運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 28年 (ネ) 10100号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人 グローブライド株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋元弘 末吉亙
同補佐人弁理士 水野浩司
被控訴人株式会社シマノ
同訴訟代理人弁護士 鎌田邦彦 北井歩 毒島光志 村上光太郎
同補佐人弁理士 小野由己男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/03/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の各魚釣用電動リールを製造し, 譲渡し,若しくは輸出し,又は譲渡の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の各魚釣用電動リールを廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人に対し,3850万円及びこれに対する平成27年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
6 第2ないし4項につき仮執行宣言
事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)
1 本件は,発明の名称を「魚釣用電動リール」とする発明に係る特許権(特許第5641623号(本件特許権1),同第5641624号(本件特許権2),同第5641625号(本件特許権3))を有する控訴人が,原判決別紙被告製品目録記載の各魚釣用電動リール(被告製品)を販売等する行為は,本件特許権1ないし3を侵害する行為である旨主張して,被控訴人に対し,@特許法100条に基づき,被告製品の製造,譲渡等の差止め及び廃棄,A不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金3850万円(平成26年11月7日から平成27年1月31日までの間に被告製品を販売したことによる損害額3500万円及び弁護士等費用350万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 原判決は,被告製品は,本件特許権1に係る特許(本件特許1)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本件発明1),本件特許権2に係る特許(本件特許2)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本件発明2)及び本件特許権3に係る特許(本件特許3)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本件発明3)の各技術的範囲に属するが,本件特許1ないし3はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものであるから,控訴人は被控訴人に対し本件特許権1ないし3を行使することはできないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
3 そこで,控訴人が,原判決を不服として控訴を提起した。
4 前提事実は,原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。
5 争点は,原判決9頁7行目末尾に改行の上,「 訂正の対抗主張の成否」を付加し,同頁8行目の「 原告の損害額」を「 控訴人の損害額」と訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,下記1のとおり, 主張を補充し,下記2のとおり, 当審における主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,引用に係る原判決中ついて」と訂正する。)。
1 争点 (本件各発明の乙18発明に基づく進歩性欠如)について〔被控訴人の主張〕 本件各発明の課題の周知性ないし乙18発明の課題との共通性ア 本件各発明は,「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供すること」を課題とするものである(【0006】)。
イ 当業者であれば,電動リールにおいても,リール(リール本体と釣竿)を片方の手で把持しその手の親指でモータ出力調整体を操作すること,そして,その際の操作性(操作性・把持性)の向上を図ることは当然に考えることであり,本件各発明の上記課題は,自明ないし周知の課題にすぎない(乙17,20,22,39〜41,43,48,51,52,72等)。
ウ また,乙18発明は,片方の手でリール(リール本体及び釣竿)を把持し,その手の親指で操作部材を操作する際の操作性の向上を課題とするものであるから (【0026】等),本件各発明の上記課題(「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき」るという課題)と共通する。
課題解決手段の周知性 ア 手持ち状態で使用するリールにおいて,リールを片方の手で把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材を操作する際の操作性(操作性・把持性)の向上のため,操作部材を親指の届きやすい位置に配置するのは当然のことである(乙23)。
イ リールは後方側から把持されるものであるところ,親指の届きやすい位置として,モータ出力等を調整する操作部材を制御ケースの後方側で側板の上部に配置することは周知である(乙17,18,20,21,24,43等)。
ウ また,操作部材は,リールを後方側から把持した手の親指で操作されるものであるから,リール本体に対して前後方向に回転操作するものが合理的かつ一般的である(乙18,20,21,28,43等)。
エ さらに,操作部材は外側から操作されるものであるから操作部材がリールの表面から露出することは当然のことであり,側板の表面から露出するものも周知である(乙18,20,24,28,43等)。
オ そうすると,本件各発明における「操作部材を制御ケースの後方側で少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着する」構成は,リールを片方の手で把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材の操作性の向上という自明かつ周知の課題を解決するための周知技術そのもの,又は周知技術を組み合わせて容易に想到することができる構成にすぎない。
カ また,操作部材について,レバー式,スライド式,ダイヤル式は,一般的に置換可能な代替手段であって周知のものであり,置換後の配置位置又は態様も,技術の具体的適用に伴い適宜設計される事項にすぎない(乙17,18,22,25 〜27等)。
本件各発明の容易想到性 ア 本件発明1 乙18発明も乙17発明も乙20発明も,いずれもリールを片方の手で把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材を操作する際の操作性(操作性・把持性)の向上という点で課題及び作用効果を共通にしており,これらを組み合わせる動機付けがある。
したがって,乙18発明に,乙18公報の図8又は乙17公報の図9を適用して,乙18発明の操作部材を略円筒形状に構成され前後方向に回転する操作部材に変えること(相違点B)は,容易に想到できたことである。そして,その際,親指が届きやすい配置位置として操作部材をより後方に下げて制御ケースの後方側に配置することは,設計的事項にすぎないか,操作部材を側板の上部で制御ケースの後方側に配置する周知技術を適用することにより,容易に想到できたことである(相違点@)。
さらに,魚釣り用電動リールにおいて検知手段の防水性の確保等は自明かつ周知の課題であり,そのために操作部材を制御ケースに配設するとともに制御ケースに支持された支軸に操作部材を回転可能に装着し,制御ケースに操作部材の操作角度を検知する検知手段を設けることは古くからの周知技術であるから(乙17,19,34),この周知技術を適用することにより,操作部材が「前記制御ケースに配設されるとともに,前記制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されて」おり,「前記制御ケースには,操作部材の操作角度を検知する検知手段が設けられている」構成とすることも,容易に想到できたことである(相違点A及びC)。
なお,検知手段が角度を検知するものである点は,操作部材が回転可能に装着されている構成とする場合,当然に得られる構成である。
以上によれば,本件発明1は,乙18発明に基づき,容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明2及び3 乙18公報の図8及び乙17公報の図9の操作部材は,略円筒形状に形成され外表面の円弧領域が操作部としてリールの上部の表面から露出している構成(本件発明2との関係)及び親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するようにリールの上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収容されて前後方向に向けて回転可能に装着されている構成(本件発明3との関係)を有しており,また,本件発明2の操作部材の大きさは,設計的事項にすぎない上(乙18公報の図8も乙17公報の図9も,その範囲内の大きさであるとみられる。),技術常識(乙37)の範囲内でもあるから,本件発明2と乙18発明との相違点(操作部材がスライドレバー形状で寸法が明記されておらずその外表面が突起状のつまみである点。以下「相違点D」という。),本件発明3と乙18発明との相違点(操作部材の外表面が突起状のつまみであり下方領域の収容態様が不明である点。以下「相違点E」という。)に係る構成も,容易に想到できたものである。
よって,本件発明2及び3は,乙18発明に基づき,容易に発明をすることができたものである。
把持方法について 本件各発明は片手のみで釣竿とともにリール本体を把持することを構成とするものではないことに加え,当業者であれば,乙18発明は,手持ち状態で使用するものであり,リール本体と釣竿を片手で把持するものであると当然に理解するということができるが,仮に,乙18発明と本件各発明とが,片方の手でリール本体のみを把持するものであるか,リール本体と釣竿の両方を把持するものであるかという把持方法の点で相違するとしても,以下のとおり,本件各発明は乙18発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
ア 魚釣用電動リールにおいて,片方の手でリール本体と釣竿を把持しその手の親指でモータ出力を調整する操作部材を操作する際の操作性(操作性・把持性)の向上という課題は,自明かつ周知であり,その課題の解決のために,リール本体と 釣竿を片手で把持するものについて,操作部材の配置位置等を工夫した電動リールが多数存在する(乙17,20,21,38〜43,46〜48,51〜53,72等)。
そうすると,手持ち状態で使用する乙18発明においても,釣竿とリール本体を把持した片手の親指で操作部材を巧みに操作するという上記課題に沿って,本件各発明のように構成することは容易に想到できたことである。
イ また,手持ち状態で使用するリールにおいては,片手でリール本体と釣竿をともに把持する方法が安定的で操作性の高い把持方法として技術常識であるから(乙38,71,72等),当業者であれば,手持ち状態で使用する乙18発明においても,当然に,片手でリール本体と釣竿をともに把持することを考えるということができる。
さらに,手持ち状態で使用する電動リールについては,古くから,釣竿とともにリール本体を片手で把持して釣りをする「ベイトリール」のようにするという一般的な課題が市場・業界に存在し,かかる課題を満足するリールが周知であったのであるから(甲16,乙46〜48,51〜53等),当業者は,乙18発明においても,当然に,ベイトリールのように片手でリール本体と釣竿をともに把持することを考えるということができる。
そして,片方の手でリール本体のみを把持する場合であっても,リール本体と釣竿を把持する場合であっても,リール本体,あるいは,リール本体と釣竿を把持した手の親指で操作部材を操作する際の操作性・把持性の向上という課題の解決のために,操作部材を制御ケースの後方側で側板の上部に装着すること,側板の表面から露出した状態で装着すること,前後方向に回転可能に装着することが好適であることに変わりはない。
そもそも,釣竿等を両手で把持するか,片手のみで把持するかは,釣竿等の重さや実釣時の状況に左右されるものであり,釣竿等を両手で把持する場合であっても,片手のみで把持する場合であっても,操作部材の配置態様等において変わりはない。
なお,リールを小型化すればリールを把持した手の親指で操作部材を操作する上での操作性(操作性・把持性)が向上することは自明かつ周知であるところ,電動リールは,早くから小型化が進み,原出願の出願日当時,既に十分小型化されていたから(甲16,乙46〜48,51〜53等),当業者であれば,操作部材の配置位置等をそのままにして大きさを小さくすることを当然考え,また,周知例等のうちに電動リールに関するものでないことが含まれていたとしても,これを電動リールに適用することを当然考えるというべきである。
そうすると,乙18発明において,本件各発明のように構成することは容易に想到できたことである。
小括 以上のとおり,本件各発明は,乙18発明に基づき容易に発明をすることができたものであって,特許無効審判により無効にされるべきものである。
〔控訴人の主張〕 本件各発明の特徴 従来の魚釣用電動リール(乙17,18)は,片手でリール本体を把持することを前提としたものであるため,釣竿とリール本体を把持する片手で,モータの出力調整操作をあらゆるシーン(単なる仕掛け回収のような巻き取りや,魚を誘う場合に応じた複雑(緩急)な巻き取り操作等)に適宜対応できるものとはなっておらず,また,親指が届いても,力を入れることができない位置に操作部材(操作部)があり,所望の巻き取り状態が得られないという問題があった。
本件各発明は,上記問題に鑑み,釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的として,かかる課題の解決手段として,操作部材を,制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着する構成を採用したものである。
本件各発明によれば,@操作部材の装着位置を制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部とすることで,釣竿とリール本体を把持した手の親指が届き,操作した際に力を十分に伝えることができるとともに(【0008】),A操作部材を,左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で装着し,かつ,前後方向に回転可能に装着することで,上方から押え付けて転がすような操作ができることから,把持している手の親指で回転操作した際,親指が左右にずれることがなく把持安定性を高くすることができるという作用効果を奏する(【0008】,【0023】)。
本件発明1の容易想到性 ア 本件発明1と乙18発明との対比 本件各発明は, 操作部材を,その装着位置を制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に装着すること,左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で装着すること,前後方向に回転可能に装着することの全ての構成によって課題の解決をしているものである。
