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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  優先権 /  明瞭でない記載 /  後発医薬品 /  優先日 /  対象製品 /  出願経過 /  参酌 /  均等 /  均等侵害 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 / 
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事件 平成 15年 (ネ) 3034号 特許権侵害差止請求控訴事件
控訴人 リヒター ゲデオン ベジェセティ ジャ ール アールテー
訴訟代理人弁護士 品川澄雄
同 吉利靖雄
補佐人弁理士 岩田弘
同 中嶋正二
被控訴人 日本医薬品工業株式会社
被控訴人 株式会社陽進堂
両名訴訟代理人弁護士 浦崎威
同 久保 精一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人日本医薬品工業株式会社は,別紙物件目録1記載の物件を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
3 被控訴人株式会社陽進堂は,別紙物件目録2記載の物件を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
4 被控訴人日本医薬品工業株式会社は,その所有する別紙物件目録1記載の物件を,被控訴人株式会社陽進堂は,その所有する別紙物件目録2記載の物件を,それぞれ廃棄せよ。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
6 仮執行宣言
事案の概要
控訴人は,名称を「形態学的に均質型のチアゾール誘導体の製造方法」とする特許第2708715号発明(昭和62年8月4日にした特許出願〔特願昭62-193855号,優先権主張1986年〈昭和61年〉8月5日〈以下「本件優先日」という。〉・ハンガリー共和国〕の一部につき平成6年8月22日新たな特許出願〔特願平6-196865号,以下「本件特許出願」という。〕,平成9年10月17日設定登録。以下,その特許を「本件特許」といい,その特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である。本件は,別紙物件目録1,2記載の各物件として特定される医薬品(以下,それぞれ「被控訴人医薬品1」,「被控訴人医薬品2」といい,併せて「被控訴人ら医薬品」という。)を製造,販売する被控訴人らの行為が控訴人の本件特許権を侵害するとして,控訴人が,被控訴人らに対し,それぞれ上記各物件の製造,販売及び販売のための展示の差止め並びに廃棄を求めている事案である。
原審は,上記各物件は,本件発明(ただし,後記本件訂正前のもの)の技術的範囲に属しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人がその取消しを求めて控訴し,被控訴人ら医薬品が後記本件訂正後の本件発明の技術的範囲に属する旨主張するとともに,均等侵害の主張を追加した。
1 前提となる事実 (1) 本件特許出願の願書に添付した明細書(控訴人が無効審判〔無効2002-35460号事件及び無効2002-35349号事件〕においてした平成15年3月13日付け及び同年5月14日付け各訂正請求書による訂正〔以下「本件訂正」という。〕後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲【請求項1】の記載 その融解吸熱最大がDSCで159℃にあり,その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり,及びその融点が159〜162℃であることを特徴とする,再結晶 により 析出 された 形態学的 に均質 な「B」型のファモチジン。
(下線が訂正部分。以下,上記発明を「本件発明」といい,その構成を,@「その融解吸熱最大がDSCで159℃にあり,」,A「その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり,及び」,B「その融点が159〜162℃であることを特徴とする,」,C「再結晶により析出された」,D「形態学的に均質な『B』型のファモチジン」と分節して,それぞれ「構成要件@」〜「構成要件D」という。) (2) 被控訴人日本医薬品工業株式会社(以下「被控訴人日本医薬品工業」という。)は,被控訴人医薬品1を,被控訴人株式会社陽進堂(以下「被控訴人陽進堂」という。)は,被控訴人医薬品2を,それぞれ製造,販売している。
(3) ファモチジンは,現行の第十四改正日本薬局方(平成13年3月30日厚生労働省告示第111号,以下「日本薬局方」という。)に収載された医薬品である。被控訴人ら医薬品に原薬として含まれるファモチジンは,日本薬局方に収載されたとおりの規格のものでなければならず,被控訴人らは,これを株式会社ワイ・アイ・シーから購入し,原薬としているところ,日本薬局方ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるスペクトルが示す特性吸収帯は,本件明細書(甲24-2添付)の「B」型のファモチジンの特性吸収帯(段落【0019】の【表1】)と一致し,被控訴人ら医薬品に含まれる日本薬局方ファモチジンは,構成要件Aの「その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり」を充足する。
