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関連審決 訂正2007-390016 無効2007-800133 訂正2008-390084
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10004審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10261審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10003審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10288審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  周知技術 /  慣用技術 /  公知技術 /  課題の共通性 /  下位概念 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  着想 /  クレーム /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  信義則 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  交換 /  設定登録 /  混同 /  特許審決 /  訂正審判 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  訂正要件 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10015号 審決取消請求事件
原告大 和製衡株式会社
訴訟代理人弁護 士三山峻司
同 井上周一
同 金尾基樹
同 木村広行
訴訟代理人弁理 士角田嘉宏
同 古川安航
同 佃誠玄
被告株 式会社イシダ
訴訟代理人弁護 士伊原友己
同 岩坪哲
同 加古尊温
同 速見禎祥
訴訟代理人弁理 士吉村雅人
同 藤岡宏樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/10/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2007-800133号事件について平成20年12月15日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1本件は,発明の名称を「計量装置」とする特許第2681104号について,原告が無効審判請求をし,これに対し被告が平成20年10月14日付けで発明の名称を「組合せ計量装置」とするとともに特許請求の範囲等を変更する訂正を請求したところ,特許庁は,訂正を認めた上で請求を不成立とする審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものか(平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書),及び,上記訂正後の発明が下記刊行物に記載された発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記・実願昭58-101360号(実開昭60-8843号)のマイクロフイルム(考案の名称「組合せ秤におけるホッパー構造」,公開日 昭和60年1月22日,出願人 株式会社寺岡精工,甲3。以下「引用例1」といい,そこに記載された発明を「引用発明1」という。)・特開昭61-35192号公報(発明の名称「カム動作制御装置」,公開日昭和61年2月19日,出願人 株式会社東芝,甲119。以下「引用例2」といい,そこに記載された発明を「引用発明2」という。)・特開昭60-238722号公報(発明の名称「定量秤」,公開日 昭和60年11月27日,出願人 大和製衡株式会社,甲4。以下「引用例3」といい,そこに記載された発明を「引用発明3」という。)〈判決注〉平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項は,次のとおりである。
第123条第1項の審判の被請求人は,前項又は第153条第2項の規定により指定された期間内に限り,願書に添付した明細書又は図面の訂正を請求することができる。ただし,その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,かつ,次に掲げる事項を目的とするものに限る。
1 特許請求の範囲減縮2 誤記の訂正3 明りょうでない記載の釈明」3なお,本件に関連する訴訟として,本件の被告を原告とし本件の原告を被告とする大阪地裁平成19年(ワ)第2076号損害賠償請求事件(以下「別件訴訟」という。)が係属中である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯ア被告は,昭和61年11月15日,名称を「計量装置」とする発明について特許出願(特願昭61-272685号)し,平成9年8月8日,特許第2681104号として設定登録を受けた(発明の数1,特許公報は甲2。以下「本件特許」という。)。その後,被告は,平成19年2月13日付けで本件特許について訂正審判請求(訂正2007-390016号)をしたところ,特許庁は,平成19年3月8日付けでこれを認める審決(甲1,特許審決公報は,甲123)をした。
イこれに対し,原告は,平成19年7月13日付けで本件特許(発明の数1)につき特許無効審判請求をしたので,特許庁は,これを無効2007-800133号事件として審理し,被告はその中で平成20年4月25日付けで訂正請求をした(甲104)ところ,特許庁は,平成20年6月18日,訂正を認めた上,本件特許を無効とする旨の審決(甲107。以下「前審決」という。)をした。
ウそこで,被告は,上記審決に対して取消訴訟(当庁平成20年(行ケ)第10248号)を提起するとともに,平成20年7月28日付けで訂正審判請求(訂正2008-390084号)をしたところ,知的財産高等裁判所は,平成20年9月29日,特許法181条2項により上記審決を取り消す旨の決定(甲108)をした。
エそこで,特許庁において上記無効審判請求が再び審理されることとなり,その中で原告は,本件特許について,平成20年10月14日付けで発明の名称を「組合せ計量装置」と変更するとともに特許請求の範囲等を変更する訂正請求(甲109,以下,この訂正を「本件訂正」という。)をしたところ,特許庁は,平成20年12月15日,上記平成20年10月14日付けの訂正を認めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」ということがある。)をし,その謄本は平成20年12月22日原告に送達された。
(2) 発明の内容ア 本件訂正前本件訂正前の「特許請求の範囲」は,平成19年3月8日付けの訂正審決(甲1,123)のとおりであり,その内容は次のとおりである(以下「訂正前発明」という。)。
「被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉駆動するモータとを備えた計量装置であって,前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記モータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,設定されたゲートの動作変化に基づいて前記モータを制御する制御手段とを設け,前記入力手段はコントロールパネルに含まれており,被計量物の種類や供給量に応じて前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とする計量装置。」イ 本件訂正後本件訂正後の「特許請求の範囲」は,平成20年10月14日付け訂正請求(甲109)のとおりであり,その内容は次のとおりである(以下「本件特許発明」という。下線部が訂正部分)。
