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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ネ2790損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ6451各補償金請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10035職務発明対価請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10125補償金請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 職務発明 /  協議 /  製造方法 /  実施料相当額 /  存続期間 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  実施料 /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  対価 /  変更 /  相当期間 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 3074号 実施料請求控訴事件
控訴人 X
訴訟代理人弁護士 田倉 整
同 會田恒司
被控訴人 築野ライスフアインケミカルズ株式会社
訴訟代理人弁護士 松原敏美
同 山上和則
同 松川雅典
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2)【主位的請求】 被控訴人は,控訴人に対し,金4億8742万8866円及び内金5341万6192円に対する平成7年2月1日から,内金1億1153万2358円に対する平成8年2月1日から,内金1億0708万2206円に対する平成9年2月1日から,内金6033万4158円に対する平成10年2月1日から,内金4135万8764円に対する平成11年2月1日から,内金4880万7020円に対する平成12年2月1日から,内金1395万5702円に対する平成12年8月1日から,内金5094万2466円に対する平成13年8月1日から各支払済みまで年7分の割合による金員を支払え。
【予備的請求】 被控訴人は,控訴人に対し,金4億8742万8866円及び内金5341万6192円に対する平成7年2月1日から,内金1億1153万2358円に対する平成8年2月1日から,内金1億0708万2206円に対する平成9年2月1日から,内金6033万4158円に対する平成10年2月1日から,内金4135万8764円に対する平成11年2月1日から,内金4880万7020円に対する平成12年2月1日から,内金1395万5702円に対する平成12年8月1日から,内金5094万2466円に対する平成13年8月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言 2 被控訴人 主文同旨
事案の概要
本件は,米ぬかを原料とする食品添加物の製造方法等の特許及びノウハウを有する控訴人が,被控訴人に対し,主位的に,控訴人と被控訴人が,昭和53年9月9日,控訴人がノウハウの実施を被控訴人に許諾し,その対価である実施料として被控訴人が控訴人に対し一時金2000万円及び契約有効期間25年間にわたり被控訴人がノウハウ実施品を製造販売して得た粗利益額の5分の1の額を支払うことを主な内容とするノウハウ実施許諾契約(以下「甲14契約」という。)に基づき,平成7年度以降平成13年度までの実施料合計4億8742万8866円及び甲14契約上定められた各支払期日において支払うべき実施料に対する各支払期日の翌日から各支払済みまで約定利率年7分の割合による遅延損害金の支払を求め,仮に甲14契約の成立が認められなかったとしても,予備的に,被控訴人が法律上の原因なく控訴人からイノシトール,フィチン酸及びカルシウムフィチンの製造方法のノウハウの提供を受け,これにより利益を上げたとして,不当利得返還請求権に基づき,被控訴人が平成7年度以降平成13年度までに利得した4億8742万8866円及び甲14契約上定められた各支払期日ごとに発生した被控訴人の各利得に対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,主位的請求について,甲14契約の成立を認めるに足りる証拠はないとしてその請求を棄却し,予備的請求のうち,フィチン酸及びカルシウムフィチンについては,被控訴人のフィチン酸の製造プラントが控訴人の提供したノウハウに基づいて建設されたものであるとまでは認めらないとして請求を棄却し,イノシトールについても,控訴人から被控訴人に対し,その製造方法についてのノウハウ等の提供が行われたものの,被控訴人から控訴人に総額3572万4000円の支払がなされており,この金額が上記ノウハウ等の提供の対価として十分であることから,被控訴人に不当な利得があったとまで認められないとしてその請求を棄却した。控訴人は,これらを不服として,控訴を提起したものである。
