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関連審決 無効2019-800098
無効2018-800122
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和3行ケ10021 審決取消請求事件 判例 特許
令和2行ケ10079 審決取消請求事件 令和2行ケ10083 審決取消請求事件 判例 特許
令和2行ケ10144 審決取消請求事件 判例 特許
令和1行ケ10160 審決取消請求事件 判例 特許
異議2021700592 審決 特許
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事件 令和 2年 (行ケ) 10150号 審決取消請求事件

原告株式会社ダイセル
同訴訟代理人弁護士 三村量一澤田将史 田邉幸太郎
同訴訟代理人弁理士 津国肇 鈴木音哉 井上慎一
同補佐人弁理士 小糸清太
原告補助参加人 株式会社アドバンスト・メディカル・ケア
同訴訟代理人弁護士 水野晃 丹羽厚太郎 中田裕人
同訴訟代理人弁理士 関根宣夫
被告大塚製薬株式会社
同訴訟代理人弁護士 城山康文林康司 山内真之
同訴訟復代理人弁護士 村上遼
同訴訟代理人弁理士 小野誠 重森一輝
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/12/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用のうち,補助参加によって生じた費用は原告補助参加人の負担とし,その余は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2019-800098号事件について令和2年11月25日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,新規性進歩性及び委任省令要件違反についての認定判断の誤りの有無である。
1 手続の経緯 (1) 本件特許の登録 被告は,平成20年6月13日,発明の名称を「エクオール含有抽出物及びその製造方法,エクオール抽出方法,並びにエクオールを含む食品」とする発明について,特許出願(特願2009-519326号[以下「本件原出願」という。,優 ]先権主張:平成19年6月13日[以下「本件優先日」という。,日本国)をした ]後,本件原出願の一部を特願2013-108439号として分割出願し,その一部を特願2016-156372号として分割出願し,さらにその一部を特願2017-125880号として分割出願し(以下「本件出願」という。,平成30年 )1月19日,特許第6275313号として特許権の設定登録(請求項の数1)を受けた(以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を 「本件明細書」という。甲201)。
(2) 前訴(特許無効審判及び審決取消訴訟) 原告は,平成30年10月12日,本件特許の無効審判請求をし,被告は,平成31年1月24日付けで本件特許の特許請求の範囲についての訂正請求をした。特許庁は,上記無効審判請求を無効2018-800122号事件として審理し,令和元年7月19日,上記訂正請求に係る訂正を認めた上, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。原告は,同審決に取消事由があると主張して,知的財産高等裁判所に対し,審決取消訴訟を提起し(令和元年(行ケ)第10112号),原告補助参加人が原告を補助するために参加したが,同裁判所は,令和2年10月21日,原告の請求を棄却する判決を下し,原告及び原告補助参加人は,それぞれ最高裁への上告受理申立てを行ったがいずれも上告不受理決定がされ,同判決は,令和3年5月20日,確定した。(乙1,8,9) (3) 本件特許に対する再度の無効審判請求に係る審決 原告は,令和元年11月19日,本件特許の無効審判請求をし,被告は,令和2年2月7日付けで本件特許の特許請求の範囲についての訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。本件訂正の内容は,上記(2)における訂正請求の内容と同じである。特許庁は,上記無効審判請求を無効2019-800098号事件として審理し,令和2年11月25日,本件訂正を認めた上, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
2 発明の要旨(甲201,202,乙1,8,9) (1) 本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
【請求項1】 ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類,並びに,アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法
(2) 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項1記載の発明を「本件訂正発明」という。下線部が本件訂正による訂正箇所である。)。本件特許については,前記1(2)のとおり,訂正を認める審決が確定しているので,以下,本件訂正発明を前提として検討する。
【請求項1】 ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること,及び, 前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって, 前記発酵処理により,前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg 以上のオルニチン及び1mg 以上のエクオールを生成し,及び, 前記発酵物が食品素材として用いられるものである, 前記製造方法
3 本件審決の理由の要点 (1) 原告の主張した無効理由 原告は,本件訂正が新規事項の追加に当たるとして,本件訂正の可否を争うとともに,本件訂正発明が,(ア)@甲1(国際公開第2005/000042号),A甲6の1(国際公表第2004/009035号)及び甲6の2(特表2006-504409号公報)又はB甲9(国際公開第99/07392号)により新規性進歩性がないから,特許法29条1項3号又は同条2項により特許を受けることができない,(イ)本件出願が分割要件違反であることを前提として,甲12(再公表公報WO2008/153158)により新規性進歩性がないから,特許法29条1項3号又は同条2項により特許を受けることができない,(ウ)委任省令違反により特許法36条4項1号を満たさない,ことを理由として特許法123条1項1号及び4号により,本件特許を無効とすべきであると主張した。
(2) 本件訂正の可否について ア 本件訂正は,@発酵物の製造方法がダイゼイン類にアルギニンを添加する工程を含むことが特定され,A発酵物が粉末状に特定され,B発酵処理により発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg 以上のオルニチン及び1mg 以上のエクオールを生成することが特定され,C製造方法で製造される発酵物の用途が食品素材に特定されており,これらの特定により訂正前の請求項1の発酵物の製造方法減縮されるので,いずれの訂正部分についても,特許請求の範囲減縮を目的とするものである。
イ 本件明細書の記載に照らすと,本件訂正は,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第134条の2第9項で準用する特許法126条5項及び6項に適合する。
ウ そこで,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
(3) 甲1記載の発明による新規性進歩性欠如の主張について ア 甲1には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ダイゼイン配糖体,ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料(豆乳を含むダイゼイン含有基礎培地など)をエクオール産生能力を有する微生物であるラクトコッカス 20-92(FERMBP-10036 号)で発酵処理することを含む,エクオールを含有する発酵物を製造する方法。」 イ 本件訂正発明と甲1発明を対比すると,両者は, 「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,エクオールを含有する発酵物の製造方法。 であ 」る点で一致し,次の点で相違すると認められる。
(相違点1)本件訂正発明では,発酵原料がアルギニンを添加したものであるこ と,微生物がオルニチン産生能力を有すること,及び発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg 以上のオルニチン及び1mg 以上のエクオールを生成することが特定されているのに対して,甲1発明ではこれらの点が特定されていない点。
(相違点2)本件訂正発明では,製造される発酵物について,粉末状であること,及び食品素材として用いられることが特定されているのに対して,甲1発明では特定されていない点。
ウ 所定量のオルニチンとエクオールを有用な生成物として生成させることが本件訂正発明の目的であって,この目的を達成できるようにダイゼイン類にアルギニンを添加して発酵原料を調製し,特定の微生物を用いて発酵原料を発酵処理することが本件訂正発明の技術思想であると認められる。
これに対して,甲1発明は,エクオールの生成を目的として発酵処理を行う発明であるが,甲1にはオルニチンの生成を目的として発酵処理を行うものではなく,ゆえに,発酵物中にオルニチンが所定量生成したことを確認したことなどは記載されていない。すなわち,甲1発明からは上記本件訂正発明におけるオルニチンを生成しようとする技術思想をくみ取ることができない。同様に,甲2,甲3の1〜8,甲4の1〜3,及び他の証拠をみても,エクオールの生成を目的として発酵処理を行う際に,さらにオルニチンの生成を目的とすること,その際に,オルニチン産生能力を有する微生物を用いること,発酵物中のオルニチンの生成量が8mg 以上である発酵物を製造することができるように,オルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加することが記載ないし示唆されているとは認められない。したがって,相違点1を当業者が容易になし得るとはいえない。
よって, (相違点2)について検討するまでもなく,本件訂正発明は,甲1に記載された発明であるとも,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められない。
(4) 甲6記載の発明による新規性進歩性欠如の主張について ア 甲6には,次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認めら れる。
「ダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳を エ ク オ ー ル 産 生 能 力 を 有 す る 微 生 物 で あ る , BIFIDOBACTERIUM LACTIS ,LACTOBACILLUS ACIDOPHILUS , LACTOCOCCUS LACTIS , ENTEROCOCCUS FAECIUM ,LACTOBACILLUS CASEI,及び,LACTOBACILLUS SALIVARIUS を含む「混合培養物」で発酵処理することを含む, エクオールを含有する発酵物を製造する方法。」 イ 本件訂正発明と甲6発明を対比すると,両者は, 「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,エクオールを含有する発酵物の製造方法。 であ 」る点で一致し,次の点で相違すると認められる。
(相違点1’)本件訂正発明は「オルニチン及びエクオールを含有する」「発酵物の製造方法」であり, 「発酵処理により,前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg 以上のオルニチン及び1mg 以上のエクオールを生成」することが特定されているのに対して,甲1発明は「エクオールを含有する発酵物を製造する方法」であり,また,本件訂正発明では,発酵原料にアルギニンを添加すること及び微生物がオルニチン産生能力を有することが特定されているのに対して,甲6発明では特定されていない点。
(相違点2’本件訂正発明では, ) 製造される発酵物について,粉末状であること,及び食品素材として用いられることが特定されているのに対して,甲6発明では特定されていない点。
ウ 本件訂正発明は,発酵物に含まれる「8mg 以上のオルニチン及び1mg 以上のエクオール」を有用な生成物として生成させることを目的とする『オルニチン及びエクオールの製造方法』に関するものといえ,本件訂正発明には,エクオールに加えて有意な量のオルニチンを製造するために,オルニチン産生能力及びエクオール 産生能力を有する微生物を用いること,該微生物の発酵によってオルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが8mg 以上の発酵物が得られるように製造することが特定されていると認められる。
これに対して,甲6発明は,エクオールの生成を目的として発酵処理を行う発明であるが,甲6にはオルニチンの生成を目的として発酵処理を行うことは記載されていない。また,甲4の1,甲7,甲8,及び他の証拠をみても,エクオールの生成を目的として発酵処理を行う際に,さらにオルニチンの生成を目的とすること,その際に,オルニチン産生能力を有する微生物を用いること,オルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが所定量含まれる発酵物が得られるように製造することが記載ないし示唆されているとは認められない。
したがって,相違点1’を当業者が容易になし得るとはいえない。
よって,(相違点2’)について検討するまでもなく,本件訂正発明は,甲6に記載された発明であるとも,甲6に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められない。
(5) 甲9記載の発明による新規性進歩性欠如の主張について ア 甲9には次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されていると認められる。
「基質としてダイゼイン,例えば豆乳を含む発酵原料を変法GAM培地でエクオール産生能力を有する微生物であるストレプトコッカス インターメディアス菌,特にストレプトコッカス A6G-225(FERM BP-6437)で発酵処理することを含む,エクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって,粉末状の発酵物の乾燥重量1g当たり,1mg〜3mg のエクオールを生成し,前記発酵物が,例えば飲料,乳製品,発酵乳,バー,顆粒,粉末,カプセル,錠剤等の食品形態として用いられる,製造方法。」 イ 本件訂正発明と甲9発明を対比すると,両者は, 「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択さ れる少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,エクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって,該発酵物が食品素材として用いられるものである,前記製造方法。」である点で一致し,次の点で相違すると認められる。
(相違点1”)本件訂正発明は「オルニチン及びエクオールを含有する」「発酵物の製造方法」であり, 「発酵処理により,前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg 以上のオルニチン及び1mg 以上のエクオールを生成」することが特定されているのに対して,甲9発明は「エクオールを含有する発酵物を製造する方法」であり,また,本件訂正発明では,発酵原料にアルギニンを添加すること及び微生物がオルニチン産生能力を有することが特定されているのに対して,甲9発明では特定されていない点。
ウ 本件訂正発明は,発酵物に含まれる「8mg 以上のオルニチン及び1mg 以上のエクオール」を有用な生成物として生成させることを目的とする『オルニチン及びエクオールの製造方法』に関するものといえ,本件訂正発明には,エクオールに加えて有意な量のオルニチンを製造するために,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物を用いること,該微生物の発酵によってオルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが8mg 以上の発酵物が得られるように製造することが特定されていると認められる。
これに対して,甲9発明は,エクオールの生成を目的として発酵処理を行う発明であるが,甲9にはオルニチンの生成を目的として発酵処理を行うことは記載されていない。また,甲4の1,甲10,甲11及び他の証拠をみても,エクオールの生成を目的として発酵処理を行う際に,さらにオルニチンの生成を目的とすること,その際に,オルニチン産生能力を有する微生物を用いること,オルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加してオルニチンが所定量含まれる発酵物が得られるように製造することが記載ないし示唆されているとは認められない。
したがって,相違点1”を当業者が容易になし得るとはいえない。
よって,本件訂正発明は,甲9に記載された発明であるとも,甲9に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められない。
(6) 分割要件違反を前提とした甲12記載の発明による新規性進歩性欠如の主張について ア 分割要件と出願日の遡及について 本件特許出願(第三世代)の原出願(第二世代)の明細書(甲13)には, 「エクオール産生微生物を,ダイゼイン配糖体,ダイゼイン,及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を,該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し,該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより,エクオールを含む発酵物を得ることができる。, 」「ダイゼイン類を含む発酵原料としては,ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではない」と記載されており,エクオールの発酵原料として「ダイゼイン類を含む発酵原料」が記載され,大豆胚軸はダイゼイン類の代表例として記載されていると認められる。また,発酵原料には他の成分が添加されることも記載されており,これらの点は,本件特許出願(第三世代)の親出願(第一世代)の明細書(甲12)にも記載されていると認められる。
そうすると,本件明細書には「大豆胚軸」を代表とする「ダイゼイン類」がエクオールの発酵原料として記載されていると認められ, 「大豆胚軸」にアルギニンを添加するとの記載から, 「ダイゼイン類」にアルギニンを添加することも記載されているといえる。
したがって,本件訂正発明に特定される「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること,及び,前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料」をエクオールの発酵原料とすることは,本件特許出願(第三世代)の原出願(第二 世代)及び親出願(第一世代)の明細書に記載されていた事項であると認められる。
よって,原出願及び親出願と同じく,本件訂正発明の新規性進歩性の判断は遅くとも本件出願の親出願の出願日である「2008年6月13日」より前の文献に基づいてなされるといえる。
新規性,進歩性について 本件特許出願は第三世代の分割出願であるところ,甲12はその親出願である特願2009-519326号(PCT/JP/2008/060913)の再公表公報であって,その記載内容は平成20(2008)年12月18日に国際公開されているが,甲12は上記「2008年6月13日」よりも後に公知となった文献であるから,この文献により本件訂正発明を新規性要件違反,進歩性要件違反とすることはできない。
(7) 委任省令違反について 本件特許明細書には,次の事項が記載されている。
「【0226】 原料として使用した粉末状大豆胚軸(表2及び3中,発酵前と表記する)及び得られた粉末状大豆胚軸発酵物(表2及び3中,発酵後と表記する)の含有成分の分析を行った。大豆イソフラボン類の分析結果を表2に,栄養成分の分析結果を表3に示す。この結果からも,ラクトコッカス 20-92 株によって大豆胚軸を発酵させることにより,高含量のエクオールを含む大豆胚軸発酵物が製造されることが確認された。また,ラフィノースやスタキオース等のオリゴ糖は,発酵前後でその含量が同程度であり,発酵による影響を殆ど受けないことが明らかとなった。一方,アルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス 20-92 株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかとなった。」 本件訂正発明の技術上の意義は,本件明細書の上記記載からみて,ラクトコッカ ス 20-92 株を用いて発酵を行うと,培地中のアルギニンからオルニチンが生成することを明らかにし,そのことに基づいて,エクオールに加えて有意な量のオルニチンを含有する発酵物の製造方法を提供したことであると認められる。
そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,上記記載に加えて【表3】 (段落【0228】 に発酵によりアルギニンからオルニチンが生成することが示されて )いることから,技術上の意義に関して十分に記載されていると認められる。
したがって,本件特許明細書は委任省令要件を満足する。
(8) 以上のとおり,原告の主張及び証拠方法によっては,本件特許を無効とすることができない。
原告が主張する審決取消事由
原告が主張する審決取消事由は次の五つである。なお,取消事由1(本件訂正請求に関し,訂正要件の充足性に関する判断の誤り)の主張は撤回された。
1 取消事由2(甲1に基づく新規性進歩性違反についての判断の誤り) 2 取消事由3(甲6に基づく進歩性違反についての判断の誤り) 3 取消事由4(甲9に基づく新規性進歩性違反についての判断の誤り) 4 取消事由5(分割要件違反及び甲12に基づく進歩性違反についての判断の誤り) 5 取消事由6(委任省令要件違反についての判断の誤り)
当事者の主張
1 取消事由2(甲1に基づく新規性進歩性違反についての判断の誤り)について (原告の主張) (1) 本件訂正発明について ア 本件訂正発明は,下記イ及びウのとおり,@系内にアルギニンが存在する状況下における微生物の発酵において,不可避的に生成されることが技術常識であり,また,周知技術であったオルニチンの生成を構成に取り込み,かつ,A発酵物の乾 燥重量1g当たり8mg 以上のオルニチンの生成という何ら技術的意味のない数値限定をすることで,新規性及び進歩性を備えているかのように見せかけているものにすぎない。本件審決は,このような本件訂正発明の本質を看過して判断したものである。
イ 「アルギニンジヒドロラーゼ」は, 「アルギニンを加水分解し,最終産物としてオルニチン,アンモニアおよび炭酸ガスを生じる酵素系」という生化学的性質を意味するところ, 「アルギニンジヒドロラーゼ」及び「アルギニンジヒドロラーゼ経路」を用いてエネルギー(ATP)を得るに当たり「アルギニン」から「オルニチン」が産生されることは,本件優先日ないし本件訂正発明の出願日において,技術常識であった(甲3の1〜4)。
そして, 「ラクトコッカス・ガルビエ」がアルギニンジヒドロラーゼ活性を有しておりオルニチン産生能力を有していること(甲2・表2参照),本件明細書において記載されているラクトコッカス属,及びストレプトコッカス属等の乳酸菌と同じ乳酸菌がアルギニンからオルチニンに変換する能力を有すること(甲3の5) 甲5の ,1(「大豆発酵食品の成分よりみた発酵分解の意義」日本醸造協会雑誌・1967年62巻4号367〜373頁)に, 「大豆発酵食品において発酵過程中のアルギニンの減少は,共通した特徴的な現象である。……一般に微生物は強いアルギニンの異化作用を持ち,味噌より分離した乳酸菌がアルギニンをオルニチンおよびチトルリンに分解することが認められている。 と記載されているとおり, 」 大豆発酵食品において使用される微生物(乳酸菌)がアルギニンをオルニチンに分解すること(甲5の1・2)も,本件優先日ないし本件訂正発明の出願日において,技術常識となっていた。