したがって,解決課題に係る技術的観点を考慮すれば,本件発明1と乙18発明とは,@操作部材について,本件発明1では,「操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設されるとともに,前記制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されて」いるのに対し,乙18発明では,モータ出力調節体40が制御ケースの左側方側でほぼ中央に配置されるとともに,左側板の表面から露出した状態でモータ出力調節体40の操作部40aを略円弧方向Tにスライド操作することによってモータ出力を増減調節するよう装着されている点,A本件発明1の操作部材は制御ケースに支持された支軸に回転可能に装着されているが,乙18発明のモータ出力調節体40は制御ケースに配設されると共に制御ケースに支持された支軸に装着されているかどうか不明である点,B本件発明1の検知手段は,操作角度を検知するように制御ケースに設けられているのに対し,乙18発明のモー タ出力調節体40の検知手段が角度を検知するものなのか,また,制御ケースに設けられているかどうか不明である点において相違する。
イ 乙18発明及び周知技術における電動リールを装着した釣竿の把持保持方法 乙18公報には,リール本体を握持保持することが記載されている(請求項3,【0024】,【0030】,【0032】)。特に【0024】に,釣竿又はリール本体4を保持する手を持ち換えるだけで手動魚釣操作と電動魚釣操作のいずれか一方の操作形態に切り換えることができる旨記載されているように,乙18発明は,ハンドル2とモータ出力調節体40がリール本体4の左右の両側部に振り分け配置されているため,釣竿又はリール本体4を保持する手を持ち換えるだけで手動魚釣操作と電動魚釣操作のいずれか一方の操作形態に切り換えることができ,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に,かつ誤操作することなく確実に行えること,及びモータ出力調節体40をスプール8の回転軸芯よりも上方側(表示ケース50の側方)に配置したことによって,釣り人がリール本体4を握持した状態で,かつ指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体40を変位操作することを目的としたものである。乙18公報には,乙18発明が,一方の手でリール本体,他方の手で釣竿を保持するものであることが記載されており,片手のみで釣竿とリール本体を把持することについては記載も示唆もない。
また,乙18公報のうち,乙18発明は【0029】の第2の変形例であるが,その前提となる実施形態(図1,図2)では,釣竿及びリール本体を片手で把持する把持態様であればモータ出力調節体40に指や手は届かないのであるから,乙18発明ではリール本体のみを把持した手の指でモータ出力調節体40を操作すると理解する。
以上によれば,乙18発明は,リール本体のみを把持した手やその指でモータ出力調節体40を操作するものであって,乙18公報には,片手のみで釣竿とリール本体を把持することについては,記載も示唆もない。
甲16,乙17,39ないし43,46ないし48,51及び52に係る電 動リールは,いずれも片手で釣竿とリール本体とを把持した手の親指で巻上げ速度の調整を行うものではなく,少なくとも,本件各発明が目的とする釣竿とリール本体を片手で容易に把持でき,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的とするものではない。また,乙72に記載されているのは,通常の魚釣用リールに補助巻取り専用モータを備えたリールであって,電動リール一般の把持態様を示すものではない。
ウ 本件各発明の課題を認識できないこと 乙18公報には,リール本体のみを把持した手やその指でモータ出力調節体40を操作することのみが開示されているのであって,片手のみで釣竿とリール本体を把持することは記載も示唆もない。その他の文献(乙17,20〜22)も片手で釣竿とリール本体とを把持した手の親指でモータ出力の調節のための操作部材を操作するものではない。したがって,これらの文献には,「釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供する」という課題については,記載も示唆もない。
電動リールでは,ハンドルを用いた手動での巻上げ操作も行えるようになっているため,釣竿とリール本体を片手で把持できる電動リールでは,巻上げ操作は手動でも電動でもハンドル側の手で行うというものであった。実際に,原出願の出願日前の電動リールを見ると,モータの出力調整操作をあらゆるシーン(単なる仕掛け回収のような巻き取りや,魚を誘う場合に応じた複雑な巻き取り操作等)に適宜対応する操作部材としては,ハンドル側に配置され,釣竿ないしリール本体と釣竿を把持した手と反対側の手で摘まんで操作するもののみが存在していた(甲16,18,甲32の1〜3,乙46)。また,乙38は,小型の電動リールを前提とした記載であるところ,小型の電動リールでは,他方の手が空いているために,モー タ出力を調整する操作部材の操作は,釣竿とリール本体を把持していない手で操作すれば足りるから,釣竿とリール本体を把持した手の指で操作部材を操作するという動機付けはなかった。
したがって,釣竿とリール本体を片手で把持できる電動リールでは,ハンドルが備えられている側の手の指でレバー形状のモータ出力を調整する操作部材を摘まんで操作するという固定観念を打破し,釣りの一連の動作について片手で行えるようにするとともに,釣竿とリール本体を片手で容易に把持でき,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供するという本件各発明の課題を認識することはできなかった。
エ 原判決における周知技術の認定が誤りであること 乙18公報に開示されている電動リールは,リール本体のみを片手で把持するもの,乙17公報に開示されている電動リールは,比較的大型の電動リールであるため,両手で電動リール本体を備えた釣竿を把持することを前提とするもの,乙21公報に開示されている電動リールは,竿のみを片手で把持するものであり,いずれも片手で釣竿とリール本体とを把持した手の親指が届きやすい位置にモータ出力の調整のための操作部材を設けるものではない。また,乙23及び24も,片手で釣竿とリール本体とを把持した手の親指が届きやすい位置にモータ出力の調整のための操作部材を設けることを開示するものではない。
「シーボーグ 150S」(乙46),「シーボーグ250FB」(乙47),「LEOBRITZ 150」(乙48,53)の「チョイ巻き」スイッチや乙38等の「寸動スイッチ」は,ベイトキャスティングリールにおける限定的な課題,すなわち,糸ふけ防止時の課題,棚取り時の課題,魚取り込み時の課題を解決するための手段(ルアーのアクションを付ける操作や棚取りの操作時,又は魚の取り込み時の微妙で単純な巻き取り操作を簡単にできるようにするための手段)にすぎないから,釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,モータ出力を多段 階に調整して所望の巻き取り状態を得るという構成を開示するものではない。
以上のとおり,片手で釣竿とリール本体とを把持した手の親指が届きやすい位置にモータ出力の調整のための操作部材を設けるものは,原出願の出願日前には開示されていない。
乙17公報,乙18公報,乙22及び25ないし27は,いずれも具体的な配置位置・態様を前提としたものか,あるいは,抽象的に置換できると述べるものの置換後の配置位置や態様が明らかではないものであって,これらの文献には,電動リールにおいてレバー式やスライド式の操作部材を,配置位置や配置態様を無視してダイヤル式に置換してよいという技術常識ないし技術は開示されていない。
オ 相違点の容易想到性 前記ア@の点操作部材は,制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着されているとの構成は,いずれの文献にも開示されておらず,そもそも乙18発明に組み合わせる技術がない。
また,本件発明1の課題は,前記ウのとおり,当業者において認識することができなかったから,乙18発明のモータ出力調節体40の配置・装着態様に代えて,上記構成を備えるようにすることについて,動機付けがない。
したがって,乙18発明において,前記ア@に係る本件発明1の構成を備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
前記アA及びBの点防水性の確保のために電動リールのモータ出力の操作部材の角度を検知する手段を制御ケース内に配置することは僅か2件の公報(乙19,34)に記載されているにすぎず,これが周知技術であるということはできない。
また,防水性の確保のために,乙18発明のモータ出力調節体40の操作部40aを前記ア@に係る構成に置換できたとしても,操作部材の角度検知手段を制御ケ ース内に配置することの動機付けとなる記載は,乙18公報にはない。
したがって,乙18発明において,前記アA及びBに係る本件発明1の構成を備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
本件発明2の容易想到性ア 本件発明2と乙18発明との対比本件発明2と乙18発明とは,@操作部材について,本件発明2では「操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着」されているのに対し,乙18発明では,モータ出力調節体40が制御ケースの左側方側でほぼ中央に配置されるとともに,左側板の表面から露出した状態でモータ出力調節体40の操作部40aを略円弧方向Tにスライド操作することによってモータ出力を増減調節するよう装着されている点,A本件発明2の操作部材は直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成され,その外表面が円弧領域であるのに対し,乙18発明のモータ出力調節体40の操作部40aは,スライドレバー形状で寸法が明記されておらず,外表面が突起状のつまみである点において相違する。
イ 相違点の容易想到性 前記ア@の点備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
前記アAの点 2の課題及びこれに応じた作用効果は,乙18公報のみならず,いずれの文献にも開示も示唆もされていない。
特に,本件発明2では,操作部材を直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成することで,釣竿とリール本体を片手で把持した場合により把持安定度を向上させるとともに,親指を押さえつけて安定して転がし操作ができるようにしている(【0025】)。
したがって,上記課題の解決のために操作部材の形状や寸法を定めることが設計的事項であるということはできない。また,乙18公報に接した当業者において,上記課題の解決のために操作部材の形状や寸法を定めることについては,その動機付けもない。さらに,片手でリール本体と釣竿を把持し,その手の親指で巻上げ速度の調整の操作を行う場合に,操作部材を直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成することは通常想定された範囲ではない。
そうすると,乙18発明において,前記アAに係る本件発明2の構成を備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
本件発明3 ア 本件発明3と乙18発明との対比 本件発明3と乙18発明とは,@操作部材について,本件発明3では「操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に,親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するように・・・前後方向に向けて回転可能に装着されている」のに対し,乙18発明では,モータ出力調節体40が制御ケースの左側方側でほぼ中央に配置されるとともに,左側板の表面から露出した状態でモータ出力調節体40の操作部40aを略円弧方向Tにスライド操作することによってモータ出力を増減調節するよう装着されている点,A本件発明3の操作部材は親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するように前記側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収容されて前後方向に向けて回転可能に装着されているのに対し,乙18発明のモータ出力調節体40は外表面の突起状のつまみが露出するように前記側板の上部に装着されている点(すなわち,外表面が突起状のつまみであり,下方領域の収容態様が不明である点)において相違する。
イ 相違点の容易想到性 前記ア@の点 の構成を備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
前記アAの点 3の課題及びこれに応じた作用効果は,乙18公報のみならず,いずれの文献にも開示も示唆もされていない。
したがって,上記課題の解決のために,操作部材の配置態様を定めることは設計的事項ではなく,乙18発明に接した当業者が,上記課題の解決のために,操作部材の配置態様を定めることの動機付けがない。
そうすると,乙18発明において,前記アAに係る本件発明3の構成を備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
小括 以上のとおり,本件各発明は,乙18発明に基づき容易に発明をすることができたものではない。
2 争点 (訂正の対抗主張の成否)について〔控訴人の主張〕 訂正請求 ア 控訴人は,本件特許権1に係る特許無効審判事件(無効2015-800197)において,平成28年12月5日,特許請求の範囲の請求項1につき,以下のとおり訂正請求をした(下線部は訂正箇所。以下,この訂正を「本件訂正1」,訂正請求後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件訂正発明1」という。 。
)なお,「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。
【請求項1】リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと,前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,/を有する魚釣用電動リールにおいて,/前記操作部材は,略円筒形状に構成され,前記制御ケースの後方側で,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で押え付けて前後方向に回転操作が可能となるように少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前記 制御ケースに配設されるとともに,前記制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されており,前記制御ケースには,操作部材の操作角度を検知する検知手段が設けられていることを特徴とする魚釣用電動リール。
イ 控訴人は,本件特許権2に係る特許無効審判事件(無効2015-800198)において,平成28年12月5日,特許請求の範囲の請求項1につき,以下のとおり訂正請求をした(下線部は訂正箇所。以下,この訂正を「本件訂正2」,訂正請求後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件訂正発明2」という。 。