当事者の主張は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1(前提となる事実)及び2(争点及び当事者の主張)記載のとおりであるから,これを引用する。
当裁判所も,「東洋高圧」,「築野食品」,「Y社長」,「イノシトール」,「フィチン酸」,「カルシウムフィチン」,「本件送金」の語を,原判決の用法に従って用いる。
1 原判決10頁18行目「2億6708万0960円」を「5億3541万1030円」,同23行目「41億2099万9000円」を「41億0607万5000円」,同25行目「2億6708万0960円」を「3億0167万0790円」と各訂正する。
2 控訴人の当審における主張の要点 (1) 甲14契約の成立について (ア) 昭和53年6月8日付けの契約案(原判決の「昭和53年6月4日案」。以下「乙82契約案」ともいう。)は,その第1条から明らかなように,控訴人が有する特許権(特許番号第827314号「アルカリ土類金属フイチンの製造法」(以下「本件フィチン特許」という。),第705489号「ミオーイノシットの製法」,第799764号「ミオーイノシットの製造法」,第817352号「ミオーイノシットの製造法」)について通常実施権を許諾することを主たる目的とする契約であって,実施許諾の対象となるフィチンは,除金属剤としてのカルシウムフィチンであり,また,築野食品も含めた三者間契約である。これに対し,甲14契約は,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人がイノシトール製造プラントを建設し,イノシトールを製造するために必要なノウハウ,及び,食品添加剤としてのフィチン酸及びカルシウムフィチンを製造するために必要なノウハウを実施許諾する契約であり,乙82契約案が実施許諾の対象とする特許発明とは,その対象を異にするものである。
したがって,乙82契約案は,控訴人とY社長が昭和53年6月4日にホテル紀ノ川苑において協議した内容を記載したものではなく,乙82契約案があることは,それと対象技術や契約当事者を異にする甲14契約が合意されたことを否定する理由とはならない。
乙82契約案における対価である月額15万円は,甲14契約において合意した「医薬品業界の通常の実施料相当額」とはかけ離れた金額であり,この点からも,乙82契約案は,控訴人が提供するノウハウ及び技術指導に関する契約書面とはいえないことは明らかである。
また,控訴人がY社長に宛てた昭和54年1月24日付けの手紙(以下「甲17書簡」という。)とその手紙に同封した経過記録(以下「甲16記録」という。)には,昭和53年6月4日の紀ノ川苑における,契約書の訂正案が,暫定実施料を昭和53年6月から月額15万円に上げることと,最低実施料900万円を500万円に修正することの2点であったことが記載されている。しかし,乙82契約案には,このような暫定実施料についても,最低実施料についても,何の記載もなく,同契約案が甲14契約(ノウハウ実施契約)とは無関係のものであることが明らかである。
なお,甲16記録の昭和53年7月10日の欄には,粗利益の5分の1を実施料とする第2次案をY社長が了解したとの記載があり,同年9月9日,10日の欄には,第2次案が被控訴人から控訴人に郵送されたことに関する記載がある。
また,甲17書簡のNo,4及び5においても,第2次案が郵送されたことが記載されているのである。
(イ) 甲14契約は,イノシトール及びフィチン酸及びカルシウムフィチンに関するノウハウの実施許諾契約書であるのに対し,昭和53年10月22日付けの手紙(以下「乙28書簡」という。)の1頁目に記載されている「貴社案」(原判決の「昭和53年10月22日案」である。以下「乙28貴社案」ともいう。)は,控訴人が有する特許権の専用実施権設定契約であり,ノウハウの実施許諾契約の契約案ではない。
したがって,昭和53年9月9日以降に被控訴人が控訴人に対し,乙28貴社案を示したとしても,そのことは,それ以前に甲14契約が成立していたことを否定する理由とはならない。
また,控訴人は,被控訴人に対し,昭和54年4月22日付けの覚書案(原判決の「昭和54年4月22日案」である。以下「乙19覚書案」ともいう。)と一部の内容が類似した覚書案を送付したことはあるものの,乙19覚書案は送付していない。控訴人が被控訴人に対し乙19覚書案と一部の内容が類似したものを送付した理由は,被控訴人が,昭和51年10月から昭和52年10月にかけて,月産15トンに倍増する設備を設置するなどし,イノシトールの製造販売により大きな利益を上げていたにもかかわらず,控訴人に対し,昭和54年1月27日付けの手紙において,イノシトールの製造販売が極端に不振であると記載するなどして,その旨欺罔し,また,昭和50年5月15日付けの手紙及び昭和55年6月9日付けの手紙などで,イノシトールの製造販売により赤字が継続しているため毎月支払っている暫定実施料の支払を中止したい旨の強迫行為を行って,控訴人を撹乱したためである。
