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関連審決 不服2007-31809
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成21行ケ10344審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  具体的態様 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10033号 審決取消請求事件

原告 コリアインスティテュート オブサイエンスアンド テクノロジー
訴訟代理人弁理士 津国肇
同 齋藤房幸
同 伊藤佐 保子
同 安藤雅俊
被告特 許庁長官
指定代理人植前充司
同 吉水純子
同 唐木以 知良
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
2
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2007-31809号事件について平成21年9月7日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯 原告は,平成12年5月19日,発明の名称を「超極細繊維状の多孔性高分子セパレータフィルムを含むリチウム二次電池及びその製造方法」とする発明について,特許出願(特願2001-585344。同日を国際出願日とする国際出願。以下「本願」という。)をし,平成19年1月30日付けで拒絶理由通知を受け,同年7月6日付けで手続補正書(甲7)を提出したが,同年8月16日付けで拒絶査定を受け,同年11月26日,これに対する不服の審判(不服2007-31809号事件)を請求した。
特許庁は,平成21年9月7日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月29日に原告代理人に送達された。
2特許請求の範囲 平成19年7月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲(請求項1)の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。また,同補正後の明細書を「本願明細書」という。)。(甲5,7) 「【請求項1】正極活物質,負極活物質,多孔性高分子セパレータフィルム及びリチウム塩が溶解した有機電解液を含むリチウム二次電池であって, 前記多孔性高分子セパレータフィルムが,電荷誘導紡糸法によって製造された,1〜3000nmの直径を有する超極細繊維状の高分子で構成されているものであり, 前記多孔性高分子セパレータフィルムを形成する高分子が,セルロース,3セルロースアセテート,セルロースアセテートブチレート,セルロースアセテートプロピオネート,ポリビニルピロリドンビニルアセテート,ポリ〔ビス(2-(2-メトキシエトキシエトキシ))ホスファゲン〕,ポリエチレンイミド,ポリエチレンオキシド,ポリエチレンスクシネート,ポリエチレンスルフィド,ポリ(オキシメチレンオリゴオキシエチレン),ポリプロピレンオキシド,ポリビニルアセテート,ポリアクリロニトリル,ポリ(アクリロニトリルコメチルアクリレート),ポリメチルメタクリレート,ポリ(メチルメタクリレートコエチルアクリレート),ポリビニルクロリド,ポリ(ビニリデンクロリドコアクリロニトリル),ポリビニリデンフルオリド,ポリ(ビニリデンフルオリドコヘキサフルオロプロピレン)及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とするリチウム二次電池。」3審決の理由 (1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平8-250100号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び特開平3-220305号公報(甲2。
以下「刊行物2」という。)に記載された周知技術(以下「刊行物2技術」という。)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないと判断した。
(2)上記判断に際し,審決が認定した刊行物1発明の内容並びに本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア刊行物1発明の内容(審決書5頁12〜17行) 正極活物質,負極活物質,ポリマーからなる不織布セパレータ及びリチウム塩が溶解した有機溶媒を含む非水電解質二次電池であって, 前記不織布セパレータが,20〜5000nmの径を有する超極細繊維のポリマーで構成されているものであり,4 前記不織布セパレータを形成するポリマーがポリアクリロニトリルからなる非水電解質二次電池。
イ一致点(審決書5頁29〜34行) 正極活物質,負極活物質,多孔性高分子セパレータフィルム及びリチウム塩が溶解した有機電解液を含むリチウム二次電池であって, 前記多孔性高分子セパレータフィルムが,超極細繊維状の高分子で構成されているものであり, 前記多孔性高分子セパレータフィルムを形成する高分子が,ポリアクリロニトリルであることを特徴とするリチウム二次電池。
