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事件 平成 26年 (行ケ) 10097号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/11/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年11月26日判決言渡

平成26年(行ケ)第10097号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年11月12日

判 決



原 告 株式会社ルートジェイド



訴訟代理人弁護士 飯 田 圭

佐 竹 勝 一

弁理士 須 田 洋 之



被 告 日立マクセル株式会社



訴訟代理人弁理士 鷺 健 志



主 文

1 特許庁が無効2013−800022号事件について平成25年12

月11日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。



事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた裁判

主文同旨。



第2 事案の概要

本件は,特許無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,@先願発明




との同一性の有無及びA本件発明の進歩性欠如の有無である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件特許

被告は,名称を「扁平形非水電解質二次電池」とする発明についての本件特許(特

許第5072123号)の特許権者である。(甲12)

本件特許は,平成11年8月27日に出願した特願平11−240964号(原

出願。出願人・日立マクセルエナジー株式会社)を平成21年10月9日に分割出

願した特願2009−234722号に係るものであり(発明者 A,B,C,D

及びE),平成24年8月31日に設定登録(請求項の数8)された。(甲12)



(2) 無効審判請求

原告が,平成25年2月14日付けで本件特許の無効審判請求(請求項1)をし

たところ(無効2013−800022号),特許庁は,平成25年12月11日,

「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月19日に原

告に送達された。(甲16)



2 本件発明の要旨

本件特許の請求項1(本件発明)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりで

ある。(甲12)

「 負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケース

とが絶縁ガスケットを介して嵌合され,さらに前記正極ケースまたは負極ケース

が加締め加工により加締められた封口構造を有し,その内部に,少なくとも,正

極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置している電極群を含

む発電要素と,非水電解質とを内包した扁平形非水電解質二次電池において,

前記正極板は,導電性を有する正極構成材の表面に,正極作用物質を含有する

作用物質含有層を有しており,




前記負極板は,導電性を有する負極構成材の表面に,負極作用物質を含有する

作用物質含有層を有しており,

前記電極群は,前記正極板,前記負極板および前記セパレータが電池の扁平面

に平行に積層されており,かつ前記セパレータを介して対向している前記正極板

の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面で

あり,

前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面

積が,前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きいことを特徴とする扁平形非水

電解質二次電池。 」


なお,本件特許公報(甲12)の図1及び符号の説明を掲記する(なお,この図の負極と正

極の対向面は3面である。。





3 審決の理由の要点

以下では,本件訴訟の争点と関連のある部分のみを掲記する。

(1) 無効理由1(本件発明と甲1発明との同一性)について

ア 甲1発明の認定

本件特許の原出願日よりも前の特許出願であって(出願人・松下電器産業株式会




社)本件特許の出願よりも後に出願公開がされた特願平10−338734号の願


書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(甲1)には,次の発明(甲

1発明)が記載されている(発明者・F,G,H,I及びJ)。

「 金属製の正極ケースと負極ケースとが,これらの電気的絶縁をとる樹脂製ガス

ケットを介してはめ込まれ,さらに,負極ケースがかしめられ,封口された扁平

形非水電解液電池であって,内部にリチウム塩を溶解した有機電解液と,リチウ

ムを吸蔵・放出可能な正極材料を正極金属集電体上に配した正極板とリチウムを

吸蔵・放出できる負極活物質を負極金属集電体上に有する負極板とをセパレータ

ーを介して積層してなる積層極板群を有する扁平形非水電解液電池。 」


甲1の図6を掲記する。




相違点の認定

本件発明と甲1発明とを対比すると,次の点において相違する。

【相違点A】

「 本件発明は,正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置し

ている電極群を含む発電要素について,セパレータを介して対向している正極板

の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも5面であり,

前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積




が,絶縁ガスケットの開口面積よりも大きいのに対し,甲1発明は,積層極板群

について,セパレータを介して対向している正極板の正極材料と負極板の負極材

料との対向面の面数が不明であり,また,前記積層極板群内の正極板の正極材料

と負極板の負極材料の対向面積が,電気的絶縁をとる樹脂性ガスケットの開口面

積より大きいかについても不明である点。 」

相違点の判断

@ 本件発明は,従来の扁平形非水電解質二次電池が大電流で放電した場合の特

性(重負荷放電特性)に対して不十分であった点を解決課題として,[1]セパレータ

を介して対向している電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有

層との対向面を少なくとも5面とし,[2]かかる対向面の面積を,絶縁ガスケットの

開口面積よりも大きくすることで,これを解決したものである。

A これに対し,甲1発明は,扁平形コイン電池においては,正負極の対峙面積

すなわち反応面積が小さすぎることによって極めて小さな電流しか取り出せないこ

とを解決課題とし,[1]積層極板群について,セパレータを介して正負極の対向面が

3面であるものが見て取れるものの,対向面を少なくとも5面とすることを見て取

ることはできず,[2]積層極板群内の正極板の正極材料と負極板の負極材料の対向面

積が,電気的絶縁をとる樹脂性ガスケットの開口面積より大きいことについても見

て取ることはできない。

B 仮に,甲1発明の3面の正極板と負極板とが対向する面の総面積が,電気的

絶縁をとる樹脂性ガスケットの開口面積より大きいことが推認できたとしても,甲

1発明のセパレータを介して対向している正極板の正極材料と負極板の負極材料と

の対向面の面数は,せいぜい3面にとどまるものである。

C また,本件発明は,その実施例の記載(表1)によれば,対向面数を5面以

上とすることにより,重負荷放電容量の増大という顕著な効果が認められるもので

ある。

D 以上のとおり,相違点Aは実質的なものであり,本件発明が,甲1発明と同




一ということはできない。

(2) 無効理由2(本件発明と甲3発明との同一性)について

(省略)