2 控訴人の主張 (1) 本件発明のファモチジン ア 本件発明の構成要件は,@「その融解吸熱最大がDSCで159℃にあり,」,A「その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり,及び」,B「その融点が159〜162℃であることを特徴とする,」,「再結晶により析出された形態学的に均質な『B』型のファモチジン」であり,構成要件@ないしBの3パラメータによって特定される範囲内において形態学的組成が一様である再結晶により析出されたB型ファモチジンが,本件発明の「『B』型のファモチジン」であり,A型ファモチジンの混在を排除するものではない。そして,上記構成要件@ないしBの3パラメータの中でも,赤外吸収スペクトル特性(構成要件A)が最も重要であり,他の2パラメータは,赤外吸収スペクトルの充足により特定された対象物を追加的に確認する手段にすぎない。
イ 本件訂正中の「再結晶により析出された」を付加した訂正事項は,特許請求の範囲減縮を目的とするものである。そして,構成要件Cの「再結晶により析出された」とは,「再結晶」(溶媒に溶解し再び結晶化させる)過程を経ることにより,ファモチジン以外の化合物,すなわち不純物を除去して,医薬品成分としてファモチジンの化学的純度を向上させる精製効果を実現させるとともに,結晶化に際して析出される結晶型を制御し,B型ファモチジン均質体とする結晶型制御効果をも併せて実現させた物が対象物であることを意味している。被控訴人ら製品に含まれるファモチジンは,本来,医薬品として使用可能な程度に再結晶精製を行って析出された高純度のものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とする「再結晶により析出された」との構成要件が付加されたからといって,本件発明の技術的範囲に属することに何ら変わることはない。
また,本件訂正中の「形態学的に均質な」を付加した訂正事項は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,結晶形組成において有限な幅のある均質体であり,結晶形組成において幅のない純粋物ではないことを明瞭化したものであり,構成要件Dの「形態学的に均質な」とは,結晶多形体の組成が,構成要件@ないしBの3パラメータによって特定される範囲内において形態学的組成が一様であることを意味している。すなわち,本件発明の対象物が,その主要部においてB型ファモチジンであり,全体として実質的にB型ファモチジンと同等な組成物であるB型ファモチジン均質体であることが,上記訂正事項により明りょうとなったものであり,構成要件@ないしBが充足される,A型の混合が約15%まで許容される範囲のB型ファモチジンは,本件発明の技術的範囲に属するというべきである。
(2) 被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンと本件発明の構成要件との対比 ア 構成要件@ 日本薬局方には,赤外吸収スペクトル及び融点は記載されているが,DSCによる融解吸熱最大値は記載されていない。しかし,「Comparison of the polymorphic modifications of famotidine」Journal of Pharmaceutical & Biomedical Analysis Vol.7, No.5,1989,pp.563-569(甲7)によれば,本件発明のファモチジンについて,DSCによる測定をしたところ,その融解吸熱最大は加熱速度1℃/分において159.5℃であることを示した(表5)。したがって,被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンは,本件発明の構成要件@を充足する。
構成要件A 日本薬局方ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるスペクトルが示す特性吸収帯は,本件明細書(甲24-2添付)の「B」型のファモチジンの特性吸収帯(段落【0019】の【表1】)と一致し,被控訴人ら医薬品に含まれる日本薬局方ファモチジンは,構成要件Aの「その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり」を充足することは,上記1(3)のとおりである。
構成要件B 日本薬局方ファモチジンの融点は,「融点:約164℃(分解)」(甲3-2の1816頁「ファモチジン」の「性状」の項)と記載され,構成要件Bの融点「159〜162℃」とわずかに相違する。しかし,日本薬局方は,融け終わりの温度を融点として記載しており,また,「約・・・(分解)」は,融点が不明確であることを意味し,さらに,上記融点は,日本薬局方ファモチジンの参考情報にすぎず,その判定基準ではないのであって(日本薬局方通則4項),しかも,B型ファモチジン,すなわち日本薬局方ファモチジンは,融解前に分解が始まり,加熱速度の遅速により融点が変動するものである。したがって,日本薬局方ファモチジンの「融点:約164℃(分解)」と本件発明のファモチジンの構成要件Bの融点「159〜162℃」とのわずかな相違は,融点が異なることを示すものではない。
構成要件C 日本薬局方ファモチジンは,医薬品の原薬として使用可能な程度に精製されているので,被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンは,「再結晶により析出された」を充足する。
