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関連審決 審判1981-19390
関連ワード 技術的思想 /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  先願の地位 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  抵触 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 昭和 57年 (行ケ) 165号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1986/09/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和五七年六月一四日、同庁昭和五六年審判第一九三九〇号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四七年一一月二四日、名称を「継目無し永久磁石ロール」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和四七年特許願第一一七一八七号)をしたところ、昭和五五年二月二〇日出願公告(特公昭五五-六九〇七号)がなされたが、特許異議の申立てがなされ、昭和五六年七月一〇日拒絶査定を受けたので、同年九月二九日これを不服として審判を請求し、昭和五六年審判第一九三九〇号事件として審理された結果、昭和五七年六月一四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年七月二一日原告に送達された。
二 本願発明の要旨 ハードフエライトより全体が構成されてなる少くとも直径Dに対し印画紙の幅に対応する長さLが三倍以上ある横断面中空円筒状永久磁石を軸方向および円周方向に一体に形成しさらに当該永久磁石の表面に軸の一端から他端に向つて延長する方向に均一な磁束密度を有する複数個の磁極を設け前記永久磁石にそれと同心状に軸を固着したことを特徴とする継目無し永久磁石ロール。
三 本件審決理由の要点 本願発明の要旨は、前項記載のとおりであつて、前記印画紙とは静電潜像を有するもの、すなわち、電子写真用印画紙であることが明細書に記載されているから、
前記永久磁石ロールは電子写真現像用ロールであることが明らかであると認められる。これに対し、特許異議申立人が引用した実願昭五〇-五八〇〇号は、昭和四五年二月九日にされた特許出願(特願昭四五-一一三一四号)を実用新案法第8条第1項の規定により適法に実用新案登録出願に変更したもので、その拒絶の査定が確定して、本願発明に対して先願の地位を有し、その考案(以下「先願考案」という。)の要旨は、「シリンダにフエライト粉末原料を入れ圧縮手段により圧縮し、
その操作をくりかえすことにより形成された架橋隙のない均質な長い無継目ローラ、そのローラの長手方向に直線状に同時に着磁してローラの長手方向にわたり均一な磁界分布を有する複数極の磁極を着磁したことを特徴とする電子写真現像用ローラ。」にあるものと認められ、上記フエライト粉末原料にハードフエライトが用いられることは、先願考案が電子写真現像用ローラである以上必然的なことであり、このローラについて明細書中に直径の十数倍もの長さの例えば20〜30cm(本件審決に「直径の20〜30倍」とあるのは、明白な誤記と認められる。)を有することが記載されているから、上記「均質な長い無継目ローラ」は少なくとも直径D(本件審決に「長径D」とあるのは、明白な誤記と認められる。)に対し印画紙の幅に対応する長さLが三倍以上ある条件を満たすものであり、永久磁石を軸方向及び円周方向に一体に形成したものであることは明白である。
そこで、本願発明と先願考案を比較すると、両者はハードフエライトより全体が構成されてなる少なくとも直径Dに対し印画紙の幅に対応する長さLが三倍以上ある永久磁石を軸方向及び円周方向に一体に形成し、更に当該永久磁石の表面に軸の一端から他端に向かつて延長する方向に均一な磁束密度を有する複数個の磁極を設けた継目無し永久磁石ロールである点で一致し、(1)本願発明が横断面中空円筒状永久磁石にそれと同心状に軸を固着したのに対して、先願考案にその構成が示されていない点、(2)本願発明が永久磁石の製造方法を特定していないのに対して、先願考案はその製造方法を特定している点の二点で一応相違する。
右相違点について検討するに、相違点(1)については、中空円筒状永久磁石に同心状に軸を固着したロールは周知であるから、本願発明におけるこの点に関する構成は、先願考案にこのような周知のものを単に適用することにより得られるものにすぎず、また、相違点(2)は、本願発明が製造方法を特定しない点において先願考案を包含するものであるから、この点に関して両者は同一のものと認める。