「被計量物品を貯蔵し排出する複数種類のホッパと,各ホッパの排出口にそれぞれ設けられたゲートと,各ゲートをリンク機構を介して開閉駆動するモータとを備えた組合せ計量装置であって,前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,前記ステップモータによりゲートを開閉駆動する,指定されたホッパについて,当該ホッパの前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記ステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,組合せ演算の結果選択されたホッパについて設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段とを設け,前記入力手段はコントロールパネルに含まれており,被計量物の種類や供給量に応じて,前記指定されたホッパについての前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とする組合せ計量装置。」(3) 訂正の内容本件訂正の内容は,発明の名称を「組合せ計量装置」とし,特許請求の範囲減縮等を理由に「特許請求の範囲」を前記(2)イのとおり訂正するほか,「発明の詳細な説明」(特許審決公報[甲123]7頁33行,43行〜47行)につき,誤記の訂正及び上記「特許請求の範囲」の訂正に準じた訂正(詳細は別添審決写しのとおり)をするものである。
(4) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,?@本件訂正は,特許請求の範囲減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであって,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものではないから,適法である,?A本件特許発明は,引用発明1及び引用発明2並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない(無効理由3),?B本件特許発明は,引用発明1と同一ではなく,引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない(無効理由1),?C本件特許発明は,引用発明3と同一ではなく,引用発明3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない(無効理由2),というものである。
イなお,審決が認定した引用発明1の内容,同発明と本件特許発明(訂正後のもの)の一致点及び相違点は,次のとおりである。
<引用発明1の内容>「被計量物品を貯蔵し排出する,プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6と,該プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6にそれぞれ設けられた底蓋7及び底蓋8と,該底蓋7及び底蓋8をそれぞれリンク15と偏心カム17の組及びリンク16と偏心カム18の組を介して同時に開閉駆動する一つのモータとを備えた組合せ秤であって,前記モータは,パルスモータ19であり,組合せ演算の結果選択された計量ホッパ6について前記パルスモータ19を制御する制御手段とを設けた組合せ秤。」<一致点>両発明は,いずれも「被計量物品を貯蔵し排出する複数種類のホッパと,各ホッパの排出口にそれぞれ設けられたゲートと,各ゲートをリンク機構を介して開閉駆動するモータとを備えた組合せ計量装置であって,前記モータは,ステップモータであり,組合せ演算の結果選択されたホッパについて前記モータを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする組合せ計量装置。」である点で一致する。
<相違点ア>ゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を実現する手段について,本件特許発明は,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,…設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段」を設けることによりゲートの刻々の動作変化を任意に実現できるのに対し,引用発明1では,その点が明らかでない点が相違する。
<相違点イ>モータについて,本件特許発明は,「モータは,ホッパ毎に設けられ」ているのに対し,引用発明1は,「底蓋7及び底蓋8をそれぞれリンク15とカム17の組及びリンク16とカム18の組を介して同時に開閉駆動する一つのモータ19」とあるように,モータは一組の「プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6」毎に設けられている点が相違する。
<相違点ウ>入力手段について,本件特許発明は,「入力手段はコントロールパネルに含まれて」いるとしているのに対し,引用発明1では,そのことが明らかでない点が相違する。
ウまた,審決が認定した引用発明3の内容,同発明と本件特許発明(訂正後のもの)の一致点及び相違点は,次のとおりである。
<引用発明3の内容>「被計量物を貯蔵し排出する溜めホッパ12と,該溜めホッパ12の排出口に設けられた投入ゲート14と,該投入ゲート14を変速ギア20を介して開閉駆動するモータとを備えた定量秤であって,前記モータは溜めホッパ12に設けられたパルスモータポジショナーであり,前記パルスモータポジショナーにより投入ゲート14を開閉駆動する,溜めホッパ12について,前記投入ゲート14の開き始めから閉じるまでの動作変化を流量GA乃至GE及び切替重量WA乃至WEとしてマイクロコンピュータ40に任意に設定するキースイッチ48と,溜めホッパ12について,計量された被計量物に係る計量信号Wと該切替重量WA乃至WEとを順次比較して,各切替重量WA乃至WE以上となる毎に対応する流量GA乃至GEに相当する信号に応じてパルスモータポジショナーを駆動するマイクロコンピュータ40及びD/A変換器28とを設け,上記被計量物の種類が変更されて供給流量が変更される場合も,上記投入ゲート14の開度を任意に制御できるようにした定量秤」<一致点>両発明は,いずれも「被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,ホッパの排出口に設けられたゲートと,ゲートを伝達機構を介して開閉駆動するモータとを備えた計量装置であって,前記モータは,ホッパに設けられたステップモータであり,前記ステップモータよりゲートを開閉駆動する,ホッパについて,当該ホッパの前記ゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化をテーブルに任意に設定する入力手段と,ホッパについて前記ステップモータを制御する制御手段とを設け,被計量物の種類や供給量に応じて,ホッパについての前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とする計量装置。」である点で一致する。
<相違点ア>ゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を実現する手段について,本件特許発明は,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,…設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段」を設けることによりゲートの刻々の動作変化を任意に実現できるのに対し,引用発明3は,「投入ゲート14(ゲート)の開き始めから閉じるまでの動作変化を流量GA乃至GE及び切替重量WA乃至WEとしてマイクロコンピュータ40(テーブル)に任意に設定するキースイッチ48(入力手段)と,…計量された被計量物に係る計量信号Wと該切替重量WA乃至WEとを順次比較して,各切替重量WA乃至WE以上となる毎に対応する流量GA乃至GEに相当する信号に応じてパルスモータポジショナーを駆動(制御)するマイクロコンピュータ40及びD/A変換器28(制御手段)」によりゲートの動作変化を実現している点が相違する。
