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事件 令和 2年 (ネ) 10029号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人旭化成株式会社
同訴訟代理人弁護士 古城春実 加治梓子
同訴訟代理人弁理士 川島さやか
同補佐人弁理士 松井佳章
被控訴人日本製紙株式会社
同訴訟代理人弁護士 荒井俊行 三井睦貴 横田重信
同訴訟復代理人弁理士 井出桂子
同補佐人弁理士 香島拓也 山崎亨
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/11/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決を次のとおり変更する。
? 被控訴人は,控訴人に対し,363万3614円並びにうち209万5644円に対する令和元年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち153万7970円に対する令和3年6月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
? 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
13 この判決の第1項?は,仮に執行することができる。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の製品を製造し,譲渡し,又は譲渡の 申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙方法目録記載の方法で,原判決別紙物件目録記載の 製品を製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
4 被控訴人は,その占有に係る原判決別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。
5 被控訴人は,控訴人に対し,948万5554円並びにうち467万567 8円に対する令和元年10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員 及びうち480万9876円に対する令和3年6月28日から支払済みまで年 3分の割合による金員を支払え(控訴人は,当審において,474万3679 円及び遅延損害金の損害賠償請求を,このように拡張した。 。
)
事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「セルロース粉末」とする特許(特許第511075 7号。請求項の数16。以下「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本 件特許権」という。)の特許権者である控訴人が,被控訴人による原判決別紙物 件目録記載の各製品(以下「被告各製品」と総称し,同目録1記載の製品を「被 告製品1」,同目録2記載の製品を「被告製品2」という。)の製造及び販売, 原判決別紙方法目録記載の方法(以下「被告方法」という。)を使用した被告各 製品の製造等が本件特許権の侵害に該当する旨主張して,被控訴人に対し,特 許法100条1項及び2項に基づき,被告各製品の製造及び販売,被告方法を 使用した被告各製品の製造等の差止め並びに被告各製品の廃棄を求めるととも に,本件特許権侵害不法行為による損害賠償として474万3679円及び 2 これに対する平成29年8月5日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで平成 29年法律第44号による改正前の民法所定(以下「改正前民法所定」という。) の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,@被告製品1は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に係 る発明(以下,請求項の番号に応じて「本件発明1」などという。)の技術的 範囲に属するが,被告製品2は,本件発明1及び2の技術的範囲に属さず,被 告方法も,本件発明6の技術的範囲に属さない,A本件発明1及び2に係る本 件特許には特許法36条6項1号所定のサポート要件に違反する無効理由があ り,同法104条の3第1項の規定により,控訴人は,本件発明1及び2に係 る本件特許権を行使することができないとして,控訴人の請求をいずれも棄却 した。
控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。その後,控訴人は, 当審において,控訴の趣旨第5項のとおり,損害賠償請求に関する部分の請求 の拡張をした。
2 前提事実 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のと おりであるから,これを引用する。
? 原判決2頁25行目から3頁5行目までを次のとおり改める。
「ア 旭化成ケミカルズ株式会社は,平成13年6月28日,発明の名称を 「セルロース粉末」とする発明について,特許出願(特願2002-5 07894号,優先日平成12年7月5日,優先権主張国日本。以下「本 件出願」という。)をし,平成24年10月19日,本件特許権の設定登 録を受けた(甲1,2)。
控訴人は,平成28年4月1日,旭化成ケミカルズ株式会社を吸収合 併し,本件特許権を一般承継し,その旨の移転登録(受付日同年7月2 0日)を経由した(甲1)。
3 イ 本件特許権は,令和3年6月28日,存続期間の満了により消滅した。」 ? 原判決3頁7行目の「請求項1に記載された発明を「本件発明1」という。
また,」を削る。
? 原判決4頁4行目から5行目にかけての (以下, 「 請求項2に記載された発 明を「本件発明2」という。 」を削る。
) ? 原判決4頁22行目の「請求項6」から23行目の「併せて」までを「本 件発明1,2及び6を併せて」と改める。
? 原判決5頁20行目から22行目までを次のとおり改める。
「? 被控訴人は,平成27年12月から令和3年6月28日まで, 「NPミ クロース」の商品名で,食品添加物用途に使用される結晶セルロースで ある被告各製品の製造及び販売をした。」3 争点 ? 被告製品1の構成要件1B及び2Bの充足性(争点1) ? 被告製品2の構成要件1F及び2Fの充足性(争点2) ? 被告方法の構成要件3Eの充足性(争点3) ? 無効の抗弁の成否(争点4) ア 実施可能要件違反の有無(争点4-1) イ サポート要件違反の有無(争点4-2) ウ 明確性要件違反の有無(争点4-3) エ 本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-31653 5号公報(乙29。以下「乙29公報」という。)を主引用例とする本件各 発明の新規性又は進歩性の欠如の有無(争点4-4) ? 差止請求及び廃棄請求の可否(争点5)(当審における追加主張) ? 控訴人の損害額(争点6)4 争点に関する当事者の主張 ? 争点1(被告製品1の構成要件1B及び2Bの充足性)について 4 原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載のとおりであるから,これを 引用する。
? 争点2(被告製品2の構成要件1F及び2Fの充足性)について 原判決10頁21行目から24行目までを次のとおり訂正するほか,原判 決の「事実及び理由」の第2の4?記載のとおりであるから,これを引用す る。
「イ 被控訴人が提出するPT-Rによる測定結果(乙34)は,被控訴人の 従業員が第三者の立会いもなく検査を行っており,検体の選別の可能性 もあるのに対し,控訴人の測定結果(甲20の2)は,第三者の測定機関 によるものであるから,控訴人の測定結果の方が信頼できる。
控訴人は,上記の測定結果のほかに,本件訴訟の提起に先立ち,被告製 品2が本件特許権を侵害していることを確認するため,そのロット番号 「M4612104」から被控訴人の乙34の検体@〜Bと同時期の2 016年1月21日に製造されたことが分かる被告製品2の販促用サン プルを入手し,控訴人の工場においてパウダーテスターPT-Rを用い て測定を行った。その測定結果によると,見掛けタッピング比容積の測定 値は2.40であった(甲70)。
したがって,被告製品2は,構成要件1F及び2Fを充足する。」? 争点3(被告方法の構成要件3Eの充足性)について 原判決13頁7行目末尾に次のとおり加えるほか,原判決の「事実及び理 由」の第2の4?記載のとおりであるから,これを引用する。
「エ なお,本件明細書の「噴霧乾燥では…凝集粒子間の水素結合が弱いた めに崩壊性が良好なものになる」 (【0023】 ,成形性に加えて流動性, )「 崩壊性の良好なものを得るためには,乾燥前に粒子のL/Dを特定範囲 に制御しておき,品温が100℃未満で噴霧乾燥することによって初め て達成される」【0024】 ( )との記載によれば,成形性と崩壊性の良好 5 なバランスを得るには所定の噴霧乾燥が必須である。
しかるところ,前述のとおり,被告各製品は,噴霧乾燥によって製造 されたものでないから,成形性,崩壊性及び流動性をバランスよく併せ もつという本件発明1及び2の作用効果を奏さない。
したがって,被告各製品は,作用効果不奏功の抗弁により,本件発明 1及び2の技術的範囲に属さない。」? 争点4-1(実施可能要件違反の有無)について 原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載のとおりであるから,これを 引用する。
? 争点4-2(サポート要件違反の有無)について 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載 のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決22頁25行目の「(本件発明3)」を「(本件発明6)」と,27 頁7行目,10行目及び24行目,31頁14行目,33頁13行目,1 5行目,17行目,20行目及び23行目,34頁5行目,7行目及び8 行目の各「本件発明3」をいずれも「本件発明6」と改める。
イ 原判決28頁16行目の「同じ値となるのであり」を「実質的に同じ値 になるのであり(百歩譲って,厳密に同一といえないとしても,近しい値 であることは,本件出願当時,セルロースの結晶モデルについて広く認め られた事項に基づく技術常識である(甲39,64等) ) 。 」と改める。
? 争点4-3(明確性要件違反の有無)について 原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載のとおりであるから,これを 引用する。
? 争点4-4(乙29公報を主引用例とする本件各発明の新規性又は進歩性 の欠如の有無)について 原判決42頁3行目,43頁14行目(2箇所),16行目,21行目,4 6 7頁14行目,16行目,18行目から19行目にかけて,48頁11行目, 13行目及び17行目の各「本件発明3」をいずれも「本件発明6」と改め るほか,原判決の「事実及び理由」の第2の4?記載のとおりであるから, これを引用する。
? 争点5(差止請求及び廃棄請求の可否)(当審における追加主張) (被控訴人の主張) 本件特許権は令和3年6月28日に存続期間の満了により消滅したから, 控訴人による本件特許権に基づく差止請求及び廃棄請求は,理由がない。
(控訴人の主張) 被控訴人の主張のうち,本件特許権の存続期間が満了したことは認める。
? 争点6(控訴人の損害額)について (控訴人の主張) ア 特許法102条3項実施料相当額損害額 ●●●●●●●●円 (ア) 被告各製品の売上高 a 被告製品1の売上高 @ 平成27年12月から令和元年10月31日まで ●●●●●●●●●円(乙60) A 令和元年11月1日から令和3年6月28日まで ●●●●●●●●●円 B 小計 ●●●●●●●●●円 b 被告製品2の売上高(平成27年12月から令和3年6月28日ま で) ●●●●●●●●●円 c 合計額 ●●●●●●●●●円(乙78) (イ) 実施料率 a 株式会社帝国データバンク作成の「平成21年度特許庁財産制度問 題調査研究報告書 知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在 7 り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルテ ィ料率に関する実態把握〜」 (以下「本件報告書」という。甲58)の 表V-10には, 「国内企業のロイヤルティ料率」に関するアンケート 結果として,産業分野を「化学」とするロイヤルティ料率は5.3% と記載され,また,表V-12には,平成16年から平成20年まで の産業分野を「化学」とする「司法決定によるロイヤルティ料率」は 平均値6.1%,最大値20%,最小値0.3%(件数5件)と記載 されている。
b 本件各発明は,医薬品である錠剤や食品添加物としての用途におい て従来の製品にはなかった高い機能を実現し,他の製品では代替する ことのできない,高い付加価値を有し,本件各発明の実施品を含む控 訴人の結晶セルロース製品は,結晶セルロースの市場において広く採 用されている。また,本件特許に係る控訴人の結晶セルロース製品は, 平成26年に発明協会の表彰(甲54)を受けている。
そして,本件各発明の実施品を含む控訴人の結晶セルロース製品を 用いることにより顧客の錠剤製造上の課題を解決し得ることは,顧客 の購入動機に影響を与えるものであるから,本件各発明は,売上高と 利益に貢献している。
さらに,控訴人の結晶セルロース製品は,低価格競争に巻き込まれ ることのない高付加価値製品として,相応に高い利益率を維持してお り,控訴人は,本件各発明について他にライセンスを供与せず,独占 実施により利益を追求するというビジネスポリシーを採ってきた。
一方で,被控訴人は,結晶セルロース市場に控訴人以外では初めて となる高付加価値製品を投じて参入したものであり,また, 「微結晶セ ルロースNPミクロース」のパンフレット(甲3の1)において,本 件各発明の実施品である被告各製品が従来品と比べて高機能であるこ 8 とを謳い,顧客に訴求している。
このように控訴人の結晶セルロース製品と被告各製品は,市場にお いて直接競合する関係にあるから,控訴人は,十分な額の実施料を得 られなければライセンスに合意するはずがなかったことは明らかであ る。
c 以上によれば,控訴人の特許法102条3項に基づく実施料相当額損害額の算定に当たり,被告各製品の売上高に乗じるべき実施料率 は,少なくとも●●%とするのが相当である。
(ウ) まとめ したがって,控訴人の特許法102条3項に基づく実施料相当額の損 害額は,被告各製品の売上高合計●●●●●●●●●円(前記ア(ア)) に実施料率●●%を乗じた●●●●●●●●円を下らない。
イ 弁護士費用 ●●●円ウ 消費税相当額 ●●●●●●●円 (ア) 知的財産権の侵害に基づく損害賠償金は,消費税法上の資産の譲渡 等の対価に該当し,消費税の課税対象になると解されるから(消費税法 4条,消費税法基本通達5-2-5) 前記ア及びイの損害額に対する消費 , 税相当額●●●●●●●円を損害額として請求できる。
計算式: (●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)×8% (イ) 前記(ア)のうち,平成27年12月から令和元年10月31日まで の前記ア及びイの損害額に対する消費税相当額は,●●●●●●●円と なる。
計算式 (●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● : ●●●●●●●●)×8%エ 小括 以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権侵害不法行為 9 に基づく損害賠償として948万5554円並びにうち467万567 8円(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)に対する令和元 年10月31日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による 遅延損害金及びうち480万9876円に対する令和3年6月28日か ら支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め ることができる。
(被控訴人の主張)ア 控訴人主張の被告各製品の売上高は,認める。
イ 特許法102条3項に基づく実施料相当額損害額の算定に当たり, 被告各製品の売上高に乗じるべき実施料率は,以下のとおり,多くても 2%が相当である。
(ア) 本件報告書には,産業分野を「化学」とする特許のロイヤルティ料 率は,一般データでは5.3%であると記載されているが,平成21年 から平成22年に実施されたアンケート結果(表U―3)では平均4. 3%と記載されている。また,当該アンケート結果の詳細(乙65)で は, 「訴訟などの和解交渉による場合」 実施料率の最低区分の , 「1〜2% 未満」から「9〜10%未満」の間にほぼ全てが含まれている。
(イ) 控訴人が主張する発明協会の表彰(甲54)は, 「KG-802」と いう規格のセルロース粉末のみについてされたものであり,その「KG -802」も,控訴人の別の特許の明細書(乙53)において,流動性 が不十分とされている。
(ウ) 被告各製品は,成形性と崩壊性がバランスしておらず(乙62),本 件発明1及び2の作用効果である「流動性・成形性・崩壊性のバランス」 を備えるものではない。
加えて,被告各製品の特徴及び需要者に対する訴求点は, 「硬度・摩損 10 度が優れており錠剤に強度を付与させることができる」点にあり,被告 各製品が本件発明1及び2の作用効果である「流動性・成形性・崩壊性 のバランス」を備えるような宣伝もしていない(甲3の1ないし3,乙 62)。また,被控訴人は,実際の取引においても,被告各製品は,成形 性と崩壊性をバランスしていないことを明らかにして販売している(乙 62)。
したがって,本件発明1及び2は被告各製品の売上げに貢献していな い。
(エ) 被告各製品は,食品添加物用途の結晶セルロースであって,医薬品 添加物用途ではないのに対し,本件発明1及び2の実施品とされる控訴 人の「セオラスKG-802」は,医薬品添加剤用途に幅広く使用され る結晶セルロースであって(乙66の1,2),食品添加物用途の結晶セ ルロースではないから,本件発明1及び2の実施品と被告製品1との間 には市場での競合関係はない。また,食品添加物用途の結晶セルロース については,控訴人及び被控訴人以外の競合メーカーが存在する(乙6 7ないし69)。