被控訴人は,被控訴人が乙28号証を証拠として提出した後に,控訴人がフィチン酸のノウハウに関する主張を変遷したと主張する。しかし,甲87書面に記載された除金属剤としてのカルシウムフィチンの製法と分析方法は,控訴人の本件フィチン特許の技術を実施する際のノウハウである。すなわち,控訴人は,甲14契約に記載された対価が被控訴人から支払われるものと信じて,フィチン酸の製造・分析方法のノウハウのほかに,除金属剤としてのカルシウムフィチンの特許技術に関するノウハウも甲87書面において被控訴人に開示したものであり,このことは,ノウハウに関する甲14契約と特許の実施許諾契約である乙82契約案とが別の契約であるとの事実と何ら矛盾するものではない。
(2) フィチン酸のノウハウの供与について (ア) 控訴人及びAら4名は,東洋高圧に在職中の昭和36年4月から昭和40年にかけて,フィチン酸について研究し,フィチン酸の製法について,4件の職務発明をし,これらについて東洋高圧が特許権(特許番号第509862号,第534718号,第534719号,第534720号)を有していた。
東洋高圧の上記特許によるフィチン酸の製法は,米糠からアンモニウムを含むカルシウムフィチンを作り,それを精製脱塩するものである。これに対し,控訴人が被控訴人に教示したフィチン酸の製法のノウハウは,米糠からイノシトールを製造するときに現場で得られる中間体のカルシウムフィチンが原料となり,これを精製するものである。東洋高圧の方式により得られるアンモニウムを含むカルシウムフィチンは,粒子が微細なため,スーパーデカンターによる濾過ができなかったが,控訴人の上記ノウハウにより得られるカルシウムフィチンは,スーパーデカンターによる濾過が可能であり,その結果,精製効率が増加した。また,控訴人のノウハウによる製法の脱塩工程では,陽イオン交換樹脂の選定と交換樹脂塔の通液処理条件の選定により,製品のフィチン酸の中から5種類の金属イオンの除去が可能となった(東洋高圧方式では,3種類の金属イオンを除去することができるだけである。)。
(イ) 控訴人が被控訴人に対し供与したフィチン酸に関するノウハウのうち,@イノシトール生産プラントの中間生成物であるカルシウムフイチンからフイチン酸を製造するノウハウについては,甲46(以下「甲46書面」という。)のNo,1の1行目からNo,2の15行目までと甲87(以下「甲87書面」という。)のNo,15の1行目からNo,19の10行目までに記載され,Aこのフイチン酸をアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物で適切なpHの値に中和することにより生成される水溶性の金属腐食防止剤等としての工業用フイチン酸(塩)の製造技術(ノウハウ)と用途(効用)に関するノウハウは,甲46書面のNo,2の16行目以下と,甲87書面のNo,19の11行目からNo,19の末行までに記載され,Bこれらのフイチン酸(塩)の品質規格を検査するための分析法は,甲87書面のNo,20以下に記載されている。
控訴人は,昭和53年6月4日,橋本市のホテル紀ノ川苑で,被控訴人の従業員のB,C,Dの3名にフィチン酸及びカルシウムフィチンに関する上記ノウハウを教示した。控訴人は,同日,このノウハウを記載した甲46書面をBに手渡し,同年6月8日,同じくこのノウハウを記載した甲87書面をY社長に郵送した。
被控訴人は,昭和53年6月以降に,控訴人のノウハウによるフィチン酸製造の中試験設備(パイロットプラント)を作り,その試験製造を開始している。このパイロットプラントは,Eが築野食品を退社した後に実生産プラントになっているのである。
被控訴人のDが,控訴人が教示した上記ノウハウを使用することなく,昭和59年に,僅か半年でフィチン酸の研究開発を成功させ,そのプラントを作り,本格的に商品として製造販売することは不可能である。
(ウ) 被控訴人は,昭和53年6月5日に作成された甲87書面のNo.18とNo.19の2頁のコピー(甲46書面)を同年6月4日に手渡したとの記載は,甲46書面が6月4日より前に作成されていたとの控訴人の主張からすれば,時系列上ありえない記載である,と主張する。しかし,甲87書面における「コピー」の意味は「同様の内容が記載された書面」という意味であるから,時系列上矛盾はないのである。
被控訴人は,乙82契約案が合意されていないのであるから,除金属剤としてのフィチンに関するノウハウを提供することはあり得ないと主張するが,前記のとおり,控訴人は,甲14契約に記載された対価が支払われるものと信じて,甲46書面を交付し,甲87書面を送付したものである。
3 被控訴人の当審における主張の要点 (1) 控訴人の書類(書証)の捏造について (ア) 控訴人は,本訴において,数々の書類の捏造をしてこれを書証として提出し,また,第三者の陳述書をみずから作文して,第三者に書き写させ,その署名をもらい,さらに,控訴人みずから作成したことが明らかな書面を,被控訴人が変造したとしてその成立を全面的に否定する,といった極めて不誠実な訴訟活動をしている。控訴人が捏造した書類(書証)を例示すれば,次のとおりである。
