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関連審決 無効2018-800154
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事件 令和 2年 (行ケ) 10058号 審決取消請求事件

原告株式会社プラッツ
同訴訟代理人弁護士 藤原宏 武田昇平 植松大雄 吉原祐介 黒川直毅
被告 パラマウントベッド株式会社
同訴訟代理人弁護士 古城春実 服部謙太朗
同訴訟代理人弁理士 堀口浩 石川隆史
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/02/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2018−800154号事件について令和2年3月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
本件は,特許無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,新規性及び進歩性の判断並びにサポート要件違反の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「ベッド等におけるフレーム構造」とする発明に係る特許権(特許第3024698号。請求項の数は3。以下, 「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である(甲18)。
本件特許は,平成9年6月24日に出願され,平成12年1月21日に設定登録された(甲18)。
原告は,平成30年12月28日,本件特許の請求項1及び2に記載された発明に係る特許について,無効審判請求をしたところ,特許庁は,これを無効2018-800154号事件として審理し,令和2年3月30日, 「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月3日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載(甲18) 特許請求の範囲請求項1,2の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を,それぞれの請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい,本件発明1,2を併せて「本件発明」という。また,明細書及び図面を「本件明細書」という。。
) 【請求項1】 ベッド等において,床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造。
【請求項2】 ベッド等において,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構 成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造。
3 本件審決の理由の要旨 (1) ハンセン・マッケ株式会社(以下「マッケ社」という。)が販売した手術台「マッケ1120.21B」(以下「製品1」という。)に基づく新規性,進歩性欠如の主張について なお,甲1(「マッケ手術台システム1120」のカタログ),甲2(「マッケ手術台システム1120」のカタログ),甲4(「OPERATING TABLE 1120」の使用説明書),甲5(「手術台用アクセサリー」のカタログ)は,マッケ社が発行したものであるが,その発行日は,いずれも本件特許の出願日より前である。
また,甲12(公開実用昭54-27590号のマイクロフィルム) 甲28 「1 , (003.20-A」の図面),甲31(「1120.21A,-B,-C,-D」の図面),甲34(特開平7-100036号公報)及び甲35(特開平7-124201号公報)の発行日も,いずれも本件特許の出願日より前である。
ア 製品1に係る発明(以下「製品1発明」という。) (ア) 製品1についての証拠(甲1〜5,19〜28,31,36〜38)によると,製品1発明は,以下のものと認められる。
「a1 万能手術台テーブルトップであって, a2 背板上部,背板下部(背板上部と背板下部を併せて,以下「背板」ということがある。,2枚の座板(座板上部と座板下部を併せて,以下「座板」というこ )とがある。,右側上部足板,左側上部足板,右側下部足板,左側下部足板(以下, )右側の上部足板と右側の下部足板を併せて「右側足板」ということがあり,左側の上部足板と左側の下部足板を併せて「左側足板」ということがあり,右側足板と左側足板を併せて「足板」ということがある。)を備え, 1002.86B,及び,「1003.20-A ソケット」(以下「延長用補助部材」ということがある。)と類似した部品を取り付けでき, b1 背板上部の下方には,テーブルトップ長手方向に開口する筒状部材が設けられ, b2 頭板1002.86B下部の下方には,棒状部材が設けられ, b3 背板上部の筒状部材に,頭板1002.86Bの棒状部材を挿入し,一体化でき, c1 座板上部の上端部及び座板下部の下端部の下方両側部に位置する部材には,棒状部材を挿入できる二つの孔とピンが設けられ, c2 背板上部の下端には背板下部を支持でき, c3 座板上部の上端部の下方両側部に設けられた二つの孔に,背板下部の下方両側部の二つの棒状部材を挿入し,固定金具が掛かり,背板を少し上げてから座板上部に設けた螺子をしめつけ,座板上部に背板下部を着脱可能に支持でき, c4 右側上部足板の下端部に右側下部足板を,左側上部足板の下端部に左側下部足板をそれぞれ支持でき, c5 座板下部の下端部に右側上部足板,左側上部足板を,それぞれ着脱可能に支持でき, c6 座板上部に,右側上部足板,左側上部足板を,それぞれ着脱可能に支持でき, c7 座板下部に,背板を着脱可能に支持でき, d1 背板の端部の下方両側部に位置する部材には,窪みを設けた二つの棒状部材,レバー及び係止部が設けられ, d2 座板下部に360mmの背板(短)1005.59(以下「背板(短)」ということがある。)を着脱可能に支持でき, e1 ソケット1003.20Aに類似した部品は,部品の一端部に,二つの棒状部材,レバー及び係止部を設けたものであり, e2 右側上部足板上端部を,ソケット1003.20Aに類似した部品に係止し,ソケット1003.20Aに類似した部品を座板下部に支持することにより, 右側下部足板の下端位置を下方に移動できる, e3 左側上部足板上端部を,ソケット1003.20Aに類似した部品に係止し,ソケット1003.20Aに類似した部品を座板下部に支持することにより,左側下部足板の下端位置を下方に移動できる, f 万能手術台テーブルトップ。」 (イ) 原告の主張について a「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」について (a) 製品1の「ソケット1003.20Aに類似した部品」は,それを付加することによって,手術台の全長が変化するものであるが,当該全長の変化は,ソケット1003.20Aに類似した部品を付加することによりされるものであって,交換することによりされるものではないから, 「ソケット1003.20Aに類似した部品」は「異なった長さの交換装着用フレーム」といえない。
(b) 甲4の8頁の最も下の図には, 「身長の非常に長い患者のときは1002.73の頭板を足の先につけて長くする」と記載され,発行日不明の甲14の25頁の「1002.73A0」の写真には「1002.73A0平型ヘッドレスト」「サイズ:290×230mm」と記載されているが,頭板1002.73 ,は,甲5の3頁,4頁の各適合表の「1120.21」の欄に●が付されていないので,製品1に対して適用できるものと推認することはできない。
また,頭板1002.73は, 「身長の非常に長い患者のとき」は「足の先につけて長くする」ものであって,置き換えを意図したものではない。
b 「使用者の体格に対応させるべく」について (a) 上記a(b)の1002.86の頭板(250mm),1002.81-B の頭板(250mm)及び1002.81-D の頭板(260mm)は,いずれも製品1に対して適用できるものと推認できるが,250mm,260mm,270mmのものを置き換えても長さがわずかしか違わず,これらの頭板の取付け方 の違いにより頭板の位置が変わることからすると,頭板の置き換えは,手術に必要とされる頭板を適宜使用するものである。また,これらを1002.73の頭板と置き換えても,置換前後の長さはわずかしか違わず,その置換えが「使用者の体格に対応させるべく」されるものとはいえない。
証拠(甲1〜5,19〜28,31,36〜38)には,頭板が「使用者の体格に対応させるべく」置き換えられるとの記載はない。
したがって,甲5の3頁の適合表の「1120.21」の欄に●が付されている,寸法の異なる複数の頭板が存在するということを根拠に,製品1が「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレーム」に置き換え可能に構成した構成を備えるということはできない。
(b) 製品1発明では,「座板上部に背板下部を着脱可能に支持でき」,「座板上部に,右側上部足板,左側上部足板を,それぞれ着脱可能に支持でき」, 「座板下部の下端部に右側上部足板,左側上部足板を,それぞれ着脱可能に支持でき」,「座板下部に,背板を着脱可能に支持でき」 「座板下部に,背板(短)を着脱可能 ,に支持でき」るが,これは,PositionTとPositionUとを交換するものであり,PositionTとPositionUとで手術台の全長が変わるようなものではない。
したがって,患者の上下を逆転させて手術台に乗せるために,座板を中心にして,背板と,足板とを入れ替えても,手術台の全長が変化するものでなく,製品1が,「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレーム」に置き換え可能に構成した構成を備えるとはいえない。
(c) 甲1の7頁の最も上に掲載されている写真,甲1の10頁の「1120.21-B 万能手術台テーブルトップ」との記載と共に掲載されている写真及び甲2の12頁の「カタログ番号1120,21-B ユニバーサルテーブルトップ」との記載と共に掲載されている写真の「背板上部」及び「背板下部」の部分の品番は,甲1,2,4,5,28,31には記載されておらず,また,甲3,1 9〜27,36〜38の画像から看取できるものでもないから,製品1の背板(短)と,同じものか否か確認できるものでない。
また,背板(短)は,甲4の8頁の最も下の図,甲5の20頁の最も下の写真並びに甲5の26頁の下から2番目の写真及び最も下の写真において,頭板等と一緒に取り付けられているから,背板を,背板(短)に交換しても,手術台の全長が変化するものか否か不明である。
さらに,足板を,背板(短)に交換することも,背板(短)を付けた状態での手術台の全長が不明であり,また, 「身長に合わせて」との記載も示唆もないから, 「身長に合わせて・・・交換できる」とすることはできない。
したがって,製品1が, 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレーム」に置き換え可能に構成した構成を備えるとはいえない。
(d) 「ソケット1003.20Aに類似した部品」の付加が,身長に合わせてされることは,甲1,2,4,5,28,31のどこにも記載されておらず,また,甲3,19〜27,36〜38の画像から看取できるものでもないから, 「身長に合わせて・・・延長できる」とすることはできない。
イ 本件発明1の新規性,進歩性の有無 (ア) 本件発明1と製品1発明の対比 a 一致点1A 「ベッド等において,横たわる人を乗せる板の支持部材を,支持部材の一部を異なった支持部材に置き換え可能に構成したベッド等における支持部材の構造」である点。
b 相違点1A 本件発明1は,横たわる人を乗せる板が「床板」であり,支持部材が「フレーム」であり, 「床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成したベッド等におけ るフレーム構造」であるのに対し,製品1発明は, 「座板上部に背板下部を着脱可能に支持でき」「座板上部に,右側上部足板,左側上部足板を,それぞれ着脱可能に ,支持でき」「座板下部の下端部に右側上部足板,左側上部足板を,それぞれ着脱可 ,能に支持でき」「座板下部に,背板を着脱可能に支持でき」「座板下部に360m , ,mの背板(短)1005.59を着脱可能に支持でき」る「万能手術台テーブルトップの構造」である点。
(イ) 相違点1Aの判断(新規性について) a 「床板を支えるフレーム」について (a) 製品1の「レール」について,「32 アクセサリー取付レール」(甲4の2頁)「1002.86頭板(ヘッドレスト) , 」の説明において「万能テーブルトップ1120.21-B 用・・・カセットレール付・・・」 (甲5の18頁),「1005.59背板(短)」の説明において「万能テーブルトップ1120.21用・・・パッド,両側サイドレール」 (甲5の20頁)等の記載が存在するが,原告が「床板部材」, 「フレーム」と主張する部材の具体的構成を特定するものではない。
また,原告は,製品1発明の構成を特定しておらず, 「レール」が頭板や背板等のどの部分にどのように存在するか認定できず,そのような「レール」を「フレームに相当する」ものと認定することはできない。
(b) 本件発明1の「床板を支えるフレーム」は,本件特許に係る請求項1の記載において, 「床板を支えるフレーム」とあるように,床板とは別の部材であるから,背板,座板,足板,頭板が自身を支える何らかの構成を有しているということはできても,背板,座板,足板,頭板自体を,それらを「支えるフレーム」ということはできない。
b 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」について 前記ア(イ)bのとおり,製品1発明の構成b3,c3,c5〜c7,d2,e2,e3のいずれも,本件発明1の「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部 を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」ことに相当するものではない。
c したがって,本件発明1と製品1発明とは,相違点1Aにおいて実質的に相違するから,本件発明1は製品1発明であるとはいえない。
(ウ) 相違点1Aの判断(進歩性について) a 甲17(弁理士の意見書)に記載されている資料A〜C,G,Kは伸縮式であり,資料D〜Fは折り畳み式であり,フレームを交換するものではないから, 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」ものではない。
また,甲17に記載されている資料@,I,Jは,フレームを交換するものではないから,「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」ものではない。
この点,甲17に記載されている資料Aには, 「現在使用しているベッドのサイドフレームを交換することによりロングサイズになる。 との記載があるが, 」 この記載は,資料Aである特開昭63-209612号公報の特許請求の範囲に記載された「標準サイズのベッドがサイドフレーム(6)を引き伸ばすことにより,ロングサイズにな・・・る機構」の効果として, 「この発明は以上説明したように従来のサイドフレームを一部簡単に改造することにより・・・」との記載と共に記載されたものであるので, 「フレームの交換により」との記載は,従来のサイドフレームを一部改造して,引き伸ばせるものとする趣旨のものと解すべきであって,当該記載を根拠として, 「フレームの交換により身体の発育,成長と共にベッドの長さを変更する技術思想を示唆している。」とするのは適当でない。
したがって,甲17を参照しても, 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することが従来から周知であるとはいえない。
また,甲17は,体格に応じてフレーム等の長さを変更するという課題が,本件 特許の出願当時,極めて一般的な課題であることを証明するものでもない。
仮に,体格に応じてフレーム等の長さを変更するという課題が,本件特許の出願日当時,極めて一般的な課題であるとしても, 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することが従来から周知であるとはいえないから,製品1発明を相違点1Aに係る「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することが容易想到であるとはいえない。
b 甲4の8頁の最も下の図について,「身長の非常に長い患者の時は1002.73の頭板を足の先につけて長くする」との説明が付されているが,同説明も,「頭板を足の先につけて」長くするものであって,「使用者の体格に対応させるべく・・・異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」したものといえるものではない。
c ベッド等において「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することは,甲1,2,4,5,8,12,28,31,34,35を参照しても,従来から周知でもないし,当業者にとって適宜選択可能な設計事項といえるものでもない。
d 以上より,製品1発明の相違点1Aに係る構成を,甲1,2,4,5,8,12,28,31,34,35及び従来から周知の事項に基づいて,相違点1Aに係る本件発明1の構成とすることを容易に想到することができるとはいえない。
ウ 本件発明2の新規性,進歩性の有無 (ア) 本件発明2と製品1発明の対比 a 一致点2A 「ベッド等において,横たわる人を乗せる板の支持部材のうち,足側の横たわる人を乗せる板に対応する支持部材を,異なったものに,交換装着可能に構成したベッド等における支持部材の構造」である点。
b 相違点2A 本件発明2は,横たわる人を乗せる板が「床板」であり,支持部材が「フレーム」であり, 「床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」 「ベッド等におけるフレーム構造」であるのに対し,製品1発明は, 「座板上部に背板下部を着脱可能に支持でき」「座板上部に,右側上部足板,左側上部足板を,それぞれ ,着脱可能に支持でき」「座板下部の下端部に右側上部足板,左側上部足板を,それ ,ぞれ着脱可能に支持でき」「座板下部に,背板を着脱可能に支持でき」 , 「座板下部に360mmの背板(短)1005.59を着脱可能に支持でき」る「万能手術台テーブルトップの構造」である点。
(イ) 相違点2Aの判断(新規性について) a 「床板を支えるフレーム」について 前記イ(イ)aのとおり,製品1の「レール」を「フレームに相当する」ものと認定することはできない。
また,本件発明2の「床板を支えるフレーム」は,本件特許に係る請求項2の記載において,床板を支えるフレーム」 「 とあるように,床板とは別の部材であるので,背板,座板,足板,頭板が自身を支える何らかの構成を有しているということはできても,背板,座板,足板,頭板自体を,それらを「支えるフレーム」ということはできない。
b 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」について 前記イ(イ)bのとおり,製品1発明の構成b3,c5,c7,d2,e2,e3のいずれも,本件発明2の「床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」ことに相当するものではない。
c したがって,本件発明2と製品1発明とは,相違点2Aにおいて実 質的に相違するから,本件発明2は製品1発明であるとはいえない。
(ウ) 相違点2Aの判断(進歩性について) a 前記イ(ウ)のとおり,甲17を参照しても, 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することが従来から周知であるとはいえず,甲17は,体格に応じてフレーム等の長さを変更するという課題が,本件特許の出願日当時,極めて一般的な課題であることを証明するものでもない。
b また,ベッド等において「床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成」することは,甲1,2,4,5,8,12,28,31,34,35を参照しても,従来から周知でもないし,当業者にとって適宜選択可能な設計事項といえるものでもない。
c 以上より,製品1発明の相違点2Aに係る構成を,甲1,2,4,5,8,12,28,31,34,35及び従来から周知の事項に基づいて,相違点2Aに係る本件発明2の構成とすることが容易に想到することができるとはいえない。
(2) 被告が販売したキューマアウラベッドKQ602(以下「製品2」という。)に基づく新規性,進歩性の欠如の主張について ア 製品2に係る発明(以下「製品2発明」という。) 製品2についての証拠(甲6〜8,10,11,33)によると,製品2発明は以下のものと認められる。
「b1 ベッドであって, b2 ベースフレームQ602V,駆動部Q602K,頭側及び足側からなるアクセサリフレームQ602S,背ボトム,背湾曲部ボトム,腰ボトム,足ボトムからなるボトムセットQ602U,ボードセットQ602Bを備え, ベースフレームQ602Vは,床面に対して脚座を介して支持され, 駆動部Q602Kは,フレーム状の構成を備え,リトラフレーム,アクセサリフレームを取り付けるピン及び螺子孔,ボトム受けを備え, 駆動部の上に背ボトム,背湾曲部ボトム,腰ボトム,足ボトムセットを保持する構成としたものであり, b3 ベッドの背ボトム,足ボトムセットの角度やベッド全体の高さを,電動で無段階に調節できるものであり, b4 アクセサリフレームQ602Sは,駆動部のピンと係合するため係止部,及び駆動部の螺子孔に螺合される六角穴付段付ボルトを挿通させるための穴を設けたものであり, b5 駆動部に,アクセサリフレームを着脱可能に装着することができるベッド。」 イ 本件発明1の新規性,進歩性の有無 (ア) 本件発明1と製品2発明との対比 a 一致点1B 「ベッド等において,床板を支えるフレームを備えるベッド等におけるフレーム構造」である点。
b 相違点1B 「ベッド等におけるフレーム構造」に関し,本件発明1は, 「床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」のに対し,製品2発明は,そのような構成を備えない点。
(イ) 相違点1Bの判断(新規性について) 甲6〜11,33には,「使用者の体格に対応させるべく・・・構成」すること,「交換装着用フレーム」は記載されておらず,製品2発明が,駆動部に,頭側及び足側アクセサリフレームを着脱可能に装着することのできるものであることをもって,製品2発明の「駆動部Q602K」の「アクセサリフレームを取り付けるピン 及び螺子孔」,及び「アクセサリフレームQ602Sは,駆動部のピンと係合するため係止部,及び駆動部の螺子孔に螺合される六角穴付段付ボルトを挿通させるための穴」を, 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」ものということはできない。
また,甲6の20頁には,「アクセサリフレームには頭側用と足側用があります。
間違わないように取りつけて下さい。 と記載されているので, 」 置換えは排除されているとも解される。
したがって,本件発明1と製品2発明とは,上記相違点1Bにおいて実質的に相違するから,本件発明1は,製品2発明であるとはいえない。
(ウ) 相違点1Bの判断(進歩性について) 前記(1)イ(ウ)aのとおり,「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することが従来から周知であるとはいえないし,体格に応じてフレーム等の長さを変更するという課題が,本件特許の出願日よりも前の時点でベッドの開発に携わる当業者が等しく抱えていた極めて一般的な課題であるともいえない。