構成要件D 本件訂正中の「形態学的に均質な」を付加した訂正事項は,本件発明のB型ファモチジンが,もともと構成要件@ないしBの3パラメータによって特定される均質な範囲の均質体であって,純粋物に限定されていないことを明りょうにするものであり,純粋物に減縮する趣旨の補正ではない。日本薬局方ファモチジンは,上記のとおり,構成要件@ないしBの3パラメータを充足するから,被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンは,構成要件Dを充足する。
(3) 均等侵害 仮に,本件発明の構成要件の「『B』型のファモチジン」が,原判決の判示するとおり「100%の形態学的純度を有するB型のファモチジン」(15頁第2段落)であり,被控訴人ら医薬品は,上記構成要件を充足しないとしても,以下のとおり,最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁(以下「平成10年最判」という。)の挙げる要件をすべて満たすから,本件発明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するというべきである。
ア 本件発明の本質的部分 本件発明の本質的部分は,上記3パラメーターによって特定されるB型ファモチジンであるから,被控訴人ら医薬品に「約15%以下の『A型のファモチジン』」(以下「含有A型ファモチジン」という。)が含まれていることは,本件発明の本質的部分ではない。
置換可能性と作用効果の同一 被控訴人ら医薬品には,いずれも含有A型ファモチジンが含まれているにもかかわらず,本件発明のB型ファモチジンが有する構成要件@ないしBの3パラメータのすべてを充足し,本件発明の目的を達成するとともに,同一の作用効果を奏する。
置換容易性 被控訴人らが,本件発明のファモチジンの後発医薬品の製造を企てるに当たって,含有A型ファモチジンを含有させることには,何らの困難もなかったことが明らかである。
公知技術・準公知技術の非該当 上記のように,本件優先日当時,含有A型ファモチジンを含有するが,A型ファモチジンに特有の特性吸収帯のピークを示さないB型ファモチジンは,公知ではなく,また,公知技術から容易に想到し得たものでもなかった。
オ 特段の事情 含有A型ファモチジンを含有するが,A型ファモチジンの混合を示す3450cm-1付近のピークは認められないB型ファモチジンは,本件特許出願において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものでなかったことは明らかである。
(4) 以上のとおり,被控訴人ら医薬品に含まれる日本薬局方ファモチジンは,本件発明の構成要件をすべて充足するから,被控訴人ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に含まれ,被控訴人らが,被控訴人ら医薬品を製造,販売する行為は,控訴人の本件特許権を侵害する。
3 被控訴人らの主張 (1) 本件発明のファモチジンについて ア 本件明細書(甲24-2添付)の発明の詳細な説明には,「本発明は形態学的に均一なファモチジン(Famotidine)の製造方法に関する」(段落【0001】),「ファモチジンの従来公知の製造方法の我々の再現試験の間に,これらの試験をDSC〔示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry)〕により分析した際にファモチジンが二つの型即ち『A』及び『B』型を有することがわかった」(段落【0002】),「この型(注,A型)は,その融解の吸熱最大がDSCで167℃にあり,その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3450 ,1670,1138及び611cm-1 にあり,及びその融点が167〜170℃であることにより特徴付けられる」(段落【0010】),「この型(注,B型)のその融解の吸熱最大がDSCで159℃にあり,その赤外線スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1 にあり,及びその融点が159〜162℃であることにより特徴付けられる」(段落【0011】),「本発明の方法の最大の利点は,本方法が100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンを製造するための容易な,良く制御された技術を与え・・・ることである」(段落【0018】),「『B』型の溶解速度は『A』型のそれよりも相当に高い」(段落【0038】),「薬品の場合においては溶解速度が極めて重要であり,この後者(注,溶解速度)は『B』型の場合の方がより高いことを忘れてはならない」(段落【0039】)との記載があり,これら記載は,従前結晶多形の存在の知られていなかったファモチジンについて,A型とB型が存在すること,両者は,物理化学的性質及び生体利用可能性においても相違し,結晶化の動力学的条件によりその結晶型が決せられることなどを前提として,特許請求の範囲【請求項1】において,純粋なB型に特定したことを示すものである。また,本件特許出願に対して,特許庁は拒絶理由通知書を発したが,これに対する控訴人提出の平成8年9月26日付け意見書(乙6-1)には,「B型の方が有利な効能を発揮し得ることとなります。このことは,本願発明により純品なB型ファモチジンを得ることではじめて見出されたことであります」(1頁最終段落),「よって,B型ファモチジンを純品で得ることは,薬理効能が優れている化合物が得られるという点で有利であるのみならず,薬剤の製造バッチ間差も回避できるという点で有利な効果をも奏します。このようなことは,ファモチジンの混合物についてしか述べていない引例1〜3記載の発明から当業者が容易に想到し得るものではありません」(2頁下から第2段落)と記載されている。上記出願経過に照らせば,構成要件Dの「『B』型のファモチジン」との記載部分は,純粋なB型ファモチジン結晶を意味し,A型とB型の混合物を排除する意味を有することは明らかである。