また,乳酸菌においては,生成される乳酸によってpHの低下を引き起こし,生育不良等が生じないようにするために,アルギニンを添加することによってpHの低下を防ぐことは,本件優先日よりも前から当業者にはよく知られた事実であり,さらに,微生物を使用した発酵分野において,複数の代謝産物が同時に産生される ことは通常であり,当業者にとっては至極当然のことであった(甲213)。
以上からすれば,系内にアルギニンが存在している状況における微生物(例えば乳酸菌)の発酵において,アルギニンを分解してオルニチンが不可避的に生成されることは技術常識であったし,このような形でオルニチンを他の成分と同時に生成することは当業者にとって何ら特別なものではなく,発酵分野において通常生じる程度の技術常識であった。
ウ 本件訂正発明の 「発酵物の乾燥重量1g当たり8mg 以上のオルニチンを生成」するという点は,何ら技術的意義を有しない無意味な数値限定である。オルニチンは,天然に広く存在する遊離アミノ酸(タンパク質を構成することなく,単体で存在する。)である。ヒトでは,L-アルギニンから生合成される。すなわち,ビタミンや必須アミノ酸と異なり,敢えて食品から摂取する必要はない。
例えば,「おやすみオルニチン 良眠サポート」と題する機能性表示食品は,「L-オルニチンは起床時の主観的な睡眠感を評価する一部の指標(長く眠った感覚)を改善し,より良い気分の目覚めをサポートする機能が報告されています。 と機能 」性表示がなされているところ,オルニチンを392mg 含有している(甲16の1)。
また,「キリン サプリ ヨーグルトテイスト」と題する機能性表示食品は,「オルニチンは,快眠(良い寝つき・深く長く眠れた感覚)をサポートすることが報告されています。 と機能性表示がなされているところ, 」 オルニチンを400mg 含んでいる(甲16の2) 他方, 。 本件訂正発明が規定するオルニチンの量は「8mg」であり,上記機能性表示食品の含有量のわずか「1/50」程度の微量にすぎない。
この点については,複数の専門家も,本件訂正発明が規定するオルニチンの量(8mg)では,有意な作用を奏しない旨を述べている(甲26,209,210)。
本件訂正発明における数値限定が何ら有意な作用効果を奏しないことは,本件訂正発明が「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8mg 以上のオルチニン」及び「1mg 以上のエクオール」について規定しているにもかかわらず,それに対応する課題についても効果についても本件明細書に全く記載がないことからも明らかである。
(2) 進歩性について ア 相違点の認定 (ア) 本件審決の認定した相違点1は,複数の事項を含んでいるため,以下,本件審決が認定した相違点1及び2を,以下の相違点A1〜A5に分けて検討する。
相違点A1:微生物がオルニチン産生能力を有すること 相違点A2:発酵原料にアルギニンを添加すること 相違点A3:オルニチンを含有する発酵物が生成されること 相違点A4:発酵処理によって生成したオルニチンが発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上であり,エクオールが発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上であること 相違点A5:製造される発酵物が粉末状であり,食品素材として用いられること (イ) 以下に述べるとおり,そもそも上記相違点A1及びA3〜A5は,いずれも「刊行物に記載されているに等しい事項」であって,相違点とはならない(後記イ)。
相違点A2に係る構成については,甲1発明及び周知技術から,容易に想到することができるものであって,本件訂正発明は進歩性を有しない(後記ウ)。
仮に,上記相違点A1及びA3〜A5が相違点であると認定されたとしても,これらの相違点に係る構成については,甲1発明及び周知技術から,容易に想到することができるものであって,本件訂正発明は進歩性を有しない(後記エ)。
また,このように本件訂正発明は進歩性を有しないにもかかわらず,本件審決は誤った判断手法を用いて進歩性判断を誤ったものである(後記オ)。
以上のとおり,本件訂正発明は,甲1及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであって,進歩性を有しない。
イ 相違点A1及びA3〜A5は相違点ではないこと (ア) 相違点A1 甲1は, 「ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)」を「エクオール産生能力」を有する微生物として明示している(甲1・3頁11〜15行及び26〜27行)。
そして,甲1(3頁28行)では, 「以下,この乳酸菌の菌学的性質につき詳述す る。 とした上で, 」 ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号) (「この乳酸菌」 が (1 ) 「3)アルギニンジヒドラーゼ: +」であるとして,この生化学的性質を有することを開示している(甲1・4頁20行)。
このことに,前記(1)イの技術常識(@「アルギニンジヒドロラーゼ」を有する微生物はアルギニンを分解してオルニチンを生成できること,及びAラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)の属する「ラクトコッカス・ガルビエ」も「アルギニンジヒドロラーゼ」活性を有しオルニチン産生能力があること)を考慮すれば,ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)がオルニチン産生能力を有することは,刊行物たる甲1に記載されている事項に当該技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができる。
よって,相違点A1(微生物がオルニチン産生能力を有すること)は,甲1に記載されているに等しい事項である。
なお,被告の主張は,ある菌株がADH活性を有していたとしても, 「必ずしもオルニチンが蓄積した発酵物を得られるとは限らない」という話であって,オルニチンが蓄積しないことを示さない。生成されたオルニチンは,乳酸菌にとっては利用価値のないものであるため,菌体外へ排出され,蓄積されるところ(甲213・3頁) 菌体外に蓄積されたオルニチンが, , 生きた菌体内の酵素に起因するオルニチン脱炭酸能により分解されることは物理的に不可能であることは技術常識である。
ところで,新規性要件及び進歩性要件は,特許発明技術的範囲に包含されている物・方法について特許権を付与して独占を与えて良いか否かを判断するものであるところ,実施者の認識によって特許権侵害の有無が変わるわけではないことを踏まえると,引用発明との相違点の認定に当たっては,専ら客観的・内在的に物・方法が同一か否かにより判断すべきである。
(イ) 相違点A3 甲1発明は,試験例1(甲1の明細書〔以下「甲1明細書」という。〕23頁22行以下)に記載されたとおり発酵原料を微生物であるラクトコッカス 20-92(FERM BP- 10036 号)を用いてBHI(Bact Brain Heart Infusion)ブロスで発酵処理を行っている。
そして,上記(ア)のとおり,ラクトコッカス 20-92(FERM BP-10036 号)がアルギニンジヒドロラーゼの生物学的性質を有していることは甲1の明細書に明示されており,アルギニンジヒドロラーゼはアルギニンからオルニチンを生成するオルニチン生成能力があることを示していることは技術常識であった。
また,BHIブロスなどの栄養培地に「アルギニン」が含まれていることは技術常識である(甲15の1〜3)。
よって,発酵原料を微生物であるラクトコッカス 20-92(FERM BP-10036 号)を用いてBHIブロスで発酵処理することによって,オルニチンを含有する発酵物が生成されていることは,刊行物たる甲1に記載されている事項に技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができるから,相違点A3は,甲1に記載されているに等しい事項である。
(ウ) 相違点A4 a オルニチンについて 甲1の試験例1に用いられている「ラクトコッカス20-92株」は,本件明細書の参考例1-1〜1-3(本件特許明細書段落【221】〜【224】)及び参考例1-4(本件特許明細書段落【225】〜【228】)に用いられている「ラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)」と同一であるところ,本件明細書の段落【228】【表3】では,「発酵前」に存在していた「遊離アルギニン」881mg(5.06mmol)が, 「発酵後」には12mg に減少し,他方で, 「発酵前」は検出されなかった「遊離オルニチン」が1.06g(8.02mmol)検出されたことが記載されており,アルギニンからオルニチンへと100%(変換率約159%)を優に超える変換がなされている。
上記変換率を踏まえ,甲1の試験例1において産出されるオルニチンの量を算出する。まず,「BHIブロス」に含まれる「遊離アルギニン」の量は「1.20%」 であるから(甲15の1)「BHIブロス」37g/L(甲15の2の5枚目赤枠 ,部分)に含まれる「アルギニン」の量は,0.444g/Lである。アルギニンからオルニチンへの変換率を100%とすると,0.444g/Lの「アルギニン」から0.337g/Lの「オルニチン」が産生される。BHIブロス1L中の固形分約37gがあり,0.337gのオルニチンが新たに産生されたというのであるから,発酵物の乾燥重量1g当たりの産生される「オルニチン」量は9.10mg となる。なお, 「BHIブロス」には元来「オルニチン」が234mg/100g含まれている(甲15の1)ため,最終的な発酵物1g当たりの「オルニチン」の量は,発酵物の乾燥重量1g当たり11.4mg である。
原告が行った甲1の図3(1)の再現実験(甲18の1)において, 「ダイゼイン10mg/L」の場合,オルニチン産生量は,発酵物の乾燥重量1g当たり13.7mg であった。また,甲1も培地として開示している「GAMブイヨン」及び「変法GAMブイヨン」に含まれる量のアルギニンからでも, 「8mg」を超える程度の「オルニチン」を生成し得ることもまた当業者は十分に理解し得た(甲29)。
したがって,発酵物の乾燥重量1g当たり8mg 以上のオルニチンが生成されることは,刊行物たる甲1に記載されている事項に技術常識参酌することにより,当業者が導き出すことができる事項である。
b エクオールについて 甲1の25頁15〜24行には,ダイゼイン換算量として約80μg/mL」「豆 「 の乳」を用いて発酵させた結果, 「57.0μg/mL」のエクオールが生成したことが記載されている(なお,図3(2)参照) そして, 。 被告が本件無効審判の答弁書(甲211)16頁において主張しているとおり,甲1の「図3(1)」に関するエクオール産生量「10μg/mL」を乾燥重量1g当たりに換算すると「0.27〜0.28mg 程度」となるのであれば,甲1の「図3(2)」において「57.0μg/mLのエクオール」が生成された場合には,乾燥重量1g当たり1.5〜1.6mg のエクオールが生成していることになる。
なお,原告が行った甲1の図3(2)の再現実験(甲18の1)において, 「ダイゼイン80mg/L」の場合,エクオール産生量は,発酵物の乾燥重量1g当たり1.33mg であった。
甲14の2のFIG.1に代表されるように,エクオール1mol は,ダイゼイン1mol から形成されることが,本件優先日ないし本件訂正発明の出願日に周知であったし,甲1発明の試験例1の具体的なエクオール生成量については,上記のとおり試験例1の再現実験を行い,その生成物を当業者が技術常識又は周知技術を用いて任意の方法で調べれば明らかとなる事柄である。
したがって,甲1の図3(2)では発酵物の乾燥重量1g当たり1.5〜1.6mg のエクオールが生成されることになるから,発酵物の乾燥重量1g当たり1mg 以上のエクオールが生成されることは,刊行物たる甲1に記載されている事項に技術常識参酌することにより,当業者が導き出すことができる。
c よって,相違点A4は,甲1に記載されているに等しい事項である。
(エ) 相違点A5 甲1には,(3-4)食品形態」 「 (13頁7行目) 「本発明エクオ一ル産生乳酸菌 ,含有組成物は,一般には,前記特定の乳酸菌を必須成分として,適当な可食性担体と共に含む食品形態に調製される。」 (13頁8〜9行), 「固形食品形態には,顆粒,粉末(発酵乳凍結乾燥粉末などを含む),錠剤,発泡製剤,ガム,グミ,プディングなどの形態が含まれる。(13頁23〜25行)など,製造される発酵物が粉末で 」あっても良いこと,食品形態に調製し得ることについて明記されている。
したがって,当業者であれば,刊行物たる甲1に記載されている事項に技術常識参酌することにより,任意の方法で粉末状の発酵物を調製し,当該発酵物を食品の素材として用いることができ,製造される発酵物が粉末状であり,食品素材として用いられることは,当業者が導き出すことができるから,相違点A5は,甲1に記載されているに等しい事項である。
ウ 相違点A2は容易に想到できること 「添加」とは,「ある物に何かをつけ加えること。そえ加えること。」である(新村出編『広辞苑第7版』。
) 甲1では,微生物培養のための栄養培地について「BHI,EG,BL,GAM培地」 (10頁19〜20行)を挙げ,実施形態では「液体培地(MRS)(23頁 」1行),試験例1では「BHIブロス(増殖用液体培地(基礎培地)(23頁25〜 」26行)「GAM寒天培地」 , (24頁10行),試験例2では「BHIブロス」 (26頁4行),試験例3では「増殖用液体培地(基礎培地)(26頁26行) 」 ,試験例4では「BHIブロス」 (28頁2行) 実施例2では , 「嫌気性菌培養用のGAM培地」(32頁3〜4行)が用いられている。これらの栄養培地は,微生物の栄養源であり,生体由来の様々な成分を多く含んでいるところ,アルギニンは,たんぱく質を構成するアミノ酸であるから,上記の栄養培地の生体由来の成分中に多く含まれている。上記「BHIブロス」が脳や心臓の生体成分を含み,それらにアルギニンが含まれることが当業者には周知であり(甲15の1〜3)「BHIブロス」は,栄 ,研化学株式会社により,遅くとも1959年(昭和34年)以降,一般に販売されている(甲19,23)「GAMブイヨン」及び「変法GAMブイヨン」について 。
も,遊離アルギニンが含まれていることも技術常識である(甲29)。また,甲1には,培地に付け加えることができる発酵促進物質の一例として,酵母エキス,ペプトンなどが挙げられているが(15頁1〜2行) これらにもアルギニンが含まれて ,いる。
これらはいずれも,栄養培地や発酵促進物質にアルギニンが含まれていることを開示するものであり,発酵原料にアルギニンが付け加えられているものではない。
しかしながら,発酵処理において発酵原料と共に用いる栄養培地にアルギニンが含まれているのであるから,当業者は,発酵原料自体にアルギニンを付け加えることができることを認識し,本件訂正発明の開示する構成に容易に想到することができる。
したがって,相違点A2に係る構成については,甲1発明及び周知技術から,容 易に想到することができるものであって,本件訂正発明は進歩性を有しない。
エ 相違点A1及びA3〜A5は容易に想到できること 仮に相違点A1及びA3〜A5に係る構成が,一応の相違点となると認定される場合であっても,当業者は,既に述べた技術常識を踏まえて,甲1発明及び周知技術からこれらの相違点に係る構成に容易に想到することができることは明らかである。
そもそも,ダイゼイン類を発酵原料とするアルギニンの存在下における微生物を用いた発酵であれば,当該発酵処理によりオルニチンが不可避的に生成されることは技術常識であり,このような形でオルニチンを生成することは周知技術であった。
また,本件訂正発明が規定するオルニチン「8mg/g」という程度の微量では,およそ有意な作用を奏しないのであって,このことは後述するとおり本件訂正発明は「発酵物の乾燥重量1g当たり」 「8mg以上のオルチニン」及び「1mg以上のエクオール」について規定しているにもかかわらず,それに対応する課題についても効果についても本件明細書に全く記載がないことからも明らかである。
したがって,仮に,相違点A1及びA3〜A5が相違点であると認定されたとしても,相違点A1及びA3〜A5に係る構成については,甲1発明及び周知技術から,容易に想到することができる上,そもそもこれらの構成については技術常識,周知技術及び何ら有意な作用を奏しない無意味な構成の組み合わせにすぎないのであり,この点は進歩性の判断に影響を与えない。
この点,被告は,エクオールに加えてオルニチンを含有する発酵物を得られるようにする積極的な動機付けは存在しないなどと主張するが,下記オのとおり,早晩公衆に利用可能となる物・方法については,実施する際の意図に違いがあったとしても,独占権を認めてまで創作のインセンティブを与える必要はないから,本件訂正発明と全く同一の技術的思想に想到することが動機付けられる必要はなく,物又は方法の面において客観的に同一といえる技術に想到することが動機付けられれば十分である。
オ 本件審決の判断方法について 本件審決は,甲1発明において開示されている製造方法から,本件訂正発明の技術思想に至る動機付けがなければ,本件訂正発明は甲1発明から容易に発明をすることができたとはいえないと判断しているものと思われるが,このような判断手法は,進歩性要件の趣旨に反するものである。
進歩性要件の趣旨は,公知の技術から容易に創作可能な技術に対する独占を否定することにあり,抽象的な技術思想には容易に想到できない場合であったとしても,具体的な技術が容易に得られるものであったのであれば,それに対する独占権を認める必要はない。本件審決のように本件訂正発明の技術思想に容易に想到することができることまで求めることは不要であり,構成要件を充足する製造方法容易に想到することができれば,それだけで進歩性は否定されると解すべきである。
したがって,甲1に,有用な生成物としてのオルニチンの生成に関する記載も示唆もないことを理由として進歩性を認めた本件審決の判断は,誤っている。
(3) 新規性について 被告は,相違点A2に関する本件訂正発明の「アルギニンを添加する」の解釈に関し,本件特許権の侵害を問題とする別件訴訟(知的財産高等裁判所令和2年(ネ)第10059号。 「別件訴訟」 以下 という。 の原審
追加
第18555号)において,『アルギニンを添加する』とは,その文言上,発酵原「料に含まれるアルギニンが,ダイゼイン類を供給する物質中に含まれているアルギニンではなく,別途添加したものであることを意味するのであり,当該アルギニンを培地/培養液中に含めて添加することを排除するものではない。と主張した」(甲22・6頁)。
上記主張を前提とすると,甲1には,発酵処理において発酵原料と共に用いる栄養培地や発酵促進物質にアルギニンが含まれていることが開示されているところ,アルギニンが含まれた培地や発酵促進物質を添加することも本件訂正発明の「アルギニンを添加する」に該当することになる。
したがって,被告の別件訴訟における主張を前提とすると,本件訂正発明は,特許法29条1項3号所定の「刊行物」たる甲1に「記載された発明」に当たり,新規性を有しない。
(4)したがって,本件訂正発明は,甲1に記載された発明であって新規性を有しないか,甲1発明及び周知技術から容易に想到できるから進歩性を有しない。
(被告の主張)(1)本件訂正発明についてア原告は,アルギニンが存在する状況下における微生物の発酵において,オルニチンが不可避的に生成されることが技術常識かつ周知技術であったなどと主張するが,誤りである。全ての「微生物」がアルギニンジヒドロラーゼ活性(ADH活性)を有するわけではないし,仮に「ラクトコッカス・ガルビエ」種や「ラクトコッカス属」「ストレプトコッカス属」に属するものなかにADH活性を有する微生,物が存在し得ることが知られていたとしても,それらの「種・属」に属する全ての微生物がADH活性を有するわけではなく,ましてや,ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する「エクオール産生能」を有する微生物が,必ずADH活性を有するとも限らない。
イ原告は,本件訂正発明について,発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンの生成という何ら技術的意味のない数値限定をしているなどと主張するが,オルニチンが様々な機能を有し,健康に有利な作用を持つ物質であることが知られていたところ(乙6),当該技術分野における専門家の意見書(甲107,108,118)により,本件訂正発明に規定されるオルニチン量により有利な健康効果が生じることが示されている。
すなわち,本件訂正発明により製造される発酵物は,エクオール及びオルニチンのいずれも含有することにより,エクオールが,更年期女性におけるホルモンバランスを改善し,疲労感等の更年期症状の改善の効果を有するとともに,肝臓を標的としたホルモンバランスを改善し,肝臓の機能を高めて疲労感の改善の効果を有す る一方,オルニチンは肝臓における代謝に関与して疲労感の改善の効果を有する。
すなわち,同時に複数の側面から,更年期の女性の疲労感の改善効果を訴求できるという効果を有する。このようにエクオールにより更年期女性のホルモンバランス異常による肝機能の低下を改善し,かつ,オルニチンにより肝機能を改善することで,脂質代謝異常をも改善し,女性の健康増進が期待できる(甲107,108)。
(2)進歩性についてア相違点の認定について原告の主張する相違点の区分を前提に以下主張する。
イ相違点A1及びA3〜A5は相違点であること(ア)相違点A1甲1には,「ラクトコッカス20-92(FERMBP-100036号)」が,エクオール産生能に加えて,オルニチン産生能をも有する微生物であることは何ら開示も示唆もされていない。甲1(4頁)の「アルギニンジヒドラーゼ:+」との記載は,菌の性状から菌種を判定する目的で用いられる同定キットの判定結果を示しているにすぎず,オルニチンの生成については何ら確認できない。
原告がいうアルギニンジヒドロラーゼ活性が,一般論として,菌がアルギニンジヒドロラーゼ経路を用いてアルギニンからエネルギーを得ること,及びその過程でオルニチンが産生し得ることを示すものであるとしても,実際の培養系においては,例えば,シトルリンまでで反応が止まっている可能性もあり,また,オルニチンが乳酸菌等のオルニチン脱炭酸能により分解してさらに代謝するものも存在することから(甲101,102),仮に一時的にオルニチンが生成し得たとしても,分解されて発酵物には残存しない,すなわち,発酵物中には必ずしも蓄積されるわけではないと理解することが,当業者の常識であったといえる。
本件優先日の時点において,当業者が仮に甲1に接したとしても,甲1の記載から,「ラクトコッカス20-92」がエクオール産生能力に加えてオルニチン産生能力をも有する微生物であり,実際にオルニチンが生成・蓄積していることを認識 できたとはいえないから,甲1にこれらの事項が記載されているに等しいとはいえない。
原告自身も,自らの別件特許(甲103)の審査過程における拒絶理由通知(甲104)に対する意見書(甲105)において,「アルギニンが含まれる培地で嫌気性微生物を培養しても,常にL-オルニチンが得られるとは言えません。L-オルニチンが得られるためには,嫌気性微生物が,アルギニンをL-オルニチンに変換するための酵素を有することが必要です。しかしながら,DSM19450株がそのような酵素を有するオルニチン産生菌であることは引用文献1および2には開示されておらず,示唆もされないと考えます」等と述べているが,アルギニンの代謝経路が文献上で明らかになっていないという意味では,甲1における「ラクトコッカス20-92」は,「DSM19450株」と同じである。
また,原告は,「ラクトコッカス20-92」を入手して行った甲18の実験結果によって,オルニチンの生成を確認したと主張するが,そもそも,原告の再現実験は,本件優先日後になされたものであるから,それをもって本件優先日当時に甲1に接した当業者が,甲1においてオルニチンが生成・蓄積していることを裏付けるものとはいえない。
