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関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  相当の対価(相当な対価) /  共同発明 /  時効 /  援用権(援用) /  存続期間 /  特許料(維持年金) /  特許発明 /  実施 /  実施料 /  共同発明者 /  実施許諾(実施の許諾) /  対価 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 14650号 損害賠償請求事件
長野県塩尻市<以下略>
原告A 東京都千代田区<以下略>
被告株 式会社日立製作所
訴訟代理人弁護士城山康文
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2007/08/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,原告に対し,617万2134円及びこれに対する昭和62年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言第2事案の概要本件は,被告の元従業員である原告が,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条(以下,同条について「特許法」という場合,特に断らない限り,平成16年法律第79号による改正前の特許法をいう )。
に基づき,原告が被告に承継させた職務発明に係る特許権について,相当対価の一部として昭和61年(1986年)分の実施に対応する617万2134円の支払を求めた事案である。被告は,原告に対し,相当対価を支払済みであるし,仮に支払済みでなかったとしても,相当の対価の支払を受ける権利は時効消滅したと主張している。
1前提となる事実等(当事者間に争いがないか,該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる )。
( ) 原告がした職務発明1原告は,被告の従業者であった当時,訴外Bおよび同Cとともに,次の特許発明をした。
被告は,次の特許発明について,職務発明であるとして,原告らから特許,,,, を受ける権利を承継し 原告らを発明者 被告を出願人として 次のとおり特許出願をし,特許を得た (甲7の1,甲7の2,甲8) 。
ア日本特許(以下 「本件特許」といい,その発明を後記イの米国特許と ,総称して「本件特許発明」という )。
)特 許 番 号第1102353号a)発明の名称f-V変換器 b)出願日昭和52年(1977年)9月9日 c)出 願 公 告昭和56年(1981年)10月13日 dイ米国特許本件特許に対応する米国特許(以下 「本件米国特許」という )は, , 。
次のとおりである。
)特 許 番 号第4214299号a)発明の名称f-V変換器 b)出願日昭和53年(1978年)9月6日 c)登録日昭和55年(1980年)7月22日 d( ) 被告における職務発明規程2被告における「発明考案等に関する補償規程 (以下 「被告規程」とい 」,う )は,平成2年7月11日に制定され,同月21日から実施されたもの 。
である(被告規程より前の職務発明特許を受ける権利承継相当の対価に関する被告の規程をまとめて「被告旧規程」という。被告規程によれ。)ば,被告における職務発明特許を受ける権利承継対価は,●(省略)●とからなる。その内容は概ね以下のとおりである (乙1)。
●(省略)●実績補償の実績把握は,1年単位で行うものとし,実績補償金の支払時期は,毎年12月とする。
●(省略)●( ) 被告は,原告に対し,平成3年3月ころ,被告規程に基づき,実績補償の3一部として,第三者からの過去の実施許諾に対する対価として受領した金額に応じて,6万6660円を支払った。また,かかる支払に先立って,被告は,原告に対し,被告旧規程ないし被告規程に基づき,本件特許発明の被告社内での実施に応じて,実績補償金等の支払を行ったが,平成3年3月ころの6万6660円の支払より後に,被告が原告に対し,実績補償金等として金銭の支払を行った事実はない。
2本件の争点( ) 本件特許発明承継相当の対価(争点1)1( ) 弁済の抗弁(争点2)2( ) 消滅時効の抗弁(争点3)33争点に関する当事者の主張( ) 争点1(本件特許発明承継相当の対価)について1ア原告の主張, 。
a)ある年の特許の報奨金額は 次の基本式により計算されるべきである報奨金額=実施料収入額×寄与度×(1-本件発明の完成に対する会社の貢献度)×他の共同発明者との関係での発明の完成に対する原告の貢献度)第三者が,本件特許の昭和54年(1979年)の公開から平成2年b(1990年)までの少なくとも12年間も回避策をとれずに,被告に特許料を支払っていたことは,本件特許が重要な特許であることを如実に示すものである。