ウ相違点(審決書6頁2〜7行) 本願発明では,多孔性高分子セパレータフィルムが,「電磁誘導紡糸法(判決注電荷誘導紡糸法の誤記と認められる。)によって製造された,1〜3000nmの直径を有する超極細繊維状の高分子で構成されている」のに対し,刊行物1発明では,多孔性高分子セパレータフィルムを構成する超極細繊維状のポリマーの直径が「20〜5000nm」であるものの,その製造方法の特定はなされていない点。
第3当事者の主張1審決の取消事由に係る原告の主張審決は,(1) 刊行物1発明の認定の誤りに基づく容易想到性判断の誤り(取消事由1),(2) 刊行物2技術が周知であるとした認定の誤り(取消事由2),(3) 容易想到性の判断の誤り(取消事由3)がある。
審決のした,一致点,相違点の認定に誤りがないことは認める。
(1)刊行物1発明の認定の誤りに基づく容易想到性判断の誤り(取消事由1) 審決は,「刊行物1発明において,布(不織布セパレータ)の製造方法は限定されるものではないのであるから,刊行物1発明において不織布セパレータを作製するにあたり,本願出願時において周知であった静電紡糸法(エ5レクトロスピニング法,つまり,電荷誘導紡糸法)を適用することは,当業者にとって何ら困難なことではない。」と判断する。
しかし,審決の上記判断は,刊行物1発明の認定の誤りに基づくものであり,誤りである。
審決は,刊行物1発明のセパレータは厚さ100μm以下の布であり,このような布を作るためには極細繊維を用いることが好ましいこと,0.01μm程度の超極細繊維が開発されこれを用いると好ましいこと,これらの超極細繊維の製造法は公知であり,産業用繊維材料ハンドブック(繊維学会編,日刊工業新聞社刊,1994年)(甲12)などに記載されていると判断した。しかし,当業者の技術常識を示すものである甲12は,超極細繊維の製法に関し,本願発明のようにフィルム状に直接製造できる「電荷誘導紡糸法」とは異なる方法である分割法(一度太デニールの繊維を製造してから分割する工程を含む繊維の製造方法)についての記載はあるが,「電荷誘導紡糸法」(静電紡糸法)によって製造された超極細繊維状の高分子で構成されるセパレータについての記載はない。また,甲12は,紡糸と同時にフィルム状に形成できる紡糸直結型不織布の製造方法として,メルトブロープロセスを挙げ,電池セパレータをこの製法の用途例として紹介するが,メルトブロープロセスで製造する不織布には他の不織布よりも強度が劣るという問題があることを示唆する。さらに,甲12の索引には,「電荷誘導紡糸」,「静電紡糸」,「エレクトロスピニング」などの用語は掲載されていない。
そうすると,甲12には,本願発明の特徴である「電荷誘導紡糸法」が繊維材料の製造方法として記載されているとはいえず,「電荷誘導紡糸法」が技術常識であったとは認められない。
そうすると,審決は,刊行物1発明の内容について,「布(不織布セパレータ)」の限定されない製造方法として,周知の「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」が含まれると解釈した上で認定したことになり,これを前提として,6刊行物1発明に静電紡糸法を適用することに困難はないとした判断にも,誤りがあるといえる。
(2)刊行物2技術が周知であるとした認定の誤り(取消事由2) 審決は,刊行物2,特開昭51-60773号公報(甲3)の記載から,「蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法(エレクトロスピニング法,つまり,電荷誘導紡糸法と同じ意)で作製した繊維を用いる手法は,本願出願前において周知である。」と認定,判断する。
しかし,審決の認定,判断は,以下のとおり,誤りである。
刊行物2に記載される静電紡糸法を用いて製造された繊維は非水系電池の例ではない。また,繊維の直径及び水系二次電池用のセパレータの孔径,厚みに対する一般的な要求からしても,刊行物2に記載される繊維から,非水系二次電池であるリチウムイオン電池に用いられるセパレータを想定することはできない。
また,本願出願日以前に公開された文献において,静電紡糸法で製造される繊維状フィルムを二次電池(蓄電池)のセパレータに適用する可能性について記載するものは,刊行物2,甲3,及び,SU646924(甲13)であるが,甲13はソビエト連邦にのみ特許出願され,発明者は甲3記載の発明者と同一であること,刊行物2と甲3の記載は酷似し,それらの発明の出願人は同一の企業グループに属することから,実質的には甲3のみである。
そして,甲3は,実施例として多孔性シート状製品の「電解電池用隔膜」としての用途に関する記載はあるが,「蓄電池用セパレータ」の用途の具体的態様の記載はない。そうすると,本願出願時において,「蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法で作製した繊維を用いる手法」は,周知技術であったとはいえない。
