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関連審決 無効2008-800191 訂正2009-390132
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  課題の共通性 /  技術常識 /  共有 /  援用権(援用) /  技術的意義 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10120号 審決取消請求事件
原告 X
訴訟 代理 人弁 理士 松原等 岡本雄二 弁 護士後藤昌弘 手塚稔 鈴木智子
被告 キャロウェイゴルフ株式会社
訴訟 代理 人弁 護士 中川康生 川添大資 黒川慶彦 村井隼 舟橋定之 弁 理士伊東忠彦 佐々木定雄 大貫進介 山口昭則 伊東忠重
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/12/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
- 2 -
事実及び理由
全容
第1原告の求めた判決特許庁が無効2008-800191号事件について平成22年3月31日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,被告からの無効審判請求に基づき原告の特許を無効とする審決の取消訴訟である。争点は,訂正後の請求項に係る発明の進歩性(容易想到性)の有無である。
1特許庁における手続の経緯等原告は,平成6年4月20日,名称を「ゴルフボール」とする発明につき特許出願をし(特願平6-106107号,請求項の数は4),その後数次の補正を経て,平成15年10月3日,特許登録を受けた(特許第3478303号,請求項の数は16)。
これに対し,被告は,平成20年9月30日,請求項1ないし3,10,11,14及び15につき無効審判請求をしたところ,特許庁は,これを無効2008-800191号事件として審理した上で,平成21年7月6日,「特許第3478303号の請求項1,2,3,10,11,14及び15に係る発明についての特許を無効とする。」との第1次審決をした。
そこで,原告が,平成21年8月6日,知的財産高等裁判所に対し,第1次審決の取消しを求めて訴えを提起し(同年(行ケ)第10221号),かつ同年10月29日,特許庁に対し,請求項1及び2の各特許請求の範囲の記載から「平行に」の文言を削る旨の訂正審判請求を行った(訂正2009-390132号事件)。
このため,知的財産高等裁判所は,平成21年12月18日,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため第1次審決を取り消す旨の決定をした。
原告は,その後,審判長が指定した期間内に特許庁に対する訂正請求をしなかったので,平成22年1月18日,上記訂正審判請求において請求書に添付された全文訂正明細書援用した訂正請求がされたものとみなされた(特許法134条の3第5項。以下「本件訂正」という。)。その結果,同条4項により,上記訂正審判請求は取り下げられたものとみなされた。
特許庁は,さらに審理した上で,「訂正を認める。特許第3478303号の請求項1,2,3,10,11,14及び15に記載された発明についての特許を無効とする。」との第2次審決をし,この審決の謄本は平成22年4月10日原告に送達された。本件は第2次審決の取消訴訟であり,以下「審決」というときは第2次審決を指す。
2本件発明の要旨本件発明は,六角形のディンプル(窪み)を稠密に球表面に設けたゴルフボールに関するもので,本件訂正後の請求項1ないし3,10,11,14及び15の特許請求の範囲は下記のとおりである(以下,各請求項の番号に従って,「訂正発明1」などといい,また一括して「各訂正発明」という。)。
【請求項1】「球表面を一つの大円よりなる仮想区画線(2)によって二つの半球面エリアに区画し,仮想区画線(2)上の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(4)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように複数の六角形ディンプル(4)を列状に配設し,前記二つの半球面エリア内の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように複数の六角形ディンプル(5)を稠密に配設し,前記仮想区画線(2)上の六角形ディンプル(4)と前記各半球面エリア内の六角形ディンプル(5)も辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶようにし,前記幅が0.0mmのランド(6)を含むランドの合計面積をゴルフボールの仮想球表面積の20%以下にしたことを特徴とするゴルフボール。」【請求項2】「球表面を球表面に内接,外接又は中接(稜が球に接する)する多面体の各辺を球表面に投影した仮想区画線(2)によって複数のエリアに区画し,仮想区画線(2)上の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(4)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように複数の六角形ディンプル(4)を列状に配設し,全ての前記エリア内の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように複数の六角形ディンプル(5)を稠密に配設し,前記仮想区画線(2)上の六角形ディンプル(4)と前記各エリア内の六角形ディンプル(5)も辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶようにし,前記幅が0.0mmのランド(6)を含むランドの合計面積をゴルフボールの仮想球表面積の20%以下にしたことを特徴とするゴルフボール。」