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関連審決 無効2009-800042
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10416審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10323審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10287審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10046審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10324号 審決取消請求事件
原告三 菱電機株式会社
訴訟代理人弁理士高橋省吾
同稲葉忠彦
同湯山崇之
同井上みさと
同萩原亨
被告株式会社東芝
被告東芝コンシューマエレクトロニクス・ ホールディングス株式会社
被告東芝ホームアプライアンス株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士高橋雄一郎
被告ら訴訟代理人弁理士堀口浩
同小川泰典
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 - 2 -1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800042号事件について平成21年9月9日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯被告らは,特許第3361055号(発明の名称「電子ユニット ,平成1」0年5月29日出願・特願平10-149107号,平成11年12月10日公開・特開平11-340389号,平成14年10月18日登録,登録時の。「」,「」 請求項の数6 以下 本件特許 といい その登録時の明細書を 本件明細書という。甲10)の特許権者である。
原告は,平成21年2月20日,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明1」という )に係る特許を無効にすることを求め 。
て無効審判を請求した(無効2009-800042号 。)特許庁は,平成21年9月9日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との , 。
審決をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
2特許請求の範囲本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載(本件発明1)は次のとおりである。
ケースと,このケース内に収容される回路基板と,この回路基板上に実装されるリード取付形のIPMと,このIPMの上面部に該IPMの下面側からねじ等の取付具により取付けられる放熱板と,前記回路基板に前記取付具の取付け位置に対応して形成された穴と,前記ケース内に前記回路基板及びIPMのリードを覆うように充填されるポッティング材とを具備すると共に,前記放熱板は,その一部が前記ポッティング材中に埋設状態とされていることを特徴とする電子ユニット。
3審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,本件発明1と甲(「」。)(() 1に記載された発明 以下 甲1発明 というとの相違点2 下記 2ウ(イ )に係る本件発明1の構成は,甲1発明及び甲2,甲4,甲6ない )し8に記載された発明(以下,これらに記載された発明をそれぞれ「甲2発明「甲4発明」などという場合がある )に基づいて当業者が容易に想到 」, 。
することができないから,相違点1(下記(2)ウ(ア )に係る本件発明)1の構成が容易に想到できるか否かを判断するまでもなく,本件発明1は,特許法29条2項に該当しない,と判断した。
() , ,, 2審決が認定した甲1発明 本件発明1と甲1発明の一致点 相違点は次のとおりである。
ア甲1発明プリント基板と,上記プリント基板上に,リードによって載設される半導体素子と,上記半導体素子を上記プリント基板に垂直な軸方向を有するネジによって,上記プリント基板側から固着する,前記プリント基板に間隔をおいて平行に固定された放熱器と,前記プリント基板の前記ネジの直下方にあたる部分に設けたネジ回しを挿入できる穴と,を備えたプリント板装置イ一致点回路基板と,この回路基板上に実装される電気部品と,この電気部品の上面部に該電気部品の下面側からねじ等の取付具により取付けられる放熱板と,前記回路基板に前記取付具の取付け位置に対応して形成された穴と,を具備することを特徴とする電子ユニット。
ウ相違点(ア)相違点1回路基板上に実装され,放熱板がその上面部に取り付けられる「電気部品」が,本件発明1においては「リード取付形のIPM」であるのに対して,甲1発明では「リードによって載設される半導体素子」である点。
(イ)相違点2本件発明1は 「回路基板を収容するケースと,放熱板の一部を埋設 ,状態となし回路基板及びIPMのリードを覆うように前記ケース内に充」,,, 填されるポッティング材 を具備するのに対して 甲1発明は ケース及び,ポッティング材を具備していない点。
第3取消事由に関する原告の主張, (), 審決は 甲1発明と甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り 取消事由1甲1発明と甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2 ,甲1発)明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由3)があるから,違法として取り消されるべきである。
1甲1発明と甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由1)審決は,甲1発明に甲2発明を適用することには阻害要因があり,甲1発明に甲2発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできないと判断した。すなわち,審決は,この点に関し 「甲1発明に甲第,2号証に記載された発明を適用して,プリント基板をケース内に収納し,放熱板の一部を埋設状態となしプリント基板及び電子部品のリードを覆うように前記ケース内にコンパウンドを充填した場合には,部品が故障したとしても,該ケースとコンパウンドが邪魔をして,ネジ回しをプリント基板1の下側より穴6に差し込んでネジ4を外す事はできないし,また,該故障した部品の交換自体も困難となることは明らかである。すなわち,甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用すると,甲1発明の具備する効果の達成が阻害されるといえ。」, 。 るとして 甲1発明に甲2発明を適用することには阻害要因があるとするしかし,審決の上記判断は誤りであり,その理由は,以下のとおりである。
(1)甲2( 0007 )にも記載されているように,ポッティング材(充 【】填材,コンパウンドも同義。以下,主に本件発明1で用いられている「ポッティング材」という語を用いる )などで充填するのは,水などがかかる環 。
境で電気部品の耐湿性能,防水性能を向上させるためであり,甲11ないし13に記載されているように,回路基板上の抵抗やコンデンサ等の部品を完全にポッティングすることは,本件特許出願時に周知であった。また,甲18,19に記載されているように,基板をケース内のポッティング材に埋めた後に,部品を修理するために基板をケース内のポッティング材から取り出すことも,本件特許出願時に周知であった。
そうすると,甲1の第2図,第3図に記載された回路基板について,抵抗やコンデンサ等の部品5を含めてポッティング材に埋設状態とすることは,当業者にとって困難ではなく,それは,甲1に,部品5を故障時に交換しなければならないことが記載されていたとしても変わらない。
