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事件 平成 10年 (ネ) 4839号 製造販売差止等請求控訴事件
控訴人(原審原告) 株式会社エムアンドシーシステム 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 沖信春彦
同 出縄正人
同 平石孝行
同 保坂美江子
同 辻 哲哉右補佐人弁理士 【B】
被控訴人(原審被告) 富士通株式会社 右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 植松宏嘉 右補佐人弁理士 【D】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/12/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
一 控訴人 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙物件目録(但し、一枚目表三行目の「内臓され」を「内蔵され」に、四枚目表一一行目の「ダンプリスとでは」を「ダンプリストでは」に、五枚目表一行目の「後挿入」を「誤挿入」にそれぞれ改める。)(一)、
(二)、(三)及び(四)記載の物件を製造し、販売し、又は第三者に使用させてはならない。
3 被控訴人は控訴人に対し、金一億円及びこれに対する平成四年六月一一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言 二 被控訴人 主文と同旨
当事者の主張
一 当事者双方の主張は、次のとおり加入、訂正し、後記二及び三のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決事実及び理由欄の「第二 事案の概要」及び「第三 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八頁末行の「原告」を「甲(原告)」に、同九頁六行目の「被告」を「乙(被告)」に、それぞれ改める。
2 同一二頁八行目の「前記一3の」とあるのを「前記一4の」に改める。
3 同一三頁三行目の「損害賠償」の次に「として金六億五四〇〇万円の内金一億円の支払」を加える。
4 同別紙機密情報目録二枚目表一行目の「後挿入」を「誤挿入」に改める。
二 控訴人の主張 1 争点1(被控訴人に本件契約第5条に違反する行為があったか)について (一) 本件契約は、控訴人が被控訴人に対し、POS端末機製造のために必要な特許権・実用新案権等の工業所有権(出願中の権利を含む。)その他のノウハウを開示し、その使用を導入先(金市舘)に限定して許諾するノウハウの実施許諾(ライセンス)契約と、製造されたPOS端末機を導入先にのみ限定して販売することを許諾する販売許諾契約とから構成される契約である。
この点につき、被控訴人は、本件契約が実施許諾契約ではないとし、ロイヤリティ支払の合意がないことがそのことを示していると主張するが、本件契約が、その内容においても、契約書(甲第一号証)の文言からしても、製造・販売先を金市舘に限定したノウハウ実施許諾(ライセンス)契約であることは明白である。また、製造・販売先を金市舘に限定した契約であり、かつ、金市舘は控訴人が直接M&Cカードシステムを販売することができる控訴人の顧客であって、被控訴人に対し、金市舘に限定した製造販売許諾をする際にも、金市舘にM&Cカードシステムの導入ができれば目的を達し、被控訴人から対価を徴収する必要性は実務としてはないので、ロイヤリティ支払の合意がないことも合理性を有するものである。
(二) 原判決は、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」を、公然と知られ、又は公然と実施されている情報だけでなく、公然と知られ、又は公然と実施されている情報を組み合せることによって容易に想到し得る情報をも含むものと解したが、それは誤りである。
すなわち、右(一)のとおり、本件契約は、ノウハウの実施許諾(ライセンス)契約を含むものであるが、本件契約締結時である昭和六三年当時、ノウハウ実施許諾契約書の秘密保持条項における公知又は公用の情報の意義に関し、公然と知られ、又は公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報については、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれるとの考え方が一般に存在していた。したがって、公然と知られ、又は公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報がすべて公知であるとする原判決の判断は誤りである。
また、特許法においては、公知・公用発明(特許法29条1項)と、かかる発明に基づいて容易に発明することができた発明(同条二項)とが明確に区別されており、公知文献と公知文献とを単に組み合せたことによって公知とされるものではない。このような明確な「公知」の概念に基づけば、契約当事者間においても、契約書の条項において「公知」と記載した場合には、かかる法概念の下で用いているものと考えるべきであり、そうすると、公然と知られ、又は実施されているものに限られ、それから容易に想到し得るものは排斥されているものというべきである。
