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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ13121特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ12728特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ14710特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術的手段 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  対象製品 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  非容易 /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 8839号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社協和ロープ
訴訟代理人弁護士 大川宏
同 本山 信二郎
補佐人弁理士 林信之
同 片寄武彦
被告 株式会社正和リース
訴訟代理人弁護士 松本昭幸
同 日比谷 征彦
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,別紙目録記載の被覆ワイヤー・親綱ロープ兼用緊張機を製造,販売及び賃貸してはならない。
2 被告は,その本店及び工場において占有する前項記載の被覆ワイヤー・親綱ロープ兼用緊張機及びその半製品(別紙目録記載の構造を具備しているが,製品として完成していないもの)を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,395万9058円及びこれに対する平成14年5月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機の特許権を有する原告が,被告の製造販売等する被覆ワイヤー・親綱ロープ兼用緊張機は原告の特許発明技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,当該緊張機の製造・販売及び賃貸の差止め並びに損害賠償を求めている事案である。
1 前提となる事実(末尾に証拠番号を付した事実のほかは,当事者間で争いがない。) (1) 原告は,下記の特許権を有している(以下,この特許権を「本件特許権」という。)。
登録番号 第3232061号 発明の名称 合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機 出 願 日 平成11年3月26日 登 録 日 平成13年9月14日 (2) 本件特許権に係る明細書(平成13年8月8日付け手続補正書〔乙4〕による補正後のもの。以下,この明細書を「本件明細書」という。本判決末尾添付の本件特許権に係る特許公報〔甲2〕参照。なお,この特許公報を以下「本件公報」という。)における特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明1」という。)。
「平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成し,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」 (3) 本件明細書における特許請求の範囲の請求項2の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明2」といい,本件特許発明1及び本件特許発明2を総称して,「本件特許発明」という。)。
「ラチェットホイールの外側面に同軸にラチェット式レンチのソケットが嵌合するナットを固着したことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」 (4) 本件特許発明1の構成要件を分説すれば,下記AないしIのとおりである。また,本件特許発明2の構成要件を分説すれば,下記AないしJのとおりである(以下,分説した各構成要件を,その記号に従い「構成要件A」などという。なお,原告は,訴状において,下記構成要件AないしCを1つの構成要件とし,また,構成要件H及びIをも1つの構成要件として分説しているが,後記被告製品が本件特許発明技術的範囲に属するかどうかの判断とは直接関係がないので,便宜上,本判決においては,答弁書における被告の分説に従って,下記のとおり分説する。)。
A 平行する一対の側板と, B 前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と, C 前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと, D 前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成し, E 前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと, F 前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと, G 前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと, H 前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と, I を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機 J ラチェットホイールの外側面に同軸にラチェット式レンチのソケットが嵌合するナットを固着したこと (5) 被告は,平成13年9月から,別紙目録記載の被覆ワイヤー・親綱ロープ兼用緊張機(以下「被告製品」という。)を製造,販売及び賃貸している。
(6) 被告製品の具体的な構成を,本件特許発明構成要件との対比に必要な限度で,前記(4)の分説に即して記載すれば,下記aないしjのとおりである(検甲1及び2,甲3及び弁論の全趣旨。なお,下記の各構成を,その記号に従い以下「被告製品構成a」などという。)。