(オ) 以上のとおり,実施料率に関するアンケート結果では,4.3%が 平均であるが,本件各発明の価値は低いこと,本件各発明は被告各製品 の売上げに対する貢献度はないこと,本件各発明の実施品と被告各製品 は市場において競合しないこと等の諸事情を総合すると,本件における 実施料率は,多くても2%とするのが相当である。
ウ 消費税相当額及び弁護士費用に関する控訴人主張は争う。
当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項について ? 本件明細書(甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する 表1ないし表6については別紙1を参照)。
11 ア 【0001】 【発明の属する技術分野】 【0002】 本発明は,医薬,食品,工業用途において使用される圧縮成形用賦形剤 に適するセルロース粉末に関する。より詳細には,医薬用途において,良 好な圧縮成形性を保ちながら,流動性,崩壊性にも優れる圧縮成形用賦形 剤に適するセルロース及びそれからなる賦形剤に関する。
【従来の技術】 【0003】 医薬品の錠剤化は生産性が高いということのほか,輸送や使用時に取 扱い易いという利点がある。そのため圧縮成形用賦形剤には,輸送や使 用に際して錠剤が磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性 が必要である。また医薬品用途における錠剤は,薬効の正確な発現のた めに1錠中の医薬品含量が均一であることが求められ,医薬品と圧縮成 形用賦形剤の混合粉体を打錠して錠剤化する際には,該粉体が打錠機の 臼に均一量充填される必要がある。そのため圧縮成形用賦形剤は成形性 に加えて十分な流動性が必要となる。さらに医薬品錠剤はこれらの性質 に加えて,服用後の速やかな薬効発現のために崩壊時間が短くなければ ならない。崩壊が速いほど,医薬品はそれだけ速く消化管液に溶解しや すいため,血中への移行が速くなり薬効を発現しやすくなる。そのため 圧縮成形用賦形剤は,成形性,流動性に加え,速やかな崩壊性を備えて いる必要がある。
多くの活性成分原料は圧縮しても成形ができないために,圧縮成形用賦形剤を配合して錠剤化される。一般に,錠剤中の圧縮成形用賦形剤の配合量が多いほど錠剤硬度は高くなり,また,圧縮応力が高いほど錠剤強度は高くなる。安全性や上記観点より,圧縮成形用賦形剤としては結晶セルロ 12 ースがよく使用される。
【0004】 ところが,例えば医薬分野において成形性の乏しい活性成分等を錠剤化する場合には,実用的な錠剤硬度を得るために過剰の圧縮応力をかけざるを得ず,打錠機に負担をかけるため臼杵の消耗を早め,また得られた錠剤の崩壊時間が遅延するという問題があった。薬物等の活性成分の配合量が多い場合,漢方薬等の比容積の大きな原末を配合した場合,錠剤の飲み易さを改善するために小型化する場合等では,賦形剤の配合量が著しく制限されるため,所望の錠剤硬度を得られず輸送中の磨損や破壊といった問題が生じる。また,さらには打圧感受性の活性成分,例えば酵素,抗生物質等では打圧による発熱や圧力によって活性成分が失活するため,実用硬度を得ようとすると含量が低下して錠剤化できない等の問題がある。上記の問題解決のためには,十分な流動性や崩壊性を備え,かつ少量添加でも十分な錠剤硬度を付与できる,あるいは低打圧でも十分な錠剤硬度を付与できる等の従来よりも優れた成形性を有する圧縮成形用賦形剤が必要となる。
従って医薬用賦形剤として使用されるセルロース粉末の機能としては圧縮成形性,崩壊性,流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいのであるが,圧縮成形性と他の崩壊性,流動性とは相反する性質であるため,成形性が高いにもかかわらず崩壊性,流動性にも優れるセルロース粉末は知られていなかった。
【0005】 従来セルロース粉末としては結晶セルロース,粉末セルロースが知られており,医薬,食品,工業用途で使用されてきた。
特公昭40-26274号公報には平均重合度が15〜375,見掛け比容積が1.84〜8.92cm 3 /g,粒度が300μm以下の結晶セルロースが記載されている。また特公昭56-2047号公報には平均重合 13 度が60〜375,見掛け比容積が1.6〜3.1cm 3 /g,見掛け密比容積が1.40cm 3 /g以上,200メッシュ以上が2-80重量%であり,安息角が35-42°である結晶セルロースが記載されている。またDE2921496号公報には流動可能な非繊維性,水不溶性のセルロース粉末としてセルロース物質を酸加水分解し,固形分濃度を30-40重量%とし,次いで140-150℃で棚段乾燥することによって平均重合度150のセルロース粉末を製造するという記載がある。さらにはRU2050362号公報には粉末セルロースの安定なゲル生成を目的として,セルロースを含む原料に鉱酸又は酸性塩の溶液を含浸させて,高温で加水分解を行うと同時に原料層を10-1000s -1 の剪断速度で1-10分間攪拌することにより平均重合度が400以下の粉末セルロースを得るという方法について記載がある。しかしこれらの公報に具体的に開示されている結晶セルロース,粉末セルロースでは乾燥後の75μm以下の粒子の平均L/D,見掛け比容積,見掛けタッピング比容積が小さく圧縮成形性に劣るという課題があった。
【0006】 また特開昭63-267731号公報には特定の平均粒径(30μm以下),比表面積が1.3m 2/g以上であるセルロース粉末が記載されているが,粉砕工程を経るために75μm以下の粒子の平均L/Dが小さく成形性が不十分であり,また粒子が小さく軽質なため流動性が悪く,さらには見掛けタッピング比容積が小さくなりすぎて崩壊性が著しく悪いという課題があった。
また,特開平1-272643号公報には特定の結晶形(セルロースI型)を有し,直径0.1μm以上の細孔の気孔率が20%以上で,かつ350メッシュ以上が90%以上であるセルロース粉末について,特開平2-84401号公報には結晶形がI型で,比表面積が20m 2 /g以上,直 14 径0.01μm以上の細孔の全容積が0.3cm 3/g以上,平均粒径が大 きくとも100μmであるセルロース粉末について記載がある。しかしこ れらは成形性が比較的高いものの乾燥粉体のL/Dが2.0未満であり本 発明のものと異なる。また粒子の窒素比表面積が大きすぎるため,圧縮時 に導水管が減少してしまい,崩壊性が悪くなり好ましくない。さらに該発 明のセルロース粉末は加水分解後,乾燥前のスラリー媒体として有機溶媒 を使用し噴霧乾燥したものであるが,有機溶媒を使用するため防爆構造の 乾燥機や有機溶媒の回収システムが必要になる等,コスト高となり実用化 されていない。
イ 【0007】 また特開平6-316535号公報には,セルロース質物質を酸加水分 解又はアルカリ酸化分解して得られる平均重合度100-375,酢酸保 持率280%以上,かつ,定数a及びbがそれぞれ0.85-0.90, 0.05-0.10の川北の式で表される圧縮特性を有する結晶セルロー スであって,見掛け比容積が4.0-6.0cm 3/g,見掛け密比容積が 2.4cm 3 /g以上,比表面積が20m 2 /g未満であり,実質的に35 5μm以上の粒子がなく平均粒径が30-120μmである結晶セルロ ースについての記載がある。該公報の結晶セルロース粉末は成形性と崩壊 性のバランスに優れるものとの記載があるが,具体的に開示されている, 最もバランスに優れる実施例について安息角を実測すると55°を超えて おり流動性は十分満足のいくものではない。また該公報の結晶セルロース では,特に高打圧下で成形した場合に高硬度を付与できるものの,乾燥後 の粒子の水蒸気比表面積が低く錠剤中の導水管が減少しているため,崩壊 が遅延するという問題や,流動性の不良な活性成分が多く配合される処方 等では,流動性に劣るために錠剤重量の変動係数が大きくなり薬物の含量 均一性に影響を及ぼすという課題があった。
15 【0008】 さらに特開平11-152233号公報には平均重合度が100-375,75μm篩を通過し38μm篩上に残留する粒子が全重量の70%以上で,かつ,粒子のL/D(長径短径比)の平均値が2.0以上である結晶セルロースについての記載がある。しかし該公報の結晶セルロースは安息角の記載がなく,具体的に開示されている,特開平6-316535号公報の結晶セルロースを篩分する結晶セルロースでは特開平6-316535号公報の結晶セルロースよりもさらに一層流動性,崩壊性が悪くなるという欠点を有していた。また特開昭50-19917号公報には精製パルプを前処理によって平均重合度が450-650になるまで解重合させ,見掛けタッピング比容積が1.67-2.50cm 3 /g,200メッシュ篩を50%以上が通過する粒度にまで機械的粉砕処理を行う錠剤成形用添加剤の製造方法が記載されている。しかし該公報のセルロース粉末では重合度が高く繊維性が発現するために,75μm以下の粒子の平均L/Dや見掛け比容積が大きくなりすぎて,崩壊性,流動性に劣るという欠点があった。また見掛け比容積のわりに見掛けタッピング比容積が小さいことも圧縮した錠剤の崩壊性を悪化させる原因である。
【0009】 以上のように従来のセルロース粉末では,成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランス良く併せ持つものは知られていなかった。
また,医薬品は活性成分の安定性改善,薬物放出速度の調整,味のマスキング,あるいは腸溶化を目的としてコーティングを施した顆粒や細粒剤等の粒剤,あるいはコーティング剤と薬物を混合して他の成分と造粒したマトリックスタイプの粒剤の形態をとることが多い。この粒剤が1mm程度以下の大きさの場合は取扱い易さの観点からカプセル剤とすることがほとんどであったが,コストや服用性の観点から賦形剤と混合して圧縮成 16 形した錠剤とする方が好ましい。しかし,徐放性コーティング顆粒,苦味マスキング顆粒,腸溶性コーティング顆粒等のコーティング皮膜を有する顆粒を圧縮して錠剤にすると,圧縮応力によってコーティング皮膜が損傷を受け,口腔内,胃腸内において溶出速度が増加してしまうために,期待した薬効の発現が達成されないという問題があった。この問題の解決として,特開昭53-142520号公報には結晶セルロースを用いる方法,特開昭61-221115号公報には錠剤に対して約10-50%の結晶セルロースを用いる方法,特開平3-36089号公報には平均粒径30μm以下,比表面積が1.3m 2 /g以上である結晶セルロースを用いる方法,特開平5-32542号公報には直径が0.01μm以上の細孔容積が0.3cm 3/g以上の多孔構造を有し,比表面積が20m 2 /g以上である結晶セルロースを用いる方法,特開平8-104650号公報には平均重合度が150-220,見掛け比容積が4.0-6.0cm 3 /g,見掛けタッピング比容積が2.4cm 3/g以上,比表面積が20m 2/g未満,酢酸保持率が280%以上,355μm以上の粒子が5重量%未満で,かつ平均粒子径が30-120μmの粒度分布を有し,定数a及びbがそれぞれ0.85-0.90,0.05-0.10の川北の式で表される圧縮特性を有し,500mgを10MPaで10秒間圧縮するときに得られる底面積が1cm 2 の円柱状成型体が,直径方向の破壊強度が10kg以上(SI単位系換算値100N以上)でかつ崩壊時間が100秒以内となる圧縮成形特性をもつ結晶セルロースを用いる方法が記載されている。
【0010】 しかし特開昭53-142520号公報,及び特開昭61-221115号公報の方法では結晶セルロースの圧縮成形性が低いために実用硬度を得るためには圧縮応力をかけざるを得ず,コーティング被膜の損傷を十分 17 に抑えることができないという欠点があった。特開平3-36089号公報の方法では結晶セルロースの流動性が悪いため,錠剤調製時に顆粒と分離偏析を起こしやすいという問題があった。また特開平5-32542号公報の結晶セルロースは有機溶媒を使用して調製されるため,コスト高となり実用的でないという欠点があった。顆粒強度が低い場合等,圧縮応力をかけられない場合には圧縮応力低減のため結晶セルロース含有量を増す必要があるが,その場合特開平8-104650号公報の結晶セルロースでは,崩壊が著しく悪くなり使用が制限されるという欠点があった。
【0011】 また多くの医薬品活性成分は微粒子化して使用することが多く,流動性が著しく悪いため直接圧縮法(直打法)による圧縮成形は容易ではない。
特に医薬品活性成分の添加量が多くなるほど圧縮成形が困難となる。上記特開平8-104650号公報には漢方薬粉末又は生薬粉末に対して,上述の通りの結晶セルロースと流動化剤,崩壊剤とを用いると直接打錠法に供することのできる程度の流動性を確保することができ,成形性と崩壊性のバランスに優れた錠剤が得られることについて記載されている。しかし漢方粉末又は生薬粉末に限らず,成形性の乏しい医薬品活性成分についてその製剤中の含有量が増した時には十分な流動性が得られない,また崩壊剤が十分量でないと崩壊遅延や溶出率の低下を起こす等の問題があった。
また医薬品活性成分粉末は圧縮成形性に乏しく賦形剤の添加なしには成型物が得られないため,医薬品活性成分に賦形剤を加えて湿式又は乾式の公知の方法を用いて顆粒化する工程を経ることで圧縮成形性,崩壊性,流動性を確保した後に圧縮成形する顆粒圧縮法を用いることが汎用される。また顆粒製造時に顆粒内部とは別に,顆粒外にも賦形剤を添加することにより賦形剤の添加効果を高める手段として,後末法が用いられることも多い。
特公平5-38732号公報には,平均粒径30μm以下,比表面積が1. 18 3m 2 /g以上である結晶セルロースを用いる方法,特開平8-104650号公報にも特定の結晶セルロースを用いて顆粒圧縮法により錠剤化する方法について記載されている。しかしこれらの結晶セルロースでは圧縮応力が増した時の崩壊遅延や溶出率の低下を起こす等の問題があった。
ウ 【0012】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセ ルロース粉末を提供することを目的とする。また,このセルロース粉末を 含有することで,特に高打圧下で成形した場合に高硬度であり,かつ崩壊 遅延を助長しない錠剤や,圧縮成形したときに顆粒の破壊,顆粒の被膜の 損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ない顆粒含有錠剤,さらには薬物含 有量が多い場合においても錠剤重量にばらつきを生じることなく,硬度崩 壊のバランスのとれた錠剤を提供することを目的とする。
エ 【0013】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは上述した現状に鑑み鋭意検討した結果,セルロース粉末 の粉体物性を特定範囲に制御することに成功し,成形性,流動性,崩壊 性の諸性質のバランスに優れるセルロース粉末を見出し,本発明を達成 したものである。即ち本発明は,下記のとおりである。
(1)平均重合度が150〜450,75μm以下の粒子の平均L/D(長径短径比)が2.0〜4.5,平均粒子径が20〜250μm,見掛け比容積が4.0〜7.0cm 3 /g,見掛けタッピング比容積が2.4〜4.5cm 3/g,安息角が55°以下であるセルロース粉末, (2)平均重合度が230〜450である(1)のセルロース粉末, (3)平均重合度がレベルオフ重合度ではない(1)又は(2)のセルロ ース粉末, 19 (4)安息角が54°以下である(1)〜(3)のいずれかのセルロース 粉末,(5)水蒸気吸着による比表面積が85m 2 /g以上である(1)〜(4) のいずれかのセルロース粉末,(6)セルロース粉末0.5gを20MPaで圧縮した錠剤の破壊荷重が 170N以上であって,その崩壊時間が130秒以下である(1)〜 (5)のいずれかのセルロース粉末,(7)セルロース粉末と乳糖との等量混合物0.5gを80MPaで圧縮 した錠剤の破壊荷重が150N以上であって,その崩壊時間が120 秒以下である(1)〜(6)のいずれかのセルロース粉末,【0014】(8)@)天然セルロース質物質の加水分解反応工程又はその後の工程 における溶液攪拌力を制御することにより,a)平均重合度が15 0〜450,かつb)湿潤状態の平均L/Dが3.0〜5.5である セルロース粒子を含むセルロース分散液を得る工程,ii)得られ たセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾燥する工程,を含 むセルロース粉末の製造方法,(9)平均重合度が230-450である(8)のセルロース粉末の製造 方法,(10)平均重合度がレベルオフ重合度ではない(8)又は(9)のセル ロース粉末の製造方法,(11)乾燥工程が品温が100℃未満の条件下で噴霧乾燥する工程であ る(8)〜(10)のいずれかのセルロース粉末の製造方法,(12)(8)〜(11)のいずれかの製造方法により得られ得るセルロ ース粉末,(13)(1)〜(7)及び(12)のいずれかのセルロース粉末からな 20 る賦形剤, (14) (1)〜(7)及び(12)のいずれかのセルロース粉末又は(1 3)の賦形剤を含む成型体, (15)成型体が1つ以上の活性成分を含む錠剤である(14)の成型体, (16)活性成分を30重量%以上含む(15)の成型体, (17)圧縮に弱い活性成分を含む(14)〜(16)のいずれかの成型 体, (18)活性成分が被覆されている(17)の成型体, (19)成型体が速崩壊性である(14) (18) 〜 のいずれかの成型体, (20)流動化剤を含む(14)〜(19)のいずれかの成型体。
オ 【0015】 【発明の実施の形態】 以下本発明について詳細に説明する。
本発明のセルロース粉末は,その平均重合度が150〜450,好ま しくは200〜450,さらに好ましくは230〜450である必要が ある。平均重合度が150未満だと成形性が不足するので好ましくな く,また450を超えると繊維性が強く現れるため粉体の流動性及び崩 壊性が低下するので好ましくない。平均重合度が230〜450の場合 は成形性,崩壊性,流動性のバランスが特に優れるので好ましい。また 平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ましい。レベルオフ重 合度まで加水分解させてしまうと製造工程における攪拌操作で粒子L/ Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。本発明でいうレ ベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解し た後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をい う。セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しう る結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため, 21 レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502-507(1950)),その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。
