があることになるから,取消事由1は,理由がある。
2結論よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は違法であり,取消しを免れないから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 榎戸道也
裁判官 浅井憲