したがつて、本願発明は、先願考案と同一であるから、特許法第39条第3項の規定により特許を受けることができない。
四 本件審決を取り消すべき事由 本願発明の永久磁石ロールが本件審決認定のとおり電子写真現像用ロールであること、先願考案が本件審決認定の日に出願された特許出願を実用新案登録出願に変更したものであり、その拒絶査定が確定していること、先願考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の項に本件審決が先願考案の要旨として認定したとおりの記載があり、右記載中のフエライト粉末原料としてハードフエライトが用いられることは、先願考案が電子写真現像用ローラである以上必然的なことであること、並びに本願発明と先願考案との間に本件審決認定(1)の相違点があることは認めるが、
本件審決は、(一)原告(出願人)に対し、本願発明が先願考案と同一である旨の拒絶理由を通知し、意見書提出の機会を与えるべきであるにかかわらず、右の手続を怠つた手続上の違法があり、また、(二)先願考案が実施不能であつて先願としての地位を有しないのに、この点を看過して、本願発明と一致点があるとし、かつ、相違点についての判断を誤り、ひいて、本願発明と先願考案とが同一であるとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、
1 本願発明についての出願公告に対して、キヤノン株式会社から特許異議の申立てがなされ、本願発明に対する特許拒絶査定は、右の「特許異議の申立ては、理由がある。」との決定と同日になされたが、その理由は、本願発明は、特公昭和三六-四四三四号公報及び特公昭和三五-一〇一八一号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受け得ない、というのである。これに対し、原告は、不服審判の請求をしたが、本件審決に至るまで、本願発明と先願考案の同一性については拒絶理由として何らの通知もなく、意見書提出の機会を与えられなかつたため、原告は、審判において、本願発明の進歩性についてのみ主張を展開した。もし、拒絶査定の理由中に、本願考案が先願考案と同一であるとの点が挙げられていれば、原告は、特許法第17条の2第4号の規定により、必要な補正をなし、審判手続において更に意見を述べることができたものである。このように原告に意見を述べる機会を与えなかつた点において、本件審決は、特許法第159条第2項及び第50条の規定に違反した違法がある。もつとも、前期特許異議申立人提出に係る特許異議申立理由補充書には、本願発明が先願考案と同一である旨の記載があり、かつ、これに先願考案の明細書及び図面等が添附され、右特許異議申立理由補充書副本及び添附書類等は原告に送達され、これに対して原告が特許異議答弁書をもつて意見を述べ、反論したこと、並びに本件審決が審判請求を排斥した理由が前記特許異議申立理由補充書に記載されている理由と同じであることは、被告主張のとおりであるが、右特許異議申立理由補充書副本の送達は、特許庁が自らの判断である拒絶理由を示したものに当たらないから、特許庁としてはその判断の理由を改めて示し、原告(出願人)に意見書提出の機会を与えるべきである。
2 先願考案は、以下に説示するとおり、当業者がその明細書を一読すれば、その実施不能であることが直ちに分かるもので、形式上考案というを得ないから、先願としての地位を有しない。このような実施不能のものと本願発明が同一であることはあり得ないし、特許法第39条第3項の規定は、先願考案が未完成、実施不能等でないことを前提としており、実施不能等の先願考案なるものの存在を保護して、
その後に特許出願された発明の特許を拒絶することは、発明及び考案の保護及び利用を図り、発明及び考案を奨励し、産業の発達に寄与することを目的とする特許法第1条及び実用新案法第1条の規定に照らし、法の理念に背くものというべきである。すなわち、
(一) 先願考案は、「シリンダにフエライト粉末原料を入れ圧縮手段により圧縮し、その操作をくりかえす」ことを構成要件とするものであるところ、この方法では、各段ごとのフエライト、特に各段の境界付近での密度のバラツキは避けられず、この方法では、先願考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「長手方向にわたり均一な磁界分布を有する」ものを得られないことは、明白である。先願考案の明細書及び図面には、ローラの製造方法を窺わせるローラの寸法やシリンダの寸法、形状、圧縮の圧力及び回数など具体的な実施データが示されていない。また、