【請求項3】「前記複数のエリアは三角形又は六角形のエリアであり,前記三角形又は六角形のエリア内の全範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプル(5)ばかりを稠密に配設した請求項2記載のゴルフボール。」【請求項10】「前記仮想区画線(2)は,五角形ディンプル(7)を配設した球表面上の交点(P)から五本が延び,該五本の仮想区画線(2)による交点(P)の周りの分割角度は均一である請求項2記載のゴルフボール。」【請求項11】「前記交点(P)から延びる五本の仮想区画線(2)は他の交点(P)から延びる仮想区画線(2)と共に前記交点(P)の周りに五つの球面正三角形エリア(3)を区画形成し,前記球面正三角形エリア(3)内の全範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプル(5)ばかりを稠密に配設した請求項10記載のゴルフボール。」【請求項14】「前記仮想区画線上に前記六角形ディンプル(6)の列を二列に配設した請求項1記載のゴルフボール。」【請求項15】「前記六角形のディンプル(4,5)の内縁部に,前記六角形ディンプル(4,5)の最深部より浅い少なくとも一段のディンプル内段部(11,12)を隆起形成した請求項1〜14のいずれか一項に記載のゴルフボール。」3審決の理由の要点訂正発明1ないし3,10,11及び14は下記刊行物1及び3又は下記刊行物1,3及び5に記載された発明に,訂正発明15は下記刊行物1,3及び4又は下記刊行物1,3,4及び5に記載された発明にそれぞれ基づいて,当業者において容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。
【刊行物1】米国特許第4,991,852号明細書(引用発明1,甲1)【刊行物3】特開平4-347177号公報(引用発明3,甲3)【刊行物4】特許第60986号公報(引用発明4,甲4)【刊行物5】特開昭53-115330号公報(引用発明5,審決が引用する「刊行物」,甲40)審決が上記結論を導くに当たって認定した,引用発明1の要旨,引用発明1と訂正発明1,2との一致点及び相違点は次のとおりであり,原告においても後記各点の認定を争っていない。
相違点についての審決の判断は,必要な都度原告主張の取消事由で摘示し,当裁判所の判断でも摘示する。また,訂正発明3,10,11,14及び15に関する審決の判断も,同様に摘示する。
(1) 【引用発明1の要旨】「ボール表面に均等な間隔を置いて812個の六角形表面のディンプルを規則的な測地学の9周期20面体パターンで配置したゴルフボール」(2) 訂正発明1【引用発明1と訂正発明1の一致点】「球表面を一つの大円よりなる仮想区画線(2)によって二つの半球面エリアに区画し,仮想区画線(2)上に,並ぶように複数の六角形ディンプル(4)を列状に配設し,前記二つの半球面エリア内に,並ぶように複数の六角形ディンプル(5)を配設し,前記仮想区画線(2)上の六角形ディンプル(4)と前記各半球面エリア内の六角形ディンプル(5)も並ぶようにしたゴルフボール。」である点【引用発明1と訂正発明1の相違点】・相違点1「仮想区画線上の六角形ディンプル(4)に関し,訂正発明1は『仮想区画線(2)上の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(4)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明1のようなものであるか否か明らかでない点。」・相違点2「半球面エリア内の六角形ディンプル(5)に関し,訂正発明1は,『二つの半球面エリア内の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように』と特定され,更に,『稠密に配設し』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明1のようなものであるか否か明らかでない点。」・相違点3「前記仮想区画線上の六角形ディンプル(4)と各半球面エリア内の六角形ディンプル(5)について,『辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて平行に並ぶように』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明1のようなものであるか否か明らかでない点。」・相違点4「訂正発明1は『幅が0.0mmのランド(6)を含むランドの合計面積をゴルフボールの仮想球表面積の20%以下にした』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明1のようなものであるか否か明らかでない点。」(3) 訂正発明2【引用発明1と訂正発明2の一致点】「球表面を球表面に内接,外接又は中接(稜が球に接する)する多面体の各辺を球表面に投影した仮想区画線(2)によって複数のエリアに区画し,仮想区画線(2)上に,並ぶように複数の六角形ディンプル(4)を列状に配設し,すべての前記エリア内に,並ぶように複数の六角形ディンプル(5)を配設し,前記仮想区画線(2)上の六角形ディンプル(4)と前記各エリア内の六角形ディンプル(5)も並ぶようにしたゴルフボール。」である点【引用発明1と訂正発明2の相違点】・相違点1’「仮想区画線上の六角形ディンプル(4)に関し,訂正発明2は,『仮想区画線(2)上の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(4)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明2のようなものであるか否か明らかでない点。」・相違点2’「全てのエリア内の六角形ディンプル(5)に関し,訂正発明2は,『全ての前記エリア内の50%以上の範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)同志が辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように』と特定され,更に,『稠密に配設し』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明2のようなものであるか否か明らかでない点。」