さらに、本件契約5条1項Aは、開示を受け、又は知得した後に自己の責に帰さない事由により、公知又は公用となった情報を秘密保持義務の範囲から除外しており、公知又は公用の概念が時間的経過を経て変化し得ることを前提としていることが読み取れるが、そうであれば、公知又は公用の意義は、当事者間で明確に判定できるものに限定されているというべきであり、「容易に想到し得る」というような公知の範疇が不明確に拡大するような解釈は、本件契約の当事者間の合理的意思に反するものである。また、本件契約において、被控訴人は、控訴人から情報提供を受ける際に、当該機密情報に係るロイヤリティ等の対価の支払を行っていないにもかかわらず、POS端末機の販売により大きな利益を得ている。そうすると、無償で開示する控訴人側においては、その有する機密情報の範囲を明確に考えていたと解するのが自然であり、他方、被控訴人にとっては、公知・公用の範囲が、現に公然と知られ、又は公然と実施されているものとされても何ら不利益は生じない。
そして、「公知または公用」の基準となるべき者は一般人であると解すべきである。
(三) 本件情報一ないし一〇についての判断の誤り (1) 本件情報一について 原判決は、金市舘で稼働するM&Cカードシステムで使用する磁気カード(アミックカード)のフォーマットとして控訴人が被控訴人に開示した内容(甲第六号証)において、磁気ストライプフォーマットが、カード番号を一二桁目から二四桁目に、ポイント情報を二六桁目から三七桁目に書き込むというものであったと認定し、該認定に基づいて、控訴人が本件情報一を被控訴人に開示したとは認められないとの判断をした。
しかしながら、磁気ストライプフォーマットに関する開示の内容(甲第六号証〇八五頁)においては、クレジットカードに採用されている磁気ストライプフォーマットが前提となっていることが示されており、カード番号(会員番号)を一二桁目から二七桁目に、累計ポイント情報を二八桁目以降にそれぞれ書き込むことも、フォーマット図には直接明示されていないものの、被控訴人に対し説明され、開示されていたものである。このことは、被控訴人作成の仕様書抜粋(甲第一四号証)Fー九ー三頁、同Fー一一ー一頁、同Fー八ー一頁に、カード番号が平成元年一月二五日時点で一六桁から一三桁に変更されたことを示す手書きの書込みがあることからも明らかである(磁気ストライプフォーマットにおいて、カード番号を一二桁目から書き込む場合、カード番号が一三桁なら二四桁目まで、一六桁なら二七桁目までに書き込むことになる。)。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
(2) 本件情報一の2について 原判決は、クレジットカードの標準化に関する研究報告書である乙第一一号証に基づき、磁気カードの磁気ストライプに最新使用年月日を書き込むことが昭和五三年三月には公知の技術であったと認定し、かつ、最新使用年月日は、原判決の認定に係る公知のカードポイントシステム(原判決九二頁七行目から九三頁九行目まで)において、最新更新年月日に他ならないから、本件情報一の2は、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとし、本件情報一の2が、カードポイントシステムに関するものではない他の公知情報から容易に想到し得ると判断した。
しかしながら、クレジットカードにおける最新使用年月日は、カード自体の使用年月日であり、カードポイントシステムにおける累計ポイントの更新が行われた日である最新更新年月日とは、目的、機能を異にするものであるから、これを同一とした認定自体が誤りであるのみならず、クレジットカードの標準化に関する研究報告書である乙第一一号証には、カード番号、累計ポイント及び累計ポイントの最新更新年月日の三つの個別情報を書き込むことは記載されておらず、カードポイントシステムにおいて、このような各情報を組み合せることについて、小売業者に損失を与えることなく導入できるかという点まで考慮すれば、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、これを組み合せることが容易に想到し得るものとは到底いえるものでなく、小売業の経験と、営業の試行錯誤という時間とコストをかけた蓄積を有する控訴人において初めて獲得できた情報である。
加えて、前記(二)のとおり、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであって、原判決が、この点の判断を経ずして、漫然と本件情報一の2が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとしたことも誤りである。
前示のような各情報を組み合せることは、その推考に時間と費用がかかるものであり、かつ、控訴人は、この組み合せに係る情報一の2の開示に当たっては機密保持契約を締結しており、企業間では機密として取り扱われていたものである。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
