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事件 令和 2年 (ネ) 10068号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件

控訴人(一審原告) 有限会社宝石のエンジェ ル (以下「控訴人会社」という。)
控訴人(一審原告) X (以下「控訴人X」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 山谷彰宏 山谷奈津子 東京都豊島区駒込1−24−6 ナエシロビル202
被控訴人(一審被告) Y (以下「被控訴人Y」という。)
同補佐人弁理士 磯野富彦 鉾田慶亮 東京都台東区上野5丁目22番6号
被控訴人(一審被告) 石福ジュエリーパーツ株式会社 (以下「被控訴人石福ジュエ リー」という。)
同訴訟代理人弁護士 横家豪 1主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 以下,用語の略称及び略称の意味は,原判決に従い,原判決引用部分の「別紙」 を「原判決別紙」に改める。 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人Yは,原判決別紙1物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販 売の申出をしてはならない。 3 被控訴人Yは,原判決別紙1物件目録記載の製品及び半製品を廃棄せよ。 4 被控訴人Yは,原判決別紙1物件目録記載の製品の製造に供する製造設備 を廃棄せよ。 5 被控訴人Yは,控訴人会社に対し,1億2719万0400円及びこれに 対する令和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被控訴人Yは,控訴人Xに対し,1589万8800円及びこれに対する令 和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 被控訴人石福ジュエリーは,控訴人会社に対し,765万円及びこれに対 する令和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「装飾品鎖状端部の留め具」とする特許権(特許第4 044598号。本件特許権)を有する控訴人会社及び控訴人会社からその専用実 施権の設定を受けた控訴人Xが,被控訴人Yが製造,販売し,被控訴人石福ジュエ リーが販売する原判決別紙1物件目録記載の商品名の製品(被告製品)が,本件特 許権に係る特許発明の技術的範囲に属するなどと主張して,(1)被控訴人Yに対し ては,特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造,販売及び販売の申出 2の差止め並びに被告製品,半製品及び製造設備の廃棄を求めるとともに,本件特許 権又は上記専用実施権の侵害に係る不法行為に基づく損害賠償として,控訴人会社 につき平成28年11月8日から令和元年7月7日までの間の損害額1億2719 万0400円,控訴人Xにつき同月8日から同年11月7日までの間の損害額15 89万8800円及びこれらに対する不法行為の後の日である令和元年12月14 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44条による 改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,(2)被控訴 人石福ジュエリーに対して,不当利得返還請求として,控訴人会社につき平成23 年2月からの33か月と平成28年10月の1か月の合計34か月間の本件特許権 の侵害行為に係る不当利得額765万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日で ある令和元年12月14日から支払済みまで民法(平成29年法律第44条による 改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は,控訴人らの訴えのうち,控訴人らの被控訴人Yに対する各損害賠償請 求及び控訴人会社の被控訴人石福ジュエリーに対する不当利得返還請求に係る訴え を却下し,控訴人らのその余の請求を棄却したところ,控訴人らが本件控訴を提起 した。 2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,(1)のとおり補正し, (2)のとおり当審における主張を追加するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第 2 事案の概要」の2及び3並びに「第3争点に関する当事者の主張」の1〜3 に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決の補正 ア 原判決3頁20行目の「原告の取締役」を「控訴人会社の取締役」に, 「原告代表者」を「控訴人会社代表者」に,それぞれ改める。 イ 原判決8頁3行目の「以下「前訴」という」を「以下,同事件を第一審 とする訴訟を「前訴」といい,そのうち第一審を「前訴第一審」といい,控訴審を 「前訴控訴審」という」に改める。 3ウ 原判決8頁12行目の「前訴」の次に「第一審」を加える。 