<相違点イ>伝達機構について,本件特許発明は,「リンク機構」を用いているのに対し,引用発明3は,「変速ギア20」を用いている点が相違する。
<相違点ウ>モータについて,本件特許発明は,モータは複数種類のホッパ毎に設けられているのに対し,引用発明3では,モータは溜めホッパ12にのみ設けられている点が相違する。
<相違点エ>入力手段について,本件特許発明は,「入力手段はコントロールパネルに含まれて」いるとしているのに対し,引用発明3ではそのことが明らかでない点が相違する。
<相違点オ>計量装置について,本件特許発明は,「組合せ演算の結果選択されたホッパ」とあるように「組合せ計量装置」であるのに対し,引用発明3は,単なる定量秤であるにとどまる点が相違する。
(5) 審決の取消事由しかしながら,本件審決には,以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(訂正要件に適合するとした判断の誤り)(ア)「前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,」とする本件訂正は,新規事項を追加するものであって,訂正要件を欠くから,不適法であるa本件訂正後の特許請求の範囲に記載されたモータが設けられるところの「ホッパ毎」の意義(a)本件審決は,モータが設けられる対象である「ホッパ毎」の意義について,「本件特許発明は,『モータは,ホッパ毎に設けられ』ているのに対し,引用発明1は,『底蓋7及び底蓋8をそれぞれリンク15とカム17の組及びリンク16とカム18の組を介して同時に開閉駆動する一つのモータ19』とあるように,モータは一組の『プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6』毎に設けられている…」(29頁2行〜6行)と述べている。すなわち,引用発明1ではプールホッパー(供給ホッパ)と計量ホッパとで共通にモータが設けられているため,「ホッパ毎」にモータが設けられている本件特許発明とは相違する,と認定している。
(b)そこで,以下,供給ホッパと計量ホッパに着目して,モータが設けられるところの「ホッパ毎」の意義を検討するに,以下のような構成が含まれると判断される可能性がある。
?@構成1:1個1個のホッパ毎(1個1個のホッパに1個ずつモータが接続されている構成)モータが設けられるところの「ホッパ毎」を,「1個1個のホッパ毎」と解釈するものである。このような解釈は日本語として最も自然であるし,本件審決の記載もこのような解釈を前提として合理的に理解できる。この場合のみを「ホッパ毎」と解釈すると,複数のホッパをひとまとめのグループにし,そのグループ毎にモータが設けられる場合,「ホッパ毎」にモータが設けられているとはいわない。
?A構成2:ユニットの異なるホッパ毎(異なるユニットに属するホッパには異なるモータが接続されている構成)本件審決が引用発明を認定した引用例1に開示されているような,異なるユニットのホッパには異なるモータが設けられている構成,すなわちユニットの異なるホッパ毎にモータが設けられている構成である。組合せ計量装置では,一般に,供給ホッパと計量ホッパとをひとまとめにして一つのユニット(ヘッド)とし,このようなユニットが円周状(実願昭57-67392号(実開昭58-169532号)のマイクロフィルム(考案の名称「組合せ計量装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和58年11月12日[甲86]第8図)あるいは列状(引用例1[甲3],第2図)に配設される。1個のユニット毎に1個の計量値が得られ,その計量値を用いて組合せ演算が行われる。そのようなユニット毎(供給ホッパと計量ホッパとを1個ずつ含む組毎)にモータが設けられる構成であっても,例えば計量ホッパのみに着目すれば,1個1個の計量ホッパ毎にモータが設けられていると判断される可能性がある。したがって,ユニットの異なるホッパ毎にモータが設けられる場合も,「ホッパ毎」にモータが設けられていると判断される可能性がある。
ただし,本件審決は,無効理由3において引用発明1と本件特許発明との相違点イにおいて,「モータはホッパ毎に設けられている」点で相違していると認定しているから,構成2は,モータがホッパ毎に設けられているとはいえない構成と評価している。
?B構成3:種類の異なるホッパ毎(種類の異なるホッパには異なるモータが接続されている構成)ホッパには,供給ホッパや計量ホッパなど,複数の種類が存在する。そこで,そのような種類毎にホッパをグループ分けし,そのグループ毎にモータが設けられる場合も,「ホッパ毎」にモータが設けられていると判断される可能性がある。
本件審決は,「…モータを複数種類のホッパ毎に設けることは,…いずれの甲号各証にも示されていない。」(32頁2行〜4行)とか,「本件特許発明は,モータは複数種類のホッパ毎に設けられている」(36頁25行)などと述べている。これらの記載によれば,本件審決が,種類の異なるホッパには異なるモータが設けられている構成,すなわち種類の異なるホッパ毎にモータが設けられている構成を「モータがホッパ毎に設けられている」構成と解しているという理解も成り立たなくはない。
(c)上記のとおり,本件審決は,モータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈として,上記構成2を排除している。一方,上記のとおり,本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈として上記構成3をも排除していることが100%確実とは必ずしも言い切れない。
しかし,まず,本件審決はモータが設けられる対象となる「ホッパ毎」を上記構成1の構成のものと解釈しているとして,以下の検討を行い,念のため上記構成3の構成を含むと解釈した場合について,補足的に検討を行うこととする。
b本件審決がモータが設けられる「ホッパ毎」を「1個1個のホッパ毎」と解釈しているとした場合における訂正要件の判断の誤り(a)本件審決は,「前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,」との構成を付加する訂正の根拠となる,本件訂正前の本件特許明細書(甲123。以下「本件訂正前明細書」という。)等の記載として,以下の4点を挙げている(20頁22行〜21頁3行)。
「(i)「ステップモータは図示しないリンク機構を介してホッパのゲートと連結されてホッパ6のゲートを開閉制御する」との記載(特許審決公報8頁9行)。
(ii)ホッパ6に対しステップモータ5が設けられている特許掲載公報【第1図】の記載。
(iii)「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる。
例えば,第4図(b)に示すようなメッセージを表示させて,ホッパ毎に個別に指定しても良い。このように個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223718号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる。」との記載(同10頁28〜34行)。
(iv)メッセージの表示として,計量機○○番目・ホッパゲート開度○○%・開閉周期○○%を示した特許掲載公報【第4図】(b)の記載。」(b)その上で本件審決は,「これら(i)ないし(iv)の記載を総合すれば,ホッパゲートの開閉動作はステップモータを制御することによりリンク機構を介して行われ,その動作変化についてはホッパ毎に個別に指定し得るものであることが読み取れるところ,ゲートはホッパ毎に設けられているのであるから,ゲートの開閉動作のために設けられたステップモータはゲート毎に,すなわちホッパ毎に設けられているとみるのが自然である。」(21頁4行〜9行)と述べている。