右明細書に示された「シリンダの径の十数倍もの長さの例えば二〇〜三〇cmの細長いローラ」を破損させずにシリンダから取り出すことは不可能であり(本願発明では、公報第二頁第三欄第二四行ないし第二九行に明示されたように容易に成形品を抜き取ることができる。)、これに関しての技術の開示はないし、仮に、これが可能であつたとしても、このような焼結前の脆いローラにセンタレスグラインダ等による精密加工を施すことは、技術常識に反する。更に、先願考案の明細書記載の製造方法を追試したところ(ただし、一回のプレスにより作られるローラの長さ(圧縮長)は、先願考案の明細書記載の最良の結果をもたらすはずの実施例で一回の圧縮長を直径の二、三倍としており(これよりも圧縮長を減らした場合について何ら開示していない。)、これが実施不能の場合、先願考案は未完成といわなければならない。しかし、原告の実験では、圧縮長がそれぞれの直径に対して約二六%のものも試みた。これ以下の圧縮長では、工業生産に適しないし、更に、一回の圧縮長を短縮することによつて均質なローラを製造し得るものではない。)、湿式プレス、乾式プレスを問わず、原料粉末を多段的に仕込んでなるべく均一にプレス加重がいきわたり、均質な成形体ないし焼結体を得ることができるように充填深さを浅く仕込んでそのつどプレスを加えても、焼結体に肉眼でも観察できる継目のできることは避けられず、乾式プレスにあつては、各回のプレスごとにでき上る成形体の軸方向の長さが直径の1/3ないし1/4程度の比較的短い場合は、継目に割れ目を生じる程度にとどまるが、各回のプレスごとにでき上る成形体の軸方向の長さが直径の約半分程度になると焼結の段階で継目から分割してしまう。
ところで、先願考案において、その実用新案登録請求の範囲にいう「無継目ローラ」には「架橋隙のない均質な長い無継目ローラ」との限定があり、その明細書の考案の詳細な説明の項にも、「そうすると内部に架橋隙のない各部均質の長いフエライトローラが得られる」(甲第三号証の七第三頁第六行ないし第八行)、「圧縮成形時における粒状態の架橋現象を防止して、所望長さのローラをつなぎ目なく且つ全長にわたつて均一な圧縮で製造できる」(同号証第三頁第一七行ないし第一九行)等の記載があることから前記実用新案登録請求の範囲にいう「架橋隙のない均質な」とは、粒状態の架橋現象のない、外観だけでなく、内部に架橋隙のない均質のものを意味し、また、先願考案の実用新案登録請求の範囲にいう「長手方向にわたり均一な磁界分布を有する」とは、その図面「第4図(別紙図面参照)A曲線に示すような均一な磁界が得られ、B曲線に示すような微妙な不均一磁界」がないもの(同号証四頁第一行ないし第四行)をいうのである。したがつて、先願考案の製造方法では、「架橋隙のない均質な長い無継目ローラ」で、「長手方向にわたり均一な磁界分布を有する」ものを作ることはできない。
(二) また、先願考案の電子写真現像用ローラは、その用途から回転軸をもつことが必須であつて、その取付けは困難である(先願考案のローラは、その明細書には、長さはその径の十数倍の二〇〜三〇cmと例示され、その図面第2図に示す中実の円筒体がまず作られ、これに孔があけられるものであるが、フエライトの成形体は、焼結前には非常に脆くて穿孔加工をすることが困難であり、焼結後は硬度が非常に大きく、細長いローラに貫通孔をあけることは技術的に至難である。)のに、明細書及び図面には、回転軸を取り付けるための工程が全く示されていない。
この点で、先願考案のローラは、電子写真現像用のものとしての使用は不可能で、
先願考案は、実施不能である。他方、本願発明においては、明細書及び図面第4図ないし第7図に明らかなように、加圧容器内に心金が入れられ、はじめから、中空円筒状のものが成形され、この孔に回転軸を取り付けることができる。
3(一) 本件審決認定の相違点(1)については、前記2(二)に述べたとおり、先願考案では中空円筒状永久磁石を作ることができないのであるから、たとい、中空円筒状氷久磁石に同心状に軸を固着したロールが周知であつたとしても、
この周知技術を先願考案のロールに適用することはできない。
(二) 同相違点(2)については、本願発明は、「横断面中空円筒状永久磁石を軸方向及び円周方向に一体に形成」することを構成要件とするが、このことは成形体全体に同時に均一な圧縮力を加える一工程で一体の永久磁石ロールを形成することを意味する。このことは、この方法によつてはじめて均質なロールが得られ、
「均一な磁束密度を有する」ことになることからも明らかで、本願発明は、このように製造方法を限定し、その明細書及び図面(特に、甲第二号証第二項第三欄第九行以下)に具体的に製造方法を示しており、本願発明の製造方法は、かかる均質なロールが得られない先願考案の製造方法を含むものではない。
仮に、本願発明が製造方法を特定していないとしても、実施不能な製造方法を包含するわけがないし、この場合明細書が不備ということになるだけで、本件審決の理由の当否と関係がない。
被告の答弁
被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
一 請求の原因一ないし三の事実は、認める。
二 同四の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告主張のような違法の点はない。