(3) 無効理由3(甲3発明と周知技術からの容易想到性)について

ア 甲3発明の認定

実願昭62−166928号(実開平1−71867号)のマイクロフィルム(甲

3)には,次の発明(甲3発明)が記載されている。

「 負極となるアノードカップが,正極となるカソードカンに対して,絶縁体によ

り構成されたガスケットを介して嵌入され,さらに,前記アノードカップは,か

しめられ一体とされ,その内部にシート状の正極電極板と負極電極板との間にセ

パレータを介在させて構成された一対の電極群が先端から順番に折り重ねられた

積層電極群と,非水電解液を含む,ボタン型ないしはコイン型の非水電解液二次

電池において,

前記正極電極板は,アルミニウム集電体の両面にLiMn2O4,グラファイトを含
むペーストを塗布した塗布層を有しており,

前記負極電極板は,リチウム箔であり,

前記電極群は,折り重ねられた正極電極板,セパレータ,負極電極板の面に対

し垂直方向からみて,
『正極電極板−セパレータ−負極電極板』と『負極電極板−

セパレータ−正極電極板』が折り返す毎の一単位として,積み重ねられた構造の

ものであって,複数回の折り返しにより,一方の端部の正極電極板は,正極リー

ドを介して正極となるカソードカンと密着し,他方の端部の負極電極は,負極リ

ードを介して負極となるアノードカップと密着したものであって,前記正極電極

板と前記負極電極板の電極反応面積を増大させた,ボタン型ないしはコイン型の

非水電解液二次電池。 」





甲3の第1図〜第3図を掲記する。




相違点の認定

本件発明と甲3発明とを対比すると,次の点において相違する。

(ア) 相違点1

「 本件発明は,電極群は,正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて

対向配置しており,前記電極群は,前記正極板,前記負極板および前記セパレー

タが電池の扁平面に平行に積層されており,かつ前記セパレータを介して対向し




ている前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が

少なくとも5面であるのに対し,甲3発明は,シート状の正極電極と負極電極と

の間にセパレータを介在させて構成された電極群が先端から順番に折り重ねられ

た積層電極群であって,前記電極群の正極電極,セパレータ,負極電極は,折り

重ねられた面の垂直方向からみて,
『正極電極−セパレータ−負極電極』と『負極

電極−セパレータ−正極電極』を折り返す毎の一単位として,積み重ねられてお

り,複数回の折り返しにより,一方の端部の正極電極板は,正極リードを介して

正極となるカソードカンと密着し,他方の端部の負極電極は,負極リードを介し

て負極となるアノードカップと密着したものである点。 」

(イ) 相違点2

「 本件発明では,前記負極板は,導電性を有する負極構成材の表面に,負極作用

物質を含有する作用物質含有層を有しているのに対し,甲3発明では,前記負極

電極は,リチウム箔である点。 」

ウ 相違点に関する判断

(ア) 相違点1

甲3発明は,電極反応面積を大きくするために何枚かの正極,負極をセパレータ

を介して積み重ねて構成した場合に,組立て作業が面倒となってしまうという問題

点を,何枚かの正極,負極をセパレータを介して積み重ねて構成する手段に換えて,

シート状の正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させてなる電極群を折り

重ねて積層電極群とすることにより解決したものである。

そうすると,何枚かの正極,負極をセパレータを介して積み重ねる構成を甲3発

明に適用するには阻害事由がある。また,甲3の「何枚かの正極,負極をセパレー

タを介して積み重ねて」との記載から想定されるのは,電極数2〜3枚程度の電極

群であって,セパレータを介して対向している電極群内の正極板の作用物質含有層

と負極板の作用物質含有層との対向面が5面以上との構成を有する電極群を想起で

きるものとはいえない。




したがって,甲3発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,

当業者が容易に想到するものとはいえない。

(イ) 相違点2

甲4(特開平11−97064号公報)及び甲5(特開平9−298066号公

報)に記載されたリチウム二次電池における電極群の構造は,1枚の長尺状の電極

群を折り重ねて積層電極群とした甲3発明が有する構造とは異なるものであるから,

甲4及び甲5に記載された技術は,甲3発明の分野において周知技術とはいえない

し,また,適用することができるものともいえない。

したがって,甲3発明において,甲4及び甲5に記載された技術を適用すること

は,当業者が容易に想到できるものとはいえない。

(4) 無効理由4(サポート要件違反又は実施可能要件違反)について

(省略)

(5) 審決判断のまとめ

原告の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明についての特許を無効と

することはできない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(相違点Aの認定・発明の同一性判断の誤り)

(1) 対向面数について

@ 本件明細書(甲12)の段落【0014】には,正極板の作用物質含有層と

負極板の作用物質含有層とがセパレータを介して対向している正負極対向面を,少

なくとも3面とする電極群とするような収納方法が具体的に明記されており,また,

実施例を見ても,対向面が3面であるときの重負荷放電容量は22.8mAhであり,

従来技術の電池(重負荷放電が6.4mAh)や対向面が1面であるときの電池(重

負荷放電が2.4mAh)と比較して,優れた重負荷放電特性があることが見て取れ

る。このことからすると,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層とが




セパレータを介して対向している正負極対向面を少なくとも3面としたことによっ

て,本件明細書に明記された本件発明の作用効果を奏することが可能となり,従来

技術の課題を解決することができたといえる。

A 本件明細書の【表1】には,従来技術のタブレット電極(対向面は1面)で

ある比較例1の重負荷放電容量が6.4mAh,対向面を1面にした比較例2の重負

荷放電容量が2.4mAhとなっていることが記載されているのに対して,対向面

を3面とした実施例1の重負荷放電容量は,22.8mAhとなっており,比較例1

の3.5倍,比較例2の9.5倍の性能の向上が得られていることが記載されている。

これに対し,対向面を5面,7面,9面とさらに増加させても,上記のような性能

向上は得られていない。すなわち,対向面を5面とした場合の重負荷放電容量(5

2.7mAh)は,これを3面とした場合の重負荷放電量(22.8mAh)の約2.3倍

にすぎず,対向面を7面とした場合の重負荷放電容量(53.7mAh)に至っては,

対向面を5面とした場合の重負荷放電容量(52.7mAh)とほぼ同じである。

以上から,本件発明の顕著な作用効果は,対向面数を1面から3面にすることに

より得られていると見るべきであり,対向面を3面から5面にしたことにより性能

が向上しているとしても,それは,対向面を3面とした場合に確認された作用効果

の延長線上の効果を確認するとともに,それを超えて対向面数を増加させても重負

荷放電容量の飛躍的向上が見込めないという最適化条件を明らかにしたにすぎない。

B 原告が平成25年2月1日〜6日にかけて行った実験(甲2,7。原告実験)