, 。 したがって 甲1発明に甲2発明を適用することについて阻害要因はない(2)また,甲1には,甲1発明の課題と作用効果について,従来例(甲1の第2図)では半導体素子2の半田付け部を溶かしながら半導体素子2とともに放熱器3をプリント基板から取り除かなければ部品5aを交換できなかったとの課題を解決し,部品5aを簡単に交換できるという効果を奏する旨記載されているにとどまり,どのような段階での部品交換を前提としている, ,。, かなど 部品の交換が必要な状況については 一切記載されていない 他方甲20に記載されているように,電子回路基板を作成する工程で,部品の試験を行って不良部品を交換することは,本件特許の出願前から周知である。
そうすると,基板に部品5aを設置した後,部品5aが故障したために交換しなければならない場合としては,ポッティング材に埋めた後のみならず,ポッティング材に埋める前の段階でも,部品設置後のテスト工程で部品不良が発見された場合などが考えられ,これらの場合においても,甲1発明は,従来例(甲1の第2図)よりも部品を交換しやすいという効果を奏する。このように,ポッティング材に埋める前でも,部品を交換しやすいという甲1発明の効果は奏されるから,甲1発明にポッティング材を配設しても,甲1発明の効果は奏されるといえる。
そのため,甲1発明に甲2発明を適用することについて阻害要因はない。
(3)甲2には,本件発明1の「放熱器の一部がポッティング材中に埋設している状態」が記載されており,甲1発明に甲2発明を適用することによって相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができた。
(4)このように,甲1発明に甲2発明を適用することについて阻害要因はなく,甲1発明に甲2発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたものであり,これに反する審決の判断には誤りがある。
2甲1発明と甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2)審決は,甲4のフレーム6が本件発明1のケースに相当しないことから,甲1発明に甲4発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできないと判断したが,この判断には誤りがある。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,本件特許出願前に頒布された刊行物である甲21,22には,当業者が,側壁と底面を備えたものだけでなく,側壁だけ備えたものもケースに含まれると認識していたことが示されているから,甲4のフレーム6も側壁を備える以上,ケースに相当する。また,仮に甲4のフレーム6がケースに相当しないとしても,甲4の図6には,ケース内にプリント基板302を配設したものが記載されており,甲2には,ケース1にプリント基板2を配設し,コンパウンド10を充填させることが記載されていたから,甲4の図3のフレーム6を底面も備えたケースに置き換えることは,単なる設計事項にすぎず,当業者にとって困難性はなかった。したがって,甲1発明に甲4発明を適用して,ケース及びポッティング材を具備するという相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができた。
3甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由3)審決は,甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づいて本件発明1は容易に発明することができなかったと判断したが,その判断には誤りがある。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,前記1(4)のとおり,甲1発明に甲2発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたものであり,また,前記2のとおり,甲1発明に甲4発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができた。
そして,甲6,7に記載されているように,IPMも半導体素子の一種であり,甲14ないし17に記載されているように,リード取付形のIPMは,本件特許出願時に周知であったから,甲1発明のリードによって載設される半導体素子をリード取付形のIPMに置き換えることに何らの困難性はなく,相違点1に係る本件発明1の構成(リード取付形のIPM)に想到することは容易であった。したがって,甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づいて本件発明1は容易に発明することができたものであり,これに反する審決の判断には誤りがある。
第4被告の反論審決は,容易想到性の判断に誤りはなく,取り消されるべき違法はない。
1甲1発明と甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由1)に対し甲1発明に甲2発明を適用することに阻害要因があり,甲1発明に甲2発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)甲18,19から,基板をケース内のポッティング材に埋めた後に,部品を修理するために基板をケース内のポッティング材から取り出すことが,本件特許出願時に周知であったとはいえない。
すなわち,甲18には,電子コントローラをケースより取り出すことは記載されているが,取り出した電子コントローラから更に部品を取り出すことについては何ら記載されていない。近時は,電子基板は小型化,複雑化しており,故障の際には,ケースから基板を取り出して基板ごと交換する修理が広く行われており,甲18に記載されたものもそのようなものであると考えられる。また,甲19には,発明が解決しようとする問題点として 「防水,性充填材8をプリント基板1からハクリしなければならないが ・・・プリ,, , ント基板1に対する接着力が高く 同時に引張強度が強く引張伸びが大きく軟質であるため,ハクリ作業が大変困難であった。あえてハクリを行なおうとした場合,プリント基板1の回路を構成している銅箔部を切断したり,他の部品に悪影響を与えることがあり (2頁右上欄下から7行目ないし左下 」欄2行目)と記載されており,これが一般的なポッティング材(コンパウンド)の性質であり,ポッティングされた基板から部品を取り出して交換することは通常は考えられない。甲19に記載された防水性充填材8はハクリ作業を容易にするための特殊なものであり,甲19に基づいて,基板をケース内のポッティング材(コンパウンド)から取り出すことが周知であったとはいえない。そうすると,甲18,19から,基板をケース内のポッティング材に埋めた後に,部品を修理するために基板をケース内のポッティング材から取り出すことが,本件特許出願時に周知であったとはいえない。
(2)また,ポッティング前に部品の交換が容易になったとしても,それによって甲1発明の作用効果が奏されたものとはいえない。
すなわち,甲1発明が前提とする部品交換を要する状況とは,テスト工程や製造工程で不良箇所を修理する段階ではなく,完成品として使用を開始した後に製品に組み込まれた回路基板の部品の正常な動きが損なわれた段階のことである。そのため,甲1発明の作用効果を奏するかどうかは,ポッティングが行われる製品については,ポッティングが施され製品として完成した後に故障が見つかった場合の修理における部品交換について検討される。したがって,ポッティング前に部品の交換が容易になるとしても,甲1発明の作用効果を奏するものとはいえない。
甲20には,各種のテスト工程で不良箇所の修理が必要であることが記載されているが,それは,一般に製品の完成前に検査が実施され不良箇所の修理が行われることを示しているにすぎず,その修理が部品交換であるとの記載はない。また,甲20は,ポッティングに言及していないから,ポッティング前に部品の交換が行われることを示唆しているともいえない。