エ 原判決8頁12行目の「構成要件1B」を「構成要件1B(別紙5 「訂正の推移」の「請求項1」の「構成要件」欄の1Bの「特許公報」欄)」に, 17行目の「構成要件1B」を「構成要件1C(別紙5「訂正の推移」の「請 求項1」の「構成要件」欄の1Cの「特許公報」欄)」に,それぞれ改める。 オ 原判決8頁22行目の「東京地方裁判所は」を「前訴第一審において, 東京地方裁判所は」に改め,23行目の「前訴につき,」を削る。 カ 原判決8頁26行目の「といえず,」の次に「A」を加える。 キ 原判決9頁7行目の「乙A2」を「甲5,乙A2」に改める。 ク 原判決10頁23行目の「これにより,」の次に「前訴第一審判決及び」 を加える。 ケ 原判決11頁13行目の「甲9」の次に「,乙A2」を加え,17行 目の「を」を削る。 コ 原判決26頁21行目の「閉口」を「開口」に改める。 (2) 当審における主張 (控訴人ら) ア 損害賠償請求について (ア) 請求項1(登録時)に係る本件発明1(第一次訂正前の本件発明1) の技術的範囲には,ホルダーの閉口状態の止め部(凸部の突起部分)が両方ともホ ルダー受けのネック部(凹部)に接触することはない構成(ホルダーとホルダー受 けの間に隙間がある構成。以下,同構成を「本件構成」という。)も含まれていた ところ,第一次訂正によって,請求項1(登録時)から請求項2が分離され,本件 訂正発明1−1は,本件構成を含まない構成に減縮されたが,第一次訂正によって 独立項となった請求項2に係る本件発明2には,本件構成が含まれており,第四次 訂正後の請求項2後段に係る発明である本件訂正発明2にも,本件構成は含まれて いる。 4したがって,第一次訂正前の本件発明1に本件訂正発明2が含まれることは原 判決の判示のとおりであるが,前訴控訴審において審理された第一次訂正後の請求 項1に係る発明である本件訂正発明1−1には,本件訂正発明2は含まれておらず, 本件訴えの損害賠償請求に係る部分が訴訟上の信義側に反するということはない。 (イ) 前記(ア)のとおり,本件訂正発明1−1は本件構成を含まないが,本 件訂正発明2は本件構成を含み,本件訂正発明1−1には,本件訂正発明2は含ま れないが,その理由について敷衍する。 a 第一次訂正によって,請求項1の「1対の顎部材を開口/閉口可 能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップ」の前に「ホルダー受け嵌入用の開口部を 構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した」という文言が追加されたが,これ により,請求項1における「1対の顎部材」は,「ホルダー受け嵌入用の開口部を 構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した」ものに限定され,止め部が顎部材 の両先端部にあるものに限定された(止め部が顎部材の片方にあるものが除外され た。。 ) そして,このように,請求項1(第一次訂正後)において,止め部が顎部材の 片方にあるものが除外されると,鰐口クリップの内部における吸着部材も,1対の 顎部材間の開口部の中心線上に常に位置することが求められる。なぜなら,止め部 が開口部の中心線を中心に上下等しく開口されることとなるため,吸着部材も1対 の顎部材間の開口部の中心線上になければ,磁力によるガイド作用を有効に果たす ことができないからである。すなわち,鰐口クリップの内部における吸着部材が1 対の顎部材間の開口部の中心線上になければ,ホルダー受けがホルダーに侵入する 際に磁力により止め部に当たり挿入できないこともあるし,抜くこともできなく なってしまう。 これに対し,請求項2前段は,吸着部材が顎部材のいずれか一方に固定される から,吸着部材は顎部材と共に移動し,吸着部材の位置は顎部材間の開口部の中心 線上に一定しない。また,請求項2後段では,鰐口クリップの内部における吸着部 5材は支持部材を使って設けるため,完全開口したときには内部の吸着部材の位置は 1対の顎部材間の開口部の中心線上に位置するが,それ以外では1対の顎部材間の 上又は下に寄ることになり,鰐口クリップの内部における吸着部材の位置は1対の 顎部材間の開口部の中心線上に一定しない。 したがって,第一次訂正により,請求項1は鰐口クリップの内部における吸着 部材の位置が常に1対の顎部材間の開口部の中心線上にあるものに限定され,必然 的に,鰐口クリップの内部の吸着部材の位置が1対の顎部材間の開口部の中心線上 に一定しない請求項2後段が訂正後の請求項1に含まれないこととなった。 b 請求項2は,第二次訂正により,「嵌入するホルダー受けのネック 部の大きさは,鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間以下 の大きさ」であるとの限定が付加され,これにより,鰐口クリップの一対の閉口状 態の顎部材の止め部と止め部の間より大きなネック部を有するホルダー受けが除外 された。そして,嵌入するホルダー受けのネック部の大きさが鰐口クリップの一対 の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間よりも小さければ,ホルダーの噛み合い 状態の止め部(凸部の突起部分)が両方ともホルダー受けのネック部(凹部)に接 触することはない。 このように,本件訂正発明2では,本件構成が含まれ,「噛合せて」の意味も, 本件訂正発明1−1の「噛合せて」と異なることになる。 イ 差止請求について 前記アのとおり,本件訂正発明1−1(前訴控訴審時の審判対象であった第一 次訂正後の請求項1)の技術的範囲には,本件訂正発明2(第一次訂正により独立 項とされ,第二次訂正及び第四次訂正による訂正を経た後の請求項2後段)は含ま れないのであり,前訴と本訴では審理対象が異なる。 したがって,本訴の差止等請求に係る部分は,前訴確定判決の既判力によって 遮断されない。 ウ 控訴人Xについて 6