) 【請求項1】リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと,前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,/を有する魚釣用電動リールにおいて,/前記操作部材は,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に回転可能に装着されるとともに,直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成され,その外表面の円弧領域が操作部として前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に前記側板の上部の表面から露出し,前記円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5〜12mmの範囲に設定されている,ことを特徴とする魚釣用電動リール。
ウ 控訴人は,本件特許権3に係る特許無効審判事件(無効2015-800199)において,平成28年12月5日,特許請求の範囲の請求項1につき,以下のとおり訂正請求をした(下線部は訂正箇所。以下,この訂正を「本件訂正3」,訂正請求後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件訂正発明3」という。
また,本件訂正1ないし3を併せて「本件各訂正」,本件訂正発明1ないし3を併せて「本件各訂正発明」という。)。
【請求項1】リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと, 前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,/を有する魚釣用電動リールにおいて,/前記操作部材は,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置の前記制御ケースの後方側で,前記スプールのフランジ後端より前方側に配置されており,少なくとも左右の側板の一方の上部に,前記釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指を押え付けて前後方向に回転操作される外表面の円弧領域が露出するように前記側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収容されて前後方向に向けて回転可能に装着されていることを特徴とする魚釣用電動リール。
本件各訂正が訂正要件を満たすものであることア 本件訂正1本件訂正1は,訂正前の請求項1の「操作部材」の形状を具体化し,かつ「操作部材」の配設位置及び配設態様をより具体化することで,特許請求の範囲減縮しようとするものであるから,特許法134条の2第1項1号の規定する特許請求の範囲減縮を目的とするものである。
また,本件訂正1は,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものには該当せず,特許法134条の2第9項が準用する同法126条6項に適合する。
そして,本件訂正1に係る訂正事項は,本件明細書1の【0020】,【0023】,【0029】等に記載されているから,本件訂正1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項に適合する。
イ 本件訂正2本件訂正2は,訂正前の請求項1の「操作部材」の配設位置及び配設態様をより具体化するとともに,側板の上部の表面から露出している円弧領域となる操作面の突出高さを特定することで,特許請求の範囲減縮しようとするものであるから,特許法134条の2第1項1号の規定する特許請求の範囲減縮を目的とするもの である。
また,本件訂正2は,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものには該当せず,特許法134条の2第9項が準用する同法126条6項に適合する。
そして,本件訂正2に係る訂正事項は,本件明細書2の【0020】,【0023】,【0024】,【0029】,【0040】等に記載されているから,本件訂正2は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項に適合する。
ウ 本件訂正3本件訂正3は,訂正前の請求項1の「操作部材」の配設位置及び配設態様をより具体化することで,特許請求の範囲減縮しようとするものであるから,特許法134条の2第1項1号の規定する特許請求の範囲減縮を目的とするものである。
また,本件訂正3は,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものには該当せず,特許法134条の2第9項が準用する同法126条6項に適合する。
そして,本件訂正3に係る訂正事項は,本件明細書3の【0020】,【0023】,【0029】,【0039】等に記載されているから,本件訂正3は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項に適合する。
本件各訂正により乙18発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されること本件各訂正は,共通して操作部材の位置を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」と減縮し,本件各訂正発明がこのような把持保持状態で操作部材を親指で押さえ付けて前後方向に転がし(回転)操作するものであることを明確化するものである。これにより,本件各訂正発明が,釣竿とリール本体を片手で把持できる電動リールであることを前提とするものであることが明確化されるとともに,乙18発明及び他の周知技術との把持態様の違いが明確化 された。
ア 本件訂正発明1 乙18発明は,リール本体4を握持した状態で,かつ指や手の無理のない姿勢で操作可能となるように,モータ出力調節体40を制御ケースの左側方側に配置している。したがって,操作部材を釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配置することを当業者が想到することはなく,操作部材を略円筒形状に構成し,当該親指で押え付けて前後方向に転がし(回転)操作が可能となるように少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で制御ケースに配設されるとともに,制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着することを想到することもない。
また,操作部材を釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配置することは,いずれの文献にも開示されていないから,乙18発明に組み合わせる技術がない。さらに, の本件訂正発明1の課題は,乙18公報のみならず,いずれの文献にも開示も示唆もされていないから,片手のみで釣竿とリール本体を把持した状態の手の親指で出力調節体を操作する電動リールについて上記課題を認識することはできない。したがって,乙18発明のモータ出力調節体40の配置・装着態様に代えて,本件訂正発明1に係る構成を採用する動機付けはない。
そうすると,乙18発明において,モータ出力調節体40の配置・装着態様に代えて,本件訂正発明1に係る構成を備えるようにすることについては当業者が容易に想到できたものではない。
イ 本件訂正発明2 前記アと同様に,乙18発明において,モータ出力調節体40の配置・装着態様に代えて,本件訂正発明2に係る構成を備えるようにすることについては当業者が容易に想到できたものではない。
本件訂正発明2は,操作部材の直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜2 0mmの略円筒形状に形成され,その外表面の円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5〜12mmの範囲に設定されているという構成によって,より一層,釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供する。
このような特有の作用効果を有する操作部材の外表面の円弧領域となる操作面の表面に対する突出高さ,その他の数値範囲を開示する文献はない。
したがって,乙18発明において,本件訂正発明2に係る上記構成を備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
ウ 本件訂正発明3 前記アと同様に,乙18発明において,モータ出力調節体40の配置・装着態様に代えて,本件訂正発明3に係る構成を備えるようにすることについては当業者が容易に想到できたものではない。
本件訂正発明3は,更に操作部材をスプールのフランジの後端よりも前方側に配置するという構成により,操作性及び把持性においてより好ましい配置位置に限定をしている。このように限定された操作部材の配置位置について,具体的に開示する文献はない。
したがって,乙18発明において,本件訂正発明3に係る上記構成を備えるようにすることについては,当業者が容易に想到できたものではない。
本件各訂正によりその他の進歩性欠如の無効理由が解消されること前記 と同様に,本件訂正発明1は,乙17発明,乙20発明及び乙19発明に基づき,本件訂正発明2及び3は,乙17発明,乙20発明及び公然実施発明(VS700AC)に基づき,それぞれ容易に発明をすることができたものではない。
被告製品は本件各訂正発明の技術的範囲に属するものであることア 本件訂正発明1本件発明1に付加された本件訂正発明1の構成は,@操作部材が略円筒形状に構 成されている点,A操作部材は釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で押え付けて前後方向に回転操作が可能となるように配設するとした点である。
被告製品の調整部材5は略円筒形状に構成されている。また,被告製品は,調整部材5が釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で押え付けて前後方向に回転操作が可能となるように配設されている。
したがって,被告製品は,本件訂正発明1の技術的範囲に属する。
イ 本件訂正発明2本件発明2に付加された本件訂正発明2の構成は,@操作部材が釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設され,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に側板の上部の表面から露出している点,A円弧領域となる操作面の外表面に対する突出高さが0.5〜12mmの範囲に設定されている点である。
被告製品では,調整部材5が釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配置され,かつ,かかる親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に側板の上部の表面から露出している。また,被告製品の調整部材5の円弧領域となる操作面の外表面に対する突出高さは約2mmである。
したがって,被告製品は,本件訂正発明2の技術的範囲に属する。
ウ 本件訂正発明3本件発明3に付加された本件訂正発明3の構成は,@操作部材が釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設され,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指を押え付けて前後方向に回転操作される外表面の円弧領域が露出している点,A操作部材が,スプールのフランジ後端より前方側に配置されている点である。
被告製品では,調整部材5が釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配置され,かつ,かかる親指を押え付けて前後方向に回転 操作される外表面の円弧領域が露出している。また,被告製品の操作部材5は,スプール10のフランジの後端より前方側に配置されている。
したがって,被告製品は,本件訂正発明3の技術的範囲に属する。
本件各訂正発明に無効理由は存しないことア 明確性要件違反についてリールを備えた釣竿を使用する対象者の手の大きさは一定の範囲に収まるものであり,そのような手の大きさの範囲で釣竿とリール本体を片手で把持保持できる大きさ,形状の電動リールは当業者であれば想定することができる。そして,その状態で側板の上部であって,その手の親指が届く位置も自ずと設定することができる。よって,本件各訂正発明は,明確である。
進歩性欠如について 本件各訂正発明は,「Adventure電動 VS300」及び乙51に記載された技術事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件各訂正発明は,「シーボーグ250FB」(乙47,52),「シーボーグ150S」(乙46)又は「LEOBRITZ150」(乙48,53)に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
小括以上のとおり,本件各訂正は適法なものであって,本件各訂正によって進歩性欠如の無効理由は解消し,かつ被告製品は本件各訂正発明の技術的範囲に属する。また,本件各訂正発明には,被控訴人の主張する無効理由は存しない。
したがって,控訴人の被控訴人に対する本件特許権1ないし3の行使が制限されることはない。
〔被控訴人の主張〕 時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきものであること訂正の対抗主張は,被控訴人が本件特許1ないし3について乙18発明に基づく 進歩性欠如の無効理由が存する旨の主張をしたのに対抗して,原審における審理の当初から主張することができたものである。そして,控訴人は,原審裁判所による侵害論に係る心証開示がされた後に,平成28年3月2日付け原告第6準備書面において上記訂正の対抗主張をしたが,原審裁判所は,同月8日の口頭弁論期日において,これを却下し,口頭弁論を終結している。原審における上記審理経過に照らし,訂正の対抗主張は,時機に後れて提出された攻撃防御方法として,民訴法157条1項に基づき却下されるべきである。
本件各訂正は不適法なものであること操作部材の配設位置を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」と特定したとしても,せいぜいリールの把持方法を特定するにとどまり,リール本体の大きさや形状を構成として特定するものではない。また,リールをハンドル側から把持する場合と反ハンドル側から把持する場合とでは釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置は異なり,操作部材の配置位置を特定することができない。さらに,人によって手の大きさは異なるから,同じリールであっても釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置は異なる。
このように,「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」との訂正は,構成として,リール本体の大きさや形状を特定するものでも,操作部材の配置位置を特定するものでもなく,特許請求の範囲減縮するものとはいえない。
