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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10049審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10487審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 加工方法 /  容易に発明 /  共有 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  審決確定(審決が確定) /  取消判決 /  公知事実 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10464号 審決取消請求事件
原告株 式会社小松製作所
原告コ マツ産機株式会社
上記両名訴訟代理人弁理士 木下實三 石崎剛 小泉妙子 津田幸宏
被告株式会社アマダ
同訴訟代理人弁護士末吉亙 高橋元弘
同弁理士豊岡静男 櫻井義宏
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2007−800014号事件について平成20年10月24日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文第1項と同旨第2事案の概要本件は,原告らが,下記1のとおりの手続において,下記1(1)の請求項1に係る本件発明についての特許を無効とした本件審決の取消しを求める事案である。
1本件訴訟に至る手続の経緯(1)原告らは,発明の名称を「パンチプレス機における成形金型の制御装置」とする特許第3727445号の特許(平成9年7月18日出願,平成17年10月7日設定登録。以下,請求項1に係る発明についての特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件明細書」という。)に係る特許権を共有する者である。
(2)被告は,平成19年1月26日,本件特許について,特許無効審判を請求し,無効2007-800014号事件として係属した。
特許庁は,平成19年8月27日,審判請求不成立の審決(以下「前審決」という。)をした。
(3)被告は,平成19年10月5日,知的財産高等裁判所に対し,前審決の取消しを求める訴え(平成19年(行ケ)第10338号)を提起した。
知的財産高等裁判所は,平成20年6月30日,前審決を取り消す旨の判決(以下「前判決」という。)を言い渡し,同判決は確定した。
(4)特許庁は,無効2007-800014号事件を審理し,同手続中で原告らは,平成20年8月22日,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載等を訂正する請求をした。以下,その訂正を「第1次訂正」という。
特許庁は,平成20年10月24日,上記訂正を認めた上,本件特許を無効とする旨の本件審決をし,同年11月7日,その謄本を原告らに送達した。
2訂正審決の確定(1)原告らは,平成21年2月24日,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載等を訂正する旨の審判(訂正2009-390020)を請求をした。以下,その訂正を「第2次訂正」といい,第2次訂正後の発明を「本件訂正発明」という。
特許庁は,同年9月16日,上記訂正を認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をし(甲30),本件訂正審決は確定した。
(2)前判決が審理の対象とした第1次訂正前の特許請求の範囲の記載は,別紙1のとおりであり,本件審決が審理の対象とした第1次訂正後の特許請求の範囲の記載は,別紙2のとおりであり,本件訂正審決が認めた第2次訂正後の特許請求の範囲の記載は,別紙3のとおりである。なお,文中の「/」は原文の改行部分を,アンダーラインは訂正部分を示す。
第3当事者の主張〔原告らの主張〕(1)本件特許を無効とする本件審決の取消訴訟の係属中に本件特許権について特許請求の減縮を目的とする本件訂正審決が確定したのであるから,本件審決は,取り消されなければならない。
(2)被告の主張に対する反論ア第2次訂正による「打抜加工の可能な」との訂正事項は,特許請求の範囲をさらに減縮するものであり,減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加されているから,訂正前の明細書に基づく発明について対比された公知事実のみならず,その他の公知事実との対比を行わなければ,上記発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない。
また,本件訂正発明が本件審決において対比された公知事実により同様に無効とされるべきときであっても,改めて特許の無効の審判によってこれを無効とするべきであり,本件審決の取消しを妨げる理由とならない。
第2次訂正は,前判決が審理した特許請求の範囲と比較しても,特許請求の範囲減縮したものであり,被告の主張は理由がない。
イ仮に,本件訂正審決に,被告が主張するような違法があったとしても,特許法は,123条1項8号において,126条4項に違反して訂正審決がされたことが特許の無効原因となる旨を規定するから,その違法については,これを理由として改めて特許無効審判によりこれを無効とすることが予定されているのであって,本件審決が取り消されることを妨げられるべき理由とはならない。そして,被告も自認するとおり,本件訂正審決には,前判決の拘束力が働くものでもない。
〔被告の主張〕(1)第2次訂正において訂正された特許請求の範囲の内容は,本件審決が審理した特許請求の範囲の内容と比較すると,変更されているのは,「成形加工を行うとともに打抜加工の可能なパンチプレス機」という部分のみである。パンチプレス機が打抜加工及び成形加工をする機械であることは,乙1ないし10のとおり自明であるから,第2次訂正は,自明な事項を追加記載したにすぎないものであり,特許請求の範囲減縮したものではない。そして,自明な事項を追加記載しても,特許請求の範囲に記載された発明が特許を受けることができるかどうかの判断が変わることはなく,何ら新たな公知事実等も必要ないことは明らかである。