(3)さらに,甲1発明に甲2発明を適用することについての示唆又は動機付けはない。
すなわち,電子回路基板は,電子回路としての本来の目的機能を発揮する, , ことを最優先に設計され メインテナンスは付加的に考慮されるにとどまり機能上基板に穴を設けるのは好ましくない場合もあるから,ポッティングを施す前提として甲1の第2図と第3図のうち必ず第3図の構成が採用されるとは限らない。また,甲1は外観の悪化を技術的課題としているから,甲1発明はポッティングを想定していない。他方,甲2発明においては,コンパ, , ウンド10が存在するから 放熱板を回路基板から分離するのは困難であり甲2には,放熱板5を半導体素子4から分離する発想はない。したがって,甲1発明に甲2発明を適用することについての示唆又は動機付けはない。
2甲1発明と甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し甲4のフレーム6が本件発明1のケースに相当しないことから,甲1発明に甲4発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)甲21,22を参照しても,本件特許出願前に当業者が側壁だけ備えたものもケースに含まれると認識していたとは認められない。
すなわち,甲21のケース6は,側壁として機能するとしても,表示パネル12やオーバーレイ15が側壁の底部を塞ぐ底面を構成しており,全体としては側壁と底面を備える構成となっており,その中に制御基板24がポッティングにより埋設されている。甲22のケース16についても,それが側壁として機能するほか,表示パネル23やオーバーレイ24が底面を構成しており,全体として側壁と底面を備える構成となっており,その中に回路基板44がポッティングにより埋設されている。これに対し,甲4のフレーム6は,配線基板4がケースの底面を構成している点で,甲21,22のケースの構成と異なっている。したがって,甲21,22を参照しても,本件特許出願前に当業者が側壁だけ備えたものもケースに含まれると認識していたとは認められない。
(2)甲4の図6,甲2を参照したとしても,甲4のフレーム6を底面も備えたケースに置き換えることは,単なる設計事項であったとはいえない。
すなわち,甲4の【0004】には,図6記載の発明の出典として「日経エレクトロニクス1985.12.16p198〜209 (乙1)が記」載されているが,乙1によれば,図6に記載されているケースは,高さ1.14m,直径1.35m,床面積1.5m の円筒型のスーパーコンピュー2タ本体であり,プリント基板302とは,そこに内蔵された高密度実装の回路モジュールである。本件発明1は洗濯機などの機器に内蔵される電子制御回路等を対象としたものであるから,甲4の図6記載の発明とは技術分野を, 。 異にし 甲4の図6に基づいて本件発明1が容易想到であったとはいえないまた,甲4の図3記載の発明は,図6記載の従来技術のように下方に冷媒を流すことはできないが,従来技術と同等の冷却性能を維持するとの技術的な要請により,フレーム6の底面をくりぬき,基板を露出させているものと考えられるから,甲4の図3のフレーム6を図6に記載されたケースに置換することはできない。
さらに,甲2は,可変抵抗器7がコンパウンド10に充填されないようにチューブ14aを設けた発明であり,これを甲4の図3記載の発明と組み合わせる動機付けはない。
3甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対し甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づいて本件発明1は容易に発明することはできなかったとの審決の判断に誤りはなく,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,前記1のとおり,甲1発明に甲2発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできなかったものであり,また,前記2のとおり,甲1発明に甲4発明を適用しても相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできなかったものである。
そして,本件発明1と甲1発明の相違点1について,本件発明1のリード取付形のIPMは,背が低くポッティングへの埋設が容易であるのに対し,甲1発明の半導体素子2は,足(リード)が長いため,ポッティングへ埋設しようとするとポッティング材はかなりの嵩が必要となり,加工コストや材料コストなどの面で不利であることは明らかであるから,甲1発明の半導体素子2を本件発明1のリード取付形のIPMに置き換え,相違点1に係る本件発明1の構成に想到することは,容易とはいえない。
第5当裁判所の判断当裁判所は,審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がないものと判断する。
1甲1発明と甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由1)について甲1発明に甲2発明を適用することには阻害要因があり,甲1発明に甲2発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することができないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1)本件発明1の内容ア本件明細書の記載本件明細書には,次のとおりの記載がある。
「 0002】【【発明が解決しようとする課題】近年,例えば洗濯機における回転槽及び撹拌体をダイレクト駆動するためのモータとして,インバータ駆動形の三相ブラシレスモータを採用することが行われてきている。この場合,モータ駆動装置は,IGBT等の複数個のスイッチング素子から成るインバータ回路や,それらスイッチング素子を駆動するプリドライブ回路等を備えて構成される。このようなモータ駆動装置は,回路基板上に各部品を実装して構成されると共に,ケース内に収容されてユニット化され,防湿材によるポッティングが施された上で,例えば洗濯機本体上部のトップカバー内に配設されるようになっている。
【0003】このとき,前記各スイッチング素子の放熱を図るため,アルミニウム製の放熱板が,防湿材から露出した状態でスイッチング素子の上面部に添設されるようになっている。ところが,従来構成では,全てのスイッチング素子からの良好な放熱性を得るためには,放熱板が大形化(平面方向の面積が増大)してしまうといった不具合があった。
【】, , 0004 ところで 上記したような電子ユニットが廃棄される際にはリサイクルを図るべく,アルミニウム製の放熱板を取外して分別回収に供することが必要となる。しかしながら,従来の電子ユニットでは,分解時に放熱板を取外すことが考慮された構成とはなっておらず,放熱板の取外しにかなり面倒な作業を必要とするものとなっていた。
【0005】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので,その目的は,素子の放熱性に優れ,しかも分解時の放熱板の取外しを容易に行うことができる電子ユニットを提供するにある 」。
「 0006】【【課題を解決するための手段】例えばモータ駆動装置として,近年,インバータ回路やそれを駆動するプリドライブ回路,前記インバータ回路の過電流や温度に対する保護回路等を1個のモジュールとして組込んだIPM(インテリジェントパワーモジュール)が開発されてきている。本発明者, , , らは そのようなIPMに着目し IPMを備えた電子ユニットにあってコンパクトで回路基板に対する組付性が良好であるといったIPM本来の効果に加え,IPMを構成する素子の放熱性を良好とし,且つ,分解時における放熱板の取外しを容易とする構成を得るべく,本発明を成し遂げたのである。
【0007】即ち,本発明の請求項1の電子ユニットは,リード取付形のIPMが実装された回路基板をケース内に収容するものにあって,IPMの上面部に該IPMの下面側からねじ等の取付具により放熱板を取付けると共に,回路基板に取付具の取付け位置に対応して穴を形成し,さらに,ケース内に回路基板及びIPMのリードを覆うようにポッティング材を充填し,そのポッティング材中に前記放熱板の一部を埋設状態とした構成に特徴を有する。