(3) 本件情報一の3について 原判決は、クレジットカードの標準化に関する研究報告書である前記乙第一一号証、銀行のキャッシュディスペンサに関する論稿である乙第二二号証及び銀行における預金の出し入れを想定した発明に係る公開特許公報である乙第三九号証の各記載と、前記公知のカードポイントシステムを併せ考えると、本件情報一の3は、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとし、本件情報一の3が、カードポイントシステムに関するものではない他の公知情報から容易に想到し得ると判断した。
しかしながら、標準的なクレジットカードの仕様又は銀行取引に係る公知情報とカードポイントシステムとを結び付けることは、控訴人の有する小売業の経験と、営業の試行錯誤という時間とコストをかけた蓄積がなければなし得ないことであり、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、これを結び付けることが容易に想到し得るものとは到底いえるものでない。
のみならず、前記(二)のとおり、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきところ、このような銀行取引に関する情報とカードポイントシステムとを結び付けることは、前記のとおり、その推考に時間と費用がかかるものであり、かつ、控訴人は、かかる結合情報の開示に当たっては機密保持契約を締結しており、企業間では機密として取り扱われていたものである。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
(4) 本件情報二、七及び七の2について 原判決は、銀行のキャッシュディスペンサに関する論稿である乙第一二号証及び現金自動支払機等、金融機関におけるATM機等に関する発明に係る公開特許公報である乙第二六号証の各記載と、前記公知のカードポイントシステムを併せ考慮すると、本件情報二、七及び七の2は、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとし、本件情報二、七及び七の2が、カードポイントシステムに関するものではない他の公知情報から容易に想到し得ると判断した。
しかしながら、このような銀行取引に係る公知情報とカードポイントシステムとを結び付けることは、控訴人の有する小売業の経験と、営業の試行錯誤という時間とコストをかけた蓄積がなければなし得ないことであり、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、これを結び付けることが容易に想到し得るものとは到底いえるものでない。
のみならず、前記(二)のとおり、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきところ、このような銀行取引に関する情報とカードポイントシステムとを結び付けることは、前記のとおり、その推考に時間と費用がかかるものであり、かつ、控訴人は、かかる結合情報の開示に当たっては機密保持契約を締結しており、企業間では機密として取り扱われていたものである。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
(5) 本件情報三及び八について 原判決は、ポイントシステムとは関係のない発明に係る公開特許公報又は公告に係る特許公報である乙第一三、第一四号証、第三一ないし第三五号証の各記載と、前記公知のカードポイントシステムを併せ考慮すると、本件情報三及び八は、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとし、本件情報三及び八が、カードポイントシステムに関するものではない他の公知情報から容易に想到し得ると判断した。
しかしながら、このような公知情報とカードポイントシステムとを結び付けることは、一般人やPOS端末機製造販売業者において容易に想到し得るものとは到底いえるものでない。
のみならず、前記(二)のとおり、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきところ、前記のようなポイントシステムと関連のない情報とカードポイントシステムとを有機的に結び付けることは、控訴人の時間と費用とをかけた試行錯誤の結果として生まれたものであり、かつ、控訴人は、かかる情報の開示に当たっては機密保持契約を締結しており、企業間では機密として取り扱われていたものである。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
(6) 本件情報五及び九について 原判決は、誤操作等を考えると、累計ポイントを購入と関係なく加減算することができることが必要であることはありふれたものであるとして、かかる必要性を経験則として認定し、これと、前記公知のカードポイントシステムを併せ考慮すると、本件情報五及び九は、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとし、本件情報五及び九が、カードポイントシステムに関するものではない他の公知情報から容易に想到し得ると判断した。