ところで,原告は,いわゆる内在同一の考え方(以下,便宜上,「内在同一論」と呼ぶ。)によれば,各引用発明(甲1発明,甲6発明,甲9発明)は,本件訂正発明の構成要件を客観的・内在的に充足していると主張するが,本件訂正発明のような「生産方法の発明」については,原告の主張する内在同一論を適用して新規性を否定することは妥当ではない。万が一,本件訂正発明と各引用発明の対比について,原告の主張する内在同一論に基づいたとしても,甲1,甲6,甲9に本件訂正発明が開示されているとはいえない。
(イ)相違点A3甲1にはエクオールとともにオルニチンを含有する発酵物を得ることは何ら開示されていないし,そもそもオルニチン自体に関する記載は一切なされていないし, 上記相違点A1で述べたとおり,「アルギニンジヒドロラーゼ活性」についての記載の有無はオルニチンが実際に生成するか否かとは直接関連するものではない。原告が別件特許の審査過程で主張していたように,培地にアルギニンが含まれているからといってオルニチンが蓄積した発酵物が常に得られるわけではない(甲105)。
甲1の試験例1で用いられている「BHIブロス」は,一般に,主として試験研究用に用いられる培地であって,原料としてウシやブタの脳・心臓に由来する栄養成分を含むものであるため食品用途として用いることは想定されていない材料であるというのが技術常識である(甲106)。そうすると,BHIブロスを用いた甲1の試験例及びその結果は,そもそも,得られた発酵物を食品素材として用いることを前提とする本件訂正発明との関係で用いることが想定されない栄養培地であるから,BHIブロス中に含まれるアルギニンを考慮する余地はない。
したがって,相違点A3が甲1に記載されているに等しい事項であるとはいえず,本件審決に誤りはない。
(ウ)相違点A4aオルニチンについて上記(イ)で述べたように,甲1に「オルニチンを含有する発酵物が生成(蓄積)されること」は記載されていないのであるから,発酵物中のオルニチンの量に関する相違点A4も甲1に記載されているに等しい事項ということはできないことは明白である。
原告は,本件明細書の記載を根拠に換算しているが,本件優先日時点では,本件明細書は公開されていなかったから,本件明細書の記載を前提に甲1の開示の内容を認定することはできない。
原告は,自らが行った甲1の試験例1の再現実験(甲18の1)によれば,オルニチン産生量が13.7mgであったとも述べるが,原告の再現実験は,本件優先日後になされたものであるから,それをもって,本件優先日当時に甲1に接した当業者が,甲1においてオルニチンが生成・蓄積していることを裏付けるものとはいえ ない。甲1の出願人である被告自身が行った再現実験である甲19によってオルニチンの生成量は「8mg以上」の範囲外となることが実証されている。
bエクオールについて原告は,「オルニチン量」に関しては,甲1の試験例1のうちBHIブロスを用いる「ダイゼイン含有基礎培地」に関する実施態様に基づいた主張をしておきながら,「エクオール量」についてこれとは異なる実施態様である「豆乳」を発酵原料として用いる実施態様による当てはめを行っている点で,誤りである。
仮に,「豆乳を発酵原料として用いる実施態様」を考慮したとしても,被告が行った試験例1の再現実験により,発酵原料として豆乳を用いた場合には,エクオールの生成量が「1mg以上」を下回るものであったことが実証されている(甲19)。
cしたがって,相違点A4が甲1に記載されているに等しい事項であるとはいえない。
(エ)相違点A5甲1の試験例1では,得られた発酵物が粉末状のものであり,食品素材として用いられるものであるとの記載は何らなされていないのであるから,甲1の試験例1の実施態様を甲1発明と認定しているとの前提に基づけば,相違点2(相違点A5)を認定した審決に誤りはない。
ウ相違点A1〜5は容易に想到できない甲1発明は,あくまでエクオール産生能を有する乳酸菌を用いてエクオールを製造する方法に関するものであって,エクオールとともにオルニチンを含有する発酵物を得ることを課題とするものではない。甲1には,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物を用いてエクオールとオルニチンを含有する発酵物を得るという具体的な技術的思想は開示されていなし,オルニチンを得るためにアルギニンを発酵原料に含むことも何ら開示されていないし,そもそもオルニチン自体に関する記載は一切なされていない。甲1発明において,エクオールに加えてオルニチンを含有する発酵物が得られるようにし,かつエクオールやオルニチンの産 生量を「前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」という範囲内となるように原料や発酵条件を設定することの積極的な動機付けは存在しない。
加えて,本件訂正発明が奏する「同時に複数の側面から,更年期の女性の疲労感の改善効果を訴求できる」という上記の効果は,甲1には何ら記載も示唆もされておらず,甲1を含む従来技術からは予測し得ない顕著な効果である。
したがって,本件訂正発明は甲1に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
エ本件審決の判断方法について本件訂正発明に規定されるオルニチン量は「何ら技術的意義のない構成」ではないから,そもそもその前提を欠き理由がないことは明白である。百歩譲って,ある種の微生物ではアルギニンからオルニチンを生成し得ることが技術常識ないし周知技術という余地があったとしても,引用発明との相違点に係る構成についての技術的思想の開示や適用する動機付けが不要となるわけではなく,そのことだけでただちに相違点に容易に想到し得たといえるわけではない。
仮に主引用発明との相違点に係る構成が周知技術技術常識であったとしても,単にそのことだけで相違点に係る構成の進歩性を否定し得るものではなく,主引用発明にかかる周知技術等を適用することの動機付けがあるか等を具体的に検討することが求められる(東京高判昭和61年10月23日判決,知財高裁平成23年9月28日判決)。
原告は,技術的に意義のない構成であれば「文献に記載や示唆もないことは当然である」などとも述べるが,上述のように,副引用発明であっても引用文献から抽出し得る「技術的思想」である必要があるのであるから,相違点に係る構成が技術的思想として引用文献に開示されている必要がないなどという原告の主張は明らかに誤りである。
(3)新規性について 原告は,別件訴訟における被告の主張(甲22)を引用し,これを前提とすれば,アルギニンの添加に関する相違点A2は甲1に記載されるに等しいということができ,本件訂正発明は甲1により新規性を有しないと主張する。
しかしながら,甲1には,エクオールを得るための発酵原料にアルギニンを別途添加する工程は開示されていないし,BHIブロス等にアルギニンが含まれること具体的には記載されていない。そして,本件訂正発明と甲1発明とは,実質的な他の相違点が存在するのであるから,本件訂正発明が甲1発明に対して新規性を有することは明らかであるから,上記原告の主張は理由がない。
2取消事由3(甲6に基づく進歩性違反についての判断の誤り)について(原告の主張)(1)相違点の認定ア本件審決の認定した相違点1’は,複数の事項を含んでいるため,以下,本件審決が認定した相違点1’及び2’を,以下の相違点B1〜B5に分けて主張することとする。
相違点B1:微生物がオルニチン産生能力を有すること相違点B2:発酵原料にアルギニンを添加すること相違点B3:オルニチンを含有する発酵物が生成されること相違点B4:発酵処理によって生成したオルニチンが発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上であり,エクオールが発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上であること相違点B5:製造される発酵物が粉末状であり,食品素材として用いられることイ上記相違点B1,B3及びB5は,いずれも「刊行物に記載されているに等しい事項」であって,相違点とはならない(後記(2))。
そして,相違点B2及びB4に係る構成については,甲6発明及び周知技術から,容易に想到することができるものであって,本件訂正発明は進歩性を有しない(後記(3))。
仮に,上記相違点B1,B3及びB5が相違点であると認定されたとしても,こ れらの相違点に係る構成については,甲6発明及び周知技術から,容易に想到することができるものであって,本件訂正発明は進歩性を有しない(後記(4))。
以上のとおり,本件訂正発明は,甲第6号証及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであって,進歩性を有しない。
(2)相違点B1,B3及びB5は相違点ではないことア相違点B1甲6は,「エクオール産生能力」を有する微生物として,「BIFIDOBACTERIUMLACTIS,LACTOBACILLUSACIDOPHILUS,LACTOCOCCUSLACTIS,ENTEROCOCCUSFAECIUM,LACTOBACILLUSCASEI,およびLACTOBACILLUSSALIVARIUS」の「混合培養物」(甲6の2・段落【0070】及び【0071】参照)を開示している。
そして,上記「混合培養物」のうち,「LACTOCOCCUSLACTIS」がアルギニンデイミナーゼ経路(アルギニンジヒロドラーゼ経路と同義)を介してアルギニンを代謝し,オルニチンを産生するという「オルニチン産生能力」を有していることは技術常識であった(甲7・1024頁,甲17の1)。
そうすると,ラクトコッカス・ラクチスが,エクオール産生能力だけでなくオルニチン産生能力を有する微生物であることは,刊行物たる甲6に記載されている事項に当該技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができる。
よって,相違点B1は,甲6に記載されているに等しい事項である。
イ相違点B3上記アのとおり,甲6において開示された微生物であるラクトコッカス・ラクチスが,アルギニンを代謝してオルニチンを産生するという「アルギニンデイミナーゼ経路」を有していることは技術常識であった。
そして,甲6は,発酵原料として「ほぼ20mg/lのダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳」(甲6の2・段落【0152】)を用いることを開示しているところ, 甲4の1の「Table4」保存中の無菌豆乳の遊離アミノ酸への貯蔵温度の影響)(は,「豆乳」が「アルギニン」を含むことを開示しており,このことは技術常識であった。
したがって,甲6発明においてオルニチンを含有する発酵物が生成されることは,刊行物たる甲6に記載されている事項に技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができる。
よって,相違点B3は,甲6に記載されているに等しい事項である。
ウ相違点B5甲6の段落【0032】には「S-エクオールを含有する組成物本発明の組成は,S-エクオールを含み,典型的には主にS-エクオールからなる。その組成は市販品を作ることに使われる。その組成物,或いはそこから作られる製品は経口で消費したり,局部に塗布したりし得る。」と記載されており,同段落【0044】には「経口投与に適した組成物は,……粉末……のような個々の形で提供できる。」と記載されている。また,甲6の段落【0065】には「従来の食品技術を利用して,S-エクオールはバルクで製造することができ,また種々の食品においては現場で製造できる。ダイゼインやダイゼインを誘導できる他のイソフラボン誘導体を含むベース培養液,食物製品または植物抽出物を提供できる。ダイゼインまたは他のイソフラボンは,標準的なバクテリア性または酵素発酵プロセスによってS-エクオールに変換でき,Sエクオールを含有するバルク溶液や食物製品,または植物抽出物を提供できる。」と記載されている。
以上の記載からすると,甲6において製造される発酵物を粉末状にし,食品素材として用いることについては,刊行物たる甲6に記載されている事項に当該技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができる。
よって,相違点B5は,甲6に記載されているに等しい事項である。
(3)相違点B2及びB4は容易に想到できることア相違点B2 甲6発明は,発酵原料として「ほぼ20mg/lのダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳」(甲6の2・段落【0152】)を用いることを開示しており,「豆乳」が「アルギニン」を含むことは技術常識であった。そして,甲6発明において用いられる発酵原料にアルギニンが含まれている以上,当業者は,発酵原料にアルギニンを付け加えるという形で発酵原料にアルギニンを含めることにも容易に想到することができる。
したがって,甲6発明及び周知技術から,当業者は,相違点B2に係る構成を容易に想到することができる。
仮に,被告の別件訴訟における主張(「アルギニンを添加する」の文言は,アルギニンを培地/培養液中に含めて添加することを排除するものではない。を前提とし)たとしても,甲1などの周知技術から,当業者が相違点B2に係る構成を容易に想到することができることは明らかである。
イ相違点B4甲6には,発酵処理によって生成したオルニチンが発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上であり,エクオールが発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上であることについて,明示的な記載はない。
しかしながら,生成したオルニチンが発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上であり,エクオールが発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上であるという数値限定は,何ら技術的意義のない構成である。このような構成について,通常は明示的な記載がなく,技術思想やそのような構成を採用する動機付けは存在しない以上,文献に記載や示唆もないことはむしろ当然といえる。このような技術的意味のない構成に関して,技術思想への想到を求めることは,進歩性要件が設けられた趣旨を没却するものである。
そして,甲6発明にはダイゼインもアルギニンも含まれているのであるから,当業者は,これらの量を適宜追加することによって,オルニチンが発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上であり,エクオールが発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上と いう生成量を実現することができる。
したがって,甲6の記載から,当業者は相違点B4に係る構成を適宜実現することができ,容易に本件訂正発明の開示する構成を想到する。
(4)相違点B1,B3及びB5は容易に想到できること仮に相違点B1,B3及びB5に係る構成について,甲6に記載されているに等しいとまではいえず,一応の相違点となると認定された場合であっても,当業者は,既に述べた技術常識を踏まえて,甲6発明及び周知技術からこれらの相違点に係る構成に容易に想到することができることが明らかである。
(被告の主張)(1)相違点の認定原告の主張する相違点の区分を前提に以下主張する。
(2)相違点B1,B3及びB5は相違点であること甲6には,エクオールとともにオルニチンを含有する発酵物を得ることは何ら開示されていないし,そもそもオルニチン自体に関する記載がない。また,甲6には,アグリコンをエクオールに変換するバクテリア菌種によって,アルギニンがオルニチンに変換されるとの記載はないし,オルニチンを発酵生成物として得ることを目的として,アルギニンを発酵原料に含むことの開示もない。すなわち,甲6には,ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することによって,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物を得ることが,具体的な技術的思想として開示されていない。
さらに,甲6には,オルニチンとエクオールの含有量を発酵物の乾燥重量1g当たり「8mg以上」及び「1mg以上」という特定量とすることは何ら開示も示唆もされていない。
これに対し,原告は,アルギニンデイミナーゼ経路が技術常識であり,ラクトコッカスラチルスがオルニチン産生能を有することも技術常識であったことを挙げ,・相違点B1及びB3は甲6に記載されているに等しいと述べる。
しかしながら,ある種の微生物がアルギニンを代謝に使用してエネルギーを得ているとしても,そのことと「オルニチンが蓄積した発酵物が得られること」とは同義ではないところ,単にラクトコッカス・ラチルスがアルギニンデイミナーゼ経路を有することが知られていたとしても,当業者は一旦生成されたオルニチンが必ず蓄積されるわけではないとの認識を有していたのであるから,そのことだけで甲6の発酵物がオルニチンを含むことが開示されているとはいえない。また,仮に「ラクトコッカス・ラクチス」のなかにオルニチンを産生し得るものが存在するとしても,当該ラクトコッカス・ラクチス以外にも複数の微生物を含む甲6の「混合培養物」において実際にオルニチンが生成・蓄積することが具体的に確認されていない以上,甲6の実施例5において,アルギニンデイミナーゼ経路によりオルニチンが生成・蓄積していることを認識できない。また,相違点B5についても,甲6発明の対象とされた甲6の実施例5の実施態様では,得られた発酵物を粉末状とすることは何ら開示されていない。
したがって,相違点B1,B3,及びB5は,いずれも甲6に記載されているに等しい事項とはいえないから,本件審決に誤りはない。
(3)相違点B1〜B5は容易に想到できないことア相違点B1及びB3〜B5原告は,相違点B1及びB3〜B5が容易に想到することができることの理由として,オルニチンが発酵処理により「不可避的」に生成されることは技術常識であることや,「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上」というオルニチン量は何ら技術的意義のない構成であり動機付け等は不要であること等を挙げるが,前記1(被告の主張)(1)のとおり,これらは誤りである。
甲6発明は,あくまで鏡像異性のエクオールを製造することを課題とするものであって,エクオールとともにオルニチンを含有する発酵物を得ることを課題とするものではない。そして,甲6には,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物を用いてエクオールとオルニチンを含有する発酵物を得るという技術 的思想は具体的に開示されていなし,オルニチンを得るためにアルギニンを発酵原料に含むことも何ら開示されていないし,そもそもオルニチン自体に関する記載がない。さらに,甲6には,オルニチンとエクオールの含有量を発酵物の乾燥重量1g当たり「8mg以上」及び「1mg以上」という特定量とするという技術的思想は何ら具体的に開示も示唆もなされていない。
してみると,鏡像異性のエクオールを製造することを課題とする甲6発明において,エクオールを得るための発酵原料にアルギニンを加えて,特定量のエクオールとオルニチンを含有する発酵物が得られるようにし,かつエクオールやオルニチンの産生量を「前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」という範囲内となるように原料や発酵条件を設定することの積極的な動機付けは存在しない。原告は,ダイゼインやアルギニンを適宜追加することによって,上記エクオールとオルニチンの生成量を実現することができるなどとも述べているが,それだけで動機付けとなるものではない。
したがって,相違点B1及びB3〜B5は,当業者が容易に想到し得たものではない。
イ相違点B2甲6には,エクオールを得るための発酵原料にアルギニンを別途添加する工程は,開示されていない。甲6発明においてエクオールに加えてオルニチンを含有する発酵物を得るという動機付けがないのであるから,かかる発酵物を得るために,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」によってオルニチンに変換されるアルギニンを発酵原料に添加する積極的な動機付けもまた存在しない。仮に甲6の実施例5において発酵原料として用いられている「ダイゼイン強化豆乳」なるものにアルギニンが含まれているとしても,これにさらに別途アルギニンを添加することは,特定量のオルニチンを含有する発酵物を得るという目的がない限り行い得ることではない。
ウしたがって,本件訂正発明は甲6に基づいて当業者が容易になし得たものと はいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
3取消事由4(甲9に基づく新規性進歩性違反についての判断の誤り)について(原告の主張)(1)進歩性についてア相違点の認定(ア)相違点1”は,複数の事項を含んでいるため,以下,本件審決が認定した相違点1”を,以下の相違点C1〜C4に分けて主張することとする。
相違点C1:微生物がオルニチン産生能力を有すること相違点C2:発酵原料にアルギニンを添加すること相違点C3:オルニチンを含有する発酵物が生成されること相違点C4:発酵処理によって生成したオルニチンが発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上であり,エクオールが発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上であること(イ)以下に述べるとおり,そもそも上記相違点C1,C3及びC4は,いずれも「刊行物に記載されているに等しい事項」であって,相違点とはならない(後記イ)。
そして,相違点C2に係る構成については,甲9発明及び周知技術から,容易に想到することができるものであって,本件訂正発明は進歩性を有しない(後記ウ)。
仮に,上記相違点C1,C3及びC4が相違点であると認定されたとしても,これらの相違点に係る構成については,甲9発明及び周知技術から,容易に想到することができるものであって,本件訂正発明は進歩性を有しない(後記エ)。
以上のとおり,本件訂正発明は,甲第9号証及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであって,進歩性を有しない。
イ相違点C1,C3及びC4は相違点ではないこと(ア)相違点C1甲9発明は,ストレプトコッカス・インターメディアス菌,とりわけ,ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)を開示しているところ, これは,本件特許明細書の段落【0032】記載のものと完全に一致するから,本件特許明細書の段落【0032】のエクオール産生微生物が「オルニチン産生能力」を有するならば,甲9発明の「ストレプトコッカス・インターメディアス菌」,特に「ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)」も当然に「オルニチン産生能力」を有することになる。このことは,特許権者である被告が,別件訴訟において甲11を提出し,ストレプトコッカスA6G-225「(FERMBP-6437)」が「オルニチン産生能力」を有することを示したことからも明らかである。
そして,「ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)」がオルニチン産生能力を有することは,本件優先日及び本件訂正発明の出願日当時に技術常識であった(甲3の7)。また,微生物が,客観的にオルニチン産生能力を有しているのであればアルギニンデイミナーゼの作用により,オルニチンが生成されていると考えるのが通常である。生成されたオルニチンは,乳酸菌にとっては利用価値のないものであるため,菌体外へ排出され,蓄積されるところ(甲213・3頁)菌体外に蓄積されたオルニチンが,,生きた菌体内の酵素に起因するオルニチン脱炭酸能により分解されることは物理的に不可能であることは技術常識である。
したがって,「ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)がエクオール産生能力だけでなく,オルニチン産生能力を有することは,刊行物たる甲9に記載されている事項に技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができる。
よって,相違点C1は,甲第9号証に記載されているに等しい事項である。
(イ)相違点C3?「変法GAM培地」がアルギニンを含んでいること(甲10,甲29),?発酵原料として甲9に明示されている「豆乳」がアルギニンを含むこと(甲4の1)及び?ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)が,オルニチン産生能力を有することはいずれも技術常識である。