したがって,本件特許の寄与度は (100/14)%である。 ,)本件特許発明は,被告が従来から,将来のために技術蓄積した技術・cノウハウ・人材・機械設備といった下地になるものがあって,それらをベースに,初めて誕生したものではない。よって,被告の貢献度は1/3程度が妥当なレベルであり,発明後の第三者との交渉に3年を要したとの甲1の記載を考慮しても,1/2が最大である。
)他の共同発明者との関係での発明の完成に対する原告の貢献度は1d ,(00/3)%である。
)平成2年(1990年)の特許収入が●(省略)●万円であること,e対象特許が●(省略)●件であること,実際に発明者(原告)に支払われた報奨金額が6万6660円であることから逆算すると,被告は,本件発明の完成に対する会社の貢献度を99.56927384%とし,発明者1人当たりの貢献度を0.143575387%としている。
この発明者1人当たりの貢献度を用いて,昭和61年(1986年)の報奨金額として実際に発明者(原告)に支払われた2万6700円から昭和61年(1986年)の特許収入を逆算すると,2億6035万1030円を下らない。
)そこで,これらを上記 )の基本式にあてはめて計算すると,昭和6f a1年(1986年)の本件特許の実績補償は,309万9417円を下らない。
このうち,2万6700円が昭和62年1月30日に支払われたのみであるから,307万2717円が未払いとなっている。
)また,米国のビデオテープレコーダ市場は,日本のビデオテープレコgーダ市場の約4.71倍であるから,昭和61年(1986年)の本件米国特許に対する実績補償は,同年の本件特許に対する実績補償の4.71倍程度が妥当であるが,その一部として,本件特許に対する実績補償と同額の309万9417円を請求する。
)そして 上記 )及び )の合計617万2134円は 昭和61年 1hfg , ,(986年)分として,2万6700円が支払われた昭和62年1月30日に本来支払われるべきものであるから,617万2134円及びこれに対する昭和62年1月30日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を求める。
イ被告の反論上記アの原告の主張は否認する。
被告が,訴外の第三者から,平成元年(1989年)度(当年4月1日から翌年3月31日)において,本件特許及び本件米国特許を含む多数の特許につき過去及び将来の実施許諾を与えることの対価として,実施料収入を受ける契約を締結したことは認めるが,その他に本件特許及び本件米国特許が寄与したことにより得た実施料収入は一切存在しない。
( ) 争点2(弁済の抗弁)について2ア被告の主張被告が,本件特許及び本件米国特許が寄与したことにより得た唯一の実施料収入は,平成元年(1989年)度(当年4月1日から翌年3月31日)に訴外の第三者と締結した,本件特許及び本件米国特許を含む多数の特許につき過去及び将来の実施許諾を与えることの対価として,実施料収入を受ける旨の契約に基づくものである。
そして,上記1( )のとおり,被告は,原告に対し,この契約に基づく3第三者からの過去の実施許諾に対する対価として受領した金額に応じて,平成3年3月ころ,6万6660円を支払った。また,かかる支払に先立って,被告は,原告に対し,本件特許及び本件米国特許の承継対価の一部として,本件特許発明の被告社内での実施に応じて,被告社内規則に基づく補償金の支払を行った(その金額は,社内記録によれば,上記6万6, 。)。 660円を含めて 合計29万8830円又は42万9030円である以上のとおり,被告は,原告に対し,本件特許発明につき特許を受ける権利の譲渡を受けた対価についてはすべて支払済みである。
イ原告の反論上記アの被告の主張は否認する。
( ) 争点3(消滅時効の抗弁)について3ア被告の主張)特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効につaいては,従業員が当該発明について特許を受ける権利等を会社に譲渡し,() た時から進行するのが原則であるが 勤務規則等に補償金 相当の対価の支払時期が定められている場合には,その支払時期が消滅時効の起算点となる。
また,特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利は金銭債権であるから,その消滅時効期間は,債権の消滅時効の一般原則に従い10年間である。
)被告は,原告から,昭和52年9月9日の出願に先立ち,本件特許発b明に関して特許を受ける権利を譲り受けた。
また,被告においては,実績補償の実績把握は1年単位で行われ,補償金の支払時期は毎年12月とされていた。
したがって,原告が主張する昭和61年の実績に関する補償金の請求権については,遅くとも昭和62年12月31日が消滅時効の起算日となる また 本件特許及び本件米国特許の最後の実績となる平成元年 1 。, () ,, 989年 度の実績に関する実績補償金の請求権についても 遅くとも平成2年12月31日が消滅時効の起算日となる。
そして,被告が原告に対して平成3年3月(遅くとも31日)に6万6660円を支払ったことにより,時効がいったん中断したとしても,遅くとも平成13年3月31日の経過により,消滅時効は完成した。
被告は,消滅時効援用する。
イ原告の反論上記アの被告の主張は,否認する。