においては,本件明細書の実施例1〜4と同様の方法によって作製した対向面をそ

れぞれ3面,5面,7面及び9面とする実験例1〜4の電池について,その重負荷

放電容量を測定したが(ただし,正極作用物質含有層の厚さ,負極作用物質含有層

の厚さ,これらの層の厚さの差は,本件明細書の実施例1〜4の場合とは異なる。,


対向面を7面とした実験例3の場合に高止まりとなる結果が得られた。結局,正極・

負極の対向面積などの条件が変われば,その効果は対向面数に関わりなく変動する

といえる。そうすると,単に対向面を5面以上と限定しただけでは,対向面が3面




の場合とは異なる作用効果を奏するとはいえない。

また,原告実験では,電池の直径を異にして実験例1〜3と同様の方法によって

作製した対向面をそれぞれ3面,5面及び7面とする実験例5〜7の電池について,

その重負荷放電容量を測定したが,対向面を3面とした実験例5の場合において,

本件明細書の実施例3の対向面を5面とした場合の重負荷放電容量(52.7mAh)

よりも高い値(76.29mAh)を生じる結果が得られた。結局,正極・負極の対

向面積を拡大させれば,対向面が3面であっても,対向面が5面の場合よりも高い

重負荷放電容量を得ることができるといえる。そうすると,単に対向面を5面以上

と限定しただけでは,対向面が3面の場合とは異なる作用効果を奏するとはいえな

い。

C 以上@〜Bからみて,対向面を5面としたことに格別の技術的意義は認めら

れず,対向面を5面とすることは,当業者であれば,性能の向上を図るために適宜

設計することが可能な設計事項の範囲内のもの,すなわち,課題解決のための具体

化手段の一つにすぎない。

D 一方,甲1発明は,正極板と負極板とをセパレータを介して積層(すなわち,

複数の層を設けること)してなる積層電極群を有する扁平形非水電解質二次電池,

特に正極板の正極材料と負極板の負極材料との対向面を複数,具体的には3面とす

る構成を採用したことによって,小型化したまま十分な電流を取り出すことができ

る電池を提供することを可能とした発明であり 【0007】
( 【0008】
【0032】

〜【0034】
【0037】
【0042】
【図6】,本件発明と技術思想として同一の


発明である。

そうすると,本件発明と甲1発明とは,本件発明において対向面が「少なくとも

5面」であるのに対し,甲1発明では対向面が複数(具体的な面数として記載され

ているのは3面)であるという点が形式的に相違するものの,本件発明は,甲1発

明と実質的に同一であると評価できる。

(2) 対向面積について




甲1の【図6】
(断面図)によれば,正極板16と負極板15とが対向する部分の

幅(セパレータ17の幅と同一)の総和が,左右のガスケット22で挟まれた部分

の幅よりも大きいことは明らかであることから,対向面積についても,ガスケット

22で挟まれた部分の開口面積よりも大きいことは自明である。

そうすると,本件発明と甲1発明とは,この点において一致する。

(3) 小括

以上(1)(2)のとおり,審決の相違点Aの認定・発明の同一性判断には,誤りがある。



2 取消事由2(相違点1の認定・発明の同一性判断の誤り)

@ 本件発明は,電極群を構成する正極板,負極板及びセパレータが,電池の扁

平面に平行に積層され,正極板と負極板の対向面が少なくとも5面であるとの限定

をするのみであって,それ以外の構成について限定するものではない。したがって,

電極群が折り重ねられた構造であっても,正極板,負極板及びセパレータが電池の

扁平面に平行に積層され,正極板と負極板の対向面が少なくとも5面であれば,本

件発明の電極群に含まれることは明らかである。また,本件発明は,電極群を構成

する正極板及び負極板を積層する順番についても,何ら限定をしていない。

A 本件明細書の記載によれば,本件発明の技術的意義は,扁平面に対して平行

に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群とすることによって,小型化を

維持したまま,対向面積の総和を絶縁ガスケットの開口面積よりも大きくして,重

負荷放電特性を著しく向上させるというものである。そうすると,電極群が折り重

ねられている構造の電池であっても,正極板,負極板及びセパレータが電池の扁平

面に平行に積層され,正極板と負極板との対向面を少なくとも5面とする構成を備

えていれば,正極板同士が2層及び負極板同士が2層それぞれ重なった構造であっ

ても,本件発明の効果を奏することができる。

したがって,本件発明には,セパレータを介して対向配置されている正極板及び

負極板がそれぞれ分離独立しているものに限定されず,電極群を折り重ねた構造も




含まれる。

B 原告実験では,甲3発明と同じように電極を折り重ね構造とし,対向面をそ

れぞれ5面,7面及び9面とする実験例8〜10の電池において,その重負荷放電

容量を測定したが,本件発明の実施例の場合とほとんど同様の重負荷放電容量を生

じる結果が得られた。

C 甲3の実施例の記載(7頁5〜11行目,8頁15〜20行目,9頁1〜1

6行目)によれば,甲3には,正極板,負極板及びセパレータが電池の扁平面に平

行に積層され,正極板と負極板との対向面が6面である発明が開示されている。

D 以上@〜Cによれば,甲3発明は,正極板,負極板及びセパレータが電池の

扁平面に平行に積層されており,かつ,セパレータを介して対向している正極板と

負極板との対向面が少なくとも5面である発明といえる。

E そうすると,本件発明と甲3発明とは,対向面数及びその構成において本件

発明と一致する。

したがって,審決の相違点1の認定・発明の同一性判断には,誤りがある。



3 取消事由3(相違点1の容易想到性判断の誤り)

@ 昭和62年の出願の考案に係る甲3の記載(4頁1〜9行目)から明らかな

とおり,コイン型電池のような小型の電池において大きな電極反応面積(対向面積)