控訴人Xは,宝飾品の販売を考えており,その一環として宝飾品の留め具に関す る本件特許権について,控訴人会社から専用実施権の設定を受けたものである。控 訴人会社としても,後継者を育てるために控訴人Xに専用実施権を設定し,商品の 販売を経験させた。 実際,控訴人Xは,令和2年1月20日から同月23日まで東京ビッグサイト で開催された国際宝飾展に控訴人会社と一緒に出店している。 (被控訴人Y) ア 本訴は前訴の蒸し返しであること (ア) 前訴控訴審時において請求項2は請求項1とは別の独立請求項となっ ているが,その後,当該請求項2について度重なる訂正がされた結果,本件訂正発 明2は,本件訂正発明1−1の発明特定事項の全てを含み,その内容をさらに限定 するものとなっている。すなわち,訂正を繰り返しても,当該発明の内容が限定, 減縮されるだけであり,特許請求の範囲の「噛み合う」等の文言が訂正によって別 の意味に解釈されることはあり得ない。そして,被告製品が本件訂正発明1−1の 技術的範囲に属しないことは前訴確定判決で判示されたとおりであるから,被告製 品が本件訂正発明2の技術的範囲にも属しないことは明らかである。 したがって,被告製品が本件訂正発明2の技術的範囲に属するか否かの判断を 求める控訴人らの本訴の請求が,前訴の確定判決と同一の争点について再度判断を 求めるものであることは明白であり,控訴人らが前訴の確定判決及び前訴再審棄却 決定の存在を知りながら提起した本訴は,前訴の紛争を蒸し返すものにほかならな い。 (イ) 控訴人らは,第一次訂正において請求項1の「1対の顎部材を開口/ 閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップ」の前に「ホルダー受け嵌入用の開 口部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した」という文言を追加したこと で,請求項1の「1対の顎部材」について,止め部が顎部材の両先端部にあるもの に限定されたとし,この点において本件訂正発明2とは異なると主張する。 7しかし,本件訂正発明2も,本件訂正発明1−1と同様に,「1対の顎部材を開 口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップ」の前に「ホルダー受け嵌入用 の開口部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した」との文言が存在するか ら,本件訂正発明1−1と本件訂正発明2とにおいて,控訴人らが主張するような 差異はない。 (ウ) 控訴人らは,本件訂正発明1−1では,常に止め部が顎部材の両先 端部にあるから,鰐口クリップの内部における吸着部材も,1対の顎部材間の開口 部の中心線上に常に位置するのに対し,本件訂正発明2では,必ずしも,鰐口クリ ップの内部における吸着部材の位置は1対の顎部材間の開口部の中心線上に一定し ないから,本件訂正発明2は本件訂正発明1−1に含まれないと主張する。 しかし,本件訂正発明1−1及び本件訂正発明2では,「1対の顎部材」の構成 についてそれぞれが別異の意味で解釈されるような限定文言は付されていない。し かも,控訴人らが主張する,吸着部材が1対の顎部材間の開口部の中心線上に常に 位置するとの構成については,本件訂正発明1−1の文言からこれを一義的に導く ことができないし,同様に,所定条件下で吸着部材の位置が1対の顎部材間の開口 部の中心線上に一定しないとの構成についても,それを本件訂正発明2の文言から 一義的に導くことができない。 したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。 (エ) 控訴人らは,本件訂正発明2のように「ホルダー受けのネック部の 径がホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間よりも短い」場合には,ホルダーの 閉口状態の両方の止め部がいずれもホルダー受けのネック部に接触していることは あり得ないと主張する。 しかし,本件訂正発明2の「ネック部の径の大きさは,閉口状態の顎部材の止 め部と止め部の間以下の大きさ」との文言は訂正により付加されたものであるが, このような内容の訂正自体が訂正要件に反する。 8また,ネック部は凹部の底面(つまり凹部の一部)を構成するにすぎない(凹 部の側面はネック部ではない。。 ) イ 控訴人Xについて