仮に,体格に応じてフレーム等の長さを変更するという課題が,本件特許の出願日よりも前の時点でベッドの開発に携わる当業者が等しく抱えていた極めて一般的な課題であるとしても, 「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することが従来から周知であるとはいえないから,製品2発明を相違点1Bに係る「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することが容易想到であるとはいえない。
また,ベッド等において「使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」することは,甲1,2,4,5,8,12,28,31,34,35を参照しても,従来から周知でもないし,当業者にとって適宜選択可能な設計事項といえるものでもない。
したがって,製品2発明に基づいて,相違点1Bに係る本件発明1の発明特定事項とすることは容易想到であるとはいえない。
ウ 本件発明2の新規性,進歩性の有無 (ア) 本件発明2と製品2発明との対比 a 一致点2B 「ベッド等において,床板を支えるフレームを備えるベッド等におけるフレーム構造」である点。
b 相違点2B 「ベッド等におけるフレーム構造」に関し,本件発明2は, 「床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」のに対し,製品2発明は,そのような構成を備えない点。
(イ) 相違点2Bの判断(新規性について) 甲6〜11,33には,「足側フレーム」である「異なった寸法規格のもの」も,「フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能」に構成することも記載されておらず,製品2発明が,駆動部に,頭側及び足側アクセサリフレームを着脱可能に装着することのできるものであることをもって,製品2発明の「駆動部Q602K」の「アクセサリフレームを取り付けるピン及び螺子孔」及び「アクセサリフレームQ602Sは,駆動部のピンと係合するため係止部,及び駆動部の螺子孔に螺合される六角穴付段付ボルトを挿通させるための穴」を, 「足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」ものということはできない。
したがって,本件発明2と製品2発明とは,相違点2Bにおいて実質的に相違するから,本件発明2は,製品2発明であるとはいえない。
(ウ) 相違点2Bの判断(進歩性について) 前記イ(ウ)と同様の理由により,製品2発明に基づいて,相違点2Bに係る本件発 明2の発明特定事項とすることは容易想到であるとはいえない。
(3) 製品1及び製品2に基づく新規性,進歩性欠如の主張について ア 対比 (ア) 本件発明1について 本件発明1と製品1発明との一致点は一致点1Aであり,相違点は相違点1Aである。
本件発明1と製品2発明との一致点は一致点1Bであり,相違点は相違点1Bである。
(イ) 本件発明2について 本件発明2と製品1発明との一致点は一致点2Aであり,相違点は相違点2Aである。
本件発明2と製品2発明との一致点は一致点2Bであり,相違点は相違点2Bである。
イ 判断 本件発明1の「床板を支えるフレーム」を, 「使用者の体格に対応させるべくフレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」構成は,製品1発明及び製品2発明のいずれにも存在しないから,製品1発明及び製品2発明に基づいて,相違点1A及び1Bに係る本件発明1の発明特定事項とすることは容易想到であるとはいえない。
本件発明2の「床板を支えるフレーム」のうち, 「足側床板に対応する足側フレーム」を, 「使用者の体格に対応して」異なった寸法規格のものに交換装着可能に構成した相違点2A及び2Bに係る構成は,製品1発明及び製品2発明のいずれにも存在しないから,製品1発明及び製品2発明に基づいて,相違点2A及び2Bに係る本件発明2の発明特定事項とすることは容易想到であるとはいえない。
(4) サポート要件違反の主張について 本件発明は, 「背上げ,膝上げ機構を備えたベッドにあっては,背上げ,膝上げ操 作(ギャッチ操作)を行なうと,前記延長用床部は,足側床部と分離しているために起伏することはなく,フレーム側に保持され取り残されたままとなり,足側床部と延長用床部とが離隔状態となって,ギャッチ時の違和感があった。また,本来ボードを取り付ける目板を使用して,足側床部に延長用床部を継ぎ足すため,外観上の問題もあった。本発明はこのような課題を改善するために提案されたものであって,寸法規格の異なる足側のフレームを用意しておき,使用者の体格,すなわち身長に応じて,適合する足側のフレームを選択的に装着するようにした,ベッド等におけるフレーム構造を提供することを目的とする。 本件明細書の段落 」 ( 【0003】)という課題を解決するものであり,その課題を解決するために,本件明細書の段落【0004】には, 「前記した課題を解決するために,本発明は,ベッド等において,床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した。また本発明は,ベッド等において,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した。
さらに前述の構成において,足側床板に,マットレス保持枠を,フットボード側に指向して突設する一方,このマットレス保持枠に,延長マットレスを載置するようにして,床部のギャッチ動作を行なうようにした。」ことが記載されている。
そして,発明の詳細な説明に記載された発明には, 「床板を支えるフレーム」に関し,ベッド等において, 「 床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」こと, 「ベッド等において,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」ことが,本件明細書の段落【0005】〜【0013】の「一つの実施形態」を伴って記載されており,同発明では, 「ボードを取り付ける目板を使用して,足側床部に延長用床部を継ぎ足す」必要はないから,上記課題を解決できるものといえる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明は,当業者が上記課題を解決できると認識できるものであって,かつ,本件発明1,2と相違しない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(製品1発明に基づく本件発明の新規性判断の誤り) (1) 本件発明の意味 ア 「床板を支えるフレーム」について 「床板」とは,「床に張る板。床に張った板。」を意味し(甲71)「フレーム」 ,とは,「額縁。枠。骨組み。台枠。機械を保持する固定部分。」を意味し(甲50),「支える」とは, 「@物をおさえとめて,落ちたり倒れたりしないようにする。A持ちこたえる。維持する。」等を意味する(甲72)。また,「板」とは,「材木を薄く平たくひきわったもの。」を意味する(甲73)。
したがって, 「床板を支えるフレーム」とは,フレームが床板をおさえとめて,落ちたり倒れたりしないようにする関係があればよい。
なお,本件発明1の特許請求の範囲には,床板とフレームとの結合関係に関する記載がないことからすると,何らかの結合手段を用いて床板とフレームとが結合された場合を積極的に除くということはできないため,床板とフレームとが結合された場合であっても,フレームが床板を「支える」関係にある限り,本件発明1の技術的範囲に含まれる。
イ 本件発明は,文言上,床板とフレーム部材から床部を構成する場合を想定しており,かつ,それにとどまること 本件特許に係る特許請求の範囲の「床板を支えるフレーム」との記載からすると,床部は少なくとも床板とこれを支えるフレームという複数部材から構成されており,床板とフレームとは別の部材である必要があるが,複数の部材から床部が構成される場合,具体的にはフレームが床板を支える関係において,フレームに床板を乗せた際にフレームと床板とを固定する場合と,固定しない場合の二通りが考えられるところ,いずれの場合であっても複数の部材である「フレーム」が「床板」を支え る関係であることに何らの変わりはない。
したがって,本件発明の「床板を支えるフレーム」には,床板に固定しつつ床板を支えるフレームも含まれる。
ウ 「置き換え」について (ア) 例えば,@の位置にAが,Aの位置にBが,Bの位置にCが存在していた場合,@の位置にCを,Bの位置にAを置き換えると,@の位置からすれば,AからCという別の物に取り換わっているのであり,別の物に取り換える」 「 すなわち,「置き換え」がされたといえる。
(イ) モジュール構造を有するベッドは,モジュール構造を有しないベッドに比べて,交換や組合せという思想において,より発展的な技術であって,また,同ベッドにおいては,各部材をどの位置にも取り付けることができるのであって,「足板」や「背板」との名称は,あくまで便宜上の名称にすぎず,足板を足側で使うことや背板を頭側で使うことに限られない。
そして,本件特許に係る特許請求の範囲及び本件明細書には,モジュール構造を有するベッドを排斥するような明示的な記載もないから,本件発明の解釈を行うに当たっては,モジュール構造を有するベッドをも含むことを前提とすべきである。
エ 「体格に対応」について (ア) 「体格」は, 「身体の組みたて。からだつき。筋肉・骨格および栄養状態に現れる身体の外形的形状の全体。 と広辞苑に記載されている言葉であり 」 (甲78) 一義的に明確に理解することができ, , 一見して誤記であることが明らかではないから,請求項の文言に沿って解釈すべきであり,限定解釈を行うべきではない。
そして, 「体格に対応」とは,からだつきに応じることを意味する。例えば,身長は同じだが,足が長く胴が短い人もいれば,足が短く胴が長い人もいる。そのため,ある部分の長さを変更しつつ全体の長さは変わらない場合であっても,からだつきに応じて,すなわち体格に応じてフレームを交換することも十分考えられる。
したがって,全長が変化する場合に限定することは許されない。
(イ) 用途限定が,その物の用途に特に適した構造等を意味する場合は,用途限定が意味する形状,構造,組成等を有する物として認定されるが,用途限定が,その物の用途に特に適した構造等を意味しない場合は,用途発明に該当する場合を除き,用途限定のない物として認定される。
そして,ベッド等のフレーム構造について,使用者の体格に対応させるのに特に適した大きさ,強さ等を観念することができないこと,使用者の体格に対応させるという用途に特に適したフレーム構造は想定できないこと,交換可能なフレームと使用者の体格に対応させるべく交換可能なフレームとの間で有意な差はないこと,本件発明の用途に特に適した形状,構造,組成等は本件明細書で開示も示唆もされておらず,当業者にとって周知でも技術常識に属するわけでもないことからすると,本件発明は,用途限定のない物として認定されるべきである。
(ウ) マッケ社の1150.30テーブルトップのカタログ(甲80)には,「多様なモジュールにより1150.30テーブルトップを患者の背丈に適した長さに会わせる事ができます」との記載(4頁)が,マッケ社の「アルファマックス万能手術台」のカタログ(甲81)には, 「モジュール構造により,患者の身長に合わせることが出来」との記載(3頁)がある。
また,実開昭53-042122号の実用新案登録願(甲64)は,モジュール構造を有する小児用手術台に係るものであるところ,「身長の極く小さい小児の診療の場合には,前後の他の受板を取外して手術台の中央受板のみ使用すれば,医師は手術台の前後,左右から患者に接近して適切な処置を行うことができる。また小児から中年まで,その身長に応じて,頭受板,足受板,補助受板を適宜組合せ連結でき,かつ中央受板には背受板が取り付けられているので,身長に適合した長さの手術台として適切な診療処置を行うことができ,しかもその各受板の連結は,単に差し込みだけで自動的にロックされ,また離すときには簡単なハンドル操作によりロックが外れるので,各受板の着脱操作を極めて簡易迅速に行うことができ」る旨が明記されており,この実用新案を商品化した「MOC-1800小児外科手術台」 のカタログ(甲76)には,以下の図があり,同図の横には, 「左記の組み合わせは主なものです。このほか主枠?を中心にテーブルトップの選択によって数多くの組み合わせが自由に行うことができます。小児の全長に応じてご使用下さい。 との記 」載がある(6頁)。
さらに,特開平9-285363号公報(甲87)は,本件特許の出願日である平成9年6月24日よりも後の平成9年11月4日に公開されたものであるが,本件特許の出願日よりも1年以上も前の平成8年4月25日に既に出願されていたものであるところ,同公報に係る明細書には,本件発明1が開示されているにもかかわらず,これを特許発明とした出願はされていないことからすると,甲87の出願人は,本件発明1は,公知又は周知技術であるとの認識を有していたからであると 認められる。
以上から,モジュール構造を有する手術台は,一般的に使用者(患者)の体格に合わせるという目的,用途が含まれている。
なお,甲80及び81は,本件特許の出願日より後に公表されたものであるが,甲64の実用新案を商品化した「MOC-1800小児外科手術台」のカタログ(甲76)は,本件特許の出願日より前に公表されたものであることからすると(甲77) 本件特許の出願日より前に既にモジュール構造を有するベッドは, , 一般的に使用者の体格に合わせるという目的,用途を有していたといえる。
(2) 製品1に係る発明の認定 製品1に係る発明は,以下のとおり認定すべきである(同発明を,以下「製品1発明A」という。。
)A-1:万能手術台テーブルトップであって,A-2:背板上部(頭板),背板下部,2枚の座板,右側上部足板,左側上部足板, 右側下部足板,左側下部足板を備え,A-3:アクセサリーとして,長さの異なる複数の頭板,短い背板,延長用補助部 材,小児外科用テーブルトップ(幼児,乳幼児用)を備え,A-4:背板上部,背板下部,2枚の座板,右側上部足板,左側上部足板,右側下 部足板,左側下部足板,長さの異なる複数の頭板,短い背板,延長用補助 部材は,床板であるパッド部分とそれを支えるフレームにより構成され,B-1:背板上部の下方のフレームには,テーブルトップ長手方向に開口する筒状 部材及び,筒状部材には,螺子穴及び螺子を設けB-2:長さの異なる複数の頭板下部の下方のフレームには,棒状部材を設け,B-3:背板上部のフレームに設けた筒状部材に,長さの異なる複数の頭板下部の 下方フレームの棒状部材を選択的に挿入し,螺子で固定することにより, 使用者の体格に対応して,ベッドの全長を選択的に延長し,C-1:座板上部のフレーム上端部及び座板下部のフレーム下端部の下方両側部に 位置する部材には,棒状部材を挿入できる二つの孔とピン,螺子穴及び螺 子を設け,C-2:背板上部のフレームの下端には背板下部のフレームを支持し,背板下部の 下方フレーム両側部に位置する部材には,圧着用窪みを設けた二つの棒状 部材,レバー及び係止部(フック)を設け,C-3:座板上部のフレーム上端部の下方両側部に設けられた二つの孔に,背板下 部の下方フレーム両側部の二つの棒状部材を挿入し,係止部(フック)を レバーを操作してピンに係止し,座板上部のフレームに設けた前記螺子で 挿入した棒状部材を圧着することにより,座板上部のフレームに背板下部 のフレームを着脱可能に支持し,C-4:右側上部足板のフレーム下端部に右側下部足板のフレームを,左側上部足 板のフレーム下端部に左側下部足板のフレームをそれぞれ支持し,右側上 部足板,左側上部足板の下方に位置するフレーム部材の座板側には, (上側 の棒状部材にだけ圧着用窪みを設けた)二つの棒状部材,レバー及び係止 部(フック)を設け,C-5:座板下部の下方のフレーム両側部に設けられた二つの孔に,右側上部足板 及び左側上部足板の下方に位置するフレーム部材に設けられた二つの棒状 部材を挿入して,係止部(フック)をレバーを操作してピンに係止し,座 板下部のフレームに設けた前記螺子で挿入した棒状部材を圧着することに より,座板下部の下端部に右側足板上部,右側足板下部,左側足板上部, 左側足板下部のフレームを,それぞれ着脱可能に支持し,C-6:右側上部足板及び左側上部足板のフレームの二つの棒状部材を,座板上部 の下方フレーム両側部の部材に設けられた二つの孔に挿入し,係止部(フ ック)をピンにレバーを操作して係止し,座板上部のフレームに設けた前 記螺子で挿入した棒状部材を圧着することにより,使用者の体格に対応し て,座板上部のフレームに,右側上部足板,右側下部足板,左側上部足板, 左側下部足板を,それぞれ着脱可能に支持し,C-7:背板下部のフレームの二つの棒状部材を,座板下部の下方フレーム両側部 に設けられた二つの孔に挿入して,係止部(フック)をレバーを操作して ピンに係止し,座板下部のフレームに設けた前記螺子で挿入した棒状部材 を圧着することにより,使用者の体格に対応して,座板下部のフレームに, 背板下部及び背板上部のフレームを着脱可能に支持し,D-1:短い背板のフレームの下端部の両側部に位置する部材には,二つの棒状部 材を設け(甲5の20頁,甲3の7頁の背板の図,甲56),D-2:座板下部の下方フレーム両側部に設けた二つの孔に,短い背板のフレーム の二つの棒状部材を挿入し,座板下部のフレームに設けた前記螺子で挿入 した棒状部材を圧着することにより,座板下部のフレームに短い背板のフ レームを着脱可能に支持し,使用者の体格に対応して,ベッドフレームの 長さを短縮し,D-3:座板上部の下方フレーム両側部に設けた二つの孔に,短い背板のフレーム の二つの棒状部材を挿入し,座板上部のフレームに設けた前記螺子で挿入 した棒状部材を圧着することにより,座板上部のフレームに短い背板のフ レームを着脱可能に支持して,使用者の体格に対応して,ベッドフレーム の長さを短縮し,E-1:右側補助部材の右手方向端部のフレームには, (上側の棒状部材にだけ圧着 用窪みを設けた)二つの棒状部材,レバー及び係止部(フック)を設け, 左手方向端部のフレームには,二つの孔とピン,螺子穴及び螺子を設け, 左側補助部材の左手方向端部のフレームには,上側の棒状部材にだけ圧着 ( 用窪みを設けた)二つの棒状部材,レバー及び係止部(フック)を設け, 右手方向端部のフレームには,二つの孔とピン,螺子穴及び螺子を設け,E-2:右側上部足板上端部のフレームの二つの棒状部材を,右側補助部材の左手 方向端部のフレームの二つの孔に挿入し,係止部(フック)をレバーを操 作してピンに係止し,右側補助部材のフレームに設けた前記螺子で挿入し た棒状部材を圧着することにより,使用者の体格に対応して,右側上部足 板のフレームを着脱可能に10センチメートル延長し,E-3:左側上部足板上端部のフレームの二つの棒状部材を,左側補助部材のフレ ームの右手方向端部の二つの孔に挿入し,係止部(フック)をレバーを操 作してピンに係止し,左側補助部材のフレームに設けた前記螺子で挿入し た棒状部材を圧着することにより,使用者の体格に対応して,左側上部足 板のフレームを着脱可能に10センチメートル延長し,F :小児外科用テーブルトップ(幼児,乳幼児用)のフレームを座板下部のフ レームに着脱可能に支持することにより,使用者の体格に対応して,ベッド の長さを延長したG :ことを特徴とする万能手術台のフレーム構造 理由は,以下のとおりである。
ア 製品1における「床板」及び「フレーム」の認定 (ア) 製品1のパッド部分が床板に相当すること 床板とは, 「横たわる人を乗せる板」部分,すなわち「人がその上に横たわることができる」寝台の一部を指すものであるところ,製品1における「頭板」 「背板」 , ,「座板」「足板」の黒色のパッド部分は, , 「人間がその上に横たわることができる」部分,すなわち「横たわる人を乗せる板」部分といえ,本件発明の「床板」に相当することは明らかである。
(イ) 製品1発明の金属でできた銀色の部材が「フレーム」に相当すること a 全体について 甲2の2頁の写真からすると,金属でできた銀色の部材は,床板を支える部材,すなわち「フレーム」に相当することは明らかである。
また,製品1発明を販売している中古販売のサイトでは,製品1から黒色のパッド部分が取り外された写真(甲51)が掲載されているが,同写真には,フレーム に相当する金属でできた銀色の部材が床板に相当する黒色のパッド部分を支えていることが明確に示されている。
b 背板部分について (a) 製品1の背板上部・背板下部の写真(甲52)によると,金属でできた銀色の部材は,背板上部・背板下部の黒色のパッド部分の下方部の両端及び背板上部のパッド部分の下方部の頭側に存在することが,明確に分かる。
(b) 製品1のスペアパーツのリストである甲53の「01」「Backrail ,left」「02」 , 「Back rail ,right」「03A」 , 「3111 051 3」「Back frameuntil March 1982」及び「03B」「3111 178 3」「Back frame from April1982 on」は,甲2の写真の金属でできた銀色の部材に該当することが分かる。
そして,背板全体は,フレームに相当する「01」「Back rail ,left」及び「02」「Back rail ,right」の上に,「69」「5 005 210 4.「Spacer」を載せ, 」その「69」 「5 005 210 4.「Spacer」の上に,床板に相当する「21」 」「8400 953 3」 「Lower back plate」 「22」 及び 「8400 954 3」 「Upperback plate」を載せた上で,フレームに相当する「01」 「Back rail ,left」及び「02」「Back rail ,right」と,床板に相当する「21」「8400 953 3」「Lower backplate」及び「22」 「8400 954 3」 「Upper back plate」とを「72」 「1 133 089 9.「Raised head countersunk screw」でねじ留めしているという構 」造になっている。
(c) 製品1の仕様書である甲31の10頁の図と甲2の2頁の写真を照らし合わせると,甲2の2頁の写真の金属でできた銀色の部材は,甲31の10頁の上から2番目の図のうち,以下のとおり赤色で着色した部分であり,床板に相当するパッド部分は,緑色で着色した部分である。
また,甲31の12頁及び14頁の製品1の平面図における番号27「Back platerail left」,番号28「Back plate rail right」及び番号29a「Back rail」の部分(以下の図のうち赤色で着色した部分) 甲2の写真の金属でできた銀色の部材である。
は, c 座板部分について (a) 製品1を販売している中古販売のウェブサイトの写真(甲51)によると,座板に関して,金属でできた銀色の部材が存在することが分かる。
(b) 甲31の8頁の図のうち,以下のとおり赤く着色した部分が,甲51の写真の金属でできた銀色の部材の部分に該当する。
d 足板部分について (a) 製品1発明の足板「1009.10B」の写真(甲54)によると,足板パッドを支える部分にレールが備えられていること,外側に沿うように金属でできた銀色の部材が L 字型で設置されていることが認められる。
(b) 甲31の3頁の「Universal Table Top」の列における番号1の型番「1009.10B,-D」がパッド付の足板(左側足部上部・左側足部下部及び右側足部上部・右側足部下部)を指している。
