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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ101特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
平成8ワ1635特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ26599特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  製造方法 /  使用方法 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  時効 /  援用権(援用) /  出願経過 /  参酌 /  意識的除外(意識的に除外) /  実施 /  権原 /  社会通念 /  加工 /  交換 /  間接侵害 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 1650号 特許権侵害差止等請求事件
原告 ベーテーゲーエクレパンズ ソシエテ アノニム
訴訟代理人弁護士 関根秀太
同 佐々木 俊夫
補佐人弁理士 浜田治雄
被告 正久エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 国谷史朗
同 茂木鉄平
同 重冨貴光
同 鈴木健司
同 平野和宏
補佐人弁理士 小谷悦司
同 植木久一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/05/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録1記載の各セラミックブレード(後記イ号ないしハ号物件)を製造し,販売してはならない。
2 被告は,前項記載の各セラミックブレード及びその仕掛品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金2億3313万3625円及びこれに対する平成13年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 原告は被告に対し, (1) 間接侵害 ア 被告は,別紙物件目録1記載の各セラミックブレード(イ号ないしハ号物件,以下これらを総称して「イ号ないしハ号物件」という。)を製造,販売する。
イ 購入者が使用を継続することにより,別紙物件目録2記載のセラミックブレード(ニ号物件)が示す形状となるが,ニ号物件は,本件発明の構成要件のすべてを充足し,特許法(以下「法」という。)101条1号所定の本件発明に係る物に該当する。
ウ したがって,イ号ないしハ号物件を製造,販売する被告の行為は,ニ号物件の生産にのみ使用する物の生産,譲渡行為に当たるので,本件特許権の間接侵害行為に該当する。
(2) 共同不法行為 ア ニ号物件を使用する購入者の行為は,本件特許権を侵害する。
イ したがって,イないしハ号物件を製造,販売する被告の行為は,共同不法行為を構成する。
と主張して,請求欄記載の判決を求めた。
2 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,請求項1の発明を「本件発明」という。)を有している。
(ア) 発明の名称 連続紙ウェブに被覆剤を調節塗布しかつ均すためのドクターブレード (イ) 出願日 昭和58年10月12日 (ウ) 登録日 平成9年4月25日 (エ) 特許番号 第2128843号 (オ) 特許請求の範囲 別紙「特許公報」写しの「特許請求の範囲」請求項1に記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件 本件明細書の「特許請求の範囲」の記載を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A 走行紙ウエブに被覆剤を調節塗布しかつ均すためのドクターブレードにおいて B ブレードは,0.7oもしくはそれ以下の肉厚を有する可撓性の鋼片からなり, C その作用域に鋼片の肉厚より薄くかつ鋼ブレードよりも耐摩耗性の大きいセラミック材料の表面被覆が(「を」と記載されているが誤記と認められる。)最高0.25oの全厚さを有する層で構成され, D かつ前記セラミック材料層が,熔融状態にて噴霧により順次の工程で次々と塗布された複数層のセラミック材料層として構成されてなること E を特徴とするドクターブレード。
(3) 被告の行為 被告は,業として,イ号ないしハ号物件を製造販売している。