しかしながら、カードポイントシステムにおいて、購入と関係のない累計ポイントの加減算は、誤操作の可能性があるから必要なのではなく、従業員の不正の問題が常につきまとうから、信頼性確保のうえでは、このような加減算をしないことが原則であるが、顧客へのきめ細かい対応が可能となるシステムとして、
累計ポイントに加減算を行うよう結合することが必要となるのであり、このような結合は、一般人やPOS端末機製造販売業者において容易に想到し得るものとは到底いえるものでない。
のみならず、前記(二)のとおり、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきところ、前記のような累計ポイントに対する加減算は、控訴人が時間と費用をかけて結合させてきたものであり、かつ、控訴人は、かかる情報の開示に当たっては機密保持契約を締結しており、企業間では機密として取り扱われていたものである。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
(7) 本件情報六について 原判決は、コンピュータによる情報処理において、バッチ処理とバックアップが極めてありふれた技術であると認定し、本件情報六が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとし、本件情報六が、カードポイントシステムに関するものではない他の公知情報から容易に想到し得ると判断した。
しかしながら、バッチ処理やバックアップ自体が当たり前の技術であるとしても、それのみでは何時、何をバッチ更新するかという点についての解決は得られない。右のようなコンピュータ上の技術処理と、売上時、返品処理時、ポイント強制処理時、ポイント発券処理時に、カード番号などとともに磁気カードに書き込んだ累計ポイントをホストコンピュータに送信するということとを結合させることは、一般人やPOS端末機製造販売業者において容易に想到し得るものとは到底いえるものでない。
のみならず、前記(二)のとおり、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきところ、前記のようなコンピュータ上の技術処理と、バッチ更新の時期・内容とは、控訴人が時間と費用をかけて結合させてきたものであり、かつ、控訴人は、かかる結合情報の開示に当たっては機密保持契約を締結しており、企業間では機密として取り扱われていたものである。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
(8) 本件情報一〇について 原判決は、金融機関が発行する金券類似のスタンプをICカードに記録するサービスに関する実験報告書である乙第一六号証の記載から、磁気カードに書き込まれている情報を照会し、照会結果をプリンタでレシート上に印字することは、昭和六三年三月には公知の技術であったということができ、また、ホストコンピュータのバックアップ用ポイントファイル情報への照会は、磁気カードに書き込まれている情報の照会に代わるもので、これと同趣旨のものであって、このことと、前記公知のカードポイントシステムを併せ考慮すると、本件情報一〇は、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるとし、本件情報一〇が、カードポイントシステムに関するものではない他の公知情報から容易に想到し得ると判断した。
しかしながら、右のような銀行取引に関連してのみ形成された公知情報とカードポイントシステムとを結合させることは、一般人やPOS端末機製造販売業者において容易に想到し得るものとは到底いえるものでない。
のみならず、前記(二)のとおり、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきところ、前記のようなポイントシステムと関連のない情報とカードポイントシステムとを有機的に結合させることは、控訴人の時間と費用とをかけた試行錯誤の結果として生まれたものであり、特に屋上屋を重ねるようにも見えて決して当たり前のことではないバックアップ用ポイントファイル情報への照会・結果の印字を可能とすることは、その結合が、顧客への洗練された対応ができるシステムとして有機的に一体となった情報であることの証左である。そして、控訴人は、かかる情報の開示に当たっては機密保持契約を締結しており、企業間では機密として取り扱われていたものである。
したがって、原判決の前記認定判断は誤りである。
2 争点2(被控訴人に本件契約第8条に違反する行為があったか)について 前記1の(一)のとおり、本件契約は、控訴人が被控訴人に対し、POS端末機製造のために必要な特許権・実用新案権等の工業所有権(出願中の権利を含む。)その他のノウハウを開示し、その使用を導入先(金市舘)に限定して許諾するノウハウの実施許諾(ライセンス)契約と、製造されたPOS端末機を導入先にのみ限定して販売することを許諾する販売許諾契約とから構成される契約である。