被告は,甲9にオルニチンに係る記載がないことを指摘して相違点C3が実質的な相違点である旨主張するが,新規性進歩性判断の前提として引用発明との相違点を認定するにあたっては,専ら物・方法としての客観的・内在的な同一性を基準に判断すべきであり,認識されていた技術的思想の差異は問題とならない。そして,甲3の7において,ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437号)自体の名称が記載されていなくとも,同じストレプトコッカス属であるストレプトコッカス・ラクティスについてアルギニンデイミナーゼ経路を有している旨の記載が存在する以上,同様にストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437号)についてもアルギニンデイミナーゼ経路を有していると当業者は考えるのが通常であり,アルギニンデイミナーゼ経路を有していれば,オルニチン産生能力を有していることは客観的に明らかであって,当該微生物を反応に用いればオルニチンが生成されることは至極当然の事象であると当業者は認識する。
したがって,甲9においてオルニチンを含有する発酵物が生成されていることは,刊行物たる甲9に記載されている事項に技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができる。
よって,相違点C3は,甲9に記載されているに等しい事項である。
(ウ)相違点C4aオルニチンについて甲9には,ストレプトコッカス・インターメディアス菌及び嫌気性菌増殖用の変法GAM培地(ModifiedGifuAnaerobicMedium)を用いたエクオールの製造方法が開示されている。
甲9に開示される変法GAM培地は,甲28の1における「変法GAMブイヨン」に相当する。当該変法GAMブイヨンは,41.7g中にL-アルギニンが1.0g添加されているが(1.0g/41.7g=2.40g/100g),他の成分に由来するアルギニンと併せた総遊離アルギニン量を測定したところ,固形分100g中遊離L-アルギニンは「3.35%」含まれていた(甲28の2)。変法GAM 培地は,変法GAMブイヨン41.7gを1Lの水に溶解して調製する(甲28の1)。甲9によれば,基質となるダイゼインは,「0.01〜0.5mg/mL」(=0.01g〜0.5g/L)溶解するが,これは上記変法GAMブイヨンの1%程度なので,最終的に得られる発酵物の乾燥重量として,ダイゼイン由来のものは無視できる。そして,嫌気性菌の培養の前後で,培地の固形分(41.7g)は実質的に変化しないと考えられるので,培養前の変法GAM培地1L中に含まれるアルギニンの量は,1.40g(=41.7g×3.35%)となる。
培養によって,このアルギニンがすべてオルニチンに変換された(変換率:100%)とすると,1.40g×132.16(オルニチンの分子量)/174.20(アルギニンの分子量)の式により1.06gのオルニチンが生成されることになる。
そうすると,最終的に得られる発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニチン量は,最終的に得られる発酵物の固形分の濃度41.7g/Lから,1.06g/L×1000(mg換算のため1000倍)/(41.7g/L)の式により25.4mg/gである。
したがって,甲9が開示する「変法GAM培地」を用い,アルギニンがすべてオルニチンに変換された(変換率:100%)とすると,得られる発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニチン量は,25.4mgであり,本件訂正発明における乾燥重量1g当たりのオルニチン産生量「8mg以上」を満たしている。なお,甲11が示すとおり,ストレプトコッカスA6G-225の「オルニチン産生・変換率」が「122%」であるならば,変法GAM培地を用いたオルニチンの産生量はさらに増え,発酵物の乾燥重量1g当たり31.0mgとなる。
bエクオールについて甲9発明は,「発酵物の乾燥重量1g当たり1mg〜3mgのエクオールを生成」するものであるのに対し,本件訂正発明は,「発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上のエクオールを生成」するものであるため,エクオール生成量の上限について差異 がある。しかしながら,本件審決は,「通常,微生物は代謝産物を必要な程度の量を生産するという技術常識に照らせば,本件特許発明にオルニチン上限値が特定されていないからといって,下限値をはるかに超えるような生成量である場合まで含むものとは解されないところ,オルニチンの上限については,本件特許明細書の段落【0050】の記載も参酌すれば,当業者であればある程度理解できるから,上限値を特定しないことが新規事項の追加であるとはいえない。(本件審決11頁27」〜32行)と判断し,上限値が厳密に特定されている必要性はないことを前提としているため,上限値の差異は相違点を構成しないものと解するべきである。
c被告の主張に対する反論被告は甲9にオルニチンに関する記載がないことを指摘するが,引用文献の記載に従った結果,生成した発酵物の成分含量が本件訂正発明の構成要件を充足しているならば相違点とはならないし,引用文献中にオルニチンが生成されることに対する認識を窺わせる記載が全くなかったとしても,また生成されるエクオールやオルニチンの量について正確な認識を示す記載が欠けていたとしても,そのことは相違点を構成する理由とはならない。
被告は,甲9には,実施例3に「変法GAM培地」が用いられたとは具体的に記載されていないことから,実施例3に「変法GAM培地」を組み合わせて甲9発明を認定することは許されない旨主張しているところ,甲9の実施例3では,前培養に関して特に言及することなく,豆乳をストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437号)で発酵させたことが記載されているものの,前培養を行うことは,当業者にとっては当然のことである。そして,甲9の実施例3の箇所に前培養の方法についての記載がなかったとしても,甲9の明細書の一般的記載部分において(28頁),変法GAM培地であらかじめ培養(前培養)して増殖させた上で,ダイゼインを溶解させた変法GAM培地に接種し好気的条件下で静置培養(本培養)することが記載されているのであるから,実施例3も当然に変法GAM培地を用いて前培養していると考えるのが,むしろ当然である。本件審決も上記の理解 の下,甲9発明」「の認定において「変法GAM培地でエクオール産生能力を有する」と記載しており,本件審決の認定に誤りはない。
また,被告は,変法GAM培地は,主として試験研究用に用いられる培地であって食品用途として用いることは想定されていないとして,甲9・28頁の「変法GAM培地」に係る記載は,本件訂正発明の比較対象とはならない旨主張するが,甲9は,食品形態を主たる用途の一つとして想定したものであり(25頁17〜20行)その中でより好ましい例として変法GAM培地を用いた前培養が記載されてい,るのであるから,食品用途に用いられることを前提としたものである。そもそも,変法GAM培地が食品用途で用いられる場合の培地として想定されている材料か否かは,ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437号)を用いて変法GAM培地で発酵処理することによって,オルニチンを含有する発酵物が生成されているのかどうかという点に何ら影響を及ぼさない。仮に被告の主張を前提としても,発酵後に精製過程を経て,変法GAM培地由来の成分を除けば良い。
被告は,実験報告書(乙7)を根拠に甲9におけるオルニチン生成量が8mg/gに及ばないなどと主張するが,乙7記載の実験結果は,被告が行った過去の実験報告書(甲216)記載の実験結果と明らかに矛盾しており,およそ信用できない。
甲216記載の実験結果によれば,ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437号)を用いた発酵処理の結果,培養前は14.5mg/gあったアルギニンを変換して,培養前は0.8mg/gしかなかったオルニチンが15.0mg/gまで増加しており,オルニチンの生成量は14.2mg/gであった。
被告は,原告が甲9の実施例3で用いられているA6G-225の分譲を受けたにもかかわらず再現実験を提出していないことが,本件訂正発明の新規性を否定し得るような結果が出なかったことを推認させるものであると主張する。しかし,原告がNITEから分譲を受けた菌株は,そもそも甲9記載株とは別の菌株であることが明らかとなったことから,原告は分譲を受けた菌株を用いた試験の結果を提出していないだけであり,被告の上記主張は何らの根拠もない憶測である。
dしたがって,甲9において,発酵処理によって生成したオルニチンが発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上であり,エクオールが発酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上であることは,刊行物たる甲第9号証に記載されている事項に技術常識参酌することにより当業者が導き出すことができる。
よって,相違点C4は,甲9に記載されているに等しい事項である。
ウ相違点C2は容易に想到できること甲9発明は,「変法GAM培地」で発酵処理することを開示している。そして,「変法GAM培地」がアルギニンを含んでいること(甲10,甲29)及び発酵原料として甲9発明に明示されている「豆乳」がアルギニンを含むこと(甲4の1)は,本件優先日又は本件訂正発明の出願日よりも前から技術常識であった。
そして,発酵処理において発酵原料にアルギニンが含まれている以上,当業者は,発酵原料にアルギニンを付け加えることもまた可能であることを認識し,本件訂正発明の開示する構成に容易に想到することができる。
したがって,相違点C2に係る構成については,甲9発明及び周知技術から,容易に想到することができる。
エ相違点C1,C3及びC4は容易に想到できることダイゼイン類を発酵原料とするアルギニンの存在下における微生物を用いた発酵であれば,当該発酵処理によりオルニチンが不可避的に生成されることは技術常識であり,このような形でオルニチンを生成することは周知技術であった。また,本件訂正発明が規定するオルニチン「8mg/g」という程度の微量では,およそ有意な作用を奏しないのであって,このことは後述するとおり本件訂正発明は「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8mg以上のオルチニン」及び「1mg以上のエクオール」について規定しているにもかかわらず,それに対応する課題についても効果についても本件明細書に全く記載がないことからも明らかである。
したがって,仮に,相違点C1,C3及びC4が相違点であると認定されたとしても,相違点C1,C3及びC4に係る構成については,甲9発明及び周知技術か ら,容易に想到することができる上,そもそもこれらの構成については技術常識,周知技術及び何ら有意な作用を奏しない無意味な構成の組合せにすぎないのであり,この点は進歩性の判断に影響を与えない。
(2)新規性について甲9においては,発酵処理において発酵原料と共に用いる栄養培地にアルギニンが含まれていることが開示されているところ,被告の別件訴訟における主張(「アルギニンを添加する」の文言は,アルギニンを培地/培養液中に含めて添加することを排除するものではない。を前提とすると,)アルギニンが含まれた培地や発酵促進物質を添加することも本件訂正発明の「アルギニンを添加する」に該当するから,相違点C2についても甲9に記載されているに等しいといえる。そして,前記(1)イのとおり,相違点C1,C3及びC4も甲9に記載されているに等しい。
したがって,上記被告の別件訴訟における主張を前提とするならば,本件訂正発明は,特許法29条1項3号所定の「刊行物」たる甲9に「記載された発明」に当たり,新規性を有しない。
(被告の主張)(1)進歩性についてア相違点の認定原告の主張する相違点の区分を前提に以下主張する。
イ相違点C1,C3及びC4は相違点であること(ア)相違点C1甲9には,「ストレプトコッカスA6G-225」によりアルギニンがオルニチンに変換されるとの記載は全くないし,そもそもオルニチン自体に関する記載は一切なされていないのであるから,本件明細書中の記載や甲11を根拠とする原告の主張は「後知恵」というほかない。
「ストレプトコッカスA6G-225」がエクオールに加えてオルニチンを産生する能力を有することは,当業者が本件明細書を見て初めて理解できることであり,本件優先日時点では,本件明細書は公開されておら ず,当業者は本件明細書に接することができなかったのであるから,本件明細書の記載を根拠とすることは許されない。また,甲11の実験結果は,あくまで本件明細書の記載を前提として,段落【0032】に例示されている菌が実際にエクオール・オルニチン産生能を有することを示すためのものであるから,本件優先日前の先行技術である甲9発明の認定に用いることはできない。
原告は,甲3の7により「ストレプトコッカスA6G-225」がオルニチン生産能力を有することは本件優先日当時に技術常識になっていたなどと述べるが,甲3の7には「ストレプトコッカス・ラクティス」がアルギニンをアルギニンデイミナーゼ経路により代謝することが記載されているだけであり,ある種の微生物がアルギニンを代謝に使用してエネルギーを得ているとしても,そのことと「オルニチンが蓄積した発酵物が得られること」とは同義ではない。単にストレプトコッカス・ラクティスがアルギニンデイミナーゼ経路を有することが知られていたとしても,本件優先日当時,当業者は一旦生成されたオルニチンが必ず蓄積されるわけではないとの認識を有していたから,甲9の発酵物がオルニチンを含むことが開示されているとはいえない。
したがって,相違点C1が甲9に記載されているに等しい事項とはいえず,本件審決に誤りはない。
(イ)相違点C3単にストレプトコッカス・ラクティスがアルギニンデイミナーゼ経路を有することが知られていたとしても,必ずしもオルニチンが蓄積した発酵物を得られるとは限らないのであり,オルニチンが生成及び蓄積されていることを実際に測定しなければ,その点を認識できたとまではいえないところ,甲9ではそのような実験を行ってオルニチンの生成及び蓄積が何ら確認されていないのであるから,甲9発明において,エクオールに加えてオルニチンを含有する発酵物が実際に生成したことが記載されているに等しいなどとはいえない。
原告は,甲10や甲4の1を引用し,「変法GAM培地」や「豆乳」にアルギニン が含まれていることが技術常識であったと述べるが,これらの文献には変法GAM培地や豆乳の成分が記載されているのみであって,エクオールとオルニチンを含有する発酵物やその製造方法に関する開示や示唆はされていない。そして,原告が自ら述べていたように,培地にアルギニンが含まれているからといってオルニチンが蓄積した発酵物が常に得られるわけではない(甲105)。
したがって,相違点C3が甲9に記載されているに等しい事項であるとはいえず,本件審決に誤りはない。
(ウ)相違点C4甲9には,「オルニチンを含有する発酵物が生成(蓄積)されること」は記載されておらず,具体的な技術的思想としてエクオールとともにオルニチンを含有する発酵物を得ることは記載されていない。
原告は,甲9の28頁に記載されている「変法GAM培地」を用いた場合には,あたかも本件訂正発明に規定される「8mg以上」のオルニチンが生成すると推算されるなどと主張するが,甲9発明は実施例3の実施態様に基づくものであるところ,実施例3では,甲9の28頁に記載されている「変法GAM培地」が用いられたとは具体的に記載されていない。甲9において別個に記載されている異なる実施態様を組み合わせて一つの引用発明を認定することは許されない。また,甲9の28頁における変法GAM培地中での培養に関する記載と,甲9の実施例3における豆乳の発酵に関する記載とを混同したり組み合わせて理解したりすることは許されない。
本件審決における「甲9発明」の認定における「変法GAM培地でエクオール産生能力を有する」との記載も,微生物を修飾するものにすぎず,変法GAM培地を食品形態として用いる発酵物を得る際に使用することを認定しているものではない。
そもそも,甲9の28頁で用いられている「変法GAM培地」は,食品添加物指定のない成分である「チオグリコール酸ナトリウム」を含むものであり(甲28の1)主として試験研究用に用いられる培地であって食品用途として用いることは想,定されていない材料であるから,かかる変法GAM培地を用いた甲9の28頁の記 載は,得られた発酵物を食品素材として用いることを前提とする本件訂正発明との関係で比較対象とはならない。
原告は,甲9発明において「8mg以上」のオルニチンが生成するとの推算の根拠として種々の計算式を示しているが,このような推算を行ったところで,実際に「変法GAM培地」を用いて発酵した場合にオルニチンが生成するかどうかは実験を行ってみなければ確認できない。培地中にアルギニンが含まれるからと言って常にオルニチンが産生するかどうかすら分からないのであるから,その産生量についてはなおさらその具体的な値が換算値どおりになるとは限らない。
被告は,甲9の実施例3で用いられている「豆乳100g」の一部を,甲9の28頁に記載の変法GAM培地に置き換え(豆乳:変法GAMブイヨン=55:45又は70:30),ストレプトコッカスA6G-225を用いて,甲9発明である実施例3と同様の発酵処理を行ったが,その結果,オルニチンの産生量は本件訂正発明に規定される「8mg以上」には遠く及ばなかった(乙7)。なお,原告は,甲9の実施例3で用いられているA6G-225の分譲を受けたにもかかわらず(乙13の1,乙13の2),再現実験を提出していない。このことは,実験を行ったが,本件訂正発明の新規性を否定し得るような結果が出なかったことを推認させるものである。
したがって,具体的な技術的思想として,相違点C4が甲9に記載されているに等しい事項であるとはいえず,本件審決に誤りはない。
ウ相違点C1〜C4は容易に想到できないこと相違点C1〜C4が容易に想到することができることの理由として原告が挙げるのは,オルニチンが発酵処理により「不可避的」に生成されることは技術常識であることや,「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上」というオルニチン量は何ら技術的意義のない構成であり動機付け等は不要であること等に過ぎず,これらの点が誤りであることは前記1(被告の主張)(1)で述べたとおりであって,本件訂正発明が容易に想到し得たものであることの根拠となるものではない。
本件訂正発明は,優れた生理活性を有するエクオールを含む発酵物の機能性食品素材として用途に着目し,食品として女性の健康増進に好適なエクオールとオルニチンを含有する発酵物の製造方法を提供することを目的とするものである。前記1(被告の主張)(1)イのとおり,本件訂正発明により製造される発酵物は,エクオールにより更年期女性のホルモンバランス異常による肝機能の低下を改善し,かつ,オルニチンにより肝機能を改善することで,脂質代謝異常をも改善し,女性の健康増進が期待できる(甲107,108)。
これに対し,甲9発明は,あくまでエクオールを産生する能力を有する微生物自体を含有する組成物,又はエクオールを含有する組成物に関するものであって,エクオールとともにオルニチンを含有する発酵物を得ることを課題とするものではない。
そして,甲9には,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物を用いてエクオールとオルニチンを含有する発酵物を得るという具体的な技術的思想は開示されていないし,オルニチンを得るためにアルギニンを発酵原料に含むことや別途添加することについて何ら開示されておらず,そもそもオルニチン自体に関する記載は一切なされていない。さらに,甲9には,オルニチンとエクオールの含有量を発酵物の乾燥重量1g当たり「8mg以上」及び「1mg以上」という特定量とするという技術的思想は何ら具体的に開示も示唆もなされていない。
また,甲10や甲4の1も,変法GAM培地や豆乳の成分が開示されているのみであり,エクオールとオルニチンを含有する発酵物やその製造方法に関する開示や示唆はない。
してみると,発酵生成物としてのオルニチンに全く着目していない甲9発明において,エクオールを得るための発酵原料にアルギニンを添加して,特定量のエクオールとオルニチンを含有する発酵物が得られるようにし,かつエクオールやオルニチンの産生量を「前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」という範囲内となるように原料や発酵条件を設定することの 積極的な動機付けは存在しない。原告は,審判段階においても,訴訟段階においても,そのような積極的な動機付けの存在については何ら具体的に示すことができていない。
したがって,相違点C1〜C4は,当業者が容易に想到し得たものではないから,本件訂正発明が甲9に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
(2)新規性について原告は,別件訴訟における被告の主張(甲22)を引用し,これを前提とすれば,アルギニンの添加に関する相違点C2は甲9に記載されるに等しいから,本件訂正発明は甲9により新規性を有しないなどと主張する。しかしながら,甲9には,エクオールを得るための発酵原料にアルギニンを別途添加する工程は具体的に開示されていないし,豆乳や変法GAM培地等にアルギニンが含まれることも具体的には記載されていない。
そして,前記(1)イのとおり,本件訂正発明と甲9発明には,他に実質的な相違点が存在するから,本件訂正発明が甲9発明に対して新規性を有することは明らかである。
4取消事由5(分割要件違反及び甲12に基づく進歩性違反についての判断の誤り)について(原告の主張)(1)分割要件違反に当たることア本件訂正発明は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること」という構成を有するところ,当該事項は,分割出願直前の出願当初の明細書等(甲13。特願2016-156372(特開2017-18120)。以下「当初明細書」という。)に明示されておらず,当該記載から自明な事項でもなく,新たな技術的事項を導入するものであるから,新規事項の追加に該当し,分割要件を満た さない。
イ当初明細書(甲13)には,発酵原料として「大豆胚軸」を用いる発明が開示されており,エクオールが生成されることが示されているところ,A実験報告書(甲14の1)のとおり,本件訂正発明の採用する「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を発酵原料として用いた場合,エクオールは生成されないというのであるから,本件訂正発明は,分割出願直前の出願の範囲をおよそ超えて,エクオールが生成されない方法まで包含されてしまっていることは明らかである。
したがって,前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産「生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法」とする本件訂正発明は,当初明細書(甲13)に明示的に記載された事項でも当該記載から自明な事項でもなく,新たな技術的事項を導入するものであるから,新規事項の追加に該当し,分割要件を満たさない。
ウ「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン」を生成するとの構成は,新たな技術的事項を追加するものであり,当初明細書の記載に明示的に記載された事項でも当該記載から自明な事項でもなく,新たな技術的事項を導入するものであるから分割要件を満たさない。
エ以上のとおり,本件訂正発明は,当初明細書(甲13)の開示を超えた新たな技術的事項を規定したもので,分割要件を具備しないから,分割出願遡及効を得ることができず,本件訂正発明の進歩性の判断は,分割出願の現実の出願日である平成29年6月28日よりも前の文献や周知技術に基づいてされることになる。
そこで,以下,平成29年6月28日よりも前の平成20年12月18日に国際公開されたWO2008/153158号公報(甲12)に記載された甲12発明に基づいて主張する。
(2)甲12に基づく進歩性違反について 本件訂正発明と甲12発明を対比すると,本件訂正発明が「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」にアルギニンを添加して発酵原料としているのに対して,甲12発明では,「大豆胚軸」にアルギニンを添加して発酵原料としている点(相違点D1)で相違し,その余の点で一致している。