a 平行する一対の側板と, b 前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と, c 前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設した角形部材と, d 前記貫通孔の開口端における周縁に面取りを形成し, e 前記角形部材と同軸に固定されたラチェットホイールと, f 前記ラチェットホイールと歯合して,前記角形部材の回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと, g 前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと, h 前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と, i を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機 j ラチェットホイールの外側面に同軸にラチェット式レンチのソケットが嵌合するナットを固着したこと (7) 被告製品は,構成要件A,B及びGないしJをいずれも充足する。
(8) 被告製品の具体的構成において,構成要件と文言上相違するのは,本件特許発明においては,合成樹脂被覆ワイヤーを巻き取る部材が「ドラム」(構成要件C)であるのに対し,被告製品においては「角形部材」(被告製品構成c)である点(以下「相違点1」という。),及び,本件特許発明においては,「貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成」(構成要件D)するものとされているのに対し,被告製品においては,「貫通孔の開口端における周縁に面取りを形成」(被告製品構成d)している点(以下「相違点2」という。)の2点である。
2 争点 原告は,相違点1につき,被告製品における角形部材は「ドラム」(構成要件C)に該当すると主張するとともに,相違点2については,いわゆる均等論(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)の適用により,被告製品は本件特許発明技術的範囲に属すると解することができる旨主張している。
これに対し,被告は,原告の上記主張をいずれも争っている。したがって,本件における争点は,次の2点である。
(1) 被告製品における角形部材(被告製品構成c)が,構成要件Cの「ドラム」に該当するか(争点1)。
(2) 被告製品は,上記相違点2の存在にかかわらず,本件特許発明の構成と均等なものとして,本件特許発明技術的範囲に属するか(争点2)。
争点に関する当事者の主張
1 争点1について (原告の主張) 本件特許発明の技術分野においては,軸の断面形状にかかわらず,巻き取り部材のことを一般にドラムと呼称するものであり,そのことは,当該技術分野における複数の出願例(甲17ないし20)に照らして,周知自明の事柄である。本件明細書においては,「ドラム」(構成要件C)の一実施形態として,円柱状のものが記載されているが,上記のように,当該技術分野において,巻き取り部材のことを一般にドラムと呼称する以上,この記載が,「ドラム」を,円柱状の形状のものに限定するものでないことは明らかである。
また,被告会社の発行する被告製品のカタログ(甲3)2頁目には,「取り付けた緊張機に被覆ワイヤー(親綱ロープ)の先端をドラムの穴に挿入します。‥‥‥この時,被覆ワイヤー(親綱ロープ)の先端と巻き取りドラムの間は最低50cmぐらいの余裕をもってください。」との記載があり,かかる記載からすれば,被告自身が,本件特許発明の技術分野においては,巻き取る部材をドラムと呼称すること,したがって,被告製品における角形部材も構成要件Cの「ドラム」に該当することを認めているというべきである。
上記によれば,被告製品における角形部材は,構成要件Cの「ドラム」に該当する。
(被告の主張) 被告製品における角形部材が構成要件Cの「ドラム」に該当する旨の,原告の上記主張は,否認する。
通常の用語例(乙9ないし12参照)に照らせば,「ドラム」とは,円柱状のものを意味し,これに限定されると解される。現に,本件明細書及び図面において開示されているのは,すべて円柱状の巻き取り部材であり,これ以外の形状のものを含むと解する根拠となる記載も示唆もない。さらに,円柱状のドラムにおいては,一定径の円柱体によりワイヤーを巻き取ることから,巻き取り角度にかかわらず巻き取るモーメントは常に同じ方向に働くのに対し,角形部材を巻き取り部材として用いると,その回転角によってモーメントは正弦波状に異なるので,巻き取る力に緩急をつけることができ,また,巻き取り角度によっては,ほとんど力を要せずにワイヤーの緊張を維持することができる。このように,被告製品においては,角形部材を採用したことにより,円柱状のドラムによっては得られない作用効果を奏することができる。
以上によれば,被告製品における角形部材は,「ドラム」に該当しないというべきである。
2 争点2について (原告の主張) 相違点2は,以下に詳しく述べるとおり,前掲最高裁判決の判示する,いわゆる均等の5要件をすべて充たしており,被告製品は,本件特許発明技術的範囲均等の範囲内にある。
(1) 均等の要件1(非本質的部分であること)について ア 発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば,特許発明の構成と対象製品の構成との相違部分が,当該発明の本質的部分に係るものであるかどうかを判断するにあたっては,単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく,特許発明先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から,判断すべきものである。
イ そこで,まず,本件特許発明先行技術とを対比して課題の解決手段における特徴的原理を検討する。
本件特許発明については,平成13年7月12日付け拒絶理由通知書(乙3)において引用された,公開実用新案公報(乙1。実開昭60-139946号)及び実用新案公報(乙2。実公平2-17235号)に開示された各考案(以下,それぞれ「先行技術1」及び「先行技術2」という。)が,対比すべき先行技術であるところ,先行技術1は,平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取り付ける孔と,前記側板に回転自在に設けられたステンレスワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記ステンレスワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングを有して構成されたワイヤーの緊張機に関するものである。また,先行技術2は,ラチェットをラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置を有して構成されたワイヤーの緊張機に関するものである。