【0008】これによれば,IPMの上面に取付けられた放熱板から放熱が行われると共に,IPMのリード部分に伝わった熱が,ポッティング材を介してあるいは回路基板及びポッティング材を介してケースから放熱される。このとき,IPMのリードとケース内面との間に,熱容量の大きいポッティング材が介在されているので,空気層が介在される場合に比べてケースに対する良好な熱伝導が行われる。しかも,放熱板の一部をポッティング材中に埋設状態とするようにしたので,放熱板の熱がポッティング材を介してケースに伝達されて放熱されるという放熱経路も構成されるようになり,放熱板から外気への放熱が十分に行われない場合でも,効果的に放熱を行うことができる。
【0009】そして,放熱板は,IPMの下面側からねじ等の取付具により取付けられていると共に,その取付具に対応した穴が回路基板に形成されているので,ケースの外壁部を破ることにより,回路基板の穴を通して取付具の取外しを容易に行うことができ,放熱板の分離を容易に行うことができる。尚,IPMを用いていることにより,実装面積が少なく済んで回路基板ひいては全体のコンパクト化を図ることができ,また組付け作業も容易で,放熱板も小形で済むといったメリットも得ることができる 」。
「 0030】図3は,本発明の第2の実施例に係る電子ユニット31の 【構成を示している。この実施例においては,IPM12の上面部に取付けられる放熱板32は,その端部に,下方に延びる突起部32aを一体に有している。そして,ケース22内には,例えばウレタン樹脂からなるポッティング材33が充填されるのであるが,このポッティング材33は,前記突起部32が埋設状態となると共に,放熱板32の主板部の一部(厚み方向ほぼ下半部)が埋設状態とされる高さ位置まで設けられている。
【0031】このような構成によれば,上記第1の実施例と同様に,IPM12の良好な放熱性を得ることができ,しかも,廃棄時における放熱板32の取外し作業を容易に行うことができるという効果が得られると共に,放熱板32の熱がポッティング材33を介してケース22に伝達されて放熱されるという放熱経路も構成されるようになり,放熱板32から外気への放熱が十分に行われない場合でも,効果的に放熱を行うことができるといった利点を得ることができる 」。
「 0041】【【発明の効果】以上の説明にて明らかなように,本発明の電子ユニットによれば,素子の放熱性に優れ,しかも分解時の放熱板の取外しを容易に行うことができるという優れた効果を奏するものである 」。
イ本件発明1の技術的意義前記アの本件明細書の記載によれば,本件発明1の技術的意義は,次のとおりと認められる。
すなわち,本件発明1は,素子の放熱性に優れ,しかも分解時の放熱板の取外しを容易に行うことができる電子ユニットの提供を目的としたものであり( 0005,ケース内に回路基板及びIPMのリードを覆うよ 【】)うに熱容量の大きいポッティング材を充填することにより,空気層が介在される場合に比べてケースに対する良好な熱伝導が行われ,IPMのリード部分に伝わった熱が,ポッティング材を介してあるいは回路基板及びポッティング材を介してケースから放熱されるようにし,しかも,放熱板の一部をポッティング材中に埋設状態にして,放熱板の熱がポッティング材を介してケースに伝達されて放熱され,効果的に放熱を行うことができる(【】,【】,【】)。, ようにしたものである000800310041そして放熱板を,IPMの下面側からねじ等の取付具により取付けられるようにするとともに,その取付具の取付け位置に対応した穴を回路基板に形成することにより,ケースの外壁部を破ることによって回路基板の穴を通して取付具の取外しを容易に行うことができ,放熱板の分離を容易に行うこと(【】,【】,【】)。 ができるようにしたものである000900310041なお,IPMを用いることにより,実装面積を少なくし,回路基板ひいては全体のコンパクト化及び組付け作業の容易化を図るものでもある( 0【009。】)ウ本件発明1の「ケース」の技術的意義特許請求の範囲の請求項1の記載(本件発明1)によれば,本件発明1のケースは,?回路基板,IPM,放熱板,ケース内に充填されたポッティング材とともに電子ユニットを構成し,?ケース内に回路基板を収容するものであり,?回路基板及びIPMのリードを覆うようにポッティング材が充填されるものであると認められる。そうすると,ケースは,回路基板とは独立した機能を有する別個の構成部分を指すものであって,ケースの内部に,ケースとは別個の構成部分をなす回路基板及びポッティング材を収める空間を有するものであると解される。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明も考慮すると,?ケースと,回路基板,IPMのリード及び放熱板の一部との間に充填されたポッティング材を介して熱がケースに伝達され,効果的に放熱を行うことができるようにしたものであって( 0008,?放熱板の取外し時には,ケース 【】)の外壁部を破ることができ,取付具の取外しを容易に行うことができるものである( 0009 )と認められる。 【】(2)甲1発明の内容ア甲1の記載甲1には,次のとおりの記載がある。
(ア)「プリント基板に載設される半導体素子を該プリント基板に垂直な軸方向を有するネジによって固着する放熱器が前記プリント基板に間隔をおいて平行に固定され,前記プリント基板の前記ネジの直下方にあたる部分にネジ回しを挿入できる穴を設けて成ることを特徴とする半導体素子放熱器の取付構造(実用新案登録請求の範囲) 。」(イ)「本考案は,プリント基板上に載設されるトランジスタ等の半導体素子の放熱器の取付構造に関する。
パワートランジスタ等の電力用半導体素子は過熱を防止するために放熱器が付設されており,放熱器が大きい程放熱の効率が良くなる。しかしながら,放熱効果を増すために表面積を広げ形状を大きくした放熱器を取付けることはこれらの素子をプリント基板上に敷設する場合基板上のスペースを大きく占有することになる(1頁12行目ないし2頁1 。」行目)(ウ)「第1図は,プリント基板の上方に垂直に取付けられた放熱器の取付構造の正面図である。半導体素子2をネジ4によって固着する放熱器3は素子と共に基板1の上方に直立して取付けられたもので,部品5のプリント基板1上への載置に支障はないが,狭いスペースで高さの制限を受ける場合には不向きである。
第2図は,プリント基板の上方に間隔をおいて平行に設けた放熱器の取付構造の正面図である。第2図において半導体素子2と放熱器3が横にしてあるので,放熱器3がプリント基板1にかぶさり,例えば,放熱器3の直下にある部品5aが故障して交換しなければならない場合に下方からのネジ止めによつて半導体素子2に固着されているため,放熱器3のみを取り外す事ができず,半導体素子2の半田付け部を溶かしながら半導体素子2と共に放熱器3をプリント基板1上から取り除かなければ部品5を交換できない。そして,プリント基板上に数多くの半導体a素子を載設した場合に,第2図に示す取付構造では半導体素子の半田付け部を溶かしプリント基板から取り外すために時間が長くかかるばかりでなく,半導体素子の多少に拘らずコーテイングしてあるプリント基板の半田付け部分が変色したり,焼け焦げの跡が残り,外観を損う等の欠点がある。本考案は,上記従来例の放熱器の取付構造の欠点を除き,プリント基板上部のスペースの活用と取扱いの簡便化をはかる放熱器の取付構造の提供を目的とする(2頁4行目ないし3頁12行目) 。」(エ)「上記のような構成において,放熱器3の下方にあつて簡単に取,, 外しできない部品5aが故障などにより交換を必要とする時に 穴6と穴6の直上方にあつて半導体素子2と放熱器3とを固定するネジ4とは平面的に合致した位置にあるので,ネジ回しをプリント基板1の下側より穴6に差し込んでネジ4を外す事により,放熱器3をプリント基板1上から取り除き,部品5aを簡単に交換できる。部品交換後,再び穴6を通して差し込んだネジ回しによつてネジ4を締めて半導体素子2と放熱器を固着することができる。