したがって,少なくとも本件特許1の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で」との訂正,本件特許2の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており」との訂正及び本件特許3の「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置の」との訂正は訂正要件を満たさないもので,本件各訂正は不適法である。
本件各訂正によっても乙18発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消しないこと ア 本件訂正発明1 本件訂正発明1と乙18発明とは,本件発明1と乙18発明との相違点@,A及びCと同じ点で相違するのに加え,「本件訂正発明1では,操作部材が略円筒形状に構成され, (前後方向に)回転可能に装着されているのに対して,乙18発明では,操作部材がスライドレバー形状であって(前後方向に)略円弧状にスライド可能に装着されている点」(相違点B’)において相違する。
相違点B’の容易想到性 相違点B’は,本件発明1と乙18発明との相違点Bに加え,さらに操作部材の形状が「略円筒形状に構成され」と特定されている。しかし,ダイヤル式の操作部材において略円筒形状に構成されたものは周知である(乙17,18,28)。
したがって,乙18発明に,上記周知技術を適用して,相違点B’に係る構成を得ることは,当業者が容易に想到できたことである。なお,略円筒形状に構成された(ダイヤル式の)回転可能な操作部材が押さえ付けて操作されるものであることは,明らかである(乙17)。
仮に本件訂正発明1と乙18発明とが,さらに「本件訂正発明1では,操作部材が「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で押え付けて」操作可能に配設されているのに対し,乙18発明では,リール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で押え付けて操作可能に配置されている点」(以下「相違点F」という。)において相違しているとしても,かかるある。
イ 本件訂正発明2 本件訂正発明2と乙18発明とは,本件発明1と乙18発明との相違点@,本件訂正発明1と乙18発明との相違点B’と同じ点で相違するのに加え,「本件 訂正発明2では,操作部材が,直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成され,その外表面が円弧領域であり,円弧領域となる操作面の側板表面に対する突出高さが0.5〜12mmの範囲に設定されているのに対し,乙18発明では,操作部材が,スライドレバー形状で寸法が明記されておらず,その外表面が突起状のつまみである点」(相違点D’)において相違する。
相違点D’の容易想到性相違点D’は,本件発明2と乙18発明との相違点Dに加え,さらに「円弧領域となる操作面の側板表面に対する突出高さが0.5〜12mmの範囲に設定され」と特定されている。しかし,操作部材の大きさや表面からの突出高さを適した寸法にすることは具体的状況において当業者が当然に考慮することにすぎない。
したがって,乙18発明に,上記周知技術を適用して,相違点D’に係る構成を得ることは,当業者が容易に想到できたことである。
仮に本件訂正発明2と乙18発明とが,さらに相違点Fと同様の点において業者が容易に想到できたものである。
ウ 本件訂正発明3 本件訂正発明3と乙18発明とは,本件発明1と乙18発明との相違点@及びB,並びに本件発明3と乙18発明との相違点Eと同じ点で相違する。本件訂正発明3では,操作部材の配置について,「前記スプールのフランジ後端より前方側に配置されて」いることが特定されているが,乙18発明においても,モータ出力調節体40はスプール8のフランジ後端より前方側に配置されており,この点は一致している。
したがって,本件訂正発明3は,本件発明3と同様に,乙18発明に基づき容易に発明をすることができたものである。
仮に本件訂正発明3と乙18発明とが,さらに相違点Fと同様の点において 業者が容易に想到できたものである。
本件各訂正によってもその他の進歩性欠如の無効理由が解消されないこと前記 と同様に,本件訂正発明1は,乙17発明,乙20発明又は乙19発明に基づき,本件訂正発明2及び3は,乙17発明,乙20発明又は公然実施発明(VS700AC)に基づき,それぞれ容易に発明をすることができたものである。
本件各訂正発明の無効理由ア 明確性要件違反本件訂正発明1についての「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で」との訂正事項,本件訂正発明2についての「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されており」との訂正事項及び本件訂正発明3についての「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置の」との事項は,いずれも不明確であり,本件各訂正発明は,特許法36条6項2号に適合しない。
イ 「Adventure電動 VS300」(乙51)に基づく進歩性欠如本件各訂正発明は,公然実施された「Adventure電動 VS300」及び乙51に記載された技術事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性欠如の無効理由を有する。
ウ 「シーボーグ250FB」(乙47,52),「シーボーグ150S」(乙46)又は「LEOBRITZ150」(乙48,53)に基づく進歩性欠如本件各訂正発明は,公然実施された「シーボーグ250FB」,「シーボーグ150S」又は「LEOBRITZ150」に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性欠如の無効理由を有する。
小括以上のとおり,本件各訂正は不適法なものであり,また,本件各訂正によっても進歩性欠如の無効理由は解消しない。さらに,被告製品は本件各訂正発明の技術的範囲に属しないし,本件各訂正発明は,無効理由を有する。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権1ないし3を行使することはできない。
当裁判所の判断
当裁判所は,被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するものの,本件特許1ないし3は本件各訂正によっても特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,控訴人は被控訴人に対し本件特許権1ないし3を行使することはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 争点 (被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について 本件各発明の構成要件 本件各発明の特許請求の範囲の記載を,構成要件に分説すると,以下のとおりである。
ア 本件発明1 1A リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと,前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにおいて, 1B 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設されるとともに,前記制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されており, 1C 前記制御ケースには,操作部材の操作角度を検知する検知手段が設けられている 1D ことを特徴とする魚釣用電動リール。
イ 本件発明2 2A リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと,前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケー スと,を有する魚釣用電動リールにおいて, 2B 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに,直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成され,その外表面の円弧領域が操作部として前記側板の上部の表面から露出している, 2C ことを特徴とする魚釣用電動リール。
ウ 本件発明3 3A リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと,前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにおいて, 3B 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に,親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するように前記側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収容されて前後方向に向けて回転可能に装着されている 3C ことを特徴とする魚釣用電動リール。
構成要件の充足性 被告製品の構成は,原判決別紙被告製品説明書記載のとおりであると認められるところ,被告製品1と2は,ハンドルの形状のみが相違し,その余の構造は同一であり,被告製品1と3,2と4は,それぞれ構造が左右対称であるが,それ以外の点では構造が同一であるため,原判決と同様に,被告製品1ないし4についてまとめて被告製品の本件各発明の構成要件充足性について論じることとする。
ア 被告製品の構成要件充足性について当事者間に争いがある点は,@被告製品の操作部材の露出位置は,構成要件1Bの「その側板の表面から露出」,2Bの「前記側板の上部の表面から露出」,3Bの「外表面の円弧領域が露出するように前記側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収容」を充足するか否か,A被 告製品の操作部材の配設位置は,構成要件1Bの「前記制御ケースの後方側で・・・制御ケースに配設」,2B及び3Bの「前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に・・・装着」を充足するか否か,B被告製品の操作部材の操作角度を検知する検知手段は,制御ケース内に設けられているか否か(構成要件1Cを充足するか否か),C被告製品は,凹所を有するか否か(構成要件3Bを充足するか否か)である。
被告製品は,上記@ないしCの各点に係る構成要件をいずれも充足するものと認められるところ,その理由は,原判決「事実及び理由」の第3の1ないし4記載のとおりであるから,これを引用する。
イ 被控訴人の主張について 被控訴人は,本件各発明において,操作部材の露出位置は,各特許の出願経過において引用文献1(乙17公報)に基づく進歩性の欠如を回避するために操作部材が「側板の表面のみ」から露出するものに限定された旨主張する。
証拠によれば,本件特許1ないし3の出願経過について,以下の事実が認められる。
a 操作部材の露出位置に関し,本件特許1に係る特許請求の範囲(請求項1)には「前記制御ケースの後方側で少なくとも左右の側板の一方の上部に周辺の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設される」と,本件特許2に係る特許請求の範囲(請求項1)には「前記制御ケースの後方側で少なくとも左右の側板の一方の上部に・・・支持されるとともに,・・・略円筒形状に形成され,その外表面の円弧領域が操作部として周辺の表面から露出している」と,本件特許3に係る特許請求の範囲(請求項1)には「前記制御ケースの後方側で少なくとも左右の側板の一方の上部に,親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するように前記側板上に形成された凹所内に下方領域が収容され」と記載されていた(乙2, 12) 7, 。
b 特許庁審査官は,本件特許1ないし3について,それぞれ平成26年4月25日付け拒絶理由通知書において,乙17公報(引用文献1)及び乙18公報(引 用文献2)に基づき進歩性が欠如する旨の拒絶理由を通知した(乙4,9,14)。
本件特許1に係る拒絶理由通知書には,乙17公報には,操作部材が「前記制御ケースの後方側で少なくとも左右の側板の一方の上部に周辺の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設される」魚釣用電動リールが記載されていることが,本件特許2及び3に係る拒絶理由通知書には,乙17公報には,操作部材が「前記制御ケースの後方側で,側板上にかかる部位に透孔(本願の「凹所」に相当)から,該表面の円弧領域が露出するように収容された」魚釣用電動リールが記載されていることが指摘されている。
c 控訴人は,前記拒絶理由の通知を受け,平成26年6月12日,本件特許1ないし3について,操作部材の露出位置に関し,特許請求の範囲の記載を構成要件1B,2B,3Bのとおりに補正した(乙6,11,16)。控訴人は,同日付け意見書において,@上記補正が,操作部材の配置構成について,乙17公報に見られる制御ケースの表面から露出するように配設する構成(あるいは,制御ケースの表面に形成されている凹所(透孔)に円弧領域が露出するように収容される構成)とは明確に相違するようにしたものであること,A乙17公報に記載のものは,操作部材を,側板の上方や,側板間に配設した部材の後側に設けたものは,モータ出力調整操作が行い難く,リール本体の十分な保持を図りながら釣場の状況に応じたモータによる自動巻き取り操作を容易かつ確実に行えない,という問題を解消するように着想されたものであり,操作部材を,スプール上方の側板間上面より突出させる(制御ケースに透孔を形成してそこから突出させる)という構成を必須要件とするものであるから,乙17公報に接した当業者において,上記必須の構成要件に反して,「側板の上部」に「側板の表面」から(あるいは,「側板の上部の表面」から)露出した状態となるように配設することを着想することはない旨主張した(乙5,10,15)。
d 乙17公報に記載された実施態様(第1実施例(図1),変形例(図8),第2実施例(図9),第1変形例(図11),第2変形例(図12))では,操作 部材は,いずれも制御ケースのみから露出するように設けられており,側板と制御ケースとの双方に跨ってその上部から露出するように設けられた態様は記載されていない。
前記 の認定事実によれば,控訴人は,乙17公報に記載のものが,操作部材を側板の上方に設けたものの問題の解消を目的として,操作部材を制御ケースの表面から露出するように配設する構成とするものであることを前提に,本件発明1ないし3においては,側板の上部の表面から操作部材が露出するように配設する構成とすることで乙17公報に記載のものとの構成上の差異を明らかにする趣旨で補正をしたにすぎないものと認められ,それを超えて,本件発明1ないし3の技術的範囲を,操作部材が側板の上部の表面のみから露出する態様に限定する趣旨,言い換えれば,その技術的範囲から,操作部材が側板の上部の表面に加えてこれに隣接する他の部材の表面からも露出している態様を除外する趣旨で補正をしたものであるということはできない。このことは,控訴人が,各意見書において,補正の根拠として,操作部材30が制御ケースに配設されており,かつ制御ケース15と左側板5Aの双方の上部の表面から露出した状態で配設されている第1の実施形態 【図 (1】,【図3】,【図4】)に係る本件明細書1及び2の【0020】,本件明細書3の【0021】を挙げていることからも明らかであるということができる。
以上によれば,被控訴人の上記主張は理由がない。