また,第2次訂正を前判決が審理した特許請求の範囲の内容と比較すると,主として,パンチプレス機が,?@パンチおよびダイを備え,?Aパンチおよびダイのいずれかの成形位置を制御することを特定したことが異なるのみである。前記打抜加工と同様に,パンチプレス機が当然に備えている部品や機能を特定したにすぎないものであるから,第2次訂正における訂正事項は,自明な事項を追加記載したにすぎないものであり,特許請求の範囲減縮したものではない。
よって,本件は最高裁平成11年3月9日判決の射程外であり,本件訂正審決が確定したことが,本件審決を取り消すべき理由とはならない。
(2)本件訂正審決は,本件訂正発明と特開平3-294135号公報に記載された引用発明との相違点1及び相違点2について,それぞれ設計的事項又は当業者が容易に想到し得る事項であると判断しながら,本件訂正発明は,相違点1及び相違点2の構成により相乗作用及び効果を奏するが,引用発明や周知例には,相違点1及び相違点2を同時に備えた構成は記載も示唆もされていないから,本件訂正発明は,引用発明ないし周知例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないと判断した。
しかし,前判決によれば,パンチプレス機のそれぞれの加工方法に対して,引用発明の制御装置が備える制御方法を適用することができるのであり,相違点2において容易と判断された構成についても,同様に適用でき,相違点2に係る構成に,引用発明の制御装置が備える制御方法を適用すれば,本件訂正審決が認定する効果を奏することは自明であり,本件訂正審決の判断は,前判決の判示事項と整合しないものである。
いずれにせよ,第2次訂正後の特許請求の範囲を前提としても,前判決の拘束力により,本件特許は無効となるべきものであるから,本件審決は適法であって,原告らの請求は棄却されるべきものである。
第4当裁判所の判断1本件訂正審決の確定と本件審決の帰すう(1)第2次訂正は,請求項1に係る特許請求の範囲の記載を別紙1から別紙3のとおりとする訂正であって,その訂正が特許請求の範囲減縮を目的とすることは,明らかである(甲21,22,30)。また,本件審決が対象とした,請求項1に係る特許請求の範囲の記載を別紙2のとおりとする発明と比較しても,第2次訂正は,打抜加工が可能であることを特許請求の範囲に記載することにより,成形加工及び打抜加工の両方を行うパンチプレス機に限定するものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とするものといわざるを得ない。
したがって,無効審決である本件審決の取消訴訟の係属中に本件特許権について特許請求の減縮を目的とする本件訂正審決が確定したのであるから,本件審決は,取り消されなければならない(最高裁平成7年(行ツ)第204号平成11年3月9日第三小法廷判決・民集53巻3号303頁)。
(2)被告は,第2次訂正が,乙1ないし10のとおり自明な事項を追加記載したにすぎないものであり,特許請求の範囲減縮したものではなく,本件は上記判決の射程外であるなどと主張する。しかしながら,従来,成形加工及び打抜加工の両方を行うパンチプレス機が存在していたとしても(乙1〜10),他方,成形加工のみを行い打抜加工を行わないパンチプレス機も存在していたところ(甲32,33),第2次訂正は,成形加工及び打抜加工の両方を行うパンチプレス機に限定する趣旨のものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とするものであることは,明らかである。そして,本件訂正審決が確定したことにより,明細書や特許請求の範囲等の記載が訂正され,出願時にさかのぼって第2次訂正後の明細書や特許請求の範囲等の記載により出願,特許査定等がされたものとみなされるから(特許法128条),第2次訂正前の明細書や特許請求の範囲等の記載に基づいて発明の要旨を認定した本件審決には,その認定に誤りがあることになる。そして,成形加工及び打抜加工の可能なパンチプレス機を対象とする本件訂正発明と,穴明機を対象とする引用発明の相違点について,改めて特許庁における審判の手続によって,審理判断すべきものである。
また,被告は,本件訂正発明が本件審決において対比されたのと同一の引用発明により無効とされるべき場合であるとも主張する。しかしながら,本件訂正審決は,本件訂正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであると判断しており(甲30),本件訂正発明が本件審決において対比された引用発明により同様に無効とされるべきであるならば,本件訂正審決は特許法126条5項の規定に反していることとなるところ,そのような場合には,これを理由として改めて特許の無効の審判によりこれを無効とすることが予定されている(特許法123条1項8号)。
被告は,第2次訂正後の特許請求の範囲を前提としても,前判決の拘束力により,本件特許は無効となるべきものであるとも主張する。しかしながら,取消判決の確定後,特許請求の範囲減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には,減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加され発明の要旨が変更されるのであるから,当該訂正によっても影響を受けない範囲における認定判断については格別という余地があるとしても,訂正前の特許請求の範囲に基づく発明の要旨を前提にした取消判決の拘束力は遮断され,再度の審決に当然に及ぶということはできない。
よって,被告の主張は,いずれも採用することができない。
2結論以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。なお,訴訟費用については,行政事件訴訟法7条,民訴法62条,65条を適用し,原告らの負担とする。
追加