また,甲55の5頁の「Leg plates」の列における番号1a,1b,2a,2bの型番は,それぞれ「3 111 823 3」「3 111 824 3」「3 111 8 21 3」 「3 111 822 3」と記載されており,これらは,甲5の6頁に記載された製品1の各足板の型番と一致するため,甲55の4頁の上の図「1009.10B」は,製品1の足板に関する図であることが認められる。そして,甲55の4頁の上の図の番号「2a」「1a」が,それぞれ左側上部足板のパッド,左側下 ,部足板のパッドである。また,4頁の上の図の番号「8a」, 「6a」 5頁に は, 「Upperleg plate rail, left」及び「Leg plate rail, left hand side」との記載があるから,それぞれ,左側上部足板のレール,左側下部足板のレールである。
甲55の4頁の図のうち,以下のとおり赤色で着色した部分が,甲2号証の写真の金属でできた銀色の部材に該当し,緑色で着色した部分が,甲2号証の写真の黒色のパッド部分に該当する。
(c) 以上から,黒色のパッドの下方部(板が存在する側)に,その外側に沿うように金属でできた銀色の部材がL字型に存在するところ,金属でできた銀色の部材は,床板に相当する黒色のパッドを支えているといえる。
したがって,金属でできた銀色の部材は,床板に相当する黒色のパッドの支持部材,すなわち「フレーム」に相当するといえる。
e 各アクセサリーについて (a) 製品1発明Aの構成Dについて 甲5の20頁一番上の写真から,構成Dにおけるアクセサリーの背板(短)には,黒色のパッド部分が存在すること及び黒色のパッド部分の下方部の手前側に金属でできた銀色の部材が存在することが分かる。また,金属でできた銀色の部材の先端には,2本の棒状部材が設けられている構造が認められる。
また,背板(短)の仕様書には,以下の図面が示されている(甲56)。
甲56の2頁の「Back plate shortened」の列に記載された部材の名称は,次のとおりである。
1〔9083.0184〕Back plate pad:背板パッド 2〔8401.6423〕Back plate:背板(の板) 3〔1133.0899〕Screw:螺子 5〔3101.1924〕Side rail:サイドレール 8〔3101.1853〕Back plate frame:背板フレーム したがって,甲56の1頁の図から,8の背板フレームの上方に2の背板の板部材が載せられ,3の螺子で螺合する構成が示されているとともに,フレームの左右両端部に2本の棒状部材が設けられている構造が認められる。
また,甲5の20頁の一番下の写真からも,背板(短)の金属でできた銀色の部材の上に黒色のパッドが載せられている構造が認められる。
以上より,背板(短)も,背板と同様に,人が横たわる面である黒色のパッド部分の左右両端部下方に,金属でできた銀色の部材が備えられており,当該金属でできた銀色の部材が黒色のパッドの底部に設置された板を支える構造になっているため,背板(短)のフレームは,床板を支えるフレームに相当する。
(b) 製品1発明Aの構成Fについて 甲5の16頁には, 「このテーブルトップは,通常手術台の足板の位置に取りつけます。・・・フレーム構造はエナメル焼付仕上げ,X線透過型シートアルミトップ,ステンレススチールサイドレール,長さ:845mm,巾360mm・・・」等と記載されているところ,同記載からすると, 「小児外科用テーブルトップ(幼児,乳幼児用)1005.78-B」 (以下「小児外科用テーブルトップ」ということがある。)について,製品1の足板のフレームと置き換えるものであること,フレーム構造とパッドを有していることが認められる。また,同頁の写真から,当該フレームの上方にパッドが載せられ,製品1の座板フレームと着脱可能に支持されることが認められる。
したがって,小児外科用テーブルトップも,フレームが床板を支える構造になっていることは明らかである。
(c) 製品1発明Aの構成Eについて 製品1発明Aの構成Eにおけるアクセサリーの「1003.20A-ソケット(一組)」についても,甲3の(5),(7)及び(9)の写真等から,延長用補助部材自体はパッドに直接触れていないものの,床板を直接支える足板及び座板のフレーム部分の間に取り付け一体化することで,パッドを支持する骨組全体の一部(手術台の支持構造体の一部)となっていることは明らかである。
(d) 製品1発明Aの構成Bについて 甲3の3頁の(3)の写真,甲19の写真からすると,製品1発明Aの構成Bの 頭板のパッド部分をフレームが支えている関係にあることは明らかである。
また,製品1を販売している中古販売のサイトでは,「頭板 1002.86B」の写真が掲載されているが,同写真には,棒状部材が設置されたコの字型の金属フレーム部材が,パッドを支持する構成であることが明確に示されている(甲57)。
また,製品1等を販売している中古販売のサイトでは, 頭板 「 1002.81D」の写真が掲載されており,同写真には,棒状部材が設置された金属フレーム部材が,パッドを支持する構成であることが明確に示されている(甲58)。
f 小括 以上より,製品1について,床板に相当する黒色のパッド部分及びフレームに相当する金属でできた銀色の部材の具体的構成並びにフレームに相当する金属でできた銀色の部材が床板に相当する黒色のパッド部分を支えていることが分かる。
また,製品1において,床板に相当するパッド部材は色が黒色で素材も柔らかい素材等であるのに対し,フレームに相当する金属でできた部材は色が銀色で素材も柔らかくない素材である金属であり,その色や材質の点で両者は異なること,一次的な機能面においても,両者は異なること,一般的に,同一部材であれば同一の部品番号が付され,別の部材では別の部品番号が付されるところ,床板に相当するパッド部材とフレームに相当する金属でできた銀色の部材は,それぞれ別の8桁の部品番号が付されていることからすると,製品1において,床板に相当するパッド部材とフレームに相当する金属でできた銀色の部材とは,別の部材であるといえる。
なお,製品1において,床板に相当するパッド部材とフレームに相当する金属でできた銀色の部材とは,突起物の差込やネジ等を介して固定されているが,両部材は,着脱可能な程度に固定されているにすぎない。
g 被告は,本件特許権に基づく侵害訴訟において,製品1に「床板を支えるフレーム」に相当する構成が開示されていることを認めていたのであり,それにもかかわらず,本件訴訟において,上記主張と正反対の主張をすることは信義則に反する。
h 被告の主張について (a) 被告は,甲52に表示された番号は,甲70によると「Maquet 背板1120システム」とあり,製品1ではないと主張する。
しかし,マッケ1120システムという表記は,マッケ1120.21B(製品1)にも適用することができるものと推測するのが合理的である。実際,甲1,2は,マッケ1120.21B(製品1)を含む製品のカタログであるが,いずれのタイトルにも「マッケ手術台システム1120」と表示されている。
また,マッケ1120システムの各種手術台(テーブルトップ)は,甲1の10頁並びに甲5の6頁及び7頁に記載があるが,各手術台の背板のパッド部分の形状と甲52の背板のパッド部分の形状を照らし合わせると,甲52の背板のパッド部分の形状は,下記の図1のとおり,製品1の背板のパッド部分の形状と合致し,また,甲52の背板のパッド部分の形状を有するマッケ1120システムの手術台は,製品1のみである。
この点,2枚のパッドから構成される背板を有する手術台としては,1120.20Bもあるが,下記の図2のとおり,同手術台の形状は,製品1の形状と異なる。
図1 (1120.21B) 図2 (1120.20B) したがって,甲52の背板は,製品1の背板である。
(b) 被告は,甲52のパッド部分の番号「311182030210」と甲5の6頁に記載されている製品1の背板上部パッド部分の番号「31118203」とが部分的に一致するにすぎず,甲52の背板が製品1の背板と同じ製品かどうか不明であると主張する。
しかし,甲52の背板は,マッケ1120システムの背板として紹介されているものである。そして,甲31,53,55等に認められるように,マッケ1120システムは,製品を構成する各部品について,それぞれに8桁の番号を付しているところ,製品1の背板上部ではない異なる種類の背板上部のパッドに対し,製品1の背板上部のパッド番号と敢えて全部一致させた形で,これに4桁の数字を付加して管理するということは通常考えられない。
実際,甲5の6頁及び7頁において示されるマッケ1120システムを構成する各種手術台のパッド番号のうち, 「31118203」を含むパッド番号は,製品1の背板上部のみである。
また,前記(a)のとおり,甲52の背板のパッド部分の形状が製品1の背板のパッド部分と一致する。
以上から,甲52に記載されている「311182030210」との数字は, 「31118203」 「0210」 と との数字に分かれており, 「31118203」が背板上部に付けられるパッドの番号, 「0210」が固有の番号であることが明らかであり,甲52の背板が製品1の背板と同じ製品であることは明らかである。
(c) 被告は,甲31及び53に記載された「3111052 1」等の多数の構成部品は,いずれも甲5の6頁に記載されたマッケ1120.21B(製品1)の構成部品ではなく,製品1とは関係のない構成部品であり,参考にならないと主張する。
被告は,甲53の3頁の表の左上に記載された「3111052 1」「311 ,1053 1」等の番号が,甲5や甲31には明記されていないことをもって,甲53の証拠価値がないと主張しようとしているのかもしれないが,甲53の5頁に記載されたアスタリスクの説明文にあるとおり,これらは各部品のグループに付された番号であるから,同グループ番号が甲31や甲5の6頁等に記載されていないと主張したところで,甲31や甲53と製品1との関係を否定することにはならない。
甲53の表紙には「1120.21」と明記され,これが製品1を含むマッケ1120.21製品の部品リストであることは明白である。
1120.21A,B,C及びDの違いは,パッドの素材及びパッドの取扱方法にあり,フレームの具体的構成やフレームが床板部分を支えている関係については共通である。
(d) 被告は,甲55には, 「1009.10A,-B,-C,-D」との型番が記載されているが,これらの型番は,甲5の3頁及び4頁には記載がないから,製品1に適用できるものではないと主張する。
しかし,甲31の2頁の図を見ると,足板に関しては「1」と記載されているところ,同3頁の「1」の場所を見ると, 「1009.10A,-C」及び「1009.10B,-D」との記載がある。
これは,「1」の部分には,「1009.10A,-C」や「1009.10B, -D」を取り付けることができることを表している。
また,甲55の4頁の図では,足板上部左側パッド「2a」及び足板下部左側パッド「1a」の番号は,それぞれ「31118213」「31118233」とさ ,れているところ,それらの番号は,甲5の6頁において示されているパッド番号と一致している。
さらに,甲5の3頁及び4頁は,製品1と適合するアクセサリーの関係性を示す表であり,製品1自体を構成する部品を示すものではない したがって, 「1009.10B」と記載されている部品を製品1の足板として適用することになることは明らかである。
被告は,甲53,54,57及び58は作成日が不明であり,甲56は,本件特許の出願後に作成されたものであるから,これらを製品1の構成を特定するために用いることは許されないと主張する。
しかし,部品の一部をマイナーチェンジしていくことはあり得るとしても,製品としての同一性を維持するために多くの部品を共通化する必要があることからすると,フレーム全体の形状や床板を支えるフレームという関係自体に影響するような変更は行われていないと考えるべきである。
実際,甲1に記載されている製品1のフレームに相当する金属でできた銀色の部材の具体的構成と甲3,31,53〜60等の図や写真等に記載されたフレーム部分とを比べてみると,基本的なフレーム構造は同一であり,床板を支えるフレームという関係に影響するような差異は具体的に認められない。
また,仮に,大幅なモデルチェンジをしたのであれば,手術台テーブルトップの種類自体が変わり,別の製品名称が付されることが一般的であるところ,製品名が変わっていないことからすれば,形状の変更は些細な部分にすぎないといえる。
したがって,仮に,時期によってフレームにわずかなモデルチェンジがあるとしても,床板を支えるフレームという関係自体に何らの影響を与えるものではなく,被告の上記主張は理由がない。
イ 製品1発明Aの構成Dに関する認定について (ア) 座板上部にも360mmの背板(短)を着脱可能に支持できることを認定していない点の誤り a 製品1が,座板を中心にPositionTからPositionUに置き換えることができるのは,座板の下方両側部に,共通に設けられた金属でできた銀色の部材である構造(棒状部材を挿入できる二つの孔とピン,螺子穴及び螺子)を有しているからであり,その構成の物理的,論理的帰結として,右側上部足板及び左側上部足板の二つの棒状部材を座板下部の下方両側部の部材に設けられた二つの孔に挿入する等して取り付けることができるとともに,背板下部の下方両側部の二つの棒状部材を座板上部の下方両側部の部材に設けられた二つの孔に挿入する等して取り付けることができる。
そして,このような構成を有している結果,例えば,PositionTからPositionUに変更することなく,背板だけを,背板(短)に置き換えることも当然に可能なのであって,この場合,背板(短)は座板上部の部分に支持されていると評価すべきことになる。
上記の置き換えがカタログに載っていないのは,当然の利用方法であるからにすぎない。
Aの陳述書(以下「A陳述書」という。甲13)からも,背板だけを,背板(短)に取り換え,座板上部に着脱可能に支持することも実際に行われていたことが認められる。
したがって,本件審決が,座板下部の他,座板上部に背板(短)を着脱可能に支持する構成を認定していない点は誤りである。
b 被告は,A陳述書は信用できないと主張するが,以下のとおりの理由から,A陳述書は信用できる。
(a) Aは,ドイツのマッケの製品を日本で最初に販売したアーンスト・ハンセン商会(現在のニッコー・ハンセン株式会社)に入社し,以来,同商会の従 業員として,昭和57年2月以降は取締役兼営業本部長として,マッケの製品の輸入,販売を中心に携わってきた。また,昭和63年,新たに販売元会社としてマッケ社を設立することになった際にも,中心的にかかわっていた(甲82,83)。
また,Aは,多数のマッケ1120を病院に納品し,マッケ1120を使用した実際の手術にも多数回立ち会った経験がある。
さらに,Aは,雑誌「医科機器学」にマッケ社を代表してマッケ1120に関する予稿を寄稿し(甲13の別紙2),また,大学病院の手術部員と共同で論文を執筆している(甲85)。
以上からすると,Aは,日本で最もマッケ製品に詳しい人物の一人である。
そして,Aには,事実に反する陳述をする動機がない。
(b) 被告は,製品1のアクセサリーを患者の体格に応じて交換可能とすることが予定されていたのであれば,その旨カタログでも説明されているはずであるにもかかわらず,そのような記載が一切ないから,Aの陳述は客観的事実と矛盾すると主張する。
しかし,Aの上記陳述は事実であり,カタログに明示的に記載されていないだけである。モジュール構造の特性上,考えられる組合せは多数に上り,カタログに全ての事柄を記載することは,スペースの問題等から不可能である。
(c) 被告は,A陳述書には,当時マッケ社の手術台は東海大学等の大規模な大学病院(500床程度)に納品されていたと記載されているが,このような大規模病院が,大人用の手術台を流用して小児外科の手術をするとは考え難いと主張する。
しかし,大人用の手術台である製品1に小児外科用テーブルトップを取り付ける,すなわち大人用の手術台を流用することができることは,甲5の4頁及び16頁から明らかである。
実際,日本小児外科学会器械委員会・日本器械学会合同委員会「小児に用いられている手術台のアンケート集計結果」日本小児外科学会雑誌19巻6号,昭和58 年(甲62)において,「41p以上の手術台の多くは成人用として作られたものであり,小児と兼用で使用している施設が多かった。」との結果が出ていること,集計80台中,39台と半数近くが手術台の一部を着脱することにより長さを加減して使用できる可変式の手術台を採用しているとの結果が出ていること,「表6 手術台に対する意見,要望」としても, 「小児専用手術台は不要,sizeに合わせたattachmentを」という意見や「成人用手術台で横幅のみ不満」といった意見があることからすると,大人用の手術台を適宜兼用し,その一部を着脱等することで小児用の手術が現に行われてきたことは,否定できない事実である。
(d) 被告は,足板よりも長さが短い背板を利用したため患者の足がはみだすというのであれば,背板ではなく足板を使えばいいだけのはずであり,それにもかかわらず,あえて足板に代えて背板を用い,さらに患者の体格に応じるために頭板を継ぎ足していることからすると,足板に代えて頭板を使用するのは患者の体格に応じるためとは考え難く,この点でもAの陳述は不合理であると主張する。
しかし,製品1は各部材を組み合わせて使用する,いわゆるモジュール構造を有する手術台であるから,足板に換えて背板を用いることもあくまで一例にすぎないし,患者が両足を開く必要がなければ取り付け工数が多い足板よりも背板を取り付けて足板として使用することは何ら不自然ではない。そして,患者が実際に寝てみて又は手術開始後に,背板では長さが足りないと判断された際に,わざわざ患者を一度降ろして背板を外し,新たに足板を取り付けることは非現実的であり,背板の先に頭板を取り付ける方がはるかに簡便である。
したがって,Aの上記陳述は不合理ではない。
(イ) 背板(短)と背板の部材が,同一部材であるか否かが確認できないと評価している点の誤り 本件審決は,背板と背板(短)が同じであるか否か確認できないとしているが,これは,背板と背板(短)が仮に同一の部材であれば,これらを取り換えても異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能になったとはいえない,という問題 意識を前提とした指摘と推測される。
しかし,甲4の8頁(頭板外科及ENT)の使用例において,(テーブルトップ 「は Position II にする。)1.足板を外しサポートアーム(1005.46)のついた短い背板を取り付けます。 との記載があることからも明らかなように, 」 背板下部が座板上部に着脱可能に支持された状態において,座板下部に取り付けられている足板を外し,代わりに取り付けられた部材が背板(短)なのであって,背板と背板(短)が同一の部材であるはずがない。
また,製品1は,甲5の6頁の図(万能手術台 1120.21-B インテグラル)からも明らかなように,背板上部及び背板下部を含む形で一式のテーブルトップとして紹介されており,甲5の4頁の適合表において,製品1に適合する部材として背板(短)の「1005.59」に●が付いている。
さらに,甲5の20頁の下部に掲載された使用例についての写真でも, (短) 背板と一緒に,患者の足の下に背板が使用されていることからも,両者が別部材であることは疑いがない。
背板上部・背板下部のパッドの番号は, 「3111820. , 3」「3111819.3」であり(これは,甲31の11頁の6番,7番の番号と一致する。,背板(短) )の番号は, 「1005.59」であるから,両部材は別部材であることは明白である。
(ウ) 背板(短)を取り付けた際の手術台の全長が不明であると認定した点の誤り 本件審決は, (短) 頭板等と一緒に取り付けられており, 背板 は, 背板を背板(短)に交換した場合に,手術台の全長が変化するものか否か不明であり,また,足板を背板(短)に交換した場合に,背板(短)を付けた状態での手術台の全長も不明であるとしたが,同判断は,以下のとおり,認められない。
a 全長の変化は本件発明の構成要件ではないこと 本件発明は,ベッドの全長が変わることを構成要件としていない。本件特許に係る請求項1及び2は,使用者の「体格」に対応させると記載されているのであり, 長さの異なるフレームを「体格」に対応させているか否かが重要なのであって,それ以上に「身長」に対応させる必要はない。
b 足板と背板(短)を置き換えた場合や,背板と背板(短)を置き換えた場合,手術台の全長は短くなること 甲5の20頁に掲載されている「背板(短)1005.59」 名称の中に (短) が, 「 」と記載されていることからすると,背板と比較して長さが短い背板であることは自明である。また,甲5の20頁及び26頁の背板(短)の使用例の以下の写真において,患者の足元に使用されているのは製品1の背板であるところ,背板(短)の「1005.59」は,背板よりも長さが短いことは,外観上一見して明らかである。
そして,甲5の20頁及び26頁で使用されている使用例は,甲4の8頁(頭板外科及ENT)の使用例において, 「(テーブルトップはPositionUにする)1.足板をはずしサポートアーム(1005.46)のついた短い背板を取り付けます。」と記載されていることから分かるように,足板を外し,これと背板(短)とを置き換えた例であるところ,足板よりも長さが短い背板(甲5の6頁の「万能手術台 1120.21-Bインテグラル」の図)よりも,更に長さが短い背板(短)を足板の代わりに取り付けた場合に,手術台の全長が短くなることは自明である。
c 本件審決は,足板を背板(短)に置き換えた場合,背板(短)は,アクセサリーである頭板等と一緒に取り付けられていることをもって,手術台の全 長の変化が不明と指摘するが,製品1の構成部材は,甲1の7頁の一番上の写真や,甲4の2頁の写真及び甲5の6頁の上部の図等から明らかなとおり,@背板上部(頭板),A背板下部,B座板,C上部足板及びD下部足板であるから,このうち,構成部材であるCDと,背板(短)Eを置き換えた場合の全長は,@ABCDの構成と@ABEの構成との比較によって行うべきであって,@ABEの構成にアクセサリーの頭板を付加した全長と比較することは不当である。
甲5の26頁の下部の使用例の写真及び27頁の上部の写真では,背板(短)の上部にアクセサリーの頭板は取り付けられておらず,甲5の24頁に掲載されている「1005.29」「1005.35」等のアクセサリーが取り付けられている。
,そのため,製品1の上記@ABCDの構成と比較して,床板を支えるフレーム部分の全長(上記@ABE)が短くなっていることは明白である。
また,前記(ア)のとおり,製品1について,背板だけを背板(短)に置き換えることも当然に可能であるから,この場合,背板(短)と背板の差分だけ全長が短くなることもまた自明である。
d 仮に,甲5の20頁の使用例の写真において写し出された頭板等と一緒に取り付けられた場合との全長を比較したとしても,手術台の全長が短くなること (a) 甲5の20頁の使用例の写真は,足板を外し,背板(短)と置き換えた例であり,置き換え後も,座板及び背板は共通していることから,頭板等と一緒に取りつけられた場合の全長を比較するには,置き換えられる足板の長さと,背板(短)に頭板を取り付けた部材の長さを比較すればよいことになる。
足板の全長は,800mmである(甲59)。また,甲5の20頁の使用例で使用されている頭板「1002.62 平型頭板」は, 「1005.24 1005.59用固定具」と「1002.64 頭板取付具」を介して取り付けられているところ, 「1002.62 平型頭板」は270mmであるから, 360mmの背板 「 (短)1005.59」と合計しても,630mmにしかならず,800mmに170m mも及ばないことは自明である。
したがって,頭板と一緒に取り付けられた場合の全長を比較しても,全長は短くなる。
(b) また, 「1002.64頭板取付具」を「1005.24 1005.59用固定具」に取り付けることが可能ということは,その他の頭板である「1002.86」「1002.81-B」及び「1002.81D」とも適合するこ ,とが可能である(甲5の3頁の適合表)。
そして,甲5の20頁の写真例において, 「1002.62 平型頭板」を「1005.24 1005.59用固定具」と「1002.64 頭板取付具」を介して取り付けることと代えて,「1002.86」又は「1002.81-B」(それぞれ長さ250mm)を取り付けた場合は,背板(短)と合計しても610mmにしかならず,また「1002.81-D」 (長さ260mm)を取り付けた場合は620mmにしかならない。