そして,甲12の記載から,大豆胚軸に含まれているダイゼイン類がエクオールを産生していることは,当業者であれば容易に理解することができる。そこから,当業者は,甲第12号証における「大豆胚軸」を「ダイゼイン類」に置換することを容易に想到することができる。
そうすると,本件訂正発明は,甲12及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであって,進歩性を有しない。
(被告の主張)(1)分割要件を満たすことアダイゼイン類にアルギニンを添加する点については,甲13の【0036】,【0050】【0222】【0225】【0226】には,,,,「ダイゼイン類を含む発酵原料」の例である「大豆胚軸」にアルギニンを添加することが記載されている。
イ甲13には,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン,及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を発酵原料とすることが明確に記載されているし(段落【0091】【0093】等),,大豆胚軸は,あくまで「ダイゼイン類を含む発酵原料」の一例(或いは代表例)として記載されているのであって,発酵原料においてエクオール産生のために微生物が資化するのは「ダイゼイン類」であることが説明されている。
原告は,A実験報告書(甲14の1)によれば大豆胚軸以外の場合には発酵が進まないと述べるが,甲13の記載に基づけば,適宜栄養成分を補ったり,適切な発酵条件等を用いることができるし,また,甲14の1と同様の実験を行った被告の再現実験(甲115)では,栄養素を別途添加することなくダイゼインのみ(ダイ ゼイン,水,及びアルギニン)を発酵原料とした場合でも発酵が進み,イソフラボンを発酵原料とした場合でも発酵が進み,乾燥重量1g当たり1mg以上のエクオールが産生することが示されている。したがって,甲14の1に基づく原告の主張は失当である。
ウオルニチンとエクオールの含有量の数値範囲は,甲13の【0042】及び【0050】に好ましい範囲が記載されているのであるから,何ら新規事項ではない。
エ本件訂正発明の構成は,当業者が当初明細書の全ての記載を総合することによって導かれる事項,すなわち「当初明細書等に記載した事項」に該当するものであって新規事項に該当しないことは明らかである。
(2)甲12に基づく進歩性違反の主張について上記(1)のとおり,甲12は先行文献に当たらないので,本件審決の判断に誤りはない。
5取消事由6(委任省令要件違反についての判断の誤り)について(原告の主張)本件訂正発明は,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法であるにもかかわらず,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】において,「オルニチン」という用語は,一度たりとも使用されていない。加えて,本件明細書のオルニチンの文言が用いられている箇所を見ても,オルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課題をどのように解決したかは,全く明らかでない。
また,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8mg以上のオルチニン」という数値限定について,それに対応する課題も効果も,本件明細書に何ら記載がない。
したがって,本件明細書には,本件訂正発明がどのような技術的貢献をもたらすものであるかが理解でき,また審査及び調査に役立つように,発明が解決しようとする課題,その解決手段などの,「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が何ら発明の詳細な説明に記載されておらず,たとえ「本件特許明細書 の全体の記載及び技術常識を踏まえ」たとしても,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはできない。
よって,本件明細書について,特許法36条4項1号において委任する経済産業省令(特許法施行規則24条の2)の要件を満たしているとした本件審決の判断は誤りであり,本件審決は取り消されるべきである。
(被告の主張)エクオールとオルニチンを同時に含有する点については,本件明細書の段落【0164】及び【0165】に,本件発明の発酵物が「エクオールを初めとして,種々の有用生理活性物質を含有しているので様々な生理活性や薬理活性を発現することができる」ことが記載されおり,これらの効果は,発酵物中に含有されるエクオールだけでなく,オルニチンを含む「種々の生理活性物質」によってもたらされることが明確に説明されている。
本件訂正発明に規定されるエクオールとオルニチンの含有量については,【0段落042】及び【0050】に説明されている。また,前記1(被告の主張)(1)イのとおり,本件訂正発明に規定されるオルニチン量により有利な健康効果が生じることが十分に理解し得る。
原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】(段落欄【0010】に,)その表面上はオルニチンに関する記載がないなどとも述べるが,知財高裁平成21年7月29日判決に「特許法施行規則24条の2の求める事項は,発明の詳細な説明中の『課題及びその解決手段』に記載される必要もなく,当業者が発明の技術上の意義を当然に理解できれば足りるのであって,明示的な記載は必要ない。と判示」されているように,必ずしも【発明が解決しようとする課題】欄に記載されている必要はなく,あくまで明細書等の全体の記載及び出願時の技術常識に基づき,発明の技術上の意義が理解できれば足りる。
したがって,本件明細書の全体の記載及び出願時の技術常識に基づけば,当業者であれば本件訂正発明の技術上の意義を理解することができ,本件明細書は「当業 者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されているといえるから,本件特許は委任省令要件を満たすとした本件審決に誤りはない。
第5当裁判所の判断1本件訂正発明について(1)本件明細書(甲201)には次の記載がある。
【技術分野】【0001】本発明は,エクオール含有大豆胚軸発酵物から有用成分が抽出されたエクオール含有抽出物,及びその製造方法に関する。また,本発明は,エクオール含有物から高純度のエクオールを効率的に精製する方法に関する。更に,本発明は,エクオール含有食品素材,及びエクオール含有食品に関する。
【背景技術】【0002】大豆中に含まれるイソフラボン(大豆イソフラボン;ダイゼイン,ゲニステイン,グリシテイン)はエストラジオールと構造が類似しており,エストロゲンレセプター(以下,ERと表記する)への結合に伴う抗エストロゲン作用及びエストロゲン様作用を有している。これまでの大豆イソフラボンの疫学研究や介入研究からは,抗エストロゲン作用による乳癌,前立腺癌等のホルモン依存性の癌の予防効果や,エストロゲン様作用による更年期障害,閉経後の骨粗鬆症,高脂血症の改善効果が示唆されている。
【0003】近年,これら大豆イソフラボンの生理作用の活性本体がダイゼインの代謝物のエクオールである可能性が指摘されている。即ち,エクオールは大豆イソフラボンと比較してERとの結合能(特に,Eβとの結合)が強く,乳房や前立腺組織などの標的臓器への移行性が顕著に高いことが報告されている(非特許文献1-4参照)。
また,患者-対照研究では,乳癌,前立腺癌患者でエクオール産生者が有意に少な いことが報告され,閉経後の骨密度,脂質代謝に対する大豆イソフラボンの改善効果をエクオール産生者と非産生者に分けて解析するとエクオール産生者で有意に改善されたことも報告されている。
【0004】エクオールは,ダイゼインより腸内細菌の代謝を経て産生されるが,エクオール産生能には個人差があり,日本人のエクオール産生者の割合は,約50%と報告されている。つまり,日本人の約50%がエクオールを産生できないヒト(エクオール非産生者)であり,このようなヒトにおいては,大豆や大豆加工食品を摂取しても,エクオールの作用に基づく有用生理効果が享受できない。従って,エクオール非産生者に,エクオールの作用に基づく有用生理効果を発現させるには,エクオール自体を摂取させることが有効であると考えられる。
【発明が解決しようとする課題】【0006】これまでに,本発明者等は,エクオールを含有する食品素材として,大豆胚軸をエクオール産生微生物で発酵させることにより得られる大豆胚軸発酵物を見出した。
当該大豆胚軸発酵物には,エクオールのみならず,イソフラボンやサポニン等の大豆由来の有用成分を含み,これによって有用生理効果を発現できるので,機能性素材として有用であることが明らかにされている。更に,当該大豆胚軸発酵物は,大豆胚軸由来のアレルゲンが低減されており,低アレルゲン素材としても有用であることが確認されている。このように,本発明者等が見出した上記大豆胚軸発酵物は,含有成分に基づく有用生理活性を示し,低アレルギー性であるので,機能性食品素材として有用であることが分かっている。
【0007】一方,上記大豆胚軸発酵物中のエクオールの含有量は,製造に使用した大豆胚軸の種類,エクオール産生微生物の種類等によって異なるが,1重量%程度であることが多い。そこで,エクオール含有割合をより高めた素材が提供できれば,食品形 態の多様化等に対応でき,様々なタイプのエクオール含有食品を容易に提供することが可能になる。しかしながら,これまでに,上記大豆胚軸発酵物自体,公知でなく,また上記大豆胚軸発酵物から効率的にエクオールを含む有用成分を抽出するには如何なる手法が有効であるかについても,明らかにされていない。
【0008】また,上記大豆胚軸発酵物のような発酵法により得られるエクオール含有物は,化学的合成方法に比べて安全性が高く,工業的製造に適しているという利点がある。
しかしながら,発酵法によって得られるエクオール含有物には,エクオール以外の代謝産物も含まれ,更には原料由来の多種の成分も残存する。また,発酵に使用した原料の種類によっては,発酵法によって得られるエクオール含有物には,アレルゲンとなり得る物質が混在している場合もある。そこで,エクオールを食品や医薬品に使用される添加剤として応用するには,エクオールを製造する技術のみならず,エクオールを高純度で精製する技術の開発も不可欠である。しかしながら,従来,エクオールを精製する方法に関しては殆ど報告がないため,工業的な応用が可能で,効率的且つ簡便にエクオールを高純度に精製できる技術の確立が望まれている。
【0010】そこで,本発明は,エクオール含有大豆胚軸発酵物から,エクオールを含む有用成分が抽出された抽出物,及びこれを製造する方法を提供することを目的とする。
また,本発明は,エクオール含有物から高純度のエクオールを効率的に精製する方法を提供することを目的とする。更に,本発明は,エクオール産生微生物で大豆胚軸を発酵させることにより得られるエクオール含有大豆胚軸発酵物又はその抽出物を含み,その風味が改善されている食品素材を提供することを目的とする。また,本発明は,当該エクオール含有大豆胚軸発酵物を含み,良好な風味を呈する食品(特に,焼き菓子)を提供することを目的とする。そして更に,本発明は,エクオール含有大豆胚軸発酵物又はその抽出物を含む各種形態の食品を提供することを目的とする。
【発明の効果】【0023】本発明のエクオール含有抽出物の製造方法によれば,エクオール含有大豆胚軸発酵物から,エクオールを含む有用成分を効率的に抽出して,機能性食品素材として有用なエクオール含有抽出物を製造することができる。また,エクオール含有大豆胚軸発酵物に対して,エタノール水溶液を用いた抽出処理及びエタノールを用いた抽出処理を順次実施することによって,エクオール及びグリシテインを高濃度で含みながら,不快味の原因となるサポニンが低減されているエクオール含有抽出物が得られる。従って,当該エクオール含有抽出物には,呈味に悪影響を及ぼすことなく,食品に配合できるという利点がある。
【0024】また,本発明の精製方法によれば,エクオール含有物から,簡便且つ効率的に高純度のエクオールを得ることが可能になる。特に,本発明の精製方法は,エクオール含有物に,エクオールと構造が類似するイソフラボンが混在していても,これらのイソフラボンを除去して,エクオールを高純度に精製することができる。それ故,本発明の精製方法は,イソフラボンを多く含むエクオール含有発酵物から,エクオールを精製するために好適に使用できる。
【0025】更に,エクオール含有大豆胚軸発酵又はその抽出物がカカオマスに分散されてなる本発明の食品素材は,エクオール含有大豆胚軸発酵物又はその抽出物を含みながら,苦味が抑制されており,良好な風味を有している。・・・【0026】そして更に,本発明の各種形態の食品によれば,エクオール含有大豆胚軸発酵物又はその抽出物に基づく有用生理作用を享受することができる。
【発明を実施するための形態】【0029】 以下,本発明について説明する。
1.エクオール含有抽出物の製造方法・・・以下,本発明の製造方法において原料として使用されるエクオール含有大豆胚軸発酵物,並びに第I法及び第II法の具体的内容について詳述する。
エクオール含有大豆胚軸発酵物・・・【0030】エクオール含有大豆胚軸発酵物とは,エクオール産生微生物で大豆胚軸を発酵させて得られる大豆胚軸発酵物である。
【0031】当該エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造に使用されるエクオール産生微生物としては,ダイゼイン配糖体,ダイゼイン,及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物が使用される。・・・【0032】上記エクオール産生微生物としては,食品衛生上許容され,上記能力を有する限り特に制限されず,従来公知のもの,或いは通常の方法でスクリーニングしたものを使用できる。例えば,ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcusgarvieae)等のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcusintermedius),ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcusconstellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroidesovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中にエクオール産生能を有する微生物が存在していることが分かっている。エクオール産生微生物の中で,好ましくは,ラクトコッカス属,及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり,更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり,特に好ましくはラクトコッカスガルビエが挙げられる。
・エクオール産生微生物は,例えば,ヒト糞便中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することがで きる。上記エクオール産生微生物については,本発明者等により,ヒト糞便から単離同定された菌,即ち,ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036号),ストレプトコッカスE-23-17(FERMBP-6436号)ストレプトコッカスA6G225,(FERMBP-6437号),及びバクテロイデスE-23-15(FERMBP-6435号)が寄託されており,本発明ではこれらの寄託菌を使用できる。これらの寄託菌の中でも,ラクトコッカス20-92が好適に使用される。
【0033】当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は,発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される。大豆胚軸とは,大豆の発芽時に幼芽,幼根となる部分であり,ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。本発明に使用される大豆胚軸は,含有されているダイゼイン類が著しく損失されていないことを限度として,大豆の産地や加工の有無については制限されない。例えば,生の状態のもの;加熱処理,乾燥処理,蒸煮処理等に供された大豆から分離したもの;未加工の大豆から分離した胚軸を加熱処理,乾燥処理又は蒸煮処理等に供したもの等のいずれであってもよい。また,使用される大豆胚軸は,脱脂処理や脱タンパク処理に供したものであってもよい。また,使用される大豆胚軸の形状については,特に制限されるものではなく,粉末状であっても,粉砕又は破砕された粒状又は塊状であってもよい。より効率的にエクオールを生成させるという観点からは,粉末状の大豆胚軸を使用することが望ましい。
【0034】大豆胚軸の発酵処理は,適量の水を大豆胚軸に加えて水分含量を調整し,これに上記エクオール産生微生物を接種することにより行われる。
【0036】また,大豆胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩, 硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下,「オルニチン・エクオール産生微生物」と表記する)を使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。・・・なお,オルニチン・エクオール産生微生物としては,エクオール産生能とアルギニンからオルニチンへの変換能を指標として公知のスクリーニング方法により得ることができる。オルニチン・エクオール産生微生物は,例えばラクトコッカス・ガルビエから選択することができ,その具体例としてラクトコッカス20-92(FERMBP-10036号)が挙げられる。
【0038】また,使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)には,更に,前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。このようにイソフラボンを発酵原料に別途添加しておくことにより,得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール含量をより高めることが可能になり,その有用性を一層向上させることができる。
【0039】大豆胚軸の発酵は,使用するエクオール産生微生物の生育特性に応じた環境条件下で実施される。例えば,上記で具体的に列挙したエクオール産生微生物を使用する場合であれば,大豆胚軸の発酵は嫌気性条件下で行われる。
【0040】また,発酵温度としては,エクオール産生微生物の生育に好適な条件であればよく,例えば,20〜40℃,好ましくは35〜40℃,更に好ましくは36〜38℃が挙げられる。
【0041】発酵時間については,エクオールの生成量,ダイゼイン類の残存量,エクオール産生微生物の種類等に応じて適宜設定できるが,通常1〜10日間,好ましくは2〜7日間,更に好ましくは3〜5日間とすることができる。
【0042】・・・大豆胚軸発酵物中のエクオール含量については,使用するエクオール産生微生物や発酵条件等によって異なるが,通常,大豆胚軸発酵物の乾燥重量当たり(大豆胚軸発酵物の乾燥重量を1gとした場合),エクオールが1〜20mg,好ましくは2〜12mg,更に好ましくは5〜8mg含まれている。
【0049】更に,エクオール含有大豆胚軸発酵物には,大豆胚軸に由来するサポニンをも有している。エクオール含有大豆胚軸発酵物中のサポニンは,エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たり,サポニンが10〜80mg,好ましくは20〜50mg,更に好ましくは30〜40mg含まれている。
【0050】また,前述するように,オルニチン・エクオール産生微生物を使用し,且つアルギニンを大豆胚軸に添加して発酵させることにより得られるエクオール含有大豆胚軸発酵物には,オルニチンが含有されている。このようなエクオール含有大豆胚軸発酵物に含まれるオルニチンの含有量として具体的には,エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは9〜12mg程度が例示される。
【0089】エクオール含有物本発明の精製方法において,精製処理に供されるエクオール含有物は,エクオールを含有する限り,特に制限されるものではなく,化学合成法によってエクオールが合成された反応産物であっても,また発酵法によってエクオールが産生された発酵物であってもよい。・・・本発明の精製方法に供されるエクオール含有物の好ましい一例として,エクオールを含有する発酵物が挙げられる。
【0090】以下,エクオールを含有する発酵物について説明する。
【0091】エクオールを含む発酵物は,エクオール産生微生物を用いて公知の方法に従って発酵することにより製造される。具体的には,エクオール産生微生物を,ダイゼイン配糖体,ダイゼイン,及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を,該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し,該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより,エクオールを含む発酵物を得ることができる。
【0092】上記エクオール産生微生物としては,前記「1.エクオール含有抽出物の製造方法」の「エクオール含有大豆胚軸発酵物」の欄に記載するエクオール産生微生物が使用される。
【0093】また,ダイゼイン類を含む発酵原料としては,ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではないが,安全性の観点から,食品素材としても利用可能なものが好適である。ダイゼイン類を含む発酵原料としては,具体的には,大豆,大豆胚軸,大豆胚軸の抽出物,豆腐,油揚げ,豆乳,納豆,醤油,味噌,テンペ,レッドクローブ又はその抽出物,アルファルファ又はその抽出物等が挙げられる。これらの中でも,大豆胚軸は,ダイゼイン類を豊富に含んでいるので,ダイゼイン類を含む発酵原料として好ましい。
【0094】また,ダイゼイン類を含む発酵原料には,更に,前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。このようにイソフラボンを発酵原料に別途添加しておくことにより,得られる発酵物中のエクオール含量をより高めることが可能になる。
【0095】 更に,ダイゼイン類を含む発酵原料には,必要に応じて,発酵効率の促進等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩,硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。
【0096】エクオールを含む発酵物の製造において,発酵原料の水分量,醗酵時間,発酵温度,発酵雰囲気等の発酵条件については,エクオール産生微生物の種類,発酵原料の種類,エクオールの産生量,ダイゼイン類の残存量等に応じて適宜設定すればよい。
【0097】本発明の精製方法において使用されるエクオール含有物としては・・・エクオール含有大豆胚軸発酵物が好適である。
【0142】3.食品素材更に,本発明は,エクオール含有大豆胚軸発酵物又はその抽出物が,カカオマスに分散されている食品素材を提供する。以下,本発明の食品素材について,含有成分等に分けて説明する。
【0144】エクオール含有大豆胚軸発酵物は,発酵後の状態のまま,本発明の食品素材に使用してもよく,また,必要に応じて乾燥処理に供して乾燥固形物状にして本発明の食品素材に使用することもできる。・・・また,加熱乾燥処理されたエクオール含有大豆胚軸発酵物は,必要に応じて粉末化処理に供して,粉末状にしてもよい。
【0157】上記食品素材の用途本発明の上記食品素材は,エクオール含有食品の製造原料,或いは食品添加剤として使用され,様々な食品に配合される。即ち,本発明は,更に,上記食品素材を 含有するエクオール含有食品を提供する。
【0162】当該エクオール含有食品に含まれる本発明の食品素材の配合割合については,特に制限されず,本発明の食品素材中のエクオール含量,当該エクオール含有食品の形態等に応じて適宜設定される。一例として,当該エクオール含有食品の原料の総量当たり,本発明の食品素材が3〜30重量%,好ましくは5〜20重量%,更に好ましくは5〜8重量%となる割合が例示される。また,当該エクオール含有食品に含まれるエクオールの割合としては,当該エクオール含有食品の原料の総量当たり,エクオールが0.002〜0.1重量%,好ましくは0.004〜0.05重量%,更に好ましくは0.005〜0.03重量%となる範囲が例示される。このような割合で,本発明の食品素材を含有することにより,エクオール含有食品の良好な風味を保持しながら,エクオール含有大豆胚軸発酵物に基づく有用生理活性を有効に享受させることができる。