(4) 構成要件A,B,D,Eの充足性 ア イ号ないしハ号物件の後記構成@,A,C,Dは,それぞれ,本件発明の構成要件A,B,D,Eを充足する。
イ イ号ないしハ号物件の構成Bは,いずれも,その係合端のセラミック表面被覆厚が0.25oを超えて製作されている。そして,係合端とは本件発明の構成要件Cにおける作用域に該当するから,作用域におけるセラミック表面被覆厚は0.25oを超え,構成要件Cを文言上充足していない。
3 争点及び当事者の主張 (1) イ号ないしハ号物件の構成 (原告の主張) イ号ないしハ号物件は,別紙物件目録1記載のとおりであり,その構成は以下のとおりである(別紙物件目録1及びその構成中の争いのある部分には下線を付した。)。
@ 「物件目録1」の第1図の全体形状を有し,断面A-A'が第2図の1,第3図の1,及び第4図の1に示す形状を有する,連続紙ウエブに被覆剤を調節塗布しかつ均すためのブレードである。
A 鋼ブレード材料1は,第2図の1,第3図の1及び第4図の1に示す主面2及び3を有する0.7o以下の肉厚を有する可撓性の鋼片からなっているとともに,斜面10を形成している。
B ヒール部9から係合端8に至るまで,鋼ブレード材料1 よりも耐摩耗性の大きいセラミック材料によって,0.525oないし0.313oの厚さを有する層で表面被覆5がなされており,その表面被覆は,第2図の2,第3図の2及び第4図の2に示された形状寸法を有している 。
C 前記表面被覆5は,1回ごとには極めて薄いセラミック溶射層を多数積み重ねることによって形成され,所望の形状となるように,または表面形状をならす目的で必要に応じ研磨されて成るセラミック層として構成されている。
D 以上を特徴とするセラミックブレードである。
(被告の反論) イ号ないしハ号物件の構成B,Cは,以下のとおりである。その他の主張部分(別紙の図面を含む。)は認める。
B ヒール部9から係合端8にかけて,鋼ブレードよりも耐摩耗性の大きいセラミック材料によって,0.525oないし0.313oの厚さ(イ号物件にあっては第2図中a〜c〜b部分,ロ号物件にあっては第2図中a〜c〜b部分,ハ号物件にあっては第2図中e〜a〜c〜b部分の厚さ) を有する層で表面被覆5がなされている。なお,イ号ないしハ号物件は,いずれも紙ウエブの幅方向においては,被覆層の厚さは図示A-A'断面形状を保持しており略均一である。
C 前記表面被覆5は,1回ごとには極めて薄いセラミック溶射層を多数回(約60〜80回) 積み重ねることによって比較的厚いセラミック材料層を積層体として形成した後 ,所望の形状となるように,又表面をならす目的で研磨して,最終的には約40〜60層の セラミック層からなる。
(2) ニ号物件の構成 (原告の主張) 原告からイ号ないしハ号物件を購入した者が,セラミックブレードとして使用を継続するとニ号物件となる。ニ号物件は,別紙物件目録2記載のとおりであり,その構成は以下のとおりである。
@ ベベル表面4の一部または全部の形状を除いて,別紙物件目録2の第1図の全体形状を有し,断面A-A'が概ね(模式的に)第5図の1に示す形状を有する,走行紙ウエブに被覆剤を調節塗布しかつ均すためのブレードである。
A 鋼ブレード材料1は,第5図の1に示す平行な対向する主面2及び3を有する0.7o以下の肉厚を持つ可撓性の鋼片からなっているとともに,斜面10を形成している。
B ヒール部9から係合端8に至るまで,鋼ブレード材料1よりも耐摩耗性の大きいセラミック材料によって,概ね0.382oないし0oの層で表面被覆5がなされており,その表面被覆は,第5図の2ないし第5図の6に示された形状寸法を有している。
C 前記セラミック表面被覆は,1回ごとには極めて薄いセラミック溶射層を多数積み重ねることによって形成され,所望の形状となるように,または表面形状をならす目的で必要に応じ研磨されて成るセラミック層として構成されていたが,ブレードとして使用した結果,前記Bの形状寸法を有するに至った。
D 以上を特徴とするセラミックブレードである。
(被告の反論) ニ号物件は,どのような操業条件で,どの程度の時間使用したものかも明確でない。イ号ないしハ号物件のすべてが,使用によってニ号物件のような形状になるわけでもない。
(3) 間接侵害の成否 (原告の主張) ア イ号ないしハ号物件を被告から購入した者が,ドクターブレードとして使用すると,そのセラミック表面被覆が摩耗して,その厚さが減じることによって,ニ号物件で示されている形状となる。
ニ号物件の構成Bにおいては,下流側の係合端におけるセラミック表面被覆厚が0o〜0.136oであり,係合端における表面被覆厚が,0.25o以下であるから,ニ号物件の構成Bは,構成要件Cを充足する。
以上のとおり,ニ号物件は,本件発明の構成要件のすべてを充足し,法101条1号所定の本件発明に係る物に該当する。