(a) 原判決が「第3 争点に対する判断1(1)」(27頁)において,証拠として引用しているもののうち,甲5の1,6,9,11,12,13の1,17,21,22の1,48,59,65,66,83,84,85は,いずれも控訴人により捏造されたものであり,証拠価値はない。
(b) 控訴人の被控訴人に対する昭和47年1月17日付け手紙(甲6の1)が控訴人により捏造されたものであり,実際には存在していなかったものであることは,Y社長の高野山への灯油の寄進が昭和47年11月21日に行われたにもかかわらず,その10か月前に作成されたはずの同手紙にY社長による寄進についての記載があることから明らかである(乙20,21,47,48参照)。
(c) 控訴人が書類を捏造するパターンは,次のとおりである。
@ 控訴人が,後日,作成名義人の名前で,本訴訟における控訴人の主張に沿って新たに書類を作成したもの(甲6の1,8,9,11,12,14,46,82,87その他多数) A 控訴人が,後日,文書の一部を書き換えてその内容を変更したもの(甲64の1) B 控訴人が,後日,文書の余白に書き加えてその内容を変更したもの(甲15の1,23,48,85) C 控訴人が,第三者名義の文書の下書きをして,第三者に書き写させて作成したもの(甲104,119,143,149) (イ) 控訴人は,被控訴人に手紙その他の書類を送付するときは,すべてその原本を保存してコピーを被控訴人に郵送している。そのため,控訴人は,自己に有利な書類については,そのような原本を書証として提出する。しかし,自己に不利益な書証(例えば,乙19,23,28,82)については,字句の変造を問題とするが,原本が手元に存在しないと主張するのである。このような状況からすれば,控訴人がその自筆の手紙等の書類について原本を所持している以上,被控訴人が,控訴人から郵送された書類について,その字句等を変造して証拠として提出することは,絶対にあり得ない。なぜならば,仮に,被控訴人が同書類の変造をすれば,控訴人が原本を提出することにより,被控訴人による変造が容易に立証されてしまうからである。したがって,被控訴人により提出された控訴人自筆の手紙等の書証について,被控訴人による変造はあり得ないのである。
(2) 甲14契約の成立について (ア) 甲14契約は,控訴人が作成した乙82契約案,乙19覚書案及び乙28書簡とは両立しない。甲14号証は,控訴人が後日作成した書類を書証として提出したものである。
(イ) 控訴人は,乙28号証が書証として裁判所に提出された平成13年6月28日の前後で,フィチン酸についての主張を変更している。すなわち,乙28号証が提出される前は,甲14契約の対象は,ワイン・ブランデーの除金属剤として使用するフィチンの製法であり,イノシトール工場で生産している中間体の現場フィチンを精製,脱塩等する製法,及び,その分析方法であると主張していた(平成12年7月14日付け原告第5回準備書面41頁2行〜42頁6行,平成12年11月27日付け原告第6回準備書面22頁1行〜23頁4行,同旨甲14号証No.6の1〜13行)のに対し,乙28号証が提出された後は,除金属剤としてのフィチンは,前記製法(中間体の現場フィチンを精製,脱塩等する製法)のもの(甲14契約の対象となるもの)は不適当であり,原告が特許権を有するアルカリ土類金属フィチンの製法により製造されるものが適当である,と主張を変更し(平成14年9月5日付け原告第14準備書面9頁下から5行〜10頁2行),控訴理由書(19頁9〜17行)では,食品添加剤としてのフィチン酸及びカルシウムフィチンの製法は,控訴人が有するノウハウであり,甲14契約の対象とされたものであり,除金属剤としてのカルシウムフィチンに関する本件フィチン特許の実施許諾契約は,甲14契約とは別に控訴人と被控訴人間で意見交換がなされた,と主張している。
(ウ) 乙82契約案及び乙19覚書案が,被控訴人のみならず築野食品も含めた三者間契約となっているのは,被控訴人が昭和47年11月に設立されたばかりの会社であり,財務内容が脆弱であったためである。甲14号証は,控訴人が本訴提起のために後に捏造したものであるため,控訴人と被控訴人との二者間契約の形式となっているのである。
(3) フィチン酸のノウハウの供与について (ア) 控訴人は,昭和54年2月にフィチン酸プラントが完成したと主張し,甲127ないし130(昭和53年11月20日〜昭和54年2月3日付けの設計図,配置図等)及び甲131,143(Eの陳述書等),甲118(Aの陳述書),甲149(Fの陳述書)を提出するが,フィチン酸プラントが昭和59年に建設されたことは,航空写真などから明らかであり,控訴人の提出する上記設計図,配置図等の書類は捏造されたものである (イ) 控訴人が被控訴人の工場に出入りしたのは,昭和47年9月から49年12月までの2年3か月だけであるから,控訴人が被控訴人に対し,フィチン酸の製造方法のノウハウを教示し,技術指導をしたことはない。
(ウ) 被控訴人は,控訴人から甲46書面及び甲87書面を受領していない。
甲46書面及び甲87書面は,次に述べるとおり,控訴人により後日捏造されたものである。