そして、本件契約第8条は、控訴人・被控訴人間において、右POS端末機製造のために必要な特許権・実用新案権等の工業所有権の使用を導入先(金市舘)以外に対しては禁止し、対世的効力をもつ特許権又は実用新案権と同内容の拘束を契約によりもたせて、これを「出願する権利」と規定し、開示機密情報を含むノウハウを保護しようとしたものである。
原判決の認定判断は、右の点を看過したものであって、経験則に反する誤りがあるものである。
三 被控訴人の主張 1 控訴人の主張1に対して (一) 本件契約がノウハウの実施許諾(ライセンス)契約であるとの主張は争う。
本件契約は、控訴人が、そのカードポイントシステムであるM&Cカードシステムを金市舘に販売するに際し、控訴人自身は本来POSシステムメーカーではなく、金市舘の使用するPOSシステム上でM&Cカードシステムが稼働するようにPOSシステムを改造する技術を有していないため、被控訴人に対し、金市舘の使用するPOSシステムの改造を依頼する趣旨の契約であり、そのために改造の仕様を被控訴人に示したものである。被控訴人は、本件契約に基づいて控訴人のM&Cカードシステムを自ら販売するものではなく、実施許諾契約に当たらないことは明白である。
本件契約において、被控訴人が控訴人に対しロイヤリティの支払をすることになってはいないが、それは、右の本件契約の趣旨からして当然のことである。また、控訴人・被控訴人間にロイヤリティ支払の合意がないことが、本件契約が実施許諾契約でないことを示している。
本件契約に係る契約書の文言からも本件契約が実施許諾契約であることが導けるものではない。
(二) 控訴人は、本件契約がノウハウの実施許諾契約であることを前提として、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」についての原判決の判断を非難するが、ノウハウの実施許諾契約を前提としても、公知・公用情報に関する原判決の理解は当然のことであり、まして、本件契約がノウハウの実施許諾契約であるとの主張自体が誤りであるから、この点についての控訴人の主張は全く根拠がない。
(三) 控訴人は、本件情報一ないし一〇についての原判決の認定判断が誤りであると主張するが、理由がない。
本件情報一については、控訴人の開示の内容(甲第六号証、乙第二五号証)において、累計ポイント情報が二六桁目から三七桁目に書き込まれるとされていることは明白であって、控訴人が本件情報一として主張するものには当たらない。
その余の本件情報に関しても、その内容は公知の技術であり、控訴人の主張は、公知・公用情報の意義を極端に狭く解することに基づくものであるが、右(二)のとおり、公知・公用情報に関する控訴人の主張は失当である。
2 控訴人の主張2に対して 控訴人の主張は、本件契約がノウハウの実施許諾契約であることを前提とする点で既に誤りであり、また、本件契約に係る契約書の文言に反することも明らかであって、その主張を裏付けるものはない。
当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり加入、訂正し、控訴人の当審における主張に対し後記二のとおり判断するほかは、原判決事実及び理由欄の「第四 当裁判所の判断」と同じであるから、これを引用する。
1 原判決七九頁九行目の「二四桁目に、」の次に「ダミーの二五桁目を置いて、」を加える。
2 同八二頁五行目の「続く二五桁目以降には更新ポイントが書き込まれているから、」を「続く二五桁目はダミー、二六桁目以降にはポイント情報が書き込まれているから、」に改める。
3 同九八頁一行目の「後挿入」を「誤挿入」に改める。
二 控訴人の当審における主張に対する判断 1 争点1(被控訴人に本件契約第5条に違反する行為があったか)について (一) 控訴人の主張1の(一)、(二)について 本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に、公然と知られ、又は公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報が含まれるものと解すべきこと、また、「公知または公用」の基準となるべき者はPOSシステム又はPOS機器の製造販売業者であると解すべきことは前示(原判決七七頁四行目から七八頁七行目まで)のとおりである。
控訴人は、本件契約につき、控訴人が被控訴人に対し、POS端末機製造のために必要な特許権・実用新案権等の工業所有権(出願中の権利を含む。)その他のノウハウを開示し、その使用を導入先(金市舘)に限定して許諾するノウハウの実施許諾(ライセンス)契約と、製造されたPOS端末機を導入先にのみ限定して販売することを許諾する販売許諾契約とから構成される契約であるとしたうえで、ノウハウ実施許諾契約書の秘密保持条項においては、除外事由とされる公知・公用情報の意義に関し、公然と知られ、又は公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、除外事由たる公知情報に含まれる旨主張するが、本件契約を、特許権等、いわゆる工業所有権の実施許諾契約に対応するようなノウハウの実施許諾契約と解することは、次のとおりできないから、控訴人の右主張は、その前提を欠き、その点において既に失当である。