イ イ号ないしハ号物件を製造,販売する被告の行為は,以下のとおりの理由から,ニ号物件の生産にのみ使用する物の生産,譲渡行為に当たるので,本件特許権の間接侵害行為に該当する。すなわち, (ア) イ号ないしハ号物件は,ドクターブレードとして使用されることにより,常に係合端におけるセラミック表面被覆に摩耗を招来し,その結果,使用中に本件発明の構成要件Cを充足し,その後も引き続き本件発明の実施品として使用されることになるのであるから,イ号ないしハ号物件は,本件発明に係る物の「生産」に使用する物といえる。
(イ) イ号ないしハ号物件は,ドクターブレードとしての使用方法以外に社会通念上経済的,商業的ないしは実用的な用途は存在しない。したがって,イ号ないしハ号物件は,本件発明に係る物を「生産」するためにのみ使用する物に当たると解すべきである。
(被告の反論) ア ニ号物件は,購入者がイ号ないしハ号物件を使用することによって,ニ号物件のような形状になるわけでもない。したがって,法101条1号所定の本件発明に係る物に当たらない。
イ 購入者は,ニ号物件を生産していない。すなわち,購入者は,セラミックの表面被覆の厚さを0.313o以上0.525oとし,これによりブレードの使用寿命を一層長くすることを可能にした被告製品の提供を受け,当該製品を,そのまま完成品としてその本来の用法に従って使用しているにすぎない。
ウ 出願経緯を参酌した本件発明の構成要件Cの意義(意識的除外)について検討すれば,上記の点は明らかである。
本件発明の出願当初の明細書には,請求項11として「耐摩耗性被覆の全厚さが0.35o以下であることを特徴とする特許請求の範囲第1項ないし第10項記載のスクレーパ。」が記載されていた。
さらに,本件発明の出願当初の明細書中の「発明の詳細な説明」欄には「本発明による被覆5は最大0.25oの全厚さと0.02oの最小厚さとを有し,金属噴霧により順次に塗布された何層かの部分層で構成され,この場合各部分層はたとえば0.002〜0.030oの厚さを有する。或る場合には,特に被覆領域が広過ぎなければ,約0.35oの全厚さを有する若干厚い被覆を施して極めて高い耐摩耗性を得ることもできる。」と記載されていた。
ところが,原告は,昭和58年11月24日付け手続補正書によって,出願当初の明細書における「耐摩耗性被覆の全厚さが0.35o以下である」との記載について,請求項を含め明細書から全文を削除して自ら放棄し,さらに平成4年5月1日付け手続補正書において請求項1に「最高0.25oの全厚さ」なる構成要件を付加することにより,「0.25o以下」として,当初の0.35o〜0.25oの被覆層を有するドクターブレードを本件発明の技術的範囲から意識的に除外した。
以上述べた出願経過からすれば,被告が製造販売する,セラミック被覆層の厚さが「最高0.25oの全厚さ」を超えるセラミックブレードについて,購入者が本来の用途に従った使用の仕方をした結果,本件発明の構成要件Cを充足するから,間接侵害である旨を主張することは,許されない。
(4) 共同不法行為の成否 (原告の主張-予備的主張) ア 本件特許権の侵害 購入者が,原告からイ号ないしハ号物件を購入した後,塗工紙用のドクターブレードとして使用することによりそのセラミック表面被覆が摩耗し,セラミック材料の表面被覆が最高0.25oの全厚さを有するに至った場合には,本件特許権を侵害する。
被告は,イ号ないしハ号物件を製造販売しているので,被告の当該行為は上記の権利侵害を幇助する行為である。
イ 故意 Rは,原告の元従業員であり,セラミックコーティングブレードの開発を担当した技術者であるが,平成6年,競争会社に対し原告の企業秘密等を不正に漏洩したことを理由として解雇された。
被告は,平成3年12月及び平成7年に,原告の工場の当時の責任者であり,その後原告を解雇されたRと面談している。Rは,これらの面談の過程で,被告に対し,セラミック噴霧のプラズマ装置から研削機械に至るまで機械を供給する提案をし,セラミックコーティングブレードの製造方法及びそのノウハウのすべてを熟知していると述べている。
原告は,平成7年9月,代理人を通じて,被告に対して,被告がRと面談して,機密漏洩に関与することについて警告を発し,Rから受け取った書類等を開示するよう要請をしたが,被告はこれに応じていない。
上記の事実から,被告は原告のセラミックコーティングブレードに強い関心を持ち,その技術及びノウハウを原告から取得したことは明らかである。被告は,イ号ないしハ号物件を製造,販売することが本件特許権を侵害することを認識していたといえる。
(被告の認否) 原告の主張は争う。