(c) なお,製品1のサイズについて,一部記載が認められる資料(甲60)の以下の図には,背板が405mm 以上450mm以下であり,足板が850mm以下であることが示されている。
同図の表示上,両方とも一部座板部分が長さに含まれているため,実際にはこれよりも短く,甲59で示した足板800mmが正しい長さであることが裏付けられている。
(エ) 「身長に合わせて」について記載も示唆もないので,「身長に合わせて・・・交換できる」とすることはできないと認定した点の誤り a 背板(短)は,甲5の20頁では, 「頭板-眼科,ENT,一般外科,麻酔関係」という項目の中で紹介されているように,特定の手術目的に限定した部材ではなく,一般外科にも使用されることが想定されたものである。
また, 「患者の手術時における様々なポジショニング」に対応することと「患者(使用者)の体格」に対応することを完全に区別することは不可能であり,製品1の床板のモジュール構成は,患者の体格に応じるという,用途,目的も当然に含まれて いる。
患者の手術時における,患者の頭部,足,腹部等,身体器官の位置関係は,患者の体格によって差異が生じるのであるから,製品1は,術者がそれぞれ異なる患者の体格と姿勢の組みあわせに応じて生じる患者の身体器官の差異を,多数のアクセサリーによって調整可能にしているのである。したがって,これが,患者の体格に応じるという目的の下にも行われていることは明白である。
若杉文吉「全油圧駆動手術台の機構と機能」外科治療5巻1号,昭和36年(甲61)の109頁の記載からも,小児か成人かという体格の違いが,坐位という体位をとる際の適切な背板の長さに影響している事実が認められ,手術台における患者の適切な体位と体格が密接不可分な関係にあることが明確に示されている。
b 製品1において,PositionUに変更し,足板の代わりに背板(短)を取り付ける甲5の20頁のようにする理由の一つは,手術台下の空間(術者の足元の空間)を広げ,上半身の手術をしやすくするためであるが,体格が小さい子供の場合には,背板(短)の上部に頭板まで取り付ける必要はなく,足板の代わりに背板(短)を取り付けただけで十分である。また,上記の甲61に示されているように,背板(短)であれば,体格が小さい小児が適切な坐位をとるポジションをとりやすいことになる。したがって,体格に合わせて,適宜,足板と背板(短)を交換していることは明らかである。
c A陳述書でも,背板(短)について,「身長が短い患者用に使用することも当然に想定されている製品です。実際,病院のスタッフは,患者の体格に応じて使用していました。例えばマッケでは,小児外科用手術台等を別に販売していたのですが,短い背板を使い患者の身長に応じて適宜交換して使用する方が場所もとらず経済的であるため,そのような病院側の需要に応えることができていました。」とされており,使用者の体格に合わせるために,背板だけを,背板(短)に取り替え,座板上部に着脱可能に支持することも実際に行われていた。
この点について,甲62には,前記(ア)b(c)の記載があることからしても,A陳述 書の内容の信用性が裏付けられる。
d 昭和59年に発刊された日本小児外科学会雑誌に掲載された,松山四郎他(群馬県立小児医療センター外科)「小児用手術台の使用経験」(甲63)には,手術台の一部を着脱することにより,長さを加減して使用できる可変式の手術台が存在していたことが示されており,昭和54年に公開された実用新案登録願(実願昭53-042122。甲64)から,着脱式手術台のフレームの一部を小児の体格や成人に対応させるために組み合わせるモジュール技術が存在していたことが認められ,昭和56年に公開された実用新案登録願(実願昭55-063254。
甲66)から,同年の時点よりも前の時点において,着脱式手術台の床板を支えるフレームの一部を小児の体格や成人に対応させるために異なる長さのものに置き換える技術が存在していたことが認められる。
e 原告代理人の報告書(甲67)から,以下の歴史的事実が認められる。
(a) 1850年の時点から手術台の長さを加減する技術が開発され,分割式(モジュール型) ・着脱式の技術がおよそ100年も前(1910年〜)から開発されており,患者が体位を取りやすくするための研究が長きにわたり行われてきたこと (b) 製品1を開発したマッケ社は手術台分野における世界的なリーディングカンパニーであり,1964年に上板分離型の手術台が開発されてからは,同型の手術台が,一県一医大構想の下に大学病院等が増設される中で多く採用されていったこと (c) 日本の手術台開発は,海外の手術台を取り入れながら進展してきたものであり,医師とメーカーが協議しながら開発をすることにより,体位や体格に適合するために補助板(同板の板部を支持するフレーム)を着脱等する技術が,遅くとも若杉文吉によって1961年の時点で考案されており,これらの技術の存在が,医師や医療器具メーカーが所属する学会誌や医療関係の書籍等で公開されて いたこと (オ) 「置き換え」について a 製品1発明Aの構成Dにおいては,背板を別の物である背板(短)に取り換えることができ,これは,「置き換え」に該当する。
モジュール構造を有する場合,自由に組み合わせができることがメリットの一つであることからすると,明示的に禁止する組合せがない限り,いかなる組合せにするかは,利用者の自由である。このことは技術常識であり,同技術常識は, 「MOC-1800小児外科手術台」のカタログ(甲76)からも認められる。
製品1において,背板と背板(短)を置き換えることは,利用者にとって当然の利用方法であるため,カタログ(甲5)では明示的に記載がされていない。また,頭板を使用しないまま背板だけを背板(短)に置き換えることは何ら禁止されていない。
したがって,当業者は,当然に背板だけを背板(短)に置き換えることができると理解することができるといえる。
b 被告は,背板(短)に関して, 「頭部外科及びENT」との記載があるから,頭部外科及びENTのみに用いられていることや,背板(短)は,常に頭板とセットで記載されていることから,背板だけを背板(短)に置き換えることはできないと主張する。
しかし,甲5の26頁の図では「1002.8-B」の頭板が患者の足先に使用されているにすぎず,このような使用例は,甲4の8頁の図で説明されているとおり, 「身長の非常に長い患者のとき」に付けて長くする使用例であるから, (短) 背板と常にセットで使用することにはならず,被告の上記主張は理由がない。
ウ 製品1発明Aの構成Fに関する認定について (ア) 被告は,製品1発明Aの構成Fに基づく無効主張は,本件訴訟になって新たに追加主張されたものであり,また,本件審決に係る審判手続においても,同無効理由は審理されていないと主張する。
しかし,原告は,同無効審判において,令和元年9月13日付け口頭審理陳述要領書で, 「同様に,甲第5号証16頁には,通常の足板より明らかに長いフレーム構造を有する小児外科用テーブルトップ(長さ845mm)を,足板の代わりに,手術台に取り付けることが記載されている。この小児外科用テーブルトップのうち万能手術台用のもの(1005.78-B)は,甲第5号証のアクセサリー適合表(4頁)より,手術台1120.21に取り付け可能である。この例は,用途は異なるものの,異なる長さのフレームを置換可能にすることを開示しており, 『使用者の体格に対応させる』用途にも適用可能であることは当業者には自明である。以上のことから,上記相違点は実質的な相違点ではなく,甲第5号証は,本件特許発明1及び2の構成要件1B,2Bを開示している。」と主張し(甲47の10頁),小児外科用テーブルトップの記載に基づく無効主張を行っている。そして,原告の同主張に応える形で,本件審決においても上記主張は引用され(73頁),同主張に関する判断がされている(73頁)。
したがって,被告の上記理由がない。
(イ)a 甲5の16頁には, 「1005.78-B 万能手術台用」と記載されており,甲5の4頁の適合表にも,製品1と「1005.78」が交差する部分について「B」と表示されていることから,小児外科用テーブルトップ(幼児,乳幼児用)1005.78-Bは,単に甲5に記載された発明ではなく,製品1に適合可能なアクセサリーと評価すべきである。
b 甲5の16頁には, 「1005.78-A,B,C,D 小児外科用テーブルトップ(幼児,乳幼児用)」の説明として,「このテーブルトップは通常手術台の足板の位置に取り付けます。頭部分の下に取りつける支持バーは高さ調節が可能で,確実に台を固定し,且つ術者の足の部分の空間を広く開けている。フレーム構造はエナメル焼付仕上げ,X線透過型シートアルミトップ,ステンレススチールサイドレール,長さ:845mm,巾:360mm,ヒーティングパッドによる体温調整,温度センサー,レギュレータによる制御方式」と記載があり,甲5の1 6頁上部には,テーブルトップの足板のフレームに換えて,座板下部のフレームと小児外科用テーブルトップのフレームとが結合された状況の使用例写真が掲載されている。
そして,小児外科用テーブルトップは,その名称に「小児」と含まれていることからも,成人と体格が異なる小児に適合させることを目的として,足板と交換して使用するものであることが明らかである。
c 前記イ(エ)の甲62,64及び66からも,小児外科用の手術台において,置き換えるフレームを異なる長さにする理由が,小児の体格へ適合させる目的にあることは疑いがなく,これを技術的に実現するためにフレーム着脱式の技術を採用する手術台が多く使用されていたことは明らかである。
(ウ) 被告は,小児外科用テーブルトップを取り付けた手術台では,小児外科用テーブルトップや頭板のみを使用し,下の手術台の部材等は利用することは想定されていないから,手術台の足板の位置に手術台の一部でなく別の手術台全体(小児外科用テーブルトップ)を取り付けていることになり,したがって,このような構成は,「フレームの一部」を置き換えるものではないと主張する。
しかし,当初フレームとされていたものが,小児外科用テーブルトップを取り付けたことによりフレームではなくなるというのは恣意的である。
本件発明では,フレームの一部が置き換えられればよく,それ以上に何か限定を加える必要はないところ,構成Fにおいては,フレームの一部を小児外科用テーブルトップに置き換えているのであるから, 「フレームの一部を・・・置き換え」たといえる。
(エ) 被告は,小児外科用テーブルトップを手術台の足板の位置に取り付けるのは, 「術者の足の空間を広く開ける」ためであり,その目的は,手術のために術者の術野を確保するためであると主張する。
しかし,術者の術野を確保するためにフレームの幅を狭いフレームに置き換えるということは,当初のベッドが患者の体格に比して大きいことから,術者の体格に 合っていないということである。そして,患者の体格に対応させてフレームが狭い物に置き換えることにより,余分なフレーム部分がなくなり,そのことによって術者が患者に接近することができ,術者の術野が確保されるという関係にある。
したがって,術者の術野を確保する目的は,患者の体格に対応させる目的を排除するのではなく,両者の目的は併存する。
また,小児外科用テーブルトップを背板(短)に置き換える場合は,前者の幅は360mmであるのに対し,後者の幅は500mmもあるから,置き換えにより横幅が広がり,安定性が高まるから,この置き換えは,患者の体格に対応させるためのものといえる。
エ 製品1発明Aの構成Cに関する認定について (ア) 本件審決は,PositionTとPositionUとで手術台の全長が変わるようなものではないから,患者の上下を逆転させて手術台に乗せるために,座板を中心にして,背板と足板とを入れ替えても,手術台の全長が変化するものでないと認定するが,同認定は,以下のとおり誤りである。
a 全長が変化することは本件発明の構成要件ではなく,使用者の体格に対応させるという目的の認定において全長の変化を考慮することは誤りであることは,前記イ(ウ)aのとおりである。
b 前記イ(ウ)bで主張したことに,背板が405mm以上450mm以下である(甲60)のに対し,背板(短)は360mmであることが認められることを併せ考慮すると,背板(短)を着脱可能に支持できることを組み込んだ上で,PositionTとPositionUとで手術台の全長が短く変わるようなものではないとした本件審決の判断は誤りである。
c 製品1において,背板が存在した位置で当初存在した背板をこれとは別の物である足板に取り換えており,また,足板が存在した位置で当初存在した足板をこれとは別の物である背板に取り換えているのであるから,これらは「置き換え」に該当する。
また,足板と背板の配置の入れ替えは,甲4の7頁にも記載があるように,患者の位置と術者の位置の関係性から,適宜交換することが想定されているものであるところ,人によって,身長は同じであっても,胴の長さ,足の長さに違いがあるのであるから,例えば,胴が長く,足の短い人の体格に合わせるために,背板を足板に置き換え,足板を背板に置き換えることも当然に考えられ,これは,まさしく「使用者の体格に対応させるべく」,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換えたものといえる。
(イ) 被告は,甲5の20頁の写真では,足側に使用されている部材が何かは分からないと主張する。
しかし,甲5の20頁の写真中,以下のとおり,赤丸に囲った部分が窪んでいるところ,窪みがある部材は,製品1では背板のみであるから,背板であることが分かる。
オ 製品1発明Aの構成Eに関する認定について (ア) 本件審決は,製品1の延長用補助部材に類似した部品は,それを付加することによって,手術台の全長が変化するものであるが,当該全長の変化は,延長用補助部材に類似した部品を付加することによりされるものであって,交換することによりされるものではないから,延長用補助部材に類似した部品は「異なった長 さの交換装着用フレーム」といえないと認定したが,以下のとおり,同認定は誤りである。
a 甲3の4頁の(5)に写っている部材の品番は,甲46のとおり,読み取ることができるのであり(甲46),甲5の15頁の「1003.20A-ソケット(一組)(延長用補助部材)に類似した部品ではなく, 」 「1003.20A-ソケット(一組)(延長用補助部材)である。
」 b 甲5の6頁からも明らかなとおり,製品1においては,@背板上部,A背板下部,B座板,C上部足板及びD下部足板から構成され,それぞれに異なる番号が付されており,それぞれが独立した部材として組み立て,保管することができる(ただし,@A,CDは通常は結合された状態で保管される。。また,甲3, )5,27〜30から明らかなように,製品1は,その構成の一例として,C上部足板とB座板の間に,延長用補助部材を取り付けることが可能な構成となっている。
製品1においては,延長用補助部材を使用して異なる長さの交換装着用足板を別にあらかじめ用意することができ,また,延長用補助部材を使用した部材と使用しない部材とを選択的に装着することが可能であるから,延長用補助部材を使用した部材を用いた製品1の構成も,交換装着が可能な構成を採用しているというべきである。
(イ) 被告は,コストや保管スペースの問題から,足板と足板及び補助部材のセットの2セットを保有することは考え難いと主張する。
しかし,A陳述書によると, 「大体,500床の病院の場合,手術室を6室程度に設計するのが一般的でしたので,コラムを6台,テーブルトップはその1.5倍の9台程度を提案し納入してい」たのであるから,製品1を保有していた病院はテーブルトップを余分に保有していたといえる。したがって,上記の2セットを保有していたと考えることはできる。
(ウ) 被告は,使用者が足板だけを購入することが可能か否かは不明であると主張する。
しかし,A陳述書には, 「テーブルトップの足板や背板部分等,テーブルトップを構成している各部材のみを販売することがあったのかというご質問ですが,もちろんありました。」と記載されており,これによると,使用者は足板のみを購入することが可能であったと認められる。
カ 製品1発明Aの構成Bに関する認定について (ア) 製品1が頭板を備えていないとの認定に誤りがあること 甲4の2頁において「テーブルトップ 25 背板上部(頭板)」と記載されており,背板上部は頭板としての機能も備えているといえる。このことは,甲2の4頁における製品1の各使用例写真をみても明らかである。
このことから,甲5の18頁で紹介されている様々な頭板は,製品1の背板上部の頭板を使用するだけでは対応できないような身長が高い患者の体格に応じる目的でも用意されていることは明らかである。
(イ) 製品1について,背板上部の筒状部材に,頭板「1002.86B」の棒状部材を挿入し,一体化できるとだけ認定し,使用者の体格に対応させるために長さの異なる他の複数の頭板を選択的に交換できる構成を認定していないことに誤りがあること 本件審決は,製品1について,背板上部の筒状部材に,頭板「1002.86B」の棒状部材を挿入し,一体化できるとだけ認定し,使用者の体格に対応させるために長さの異なる複数の頭板を選択的に交換できる点を認定していないが,その理由として,製品1と適合する「オプションの頭板」として甲5の3頁及び4頁の適合表に●が付された複数の種類について,取付部の形態が甲5の18頁の「1002.86」の写真と「1002.81-B」の写真とで異なっていること等を挙げている。
しかし,甲5の18頁に示されている「1002.86(頭板), 」「1002.81-B(頭板), 」「1002.81-D(頭板)」及び「1002.62(平型頭板)」は,いずれも製品1と適合することが,甲5の3頁の適合表に示されている。
また, 「1002.81-B(頭板), 」「1002.81-D(頭板)」及び「1002.62(平型頭板)」のいずれも,棒状部材を背板上部の筒状部材に取り付けていることは明らかであり,取付部の形態が異なっているとの認定も誤りである。
(ウ) 250mm,260mm,270mmの頭板の置き換えについて,手術に必要とされる頭板を適宜使用するものと認定し, 「使用者の体格に対応させる」ために行うことは証拠上看取できないとしていることの誤り a 頭板の取付け方の違いにより頭板の位置が変わり得るとしても,長さの異なる頭板に「使用者の体格に対応させる」という目的があることは否定されないこと 本件審決は,「頭板の取付け方の違いにより頭板の位置が変わる」としているが,甲5の26頁の下部の写真において,製品1の背板上部に取り付けられている部材(患者の足先に取り付けられている部材)は,「1002.81-B(頭板)」であるところ, 「1002.86(頭板)」を取り付けた場合と比べて頭板の位置(高さ)が変わっている様子は認められない。
仮に,頭板の取付け方により位置(高さ)を変更できるとしても,その点は,当該頭板の有する機能の一つにすぎず,高さを変更できる点だけをもって,頭板の長さが異なる点を無視し, 「使用者の体格に対応させる」という目的が一切存在しないと認定することは誤りである。
b 頭板の長さがわずかしか違わないとしても,「使用者の体格に対応させる」という目的を有することを否定する理由にならないこと (a) 本件審決は,各種の頭板を置き換えても長さがわずかしか違わないと指摘するが,長さが異なれば,適宜取り替えることで使用者の姿勢や体格に対応させることができるのであるから,長さの違いの程度は「使用者の体格に対応させる」という目的を有することを否定する理由にならない。
(b) 甲4の8頁の「頭板外科及ENT」において,身長の非常に長い患者のときに,患者の足の先を載せるために, 「1002.73」の頭板を,Posi tionUの背板上部に取り付ける例が示されている(甲14の25頁において,同じ型番である「1002.73A0」のサイズが示されており,それによると,290×230mmである。甲32の取扱説明書では,背板上部に固定できる構成が示されている。。
) また, 「1002.81-B(頭板)(500×250mm)は,甲5の26頁及 」び27頁において,身長の非常に長い患者のときに,患者の足の先を載せるために,背板上部に取り付ける例が示されている。そして,甲5の3頁には,製品1と当該頭板が適合関係にあることが示されている。
したがって,製品1は,使用者の体格に対応するため,背板上部に長さの異なる頭板(型番:1002.73A0,型番1002.81-B)を着脱可能に支持する構成を有していたことは疑いがない。
この点,本件審決は, 「1002.73」が甲5の3頁の適合表において「1120.21」の欄に●が付されておらず, 「1120.21」に適用できるものとは推認できないと認定しているが,甲5の3頁の適合表に記載されていないアクセサリー番号も多く,全てのアクセサリー番号が甲5の3頁に掲載されていたものではない。「1002.73」というアクセサリー番号も,掲載されていないだけであり,当該アクセサリー番号が掲載されている上で,適合表の「1120.21」の欄に●が付されていないかのような評価は明確な誤りである。
(c) A陳述書においても,甲5について, 「マッケ1120のテーブルトップについて,背板と足板を比べると,当然足板の方が長いですので,このような使用をする場合は患者の身長によっては足が飛び出ることになります。したがって,足側下部に使用している背板の先に,頭板を取り付けて対応することになります。26頁の使用例で,患者の足先に記載されている『1002.81-B』はその使用例です。この患者の足先に取り付ける頭板アクセサリーは,特定の頭板に限定されているものではありません。術者等が適宜選択して使用することになります。
18頁に記載されている他の頭板『1002.81-D』『1002.62』 , (平型 頭板)等も,1002.81-B同様,身長が高い患者の足先に取り付けることができます。 と陳述し, 」 また,甲4について, 「8頁『頭部外科及ENT』でも, 『2.身長の非常に長い患者のときは1002.73の頭板を足の先につけて長くする。』とありますが,これも身長が高い患者の足先に取り付ける頭板の一例ということになります。」と陳述している。
(d) 本件審決は,頭板は身長の非常に長い患者のときに, 「足の先に付けて長くする」ものであるから,置き換えではないと判断するが,身長が非常に長い患者のときに,足の先に付けて長くする部材を選択的に取り付けることができる構成を有しているのであるから,体格に応じて置き換えが可能な構成であることは明白である。付け足した頭板を取り外し,長さの異なる頭板を付け足しても,これは付け足しにバリエーションがあるにすぎないので,交換ではないという論理は成り立ち得ない。
キ 甲20〜27及び36〜38の実写ビデオの認定の誤り 甲20〜27及び36〜38の動画で写っている手術台は,甲3の各写真の手術台と同一の手術台である。甲20〜27及び36〜38の動画は,甲3の各写真を撮影した者と同一人が,同一の日時,場所において,写真を撮影した同一の機器で合わせて撮影したものであり,各部材の着脱方法が詳細に示されている。
また,型番も動画の中で示されている。
したがって,甲20〜27及び36〜38により,製品1の構成を特定することができる。
(3) 本件発明と製品1発明との対比 ア 製品1発明Aの構成は前記(2)のとおりであり,本件発明は,いずれも製品1発明と同一である。
イ 本件審決について 本件審決は,製品1発明のフレームの着脱構成には「使用者の体格に対応させる」目的がないと判断した。
しかし,前記(1)エのとおり,本件発明における長さの異なる「交換装着フレーム」に係る使用者の体格への対応という用途は,組立式ベッドにおける複数の長さの支持構造体フレームという物の特性から当然に含意される,交換装着フレームの有用性を示しているにすぎないから,使用者への体格対応という用途に特に適した構造等を意味するものではないというべきである。また,本件発明は,用途発明でもない。
したがって, 「使用者の体格に対応させる」という用途限定のないものとして認定されるべきである。
仮に,本件発明は, 「使用者の体格に対応させる」という用途によって限定されていると解されるとしても,前記(2)のとおり,製品1に「使用者の体格に対応させる」目的が含意されていることは明らかである。