しかし,上記(i)ないし(iv)の記載を総合しても,モータが「ホッパ毎」,すなわち「1個1個のホッパ毎」に設けられているとみるのが自然とはいえない。以下,訂正前発明の作用効果,本件特許出願時の技術水準又は技術常識,本件訂正後の特許請求の範囲の記載を参酌しつつ述べる。
α 訂正前発明の作用効果に基づく検討本件特許発明の「ホッパ毎に個別に指定し得る」とは,上記(iii)の「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる。」という本件訂正前明細書の記載に基づくものである。
本件訂正前明細書等においては,「ホッパ毎に個別に指定すること」ができることに関連して,以下のような作用効果が記載されている。
?@第4図(b)に示すようなメッセージを表示させてホッパ毎に個別に指定できる(特許審決公報[甲123]10頁30行)?A親子計量において有効となる(特許審決公報[甲123]10頁31行〜32行,11頁12行〜13行)?B時間差排出を行わせることもできる(特許審決公報[甲123]11頁13行〜14行)?Cミックス計量する場合にも有効となる(特許審決公報[甲123]11頁14行〜15行)そこで,以下順に,上記?@〜?Cの作用効果に照らして「ホッパ毎に個別に指定すること」の具体的な意味を明らかにする。
?@第4図(b)第4図(b)は,計量機を単位として,「指定」と「設定」が行われることを示している。
ここでいう「計量機」という概念については,上記?@の引用部分に続く部分で言及されている特開昭58-223718号公報(発明の名称「組み合せ計量」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和58年12月26日。甲69)において,「12A,…12B,…は主供給装置のまわりに放射状に配設されたn個の計量セクションであり(図では2つの計量セクションのみ示す),それぞれ分散供給装置12a,プールホッパ12b,プールホッパゲート12c,計量ホッパ12d,重量検出部12e,計量ホッパゲート12fを有している。…尚,以後計量ホッパ,計量ホッパゲート,重量検出器にて組立てられた装置部分を計量機という。又,計量セクション12A,12B,……のうち,m個の計量セクションは荒重量を与えるものとして予め定められており,残りの計量セクションにて補正重点重量値に等しいか,または最も近い計量機の組み合せを選び出す。」(3頁左上欄14行〜左下欄3行)と記載されているから,1組の計量ホッパ,ゲート,計量センサによって「計量機」が構成される。
したがって,第4図(b)にある「計量機○○番目」とは,個々の計量ホッパに対応する「計量機」について番号が振られ,設定が行われることを意味するのであり,「ホッパ毎に個別に指定すること」とは,個々の計量ホッパ(複数存在する同一種類のホッパである複数の計量ホッパのうち,1個1個の計量ホッパ)を単位として設定が行われることを示すことになる。このような意味での指定(複数の計量ホッパのうち,いずれかの計量ホッパを指定する)を行うことができる構成として,自然に考えられるのは,上記構成1の「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられている構成,及び上記構成2の「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成である。いずれも,異なる計量ホッパには異なるモータが接続されており,計量ホッパを指定すれば制御対象となるモータが1個に特定されるからである。
以上をまとめれば,第4図(b)は,上記構成2のように「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成を排除しない。裏を返せば,第4図(b)は,本件特許発明が上記構成1のように「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられているとする本件審決の見解を根拠づけるのに十分なものではない。
?A親子計量本件訂正前明細書(特許審決公報[甲123]10頁31行)に親子計量を開示する文献として引用されている上記特開昭58-223718号公報(甲69)には,上記のとおり記載されているから,親子計量とは,供給ホッパと計量ホッパとを1個ずつ備えるユニットを複数備える組合せ計量装置において,当該ユニットを二つのグループに区分し,一方を親機(荒充填用計量セクション),他方を子機(補正充填用計量セクション)とするものである。
親子計量におけるユニットのグループ分けを行うことができる構成として,自然に考えられるのは,上記構成1の「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられている構成,及び上記構成2の「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成である。いずれも,異なるユニットに属するホッパには異なるモータが接続されており,モータを特定すれば対象となるユニットも1個に特定されるからである。
以上をまとめれば,本件訂正前明細書の「親子計量において有効となる」との記載は,上記構成2のように「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成を排除しない。
裏を返せば,「親子計量において有効となる」との記載は,本件特許発明が上記構成1のように「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられているとする本件審決の見解を根拠づけるのに十分なものではない。
?B時間差排出本件訂正前明細書(特許審決公報[甲123]11頁13行)に時間差排出を開示する文献として引用されている特開昭58-41324号公報(発明の名称「自動計量装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和58年3月10日。
甲70)の特許請求の範囲には,「…組合せ選択された任意数の計量ホッパを時間差を持たせて一個宛連続してシュートへ物品を排出させる様になしたことを特徴とする自動計量装置。」(1頁左欄9行〜12行)と記載されている。また,「…番号の小さい計量ホッパ(2 )から順々に計量ホッパ(2 )↑1 3(2 )↑(2 )↑(2 )へと所定時間遅らせ乍ら排出指令5 8 n信号を発し,信号を受けた計量ホッパ(2 )から順次排出口1(2a)を開放させてシュート(1)内へ物品を排出させ,ここで回収させる。」(3頁左上欄4行〜9行)と記載されている。
同時に計量ホッパのゲートを開けば一度に多量の被計量物がシュートの出口に集中してしまう。そうすると,被計量物のひっかかり(ブリッジ)が発生し,被計量物をタイミングホッパにスムーズに投入できない場合がある。同号証の組合せ秤は,このような課題に対応するものであるから,複数存在する同一種類のホッパたる「計量ホッパ」を対象として,「個々の計量ホッパ毎に排出タイミングを異ならせる」ものであることが分かる。
このような制御(個々の計量ホッパ毎に排出タイミングを異ならせる制御)を行うことができる構成として,自然に考えられるのは,上記構成1の「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられている構成,及び上記構成2の「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成である。いずれも,異なる計量ホッパには異なるモータが接続されており,各モータの駆動タイミングをずらすことで,個々の計量ホッパ毎に排出タイミングを異ならせることができるからである。
以上をまとめれば,上記?Bの「時間差排出を行わせることもできる」との記載は,上記構成2のように「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成を排除しない。裏を返せば,「時間差排出を行わせることもできる」との記載は,本件特許発明が上記構成1のように「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられているとする本件審決の見解を根拠づけるのに十分なものではない。