【0016】 レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めておく必要があるかということについては,5〜300程度であることが好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好ましくない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって好ましくない。
本発明のセルロース粉末は250μm篩に残留する粒子の割合が50重量%以下であることが好ましい。250μmを超える粒子は造粒され緻密な構造となるので,50重量%を超えて存在すると,成形性低下,崩壊悪化の原因となるので好ましくない。好ましくは30重量%以下,さらに好ましくは10重量%以下,特に好ましくは5重量%以下である。
本発明のセルロース粉末の平均粒径は20-250μmである必要がある。20μm未満だと付着凝集性が増してハンドリングが悪く,さらに流動性も悪くなり,また250μmを超えると活性成分との分離偏析が起こり,製剤の含量均一性を悪化させる恐れがあるので好ましくない。好ましくは,20-120μmである。
本発明のセルロース粉末は75μm以下の粒子の平均L/Dが2.0-4.5である必要があり,好ましくは2.2-4.2である。75μm以下 22 の粒子の平均L/Dが2.0未満だと,塑性変形性及び成形性が低下し好ましくない。4.5を超えると流動性,崩壊性が悪化するので好ましくない。また繊維性が現れ弾性回復しやすくなるためか,成形性を損なう傾向にある。
【0017】 粉体の塑性変形性の指標として平均降伏圧があり,この値が低いほど塑性変形性が良く,圧縮成形性に優れる。本発明の高成形性賦形剤は,該粉体0.5gを10MPaまで圧縮したときの平均降伏圧が35MPa以下であることが好ましい。平均降伏圧が35MPaを超えると,成形性が低下し好ましくなく,特に好ましくは30MPa以下である。本発明のセルロース粉末は見掛け比容積が4.0-7.0cm3 /gである必要がある。見掛け比容積が4.0cm 3 /g未満であると成形性が低下し,7.0cm 3/gを超えると崩壊性,流動性が低下するので好ましくない。また繊維性が現れ弾性回復しやすくなるためか,成形性を損なう傾向にある。好ましくは4.0-6.5cm 3 /g,特に好ましくは4.2-6.0cm 3/gである。
見掛けタッピング比容積は2.4-4.5cm3/gである必要がある。
好ましくは2.4-4.0cm 3 /g,特に好ましくは2.4-3.5cm 3/gである。見掛け比容積が4.0-7.0cm3 /gの範囲にあっても,見掛けタッピング比容積が2.4cm 3 /g未満であると,錠剤にしたときに圧密化されすぎて崩壊性が悪化するので好ましくない。
【0018】 また,本発明のセルロース粉末は安息角が55°以下である必要がある。セルロース粉末では安息角が55°を超えると,流動性が著しく悪くなる。特に流動性の乏しい活性成分を多量に加えて錠剤化する際には,圧縮成形用賦形剤の流動性が悪いと錠剤の重量変動が大きくなって実用 23 に供さない。好ましくは54°以下,さらに好ましくは53°以下である。特に好ましくは52°以下である。本発明でいう安息角とは粉体水分を3.5〜4.5%に調整した後,パウダーテスター(ホソカワミクロン叶サ)で測定した安息角である。このような優れた流動性を付与するためには,特定範囲の圧縮度[%](=100×(見掛けタッピング密度[g/cm 3]-見掛け密度[g/cm3 ])/見掛けタッピング密度[g/cm 3])を有していることが好ましく,圧縮度がおおよそ30-50%の範囲にあることが好ましい。さらに好ましくは30-49%,特に好ましくは30-47%である。
但し,本発明でいう見掛けタッピング密度及び見掛け密度とはそれぞれ本発明で定義した見掛けタッピング比容積の逆数及び見掛け比容積の逆数である。
また,本発明のセルロース粉末は,水蒸気吸着による比表面積が85u/g以上であることが好ましい。85u/g未満だと粒子中への水侵入面積が小さいために,錠剤にした時の導水管量も小さくなって崩壊性が低下するため好ましくない。この値の上限は特に限定しないが,乾燥によって減少する値と考えられることから,未乾燥物の値が一応の目安とするとおよそ200u/g程度である。
【0019】 また本発明のセルロース粉末は,窒素吸着法による比表面積が0.5-4.0u/gの範囲にあることが好ましい。0.5u/g未満では成形性が低下して好ましくない。4.0u/gを超えると崩壊性が著しく悪化するので好ましくない。好ましくは0.8-3.8u/g,さらに好ましくは0.8-3.5u/gである。
窒素比表面積が増すと,圧縮時に粒子間隙(導水管)の潰れが起こり崩壊が悪くなる傾向にあるが,一定範囲内であればこの値が高くとも水 24 蒸気比表面積を一定量以上に制御すれば導水管量を維持でき,崩壊性を損なわないようにすることができる。成形性を示す実用的な物性値は成型体の硬度であり,この値が大きいほど圧縮成形性に優れる。また,崩壊性を示す実用的な物性値は成型体の崩壊時間であり,この時間が短いほど崩壊性がよい。一般に硬度が高いほど崩壊性が悪化すること,医薬品等の活性成分は成形性の乏しいものが多く,高打圧で圧縮せざるを得ないことを考慮すると,高打圧で圧縮した成型体の錠剤硬度と崩壊時間のバランスが実用的に重要である。
本発明のセルロース粉末0.5gを20MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径1.13cmの円柱状成型体は直径方向の破壊荷重が170N以上であることが好ましい。さらに好ましくは180N以上である。特に好ましくは190N以上である。またその崩壊時間(37℃純水溶液,ディスクあり)は130秒以下であることが好ましい。
さらに好ましくは120秒以下である。特に好ましくは100秒以下である。また,本発明のセルロース粉末と乳糖(DMV社製,Pharmatose 100M)との等量混合粉体0.5gを80MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径1.13cmの円柱状成型体は直径方向の破壊荷重が150N以上であることが好ましい。さらに好ましくは170N以上である。特に好ましくは180N以上である。またその崩壊時間(37℃純水溶液,ディスクあり)は120秒以下であることが好ましい。さらに好ましくは110秒以下である。特に好ましくは90秒以下である。
【0020】 また,本発明のセルロース粉末は,該粉体0.05gを90MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径0.8cmの円柱状成形体が,アセトニトリル溶媒浸漬処理後,下式(1)の吸着特性を有することが好 25 ましい。
ln[θe/(θe-θ)]=Ka・t (1)(但しKa≧0.0200min -1 であり,θeは相対湿度55%RH下での錠剤の飽和水蒸気吸着率[%],θは水蒸気吸着時間t[分]における相対湿度55%RH下での錠剤の水蒸気吸着率[%]を表す。) 本発明でいうアセトニトリル溶媒浸漬処理とは円柱状成形体をアセトニトリル溶媒が十分浸透するよう48時間浸漬した後,25℃,窒素気流下,相対湿度が0%RHになるまで乾燥することをいう。操作の過程で吸湿や吸着が考えられる場合,例えば(1)式の直線性が低い場合には加熱真空乾燥してセルロース表面を清浄する必要がある。Ka値が0.0200min -1 未満であると水の吸着速度が遅く,崩壊時間が長くなる傾向にあるため好ましくない。アセトニトリル溶媒浸漬処理の効果は以下のように推定している。セルロース粉末の圧縮では粒子間水素結合の増大と,粒子内ミクロ空隙(導水管)の潰れが起こるが,高密度に圧縮された円柱状成形体をアセトニトリルに浸漬すると,アセトニトリルは粒子間水素結合部位には入らず,粒子内ミクロ空隙(導水管)に侵入し,導水管径を拡大する作用があるようである。
すなわち,セルロース粉末中の粒子内ミクロ空隙(導水管)を圧縮後に多く残している錠剤ほど,アセトニトリル溶媒が浸透してその導水管径を広げるために,その後の水蒸気吸着速度が速くなるものと思われる。そしてこのような錠剤ほど水を速く吸収するため水中崩壊時間が短くなるものと思われる。また,Ka値の上限については特に定めていないが,この値が大きいほど崩壊時間が短くなる傾向があり,好ましくは0.0400min -1 以下であることが好ましい。Ka値の好ましい範囲は0.0210-0.0400min -1 ,さらに好ましくは0.0220-0.0400min -1 である。
26 カ 【0021】 本発明のセルロース粉末の製造方法は,i)天然セルロース質物質の 加水分解反応工程又はその後の工程における溶液攪拌力を制御すること により,a)平均重合度が150-450,かつb)湿潤状態の平均L /Dが3.0-5.5であるセルロース粒子を含むセルロース分散液を得 る工程,ii)得られたセルロース分散液を品温100℃未満で噴霧乾 燥する工程,を含む必要がある。
本発明でいう天然セルロース質物質とは,木材,竹,コットン,ラミ ー等,セルロースを含有する天然物由来の植物性繊維質物質であり,セ ルロースI型の結晶構造を有しているものであることが好ましい。製造 収率の観点からはこれらを精製したパルプであることが特に好ましく, α-セルロース含量が85%以上であることが望ましい。
平均重合度が150-450のセルロース分散液を得るための条件 は,例えば20-60℃,0.1-4Nの塩酸水溶液中の温和な条件下で 加水分解することが挙げられる。しかし,セルロース質物質をレベルオ フ重合度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子 L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。
また,乾燥前のセルロース分散液中の粒子は,湿潤状態で篩過(JI S標準篩使用)したとき,75-38μm篩に残留する粒子の平均L/ Dが3.0-5.5の範囲にあることが好ましい。好ましくは3.2-5. 2である。セルロース分散液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さ くなるので,乾燥前の粒子の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形 性でかつ崩壊性の良好なセルロース粉末が得られる。乾燥前の粒子の平 均L/Dを一定範囲に保つには,加水分解反応中又はその後の工程にお ける溶液攪拌力を特定の強さに制御することにより達成できる。
【0022】 27 反応中又はその後工程における攪拌は,セルロース繊維を短くする作用があり,攪拌が強すぎると粒子の平均L/Dが小さくなって十分な成形性を得られないので,粒子の平均L/Dが3.0以上となるように攪拌力を抑制する必要がある。また攪拌が弱すぎると繊維性が強くなりかえって成形性が低下し,また崩壊が著しく悪くなるので,粒子の平均L/Dが5.5を超えないように攪拌力を維持するのが好ましい。
攪拌力の大きさは例えば以下の経験式(2)により,求められるP/V(kg・m -1 ・sec-3 )値を参考にして制御することができる。しかしながらP/V値は攪拌槽の大きさ,形状,攪拌翼の大きさ,形状,回転数,邪魔板数等に依存するので絶対的な数値ではない。乾燥前の各工程におけるP/Vの最大値は0.01〜10000の範囲内にあり,攪拌槽,攪拌翼の種類毎に回転数を制御することによって上記範囲内で下限,上限値を決定できる。例えばNp=8,V=0.03,d=0.3ではP/Vは0.3〜80の範囲に,Np=2.2,V=0.07,d=0.05では0.01〜5の範囲に,Np=2.2,V=1,d=1ではP/Vを1〜10000の範囲にする等,使用する攪拌漕,攪拌翼の回転数を変えた時のP/Vの値と75μm〜38μmの粒子の平均L/Dの大きさを比較して適宜決定すればよい。
P/V=(Np×ρ×n 3 ×d 5 )/V (2)ここでNp(-)は動力数,ρ(kg/m 3 )は液密度,n(rps)は攪拌翼の回転数,d(m)は攪拌翼の径,V(m 3 )は液の体積である。
【0023】 上記操作により得られたセルロース分散液は乾燥によって粉末にする必要がある。反応後,洗浄,pH調整した乾燥前のセルロース分散液のIC(電気伝導度)は200μS/cm以下であることが好ましい。200μS/cmを超えると,粒子の水中での分散性が悪くなり崩壊が悪くなる。
28 好ましくは150μS/cm,さらに好ましくは100μS/cm以下である。セルロース分散液を調製する際には水の他,本件発明の効果を損なわない範囲であれば,有機溶媒を少量含む水であってもよい。
成形性,流動性,崩壊性のバランスがよいセルロース粉末を得るためには,品温が100℃未満で噴霧乾燥を行うことが好ましい。本発明でいう品温とは,噴霧乾燥時の入口温度ではなく排風温度のことである。噴霧乾燥では反応後のセルロース分散液中の凝集粒子が全方向からの熱収縮応力によって圧密され,緻密化(重質化)して流動性が良好なものとなり,また凝集粒子間の水素結合が弱いために崩壊性が良好なものになる。乾燥前のセルロース粒子分散液濃度は25重量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは20重量%以下である。セルロース分散液濃度が高すぎると乾燥中に粒子が凝集しすぎてしまい,乾燥後の粒子の平均L/Dが低下し,嵩密度が増大するために成形性が低下して好ましくない。またセルロース分散液濃度の下限は1重量%以上であることが好ましい。1重量%未満では流動性が悪化するため好ましくない。また生産性の観点からもコスト高となり好ましくない。
【0024】 品温が100℃未満で噴霧乾燥を行う本発明の乾燥方法に比べて,特開平6-316535号公報,特開平11-152233号公報に記載されたセルロース分散液を100℃以上の温度で加熱後,噴霧乾燥する又はドラム乾燥する方法,あるいは加熱せずに薄膜状態で乾燥する方法では凝集粒子間の水素結合が強固に形成されてしまうため崩壊性が低下して好ましくない。このような乾燥方法ではたとえ乾燥前の粒子のL/Dが特定範囲下限未満であっても,スラリー中のセルロース粒子が粒子の長軸方向に揃った状態で凝集しやすいために,乾燥による粒子のL/D低下を抑制することができ良好な成形性を付与することができるもの 29 の,同時に崩壊性,流動性を同時に付与することはできない。成形性に加えて流動性,崩壊性の良好なものを得るためには,乾燥前に粒子のL/Dを特定範囲に制御しておき,品温が100℃未満で噴霧乾燥することによって初めて達成される。乾燥前の粒子のL/Dを特定範囲に制御するためには,上述したように平均重合度がレベルオフ重合度とならない条件で加水分解することが好ましい。
また,ドラム乾燥,薄膜乾燥で得られるセルロース粉末では,所望の粉体物性を与えるためには乾燥後に粉砕することが必須であるが,全ての粒子を粉砕してしまうと,粒子表面が緻密でなくなり凹凸が生じるためか,粒子同士の摩擦による静電気の発生量が多いことも流動性が悪くなる要因であり好ましくない。但し,本発明の効果を損なわない程度に,乾燥後に粉砕することは可能である。
【0025】 乾燥前スラリーを有機溶媒により全置換又は必要以上に置換後に乾燥する方法では,有機溶媒が粒子間隙から蒸発する際の毛細管力が水に比較して低くなり,粒子間水素結合の形成を抑制するため,窒素比表面積が増大しすぎて崩壊性が低下して好ましくない。有機溶媒の添加はスラリー溶媒の50重量%以下,好ましくは30重量%以下,特に好ましくは20重量%以下である。また有機溶媒を大量に使用する場合には乾燥設備の防爆化,有機溶媒回収設備等,設備が大がかりとなりコスト高になる観点からも好ましくない。
また本発明のセルロース粉末は乾燥減量が8%以下の範囲にあることが好ましい。8%を超えると成形性が悪くなり好ましくない。
本発明でいう賦形剤とは,医薬,食品,工業用途において,活性成分を公知の方法を用いて製剤化する際に,結合剤,崩壊剤,造粒助剤,充填剤,流動化剤等の目的で使用されるものをいう。好ましくは圧縮成形性,崩壊 30 性,流動性のバランスに特に優れる圧縮成形用賦形剤である。
本発明でいう成型体とは,本発明のセルロース粉末を含み,混合,攪拌, 造粒,打錠,整粒,乾燥等の公知の方法を適宜選択して加工した成型物を いう。成型物の例としては,医薬品に用いる場合,錠剤,散剤,細粒剤, 顆粒剤,エキス剤,丸剤,カプセル剤,トローチ剤,パップ剤の固形製剤 等が挙げられる。医薬品に限らず,菓子,健康食品,食感改良剤,食物繊 維強化剤等の食品,固形ファンデーション,浴用剤,動物薬,診断薬,農 薬,肥料,セラミックス触媒等に利用されるものも本発明に含まれる。
本発明でいう成型体は,本発明のセルロース粉末を含有していればよく, その量は特に限定しないが,好ましくは成型体重量に対して1重量%以上 必要である。1重量%未満では成型体が磨損,破壊するなどして十分な物 性を付与できない。好ましくは,3重量%以上,好ましくは5重量%以上 である。
キ 【0032】 以下,実施例により本発明を詳細に説明するが,これらは本発明の範囲 を制限しない。なお,実施例,比較例における各物性の測定方法は以下の 通りである。
1)平均重合度 第13改正日本薬局方,結晶セルロースの確認試験(3)に記載された 銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値。
2)乾燥前粒子のL/D 乾燥前のセルロース分散液中の粒子の平均L/Dは以下のように測定 した。セルロース分散液をJIS標準篩(Z8801-1987)を用い て,75μm篩を通過し38μm篩に残留する粒子について,粒子の光学 顕微鏡像を画像解析処理し((株)インタークエスト製,装置:Hyper 700,ソフトウエア:Imagehyper),粒子に外接する長方形の 31 うち面積が最小となる長方形の長辺と短辺の比(長辺/短辺)を粒子のL/Dとした。粒子の平均L/Dとしては少なくとも粒子100個の平均値を用いた。
3)乾燥減量[%] 粉末1gを105℃,3時間乾燥し,重量減少量を重量百分率で表した。
4)250μm篩に残留する粒子の割合[%] 目開き250μmのJIS標準篩(Z8801-1987)を用い,ロータップ式篩振盪機(平工製作所製シーブシェーカーA型)で試料10gを10分間篩分し,250μm篩に残留する粒子の重量を全重量に対する重量百分率で表した。
5)75μm以下の粒子の平均L/D エアージェットシーブ(ALPINE製,A200LS型)を用い,JIS標準篩75μmで篩過した粒子について,粒子の光学顕微鏡像を画像解析処理し((株)インタークエスト製,装置:Hyper700,ソフトウエア:Imagehyper),粒子に外接する長方形のうち面積が最小となる長方形の長辺と短辺の比(長辺/短辺)を粒子のL/Dとした。粒子の平均L/Dとしては少なくとも粒子400個の平均値とした。