イ 控訴人は,本件訂正中の「形態学的に均質な」を付加した訂正事項は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,結晶形組成において有限な幅のある均質体であり,結晶形組成において幅のない純粋物ではないことを明りょう化したものであると主張するが,本件訂正を認めた審決(甲21,24-3。以下,それぞれ「甲21審決」,「甲24-3審決」という。)は,「再結晶により析出された形態学的に均質な」を付加する訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものである(甲21の3頁第1段落,甲24-3の2頁「2.訂正の適否に対する判断」の項)と認定しているのであり,控訴人の上記主張は,審決に反するものである。
(2) 被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンと本件発明の構成要件との対比について ア 構成要件@ 日本薬局方ファモチジンは,山之内製薬株式会社の有していた特許第1333173号発明(昭和54年8月2日特許出願,昭和61年8月28日設定登録,以下「山之内特許」という。乙5)の実施例2の製法に従って製造された公知のファモチジンであり,A型ファモチジンとB型ファモチジンの混合物である。被控訴人陽進堂が本件明細書の製法に従って製造したB型ファモチジンと山之内特許の製法に従って製造した日本薬局方に適合する被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンをDSCにより分析したところ,両物質は明らかに異なる融解吸熱パターンを示し(乙8),さらに,被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジンがA型とB型の混合物であることは,粉末X線回折装置による分析でも確認されている(乙9)。
したがって,被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジンは,構成要件@を充足しない。なお,本件発明は,山之内特許に対する選択発明に当たり,被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンは,特許期間が満了した山之内特許に準拠して製造されたものである。
構成要件A 日本薬局方ファモチジンの確認試験としての赤外吸収スペクトル測定法は,試料のスペクトルと参照スペクトルとの肉眼的な比較によって同一とされる範囲の確認(化学構造の同定,定性)にとどまり,それ以上の確認(結晶構造の同定,定量)まで要求していない。DSC及び粉末X線回折装置によってA型とB型の混合物であることが確認された被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジンの赤外吸収スペクトルも日本薬局方ファモチジンの参照スペクトルに合致している(乙10)から,日本薬局方ファモチジンのスペクトルと一致するからといって,100%純粋なB型ファモチジンであるとはいえない。
構成要件B 被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジンは,融点が164.5℃であり(乙7),日本薬局方記載の融点約164℃(分解)と一致し,かつ,山之内特許の実施例1の融点「163〜164℃」(乙5の3頁右上欄)や同実施例2(被控訴人らの製法)の融点「164〜165℃」(同右下欄)とも一致しているが,構成要件Bの融点「159〜162℃」とは明らかに相違し,本件発明の技術的範囲に属しないことが明白である。
構成要件C 構成要件Cは,本件発明に係る特許請求の範囲減縮するにすぎないものである。被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジンは,公知の山之内特許記載の析出工程に基づいて不純物を除き,製造されたものであって,構成要件Cを充足しない。
構成要件D 構成要件Dの「形態学的に均質な『B』型のファモチジン」は,100%純粋なB型ファモチジンを意味し,被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジンは,A型とB型の混合物であるから,構成要件Dを充足しない。
(3) 均等侵害について 控訴人は,被控訴人ら医薬品は,平成10年最判の挙げる要件をすべて満たすから,本件発明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属すると主張するが,失当である。
ア 本件発明の本質的部分について 形態学的に均質なB型ファモチジン,すなわち,100%の形態学的純度を有するB型ファモチジンであることが,本件発明の本質的部分であることは,上記出願経過から明らかである。
置換可能性と作用効果の同一について 約15%以下のA型ファモチジンが混在するB型ファモチジンが100%純粋なB型ファモチジンと同一の作用効果を有することについて,これを認めるに足りる証拠は全くない。 ウ 公知技術・準公知技術の非該当について 含有A型ファモチジンが混合したファモチジン及びB型ファモチジンは,いずれも本件優先日当時から公知であった。