したがって,刊行物2技術について,「蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法で作製した繊維を用いる手法」である7とし,この技術が本願出願前において周知であるとした審決の認定及びこれに基づく容易想到性の判断には誤りがある。
(3)容易想到性判断の誤り(取消事由3) ア以下のとおり,刊行物1発明には,不織布の製造方法として「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」を採用する示唆等はない。
すなわち,刊行物1には,本願発明で規定する繊維径の最大値に該当する3μmのポリエチレン合糸を用いサーマルボンド法(低融点の繊維どうしを熱で溶着させることによる不織布の製造方法)で作った不織布に関する記載はあるが(段落【0046】),原料である低融点の繊維の製造(紡糸)工程の記載はない。また,刊行物1が公知の文献として引用する産業用繊維材料ハンドブック(甲12)には,静電防止法の記載はなく,「電池セパレータ」に適用することができる不織布の製造方法として記載されるメルトブロー法では,製造された不織布に問題があることが示唆されており,刊行物1にも,甲12にもメルトブロー法の問題点を解決する方法についての記載及び示唆はない。そうすると,刊行物1でいう超極細繊維の公知の製造方法として,本願発明の電荷誘導紡糸法によるセパレータの製造方法を想定することはできない。
以上のとおり,刊行物1発明に,本願発明の特徴部分である「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」を不織布用の超極細繊維の製造方法として採用することの示唆はない。
イ上記(2) のとおり,刊行物2及び甲3の記載から,蓄電池用セパレータの作製原料として,静電紡糸法により得られる繊維状物質を用いる手法が周知とはいえない。
すなわち,静電紡糸法により作製した繊維状物質を「蓄電池用セパレータ」に使用する可能性に言及する文献は,刊行物2及び甲3の2つのみである。甲3が開示されてから,刊行物2が開示されるまで,10年以上に8もわたって静電紡糸法により作製した繊維状物質を「蓄電池用セパレータ」に使用することを記載する文献が存在しなかったことは,蓄電池用セパレータの技術分野において「静電紡糸法で製造される繊維状物質を二次電池(蓄電池)のセパレータに使用する可能性」の技術的思想が当業者に広がっていなかったことを裏付けるものである。
したがって,静電紡糸法により作製した繊維を「蓄電池用セパレータ」に用いる手法が,当業者に周知であったとはいえない。
なお,被告は,本件訴訟において,新たに乙1及び乙2を提出し,静電紡糸法により,超極細繊維のポリマーで構成される布状物(マット・ウェブ・不織布状物)が得られることは,特開平3-161502号公報(乙1),特開昭59-204957号公報(乙2)からも,本願優先権主張日前において周知の事項であると主張する。刊行物2及び甲3からは,静電紡糸法により製造された繊維を「蓄電池セパレータ」に用いる手法が周知とはいえないから,乙1及び乙2は周知技術を補強したことになり得ず,被告の上記主張は,乙1及び乙2に基づく新たな理由の追加に該当し,認められるべきでない。
ウ以下のとおり,刊行物1発明と,刊行物2技術及び甲3の記載に基づいて,本願発明を容易に想到することはできない。すなわち,(ア) 刊行物1には,セパレータとして用いられる布の製造において超極細繊維が好ましいことの記載はあるが,「超極細繊維」及び「不織布」の製造方法についての記載は乏しく,繊維をフィルム状に直接製造することができる本願発明の電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)を解決すべき課題として認識・把握することはできない。
刊行物1において「不織布の製造方法は限定されるものではない」と記載されていても,同記載が「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」を示唆するものとはいえない。
9(イ)刊行物2及び甲3には,静電紡糸法により得られる多孔質シート状製品の用途として,「蓄電池用セパレータ」と記載されているが,具体的に実施可能なように示されていない。また,刊行物2及び甲3が対象とする「蓄電池用セパレータ(水系二次電池用のセパレータ)」は,「非水系リチウム二次電池用のセパレータ」とは,要求される特性(セパレータの厚さ,孔径など)が異なるから,水系二次電池用のセパレータに関する知見を非水系二次電池(リチウムイオン電池)用のセパレータに適用することはできない。
したがって,刊行物2及び甲3記載の技術と,非水系リチウム二次電池が記載された刊行物1発明とを組み合わせることは困難であるし,組み合わせたとしても,本願発明の構成に容易に想到するとはいえない。
(ウ)本願発明は,製造工程を簡略化することのみを課題とするのではなく,良好な電極との接合性,機械的強度,低温及び高温特性,リチウム二次電池用の有機電解液との融和性などの電池性能の向上を達成することをも課題とするものであるが,これらの課題は,刊行物1,刊行物2及び甲3のいずれにも記載がない。