?Cミックス計量本件訂正前明細書(特許審決公報[甲123]11頁15行)にミックス計量を開示する文献として引用されている特開昭58-19516号公報(発明の名称「複数の種類の品物の混合組合せ計量方法及び計数方法」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和58年2月4日。甲80)は,複数の種類の品物(例えばピーナッツと柿の種を混合した商品におけるピーナッツと柿の種)の混合組合せ計量方法を開示するものであり,その特許請求の範囲には,「n台の計量機で構成される組合せ計量機を複数基用い,複数の種類の品物を種類毎に対応する夫々の組合せ計量機によって組合せ計量し,所定の構成重量比からなる複数の種類の品物の集合物を得ることを特徴とする複数の種類の品物の混合組合せ計量方法。」(1頁左欄6行〜11行)と記載されている。また,「…この発明は,組合せ計量機を複数の種類の品物に応じて複数基設け,品物を種類毎に対応する夫々の組合せ計量機によって組合せ計量,若しくは組合せ計数し所定の構成重量比,若しくは構成個数比の集合物を得るようにした複数の種類の品物の混合組合せ計量方法及び計数方法に係り,…」(6頁左下欄4行〜10行)と記載されている。したがって,同号証に開示された組合せ計量装置は,「品物の種類に対応して計量機ないし計量ホッパのグループを設け,複数存在する同一種類のホッパたる計量機ないし計量ホッパを対象に,個々の計量機ないし計量ホッパをグループ毎に独立して動作させる」ものであることが分かる。
このような制御を行うことができる構成として,自然に考えられるのは,上記構成1の「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられている構成,及び上記構成2の「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成である。いずれも,異なる計量ホッパには異なるモータが接続されており,計量ホッパのグループに対応してモータも容易にグループ分けすることができ,それぞれのグループを独立して動作させることができるからである。
以上をまとめれば,上記?Cの「ミックス計量する場合にも有効となる」との記載は,上記構成2のように「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成を排除しない。裏を返せば,「ミックス計量する場合にも有効となる」との記載は,本件特許発明が上記構成1のように「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられているとする本件審決の見解を根拠づけるのに十分なものではない。
?D以上のとおりであるから,上記(i)ないし(iv)の記載を「本件特許発明の作用効果」という観点から検討しても,上記構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成は排除されず,訂正前発明において,モータが「ホッパ毎」,すなわち「1個1個のホッパ毎」に設けられているとみるのが自然であるとの本件審決の判断は,説得的であるということはできない。
β 本件特許出願時の技術水準又は技術常識に基づく検討?@上記構成1:1個1個のホッパ毎組合せ計量装置において「1個1個のホッパ毎」にモータを設ける構成を採用しうることは,本件特許出願時の技術水準又は技術常識に照らし自明である。
?A上記構成2:ユニットの異なるホッパ毎本件審決が引用発明1を認定した引用例1(甲3)に開示された発明では,本件審決も認めるように「…モータは一組の『プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6』毎に設けられている…」(29頁5行〜6行)。したがって,本件特許出願時の技術水準又は技術常識に照らし,「ユニットの異なるホッパ毎」にモータを設ける構成を採用しうることは明らかである。
?B上記構成3:種類の異なるホッパ毎本件訂正前明細書に従来技術として引用されている前記甲86の10頁14行〜11頁4行には「…上記実施例では駆動ユニットの各々に駆動源としてモーター(24)を設けているが,モーター等の駆動源が複数もしくは全部の駆動ユニット(20)に共通するように構成してもよく,例えば第8図で示す如く,放射状に配列した駆動ユニット(20)で囲まれた中央空間部に適当な駆動源により回転する駆動シャフト(71)を配置し,このシャフト(71)に大径ギヤ(73)を取付けて各駆動ユニット(20)の伝達シャフト(28)の従動ギヤ(29)に噛合させ,全駆動ユニット(20)の駆動力を駆動シャフト(71)より得る構造等に種々変形可能である。」と記載されている。この記載に照らせば,本件特許出願時の技術水準又は技術常識に照らし,組合せ計量において,種類の異なる複数のホッパ毎に1個のモータを設ける構成,すなわち上記構成3のような構成を採用しうることは,明らかである。
?C以上のとおりであるから,本件特許出願時の技術水準又は技術常識に照らし,上記構成1〜3のいずれかが採用し得ないというような事情は存在しない。
したがって,上記構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成は排除されず,訂正前発明において,本件特許出願時の技術水準又は技術常識から,構成1のみの構成とみるのが自然であるということはできない。
γ 本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく検討本件訂正後の特許請求の範囲においては,「組合せ演算の結果選択されたホッパについて設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段とを設け,」とある。
ここに,設定されたゲートの動作変化に基づき制御される対象は,あくまで「組合せ演算の結果選択されたホッパ」である。
「組合せ演算の結果選択」されるのは本来的に計量ホッパであって,供給ホッパ(プールホッパ)やタイミングホッパは「組合せ演算の結果選択」されるものではない。したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載にいうところの「指定されたホッパ」とは,「計量ホッパの中で指定された特定の計量ホッパ」を意味する。
このようなホッパの「指定」並びにこれに伴う設定及び制御を行うことができる構成として自然に考えられるのは,上記構成1の「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられている構成,及び上記構成2の「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成である。いずれも,異なる計量ホッパには異なるモータが接続されており,計量ホッパを指定すればモータも特定されるからである。
以上をまとめれば,本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,上記構成2のように「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成を排除しない。裏を返せば,本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,訂正前発明が上記構成1のように「1個1個のホッパ毎」にモータが設けられている構成に限定されるとの見解を根拠づけるのに十分なものではない。
δ 供給ホッパと計量ホッパとの独立設定の不要性供給ホッパと計量ホッパとで共通にモータが設けられていても,それぞれのホッパを独立に制御することは十分に可能であり,不自然なことではない(後記(d)の本件無効審判事件の弁駁書[甲110]19頁26行〜21頁24行)。
ε以上述べたとおり,訂正前発明の作用効果,本件特許出願時の技術水準又は技術常識,本件訂正後の特許請求の範囲の記載のいずれを参酌しても,上記(i)ないし(iv)の記載を総合して,上記構成2のように「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成が排除され,モータが「1個1個のホッパ毎」に設けられている構成1の構成に限られるということはできない。