但し,個々の粒子は絡まりがないように予めばらけた状態にして測定する必要がある。
【0033】6)見掛け比容積[cm 3/g] 100cm 3 のガラス製メスシリンダーに粉体試料を定量フィーダーなどを用い,2-3分かけて粗充填し,粉体層上面を筆のような軟らかい刷毛で水平にならし,その容積を読みとり,これを粉体試料の重量で除した値である。粉体の重量は容積が70-100cm 3 程度になるように適宜決定する。
32 7)見掛けタッピング比容積[cm 3/g] 市販粉体物性測定機(ホソカワミクロン製,パウダーテスターT-R型)を用い,100cm 3カップに粉体を充填し,180回タッピングした後,カップの体積を,カップに充填されて残る粉体層の重量で除して求めた。
8)安息角[°] 粉体水分(赤外線水分計(ケット科学研究所製,FD-220型,1g,105℃)で測定する。)を3.5-4.5%に調整した後,市販粉体物性測定機(ホソカワミクロン製,パウダーテスターT-R型)でオリフィス径0.8cmの金属製ロート(静電気の発生しない材質であること),振動目盛1.5の条件で粉体を落下させ,粉体の作る山の稜線角度(2稜線角度測定,測定間隔3°)を測定した。3回測定の平均値で示した。
9)圧縮度[%] 圧縮度は上記で定義した見掛け比容積,見掛けタッピング比容積を用いて,下式(3)より求めた。
圧縮度=100× (1/見掛けタッピング比容積) (1/見掛け比容積) [ - ]/(1/見掛けタッピング比容積) (3)【0034】10)平均粒径[μm] 粉体試料の平均粒径はロータップ式篩振盪機(平工作所製シーブシェーカーA型),JIS標準篩(Z8801-1987)を用いて,試料10gを10分間篩分することにより粒度分布を測定し,累積重量50%粒径として表した。
11)水蒸気比表面積[m 2 /g] 動的水蒸気吸着装置DVS-1(Surface Measurement Systems Ltd.製)を用い,吸着ガスとして水蒸気を使用し,以下の測定ステップに従って0-30%RHの範囲において試料の水 33 蒸気吸着量を求め,BET法により算出した。水の分子占有面積は8.1Åとして計算した。試料はセルロース粉末約0.10gを5cm 3 サンプル管に入れ100℃,3時間真空乾燥し,試料中の水分を除去したものを0.01-0.02g上記装置に入れて測定を行った。
(測定ステップ) 試料を下記の各相対湿度下に下記の測定時間だけ放置し試料の水蒸気吸着量を測定した。
相対湿度 測定時間0%RH 200分以下3%RH 150分以下6,9,12,15,18,21,24,27,30%RH 100分以下【0035】12)窒素吸着比表面積[m 2 /g] 島津製作所(株)製フローソーブII2300を用い,吸着ガスとして窒素を使用しBET法により測定した。
13)平均降伏圧[MPa] 粉体の水分(赤外線水分計(ケット科学研究所製,FD-220型,1g,105℃)で測定する。)を3.5-4.5%に調整した後,粉体試料0.5gを,臼(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)に入れ,底面積が1cm 2の平面杵(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)で圧力が10MPaになるまで圧縮する(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,圧縮速度は1cm/分とした) 応力Pとその時の 。
粉体層高さh[cm]をデータ取り込み速度0.02秒でコンピュータに取り込み記録する。
応力Pとその時の粉体層体積V[cm 3 ]から計算されるln[1/(1-D)]の関係を図示し,応力P[MPa]が2-10MPaの範囲につい 34 て,最小自乗法で直線回帰し,その傾きkの逆数を平均降伏圧とした。但しV[cm 3 ]は平面杵の底面積(1cm 2 )と応力Pにおける粉体層の高さh(cm)の積で表され,粉体層の高さhは圧縮機の系の歪み(臼杵,ロードセル,プランジャー等の合計の歪み)がない状態で測定しなければならない。また,Dは以下の(4)式より計算した。
D=[(0.5×(1-W/100))/V]/1.59 (4) ここでDは錠剤の充填率,Wは赤外線水分計(ケット科学研究所製,FD-220型,1g,105℃)で測定した水分[%],1.59は空気比較式比重計(ベックマン社製,ピクノメーター930)で測定した時のセルロース粉末の真密度[g/cm 3 ]である。
【0036】14)錠剤の水蒸気吸着速度 Ka[1/分] 試料0.05gを90MPaで10秒間圧縮することによって得られる直径0.8cmの円柱状成形体(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,圧縮速度は29cm/minとした。)を,アセトニトリル(液体クロマトグラフ用)で48時間浸漬処理した後,動的蒸気吸着測定装置 (株) ( マイクロテック・ニチオン製,DVS-1型)に入れ,25℃,窒素気流下,相対湿度を0%RHに設定し,錠剤重量が十分平衡に達する(5分間の重量変動率が0.0015%/分以下)まで乾燥させる。その後相対湿度を55%RHに設定し,平衡に達する(5分間の重量変動率が0.0015%/分以下)まで1分ごとに錠剤重量を記録する。
水蒸気吸着時間tとln「θe/(θe-θ)]の関係を図示し,20-100分の範囲について最小自乗法で直線回帰し,その傾きをKaとする。
但し相対湿度55%RHにおける錠剤の飽和水蒸気吸着率θe[%] 水蒸 ,気吸着時間tでの相対湿度55%RHにおける錠剤の水蒸気吸着率θ[%]はそれぞれ以下のように求める。
35 θe=100×ms/m 0[%] (5)θ=100×mt/m 0 [%] (6) ここでm 0 は相対湿度0%RHで十分平衡に達した時の錠剤重量[g],mtは水蒸気吸着時間tでの相対湿度55%RHにおける錠剤の重量[g] msは相対湿度55%RHで十分平衡に達したときの錠剤重量 , [g]である。
【0037】15)硬度[N] 円柱状成形体あるいは錠剤をシュロインゲル硬度計(フロイント産業(株)製,6D型)を用いて,円柱状成形体あるいは錠剤の直径方向に荷重を加え,破壊したときの荷重を測定した。試料5個の数平均で示した。セルロース粉末100%の円柱状成型体及びセルロース粉末と乳糖の等量混合物の円柱状成型体は以下のようにして作製した。試料0.5gを,臼(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)に入れ,直径1.13cm(底面積が1cm 2 )の平面杵(菊水製作所製,材質SUK2,3を使用)で圧縮した。セルロース粉末100%の場合には20MPaで圧縮し,その応力を10秒間保持し円柱状成形体を作製した(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,圧縮速度は10cm/分程度とした)。また,セルロース粉末と乳糖の等量混合物の場合には80MPaで圧縮し,その応力を10秒間保持し円柱状成形体を作製した(圧縮機はアイコーエンジニアリング製,PCM-1Aを使用し,圧縮速度は25cm/分程度とした)。
16)崩壊時間[秒] 第13改正日本薬局方,一般試験法,錠剤の崩壊試験法に準じて崩壊試験を行った。円柱状成形体あるいは錠剤について,崩壊試験機(富山産業(株)製,NT-40HS型,ディスクあり)で,37℃純水中における 36 崩壊時間として求めた。試料6個の数平均で示した。
【0038】17)錠剤のCV値[%] 錠剤10個を精秤した時の錠剤重量の変動係数とした。
18)錠剤の摩損度[%] 錠剤20個の重量(Wa)を測定し,これを錠剤摩損度試験器(PTF R-A,PHARMA TEST製)に入れ,25rpm,4分間回転した 後,錠剤に付着している微粉を取り除き,再度重量を測定し(Wb), (7) 式より計算した。
摩損度 = 100×(Wa-Wb)/Wa (7) 19)薬物の溶出率[%] 自動溶出試験機DT-610(日本分光工業(株)製)を使用し,パド ル法で測定した。試験液は第13改正日本薬局方一般試験法崩壊試験法の 試験液第1液を用いた。測定は3回行いその平均値をとった。
ク 【0039】 【実施例】 実施例1(参考例) 市販SPパルプ(重合度1030,レベルオフ重合度は220)2k gを細断し,4N塩酸水溶液30L中に入れ,低速型攪拌機(池袋琺瑯 工業(株)製,30LGL反応器,翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度 10rpm)しながら,60℃,72時間加水分解した。得られた酸不 溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し,ろ過残渣をさらに70Lの純水 で4回洗浄し,アンモニア水で中和後,90Lのポリバケツに入れ純水 を加え,スリーワンモーター(HEIDON製,タイプ1200G,8 M/M,翼径約5cm)で攪拌(攪拌速度100rpm)しながら濃度 10%のセルロース分散液とした(pH;6.7,IC;45μS/c 37 m)。
これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr,入口温度180〜220℃,出口温度50〜70℃)してセルロース粉末A(乾燥減量3.5%)を得た。
【0040】実施例2 パルプを市販SPパルプ(重合度790,レベルオフ重合度は220),加水分解条件を4N,40℃,48時間,セルロース分散液濃度を8%,pHを6.0,ICを35μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末B(乾燥減量4.2%)を得た。
実施例3 反応中の攪拌速度を5rpm,セルロース分散液濃度を12%(この時の攪拌速度50rpm),pHを6.5,ICを40μS/cm,とする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末C(乾燥減量3.8%)を得た。
実施例4 セルロース分散液濃度を16%,pHを6.9,ICを65μS/cmとする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末D (乾燥減量3.2%)を得た。
【0041】実施例5 加水分解条件を3N塩酸水溶液,40℃,40時間,セルロース分散液濃度を8%,pHを6.3,ICを38μS/cmとする以外は実施例2と同様に操作しセルロース粉末E(乾燥減量4.0%)を得た。
実施例6 パルプを市販SPパルプ(重合度870,レベルオフ重合度は22 38 0),加水分解条件を3N塩酸水溶液,40℃,24時間,反応中の攪拌速度を15rpm,セルロース分散液濃度を8%,pHを5.7,ICを30μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末Fを得た。
実施例7 加水分解条件を3N塩酸水溶液,40℃,20時間,反応中の攪拌速度を20rpm,セルロース分散液濃度を6%,pHを7.1,ICを180μS/cmとする以外は実施例1と同様に操作しセルロース粉末Gを得た。
【0042】比較例1 市販SPパルプ(重合度790,レベルオフ重合度は220)を3N塩酸水溶液30L,105℃,30分,低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製,30LGL反応器,翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度30rpm)しながら加水分解し,得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し,ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し,アンモニア水で中和後,90Lのポリバケツに入れ純水を加え,スリーワンモーター(HEIDON製,タイプ1200G,8M/M,翼径約5cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら,濃度17%のセルロース分散液(pH;6.4,IC;120μS/cm)を得た。
これをドラム乾燥機(楠木製作所KDD-1型,スチーム圧力0.35MPa,ドラム表面温度136℃,ドラム回転数2rpm,溜め部分散体温度100℃)で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末H(乾燥減量3.9%,特開平6-316535号公報記載の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉末Hの物性及びセルロース粉末Hを圧縮して得られた円柱状成形体の物 39 性を表1に示す。また,セルロース粉末Hと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
【0043】比較例2 市販SPパルプ(重合度1030,レベルオフ重合度は220)2kgを細断し,0.14N塩酸水溶液30L,121℃,1時間の条件で,低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製,30LGL反応器,翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度30rpm)しながら加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し,ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し,アンモニア水で中和後,90Lのポリバケツに入れ,スリーワンモーター(HEIDON製,タイプ1200G,8M/M,翼径約5cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら濃度17%のセルロース分散液を得た(pH;6.4,IC;64μS/cm)。
これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr,入口温度180〜220℃,出口温度70℃)後,325メッシュ篩で粗大粒子を除きセルロース粉末I(乾燥減量4.1%,特公昭40-26274号公報の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉末Iの物性及びセルロース粉末Iを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Iと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
【0044】比較例3 針葉樹,広葉樹混合溶解用パルプシート(α-セルロース90.5%,β-セルロース4.7%,銅安相対粘度4.70,白色度93)を解砕後,有効塩素1.6g/lの次亜塩素酸ナトリウム溶液12L中に浸漬してpHを10.9として60℃で310分間処理した。処理後のパルプを十分水洗して遠心脱水後105℃で送風乾燥した。このパルプを振動ボールミ 40 ルで30分間粉砕してから100メッシュ篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末J(乾燥減量2.0,特開昭50-19917公報の実施例2に相当)を得た。得られたセルロース粉末Jの物性及びセルロース粉末Jを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Jと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
比較例4 市販KPパルプ(重合度840,レベルオフ重合度145)を0.7%塩酸水溶液中で,125℃,150分間加水分解した後,加水分解残渣を中和,洗浄,濾過して湿ケークとし,ニーダー中で十分磨砕した後,容積比で1倍のエタノールを加え,圧搾濾過した後風乾した。乾燥粉末はハンマーミルで粉砕し40メッシュ篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末K(乾燥重量3.0%,特開昭56-2047号公報の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉末Kの物性及びセルロース粉末Kを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Kと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
【0045】比較例5 比較例2のセルロース粉末Iを気流式粉砕機((株)セイシン企業製,シングルトラックジェットミルSTJ-200型)で粉砕し,目開き75μm篩で粗大粒子を除きセルロース粉末L(乾燥減量4.1%,特開昭63-267731号公報の実施例1に相当)を得た。得られたセルロース粉体Lの物性及びセルロース粉末Lを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Lと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
比較例6 41 実施例5のセルロース粉末Eを磁性ボールミルで12時間粉砕し,セルロース粉末M(乾燥減量5.1%)を得た。得られたセルロース粉体Mの物性及びセルロース粉末Mを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Mと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
比較例7 加水分解条件を7%塩酸水溶液,105℃,20分とする以外は比較例2と同様に操作し濾過,洗浄した後脱水し,イソプロピルアルコールを加え,日本精機製作所(株)製ゴーリンホモジナイザー15M型で分散させた。10%固形分濃度に調整した分散液を噴霧乾燥し,目開き250μm篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末N(乾燥減量3.5%,特開平2-84401号公報の実施例2に相当)を得た。得られたセルロース粉体Nの物性及びセルロース粉末Nを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。
また,セルロース粉末Nと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
【0046】比較例8 比較例1のセルロース粉末Hをエアジェットシーブを使用して75μm篩で粗大粒子を除き,38μm篩で微細粒子を除いてセルロース粉末O(乾燥減量4.0%,特開平11-152233号公報の実施例に相当)を得た。得られたセルロース粉末Oの物性及びセルロース粉末Oを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。