2 取消事由2(仮定的主張-製品1発明Aに基づく本件発明の進歩性判断の誤り) (1) 本件発明と製品1発明Aとの一致点及び相違点 ア 本件発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 「ベッド等において,床板を支えるフレームを,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造」 (イ) 相違点 本件発明1は,床板を支えるフレームを,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成にしたことの用途について,使用者の体格に対応させるためであることが明確であるのに対し,製品1発明Aは,床板を支えるフレームを,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成にしたことの用途について,使用者の体格に対応させるためであることが明確でない点。
イ 本件発明2との一致点及び相違点 (ア) 一致点 「ベッド等において,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造」 (イ) 相違点 本件発明2は,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成したことの用途について,使用者の体格に対応させるためであることが明確であるのに対し,製品1発明Aは,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成したことの用途について,使用者の体格に対応させるためであることが明確でない点。
(2) 相違点の判断 ア 製品1発明は「床板を支えるフレーム」を備え, 「当該フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」したものであるが,具体的なフレーム交換の構成は構成B〜Fで整理される。
例えば,構成Dでは,背板の他に,背板(短)をアクセサリーとして備え,これを足板と交換する技術が開示されるとともに,患者の足元に使用する床板及びフレームを,足板から長さの短い背板(短)に変更する技術が開示されている(甲5の26頁の下部の写真)。
また,構成Fは,小さい幼児や乳幼児用の体格に応じるため,足板(800mm)と長さの異なる小児外科用テーブルトップ(845mm)のフレームに置き換える技術が示されている。
さらに,構成Bについては,長さの異なる頭板を身長の非常に長い患者の足先に取り付けてベッドを伸長することが,甲4の8頁,甲5の26頁に明確に示されている。
したがって,製品1発明Aの技術には,少なくとも, 「長さの異なるフレームの交換」や「使用者の体格に対応させ」るための技術,機能自体が備わっている。
イ(ア) 製品1発明Aと本件発明との仮定的な相違点を,構成ごとに検討すると,以下のとおりとなる。
a 構成Dは,製品1発明Aを構成する背板又は足板との交換を行うものあり,これによりベッドの全長も変わるが,手術目的のために使用されるものであり,使用者の体格に応じる目的のために使用することまでは明確ではない。
b 構成Fは,製品1発明Aを構成する足板の一部交換を行い,体格の小さい幼児や乳幼児の体格に応じるという目的の下,足板よりも巾が短いサイズのフレームに置き換えているが,長手方向には足板よりも長いサイズのフレームに置き換えているため,身長の小さい使用者に対応するために,長手方向に短いフレームに置き換えるという構成にはなっていない(ベッドフレームの全長が体格に連動して変わっているものの,体格が小さい使用者に対応するためにフレーム交換をした結果,ベッドの全長が短くなっていない。。
) c 構成Cは,製品1発明Aを構成する足板及び背板の交換を行うものであるが,手術目的のために使用されるものであり,使用者の体格に応じるために使用することが明確ではなく,ポジションを変更しただけではベッドの全長が変わらない。
d 構成Eは,ベッドフレームの全長が変わるが,製品1発明Aを構成するフレームの一部に付け足されるものであるから,置き換えになっておらず,手術目的のために使用されるものであり,使用者の体格に応じるために使用することが明確ではない。
e 構成Bは,使用者の体格に応じるために取り付けるものであり,ベッドフレームの全長も体格と連動して変わるが,製品1発明Aを構成するフレームの置き換えではなく,フレームの付け足し部材に選択肢があるにとどまる。
(イ) 以上の仮定的相違点については,例えば,製品1発明Aの構成Dに同一 製品の構成F,Bの「体格への対応目的」という用途を組み合わせることや,構成Fに,構成D,E等における, 「交換するフレームの長さを,使用者の体格に沿わせ」て長くしたり,短くしたりするという構成を組み合わせることにより解消されることは明らかである。
そして,これら組み合わせは,全て製品1発明A自体が有する機能や用途の内側の事項であり,同一製品において内包する機能,用途,技術を,構成ごとに組み合わせているにすぎないのであるから,当業者において,適宜選択が可能な設計事項であったことは明らかである。
ウ 当業者の技術常識 (ア) 実願昭53-042122の実用新案登録願(甲64)には,小児から中年の患者の身長に応じて,頭受板,足受板,補助受板を適宜組み合わせ,連結して手術台を形成する技術が開示されている。
(イ) 実開昭55-063254の実用新案登録願(甲66)には,取り付け支持具上に着脱可能にした天板とマットを構成し,天板とマットの取り替えによりテーブルトップの長さを調節できるようにした手術台が開示されているところ,従来技術として,「テーブルトップTの長さは長身者をも充分に乗載できる程に長くすることは実用的ではなく,したがって一定の長さにされていて,長手方向端部(端面)に補助板L,L´が付設されているのが普通である。そしてこの補助板に長身者(大人)用,短身者(小人)用のものをつくりテーブルトップTに対して取り替え付設しテーブル長さを被術者に合わせて調節できる」ようにしていたことが示されている。
(ウ) 製品1発明のようなモジュール技術は,100年以上も前から手術台開発に携わる当業者にとっては技術常識であり,ありふれたものであった(甲67)。
(エ) 使用者の体格に応じるという目的,用途が一般的なものであったことは,@実公平7-48120号,A特開昭63-209612号,B特開平7-16132号,C実開昭61-29647号,D特公平7-110253号,E特開 平4-279161号,F実用新案第3011550号,G実開平7-14952号,H特公平7-4304号,I実用新案登録第2605516号,J特開平8-154783,K実用新案第3025994号の各公報にも示されている(甲17)。
(オ) 人の身体を支持,装着,保護,助ける装置,器具であって,人の身長や体格に応じて,異なるサイズや特性のものを用意しておき,体格に合うものを選択して使用する技術としては,@特開昭63-257565号,A特開平4-325116号,B特開平9-67711号,C特開昭62-97576号,D特開昭64-52419号の各公報に示された技術がある。
(カ) 人ではない対象物を支持,収容する装置,器具であって,対象物のサイズに応じて異なるサイズのものを用意しておき,対象物のサイズに適するものを選択して使用するものとして,@特開昭61-273818号,A特開昭61-207610号,B特開平1-201998号,C特開平6-105726号の各公報に示された技術がある。
エ 以上のとおり,構成Dに備わっていることが不明とした「体格への対応目的」という思想が,構成Fや構成Bの設計過程で既に技術化され製品1発明A自体が内包しているものであることに加えて,このような目的,用途自体は,本件特許の出願前の時点において当業者に一般的であったものであることからすると,同思想を構成Dにも適用して,短い背板アクセサリーにも「体格への対応」という用途を持たせることは,適宜当業者において選択が可能な設計事項であったことは明らかである。
また,製品1発明Aの構成Fに備わっていないとした, 「フレームの長さを,使用者の体格に沿わせて変更し,ベッドの全長を変える」という思想が,構成D,Eの設計過程で検討され技術化され製品1発明自体が内包しているものであることに加えて,このような課題及び技術が本件特許の出願前の時点において一般的に利用されていた技術思想であることからすると,同思想を構成Dにも適用し「交換するフレームの長さを体格の小さい幼児や乳幼児の体格に沿わせる長さにする」ことは, 当業者が適宜選択し得る設計事項であったことは明らかである。
したがって,製品1発明Aと本件発明との相違点に係る技術や課題は,当業者にとって適宜選択可能な設計事項であったのであり,本件発明に進歩性は認められない。
オ 被告は,製品1発明の構成Dについて,他の構成では体格に応じるという目的があることをもって,想定されていない目的(体格に対応)を,想定されていない態様(頭板は使用せず,背板(短)だけを使用)に適用すると本件発明と同じ構成に至るとの主張はいわゆる後知恵の主張であると主張する。
「MOC-1800小児外科手術台」のカタログ(甲76)には,前記1(1)エ(ウ)で主張した図及び説明文の他に,「全長60〜187pの間で幼小児の身長に応じて全長が選べることと,さらに手術目的に応じた機能のテーブルトップの組み合わせが自由に選択できます。」との記載があり(2頁),同記載からすると,モジュール構造を採用する手術台において, 「身長に応じ」て全長が選べることと「手術目的に応じ」た組み合わせが併存し,後者が前者を排斥する関係にないことが認められる。
したがって,背板(短)の他にも,体格への対応という,目的,用途を持ったものとして様々なサイズの床板を備えることは,適宜当業者が選択する設計事項にすぎないというべきである。
3 取消事由3(製品2発明に基づく本件発明の新規性判断の誤り) (1) 製品2に係る発明の認定 ア 製品2に係る発明は,以下のとおりである(同発明を,以下「製品2発明A」という。。
)A 介護用ベッドであって,B-1 ベースフレーム,駆動部フレーム,頭側アクセサリフレーム,足側アクセサリフレーム(以下,合わせて「アクセサリフレーム」という。)の各フレームを備え,脚座を介して駆動部フレーム及びアクセサリフレーム(以下,合わせて「メイ ンフレーム」という。)を支持し,メインフレーム上に床板を保持する構成としたものであり,B-2 駆動部フレームは,ベッド中央部に位置し,床板を起伏調節したり,昇降調節するための駆動部,すなわち駆動源とリンク類を保持し,ベッド長手方向の一対の外フレームの幅方向寸法が,床板幅方向に比較して狭く設定され,B-3 駆動部フレームには,アクセサリフレームにおける縦フレームが駆動部フレームの外フレームに,幅方向外側から挟み込むように係止させるためのピン部材と,固定ボルトによってアクセサリフレームを螺合させるための螺子穴を設け,B-4 アクセサリフレームには,駆動部フレームのピン部材と係合するための係止部及び固定ボルトを挿通させるための孔を設け,B-5 駆動部フレームに,上記アクセサリフレームを着脱可能に装着することのできる,組み立て式の介護用ベッド。
イ 本件審決の認定の誤りについて (ア) 本件審決は, 「使用者の体格に対応させる」という用途を本件発明の構成要件と位置付けて,甲6〜11,33には, 「使用者の体格に対応させるべく・ ・ ・構成」すること, 「フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能」に構成することは記載されていないと認定するが,前記1(1)エ(イ)のとおり,本件発明は, 「使用者の体格に対応させる」という用途によって限定されないから,本件審決の上記認定は誤りである。
(イ) 本件審決は,甲6の20頁の「アクセサリフレームには頭側用と足側用があります。間違わないように取りつけて下さい。」との記載から,製品2においては,置き換えは排除されていると認定するが,機械の分野における当業者において,そのフレーム構造の客観的・物理的構成としての置き換え可能な技術が開示されているか否かが問題なのであるから,使用者への注意喚起の内容をもって,置き換え可能性技術の開示を否定するのは誤りである。
(2) 本件発明と製品2発明Aとの対比 本件発明は,いずれも製品2発明Aと同一である。
4 取消事由4(仮定的主張-製品2発明Aに基づく本件発明の進歩性判断の誤り) (1) 本件発明と製品2発明Aとの一致点及び相違点 ア 本件発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 「ベッド等において,床板を支えるフレームを備えるベッド等におけるフレーム構造」である点。
(イ) 相違点 「ベッド等におけるフレーム構造」に関し,本件発明1は, 「床板を支えるフレームを,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」のに対し,製品2発明Aは,そのような構成を備えていない点。
イ 本件発明2との一致点及び相違点 (ア) 一致点 「ベッド等において,床板を支えるフレームを備えるベッド等におけるフレーム構造」である点。
(イ) 相違点 「ベッド等におけるフレーム構造」に関し,本件発明2は, 「床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」のに対し,製品2発明Aは,そのような構成を備えていない点。
(2) 相違点の判断 前記2(2)ウの技術常識が存在することからすると,相互に交換装着できる構成が開示されている製品2発明Aを基にして,長さの異なる複数の頭側又は足側アクセサリフレームを「使用者の体格に対応」させる目的で用いることは,当業者において容易であった。
したがって,上記相違点に関する事項は従来から周知されており,当業者にとって適宜選択可能な設計事項であるから,本件発明には進歩性は認められない。
5 取消事由5(製品1発明及び製品2発明に基づく本件発明の進歩性判断の誤り) 本件発明と製品2発明Aとの実質的な相違点は,フレームの一部(本件発明2については足側フレーム)を長さの異なるフレームに「置き換え可能」に構成しているといえるか否かに帰着するところ,以下のとおり,製品1発明Aのフレームの置き換え構成をこれに組み合わせることは容易想到であったというべきであり,本件発明は,進歩性が欠如している。
(1) 技術分野の関連性 製品2は介護用ベッドに関する発明であるのに対し,製品1は手術用のテーブルトップに関する発明であるが,いずれも,患者等の使用者を横たわらせるための場所であり,同等の役割を果たすとともに,医療分野の発明であるという意味では技術分野の強い関連性があるといえる。
手術台を製造しているメーカーは,医療用ベッドや介護用ベッド等を開発,製造している(甲15)し,在宅介護用ベッドは病院用ベッドの技術に基づき発展的に開発されてきた(甲16の78頁)。
したがって,製品2及び製品1は,本件発明と技術分野を同一にするものと評価されるべきである。
(2) 課題の共通性 製品1においては,複数のフレーム部材を組立て又は交換可能に構成することにより,一つの手術台で,患者の体格や姿勢に対応する優れた汎用的かつ経済的な手術台システムを実現したものであり,様々な患者に対応するために効率的かつ経済合理的な手術台の確保は,製品1が念頭においている課題であった。
製品2においても,身長の大きい人用に異なる規格のベッドを別に生産すると,コストや保管上の問題を抱えてしまう課題を有しているといえる。
したがって,製品2と製品1が念頭に置いている課題は共通しており,製品1の構成を,製品2に適用することは極めて容易であったといえる。
また,前記2(2)ウの技術常識が存在するから,ワンサイズしかない製品2を当業者が目にすれば,体格に応じてフレーム等の長さを変更するという課題の存在を読み取ることができる。
(3) 作用,機能の共通性 製品1は,複数のフレーム部材を組立又は交換可能に構成するものであり,複数のフレームを結合して組み立て,異なった長さのフレームを選択して装着し,フレームの長さを調節することを可能とする構成を採用している点において,製品2と共通の作用,機能を有している。
(4) 動機付けの存在 製品2は,本件発明と同様に,アクセサリフレームの先端に1箇所係止部が設けられ,中間部フレーム(駆動部)に上記係止部を係止させるためのピン部材を1箇所設け,アクセサリフレームに形成したボルト穴を介して挿通した固定ボルトを螺着するための螺子穴を設けた構成であることから,長さの異なるアクセサリフレームを交換して取り付けることは極めて容易な構成となっており,その示唆はその構成上十分に読み取れる。
そして,製品1の座板と背板フレーム,座板と足板フレームの各結合方法における具体的構成は,製品2と同じ係合手段に,製品2の螺合手段に極めて近い螺合手段を組み合わせたものであり,製品2と著しく類似したものであることからすると,製品2について,製品1と同様に,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能にする構成をとることについて,十分な動機付けが認められる。
(5) 阻害要因がないこと 製品2において,特段異なった長さのベッドフレームを交換することを阻害する要因は認められない。
(6) したがって,製品2発明Aに製品1発明Aのフレームの置き換え構成を組み合わせることは,容易想到であったということができる。
6 取消事由6(サポート要件違反の判断の誤り) (1) 本件発明の課題 本件発明の課題は,@背上げ,膝上げ操作(ギャッチ操作)を行うと,前記延長用床部は,足側床部と分離しているために起伏することはなく,フレーム側に保持され取り残されたままとなり,足側床部と延長用床部とが離隔状態となって,ギャッチ時の違和感があったこと,A本来ボードを取り付ける目板を使用して,足側床部に延長用床部を継ぎ足すため,外観上の問題もあったことである。
(2) 本件明細書の記載 本件明細書の記載によると,中間部フレームに足側フレームを取り付ける方法としては,足側フレームに係止部を1箇所設け,中間部フレームにこの係止部を係止させるためのピンを1箇所設け,これらをボルトで1箇所螺着させて固定するという構成しか開示されておらず,それ以外の構成についての具体的な開示はないし,これを示唆する表現もない。
(3) 本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるとはいえないこと 課題Aの「外観上の問題」の原因は, 「本来ボードを取り付ける目板を使用して足側床部に延長用床部を継ぎ足す」という従来の構成にあるが,本件特許の請求項1及び2には,この延長用床部の取り付けに関係する技術的事項は記載されておらず,フレームの構成を記載しているにすぎない。本件特許の請求項1及び2に記載されたフレームの構成から,延長用床部を目板に取り付けるという課題Aの原因となる構成がどのように改善されたかは不明である。
したがって,本件特許の請求項1及び2に記載されたフレームの構成が,どのような因果関係で課題Aを解決したのかを,当業者は理解することができない。
(4) 被告は,KA-080という型番の延長用床部をKA-900というベッド本体の頭側に取り付けた場合,延長した部分がフレームを欠くと主張する。
しかし,本件明細書の「フレーム全長を通常の寸法規格よりも長くした上で」 「延長用床部を設ける」との記載からすると,本件発明の従来技術においては,フレームの間隙は生じておらず,延長用床部の継ぎ足し部分が外観上の問題を生じさせていたと理解するのが自然である。
また,サイドフレーム部分の間隙という外観の問題は,継ぎ足すフレームの形状において,他のフレームとの外観上の統一性を備えていないことによって生じる問題であるから,KA-080に代わって本件発明を適用しても課題Aは解決しない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(5) 以上より,本件発明は,サポート要件に違反する。
被告の主張
1 取消事由1(製品1発明に基づく本件発明の新規性判断の誤り)に対して (1) 本件発明の意味 ア 「フレーム」について 本件発明において「フレーム」とはどのような構成を意味するのか,発明の要旨認定に当たっては,一般的な語句の用法ではなく,本件明細書においてどのような説明がされているかに基づき確定すべきである。
この点,本件発明は, 「床板を支えるフレーム」と特定されているように,フレームと床板とは一体的でなく別の部材であることを要することは明らかである。
このことは,本件明細書の段落【0005】に, 「このベッド1は,例えば基部フレーム(図示省略)に,脚部を介してメインフレームを支持し,メインフレーム上に床板を保持する構成としたもので,図では,メインフレームのうちの交換装着可能な足側フレーム2を示し,この足側フレーム2に足側床板3が支持されている。」といった記載や,段落【0013】の, 「前記足側フレーム2上に足側床板3を載せる。」といった記載並びに図2及び図3でフレームと床板とが別の部材として記載されていることからも明らかである。
イ 本件発明1の「使用者の体格に対応」して「異なった長さの交換装着用フ レームに置き換え可能」の意味 (ア) 広辞苑第六版(甲39)では, 「置き換え」とは, 「あれとこれを取りかえて置く」ことを意味すると説明され, 「xをyに―・える」との用例が紹介されており,同用例のとおり, 「置き換え」とは,別の物に取り換えることを意味するのであり,配置を変えるだけのものや部材を追加するものは「置き換え」に該当しない。
そして,本件発明1の特許請求の範囲の記載からすると,置き換える対象は, 「交換装着用フレーム」であり,どのようなものに取り換えるのかというと, 「異なった長さの」物(フレーム)に置き換えるのであり,どのような場合にこれらを置き換えるのかというと,「使用者の体格に対応」する際であると解される。
したがって,特許請求の範囲の記載からすると, 「使用者の体格に対応」させるべく異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能」とは,あらかじめ異なる長さの交換装着用フレームを用意しておき,それを使用者の体格に対応する際に,対応した長さの交換装着用フレームを選択してこれを交換することを指すと解される。
(イ) 本件明細書の段落【0001】 【0003】 〜 , 【0005】, 【0009】には,本件発明は足側のフレームについて通常規格のものと身長が高い場合の2種用意しておき,これを使用者の身長に応じて交換するものであることが明記されており,発明の詳細な説明の記載からも, 「使用者の体格に対応」して「異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能」とは,前記(ア)のとおり解すべきことが明らかである。
(ウ) また,被告は,本件特許の出願審査において,審査官から,本件発明は周知であるとして拒絶理由通知を受けたことから,以下のとおり主張して特許査定を受けた。
「第2ご引用例は,フレーム伸縮式延長構造であるということができ,第2ご引用例は,本願発明の開示する,フレーム交換式の延長構造とは相違するということができます。」 (エ) 以上からすると,本件発明1の「置き換え」とは,あらかじめ異なる長 さの交換装着用フレームを用意しておき,それを使用者の体格に対応する際に,対応した長さの交換装着用フレームを選択してこれを交換するものをいい,フレームを伸縮するようなものやフレームを継ぎ足すようなものはいわないことが明らかである。
ウ 本件発明2の意味 本件発明2では,特許請求の範囲に「足側床板に対応するフレーム」という記載もあることからすると, 「使用者の体格に対応」して「異なった寸法規格の交換装着用フレームに置き換え可能」とは,あらかじめ異なる寸法規格の足側床板に対応するフレームを用意しておき,それを使用者の体格に対応する際に,対応した寸法規格の足側床板に対応するフレームを選択してこれを交換することを指すと解される。
(2) 本件審決の製品1発明の認定に誤りはないこと 本件審決の製品1発明の認定に誤りはない。
ア 製品1に「フレーム」に相当する構成は開示されていないこと 前記(1)アのとおり,本件発明のフレームと床板とは,一体的でなく別の部材であることを要するところ,製品1は,背板等とレールが一体的な構成となっているため,フレームに相当する構成が開示されていない。