1 原告主張四1について 本願発明に対する特許拒絶査定の経緯及びその理由は、原告主張のとおりであるが、本顧発明と先願考案とが同一である旨の記載のある特許異議申立理由補充書副本と先願考案の明細書及び図面が原告に送達され、原告は特許異議答弁書において先願考案の明細書及び図面に対して意見を述べている。そうであれば、原告(出願人)は、右の送達を受けることにより、拒絶の理由及び証拠を知り、本願発明について補正の機会も与えられているのであるから、特許法第50条の規定に定める手続がとられたのと変りがなく、改めて同旨の拒絶理由の通知を受けなくても不利益がないところ、審査においてした手続は、特許法第158条の規定により、拒絶査定不服の審判においても効力を有するから、審判手続において同趣旨の拒絶理由の通知をしなければならない実質的理由はない。
2 原告主張四2冒頭記載について 先願考案の要旨は、本件審決認定のとおりであつて、その明細書の考案の詳細な説明の項中に、当業者が容易に実施し得る程度に、考案の目的、構成及び効果が記載され、これによりその技術的思想を十分把握することができるから、この範囲で先願としての地位を有する。特許法第39条第3項の規定は、先願考案が実用新案法第2条第1項の考案であると認定できれば、その適用があり、右考案の実施の能否には関係がない。仮に、原告主張のように先願考案が実施不能であるとしても、
その理由で先願の地位がないというよりは、後願出願人の補正により抵触(実施不能)部分を削除すべきものとするのが、右条項の合理的な運用である。そして、先願考案が未完成の場合でも、先願考案に係る実用新案登録に対する拒絶理由ないし無効事由たり得るにとどまるにすぎない。なお、仮に、先願考案の明細書に実施不能と解される実施例の記載があつたとしても、それは要旨外のことであり、この記載から直ちに先願考案の要旨そのものを実施不能ということはできないから、先願考案は、本願発明に対し先願としての地位を有する。
(一) 原告主張四2(一)について 先願考案の明細書には、ローラの寸法については、実施例として、「シリンダの径の十数倍もの長さの例えば二〇〜三〇cm」のものを記載しており(甲第三号証の七第三頁第四行及び第五行)、圧縮の圧力、回数などは、実施の際、適宜決定し得る設計上の事項にすぎない。先願考案において、成形品をシリンダから抜き出すことについては、従来のものにおけると差異はなく、この点から先願考案をもつて実施不能といい得ない。また、先願考案の明細書には、ローラをセンタレスグラインダ等により加工をすることについての記載があるが、これを焼結前にすることについては記載がない。先願考案の明細書には、成形物の内部に架橋隙ができないよう圧縮をすることが記載されており、このことは、圧縮成形の際、成形物が均質となるようにすることを意味し、一回の圧縮ごとに常に均質のものが得られれば、圧縮工程を繰り返し、長尺のローラとした場合も全体として均質のものが形成され、
均質なローラに着磁すれば均一な磁界分布を有するローラが得られることは明らかである。
原告の追試した先願考案の実施例によれば、先願考案の明細書記載の従来技術の円筒形マグネツトローラを磁極が合うようにつなぎ合わせて接着等したもの(甲第三号証の七第4図B)に比し、より均質で、磁束密度のより均一なローラが得られる。先願考案は、シリンダにフエライト粉末を入れて圧縮する際の圧縮一回ごとに作られるローラの長さを限定せず、これをどの程度の長さとするかは、実施の際、
当業者が適宜決定をすべき設計上の事項というべきところ、原告の実験結果である一回当りの圧縮長の短いものがより均質であることを前提とすれば、一回当りの圧縮長を短縮して(すなわち、一回当りの粉末原料の量を少なくして)ローラの製造を行うことにより原告の実験よりも更に均質で、磁界分布(磁束密度)の均一なものが得られるが、このことは当業者にとつて自明のことであるから、先願考案は実施可能である。
先願考案にいう「架橋隙のない均質な」、「無継目」、「均一な磁界分布」は、
いずれもその明細書記載の従来技術に対比していうものである。「継目」がないとは、別々に作られたマグネツトローラの接合部のないもの、すなわち、先願考案の方法により一体に形成されたものを指し、原告の実験に表れたものは筋状外観部であつて、「継目」ではない。先願考案において、「均一な磁界分布」は、従前技術に示された連結ローラの磁界曲線である先願考案の願書添附の図面第4図B曲線より均一なものをいい、同図A曲線に一致しなければならないわけでない。この意味で、原告の実験により製造されたローラも、先願考案の実施態様である「架橋隙のない均質な」「均一な磁界分布を有する」「無継目ローラ」である。本願発明も、
その明細書に従来技術として短い永久磁石を接着して作つたロールを挙げ、これには継目があつてその部分の表面の磁束密度が不均一となる欠点があり(甲第二号証第一頁第一欄第二八行ないし第二頁第三欄第五行)、本願発明は従来技術の右の欠点を解消した継目無し永久磁石ロールを提供することを目的とする(同号証第二頁第三欄第五行ないし第八行)旨の記載からすれば、本願発明と先願考案とはこの点において差異はないものといわなければならない。