エ 特段の事情について 本件特許の上記(1)アの出願経過に照らせば,控訴人は,A型とB型の混合物であるファモチジンを意識的に除外して,「純品なB型ファモチジン」,すなわち100%の形態学的純度を有するB型ファモチジンのみを権利範囲としたことが明らかである。
(4) 以上のとおり,被控訴人ら医薬品に含まれる日本薬局方ファモチジンは,本件発明の構成要件Dを充足しないから,被控訴人ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に含まれず,被控訴人らが,被控訴人ら医薬品を製造,販売する行為は,控訴人の本件特許権を侵害しない。
当裁判所の判断
1 本件発明のファモチジンについて (1) 控訴人は,構成要件@ないしBの3パラメータによって特定される範囲内において形態学的組成が一様である再結晶により析出されたB型ファモチジンが,本件発明の「『B』型のファモチジン」であり,A型ファモチジンの混在を排除するものではないと主張し,被控訴人らは,構成要件Dの「『B』型のファモチジン」との記載部分は,純粋なB型ファモチジン結晶を意味し,A型とB型の混合物を排除する意味を有すると主張するので,検討する。
特許発明技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法70条1項)のであり,この記載を離れて特許発明技術的範囲を認定することは許されないから,まず,本件明細書(甲24-2添付)の発明の詳細な説明の記載をみると,「ファモチジンの従来公知の製造方法の我々の再現試験の間に,これらの試験をDSC〔示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry)〕により分析した際にファモチジンが二つの型即ち『A』及び『B』型を有することがわかった。1℃/分の加熱速度を用いて測定されたこれらの型の吸熱最大の場所は『A』型の場合には167℃であり,及び『B』型の場合には159℃であった」(段落【0002】),「平行実験の生成物はいつも特に嵩密度及び接着性の点で互いにむしろ相違し,及びそれらの赤外スペクトルにおいてむしろ大きな相違があったことである。通常の方法で行われた実験の間,生成物の特性はランダムに広範囲に変化した。この陳述は,我々の測定による3500,3400及び1600cm-1における吸収帯が明確に低融点の『B』型に対応し,及び3240cm-1における吸収帯が高融点の『A』型に対応するその赤外分光データに関してスペイン特許明細書第536,803号〔インケ社(INKE Co.)〕により支持されている。この混合物-特性は又,『A』型の1005及び986cm-1の吸収帯及び『B』型の1009及び982cm-1の吸収帯の融合から生じ得る1000cm-1における吸収帯によっても証明される。この混合物-特性は又,冒頭で述べた我々のDSC-データを上記スペイン特許明細書における融点データ(162〜164℃)並びにヨーロッパ特許明細書第128,736号に公開された158〜164℃の融点と比較することによっても証明することができる。この様に,両者の場合において研究者達は,組成が規定されない(明らかになっていない)『A』型及び『B』型の混合物を得ていたことが明白と思われる」(段落【0003】),「本発明の方法の最大の利点は,本方法が100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンを製造するための容易な,良く制御された技術を与え,及び正確にファモチジン多形を相互に並びに明らかにされていない組成の多形混合物から区別することである。多形混合物の代わりに均質多形体を説明することの重要性を示すために,純粋な『A』型および『B』型のファモチジンの測定されたデータからの表を示す」(段落【0018】),「ファモチジンは薬局方に未だ載っていなかったので,本出願(注,本件特許出願)に記載された二つの型のいづれがより良好な治療的値を有しているかについて明解な答を与えることは現在のところできない。取扱い及び安定性の見地からは『A』型の性質は明らかにより有利であるが,しかし,薬品の場合においては溶解速度が極めて重要であり,この後者は『B』型の場合の方がより高いことを忘れてはならない」(段落【0039】)との記載がある。
次に,本件特許出願の経過についてみると,本件特許出願に対して,特許庁は,平成8年3月12日付け拒絶理由通知書をもって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由を通知したが,これに対する控訴人提出の平成8年9月26日付け意見書(乙6-1添付)には,「B型ファモチジンの方がA型より強い生物吸収力を有し,従いましてB型の方が有利な効能を発揮し得ることとなります。このことは,本願発明により純品なB型ファモチジンを得ることではじめて見出されたことであります」(1頁最終段落),「よって,B型ファモチジンを純品で得ることは,薬理効能が優れている化合物が得られるという点で有利であるのみならず,薬剤の製造バッチ間差も回避できるという点で有利な効果をも奏します。このようなことは,ファモチジンの混合物についてしか述べていない引例1〜3記載の発明から当業者が容易に想到し得るものではありません」(2頁下から第2段落)と記載されている。