(別紙1)ストローク量に応じて被加工物の成形加工量が変更可能な成形金型を用いて被加工物の成形加工を行うパンチプレス機における成形金型の制御装置であって,(a)加工プログラムから読み取られる被加工物の材質データおよび板厚データをそれぞれ記憶する材質メモリ部および板厚メモリ部,(b)加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部,(c)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部,(d)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを記憶する変更データメモリ部,(e)前記加工プログラムによる加工時に,前記金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,このプレスモーション番号毎に,前記共通データメモリ部から被加工物の材質・板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに,前記変更データメモリ部から被加工物の材質・板厚により変更するプレスモーションの詳細設定データを生成し,これらの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成するプレス駆動データ生成部および(f)このプレス駆動データ生成部において生成された駆動データに基づいてプレスの駆動制御を行うプレス駆動制御部を備えることを特徴とするパンチプレス機における成形金型の制御装置。
(別紙2)パンチおよびダイを備え,ストローク量に応じて被加工物の成形加工量が変更可能な成形金型を用いて被加工物の成形加工を行うパンチプレス機における成形金型の制御装置であって,(a)加工プログラムから読み取られる被加工物の材質データおよび板厚データをそれぞれ記憶する材質メモリ部および板厚メモリ部,(b)加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部,(c)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質および板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データであって,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を含むプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部,(d)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質および板厚により,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を変更する材質・板厚の補正データを記憶する変更データメモリ部,(e)前記加工プログラムによる加工時に,前記金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,/このプレスモーション番号毎に,前記共通データメモリ部から被加工物の材質および板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データであって,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を含むプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに,/前記変更データメモリ部から転送された,参照されたプレスモーション番号毎の材質・板厚の補正データに基づく被加工物の材質および板厚に該当する設定値データにより,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を補正し,補正された成形位置を含むプレスモーションの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成するプレス駆動データ生成部および(f)このプレス駆動データ生成部において生成された駆動データに基づいてプレスの駆動制御を行うプレス駆動制御部を備えることを特徴とするパンチプレス機における成形金型の制御装置。
(別紙3)パンチおよびダイを備え,ストローク量に応じて被加工物の成形加工量が変更可能な成形金型を用いて被加工物の成形加工を行うとともに,打抜加工も可能なパンチプレス機における成形金型の制御装置であって,(a)加工プログラムから読み取られる被加工物の材質データおよび板厚データをそれぞれ記憶する材質メモリ部および板厚メモリ部,(b)加工プログラム中の金型番号に対応するプレスモーション番号を記憶する金型情報メモリ部,(c)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質および板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データであって,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を含むプレスモーションの詳細設定データを記憶する共通データメモリ部,(d)各プレスモーション番号毎に被加工物の材質および板厚により,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を変更する材質・板厚の補正データを記憶する変更データメモリ部,(e)前記加工プログラムによる加工時に,前記金型情報メモリ部から装着金型に対応するプレスモーション番号を参照し,/このプレスモーション番号毎に,前記共通データメモリ部から被加工物の材質および板厚に無関係なプレスモーションの詳細設定データであって,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を含むプレスモーションの詳細設定データを生成するとともに,/前記変更データメモリ部から転送された,参照されたプレスモーション番号毎の材質・板厚の補正データに基づく被加工物の材質および板厚に該当する設定値データにより,前記パンチおよびダイのいずれかの成形位置を補正し,補正された成形位置を含むプレスモーションの詳細設定データに基づきプレス軸を駆動するための駆動データを生成するプレス駆動データ生成部および(f)このプレス駆動データ生成部において生成された駆動データに基づいてプレスの駆動制御を行うプレス駆動制御部を備えることを特徴とするパンチプレス機における成形金型の制御装置。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 本多知成