したがって,当業者にとって,製造工程と電池性能の向上を同時達成するという課題を解決するために,刊行物1と,刊行物2及び甲3の記載を結びつけて,本願発明の構成に想到することは容易ではない。
エ本願発明には,刊行物1発明と比較して「低温特性」及び「サイクル特性」の向上との点において顕著な効果がある。
(ア)「低温特性」について 本願明細書に,「50μmの厚さを有する多孔性高分子セパレータフィルム」を用いた実施例5のリチウム二次電池の低温及び高温特性がテストされており,容量に対する放電電圧の関係は,25℃における2.7Vでの容量を100%とした場合に,本願発明のリチウム二次電池は,10特に,-10℃でも91%程度の優れた特性を有することが示されている(甲5の段落【0052】,図4a)。
他方,刊行物1の実施例4では,厚さ35μmの不織布セパレータS-2を使用した電池D-2,厚さ60μmの不織布セパレータS-10を用いた電池D-10,厚さ90μmのセパレータS-11を用いた電池D-11について,25℃に対する0℃の放電容量が,それぞれ63%(D-2),42%(D-10),25%(D-11)であることが記載されている(甲1の段落【0050】)。
これらによれば,刊行物1においてセパレータの厚みが小さくなれば放電容量が大きくなるが,本願明細書の実施例5に記載されたセパレータの厚さ(50μm)よりも薄い厚さ35μmの不織布セパレータS-2を用いた電池でも,放電容量は63%であり,本願発明の電荷誘導紡糸法により製造された多孔性高分子セパレータフィルムを用いたリチウム二次電池は,刊行物1の不織布をセパレータとして用いた非水二次電池に対して,顕著な低温特性の向上効果を奏することが示される。
(イ)「サイクル特性」について本願明細書の実施例9において,実施例1〜8のリチウム二次電池を使用して充放電特性を測定されており,サイクル数と電気容量の関係は,1サイクルにおける放電容量が約120〜125(mAhg)であり,100サイクルにおける放電容量が約120〜130(mAhg)であることから,100サイクル目の電気容量と1サイクル目の電気容量の比は,約96%(120÷125)〜約108%(130÷120)であることが示されている(甲5の段落【0051】,図3)。
他方,刊行物1には,直径3μmのポリエチレン合糸を用いた厚さ35μmの不織布をセパレータS-2として用いた電池D-2について,100サイクル目の電気容量と第1回目の電気容量の比が89%である11ことが示されている(甲1の段落【0048】)。
これらによれば,刊行物1に記載された不織布セパレータを用いたリチウム二次電池の効果と比較して,本願発明のリチウム二次電池はサイクル特性が顕著に優れていることが示される。
2被告の反論 (1)取消事由1(刊行物1発明の認定の誤りに基づく容易想到性判断の誤り)に対し 原告は,審決には,甲12の記載からは「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」が超極細繊維の周知の製造法とはいえないにもかかわらず,刊行物1に記載された「布(不織布セパレータ)」の限定されない製造方法として,周知の「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」が含まれると認定したものであるから,刊行物1発明の認定には誤りがあり,したがって,静電紡糸法を適用することに困難はないとした判断にも誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
審決は,刊行物1発明について,「多孔性高分子セパレータフィルムを構成する超極細繊維のポリマーの直径が「20〜5000nm」であるものの,その製造方法の特定はなされていない」と認定しているが,超極細繊維状の高分子を「電荷誘導紡糸法により製造する」ものとの認定はしていない。
原告の主張は,刊行物1発明の内容に係る審決の認定を正確に理解しないことに基づく主張であって,その主張自体失当である。容易想到性判断の誤りに関する原告の主張に対する主張は,取消事由3に対する反論欄記載のとおりである。
(2)取消事由2(刊行物2技術が周知であるとした認定の誤り)に対し原告は,刊行物2技術が周知であるとした審決の認定には誤りがあると主張するが,同主張は,以下のとおり失当である。
ア原告は,刊行物2の記載から,リチウムイオン電池に用いられる非水系12二次電池用セパレータを想定することはできないから,審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,審決の認定判断を正確に理解しないことに基づく主張であって,その主張自体失当である。
すなわち,審決は,相違点についての検討において,「刊行物2の摘示(2a)〜(2c),特開昭51-60773号公報(特許請求の範囲,公報第1頁右下欄第2〜4行を参照)に記載されているように,蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法(エレクトロスピニング法,つまり,電荷誘導紡糸法と同じ意)で作製した繊維を用いる手法は,本願出願前において周知である。」とした上で,刊行物2,甲3の記載から,「蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法(エレクトロスピニング法,つまり,電荷誘導紡糸法と同じ意)で作製した繊維を用いる」ことが導かれることを認定,判断したが,「刊行物2に記載された繊維からリチウムイオン電池として用いられるセパレータを想定し得る」ことは,認定,判断していない。