そうすると,上記の発明の詳細な説明の記載及び出願経過参酌して解釈すれば,本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】の「『B』型のファモチジン」との記載は,ファモチジンには,A型ファモチジン,B型ファモチジン及び両者の混合物が存在することを前提とした上で,特定の結晶形である「『B』型のファモチジン」に限定したものであることが明らかであるから,A型とB型の混合物を排除する意味を有するものというべきである。
なお,控訴人は,構成要件@ないしBの3パラメータの中でも,赤外吸収スペクトル特性(構成要件A)が最も重要であり,他の2パラメータは,赤外吸収スペクトルの充足により特定された対象物を追加的に確認する手段にすぎないとも主張するが,本件発明に係る特許請求の範囲【請求項1】には,そのような記載は一切なく,本件明細書(甲24-2添付)の発明の詳細な説明にも,同主張に沿う記載はない。したがって,控訴人の上記主張は,本件明細書の記載に基づかないものであり,採用することができない。
(2) 次に,控訴人は,本件訂正中の「形態学的に均質な」を付加した訂正事項は,明りようでない記載の釈明を目的とするものであり,構成要件Dの「形態学的に均質な」とは,結晶多形体の組成が,構成要件@ないしBの3パラメータによって特定される範囲内において形態学的組成が一様であることを意味し,本件発明の対象物が,その主要部においてB型ファモチジンであり,全体として実質的にB型ファモチジンと同等な組成物であるB型ファモチジン均質体であることが,上記訂正事項により明りょうとなったものであると主張する。
しかしながら,本件明細書(甲24-2添付)の段落【0018】の上記記載及び意見書(乙6-1添付)の上記記載から,少なくとも本件訂正前の本件発明は,A型ファモチジン,B型ファモチジン及び両者の混合物の中から,A型ファモチジンを含まない純粋なB型ファモチジンに限定したものであることが明らかである。そして,本件訂正に係る平成15年5月14日付け訂正請求書(甲24-2)の「7.訂正の理由」欄の「(3)訂正の要旨@訂正事項」の項には,「a 特許請求の範囲の項の請求項1の『特徴とする「B型」のファモチジン』の『する』と『「B型」』の間に,明瞭でない記載釈明,並びに特許請求の範囲減縮を目的として,『再結晶により析出された形態学的に均質な』なる記載を付加する」(2頁)と,同「(4)請求の原因@上記訂正事項a」の項には,「訂正前の請求項1に記載の3構成要素は,同項の『B』型のファモチジンについて形態学的特性を定義するには十分であるが,同項の『B』型のファモチジンが,医薬品の原薬ファモチジンとしての使用にのみ供せられる用途のものであり,医薬品の原薬ファモチジンとしての使用にそのまま供せられ得るためにはファモチジン以外の不純物が『再結晶化』により除去されていることが必要である。ところが,本件特許請求項の形態学的3構成要素を満たす『B』型のファモチジンは,その結晶化のための『再結晶により析出される』過程において『形態学的に均質な「B」型のファモチジン』になると同時に,必然的にファモチジン以外の不純物も除去され,医薬品の原薬としてそのまま供され得る精製ファモチジンになっている。本件訂正事項は『再結晶により析出された形態学的に均質な』なる記載を付加することによって,本請求項の『B』型のファモチジンの新規性を一層明瞭化しようとするものである。この『再結晶により析出された形態学的に均質な』なる記載を付加する訂正は,下記のように,本件特許発明の明細書中の記載により十分支持されている。また,本件特許の請求項1から,医薬品の原薬としての使用にそのまま供せられ得ない『粗製物』は『B型ファモチジンであっても』除外されており,請求項1が『再結晶により析出された形態学的に均質な』『B』型ファモチジンに限定されていることを明示的に明らかにし,明瞭化を図ろうとするものである。さらに『結晶多形』要件以外に『再結晶により析出された形態学的に均質な』という『再結晶析出物たる』要件を付加するものであるから,特許請求の範囲減縮にも相当する」(2頁〜3頁)との記載があり,また,甲21審決及び甲24-3審決の「2.訂正の適否に対する判断」の項には,本件訂正について,「訂正事項a.は,『B』型のファモチジンを『再結晶により析出された形態学的に均質な』ものに限定するものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とするものであり,・・・新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではない。
したがって,・・・訂正(注,本件訂正)は,特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法第126条第2及び3項の規定に適合するので,当該訂正を認める」(甲21の3頁第1段落,甲24-3の2頁下から第2段落)との記載がある。これらの記載によれば,控訴人は,明りょうでない記載の釈明又は特許請求の範囲減縮を目的として,「B」型のファモチジンを「再結晶により析出された形態学的に均質な」ものに限定し,本件訂正に係る訂正を請求したものであるところ,甲21審決及び甲24-3審決は,特許請求の範囲減縮を目的とするものとして,本件訂正を認めたものであることが認められる。したがって,「形態学的に均質な」の要件を付加する訂正が特許請求の範囲減縮として認められている以上,本件発明の構成要件DのB型ファモチジンが,本件訂正前のA型ファモチジンを含まない純粋なB型ファモチジンの範囲を超えて,控訴人主張のように,その主要部においてB型ファモチジンであり,全体として実質的にB型ファモチジンと同等な組成物であるB型ファモチジン均質体を意味すると解釈する余地はない。