本件特許発明においては,ドラムの貫通孔に合成樹脂被覆ワイヤーの一端を挿入して引っ張り,ある程度緊張させた後,ドラムを巻き取り方向に回転させると,上記ワイヤーは貫通孔の前後の開口端に支持され,巻き取り方向の開口端の端部で巻き取り方向に屈曲して自動的にドラムに巻き付き,その巻き付く力によって同ワイヤーの被覆層がエッジに食い込み状態に引っかかり,ドラムを1回程度回転させたところで所定の緊張状態となる。その後は,ラチェットホイールとラチェットを歯合させ,巻き取り軸であるドラムが逆回転することを阻止するとともに,上記ワイヤーの被覆層がエッジに食い込み状態に引っかかることにより,同ワイヤーの滑りによる緩みを防止して,緊張状態を保持する。その一方で,同ワイヤーを緊張機から分離する場合には,ラチェットをラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングに抗し,歯合を解除状態に保持する解除装置を用いることにより,巻き取り軸であるドラムを巻き戻し方向に回転させ,容易に分離することができる。
これに対し,先行技術1は,合成樹脂被覆層で覆われていない,表面の硬いステンレスワイヤーの一端をドラムの貫通孔に挿入して結束固定した後,ステンレスワイヤーが所定の緊張状態になるまでドラムを巻き取り方向に回転させて同ワイヤーを巻き取り,ラチェットホイールとラチェットとの歯合により,ドラムの逆回転を阻止して長期間緊張状態を保持する。その一方で,傷んだステンレスワイヤーの交換のため,同ワイヤーを分離する場合には,ドラムを巻き戻し方向に回転して同ワイヤーを巻き戻し,上記結束固定を解除して初めて緊張機から分離することができる。
したがって,本件特許発明の作用効果と,先行技術1の作用効果は,大きく異なるものである。
また,先行技術2も,合成樹脂被覆層で覆われていない,表面の硬いワイヤーを巻き取り軸に固定し,ワイヤーを巻き取って緊張させるものであるから,その作用効果は,本件特許発明のそれとは大きく異なる。
ウ このような,本件特許発明の作用効果と,先行技術1及び2の各作用効果との大きな差異は,ドラムに設けられた貫通孔とエッジにより,もたらされるものである。
すなわち,合成樹脂被覆ワイヤーは,ドラムが巻き取り方向に回転を開始する際,いったん,貫通孔における前後の開口端の外周方向中央部により若干斜めに支持された状態となり,回転が進むにつれ,同中央部により自動的に屈曲する形になって,ドラムにスムーズに巻き取られていく。もし貫通孔がなければ,仮にドラムの形状が角形であっても,合成樹脂被覆ワイヤーの端部をドラムの軸に複数回巻き付けて引っ張らない限り,ワイヤーをうまくドラムに巻き取ることができず,先行技術1のように,ワイヤーをドラムに結束固定するものと,作用効果において大差がなくなる。このように,ドラムに穿設された貫通孔の存在によって,合成樹脂被覆ワイヤーの一端を挿通し,ある程度緊張させた後の巻き取りが,スムーズになるのである。また,本件特許発明においては,従来技術と異なり,合成樹脂被覆ワイヤーの端部がドラムに固定されていないので,ワイヤー端部の固定によりドラムの逆回転を防止することはできないが,ドラムに形成されるエッジが,合成樹脂被覆ワイヤーの被覆層に食い込み状態で引っかかり,摩擦係合することにより,ラチェットホイールとラチェットの歯合と相まって,ドラムの巻き戻し方向への逆回転を阻止し,1〜2回の巻き取りでワイヤーを緊張状態に保持することを可能にする。このような作用効果は,エッジの形成それ自体によってもたらされるものであり,エッジの形成箇所により効果が左右されるものではない。
エ 以上からすれば,本件特許発明先行技術にはない作用効果を奏するための特徴的原理は,合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向にのみ規制するラチェットと,合成樹脂被覆ワイヤー巻き取り時に,同ワイヤーの被覆層が食い込み状態に引っかかるエッジをドラムに備えることであり,かかる構成こそが,本件特許発明の本質的部分である。
したがって,相違点2,すなわち,本件特許発明においては,「貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成」(構成要件D)するものとされているのに対し,被告製品においては,「貫通孔の開口端における周縁に面取りを形成」(被告製品構成d)しており,同製品が構成要件Dの構成を具備しない点は,本件特許発明技術的範囲を画するに際し,本質的な部分ではない。
よって,相違点2は,均等の要件1(非本質的部分であること)を充足する。
(2) 均等の要件2(置換可能性)について 前述のとおり,本件特許発明における「ドラム」(構成要件C)とは,被告製品における角形部材をも含む概念であるところ,ワイヤーを巻き取るための部材であるドラムを角形の部材にすれば,ワイヤーの合成樹脂被覆層を食い込み状態で引っかけるためのエッジの形成箇所が増え,その形成箇所の選択の余地が広がることは自明の事柄である。
そして,被告製品のように,巻き取り部材(ドラム)として角形部材を採用し,同部材の外周角部分をエッジとして機能させる構成を採用しても,本件特許発明同一の作用効果を奏することができる。すなわち,被告製品においては,角形部材の貫通孔に合成樹脂被覆ワイヤーの一端を挿入して引っ張り,ある程度緊張させた後,角形部材を巻き取り方向に回転させると,上記ワイヤーは貫通孔の前後の開口端における外周中央部によって支持され,巻き取り方向の開口端の端部で巻き取り方向に屈曲して自然に角形部材に巻き付き,その巻き付く力によって同ワイヤーの被覆層が角形部材の外周角部分に食い込み状態に引っかかり,同部材を2回程度回転させたところで所定の緊張状態となる。その後は,ラチェットホイールとラチェットを歯合させ,巻き取り軸である角形部材が逆回転することを阻止するとともに,上記ワイヤーの被覆層が上記外周角部分に食い込み状態に引っかかることにより,同ワイヤーの滑りによる緩みを防止して,緊張状態を保持する。その一方で,ワイヤーを緊張機から分離する場合には,ラチェットをラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングに抗し,歯合を解除状態に保持する解除装置を用いることにより,巻き取り軸である角形部材を巻き戻し方向に回転させ,容易に分離することができる。
以上によれば,本件特許発明における,「貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成」(構成要件D)する構成を,角形部材の「貫通孔の開口端における周縁に面取りを形成」(被告製品構成d)するものとし,角形部材の外周角部分を「エッジ」として機能させる構成にすることは,置換可能であり,かつ,置換しても同一の作用効果を有するものというべきである。
よって,被告製品は,均等の要件2(置換可能性)を充足する。