【0163】当該エクオール含有食品は,本発明の食品素材と共に,該食品の他の原料を所定量混合し,該食品の種類に応じて,成形,焼成,冷却等の工程に適宜供することによって製造される。
【0164】当該エクオール含有食品は,エクオール含有大豆胚軸発酵物を含み,エクオールを初めとして,種々の有用生理活性物質を含有しているので様々な生理活性や薬理活性を発現することができる。それ故,当該エクオール含有食品は,一般の食品の他,特定保健用食品,栄養補助食品,機能性食品,病者用食品等として使用できる。
特に,本発明の大豆胚軸発酵物を含有する食品は,栄養補助食品として栄養補助食品として有用である。
【0165】例えば,当該エクオール含有食品は,更年期障害,骨粗鬆症,前立腺肥大,メタボリックシンドローム等の疾患や症状の予防乃至改善,血中コレステロール値の低 減,美白,にきびの改善,整腸,肥満改善,利尿等に有用である。中でも,当該エクオール含有食品は,特に,中高年女性における不定愁訴乃至閉経に伴う症状(例えば,骨粗鬆症,更年期障害等)の予防乃至改善に有用である。
実施例】【0221】以下に,参考例,実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが,本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0222】参考例1-1〜1-3エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造表1に示す組成となるように,粉末状大豆胚軸,アルギニン,及び水を混合して,大豆胚軸溶液(原料)を調製した。この大豆胚軸溶液5mlに,ラクトコッカス20-92株(FERMBP-10036号)を植菌し,嫌気条件下で,37℃で96時間静置培養を行った。培養後,得られた発酵液(培養液)を100℃,1分間の条件で加熱殺菌した後,80℃の条件での乾燥処理し,更にホモゲナイダーにより粉末化処理することにより,粉末状の大豆胚軸発酵物を得た。
【0223】表1に,培養96時間後の培養液における生菌数及びpH,粉末状の大豆胚軸発酵物の取得量,及び粉末状の大豆胚軸発酵物中のエクオール濃度を示す。・・・ 【0224】【0225】参考例1-4エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造粉末状大豆胚軸10重量%及びL-アルギニン0.1重量%を含む大豆胚軸溶液5mlに,ラクトコッカス20-92株(FERMBP-10036号)を植菌し,嫌気条件下で,37℃で96時間静置培養することにより発酵処理を行った。培養後,得られた発酵液(培養液)を100℃,1分間の条件で加熱殺菌した後,80℃の条件での乾燥処理し,更にホモゲナイダーにより粉末化処理することにより,粉末状の大豆胚軸発酵物を得た。
【0226】原料として使用した粉末状大豆胚軸(表2及び3中,発酵前と表記する)及び得られた粉末状大豆胚軸発酵物(表2及び3中,発酵後と表記する)の含有成分の分 析を行った。大豆イソフラボン類の分析結果を表2に,栄養成分の分析結果を表3に示す。この結果からも,ラクトコッカス20?92株によって大豆胚軸を発酵させることにより,高含量のエクオールを含む大豆胚軸発酵物が製造されることが確認された。また,ラフィノースやスタキオース等のオリゴ糖は,発酵前後でその含量が同程度であり,発酵による影響を殆ど受けないことが明らかとなった。一方,アルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかとなった。
【0227】 【0228】【0229】参考例1-5〜1-11エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造上記参考例1-3とは異なる7種のロットの粉末状大豆胚軸を使用すること以外は,上記参考例1-3と同様の条件で,粉末状の大豆胚軸発酵物(参考例1-5〜1-11)を製造した。・・・【0231】参考試験例1アレルゲンの確認試験大豆胚軸には,Gym4,Gm30K,Gm28K,7Sグロブリンmix(β-コングリシン),オレオシン,トリプシンインヒビター等のアレルゲンが含まれていることが分かっている。そこで,上記参考例1-1で製造したエクオール含有大豆胚軸発酵物中にアレルゲンの存否を以下の試験により判定した。
【0233】結果を図1〜3に示す。図1には,総タンパク質の検出結果を;図2には,Gy m4,Gm30K,及びGm28Kの検出結果を;図3には,7Sグロブリンmix,オレオシン,及びトリプシンインヒビターの検出結果を,それぞれ示す。
【0234】この結果から,エクオール含有大豆胚軸発酵物には,大豆又は大豆胚軸に含まれる主要アレルゲンが低減していることが確認された。
(2)本件訂正発明の概要本件訂正発明は,オルニチン及び更年期障害等の改善効果が示唆されるエクオールを含有する食品素材として用いられる粉末状の発酵物の製造方法に関するものである(【請求項1】,段落【0002】,【0003】)。
本件訂正発明は,アルギニンを添加したダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含むものを発酵原料とし,それをオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することにより,発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを含有する,食品素材として用いられる粉末状の発酵物を製造するというものである(【請求項1】,段落【0001】,【0036】,【0042】,【0050】,【0091】〜【0096】,【0222】〜【0227】,【0229】)。
本件訂正発明により製造された発酵物を食品素材に用いたエクオール及びオルニチンを含有する食品は,エクオールによる中高年女性における不定愁訴や閉経に伴う症状(骨粗鬆症,更年期障害等)の予防又は改善をはじめとした様々な生理活性や薬理活性を発現し,一般の食品の他,特定保健用食品,栄養補助食品,機能性食品,病者用食品等として使用できるものである(段落【0144】,【0157】,【0162】〜【0165】)。
2取消事由2(甲1に基づく新規性進歩性違反についての判断の誤り)(1)甲1発明についてア甲1明細書及び図面には次の記載がある(頁数は甲1明細書中の頁数である。。
) 「技術分野本発明は,エクオール産生能を有する乳酸菌,該乳酸菌を含有する組成物および該乳酸菌を利用してエクオールを製造する方法に関する。(1頁3〜5行)」「背景技術」「本発明者らは,上記の着想から研究を重ねた結果,先に,抗エストロゲン効果,エストロゲン様効果などを発揮させるためのエクオール産生菌として,ヒ卜の糞便からパクテロイデスE-23-15(FERMBP-6435号),ストレプトコッカスE-23-17(FERMBP-6436号)およびストレプトコッカスA6G225(FERMBP-6437号)の3菌株を新たに単離・同定し,これらのエクオ一ル産生菌およびその利用に係る発明を特許出願した(国際公開WO99/07392)。
発明の開示本発明者らは,引き続き研究を重ねた結果,先に単離・同定した微生物とは本質的に異なる新しい菌として,ダイゼイン配糖体,ダイゼインあるいはジヒドロダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を単離・同定するに成功した。本発明はこの乳酸菌の単離・同定を基礎として更に研究を重ねた結果,完成されたものである。(2頁13〜24行)」」「本発明は,下記項1-13に記載の要旨の発明を提供する。
項1.ダイゼイン配糖体,ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を必須成分として含有することを待徴とするエクオール産生乳酸菌含有組成物。(2頁25〜29行)」「項9.ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に,ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を作用させることを特徴とするエクオールの製造方法
項10.ラクトコッカス属に属する乳酸菌が,ラクトコッカスガルビエ・(Lactococcusgarvieae)である項9に記載の方法。(3頁11〜15行)」 「U.生化学的性質・・・(13)アルギニンジヒドラーゼ:+」(4頁7〜20行)「(2)ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質本菌株ラクトコッカス20-92が資化するダイゼイン類には,ダイゼイン配糖体,ダイゼインおよびジヒドロダイゼインが含まれる。ダイゼイン配糖体の具体例としては,例えばダイジンを例示することができる。該ダイジンは,アグリコンとしてダイゼインを有するイソフラボン配糖体(ダイゼイン配糖体)である。該ダイジンの場合は,上記微生物により資化されて,ダイゼインを遊離し,該ダイゼインが更に資化されてジヒドロダイゼインとなり,それから最終的にエクオールが産生される。
本発明においては上記ダイゼイン類を基質として利用する。また,該基質としてはダイゼイン類に限らず,これを含有する各種の物質を利用することができる。該ダイゼイン類を含有する物質(ダイゼイン類含有物質)の代表例としては,大豆イソフラボンを例示することができる。大豆イソフラボンは,既に市販されており,本発明ではこのような市販品,例えばフジッコ社製「フジフラボンP10」(登録商標)などを利用することもできる。また,大豆イソフラボンに限らず,例えば葛,葛根,レッドクローブ,アルファルファなどの植物自体およびこれらを起源とするイソフラボン誘導体もまた,ダイゼイン類含有物質に含まれる。
更に,ダイゼイン類を含有する物質の他の具体例としては,上述した大豆,葛,葛根,レッドグローブ,アルファルファなどの食素材自体に加えて,それらの加工品,例えば大豆粉,煮大豆,豆腐,油揚げ,豆乳,大豆胚軸抽出物など,およびそれらの発酵調製物,例えば納豆,醤油,味噌,テンペ,発酵大豆飲料などを挙げることができる。これらはいずれもダイゼイン類を含有している。また,これらは,ダイゼイン類の他に,エストロゲン様作用を有するイソフラボン類,例えばゲニステインとその配糖体(ゲニスチンなど);グリシテインとその配糖体(グリシチンな ど)ダイゼインおよびゲニステインの一部がメチル化された前駆体であるバイオチ;ェインA(BiochainA)およびフォルモネチン(Formonetin)などを含有しており,本発明に好適に利用できる。(9頁3〜28行)」「(3-1)エクオール産生乳酸菌含有組成物」「本発明組成物は,上記有効成分としての微生物(菌体など)を含んでいればよく,他に特に必要ではないが,所望により,上記有効成分としての微生物の維持(もしくは増殖)に適した栄養成分を含有させることもできる。該栄養成分の具体例としては,前述したように各微生物の培養のための栄養培地,例えばBHI,EG,BL,GAM培地などを挙げることができる。
(中略)上記本発明組成物はその摂取によって,摂取者の体内で所望のエクオール産生能を発揮する。(10頁16〜26行)」「(3-3)エクオール含有本発明組成物本発明組成物は,更にエクオールを含むこともできる。
(中略)エクオ一ル含有本発明組成物の好ましい一具体例としては,大豆イソフラボンまたはこれを含有する食素材を適当な培地に添加し,該培地中で本発明微生物,好ましくはラクトコッカス20-92を発酵させて得られる発酵産物を挙げることができる。
ここで,発酵は,より詳しくは,例えば基質を溶液状態にして滅菌した後,本発明微生物の生育可能な栄養培地,例えばBHI,EG,BL,GAM培地など,もしくは食品として利用可能な牛乳,豆乳,野菜ジュースなどに所定量の本発明微生物を添加して,37°C下に,嫌気状態あるいは好気的静置状態で,48-96時間程度発酵(必要に応じてpH調節剤,還元物質(例えば酵母エキス,ビタミンK1など)を添加できる)させることにより実施できる。上記において基質量は0.01-0.5mg/mL程度とすることができ,微生物の接種量は約1-5%の範囲から選択することができる。
(中略) 得られる本発明組成物がエクオールを含むことは,例えば,後述する試験例1に示す方法により確認することができる。(11頁25行〜13頁1行)」「実施例1(1)発酵豆乳飲料の調製下記処方の各成分を秤量混合して,発酵豆乳飲料形態の本発明組成物を調製した。
水溶性大豆蛋白の発酵培養物100mLビタミン・ミネラル適量香料適量水適量全量150mL上記水溶性大豆蛋白の発酵培養物は,水溶性大豆蛋白13gを水10OmLに溶解したものに,ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)を108-109個加えて,37℃で24-48時間発酵させたものである。尚,利用した水溶性大豆蛋白はその1g中にダイゼイン類をダイゼイン換算量で1-2mg程度含んでいる。
(2)発酵乳の調製下記処方の各成分を秤量混合して,発酵乳形態の本発明組成物を調製した。
ラクトコッカス20-92発酵乳100mLビタミン・ミネラル適量香料適量水適量全量150mL尚,ラクトコッカス20-92発酵乳は,牛乳1L(無脂乳固形分8.5%以上,乳脂肪分3.8%以上)にラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)を108-109個を加えて,37°Cで24-48時間発酵させたものである。
(3)発酵豆乳凍結乾燥粉末の調製ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)約109個を用いて,豆乳(大豆固形分含量 10%,ダイゼイン含量:ダイゼイン換算量として10-15mg)100gを37°Cで72-96時間乳酸発酵させて,エクオールを生成させた。これを凍結乾燥して粉末とした。粉末中のエクオール含量は,HPLC測定の結果0.1-0.3重量%であった。
上記粉末を用いて,下記処方の各成分を秤量混合して,粉末形態の本発明組成物(食品形態および医薬品形態)を調製した。
発酵豆乳凍結乾燥粉末2.2g(エクオール0.005g含有)賦形剤(コーンス夕一チ)17gビタミン・ミネラル適量香料適量全量20g」(21頁14行〜22頁20行)「試験例1増殖性とエクオール産生能(活性)および生成量試験(1)試験方法ラクトコッカス20-92株(107-109/g)をBHIブロス(増殖用液体培地(基礎培地)5mL中で嫌気的条件下,)37℃で24時間培養した後,基礎培地で102および104に希釈して希釈液を調製した。
培養終了後の培養液およびその各希釈液のそれぞれ0.2mLずつを,ダイゼイン含有基礎培地(BHIブロスにダイゼインを10μg/mLとなる量で添加したもの),牛乳および豆乳の各5mLと混合し,嫌気的条件下,37℃で培養した。培養時間は10μg/mLダイゼイン含有基礎培地および豆乳では,8時間,24時間,48時間,72時間および96時間とし,牛乳では8時間,24時間および48時間とした。
培養開始前と各培養終了時点で,培養液0.1mLおよび0.2mLをサンプリングし,それぞれ菌数測定およびエクオール産生能(活性)測定に供した。更に,10μg/mLダイゼイン含有基礎培地および豆乳については,培養開始前と各培養終了時点で培養液0.5mLをサンプリングして,該液中のエクオール産生量を測定した。
菌数測定は次の通り行った。即ち,各サンプル0.1mLをPBS(-)溶液(ニッスイ社製)で希釈して104,105,106および107希釈液を作成し,これら各希釈液の0.1mLをGAM寒天培地に塗布して,好気的条件下に37℃で24時間培養し,培地上に生育してくるコロニー数を計測して菌数とした。
エクオール産生能(活性)の測定は次の通り行った。即ち,各サンプル0.2mLをダイゼイン含有基礎培地5mL(各3本)と混合し,96時間,嫌気的条件下,37doで培養し,培養終了後に各培養液0.5mLをサンプリングして,酢酸エチル5mLで2回抽出後,抽出液中のダイゼイン,ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオールをHPLCで測定し,また,それらの総量からエクオールの占める割合を算出した。得られた結果を下記5段階でスコア化し,検体の平均スコアをエクオール産生能3(活性)の指標とした。
4:90%以上エクオール,3:エクオール生成,ダイゼインが50%未満に減少(中間体あり),2:エクオール生成,ダイゼイン50%以上が残存(中間体あり),1:中間体生成あり,エクオール生成なし0:中間体およびエクオールの生成なし,ダイゼインの減少なし。
エクオール産生量測定は,次の通り行った。即ち各サンプル0.5mLを酢酸エチル5mLで2回抽出し,抽出液中のダイゼイン,ジヒドロダイゼイン(中間体)およびエクオールをHPLCで測定した。各濃度を算出してエクオール産生量とした。
(2)試験結果(2-1)菌数(増殖性)を調べた結果を図1に示す。
図中,(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり,(2)は豆乳を利用した場合の結果であり,(3)は牛乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し,縦軸は生菌数(Logcfu/ml)を示す。
各図に示す結果より,本菌株の増殖性は良好であり,ダイゼイン含有基礎培地,豆乳および牛乳のいずれでも接種量の如何に関わらず培養8時間で定常状態に達し た。菌数は,ダイゼイン含有基礎培地で109.1-9.4個/mLを維持し,豆乳では108.5-8.7個/mL,牛乳では108.0-8.4個/mLを維持することが判った。
(2-2)エクオール産生能(活性)を求めた結果を図2に示す。
図2において,(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり,(2)は豆乳を利用した場合の結果であり,(3)は牛乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し,縦軸はスコアを示す。
該図に示される結果から,ダイゼイン含有基礎培地,豆乳および牛乳のいずれにおいてもエクオール産生能(活性)は経時的に増加する傾向が確認された。しかも,牛乳および豆乳を利用した場合でも,本菌株のエクオール産生能(活性)は維持されることが確認された。
(2-3)エクオール産生量測定結果ダイゼイン含有基礎培地および豆乳(ダイゼイン換算量として約80μg/mL)中に産生されるエクオール量を測定した結果は,図3に示すとおりである。
図3において(1)はダイゼイン含有基礎培地を利用した場合の結果であり,(2)は豆乳を利用した場合の結果である。各図において横軸は培養時間(hr)を示し,縦軸はエクオール濃度(μg/ml)を示す。
両培地とも,培養開始後48時間目以降からエクオール産生を認めた。豆乳を利用した場合では,接種量の変化によるエクオール生成量の違いが観察され,特に4.00%接種によって培養96時間で57.0μg/mLの著量のエクオール生成が認められた。
豆乳中にはエクオールの基質となるダイゼインが90%以上配糖体(グルコースが結合した状態)で存在しているが,測定したクロマトグラム上には該配糖体のピークは消失していることから,本菌株は配糖体を分解し(β-グルコシダーゼ活性)てダイゼインを生成した後,該ダイゼインをエクオールに代謝するものと考えられる。(23頁22行〜25頁最終行)」「図面の簡単な説明(中略) 図3は,試験例1に示す方法に従い求められた培養時間とエクオール産出量との関連を示すグラフである。(20頁24行〜21頁1行)」【図3】イ甲1発明の認定上記アのとおり,甲1には,ダイゼイン類およびダイゼイン類含有物質からなる群から選ばれる少なくとも1種に,ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有するラクトコッカス属に属する乳酸菌を作用させることを特徴とするエクオールの製造方法実施例1として開示され,上記乳酸菌の具体例として,ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)が示され,試験例1として,ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)をダイゼイン含有基礎培地や豆乳と混合して培養した結果,【図3】のとおりエクオールが産生されたことが記載されている。
これらを総合すると,甲1には,「ダイゼイン配糖体,ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料 (豆乳,ダイゼイン含有基礎培地など)を,エクオール産生能力を有する微生物であるラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)で発酵処理することを含む,エクオールを含有する発酵物を製造する方法。」が記載されていると認められる。
(2)本件訂正発明と甲1発明の対比前記第2の2(2)の本件訂正発明と前記(1)イの甲1発明を比較すると,本件訂正発明と甲1発明は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,エクオールを含有する発酵物の製造方法。」である点で一致し,次の点で相違すると認められる。なお,相違点は,原告の主張する区分に沿って検討する。
(相違点A1)本件訂正発明では,微生物が「オルニチン産生能力を有する」ことが特定されているのに対して,甲1発明では微生物が「ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036号)であることが特定されているものの,オルニチン産生能力を有する」」「ことは特定されていない点(相違点A2)本件訂正発明では,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」にアルギニンを添加し,ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料を発酵処理することが特定されているのに対して,甲1発明では,発酵原料が豆乳,ダイゼイン含有基礎培地などであることが特定されているものの,ダイゼイン類にアルギニンを添加し発酵原料がアルギニンを含むものであることは特定されていない点(相違点A3)本件訂正発明では,オルニチンを含有する発酵物が生成することが特定されているのに対して,甲1発明ではこの点が特定されていない点(相違点A4)本件訂正発明では,発酵処理により乾燥重量1g当たり1mg以上のエクオール及び8mg以上のオルニチンが生成されることが特定されているのに対して,甲1発明ではこの点が特定されていない点(相違点A5)本件訂正発明は,製造される発酵物が粉末状であり,食品素材と して用いられるものであることが特定されているのに対して,甲1発明ではこの点が特定されていない点(3)相違点A4について所論に照らし,相違点A4(本件訂正発明では,発酵処理により乾燥重量1g当たり1mg以上のエクオール及び8mg以上のオルニチンが生成されることが特定されているのに対して,甲1発明ではこの点が特定されていない点)について検討する。
新規性について前記(1)のとおり,甲1明細書(22頁)には,実施例1に係る記載として「ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)約109個を用いて,豆乳(大豆固形分含量10%,ダイゼイン含量:ダイゼイン換算量として10-15mg)100gを37°Cで72-96時間乳酸発酵させて,エクオールを生成させた。これを凍結乾燥して粉末とした。粉末中のエクオール含量は,HPLC測定の結果0.1-0.3重量%であった。」との記載がある。
これによると,甲1発明では,ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)を用いて豆乳を発酵させてエクオールを生成し,冷凍乾燥して粉末を得ており,当該粉末中のエクオール含有量は0.1-0.3重量%であったとのことであるが,これは,「発酵処理により乾燥重量1g当たり1〜3mgのエクオールが生成された」ことを意味する。