(a) 控訴人は,平成11年9月27日付けの原告第1準備書面16頁10ないし12行で,昭和53年6月4日に,被控訴人の従業員に対し,フィチン酸製造方法のノウハウを口頭で説明したと主張し,甲16記録,甲17書簡及び甲19のY社長宛の書簡においても,上記ノウハウを口頭で説明したと記載されている。控訴人は,平成12年7月14日付けの原告第5回準備書面41頁13行〜42頁1行において初めて,昭和53年6月4日に,被控訴人の従業員に対し,フィチン酸製造方法のノウハウを説明し,その内容を記載した甲46書面を手渡した,と主張を変更したのである。
(b) 控訴人は,甲46書面について,原告第10準備書面5頁2ないし3行において,「甲第46号証は昭和53年6月4日に手渡しているが,作成自体は事前に行なっている」と主張している。しかし,甲87のNo.18下から4〜3行において,「[注]:昭和53年6月4日 紀の川苑の説明会のときB室長に,この第18頁と次の第19頁の2頁のコピーを手渡した」と記載されている。すなわち,甲46書面は甲87書面の18頁と19頁のコピーであり,昭和53年6月4日よりも前に作成されたものであるにもかかわらず,甲87書面は昭和53年6月5日に作成されたものであるから,6月4日より前にそのコピーを取ることは時系列上不可能なことである。
(エ) フィチン酸のノウハウについての控訴人の主張が,乙28号証が提出された前後で変遷していることは前記(2)(イ)のとおりであり,控訴人の主張は,この点からも信用できない。
(オ) 控訴人は,平成13年6月29日付け原告証拠説明書の甲46の項において,除金属剤として使用するフィチンのノウハウを教示した際に文書化したのが甲46であり,甲87の18,19頁と略同一の内容であると記載している。しかし,控訴人の主張によれば,甲14契約の対象は,食品添加剤としてのフィチン酸及びカルシウムフィチンであり,除金属剤としてのカルシウムフィチンは,甲14契約の対象ではなく,乙82契約案の対象であり,また,乙82契約案は,契約締結に至っていないというのであるから,除金属剤としてのカルシウムフィチンに関するノウハウを提供することはあり得ないことである。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないから,棄却すべきものであると判断する。その理由は,次のとおり付加補正するほか,原判決の「第3 争点に対する判断」のとおりであるから,これを引用する。
1(1) 原判決27頁9行目の「証拠(甲5の1」から15行目「被告代表者)」までを「証拠(甲5の3,10の1及び2,11,12,18の1及び2,21,22の1,29,30,31の11,32,33の1ないし6,34,35,36の1及び2,37の1及び2,43の1ないし3,47の1及び2,59,62の1ないし3,63,65,67,83,84,90(一部),99の1,113の1及び2,117,乙5ないし21,25,27ないし30,48,60,61,68,69,82,控訴人本人(一部),被控訴人代表者)並びに弁論の全趣旨」と改める。
(2) 原判決28頁7行目「しかし」から12行目「回答した。」までを「しかし,安宅産業は,検討の結果,控訴人とは上記契約を締結しない旨を回答した。」と改める。
(3) 原判決29頁2行目「(以下)」から3行目「117)までを「(甲5の3,117)」と改め,同4行目「(エ)原告は」から12行目「(甲5の1及び2)。」までを削除する。
(4) 原判決31頁4行目「オ 第一次実施許諾契約交渉」から32頁18行目「進めることにした。」までを削除する。
(5) 原判決32頁25行目「5の1,」を削除する。
(6) 原判決33頁1行目「66,83ないし85」を「83,84」と改める。
(7) 原判決34頁1行目「(エ)原告は,」から11行目「(甲13の1及び2)。」までを削除し,同末行「第二次実施料許諾契約交渉」を「実施料許諾契約交渉」と改める。
(8) 原判決35頁7行目「γオリザノールのときと同じく,」及び9から10行目にかけての「(甲17)」を削除し,同12行目「原告が持参した」から13行目「協議した。」を「イノシトール及びフィチン酸の契約の内容について協議した。」と改める。
(9) 原判決35頁21行目「Y社長は,」から36頁11行目「製造方法」までを次のとおり改める。
「控訴人は,被控訴人との間で昭和53年6月4日案による契約が締結されることを期待して,被告従業員であるB,C,Dに対し,フィチン酸及びカルシウムフィチン製造に関するノウハウの一部を,口頭により説明した(ただし,口頭による説明であるため,実施可能な程度に具体的に詳細なノウハウの開示があったとまではいえない。)。