(3) 均等の要件3(容易想到性) 前記(2)で述べたとおり,本件特許発明における「ドラム」(構成要件C)とは,被告製品における角形部材をも含む概念であるところ,ワイヤーを巻き取るための部材であるドラムを角形の部材にすれば,貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向中央部,さらにドラムの外周角部分と,ワイヤーの合成樹脂被覆層を食い込み状態で引っかけるためのエッジの形成箇所が増えることは自明の事柄である。
また,増加したエッジ形成箇所を,本件特許発明における「エッジ」の機能に照らし,任意に選択可能であることも,また自明の事柄である。
よって,被告製品の製造時において,構成要件Dを被告製品dに置き換えることは,当業者にとって容易想到であり,被告製品は,均等の要件3(容易想到性)を充足する。
(4) 均等の要件4(公知技術からの非容易推考性)について 被告製品のように,ドラムと,ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,ラチェットホイールと歯合するラチェットと,合成樹脂被覆ワイヤーの被覆層が食い込み状態に引っかかるエッジをドラムに形成した合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機において,ドラムの軸に貫通孔を穿設し,その貫通孔の開口端の周縁を面取りする一方で,ドラムの外周角部分にエッジを形成する構成は,本件特許発明の特許出願時における公知技術と同一ではなく,また,その出願時に当業者が公知技術に基づいて容易に推考できたものでもない。
よって,被告製品は,均等の要件4(公知技術からの非容易推考性)を充足する。
(5) 均等の要件5(意識的に除外されたものでないこと)について 本件特許発明の特許出願に際して添付された当初の明細書(平成13年8月8日付け手続補正書〔乙4〕による補正前のもの。以下「当初明細書」という。)における,特許請求の範囲の請求項1の記載は,「平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」というものであり,同請求項2の記載は,「前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成したことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」というものであったところ,これらは,平成13年8月8日付け手続補正書(乙4)に基づく補正により,当初明細書における請求項2を請求項1に取り込む形で,「平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成し,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」(本件明細書における特許請求の範囲の請求項1)と補正された(以下,この補正を「本件補正」という。)。
巻き取り軸である「ドラム」の形状が円柱である場合,本件特許発明の本質的な作用効果(上記(1)参照)を奏するために必要なエッジは,ドラムに穿設された貫通孔の開口端の外周方向中央部に形成する以外にないから,上記補正は,このような場合における必然的な構成を明確にしたものにすぎず,ドラムが円柱以外の形状である場合に,上記以外の任意の場所にエッジを形成する構成を意識的に排除したものではないことは明らかである。
よって,被告製品は,均等の要件5(当該構成が,意識的に排除されたものではないこと)を充足する。
(6) 結論 以上のとおり,被告製品は,均等の要件1ないし5をすべて充たしており,したがって,本件特許発明の構成と均等なものとして,本件特許発明技術的範囲に属する。
(被告の主張) (1) 均等の要件1(非本質的部分であること)について 当初明細書における,特許請求の範囲の請求項1の記載は,「平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」というものであり,他方,同請求項2の記載は,「前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成したことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」という,構成要件Dと全く同一のものであった。しかるに,ラチェットを用いたワイヤーの緊張機は,本件特許発明の出願前から公知であったことから,いったん特許出願が拒絶され(乙3),上記請求項2(すなわち構成要件D)を請求項1にそのまま取り込んで本件補正がされたことにより,新規性進歩性の要件が充足されて,特許登録がされた経緯がある。
このような経緯に照らせば,構成要件Dこそが,本件特許発明の本質的部分というべきであり,そのことは,本件明細書における,「前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成したことにより」(すなわち,構成要件Dの構成を採用したことにより),「合成樹脂被覆ワイヤーの滑りによる弛緩をエッジによる引っかかりで防止すると共に,合成樹脂被覆ワイヤーの開口端での揺動による擦り切れ破損を防止するようにした。」(段落【0009】)との記載に照らしても,明らかである。
したがって,相違点2,すなわち,本件特許発明においては,「貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成」(構成要件D)するものとされているのに対し,被告製品においては,「貫通孔の開口端における周縁に面取りを形成」(被告製品構成d)しており,同製品が構成要件Dの構成を具備しない点が,本質的部分でないということはできない。
(2) 均等の要件2(置換可能性)について 本件特許発明は,構成要件Dの構成を具備することにより,前記のとおり,「合成樹脂被覆ワイヤーの滑りによる弛緩をエッジによる引っかかりで防止すると共に,合成樹脂被覆ワイヤーの開口端での揺動による擦り切れ破損を防止する」(本件明細書の段落【0009】)との作用効果を奏するものであるところ,被告製品は,かかる構成を有しないから,上記作用効果を奏することはない。
したがって,被告製品は,均等の要件2(置換可能性)を充足しない。
(3) 均等の要件3(容易想到性) 上述のとおり,相違点2が,本件特許発明の非本質的部分であるとはいえず(上記(1)),かつ,構成要件Dを具備しない被告製品が,これを被告製品構成dと置き換えても,本件特許発明同一の作用効果を奏することはない(上記(2))から,このように構成を置き換えることが,当業者にとって容易想到であったかどうかを論ずる意味はない。