(二) 原告主張四2(二)について 先願考案の明細書には、中空円筒状ローラの中空部の形成法について明文上の記載はないが、一般に圧縮成形法により中空状の成形品を得る場合、@まず、中実のものを作成し、脆い場合は必要に応じ一次焼成をしたうえ、穿孔、切削などした後、最終的な焼成を行う方法やA圧縮成形時に中空のものを得るため、中空部に対応する部分に予め中子を設けておく方法など種々周知のものがあるから、中空状のものの形成法は、その記載がなくても、当業者が容易に実施し得るものである。
3(一) 原告主張四3(一)について 前記のとおり、先願考案に係る中空円筒状ロールは、これを製造することができるから、本件審決認定の相違点(1)についての本件審決の判断に誤りはない。
(二) 原告主張四3(二)について 本願発明は、「継目無し永久磁石ロール」という物自体に関するもので、その製造方法ではないから、すべての方法で製造されたこの物を包含し、先願考案の方法により製造された物を含むことは、明らかである。してみると、仮に、原告主張のように先願考案の製造方法実施不能であれば、本願発明の物の製造方法実施不能の製造方法を含むこととなり、この点において両者差異はない。
本願発明の構成要件である「横断面中空円筒状永久磁石を軸方向および円周方向に一体に形成し」とは、該形状の永久磁石が全体として一つの組織的に連続したものとして存在することを示すもので、製造方法を特定しているものではない。原告の主張する「成形体全体に同時に均一な圧縮力を加える」ことは、本願発明の実施例にすぎない。また、原告主張の「一工程で一体の永久磁石ロールを形成する」方法のうち、本願発明の明細書にある押出成形の場合は、成形体は順次押し出され、
同時に圧力が加えられるものではない。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 原告は、本件審決には、その主張のような手続上の違法があり、また、先願考案が実施不能であり、先願としての地位を有しないにかかわらず、この点を看過した結果、本願発明と先願考案とを対比するに当たり、その判断を誤り、ひいて、本願発明と先願考案とが同一であるとの誤つた結論を導いた違法がある旨主張するが、右主張は、以下に述べるとおりいずれも理由がなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。
1 手続上の違法について 本願発明についての出願公告に対し、キヤノン株式会杜から特許異議の申立てがなされたこと、特許異議申立人提出の特許異議申立理由補充書には、本件審決が審判請求を排斥した理由と同じである本願発明と先願考案とが同一である旨の主張が記載されており、同補充書副本と先願考案の明細書及び図面が原告に送達されたこと、これに対し、原告は特許異議答弁書をもつて意見を述べたが、昭和五六年七月一〇日、「特許異議の申立ては、理由がある。」との決定及び原告主張内容の特許拒絶査定がなされたことは、当事者間に争いがない。右の事実関係によれば、原告(特許出願人)は、右特許異議申立理由補充書副本及び添付書類の送達を受けることにより、本願発明と先願考案との同一性が問題とされ、この理由により特許出願を拒絶されることがある旨を予め知らされ、かつ、その証拠をも入手していたのであるから、この点について、特許法第57条の規定による答弁書の提出及び同法第64条の規定による明細書又は図面の補正をする機会を与えられたものであり(なお、本件においては、原告(特許出願人)が特許異議答弁書をもつてこの点について意見を述べたことは、原告の認めるところである。)、右審査における手続は、
特許法第158条の規定により、審判においても効力を有するから、審判において同趣旨の理由を拒絶理由とする場合には、特許法第159条第2項において準用する同法第50条の規定が設けられた趣旨に照らし、改めて拒絶理由の通知をする必要はないものと解すべきである。したがつて、本件審決には、特許法第159条第2項において準用する同法第50条の規定に違反する手続上の違法がある旨の原告の主張は、採用することができない。
2 本願発明と先願考案との同一性の有無について(一) 本願発明の「永久磁石ロール」が「電子写真現像用ロール」であることは、原告の認めるところ、前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許公報)及び甲第四号証の二(手続補正書)を総合すれば、本願発明は、静電複写現像装置用永久磁石ロールに関するものであつて、従来、永久磁石は一般にフエライト粉末材料をプレス成形等によつて軸方向に圧縮成形して作るが、