・相違点3’「前記仮想区画線上の六角形ディンプル(4)と各エリア内の六角形ディンプル(5)について,『辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド(6)をおいて並ぶように』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明2のようなものであるか否か明らかでない点。」・相違点4’「訂正発明2は『接線を含むランドの合計面積をゴルフボールの仮想球表面積の20%以下にした』と特定されているのに対し,引用発明1は,訂正発明2のようなものであるか否か明らかでない点。」第3原告主張の審決取消事由1訂正発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由1)(1) ア審決は,訂正発明1につき,「引用発明1において訂正発明1の相違点1〜4に係る構成を備えることは,当業者が容易に想到できたことであり,かかる発明特定事項を採用したことによる訂正発明1の効果も当業者が予測できる範囲のものである。」と判断した(相違点の検討(その1))。
しかしながら,訂正発明1がゴルフボールの球表面の陸部分であるランドの幅を0.0mmとした技術的意義は2つあり,すなわち,ゴルフボールと空気の間の摩擦抵抗を極限的に減少すること,及び,ゴルフボール表面の任意の切断面においてディンプルとランドが交互に現れる周期特性が急激に改善し,すべての方向に対する均一性を満足することにある。後者の技術的意義は各訂正発明以前の従来技術には存せず,各訂正発明のみが備えるものであり,審決の判断はこの点を看過するものである。
引用発明1のゴルフボールにおいては,ランドの幅は0.14〜1.12mm程度であって,ディンプルがゴルフボールの球表面全体をカバーする割合(ディンプル占有率)が90%に達する場合でも,ゴルフボール全体についてみれば,球表面の切断面における周期特性の不均一が生じてしまう。
また,引用発明3のゴルフボールも,ランド部の幅を実質的に0にするものではなく,その技術的意義もディンプルが周囲の空気の流れを乱す効果の観点から説明されるもので,球表面の切断面における周期特性の改善は考慮されていない。
イ審決は,相違点1につき,「刊行物3には,ランド部の面積を小さくすると空力特性が高くなることが記載されており,刊行物1と刊行物3は,ゴルフボールという同一の技術分野において,ディンプルを配設して,ボールの飛距離を伸ばすという課題を共通にするものであるから,引用発明1に刊行物3に記載の事項を組み合わせ,引用発明1のランドの幅をランドの面積ができるだけ小さくなるようにできるだけ細くし,下限値である0.0mmとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
そして,ランドの幅を下限値である0.0mmとするランドを配設する際,ランドの面積が小さくなるよう,仮想区画線(2)上の50%以上の範囲に,該ランドを配設することは,当業者が容易になし得る程度のことである。」と判断する(相違点の検討(その1))。審決は,相違点2ないし4についても,同趣旨の判断をする。
しかしながら,ゴルフボールの球表面に占めるランドの総面積を小さくすることとランドの幅を実質的に0にすることとは質的に大きく異なるものであって,両者の間には飛躍があり,ランドの幅を実質的に0にするという発想に至ることは当業者においても直ちになし得ることではない。
引用発明3にいうランドの面積を小さくすることは,従来技術のように,又はよりランドの面積を小さくすることを指すのであって,ランドの幅を実質的に0にするというものではないし,前記のとおり,引用発明3においては周期特性の改善という見地からランドの幅を0にするという認識はされていない。
また,引用発明1のゴルフボールの球表面に対するディンプルの表面積の占有率の上限は90%であるところ,引用発明3のゴルフボールの同様の占有率である81.9%,82.9%を大きく超えているから,引用発明1に引用発明3を組み合わせようとする動機付けがない。
ウ各訂正発明の出願前には,ランドの面積の減少に伴うゴルフボールのカバー層のランド相当部分の剛性の低下や,弾道が低くなりすぎて飛距離が劣ることを理由にして,ゴルフボールの球表面に占めるディンプルの表面積の割合が大きくとも80〜95%程度であると認識されていたのであって,ランドの幅を実質的に0にする従来技術は存しなかった。
したがって,従来技術から訂正発明1にいうランドの幅を0.0mmにするという構成に至るには,ゴルフボールカバー層のランド相当部分剛性の低下,低弾道による飛距離が劣ることになるという阻害要因があった。
しかるに,審決は上記阻害要因を看過して訂正発明1の容易想到性を判断しており,誤りである。
また,各訂正発明の基礎となった特許出願が公開された後に,ランドの幅を0にしたゴルフボールの開発が促進され,被告を含む他社からの同種の特許出願やランドの幅を0にしたゴルフボールの製造販売が相次いでされており,この事態は訂正発明1がいかに画期的なものであったかを示すものである。
エ以上のとおり,引用発明1に引用発明3を組み合わせて訂正発明1の容易想到性を肯定した審決は誤りである。
(2) 審決は,相違点1につき,「・・・引用発明1の隣合う六角形表面のディンプル間の断面形状として,刊行物5に記載の正弦波状よりなる断面形状を採用することは当業者が適宜なし得る設計事項である。
そして,そのような断面形状を採用した場合には,結果として,隣合う六角形ディンプル(4)同志が辺を共有することで球表面付近のディンプル間の断面が球表面の半径より小さい半径のアールで球表面に接している状態の前記球表面の半径より小さい半径のアールと前記球表面との接触線をおいて並ぶように配設されたものになる。
また,仮想区画線(2)上の50%以上の範囲に,六角形ディンプルを前記のように配設をする点に関し,刊行物3には,ランド部の面積を小さくすると空力特性が高くなることが記載されているから,ランドの面積が小さくなるよう,仮想区画線(2)上の前記配設の好ましい範囲を適宜選択し,相違点1のような数値とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。」と判断した(相違点の検討(その2))。