(4) 均等の要件5(意識的に除外されたものでないこと)について 前記(1)で述べたとおり,当初明細書においては,特許請求の範囲の請求項1の記載は,「平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」というものであり,他方,同請求項2の記載は,「前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成したことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」という,構成要件Dと全く同一のものであったところ,いったん拒絶理由が通知され(乙3),上記請求項2(すなわち構成要件D)を請求項1にそのまま取り込む形で本件補正がされたことにより,本件特許発明が特許登録された経緯がある。
かかる経緯に照らし,構成要件Dを具備しないワイヤー緊張機が,本件特許発明技術的範囲から意識的に除外されたものであることは明らかというべきである。
しかるに,原告は,拒絶査定を免れるために加えた構成要件Dは,本件特許発明の本質的部分ではなく,また,かかる構成要件を具備しない構成のワイヤー緊張機が,同発明の技術的範囲から意識的に除外されたものでもないと,自らの発明の新規性進歩性を否定するかのごとき主張をしており,理解に苦しむところである。
当裁判所の判断
本件においては,相違点1が存在するにもかかわらず被告製品が本件特許発明構成要件Cを充足するかどうか(被告製品の「角形部材」が構成要件Cの「ドラム」に該当するかどうか)も争われているものであるが(争点1),相違点2の存在により被告製品が本件特許発明構成要件Dを文言上充足しないことは,原告も認めているところであり,それを前提に均等の主張をしているので,まず,原告の主張するように相違点2の存在にもかかわらず,被告製品が本件特許発明均等な構成のものとして本件特許発明技術的範囲に属するかどうか(争点2)を検討する。
1 均等の要件1(非本質的部分であること)について (1) 本件明細書の記載 ア 本件特許発明1に関し,本件明細書における特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(前記第2,1(2))。
「平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成し,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」 また,本件特許発明2に関し,本件明細書における特許請求の範囲の請求項2の記載は,次のとおりである(前記第2,1(3))。
「ラチェットホイールの外側面に同軸にラチェット式レンチのソケットが嵌合するナットを固着したことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」 上記のとおり,本件特許発明1は,平行する一対の側板(構成要件A),側板に設けられたフックの取付軸(同B)及び貫通孔を穿設したドラム(同C),ラチェットホイール(同E),これと歯合するラチェット(同F),ラチェットを付勢するスプリング(同G)と,上記歯合の解除装置(同H)の各部材を備えた合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機(同I)に関するものであって,本件特許発明2は,このような緊張機に,ラチェット式レンチのソケットが嵌合するナット(同J)を付加したものにすぎないから,本件特許発明は,上記の各部材を備えることを基本的な構成(以下,かかる構成を「基本的構成」ということがある。)とするものということができる。
これに対し,構成要件Dに開示された構成,すなわち,貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成するとともに,開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成するという構成は,発明の構成要件として構成要件Cで開示されたドラムに穿設された「貫通孔」の,具体的な構成の仕方を更に特定するものであるが,それ自体が非常に具体的で特徴のある構成である上に,最終的には「合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機」(構成要件I)の文言にかかっていくものであり,構成要件AからHまでの羅列的・連続的な記載の中において,他の構成要件と変わることなく並列的かつ同等の位置づけで記載されているものである。したがって,本件特許発明の「合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機」においては,構成要件AないしC及びEないしH記載にかかる各部材を備えるとともに(すなわち,上記基本的構成を備えるとともに),その「貫通孔」(構成要件C)については,構成要件Dに開示された具体的構成を備えることが,他の構成要件と同列に要求されているものと解するのが自然である。
上記のとおり,本件明細書における上記特許請求の範囲の記載の形式を見る限り,構成要件Dは,他の構成要件と並列的に記載されており,他の構成要件と同列のものとして位置付けられているものと解される。
イ また,本件明細書における「発明の詳細な説明」の欄をみると,本件特許発明は,建築作業現場の高所において安全帯(命綱)の掛着用として設ける,合成樹脂被覆ロープの緊張機に関するものであるところ,従来技術として,一方の柱の取付用ピースに,先端にワイヤーソケットを取り付けた被覆ワイヤーをシャックルを用いて接続するとともに,もう一方の柱の取付用ピースに,シャックルを用いて枠式ターンバックルを接続し,このターンバックルに被覆ワイヤーの末端を挿通して折り返し,折り返し部分を複数のワイヤークリップを用いてラチェットハンドルで締め付けて固着した後,枠式ターンバックルを締め上げて被覆ワイヤーを緊張させる構成のものが紹介され(段落【0001】〜【0003】),かかる構成によると,ワイヤーを緊張させるための機具として,シャックル,枠式ターンバックル及びワイヤークリップを必ず使用するので,緊張作業の工程数が多くなり,作業時間を要していたことが指摘されている。また,柱とワイヤークリップとの間に相当のスペースが必要である一方で,折り返した被覆ワイヤーの余剰部分が,作業員のための作業スペースに垂下し,作業の邪魔になることから,これを切断しなければならず,一度使用した被覆ワイヤーは,従前の作業場所より張設スパンの長い作業場所に転用することができなくなり,不経済であったとされている(段落【0004】〜【0006】)。