工作上軸方向の長さを大となし得ないため、現像装置に使用される永久磁石ロールは普通数個の永久磁石を軸の外周面に嵌挿固着するとともに永久磁石相互間を接着剤を塗布して固着することにより軸方向に接続せざるを得ず、この継目に空隙を生じることは不可避であつて、この空隙は僅少でも磁束密度を減少させ、空隙の増加に伴い磁束密度の減少は加速度的に増大し、そのため、現像時に印画紙上に縞が表れ、複写機の機能、品質を大幅に低下させる欠陥があつたところ、本願発明は、この欠陥を克服することを技術的課題とし、複写現像の際にも縦縞若しくは横縞が表れることのない継目無し永久磁石ロールを提供することを目的とし、本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成により目的を達したものであり、その実施例として、加圧容器内中心に心金を固定し、外方はゴムその他の可撓弾性材料よりなる成形筒を設け、同筒内に粉末原料を充填し、油圧を加えて、これを均一に圧縮して成形し、加圧を解除して永久磁石を該装置から脱し、従来同様の焼結を行つたうえ、一体着磁により軸方向に均一な磁束密度を有する複数個の磁極を設けること、及び加圧成形の他の方法として、押出加工の応用、すなわち、真空押出機によつてスラリーをホース状に押出成形する方法を挙げていることを認めることができる。原告は、本願発明の特許請求の範囲中の「横断面中空円筒状永久磁石を軸方向および円周方向に一体に形成し」の構成は、成形体全体に同時に均一な圧縮力を加える一工程で一体のものを形成する場合のみを指す旨主張するが、前認定の事実に徴すれば、本願発明は、物の発明であつて、方法の発明ではなく、その特許請求の範囲にも、製造方法を限定する趣旨の文言は見当たらず、また、その明細書の発明の詳細な説明の項に、実施例の一つとして挙げられる、スラリーをホース状に押出成形する方法は成形体を順次押し出すもので、同時に圧縮力を加えるものでないことは明らかであるから、本願発明の特許請求の範囲に示された原告主張の上記構成も永久磁石が二以上の独立した物体から構成されず、全体がもとから一つの組成の連続体として形成されたものであることを意味するにすぎないものと解するのを相当とし、原告主張のように製造方法を限定する趣旨に解することはできない。したがつて、原告の右主張は、採用することができない。
(二) 一方、先願考案が昭和四五年二月九日に出願された特許出願を実用新案法第8条第1項の規定により実用新案出願に変更したものであつて、これに対する拒絶査定が確定していることは、当事者間に争いがなく、右の経緯によると、先願考案が本願考案に対し先願としての地位を有することは、明らかであるところ、先願考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の項に本件審決が先願考案の要旨として認定したとおりの記載があること、及び右記載中の「フエライト粉末原料」にハードフエライトが用いられることは、原告の自認するところである。そして、右事実に、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証の七(先願考案の明細書)及び同号証の八中の図面を総合すれば、先願考案は、電子写真現像用マグネツトローラに関するものであつて、該ローラは、回転可能な状態の円筒状フエライト焼結体に複数極の磁極を表面着磁してなるものであるが、従来のフエライトローラは、これを作る際、例えば三〇cmのシリンダに材料を詰めて圧縮成形すると、粒状態の架橋現象により圧縮が充分でなく、成形の長さは、コスト的にみても、直径の二倍ないし三倍を限度とするため、長さ数cmの円筒形マグネツトローラを接着等によりつなぎ合わせて作つたが、このようにしてできた連結ローラは、第4図(別紙図面)B曲線に示すようにつなぎ目に微妙な磁界変化があるのが普通で、この磁界の乱れが現像能を害し、縦スジを作るという欠点を免れなかつたところ、先願考案は、この欠点を解消することを目的、課題として、前示先願考案の実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したものであることが認められ、その明細書(前掲甲第三号証の七)の発明の詳細な説明の項には、その実施例として第2図に示すシリンダにフエライト粉末原料を入れ、ピストン等で圧縮し、例えば直径の二、三倍程度の長さのローラ(第2図には中実のものを示す。)を作り、その上に更に原料を入れて圧縮し、これを繰り返すことにより、シリンダ直径の十数倍もの長さ、例えば二〇〜三〇cmの細長いローラを作り、これをシリンダから引き出し、センタレスグラインダ等により表面を整えて、内部に架橋隙のない各部均質の長いローラを得た後、
これに着磁して全長にわたり均一な磁界分布を有するマグネツトローラを得るものとし、このように、先願考案は、シリンダにフエライト粉末原料を入れて圧縮し、
圧縮操作を繰り返すものであるから、圧縮成形時における粒状態の架橋現象を防止して、所望の長さのローラをつなぎ目なく、全長にわたつて均一な圧縮で製造することができ、ローラの周囲には第4図A曲線に示すような均一な磁界が得られ、同図B曲線に示すような徴妙な不均一磁界がなくなり、このローラを用いると、画像濃度の均一な美しい現像効果を実現し得る等の効果を奏し得る、との記載があることを認めることができる。