(c)本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」を「1個1個のホッパ毎」と解釈しているとすれば,「前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,」とする本件訂正は,本件訂正前明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものに他ならないから,本件審決における訂正要件(新規事項追加禁止)の判断に誤りが存する。
(d)なお,原告は,本件無効審判事件の弁駁書(甲110)19頁26行〜21頁24行において,「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる」との作用効果を実現するに当たり,ホッパ毎にステップモータが設けられることは必須でない,と主張し,その根拠となる具体的な構成例として,?@1個のステップモータに第1のホッパのゲートと第2のホッパのゲートとが連結され,回転角0°〜90°の範囲で第1のホッパを開閉駆動し,90°〜180°の範囲で第2のホッパを開閉駆動する構成や,?A1個のステップモータに第1のホッパのゲートと第2のホッパのゲートとが連結され,原点から時計方向(正の角度)にモータが回転する場合には第1のホッパのゲートが開閉駆動され,原点から反時計方向(負の角度)にモータが回転する場合には第2のホッパのゲートが開閉駆動されるような構成を挙げた。
本件審決は,このような原告主張について一切言及することなく結論を導いており,この事実も,本件審決における訂正要件(新規事項追加禁止)の判断に誤りが存することを間接的に示すものといえる。
c本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈として「1個1個のホッパ毎」あるいは「種類の異なるホッパ毎」のいずれでもよいと解釈しているとした場合における訂正要件の判断の誤り次に,本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈として「1個1個のホッパ毎」(前記構成1)あるいは「種類の異なるホッパ毎」(前記構成3)のいずれでもよいと解釈しているとした場合について,補足的に検討する。
この本件審決の解釈において,「ホッパ毎」にモータが設けられた構成からは,上記構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられた構成が排除されている。このことは,本件審決が「ホッパ毎」を「1個1個のホッパ毎」と解釈しているとした場合と異なるところはない。
これに対し,前記bで詳しく検討したように,本件訂正前明細書等において,上記構成2のように「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成が排除されているということはできない。
したがって,本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈として「1個1個のホッパ毎」あるいは「種類の異なるホッパ毎」のいずれでもよいと解釈しているとしても,「前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,」とする本件訂正は,本件訂正前の特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるから,本件審決における訂正要件(新規事項追加禁止)の判断に誤りが存する。
(イ)本件特許発明の「複数種類のホッパ」という概念を特許性の判断に影響を与える要素として捉えた場合には,本件訂正は,新規事項を追加するものであって,訂正要件を欠く上,独立特許要件にも適合せず,不適法である本件審決は,本件特許発明と引用発明1の相違点イとの関係で,本件特許発明の「複数種類のホッパ」という概念を特許性の判断に影響を与える要素として捉えている(32頁1行〜下10行)。
このように本件特許発明の「複数種類のホッパ」という概念を特許性の判断に影響を与える要素として捉えた場合には,「複数種類のホッパ」という概念は,特許性の判断に影響を与える要素としては,本件訂正前の明細書に開示されていないから,本件訂正は,新規事項を追加するものであって,訂正要件を欠くまた,「複数種類のホッパ」という概念は,特許性の判断に影響を与える要素としては本件特許明細書(以下,単に「本件明細書」という。)に開示されていないから,本件特許発明が「複数種類のホッパ」という概念を含むとすれば,本件訂正により新たに追加された「ホッパ毎に設けられたステップモータ」,「指定されたホッパ」との技術的事項を含む本件特許発明は,「サポート要件」(平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号の要件,以下同様)を満たしていないことになる。
〈判決注〉平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号は,次のとおりである。
「?D第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。
1特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
2〈略〉3〈略〉」したがって,本件訂正は,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項が定める訂正要件を欠く上,独立特許要件に適合せず,不適法である。
イ 取消事由2(無効理由1及び3に関連する審決の認定判断の誤り)(ア) 引用発明1認定の誤りa本件審決の認定本件審決は,引用発明1を「被計量物品を貯蔵し排出する,プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6と,該プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6にそれぞれ設けられた底蓋7及び底蓋8と,該底蓋7及び底蓋8をそれぞれリンク15と偏心カム17の組及びリンク16と偏心カム18の組を介して同時に開閉駆動する一つのモータとを備えた組合せ秤であって,前記モータは,パルスモータ19であり,組合せ演算の結果選択された計量ホッパ6について前記パルスモータ19を制御する制御手段とを設けた組合せ秤。」と認定している(25頁27行〜37行)。
b前審決の認定前審決(甲107)は,引用発明1を「被計量物品を貯蔵し排出するプールホッパー(5)及び計量ホッパ(6)と,該プールホッパー(5)及び計量ホッパ(6)にそれぞれ設けられた底蓋(7)及び底蓋(8)と,該底蓋(7)及び底蓋(8)をそれぞれリンク(15)とカム(17)の組及びリンク(16)とカム(18)の組を介して開閉駆動するパルスモータ(19)とを備えた組合せ秤であって,組合せ演算の結果選択された計量ホッパ(6)について前記パルスモータ(19)を制御する制御手段とを設け,各ホッパ(5)及び(6)の底蓋(7)及び(8)の開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化が前記カム(17)及び(18)のそれぞれの形状をもって設定されるようにした組合せ秤。」と認定している(12頁3行〜11行)。
c本件審決が引用発明1につき「底蓋7及び底蓋8は,同時に開閉駆動する」と認定したことの誤り以上のとおり,本件審決は,引用発明1における底蓋7及び底蓋8は,同時に開閉駆動するものと判断している。