しかしながら,刊行物5は,典型的な波形の一つとして正弦波の形状を挙げたにすぎず,ゴルフボールのディンプルの断面に正弦波形状を採用した場合の作用効果を説明するものではないから,当業者が刊行物5に接したときに,正弦波形状をゴルフボールの現実のディンプルに採用する認識を持つことはできず,正弦波形状をゴルフボールのディンプルに採用する動機付けがない。また,ディンプル断面に正弦波形状が現れるのはディンプルの各中心を結んだ直線に沿ってディンプルを切断した場合のみであって,ランドの長さ方向に正弦波形状が連続するものではない。
そうすると,刊行物5の記載に基づき,引用発明1の隣り合う六角形表面のディンプル間の断面の形状として,正弦波形状を採用することは,当業者において適宜なし得る設計事項であるとはいえない。
したがって,上記判断を前提とする訂正発明1の容易想到性に係る審決の判断は誤りである。
2訂正発明2の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)審決は,相違点1’ないし4’に係る構成を採用することにつき,相違点1ないし4におけるのと同様に,当業者が容易になし得る程度の事柄にすぎないとする。
しかしながら,取消事由1におけるのと同様の理由で,審決の訂正発明2の容易想到性の判断は誤りである。
3訂正発明3の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)訂正発明3は,訂正発明2を引用し,訂正発明2の構成に「前記複数のエリアは三角形又は六角形のエリアであり,前記三角形又は六角形のエリア内の全範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプル(5)ばかりを稠密に配設した」との限定を加えたものであるところ,審決は,訂正発明3の進歩性につき,「引用発明1は,『ボール表面に均等な間隔を置いて』六角形表面のディンプルを形成するものであるから,実質的に『隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように』配設されたものといわざるを得ない。」「六角形ディンプル(5)を稠密に配設することは,当業者が容易になし得る程度のことである。」等として,訂正発明3の進歩性を否定した。
しかしながら,取消事由1におけるのと同様の理由で,審決の訂正発明3の容易想到性の判断は誤りである。
4訂正発明10の容易想到性の判断の誤り(取消事由4)訂正発明10は,訂正発明2を引用し,訂正発明2の構成に「前記仮想区画線(2)は,五角形ディンプル(7)を配設した球表面上の交点(P)から五本が延び,該五本の仮想区画線(2)による交点(P)の周りの分割角度は均一である」との限定を加えたものであるところ,審決は,引用発明1のゴルフボールの測地学の正20面体の境界線が球表面上の交点から5本延びていること,上記正20面体による5本の仮想区画線による交点の周りの分割角度が均一であることは明らかであり,「球表面上の交点(P)に五角形ディンプル(7)を配設することは当業者が容易になし得る程度のことである。」等として,訂正発明10の進歩性を否定した。
しかしながら,取消事由1におけるのと同様の理由で,審決の訂正発明10の容易想到性の判断は誤りである。
5訂正発明11の容易想到性の判断の誤り(取消事由5)訂正発明11は訂正発明10を引用し,訂正発明10に「前記交点(P)から延びる五本の仮想区画線(2)は他の交点(P)から延びる仮想区画線(2)と共に前記交点(P)の周りに五つの球面正三角形エリア(3)を区画形成し,前記球面正三角形エリア(3)内の全範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプル(5)ばかりを稠密に配設した」との限定を加えたものであるところ,審決は,「仮想区画線は・・・五つの球面正三角形エリアを区画形成していることが明らかであ」り,「球面正三角形エリア(3)内の全範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプル(5)ばかりを稠密に配設」することは「当業者が容易になし得る程度のことである。」として,訂正発明11の進歩性を否定した。
しかしながら,取消事由1におけるのと同様の理由で,審決の訂正発明11の容易想到性の判断は誤りである。
6訂正発明14の容易想到性の判断の誤り(取消事由6)訂正発明14は訂正発明1を引用し,訂正発明1に「前記仮想区画線上に前記六角形ディンプル(6)の列を二列に配設した」との限定を加えたものであるところ,審決は,「刊行物1の・・・図7の符号5で示される領域の中央を通り図面上横に伸びる線を想定すれば,その線は球の大円となり,その大円を仮想区画線とすれば,仮想区画線上に六角形ディンプルの列が二列に配設されることとなる。したがって,上記限定した構成は,当業者が容易になし得る程度のことである。」として,訂正発明14の進歩性を否定した。
しかしながら,取消事由1におけるのと同様の理由で,審決の訂正発明14の容易想到性の判断は誤りである。
7訂正発明15の容易想到性の判断の誤り(取消事由7)訂正発明15は訂正発明1ないし14のいずれか1つを引用し,訂正発明1ないし14のいずれかに「前記六角形のディンプル(4,5)の内縁部に,前記六角形ディンプル(4,5)の最深部より浅い少なくとも一段のディンプル内段部(11,12)を隆起形成した」との限定を加えるものであるところ,審決は,「ディンプルの球表面の形状とディンプル内段部とは・・・切り離して想定できるものであるから,引用発明1の六角形表面のディンプルにおいても内縁部に,最深部より浅い少なくとも一段のディンプル内段部を形成し,該内段部はその形状が隆起しているから,隆起形成と称し,上記限定した構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。」等として,訂正発明15の進歩性を否定した。