控訴人Xに本訴の損害賠償請求につき固有の利益はないとの原判決の判断は正 当である。 (被控訴人石福ジュエリー) ア 控訴人らの主張は,前訴における紛争の蒸し返しであること (ア) 控訴人らは,第一次訂正によって,請求項1に「ホルダー受け嵌入用 の開口部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した」という文言が追加され, これにより,請求項1は,止め部が顎部材の両先端部にあるものに限定されたこと から,本件訂正発明1−1に本件訂正発明2は含まれないと主張する。 しかし,控訴人らの上記主張を前提とすれば,本件訂正発明2の構成要件にも,
上記の文言がある以上,本件訂正発明2も,止め部が顎部材の両先端部にあるもの に限定される。 したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。 (イ) この点,控訴人らは,第一次訂正により,本件訂正発明1−1におけ る「噛み合う」の意味内容のみが,「止め部が顎部材の両先端部にあるもの」すな わち「凸部とそれに対応する凹部が接触した組合せからなる係止めの状態」に限定 されたのであって,本件訂正発明1−1の「噛み合う」と本件訂正発明2の「噛み 合う」の意味内容は異なると主張する。 しかし,控訴人らの上記主張は,第一次訂正前の本件発明1に,本件構成が含ま れていたことを前提とするところ,前訴控訴審判決は,第一次訂正の前後を問わず, 本件発明1の「噛み合う」という用語につき,「凸部とそれに対応する凹部が接触 した組合せからなる係止めの状態」を示す旨判示したのであるから,本件訂正発明 2の「噛み合う」という用語も,「凸部とそれに対応する凹部が接触した組合せか らなる係止めの状態」を意味するのであり,本件構成を含まない。 9(ウ) このように,控訴人らは,「噛み合う」という用語の意味内容につい て,前訴の確定判決が示した判断と異なる解釈を展開することにより,本件訂正発 明2は本件訂正発明1−1に含まれないと主張しているのであるから,控訴人らの 主張は,「噛み合う」という用語の意味内容についての主張となる。 したがって,控訴人らの本訴の提起が,前訴における紛争を蒸し返していること は明らかである。 イ 控訴人Xについて
控訴人Xは,前訴と同様の争点について,改めて判断を求めるために,控訴人会 社のために本訴の共同原告となったのであるから,控訴人Xの損害賠償請求につい て固有の利益は存在しない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,本件各訴えのうち損害賠償請求及び不当利得返還請求に係る訴 え部分を却下し,その余の請求はいずれも棄却すべきであると判断する。 その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」1,2に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) (1) 原判決32頁23行目の末尾の次に「また,廃棄を求める対象が異なる が,この点も訴訟物の同一性に影響を及ぼさない。」を加え,24行目の「損害賠 償請求」を「損害賠償等請求」に改める。 (2) 原判決34頁12行目の「おいては,」の次に「第一次訂正前の本件発明 1及び」を加え,13行目の「前訴控訴審」の次に「判決」を加え,21行目の 「まで」を削る。 (3) 原判決35頁8行目の「申立てを経て,」の次に「前訴第一審判決及び」 を加え,9行目の「8月25日」を「7月12日」に改め,17行目の「原告」を 「控訴人会社」に改める。 (4) 原判決36頁1行目の「審理すること」から2行目の「ではなく」までを, 10 「審理することは,被控訴人らに多大な負担を強いるものであり」に,4行目の 「損害賠償請求」を「損害賠償等請求」に,それぞれ改める。 (5) 原判決36頁10行目の「原告の取締役」を「控訴人会社の取締役」に, 10行目から11行目にかけての「原告代表者」を「控訴人会社代表者」に,11 行目の「設定を受けた」を「設定契約を締結した」に,それぞれ改める。 (6) 原判決36頁18行目の「原告Xは,」の次に「前訴第一審判決及び前訴 控訴審判決の存在と内容を認識しながら,本件専用実施権の設定を受け,」を加え る。 (7) 原判決41頁10行目の「被告」を「被控訴人Y」に,19行目の「前記 (2)の」を「前記(2)と」に,それぞれ改め,21行目及び24行目の各「損害賠償 請求」をいずれも「損害賠償等請求」に改める。 2 当審における控訴人らの主張について (1) 控訴人らは,前訴控訴審において審理された本件訂正発明1−1には,本 件構成は含まれていないのに対し,本件訂正発明2には本件構成が含まれているか ら,本件訂正発明1−1の技術的範囲には本件訂正発明2は含まれておらず,した がって,本件訴訟において,本件訂正発明2に係る特許権に基づき,損害賠償等の 請求をすることは訴訟上の信義側に反するものではないと主張する。 しかし,前記第2の2で引用した原判決の第2の2(4)のとおり,本件特許の登 録時の請求項2は,請求項1の従属項であったが,第一次訂正によって,独立項と なり,第二次訂正及び第四次訂正を経て,現在の内容となったところ,特許法にお ける特許請求の範囲等の訂正は,「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する ものであってはならない」と規定し(同法126条6項),訂正前の特許発明の技 術的範囲に属しない被疑侵害品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属しないことを 保障しているのであるから,第四次訂正後の請求項2後段に係る発明である本件訂 正発明2は,第一次訂正前の本件発明1の技術的範囲を限定したものであると認め られる。 