ウ 以上のとおり,被告製品は,前記ア@ないしCの各点に係る構成要件をいずれも充足するところ,被告製品が本件各発明のその余の構成要件を充足することは当事者間に争いがない。よって,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する。
2 )について進歩性欠如の無効理由があるか否かについて,まず判断する。
本件各発明の特徴 本件明細書1ないし3の記載によれば,本件各発明の特徴は以下のとおりである と認められる。なお,特に断らない限り,段落番号は本件明細書1ないし3に共通である。
ア 本件各発明は,魚釣用電動リールに関する(【0001】)。
最近では,手持ち状態で操作が行えるように,スプールを巻き取り操作するための操作部材を様々な位置に配置する,工夫された魚釣用電動リールが知られており,例えば,乙18公報には,リール本体の側方の前方側にスライドレバー式の操作部材を前後方向に移動可能に支持したものや,リール本体の後方に回転式の操作部材を回転可能に支持したものが開示されており,乙17公報には,制御ケースの上面から円板状の回転つまみ(操作部材)の一部を露出させ,上方から親指を押し付けながら回転操作するようにしたものが開示されており,乙24公報には,左側板上にプッシュボタン式の操作部材を設置したものが開示されている(【0002】〜【0004】)。
しかし,従来の操作部材の配置を工夫した魚釣用電動リールでは,釣竿とリール本体を把持する片手の親指での操作と把持の両面で満足できるものとはなっておらず,特に,釣竿とリール本体を把持する片手で,モータの出力調整操作をあらゆるシーン(単なる仕掛け回収のような巻き取りや,魚を誘う場合に応じた複雑(緩急)な巻き取り操作等)に適宜対応できるものとはなっていないという問題点があった(【0005】)。
イ 本件各発明は,従来の魚釣用電動リールの前記アの問題点に鑑み,釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的とする(【0006】)。
ウ 本件各発明は,前記イの課題の解決手段として,本件特許1ないし3に係る特許請求の範囲の各請求項1記載の構成を採用したものであり,特に,操作部材の配設に関し,操作部材が制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上 部にその側板の表面から露出した状態で配設されるとともに,前後方向に回転可能に装着されるようにした(【0007】)。なお,操作部材が装着されるのは,@本件発明1では,制御ケースに支持された支軸であり(本件明細書1【0007】 , )A本件発明2では,左右側板の一方の上部であり(本件明細書2【0007】),B本件発明3では,左右側板の一方の上部の表面に形成された凹所内である(本件明細書3【0007】)とそれぞれ特定されている。また,操作部材の形状に関し,本件発明2では,直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状(本件明細書2【0007】),本件発明3では,外表面に円弧領域がある形状(本件明細書3【0007】)とそれぞれ特定されている。
エ 本件各発明によれば,釣竿とリール本体を把持する片手の掌の一部が本体の側板にフィットした状態で,操作部材に親指が届き,操作した際の力を十分に伝えることができ,また,操作部材は,略前後方向に回転可能に支持されているため,露出部分を少なくしても操作領域を確保することができるとともに,把持している手の親指で回転操作した際,親指が左右にずれることがなく把持安定性が高くなるという作用効果を奏する(【0008】,【0009】)。
乙18発明の構成及びその特徴 ア 乙18公報には,「第1の実施形態」の「第2の変形例」として,以下の発明(乙18発明)が記載されているものと認められる 【0008】 【0009】 ( , ,【0021】,【0022】,【0029】,【図5】,【図6(b)】)。
リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと,前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前記駆動モータの出力を調整するモータ出力調節体と,前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにおいて,前記モータ出力調節体は,前記制御ケースの前後方向のほぼ中央で,前記リール本体の左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設され,前後方向に略円弧状にスライド移動可能に装着されていることを特徴とする魚釣用電動リール。
なお,より具体的には,モータ出力調節体の外表面は突起状のつまみであり,操作部として,リール本体の左側板の上部にその側板の表面から露出している。
イ 乙18公報には,乙18発明の特徴等に関し,以下の事項が記載されているものと認められる。
乙18発明は,魚釣用電動リールに関する(【0001】)。
一般的に,魚釣用電動リールには,スプールを巻取駆動させるモータのモータ出力を調節するモータ出力調節体が設けられており,このモータ出力調節体を前後方向に回転操作してモータ出力を連続的に増減変更することによって,釣場の状況(例えば,対象魚の種類,魚とのファイト,ヒット数,仕掛けの回収など)に応じた釣糸巻取操作を行うことができるようになっている(【0002】)。
しかし,従来の魚釣用電動リールでは,モータ出力調節体と手動巻取用ハンドルとが,小型化及び小スペース化されたリール本体の同一側部に配設されているため,両操作部の配置位置が相互に近接してしまい,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を誤操作しやすいという問題があり,また,両操作部をリール本体の同一側部に配設したことによって,リール本体の重量バランスが一側部に偏寄して,リール本体の安定性が低下し,その結果,魚釣操作性が低下するという問題があった(【0003】,【0004】)。
乙18発明は,前記 の従来の魚釣用電動リールの問題に鑑み,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に,かつ誤操作することなく確実に行うことができるとともに,リール本体の重量バランスの偏寄を緩和させた魚釣操作性に優れた魚釣用電動リールを提供することを目的とする(【0005】)。
乙18発明は,前記 の課題の解決手段として,魚釣用電動リールにおいて,リール本体の手動巻取用ハンドルが装着される一側部を除くリール本体に,モータ出力を増減調節することによって電動魚釣操作を行うことが可能なモータ出力調節体を変位可能に設けるという構成を採用したものである(【0006】)。
乙18発明は,乙18公報に「第1の実施形態」の「第2の変形例」として記載 された実施形態であり,「第1の実施形態」及びその「第1の変形例」では,回転操作式のモータ出力調節体としていたのを,スライド操作式のモータ出力調節体としたものである(【0029】,【図5】,【図6(b)】)。
乙18公報には,「第1の実施形態」の「第2の変形例」(乙18発明)のほか,以下の実施形態及び事項が開示されている。
a 「第1の実施形態」では,モータ出力調節体は,リール本体の一側部に対向した反ハンドル側で,かつ前方側(釣糸操出方向側)の上部(具体的には,スプールの回転軸芯よりも上方側)に前後方向に向けて回動可能に取り付けられている(【0021】【図1】【図2】。
, , ) 「第1の実施形態」の「第1の変形例」では,モータ出力調節体が,リール本体の反ハンドル側で,かつ後方側(釣糸巻取方向側)の上部に回転可能に取り付けられている(【0028】【図4】。
, ) 上記各実施形態では,モータ出力調節体は,上方に向けて突設された操作部を有しており,釣り人がリール本体を握持した状態で操作部を,例えば,指や手で手動操作することによってモータ出力調節体を変位操作(具体的には回動操作)できるように,レバー形態となっており,モータ出力調節体を変位操作すると,その変位方向及び変位量に応じてモータに供給される電力量が増減変更され,その結果,モータ出力を増減調節することができることが開示されている 【0022】 ( , 【0028】。
) b 前記aの実施形態では,ハンドルとモータ出力調節体がリール本体の左右の両側部に振り分け配置されているため,@釣竿又はリール本体を保持する手を持ち換えるだけで手動魚釣操作と電動魚釣操作のいずれか一方の操作形態に切り換えることができ,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に,かつ誤操作することなく確実に行うことができ,Aリール本体の重量バランスの偏寄を緩和させることが可能になり,リール本体が安定することにより魚釣操作性を向上させることができる(【0024】【0025】。
, ) さらに,モータ出力調節体をスプールの回転軸芯よりも上方側に配置したことによって,釣り人がリール本体を握持した状態で,かつ指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体を変位操作することができ,その結果,釣り場の状況に応じたモータ出力の幅広い増減調節が可能になる(【0026】。
) c 「第3の実施形態」は,モータ出力調節体を,スプールの後方の側板間に配設されているサムレストに,前後方向に回転操作可能に設けており,この場合,モータ出力調節体をリール本体を保持した手の指の操作によって容易に回転可能である(【0032】【図8】。
, ) また,上記実施形態では,モータ出力調節体の回転量によって変化する抵抗値をリール本体内の制御装置へ入力するポテンショメータをリール本体の側板内に設けている(【0033】【図8】。
, ) d 前記の実施形態の他にも,モータ出力調節体を,リール本体の手動巻取用ハンドルが設けられる側板以外の様々な部分に配設することが可能である(【0035】。
) 乙18発明によれば,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に,かつ誤操作することなく確実に行うことができるとともに,リール本体の重量バランスの偏寄を緩和させた魚釣操作性に優れた魚釣用電動リールを提供することができるという効果を奏する(【0036】。
) 本件発明1 ア 本件発明1と乙18発明との対比 本件発明1と乙18発明とを対比すると,両者は,以下の点において相違するものと認められる。
相違点1-1:操作部材について,本件発明1では,「制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設されるとともに,前記制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着され」たものであるのに対し,乙18発明では,「モータ出力調節体は, 制御ケースの前後方向のほぼ中央で,左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設されるとともに,前後方向に略円弧状にスライド移動可能に装着され」たものである点。
相違点1-2:検知手段について,本件発明1では,「制御ケースに操作部材の操作角度を検知する検知手段が設けられている」のに対し,乙18発明では,モータ出力調節体40の検知手段が角度を検知するものであるのか,また,制御ケースに設けられているのか不明である点。
イ 原出願の出願時における周知技術等 魚釣用電動リールの小型化,軽量化a 開発経緯釣竿に取り付けて使用する魚釣用電動リールは昭和46年頃から販売されるようになったが,当初は大型で重量があり,専ら釣竿を船縁等に固定して釣糸を巻き上げるために使用されていた。その後,小型化,軽量化が進むとともに,様々な機能や使いやすさを追求した商品が販売されるようになった。例えば,控訴人では,平成5年頃には,「パワーレバー」(その操作で巻上げスピードの調整ができるシステム)を搭載した商品シリーズを販売したが,当該商品シリーズの紹介では,パワーレバーの操作を「右手の親指ひとつでコントロールできる」などとと紹介されるとともに,電動リール本体の両側部を両手で把持する写真(「スーパータナコンZ500SW」)が掲載されていた。しかし,その後の平成11年頃には,電動リールのコンパクト化,軽量化により,「キャスティングベイトリールと同じ感覚で使えるモデル」,「手のひらに納まってしまうコンパクトボディーでありながら…」などと紹介されるモデル(「スーパータナコンX300W」)を発売している。また,被控訴人からは,平成10年頃には,「コンパクトでパワフルな機種と合わせて,電動リールによる手持ち釣りに新天地を切り開いたモデル」などと紹介される商品が販売された。さらに,RYOBIブランドからは,平成11年頃には,「ワンハンドシリーズ」,「手のひらに納まるコンパクトなサイズにまとめた」,「ワ ンハンドで操作できる電動リールであることに意義がある。つまり手巻き用ベイトリールと同じ感覚で使えるということだ」などと紹介される商品(「Adventure電動 VS700AT」)が販売された。なお,この「ATシリーズ」については,「手巻きのベイトリール同様にスプール正面に棚取りクラッチがデザインされ,握った手の左手の親指ひとつでクラッチのオン&オフを操作できる。アクセルレバーは,…やはり左手の親指ひとつでスピード調整ができるようにしている。」などと紹介されている。(甲16) b 販売された商品 ? RYOBIブランドの商品カタログには,「Adventure電動 VS700AT」(乙39。平成11年発行),「Adventure電動 VS700AC」(乙40〜42。乙40は平成12年発行),「Adventure電動VS700AC Hi-POWER」(乙43。平成14年発行),「Adventure電動 VS300」(乙51)が掲載されている。
「Adventure電動 VS700AT」のカタログ(乙39)には,商品の仕様説明として,「ワンハンドATは「A」アクセルレバーと「T」タナトリクラッチが親指1本で操作出来る理想的なレイアウト。リールをホールドしている手で電動巻き取り&棚取りが可能となり,左手はワンハンドATでリールの操作,右手はロッド操作に集中できます。」,「アクセルレバー…操作性を重視したレバーの位置と形状で,パーミング状態での瞬動巻きも可能。」,「新しい電動VS700ATなら,パーミングした状態のまま左手一本でクラッチやアクセルレバーの操作ができる。ということは,棚取りも瞬動も,左手だけでリール操作ができるということ。」などと記載されている。また,「Adventure電動 VS700AC」のカタログ(乙40〜42)や「Adventure電動 VS700ACHi-POWER」のカタログ(乙43)には,「580gの超軽量化を達成。しかも,手巻きの両軸リールかと見間違うほどのサイズに仕上げました。」,「アクセルレバー …操作性を重視したレバーの位置と形状でパーミング状態での巻き上 げ・やりとりもOK。」,「瞬動スイッチ スイッチに指を乗せると巻き上げスタート,指を離せばストップ。」などと記載されている。さらに,「Adventure電動 VS300」のカタログ(乙51)には,超小型であり,その大きさが「L95mm,W85mm,H48mm」であること,「片手で自在に操作」,「超軽量390g」,「変速」スイッチについて,「スピード2段切り替え」などと記載されるとともに,片手で釣竿とリール本体を把持する様子を示す写真が掲載されている。
これらの商品は,上記使用説明等に照らせば,手のひらにのる程度の大きさに小型化・軽量化されていたこと,駆動モータの出力を制御する操作部材の操作性の向上を指向したものであることが認められる。さらに,「Adventure電動 VS300」については,釣竿とリール本体とを片手で把持し,その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材(「変速」スイッチ)を操作することを予定したものであることが認められる。