(3) 控訴人は,さらに,構成要件@ないしBが充足される,A型の混合が約15%まで許容される範囲のB型ファモチジンは,本件発明の技術的範囲に属するというべきであると主張するところ,a大学薬学部教授A及び同助教授B作成の平成15年4月10日付け「実験報告書-ファモチジンの結晶多形について-」(甲20-1,以下「甲20-1実験報告書」という。)には,「IRスペクトル・・・実験の結果,A型:B型の比率が・・・20:80,25:75,30:70,40:60,50:50及び95:5の試料では,特許記載のA型結晶の吸収帯も認められた。・・・DSCで,A型の比率が0〜50%のB型結晶試料は確実に融解吸熱最大約161℃が認められた。・・・161℃より高温側のピーク(即ち,2本目以降のピーク)はA型結晶の融解(及び分解)を含むと考えられるが,B型結晶の転移や分解の影響などもあり,2本目以降のピークは,正確性,定量性には疑問がある。・・・指紋領域を含むスペクトル全体を比較すると,B型結晶と同定できる試料は,A型15%まで混合したものであった。このA型15%までの試料は,3506,3103及び777cm-1の特性吸収帯を有する。20%以上A型が混合した試料では,特許記載のA型の特性吸収帯が認められ,指紋領域の比較でもB型と同一のスペクトルとは認められない。以上を総合して,3つのパラメーターを全て充足するファモチジンは,A型を15%程度まで混在していてもよいB型ファモチジンであると判断される」(7頁最終段落〜10頁第1段落)との記載があり,甲20-1実験報告書を補足した上記A作成の平成15年10月10日付け「意見書-明細書に記載の結晶の特性-」(甲26)とともに,控訴人の上記主張に沿うものである。しかしながら,そもそも,本件明細書には,控訴人主張のように,A型ファモチジンの混合が約15%まで許容される範囲のB型ファモチジンが形態学的に均質なB型ファモチジンであることを示唆する記載は何ら存在しない。
また,甲20-1実験報告書について検討すると,DSCについて,A型とB型を,5:95,10:90,15:85の比率で混合したファモチジンをDSC測定により分析した結果を示す図4,6及び8には,B型ファモチジンを示すピークよりも高温側にA型ファモチジンが含有されていることを示すピークが認められる。さらに,平成13年6月27日廣川書店発行「第十四改正日本薬局方解説書」B-336頁〜B-357頁(乙1)及び同年4月25日同発行「第十四改正日本薬局方-条文と注釈-」113頁〜115頁(甲20-1添付)によると,「IRスペクトル」(赤外吸収スペクトル)の測定においては,試料量が多すぎると,吸光度の大きい吸収帯の波数分解能が悪くなり,少なすぎると,吸光度の小さい吸収帯はノイズと区別できなくなることが知られ,日本薬局方では,試料は主な吸収帯の透過率が5〜80%の範囲内になるように調製するものとされていることが認められる。他方,甲20-1実験報告書においては,A型が0〜15%含まれているとされる図18,20,22及び24においては,透過率が40%〜100%の範囲内で得られており,その試料濃度が過少に調製されていることがうかがわれる。
したがって,甲20-1実験報告書の「IRスペクトル」は,日本薬局方とは異なる特殊な測定法による実験結果を示すにすぎないものと認められ,甲20-1実験報告書は,控訴人の上記主張を裏付けるものということはできない。
(4) ところで,本件発明の「『B』型のファモチジン」は,上記(2)のとおり,A型ファモチジンを含まない純粋なB型ファモチジンを意味するものであるとしても,全く純粋な結晶を製造することは極めて困難であり,また,高純度の結晶であっても,通常の測定法では検出できない程度の不純物が混合することが避け難いことは当裁判所に顕著であるから,通常の測定法では検出できない程度の量のA型ファモチジンが混合したB型ファモチジンも,本件発明の「『B』型のファモチジン」に含まれると解する余地がある。そこで,更に検討すると,本件明細書(甲24-2添付)の特許請求の範囲【請求項1】の「その融解吸熱最大がDSCで159℃にあり,その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり,及びその融点が159〜162℃であることを特徴とする」との記載,及び発明の詳細な説明において,融解吸熱最大について,B型はDSCで159℃,A型は167℃であることを明確に区分して記載していること(段落【0002】,【0010】,【0011】,【0016】,【0017】),赤外吸収スペクトルの特性吸収帯について,B型は3506,3103,777cm-1にあり,A型は3450,1670,1138,611cm-1であることを明確に区分して記載していること(段落【0010】,【0011】,【0016】,【0017】)に照らすと,融解吸熱最大(構成要件@),赤外吸収スペクトル特性(構成要件A)及び融点(構成要件B)について,特許請求の範囲【請求項1】に記載された上記各特性のみが検出され,A型の特性が検出されない限度のA型ファモチジンを含むB型ファモチジンは,本件発明の技術的範囲に含まれるが,A型の特性が検出される程度までA型ファモチジンを含むB型ファモチジンは,本件発明の技術的範囲に属しないと解するのが相当である。