この点,甲52に表示された番号は,甲70によると「Maquet背板1120システム」とあり, 「1120.21B」ではないから,この記載だけでは,製品1(マッケ1120.21B)の背板と同じ製品か不明であり,また,パッド部の番号も部分的にしか一致しない。
また,甲31の3頁,12頁,14頁及び15頁並びに甲53の3頁に記載された「3111052 1」等の多数の構成部品は,いずれも甲5の6頁に記載された「1120.21B」の構成部品ではなく,製品1発明とは関係のない構成部品であり,参考にならない。甲55は,1頁の冒頭の「Ersatzteilliste」(スペアパーツリスト)との表題の右に,「1009.10A,-B,-C,-D」との型番が記載されているが,これらの型番は,甲5の3頁及び4頁には記 載がないから,製品1に適用できるものではない。
さらに,甲53,54,57及び58は,作成日が不明であるから,本件特許の出願日より前に販売されていた製品1の構成を特定するために用いることは許されない。同様に,甲56の作成日は平成12年8月1日であり,本件特許の出願日より後の製品に関するものであるから,製品1の構成を特定するために用いることは許されない。製品1では,同じ型番であっても,形状変更がされているため,本件特許の出願日より前の背板(短)の形状を甲56により特定することはできない。
イ 原告の主張する製品1発明Aの構成Dに関する認定について (ア) 本件審決は,座板上部にも背板(短)を着脱可能に構成できると認定していること a 原告は,本件審決は,製品1において,背板だけを,背板(短)に置き換えることも可能なことを認定していないと主張するが,本件審決は,製品1は,座板上部に背板(短)を着脱可能に支持できるものといえると認定しているから,原告の上記主張は理由がない。
b 甲4及び5では,背板(短)は,常に頭板とセットで記載されており,背板(短)だけを身長に合わせて交換するために背板に代えて使用するといった記載は一切ない。
背板(短)は,甲4の8頁でも甲5の20頁及び26頁でも,頭部の手術という項目において頭板とセットで紹介されていることからすると,背板(短)は頭部手術という特定の用途のためにのみ頭板と共に使用される部品であり,身長に合わせて交換可能という用途を認定することはできない。この点,原告も,審判請求書(乙1)では, 「手術時(頭部外科)の姿勢に応じて」背板(短)を取り付けると主張していた。
このように,製品1では,背板(短)は頭板と共に使用する必要があるという点や,頭部手術目的で使用するという点を無視し,頭板を使用しないまま,背板だけを,背板(短)に置き換えるという原告の主張は理由がない。
c また,背板(短)は頭板と共に使用する必要があるところ,原告主張のように,これらを背板と置き換えた場合に,そのような構成が使用者の身長に合わせて置き換えるものといえるかを検討するには, 「背板(短)+頭板」という構成と背板とでは,全長が変わるかを比較する必要がある。しかし,これらを比較した場合に長さが変化するかは不明である。
このように,全長が変化するかどうか不明である点からも,「背板(短)+頭板」という構成と背板の交換が利用者の体格に応じた交換であると認定するのは不可能である。
d さらに,甲4では,「2.身長の非常に長い患者のときは1002.73の頭板を足の先につけて長くする」旨明示されており,患者の身長に合わせるための構成は足側で,従来技術と同様に部品を付け足すことにより対応することとされており,背板を交換すること等によって対応するということは想定されていない。この点からも原告の主張が失当であることは,明らかである。
e 原告は,A陳述書を基に,背板(短)は体格に応じるためでもあると主張する。
(a) しかし,上記主張はAとは別の者の考えを説明するものであり,Aがどこで誰からそのような用途を聞いたかも分からない。
(b) また,Aの陳述内容には,以下のとおり,不自然な点があり,信用できない。
@ 甲5では,背板(短)は,眼科等の医科,手術部位に応じた頭板に関するアクセサリーとして紹介されているにすぎず,これを利用者の体格に応じて使用できるといった記載はない。また,甲4では,患者の体格に応じるための構成としては,本件発明の従来技術でもある部材(頭板)を足先に継ぎ足す構成しか開示されておらず,背板(短)等の部材を交換するといったことは開示されていない。
Aが陳述するように,これらの部材を患者の体格に応じて交換可能とすることが 予定されていたのであれば,その旨カタログでも説明されているはずであるにもかかわらず,そのような記載が一切ない。このことは,Aの陳述が客観的事実と矛盾するもので信用できないことを示している。
A Aは,マッケ社は小児外科用手術台を別途販売していたが,背板(短)を患者の身長に合わせて使用交換する方が場所もとらず経済的であるため,そのような需要に応えることができていた,すなわち,病院では小児外科用手術台を使う代わりに背板(短)で対応していたとも陳述する。
この点,A陳述書によると,当時マッケ社の手術台は東海大学等の大規模な大学病院(500床程度の病院)に納品されていたとあるが,このような大規模病院が,小児外科という専門的な知見を要する(子供は大人に比べて体が小さく,特に新生児・未熟児では非常に繊細な手術のテクニックが必要となる)手術を行う際に,小児外科用手術台を別途用意すると場所やコストが余計にかかることを理由として,大人用の手術台を流用して手術するとは考え難い。
B Aは,甲5の20頁では足側下部に背板が使用されていると陳述する。しかし,それが真実であるかは不明であるし,そのような使用例が「体格に応じて」なのかについてAは何ら言及していない。
甲5の20頁では,眼科等の手術目的に応じて,18頁〜20頁で紹介されている頭板や頭板取付具,背板及び背板の固定具を用いた例が紹介されているだけで,体格に応じて足側に背板を用いる構成を開示するものはない。このことから,仮に,甲5の20頁で背板が足側下部に使用されているとしても,それは「体格に応じて」ではなく,頭部手術のための体勢をとるためであると考えるべきである。現に,甲5の20頁でも,平型頭板「1002.62」が装着されており,患者の頭部は背板(短)よりも高い位置にあることが読み取れる。
C Aは,?背板と足板を比べると当然足板の方が長い,?このような使用をする場合は患者の身長によっては足が飛び出ることになる,?これに対応する場合,甲5の26頁にあるように,足側で使用している背板の先に頭板を取り 付けて対応すると陳述する。
しかし,上記陳述からすると,体格に応じる(前記?)ための手段は,頭板を足先に継ぎ足すという構成であり,このような構成は本件発明とは異なる構成である。
また,足板よりも長さが短い背板を利用したため患者の足がはみだすというのであれば,背板ではなく足板を使えばいいだけのはずである。それにもかかわらず,あえて足板に代えて背板を用い,さらに患者の体格に応じるために頭板を継ぎ足していることからすると,足板に代えて頭板を使用するのは患者の体格に応じるためとは考え難い。
(イ) 背板(短)と背板の部材が同一部材であるか否かについての本件審決の認定は正しいこと 原告は,本件審決は,背板(短)と背板の部材が,同一部材であるか否かが確認できないと評価している点で誤っていると主張するが,本件審決は, 「背板(短)+頭板」という構成と背板とでは,全長が変わるかを比較する必要があるが,背板の長さが原告提出の証拠には記載がないため,比較できないと判断しているのであり,背板の部材と背板(短)とが別の部材であるか否かが不明であると判断したわけではない。
(ウ) 背板(短)を取り付けた際の手術台の全長は不明であるとの本件審決の認定は正しいこと a 原告は,手術台の全長の長さの変化は本件発明では不要であると主張するが,本件明細書では,「使用者の体格,すなわち身長に応じて」(段落【0001】 とあるように, ) 身長に対応して異なる長さのフレームを交換することが明記されているから,原告の上記主張は理由がない。
b 原告は,製品1においては,通常の背板や足板と背板(短)とを交換した場合は長さが変わると主張する。
しかし,前記(ア)b,cのとおり,製品1においては,背板を短いものに交換するのは手術の目的に対応するためであり,使用者の体格に対応させるためではない。
そして,その際,製品1では頭板と背板(短)は常にセットとして使用されており,「背板(短)+頭板」という構成と背板とでは,全長が変わるかどうか不明である。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
c 原告は,頭板アクセサリーを含めて全長を比較することは不当であると主張する。
しかし,製品1においては, 「背板(短)+頭板」という構成と背板とを比較する必要があることは上記bのとおりである。
また,甲5の26頁の写真では,頭板に代え,脳外科用の基本ユニット(1005.29),クランプアダプター(1005.34)及びメイフィールドスカル(すなわち頭蓋骨)クランプ(1005.35)を使用して頭部を支えており,これらは頭板と同様の機能を奏している。このため,これらを含めて手術台の全長が変わるかを検討しなくてはならないが,この点は不明である。
また,甲5の27頁の写真は,座位で頭部を手術するという手術目的に応じて頭板を使用していないにすぎない。
d 原告は,甲5の20頁の写真において頭板を含めて全長を比較した場合でも手術台の全長は短くなる,上記写真は,足板に代えて背板(短)を使用した事例であると主張する。
しかし,甲5の20頁の写真では,下半身に使用されている部材については型番が付されておらず,この部材が何かも分からないし,足板に代えてこの部材が用いられているのは,利用者の体格に応じるためではなく,手術目的に応じるためである。また,手術台の全長は,頭板「1002.62」及び頭板取り付具「1002.64」も含めて長さを比較する必要がある。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
e 原告は,甲61以下の証拠に基づく周知技術やA陳述書を援用して,製品1では背板(短)を身長に合わせて使用することができる,又は使用していたと主張する。
しかし,上記の各証拠は製品1に関するものではないし,前記(ア)のとおり,A陳述書は信用できない。
また,製品1では,背板(短)は頭部手術目的のため,頭板とセットで使用することしか記載がない上,手術台の全長が変化するか不明であるし,使用者の体格に対応するためには足側に頭板を取り付けて対応することとされていたのであり,製品1以外の他社の手術台において長さを可変とする構成が開示されていたとしても,そのことをもって製品1において頭板を使用することなく,背板(短)のみを使用者の体格に応じるために交換していたと認定することはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告の主張する製品1発明Aの構成Fに関する原告の主張について (ア) 本件審決に係る無効審判請求の審理に際して,原告は,甲5のうち小児外科用テーブルトップに関する記載に基づき本件特許が新規性を欠くとの主張はしていなかったし,特許庁もこの点につき具体的な検討を行っておらず,本件審決においてもこの点に関する判断は示されていない。
小児外科用テーブルトップは,甲5に記載されているものの,本件審決に係る無効審判請求の審理における原告の主張とは別の公知事実,別の発明であり,別の無効理由となる。
したがって,小児外科用テーブルトップ(構成F)に基づく主張は本件訴訟の審理対象外である。
(イ) 予備的主張 甲5の16頁では,下図のとおり,小児用として利用する箇所のみが濃色で,それ以外の座板等の構成は薄色で描かれている。小児外科用テーブルトップの周囲には,馬蹄式マクラ(1002.70),上肢台(1001.14),レッグホルダー(1001.70)等が配置されており,下図のような使い方を想定していることからも,小児の外科手術時に,小児外科用テーブルトップのみが使用され,薄色で描かれた座板等は使用されないことは明らかである。このような構成は,本件発明 にいう「フレームの一部」を置き換えるものではない。
また,甲5の16頁において小児外科用テーブルトップを手術台の足板の位置に取り付けるのは,「術者の足の部分の空間を広く開ける」ためであり,「使用者の体格に対応させるため」ではない。
エ 原告の主張する製品1発明Aの構成Cに関する認定について 原告の主張は,本件発明において全長の変化は要件とならないことを前提としているが,前記イ(ウ)aのとおり,上記主張は理由がない。
また,甲5の20頁の写真に基づく原告の主張については,前記イ(ウ)dのとおり,これらの写真では足側に使用されている部材が何かは分からないし,足板とその他の部材とを交換した目的が「体格に対応させるべく」というものであるかは不明である。
オ 原告の主張する製品1発明Aの構成Eに関する認定について 原告は,延長用補助部材を使用して異なる長さの交換装着用足板を別にあらかじめ用意することができ,また,延長用補助部材を使用した部材と使用しない部材とを選択的に装着することが可能であると主張する。
しかし,使用者としては代わりの足板を保有することなく,足板と延長用補助部材さえ保有していれば,患者の身長に応じた手術台を提供することが可能であるにもかかわらず,これに加えて,これらのセットを保有すると,コスト増や保管スペースが必要になるといったデメリットが生じる。このため,製品1の使用者が足板と足板及び延長用補助部材のセットの2セットを保有することは考え難く,原告の主張は机上の空論である。また,原告の主張は,使用者が足板だけを購入することができることを前提としているが,これが可能か否かは不明である。足板だけ購入することができない場合,使用者は上記の二つの足板セットを保有することはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
カ 原告の主張する製品1発明Aの構成Bに関する認定について (ア) 原告は,本件審決が製品1が頭板を備えていないと認定したことは誤りであると主張する。
しかし,原告はこの点が誤りであるとした場合に,本件審決を取り消すべき重大な瑕疵があることについて主張しておらず,原告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告は,個々の頭板が250mm,260mm,270mmと長さが異なる以上,このような長さの相違から使用者の体格に応じるとの目的は否定できない旨主張する。
しかし,甲5の18及び19頁には,様々な頭板が紹介されているところ,これらの頁のヘッダーには, 「頭板(ヘッドレスト)-眼科,ENT,一般外科,麻酔関係」と,医科の種類に応じた頭板の用途が列記されており,また,それぞれの頭板の形状が異なることからすると,これらの頭板は手術の用途にあった患者の体勢を提供するために様々な種類が紹介されていると考えるのが相当である。
また,わずか2センチの長さの違いは,患者の体格に応じた手術台を提供するという目的を仮定したとしても,有意な差とはいい難い。頭板は,それぞれの手術目的に対応した部材を提供するため形状が異なり,その結果たまたま長さが若干相違 したにすぎず,使用者の体格に対応させるという目的は認められない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
キ 甲20〜27及び36〜38の実写ビデオに関する認定は正しいこと 上記実写ビデオのプレートから,文字や数字等がすべて明瞭に読み取れるものではない。
(3) 製品1発明に関する本件審決の一致点,相違点の判断に誤りはないこと 前記(2)のとおり,製品1発明に関する本件審決の認定に誤りはないから,本件審決の一致点,相違点に関する判断も正しい。
ア 原告は, 「使用者の体格に対応させるべく」という文言は発明を特定するものではなく,フレームを交換するものであれば本件発明の構成を開示するものであるという趣旨の主張をする。
しかし,前記(1)イのとおり,本件発明は「使用者の体格に対応させるべく」という文言から明らかなとおり,フレームの一部を交換することにより,使用者の身長等の体格差に対応したベッドを提供する発明である。
このように, 「使用者の体格に対応させるべく」との文言はフレームの構成を特定するために意味があるのであり,原告が主張するようにこの記載を無視して交換されるフレームが全長を1センチや2センチだけ変更するにとどまるものも本件発明に係る構成を開示するということは失当である。
イ 原告は,甲5の16頁で,足板側に小児外科用テーブルトップを取り付けていることから,本件発明2の「足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」との構成の開示があると主張する。
しかし,本件発明2は,「足側床板に対応する足側フレーム」を,「使用者の体格に対応」して「異なった寸法規格のもの(=足側フレーム)」に交換するものであるから,交換後のフレームも足側フレームである必要がある。
また,製品1発明の構成Fでは,足板と交換される小児外科用テーブルトップは 文字通り小児外科用のテーブルトップであり,足側フレームとは用途も異なるし,患者の全身が寝かせられることからも,足側フレーム(フレームの一部)ともいえない。
したがって,甲5の16頁は,本件発明2の上記構成を開示するものではなく,原告の上記主張は理由がない。
2 取消事由2(製品1発明に基づく本件発明の進歩性判断の誤り)に対して 原告は,本件発明の構成要件につき, 「製品 1 発明を構成するフレーム部分の一部を交換」「体格への対応目的」「交換するフレームの長さを,使用者の体格に沿わ , ,せて変更し,ベッドの全長を変える」との三つの構成要素に分けた上で,構成B〜Fにつき,上記要素の開示があるかを検討して,構成D(体格への対応目的を開示していない)に構成F及びBの「体格への対応目的」という用途を組み合わせることで仮定的相違点が解消されると主張する。そして,原告は製品1発明内の各構成の組合せが容易であったことは,同一製品において内包する機能,用途,技術を,構成ごとに組み合わせているにすぎず,設計事項であるし,当時の技術常識を前提とすると明らかであると主張する。
(1) しかし,原告は本件審決に係る無効審判請求の審理において,上記の主張はしておらず,「体格に応じてフレーム等の長さを変更するという課題は,・・・ベッドの開発に携わる当業者が等しく抱えていた極めて一般的な課題である」と主張していたにとどまり,また,本件審決も上記の主張に対する判断をしていない。製品1発明の構成B〜Fはそれぞれ別個の技術事項であることも踏まえると,原告の主張は, 「設計事項」という名目の下,甲61以下の証拠に基づく異なる構成(公知事実)を組み合わせることにより相違点を解消できるという新たな進歩性欠如の主張をするものであり,本件訴訟の審理事項から排除されるべきものである。
(2)ア 本件発明は,体格に応じてフレームの長さを変更する際に生じる外観上の問題(本件明細書の段落【0003】)という従来技術に対する新たな課題を解決するために,「使用者の体格に対応させるべく」 「フレームの一部を」 , 「異なった長 さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成」する発明であり,これらの要素は一連一体のものであって,要素ごとに検討することは不当であり,また,従来技術についても同様である。
イ 製品1の個々の構成はそれぞれ別個の技術事項であり,特定の目的を達成するために設けられた構成であるため,個々の構成はその前提が異なる。
例えば,製品1発明の構成Dの背板(短)は,あくまでも手術目的のためであり,これを他の目的に流用はできないし,背板(短)を使用する際には必ず頭板も同時に使用する必要がある。そして,構成Dについては,甲4にあるように,身長の差異については足先に頭板を取り付けることで対応することが想定されている。
このような構成Dについて,他の構成(例えば構成B)では体格に応じるという目的があることをもって,想定されていない目的(体格に対応)を,想定されていない態様(頭板は使用せず,背板(短)だけを使用)に適用すると,本件発明と同じ構成に至るとの原告の主張は,いわゆる後知恵の主張にすぎない。
ウ また,甲17から,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成することは従来から周知であるとはいえない。
3 取消事由3(製品2発明に基づく本件発明の新規性判断の誤り)に対して 製品2は,本件特許の出願日より前には,異なる寸法規格に対応するための交換用の延長フレームは存在しておらず,ワンサイズしかなかったのであるから,本件発明の「使用者の体格に対応」に対応して「異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能」及び「異なった寸法規格のものに,交換装着」という構成を有しておらず,この点は,本件発明との相違点となる。
原告は,本件発明の要旨認定に当たっては, 「使用者の体格に対応させるべく」との用途を読み込む必要はないと主張するが,使用者の体格に対応させるべく」 「 とは,フレームの構成を特定するために意味があるのであり,原告の上記主張は誤りである。
したがって,本件審決の判断は正しい。
4 取消事由4(製品2発明Aに基づく本件発明の進歩性判断の誤り)に対して 前記3のとおり,原告の取消事由3は理由がないから,取消事由4も理由がない。
5 取消事由5(製品1発明及び製品2発明に基づく本件発明の進歩性判断の誤り)に対して 前記1,3のとおり,製品1発明も製品2発明も,使用者の体格に対応させるべくフレームの一部を置き換え可能に構成するとの構成を開示するものではないから,これらを組み合わせたとしても,相違点は解消されず,この点の進歩性判断に関する本件審決の判断は正しい。
6 取消事由6(サポート要件違反の判断の誤り)に対して 本件発明の従来技術に当たる製品は,かつて被告が取り扱っていたKA-080という型番の製品である(甲43)が,この延長用床部をKA-900というベッド本体の頭側に取り付けた場合,延長した部分がフレームを欠くとともに,延長用床部がその他のフレームに比してはみ出てしまい,外観上の問題(原告が主張する課題A)が生じる。
これに対し,本件発明にあっては,フレーム自体を交換するため,このようなフレームからはみ出す箇所が発生しないため,従来技術に比して外観が向上する。このように,本件発明1及び2を採用することにより,課題Aが解決されることは明らかである。
したがって,サポート要件違反についての本件審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件明細書には,以下の記載がある(甲18)。
【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,寸法規格の異なる足側のフレームを用意しておき,使用者の体格,すなわち身長に応じて,適合する足側のフレームを選択的に装着するようにした,ベッド等におけるフレーム構造に関するものである。
【0002】【従来の技術】従来,ベッドは,所定の規格を基に形成されており,例えば使用者の中には,前記規格のベッドでは適合しない人(身長が高すぎてマットレス上に乗ると,足がフットボードに当たって,大腿部から下肢部を伸ばすことができない人)もおり,このような使用者のために,予めフレーム全長を通常の寸法規格よりも長く設定しておき,足側床部に,延長用床部をボード取付け部の目板を利用して取り付けて対処してきた。
【0003】 【発明が解決しようとする課題】そのため,背上げ,膝上げ機構を備えたベッドにあっては,背上げ,膝上げ操作(ギャッチ操作)を行なうと,前記延長用床部は,足側床部と分離しているために起伏することはなく,フレーム側に保持され取り残されたままとなり,足側床部と延長用床部とが離隔状態となって,ギャッチ時の違和感があった。また,本来ボードを取り付ける目板を使用して,足側床部に延長用床部を継ぎ足すため,外観上の問題もあった。本発明はこのような課題を改善するために提案されたものであって,寸法規格の異なる足側のフレームを用意しておき,使用者の体格,すなわち身長に応じて,適合する足側のフレームを選択的に装着するようにした,ベッド等におけるフレーム構造を提供することを目的とする。