また,セルロース粉末Oと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
比較例9 42 実施例5で得られたセルロース分散液をTKホモミキサーで攪拌(攪拌速度4000rpm)し,これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr,入口温度180〜220℃,出口温度50〜70℃)してセルロース粉末P(乾燥減量3.8%)を得た。得られたセルロース粉末Pの物性及びセルロース粉末Pを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Pと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
比較例10 市販SPパルプ(重合度790,レベルオフ重合度220)を細断し,10%塩酸水溶液中で105℃で5分間加水分解して得られた酸不溶解残渣を濾過,洗浄,pH調整,濃度調整を行い,固形分濃度17%,pH6.4,電気伝導度120μS/cmのセルロース粒子分散液を得た。これをドラム乾燥機(楠木機械製作所(株)製,KDD-1型,スチーム圧力0.35MPa,ドラム表面温度136℃,ドラム回転速度2rpm,溜め部分散液温度100℃)で乾燥後,ハンマーミルで粉砕し,目開き425μmの篩で粗大粒子を除き,セルロース粉末Q(乾燥減量4.5%,特開平6-316535号公報の比較例8に相当)を得た。得られたセルロース粉末Qの物性及びセルロース粉末Qを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Qと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
【0047】比較例11 細断した市販SPパルプ(重合度1030,レベルオフ重合度220)10gを0.25N塩酸のイソプロピルアルコール溶液10gで含浸した後,原料層の剪断速度が10s -1 となるように攪拌しながら90℃で10分間加水分解した後,40℃,24時間棚段乾燥しセルロース粉末R(乾 43 燥減量2.5%,RU2050362号公報の実施例8に相当)を得た。
得られたセルロース粉末Rの物性及びセルロース粉末Rを圧縮して得られた円柱状成形体の物性を表1に示す。また,セルロース粉末Rと乳糖の等量混合物を圧縮して得られた円柱状成型体の物性を表2に示す。
実施例8 実施例3のセルロース粉末C20重量%,乳糖(DMV社製,Pharmatose100M)19.5重量%,エテンザミド(岩城製薬(株)製)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表3に示す。
該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT 12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度24rpm,圧縮力3000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表3に示す。
【0048】実施例9 セルロース粉末として実施例5のセルロース粉末Eを用いた他は実施例8と同様に操作し混合粉体及び錠剤を調製した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表3に示す。
比較例12 セルロース粉末として比較例1のセルロース粉末Hを用いた他は実施例8と同様に操作し混合粉体及び錠剤を調製した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表3に示す。
比較例13 44 セルロース粉末として比較例2のセルロース粉末Iを用いた他は実施例8と同様に操作し混合粉体及び錠剤を調製した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表3に示す。
実施例10 アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間混合して予め薬物の流動性を改善した後,実施例3のセルロース粉末C30重量%,コーンスターチ(日澱化学(株)製)9.5重量%を加えてポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表4に示す。
該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT 12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力5000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表4に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。また錠剤中の薬物の溶出率はパドル回転数100rpmとした時の値を記載した。
【0049】実施例11 実施例3のセルロース粉末C30重量%,クロスポビドン(コリドンCL,BASF製)9.5重量%,アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間一括混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっ 45 くりと混合した。この混合粉体の安息角を表5に示す。
該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT 12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力5000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表4に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。
実施例12 アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)60重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製)0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間混合して予め薬物の流動性を改善した後,実施例3のセルロース粉末C30重量%,クロスポビドン(コリドンCL,BASF製)9.5重量%を加えてポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し,混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この混合粉体の安息角を表5に示す。
該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊水製作所製,CLEANPRESSCORRECT 12HUK)で直径0.6cm,11Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力5000Nで打錠し,重量100mgの錠剤を作製した。その錠剤物性を表4に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。
【0050】実施例13 セルロース粉末を実施例5のセルロース粉末Eとする他は実施例12と同様に操作した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表5に示す。
実施例14 アセトアミノフェン(吉富ファインケミカル(株)製,微粉タイプ)7 46 0重量%,軽質無水ケイ酸(アエロジル200,日本アエロジル(株)製) 0.5重量%とをポリエチレンバッグ中で3分間混合して予め薬物の流動 性を改善した後,実施例3のセルロース粉末C25重量%,クロスカルメ ロースナトリウム(Ac-Di-Sol,FMC社製造,旭化成(株)販 売)4.5重量%を加えてポリエチレンバッグ中で3分間充分に混合し, 混合粉体の総重量に対して0.5重量%のステアリン酸マグネシウム(太 平化学産業(株)製)を加えて30秒間さらにゆっくりと混合した。この 混合粉体の安息角を表6に示す。該混合粉体をロータリー打錠機((株)菊 水製作所製,CLEANPRESSCORRECT 12HUK)で直径0. 8cm,12Rの杵を用いてターンテーブル回転速度53rpm,圧縮力 10000Nで打錠し,重量180mgの錠剤を作製した。その錠剤物性 を表6に示す。錠剤の崩壊時間はディスクなしの値を記載した。
実施例15 セルロース粉末を実施例5のセルロース粉末Eとする他は実施例14 と同様に操作した。混合粉体の安息角,錠剤物性を表6に示す。錠剤の崩 壊時間はディスクなしの値を記載した。
ケ 【0065】 【発明の効果】 本発明のセルロース粉末は,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動性, 崩壊性にも優れているので,特に高打圧下で成形した場合であっても,高 硬度であってかつ崩壊遅延を助長しない錠剤を提供することができる。さ らには薬物含有量が多い場合においても錠剤重量のばらつきを損なうこと なく,硬度と崩壊性とのバランスのとれた錠剤を提供することが可能とな る。そのため,本発明のセルロース粉末は,比容積の大きな活性成分を含 む錠剤又は活性成分配合量の多い錠剤等の小型化にも大変有用であり,ま た,被覆した活性成分を含む顆粒含有錠剤においては,圧縮成形したとき 47 に顆粒の破壊,顆粒の被膜の損傷が少なく薬物放出特性の変化が少ないと いう効果も奏する。
? 前記?の記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発 明1に関し,次のような開示があることが認められる。
ア 医薬用途等において活性成分の錠剤化に圧縮成形用賦形剤として使用さ れるセルロース粉末は,輸送や使用に際して錠剤に磨損や破壊が生じない 程度の硬度を付与するための成形性,服用後の速やかな薬効発現のための 崩壊性,1錠中の医薬品含量の均一化のために医薬品と圧縮成形用賦形剤 の混合粉体が打錠機の臼に均一量充填されるための流動性のいずれもが 高いレベルで満足するものが望ましいが,成形性と崩壊性及び流動性とは 相反する性質であるため,従来のセルロース粉末では,成形性,流動性, 崩壊性の諸性質をバランス良く併せ持つものは知られていなかった(【0 002】ないし【0004】 【0009】 。
, ) イ 「本発明」は,成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持 つセルロース粉末を提供することを目的とするものであり(【0012】, ) 「本発明者ら」は,鋭意検討した結果,セルロース粉末の粉体物性(「平均 重合度」「粒子の平均L/D(長径短径比) , , 」「平均粒子径」「見掛け比容 , 積」 「見掛けタッピング比容積」 「安息角」及び「平均重合度とレベルオ , , フ重合度との差分」)を特定範囲に制御することにより,成形性,流動性, 崩壊性の諸性質のバランスに優れるセルロース粉末を見出し, 「本発明」を 達成したものである(【0013】ないし【0016】 。
) 「本発明」のセルロース粉末は,良好な圧縮成形性を保ちながら,流動 性,崩壊性にも優れているので,特に高打圧下で成形した場合であっても, 高硬度であってかつ崩壊遅延を助長しない錠剤を提供することができる という効果を奏する(【0065】 。
)2 争点1(被告製品1の構成要件1B及び2Bの充足性)について 48 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の2記載のとおりであるから,これを引用する。
? 原判決65頁13行目の「本件明細書の特許請求の範囲」を「本件発明1 の特許請求の範囲(請求項1)」と改める。
? 原判決68頁20行目の「本件特許の優先日当時」を「本件出願当時」と 改める。
(3) 原判決69頁15行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「?ア 以上のとおり,被告製品1は構成要件1B及び2Bを充足する。
次に,被告製品1は, 「微結晶セルロース」と称して販売されている こと,微結晶セルロースとは綿セルロースあるいは漂白木材セルロー スを希酸で部分的に加水分解して得るセルロース粉末であること(甲 3の1ないし3,6,12)からすると,被告製品1は,天然セルロ ース質物質の加水分解によって得られたセルロース粉末である。
そして,天然セルロース質物質の加水分解によって得られたセルロ ース粉末の有する特性等を有することは明らかであるから,被告製品 1は,構成要件1A及び2Aを充足する。
イ 前記?のとおり,被告製品1の平均重合度は323であり,また, 被告製品1を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘 度法により測定したレベルオフ重合度は180と認められるから(甲 6),平均重合度とレベルオフ重合度の差分は143である。
そうすると,被告製品1は,構成要件1H及び2Hを充足する。
ウ PT-R(測定間隔3°)で計測した被告製品1の安息角は50° と認められるから(甲6,37,38),被告製品1は,構成要件1G 及び2Gを充足する。
また,被告製品1が本件発明1及び2のその余の構成要件を充足す ることは,争いがない。
49 エ 以上によれば,被告製品1は,本件発明1及び2の構成要件をすべ て充足するから,本件発明1及び2の技術的範囲に属すると認められ る。
オ これに対し被告は,本件明細書の記載(【0023】 【0024】 , ) によれば,成形性と崩壊性の良好なバランスを得るには所定の噴霧乾 燥が必須であるところ,被告各製品は,噴霧乾燥によって製造された ものでないから,成形性,崩壊性及び流動性をバランスよく併せ持つ という本件発明1及び2の作用効果を奏さないとして,被告各製品は, 作用効果不奏功の抗弁により,本件発明1及び2の技術的範囲に属さ ない旨主張する。
しかしながら,本件発明1及び2の特許請求の範囲(請求項1及び 2)には,本件発明1及び2のセルロース粉末を「噴霧乾燥」の工程 を経て製造されたものに限定する記載はない。
次に,本件明細書の【0023】には「上記操作により得られたセ ルロース分散液は乾燥によって粉末にする必要がある。…成形性,流 動性,崩壊性のバランスがよいセルロース粉末を得るためには,品温 が100℃未満で噴霧乾燥を行うことが好ましい。」,【0024】 には「品温が100℃未満で噴霧乾燥を行う本発明の乾燥方法に比べ て,特開平6-316535号公報,特開平11-152233号公 報に記載されたセルロース分散液を100℃以上の温度で加熱後,噴 霧乾燥する又はドラム乾燥する方法,あるいは加熱せずに薄膜状態で 乾燥する方法では凝集粒子間の水素結合が強固に形成されてしまうた め崩壊性が低下して好ましくない。このような乾燥方法ではたとえ乾 燥前の粒子のL/Dが特定範囲下限未満であっても,スラリー中のセ ルロース粒子が粒子の長軸方向に揃った状態で凝集しやすいために, 乾燥による粒子のL/D低下を抑制することができ良好な成形性を付 50 与することができるものの,同時に崩壊性,流動性を同時に付与する ことはできない。成形性に加えて流動性,崩壊性の良好なものを得る ためには,乾燥前に粒子のL/Dを特定範囲に制御しておき,品温が 100℃未満で噴霧乾燥することによって初めて達成される。」との 記載があり,これらの記載は,成形性,流動性,崩壊性のバランスが よいセルロース粉末を得るためには,品温が100℃未満で噴霧乾燥 を行うことが好ましいことを示すものといえるが,一方で,噴霧乾燥 が必須であるとまで述べるものではない。また,本件明細書の【00 24】には,「ドラム乾燥,薄膜乾燥で得られるセルロース粉末では, 所望の粉体物性を与えるためには乾燥後に粉砕することが必須である が,全ての粒子を粉砕してしまうと,粒子表面が緻密でなくなり凹凸 が生じるためか,粒子同士の摩擦による静電気の発生量が多いことも 流動性が悪くなる要因であり好ましくない。但し,本発明の効果を損 なわない程度に,乾燥後に粉砕することは可能である。 との記載があ 」 り,上記記載は,ドラム乾燥,薄膜乾燥で得られるセルロース粉末で あっても,「本発明」の効果を奏することを示唆するものといえる。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。」3 争点2(被告製品2の構成要件1F及び2Fの充足性)について 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の3記載のと おりであるから,これを引用する。
? 原判決71頁7行目の「本件明細書の」を「本件発明1の」と改める。
(2) 原判決71頁24行目の後に行を改めて次のとおり加える。
「 このほか,控訴人は,被告製品2の販促用サンプルを入手し,本件訴 訟の提起前の2016年(平成28年)12月に,その測定を行ったと して,報告書(甲70)を提出するが,これを含めて検討しても,被告 製品2の見掛けタッピング比容積が2.4cm 3 /gであることを認め 51 るに足りない。
(3) したがって,被告製品2は,構成要件1F及び2Fを充足しないから, 本件発明1及び2の技術的範囲に属するものと認められない。」4 争点3(被告方法の構成要件3Eの充足性)について 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の4記載のと おりであるから,これを引用する。
? 原判決72頁23行目の「充足するとは認められない。」を「充足しないか ら,本件発明6の技術的範囲に属するものと認められない。」 ? 原判決72頁24行目から73頁20行目までを削る。
5 争点4-1(実施可能要件違反の有無)について 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の6記載のと おりであるから,これを引用する。
? 原判決75頁3行目の「加水分解したときに」を「加水分解した後に」と 改める。」 ? 原判決76頁16行目の「前記1(1)のとおり,」を削り,同頁25行目の 「優先日前に頒布された公刊物である」を「本件出願の優先日前に頒布され た刊行物である」と改める。
? 原判決77頁5行目の「優先日当時」を「本件出願当時」と改める。