しかし,引用例1(甲3)の第3図を見れば明らかなように,カム17とカム18とは明らかに形状が異なるものとして記載されている。このようにカム17とカム18の形状が異なることは,プールホッパー5と計量ホッパ6との開閉タイミングが異なること,すなわち,それぞれのホッパのゲートについて互いに異なる動作変化が実現されることを明瞭に示している。したがって,底蓋7(プールホッパー5のゲート)及び底蓋8(計量ホッパ6のゲート)は,「同時に開閉駆動」されるようなものではない。底蓋7と底蓋8は,一定の時間差をもって,すなわち個別に設定されたタイミングと動作変化とでもって,個別に開閉されるのである。引用発明1につき,一つのモータが底蓋7及び底蓋8を同時に開閉駆動するものと認定した本件審決には,事実誤認が存在する。
d本件審決が引用発明1につき「刻々の動作変化」を認定しなかったことの誤り(a) 前審決と本件審決の相違以上のとおり,前審決では「…各ホッパ(5)及び(6)の底蓋(7)及び(8)の開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化が前記カム(17)及び(18)のそれぞれの形状をもって設定されるようにした組合せ秤。」と認定されているのに対し,本件審決では「(ゲートの)開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化がカムの形状をもって設定される」という技術的事項が含まれていない。
(b) 「任意性」の判断に関する本件審決の判断の不合理性本件審決は,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」に関連して,「そして,底蓋7,8すなわちゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を設定する旨の記載は引用例1には一切無いし,底蓋7,8すなわちゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を変更するために偏心カム17,18を別の形状のものに取り替える旨の記載もない。すなわち,引用例1には,ゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化についての記載自体がなく,ましてや,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定するカム制御技術を用いた組合せ計量装置において,その動作変化の変更に対応できないという課題についても記載も示唆もされていない。」(29頁23行〜31行)とか,「…引用例1に示されたカム17,18は…モータの回転運動を繰り返し開閉するゲートの往復運動に置き換えているものとして作用しているものであり,」(31頁25行〜29行)と認定した上で,「…引用例1の第3図にはかかる動作を実現するための形状が偏心カムとして略楕円状に図示されているに過ぎないとみるべきである…」(31頁30行〜31行)と述べたり,「…この種の組合せ計量装置において,引用例1を始めとして,モータの回転運動を偏心カムによってゲート開閉の往復運動に変換することは本件特許の出願当時周知であったということができるものの,カム機構の形状を工夫することによって,『ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化』を任意に設定しようとすることが当業者の技術常識であったとすることはできない。」(30頁9行〜14行)などと述べている。
本件訂正後の特許請求の範囲にいうところの「任意」との用語がいかなる意味で用いられているかは必ずしも明白ではない。この点,前審決(甲107)は,「…各ホッパのゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化についてはゲートの開閉スピードや開放時間を含めて最適とされるカムの形状が予め一義的に設定されるものであって,被計量物の種類や供給量に変更があっても,ゲートの前記刻々の動作変化については任意に変更することができないものである。」(21頁7行〜11行)としている。カムは,いったん設計・製造された後は,操作段階(使用段階)で形状を変更することができない。前審決は,そのような事実を前提に,「操作段階(使用段階)における変更容易性」を「任意」の意義と解し,引用発明1は「刻々の動作変化」を「任意」に設定するものではないと認定したものと解される。その上で前審決(甲107)は,「…各ホッパのゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定するカム制御技術を用いた組合せ計量装置において,その動作変化の変更に対応できないという課題が存することは,当業者に自明あるいは技術常識であったものと認められる。」(24頁26行〜29行)と述べている。動作変化の変更への対応容易性,すなわち設定の「任意性」は,前審決においては,引用発明1における「課題」とされているのである。これは,本件特許発明の課題そのものである。
本件審決は,「任意に設定」することが本件特許出願時(昭和61年11月15日当時)の当業者の「技術常識」であるか否かといったことを問題にしている。これは,本件特許発明そのものが周知技術であるか否かを問題とするに等しいものである。引用例1(甲3)において設定の任意性が開示・示唆されているかを問うこと自体,本末転倒といわざるを得ない。この点からも,本件審決の不合理性は明らかである。
(c) 周知技術技術常識に関する本件審決の判断の不当性刊行物に基づく引用発明の認定は,刊行物に記載されている事項から認定するものであるところ,記載事項の解釈に当たっては,技術常識参酌することができ,本件特許出願時における技術常識参酌することにより当業者が当該刊行物に記載されている事項から導き出せる事項(「刊行物に記載されているに等しい事項」)も,刊行物に記載された発明の認定の基礎とすることができる(特許庁の審査基準第?U部第2章1.5.3(3)[甲124,9頁])。
ここで,技術常識とは,当業者に一般的に知られている技術(周知技術,慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項をいい,「周知技術」とは,その技術分野において一般的に知られている技術であって,例えば,これに関し,相当多数の公知文献が存在し,又は業界に知れわたり,あるいは,例示する必要がない程よく知られている技術をいい,また,「慣用技術」とは,周知技術であって,かつ,よく用いられている技術をいう(特許庁の審査基準第?U部第2章1.2.4(3)(注)[甲124,3頁])。
原告は,引用発明1の認定に関し,周知技術を示す証拠として,?@実願昭57-67392号(実開昭58-169532号)のマイクロフィルム(考案の名称「組合せ計量装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和58年11月12日。甲86)の第4図や実願昭58-58197号(実開昭59-163929号)のマイクロフィルム(考案の名称「自動計量装置におけるホッパ開閉装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和59年11月2日。甲72)の第5図に示されたホッパゲート駆動用カムの形状が極めて複雑な形状をしており,このような複雑な形状はゲートに複雑な動作を与えるための意図的な設計によるものであることが明らかなこと,?A実願昭58-28565号(実開昭59-135639号)のマイクロフィルム(考案の名称「半導体チップの移送装置」,出願人 新日本無線株式会社,公開日 昭和59年9月10日。甲73),特開昭59-21531号公報(発明の名称「塑性物質のたねを供給するためのフィーダ機構」,出願人 エムハート・インダストリーズ・インコーポレーテッド,公開日 昭和59年2月3日。甲74),特開昭61-182888号公報(発明の名称「ダイボンダー」,出願人 東京測範株式会社,公開日 昭和61年8月15日。甲75)といった先行技術文献に,被駆動部材の刻々の動作変化をモータに接続されたカムの形状をもって設定することが従来技術として記載されていることを指摘した(本件無効審判事件における審判事件弁駁書[甲110]50頁11行〜56頁11行)。