? 控訴人の商品カタログには,「シーボーグ 150S」(乙46。平成19年発行),「シーボーグ250FB」(乙47。平成18年発行),「LEOBRITZ 150」(乙48,53。乙48は平成22年発行)が掲載されている。
「シーボーグ 150S」のカタログ(乙46)や「シーボーグ250FB」のカタログ(乙47)には,商品の仕様説明として,「手持ちコンセプト」,「ワンハンドの司令塔」などとの記載とともに,その大きさがコンピュータのマウスと同程度にコンパクトであることを示す写真や片手で釣竿とリール本体を把持した状態におけるその親指で「チョイ巻き」スイッチ(駆動モータの出力を制御するボタン式の操作部材)を操作する様子を示す写真が掲載されている。
また,「LEOBRITZ 150」のカタログ(乙48,53)には,「一日中手持ちでも疲れ知らずの,手持ちコンセプトに最適な小型電動リール。」,「ボタンひとつで電動巻き上げができるチョイ巻スイッチにより,ワンハンドですべての操作が簡単にできるようになっています。」などとの記載とともに,片手で釣竿 とリール本体を把持した状態におけるその親指で「チョイ巻き」スイッチ(駆動モータの出力を制御するボタン式の操作部材)を操作する様子を示す写真が掲載されている。
これらの商品は,上記使用説明等に照らせば,@手のひらにのる程度の大きさに小型化・軽量化されていたこと,A釣竿とリール本体とを片手で把持し,その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材(「チョイ巻き」スイッチ)を操作することを予定したものであることが認められる。
c 公報の記載 ? 乙72(特開2004-229601号公報) 乙72(控訴人を出願人とする公開特許公報)には,リール41をロッドとともに握持し,反対側の手でハンドル21による巻取り操作を行うこと,反対側の手でハンドル操作を行えない場合に(例えば,ロッドを操作する手が伸びきっている,魚を取り込むための手網を持って手が塞がっているような場合),ロッドの持ち手の指でレバー53の操作部55の操作を行うことでモータ43を駆動することで,ワンタッチ操作で釣り糸の微妙な巻取りを行うことが記載されており 【0007】 ( ,【0027】,【0028】,【0030】,【図1】等),「駆動モータの出力を制御する操作部がリール及びロッドを把持した手で操作されること」が開示されているものと認められる。
? 乙71(特開2006-87426号公報) 乙71(控訴人を出願人とする公開特許公報)には,釣竿及びリール本体を保持した状態で電動巻上げ操作等を支障なく円滑に行うことができるようにすることが求められること,駆動モータの出力を制御する寸動ボタン26を釣竿とリール本体とを片手で把持した状態で操作することが記載されており(【0011】,【0019】,【0025】,【図1】,【図2】),「駆動モータの出力を制御する操作部がリール及びロッドを把持した手で操作されること」が開示されているものと認められる。
? 乙38(特開2005-204567号公報) 乙38(控訴人を出願人とする公開特許公報)には,@従来から,電動リールを使用する場合,釣竿とともにリール全体を手で握持して釣糸の繰出しや巻取り等の魚釣り操作が行われており,そのために,更なるリール全体の小型,軽量化を図って操作性に優れた電動リールを提供することが求められること,A微妙な棚位置調整やシャクリ操作を行うための寸動スイッチ53を指載置部69の側板7に配設するとともに,誤作動を防止するために隆起部73を設けること,B実釣時に釣人は電動リール71と釣竿を保持して魚釣り操作を行うところ,クラッチ機構47は,電動リール71を保持した状態で指載置部69から親指をずらして押圧操作されることが記載されている(【0004】,【0006】,【0022】,【0024】,【0029】,【0030】,【0032】,【図1】)。以上の記載に照らせば,寸動スイッチ53も,実釣時に釣竿と電動リール71を握持した手の親指で操作されるものであると理解することができるから,乙38には,「駆動モータの出力を制御する寸動スイッチを釣竿とリール本体とを片手で把持した状態で操作すること」が開示されているものと認められる。
? 乙17(特開2003-92959号公報) 乙17公報(控訴人を出願人とする公開特許公報)は,乙18公報記載の発明の改良発明に係るものであるところ,乙17公報には,リール本体を保持した状態を維持しながらその手の親指の関節の仕組みからくる回動範囲内で無理なく操作部を移動操作することによって,モータ出力の増減調節操作を行いつつ,他方の手で手動巻取り操作やドラグ調節操作等を容易に行えること(モータ自動巻取り操作や手動巻取り操作などの実用時における複合操作が容易に行えること)が記載されている(【0003】,【0005】,【0016】)。以上の記載に照らせば,モータ出力調節体Bの操作部5を移動操作する一方の手が,リール本体のみならず釣竿を保持しているものと理解することができるから,乙17公報には,「駆動モータの出力を制御するモータ出力調節体Bの操作部5を,釣竿とリール本体とを片手で 把持した状態で操作すること」が開示されているものと認められる。
操作部材の配設位置,形態等 a 乙38に開示された「寸動スイッチ53」,乙71に開示された「寸動ボタン26」は,駆動モータの出力を制御する操作部材であるが,制御ケースの後方側で右寄りの位置(手動ハンドル側)であって,釣竿及びリール本体を片手で把持した状態でその手の親指が届きやすい位置に設けられている 【図1】 【図3】 。
(各 , ) 乙72に開示された「操作部55」は,駆動モータの出力を制御する操作部材であるが,リール本体の後方側で左側板(手動ハンドルと反対側の側板)の上部(左寄り)の位置であって,釣竿及びリール本体を片手で把持した状態でその手の親指が届きやすい位置に設けられている(【図1】,【図2】)。
乙17公報に開示された「モータ出力調節体Bの操作部5」は,駆動モータの出力を制御する操作部材(回動つまみ)であるが,制御ケースの後方側で左寄りの位置(手動ハンドルと反対側)であって,釣竿及びリール本体を片手で把持した状態でその手の親指が届きやすい位置に設けられている 【図1】 【図3】 【図9】 ( , , ,【図12】)。
「シーボーグ 150S」(乙46),「シーボーグ250FB」(乙47),「LEOBRITZ 150」(乙48,53)では,「チョイ巻き」スイッチ(駆動モータの出力を制御するボタン式の操作部材)が,制御ケースの後方側であり,左右いずれか寄りの位置であって,釣竿及びリール本体を片手で把持した状態でその手の親指が届きやすい位置に設けられている。
「Adventure電動 VS300」(乙51)では,「変速」スイッチ(駆動モータの出力を制御するボタン式の操作部材であり,出力スピードを2段階で切り替え調整するもの)が,制御ケースの後方側で左寄りの位置(手動ハンドルと反対側)であって,釣竿及びリール本体を片手で把持した状態でその手の親指が届きやすい位置に設けられている。
b 魚釣用電動リールにおいて,操作部材の形態としては,円筒状又は円板状の 部材を回転させるダイヤル式のもの,つまみ等の部材を直線ないし円弧方向に移動させるスライド式のもの,レバーを円弧状に動かすレバー式のもの,ボタンを押し下げるボタン式のものが原出願の出願日前から使用されており,レバー式の操作部材に代えてダイヤル式やスライド式のものを用いるなど,これらを相互に置換することが可能であることも,上記出願日前に公開された複数の公開特許公報に記載されていた。(乙17,18,22,25〜27) また,魚釣用電動リールにおいて,ダイヤル式の操作部材として,前後,左右又は斜め方向に回転するように構成されたものであって,回転する部材の一部のみがリール本体から外部に露出し,その余の部分は内部に収納されるように配設されており,リール本体の内部において支軸に装着される構成のものが,原出願の出願日前に開示されていた。(乙17〜19) 検知手段の構成及び配設位置 魚釣用電動リールにおいて,操作具の設定位置を検知する手段を,海水等の浸入を防止するため,密封型のケースの内部に設けたもの,約120度の範囲にわたって回転可能に取り付けられたモータ出力調節レバーの作動量(変位量)を検知するためのポテンショメータを,リール本体に組み付けられた水密収納部内に設けたものが,原出願の出願日前に開示されていた。(乙19,34) ウ 相違点1-1の容易想到性 乙18発明は,前記 イのとおり,従来の魚釣用電動リールでは,モータ出力調節体と手動巻取用ハンドルとが,小型化及び小スペース化されたリール本体の同一側部に配設されているため,両操作部の配置位置が相互に近接してしまい,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を誤操作しやすいという問題があり,また,両操作部をリール本体の同一側部に配設したことによって,リール本体の重量バランスが一側部に偏寄して,リール本体の安定性が低下し,その結果,魚釣操作性が低下するという問題があったことに鑑み,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易に,かつ誤操作することなく確実に行うことができるとともに,リール本体の重量バラ ンスの偏寄を緩和させた魚釣操作性に優れた魚釣用電動リールを提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,リール本体の手動巻取用ハンドルが装着される一側部を除くリール本体にモータ出力調節体を変位可能に設けるという構成を採用したことにより,上記課題に応じた効果を奏するものである。さらに,乙18発明では,モータ出力調節体を「制御ケースの前後方向のほぼ中央で,リール本体の左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で」制御ケースに設けることにより,釣り人がリール本体を握持した状態で,かつ指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体を変位操作することができるという作用効果をも奏している(【0026】)。
ここで,乙18公報には,モータ出力調節体を,リール本体の手動巻取用ハンドルが設けられる側板以外の様々な部分に配設することが可能であることが記載されており(【0035】),実施形態として,乙18発明のほか,モータ出力調節体をリール本体の反ハンドル側で,かつ後方側(釣糸巻取方向側)の上部に回転可能に取り付けたもの(「第1の実施形態」の「第1の変形例」)や,スプールの後方の側板間に配設されているサムレストに,前後方向に回転操作可能に設けたもの(「第3の実施形態」)なども開示されており,この形態の場合でも,リール本体を把持した手の指の操作によってモータ出力調節体を容易に回転可能であることが記載されていることに照らせば,乙18公報には,小型化された魚釣用電動リールにおいて,リール本体を保持した手の指による操作性の向上を考慮して,モータ出力調節体の配置を変更することについての示唆があるということができる。
さらに,前記イ によれば,魚釣用電動リールは,手のひらにのる程度に小型化,軽量化が図られていたところ,このように小型化,軽量化した魚釣用電動リールでは,釣竿とリール本体とを片手で把持し,その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材を操作することが指向されること及び釣竿とリール本体とを片手で把持した状態で操作することを予定した位置に駆動モータの出力を制御する操作部を配設することが,原出願の出願日(平成23年7月11日)前に当業者に 周知であったものと認められる。
そうすると,乙18公報の記載及び上記周知の技術事項を踏まえた当業者において,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図るため,操作部材の配設位置や形態に係る周知技術を適用して,乙18発明のモータ出力調節体をより操作性のよいものに変更することには,動機付けがあるということができる。
そして,乙18公報には,前記 のとおり,実施形態として,モータ出力調節体をリール本体の反ハンドル側で,かつ後方側(釣糸巻取方向側)の上部に回転 魚釣用電動リールにおいて,駆動モータの出力を調節する操作部材を,リール本体ないし制御ケースの後方側で左右いずれか寄りの位置であって,釣竿及びリール本体を片手で把持した状態でその手の親指が届きやすい位置に設けることは,原出願の出願日前に当業者に周知であったものと認められる。
そうすると,乙18公報の記載及び上記周知技術を踏まえた当業者において,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を考慮して,「制御ケースの前後方向のほぼ中央で,リール本体の左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で」制御ケースに設けていた乙18発明のモータ出力調節体を,制御ケースの後方側に配置することにし,「制御ケースの後方側で,リール本体の左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で」制御ケースに設けるようにすることは容易に想到できたことである。
また, 円筒状のモータ出力調節体を前後方向に回転操作可能に設けたもの(「第3の実施形態」)が記載 によれば,原出願の出願日前に,魚釣用電動リールにおいて,駆動モータの出力を調節する操作部材として,ダイヤル式の形態のものを用いること及びスライド式等他の形態のものからダイヤル式の形態のものに置換可能であることは,当業者に周知であったものと認められる。
ところで,駆動モータの出力を調節する操作部材をダイヤル式の形態のものとした場合,回転操作可能なように支軸に装着することは普通のことであり,前記イによれば,リール本体の内部において支軸に装着される構成のものが周知であったと認められるから,乙18発明のモータ出力調節体をスライド式のものからダイヤル式のものに置き換え,リール本体を構成する制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されたものとすることは,当業者が容易に想到できたことである。
本件明細書1には,前記 のとおり,本件発明1が,@釣竿とリール本体を把持する片手の掌の一部が本体の側板にフィットした状態で,操作部材に親指が届き,操作した際の力を十分に伝えることができ,また,A操作部材は,略前後方向に回転可能に支持されているため,露出部分を少なくしても操作領域を確保することができるとともに,把持している手の親指で回転操作した際,親指が左右にずれることがなく把持安定性が高くなるという作用効果を奏するものであることが記載されている(【0008】,【0009】)。
しかし,本件発明1は,リール本体,制御ケース及び側板の大きさや形状を何ら特定していないことに照らせば,上記各作用効果は,乙18発明において,操作部材の配設位置や形態について相違点1-1に係る本件発明1の構成を採用することにより,通常予想される範囲内のものにすぎない。なお,本件明細書1には,操作部材の位置と操作部材の形態の組合せが相乗的に作用することで格別の作用効果を奏することについての記載や示唆はない。
以上によれば,乙18発明において,周知技術を適用することにより,相違点1-1に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたことである。