を得るという課題は,平成11年の原出願当時には,既に周知又は少なくとも公知

の課題であったところ,本件発明も,小型の扁平形非水電解質二次電池において,

重負荷放電特性を向上させるために電極反応面積(対向面積)を大きくすることを

課題とした発明である。そして,甲3には,かかる課題解決のために,何枚かの正

極,負極をセパレータを介して積み重ねて構成するという方法が効果的であること

が開示されている。

A 国際公開WO98/28804(甲21)の記載(12頁6〜21行目,13頁1

6行〜末行)によれば,平成11年の原出願当時,コイン形非水電解質二次電池に




おいて,複数の正極,負極をセパレータを介して多層に積み重ねて電極群を構成す

る際に,具体的には,正極と負極との対向面を10面とするよう構成することが当

業者の技術水準に含まれる事項であったことが見て取れる。

B 甲3には,正極,負極をセパレータを介して積み重ねて構成することについ

て,組立て作業が非常に面倒になってしまう旨の記載がある(4頁10〜14行目)。

しかしながら,当業者が,組立て作業が面倒であることを凌駕するような効果を発

見した場合には,甲3発明に,何枚かの正極,負極をセパレータを介して積み重ね

る構成を組み合わせことを想到することも十分にあり得ることであり,上記記載が

あるがゆえに阻害事由があるということはできない。また,甲3に係る考案が出願

された昭和62年から,原出願がされた平成11年までの間に,技術の進歩によっ

て,組立て作業の効率化,簡易化が進み,組立て作業が面倒であるという問題は解

決されたものと考えられる。また,甲21(WO98/28804)には,対向面が10面

となるよう複数の正極,負極をセパレータを介して積み重ねて構成するコイン型非

水電解質二次電池が開示されており,これは,コイン型非水電解質二次電池におい

て,正極,負極をセパレータを介して積み重ねる構成を採用することに,その時点

において何ら阻害事由がなかったことの証左である。

C 以上@〜Bによれば,相違点1の構成は,容易に想到することができるとい

える。

したがって,審決の相違点1の容易想到性判断には,誤りがある。



4 取消事由4(相違点2の容易想到性判断の誤り)