しかしながら,取消事由1におけるのと同様の理由で,審決の訂正発明15の容易想到性の判断は誤りである。
第4被告の反論1取消事由1(訂正発明1の容易想到性判断の誤り)に対し(1) ア原告が主張する各訂正発明の「幅0.0mmのランド」による技術的意義は格別のものではなく,ランド幅の下限値を最小値である0.0mmにしたというものにすぎない。
すなわち,0.0mmから2.5mmの範囲でランド幅を順次小さくしていった場合,ランド幅が0.0mmのときに特別にゴルフボールの空気抵抗が減少することにはならないから,原告はランド幅を可能な限り小さくした場合の作用を主張するものにすぎない。
仮に,ランド幅を0.0mmにしたときに格別の作用効果が生じるというのであれば,訂正明細書で「ランドの合計面積を小さくするために好ましくは0.1mm〜1.5mmの範囲,特に,プロや上級アマチュア向けのゴルフボールのように飛距離性を高めたいときには0.2〜1.0mmの範囲から設定する。」(段落【0011】)としていることと矛盾することになる。
また,ゴルフボールのランド幅を0.0mmにすることは実際には不可能であるし,原告自身がランド幅が0.0mmに近いゴルフボールにおいても,空気の摩擦抵抗が極限的に減少することを自認している。
イ原告が主張するランド幅が0.0mmの場合にも,「現実に形成されるディンプルの辺及び角にはアールが不可避的に付くから,そのアール分の幅,面積のランドはあることになる。」(訂正明細書の段落【0011】)のであって,ランドの幅や長さを「0」と取り扱うこと自体が誤りである。
また,訂正明細書の図6(b)の切断線Dによる球表面の切断を行った場合でも,ランドの長手方向の頂部の線上を通過するだけで,ランドの幅方向をよぎるわけではないから,ランド部分で「実質0.0mm」になるものではない。訂正明細書の段落【0022】でも,上記切断線Dを除いて周期特性が説明されているのであって,上記切断線Dに関してはランドの辺に沿うもので「幅」ではないから,狭くすることができないことが前提とされている。
したがって,ランド幅が0のときに,球表面の断面におけるディンプルとランドが交互に現れる周期特性が急激に改善されるなどということはできないのであって,原告の周期特性に係る主張は根拠がない。
ウ刊行物3には,ゴルフボールのランド部の面積をできる限り小さくし,ディンプルを密に配置し,空力特性を高めて飛距離を伸ばすことが記載されており,各訂正発明と技術思想を異にするものではない。
また,審決は,刊行物3の実施例1,2に記載された事項を引用発明1に適用することが容易であるとしているものではなく,刊行物3のランド部の面積を小さくすると空力特性が高くなり,ボールの飛距離を伸ばすことができるという事項のみを引用発明1に組み合わせることにより,ランド幅をできる限り小さくし,下限の0.0mmとすることが容易であると判断しているものにすぎない。
したがって,刊行物3の実施例1,2のゴルフボールのディンプルの占有率の具体的な数値は組合せとは関係しないのであって,引用発明1のゴルフボールのディンプルの占有率の上限が90%であり,刊行物3の実施例1,2のゴルフボールのディンプルの占有率を上回っているとしても,引用発明1に刊行物3に記載された発明,すなわち引用発明3を組み合わせる動機付けがないことになるものではない。
エランド幅を小さくする技術的要請があれば,ランド幅を可能な限り小さくする発想,すなわちランド幅を実質的に0にする発想は当然に生じ得るのであって,刊行物3の「ランド幅を小さくする」という要請を引用発明1のランド幅に適用することには阻害要因はなく,上記適用につき動機付けに欠けるところはない。
オ刊行物1にはディンプルの球表面積に対する占有率の上限が90%という,極めてランドの占有率が小さいゴルフボールが記載されている一方,刊行物1にはディンプルの占有率が大きすぎると低弾道になって飛距離が劣ることになるという問題点があることをうかがわせる記載は存せず,刊行物1の発明者においてディンプルの占有率が90%を超えることが困難であると認識していたと推認することはできない。
また,訂正明細書にも,ディンプルの占有率が大きすぎると低弾道になって飛距離が劣るとか,ランドの幅を小さくするとゴルフボールカバー層のランド相当部分の剛性が低下することになるという問題を解決するための手段は記載されていない一方,ランド(陸部)相当部分の剛性の低下は打撃の衝撃を緩和する効果があるという趣旨で述べられているものにすぎない。
したがって,刊行物3に現れている「ランド幅を小さくする」という要請を引用発明1のランド幅に適用することには阻害要因はない。
カ各訂正発明に係る出願の公開後に甲第17号証等の発明の特許出願がされたとしても,ランド幅を実質0とした後行の発明の出願はみられない。
したがって,原告が主張する後行の特許出願がされた事実によっても,ランドの幅を0とすることに格別の技術的意義があることを示すことにはならない。
(2) ア訂正発明1の「球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド」を,原告主張のように「球表面付近のディンプル間の断面が陸表面の半径より小さい半径のアールで球表面に接している状態」のものと解することはできない。したがって,これを前提として,引用発明5との組合せの当否を論難するのは失当である。
イ刊行物5の図6が,隣り合うディンプル間の断面形状が正弦波状となるゴルフボールを開示しているものであることは明らかであって,上記書証中の記載を引用発明1に適用できないことになるものではなく,等しくゴルフボールのディンプル間の断面形状の構成である以上,適用の動機付けに欠けるところはない。