したがって,この点の原告の主張は,主張自体失当である。
イまた,原告は,本願出願日以前に公開された文献において静電紡糸法で製造する繊維状フィルムを,二次電池(蓄電池)のセパレータに適用する可能性について記載するものが少数であり,同技術は周知ではないと主張する。
しかし,刊行物2,甲3は,いずれも公知である。2つの文献は,10年以上も時期を違えて公開されているから,10年以上にわたり,当業者に対して,静電紡糸法で製造される繊維状フィルムを二次電池(蓄電池)のセパレータに適用する可能性を示唆しているといえる。本願出願前,10年以上も時期を違えて,静電紡糸法で製造される繊維状フィルムを二次電池のセパレータに適用することの可能性を示唆する2つの文献があるか13ら,蓄電池用セパレータの作製原料として静電紡糸法で作製した繊維を用いる手法は,本願出願前において周知であるとした審決の認定に誤りはない。
(3)取消事由3(容易想到性判断の誤り)に対し ア原告は,刊行物1発明には,不織布の製造方法として「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」を採用する示唆等はないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,刊行物1発明は,非水電解質二次電池(リチウムイオン電池,非水系二次電池)の不織布セパレータが,「20〜5000nmの径を有する超極細繊維のポリマーで構成されている」のであって,その製造法は限定されない。他方,「静電紡糸法」により,超極細繊維のポリマーで構成される布状物(マット・ウェブ・不織布状物)が得られることは,刊行物2,甲3のほか,特開平3-161502号公報(乙1),特開昭59-204957号公報(乙2)に記載されており,本願出願前において周知の事項である。また,蓄電池用セパレータとして,静電紡糸法で作製した繊維ポリマーから構成される多孔性シート状製品(この「多孔性シート状製品」が「不織布状物」であることは,刊行物2,甲3,乙1の記載から明らかである。)を用い得ることも,本願出願前において周知である(上記(2) )。そうすると,刊行物1発明において,不織布セパレータを作製するに当たり,超極細繊維のポリマーで構成される不織布状物の作製方法として周知の静電紡糸法を採用することは,刊行物1における不織布の製造方法に関する示唆の有無にかかわらず,当業者であれば,容易に採用し得る。
したがって,原告の主張は失当である。
イまた,原告は,刊行物2及び甲3の記載から,蓄電池用セパレータの作製原料として,静電紡糸法により得られる繊維状物質を用いる手法が周知14とはいえないと主張する。
しかし,原告の同主張も,以下のとおり理由がない。
刊行物2,甲3には,静電紡糸法で製造される繊維状フィルムを二次電池のセパレータに適用する可能性が記載されており(上記(2) ),両文献は,本願出願前において,10年以上も時期を違えて公開されているものであるから,その間,当業者に対して,静電防止法で製造される繊維状フィルムを二次電池(蓄電池)のセパレータに適用する可能性は示唆されている。
また,静電紡糸法により,超極細繊維のポリマーで構成される布状物(マット・ウェブ・不織布状物)が得られることは,刊行物2,甲3に記載されるほか,乙1,2からも,本願出願前において周知の事項である。
したがって,原告の主張は失当である。
ウ原告は,刊行物1発明と刊行物2技術に基づいて,本願発明を容易に想到することはできないと主張する。
しかし,原告の主張は失当である。すなわち,(ア)本願発明は,「良好な電極との接合性,機械的強度,低温及び高温特性,リチウム二次電池用の有機電解液との融和性を有するリチウム二次電池を提供すること」を解決すべき課題とし(本願明細書の段落【0012】,【0013】),その課題の達成は,「超極細繊維状で形成された多孔性高分子セパレータフィルムを提供する」ことによりなされ(段落【0014】),「本発明の多孔性高分子セパレータフィルムの高い空隙率により,含浸された電解液の量が高く,イオン伝導度も高く,また大きな表面積により,高い空隙率にもかかわらず電解液との接触面積を増加させることができ,電解液の漏出を最小にすることができる」との効果を奏する(段落【0016】)から,本願発明は,「リチウム二次電池用の有機電解液との融和性を有するリチウム二次電池を提供す15ること」という課題に対して,セパレータを「超極細繊維状で形成された多孔性高分子セパレータフィルム」とするものといえる。
一方,刊行物1発明について,その解決課題は,「前記不織布セパレータが,20〜5000nmの径を有する超極細繊維のポリマーで構成されている」ことにより解決されることが示されている。