甲4(特開平11−97064号公報)には,二次電池において,負極集電体と

して銅箔等を用い,これに負極活物質を含む負極層を担持させて負極とすることが

記載され(【0001】【0027】〜【0029】,甲5(特開平9−29806


6号公報)には,二次電池において,負極材料を箔状の銅等からなる集電体の上に

成形して負極を得ることが記載されている(【0001】
【0056】〜【0059】




【0066】。


以上の甲4及び甲5の記載から明らかなとおり,二次電池の分野において,導電

性を有する負極構成材の表面に負極作用物質を含有する作用物質含有層を有するよ

うに負極板を構成するという技術は周知であった。

かかる周知技術は,負極板を使用して積層電極群をどのように構成するか(1枚

を折り重ねるか,複数を積み重ねるか)とは全く無関係に独立して採用可能な技術

である。そうであれば,当業者が,かかる技術を二次電池の発明である甲3発明に

適用することは容易である。

そうすると,相違点2の構成は,容易に想到することができる。

したがって,審決の相違点2の容易想到性判断には,誤りがある。



第4 被告の反論

1 取消事由1(相違点Aの認定・発明の同一性判断の誤り)に対して

(1) 対向面数について

@ 本件明細書(甲12)の段落【0014】の記載は,対向面の構成について

の単なる例示である。そして,本件明細書の【表1】の記載によれば,対向面が5

面である場合の重負荷放電容量(52.7mAh)は,対向面が3面である場合の重

負荷放電容量(22.8mAh)と比較して,顕著に優れた特性がある。

そうすると,対向面を少なくとも3面としたことにより,本件発明にいう作用効

果を生じさせることがある程度は可能であるとしても,対向面を少なくとも5面と

したことによって,本件発明が更に顕著な作用効果を奏するものであることを否定

できない。

A 本件明細書の【表1】の記載によれば,従来技術のタブレット電極(対向面

は1面)である比較例1の重負荷放電容量(6.4mAh)に対して,対向面が5面

である場合の重負荷放電容量(52.7mAh)は,8.2倍の性能向上が得られてい

るが,対向面数が3面である場合の重負荷放電容量(22.8mAh)は比較例1の




3.5倍の性能向上にとどまる。このように,重負荷放電容量を格段に大きくすると

の本件発明の作用効果の顕著性は,対向面を5面とすることによって生じる。

また,対向面が1面の場合の重負荷放電容量(2.4mAh)に対して,対向面が

3面である場合の重負荷放電容量(22.8mAh) 9.5倍の性能向上であるが,
は,

対向面が5面である場合の重負荷放電容量(52.7mAh)は,対向面が1面であ

る場合の22倍の性能向上となっている。このように,重負荷放電容量を格段に大

きくするとの本件発明の作用効果の顕著性は,対向面を5面とすることにより生じ

ている。一方で,対向面が7面である場合の重負荷放電容量(53.7mAh)や対

向面が9面である場合の重負荷放電容量(52.5mAh)は,対向面が5面である

の場合の重負荷放電容量と比べて,大きな変化は見られない。

B 原告実験の実験例1〜7は,基準となるべき従来型の電池であって対向面を

1面とする場合の実験を行っていないほか,対向している正極作用物質含有厚さと

負極作用物質含有厚さの差や積層された電極群の厚さが,対向面数によって一貫性

なくバラついており,原告実験の各実験例の重負荷放電容量の数値の信憑性には疑

問がある。

また,原告実験の実験例5〜7は,電池の直径を伸ばして正極・負極面積を増大

させたものであり,電池サイズを維持したまま高い重負荷放電容量が得られるとす

る本件発明の作用効果とは,その前提を異にするものであり,その実験結果は,何

ら参考になり得ない。

C 以上@〜Bのとおり,対向面が5面であるところに効果の臨界性が認められ

るから,本件発明が対向面を少なくとも5面とした構成は,臨界的意義を有する。

D 一方,甲1発明は,対向面を複数,具体的には3面とする構成を採用したも

のである。

そうすると,本件発明が,対向面を少なくとも5面とした構成は,設計事項の範

囲内のものではなく,これを3面とすることと実質的に同一と評価することはでき

ない。




(2) 対向面積について

甲1の【図6】
(断面図)からは,正極板16と負極板15とが対向する部分の幅

(セパレータ17の幅と同一)が左右のガスケット22で挟まれた部分の幅より小

さいことは分かるものの,一方で,正極板16,負極板15及びセパレータ17並

びにガスケット22の全体の形状や大きさは不明である。そのため,対向面積につ

いても,ガスケット22で挟まれた部分の開口面積よりも大きいかどうかは不明で

ある。

したがって,甲1発明において,積層極板群内の正極板の正極材料と負極板の負

極材料の対向面積が,電気的絶縁をとる樹脂製ガスケットの開口面積より大きいこ

とは,甲1の【図6】に開示されているとはいえない。

(3) 小括

以上(1)(2)のとおり,審決の相違点Aの認定・発明の同一性判断には,誤りはない。



2 取消事由2(相違点1の認定・発明の同一性判断の誤り)に対して

@ 甲3発明は,少なくとも,折り曲げ部(シート状の電極群を折り曲げた箇所)