なお,控訴人は,このときBらに対し,フィチン酸及びカルシウムフィチン製造に関するノウハウを記載した甲46書面を手渡したと主張する。しかし,@控訴人がY社長に宛てて郵送した昭和54年1月24日付けの手紙(甲17書簡・甲17)及び昭和54年4月9日付けの手紙(甲18)には,控訴人は,昭和53年6月4日,和歌山県の橋本市所在のホテル紀ノ川苑において,被控訴人ら従業員に対し,フィチン酸及びカルシウムフィチン製造に関するノウハウを口頭で説明したと記載されており,控訴人も一審において当初その旨の主張をしていたところ,その後,甲46号証を提出してから,平成12年7月14日付けの原告第5回準備書面41頁13行〜42頁1行において,昭和53年6月4日に,被控訴人の従業員に対し,フィチン酸製造方法のノウハウを説明し,その内容を当日その場で記載して,甲46書面を手渡したと主張を変更し(控訴人の平成13年6月28日付けの陳述書(甲90の18頁)にも同旨の記載がある。),その後さらに,平成14年1月18日付けの原告第10準備書面5頁2〜3行において,「甲第46号証は昭和53年6月4日に手渡しているが,作成自体は事前に行なっている」と主張を改めており,その主張が変遷していること,A控訴人は,甲46書面について,上記のとおり,あらかじめ作成して昭和53年6月4日にこれを手渡して上記ノウハウを説明したと主張しているものの,甲87書面のNo.18下から4〜3行においては,「[注]:昭和53年6月4日 紀の川苑の説明会のときB室長に,この第18頁と次の第19頁の2頁のコピーを手渡した」と記載されており,甲46書面は甲87書面の18頁と19頁のコピーであるにもかかわらず,甲87書面は昭和53年6月5日付けで作成された書面であり,時系列上あり得ない主張になっていること,B被控訴人は,一貫して甲46書面を受領したことを否定していることなどに照らせば,控訴人が甲46書面を手渡したとの控訴人の主張事実を認めることはできない。また,控訴人は,被控訴人に対し,甲87書面(全25頁)を速達にて郵送したとして,甲87号証を提出する。しかし,被控訴人は,このような書類の受領を否認していること,控訴人は,被控訴人に対し手紙や書類を郵送するときにもたびたび書留郵便を用いている(甲5の1,甲82の1,甲113の2)にもかかわらず,甲87書面のような重要なノウハウを記載した書面を書留ではなく単なる速達郵便で送付するとは考えにくいこと,及び,甲87書面には,上記のとおり,昭和53年6月4日に紀ノ川苑において,その18,19頁のコピーを手渡したとの不自然な記載があることなどからすれば,控訴人が被控訴人に対し,上記書面を郵送したものと認めることもできない。」 (10) 原判決36頁15行目「及びフィチン酸製造のための資料」を削除する。
(11) 原判決38頁10行目「上記協議の際」から15行目「申し出た。」までを削除する。
(12) 原判決38頁23行目「,Y社長の帰」から25行目「すること」までを削除する。
(13) 原判決39頁7行目「原告とY社長は」を「控訴人は」と改め,同14行目「送付した。」の後に「乙28書簡によれば,被控訴人の乙28貴社案(昭和53年10月22日案)は,控訴人が有する本件フィチン特許の専用実施権の設定契約であること,契約期間は,3年契約とし,更新可能であるものの,被控訴人の都合により更新しないこともでき,また,更新が継続された場合でも,特許権が消滅する昭和65年10月7日には終了すること,等との内容になっていた。乙28書簡において,控訴人は,乙28貴社案に対し,通常実施権の許諾を専用実施権の設定に変更するとなれば他の条項の変更が必要であること,被控訴人が控訴人に支払ってきた対価は,イノシトール起業当初は月額20万円(年額240万円)であり,昭和50年4月から月額10万円(年額120万円)に減額されたこと,専用実施権設定の対価は,月額15万円(年額16月で240万円)とされるべきこと,通常の実施料は総販売額の3〜5%であるのに対し,控訴人が受ける対価は最低金額であるので,今後の減額は拒絶すること,契約の有効期間は,特許権の消滅日の昭和65年10月7日までとし,3年毎に更新するとの案は絶対に了解できないこと,などを申し出た(乙28)。」を加える。
(14) 原判決40頁22行目「負担とする。」の後に,改行の上,「(d) 本覚書の存続期間は,本覚書締結の日から10年間とする。ただし,2年間の期間延長を可とする。」を加える。
(15) 原判決42頁9行目「(甲21」の後に「,22の1」を,17行目「68」の後に「,87,89,90〜92」をそれぞれ加える。
(16) 原判決43頁19行目「平成6年2月」を「平成6年1月」と,20行目「3572万4000円」を「3572万2000円」とそれぞれ改める。
(17) 原判決47頁14行目「考えられ,」から15行目「いえる。」までを,「考えられる。なお,第二次設備は,その建設に要した費用が第一次設備より高額となっていることからすれば,第一次設備を一部改良したものであると認められる(乙64の1・2,70)。」と改める。
(18) 原判決48頁14行目「証拠はない。」の後に,「すなわち,甲14契約は,被控訴人が控訴人に対し,一時金として2000万円,及び,被控訴人がイノシトール,フィチン酸,カルシウムフィチンなどを生産販売して得た粗利益額の5分の1の実施料を支払うことなどをその内容とするものであり,これらが,控訴人自身が提案した乙82契約案(昭和53年6月4日案)及び乙19覚書案(昭和54年4月22日案)と全く異なる内容のものであることからすれば,控訴人がこの時期に甲14契約の内容の契約案を被控訴人に対し提案したことすら認めることは困難であり,甲14契約が成立したものと認めることは到底できない。」を加える。