6 争点4-2(サポート要件違反の有無)について ? 本件出願当時のレベルオフ重合度に関する技術常識について ア 各文献の記載事項 (ア) 乙23(O.A.BATTISTA,“Hydrolysis and Crystallization of Cellulose” INDU STRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY,V ol.42,No.3 1950。BATTISTA論文)(下記記載中に 引用する図2,3,6及び表U,WないしYについては別紙2を参照) 52 a 「セルロースの加水分解及び結晶化 温和な条件(5.0N塩酸,5℃,18℃,40℃)及び過酷な条件(2.5N及び5.0N塩酸,沸騰)で加水分解を行い,セルロースの代表的なサンプル10種の重量減少と重合度における時間の影響の包括的な研究を行った。精製綿,漂白綿リンター,綿リンターパルプ,木材パルプ,テキスタイルレーヨン,タイヤヤーン,フォーティサン,ファイバーG,及び2つの実験レーヨンをサンプルとした。酸加水分解後に測定した(残渣の重量に基づく)結晶化度(%)とレベルオフ重合度は,加水分解の条件,すなわち,温和な条件,過酷な条件,あるいは温和な条件の後に引き続き行う過酷な条件,に依存することを示す。この文献に記載された器具と組み合わせた際の,重量減少又は相対結晶化度とレベルオフ重合度を測定するための最適過酷条件として,2.5N塩酸,105℃,15分の条件を推奨する。重量減少及び重合度のデータに基づいて,温和な加水分解条件及び過酷な加水分解条件のそれぞれについて,結晶化を同時に伴うセルロース鎖の分割を説明するメカニズムを提唱する。天然セルロースよりも再生セルロースに対する加水分解の結晶化の影響は,天然セルロースに対する加水分解の結晶化の影響より顕著であることがわかった。 (訳文1頁) 」b 「セルロース繊維の分子鎖構造を特徴づけるための化学的方法とし て酸加水分解が,Nickerson(16-19)及び後のNic kersonとHabrle(20-22)による一連の論文を通じ て開発された。Nickerson法では,セルロースサンプルを2. 45N塩酸と0.6M塩化鉄の沸騰溶液に曝した。
この過酷な加水分解処理下では,セルロース鎖は反応可能な(av ailable)1,4-グルコシド結合で速やかに分割し,短鎖セ ルロースそして最終的にグルコースを生成する。 (訳文1頁) 」 53 「2つのかなり異なる反応速度が観測されており,2相の微細構造に基づいて―1相は酸により容易に攻撃される非晶質領域であり他相は酸によって非常に緩やかにしか攻撃されない結晶領域として―2つの反応速度の違いを説明づけている。原料サンプルに存在する非晶質物質が徐々に酸可溶性の最終生成物に変化し,耐酸性の結晶成分が残渣となることが当時提唱された。この理論に基づいて,セルロースの結晶と非晶質の定量的な評価が試みられた。 (訳文2頁) 」「BattistaとCoppick(2)は,セルロース微細構造の化学的特徴づけのためのより温和な加水分解条件(5N塩酸,18℃)の使用を提案しており,長時間の温和な条件での酸加水分解では,ほとんどの天然セルロース構造の基本重合度(basic degreeof polymerisation)は,再生セルロース構造(40-80)の場合よりも高い値(225-275)で安定化する傾向にあること,及び,マーセル化セルロース構造は (75-125)の間のどこかの基本重合度の範囲で安定化する傾向にあることを彼らは示した。 (訳文2頁) 」「今回の研究では,天然セルロースと再生セルロースの両微細構造の加水分解に対する,時間,温度,及び酸濃度などの変数の効果を研究している。温和な条件及び過酷な条件で系統的に加水分解された多種多様なセルロースに対して,重量減少及び重合度の包括的なデータが得られた。
重量減少と重合度のデータの組合せを用いて,加水分解を伴う結晶化のメカニズムが2つの相互依存プロセス-加水分解と結晶化-により制御されることを論証する。温和な加水分解条件は,1,4-グルコシド結合が比較的緩やかに分割する間に,より長く,酸溶解性が低い結晶性物質の形成を促進することを,データに基づいて提唱する。一 54 方,過酷な加水分解条件は,極めて短く,より酸溶解性の結晶性物質 の形成を促進する。 (訳文3頁) 」c 「研究サンプル この研究のために,天然セルロース及び再生セルロースの両微細構 造を代表する精製セルロースであるサンプル10種を選択した 番号 サンプル 原料基本重合度T 精製綿 3200U 漂白リンター 1900V リンターパルプ 880W 木材パルプ 1030X Aviscoタイヤヤーン(高強力, 高配向再生セルロースヤーン) 490Y Aviscoテキスタイルヤーン(再生セルロース レーヨン,中強力,中配向) 470Z 実験レーヨン(HST) 440[ 実験レーヨン(LST) 350 \ フォーティサン 450 ] ファイバーG 550」 (訳文3頁〜4頁)d 「実験手順 重合度の測定。銅アンモニア溶液中の粘度を測定するために使用し た方法は,基本的に著者ら(1)が記載した方法であった。… 温和な分解工程。サンプル10種をそれぞれ,5N塩酸,5℃,1 8℃,及び40℃で多様な時間にわたって加水分解した。
全てのサンプルを,標準的な非分解抽出及び精製操作に付して,ワッ クス及び油剤を除去した。… 2(2.000)g部分(オーブン乾燥)を秤量し,250mLの サンプル瓶に移し,それぞれの温度に維持したストック瓶から,5. 0N塩酸200mLを取り出して各サンプルに添加した。サンプルを 55 大過剰量の酸に均一に分散し,瓶に栓をして事前に設定した計画に沿 った様々な時間保管した。それぞれ規定された加水分解時間の終わり に,サンプルをフリットガラスフィルターにすぐに移し,蒸留水,5% 水酸化アンモニウム,さらに多量の蒸留水で洗浄して酸を除去した。
残渣を105℃,5時間,真空オーブン(水銀圧30インチ)で乾燥 後,相対湿度58%における平衡状態に調整し,基本重合度を測定し た。 (訳文4頁〜5頁) 」e 「過酷な分解条件。沸騰塩酸でサンプルを加水分解するために使用 する器具を図1に示す。… 既知の水分率のサンプルの一部2(2.000)g(オーブン乾燥 基準)を秤量し,予め沸騰させた,300mLの5.0N又は2.5 0N塩酸溶液(示したとおり)に加えた。サンプルは,移動し易いよ うに15mLの各塩酸溶液に浸した。
セルロースサンプルは,規定された正確な時間,沸騰した塩酸溶液 に浸したままにした。器具は,加水分解処理の終わりに分解し,フラ スコの内容物をDポロシティのフリットガラスフィルタに移した。器 具を分解し,水和セルロース残渣をフィルターに移すために要する時 間は60秒以内であった。
その後,サンプルを蒸留水,5%希水酸化アンモニウム,さらに蒸 留水で酸が除かれるまで繰り返し洗浄し,その後,105℃で定量に なるまで真空オーブンで乾燥した。2.50N塩酸で30分まで加水 分解したサンプルの全ての残渣は,上記の洗浄及び乾燥した後,見掛 け上,雪のような白色であった。 (訳文5頁〜6頁) 」f 「結果 5.0N塩酸,5℃,18℃,及び40℃並びに沸騰の条件での加水分解時間による基本重合度の変化を,それぞれ,表Iにまとめ,各 56 サンプル(綿リンターパルプ及びビスコースタイヤヤーン)を図2及び3にプロットした。これらのデータが示すように,基本重合度は加水分解温度が低いほど高い値でレベルオフする傾向にある。
沸騰温度,5.0N塩酸の条件でセルロースを15分以上加水分解す ると,腐食物質を生成することがわかった。重量減少の研究の目的で は,それゆえ,腐食分解物質の生成を防ぐか,無視し得る最小量を維 持する加水分解条件を選択した。沸騰温度,2.5N塩酸,15分の 条件が,これらの即ち,腐食分解物質の生成を防ぐか,無視し得る最 小量を維持する,要件を満たすことが分かった。前述の仮説が基礎と する基準は,30分まで加水分解が行われた時でも,極微少量の腐食 物質の発生の特徴である,不溶性かつ暗色の物質が見られないことで あった。 (訳文6頁) 」g 「レベルオフ重合度。天然セルロース(精製綿)及び再生セルロー ス(ビスコースタイヤヤーン),それぞれに対する2.50N塩酸,沸 騰の加水分解条件の時間依存の重合度の変化を表Uに示し,図5にプ ロットする。
これに関連して,かなり長時間温和な条件で加水分解した後,また はかなり短時間過酷な条件で加水分解した後に到達する比較的一定の 重合度を称するために, 「限界重合度(limiting D.P.)」の代わりに 「レベルオフ重合度(leveling-off degree of polymerization)」と いう用語を使用することを著者は好む。もし,セルロースが十分に加 水分解されたなら,真の「限界重合度」である1まで減少するはずで ある。
加水分解による結晶化度%。図4及び5から認識する特に重要なこ とは, (1)かなり一定の値に見える基本重合度にどの程度の速さで到 達するのか, (2)天然構造が再生構造よりもはるかにレベルオフ値が 57 高いこと,そして, (3)天然セルロース構造の加水分解時間に対する 重量減少が再生セルロース構造の重量減少よりはるかに緩やかである こと,である。これらのデータに基づいて,加水分解の重量減少-即 ち,加水分解による残渣の結晶化度(%)-とレベルオフ重合度の両 方を測定する最適条件として,2.5N塩酸,沸騰温度,15分の加水 分解条件を基準とする。 (訳文7頁〜8頁) 」h 「加水分解の結晶化。温和な加水分解条件の重量減少と過酷な加水 分解条件の重量減少を比較することにより,加水分解時の結晶化の仮 説を支持する実験証拠が得られた。これらのデータを表W及びVに一 覧にする。
表Wのデータは,(1)温和な加水分解(5N塩酸,18℃) (2) , 過酷な加水分解(2.5N 塩酸,105℃),そして(3)温和な加水 分解の後に引き続き行う過酷な加水分解(5N塩酸,18℃に続いて 2.50N 塩酸,105℃)に曝したレーヨングレードの木材パルプ の重量損失と重合度のデータを示す。
上記のレーヨン木材パルプから得られたタイヤヤーンに対する,温 和な加水分解のデータ,過酷な加水分解のデータ,そして温和な加水 分解の後に引き続き行う過酷な加水分解のデータを対応させて表Vに 示す。表Vから,比較的短時間温和な加水分解の後,タイヤヤーンに は重量減少がほとんど或いは全くみられなかったことがわかる。重量 のわずかな増加は,重量減少を測定する際の実験精度の要求では,重 要ではないと考えられる。但し,1,4-グルコシド結合を分割する際 に,セルロース分子に対して水分子が付加するので,加水分解がセル ロース残渣の重量に対してごくわずかな寄与を有するかもしれないと いう可能性はある。
表Yは,10個の異なるテキスタイルヤーンに対する温和な事前加 58 水分解処理(2.50N塩酸,18℃,10日)が,これらのテキスタ イルヤーンの加水分解による結晶化度(%)を顕著に増加するという 効果を示している。
表W, 及びYに示すデータは, V, セルロースの温和な加水分解は, ほとんど或いは全く重量減少を伴わない結晶化を誘導することを示し ているようである。このことは,全てのケースで,基準とした過酷な 加水分解処理を直接行った場合よりも,事前の温和な加水分解処理の 後に引き続き行う基準とした過酷な加水分解処理に供した場合に,サ ンプルが実質的にほとんど重量を減少していないという事実で証明さ れている。但し,この効果は,天然セルロースよりも再生セルロース の場合ではるかに顕著であることが示されている。 訳文8頁〜9頁) ( 」i 「セルロース微細構造の不均一相酸加水分解に対するメカニズム 温和な加水分解条件及び過酷な加水分解条件でのセルロース微細構造 の加水分解に対し提唱されたメカニズムの模式図を図6に表す。
セルロース微細構造の酸分解のこの図は,この文献で記載した重合 度と重量減少の全てのデータを説明可能である。
加水分解条件が比較的温和であるときは,図6のA部で図示したメ カニズムが適用されると考えられる。この条件下では,アクセシブル なセルロース鎖のごくわずかな1,4-グルコシド結合が単位時間あ たりに分割する。これにより,結晶成長が可能となり,そして,更な るセルロース鎖の分割が起こる前に,微細構造の非晶質領域のセルロ ース鎖のより長いセグメントが「結晶化」し得,次第にアクセシビリ ティに乏しい微細構造となる。
しかしながら,加水分解条件が過酷であるときは,図6のB部で図 示したメカニズムがよりふさわしい。これらの条件では,1,4-グ ルコシド結合の分割がきわめて速く起こるので,極めて短いセグメン 59 トのセルロース鎖しか実質的には「結晶化」されない。言い換えると, 過酷な加水分解により,比較的小さく,塩酸溶解性のより高いセルロ ース部分が形成される。過酷な加水分解で形成される,短鎖の結晶セ ルロース部分の溶解性は,1,4-グルコシド結合の遅い分割で得ら れるより長い「結晶」成分の溶解性よりかなり高いので,観測された ように,沸騰温度で加水分解した際の重量減少が大きくなると予想さ れる。 (訳文9頁〜10頁) 」j 「さらに,図6のA部に図示されたメカニズムに従って加水分解さ れた微細構造が,続いて図6のB部に提案したメカニズムを支持する 過酷な加水分解条件に付されるなら,A部に図示したメカニズムだけ に従った場合や,B部に図示したメカニズムに直接従った場合より, 水和セルロース残渣の平均基本レベルオフ重合度と重量減少が低下す ると予想し得る。過酷な加水分解単独(Part B)では,残渣の平 均基本重合度を下げるよう作用するであろう極めて短鎖フラグメント が除かれ,過酷な加水分解単独の場合の重合度が高くなるはずである し,一方,温和な加水分解条件の後に続いて過酷な加水分解条件を行 う場合,結晶化された短いセルロース鎖の材料は残渣に保持され,平 均基本重合度を下げる傾向にある。言い換えると,温和な加水分解後 のサンプルの残渣の結晶粒子サイズの分布は,過酷な加水分解後の残 渣の結晶粒子サイズの分布と異なり得る。 (訳文10頁) 」k 「結論 加水分解の重量減少から,(1)加水分解の進行速度と,(2)加水 分解と同時に起こるらしい結晶化及び結晶成長,の組合せに依存する ことが示される。長時間温和な加水分解条件を行うと,短時間過酷な 加水分解条件を行う場合よりも重量減少がより少ないことが確認され るが,平均重合度はそれぞれの場合で同じレベルオフ値に近づく。さ 60 らに,無秩序で歪んだ(disorganized and stra ined)セルロース鎖における結晶化を支持する温和な加水分解処 理が,引き続き行う過酷な加水分解処理における急激な重量減少を低 減するのに有効であることがわかる。
この結果は,温和な条件では,1,4-グルコシド結合が比較的緩 やかに分割する間,酸不溶性であり,さらに速やかな加水分解に耐性 を有するセルロース長鎖セグメントの結晶成長と結晶化を支持すると みなすことにより説明される。一方,過酷な加水分解では,反応可能 な1,4-グルコシド結合が速やかに分割される間,ごく短いセルロ ース鎖セグメントしか結晶化せず,結果,酸可溶性であり加水分解の 間より速やかに除去される,結晶核(crystalline nuc lei)となる。 (訳文10頁) 」(イ) 甲64(米国特許2978446号公報。1961年4月4日公開) a 「この発明は,レベルオフD.P.セルロース生成物およびその調製 方法に関する。天然および再生のいずれも,セルロースの構造の研究 においてセルロース系材料は,加水分解によって非晶質セルロース系 材料を除去され,結晶とされる残りのセルロース系構造は,現在では, O.A.Battistaによる論文,「Hydrolysis and Crystallization of Cellulose」Vol. 42 Industrial and Engineering Che mistry,502-7, (1950)にしたがって,一般にレベル オフD.P.セルロースと呼ばれる。加水分解は様々な具体的な方法に よって実行されるが,2次反応を伴わないもっとも直接的な方法は, 塩酸によるセルロース系材料の処理である。セルロース系材料に対す る酸の加水分解処置から得られるセルロースは,時間の経過により, 実質的に一定の分子量に達する。レベルオフD.P.セルロースは,元 61 のセルロース系材料に主として依存し,加水分解条件の過酷さに依存 する程度はより少ない。一般に,天然繊維のレベルオフD.P.は,約 200〜300の範囲であり,一方,再生セルロースのレベルオフD. P.は,約25〜約60の範囲となる。(第1欄15行〜37行・訳文 」 1頁)b 「本発明の主目的は,様々な物品の製造に用いるためのレベルオフ D.P.セルロース生成物を提供することである。 (第1欄41行〜4 」 3行・訳文1頁)c 「精製されたセルロースは,天然セルロースであれ再生セルロース であれ,加水分解によってレベルオフD.P.生成物となる。天然セル ロースの精製形態としては,コットン繊維,コットンリンター,精製 木材パルプなどの材料があげられ,一方,再生セルロースの具体例と しては,ビスコースレーヨンの繊維およびフィラメント,ならびにセ ロファンなどの非繊維状シート形態があげられる。…セルロースは 様々な手段,例えば塩酸および塩化第二鉄,硫酸などによって加水分 解されうるが,この発明の目的には純粋なヒドロセルロース生成物が 求められるため,本発明の目的のためには,塩酸を使用することが好 ましい。加水分解は,過酷(drastic)または穏和のいずれで あってもよいことも知られている。本発明の目的のためには,溶液の 沸点(約105℃)における塩酸の2.5N標準溶液に15分間,セ ルロースを供することに行われる過酷(drastic)な加水分解 が好ましい。しかし,より長時間の穏和な加水分解も,同じ特徴を有 する結晶質凝結体をもたらす。セルロース系原材料は精製した天然セ ルロースまたは再生セルロースのいずれかであるため,無機不純物の 量は極めて少ない。過酷な加水分解は,さらなる量の非セルロース系 物質を効果的に除去し,後続の加工において,実質的にすべての無機 62 不純物が加水分解酸における溶液によって除去されるので,結果とし て得られるレベルオフD.P.微結晶は実質的に純粋であり,おそらく 入手可能なセルロースとしては最も純粋な形態である。沸騰している 2.5標準塩酸に約15分間,セルロース原材料を供することによっ て,すべての不純物および非晶質材料が除去され,残留物は実質的に 一定の分子量ないしD.P.値となることが知られている。 (第1欄5 」 9行〜第2欄25行・訳文1頁〜2頁)(ウ) 甲9(岩波理化学辞典第3版,1971年,岩波書店) 「セルロース(C 6H 10O 5 )n 繊維素ともいう。植物細胞膜の主成分 をなす多糖類。」 「セルロース繊維はミセル状の構造をもち,セルロース分子が一定の排 列をした結晶部分と,乱雑に集合した非結晶部分とから成り,両者の適 当な配合により繊維に強度,易撓性,弾力性,染色性,吸湿性などが生 ずるものと考えられている。」 (以上,736頁)(エ) 甲63(セルロース学会編「セルロースの事典」2000年11月 10日,朝倉書店) 「b.製造方法 結晶セルロースは高純度木材パルプを酸加水分解して得られる。