においては,本件発明の「前記正極板,前記負極板および前記セパレータが電池の

扁平面に平行に積層されており」との構成に該当しない。

また,甲3発明のような折り重ねた構造の電極群では,折り重ねた正極電極,セ

パレータ及び負極電極は,折り曲げ部においても,それぞれ連続した一体であるこ

とに変わりはないので,セパレータを介して対向している正極電極と負極電極との

対向面は,常に1面であり,本件発明の「対向面が少なくとも5面」であるとの構

成に該当しない。

A 甲3発明のような折り重ねた構造の電極群は,折り曲げ部が存在するため,

本件明細書に記載された「本発明のような封口構造を持つ扁平形電池では,電池ケ

ースの加締め加工によって負極ケースと正極ケースの扁平面に対して垂直方向に応

力が加わっており,本集電方法によると電極群の平面方向に均一に加圧力が加わり,




充放電を円滑に行うことができる。(
」【0020】)との作用効果を奏することがで

きない。

B 原告実験の実験例8〜10は,正極が片面塗布になっており,甲3の実施

の正極電極板が,アルミニウム集電体の両面に均一に塗布しているのとは異なり,

甲3発明と同じ方法で正極電極版が作製されていない。また,実験例8〜10も,

対向している正極作用物質含有層厚さと負極作用物質含有層厚さの差や折り重ねた

電極群の厚さが,対向面数によって一貫性なくバラついており,重負荷放電容量の

数値の信憑性には疑問がある。

C 甲3発明のシート状の正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させて

なる電極群を先端から折り重ねた構造の電極群は,折り重ねた正極電極,セパレー

タ及び負極電極は,折り曲げ部においても,それぞれ連続した一体であるので,セ

パレータを介して対向している正極電極と負極電極との対向面は,常に1面である。

D 以上@〜Cのとおり,甲3発明は,正極板,負極板及びセパレータが電池の

扁平面に平行に積層されており,対向している正極板の作用物質含有層と負極板の

作用物質含有層との対向面が少なくとも5面である発明ではない。

E そうすると,本件発明と甲3発明とは,相違点1の点において実質的に相違

する。

したがって,審決の相違点1の認定・発明の同一性判断には,誤りはない。



3 取消事由3(相違点1の容易想到性判断の誤り)に対して

@ 甲3には,積み重ねるべき電極の具体的な枚数は記載されておらず,まして

や,セパレータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の

作用物質含有層との対向面を少なくとも5面とした本件発明の構成は,何ら記載さ

れていない。しかも,対向面を少なくとも5面とした本件発明の構成は,本件明細

書に記載された作用効果との関係で,臨界的意義を有する構成である。

A 甲21の比較例4の電極体(12頁6〜21行目,13頁15〜末行)は,




正極板と負極板とにそれぞれ集電を目的とする金属片を集電体にスポット溶接によ

って取り付け,ポリエチレン多孔膜をセパレータとしてはさんだ構造の電池素単位

を,絶縁薄膜をはさんで10単位積み重ねた構造であり,電池素単位と電池素単位

とを絶縁薄膜をはさんで積み重ねた部分では,正極板と負極板との間にセパレータ

はない。

したがって,甲21の比較例4は,正極板と負極板とをセパレータを介し対向配

置し,その対向面が10面になっているものではない。

B 甲3には,電極反応面積を大きくするため,何枚かの正極,負極をセパレー

タを介して積み重ねて構成することが考えられることを認識した上で,それでもな

お,上記構成には,電極1枚毎にリード線を取り出し,さらに,正・負両極の各リ

ード線をそれぞれ集合させる必要があり,内容積の小さいコイン型の電池では組立

て作業が非常に面倒となってしまうという問題点があったと評価した結果,何枚か

の正極,負極をセパレータを介して積み重ねた構成を採用せずに,シート状の正極

電極と負極電極との間にセパレータを介在させてなる電極群を折り重ねた構造の電

極群を採用したものであるとの記載がある(4頁1〜20行目,16頁18行〜1

7頁9行目)。したがって,甲3は,何枚かの正極,負極をセパレータを介して積み

重ねて構成することを積極的に排斥している。

また,甲21の構成は,上記Aのとおりであり,電極一枚毎にリード線を取り出

し,さらに,正・負両極の各リード線をそれぞれ集合させるものと同様に,組立て

作業が非常に面倒という問題点を有する。

C 上記@〜Bのとおり,相違点1の構成は,容易に想到することができない。

したがって,審決の相違点1の容易想到性判断には,誤りはない。



4 取消事由4(相違点2の容易想到性判断の誤り)に対して

甲4及び甲5に記載された二次電池の電極群は,いずれも,甲3ようなのシート

状の正極電極と負極電極との間にセパレータを介在させてなる電極群を折り重ねた




構造の電極群とは異なるものであり,甲3発明とは技術分野が異なるから,甲3発

明の分野における周知技術ではない。

また,負極板がリチウム箔である甲3発明は,導電性を確保するための負極構成

材を用いる必要はないので,当業者であれば,負極板を,リチウム箔に換えて,負

極構成材の表面に負極作用物質を含有する作用物質含有層を有する構成に変更する

必要はないと理解する。

その上,負極板を,リチウム箔に換えて負極構成材の表面に負極作用物質を含有

する作用物質含有層を有する構成に変更することは,この構成が放電反応に寄与す

るわけではなく,かえって,電極群の厚み方向の体積を増大させるだけとなるから,

コイン形リチウムイオン二次電池の体積当たりの容量や負荷特性を高めるという甲

3発明の目的と合致しない。さらに,甲3発明の負極板を負極構成材の表面に負極

作用物質を含有する作用物質含有層を有する構成としたときには,体積当たりの容

量を高めるという甲3発明の目的を達するために,負極版を鋭角に折り曲げて折り

重ねようとすると,折り曲げ部付近で作用物質含有層に割れが生じて,容量低下や

内部短絡が発生する問題点がある。

そうすると,相違点2の構成は,容易に想到できたことではない。

したがって,審決の相違点2の容易想到性判断には,誤りはない。



第5 当裁判所の判断

1 認定事実

(1) 本件発明について

本件明細書には,次の記載がある。(甲12)



ア 技術分野
「 本件発明は,…重負荷放電特性の向上した扁平形非水電解質二次電池に関するものである

【0001】。
)」





イ 背景技術
「 …コイン形やボタン形などの電池総高に対して電池最外径が長い扁平形非水電解質二次電

池は,既に商品化されており,放電電流が数〜数十μA程度の軽負荷で放電が行われるSRA

MやRTCのバックアップ用電源や電池交換不要腕時計の主電源といった用途に適用されてい

る(【0002】。
)」

「 …コイン形やボタン形などの扁平形非水電解質二次電池は,製造が簡便であり,量産性に

優れ,長期信頼性や安全性に優れるという長所を持っている。また,構造が簡便であることか

ら,これらの電池の最大の特徴として小型化が可能であることが挙げられる(【0004】 。一


方,携帯電話やPDAなどの小型情報端末を中心に,使用機器の小型化が加速されており,こ

れに伴い主電源である二次電池についても小形化を図ることが必須とされている。従来,これ

らの電源には,リチウムイオン二次電池や,ニッケル水素二次電池などのアルカリ二次電池が

使用されてきたが,これらの電池は,金属箔または金属ネットからなる集電体に作用物質層を

塗布または充填し電極を形成後,電極中心部にタブ端子を溶接し,その後,巻回または積層し

て電極群とし,さらに電極群の中心部から取り出したタブ端子を複雑に曲げ加工を行い,安全

素子や封口ピン,電池缶などに溶接して電池を製作していた 【0005】。
( ) …これらの電池は,

複雑な製造工程を経て製作されるために作業性が劣り,また,部品の小型化も困難であり,さ

らに,タブ端子のショート防止に電池内に空間を設けたり,安全素子などの多数の部品を電池

内に組込む必要があり,電池の小型化に際しても現状ではほぼ限界に達していた 【0006】。
( )

そこで,…電池の小型化に際し,円筒形や角形のリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次

電池の小型化ではなく,扁平形非水電解質二次電池の高出力を図ることを試み,正極作用物質

に高容量で高電位なコバルト酸リチウムを,負極作用物質に高容量で電圧平坦性の良好な黒鉛

化した炭素質材料をそれぞれ使用し,従来の扁平形非水電解質二次電池の製造や構造に従い,

正極および負極をガスケットより一回り小さいタブレット状に成形加工して電池を作製した

(【0007】。しかしながら,このように作製された電池は,従来の扁平形非水電解質二次電


池に比べて優れた特性は得られたものの,小型携帯機器の主電源として要求される大電流で放





電した場合の特性に対しては遥かに不十分であり,小型携帯機器の主電源としては到底満足で

きるレベルではなかった(【0008】。本件発明は,小型の扁平形非水電解質二次電池の重負


荷放電特性を従来にないレベルまで引き上げることにより,重負荷放電特性が格段に優れた扁

平形非水電解質二次電池を提供することを目的とするものである(【0009】。
)」



ウ 課題を解決する手段
「 …従来の扁平形非水電解質二次電池に比べて電極面積を格段に大きくすることで,重負荷

放電特性が飛躍的に向上することを見出した(【0010】。
)」

「 …従来の扁平形非水電解質二次電池では,タブレット状の正極および負極をそれぞれ1枚

ずつ絶縁ガスケットに内接する形で電池内に収容していたため,正負極がセパレータを介して

対向する対向面積は,絶縁ガスケットの開口面積より一回りほど小さくせざるを得ず,…ガス

ケットの開口面積を上回るような対向面積を持つ電極を電池内に収納することは理論的に不可

能であった(【0012】。…電池ケース内に電極を多層配置することで,電極群内の正負極の


対向面積の総和が絶縁ガスケットの開口面積よりも大きな電極群を収納することを可能にした

(【0013】。
)」



エ 発明の効果
「 本件発明によれば,扁平形電池の持つ電池サイズが小さく,かつ生産性に優れるという利

点を維持したまま,重負荷放電時の放電容量を従来の電池に対し格段に大きくすることができ

る…(【0015】」




実施
「…本実施例および比較例の電池について,4.2V,3mAの定電流定電圧で48h初充電を

実施した。その後,30mAの定電流で3.0Vまで放電を実施し重負荷放電容量を求めた。そ

の結果を表1に示す(【0039】。






【表1】【0040】
( )




(2) 甲1発明について

甲1には,次の記載がある。(甲1)