すなわち、甲第三〇号証によれば、控訴人と金市舘は、M&Cカードシステムの金市舘への導入・稼働に関する契約を締結し、該契約に基づき、控訴人は、金市舘にシステム・ノウハウたるM&Cカードシステムの非独占的使用を許諾し、金市舘は、控訴人に対し、導入サポート料として五〇〇〇万円、システム使用料金として月額四〇〇万円を支払うこととされていることが認められるから、システム・ノウハウたるM&Cカードシステムを金市舘に販売(使用許諾)したのが控訴人であることは明白である。他方、本件契約は、前示(原判決五頁四行目から九行目の「締結した」まで)のとおり、金市舘が、控訴人のM&Cカードシステムを導入するに当たって、金市舘の使用するPOS機器上でM&Cカードシステムが稼働するようにすることを目的として、締結されたものであり、甲第一号証によれば、M&Cカードシステムに対応するPOSシステム(本POSシステム)に基づき、被控訴人がPOS端末機器及びその付随機器(本POS機器)を製造のうえ、
金市舘に販売することを控訴人が認めることが、本件契約の目的とされていることが認められる。
右事実関係に前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨を併せ考えれば、本件契約は、控訴人が、M&Cカードシステムを金市舘に販売するために、それに不可欠なM&Cカードシステム対応のPOSシステムが稼働するPOS機器を金市舘に提供すべく、被控訴人との間で、被控訴人が該POS機器の製造(又は既存のPOS機器の改造)をしたうえで金市舘に販売することを約し、かつ、被控訴人が該POS機器の製造ないし改造を行うために必要なM&Cカードシステムの仕様の開示、
及び秘密保持等のこれに関連する事項その他必要な事項を定めたものと認められ、
被控訴人が、その独自の計算により、控訴人の有する何らかのノウハウを実施した商品を製造販売するために、控訴人が被控訴人に該ノウハウの実施を許諾することを目的とした契約であると解することはできない。本件契約書(甲第一号証)第1条の「甲(注、控訴人)は、乙(注、被控訴人)に対し、・・・製造の上株式会社金市舘に販売をすることを認める。」との記載は、右認定判断を左右するに足りるものではない。
また、本件契約において、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に、公然と知られ、又は公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報が含まれるものと解しても、格別契約当事者の合理的意思に反する結果となるものとは認められない。
したがって、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」には、公然と知られ、又は公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報が含まれるものと解すべきである。
(二) 控訴人の主張1の(三)について (1) 控訴人が、被控訴人に対し本件情報一に該当する情報を開示したと認めることができないことは、前示(右一の1、2の加入訂正後の原判決七八頁九行目から八四頁八行目まで)のとおりである。
控訴人は、磁気カード(アミックカード)のフォーマットとして控訴人が被控訴人開示した内容(甲第六号証)のうち、磁気ストライプフォーマットに関する開示(同号証〇八五頁)において、カード番号(会員番号)を一二桁目から二七桁目に、累計ポイント情報を二八桁目以降にそれぞれ書き込むことも、フォーマット図には直接明示されていないものの、被控訴人に対し説明され、開示されていたと主張するが、甲第一四号証の控訴人主張箇所の書込みを斟酌したとしても、
控訴人が被控訴人に対し、磁気ストライプフォーマットに関して、カード番号(会員番号)を一二桁目から二七桁目に、累計ポイント情報を二八桁目以降にそれぞれ書き込むことを開示したとの事実を直ちに認めることはできないのみならず、仮に右の限度で控訴人主張の開示があったとしても、本件情報一の内容をなす累計ポイント情報(最新更新年月日がある場合はそれを含む。)を、磁気ストライプ上の二八桁目から「七〇桁目」(ダンプリストでは六九桁目)までの領域に書き込むことまでを開示した事実を認めるに足りる証拠は全くないから、いずれにせよ、控訴人が本件情報一に該当する情報を開示したと認めることはできない。
(2) 本件情報一の2が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるものと認められることは、前示(原判決八七頁五行目から九五頁六行目まで)のとおりである。
控訴人は、乙第一一号証記載のクレジットカードにおける最新使用年月日がカードポイントシステムにおける累計ポイントの最新更新年月日と目的、機能を異にするものであり、また、カード番号、累計ポイント及び累計ポイントの最新更新年月日の三つの個別情報を組み合せることについて、小売業者に損失を与えることなく導入できるかという点まで考慮すれば、同号証記載の技術と公知のカードポイントシステム(原判決九二頁七行目から九三頁九行目まで)とを組み合せることが、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、容易に想到し得るものとはいえないと主張するが、カードポイントシステムにおける累計ポイントの最新更新年月日に相当するものが、クレジットカードにおいては最新使用年月日に当たることは明らかであり、また、同号証記載の技術を公知のカードポイントシステムに適用することがPOSシステム又はPOS機器の製造販売業者にとって、容易に想到し得るものではないとする理由については具体性を欠き、控訴人の主張はいずれも採用することができない。