2取消事由2ないし7(訂正発明2,3,10,11,14,15の容易想到性の判断の誤り)に対し前記1と同様に,審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(訂正発明1の容易想到性の判断の誤り)について(1) 審決は,訂正発明1の容易想到性に関し,訂正明細書の段落【0011】,【0013】及び【0014】の記載に基づいて,訂正発明1にいう「『辺を共有することでディンプル間に残る球表面の陸部分の幅が0.0mmのランド』とは,空気との摩擦,抵抗を生じさせるランドの合計面積をできるだけ小さくするため,ランドの幅をできるだけ細くし,好ましい範囲(0.1〜1.5mm)には含まれないものの適宜設定できる範囲(0.0〜2.5mm位)の中から下限値(0.0mm,ただし,ランドの幅は現実には0にならない。)を選択し,隣合う六角形ディンプル同士が辺を共有するように配設した場合を指すと解することができる。」と説示し,次のとおり判断する。
・相違点1に係る判断「刊行物3には,ランド部の面積を小さくすると空力特性が高くなることが記載されており,刊行物1と刊行物3は,ゴルフボールという同一の技術分野において,ディンプルを配設して,ボールの飛距離を伸ばすという課題を共通にするものであるから,引用発明1に刊行物3に記載の事項を組み合わせ,引用発明1のランドの幅をランドの面積ができるだけ小さくなるようできるだけ細くし,下限値である0.0mmとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
そして,ランドの幅を下限値である0.0mmとするランドを配設する際,ランドの面積が小さくなるよう,仮想区画線(2)上の50%以上の範囲に,該ランドを配設することは,当業者が容易になし得る程度のことである。」・相違点2に係る判断「上記相違点1で既に検討したのと同様に,半球面エリア内の六角形ディンプル間についても引用発明1に刊行物3に記載の事項を組み合わせ,引用発明1のランドの幅をランドの面積ができるだけ小さくなるようできるだけ細くし,下限値である0.0mmとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。
そして,ランドの幅を下限値である0.0mmとするランドを配設する際,ランドの面積が小さくなるよう,2つの半球面エリア内の50%以上の範囲に,該ランドを配設し,更に六角形ディンプルを調密に配設することは,当業者が容易になし得る程度のことである。」・相違点3に係る判断「上記相違点1で既に検討したのと同様に,仮想区画線上の六角形ディンプル(4)と各半球面エリア内の六角形ディンプル(5)についても引用発明1に刊行物3に記載の事項を組み合わせ,引用発明1のランドの幅をランドの面積ができるだけ小さくなるようできるだけ細くし,下限値である0.0mmとすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。」・相違点4に係る判断「ランドの幅を下限値である0.0mmとするランドを配設する際,ランドの面積が小さくなるよう,幅が0.0mmのランド(6)を含むランドの合計面積をゴルフボールの仮想球表面積の20%以下にすることは,当業者が容易になし得る程度のことである。」・「以上のように,引用発明1において本件発明1の相違点1〜4に係る構成を備えることは,当業者が容易に想到できたことであり,かかる発明特定事項を採用したことによる本件発明1の効果も当業者が予測できる範囲のものである。」(2) ここで,刊行物1の第1欄11行ないし24行,第2欄31ないし38行,第3欄12ないし32行,第3欄53ないし66行,第3欄67行ないし第4欄6行,第4欄13行ないし40行,第5欄34行ないし41行の記載及び図1ないし7には,前記のとおり,「ボール表面に均等な間隔を置いて812個の六角形表面のディンプルを規則的な測地学の9周期20面体パターンで配置したゴルフボール」(引用発明1)が記載されているものであるところ,訂正発明1と引用発明1の一致点及び相違点は前記のとおりである。
そして,刊行物3の段落【0004】には,「即ち,ディンプルの間のランド部の面積を小さくして,言い替えれば,ディンプルを密に配置して,空力特性を高めている。・・・」との記載があり,ランドの面積を小さくし,ディンプルを密に配置することによって空力特性を高める発明(引用発明3)が開示されているが,刊行物3の段落【0002】には「該ディンプルの役割はゴルフボールの飛行時において,空気の流れを乱すことにより,その空力特性を向上させ,飛距離を伸ばすことにある。」との記載があるから,上記にいう「空力特性」が専らゴルフボールの飛距離の大小に関わる特性であることは明らかである。
(3) 刊行物1の第1欄11ないし24行の記載及び上記 (2) の刊行物3の記載にかんがみれば,引用発明1と引用発明3とが,ゴルフボールという同一の技術分野において,ボールの飛距離を伸ばすという技術的課題を共通にすることは明らかである。そうすると,引用発明1に引用発明3を組み合わせる動機付けに欠けるものではなく,両発明を組み合わせて,「引用発明1のランドの幅をランドの面積ができるだけ小さくなるようできるだけ細くし,下限値である0.0mmとすることは,(訂正発明1の出願日当時において)当業者が容易になし得る程度のことである」ということができる。そして,上記のとおりランドの幅をできるだけ小さくして,その結果ディンプルをできるだけ密に配設(配置)することは,ボールを仮想区画線(2)で半球ずつに区分した場合における仮想区画線(2)上のランドの配設(相違点1),上記区分による半球面エリア内のランド及び六角形ディンプルの配設(相違点2),上記仮想区画線(2)上の六角形ディンプル(4)の上記半球面エリア内の六角形ディンプルとの間の位置関係(配設,相違点3)において何ら異なるものではない。
また,上記の両発明の組合せの趣旨にかんがみれば,相違点4についても,引用発明1に引用発明3を組み合わせて,「ランドの幅を下限値である0.0mmとするランドを配設する際,ランドの面積が小さくなるよう,幅が0.0mmのランド(6)を含むランドの合計面積をゴルフボールの仮想球表面積の20%以下とすることは,(訂正発明1の出願日当時において)当業者が容易になし得る程度のことである」ということができる。
したがって,上記をいう審決の判断に誤りはない。
(4) アこの点,原告は,審決の判断は,訂正発明1の技術的意義のうち周期特性の急激な改善の点を看過するものであるなどと主張する。