そして,本件特許発明は,上記の問題点にかんがみ発明されたもので,被覆ワイヤーの緊張手段を簡素化して,緊張作業を迅速化するとともに,経済的にも有利にすることを課題とするものであること,及び,かかる課題を解決するための手段として,平行する一対の側板(構成要件A)と,前記側板の先端部に固定されたフックを取り付ける取付軸(同B)と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラム(同C)と,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイール(同E)と,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェット(同F)と,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリング(同G)と,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置(同H)とを有する,合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機(同I)を構成したことが記載され,かかる構成を採用したことにより,合成樹脂被覆ワイヤーを貫通孔に挿通してドラムを巻き取り方向に回転させるだけでワイヤーを緊張固定が可能になるとともに,ラチェットの歯合を解除するだけで緊張状態を解除することが可能となり,合成樹脂被覆ワイヤーの張設と取り外しが簡単にできるようになったと,前記基本的構成に基づく作用効果が記載されている(段落【0007】〜【0008】)。
また,前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成するとともに,開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成する構成を採ったことにより,合成樹脂被覆ワイヤーの滑りによる弛緩をエッジでの引っかかりで防止できるほか,開口端での揺動による同ワイヤーの擦り切れ破損を防止できると,構成要件Dに基づく作用効果が記載され(段落【0009】),それに引き続き,ラチェットホイールの外側面に同軸にラチェット式レンチのソケットが嵌合するナットを固着したことにより,巻き取り工具により合成樹脂被覆ワイヤーを巻き取って緊張させた後は,工具を取り外して作業の邪魔にならないようにすることができ(段落【0010】),また,フックを取り付ける取付軸を設けたことにより,緊張機を,柱ないし柱の取付用ピースにワンタッチで取り付けられるようになったと,構成要件Jに基づく作用効果が記載されている(段落【0011】)。
さらに,実施例に関する記載をみると,本件特許発明2を実施したワイヤーの緊張機が開示され,かかる緊張機においては,被覆ワイヤーの一端をドラムの貫通孔に挿通し,1回転程度巻き取れば,ワイヤーがドラムの軸とほぼ直角方向に緊張状態となり,ドラムのエッジが被覆ワイヤーの被覆層に食い込み状態で引っかかるので,そのことによって滑りが防止され,かつ,ドラムはラチェット機構により逆転が防止されているので,ワイヤーが弛緩することなく固定できるとされている(段落【0023】〜【0026】)。また,それとともに,固定された被覆ワイヤーが揺動され,貫通孔の開口端と擦れ合うことがあっても,開口端の傾斜面により応力の集中が緩和されるので,ワイヤーの擦り切れ破損が起こりにくいとされている(段落【0027】)。
そして,【発明の効果】の欄には,本件特許発明実施した緊張機によれば,フックによりワンタッチで緊張機を柱に取り付けることができるとともに,ドラムの貫通孔に被覆ワイヤーを挿通し,ドラムを回転させるだけでワイヤーを緊張固定することができ,かつ,ワイヤーの弛緩も,ラチェットを解除することによりワンタッチで可能となるので,命綱となる被覆ワイヤーの緊張固定作業が,従来技術に比して大幅に簡素化し,迅速化できたとされている(段落【0032】)。また,それとともに,小型化された緊張機を柱の間際に装着できるので,作業の邪魔にならず,また,被覆ワイヤーの余剰部分も,作業者の行動を制約することがないので切り取る必要がなく,経済的にも有利であるとされており(段落【0034】,【0035】),上述の本件特許発明が解決すべき課題が,具体的に解決できたことが記載されている。
ウ 上記のとおり,「発明の詳細な説明」の【課題を解決するための手段】欄においては,上記基本的構成を採用したことによる効果(段落【0008】及び【0011】)に引き続き,あるいはこれと混在して,構成要件Dを採用したことによる効果(段落【0009】)や,構成要件Jを採用したことによる効果(【0010】)が,記載されている。また,【発明の実施の形態】欄をみても,構成要件AないしJをすべて備えた本件特許発明2の実施例が開示された上,基本的構成にかかる各部位の具体的作用及びその効果(段落【0023】〜【0026】,【0030】)と,構成要件D(段落【0025】〜【0027】)及び構成要件J(段落【0024】,【0028】)の各構成にかかる具体的作用及びその効果が,渾然一体となって記載されている。
そして,これらの記載を前提に,末尾の【発明の効果】欄において,本件特許発明が上記のように実施された結果,被覆ワイヤーの緊張手段が簡素化され,緊張作業が迅速化されるとともに,同ワイヤーの余剰部分を切り取る必要がなくなり,経済的に有利になって,本件特許発明が解決すべき課題(段落【0007】)が,具体的に解決できたものとされている(段落【0032】以下)。
本件明細書の「発明の詳細な説明」欄においては,上記のとおり,構成要件Dの構成は,従来技術の下において存在した課題を解決すべき手段の一部として記載され,また,構成要件Dの構成を採用したことによる効果が,本件特許発明の効果に含まれるものとして記載されている。
エ 上記のとおり,本件明細書の「特許請求の範囲」及び「発明の詳細な説明」の記載においては,構成要件Dは他の構成要件と同列に位置付けられ,構成要件Dの構成を採用したことに伴う効果もまた,本件特許発明の効果とされている。
(2) 先行技術との対比 次に,先行技術との対比を通じ,課題解決のための本件特許発明における特徴的手段との関係で,構成要件Dが占める役割を検討する。
ア 本件特許発明の属する分野における先行技術として,実開昭60-139946号公報(乙1)には,平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付けた孔と,前記側板に回転自在に設けられたステンレスワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記ステンレスワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングとを有して構成されたワイヤーの緊張機(先行技術1)が開示されている。当該緊張機の構成と本件特許発明の各構成要件とを対比すると,上記側板は構成要件Aの「側板」と,上記ドラムは構成要件Cの「ドラム」と,上記ラチェットホイールは構成要件Eの「ラチェットホイール」と,上記ラチェットは構成要件Fの「ラチェット」と,上記スプリングは構成要件Gの「スプリング」と,それぞれ対応するものであることが容易に分かる。