また、控訴人は、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであることを前提として、本件情報一の2が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たらない旨主張するが、右前提が失当であることは、前示(一)のとおりである。
(3) 本件情報一の3が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるものと認められることは、前示(右一の3の訂正後の原判決九五頁九行目から九八頁三行目まで)のとおりである。
控訴人は、乙第一一、第二二号証記載の技術と公知のカードポイントシステムとを結び付けることが、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、容易に想到し得るものとはいえないと主張するが、POSシステム又はPOS機器の製造販売業者に関して、その理由とすることは具体性を欠き、右主張を採用することはできない。
また、控訴人は、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであることを前提として、本件情報一の3が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たらない旨主張するが、右前提が失当であることは、前示(一)のとおりである。
(4) 本件情報二、七及び七の2が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるものと認められることは、前示(原判決九八頁七行目から一〇四頁末行まで)のとおりである。
控訴人は、乙第一二、第二六号証記載の技術と公知のカードポイントシステムとを結び付けることが、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、容易に想到し得るものとはいえないと主張し、また、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであることを前提として、本件情報二、七及び七の2が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たらない旨主張するが、いずれの主張も採用できないことは、右(3)と同様である。
(5) 本件情報三及び八が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるものと認められることは、前示(原判決一〇五頁三行目から一一五頁六行目まで)のとおりである。
控訴人は、乙第一三、第一四号証、第三一ないし第三五号証記載の各技術と公知のカードポイントシステムとを結び付けることが、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、容易に想到し得るものとはいえないと主張し、また、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであることを前提として、本件情報三及び八が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たらない旨主張するが、いずれの主張も採用できないことは、右(3)と同様である。
(6) 本件情報五及び九が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるものと認められることは、前示(原判決一一八頁二行目から九行目まで)のとおりである。
控訴人は、カードポイントシステムにおいて、購入と関係のない累計ポイントの加減算は、誤操作の可能性があるから必要なのではなく、信頼性確保のうえでは、このような加減算をしないことが原則であるが、顧客へのきめ細かい対応が可能となるシステムとして、累計ポイントに加減算を行うよう結合することが必要となるのであり、このような結合は、一般人やPOS端末機製造販売業者において容易に想到し得るものではないと主張するが、誤操作に対する対処を挙げたことが単なる例示であって、控訴人主張のような必要性を排除する趣旨ではないこと、また、誤操作に対する対処としても購入と関係のない累計ポイントの加減算が必要であることは、いずれも明らかである。そして、右のような必要性のため、累計ポイントに購入と関係のない加減算ができるようしておくことは、POSシステム又はPOS機器の製造販売業者にとって容易に想到し得るものと解すべきであり、控訴人の右主張は採用できない。