以上認定したところ(特に先願考案の目的、課題)によれば、先願考案は、従来の連結ローラのもつ欠陥を解決したもので、その実用新案登録請求の範囲にいう「架橋隙のない」とは、従来のフエライトローラは、その構造上圧縮が充分でなく、粒状態の架橋現象を生ずるところ、先願考案のものは、これと異なり、前認定のようにシリンダにフエライト粉末原料を入れて圧縮手段により圧縮してローラを作り、更に原料をシリンダに入れて圧縮を繰り返すことによる粒状態の架橋現象を生じない形状、構造のものであることを意味し、同じく「均質な長い無継目」とは、従来のフエライトローラは、長さ数cmの円筒形マグネツトローラをつなぎ合せて作つたため、その構造上つなぎ目に磁界の乱れを生じることを免れなかつたところ、先願考案では、この問題を解決するため、前認定の方法により従来のものが有したようなつなぎ目がなく、全長にわたつて均一な圧縮が加えられた構造であることを意味するものであり、また、同じく「ローラの長手方向にわたり均一な磁界分布を有する」とは、前認定の方法により作られた形状、構造のローラの長手方向に直線状に同時に着磁すれば、従来の方法によるフエライトローラが示す表面磁界曲線(別紙図面B曲線)に此し、磁界の乱れの少ない均一な磁界分布を示すものであること(必ずしも別紙図面A曲線と同一のものに限るものとは解されない。)を意味するものであることは明らかである。原告は、先願考案は実施不能であり、そのことは、その明細書から自明である旨主張するが、上叙認定したところからすれば、先願考案の明細書には、当業者がこれを容易に実施し得る程度に考案の目的、
解決課題、構成及び効果が具体的に開示されているということができる。原告は、
先願考案は「シリンダにフエライト粉末原料を入れ圧縮手段により圧縮し、その操作をくりかえす」ことを構成要件とするところ、この方法では、「長手方向にわたり均一な磁界分布を有する」ものを得られない旨主張する。しかし、原告主張の構成は、先願考案の実用新案登録請求の範囲にいう「架橋隙のない均質な長い無継目ローラ」の形状、構造を特定する趣旨であることは前認定説示のとおりであり、このような形状、構造のフエライトローラの長手方向に直線的に着磁すれば、従来方法によるローラに比べ、磁界の乱れの少ない、より均一な磁界分布を有するものが得られることは、前認定の先願考案の構成から十分首肯し得るところというべきである。なお、この点に関し、原告挙示に係る成立に争いのない甲第七号証、第八号証の一、二及び第一〇号証並びに前掲甲第七号証記載の追試のうち湿式粉末を用いて得た焼結体であることに争いのない検甲第一号証及び第二号証、同じく乾式粉末を用い、加圧四回及び五回により得られたものであることに争いのない検甲第三号証及び第四号証に弁論の全趣旨を総合すれば、検甲第一号証ないし第四号証は、原告側において、当時周知の方法中乾式プレス、湿式プレスの二方法を選んで最善と認める条件で先願考案の明細書の製造方法を追試したものであつて、検甲第一号証及び第二号証は、湿式プレスの方法で四回の加圧により得られた直径五二・五mm、長さ二四・〇〜二四・四mm(一回の圧縮長は直径の約一一%となる。)の中実円筒形焼結体であるが、その表面円周方向の原料の追加された境界に相当する部位に肉眼で観察される三段の筋目(空隙にも窪みにも至らない。)がみられること、検甲第三号証及び第四号証は、乾式プレスの方法で、四回の加圧により得られた直径三四・一mm、長さ三五・七mmのもの及び五回の加圧により得られた同直径、長さ四四・一mmのもの(いずれも一回の圧縮長は直径の約二六%となる。)であつて、その表面円周方向の原料の追加された境界に相当する部位に肉眼で観察される三あるいは四段の筋目と浅く狭い空隙がみられるが、これらの筋目や空隙等は、先願考案にいう継目に当たらないことは、前認定説示したところから明らかであること、そして、右の最後のものについて原告側において磁束密度(磁界分布)を測定したところ、前記筋目(空隙)の部位において他の部位に比し、約一〇〇〇Gに対し一〇〇G弱(一〇%程度)の軸方向の磁束密度の低下を測定したこと(ちなみに、先願考案の願書添附の図面第4図のB曲線(従来方法によるローラの表面磁界を示す。)においては、連結部に対する接着部の表面磁界の低下は約六〇〇Gに対し一五〇〜一〇〇G前後(一八〜二五%位)である。)、原告側の追試に係る製造物は、いずれも、最初にシリンダーに入れられ毎度加庄を重ねられた部分、その後にシリンダに入れられ加圧回数の少ない部分及びその境界部相互の間に顕著な差異がないこと(甲七号証中分割されたものを除く。)