【0004】 【課題を解決するための手段】前記した課題を解決するために,本発明は,ベッド等において,床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した。また本発明は,ベッド等において,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した。さらに前述の構成において,足側床板に,マットレス保持枠を,フットボード側に指向して突設する一方,このマットレス保持枠に,延長マットレスを載置するようにして,床部のギャッチ動作を行なうようにした。
【0005】 【発明の実施の形態】次に,本発明にかかるベッド等におけるフレーム構造について,一つの実施の形態を示すと共に,添付の図面に基づいて,以下説 明する。図1,図2に本発明にかかるフレーム構造を適用したベッド1における足側の箇所を示す。このベッド1は,例えば基部フレーム(図示省略)に,脚部を介してメインフレームを支持し,メインフレーム上に床板を保持する構成としたもので,図では,メインフレームのうちの交換装着可能な足側フレーム2を示し,この足側フレーム2に足側床板3が支持されている。また,前記足側フレーム2のフレーム長手方向末端側には,フットボード4が装着され,フットボード4と足側床板3との間には,隙間Gが存在しており,この隙間Gに形成され,この隙間Gに,延長マットレス5を保持するマットレス保持枠6が突設されている。
【0006】前記足側フレーム2は,図3に示すようにベッド全体の長さ,すなわち床板全長を調節決定づける長さLを有する一対の縦フレーム2a,2aと,床板幅に対応した寸法の横フレーム2bとを有し,さらに前記双方の縦フレーム2aに,床板幅方向外側に突出するようにアクセサリフレーム7が設けられている。
【0007】前記縦フレーム2aは,ベッド中央側に指向する側の端部に,後述するメインフレームにおける中間部フレームに着脱可能に係止させるための合成樹脂製の係止部8を設けている。一方,アクセサリフレーム7におけるベッド足側端部に相当する端部側には,フットボード4を着脱自在に装着するための支持金具9を備えている。そして,前記アクセサリフレーム7と縦フレーム2aとは,縦フレーム2aのベッド中央側に指向する側の端部における係止部8近傍において,連結部材10を介して連結しており,また双方のアクセサリフレーム7は,ベッド足側端部に相当する端部側の支持金具9近傍において,補強用の横梁11によって連結している。
【0009】以上のように構成される足側フレーム2は,使用する人の体格(身長)が通常より高い場合に対応させたものであり,フットボード4と足側床板3との間に形成された隙間Gにおいて,突設したマットレス保持枠6に前記延長マットレス5を保持するようにし,ギャッチ操作によって,作動する足側床板3にマットレス保持枠6を介して前記延長マットレス5を連動させるようにしている。なお, 以上のように構成される足側フレーム2は,通常規格のものに置き換える場合,フットボード4と足側床板3との間の隙間Gがなくなるので,マットレス保持枠6を足側床板3から取り外して,足側床板3に載る別サイズのマットレス保持枠(図示省略)を装着するようにしている。
【0011】以上のように構成されるベッド等におけるフレーム構造によれば,使用者の身長に応じてその身長に適合した足側フレーム2を交換装着して対応させるようにしたので,特に通常人より身長の大きい人にも問題なく使用することができる。このように異なった寸法規格の足側フレーム2を交換して対応するだけであるから,ベッド自体は一つの規格のもので足り,異なる規格のベッドの生産ライン設備は不要であり,また,一規格のベッドを最大限に使用することが可能となり,コストダウンにもつながる。
【0013】そして,前記足側フレーム2上に足側床板3を載せる。この際,足側フレーム2が,通常人より身長の大きい人に対応するものであるときは,フットボード4と足側床板3との間に隙間Gが出現するので,隙間Gをカバ-するように,足側床板3にマットレス保持枠6を突設して,延長マットレス5を保持することができる。これにより,ギャッチ操作を行なうと,足側床板3の作動と共にマットレス保持枠6が連動するので,前記延長マットレス5は,足側床板3上のマットレス本体Mの動きに追随し(図2参照) 途中でマットレス間で不連続となるようなこと ,はなく,使用感も外観上も違和感のないものとすることができる。
【0014】 【発明の効果】以上の通り,本発明によれば,フレーム交換式なので,延長した時にも外観が向上した。また,延長したフレームに交換した際,マットレスの延長分をマットレス保持枠で保持するため,従来のようにギャッチ操作時に延長用床部がフレーム側に保持され取り残されたままとなり,足側床部と延長用床部とが離隔状態となる事に起因する違和感はなくなり,体とマットレスのギャッチ時の一体感も向上した。
【図1】 【図2】【図3】【図4】 【図6】2 製品1の認定 証拠(甲1,2,4,5)及び弁論の全趣旨によると,製品1について,以下の各事実が認められる。
(1) マッケ社は,昭和47年〜平成7年当時,日本国内において,製品1を販売していた。
(2) 製品1は,手術を行う際に患者をその上に寝かせるための手術台テーブルトップであり,手術を行うときは,床に固定された「コラム」という名称の台座に固定されるが,搬送車に固定して,患者を乗せて病室と施術室との間を移動することもできる。
(3)ア 製品1では,@背板上部と背板下部によって構成される背板,A座板上部と座板下部によって構成される座板,B右側の上部足板及び右側の下部足板によって構成される右側足板,C左側の上部足板及び左側の下部足板によって構成される左側足板の四つの独立したコンポーネントを,背板,座板,足板(右側足板及び左側足板)の順に組み合わせることによって手術台テーブルトップを形成しており,座板の部分が,別の固定用の部材を介して,コラム又は搬送車に固定される。
以下の写真のうち,中央下に写っている台座がコラムであり,コラムの上に位置する二つのパッドが座板のパッドであり,コラムの右に位置する二つのパッドが背板のパッドであり,コラムの左側に位置する四つのパッドのうち,向こう側の大小二つのパッドが右側足板のパッドであり,手前側の大小二つのパッドが左側足板のパッドである。上記各コンポーネントを連結した場合の短手方向の幅は,各コンポーネントとも500mmである。
イ 背板,右側足板及び左側足板は,それぞれ,座板に連結することができる。
背板上部と背板下部,右側の上部足板と右側の下部足板,左側の上部足板と左側の下部足板,座板上部と座板下部は,それぞれ一体的に形成されており,分離することはできない。
ウ 背板は,棒状の金属製部材と長方形及び略長方形の二つのパッドによって構成されている。背板の棒状の金属製部材は,2か所で直角に折れ曲がり,平面視においてコの字の形状を形成している。背板のパッドは,その縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定されているが,背板を座板に連結した場合,金属製部材の上に位置する。
背板の棒状の金属製部材の二つの端部は,座板の二つの棒状の金属製部材の両側の端部と連結することができ,これにより,背板は,座板と,患者の上半身側と下半身側のいずれの側にも連結することができる。
エ 右側足板は,L字状の棒状の金属製部材と長方形及び略正方形の二つのパッドによって構成されている。パッドは,その縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定されているが,右側足板を座板に連結した場合,金属製部材の上に位置する。左側足板も同様の構成をしている。
右側足板及び左側足板とも,L字の長い方の金属製部材の端部(いずれも,以下「足板連結端部」という。)を,座板の二つの棒状の金属製部材の両側の端部と連結 させることができ,これにより,右側足板及び左側足板は,患者の上半身側と下半身側のいずれの側にも連結することができる(ただし,右側足板は,座板に連結する場合に座板から見て右側にしか連結することができず,左側足板は,左側にしか連結することができない。 。
) オ 座板は,二つの平行する棒状の金属製部材と略長方形の二つのパッドによって構成されている。座板のパッドは,両側の縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定されているが,座板をコラム又は搬送車に固定した場合,金属製部材の上に位置する。
座板は,二つの棒状の金属製部材の両側の端部において,背板の棒状の金属製部材の二つの端部及び各足板連結端部と連結することができる。
カ 背板と足板,背板と背板,足板と足板を連結することはできない。
(4) 製品1には,各種のアクセサリーが用意されている。アクセサリーには,以下のものがある。
ア 背板(短) 背板(短)は,棒状の金属製部材と長方形の一つのパッドによって構成されている。背板(短)のパッドは,その縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定され,背板(短)を座板に連結した場合,金属製部材の上に位置する。
背板(短)の棒状の金属製部材の片側の二か所の端部は,座板の二つの棒状の金属製部材の両側の端部と連結することができ,これにより,背板(短)は,座板と,患者の上半身側と下半身側のいずれの側にも連結することができる。
背板(短)を座板に連結した場合の短手方向の幅は500mmである。
背板(短)には,各種の頭板を連結させるための部材である固定具「1005.24」が用意されており,同固定具と頭板取付具「1002.64」を取り付けることによって,平型頭板「1002.62」を連結することができる。
背板(短)を,背板,足板,背板(短)に連結することはできない。
イ 頭板 製品1には,頭板「1002.81-B」「頭板1002.81-D」 , ,頭板「1002.86」,平型頭板「1002.62」,メイフィールドスカルクランプ「1005.35」等の頭部用の部材(これらの部材のいずれかを,また,これらの部材を併せて,以下「各種頭板」ということがある。)を連結することができる。
(5) 背板,足板,背板(短)の長さは,それぞれ異なり,長い方から,足板,背板,背板(短)の順であり,足板は背板より相当程度長い。
3 甲1,2,4及び5の記載事項 (1) 甲1の「マッケ手術台システム1120」のカタログには,手術台システム1120シリーズの説明がされているが,その中で, 「マッケ1120手術台システムは各コンポーネントの組み合わせで構成されます。」との記載がある(5頁)。
(2) 甲2の「マッケ手術台システム1120」のカタログには,手術台システム1120シリーズの説明がされているが,その中で, 「マッケ手術台システム1120は,モジュール方式でデザインされ」 (2頁)「広く世界的に採用されている非 ,常にフレキシブルなモジュール方式の手術台システムです。(3頁)との記載があ 」る。
(3) 甲4は,手術台システム1120シリーズの使用説明書であるところ,甲4には,左から背板,座板,足板を配置したPositionTと,左から足板,座板,背板を配置したPositionUが記載されており,その説明として, 「PositionT ・・・この位置では腰から上部の手術に適しています。この部分が完全にX線透過に適しているからです。, 」「PositionU・・・腰から下の部分が完全にX線が透過するようになっているのでこの部分の手術に適しております。」との記載がある(7頁)。
また,甲4には,手術方法に対応した患者の姿勢並びにコンポーネント及びアクセサリーの組合せの方法について説明した箇所(8頁)があり,その中で, 「頭部外科及ENT」の項目において, 「(テーブルトップはPositionUにする)1.足板を外しサポートアーム(1005.46)のついた短い背板を取付けます。2. 身長の非常に長い患者のときは1002.73の頭板を足の先につけて長くする。
3.頭部外科のときは1005.48又は1005.49の附属品を取付ける。4.ENT用には1002.61を取付ける。」との記載があり,同記載の横に,左から順に,頭板,サポートアームの付いた背板(短),座板,背板及び頭板を配置したテーブルトップの図が記載されており,同テーブルトップの上には患者が左側を頭にして寝ている状況が描かれており,同人の足の踵は右側の頭板上に位置する。
甲4は,手術台システム1120シリーズの使用説明書であるから,上記の各説明は製品1の説明であると認められ,上記頭板1002.73が甲5の3頁及び4頁の適合表に記載されていないことは,この認定を左右しない。
(4) 甲5は,マッケ社の手術台用のアクセサリーのカタログであるが,その中には,患者を手術台に寝かせた使用例の写真として,以下のものがある。
ア(ア) 20頁(最も下の写真) 「頭板-眼科,ENT,一般外科,麻酔関係」との表題のもと,患者の頭側の方から順に,平型頭板「1002.62」,頭板取付具「1002.64」,固定具「1005.24」,背板(短),座板,背板の配列で組み合わせられた手術台の写真が示されており,同手術台上の患者の頭及び肩は平型頭板「1002.62」上に,踵は背板上部の上端付近に位置している。
(イ) 26頁(下から2番目の写真) 「脳外科」との表題のもと,患者の頭側の方から順に,メイフィールドスカルクランプ「1005.35」を取り付けた背板(短),座板,背板,頭板「1002.81-B」の配列で組み合わせられた手術台の写真が示されており,同手術台上の患者の頭はメイフィールドスカルクランプ「1005.35」上に,肩は背板(短)上に,踵は,背板からわずかにはみ出し,頭板「1002.81-B」上に位置している。
イ 上記ア(ア),(イ)の写真では,背板(短)が使用されているところ,背板(短)は,甲5の4頁の適合表によると,製品1にしか適合しないものと認められ るから,これらの写真は,製品1に各種アクセサリーが結合されたものと認められる。
ウ 被告は,上記ア(ア)の20頁の写真について,患者の足側の端に配置されているコンポーネントは,背板であるか否かは明らかではないと主張する。
しかし,甲5の写真では,アクセサリーについてはアクセサリーの型番が記載されているが,製品1の基本コンポーネントについては型番が記載されていないものと認められるから,同写真の患者の足側の先端に配置されているコンポーネントは,型番が付されていないこと及びその形状からすると,背板であると認められる。
4 手術台に関する文献について (1) 若杉文吉「全油圧駆動手術台の機構と機能」外科治療5巻1号,昭和36年(甲61)には,以下の記載があり,椅子状の手術台の背板に背部補助板が取り付けられ,背板の長さが延長されている写真が付されている。
「坐位による手術の対象となるのが小児から成人まで考えなければならないので本手術台では第8図の如き背部補助板を使用する。背板の大きさが成人用にきまっている手術台での坐位は坐ぶとんをしきその上に小児を腰掛けさせることになるが繁雑となり固定も不充分となる。この補助板を除けばかなり小さい小児でも使用できるし又体格のよい人でも巾10cmの板の移動により十分である。テーブルの巾は狭いが上肢は図のように外方に出してもよいわけである。」 第8図 (2) 日本小児外科学会器械委員会・日本器械学会合同委員会「小児に用いられている手術台のアンケート集計結果」日本小児外科学会雑誌19巻6号,昭和58年10月(甲62)には,以下の記載がある。
ア「T 対象 日本小児外科学会の第5回評議員選出評議員(昭和56,57年度)の304名を対象にアンケート調査を行った。回答を得られたのは99名(32.5%),75施設であった。回答率が低かったのは,1施設より複数の評議員が選出されている場合,施設代表として 1 人から回答されることが多かったためと思われる。1施設で機種の異なる2〜3台の手術台を使用しているところもあり,手術台数の合計は80台となった。従って集計の対象は,75施設,80台の手術台とした。回答を頂いた施設は表1に示した通りである。(144頁) 」 イ 「1.手術台の幅,長さ,高さ 手術台の幅と長さおよび高さに関しては表2の通りである。小児外科手術とくに新生児の手術で間題となるのは手術台の幅であるが41〜45cmが34台,46〜50cmが29台と多く,41〜50cmが80%近くを占めていた。40cm以下では40cmが4台,38cmが1台,35cmが2台であった。41cm以上の手術台の多くは成人用として作られたものであり,小児と兼用で使用している施設が多かった。
手術台の長さについてみると,171〜180cmが17台,181〜190cmが22台,191〜200cmが24台と多く,171〜200cmが63台と80%近くを占めていた。短い手術台では130cm以下が8台であった。
手術台の一部を着脱することにより,長さを加減して使用出来る可変式の手術台は39台で,半数近くが可変式であった。40〜50cm位に短縮可能な手術台は18台あり,51〜60cmが7台,61〜70cmが3台であった。(145頁 」〜146頁) ウ 「手術台のサイズについてみると,小児専用と思われる手術台も数施設で使用されているが,多くは成人と兼用の手術台が用いられているのが現状と思われる。(147頁) 」 エ 「表6 手術台に対する意見,要望・・・ 小児専用手術台は不要。sizeに合わせたattachment を」(147頁) (3) 実願昭53-042122の実用新案登録願(実開昭54-144894)(甲64)には,以下の記載がある。
「2.実用新案登録請求の範囲 小児用手術台の患者受板部を,中央受板部の前後に連結される頭受板及び足受板の他に,複数の補助受板で構成し,小児から中年の患者の身長に応じて各受板を適宜組合せ連結して手術台を形成させ,各受板の連結部は,一方の受板には連結用突 出棒と,その突出棒先端近くの凹所において,前半部が自重で下方に回動するように軸支された爪付ロック金具と,そのロック金具の後端部を前方に押圧する弾発コイルバネにより附勢される押棒と,その押棒の後端部を後退させるハンドル付のロック外し軸を設け,また他方の受板には,上記一方の受板の突出棒が嵌入する穴と,その穴の上壁部に上記ロック金具の爪が係止する穴を設けてなる小児用手術台。
3.考案の詳細な説明 本考案は小児から中年まで身長に応じ,手術台の長さを増減し,小児に対して背板付の手術台中央受板となり,それにより身長の長い中年の患者に対しては身長に応じ,その手術台中央受板に対し,頭受板,足受板の他に補助受板を介在させ,これらの手術台受板をワンタッチで着脱,ロックできるようになした小児用手術台に関するものである。
従来小児用手術台は患者の身長の長短によって長すぎたり,短かすぎて,医師が適切な診療処置を行なうのに不便であった。
本考案はこのような不便を解消するためになされたものである。図面について説明すれば,第1図は本考案による小児用手術台の患者受板部を分離した状態の平面図,第2図は第1図の正向図を示す。」 (4) 実願昭55-063254の実用新案登録願(実開昭56-163436)(甲66)には,以下の記載がある。
ア 「2.実用新案登録請求の範囲 (1) テーブルトップと,このテーブルトップの長手方向の端面に付設されテーブル面を長手方向に伸長させる補助板とを少なくとも備え,これらのテーブルトップおよび補助板からなるテーブル上に被術者を乗載して手術を行なう台において,前記補助板を,前記テーブルトップの端面両側部にそれぞれ別個で着脱自在に付設される2個の取付支持具と,この両取付支持具上に着脱可能に乗架支承される1枚の天板と,この天板上に載置されるマットによって構成し,前記天板とマットの取り換えによりテーブルの長手方向の長さを調節できるようにしてなることを特徴とする手術台。」 イ 「3.考案の詳細な説明 本考案はテーブルの長手方向の長さを自在に調節できる手術台に関するものである。
手術台は通常第1図に示すように基台1の上に垂設された支柱2の頂部に手術架台枠3が付設されており,この架台枠3を介してテーブルトップTが取り付け固定されている。このテーブルトップTは機枠4に天板などの基盤(図示せず)が設けられその上方にマット5が載置されているが,C方向を長手方向とする長方形に形成され,このC方向長さは被術者(患者)が乗載可能な一定の長さに設定されている。この場合このテーブルトップTの長さは長身者をも充分に乗載できる程に長くすることは実用的でなく,したがって一定の長さにされていて,長手方向端部(端面)に補助板L,L’が付設されているのが普通である。そしてこの補助板に長身者(大人)用,短身者(小人)用のものをつくりテーブルトップTに対して取り換え付設しテーブル長さを被術者に合わせて調節できるようにしてある。
しかしながら,従来のこの種の手術台においては,補助板はそれ自体を取り換える形であり,取り換え作業は困難であった。すなわち,補助板はテーブルトップへ の取付金枠と基盤さらにはその上に設置されたマットを一体的に形成したもので,全体が重量物であり看護婦等による作業は困難である。しかも,高価であるにもかかわらず長身者用,短身者用などを揃えておく必要があり,経済的にも負担が大きい。
本考案はこのような従来の補助板の欠点を解決した実用的な手術台を提供することを目的とするものである。」 (5) 「MOC-1800 小児外科用手術台(電動油圧式)」のカタログ(瑞穂医科工業株式会社)(甲76)について ア 瑞穂医科工業株式会社は,昭和53年〜昭和55年の間に,日本において,MOC-1800を販売していた(甲77)。
イ 甲76には,MOC-1800の写真が複数掲載されており,同写真によると,MOC-1800は,テーブルトップを支える台である主枠の上部がテーブルトップの一部を形成するパッドとなっており,主枠の両側に,腰板,背板,脚板,枕板(頭部受板)及び補助板を取り付けることができる手術台である。
また,甲76には,腰板,背板,脚板,補助板の各板は,主枠の背板側及び脚板側を中心として自由に選択し,連結できること,及び,21種類の組合せの中より小児の身長に応じて,テーブルトップの全長を選択することが記載されており,各板の組合せの例として,背板及び主枠の組合せ(長手方向の長さは800mm。, ) 補助板,枕板,背板,主枠,腰板及び脚板の組合せ(長手方向の長さは2070mm。)等が記載されている。
さらに,甲76には, 「身長に応じた組合せ 全長60〜187cmの間で幼少児の身長に応じて全長が選べることと,さらに手術目的に応じた機能のテーブルトップの組合せが自由に選択できます。」との記載がある。
5 取消事由1(製品1発明に基づく本件発明の新規性判断の誤り)について (1) 本件発明の要旨 ア 前記1で認定した本件明細書の記載によると,本件発明は,従来技術のベッドは,所定の規格を基に形成されており,身長が高すぎる人など規格に適合しない使用者のために,予めフレーム全長を通常の寸法規格よりも長く設定しておき,足側床部に,延長用床部をボード取付け部の目板を利用して取り付けて対処してきたが,このような対処法では,背上げ,膝上げ機構を備えたベッドにあっては,背上げ,膝上げ操作(ギャッチ操作)を行うと,足側床部と延長用床部とが離隔状態となることや外観上の課題があったことから,これらの課題を解決するため,ベッド等の床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成し,また,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,使用者の体格に対応して,異なった寸法規格のものに交換装着可能に構成したものであることが認められる。
イ 「床板を支えるフレーム」について (ア) 甲50(広辞苑第5版)によると, 「フレーム」には, 「額縁。枠。骨組。
台枠。運動する機械を保持する固定部分。」の意味があるものと認められ,また,甲72(広辞苑第5版)によると,「支える」には,「@物をおさえとめて,落ちたり倒れたりしないようにする。A持ちこたえる。維持する。」の意味があるものと認められ,以上のことに,前記1で認定した本件明細書の記載を併せ考慮すると,本件発明の「床板を支えるフレーム」とは, 「床板が落ちないようにした骨組み」という 意味を有するものと認められ,本件発明の「フレーム」は,床板と別部材であれば足り,床材と結合して一体となっている場合も含まれると解するのが相当である。