また、控訴人は、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであるとして、本件情報五及び九が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たらない旨主張するが、右前提自体が失当であることは前示(一)のとおりであるのみならず、右のような累計ポイントに購入と関係のない加減算ができるようしておくことは、前示公知のカードポイントシステムそのものにおいても、ありふれた技術であると認められるから、控訴人の右主張も採用することができない。
(7) 本件情報六が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるものと認められることは、前示(原判決一一九頁二行目から一二〇頁一行目まで)のとおりである。
控訴人は、バッチ処理やバックアップのようなコンピュータ上の技術処理と、売上時、返品処理時、ポイント強制処理時、ポイント発券処理時に、カード番号などとともに磁気カードに書き込んだ累計ポイントをホストコンピュータに送信するということとを結合させることは、一般人やPOS端末機製造販売業者において容易に想到し得るものではないと主張するが、該主張に係るバックアップ処理の時期や対象となる情報が、カードポイントシステムにおいて、格別のものとは到底認められず、POSシステム又はPOS機器の製造販売業者にとって容易に想到し得るものと解すべきであり、控訴人の右主張は採用できない。
また、控訴人は、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであることを前提として、本件情報六が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たらない旨主張するが、右前提自体が失当であることは、前示(一)のとおりである。
(8) 本件情報一〇が本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たるものと認められることは、前示(原判決一二〇頁五行目から一二一頁九行目まで)のとおりである。
控訴人は、乙第一六号証記載の技術と公知のカードポイントシステムとを結合させることが、一般人やPOS端末機製造販売業者にとって、容易に想到し得るものとはいえないと主張するが、POSシステム又はPOS機器の製造販売業者に関して、その理由とすることは具体性を欠き、右主張を採用することはできない。
また、控訴人は、公知情報から容易に想到し得る情報であっても、その推考に時間と費用を要することがないか、又は企業間で秘密の取扱いがなされていないと判断される場合に限って、公知の情報に含まれると解すべきであることを前提として、本件情報一〇が、本件契約第5条1項但書Aの「公知または公用の情報」に当たらない旨主張するが、右前提自体が失当であることは、前示(一)のとおりである。なお、この点に関して、控訴人は、バックアップ用ポイントファイル情報への照会・結果の印字を可能とすることが、格別の意義を有するかのように主張するが、そのような構成の技術的意義を明らかにする証拠はなく、そうであれば、
右(原判決一二一頁三行目の「また、」から七行目の「ものである。」まで)のとおり、磁気カードに書き込まれている情報の照会に代わるもので、該照会と同趣旨のものと解するのが相当であり、取り立てて格別のものと認めることはできない。
(9) したがって、控訴人が、本件情報一ないし一〇について、原判決の判断の誤りと主張する点は、いずれも理由がない。
2 争点2(被控訴人に本件契約第8条に違反する行為があったか)について 控訴人は、本件契約につき、控訴人が被控訴人に対し、POS端末機製造のために必要な特許権・実用新案権等の工業所有権(出願中の権利を含む。)その他のノウハウを開示し、その使用を導入先(金市舘)に限定して許諾するノウハウの実施許諾(ライセンス)契約と、製造されたPOS端末機を導入先にのみ限定して販売することを許諾する販売許諾契約とから構成される契約であるとしたうえで、本件契約8条の趣旨内容に関し、控訴人・被控訴人間において、右POS端末機製造のために必要な特許権・実用新案権等の工業所有権(出願中の権利を含む。)の使用を導入先(金市舘)以外に対しては禁止し、対世的効力をもつ特許権又は実用新案権と同内容の拘束を契約によりもたせて、これを「出願する権利」と規定し、開示機密情報を含むノウハウを保護しようとしたものであると主張するが、本件契約を、特許権等、いわゆる工業所有権の実施許諾契約に対応するようなノウハウの実施許諾を内容とするものと解することができないことは、前示1の(一)のとおりであるのみならず、本件契約8条の趣旨内容は、前記(原判決一二二頁四行目から一二三頁五行目まで)のように解されるものであり、この点についての右控訴人の主張、並びに該主張を前提とし、原判決別紙工業所有権出願目録記載一、二の特許出願及び同三記載の実用新案登録出願が本件契約8条の対象となる旨の主張は、同条の文言から到底導き得ないものであることが明白である。
したがって、控訴人の右主張は失当である。
三 以上によれば、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法61条67条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官 清水節