上記のように,本考案によつて,半導体素子の放熱器の着脱容易な取付けとプリント基板の占有スペースの効率的な利用を共に満足できることになり,電子回路のプリント板装置全体にわたり大きな効果をもたらすものである(4頁16行目ないし5頁11行目) 。」イ甲1発明の技術的意義前記アの甲1の記載によれば,甲1発明は,放熱効果を増すために,表面積を広げ形状を大きくした放熱器3を採用し(前記ア(イ,プリント))基板上部のスペースに高さを必要としないように,放熱器3をプリント基板に間隔をおいて平行に配置し(前記ア(ア(ウ,かつ,放熱器3 ),))の直下にある部品5aが故障して交換しなければならない場合に,下方からのネジ止めによって半導体素子2に固着されている放熱器3をプリント基板1上から取り除くことができるように,放熱器3と半導体素子2との固定用ネジ4の直下に当たるプリント基板の部分にネジ回しを挿入できる穴6を設けたものであって(前記ア(ア(エ,部品交換を目的とし ),))た半導体素子の放熱器の着脱容易な取付けとプリント基板の占有スペースの効率的な利用をともに満足できるようにするという課題解決を図ったものである。
そして,甲1発明では,部品交換を目的として半導体素子の放熱器の着脱容易な取付けを満足できるようにするという点を解決課題とするものであるから,プリント基板1の下側より穴6にネジ回しを差し込んで,半導体素子2と放熱器3を固定するネジ4を回して半導体素子2から放熱器3を外すことが可能な状態にあることを前提としている。
(3)甲2発明ア甲2の記載甲2には,次のとおりの記載がある。
「 請求項1】 少なくとも可変抵抗器を含む複数の電子部品を実装配置し 【たプリント基板を,開口面を有するケース内に配置し,前記ケース内をコンパウンドにより充填する電子部品実装構造に於て,前記コンパウンドの充填高よりも長い,両端開口の略筒状のチューブを,その一方の開口部近傍の内側面を前記可変抵抗器の側面に密着し,その他方の開口部近傍は前記コンパウンドに充填されずに位置する様に,配置することを特徴とする電子部品実装構造 」。
「 0002】【【従来の技術】本発明に係る第1従来例の上面図を図9(a)に,その断面図を図9(b)に示す。
【0003】FET,トランジスタ,ダイオードなどの半導体素子4と,半導体素子4の放熱の為の放熱板5と,制御回路部を実装した,例えばハイブリッドIC6と,可変抵抗器7と,アルミ電界コンデンサ8と,上記半導体素子4,放熱板5,ハイブリッドIC6,可変抵抗器7,アルミ電界コンデンサ8以外の各種電子部品3とを実装したプリント基板2を,図9(a)に示す様に開口面を有するケース1内部に配置し,図9(b)に示す様にケース1内を所定量のコンパウント10で充填した。なお,図中9は入出力用リード線を示し,図中11は可変抵抗器7の抵抗値を調整する際に用いるドライバーを示す 」。
「 0026】本実施の形態の特徴は,図2に示す様な,コンパウンドの 【充填高よりも長さhが長い両端開口の略筒状のチューブ14aの内部に,図3に示す様に可変抵抗器7を内設して,図1に示す様にプリント基板2に実装配置したことである ・・・」。
「 0038】コンパウンド充填の目的が温度上昇の低減である場合は, 【コンパウンドの充填量をできるだけ多くすればよいが,一般にアルミ電界コンデンサの頭部やガラス管ヒューズなどは,コンパウンドでの埋没が禁止されており,その為にコンパウンド充填量は必然的に決定される。図7(a)の上面図,図7(b)の断面図に,この様なコンパウンド10の充填量の様子を示した。図7(b)に示す様に,コンパウンド10の充填の高さxは,半導体素子4のリード部41の付け根部分よりも高く,アルミ電界コンデンサ8の頭部よりも低くなっている 」。
図1には,甲2記載の発明に係る第1の実施の形態の上面図(a ,断)面図(b)が示されている。
イ甲2発明の技術的意義, () 前記アの甲2の記載によれば 甲2の図1に記載された発明 甲2発明は,半導体素子4と,半導体素子4の放熱のための放熱板5と,可変抵抗器7と,各種電子部品3等を実装したプリント基板2と,プリント基板2を収容するケース1と,ケース1内を充填するコンパウンド(ポッティング材)10を備えた電子部品実装構造において,コンパウンド10が,ケース1内で,プリント基板2の表面及び半導体素子4のリード部41等を覆い,放熱板5の一部を埋設状態とするように充填されたものであり,コンパウンド充填後に可変抵抗器の抵抗値を調整可能とするために,コンパウンドの充填高よりも長さhが長い両端開口の略筒状のチューブ14aの, , , 内部に 可変抵抗器7を設けたものであって 半導体素子4の放熱板5は下側2/3程度がコンパウンドに埋設されているものである。
(4)甲1発明と甲2発明に基づく容易想到性ア組合せの示唆前記(3)のとおり,甲2には,プリント基板2をケース1に収容し,ケース1内をコンパウンド(ポッティング材)10で充填した電子部品実装構造が記載されており,コンパウンド(ポッティング材)10により,プリント基板2の表面及び半導体素子4のリード部41等を覆い,放熱板5の一部を埋設状態とすることが開示されている。また,甲11ないし甲14によれば,回路基板上の部品をポッティングする技術は,本件特許の出願以前より周知であったといえる。しかし,甲2,甲11ないし甲14は,ポッティング後に放熱板を取り外すことや故障した部品を交換することについては,何ら記載されておらず,後記のとおり,甲18,19を考慮したとしても,ポッティング材に埋設されたプリント基板の部品を交換する技術が周知であるとはいえない。したがって,甲1,甲2,甲11ないし甲14には,部品交換を目的とした放熱器の着脱を行う甲1発明に甲2発明を適用することについての示唆はない。
イ阻害要因(ア)また,前記(2)イのとおり,甲1発明における作用効果の一つである,部品交換を目的として半導体素子の放熱器の着脱容易な取付けを満足できるようにすることは,プリント基板1の下側より穴6にネジ回しを差し込んで,半導体素子2と放熱器3を固定するネジ4を回して半導体素子2から放熱器3を外すことが可能な状態にあることを前提とするものであるところ,ポッティングが周知の技術であるとしても,プリント基板をポッティング材により覆う場合は,ネジ回しをプリント基板1の下側より穴6に差し込んでネジ4を外すことも,プリント基板に取付けられた部品を交換することも,ポッティングを施さない場合に比べて困難である。したがって,ポッティングを施すことは,甲1発明の作用効果の前提とは相容れない。
仮に,甲1発明に甲2発明を適用するならば,甲1発明のプリント基板をケース内に収納し,プリント基板及び電子部品のリードを覆いかつ放熱器の一部を埋設状態とするようにケース内にポッティング材を充填することとなる。そうすると,放熱器の直下にある部品が故障して交換しなければならないような場合,放熱器を固定しているネジを回そうとしても,ケース及びその中に充填されたポッティング材があるため,そのままでは,プリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をすることはできない。プリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をするのであれば,ケースを破壊するなどし,ポッティング材を除去することが必要不可欠となる。
しかし,そのような方法では,プリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をすることができるように放熱器を取り付けたことにならず,放熱器の着脱容易な取付けという甲1発明の課題,作用効果は達成されないこととなる。放熱器の着脱容易な取付けという甲1発明の課題,作用効果を達成するのであれば,単にプリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をすることができるように放熱器を取り付けなければならないから,そのような甲1発明の課題,作用効果は,甲1発明に甲2発明を適用し,甲1発明のプリント基板をケース内に収納してケース内にポッティング材を充填することの阻害要因になるものと認められる。