しかしながら,ゴルフボールの製造の都合上,ランドの幅は現実には0にならないのであって,ランドの幅を極めて小さくしたときであっても,下記図の切断線Dについてみれば,ランドの幅は他の切断線AないしC及びEにおけるように僅かなものになるものではない。したがって,現実のゴルフボールでは原告が主張する周期特性の急激な改善効果が発生する蓋然性はほぼ皆無であるといわざるを得ない。
また,原告が主張する周期特性の急激な改善効果が現れるのは隣り合う六角形ディンプル同士が辺を共有する場合に限られるところ,請求項1の記載に照らしても,このような場合が生じるのはボールの半球面エリア内及び仮想区画線(2)上の各50%以上の範囲にすぎない。そうすると,球表面の相当部分の範囲で隣り合う六角形ディンプル同士が辺を共有せず,したがって上記の周期特性の急激な改善効果が生じない部分が残存し得ることになるから,本件発明1によっても果たして上記の周期特性の急激な改善効果が生じるのか極めて疑問である。
そして,仮に原告が主張するような周期特性改善効果が生じるとしても,ランドの幅を下限値まで細くしたことに伴う必然的な結果であり,立体の幾何学的な構造上当然の事柄にすぎないのであって,当業者においてその作用効果ないし技術的意義を予測し得る範囲内のものである。
したがって,仮に原告が主張する周期特性改善効果を考慮したとしても,前記(3)の結論が左右されるものではなく,原告の上記主張は失当というべきである。
そうすると,ゴルフボールの球表面に占めるランドの総面積を小さくすることとランドの幅を実質的に0にすることとは質的に大きく異なるなどということはできない。
イまた,原告は,引用発明3にいうランドの面積を小さくすることは,ランドの面積を小さくすることを指し,ランドの幅を実質的に0にするというものではないなどと主張する。
しかしながら,引用発明1においても,引用発明3においても,ランドとディンプルがゴルフボールの表面に可及的に均一に配設(配置)されることが前提になっていることが明らかであるところ,ランドの面積をできる限り小さくすれば,必然的にランドの幅ができる限り小さくなり,ひいては実質的に0に近付くことは明らかである。現実には,引用発明1においても,ランドの面積は有限の小さい面積になり,ランドの幅は有限の細い幅になるのであって,ランドの幅を0.0mmに設定することは,ランドの合計面積を小さくすることの延長線上にあるもので,ランドの面積を可能な限り小さくすることとランドの幅を0.0mmにすることとの間に飛躍があるとはいえない。
なお,引用発明3において周期特性の改善という見地からランドの幅を0にするという発想がされていなかったとしても,前記アのとおりの周期特性改善効果の意義にかんがみれば,引用発明1に引用発明3を組み合わせる障害となるものではない。
また,原告は,引用発明1のゴルフボールのディンプル占有率の上限は引用発明3のゴルフボールのディンプル占有率を大きく超えているから,引用発明1に引用発明3を組み合わせようとする動機付けがないと主張する。
しかしながら,刊行物3に記載された発明すなわち引用発明3として引用されるものは,前記のとおり,ランド部の面積を小さくしてディンプルを密に配設することにすぎず,刊行物3のゴルフボールのディンプルの占有率やこれをもたらすディンプルの詳細な配置ではないから,引用発明1に引用発明3を組み合わせられないものではなく,技術分野及び課題の共通性にかんがみれば,組合せの動機付けに欠けるところはないというべきである。
ウまた,原告は,審決は,ランドの幅を0.0mmにするという構成に想到する上で,ゴルフボールカバー層のランド相当部分剛性の低下,低弾道による飛距離が劣ることになるという阻害要因を看過したなどと主張する。
原告はこの阻害要因を裏付けるものとして甲第35,36号証を援用するが,いずれも訂正発明1の出願日(平成6年4月20日)よりも後に公にされたものにすぎず,これらのほかに,訂正発明1の出願日当時において,ディンプルの占有率を大きくしすぎるとゴルフボールの飛行が低弾道になってかえって飛距離が伸びないことが当業者の技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。
むしろ,訂正発明1の出願日当時においては,ランドの幅とディンプル占有率の最適値に係る特定の見解が確立されておらず,当業者がボール(ランド)の剛性の低下に配慮しつつ,各自の見解に基づいて,ボールの飛距離を伸ばす観点から最適な値の範囲を模索,設定していたものであって(甲29ないし37),原告が主張するランド相当部分剛性の低下は必ずしも組合せの阻害事由となるものではないというべきである。
そして,これらのほかに,引用発明1に引用発明3を組み合わせる上で阻害事由となる事柄を見出すことはできないから,原告の上記主張は理由がないというべきである。
(5) そして,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,当業者において予測し得ない特段の作用効果が生じるものではない。
(6) 結局,訂正発明1の容易想到性に係る審決の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由1は理由がない。
2取消事由2(訂正発明2の容易想到性の判断の誤り)について前記1と同様に,訂正発明2の出願日当時,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,相違点1’ないし4’に係る構成に想到することは,当業者において容易になし得ることであるから,この旨をいう審決の容易想到性の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由2は理由がない。
3取消事由3(訂正発明3の容易想到性の判断の誤り)について訂正発明3は,訂正発明2を引用し,訂正発明2の構成に「前記複数のエリアは三角形又は六角形のエリアであり,前記三角形又は六角形のエリア内の全範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプル(5)ばかりを稠密に配設した」との限定を加えたものであるところ,前記引用発明1の要旨のとおり,引用発明1のゴルフボールにおいては,球表面を20個の球面三角形(三角形のエリア)で区画(分割)されており,上記球面三角形の各内部では,隣り合う六角形ディンプル同士がボール表面の陸部分である略一定幅のランドを置いて稠密に配設されているものである。