2 被控訴人ら医薬品の原薬ファモチジンと本件発明の構成要件との対比について 被控訴人日本医薬品工業医薬研究部C作成の平成14年4月18日付け「粉末X線回折測定による『混合型ファモチジン』の確認について」(乙9)によれば,被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジン(ロットCB-21)を粉末X線回折測定により分析した結果,A型とB型の混合したファモチジンであるとの分析結果が得られたこと,被控訴人陽進堂企画開発部D作成の同月22日付け「DSCによる『B型ファモチジン』及び『混合型ファモチジン』の融解吸熱パターン比較」(乙8)によれば,上記ファモチジンをDSC測定により分析した結果,A型ファモチジンが含有されていることを示す162.05℃のピークが計測されたこと,(b)大学理学部助教授E作成の同年11月8日付け「立会い製造報告書」(乙16)によれば,被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジン(ロットCT-16)をDSC測定により分析した結果,明確な二相性を示し,A,B混合結晶であるとの分析結果が得られたことが認められる。
そうすると,被控訴人ら医薬品が,いずれもA型ファモチジンを含むものであることは,別紙物件目録の記載のとおり,控訴人の自認するところであり,上記事実によれば,被控訴人ら医薬品の原薬であるファモチジンは,融解吸熱最大(構成要件@)について,A型の特性が検出される程度までA型ファモチジンを含むものと認められるから,本件発明の構成要件Dを上記1(4)のとおり解釈するとしても,これを充足せず,被控訴人ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。
3 均等侵害について 控訴人は,被控訴人ら医薬品が,本件発明の構成要件を充足しないとしても,以下のとおり,平成10年最判の挙げる要件をすべて満たすから,本件発明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するというべきであると主張する。
願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,@当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,A当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,Bそのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,このような対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(平成10年最判参照)。これを本件についてみると,本件明細書(甲24-2添付)の記載に照らせば,本件発明に係る【請求項1】の「『B』型のファモチジン」との記載は,ファモチジンには,A型ファモチジン,B型ファモチジン及び両者の混合物が存在することを前提とした上で,「『B』型」に限定したものであること,控訴人が,拒絶理由通知に対する意見において,引用例のファモチジンがA型及びB型の混合物であるのに対し,本件発明の「B型ファモチジン」は「純品なB型ファモチジン」であると説明して特許査定に至ったことは,上記1(1)のとおりである。上記のような出願経過に照らせば,本件特許の出願人である控訴人は,当初から,特許請求の範囲を,その記載内容である構成要件@ないしBの3パラメータによって特定されるとともに特定の結晶形である「『B』型のファモチジン」に限定して出願したものというべきである。控訴人は,含有A型ファモチジンを含有するが,A型ファモチジンの混合を示す3450cm-1付近のピークは認められないB型ファモチジンは,本件特許出願において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものでなかったことは明らかであると主張するが,A型ファモチジンを15%まで混合したB型ファモチジンの赤外吸収スペクトルがA型ファモチジンの混合を示す3450cm-1付近のピークを示さない根拠とする甲20-1実験報告書が採用できないことは,上記1(3)のとおりであるから,控訴人の上記主張は理由がない。そうすると,均等成立のための上記要件Dを欠くことが明らかであり,控訴人の均等侵害の主張は,採用することができない。
4 結論 以上によれば,被控訴人ら医薬品に含まれる原薬であるファモチジンは,本件発明の構成要件Dを充足せず,また,本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された構成と均等なものということもできないから,被控訴人ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえず,被控訴人らが,被控訴人ら医薬品を製造,販売する行為は,控訴人の本件特許権を侵害するものということはできない。
したがって,控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は理由がないから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録1約15%以下の「A型のファモチジン」が混在する再結晶により析出された形態学的に均質な「B型のファモチジン」を原薬とする「H2受容体拮抗剤」(販売名「プロゴーギュ散2%」)2約15%以下の「A型のファモチジン」が混在する再結晶により析出された形態学的に均質な「B型のファモチジン」を原薬とする「H2受容体拮抗剤」(販売名「プロゴーギュ錠10mg」「プロゴーギュ錠20mg」)
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