(イ)また,甲1の記載によれば,甲1発明において解決すべき,従来例の放熱器の取付構造の欠点として,部品交換後に「プリント基板の半田付け部分が変色したり,焼け焦げの跡が残り,外観を損なう」ことが挙げられているから,甲1発明におけるプリント基板は,変色した外観を観察し得る状態で使用することを前提としており,焼け焦げの跡等をポッティング材で覆うことを想定しておらず,基板の完成後あるいは修理後にポッティングを施すことを考慮しないものであるといえる。
そうすると,甲1発明は,そのように外観を観察し得る状態での使用を前提としており,それは,甲1発明にポッティング材を適用しようとすることの阻害要因になるといえる。
ウ構成の相違本件発明1においては,放熱器の一部がポッティング材中に埋設状態とされているところ,本件発明1の技術的意義は,放熱板の一部をポッティング材中に埋設状態にして,効果的に放熱を行うことができるようにするとともに,分解時に,放熱板の分離を容易に行うことができるようにすることにあるから,上記の技術的意義にかんがみれば,本件発明1は,効果, , 的な放熱ができ 分解時に放熱板の分離を容易に行うことができる程度に放熱板の一部をポッティング材中に埋設状態にしたものであるといえる。
他方,甲2発明は,可変抵抗器が内設された略筒状のチューブを設けてケース内にコンパウンドを充填するもので,放熱板の半分以上がコンパウンドに埋設されているから,分解時に放熱板の分離を容易に行うことができる程度に放熱板の一部をポッティング材中に埋設したということはできない。
そうすると,仮に,甲1発明に甲2発明を適用したとしても,分解時に放熱板の分離を容易に行うことができる程度に,放熱板の一部をポッティング材中に埋設状態にすることは想到し得ないから,当業者が本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。
容易想到性の有無したがって,甲1発明に甲2発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできなかったというべきであり,同旨の審決の判断に誤りはない。
(5)原告の主張に対しア原告は,?甲2,甲11ないし13に記載されているように,回路基板上の抵抗やコンデンサ等の部品を完全にポッティングすることは,本件特許出願時に周知であったこと,?甲18,19に記載されているように,基板をケース内のポッティング材に埋めた後に,部品を修理するために基板をケース内のポッティング材から取り出すことも本件特許出願時に周知であったこと,から,甲1の第2図,第3図に記載された回路基板について,抵抗やコンデンサ等の部品5を含めてポッティング材に埋設状態とすることは,当業者にとって困難でないとした上,甲1発明に甲2発明を適用することについて阻害要因はないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。
(ア)甲18には 「防水性充填材と樹脂成形によるケースとの接触面 ,の接着強度は,必要な場合に指先で剥せる程度としてある。なぜなら,防水性充填材により固化された電子コントローラー上の部品が故障した際に修理する必要上,防水性充填材により固化された電子コントローラをケースより取出す必要がある為である(1頁右下欄17行目ないし 。」)。,「」 2頁左上欄3行目 と記載されている ここで電子コントローラー, ,, とは 基板に電子部品を実装した回路基板を意味するから 甲18には洗濯機等の水を使用する機器に用いられるような電子部品を実装した回路基板をケースに収納し防水性樹脂で充填するものにおいて,部品が故障した際に電子コントローラをケースから取り出して修理する技術は,開示されているといえる。しかし,甲18には,防水充填剤により固化された電子コントローラをケースから取り出す技術が開示されているのみであって,充填材で固化された回路基板から部品を取り外して部品を交換する技術は開示されていない。甲1発明の課題,作用効果は,放熱器の直下にある部品が故障して交換しなければならない場合に,部品の交換をするために,プリント基板の下側より穴にネジ回しを差し込んでネジを回して放熱器の着脱をすることにより,達成されるものであり,甲1発明は,部品を基板から取りはずして修理することを前提としているが,甲18には,上記のとおり,基板上に実装された部品を取り外し。,, て部品を交換する技術は開示されていない そうすると 甲18により甲1発明が前提とするように個別の部品を修理するために,基板をケース内のポッティング材から取り出すことが周知であるとはいえない。したがって,甲18により,部品を修理するために基板をケース内のポッティング材から取り出すことが周知であった,との原告の主張は,採用することができない。
(イ)甲19には 「本発明は・・・ハクリ性が良くサービス性を向上 ,するとともに接触不良の生じない防水型電子制御装置を提供することを目的とする(2頁左下欄5行目ないし7行目「本発明によれば防 。」 ),水性充填材の物理的な性質である引張強度,引張伸び,接着強度を規定し,それを用いることにより,プリント基板からのハクリ性の良い,つまり不良様品の交換が必要な時にハクリ作業が容易に行えるような,サービス性の良い防水型電子制御装置を得ることができる(3頁右下欄。」19行目ないし4頁左上欄5行目)との記載があり,甲19記載の発明によって,不良品の交換が必要な時に防水性充填材をプリント基板から剥離することが可能となることが認められる。
しかし,甲19には,発明が解決しようとする問題点として 「従来,の構成の防水型電子制御装置において例えば部品不良等によって,部品交換の必要性が生じた場合,防水性充填材8をプリント基板1からハクリしなければならないが,前記のようなポリブタジエン系ポリウレタンはプリント基板1に対する接着力が高く,同時に引張強度が強く引張伸びが大きく,軟質であるため,ハクリ作業が大変困難であった。あえてハクリを行なおうとした場合,プリント基板1の回路を構成している銅箔部を切断したり,他の部品に悪影響を与えることがありサービス性を考慮すると,諸性能を満たすと同時にプリント基板からのハクリ性も付。」( ) け加える必要があった2頁右上欄下から9行目ないし左下欄4行目と記載されている。甲19の上記記載によれば,甲19記載の発明に係る特許出願時の技術常識としては,一般的な防水性充填材8をプリント基板1から剥離することは大変困難であり,防水性充填材で被覆された基板から部品を取り出して交換することは,通常行われていなかったこ。, () とが認められる そして 剥離性の高いポッティング材 防水性充填剤について記載された甲19が存在したとしても,基板をケース内のポッティング材に埋めた後に,部品を修理するために基板をケース内のポッティング材から取り出すことが周知であったとまで認めることはできない。
また,甲19に記載されたような剥離性の高いポッティング材を使用したとしても,甲1発明のように,プリント基板に間隔をおいて平行に固定された放熱器を有し,プリント基板にネジ回しを挿入できる穴を設けた装置においては,プリント基板と放熱器との間隙や穴に充填されたポッティング材が容易に剥離可能かどうか明らかでなく,甲1に記載されたように,ポッティングを施さず,単に穴にネジ回しを差し込んでネジを回すことにより放熱器の着脱をすることができる場合に比べて,着脱の容易性に劣るものと推認され,ポッティング材の剥離性が高いこと,, 。 により 直ちに甲1発明の課題 作用効果が達成されるとも解されない(ウ)そうすると,甲2,甲11ないし13に記載されているように,回路基板上の抵抗やコンデンサ等の部品を完全にポッティングすることが,本件特許出願時に周知であったとの前提に立つとしても,甲18,19に基づいて,基板をケース内のポッティング材に埋めた後に,部品を修理するために基板をケース内のポッティング材から取り出すことが本件特許出願時に周知であったとは認められない。
, ,, また 甲18は部品の交換を前提とするものでなく 甲1発明の課題作用効果の達成を可能とするものではないこと(前記(ア,ポッティ))ング材の剥離性が高いことにより,直ちに甲1発明の課題,作用効果が(()),, 達成されるとも解されないこと 前記 イからすると 仮に甲1819を考慮に入れたとしても,甲1発明に甲2発明を適用することに阻害要因があるとの判断が左右されるものとは解されない。