(イ) 被告は,本件発明の「フレーム」と「床板」は一体となっていないことを要すると主張するが,フレームと床板が結合されていて,フレームが床板を支える関係にある場合も十分に想定されるのであり,また,本件明細書にも,床板に結合したフレームが「床板を支えるフレーム」から除かれることを示す記載はないから,被告の上記主張は理由がない。
ウ 「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」「足側フレームを, , ・・・異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」について 甲39(広辞苑第6版)によると,「置き換える」には,「あれとこれを取りかえて置く」との意味があることが認められ,このことに,前記1で認定した本件明細書の記載を併せ考慮すると,本件発明の「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」「足側フレームを, , ・・・異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」とは, 「フレームの一部を,そのフレームとは異なった長さの交換装着用フレームと取りかえることができるように構成した」ことを意味し,フレームに別のフレームを付け足すことは含まれないと認められる。
エ 「使用者の体格に対応させるべく」「使用者の体格に対応して」につい ,て (ア) 前記アのとおり,本件発明は,身長が高すぎる人など規格に適合しない使用者のために,予めフレーム全長を通常の寸法規格よりも長く設定しておき,足側床部に,延長用床部をボード取付け部の目板を利用して取り付けて対処してきた従来技術の課題を解決するため,ベッド等の床板を支えるフレームを,使用者の体格に対応させるべく,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成するなどしたものであるから,本件発明の「使用者の体格に対応させるべく」「使用者の体格に対応して」とは,使用者の身長に対応させることを意 , 味すると解するのが相当である。
(イ) 原告は,各コンポーネントを置き換えた結果,テーブルトップ全体の長さに変化がない場合も, 「使用者の体格に対応」した「置き換え」に当たると主張する。
しかし,前記アのとおり,本件発明は,身長が高すぎる人など規格に適合しない使用者のためのベッド等を提供しようとするものであるところ,各コンポーネントを別のコンポーネントに置き換えた結果,テーブルトップ全体の長さに変化がないのであれば,身長が高い使用者に対応することができず,本件発明の課題及びその解決手段の趣旨に沿わないから,本件発明においては,各コンポーネントを置き換えた結果,テーブルトップ全体の長さも変化することを要するというべきである。
また,原告は,胴が長く足が短い人もいれば,その逆の人もいることから,ある部分の長さを変更しつつ全体の長さは変わらない場合でも,体格に応じてフレームを交換することに当たると主張するが,通常のベッドにおいては,胴が乗る部分と足が乗る部分とは区別されていないこと,通常,身長の高い人であれば,胴も足も長く,身長の低い人であれば,胴も足も短いと考えられること,本件明細書にも,胴や足の長さにベッド等の長さを対応させる旨の説明はないことからすると,胴や足の長さに対応させることが「使用者の体格に対応」した「置き換え」に当たるということはできないというべきである。
(ウ) 原告は,本件発明は, 「使用者の体格に対応させるべく」「使用者の体格 ,に対応して」との限定がない発明と解すべきであると主張する。
しかし,フレームの一部を異なる長さのフレームに置き換えることのできる構成を採用したベッド等であっても,異なる身長の使用者に対応する目的とは別の目的で同構成を採用した場合も考えられ,また,そのため,具体的な構成によっては,異なる身長の使用者に対応することができない場合も考えられるから,「使用者の体格に対応させるべく」「使用者の体格に対応して」との目的は,ベッド等のフレ ,ームの一部を異なる長さのフレームに置き換えることのできる構成を限定する意味 があるというべきである。
したがって,本件発明を, 「使用者の体格に対応させるべく」「使用者の体格に対 ,応して」との限定がない発明と解するのは相当ではなく,原告の上記主張は理由がない。
(2) 製品1に開示された発明 前記2で認定した事実によると,製品1には,以下の発明(以下「製品1発明B」という。)が開示されていることが認められる。
A 万能手術台テーブルトップであって, B 背板,座板,足板の独立したコンポーネントを組み合わせることにより構成され, C1 背板は,棒状の金属製部材と長方形及び略長方形の二つのパッドによって構成され, C2 背板の棒状の金属製部材は,2か所で直角に折れ曲がり,平面視においてコの字の形状を形成し, C3 背板のパッドは,その縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定され,背板を座板に連結した場合,金属製部材の上に位置し, C4 背板の棒状の金属製部材の二つの端部は,座板の二つの棒状の金属製部材の両側の端部と,患者の上半身側と下半身側のいずれの側にも連結することができ, C5 背板には,頭板1002.81-B,頭板1002.81-D及び頭板1002.86を連結することができ, D1 右側足板は,L字状の棒状の金属製部材と長方形及び略正方形の二つのパッドによって構成され, D2 右側足板のパッドは,その縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定され,右側足板を座板に連結した場合,金属製部材の上に位置し, D3 右側足板は,L字の金属製部材のうちの長い方の金属製部材の端部(足板連結端部)を,座板の二つの棒状の金属製部材の両側の端部のうち,右足板と座板 を連結した場合に右足板が右側となる端部と連結させることにより,患者の上半身側と下半身側のいずれの側にも連結することができ, D4 左側足板は,L字状の棒状の金属製部材と長方形及び略正方形の二つのパッドによって構成され, D5 左側足板のパッドは,その縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定され,左側足板を座板に連結した場合,金属製部材の上に位置し, D6 左側足板は,L字の金属製部材のうちの長い方の金属製部材の端部(足板連結端部)を,座板の二つの棒状の金属製部材の両側の端部のうち,左足板と座板を連結した場合に左足板が左側となる端部と連結させることにより,患者の上半身側と下半身側のいずれの側にも連結することができ, E1 座板は,二つの平行する棒状の金属製部材と略長方形の二つのパッドによって構成され, E2 座板のパッドは,両側の縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定されているが,座板をコラム又は搬送車に固定した場合,金属製部材の上に位置し, E3 座板は,二つの棒状の金属製部材の両側の端部と背板の棒状の金属製部材の二つの端部及び各足板連結端部とを連結することができ, F1 背板(短)は,棒状の金属製部材と長方形の一つのパッドによって構成され, F2 背板(短)のパッドは,その縁付近に沿って,棒状の金属製部材に固定され,背板(短)を座板に連結した場合,金属製部材の上に位置し, F3 背板(短)の棒状の金属製部材の片側の二か所の端部は,座板の二つの棒状の金属製部材の両側の端部と,患者の上半身側と下半身側のいずれの側にも連結することができ, F4 背板(短)には,平型頭板1002.62を連結することができ, G 背板,足板及び背板(短)の長さは,それぞれ異なり,足板,背板,背板(短)の順に長い, H ことを特徴とする万能手術台テーブルトップ。
(3) 本件発明1と製品1発明Bとの対比 ア 「床板を支えるフレーム」について 本件発明1の「床板を支えるフレーム」の意味は,前記(1)のとおりであるところ,製品1発明Bの背板,座板,足板及び背板(短)のパッドと棒状の金属製部材は,別の部材であり,座板がコラムに連結され,背板,足板又は背板(短)が座板に連結されたときの各パッドは,いずれも棒状の金属製部材の上に位置するから,いずれも棒状の金属製部材はパッドを落ちないよう支えているといえる。そして,前記(1)イのとおり, 「床板」と「フレーム」は,結合して一体となっているものも含まれるから,製品1発明Bの背板,座板,足板及び背板(短)の各パッドは「床板」に,棒状の各金属製部材は「フレーム」に該当するものと認められる。
したがって,製品1発明Bは,本件発明1の「床板を支えるフレーム」を有するといえる。
イ 「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」について 本件発明1の「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」の意味は前記(1)ウのとおりであるところ,前記(2)のとおり,製品1発明Bのテーブルトップは,背板,座板,足板,背板(短)等の独立したコンポーネント,アクセサリーを組み合わせることにより構成され,座板には,その両側に,背板,背板(短)及び足板を連結させることができるから,各コンポーネント,アクセサリーの組合せとしては,患者の頭部側から順にみて,@背板,座板,足板の組合せ,A背板(短),座板,背板の組合せ,B背板(短),座板,足板の組合せ等が考えられるところ,製品1を説明した書類である甲1,2,4及び5には,これらの組合せを禁止したり,推奨しない旨の記載もないから,上記各組合せを適宜選択できるものと認められる。そして,例えば,上記@の組合せから上記Aの組合せに変更した場合は,背板を背板(短)に,足板を背板にそれぞれ変更したことに なり,上記Aの組合せから上記Bの組合せに変更した場合は,背板を足板に変更したことになる。
また,背板及び背板(短)には,各種頭板を連結することができるから,各コンポーネント,アクセサリーの組合せとしては,患者の頭部側から順にみて,C各種頭板,背板,座板,足板の組合せ,D各種頭板,背板(短),座板,背板の組合せ,E各種頭板,背板(短),座板,足板の組合せ等も考えられ,これらの組合せも適宜選択できるものと認められるから,上記Cの組合せから上記Dの組合せに変更した場合は,背板を背板(短)に,足板を背板にそれぞれ変更したことになり,上記Dの組合せから上記Eの組合せに変更した場合は,背板を足板に変更したことになる。
なお,上記B及びEの各組合せは,それを直接記載した証拠はないものの,既に判示したところからすると,そのような組合せが考えられることは,明らかであるということができる。
そして,前記2のとおり,背板,足板及び背板(短)の長さはそれぞれ異なるから,本件発明の「フレーム」に相当する上記各コンポーネント,アクセサリーを構成する棒状の金属製部材の長さも,それぞれ異なることになり,また,上記@〜Eの各組合せのテーブルトップ長手方向の長さはいずれも異なることになる。
したがって,製品1発明Bは, 「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能な構成」を有するといえる。
ウ 「使用者の体格に対応させるべく」について 本件発明1においては,「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能な構成」とすることは, 「使用者の体格に対応させる」目的で行われる必要があることは,前記(1)エのとおりである。
ところが,前記イのとおり,製品1発明Bにおいては,各コンポーネント,アクセサリーの組合せとしては,前記イの@〜Eの各組合せ等が考えられるところ,本件証拠上,製品1発明Bが,このような組合せを可能とした目的がいかなるものであったのかは明らかではないから,製品1発明Bにおいて, 「フレームの一部を異な った長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」ことが, 「使用者の体格に対応させる」目的であったのかは明らかではない。
なお,前記3(3)のとおり,甲4には,足板,座板,背板の配置とした上で,患者の上半身側に位置する足板を背板(短)に交換した配置が記載されており,患者の身長が高く,同配置では,患者の踵がはみ出す場合について, 「1002.73の頭板を足の先につけて長くする」との記載があるが,この場合は,頭板を付け足しているので,本件発明にいう「置き換え」には当たらない。
エ 以上より,本件発明1は,製品1発明Bと同一ではない。
(4) 本件発明2と製品1発明Bとの対比 ア 前記(3)アのとおり,製品1発明Bは,本件発明2の「床板を支えるフレーム」を有するといえる。
イ 前記(3)イのとおり,製品1発明Bは,本件発明1の「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能な構成」を有するところ,前記(3)イで判示した組合せを変更するそれぞれの場合は,足側フレームを変更することになる。
したがって,製品1発明Bは,「足側フレームを,・・・異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成した」との構成を有するものと認められる。
ウ 前記(3)ウと同様の理由により,製品1発明Bにおいて,「足側フレームを,・・・異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成」することが,「使用者の体格に対応して」との目的によるものかは明らかではない。
エ したがって,本件発明2は,製品1発明Bと同一ではない。
(5) 以上より,本件発明は,製品1発明Bによって新規性がないということはできないから,この点についての取消事由1は理由がない。
6 取消事由2(製品1発明に基づく本件発明の進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明と製品1発明Bとの対比 ア 本件発明1との対比 本件特許の請求項1,2の記載及び前記5(2),(3)で判示したところからすると,本件発明1と製品1発明Bとの一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
(ア) 一致点 「ベッド等において,床板を支えるフレームを,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造」である点。
(イ) 相違点1 本件発明1が, 「床板を支えるフレームを,フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」目的が,「使用者の体格に対応させる」ためであるのに対し,製品1発明Bは,その点が明らかではない点。
イ 本件発明2との対比 本件特許の請求項1,2の記載及び前記5(2)〜(4)で判示したところからすると,本件発明2と製品1発明Bとの一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
(ア) 一致点 「ベッド等において,床板を支えるフレームのうち,足側床板に対応する足側フレームを,異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造」である点。
(イ) 相違点2 本件発明2が,「足側フレームを,・・・異なった寸法規格のものに,交換装着可能に構成」することの目的が, 「使用者の体格に対応」するためであるのに対し,製品1発明Bは,その点が明らかではない点。
(2) 相違点1及び相違点2の判断 ア 周知技術について (ア) 昭和53年に出願され,昭和54年に公開された実用新案登録願(甲64)には,前記4(3)のとおり,小児用手術台は,患者の身長の長短によって,長すぎたり,短かすぎて,医師が適切な診療処置を行うのに不便であったこと,この ことから,医師が適切な診療処置を行うためには,手術台の長さを,患者の身長に応じたものにする必要があったこと,そのために,小児用手術台の患者受板部を,中央受板部の前後に連結される頭受板及び足受板の他に,複数の補助受板で構成し,小児から中年の患者の身長に応じて各受板を適宜組み合わせ連結して手術台を形成することが記載されていると認められる。
(イ) 昭和55年に出願された実用新案登録願(甲66)には,前記4(4)のとおり,身長の異なる患者の手術に対応するために,長身者用の長いテーブルトップの手術台を用意するのは実用的ではないことから,複数の補助板を用意し,これらの補助板を取り換えて付設することにより,テーブルトップの長さを患者の身長に合わせて調整できるようにした手術台が存在していたことが記載されている。そうすると,身長の異なる患者の手術に対応するために,テーブルトップの長さの異なる手術台が必要であったこと,患者の身長に合わせたテーブルトップとするために,複数の補助板を取り換えて用いる手術台が存在していたことが認められる。
(ウ) 前記4(5)のとおり,昭和53年〜昭和55年に,日本において,小児外科用手術台であるMOC-1800が販売されていたが,そのカタログ(甲76)によると,前記4(5)のとおり,同手術台は,主枠の両側に,腰板,背板,脚板,枕板(頭部受板)及び補助板を取り付けることができ,その組合せにより,様々な長さのテーブルトップを形成することができることが認められ,また,同カタログには, 「全長60〜187cmの間で幼少児の身長に応じて全長が選べる」, 「21種類の組合せの中より小児の身長に応じて,テーブルトップの全長を選択してください。」などの記載がある。この事実からすると,患者の身長に応じて,長さの異なるテーブルトップを備える手術台の需要があったこと,この需要に対応するために,主枠の両側に,腰板,背板,脚板,枕板(頭部受板)及び補助板を組み合わせて,様々な長さのテーブルトップを形成できる手術台が販売されていたことが認められる。
(エ) 前記4(2)で認定した「小児に用いられている手術台アンケート集計結果」 (甲62)によると,多くの病院で,成人用手術台と小児用手術台を兼用して おり,また,半数近くの手術台が,手術台の一部を着脱することにより,長さを加減して使用できる可変式の手術台であったことが認められる。この事実からすると,小児用外科手術台として,成人用手術台とはテーブルトップの長さが異なる手術台が必要であること,そのために,手術台の一部を着脱することにより長さを加減できる手術台が用いられており,長さを加減できる手術台は相当程度普及していたことが認められる。
また,前記4(1)のとおり,昭和36年の時点で,成人用の手術台と小児用の手術台を兼ねた手術台として,補助板を利用し,補助板を取り外すことにより,小児の手術にも対応した事例があったことが認められ,同事実からすると,昭和36年当時においても,手術において,患者の身長に応じて,長さの異なる手術台が使用されていたことが認められる。
(オ) 以上の事実からすると,本件特許の出願時には,手術台のテーブルトップは,患者の身長に応じた長さとすることが望まれており,医療機関において,テーブルトップの長さを調整できる手術台の要望があったこと,その要望に応えるために,各種の大きさのコンポーネントを組み合わせて,適宜の長さのテーブルトップとする手術台が販売されており,また,小児外科においては,長さが可変の手術台が一定程度普及していたことが認められる。
イ 製品1発明Bの実施態様について 前記3(3)のとおり,甲4には,足板,座板,背板の配置とした上で,患者の上半身側に位置する足板を背板(短)に交換した配置が記載されており,患者の身長が高く,同配置では,患者の踵がはみ出す場合について, 「1002.73の頭板を足の先につけて長くする」との記載があり,同記載からすると,製品1発明Bの実施態様として,長身の患者に対応するために, 「置き換え」ではないものの,足側の背板の先に頭板を付け加えることは行われていたものと認められる。
容易想到性 前記5(3)イのとおり,製品1発明Bにおいては,患者の頭部側から順に,@背板, 座板,足板の組合せ,A背板(短),座板,背板の組合せ,B背板(短),座板,足板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトップとし,また,C各種頭板,背板,座板,足板の組合せ,D各種頭板,背板(短),座板,背板の組合せ,E各種頭板,背板(短),座板,足板の組合せを適宜選択し,各組合せによるテーブルトップとすることが可能であり,上記@の組合せを上記Aの組合せに変更することや上記Aの組合せを上記Bの組合せに変更すること,上記Cの組合せを上記Dの組合せに変更することや上記Dの組合せを上記Eの組合せに変更することも可能であるところ,甲1,2,4及び5には,これらの組合せを禁止したり,推奨しない旨の記載もなく,かえって,前記3のとおり,甲2には, 「マッケ手術台システム1120は,モジュール方式でデザインされ」 (2頁)「広く世界的に採用されている非常に ,フレキシブルなモジュール方式の手術台システムです。」との記載がある。
そして,前記イのとおり,製品1において,患者の背が高い場合には,足側の背板の先に頭板を付け加える使用方法が行われていたことからすると,前記アのとおり,手術台のテーブルトップを患者の身長に応じた長さとすることが望まれており,その要望に応えるために各種のコンポーネントを組み合わせることなどが行われていることを知る当業者は,製品1発明Bにおいて,患者の身長に対応させるために各種モジュールを取り換えて手術台を患者の身長に対応したものとすることを容易に想到することができたものと認められる。
エ 被告の主張について (ア) 被告は,背板(短)は頭部手術という特定の用途のためにのみ頭板と共に使用されると主張する。
しかし,甲5の20頁には,背板(短)に頭板「1002.62」と取り付けられた写真が載っているが,同頁の表題は「眼科,ENT,一般外科,麻酔科」と表記されていることから,背板(短)は,必ずしも,特定の用途のために頭板と共に使用されるとは認められない。
また,患者の頭側に頭板を取り付けた背板(短)を配置した場合,前記5(3)イの とおり,足側は背板又は足板を配置することが可能であり,足側の背板を足板に交換すれば,テーブルトップの全長も変わるから,被告の主張を前提としても,使用者の体格に対応して,床板を支えるフレームを交換したことになる。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 被告は,製品1の具体的な構成は,それぞれが独立した構成であり,それらの構成を組み合わせることにより相違点を解消することはできないと主張する。
しかし,製品1発明Bの構成は,前記5(2)のとおりであるところ,同構成は,背板,座板及び足板の各コンポーネント並びに背板(短)及び各種頭板のアクセサリーを含めて,一つの製品である製品1から認定できる技術的構成であるから,一つの発明の構成である。そして,前記イの実施態様も製品1の実施態様であるから,これを考え併せて,製品1発明Bから本件発明を容易に想到することができるというべきである。
(ウ) 被告は,原告の主張は, 「設計事項」という名目の下,甲61以下の証拠に基づく異なる構成(公知事実)を組み合わせることにより相違点を解消できるという新たな進歩性欠如の主張をするものであり,本件訴訟の審理事項から排除されるべきものであると主張するが,前記アの周知技術を本件発明の進歩性を判断するに当たっての当事者の技術水準を示すものとして考慮することはできるのであり,前記ウの判断はそのような趣旨で考慮したものであるから,本件訴訟の審理範囲外ではない。
(3) 以上より,取消事由2は理由がある。
7 そうすると,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の主張した無効理由は認められないとした本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は取り消されるべきである。
結論
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐野信
裁判官 中島朋宏