したがって,本願発明の主たる課題は,刊行物1発明の課題と共通し,その解決手段も共通する。そして,刊行物1発明は,超極細繊維で構成される不織布セパレータの製造方法について何ら特定していないから,刊行物1発明の超極細繊維で構成される不織布セパレータの製造方法として,刊行物2,甲3,乙1,乙2に記載され周知である電荷誘導紡糸法を採用することに阻害要因はない。
この点,原告は,本願発明の解決課題は,紡糸とフィルム化とを同時又は連続的に行うという「製造工程の簡略化」であって,「電荷誘導紡糸法」の採用により上記の課題が解決されるとするが,「製造工程の簡略化」は,物品の製造における普通の課題であり,「リチウム二次電池用の有機電解液との融和性を有するリチウム二次電池を提供すること」という課題と必ずしも関連しない。そして,電荷誘導紡糸法が超極細繊維の紡糸とフィルム化とを同時に又は連続的に行い得る紡糸方法であることは周知の事項である(甲2,3,乙1,2)から,刊行物1発明における超極細繊維のポリマーで構成される不織布セパレータの製造において,「製造工程の簡略化」という課題に照らして,周知の電荷誘導紡糸法を採用することは容易である。
(イ)原告は,「刊行物2及び甲3に記載される水系二次電池用のセパレータに関する知見を非水系二次電池(リチウムイオン電池)用のセパレータに適用することには阻害要因があると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
16電池に用いるセパレータを超極細繊維のポリマーで構成することを検討している当業者にとって,刊行物2及び甲3の記載により,静電紡糸法の「蓄電池用セパレータ」への適用可能性が示唆されるから,静電紡糸法を採用することは,超極細繊維のポリマーで構成されるセパレータを得るための契機となる。
仮に,刊行物2記載の「蓄電池用セパレータ」は「水系二次電池」用のセパレータであると理解したとしても,刊行物2記載の電荷誘導紡糸法により作製される多孔性シート状製品を非水系二次電池用のセパレータに適用することに,阻害要因はない。「水系二次電池」と「非水系二次電池」とでは,電解液がそれぞれ「水系」,「非水系」と異なるから,電解液とのマッチングにおける要求は異なるものの(甲10),セパレータに求められる基本機能のうち,電気絶縁性や,機械的,熱的な物理的耐久性,薄膜化において共通する。そして,電池用セパレータは,電池の系が異なっても適用可能なものであり,あるいは,電池系を異にするものに対して適用可能か検討することが行われているから,水系二次電池用のセパレータに関する知見を非水系二次電池(リチウムイオン電池)用のセパレータに適用することに阻害要因はない(乙3の段落【0001】,【0102】,乙4の段落【0001】,【0039】,乙5の段落【0001】,【0073】,乙6の段落【0001】,【0009】)。
(ウ)原告は,本願発明の製造工程と電池性能の向上を達成する課題は,刊行物1,刊行物2及び甲3のいずれにも記載がないと主張する。
しかし,刊行物1発明は,本願発明と同じく,リチウム二次電池のセパレータとして,超極細繊維状のポリマーで構成された不織布を用いることが記載されていると認められ,かつ,刊行物1発明は,公知の製造法により製造できるから(甲1の段落【0006】),刊行物1発明を17具体化するに当たり,電池系が異なっていても,刊行物2及び甲3に記載される超極細繊維のポリマーからなる多孔性シート状物(不織布状物)の作製方法を適用することは,当業者が容易になし得る。
エ原告は,本願発明には,刊行物1発明と比較して「低温特性」及び「サイクル特性」の向上との点において顕著な効果があると主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。すなわち, (ア)「低温特性」について製法上の効果を比較するに当たっては,繊維径や電池活物質,電解液組成などの諸条件が同じであって,製法が異なるものを対比しなければその効果を把握することはできない。本願明細書の実施例5と刊行物1の実施例4については,刊行物1の実施例4はセパレータの繊維径が本願発明の「1〜3000nm」の上限である3μmであるのに対して,本願明細書の実施例5は繊維径を特定していないから1〜3000nm(3μm)のいずれかである。また,電池活物質や電解液組成についても諸条件が異なる。これらの活物質や電解液組成等は,電池の低温特性に影響するから,刊行物1の実施例4と本願明細書の実施例5の記載を基に,本願発明の製法上の効果と刊行物1発明の製法上の効果を比較することはできない。
(イ)「サイクル特性」について本願明細書には,図3に示されている実施例1ないし8について,その電気容量の具体的な記載はなく,「100サイクル目の電気容量と第1サイクル目の電気容量の比」(以下「電気容量比」という。)についても具体的な記載はない。また,図3を見ても,特定の実施例と対応して,個々の電気容量を読み取ることも困難であるから,本願発明の電気容量比が,約96%〜約108%と算出できたのか,その具体的な根拠は不明である。仮に,原告主張の電気容量比であるとしても,本願明細18書の実施例1〜8と刊行物1記載の電池D-2とは,本願発明の製法上の効果と刊行物1発明の製法上の効果を比較するものではなく,不適切な比較対象を基にする原告の主張には根拠がない。