控訴人の主張についてa 控訴人は,乙18公報には,リール本体のみを把持した手やその指でモータ出力調節体40を操作することのみが開示されているのであって,片手のみで釣竿 とリール本体を把持することは記載も示唆もなく,その他の文献も片手で釣竿とリール本体とを把持した手の親指でモータ出力の調節のための操作部材を操作するものではないから,釣竿とリール本体を片手で把持できる電動リールではハンドルが備えられている側の手の指でレバー形状のモータ出力を調整する操作部材を摘まんで操作するという固定観念を打破し,釣りの一連の動作について片手で行えるようにするとともに,釣竿とリール本体を片手で容易に把持でき,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供するという本件各発明の課題を当業者が認識することはできなかった旨主張する。
しかし,たとえ乙18公報に記載された魚釣用電動リールが,リール本体のみを把持した手やその指でモータ出力調節体を操作することを前提としたものであったとしても,前記 及び のとおり,乙18公報には,小型化された魚釣用電動リールにおいて,リール本体を把持した手の指による操作性の向上を考慮して,モータ出力調節体の配置を変更することについての示唆があるということができ,さらに,前記イ によれば,魚釣用電動リールは,手のひらにのる程度に小型化,軽量化が図られていたところ,このように小型化,軽量化した魚釣用電動リールでは,釣竿とリール本体とを片手で把持し,その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材を操作することが指向されること及び釣竿とリール本体とを片手で把持した状態で操作することを予定した位置に駆動モータの出力を制御する操作部を配設することが,原出願の出願日前に当業者に周知であったものと認められる。また,そもそも,乙18発明を含め乙18公報に記載されたものは,小型化された魚釣用電動リールであって,手持ち状態での使用も予定されるものであると理解されるから,当業者であれば,乙18発明において,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図ることを容易に想到し得るということができる。
以上に照らせば,乙18公報の記載及び上記周知の技術事項を踏まえた当業者に おいて,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図るため,操作部材の配設位置や形態に係る周知技術を適用して,乙18発明のモータ出力調節体をより操作性のよいものに変更することには,動機付けがあるということができる。
b 控訴人は,乙17公報に開示された電動リールは,比較的大型の電動リールであるため,両手で電動リール本体を備えた釣竿を把持することを前提とする旨主張する。
しかし,前記イ c?のとおり,乙17公報には,リール本体を保持した状態を維持しながらその手の親指の関節の仕組みからくる回動範囲内で無理なく操作部を移動操作することによって,モータ出力の増減調節操作を行いつつ,他方の手で手動巻取り操作やドラグ調節操作等を容易に行えること(モータ自動巻取り操作や手動巻取り操作などの実用時における複合操作が容易に行えること)が記載されており,かかる記載からすれば,モータ出力調節体Bの操作部5を移動操作する一方の手が,リール本体のみならず釣竿を保持しているものと理解することができる。
また,控訴人は,乙38は,小型の電動リールを前提とした記載であるところ,小型の電動リールでは,他方の手が空いているために,モータ出力を調整する操作部材の操作は,釣竿とリール本体を把持していない手で操作すれば足りるから,釣竿とリール本体を把持した手の指で操作部材を操作するという動機付けはない旨主張する。
しかし,前記イ c?のとおり,乙38の記載によれば,寸動スイッチ53も,実釣時に釣竿と電動リール71を握持した手の親指で操作されるものであると理解することができる。そして,小型の電動リールであっても,実釣時における種々の動作を複合的に行うことができるように,片手を操作部材の操作から解放することを指向すると考えられるのであって,小型の電動リールでは,釣竿とリール本体を把持した手の指で操作部材を操作するという動機付けがおよそ生じ得ないなどということはできない。
さらに,控訴人は,乙72に記載されているのは,通常の魚釣用リールに補助巻取り専用モータを備えたリールであって,電動リール一般の把持態様を示すものではない旨主張するが,乙72に記載されているのは,魚釣用電動リールにほかならない。
c 控訴人は,「シーボーグ 150S」,「シーボーグ250FB」,「LEOBRITZ 150」の「チョイ巻き」スイッチや乙38等の「寸動スイッチ」は,ベイトキャスティングリールにおける限定的な課題,すなわち,糸ふけ防止時の課題,棚取り時の課題,魚取り込み時の課題を解決するための手段(ルアーのアクションを付ける操作や棚取りの操作時,又は魚の取り込み時の微妙で単純な巻き取り操作を簡単にできるようにするための手段)にすぎないから,釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,モータ出力を多段階に調整して所望の巻き取り状態を得るという構成を開示するものではない旨主張する。
しかし,上記「チョイ巻き」スイッチや「寸動スイッチ」も,駆動モータの出力を制御する操作部材であることに変わりはないから,その配設位置という観点においては,駆動モータの出力を調整する操作部材と格別異なるものとして捉える必要はないというべきである。
したがって,これらのスイッチの配置位置を含め,魚釣用電動リールにおいて,駆動モータの出力を調節する操作部材を,リール本体ないし制御ケースの後方側で左右いずれか寄りの位置であって,釣竿及びリール本体を片手で把持した状態でその手の親指が届きやすい位置に設けることが,当業者に周知の技術事項であったものと認められるというべきである。
d 控訴人は,乙17公報,乙18公報,乙22及び25ないし27は,いずれも電動リールにおいてレバー式やスライド式の操作部材を,配置位置や配置態様を無視してダイヤル式に置換してよいという技術常識ないし技術を開示するものではない旨主張する。
しかし,各文献(乙17,18,22,25〜27)には,レバー式,スライド 式,ダイヤル式等,採用する方式によって操作部材の配設が特定の位置に限定される旨の記載はない。むしろ,これらの文献が,置換後における操作部材の配設位置に触れることなく,方式の置換可能性に言及していることに照らせば,方式を置換した後における操作部材の配設位置は,当業者において適宜設計される設計的事項にすぎないものと考えられる。
e 控訴人は,「操作部材は,制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装着されている」との構成は,いずれの文献にも開示されておらず,そもそも乙18発明に組み合わせる技術がない旨主張する。
しかし,前記 及び のとおり,乙18公報の記載及び周知の技術事項を踏まえた当業者において,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図るため,操作部材の配設位置や形態に係る周知技術を適用して,乙18発明のモータ出力調節体をより操作性のよいものに変更することには,動機付けがあるということができるところ,たとえ一つの文献で全ての構成を開示したものが存しないとしても,乙18公報自体にせば,かかる記載を踏まえて,乙18発明において,操作部材の配設位置や形態に係る各周知技術の適用を試みることは,当業者が容易に想到できたことであるというべきである。
エ 相違点1-2の容易想到性 乙18発明において,モータ出力調節体は,操作部をスライドさせることで18発明は,乙18公報に「第1の実施の形態」の「第2の変形例」として記載された実施形態であるところ,乙18公報には,「第1の実施の形態」に関し,モータ出力調節体を変位操作すると,その変位方向及び変位量に応じてモータに供給される電力量が増減変更され,モータ出力を増減調節することができるようになっていることが記載されており(【0022】),モータ出力調節体を回動式からスラ イド式に変形した変形例である乙18発明においても,モータ出力調節体を変位操作すると,その変位量に応じてモータに供給する電力量が増減変更されるようになっているものと理解できるから,乙18発明は,操作部の変位量を検知する検知手段を備えるものと認められる。
そして,乙18後方向に回転操作可能に設けたモータ出力調節体の回転量によって変化する抵抗値をリール本体内の制御装置へ入力するポテンショメータ(回転角や移動量を電圧に変換する機器・素子)をリール本体の側板内に設ける形態が開示されているから,乙18発明のモータ出力調節体をダイヤル式のものとした場合に,操作部の変位量を検知する検知手段を,操作部材の操作角度を検知するものとすることは,当業者が容易に想到できたことである。
さらに, によれば,検知手段をリール本体内の密封された空間内に設ける構成は,原出願の出願日前に周知であったと認められることに加え,そもそも,魚釣用電動リールは海や河川などで用いるものであり,かつ使用後には丸洗いすることも予定されるものであるから,防水性を確保するため,検知手段をリール本体内に収納するように構成することは普通のことであるということができる。そうすると,乙18発明のモータ出力調節体をダイヤル式のものとした場合に,操作部の変位量を検知する検知手段を操作部材の操作角度を検知するものとし,これを制御ケース内に設けることは,当業者が容易に想到できたことである。
よって,乙18発明において,相違点1-2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたことである。
オ 小括以上によれば,本件発明1は,乙18発明及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたものであって,進歩性欠如の無効理由を有するものである。
本件発明2ア 本件発明2と乙18発明との対比 本件発明2と乙18発明とを対比すると,両者は,以下の点において相違するものと認められる。
相違点2-1:操作部材について,本件発明2では,「制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに,」「その外表面が操作部として前記側板の上部の表面から露出している」ものであるのに対し,乙18発明では,「モータ出力調節体は,制御ケースの前後方向のほぼ中央で,左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設されるとともに,前後方向に略円弧状にスライド移動可能に装着され」たものである点。
相違点2-2:操作部材について,本件発明2では,「直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成され,」その外表面が「円弧領域」であるのに対し,乙18発明では,「モータ出力調節体の外表面は突起状のつまみ」であり,その寸法が明記されていない点。
イ 相違点2-1の容易想到性 相違点2-1は,相違点1-1と実質的に異ならないから,前記 ウと同様に,乙18発明において,周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものである。
ウ 相違点2-2の容易想到性 乙18発明において,モータ出力調節体をスライド式のものからダイヤル式のものに置き換えることことであるところ,前記 イ によれば,ダイヤル式の操作部材を略円筒形状に形成し,その外表面の一部をリール本体から外部に露出させることは,原出願の出願日前に当業者に周知であったと認められる。
そして, 当業者において,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を図るため,操作部材の配設位置や形態に係る周知技術を適用して,乙18発明のモータ出力調節体をより操作性のよい ものに変更することには動機付けがあるということができるところ,指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体を変位操作することができるように,モータ出力調節体の大きさを適した寸法にすることは,当業者であれば当然に考慮することである。その際,ダイヤル式のものであって,略円筒形状に形成したモータ出力調節体の直径及び軸方向長を,人の指先の可動域及び親指の幅(なお,乙36の1・2の計測結果では,親指の第1指関節幅の平均値が,男性では20.1mm,女性では17.6mm,男女平均では19.1mmとされている。)に応じて,「直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mm」の範囲内のものとすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。
ここで,本件明細書2の【0025】には,「操作部材30の直径Dについては,10〜24mmの範囲のものを用いることが好ましい。これは,直径が10mm未満のものを用いると,親指との接触面積が小さくなり過ぎて,滑りが生じる等,操作性が悪くなるためである。また,24mmを超えてしまうと,周辺部(本体)の把持領域が少なくなり,把持安定度が低下するためである。なお,操作部材30の軸方向長さLについては,親指を押え付けて安定して転がし操作ができるように,2.0〜20mmとしておくことが好ましい。」との記載があるのみで,直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmという構成を備えるものと,この構成を備えないものとの操作性に関する比較結果等については何らの記載もないから,上記数値範囲に臨界的意義があるということはできない。結局,上記数値範囲は,人の指先の可動域及び親指の幅から通常想定される範囲を規定したものにすぎないというべきである。
よって,乙18発明において,周知技術を適用し,相違点2-2に係る本件発明2の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたことである。
エ 小括以上によれば,本件発明2は,乙18発明及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたものであって,進歩性欠如の無効理由を有するものである。
本件発明3ア 本件発明3と乙18発明との対比本件発明3と乙18発明とを対比すると,両者は,以下の点において相違するものと認められる。
相違点3-1:操作部材について,本件発明3では,「制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に,親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するように」「前後方向に向けて回転可能に装着されている」ものであるのに対し,乙18発明では,「モータ出力調節体は,制御ケースの前後方向のほぼ中央で,左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設されるとともに,前後方向に略円弧状にスライド移動可能に装着され」たものである点。
相違点3-2:操作部材について,本件発明3では,「側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収容されて」いるのに対し,乙18発明では,外表面が突起状のつまみであり,下方領域の収容態様が不明である点。
イ 相違点3-1の容易想到性相違点3乙18発明において,周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到できたものである。
ウ 相違点3-2の容易想到性 本件発明3における「凹所」の意義本件発明3における「凹所」は,特許請求の範囲の記載によれば,側板の上部の表面に形成され,操作部材の下方領域を収容するものであり,本件明細書3の発明の詳細な説明には,実施形態として,半円状に窪んだ湾曲部(【0020】,【0021】,図5)と,上下方向に貫通した開口部(【0037】,図12)が開示されている。