しかしながら,甲1には発酵処理によりオルニチンが生成されることは記載されておらず,実施例1により生成されるオルニチンの量の記載はない。また,実施例1では豆乳100gが用いられているところ,甲4の1(「保存中の無菌調製豆乳の品質評価指標について」日本食品工業学会誌1985年32巻7号457〜462頁のTable4)によると,豆乳1ml中の遊離アルギニンの量は0.7μmol未満であるから,仮に豆乳に含まれるアルギニンがすべてオルニチンに変換されたとしても,豆乳1ml当たり0.1mgにも満たない量(0.7μmol×132.16〔オルニチンの分子量〕≒0.09mg)のオルニチンが生成されるのみであるから,上記甲1の記載の通り,豆乳の大豆固形分含量が10%であることや発酵後に乾燥して粉末にすることを考慮しても,実施例1において,乾燥重量1gあたり8mg以上のオル ニチンが生成されていると認めることはできない。
そして,前記(1)のとおり,甲1の試験例の記載をみてもオルニチンの生成についての示唆はなく,ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)を用いて,豆乳を発酵原料として,甲1の試験例1の条件に従って行われた実験結果(甲109)をみても,オルニチンの生成量は乾燥重量1gあたり8mg未満であった。
そうすると,相違点A4が甲1に記載されているに等しいということはできない。
進歩性についてそして,甲1のその余の記載を検討しても,ラクトコッカス20-92(FERMBP-10036)を用いて,ダイゼイン配糖体,ダイゼインおよびジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料(豆乳,ダイゼイン含有基礎培地など)を発酵処理することにより,乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンを生成することを示唆する記載はない。
そもそも甲1には「オルニチン」に関する記載が全く存在しないから,甲1発明においてオルニチンの生成量を一定以上とするために,発酵原料の組成や培養条件等を設定しようとする動機付けがあったということもできない。
そうすると,相違点A4について,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到することができたということはできない。
ウ原告の主張について(ア)原告は,甲1の試験例1において産生されるオルニチンの量について,発酵物の乾燥重量1g当たり11.4mgと計算される旨主張する。
原告の主張は,本件明細書の【表3】においてアルギニンからオルニチンへと100%(変換率約159%)を優に超える変換がなされていることを前提とするものであるところ,本件明細書の【表3】は,粉末状大豆胚軸10重量%及びL-アルギニン0.1重量%を含む大豆胚軸溶液5mlに,ラクトコッカス20-92株(FERMBP-10036号)を植菌し,嫌気条件下で,37℃で96時間静置培養することにより発酵処理を行った結果を示したものであるのに対し(本件明細書の段落【0225】,) 甲1の試験例では,ラクトコッカス20-92株(107-109/g)をBHIブロス(増殖用液体培地(基礎培地))5mL中で嫌気的条件下,37℃で24時間培養した後,基礎培地で希釈し,ダイゼイン含有基礎培地(BHIブロスにダイゼインを10μg/mLとなる量で添加したもの)牛乳および豆乳の各5mLと混合して培養しており,,発酵原料及び発酵条件が異なる。そして,発酵原料や培地中の固形成分の含有量により発酵物の乾燥重量が大きく変化し得るので,発酵原料が変わると乾燥重量1g当たりのオルニチンの量も変化するから,発酵原料として大豆胚軸溶液を用いた場合と豆乳を用いた場合で発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニチンの産生量は大きく変化し得る。また培養条件が異なるとアルギニンからオルニチンへの変換率も異なり得る。
そうすると,甲1の試験例におけるオルニチンの産生量を推定するに当たって,本件明細書の【表3】を前提とすることが相当であるということはできない。
(イ)また,原告は,甲1の図3(1)の再現実験(甲18の1)において,「ダイゼイン10mg/L」の場合,オルニチン産生量は,発酵物の乾燥重量1g当たり13.7mgであったから,甲1発明のオルニチン生産量は発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上である旨主張する。しかし,被告が行った再現実験(甲19)では,オルニチンの産生量は発酵物の乾燥重量1g当たり8mg未満であり,これについては,両実験における培養前の培地中のアルギニンとオルニチンの量が相違することによる影響も考えられ,これらの実験について,どちらか一方のみに信用性を疑わせる事情があるものではないところ,甲1の試験例では培地とするBHIブロスの組成が特定されていない以上,甲1発明においては,発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンが産生されるとは限らないというほかない。
そうすると,甲1発明は「発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンを産生するもの」であるということはできない。
(ウ)次に,原告は,乳酸菌においては,生育不良等が生じないようにするために,アルギニンを添加することによってpHの低下を防ぐことは,本件優先日よりも前 から当業者にはよく知られた事実であったとも主張する(前記第4の1(原告の主張)(1)イ)。しかしながら,証拠(甲213)によると,アルギニンの添加によってpHの低下を防ぐというのは,乳酸菌がアルギニンからオルニチンとアンモニアを遊離させることから,アンモニアの遊離によりpHを上昇させることを機序とするものと認められるところ,証拠(乙4・表5,乙5・Table2)によると,乳酸菌が必ずしもアルギニンジヒドロラーゼ活性(ADH)を有する,すなわち,アルギニンからオルニチンとアンモニアを遊離させるものということはできないから,一般的に,乳酸菌にアルギニンを添加してpH低下による生育不良等を防止することが技術常識であると認めることはできない。
(エ)原告は,早晩公衆に利用可能となる物・方法については,実施する際の意図に違いがあったとしても,独占権を認めてまで創作のインセンティブを与える必要はないから,本件訂正発明と全く同一の技術的思想に想到することが動機付けられる必要はなく,物又は方法の面において客観的に同一といえる技術に想到することが動機付けられれば十分であると主張する。
そこで検討するに,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合には,@主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,A適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断するのが相当であるところ(知的財産高等裁判所平成30年4月13日判決〔平成28年(行ケ)第10182号・第10184号事件〕参照),これは,引用発明に周知技術を適用して本願発明を容易に発明することができたかどうかを判断する場合にも妥当する。そして,進歩性の有無は,基準日時点での容易想到性により判断すべきであって,動機付けの有無を検討するに当たり,早晩公衆に利用可能となるか否かというような不確実かつ技術的内容には関係のない事情をもって,特許権を付与して保護を与えるか否かの判断に影響を与える べきとはいえない。
また,仮に原告の主張を前提としても,本件においては,甲1にはそもそもオルニチンについての記載や示唆もないから,物又は方法の面において客観的に同一といえる技術に想到することの動機付けもないと言わざるを得ず,相違点A4について当業者が容易に想到できないとの判断を左右しない。
(4)取消事由2についての結論したがって,その余の相違点について検討するまでもなく,本件訂正発明が甲1に記載されているに等しいと認めることはできず,また,甲1発明に基づいて当業者が本件訂正発明を容易に想到することができたと認めることもできないから,本件訂正発明について,甲1に記載された発明であるとも,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められないとした本件審決に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(甲6に基づく進歩性違反についての判断の誤り)(1)甲6発明についてア甲6の1には次の記載がある(なお,訳文は甲6の1の翻訳に相当する甲6の2によった。以下,甲6の2記載の表現による甲6の1を単に「甲6」という。。
)【0001】本発明は,鏡像異性のエクオール化合物,すなわち,S-エクオールおよびR-エクオールの製造および単離,および哺乳類およびヒトの疾患や体の異常の治療に用いる鏡像異性のエクオール化合物を含む食品および医薬組成物に関する。
【0065】S-エクオールの生合成従来の食品技術を利用して,S-エクオールはバルクで製造することができ,また種々の食品においては現場で製造できる。ダイゼインやダイゼインを誘導できる他のイソフラボン誘導体を含むベース培養液,食物製品または植物抽出物を提供できる。ダイゼインまたは他のイソフラボンは,標準的なバクテリア性または酵素発酵 プロセスによってS-エクオールに変換でき,S-エクオールを含有するバルク溶液や食物製品,または植物抽出物を提供できる。
【0066】食物製品としてのS-エクオールの製造は,ダイズイン,ダイゼイン,ホルモノネチンまたはプエラリンまたはそれらの共役物または混合物等の充分なスタート物質を含む食物に繁殖するバクテリアの代謝活動を利用することによって達成できる。
図2に示すように,ダイゼインのエクオールへの変換は,3つの主なステップを含む:1)グルコシド共役基の加水分解;2)イソフラボンアグリコンのジヒドロ中間体への変換および3);ジヒドロ中間体のエクオールへの変換。つのステップの各々3に必要な代謝経路および酵素は,必ずしも1つのバクテリアに現れるわけではない。
ヒトの研究事例ではこれらの反応を行うことに関連して作用するひとつかそれ以上のバクテリアがしばしば存在するということが示唆される。これらの研究では,エクオールは,少量であるかほとんど検出されないかも知れないが,ジヒドロダイゼインは,しばしば大量に血漿および尿に存在するという事実が証明された。エクオールは単一の微生物によってダイゼインから製造されるかも知れないが,それぞれに固有の代謝の特徴を持つバクテリア種の混合物を使う時,よりよいまたは更に効率的な変換を達成することができると思われる。S-エクオールへの効果的な変換をするための重要な条件には,バクテリア微生物または微生物の混合物,培養温度および微生物が利用できる酸素の量の選択などが含まれる。これらの状態は,当業界に精通した人々によく知られている技術によって最適化できる。この反応を遂行するために使う微生物は,食品工業で使用される標準的な技術によって不活性化でき,またはその製品において活性状態であり続けることが可能である。
【0067】ダイゼインおよび/または他の構造的にS-エクオールに関係するイソフラボン,または中間複合物を変換する過程で有用なバクテリアは,バクテリアの菌種や「エクオール産生者」であるヒトやウマ,齧歯類,または他の哺乳類の胃腸管にコロニ ーを作ることが見出されたバクテリアの菌種を含むことができる。哺乳類の腸内バクテリアは,糞便で見出されるので,エクオール産生バクテリアもまたエクオール産生哺乳類の糞便中に見出せる。
【0068】発酵過程で有用な典型的なバクテリアは,最適変換速度およびエクオールの生合成を効率的に行うことを示すべきである。
【0069】典型的にはダイゼイン(または他の関連イソフラボン)を中間体を通じてS-エクオールへ変換するために,一つ以上のバクテリア菌種が必要である。その反応は,一般に3つの主な反応のうちの1つ以上を含む:イソフラボングリコンからアグリコンイソフラボンへの変換;アグリコンイソフラボンからジヒドロイソフラボンへの変換およびジヒドロイソフラボンから産物エクオールへの変換である。
;例えば,ウマの糞尿から単離した微生物の混合培養液および「エクオール産生者」として知られるヒトの胃腸管から単離した混合培養液は,インビボで行うようにグリコンダイセインを最終生成物であるS-エクオールに変換することができる。
【0070】グリコンをアグリコンに変換できる(例えばダイズインをダイゼインに)典型的なバクテリア菌種は,ENTEROCOCCUSFAECALIS,LACTOBACILLUSPLANTARUM,LISTERIAWELSHIMERI,「エクオール産生者」の哺乳類の腸管から単離された微生物の混合培養物,BACTERIODESFRAGILIS,BIFIDOBACTERIUMLACTIS,EUBACTRIALIMOSUM,LACTOBACILLUSCASEI,LACTOBACILLUSACIDOpHILOUS,LACTOBACILLUSDELBRUECKII,LACTOBACILLUSPARACASEI,LISTERIAMONOCYTOGENES,MICROCOCCUSLUTEUS,PROPRIONOBACTERIUMFREUDENREICHIIおよびSACHAROMYCESBOULARDII,およびそれらの混合物を含む。
【0071】アグリコンをエクオールに(例えばダイゼインをエクオールに)変換できる典型 的なバクテリア菌種はPROPRIONOBACTERIAFREUNDENREICHII,BIFIDOBACTERIUMLACTIS,LACTOBACILLUSACIDOpHILUS,LACTOCOCCUSLACTIS,ENTEROCOCCUSFAECIUM,LACTOBACILLUSCASEIおよびLACTOBACILLUSSALIVARIUS,および「エクオール産生者」の哺乳類の胃腸管から単離された微生物の混合培養物を含む。
実施例5】【0152】食品中におけるダイゼインのエクオールへのバクテリア変換還元環境下でダイゼインを代謝させることができるバクテリアまたはバクテリアの組み合わせを見出す実験において,ほぼ20mg/lのダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳の諸試料に,異なるバクテリア単独またはいくつかの微生物の組み合わせを植え付けた。微生物を植えつけた豆乳を37℃で42時間まで嫌気状態で培養した。
実験期間の全体にわたってある時間間隔で試料を抜出し,イソフラボン含有量,特にダイゼイン含有量を分析した。ダイゼインのエクオールへの変換は,時間と共に当該反応物中のダイゼインレベルの低下を伴い,変わりに水素化産物,即ちエクオールが現れる。ダイゼインレベル以外で,イソフラボン含有量の著しい変化は微生物を植えつけた試料のいずれにも見当たらず,このことはイソフラボン(適当な代謝バクテリアが存在しないか不活性である時のダイゼインを含む)の安定性を明示している。結果を表Dに示す。調べた7種の微生物を植えつけた試料のうち,4種は全培養期間中ダイゼイン濃度に変化を示さなかった。微生物を植えつけた試料のうちの3種は,水素化化合物の濃度変化に伴ってダイゼインレベルの実質的な低下を示した。この変化に作用した微生物はPROPRIONOBACTERIAFREUNDENREICHII,以下を含む混合培養物:BIFIDOBACTERIUMLACTIS,LACTOBACILLUSACIDOpHILUS,LACTOCOCCUSLACTIS,ENTEROCOCCUSFAECIUM,LACTOBACILLUSCASEI,およびLACTOBACILLUSSALIVARIUS,およびウマの糞便から単離した混合培養物であった。
初期レベルのほぼ50%のダイゼイン減失は,ウマの糞便混合培養物では15時間未満で生じ,そして他の2種の培養物では25時間までかかった。
【0153】【表4】イ甲6発明の認定上記アのとおり,甲6の【実施例5】には,「ダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳」に,以下を含む混合培養物:BIFIDOBACTERIUMLACTIS,LACTOBACILLUS「ACIDOpHILUS,LACTOCOCCUSLACTIS,ENTEROCOCCUSFAECIUM,LACTOBACILLUSCASEI,およびLACTOBACILLUSSALIVARIUS」を植え付けて培養したところ,エクオールが産生したことが記載されている。
そこで,甲6には,次の甲6発明が記載されていると認定できる。
「ダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳をエクオール産生能力を有する微生物である,BIFIDOBACTERIUMLACTIS,LACTOBACILLUSACIDOpHILUS,LACTOCOCCUSLACTIS,ENTEROCOCCUSFAECIUM,LACTOBACILLUSCASEI,及び,LACTOBACILLUSSALIVARIUSを含む「混合培養物」で発酵処理することを含む,エクオールを含有する発酵物を製 造する方法。」(2)本件訂正発明と甲6発明の対比前記第2の2(2)の本件訂正発明と前記(1)イの甲6発明を比較すると,本件訂正発明と甲6発明は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,エクオールを含有する発酵物の製造方法。」である点で一致し,次の点で相違すると認められる。なお,相違点は,原告の主張する区分に沿って検討するものとする。
(相違点B1)本件訂正発明では,微生物が「オルニチン産生能力を有する」ことが特定されているのに対して,甲6発明では微生物として「LACTOCOCCUSLACTIS」を含むことが特定されているものの,当該微生物が「オルニチン産生能力を有する」ことは特定されていない点(相違点B2)本件訂正発明では,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」にアルギニンを添加し,ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料を発酵処理することが特定されているのに対して,甲6発明では,発酵原料が豆乳を含むダイゼイン含有基礎培地などであることが特定されているものの,ダイゼイン類にアルギニンを添加し発酵原料がアルギニンを含むものであることは特定されていない点(相違点B3)本件訂正発明では,オルニチンを含有する発酵物が生成されることが特定されているのに対して,甲6発明ではこの点が特定されていない点(相違点B4)本件訂正発明では,発酵処理により乾燥重量1g当たり1mg以上のエクオール及び8mg以上のオルニチンが生成されることが特定されているのに対して,甲6発明ではこの点が特定されていない点(相違点B5)本件訂正発明では,製造される発酵物が粉末状であり,食品素材として用いられるものであることが特定されているのに対して,甲6発明ではこの点が特定されていない点 (3)相違点B1について相違点B1(本件訂正発明では,微生物が「オルニチン産生能力を有する」ことが特定されているのに対して,甲6発明では微生物として「LACTOCOCCUSLACTIS」を含むことが特定されているものの,当該微生物が「オルニチン産生能力を有する」ことは特定されていない点)について検討する。
ア甲6には,「エクオール産生能力」を有する微生物として,「BIFIDOBACTERIUMLACTIS,LACTOBACILLUSACIDOPHILUS,LACTOCOCCUSLACTIS,ENTEROCOCCUSFAECIUM,LACTOBACILLUSCASEI,およびLACTOBACILLUSSALIVARIUS」の「混合培養物」が開示されているものの,これらのいずれかの微生物がオルニチン産生能力を有することは記載されていない。
この点について原告は,「LACTOCOCCUSLACTIS」がアルギニンデイミナーゼ経路を介してアルギニンを代謝し,オルニチンを産生するという「オルニチン産生能力」を有していることは技術常識であったと主張する。ここで,LACTOCOCCUSLACTISは,かつて,ストレプトコッカスラクティス(又はラクチス)と呼ばれていたものであるところ(甲8)甲7,(JournalofBacteriology,Vol.150,No.3,1982,1024-1032)には,ストレプトコッカスラクティスは,「・アルギニンデイミナーゼ経路を介して,アルギニンを代謝し,オルニチン,アンモニア,二酸化炭素及びATPを産生する」との記載がある。また,甲17の1(JournalofDailyResearch,1998,vol.65,p.101-107)には,「アルギニンの利用促進とシトルリンとオルニチンの放出から,対数増殖後期におけるアルギニンデイミナーゼ経路の活性上昇が推測された」との記載がある。
しかしながら,乙4「レンサ球菌の分類と病原性」(魚病研究17(1)1-10,1982.6)の表5にあるように,ストレプトコッカス・ラクティスの中にもアルギニンデイミナーゼ経路の活性を有する菌株と有さない菌株があることから(YIT-2003はADH+であるが,M-29CはADH‐である。,ストレプトコッカス・ラクティスであることか)ら直ちにオルニチン産生能力を有するものと認めることはできない。
そうすると,甲6のLACTOCOCCUSLACTISが,オルニチン産生能力を有する微生物であるか否かは明らかではないというほかない。また,甲6発明のその余の微生物についても,甲6にはオルニチン産生能力を有するとの記載はなく,また,本件優先日当時,その旨の技術常識があったと認めるに足りる証拠もない。
したがって,相違点B1について,甲6に記載されているに等しい事項であるとはいえない。
イ上記アのとおり,相違点B1は実質的な相違点であるところ,本件優先日当時,当業者は,甲6の記載から,甲6記載の微生物のいずれかがオルニチン産生能力を有することを導き出すことはできなかった。
そして,甲6発明は,鏡像異性のエクオール化合物,すなわち,S-エクオールおよびR-エクオールの製造および単離,および哺乳類およびヒトの疾患や体の異常の治療に用いる鏡像異性のエクオール化合物を含む食品および医薬組成物に関するものであって(甲6の段落【0001】,甲6には,オルニチンに関する記載は全く)なく,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物を用いてエクオールとオルニチンを含有する発酵物を得ること等のオルニチンの産出を示唆する記載もない。
そうすると,本件優先日当時,当業者は,甲6発明から,相違点B1を容易に想到することができたということはできない。
(4)取消事由3についての結論したがって,その余の相違点について検討するまでもなく,甲6発明に基づいて当業者が本件訂正発明を容易に想到することができたと認めることもできないから,本件訂正発明について,甲6に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められないとした本件審決に誤りはなく,取消事由3は理由がない。
4取消事由4(甲9に基づく新規性進歩性違反についての判断の誤り)(1)甲9発明について ア甲9の明細書(甲9の3枚目以降。以下「甲9明細書」という。)には次の記載がある。
「これらの知見をもとに,本発明者らは更に鋭意研究を重ねた結果,ダイゼインを資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物と,ダイゼイン又はこれを含む適当な素材とを組合せた新しい組成物,及び上記微生物にてダイゼインを資化させて得られるエクオールを含む新しい組成物の開発に成功すると共に,それらの摂取が中高年女性の不定愁訴の予防及び緩和に有効であるという事実を発見した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。(6頁18行〜7」頁4行)「本発明によれば,次に,ダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を,ダイゼイン含有物に作用させて得られるエクオールを含有する,食品形態又は医薬品形態の組成物(以下「エクオール含有組成物」という)が提供される。(7頁11〜15行)」「(3)ストレプトコッカスA6G-225(StreptococcusA6G-225,FERMBP-6437)I.培地上での発育状態(略)II.生理学的性質(中略)以上,菌の形状,生化学的性質,糖資化性及び有機酸産生の各点から,本菌株は,グラム陽性球菌であるストレプトコッカスインターメディアスに分類されるが,その基準株とは,L-ラムノース,D-トレハロースの同化性の点で異なっている。
従って,本発明者は本菌株をストレプトコッカスA6G-225(StreptococcusA6G-225)と命名し,平成9年7月7日に,工業技術院生命工学工業技術研究所に,微工研菌寄第P-16314号として寄託した。尚,このものは,平成10年7月22日に,原寄託よりブタペスト条約に基づく寄託に移管されており,その受託番 号は,FERMBP-6437である。(19頁7行〜23頁5行)」「本発明エクオール含有組成物は,上記ダイゼイン含有物,好ましくは大豆イソフラボン又はこれを含有する食素材を基質として利用して,一般的な発酵方法に従い,上記微生物を培養することによって調製できる。