イ原告は,甲1には部品の交換が必要な状況について一切記載されていないとした上,甲20に記載されているように,電子回路基板を作成する工程で,部品の試験を行い部品を交換することは,本件特許の出願前から周知であるとし,ポッティング材に埋める前の段階でも,部品を交換しやすいという甲1発明の効果は奏されるから,甲1発明にポッティング材を配設しても,甲1発明の効果は奏されると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。
甲20には,実装基板等を製作する各段階で,インサーキット検査(実装基板に搭載されている部品1点ずつについて良/不良を検査する,。)ファンクション検査(実装基板全体が,その機能どおり動作するかを検査する )を行い,不良と判定された場合に不良箇所の修理を実施し,良品 。
として次の工程へ渡されることが記載されている。しかし,部品交換をすることについて明示の記載はなく,ポッティングについても言及されておらず,ポッティングが予定されている基板について検査することは示唆されていないし,部品交換とポッティングとの関係を何ら開示するものではない。
他方,甲1には,部品交換が必要な状況について,放熱器の下方にあって簡単に取り外しできない部品が故障などにより交換を必要とする時に放熱器を着脱容易にすることが記載されている。ここで 「故障」とは,一,般的に,事物の正常な動きが損なわれることを意味し,これが,実装直後の試験段階で部品の不良が見出される場合に限定されるとする根拠はなく,実装基板が他の部品と組み合わせられて電子機器として組み立てられた後に正常な動きが損なわれることも意味するものと認められる。そうすると,実装直後の試験の段階で不良が見出された部品の交換が容易になるのみで,その後の部品故障時の部品交換が容易とならない場合には,甲1の課題,作用効果が達成されたとはいえない。
そうすると,甲20に,電子部品の実装直後に検査を行うべきことが記載されていたとしても,そのことから,甲1発明にポッティング材を配設しても,ポッティング前の不良部品の交換が容易であることにより甲1発明の課題が解決され作用効果が奏されている,と解することはできない。
2甲1発明と甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について甲4のフレーム6が本件発明1のケースに相当しないことから,甲1発明に甲4発明を適用して相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできないとの審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1)甲4のフレーム6の本件発明1のケースへの該当性等ア甲4発明(ア)甲4の記載甲4には,次のとおりの記載がある。
「 請求項3】半導体素子を収納したLSIケースを搭載した配線基 【板と,前記LSIケースの放熱面の取り付けられたフィンと,この配線基板を固定するフレームと,前記配線基板および前記フレームで形成する空間に注入されて前記フィンを露出させた状態で前記配線基板の表面およびLSIケースを覆って硬化されたポッティング剤とを含み,前記配線基板および前記フレームで形成する空間に液体冷媒を入れることを特徴とする半導体素子の冷却構造 」。
「 0007】図6に示す例では,プリント基板302を直接,冷媒3 【03へ浸漬するため,プリント基板302上の銅製のパッドや半田を保護しなければならず,冷媒として化学的に不活性で絶縁性のものを使用する必要があり,フロロカーボン液が使用されているが,フロロカーボン液は高価であり,また水と比較すると熱伝導率,比熱との数分の一であり,水を使用した場合と比べると冷却能力が劣っていた 」。
「 0010】図1は本発明の一実施例の縦断面図である。 【【0011】半導体素子1がLSIケース2に実装されている。LSIケース2はバンプ3にてプリント基板4に半田付けされている。半導体素子1はLSIケース2にプリント基板4の反対側が放熱面5となるように実装されている。プリント基板4は枠状のフレーム6に取付けられている。プリント基板4とフレーム6で形づくられた窪みにシリコーンゲルなどの絶縁性のポッティング剤7を注ぎ込みプリント基板4とLSIケース2のバンプ3を封じ込み,かつ放熱面5を外部にさらした状態で固めている。
【0012】LSIケース2の放熱面5は冷媒8にさらされており半導体素子8で発生した熱を放熱面5を通して冷媒8へ放熱し,冷媒8は入口11からフレーム6内に流入させ出口12から流出させてフレーム6内外に循環させて熱を運んでいる 」。
「 0016】また,図3は本発明のさらに他の実施例の断面図でLS 【Iケース2の放熱面5にフィン10を取付け,フィン10を残して,LSIケース2をポッティング剤7で覆うことにより,LSIケース2自体も冷媒8と直接接することがなくなり,LSIケース1の材質に金属等が使用可能となる 」。
「 0017】【【発明の効果】以上説明したように本発明は,半導体を実装した,LSIケースを直接冷媒と接触させているための間に冷却能力を低下させる, , 伝熱部材等は無く さらに冷媒としてフロロカーボン液に比べ熱伝導率非熱が高い水を使用できるため冷却能力を高くすることができる効果がある 」。
図1,図3には,実施例の断面図が示されている。
(イ)甲4のフレーム6前記(ア)の甲4の記載によれば,甲4には,LSIケースの放熱面又はフィンを直接液体冷媒と接触させ,冷却能力を高くした半導体素子の冷却構造が開示されている。そして,甲4に記載の半導体素子の冷却,( 。) 構造において 甲4の配線基板4 本件発明1の回路基板に相当するは枠状のフレーム6に取付けられ,配線基板4とフレーム6で形づくられた窪みにポッティング剤7が充填されており,図面からも明らかなように,フレーム6は「枠状」であって,配線基板4を底としてその周囲を囲む構造を有しており,配線基板4と相まってその中にポッティング剤及び冷媒を入れる空間を形成するものであり,実質的に底面を構成する配線基板4なくしては,ポッティング剤7を充填することはできないものである。
イ甲4のフレーム6と本件発明1のケース前記1(1)ウのとおり,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本件発明1のケースは,回路基板とは独立した機能を有する別個の構成部分を指すものであって,ケースの内部に,ケースとは別個の構成部分をなす回路基板及びポッティング材を収める空間を有するものであると解される。これに対し,甲4のフレーム6は「枠状」であって,配線基板4を底としてその周囲を囲む構造を有しており,配線基板4なくしては,ポッティング剤7を充填する空間を形成することができず,ケースの内部に,ケースとは別個の構成部分をなす回路基板及びポッティング材を収める空間を有するものとはいえない。
また,前記1(1)ウのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明も考慮すると,本件発明のケースは,ケースと,回路基板,IPMのリード及び放熱板の一部との間に充填されたポッティング材を介して熱がケースに伝達され,効果的に放熱を行うことができるようにしたものであるが,甲4のフレーム6は,フレーム6と配線基板4との間にポッティング材を充填することができない。
したがって,甲4のフレーム6は,本件発明1のケースの技術的意義を備えるものではないから,本件発明1の「ケース」に相当するということはできない。
(2)原告の主張に対しア原告は,本件特許出願前に頒布された刊行物である甲21,22には,当業者が,側壁と底面を備えたものだけでなく,側壁だけ備えたものもケースに含まれると認識していたことが示されているから,甲4のフレーム6もケースに相当すると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。