パルプの非結晶部分は酸で分解されやすく,結晶部分は分解されず に残る。高度にコントロールされた条件下で製造された結晶セルロ ースはほぼ一定の重合度(100〜300)であり,酸加水分解に より化学的修飾を受けない。その化学構造と結晶構造は木材パルプ 由来の天然セルロースのままである。 (523頁) 」(オ) 甲39(磯貝明著「セルロースの材料科学」2001年2月5日, 東京大学出版会)(下記記載中に引用する図については別紙3を参照)。
63 a 「セルロース分子の構成単位であるグルコースどうしを結合してい るβ―1,4グリコシド結合は酸性下で解裂しやすく,分子量が低下 して材料としての強度低下につながる。酸性紙の長期保存中の劣化問 題は,このセルロース分子の酸加水分解による分子量低下が原因であ る。さて,その酸加水分解は,酸水溶液(厳密にはH?イオン)が浸透 できるセルロース中の非晶領域から始まる。」 b 「セルロース材料中の非晶領域の分布状態を解明する上で重要な実 験事実は,希酸加水分解過程でのセルロースの分子量変化挙動にある。
セルロース試料を希酸中で加熱処理すると,セルロースは徐々に酸加 水分解されて単糖となって希酸中に溶解していく。一方,酸加水分解 処理で残存しているセルロースの重合度は酸加水分解初期に急激に2 00-300に低下し,その後は重量減少が続いても変化しない。こ の一定になる重合度をレベルオフ重合度といい,高等植物由来の綿セ ルロース,木材セルロース,麻のセルロース等では常に観察される現 象である(図1.9)。この現象を合理的に説明するためには,セルロ ースのミクロフィブリルに沿って重合度で200-300程度の結晶 領域と少量の非晶領域とが交互に存在するモデルが妥当である(図1. 10) 」 。
(以上,16頁〜17頁)イ レベルオフ重合度について (ア) 前記アの記載事項を総合すると,本件出願当時(出願日平成13年 6月28日),@「レベルオフ重合度」とは,セルロースを酸加水分解す ると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200-300に低下し た後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味すること,A 原料セルロースは,酸加水分解時に,原料セルロースの非結晶部分は酸 で分解されやすいが,結晶部分は分解されずに残り,この分解されずに 64 残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであり,分 解されずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応 することは,技術常識であったことが認められる。
(イ) この点に関し被控訴人は,BATTISTA論文(乙23)の記載 によれば,温和な加水分解の後,過酷な条件で加水分解を行った場合に は,温和な加水分解を経ることなく過酷な条件下で加水分解を行った場 合に比べて,そのレベルオフ重合度は通常低下すると理解されることに 照らすと,加水分解により分解されずに残った部分の化学構造と結晶構 造は,原料セルロースのままであり,その結晶領域の長さが「レベルオ フ重合度」に対応するとはいえない旨主張する。
そこで検討するに,被控訴人の主張に沿うように,乙23には, 「図6 のA部に図示されたメカニズムに従って加水分解された微細構造が,続 いて図6のB部に提案したメカニズムを支持する過酷な加水分解条件に 付されるなら,A部に図示したメカニズムだけに従った場合や,B部に 図示したメカニズムに直接従った場合より,水和セルロース残渣の平均 基本レベルオフ重合度と重量減少が低下すると予想し得る。,過酷な加 」「 水分解単独(Part B)では,残渣の平均基本重合度を下げるよう作 用するであろう極めて短鎖フラグメントが除かれ,過酷な加水分解単独 の場合の重合度が高くなるはずであるし,一方,温和な加水分解条件の 後に続いて過酷な加水分解条件を行う場合,結晶化された短いセルロー ス鎖の材料は残渣に保持され,平均基本重合度を下げる傾向にある。 前 」 ( 記ア(ア)j)との記載がある。
しかしながら,他方で,@乙23の11年後に発行された乙23の著 者(O.A.Battista)を発明者に含む特許公報である甲64 には,セルロース系材料に対する酸の加水分解処置から得られるセルロ 「 ースは,時間の経過により,実質的に一定の分子量に達する。レベルオ 65 フD.P.セルロースは,元のセルロース系材料に主として依存し,加水分解条件の過酷さに依存する程度はより少ない。 (前記ア(イ)a) 「本 」 ,発明の目的のためには,溶液の沸点(約105℃)における塩酸の2.5N標準溶液に15分間,セルロースを供することに行われる過酷(drastic)な加水分解が好ましい。しかし,より長時間の穏和な加水分解も,同じ特徴を有する結晶質凝結体をもたらす。 前記ア(イ)c) 」 (との記載があること,A甲63には, 「パルプの非結晶部分は酸で分解されやすく,結晶部分は分解されずに残る。高度にコントロールされた条件下で製造された結晶セルロースはほぼ一定の重合度(100〜300)であり,酸加水分解により化学的修飾を受けない。その化学構造と結晶構造は木材パルプ由来の天然セルロースのままである。 (前記ア(エ)) 」との記載があること,B甲39には, 「酸加水分解処理で残存しているセルロースの重合度は酸加水分解初期に急激に200-300に低下し,その後は重量減少が続いても変化しない。この一定になる重合度をレベルオフ重合度といい,…この現象を合理的に説明するためには,セルロースのミクロフィブリルに沿って重合度で200-300程度の結晶領域と少量の非晶領域とが交互に存在するモデルが妥当である(図1.10)(前記ア(オ))との記載があり,上記記載中の「図1.10」 」 (別紙3)は,結晶領域と非晶領域とからなるセルロースのミクロフィブリルが,酸加水分解により非晶領域で切断され,切断後のレベルオフ重合度は結晶領域の長さに対応することが示されていることに照らすと,乙23の上記記載を踏まえても,本件出願当時,加水分解により分解されずに残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであり,その結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応することが技術常識であったとの前記(ア)の認定を左右するものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
66 ? 本件発明1の技術的意義について ア 前記1(2)認定の本件明細書の開示事項によれば,本件明細書の発明の詳 細な説明には,本件発明1に関し,医薬用途等において活性成分の錠剤化 に圧縮成形用賦形剤として使用されるセルロース粉末は,輸送や使用に際 して錠剤に磨損や破壊しない程度の硬度を付与するための成形性,服用後 の速やかな薬効発現のための崩壊性,1錠中の医薬品含量の均一化のため に医薬品と圧縮成形用賦形剤の混合粉体が打錠機の臼に均一量充填され るための流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいが,成 形性と崩壊性及び流動性とは相反する性質であるため,従来のセルロース 粉末では,成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランスよく併せ持つもの は知られていなかったという問題があったことから,本件発明1は,成形 性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提 供することを課題とし,その課題を解決するための手段として,セルロー ス粉末の粉体物性である「平均重合度」, 「粒子の平均L/D(長径短径比), 」 「平均粒子径」 「見掛け比容積」 「見掛けタッピング比容積」 「安息角」 , , , 及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」を特定の数値範囲に制御 する構成を採用することにより,全体として成形性,流動性,崩壊性の諸 性質をバランスよく併せ持つという効果を奏するものとしたことに技術 的意義があることの開示があるものと認められる。
イ この点に関し原告は,本件明細書記載の「成形性,流動性,崩壊性の諸 機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末を提供すること」 【001 ( 2】)にいう「成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つ」 とは, 「硬度170N以上」「崩壊時間130秒以下」及び「安息角54° , 以下」の数値をすべて満たすことを意味するものであり,このようなセル ロース粉末を提供することが本件発明1の課題であると認定すべきであ る旨主張する。
67 しかしながら,本件明細書の【0018】及び【0019】の記載によ れば,原告の挙げる「硬度170N以上」「崩壊時間130秒以下」及び , 「安息角54°以下」の数値は,それぞれ成形性,崩壊性及び流動性を「個 別で評価する場合に好ましい」とされる範囲の指標であって,本件明細書 には, 「成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロー ス粉末」を提供するという本件発明1の課題を解決するために,これらの 数値をすべて満たすことが必須であることについての開示はないから,原 告の上記主張は採用することができない。
? 本件発明1のサポート要件の適合性について ア 原告は,本件発明1の課題は, 「成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバラ ンスよく併せ持つセルロース粉末」を提供すること,すなわち, 「硬度17 0N以上」 「崩壊時間130秒以下」及び「安息角54°以下」の数値を , すべて満たすセルロース粉末を提供することが本件発明1の課題である とした上で,当業者は,本件発明1の「平均重合度」 「75?以下粒子L , /D」 「平均粒子径」 「見掛け比容積」 「見掛けタッピング比容積」 「安 , , , , 息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分(差分要件)」という 7つのパラメータの数値範囲全体をカバーする具体例の開示なくして,上 記課題を解決できると認識することはできないが,本件明細書の発明の詳 細な説明には,かかる具体例の開示がなく,当業者は,本件発明1の上記 課題を解決できると認識することはできないから,本件発明1は,サポー ト要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,前記?イで説示したとおり, 「硬度170N以上」「崩壊 , 時間130秒以下」及び「安息角54°以下」の数値をすべて満たすセル ロース粉末を提供することが本件発明1の課題であると認めることはで きないから,原告の上記主張は,その前提において理由がない。
イ 原告は,@本件発明1の「該平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2. 68 5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5〜300高いこと」との要件(差分要件)は, 「該セルロース粉末」に関するレベルオフ重合度との差分であるにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたレベルオフ重合度は,いずれも「原料パルプ」のレベルオフ重合度であって,実施例及び比較例の「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は不明であること,BATTISTA論文の記載に照らすと, 「該セルロース粉末」と「原料パルプ」のレベルオフ重合度が同じであるとは認められないことからすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,差分要件の数値範囲において,本件発明の1の課題を解決できると当業者が認識することはできない,A仮に本件審決が認定するように「該セルロース粉末」のレベルオフ重合度は, 「原料パルプ」のレベルオフ重合度より100低いと仮定した場合,実施例2ないし6において示されている差分の範囲は150〜255であり,その下限値は150であること,差分5ないし10という数値は,粘度法による重合度測定の誤差の範囲のレベルであり,実質的にはレベルオフ重合度との差分を技術的有意性をもって認識することはできないこと,当業者は,差分要件の作用機序の技術的意味を理解できないことからすると,本件明細書記載の差分が150以上の実施例のデータのみをもって,測定誤差のレベルである差分5ないし10を下限とする差分要件の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると認識することはできないとして,本件発明1はサポート要件に適合しない旨主張するので,以下において判断する。
(ア) 本件発明1の「レベルオフ重合度」の意義について 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明1の「レベ ルオフ重合度」の意義について規定した記載はないが,本件明細書の【0 015】に,「本発明でいうレベルオフ重合度とは2.5N塩酸,沸騰温 69 度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度をいう。」との記載がある。
上記記載は,本件発明1の「レベルオフ重合度」を定義したものといえるから(前記6(1)イ),本件発明1の「レベルオフ重合度」とは,2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度」をいうものと解される。
なお,本件明細書の【0015】には,レベルオフ重合度に関し,「セルロース質物質を温和な条件下で加水分解すると,酸が浸透しうる結晶以外の領域,いわゆる非晶質領域を選択的に解重合させるため,レベルオフ重合度といわれる一定の平均重合度をもつことが知られており(INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY,Vol.42,No.3,p.502-507(1950)),その後は加水分解時間を延長しても重合度はレベルオフ重合度以下にはならない。従って乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」との記載がある。上記記載中の「乾燥後のセルロース粉末を2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した時,重合度の低下がおきなければレベルオフ重合度に達していると判断でき,重合度の低下が起きれば,レベルオフ重合度でないと判断できる。」との記載部分は,本件出願当時, 「レベルオフ重合度」とは,セルロースを酸加水分解すると,その重合度は,酸加水分解初期に急激に200-300に低下した後ほぼ一定になり,このほぼ一定になった重合度を意味することは技術常識であったこと(前記?イ(ア))に照らすと,レベルオフ重合度に達しているか否かの一般的な判断基準を示したものではないものと理解できる。
70 (イ) @について a 本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセル ロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販 KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている(【0039】な いし【0047】 。
) 前記?イ(ア)のとおり,本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部 分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分 の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであって,分解され ずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応する ことは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例 及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプ のレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。
この点に関し磯貝明作成の令和2年9月11日付け意見書(乙72) 中には,3桁のLODPを報告するときの有効数字は2桁とするのが 「 一般的であるが,実際のところ,2桁目,3桁目の精度は無いといっ ていほどバラバラになるので,LODPについて十の桁,一の桁を議 論することは技術的に意味がない。そして,同一のセルロースでもL ODPは酸加水分解条件等によって変化することも常識である,その ため,例えば,市販の木材パルプのLODPを測定したとしても,そ の木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉末のLODP については,やはり実際に測定してみなければわからず,原料である 木材パルプと同一になるとは推測できないばかりか,具体的にいかな る値になるかも推測することはできない。」との記載部分がある。
しかしながら,他方で,上記意見書中には, 「LODPとは「セルロ ース試料を酸で加水分解処理した残渣の重合度が一定時間(…)経過 しても”ほぼ”一定になる現象」であると述べる部分や, 「BATTI 71 STA論文でも同様であるが, 「ほぼ一定になる」という現象を示す以 上に,例えば, 「平均重合度が下がりきっている(これ以上全く低下し ない)」という含意はない。 ,「一定」といっても過酷な条件であれば 」「 少なくとも2時間程度は更なる酸加水分解によって平均重合度が緩や かに低下していくことは常識である。 ,こうした変化も含めて200 」「 〜300程度の粗い幅で「ほぼ一定」と言っているのである。」と述べ る部分がある。
これらを総合すると,上記意見書の上記記載部分は,市販の木材パ ルプのLODPとその木材パルプを原料として酸加水分解したセルロ ース粉末のLODPとの間における「かなり程度の高い同一性」を問 題とした上で,木材パルプを原料として酸加水分解したセルロース粉 末のLODPについては,原料である木材パルプと同一になるとは推 測できない旨を述べたにとどまるものというべきであるから,上記記 載部分によって,本件明細書の実施例及び比較例記載のセルロース粉 末のレベルオフ重合度が原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等 しいものと理解できるとの上記判断を左右するものではない。