が認められ、以上によれば、原告側において、先願考案の製造方法実施したものとする製品には、いずれも製造の段階で一体化されており、前示先願考案でいう意味での「架橋隙」や「継目」はなく、従来の連結ローラに比し、はるかに「均質」であるということができ、また、乾式プレス五回加圧のものは、「均一」の程度はともかく、別紙図面(第4図)B曲線に比し、明らかに「均一」といえる磁界分布(磁束密度)を有し、湿式プレスによるものは、乾式プレスによる事例に比し円周方向の空隙もみられないのであるから、従来の連結ローラに比し、その組成の均質性、磁界分布の均一性の点で優れていることは明らかであり、先願考案の目的とするところを達しているものと認めることができる。そして、右追試結果から推すと、右追試事例はローラの直径の1/2ないし一・三倍程度の長さを有するにすぎないが、このような成形体に更に原料の追加、圧縮操作を繰り返すことにより、これら追試事例同様「架橋隙のない均質な」「長手方向にわたり均一な磁界分布を有する」直径の三倍以上の十分に「長い無継目ローラ」が得られることは明らかであり、また、このような圧縮操作の繰返しの工程が工業生産に適しないものと断定することはできない。したがつて、原告挙示の上掲各証拠は、前段認定を左右するに足りない。更に、原告は、@ローラの寸法、シリンダの寸法、形状、圧縮の圧力、回数等の製造方法の具体的実施データが示されていない点、A成形体のシリンダからの抜取りやローラヘの回転軸の取付けの困難性及びB焼結前の脆いローラヘの精密加工技術常識に反することを理由に、先願考案は実施不能である旨主張するが、@の点は、
当業者が実施時に適宜選定し得る設計的事項に属するものというべく、Aの点は、
成立に争いのない乙第二号証によれば、いずれも周知の技術事項に属し、先願考案は、電子写真現像用ローラで、回転軸の取付けを必須とするものであるから、その明細書や図面に中空円筒状ローラの形成法の記載や図示するところがなくても、右周知技術に基づき当然ローラには回転軸取付けのための中空部が型抜き成形されるものと解することができ、また、Bの点は、先願考案の明細書には焼結前のローラに精密加工を施すべき旨の記載はなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、金属(フエライトがこれに該当することは明らかである。)の粉末の圧縮成形による中空状の成形品を得るには、まず、圧縮成形により中実のものを製作し、必要に応じ一次焼結をしたうえ、整形加工、二次焼結、表面仕上げの順で製品を得る方法は周知であるから、先願考案におけるローラヘの精密加工は右周知の方法によるものとみるべきである。以上のとおりであるとすれば、先願考案は、実施不能であるということはできず(この認定を覆すに足りる証拠はない。)、したがつて、原告のこの点の主張も、採用するに由ない主張というほかない。
(三) そこで、叙上認定説示したところにより、本願発明と先願考案とを比較すると、両者は「ハードフエライトから全体が構成されてなる少なくとも直径Dに対し印画紙の幅に対応する長さLが三倍以上ある永久磁石を軸方向及び円周方向に一体に形成し、更に当該永久磁石の表面に軸(長手)方向に均一な磁束密度(磁界分布)を有する複数個の磁極を設けた継目無し永久磁石ロール(ローラ)である」点で一致しているものということができ、
(一)本願発明が横断面中空円筒状永久磁石にそれと同心状に軸を固着したのに対して、先願考案にその構成が示されていない点及び(二)本願発明がその永久磁石の製造方法を特定していないのに対し、先願考案がその製造方法を特定している点で相違することは明らかである(両者が(一)の点で相違することは、原告の認めるところである。)。しかし、右(一)の相違点は、前説示のとおり、先願考案においても周知の回転軸が中空円筒状永久磁石に同心状に固着されるものと理解し得るから、この点において、両者は、相違するものとみることはできず、また、
(二)の相違点については、前記認定説示したところによれば、本願発明は、先願考案とその目的、解決課題構成及び作用効果において差異がなく、両者は技術的思想を同じくするものと認めるを相当とするところ、本願発明は、前示のとおり製造方法を特定するものではなく、その製造方法には先願考案の製造方法をも包含するものとみるを相当とするから、本願発明は先願考案と同一というべきである。なお、原告は、先願考案の実施不能を理由に本願発明は先願考案を含まない旨主張するが、先願考案が実施不能といい難いことは前認定説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用し得る限りでない。
(四) そうであるとすれば、本願発明をもつて、先願考案と同一であるとし、特許法第39条第3項の規定により特許を受けることができないとした本件審決の認定判断は正当というべきである。
(結語)三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。
よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 武居二郎
裁判官 高山晨
裁判官 清水利亮