乙18発明において,モータ出力調節体をスライド式のものからダイヤル式 様に,当業者において容易に想到できた によれば,ダイヤル式の操作部材を略円筒形状に形成し,その外表面の一部をリール本体から外部に露出させ,その余の部分は内部に収納されるように配設することは,原出願の出願日前に当業者に周知であったと認められる。
そうすると,本件発明3における「凹所」は,前記 によれば,側板の上部の表面に形成され,操作部材の下方領域を収容するものであれば足り,その形状は,半円状に窪んだ湾曲状のものに限らず,上下方向に貫通した開口状のものも含むと解されるところ,乙18発明において,モータ出力調節体をスライド式のものからダイヤル式のものに置き換えた場合に,上記周知技術を適用し,略円筒形状に形成した操作部材を,左側板の上部に外表面の円弧領域が露出するように左側板の上部に形成された凹所内にその下方領域を収容するようにすることは,当業者が容易に想到できたことである(上記周知技術を適用し,外部に露出されていないその余の部分,すなわち,下方領域をリール本体の内部に収納されるようにするということは,乙17公報の【図2】,【図7】や乙18公報の【図8】等から明らかなように,少なくとも左側板に形成された開口部に下方領域を収納されるようにすることを意味する。)。
よって,乙18発明において,周知技術を適用し,相違点3-2に係る本件発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたことである。
エ 小括 以上によれば,本件発明3は,乙18発明及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたものであって,進歩性欠如の無効理由を有するものである。
3 争点 (訂正の対抗主張の成否)について 訂正の対抗主張について 特許に無効理由が存在する場合であっても,@適法な訂正請求(又は訂正審判請求)がされ(訂正請求及び訂正審判請求が制限されるためにこれをすることができ ない場合には,訂正請求(又は訂正審判請求)できる時機には,必ずこのような訂正を請求する予定である旨の主張),A上記訂正により無効理由が解消されるとともに,B訂正後の特許請求の範囲対象製品が属するときは,特許法104条の3第1項により権利行使が制限される場合に当たらない。
時機に後れた攻撃防御方法との主張について被控訴人は,控訴人が,当審において,訂正の対抗主張を追加したのに対し,上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法の提出として,民訴法157条1項に基づき却下されるべきである旨主張する。
控訴人は,原審において,弁論準備手続が終結されるまでの間,訂正の対抗主張を提出することはなかったが,弁論準備手続終結後に提出された準備書面において初めてこれを主張するに至ったため,原審裁判所により時機に後れたものとして却下された(なお,原審において主張した訂正の内容は,「片手で」との文言の有無の点を除き,当審における訂正の内容と同一である。)。控訴人は,平成28年9月8日に原判決が言い渡されると,同月21日控訴を提起した。他方,同月30日には,本件特許1ないし3に係る各特許無効審判において,審決の予告がされた。
そこで,控訴人は,同年11月10日提出に係る控訴理由書において,訂正の対抗主張を記載した。
上記の原審及び当審における審理の経過に照らすと,より早期に訂正の対抗主張を行うことが望ましかったということはできるものの,控訴人が原判決や審決の予告がされたのを受けて,控訴理由書において訂正の対抗主張を詳細に記載し,当審において速やかに上記主張を提出していることに照らすと,控訴人による訂正の対抗主張の提出が,時機に後れたものであるとまでいうことはできない。また,本件における訂正の対抗主張の内容に照らすと,訂正の対抗主張の提出により訴訟の完結を遅延させることになるとも認められない。
よって,控訴人の訂正の対抗主張を時機に後れたものとして却下することはしない。
無効理由の解消の有無について 事案に鑑み,まず,本件各訂正により本件各発明の乙18発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消したか否か,すなわち,本件各訂正発明は,乙18発明に基づき容易に発明をすることができたものか否かについて,判断する。
ア 本件訂正発明1 本件訂正発明1は,本件発明1に,発明特定事項として,@操作部材を,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で押え付けて前後方向に回転操作が可能となるように配設すること,A操作部材を略円筒形状に構成することを追加したものである。よって,本件訂正発明1と乙18発明との相違点は,前記相違点1-1及び1-2のほか,以下のとおりである。
相違点1-3:操作部材に関し,本件訂正発明1では,「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置で押え付けて前後方向に回転操作が可能となるように」配設されたものであるのに対し,乙18発明では,このように配設されたものではない点。
相違点1-4:操作部材に関し,本件訂正発明1では,「略円筒形状に構成され」たものであるのに対し,乙18発明では,「モータ出力調節体の外表面は突起状のつまみ」である点。
相違点1-3の容易想到性 @乙18公報には,小型化された魚釣用電動リールにおいて,リール本体を保持した手の指による操作性の向上を考慮して,モータ出力調節体の配置を変更することについての示唆があるということができること,並びに,A魚釣用電動リールは,手のひらにのる程度に小型化,軽量化が図られていたところ,このように小型化,軽量化した魚釣用電動リールでは,釣竿とリール本体とを片手で把持し,その把持した手の親指で駆動モータの出力を制御する操作部材を操作することが指向されること及び釣竿とリール本体とを片手で把持した状態で操作することを予定した位置に駆動モータの出力を制御する操作部を配設することが,原出願の出願日前に当業 者に周知であったことは,前記2 ウ のとおりである。そうすると,乙18発明において,操作部材を釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設することは,当業者が容易に想到できたことである。
また,乙18発明において,周知技術を適用して,相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到できたものであるところ,上記構成を備えた場合,操作部材の前後方向への回転操作は,親指で押え付けるようにして行われ得るものであることは明らかである。
そうすると,乙18発明において,相違点1-3に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。
相違点1-4の容易想到性 乙18発明において,モータ出力調節体をスライド式のものからダイヤル式のものに置き換えることは,前記2 ウのとおり,当業者において容易に想到できたことであるところ,ダイヤル式の操作部材を略円筒形状に形成することは,原出願の出願日前に当業者に周知であったと認められる。そうすると,乙18発明において,相違点1-4に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。
以上によれば,本件訂正発明1は,乙18発明及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたものである。
イ 本件訂正発明2 本件訂正発明2は,本件発明2に,発明特定事項として,@操作部材を,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設すること,A操作部材の操作部(外表面の円弧領域)を,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に側板の上部から露出し,円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5〜12mmの範囲に設定されているように構成することを追加したものである。よって,本件訂正発明2と乙18発明との相違点は,前記相違点2-1及び2-2のほか, 以下のとおりである。
相違点2-3:操作部材について,本件訂正発明2では,「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設されて」いるものであるのに対し,乙18発明では,このように配設されたものではない点。
相違点2-4:操作部材について,本件訂正発明2では,「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に」側板の上部から露出し,「円弧領域となる操作面の前記表面に対する突出高さが0.5〜12mmの範囲に設定され」たものであるのに対し,乙18発明では,このように配設されたものではなく,モータ出力調節体の外表面は突起状のつまみであり,その寸法が明記されていない点。
相違点2-3の容易想到性 前記ア のとおり,乙18発明において,相違点2-3に係る本件訂正発明2の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。
相違点2-4の容易想到性 a 乙18発明において,周知技術を適用して,相違点2-1及び2-2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到できたものであることは,前記2 イ及びウのとおりであるところ,上記構成を備えた場合,操作部材の前後方向への回転操作は,親指で押え付けるようにして行われ得るものであることは明らかである。したがって,乙18発明において,操作部材の操作部(外表面の円弧領域)を,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指で押え付けて前後方向に回転操作可能に側板の上部から露出するように構成することは,当業者が容易に想到できたことである。
b 前記2 ウのとおり,当業者において,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を考慮して,乙18発明のモータ出力調節体の配置をより操作性のよいものに変更することには,動機付けがあるということができるところ,指や手の無理のない姿勢でモータ出力調節体を変位操作するこ とができるように,モータ出力調節体の大きさを適した寸法にすることは,当業者であれば当然に考慮することである。その際,ダイヤル式のものであって,略円筒形状に形成したモータ出力調節体の突出高さを,人の指先の可動域を考慮して, 0. 「5〜12mm」の範囲のものとすることは,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。
ここで,本件明細書2の【0024】には,「操作部材30は,リール本体を確実に把持した状態で,安定して転がす操作ができるように,前記突出高さhについては,0.5〜12mmの範囲に設定しておくことが好ましい。これは,突出高さhが0.5mm未満となると,親指の接触面積が小さくなり過ぎて,滑りが生じる等,操作性が悪くなるためである。また,12mmを超えてしまうと,大きく突出した状態となってしまい,その周辺部の把持圧力が小さくなって,把持安定度が低下してしまうためである。」との記載があるのみで,突出高さが0.5〜12mmという構成を備えるものと,この構成を備えないものとの操作性に関する比較結果等については何らの記載もないから,上記数値範囲に臨界的意義があるということはできない。結局,上記数値範囲は,人の指先の可動域から通常想定される範囲を規定したものにすぎないというべきである。
そうすると,乙18発明において,周知技術を適用し,相違点2-4に係る本件訂正発明2の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたことである。
以上によれば,本件訂正発明2は,乙18発明及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件訂正発明3 本件訂正発明3は,本件発明3に,発明特定事項として,@操作部材を,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置に配設すること,A操作部材の操作部(外表面の円弧領域)を,釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指を押え付けて前後方向に回転操作されるように構 成すること,B操作部材を,スプールのフランジ後端より前方側に配置することを追加したものである。よって,本件訂正発明3と乙18発明との相違点は,前記相違点3-1及び3-2のほか,以下のとおりである。
相違点3-3:操作部材について,本件訂正発明3では,「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指が届く位置」に配設されているものであるのに対し,乙18発明では,このように配設されたものではない点。
相違点3-4:操作部材について,本件訂正発明3では,操作部(外表面の円弧領域)を「釣竿とともにリール本体を片手で把持保持した状態の手の親指を押え付けて前後方向に回転」操作するものであるのに対し,乙18発明では,操作部をこのように操作するものではない点。
相違点3-5:本件訂正発明3では,制御ケースの後方側に配置された操作部材が「スプールのフランジ後端より前方側に配置されて」いるのに対し,乙18発明では,このように配置されたものではない点。
相違点3-3及び3-4の容易想到性 及びイ のとおり,乙18発明において,相違点3-3及び3-4に係る本件訂正発明3の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。
相違点3-5の容易想到性前記2 ウ のとおり,乙18発明において,釣竿とリール本体とを片手で把持した状態でのその手の指による操作性の向上を考慮して,モータ出力調節体を制御ケースの後方側に配置することにし,「制御ケースの後方側で,リール本体の左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で」制御ケースに設けるようにすることは容易に想到できたことである。
そして,操作部材を制御ケースの後方側で,前記スプールのフランジ後端より前方側に配設することは,乙17公報の【図9】や【図12】,乙46にも示されているように,原出願の出願日前に当業者に周知のものであったと認められる。
そうすると,乙18発明において,周知技術を適用し,相違点3-5に係る本件 訂正発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたことである。
以上によれば,本件訂正発明3は,乙18発明及び周知技術に基づき容易に発明をすることができたものである。
エ 以上のとおり,本件各訂正発明は,乙18発明に基づき容易に発明をすることができたものであって,本件各訂正によっても,本件各発明の無効理由(乙18発明に基づく進歩性欠如の無効理由)は解消しない。
小括よって,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権1ないし3を行使することはできない(特許法104条の3第1項)。
4 結論以上によれば,控訴人の被控訴人に対する本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 柵木澄子
裁判官 片瀬亮