(19) 原判決48頁19行目から20行目にかけての「昭和47年から昭和55年にかけて」を「甲14契約が成立したと主張する昭和53年9月9日の前後にわたって」と改める。
(20) 原判決49頁4行目「そうすると」から7行目「できない。」までを削除する。
(21) 原判決49頁12行目「前記認定事実」から50頁1行目「ない。」までを次のとおり改める。
「前記認定事実のとおり,控訴人は,昭和53年6月4日,フィチン酸及びカルシウムフィチンの製造方法に関するノウハウの一部について,被控訴人従業員らに対し口頭で説明したことはあったものの,フィチン酸及びカルシウムフィチンの製造方法に関するノウハウを実施可能な程度に具体的に説明したとまではいえず,また,被控訴人のフィチン酸の製造プラントが完成し,被控訴人がフィチン酸の製造販売を開始したのは,昭和59年になってからである。
そして,控訴人は,昭和61年7月12日付けの手紙で,Y社長に対し,「昨年度貴社でもフィチン酸の生産を開始したとお聞きしておりました。」,外国の雑誌によれば,「近い将来にフィチン酸の売り上げ増加が期待できることでせう。」と述べている(乙53)。
仮に,控訴人が被控訴人に対し,フィチン酸及びカルシウムフィチンの製造方法のノウハウを教え,その対価を取得していないとすれば,被控訴人が昭和59年以降に控訴人に無断でフィチン酸の製造販売を開始したとして,これを追及するはずであり,上記のような内容の手紙を送付するとは考えにくい。むしろ,上記の手紙の内容からすれば,控訴人は,被控訴人に対し,フィチン酸及びカルシウムフィチンの製造方法のノウハウを実施可能な程度に具体的かつ詳細には教えておらず,ノウハウの一部の口頭による教示については,対価を求めるまでもないと考えていたか,あるいは,それに見合う対価の支払を既に得ていたと考えていたものとみるのが自然である。
このことに加え,@控訴人が昭和53年6月4日に紀ノ川苑で被控訴人の従業員らにフィチン酸及びカルシウムフィチンの製造方法のノウハウの一部を口頭で教示したことをうけて,同月から,被控訴人の控訴人に対する送金額が月額10万円から15万円に増額されたこと,A控訴人は,被控訴人に対する昭和55年6月9日付けの手紙で,被控訴人のイノシトールの製法は,控訴人のノウハウ及び特許の製法を実施したものであるから,本件送金を停止することはあり得ないこと,γ-オリザノール及びフィチン酸のノウハウを提供したとしても,それによる被控訴人側の負担増加額は,ボーナス分としての年間60万円にすぎないことを記載し(乙23),乙19覚書を同封して,その契約の締結を求めていること,B乙19覚書においても,イノシトールについては,被控訴人が控訴人からその製造に必要なノウハウの提供を受けたことを確認するとの記載があるものの,フィチン酸及びγ-オリザノールについては,被控訴人が控訴人に対しその製造方法のノウハウを提供すべきことが記載されていること(乙19)からすれば,控訴人は,昭和55年6月当時においても,被控訴人に対し,フィチン酸等の製造方法に関するノウハウを実施可能な程度に具体的かつ詳細に教示していなかったことは明らかであり,控訴人が,昭和53年6月4日に被控訴人に対しフィチン酸及びカルシウムフィチンに関するノウハウの一部を説明したことについては,それが実施可能な程度に具体的なものでない以上,それ自体に一定の経済的価値があるといえるかは疑問であるが,仮に何らかの価値があるとしても,同年6月から昭和57年12月まで,月額10万円の送金額が月額15万円に増額されたことにより,それに対し相応の対価の支払いがあったと認めるのが相当であり,そのほかに,本件において,控訴人が被控訴人に対し,フィチン酸及びカルシウムフィチン製造方法のノウハウを教示したことを認めるに足りる証拠はない(甲46書面の交付あるいは甲87書面の郵送の事実が認められないことは前記のとおりである。)。
なお,控訴人が被控訴人に説明したのは上記ノウハウの一部にすぎないこと,その時期も昭和53年6月であり,被控訴人がフィチン酸の製造プラントの建設を始める約6年前のことであったこと,東洋高圧が有していたフィチン酸の製造方法その他に関する特許権(特許番号第509862号)が昭和58年中には存続期間満了により消滅しており(甲54の1),昭和59年においては,フィチン酸は,必ずしも控訴人が有していたノウハウに頼らなければ製造できないものではなくなっていたことからすれば,被控訴人が,昭和59年にいかなる製造方法でフィチン酸の製造を開始したかはそもそも不明であるといわざるを得ない。」 (22) 原判決50頁9行目「しかしながら,」から14行目「ものである。」