ア 特許請求の範囲
「【請求項7】金属製の正極ケースと負極ケースを,これらの電気的絶縁をとる樹脂製ガスケッ

トを介してかしめて封口する扁平形電池であって,内部にリチウム塩を溶解した有機電解液と,

リチウムを吸蔵・放出可能な正極材料を金属集電体上に配した正極板とリチウムを吸蔵・放出

できる負極活物質を含む負極板とをセパレーターを介して積層してなる積層電極を有する扁平

形非水電解液電池。」



イ 発明の属する技術分野
「 本発明は,扁平形非水電解液電池の構成…に関するものである(【0001】。
)」



ウ 従来の技術
「 近年,AV機器,パソコン等のコードレス化,ポータブル化に伴いその駆動用電源である

電池に対し,小型,軽量,高エネルギー密度化の要望が強まっている。特にリチウム二次電池

は,高エネルギー密度を有する電池であり,次世代の主力電池として期待され,その潜在的市





場規模も大きい。また,形状としては,通信機の薄型化,あるいは,スペースの有効利用の観

点からも角薄型の要望が高まっている(【0002】。従来,角薄型リチウムイオン電池は,…


金属板をしぼり加工などで有底の角薄形電池ケースを作成し,その中に渦巻き状の極板群及び

電解液を注入した後,開口部を塞ぐ封口板をレーザー溶接で封口する方法が一般的である(【0

003】。
)」



エ 発明が解決しようとする課題
「 電池の角薄型が進み,通信機用途では現在5mm程度のものに移行しつつあり,将来さら

なる薄型化が要望されている。…電池の薄型化に伴い,当然封口板も薄くなり,端子取り出し

スペースが窮屈になる(【0005】。従って,樹脂を絶縁層にして端子を兼ねたリベットでか


しめる方式では,非常に小さい部品となり,耐漏液性の信頼性が極めて低くなるといった課題

がある。また,封口板と外装ケースをレーザー溶接し封口する工程においても,溶接スペース

に余裕がなく高精度のレーザー溶接技術が必要となり生産性は低下する。量産化に際しては少

しのレーザー軌道のズレや,ランプの消耗によるレーザー出力変動で不良率を著しく増加させ

るといった課題がある(【0006】。一方,…扁平形コイン電池では正負極の対峙面積(反応


面積)が小さすぎることや,活物質層の厚みが0.2から1.7mmと厚いこと等の要因で極め

て小さな電流しか取り出せないといった課題がある(【0007】。本発明はこのような課題を


解決し,扁平形電池で,かつ十分な電流を取り出せ,さらに極めて生産性の良い電池構成…を

提供するものである(【0008】。
)」



オ 課題を解決するための手段
「 金属箔にリチウムを吸蔵・放出可能な正極材料を含む合剤ペーストを塗工した薄い正極板

と,同様に金属箔にリチウムを吸蔵・放出できる負極材料を含む合剤ペーストを塗工した薄い

負極板を,ポリエチレンなどの樹脂からなる微多孔膜であるセパレーターを介して渦巻き状に

巻回し極板群を構成する(【0009】。この極板群をプレスなどで断面が長円形になるように


扁平状に成形する。このことにより,扁平形の極板群で,かつ,薄型極板を使用するので正負





極の対向面積(反応面積)が大きく,従来の粉体合剤をプレスしペレット状に成形したものに

比較し大きな電流を取り出す事ができる(【0010】。あるいは,エキスパンドメタルの薄板


にリチウムを吸蔵・放出可能な正極材料の合剤あるいは負極材料の合剤を塗り込み圧延して作

成した薄型極板を短冊状に切断し,これらを樹脂製のセパレータを介して積層して,さらに熱

を加え加圧接合し一体化した極板群とする事でも上述の場合とほぼ同様な効果を得ることがで

きる(【0011】。




カ 発明の実施の形態
「 ・・・図3にこの電池を4.1Vの定電圧充電(最大電流500mA)を2時間行い,80m

A,400mA及び800mAの3種類の定電流で放電した結果を示した。図より400mAの

電流値でも電池容量が約400mAhの放電容量があり,セルラーフォンなどの用途に十分使

用可能であることがわかる(【0019】。
)」

「 …本実施例で示したような構成の電池を作成することで,扁平形電池で,かつ十分な電流

を取り出せ,さらに極めて生産性の良い電池を提供する事が可能となる(【0038】。
)」



【図3】




キ 発明の効果
「 …本発明によれば,5mm以下の様な非常に薄い扁平形電池であっても,十分な電流を取

り出せ,さらに従来の一般的な角薄型リチウム2次電池のように,レーザー溶接などの高度な





要素技術を必要としないため,極めて生産性の良い電池を提供することが可能となる(【004

2】。
)」



2 取消事由1(相違点Aの認定・発明の同一性判断の誤り)について

(1) 検討

ア 本件発明

以上の記載及び前記第2,2【図1】によれば,次のとおりである。

すなわち,従来の扁平形非水電解質二次電池では,タブレット状の正極及び負極

をそれぞれ1枚ずつ,絶縁ガスケットに内接する形で電池内に収容していたため,

正極と負極とがセパレータを介して対向する対向面積は,絶縁ガスケットの開口面

積より一回りほど小さくせざるを得なかった。

そこで,本件発明は,扁平形非水電解質二次電池において,電極群として,正極

構成材の表面に作用物質含有層を有する正極板と,負極構成材の表面に作用物質含

有層を有する負極板とが,セパレータを介し多層積層されて対向配置されたものを

用い,セパレータを介して対向している正極板の作用物質含有層と負極板の作用物

質含有層との対向面を,少なくとも5面として,その対向面積の総和を,絶縁ガス

ケットの開口面積よりも大きいものとした。

この結果,本件発明は,従来の扁平形非水電解質二次電池に比べて,電極面積を

格段に大きくすることで,小型携帯機器の主電源として要求される重負荷放電特性

(大電流で放電した場合の特性。実施例では,30mAの定電流で放電を実施。)を

格段に向上させたものである。

イ 甲1発明

以上の記載及び前記第2,3(1)ア【図6】によれば,次のとおりである。

近年,AV機器,パソコン等のコードレス化,ポータブル化に伴い,その駆動用

電源である電池に対し,小型,軽量,高エネルギー密度化の要望が強まっており,

特にリチウム二次電池は,次世代の主力電池として期待されている。一方で,従来




の扁平形コイン電池では,正極と負極との対峙面積(反応面積)が小さすぎる等の

ため,極めて小さな電流しか取り出せなかった。

甲1発明は,上記技術課題の解決のため,扁平形非水電解液電池において,積層

極板群として,リチウムを吸蔵・放出可能な正極材料を正極金属集電体上に配した