(5) 損害額 (原告の主張) ア 被告は,本件発明の出願公告がされた後である平成10年2月1日から,平成13年1月31日までの間にイ号ないしハ号物件を1メートル当たり平均単価1万5000円で販売した。その合計売上額は7億7710万8750円である。
イ 上記の期間における被告の利益率は,30パーセントを下らない。
したがって被告の得た利益は,少なくとも2億3313万3625円である。
(被告の認否) 原告の主張は争う。
被告は,原告の共同不法行為に基づく損害賠償の請求について消滅時効援用する。すなわち,原告は,被告に対し,平成9年8月5日付けで本件特許権の侵害警告しているから,原告は,同日以前に被告によるイ号ないしハ号物件の製造販売の事実を知っていたはずである。原告は,平成14年3月5日の口頭弁論期日においてはじめて,上記共同不法行為に基づく損害賠償請求の主張を追加した。
平成11年2月18日以前に原告がイ号ないしハ号物件を販売したことによる損害賠償請求権については,既に時効により消滅したので,被告は,これを援用する。
争点に対する判断
1 間接侵害の成否 (1) 法101条1号について 原告は,被告が製造,販売をするイ号ないしハ号物件は,ヒール部9から係合端8にかけての,セラミック被覆の厚さが,0.525oないし0.313oであって,「セラミック材料の表面被覆が最高0.25oの全厚さを有する層で構成される」とする構成要件Cを充足しないが,@購入者がイ号ないしハ号物件の使用を継続することにより,ニ号物件が示す形状となり,ニ号物件は,本件発明の構成要件のすべてを充足し,特許法101条1号所定の本件発明に係る物に該当するので,Aイ号ないしハ号物件を製造,販売する被告の行為は,ニ号物件の生産にのみ使用する物の生産,譲渡行為に当たり,本件特許権の間接侵害行為を構成すると主張する。
以下,この点につき検討する。
101条1号は,特許が物の発明についてされている場合において,業として,その物の生産にのみ使用する物を生産,譲渡するなどの行為を特許権を侵害(いわゆる間接侵害)するものとみなしている。同号の趣旨は,次のとおりである。すなわち,甲が発明の構成要件を充足しない物を製造,販売するなどの行為をすることは特許権侵害を構成しないが,その物の譲渡を受けた乙において,その物を使用して,発明の構成要件を充足する物を生産するなどの行為に及ぶことが特許権侵害を構成するようなときには,将来における特許権侵害に対する救済の実効性を高めるために,一定の要件の下で,その準備段階である甲の行為について,特許権を侵害するものとみなした。そうすると,同号にいう,乙が行う「その物の生産」とは,「その物の生産又は使用」などと規定されていないことに照らすならば,供給を受けた「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為を指すと解すべきであり,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないと解するのが相当である。
(2) 具体的検討 これを本件についてみると,被告からの購入者が,被告から供給を受けた「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を「生産」していると認めることはできない。その理由は以下のとおりである。
ア まず,被告は,セラミックの表面被覆の厚さを0.313o以上0.525oとし,これによりブレードの使用寿命を一層長くすることを可能にした特性を有する製品(イ号ないしハ号物件)を顧客に提供し,顧客は,当該製品を,その特性を生かして,その本来の用法に従って使用している。
購入者は,イ号ないしハ号物件を購入した後,使用を継続する。セラミックの表面被覆は,摩耗して薄くなることもあり得ようが,これは通常の用途に従った利用行為の結果であるから,このような購入者の行為を,社会通念上,物を生産している行為ということはできない。
以上のとおり,購入者は,本件発明の構成要件のすべてを充足する物を「生産」しているとはいえないから,イ号ないしハ号物件を製造販売する被告の行為は,本件発明の間接侵害を構成しない。
イ のみならず,ニ号物件についても,以下のとおり,@必ずしも,本件発明の構成要件Cを充足すると解することはできず,Aどのような操業条件で,どの程度の時間使用したものかも明確でないので,法101条1号所定の,本件発明に係る「物」ということもできない。すなわち, (ア) 本件発明の構成要件Cは,「セラミック材料の表面被覆が最高0.25oの全厚さを有する層で構成され」と記載されている。なお,「全厚さ」とは,セラミック表面被覆のうち,作用域における厚さを,鋼ブレード材料に直角方向に測定した場合の距離を指し,明細書の「発明の詳細な説明」を参酌すれば,セラミック表面被覆の「長さ方向」及び「幅方向」の両者における全厚さを指すものというべきである。また,「作用域」については,本件明細書中に,格別の定義はされていないので,用語の通常有する意味及び当業者の技術常識に基づいて判断すると,紙ウエブと係合し,セラミック材料層で構成されている部分を含む領域を指すものと解するのが相当である。