を「しかし,その間も,被控訴人から控訴人に対し,本件送金が継続され,昭和53年6月以降,本件送金の月額を15万円とすることについては,控訴人と被控訴人との間で特段の異論がなかったものの,やがてγ-オリザノールの製造方法のノウハウの教示,指導をめぐって対立するようになり,昭和58年1月から本件送金が月額10万円に減額されたが,その後も平成6年1月まで同額による本件送金が継続されてきたものであり,その送金中止後,本件訴えの提起までの5年余の間,控訴人が被控訴人に対し,送金の復活を要求するなどしなかったことは,前記認定事実から明らかである。また,控訴人と被控訴人間で昭和53年,54年になされた契約締結の交渉においては,契約の期間は,そのころから12年程度(平成2年,3年に相当する。)とする案が控訴人からも提案されていたことは前記認定のとおりである。そして,前提となる事実等及び前記認定事実によれば,被控訴人は,控訴人に対し,昭和47年に300万円,昭和49年に130万円を支払ったほか,昭和47年10月から平成6年1月まで本件送金を継続したものであり,本件送金を停止したのは,平成2年,3年を相当期間経過した後の平成6年2月のことである。」と改める。
(23) 原判決50頁25行目「3572万4000円」を「3572万2000円」と,同行目「原告が行った」から26行目「断じ難いものである。」までを「控訴人が供与したイノシトールの製造方法のノウハウの対価として(一部フィチン酸及びカルシウムフィチンの製造方法に関する口頭でのノウハウの一部の提供に対する対価をも含むとしても),少額であるとは到底言い難いものである。」とそれぞれ改める。
2 甲14契約について (1) 控訴人は,乙82契約案は,控訴人が有する特許権について通常実施権を設定することを主たる目的とする契約であり,また,築野食品も含めた三者間契約であるのに対し,甲14契約は,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人がイノシトール製造プラントを建設し,イノシトールを製造するために必要なノウハウ,並びに,フィチン酸及びカルシウムフィチンを製造するために必要なノウハウを実施許諾する契約であり,乙82契約案が実施許諾の対象とする特許発明とは,その対象などを異にするものであると主張する。
しかし,乙82契約案は,その前文,第1条,第2条,第4条から明らかなように,控訴人が被控訴人に対し,イノシトール,カルシウムフィチン,フィチン酸及びγ-オリザノールなどの製法技術についての特許権及びノウハウの実施許諾をし,そのコンサルタント業務を遂行することを主たる内容とし,被控訴人が控訴人に対し,その対価として,月額10万円の実施料及び月額5万円のコンサルタント料などを支払うことをその内容とする契約案であり(乙82),イノシトール,カルシウムフィチン,フィチン酸及びγ-オリザノールなどの製法技術についてのノウハウの実施許諾もその内容に含まれていることは明らかである。また,甲14契約は,前記認定のとおり,一時金2000万円及び被控訴人がイノシトール等の製造販売により得た粗利益の20%という極めて高額の対価を定めるものであり,前記認定事実に照らし,控訴人と被控訴人とがこのような高額の実施許諾料をその内容とする実施許諾契約案について,これを契約締結の可能性がある契約案として実際に協議を継続してきたとの事実を認めることは到底できない。控訴人の上記主張は明らかに理由がない。
(2) 控訴人は,被控訴人に対し,乙19覚書案と一部の内容が類似した覚書き案を送付したことはあるものの,乙19覚書案は送付していないと主張する。
しかし,乙19号証を見ても,その外観に不自然な点はなく,また,覚書としての,形式にも,内容にも,特段奇異な点は見当たらず,証拠(乙24の1・2)によっても,そのすべてが控訴人により真正に作成されたものと認められる。
この書類が,控訴人が被控訴人に対し送付した後に,何者かがその内容を一部書き換えたものとみることはできない。控訴人の上記主張は採用し得ない。
3 フィチン酸のノウハウの供与について (1) 控訴人は,被控訴人のDが,半年でフィチン酸の研究開発を成功させ,そのプラントを作り,本格的に商品として製造販売することは不可能である,と主張する。しかし,前記のとおり,被控訴人が昭和59年にフィチン酸の製造を開始したときは,既に,フィチン酸の製造方法に関する東洋高圧の特許権も消滅していたのであり,また,本件においては,控訴人が被控訴人に対し,フィチン酸製造方法のノウハウを実施可能な程度に具体的にかつ詳細に教示したことが立証されていないのであるから,被控訴人がどのような方法でフィチン酸を製造しているのかを明らかにする必要はない。
(2) 控訴人は,昭和53年6月4日,フィチン酸製造のノウハウを記載した甲46書面をBに手渡し,同年6月8日,同じくこのノウハウを記載した甲87書面をY社長に郵送した,と主張する。しかし,甲46書面及び甲87書面は,いずれも控訴人から被控訴人に対し,手渡されたものとも,郵送されたものとも認められないことは前記のとおりである。
4 結論 以上によれば,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。よって,控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久