b 加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1な いし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると, 本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満た すかどうかを把握できるものと解される。
また,本件明細書の表4には, 「平均重合度」, 「粒子の平均L/D(長 径短径比), 」「平均粒子径」「見掛け比容積」「見掛けタッピング比容 , , 積」「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」 , (差分 要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7 のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値 範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体 72 について,平均降伏圧[MPa] 錠剤の水蒸気吸着速度Ka, [N] , 硬度 及び崩壊時間[秒]が示されている。
そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角 が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下で あり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くな り(【0018】 ,錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,1 ) 70N以上が好ましく 【0019】 , ( ) 崩壊時間は崩壊性を示す実用的 な物性値であり,130秒以下が好ましい(【0019】)のであるか ら,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊 性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということ ができる。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び 本件出願時の技術常識から,実施例2ないし7のセルロース粉末は, 本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められるから, @は採用することができない。
(ウ) Aについて 本件明細書には, 平均重合度はレベルオフ重合度ではないことが好ま 「 しい。レベルオフ重合度まで加水分解させてしまうと製造工程における 攪拌操作で粒子L/Dが低下しやすく成形性が低下するので好ましくな い。」(【0015】 , )「レベルオフ重合度からどの程度重合度を高めて おく必要があるかということについては,5〜300程度であることが 好ましい。さらに好ましくは10〜250程度である。5未満では粒子 L/Dを特定範囲に制御することが困難となり成形性が低下して好まし くない。300を超えると繊維性が増して崩壊性,流動性が悪くなって 好ましくない。」(【0016】, )「セルロース質物質をレベルオフ重合 度まで加水分解してしまうと,製造工程における攪拌操作で粒子L/D 73 が低下しやすく成形性が低下するので好ましくない。…セルロース分散 液の粒子は乾燥により凝集し,L/Dが小さくなるので,乾燥前の粒子 の平均L/Dを一定範囲に保つことで高成形性でかつ崩壊性の良好なセ ルロース粉末が得られる。」(【0021】)との記載がある。
これらの記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解 されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,そ の後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末 のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下すること を理解できる。
そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低 下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレ ベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたこ とを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全 体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認めら れる。
したがって,Aは採用することができない。
(エ) まとめ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願時 の技術常識から,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体に わたり,本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められるか ら,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが認め られる。
また,これと同様の理由により,本件発明2も,発明の詳細な説明に 記載したものであることが認められる。
? 小括 以上によれば,本件発明1及び2は,サポート要件に適合するものと認め 74 られるから,被控訴人主張のサポート要件違反の無効理由は,理由がない。
7 争点4-3(明確性要件違反の有無)について 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の8記載のと おりであるから,これを引用する。
? 原判決95頁2行目を削り,同頁13行目末尾に行を改めて次のとおり加 える。
「 一方で,本件発明1及び2の特許請求の範囲(請求項1及び2)には, 「天然セルロース質物質の加水分解によって得られるセルロース粉末」に いう「加水分解」の条件を特定する記載はなく,また,セルロース粉末の 製造に至る加水分解以降の工程を規定した記載はない。」 ? 原判決97頁7行目から8行目にかけての「本件特許の優先日当時」 「本 を 件出願当時」と,同頁8行目の「構成要件1A・2Aには」を「請求項1及 び2には」と改める。
? 原判決97頁16行目の「そうすると, から17行目末尾までを次のとお 」 り改める。
「したがって,本件発明1及び2の「天然セルロース質物質の加水分解によ って得られるセルロース粉末」の内容は明確であるから,被告の前記主張は 理由がない。」8 争点4-4(乙29公報を主引用例とする本件各発明の新規性又は進歩性の 欠如の有無)について 以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の9記載のと おりであるから,これを引用する。
? 原判決102頁15行目の「乙29発明は」から16行目の「発明であり,」 までを削る。
? 原判決104頁2行目の「(差分15-219)」を削り,同頁4行目から 19行目までを次のとおり改める。
75 「 しかしながら,乙29公報には,本件発明1及び2の「レベルオフ重合 度」 (「2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分解した後,粘度法(銅 エチレンジアミン法)により測定される重合度」 についての記載はなく, ) 乙29発明の結晶セルロース粉末の平均重合度をレベルオフ重合度との 関係において特定することについての記載も示唆もない。
そうすると,乙29発明は, 「平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2. 5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベ ルオフ重合度より5〜300高い」との点(差分要件)を備えるものと認 めることはできないから,上記相違点のうち,差分要件に係る相違点3は 実質的な相違点であるものと認められる。
したがって,その余の点について検討するまでもなく,本件発明1又は 2が乙29発明と同一の発明であるものと認めることはできないから,被 控訴人の上記主張は理由がない。」 ? 原判決104頁23行目から末行までを次のとおり改める。
「イ しかるところ,乙29公報には,前述のとおり,本件発明1及び2の 「レベルオフ重合度」「2.5N塩酸,沸騰温度,15分の条件で加水分 ( 解した後,粘度法(銅エチレンジアミン法)により測定される重合度」) についての記載はなく,乙29発明の結晶セルロース粉末の平均重合度 をレベルオフ重合度との関係において特定することについての記載も示 唆もない。
そうすると,乙29公報に接した当業者においては,乙29発明にお いて,相違点3に係る本件発明1及び2の構成を採用する動機付けがあ るものと認めることはできないし,また,上記構成を採用することが設 計的事項であるものと認めることもできない。
したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。」9 争点5(差止請求及び廃棄請求の可否)について 76 本件特許権は,本件出願日(平成13年6月28日)から20年を経過し た令和3年6月28日に,その存続期間の終了により消滅したから,控訴人 の本件特許権に基づく差止請求及び廃棄請求は理由がない。
10 争点6(控訴人の損害額)について ? 特許法102条3項に基づく実施料相当額損害額 ア 前記2(4)認定のとおり,被告製品1は,本件発明1及び2の技術的範囲 に属するから,被控訴人による被告製品1の製造及び販売は,本件発明1 及び2に係る本件特許権の侵害行為に該当する。
そして,被控訴人には,少なくとも過失があったものと認められるから (特許法103条),被控訴人は,控訴人に対し,上記侵害行為による損害 賠償責任を負う イ 平成27年12月から令和元年10月31日までの期間の被告製品1の 売上高が●●●●●●●●●円であること,同年11月1日から令和3年 6月28日までの期間の被告製品1の売上高が●●●●●●●●●円で あること(合計●●●●●●●●●円)は,争いがない。
ウ(ア) 本件報告書(株式会社帝国データバンク作成の「平成21年度特許 庁財産制度問題調査研究報告書 知的財産の価値評価を踏まえた特許等 の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロ イヤルティ料率に関する実態把握〜」)の表V-10には,「技術分野別 ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)」のアンケート結果(調査実施 期間2009年11月5日〜2010年2月15日)として,産業分野 を「化学」とする特許の「ロイヤルティ料率」について5.3%と記載さ れ,表V-12には,産業分野を「化学」とする特許の「司法決定によ るロイヤルティ料率」 (日本司法決定・1997年〜2008年)につい て平均値6.1%,最大値20%,最小値0.3%(件数5件)と記載さ れている。
77 (イ) 本件発明1の技術的意義は,医薬用途等において活性成分の錠剤化 に圧縮成形用賦形剤として使用されるセルロース粉末は,成形性,崩壊 性及び流動性のいずれもが高いレベルで満足するものが望ましいが,成 形性と崩壊性及び流動性とは相反する性質であるため,従来のセルロー ス粉末では,成形性,流動性,崩壊性の諸性質をバランス良く併せ持つ ものは知られていなかったという問題があったことから,本件発明1は, 成形性,流動性,崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉 末を提供することを課題とし,その課題を解決するための手段として, セルロース粉末の粉体物性である「平均重合度」, 「粒子の平均L/D(長 径短径比), 平均粒子径」 見掛け比容積」 見掛けタッピング比容積」 」「 , 「 「 , , 「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」を特定の数 値範囲に制御する構成を採用することにより,全体として成形性,流動 性,崩壊性の諸性質をバランスよく併せ持つという効果を奏するものと したことにある(前記6?)。
控訴人は,本件発明1の実施品として,食品添加物用途の結晶セルロ ース製品「セオラス ST-02」(甲5),医療薬品用添加剤の結晶セ ルロース製品「セオラスKG-802」 (甲59,乙66の1,2)を製 造及び販売している(甲60)。
また,控訴人は,平成26年度九州地方発明表彰(宮崎県発明協会) において,本件特許について「高成形性結晶セルロース」の発明として 文部科学大臣発明奨励賞を受賞した(甲54) 上記表彰の紹介記事には, 。
「本発明は,医薬品錠剤等の圧縮成形用賦形剤として,最高レベルの成 形性を有し,打錠機への均一充填に必要な優れた流動性を有し,かつ服 用後の速やかな薬効発現に必要な崩壊性にも優れるセルロース粉末であ る。」と記載されている。
控訴人は,本件特許を自己実施し,第三者にライセンスをしないライ 78 センスポリシーを採用している(甲4,弁論の全趣旨)。
(ウ)a 被控訴人作成の被告各製品に係る「微結晶セルロース NPミク ロース《錠剤賦型剤用途》」と題するパンフレット(甲3の1)には, 「NPミクロースは硬度・摩損度に優れ直打し難い素材の製造に適し ています。, 」「NPミクロース W-200M,400Mは,他社セル ロースより硬度・摩損度が優れており錠剤に強度を付与させることが 出来ます。」との記載がある。
被控訴人は,被告製品1を食品添加物用途の結晶セルロース製品と して販売している(乙3の2,弁論の全趣旨)。
b この点に関し被控訴人は,被告製品1は,成形性と崩壊性がバラン しておらず(乙62),本件発明1及び2の作用効果である「流動性・ 成形性・崩壊性のバランス」を備えるものではないし,また,実際の 取引においても,被告製品1は,成形性と崩壊性をバランスしていな いことを明らかにして販売している旨主張する。
しかしながら,被控訴人が挙げる乙62のパンフレットには,被告 製品1には「崩壊性(分)」欄に「43」との記載があるのに対し,他 社品AないしEの「崩壊性(分)」欄には「1」又は「2」との記載が あり,被告製品1の崩壊時間が他社品AないしEよりも長くなってい ることが示されているが,本件発明1の技術的意義は,セルロース粉 末の粉体物性 「平均重合度」 ( , 「粒子の平均L/D(長径短径比) , 」「平 均粒子径」 「見掛け比容積」 「見掛けタッピング比容積」 「安息角」 , , , 及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」 を特定の数値範囲に ) 制御する構成を採用することにより,全体として成形性,流動性,崩 壊性の諸性質をバランスよく併せ持つという効果を奏する点にあり, 成形性,流動性及び崩壊性を示す個別の指標のすべてにおいて従来の セルロース粉末よりも優れているものでなければ上記効果を奏しない 79 というものではない。
したがって,乙62のパンフレットにおいて被告製品1の崩壊時間 が他社品AないしEよりも長くなっていることが示されているからと いって,被告製品1が本件発明1及び2の作用効果を奏しないとはい えないから,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば,本件報告書には, 「技術分野別ロイヤルティ料率(国 内アンケート調査)」のアンケート結果による産業分野を「化学」とする 特許の「ロイヤルティ料率」は5.3%,産業分野を「化学」とする特許 の「司法決定によるロイヤルティ料率」は平均値6.1%,最大値20%, 最小値0.3%(件数5件)と記載されていること,被告製品1と控訴人 の結晶セルロース粉末製品(「セオラス ST-02」)は市場において 競合していること,本件発明1の技術的意義,控訴人が本件特許につい て「高成形性結晶セルロース」の発明として文部科学大臣発明奨励賞を 受賞していること,控訴人は,本件特許を自己実施し,第三者にライセ ンスをしないライセンスポリシーを採用していることなど本件に現れた 諸事情を総合考慮すると,控訴人の特許法102条3項に基づく実施料 相当額の損害額は,被告製品1の売上高に●%を乗じた額(消費税相当 分を含む。)と認めるのが相当である。
そうすると,被告製品1の販売に係る控訴人の特許法102条3項に 基づく実施料相当額損害額は,●●●●●●●●円(●●●●●●● ●●●●●●●●)となる(このうち,平成7年12月から令和元年1 0月31日までの分は●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●● ●●●)となる。 。
)? 弁護士費用 本件事案の性質・内容,本件の認容額,原審及び当審の審理経過等諸般の 事情を斟酌すると,被控訴人の本件特許権侵害不法行為相当因果関係の 80 ある弁護士費用相当額は,●●●円と認めるのが相当である。
なお,上記弁護士費用相当額の損害額は,その実質が資産の譲渡等の対価 に該当するものと認められないから,消費税相当分は含まない。
? 小括 以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権侵害不法行為に 基づく損害賠償として363万3614円並びにうち 209 万5644円に 対する令和元年10月31日(不法行為の日又は後)から支払済みまで改正 前民法所定の年5分の割合による遅延損害金及びうち153万7970円に 対する令和3年6月28日(不法行為の日又は後)から支払済みまで民法所 定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
結論
以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人に対し,363万3614円並び にうち209万5644円に対する令和元年10月31日から支払済みまで年 5分の割合による金員及びうち153万7970円に対する令和3年6月28 日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を求める限度で理由があ り,その余はいずれも理由がないから棄却すべきものである。
したがって,原判決は一部不当であって,本件控訴は一部理由があるから, 原判決を本判決主文第1項のとおり変更することとして,主文のとおり判決す る。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 小林康彦