また,構成要件Bの「取付軸」に代えて上記フックの取付孔を具備すること,構成要件Iの「合成樹脂被覆ワイヤー」に代えて上記ステンレスワイヤーを用いることは,いずれも単なる設計事項にすぎないから(乙3の拒絶理由通知書参照),先行技術1は,本件特許発明のうち構成要件Dを除く構成(基本的構成)のうち,構成要件Hの「解除装置」を除く部分をすべて備えたものと認めることができる。
また,実公平2-17235号公報(乙2)には,ラチェットをラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置とを有して構成されたワイヤーの緊張機(先行技術2)が開示されており,これは,構成要件Hの「解除装置」を備えたワイヤーの緊張機であると認めることができる。
イ 上記によれば,本件特許発明のうち構成要件Dを除く構成は,先行技術1及び2においてすべて開示されており,かつ,先行技術1及び2を組み合わせることが,当業者にとって容易に想到できるものであることは明らかである。そうすると,仮に構成要件Dを欠いた場合には,本件特許発明は,進歩性を欠くものとして特許を付与されなかったことが,明らかというべきである(乙3の拒絶理由通知書参照)。
他方,構成要件Dに示されている構成は,貫通孔の開口端のドラム軸線方向については,被覆ワイヤーの擦り切れ破損防止のため,傾斜面に形成するとともに,ドラム外周方向の中央部は,ワイヤーの滑り防止のため,ワイヤーの被覆層に食い込み状態で引っかかるエッジを形成するという,特殊な構造であり,本件における証拠(甲4〜12,17〜20等)に照らせば,本件特許発明の出願当時,新規な構成であったものと認められる。
そうすると,本件特許発明における構成要件D以外の各構成要件を備えたワイヤー緊張機は,本件特許発明の出願当時に既に公知であった技術(先行技術1及び2)の組み合わせにより容易に想到できたものであるところ,本件特許発明は,その構成中に構成要件Dの構成を新たに採り入れることにより,当該作用効果を実現するための技術的手段として進歩性を有するものとして,特許を付与されたものと認められる。そうすると,課題を解決するために本件特許発明において特徴的な手段は,ドラムに設けられた貫通孔の開口端の形状に関する,構成要件Dの構成であり,結局,構成要件Dは本件特許発明における本質的部分というべきである。
ウ この点につき,原告は,先行技術に見られない本件特許発明の特徴的課題解決手段は,合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラム(構成要件C)と,ドラムと同軸に固定されたラチェットホイール(同E)と,ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向にのみ規制するラチェット(同F)と,合成樹脂被覆ワイヤー巻き取り時に,同ワイヤーの被覆層が食い込み状態に引っかかるエッジをドラムに備えることであり,かかる構成こそが,本件特許発明の本質的部分である旨主張する(第3,2(1)エ)。
しかしながら,上記ドラム(構成要件C),ラチェットホイール(同E)及びラチェット(同F)を具備した点は,上述のとおり,先行技術1において既に開示されていたものであるから,本件特許発明において特徴的なものとはいえない。そうすると,原告のいうところは,結局,本件特許発明における構成要件Dがそのまま本質的部分ではなく,合成樹脂被覆層に食い込み引っかかるエッジの存在のみが本質的部分であり,その存在場所も,貫通孔開口端に限らず,巻き取り軸が角形部材であれば,その外周角部分も含まれるという趣旨と理解することができる。
しかし,原告が,巻き取り軸(ドラム)として角形の部材が周知であることの証拠として提出する公知例(甲17〜20等)に照らせば,角形部材の外周角部分に引っかけるようにしてシャッター,シート,フィルム等を巻き取る技術は,本件特許発明の出願当時既に公知であったものと認められるから,原告が主張するように,エッジの機能を果たす部分をドラムの任意の箇所に形成することが,本件特許発明の特徴的解決手段であるとは考えられない(そう解さないと,本件特許発明そのものが,進歩性の要件を欠くことになってしまう。)。
したがって,原告主張に係る点が,本件特許発明における課題解決のための特徴的手段と認めることはできない。
(3) 結論 上記のとおり,本件明細書の記載に照らしても,また,先行技術との対比を通じて認められる本件特許発明の特徴的課題解決手段の検討の結果に照らしても,相違点2が,本件特許発明の非本質的な部分に関するものであると認めることはできない。したがって,被告製品が,均等の要件1(非本質的部分であること)を充たしているということはできない。
したがって,被告製品は,本件特許発明の構成と均等ということはできず,本件特許発明技術的範囲に属するということはできない。
2 均等の要件5(意識的に除外されたものでないこと)について 上記1のとおり,本件においては,均等の要件1が充たされていないが,念のため,均等の要件5についても判断する。
(1) 本件補正の経緯 証拠(甲2,乙1〜5)によれば,本件補正に関して,以下の各事実が認められる。
ア 本件特許発明の本件補正前の明細書(当初明細書)における特許請求の範囲の記載は,次のとおりであった。
「【請求項1】平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,を有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。
【請求項2】前記貫通孔の開口端におけるドラムの外周方向の中央部をエッジに形成すると共に開口端におけるドラムの軸線方向を周縁に沿った傾斜面に形成したことを特徴とする請求項1記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。
【請求項3】ラチェットホイールの外側面に同軸にラチェット式レンチのソケットが嵌合するナットを固着したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。
【請求項4】取付軸にフックを取り付けたことを特徴とする請求項1,2又は請求項3記載の合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機。」 イ 当初明細書による特許出願に対して,特許庁審査官は,平成13年7月17日付けで拒絶理由通知書(乙3)を発した。