そうすると,上記の限定がされている点も含めて,前記1と同様に,訂正発明3の出願日当時,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,訂正発明3の構成に想到することは,当業者において容易になし得ることであるから,この旨をいう審決の容易想到性の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由3は理由がない。
4取消事由4(訂正発明10の容易想到性の判断の誤り)について訂正発明10は,請求項2を引用し,訂正発明2の構成に「前記仮想区画線(2)は,五角形ディンプル(7)を配設した球表面上の交点(P)から五本が延び,該五本の仮想区画線(2)による交点(P)の周りの分割角度は均一である」との限定を加えたものであるところ,引用発明1のゴルフボールにおいては,球表面を分割する20個の球面三角形の頂点に当たる箇所(P)に五角形のディンプルが配設され,この五角形のディンプルの中心(P)から球表面に沿って5本ずつの仮想区画線が延び,1つの五角形ディンプルから延びる5本の仮想区画線が交点(P)の周りでなす5つの角(ただし,球表面に沿ったもの。以下同じ。)の角度が均一(等しい)である(刊行物1の図6,7)。
そうすると,上記の限定がされている点も含めて,前記1と同様に,訂正発明10の出願日当時,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,訂正発明10の構成に想到することは,当業者において容易になし得ることであるから,この旨をいう審決の容易想到性の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由4は理由がない。
5取消事由5(訂正発明11の容易想到性の判断の誤り)について訂正発明11は請求項10を引用し,訂正発明10に「前記交点(P)から延びる五本の仮想区画線(2)は他の交点(P)から延びる仮想区画線(2)と共に前記交点(P)の周りに五つの球面正三角形エリア(3)を区画形成し,前記球面正三角形エリア(3)内の全範囲に,隣合う六角形ディンプル(5)の辺同志が略一定幅のランド(6)をおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプル(5)ばかりを稠密に配設した」との限定を加えたものであるところ,引用発明1のゴルフボールにおいては,球表面を区画する20個の球面三角形の頂点に当たる箇所(P)に配設された五角形ディンプルの中心(P)から,球表面に沿って延びる仮想区画線(2)によって,上記仮想区画線の交点(P)の周りに5つの球面正三角形が形成されていることは明らかである(刊行物1の図6,7)。また,前記引用発明1の要旨のとおり,引用発明1のゴルフボールの各球面三角形の内部では,隣り合う六角形ディンプル同士がボール表面の陸部分である略一定幅のランドを置いて稠密に配設されているものである。
そうすると,上記の限定がされている点も含めて,前記1と同様に,訂正発明11の出願日当時,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,訂正発明11の構成に想到することは,当業者において容易になし得ることであるから,この旨をいう審決の容易想到性の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由5は理由がない。
6訂正発明14の容易想到性の判断の誤り(取消事由6)訂正発明14は請求項1を引用し,訂正発明1に「前記仮想区画線上に前記六角形ディンプル(6)の列を二列に配設した」との限定を加えたものであるところ,引用発明1のゴルフボールの球表面を1つの大円から成る仮想区画線で2つに区画した場合,例えば審決が説示するように刊行物1の図7の5番の領域の中央を左右に通る仮想区画線で区画した場合には,仮想区画線上に六角形ディンプルが2列にわたって配設されることになることは明らかである。
そうすると,上記の限定がされている点も含めて,前記1と同様に,訂正発明14の出願日当時,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,訂正発明14の構成に想到することは,当業者において容易になし得ることであるから,この旨をいう審決の容易想到性の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由6は理由がない。
7取消事由7(訂正発明15の容易想到性の判断の誤り)について訂正発明15は請求項1ないし14のいずれかを引用し,訂正発明1ないし14のいずれかに「前記六角形のディンプル(4,5)の内縁部に,前記六角形ディンプル(4,5)の最深部より浅い少なくとも一段のディンプル内段部(11,12)を隆起形成した」との限定を加えるものであるところ,刊行物4の2頁(36頁)8,9,13ないし17行によれば,多角形のディンプル又は円形のディンプル(第一凹入部)の内縁部に,上記ディンプルの最深部よりも浅く少なくとも一段のディンプル内段部(第二凹入部)を隆起形成する発明(引用発明4)が開示されている。
そうすると,上記の限定がされている点も含めて,前記1と同様に,訂正発明15の出願日当時,引用発明1に引用発明3及び4を組み合わせることにより,訂正発明15の構成に想到することは,当業者において容易になし得ることであるから,この旨をいう審決の容易想到性の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由7は理由がない。
第6結論以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 真辺朋子
裁判官 田邉実