そして,刊行物1発明の非水電解質二次電池の不織布セパレータは,繊維径が「20〜5000nmの径」と,本願発明の繊維径と重複する径を有する繊維で構成されるから,刊行物1発明においても本願発明と同じ効果を奏するものといえる。
第4当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1取消事由1(刊行物1発明の認定の誤りに基づく容易想到性判断の誤り)について原告は,審決は,甲12の記載からは「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」が超極細繊維の周知の製造法とはいえないにもかかわらず,刊行物1に記載された「布(不織布セパレータ)」の限定されない製造方法として,周知の「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」が含まれると認定したものであるから,刊行物1発明の認定には誤りがあり,したがって,静電紡糸法を適用することに困難はないとした判断にも誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
審決では,刊行物1発明について,「多孔性高分子セパレータフィルムを構成する超極細繊維のポリマーの直径が「20〜5000nm」であるものの,その製造方法の特定はなされていない」と認定されているが,超極細繊維状の高分子を「電荷誘導紡糸法により製造する」との認定はされていない。そうすると,審決が,刊行物1発明について,「布(不織布セパレータ)」の製造方法として「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」が含まれると認定したことになるとして,これを前提とする原告の上記主張は,その主張自体失当である(なお,19刊行物1発明について,不織布セパレータを作製するに当たり,本願出願時に周知であった静電紡糸法を適用することが,当業者にとって容易と解すべき点については,後記3のとおりである。)。
したがって,原告の主張は採用できない。
2取消事由2(刊行物2技術が周知であるとした認定の誤り)について原告は,審決が,刊行物2,特開昭51-60773号公報(甲3)の記載から,「蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法(エレクトロスピニング法,つまり,電荷誘導紡糸法と同じ意)で作製した繊維を用いる手法は,本願出願前において周知である。」とした認定には誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
特許法29条2項は,特許を受けることができないための要件として,当業者が,出願前に公知の技術に基づいて容易に想到することができたことを規定するが,出願前に周知の技術に基づいて容易に想到することができたことを規定するものではない。
本件においては,当業者が,本願発明における刊行物1発明との相違点に係る技術事項,すなわち「電荷誘導紡糸法によって製造された」との相違点に係る技術事項が,甲2,甲3に開示された発明を適用することによって,容易に想到し得たかのみが争点であって,それに加えて,甲2,甲3に開示された発明の内容が,技術常識ないし技術的一般知識に至っていたか否かは,争点であると解されない場合であるといえる。確かに,審決の「理由」では,「本願出願時において周知であった静電紡糸法(エレクトロスピニング法,つまり,電荷誘導紡糸法)を適用することは,当業者にとって何ら困難なことではない。」と述べられているが,本願出願前公知の電荷誘導紡糸法が周知であった点の認定の当否が,審決の結論に影響を与えるものではない。したがって,この点を審決の認定の誤りとする原告の主張は,審決の結論を左右するものでは20ない。
のみならず,審決の「理由」において,周知技術であると述べた点に,原告主張に係る誤りはない。
すなわち,甲2(刊行物2)は,本願出願日の約9年前に公開された公開特許公報であり,静電紡糸法による,直径が0.5μm未満の繊維状物質の製造方法に関する技術を開示し,多孔性シート状製品が応用できる例として蓄電池用セパレータを挙げていること,甲3は,本願出願日の20年以上前に公開された公開特許公報であり,静電紡糸法による多孔性シート製品の製法に関する技術を開示し,多孔性シートが用いられる代表的な用途として蓄電池用セパレータを挙げていることに照らすならば,蓄電池用セパレータとの技術分野において,セパレータの作製原料として,静電紡糸法で作製した繊維を用いる方法は,周知技術であるといって差し支えない。
以上のとおりであり,蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法で作製した繊維を用いる手法が,本願出願前において周知であるとした審決の認定に誤りがあるとする原告の主張は採用できない。