当該拒絶理由通知書においては,先行技術1及び2が各記載された実開昭60-139946号公報(乙1)及び実公平2-17235号公報(乙2)が,それぞれ引用文献1及び2として引用されている。そして,引用文献1(乙1)には,平行する一対の側板と,前記側板の先端部に固定されたフックを取付けた孔と,前記側板に回転自在に設けられたステンレスワイヤーを挿通する貫通孔を穿設したドラムと,前記ドラムと同軸に固定されたラチェットホイールと,前記ラチェットホイールと歯合して前記ドラムの回転を前記ステンレスワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングとを有して構成されたワイヤーの緊張機(先行技術1)が記載されており,他方,引用文献2(乙2)には,ラチェットをラチェットホイールとの歯合方向へ付勢するスプリングと,前記スプリングに抗して歯合を解除状態に保持する解除装置とを有して構成されたワイヤーの緊張機(先行技術2)が記載されているところ,引用文献2(乙2)の解除装置を,引用文献1(乙1)に適用することは,当業者にとって容易想到であり,孔に代えてフックを取り付ける取付軸とすること,ドラムを側板後端部に設けること,及び,ステンレスワイヤーに代えて合成樹脂被覆ワイヤーを用いることは,いずれも単なる設計変更にすぎないから,当初明細書の請求項1及び4記載に係る各発明は,引用文献1(乙1)及び2(乙2)に記載された各考案に基づき,当業者が容易になし得たものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである旨の記載がされている。また,その一方で,当初明細書の請求項1及び4以外の請求項記載に係る発明については,拒絶の理由を発見できない旨の記載がされている。
ウ 上記拒絶理由通知に対し,出願人である原告は,平成13年8月8日付け手続補正書(乙4)において,当初明細書の請求項4を削除するとともに,同請求項2(すなわち,本件特許発明構成要件D)を,同請求項1にそのまま取り入れて,新たな請求項1とし,当初明細書の請求項3を新たな請求項2とする補正をした(本件補正)。本件補正により,本件明細書における特許請求の範囲は,現在の請求項1及び2(第2,1(2),(3))のとおりとなった。
それとともに,原告は,同日付け意見書(乙5)において,当初明細書の請求項1及び4各記載に係る発明に対する拒絶理由については,あえて反論するものではないが,同請求項2及び3については拒絶理由が発見できないとされているので,上記請求項1及び4を削除し,同請求項2及び3各記載に係る発明を,新たな請求項1及び2とする補正をしたものであって,拒絶理由が解消したことは明らかであるから,再度の審査の上,特許登録査定をされたい旨の意見を述べた。
(2) 検討 ア 上記(1)ア〜ウの各事実に加え,前記1(2)イで認定したとおり,構成要件D以外の本件特許発明の構成要素は,先行技術1及び2においてすべて開示されており,構成要件Dで特定された特徴ある構成を採用したことで,進歩性が認められて,本件特許発明が特許査定されたと認められることを併せ考えると,原告は,上記拒絶理由が通知されたことにより,構成要件D以外の構成要素が公知であることを十分に認識し,それを前提に,出願当時新規な構成であった構成要件Dの構成(すなわち,当初明細書における請求項2)を本件特許発明の構成要素に取り込み,もって特許を付与されたことが明らかである。
そうすると,原告は,本件特許発明を構成するワイヤーを挿通すべき貫通孔の開口端につき,ドラム軸線方向は,被覆ワイヤーの擦り切れ破損防止のために,傾斜面に形成する一方で,ドラム外周方向の中央部は,ワイヤーの滑り防止のため,ワイヤーの被覆層に食い込み状態で引っかかるエッジを形成するという,具体的かつ特徴のある構造を採用することにより,自らの発明に不可欠な構成要素を明らかにしたものであって,かかる構成以外の貫通孔の開口端に関する構成は,本件補正の過程を通じ,本件特許発明技術的範囲から意識的に除外されたものというべきである。
イ 原告は,本件特許発明先行技術1及び2にない作用効果を奏するのは,ドラムに設けられた貫通孔とエッジの存在によるものであるとした上で,巻き取り軸の「ドラム」の形状が円柱である場合,上記作用効果を奏するために必要なエッジは,ドラムに穿設された貫通孔の開口端の外周方向中央部に形成する以外にないから,本件補正は,このような場合における必然的な構成を明確にしたものにすぎず,上記以外の任意の場所にエッジを形成する構成を意識的に排除したものではないことは明らかであると主張する(第3,2(1),(5))。
しかしながら,原告主張のように解すると,先行技術1及び2との関係で,本件特許発明全体が進歩性を喪失することになるから,かかる解釈を採り得ないことは,前記1(2)ウにおいて述べたとおりである。原告の上記主張は,そもそもその前提を欠いており,採用することができない。
3 結論 以上のとおり,被告製品を本件特許発明と対比すると相違点2が存在し,被告製品は本件特許発明構成要件Dを充足しないものであるところ,相違点2については,均等の要件1(非本質的部分)を充足するものとは認められず,また,要件5の事由(意識的除外)が存在するものであるから,被告製品を本件特許発明の構成と均等なものということはできない。
したがって,争点1(被告製品における角形部材が,構成要件Cの「ドラム」に該当するか。)について判断するまでもなく,被告製品は,本件特許発明技術的範囲に属するものとは認められない。原告の請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)目録下記の構成の被覆ワイヤー・親綱ロープ兼用緊張機(構造の説明)a平行する一対の側板と,b前記側板の先端部に固定されたフックを取付ける取付軸と,c前記側板の後端部に回転自在に設けられた合成樹脂被覆ワイヤーを挿通する貫通孔を穿設した角形部材と,d前記角形部材と同軸に固定されたラチェットホイールと,e前記ラチェットホイールと歯合して前記角形部材の回転を前記合成樹脂被覆ワイヤーの巻き取り方向のみに規制するラチェットと,f前記ラチェットを前記ラチェットホイールとの歯合方向へ付勢する付勢部材と,g前記付勢部材に抗して歯合を解除状態に保持する解除装置と,hを有して構成されたことを特徴とする合成樹脂被覆ワイヤーの緊張機iラチェットホイールの外側面に同軸にラチェット式レンチのソケットが嵌合するナットを固着したこと(図面の説明)図1は,被告製品の斜視図。
図2は,被告製品の平面図。
図3は,角形部材の斜視図。
(図面中の部材の説明)1緊張機2フック3,4側板5取付軸6角形部材6a角形部材表面6b角形部材外周6c貫通孔6d貫通孔周縁の面取り7ラチェットホイール8ラチェットR合成樹脂被覆ワイヤー図面
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之