この方法は,より詳しくは,例えば基質を溶液状態にして滅菌した後,これに所定の微生物を添加して,37℃下に,嫌気状態あるいは好気的静置状態で,48〜96時間程度発酵(必要に応じてpH調節剤,還元物質(例えば酵母エキス,ビタミンK1等)を添加できる)させることにより実施できる。
上記培養は,例えばストレプトコッカスインターメディアス菌の場合は,より好ましくは次の如くして実施できる。即ち,嫌気性菌増殖用の変法GAM培地(ModifiedGifuAnaerobicMedium)に,基質としてダイゼインを0.01〜0.5mg/mlの範囲で溶解する。予め,変法GAM培地で14時間程度前培養して増殖させた微生物の培養液を,ダイゼインを溶解させた変法GAM培地に接種する。接種量は培地の1/100容量とする。好気的条件下に,37℃で,48〜96時間静置培養する。
本発明は,かかる微生物を利用したエクオールの製造方法をも提供するものである。
上記発酵系内には,更に好ましくは上記微生物の維持,増殖に特に適した栄養成分を含有させることができる。該栄養成分としては,例えば乳果オリゴ糖,大豆オリゴ糖,ラクチュロース,ラクチトール,フラクトオリゴ糖,ガラクトオリゴ糖等のオリゴ糖を例示できる。これらの配合量は,特に限定されるものではないが,通常本発明組成物中に1〜3重量%程度配合される量範囲から選ばれるのが好ましい。
かくして,所望のエクオール含有培養物が得られる。(27頁21行〜29頁7」行)「本発明のエクオール含有組成物は,上記の如くして得られるエクオール含有培養物又は単離されたエクオールを利用して,これを更に必要に応じて適当な他の食 素材等を適宜配合して,適当な食品形態乃至医薬品形態に調製することができる。
上記食品形態としては,例えば飲料,乳製品,発酵乳,バー,顆粒,粉末,カプセル,錠剤等を例示できる。(29頁13〜19行)」「実施例3発酵豆乳凍結乾燥粉末の調製ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)約107個/mlの1mlを用いて,豆乳100gを37℃で24時間乳酸発酵させて,エクオールを生成させた。これを凍結乾燥して粉末とした。粉末中のエクオール含量は,0.1〜0.3重量%であった。
上記粉末を用いて,下記処方の各成分を秤量混合して,発酵豆乳凍結乾燥粉末形態の本発明組成物を調製した。
発酵豆乳凍結乾燥粉末2.2g賦形剤適量ビタミン・ミネラル適量香料適量全量20g尚,賦形剤としては,コーンスターチ17gを用いた。(32頁7行〜20行)」イ甲9発明の認定上記アのとおり,甲9には,「ダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を,ダイゼイン含有物に作用させて得られるエクオールを含有する,食品形態又は医薬品形態の組成物(エクオール含有組成物)が提供される。こと」(甲9明細書の7頁11〜15行),上記微生物の培養は,「変法GAM培地」を用いで実施することが好ましいこと(27頁21行〜29頁7行)食品形態の例としては,,「飲料,乳製品,発酵乳,バー,顆粒,粉末,カプセル,錠剤等」があげられること(29頁13〜19行),実施例3として,「ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)」を用いて,「豆乳」を乳酸発酵させて,「エクオールを生成」させ,「凍結乾燥して粉末とした」ところ,「粉末中のエクオール含量は, 0.1〜0.3重量%」すなわち,乾燥重量1g当たり1〜3mgであったこと(32頁7〜20行)が記載されている。
以上の各記載からすると,甲9には,次の甲9発明が記載されていると認定できる。
「基質としてダイゼイン,例えば豆乳を含む発酵原料を変法GAM培地でエクオール産生能力を有する微生物であるストレプトコッカスインターメディアス菌,特にストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)で発酵処理することを含む,エクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって,粉末状の発酵物の乾燥重量1g当たり,1mg〜3mgのエクオールを生成し,前記発酵物が,例えば飲料,乳製品,発酵乳,バー,顆粒,粉末,カプセル,錠剤等の食品形態として用いられる,製造方法。」(2)本件訂正発明と甲9発明の対比前記第2の2(2)の本件訂正発明と前記(1)イの甲9発明を比較すると,本件訂正発明と甲9発明は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を含む発酵原料をエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,エクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって,該発酵物が食品素材として用いられるものである製造方法。」である点で一致し,次の点で相違すると認められる。なお,相違点は,原告の主張する区分に沿って検討するものとする。
(相違点C1)本件訂正発明では,微生物が「オルニチン産生能力を有する」ことが特定されているのに対して,甲9発明では微生物が「ストレプトコッカスインターメディアス菌,特にストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)」であることが特定されているものの,当該微生物が「オルニチン産生能力を有する」ことは特定されていない点(相違点C2)本件訂正発明では,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」にアルギニ ンを添加し,ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料を発酵処理することが特定されているのに対して,甲9発明では,変法GAM培地で発酵することが特定されているものの,ダイゼイン類にアルギニンを添加し発酵原料がアルギニンを含むものであることは特定されていない点(相違点C3)本件訂正発明では,オルニチンを含有する発酵物が生成することが特定されているのに対して,甲9発明ではこの点が特定されていない点(相違点C4)本件訂正発明では,発酵処理により乾燥重量1g当たり1mg以上のエクオール及び8mg以上のオルニチンが生成されることが特定されているのに対して,甲9発明ではこの点が特定されていない点。
(3)相違点C4について所論に照らし,相違点C4(本件訂正発明では,発酵処理により乾燥重量1g当たり1mg以上のエクオール及び8mg以上のオルニチンが生成されることが特定されているのに対して,甲9発明ではこの点が特定されていない点)について検討する。
新規性について甲9発明では,本件明細書段落【0032】に記載されている微生物ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)が用いられているものの,甲9には,同微生物を用いた発酵処理によりオルニチンが得られることやその産生量についての記載がない。
原告は,甲9の開示するストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)及び変法GAM培地を用いて培養を行うことで得られる発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニチン量は,25.4mgであるから,相違点C4は甲9に記載されているに等しいと主張するが,原告は,ダイゼインを発酵原料として変法GAM培地を用いて本培養を行い,培地中のアルギニンが100%オルニチンに変換されることを前提として上記オルニチンの量を算出しているのに対し,甲9においては,甲9発明の前提となる実施例3としてストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)を用いた培養が記載されているところ(甲9の明細書32頁7 〜20行)同実施例においては,,ストレプトコッカスA6G-225(FERMBP-6437)約107個/mlの1mlを用いて,豆乳100gを37℃で24時間乳酸発酵させて,エクオールを生成させ,これを凍結乾燥して粉末としており,ダイゼインを発酵原料とするものではなくまた本培養に変法GAM培地が用いられているものではないから,上記原告の算出は,その前提とする条件が同実施例とは異なる。そして,同実施例において,仮に前培養に変法GAM培地が用いられており,これを含むストレプトコッカスA6G-225の1mlと豆乳100gが発酵されており,前培養で用いられた変法GAM培地に含まれるアルギニンが変換されてオルニチンが産生されていたとしても,豆乳の量に比べて,前培養における変法GAM培地に由来する量が少ないことや乾燥後の粉末に含まれる豆乳由来の固形物の量を考慮すれば,同実施例とは発酵原料や培地等が異なる条件を前提とした原告の上記算出をもって,同実施例により生成される発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニチン産生量が8mg以上になると認めることはできない。
そして,被告が甲9の実施例3に基づいて行ったとされる実験の結果(乙7・実験報告書。もっとも乙7の実験では,本培養に豆乳及び変法GAMブイヨンを混合して使用しており,実施例3とは本培養の培地が異なる。)によると,オルニチンの生成は認められたものの,その量は乾燥重量1g当たり約0.15〜0.16mgであったことからしても,実施例3により,乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンが生成されていると認めることはできない。
また,甲9には,ストレプトコッカスインターメディアス菌を用い,変法GAM培地に基質としてダイゼインを0.01〜0.5mg/mlの範囲で溶解し,予め変法GAM培地で14時間程度前培養して増殖させた微生物の培養液を,ダイゼインを溶解させた変法GAM培地に接種し,好気的条件下に,37℃で,48〜96時間静置培養する旨の記載もあるが(27頁21行〜29頁7行)同培養方法につい,ては,アルギニンからオルニチンへの変換率や具体的な培養条件が必ずしも明らかではなく,原告の上記算出の前提に沿った条件であるということはできないから, 同記載をもって,同培養方法により乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンが生成されることが記載されているということはできない。
そうすると,相違点C4が甲9に記載されているに等しいということはできない。
進歩性について上記アのとおり,甲9には,発酵処理により乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンが生成されることの記載がない(記載されているに等しいということもできない)が,加えて,甲9発明が,ダイゼインを資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を,ダイゼイン含有物に作用させて得られるエクオール含有組成物を提供する(甲9明細書7頁11〜15行)ものであって,甲9にはオルニチンに関する記載が全くなく,何らの示唆もないことからすると,当業者が,甲9発明において,発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンが生成するように培養条件等を変更しようとすることを想起したということはできない。
そうすると,相違点C4について,甲9発明に基づいて当業者が容易に想到することができたということはできない。
(4)取消事由4についての結論したがって,その余の相違点について検討するまでもなく,本件訂正発明が甲9に記載されているに等しいと認めることはできず,また,甲9発明に基づいて当業者が本件訂正発明を容易に想到することができたと認めることもできないから,本件訂正発明について,甲9に記載された発明であるとも,甲9に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとも認められないとした本件審決に誤りはなく,取消事由4は理由がない。
5取消事由5(分割要件違反及び甲12に基づく進歩性違反についての判断の誤り)(1)原告は,本件訂正発明の採用する@「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を発酵原料として用いる構成,A「アルギニンを添加する」という構成,B「発酵物の 乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン」を生成するとの構成は,いずれも分割出願直前の出願当初の明細書等である当初明細書に記載がなく,特許法44条1項の「2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とする」の要件を満たさないと主張する。そこで,本件訂正発明の上記@〜Bの構成が,当初明細書に記載された事項の範囲内であるか検討する。
(2)当初明細書(甲13)には,次の記載がある。
【0036】また,大豆胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩,硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下,「オルニチン・エクオール産生微生物」と表記する)を使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合,アルギニンの添加量については,例えば,大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して,アルギニンが0.5〜3重量部程度が例示される。なお,オルニチン・エクオール産生微生物としては,エクオール産生能とアルギニンからオルニチンへの変換能を指標として公知のスクリーニング方法により得ることができる。オルニチン・エクオール産生微生物は,例えばラクトコッカス・ガルビエから選択することができ,その具体例としてラクトコッカス20-92(FERMBP-10036号)が挙げられる。
【0050】また,前述するように,オルニチン・エクオール産生微生物を使用し,且つアルギニンを大豆胚軸に添加して発酵させることにより得られるエクオール含有大豆胚軸発酵物には,オルニチンが含有されている。このようなエクオール含有大豆胚軸発酵物に含まれるオルニチンの含有量として具体的には,エクオール含有大豆胚軸 発酵物の乾燥重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは9〜12mg程度が例示される。
【0091】エクオールを含む発酵物は,エクオール産生微生物を用いて公知の方法に従って発酵することにより製造される。具体的には,エクオール産生微生物を,ダイゼイン配糖体,ダイゼイン,及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を,該ダイゼイン類を含む発酵原料(発酵に供される原料)に接種し,該微生物の生育環境下で発酵(培養)させることにより,エクオールを含む発酵物を得ることができる。
【0093】また,ダイゼイン類を含む発酵原料としては,ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではないが,安全性の観点から,食品素材としても利用可能なものが好適である。ダイゼイン類を含む発酵原料としては,具体的には,大豆,大豆胚軸,大豆胚軸の抽出物,豆腐,油揚げ,豆乳,納豆,醤油,味噌,テンペ,レッドクローブ又はその抽出物,アルファルファ又はその抽出物等が挙げられる。これらの中でも,大豆胚軸は,ダイゼイン類を豊富に含んでいるので,ダイゼイン類を含む発酵原料として好ましい。
【0226】原料として使用した粉末状大豆胚軸(表2及び3中,発酵前と表記する)及び得られた粉末状大豆胚軸発酵物(表2及び3中,発酵後と表記する)の含有成分の分析を行った。大豆イソフラボン類の分析結果を表2に,栄養成分の分析結果を表3に示す。この結果からも,ラクトコッカス20-92株によって大豆胚軸を発酵させることにより,高含量のエクオールを含む大豆胚軸発酵物が製造されることが確認された。また,ラフィノースやスタキオース等のオリゴ糖は,発酵前後でその含量が同程度であり,発酵による影響を殆ど受けないことが明らかとなった。一方,アル ギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかとなった。
【0228】【表3】(3)@「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を発酵原料として用いる構成について前記(2)のとおり,当初明細書の段落【0091】には,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン,及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物」との記載,段落【0093】には,「ダイゼイン類を含む発酵原料としては,ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではない」との記載があるから,当初明細 書において,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」を発酵原料として用いる構成が記載されているということができるから,上記@の構成は当初明細書に記載された事項の範囲内にあると認められる。
(4)A「アルギニンを添加する」という構成について前記(2)のとおり,当初明細書の段落【0036】には,「特に,エクオール産生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下,「オルニチン・エクオール産生微生物」と表記する)を使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。」との記載があり,段落【0226】には「大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかとなった。」との記載がある。これらからすると,当初明細書には,発酵原料にアルギニンを添加することが記載されているといえるから,上記Aの構成は,当初明細書に記載された事項の範囲内にあると認められる。
(5)B「発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン」を生成するとの構成について前記(2)のとおり,当初明細書の段落【0050】には,「エクオール含有大豆胚軸発酵物に含まれるオルニチンの含有量として具体的には,エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは9〜12mg程度が例示される。」との記載があり,発酵物の乾燥重量1g当たり8〜15mgのオルニチンが含まれることが好ましい旨の記載があるところ,上記Bの構成は,当初明細書に例示された「8〜15mg」のうちの下限値により特定したものということができる。
そして,段落【0093】に「ダイゼイン類を含む発酵原料としては,ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではないが,安全性の観点から,食品素材と しても利用可能なものが好適である。「大豆胚軸は,ダイゼイン類を豊富に含んで」いるので,ダイゼイン類を含む発酵原料として好ましい。との記載があることから,」大豆胚軸は「ダイゼイン類を含む原料」の一例に当たると認められるところ,上記段落【0050】は,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を用いた場合のオルニチンの含有量について記載したものであると解される。
そうすると,上記Bの構成は,当初明細書に記載された事項の範囲内のものであって,新規事項の追加に当たらないというべきである。
(6)取消事由5についての結論したがって,@〜Bの構成はいずれも当初明細書に記載された事項の範囲内にある。そして,前記(2)の各記載は本件原出願の再公表広報(甲12)における【発明の詳細な説明】の段落【0034】【0048】【0089】【0091】【0224】【0226】【表3】の各記載と同一であるから,@〜Bの構成は,本件原出願の明細書等に記載された事項の範囲内にあるといえ,さらには,本件原出願から分割出願した特願2013-108439号,さらにその一部を分割出願した特願2016-156372号の各明細書等に記載された事項の範囲内にあると推認できる。
そうすると,本件出願は,適法に分割されたものと認められるから,本件原出願の出願日である平成20年6月13日に出願したものとみなされる。
したがって,甲12が上記出願日よりも後に公知となった文献であることを理由として甲12により本件特許発明進歩性要件違反とすることはできないとした本件審決に誤りはなく,原告が主張する取消事由5は理由がない。
6取消事由6(委任省令要件違反についての判断の誤り)(1)委任省令要件について特許法36条4項1号の委任する特許法施行規則24条の2は,発明の詳細な説明の記載について,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発「明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定するとこ ろ,原告は,本件明細書からはオルニチンを用いた本件訂正発明が,どのような課題をどのように解決したか明らかでないこと,「発酵物の乾燥重量1g当たり」「8mg以上のオルチニン」という数値限定に対応する課題も効果も,本件明細書に記載がなく,当業者において本件訂正発明の課題やその解決手段を認識することはできないから,上記委任省令要件違反である旨主張する。
(2)本件明細書の記載についてそこで検討するに,前記1(1)のとおり,本件明細書の段落【0226】には,「アルギニンについては,発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。
従って,大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることが明らかとなった。」との記載があり,本件明細書の段落【0228】【表3】にも,発酵により,アルギニンからオルニチンが生成することが示されている。また,本件明細書の段落【0050】には,「ダイゼイン類を含む原料」の一例である「大豆胚軸」を用いた場合のオルニチンの含有量について,エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥「重量1g当たりオルニチンが5〜20mg,好ましくは8〜15mg,更に好ましくは9〜12mg程度が例示される。」と記載されており,当業者は,本件訂正発明は,この好ましい量の下限を採用したものであると理解できる(前記5(5)参照)。
これらからすると,当業者は,本件訂正発明の技術上の意義は,ラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより,エクオールのみならず,オルニチンをも生成させ得ることを明らかにし,エクオール及びオルニチンを含有する発酵物(オルニチンの含有量は乾燥重量1g当たり8mg以上)の製造方法を提供したことにあること及び発酵処理によりこれを解決することが理解できるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載には,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているということができる。
(3)原告の主張について原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】におい てオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,上記のとおり,特許法施行規則24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。
(4)取消事由5についての結論よって,本件明細書について,特許法36条4項1号において委任する経済産業省令(特許法施行規則24条の2)の要件を満たしているとした本件審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由6は理由がない。
第6結論よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官本多知成裁判官浅井憲 裁判官勝又来未子