3取消事由3(容易想到性判断の誤り)について(1)原告は,刊行物1発明には,不織布の製造方法として「電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」を採用するという示唆等がないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用の限りでない。
刊行物1(甲1)は,その解決課題について「薄膜で電解液の浸透性の高いセパレーターを開発し,高容量かつ製造のし易い非水二次電池を得ること」であり(段落【0005】),その解決手段について,「セパレーターが厚さ50μm以下の布であることを特徴とする非水電解質二次電池」により達成することができ,その布(不織布を含む。)は,「好ましくは3μm以上で100μm以下の厚みを持つもので,より好ましくは5μm以上で60μm以下の厚みの布」であり,好ましくは60μm以下の布を作るために,21原料となる糸は超極細繊維を用いることが好ましく,「糸の径は好ましくは0.01μmから10μm,より好ましくは0.02μmから7μm,特に好ましくは0,02μmから5μm」である(段落【0006】,【0007】)ことが記載されている。なお,刊行物1は,超極細繊維で構成される不織布セパレータの製造方法については公知であると記載し,その製造方法の特定はしていない(段落【0007】)。
他方,甲2,甲3によれば,蓄電池用セパレータに関し,セパレータの作製原料として,静電紡糸法(エレクトロスピニング法,つまり,電荷誘導紡糸法と同じ意)で作製した繊維を用いる手法が,本願出願前に周知であったことが認められる(上記2のとおり)。そして,刊行物2(甲2)は,?静電紡糸法による,直径が0.5μm未満の繊維状物質の製造方法に関する技術であること,?その解決課題として,不織布材料に極めて適した直径0.5μm未満の,クロップ(直径1μm以上の粒子)を含まない繊維状物質の,安定した,より安易な製造方法を提供することを目的としていること,?応用例の1つとして多孔性シート状製品を蓄電池用セパレータに使用することが記載されている。また,甲3は,?多孔性シート製品の製法に関する技術であること,?重合体を含む紡糸液を静電紡糸条件に付することよりなる不活性重合体材料製品の製造法を提供するものであること,?このような製品の代表例の1つが蓄電池用セパレータであること,?静電紡糸法で作られる繊維は細く,通常は直径0.1〜25μmのオーダー,好ましくは0.5〜10μm,さらに好ましくは1〜5μmであり,この方法は大きく経験則に基づき,繊維直径により用うべき広範なコントロールを可能にすることが記載されている。
以上を総合すれば,当業者が,刊行物1発明において,刊行物2記載の技術である「不織布の製造方法として電荷誘導紡糸法(静電紡糸法)」を採用して本願発明とすることに,困難な点はないというべきである。
22(2)原告は,刊行物2及び甲3に記載される水系二次電池用のセパレータに関する知見を非水系二次電池(リチウムイオン電池)用のセパレータに適用することには阻害要因があると主張する。
しかし,刊行物2及び甲3には,静電紡糸法による「蓄電池用セパレータ」への適用可能性が示唆されている以上,当業者にとって,静電紡糸法の採用が困難であるとはいえない。「水系二次電池」と「非水系二次電池」とでは,電解液とセパレータとのマッチングのための要求性能において相違するが(甲10),電池用セパレータにおいて,電池の系が異なっても,その適用に,何らの困難性はなく(乙3ないし6),同事実に照らすならば,静電紡糸法により作製される水系二次電池用の多孔性シート状製品(セパレータ)を,非水系二次電池用(リチウムイオン電池)のセパレータに適用することに阻害要因はない。この点の原告の主張は失当である。
(3)原告は,本願発明は,刊行物1発明と対比すると,「低温特性」及び「サイクル特性」の向上効果が顕著であると主張する。
しかし,原告は,本願発明における上記各特性の優位性について,具体的な立証をしていない以上,原告の主張を採用することはできない。すなわち,異なる製法間の低温特性を比較するためには,繊維径や電池活物質,電解液組成,充放電レートなどにおける同1条件の下での対比が必要となるが,原告が本願発明との効果の比較対象としている本願明細書の実施例5と刊行物1の実施例4は,条件の同一性が確認できず,本願発明と刊行物1発明の製法上の相違による低温特性の優劣を客観的に比較することはできない。サイクル特性についても,原告が主張の根拠とする数値は,本願明細書の図3の充放電特性のグラフに基づいているが,同グラフから具体的数値を正確に読み取ることは困難であり,本願発明について,100サイクル目の電気容量と1サイクル目の電気容量の比を約96%〜約108%と算定することには疑問がある。したがって,本願発明の効果が,刊行物1発明に比べて格別に23顕著であるとは認められない以上,この点の原告の主張は採用できない。
4小括以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法は認められない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
第5結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子