甲21( 0012【0013 ,図1,2)には,オーバーレイ1 【】,】5で覆われた表示パネル12が,側壁をなすケース6の底面を塞ぎ,これら全体によってその中に空間が形成され,その中に制御基板24が収容され,ポッティング31に埋設されている構成が記載されている。また,甲22( 0010【0016 ,図1,2)には,液晶表示パネル23 【】,】とオーバーレイ24とを順に重ね合わせて,側壁をなすケース16の底面を塞ぎ,これら全体によってその中に空間が形成され,その中に回路基板44が収容され,ポッティング51に埋設されている構成が記載されている。
しかし,甲21,22にそのような記載があるとしても,直ちにそれが当業者のケースについての一般的な認識であったとはいえない。
また,甲21のケース6及び甲22のケース16と,甲4のフレーム6は,これらを側壁とした場合の底面の構成が,回路基板との関係で異なっており,甲21のケース6及び甲22のケース16と,甲4のフレーム6を同一に捉えることはできない。すなわち,甲21,22においては,ケース(甲21の6,甲22の16 (側壁)と,液晶表示パネル(甲21 )の12,甲22の23)やオーバーレイ(甲21の15,甲22の24)(底面)とを一体のものとして捉えると,回路基板を収容しポッティングを充填する容器(ケース)として認識することができる。これに対し,甲4のフレーム6は,配線基板と相まってその中にポッティング剤及び冷媒を収容する空間を形成するものであり 配線基板4自体が実質的に容器 ケ , (ース)の底面を構成しているから,ケース内にプリント基板(配線基板)を収容する構成を採っているとはいえず,また,ポッティング材を充填しても,プリント基板(配線基板)の表面側のみが覆われるだけである。したがって,甲21にケース6が記載され,甲22にケース16が記載されていたとしても,そのことから,当業者が,甲4のフレーム6をケースに相当すると認識していたということはできない。
,,, , イまた 原告は 仮に 甲4のフレーム6がケースに相当しないとしても甲4の図6には,ケース内にプリント基板302を配設したものが記載されており,甲2には,ケース1にプリント基板2を配設し,コンパウンド10を充填させることが記載されていたから,甲4のフレーム6を底面も備えたケースに置き換えることは,単なる設計事項にすぎず,当事者にとって困難はなかったと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができな。( ,,() い甲4の図1ないし3の実施例のうち 図3は 放熱板 フィン10を有するため,本件発明1に最も近いものと認められるから,以下では,甲4の図1ないし3のうち主として図3のフレーム6を底のある容器(ケース)に置き換えることの可否について検討する )。
(ア)前記(1)ア(ア)の甲4の記載によれば,甲4の図6は,集積回路301を実装したプリント基板302全体を直接,絶縁性の冷却液303に浸漬した従来技術であって,冷却液を保持するために底のある容器を利用していることは明らかである。
これに対して,甲4の図3の実施例は,枠状のフレーム6と底面を構成する配線基板4とで形づくられた窪みにポッティング剤7を充填し,配線基板4とLSIケース2をポッティング剤7で覆い,その上に冷媒, 。 8を通すものであり フィン10のみが液体冷媒8と接するものである, , したがって 配線基板4の下面に液体冷媒を流すことを想定しておらずフレーム6は,底を有する容器であることを要するものではない。
むしろ,基板の上方と下方に冷媒を流して冷却する図6の従来技術との対比において,図3の実施例は,基板の下方には水等の冷媒を流すことを想定していないことから,冷却手段として,フレーム6の底面を抜いて,配線基板の下面を露出させ,従来技術と同等の冷却性能を維持しているものとも推測されるから,図6に底のある容器(ケース)が記載されているとしても,図3のフレーム6を図6の容器に置換することについての示唆はない。また,基板の下面の露出が冷却性能の維持に寄与, , しているのであれば 図3のフレーム6を底のある容器に変えることに阻害要因があるといえる。
(イ)甲2にはケース1にプリント基板2を配設させ,コンパウンド10を充填させることが記載されているが,甲2発明は,可変抵抗器7がコンパウンド10に充填されないように,コンパウンドの充填高よりも長い両端開口の略筒状のチューブ14aの内部に,可変抵抗器7を設けたものであって,配線基板4とLSIケース2をポッティング剤7で覆い,その上に冷媒8を流すことを特徴とする甲4記載の発明とは,その技術課題も効果も異なるから,甲2に底のある容器としてケース1が記載されているとしても,甲4の図3のフレーム6を,甲2のケース1に置き換えることについての示唆はない。また,前記(ア)のとおり,甲4の配線基板の下面の露出が冷却性能の維持に寄与しているのであれば,甲4の図3のフレーム6を甲2のケース1に置き換えることに,阻害要因があるといえる。
(ウ)したがって,甲4記載のフレーム6を底面も備えたケースに置き換えることは,単なる設計事項の範囲内のことではなく,原告の主張は採用することができない。
(3)甲1発明及び甲4発明に基づく相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性ア前記(1(2)のとおり,甲4記載のフレーム6は,本件発明1のケ ),ースに相当するということはできず,また,甲4記載のフレーム6を底を備えたケース(容器)に置き換えることは,当業者が容易に想到し得るものではないから,甲1発明について,回路基板を収容するケースと,回路基板及びIPMのリードを覆うようにケース内に充填されるポッティング材(相違点2に係る本件発明1の構成)を具備することは,甲4に基づいて容易に想到することはできない。
イ甲4は,LSIケースの放熱面又はフィンを直接液体冷媒と接触させ,冷却能力を高くした半導体素子の冷却構造を開示するものであって,ポッティング剤で覆われたプリント基板の部品交換や,フィン(放熱器)の取り外しについては何ら記載されていないから,部品交換を目的として放熱器の着脱を行う甲1発明に甲4発明を適用することについて,示唆や動機付けはない。
ウ仮に,甲1発明に甲4記載のフレーム6及びポッティング剤7を適用するならば,甲1発明のプリント基板を甲4記載の枠状のフレーム6の底面に取付け,プリント基板と半導体素子を埋設状態とし,かつ放熱器を外部にさらした状態となるように,ポッティング剤を注ぎ込んで固めることとなるが,甲1発明はプリント基板にネジ回しを挿入できる穴を有しているため,ポッティング剤の粘度によっては,ポッティング剤が穴から漏れる可能性があり,そのままではプリント基板を埋設状態とすることができない。したがって,甲1発明のように穴を有するプリント基板に対して,甲4記載の枠状のフレーム6及びポッティングを適用することには,阻害要因がある。
エしたがって,甲1発明及び甲4発明に基づいて相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできない。
3甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について審決が,甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づいて本件発明1は容易に発明することができなかったとした判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,相違点2に係る本件発明1の構成について,前記1のとおり,甲1発明に甲2発明を適用してこれを容易に想到することはできなかったものであり,また,前記2のとおり,甲1発明に甲4発明を適用してもこれを容易に想到することはできなかったものであり,その他に,相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたか否かにかかわらず,甲1発明及び甲2,甲4,甲6ないし8記載の発明に基づいて本件発明1を容易に発明することはできなかったものであり,同旨の審決の判断に誤りはない。
4結論以上のとおり,審決の容易想到性の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 知野明