正極板と,リチウムを吸蔵・放出できる負極活物質を負極金属集電体上に有する負

極板とを,セパレータを介して積層してなるものを用いるものである。

すなわち,甲1発明においては,正極板と負極板とをセパレータを介して積層し

ている(【図6】では,正極板と負極板との対向面の面数は,3面である。)ため,

正極板と負極板との対向面積(反応面積)が大きく,従来の粉体合剤をプレスしペ

レット状に成形したものに比較して,大きな電流を取り出すことができるものであ

る。

ウ 相違点Aの認定・発明の同一性判断について

審決の認定する相違点Aは,要するに,本件発明と甲1発明とは,@対向面の面

数とA対向面の対向面積とガスケットの開口面積の大小関係という量的な点におい

て相違する,というものである。

(ア) 課題及び課題解決方法

そこで,検討するに,上記ア,イによれば,本件発明と甲1発明とは,いずれも,

扁平形非水電解質二次電池において,電極群として,正極構成材の表面に作用物質

含有層を有する正極板と,負極構成材の表面に作用物質含有層を有する負極板とが,

セパレータを介し多層積層されたものを用いて,正極板の作用物質含有層と負極板

の作用物質含有層との対向面積の総和を大きくし,重負荷放電時の放電容量を大き

くすることができるとするものであり,その課題と課題解決方法において共通する

ものである。

(イ) 対向面の面数

甲1において,正極板と負極板との対向面の面数について具体的に明記されてい

るのは,上記のとおり,3面の場合のみであるが,もとより,甲1発明は対向面の




面数を3面に限定する発明ではないところ,甲1発明は,正極板と負極板とを積層

することにより,正極板と負極板との対向面積を大きくしようとするものであり,

また,正極板と負極板との積層数(すなわち,正極板と負極板との対向面の面数)

が多くなればなるほど,正極板と負極板との対向面積がこれに比例して単純に大き

くなることも明らかである。そうであれば,甲1には,正極板と負極板との対向面

を3面とすることだけではなく,複数のもの,すなわち,2面や4面以上とするこ

とも記載されているに等しいということができる。したがって,甲1には,セパレ

ータを介して対向している前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含

有層との対向面が少なくとも5面であることも記載されていると認められ,正極板

と負極板との積層数(すなわち,対向面の面数)をどの程度とするかは,要求され

る重負荷放電時の放電容量のレベルに応じて決定される,単なる設計的事項にすぎ

ないといえる。

そして,本件明細書の【表1】には,対向面の面数を1,3,5,7及び9面と

した扁平形非水電解質二次電池(比較例2,実施例1〜4)の重負荷放電容量が,

それぞれ,2.4mAh,22.8mAh,52.7mAh,53.7mAh,52.5mAh

であることが示されている。この【表1】によれば,上記対向面の面数が1面から

5面まで増加するにつれて,重負荷放電容量が上昇しているが,このことは,対向

面の面数が多くなればなるほど,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有

層との対向面積の総和が大きくなることからすれば,当業者にとって,予想どおり

の結果といえる。そして,対向面積の総和に対する重負荷放電容量の増加割合は,

1面から3面にした場合が6.0((22.8−2.4)/(5.1−1.7),3面から


5面にした場合が約8.8(52.7−22.8)/(8.5−5.1),5面から7面


にした場合が0.3((53.7−52.7)/(11.8−8.5))であり,7面から

9面にした場合はマイナスであり,3面から5面にした場合の増加割合が1面から

3面にした場合のものに比してやや高いとはいえるものの,単純な比例関係を超え

るものではなく,その増加割合が顕著なものとはいえない。一方で,対向面が5面




を超えても重負荷放電容量に大きな変化が見られず,場合によって逓減化すること

は,予想外のことともいえるが,本件発明は,重負荷放電時の放電容量を大きくす

ることを技術課題とする発明であって,対向面の面数の下限値を特定したものであ

り,上限値を特定したものではないから,対向面数の増加に比例して放電容量が増

加しないことをもって,本件発明における新たな効果ということはできない。

(ウ) 対向面積について

従来の扁平形非水電解液二次電池においては,正極と負極との対向面積は,通常,

絶縁ガスケットの開口面積よりやや小さいものであるから,甲1発明において,対

向面が5面のものの対向面積が,ガスケットの開口面積よりも大きいことは明らか

である。

(2) 被告の主張に対して

@ 被告は,対向面を5面としたことによって更に顕著な作用効果を奏するので,

対向面を5面とすることには臨界的意義がある旨を主張する。

しかしながら,上記(1)ウ(イ)のとおり,対向面が1面から5面にかけて増加するに

連れて,重負荷放電容量が増加していることは,予想どおりの結果であって,発明

実質的同一性を否定するような臨界的意義を認めることは困難というべきである。

対向面の面数を増加させれば重負荷放電容量が増加することにより,直ちに臨界的

意義があることにはならず,その増加が他の範囲に比して別発明と評価できるよう

な顕著なものであることを要するのである。

したがって,被告の上記主張は,採用できない。

A 被告は,開口部の形状が分からない以上,対向面の幅の総和がガスケットの

開口部の幅より大きかったとしても,対向面の面積が開口部の面積よりも大である

とは直ちにいえない旨の主張する。

しかしながら,上記(1)ウのとおり,当業者が想定する通常の扁平形非水電解液二

次電池を前提とする限り,甲1に接した当業者は,少なくとも,対向面が少なくと

も5面であれば,対向面積がガスケットの開口面積よりも大きいことを直ちに読み




取るものである。

したがって,被告の上記主張は採用できない。

(3) 小括

以上のとおりであるから,相違点Aは実質的なものとはいえず,本件発明は,甲

1発明と実質的に同一であるといえる。



第6 結論

以上によれば,原告が主張する取消事由1は理由があるから,審決を取り消すこ

ととし,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

清 水 節




裁判官

中 村 恭




裁判官

中 武 由 紀