これに対して,ニ号物件においては,作用域におけるセラミック表面被覆の全厚さが上記数値未満であることを満たさないものが少なからず存する(別紙物件目録2第5図の3ないし6参照)。そうすると,別紙物件目録2の第5図の3ないし6において,セラミック被覆の厚さは,係合端8(上記各図のb部分)以外の場所においては,いずれも0.25oを超えており,これらはいずれも作用域であると認められるから,全厚さが最高0.25oであるという要件を充足しないというべきである。
(イ) 別紙物件目録2の第5図の2は,作用域における表面被覆の測定値において,0.25oを超えることが明確に示されていない(実物の断面写真として甲16。なお,同写真でも,e部分における表面被覆の厚さが0.376oであるところからすると,作用域におけるセラミック被覆の厚さが0.25oを超える部分がないとまでは確定できない。)。しかし,係合端の先から鋼ブレード材料が露出していること,また,塗工紙用ブレードの説明として,「セラミックと鋼では,紙に与える特性が異なるため,鋼が露出してしまうと,ブレードは交換しなくてはなりません。」と記載されていること(甲6)に照らすならば,イ号ないしハ号物件の購入者が,ドクターブレードとして,どのような方法で使用すると,上記の形状を呈するに至るかは不明である。
ウ さらに,被告からの購入者が,イ号ないしハ号物件を,僅かに使用するだけで,本件発明の構成要件のすべてを充足する物に変形することができるような場合には,イ号ないしハ号物件は,本件発明を侵害ないし間接侵害すると解する余地がなくはない。そこで,念のため,この点も検討する。
前記のとおり,@被告が製造,販売をするイ号ないしハ号物件は,そのセラミック被覆の厚さが,0.525oないし0.313oであって,本件発明の構成要件Cの「表面被覆が最高0.25oの全厚さを有する」と比較しても,被覆の厚さが大きく異なること,A本件発明の構成要件Cは,出願当初の明細書における「耐摩耗性被覆の全厚さが0.35o以下である」との記載を,手続補正書において「最高0.25oの全厚さ」なる構成要件を付加して限定した経緯が存すること等からすれば,イ号ないしハ号物件は,購入者が僅かに使用するだけで,本件発明の構成要件のすべてを充足する物に変形させることができる性質を有する製品であるということもできない。
2 共同不法行為の成否 前記1で認定したとおり,イ号ないしハ号物件の購入者は,本件発明の技術的範囲に属しないイ号ないしハ号物件を,本来製品として予定された態様で使用しているにすぎず,その使用態様は本件発明の実施ということはできず,不法行為を構成するものではない。したがって,イないしハ号物件を製造,販売する被告の行為は,共同不法行為ないし幇助行為に該当することはない。原告の主張は失当である。
結論
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。
追加
物件目録1本物件目録に示される被告の製造販売に係るセラミックブレードのうち,添付図面第2図の1及び2に示されるものをイ号物件,第3図の1及び2に示されるものをロ号物件,第4図の1及び2に示されるものをハ号物件という。
被告製品は,以下の説明と添付図面によって特定されるセラミックブレードである。
1図面の説明第1図:被告製品の全体斜視図(模式図)第2図の1,第3図の1及び第4図の1:それぞれ,イ号,ロ号及びハ号物件の断面図A-A'の形状第2図の2,第3図の2及び第4図の2:それぞれ,イ号,ロ号及びハ号物件の斜面における表面被覆の寸法2図面の符号1鋼ブレード材料2,3主面4ベベル表面5表面被覆6移動方向7紙ウエブ8係合端9ヒール部10斜面11セラミックブレード12導入域(紙ウエブの1面が使用時に最初にブレードと接触する部分」物件目録2本物件目録は,被告の製造販売に係るセラミックブレードのうち使用開始後のニ号物件に関するものであり,以下の説明と添付図面によって特定される。
1図面の説明全体斜視図(第1図)に加え,以下の図面によってニ号物件を特定する。
第5図の1:ニ号物件の断面図A-A'の形状模式図第5図の2ないし第5図の6:ニ号物件の斜面における表面被覆の形状と寸法2図面の符号1鋼ブレード材料2,3主面4ベベル表面5表面被覆6移動方向7紙ウエブ8係合端9ヒール部10斜面11セラミックブレード12導入域
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 佐野信