特許権が存続する限り,実施料等何らかの特許収入による利益が発生する可能性があるから,特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利は特許権が消滅するまで,すなわち出願から20年間は請求することができるはずであり,さらにその後10年間は時効消滅しないというべきである。
第3当裁判所の判断本件においては,事案の内容に鑑み,まず,争点3(消滅時効の抗弁)から判断する。
1従業者等は,契約,勤務規則その他の定めにより,職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得するから(特許法35条3項 ,かかる相当の対価の支払を受ける権利の )消滅時効は,特段の事情のない限り,特許を受ける権利を使用者等に承継させた時から進行するが,勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照 。)また,特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,同条により認められた法定の債権であるから,権利を行使することができる時から10年の経過によって消滅すると解される(民法166条1項,167条1項 。)原告は,特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,承継した特許を受ける権利に基づく特許権の存続期間が満了した時を起算点として,10年間の消滅時効に服する旨主張するが,特許を受ける権利を使用者等に承継させた時に発生する特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,支払時期の定めがない限り,特許権の存続期間満了前においてもこれを行使することができ,権利行使に法律上の障害があるわけではないから,原告の主張は独自の見解というほかなく,採用の限りでない。
2上記認定のとおり,本件特許の出願日は昭和52年9月9日であり,本件米国特許の出願日は昭和53年(1978年)9月6日であるから,本件特許発明は,本件特許に係る発明につき遅くとも昭和52年9月9日までに,本件米国特許に係る発明につき遅くとも昭和53年9月6日までに,原告から被告に対し特許を受ける権利承継され,原告は被告に対する特許法35条に基づく相当の対価の支払を受ける権利を取得したものと認められる。また,被告規程, , , は 平成2年7月11日に制定され 同月21日から実施されたものであるがこれによれば,出願補償及び登録補償については格別の支払時期の定めはないものの,実績補償については1年単位で実績把握を行い,毎年12月を支払時期とするものとされており,これ以外に被告の勤務規則等において定められた支払時期に関する証拠はない。そして,上記のとおり,本件特許の出願日は昭和52年9月9日,本件米国特許の出願日は昭和53年9月6日,本件米国特許の登録日は昭和55年7月22日であり,証拠(甲3)によれば,遅くとも昭和62年1月までに本件特許が登録されたことが認められる。さらに,被告は,原告に対し,平成3年3月ころ,本件特許発明に係る特許を受ける権利承継対価の一部として,6万6660円を支払い,かかる支払に先立って,本件特許発明に係る特許を受ける権利承継対価の一部としての支払を行ったが,平成3年3月ころの6万6660円の支払後に,被告が原告に対し本件特許発明に係る特許を受ける権利承継対価の一部として金銭の支払を行った事実はない。
そうすると,本件特許発明に係る特許を受ける権利承継による原告の相当の対価の支払を受ける権利のうち,少なくとも原告が請求する昭和61年(1986年)分の実施に対応する部分は,仮に未払の部分があったとしても,遅くとも被告主張の昭和62年12月31日から消滅時効が進行し(本件特許発明に係る特許を受ける権利承継時に,勤務規則等に支払時期の定めがあったことを示す明確な証拠はないから,承継時から消滅時効が進行する可能性もあるものの,証拠(甲2,乙1)によれば,被告においては,平成2年7月11日に制定され,同月21日から実施された被告規程以前にも,被告規程所定の出願補償及び実績補償と同様の補償がなされていたことが推認され,これを前提とした場合,原告が請求する昭和61年分の実施に対応する部分は,それについての実績補償の支払時期から消滅時効が進行するものと解される,平。)成3年3月ころの6万6660円の支払及びこれに先立つ支払によりその都度中断したものの,平成3年3月ころの6万6660円の支払があった時から再度消滅時効が進行し,その後10年が経過した平成13年3月ころ消滅時効が完成したものと認められる。そして,被告がかかる消滅時効援用したことは当裁判所に顕著な事実である。
3結論以上のとおり,本件特許発明に係る特許を受ける権利承継による原告の相当の対価の支払を受ける権利のうち 少なくとも原告が請求する昭和61年 1 , (986年)分の実施に対応する部分は,既に時効消滅したものであるから,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研