11 そして,前記第2の2で引用した原判決の第2の2(4)のとおり,控訴人会社は, 前訴第一審において,第一次訂正前の本件発明1に係る特許権侵害の不法行為に基 づく損害賠償請求をし,前訴控訴審において,第一次訂正後の本件発明1である本 件訂正発明1−1に係る特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求をし,前訴に おいては,控訴人会社の上記請求等について審理され,被告製品の構成は,第一次 訂正前の本件発明1及び本件訂正発明1−1のいずれの技術的範囲にも属さないと して,控訴人会社の上記請求等を棄却する前訴第一審判決及び前訴控訴審判決がさ れ,これらの判決は確定したのであるから,本件訴訟において,被告製品が第一次 訂正前の本件発明1の技術的範囲を限定した本件訂正発明2の技術的範囲に属する として,本件訂正発明2に係る特許権侵害の不法行為及び不当利得返還請求権に基 づく請求をすることは,前訴の蒸し返しとなることは明らかである。 したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。 (2) 控訴人らは,第一次訂正によって,請求項1の「1対の顎部材を開口/閉 口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップ」の前に「ホルダー受け嵌入用の開口 部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した」という文言が追加され,第二 次訂正により,「嵌入するホルダー受けのネック部の大きさは,鰐口クリップの一 対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間以下の大きさ」であるとの限定が付加 されたことを主張する。 しかし,第一次訂正及び第二次訂正が上記のようなものであるとしても,本件訂 正発明2が第一次訂正前の本件発明1の技術的範囲を限定したものであることに変 わりはないから,前記(1)のとおり,本件訂正発明2に係る特許権侵害の不法行為 及び不当利得返還請求権に基づく請求をすることは,前訴の蒸し返しとなる。 (3) 控訴人らは,本件訂正発明2と本件訂正発明1−1とは,吸着部材が中心 線上に一定するか否かという点で区別されると主張する。 しかし,本件訴訟において,被告製品が第一次訂正前の本件発明1の技術的範囲 を限定した本件訂正発明2の技術的範囲に属するとして,本件訂正発明2に係る特 12 許権侵害の不法行為及び不当利得返還請求権に基づく請求をすることは,前訴の蒸 し返しとなることは前記(1)のとおりであって,本件訂正発明2と本件訂正発明1 −1とは,吸着部材が中心線上に一定するか否かという点で区別されるかどうかに よって左右されることはない。 (4) 控訴人Xは,宝飾品の販売を考えており,令和2年1月20日から同月 23日まで東京ビッグサイトで開催された国際宝飾展に控訴人会社と一緒に出店し ていると主張する。 しかし,仮に,同事実が認められるとしても,前記第2の2で引用した原判決の 第2の2(1),(4)のとおり,控訴人Xは,本件特許の特許権者である控訴人会社の 取締役の長女であり,控訴人会社代表者の姪であるが,前訴が確定した後に,控訴 人会社から本件特許に係る請求項2について専用実施権の設定を受けたこと,本件 専用実施権の対象が,本訴請求の対象である本件発明2に係る請求項2のみであり, しかもその設定期間は2年間に限定されていることを考慮すると,控訴人Xは,前 訴第一審判決及び前訴控訴審判決の存在とその内容を認識していながら,本件専用 実施権の設定を受けたものと推認できるのであって,控訴人Xが,本件専用実施権 侵害の不法行為に基づき被控訴人Yに対して損害賠償請求をすることは,訴訟上の 信義則に反するというべきである。 したがって,控訴人Xの上記主張は理由がない。 (5) 控訴人らは,本件訂正発明1−1の技術的範囲には,本件訂正発明2は含 まれないから,本訴の差止等請求に係る部分は,前訴確定判決の既判力によって遮 断されないと主張する。 しかし,本訴の差止請求に係る部分が前訴の差止請求に係る部分と訴訟物を同一 にすることは,前記1で引用した原判決の第4の1(1)イのとおりであって,控訴 人らの上記主張は理由がない。 第4 結論 よって,原判決は正当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却するこ 13 ととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 森義之 裁判官 佐野信 裁判官 中島朋宏 14
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/04/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容