以上の公知例に示された周知技術に照らせば,組合せ計量装置の技術分野においてホッパゲート駆動に用いられるカムは,単にモータの回転運動をゲートの往復運動に変換するものに留まらず,その形状でもってゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を設定するものであることが技術常識であったといえる。上記甲86は,本件明細書に従来技術として記載されているものである(特許審決公報[甲123]7頁25行)し,実願昭56-132244号(実開昭58-37520号)のマイクロフィルム(考案の名称「組合せ計量機におけるホッパーの駆動装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所。甲82)も,本件明細書に従来技術として記載されている(特許審決公報[甲123]7頁25行)ところ,甲82に開示された発明は,カム駆動機構によりホッパーゲートを開閉する組合せ計量装置である。
しかし本件審決では,上記提出した証拠及びこれに示された周知技術が適切に参酌されていない。
そこで以下,本件特許出願当時(昭和61年11月15日当時)の周知技術ないし技術常識(技術水準)の適切な評価を目的として,証拠及び主張を補足して主張する。
α 機械設計一般におけるカムの位置付け甲111(牧野洋著「自動機械機構学」日刊工業新聞社昭和51年6月1日発行)には,「カム(cam)は任意形状を持った機械要素であって,その直接接触によって相手側に任意の運動を与えようとするものである。」(155頁4行〜5行)と記載されている。
甲112(富塚清編「機械工学概論改訂版」森北出版株式会社1974年[昭和49年]8月1日発行)には,「カム機構は比較的簡単な構造で複雑な運動を導くことができるので,内燃機関その他の弁開閉機構に使われるほか,各種の工作機械や紡績機械,ミシン,印刷機械その他の作業機械に広く用いられている。」(57頁24行〜26行)と記載されている。
甲113(「機械工学便覧改訂第6版[分冊7]」社団法人日本機械学会昭和50年12月20日発行)には,「カム装置とは特殊な形状をもった節と,ナイフエッジ,ローラ,平面などの単純な形状の接触子を持った節との直接接触によって,従動体に所要の周期的運動を与える機構である。」(7-151頁右欄10行〜13行)と記載され,また,「元来カム装置は,時間的にこまかく指定された運動や,複雑な軌跡を描く運動を誘導するために用いられることが多い…」(7-152頁左欄25行〜27行)と記載されている。
甲114(堀川明著「機械工学入門」株式会社朝倉書店昭和50年9月5日発行)には,カムの説明として「…カム(cam)は回転運動あるいは直線運動などから,一挙に複雑な動作を得ようとするもので,複雑な運動をさせる目的には欠かせない機構の一つである。」(162頁2行〜4行)と記載されている。
甲115(伊藤美光著「新しい機械設計法」日刊工業新聞社1991年[平成3年]9月20日発行)には,「サーボ機構を除いて,機械要素のうちで,設計によって機械運動部分に任意の運動を与えることのできるのはカムだけである。」(287頁18行〜19行)と記載されている。
以上の機械工学に関する多数の教科書を参酌すれば,本件特許出願当時,機械設計分野の当業者において,カムは被駆動部材(従動体)に対し複雑な運動を任意に与えるための極めて有効かつ一般的な機械要素として認識されていたことは明らかである。
ただし,ここでの「任意」とは,設計段階(製造段階)における任意性を示し,必ずしも操作段階(使用段階)における任意性を意味しない。
β カムによる被駆動部材の運動の設定方法上記甲111には,図4・2(158頁)の従節作動端yにつき,「…正しい運動をyに与えるためには,まず従節変位yを時間tの関数(あるいはカムの回転角θの関数)として定めて,これから従節構成を解いて,カムの形状を決定しなければならない。このような手順,すなわち『運動から形状を求める』手順によるカム設計をシンセシス過程によるカム設計と呼ぶことにする。」(158頁20行〜24行)と記載されている。このことは,目的とする被駆動部材の動作変化に基づいてカムの形状が設計されることを意味する。さらに同号証には,カムの作図法の例として図4・3が示され,「従節レバーの支点(pivot)がカムのまわりに描く軌跡を支点円(pivot circle)と呼ぶ。この支点円をたとえば12分割し,それぞれの時点における支点の位置を1,2,3,……とする。レバーの長さ(支点からローラ中心までの距離)をRとすると,それぞれの時点におけるローラ中心の位置は1,2,3,……を中心とする半径Rの円弧の上にある。
つぎに従節の運動,すなわち,カムの回転角に対する従節の揺動角が与えられるとする。ローラがカムの中心O にもっとも近付cいた時を0とし,このときの位置でカムの形を描く。このときのローラ中心O'がカムのまわりに描く軌跡を基円(base circle)と呼んでいる。与えられた運動から,カムの回転30°ごとの従節ローラの位置を定め,これを1',2',3',……のようにプロットする。カム中心O からO 1'を半径とする円弧を描き,c cこれが1を中心とする半径Rの円弧と交わる点を1"とする。同様にして2",3",……を求める。1",2",3",……を中心とするローラと同じ径の円を描き,これらになめらかに接するような曲線を描けば,それが求めるカムの輪郭である。」(159頁11行〜160頁10行)と記載されている。したがって同号証からは,カムが回転角に応じて複数に区分され,それぞれの区分毎に,すなわち「刻々に」,従節の運動(動作変化)とカムの形状とを対応付けることでカムの設計が行われることが認められる。すなわち同号証においてカムとは,被駆動部材の「刻々の動作変化」を設定するものと理解されている。
甲116(小川潔著「リンク・カムの設計」株式会社オーム社昭和42年5月31日発行)の第9・4図(213頁)には,カム機構の変位曲線としてさまざまな種類のものが例示され,それぞれについて,カムの変位(角度)を複数に区分して,それぞれの期間毎に変位,速度,加速度,躍動が決定されることが示されている。また同号証の第9・6図(215頁)には,1周期を5個の期間に区分し,それぞれの期間毎に,「休止」「上昇」「休止」「下降」「休止」のように従動節の動作が設定されることが示されている。カムが等速で回転する限り,カムの変位ないし角度は時間に相当することはいうまでもない。したがって,同図が示しているのは,「刻々の動作変化」に他ならない。
甲117(林杵雄著「機械要素(1)(機構と機械の運動)10版」株式会社コロナ社昭和42年4月20日発行)の図3・3(a)(43頁),図3・4(a)(44頁),図3・5(46頁),図3・6(48頁),図3・7(49頁)には,さまざまな種類のカムについて,横軸を角度,縦軸を変位(位置),速度,加速度としたグラフが示されている。カムが等速回転する場合には,カムの角度は時間に対応する。したがって,これらの図が示しているのは,変位(位置),速度,加速度の期間毎の時間変化,すなわち「刻々の動作変化」に他ならない。
上記甲113には,「元来カム装置は,時間的にこまかく指定された運動や,複雑な軌跡を描く運動を誘導するために用いられることが多い…」(7-152頁左欄25行〜27行)と記載されている。ここでいう「時間的にこまかく指定された運動」とは「刻々の動作変化」に他ならない。
甲118(牧野洋・高野政晴著「機械運動学」株式会社コロナ社昭和53年9月30日発行)には,「カム機構に用いられる運動曲線をカム曲線という。カム曲線とはカムの輪郭曲線のことではなく,カムによって動かされる従節出力端の運動曲線をいうのである。従節リンク系の寸法や配置によって,同じ運動を与えるべきカムの形状は異なり,同一のものとならない。カム輪郭座標に対してカム曲線を割り付ける設計法は誤りであり,ストロークやタイミングのずれの原因となるとともに,運動曲線にひずみを生じさせる。機械要素のうちで任意の運動を与えることのできるものはカムだけである。したがって,理想運動の追求はもっぱら"どのようなカム曲線が良いか"という設問の形で行われている。電子制御などにより電動機の回転を制御するような場合でも,その速度・加速度をどのように制御したら良いかの回答は,カム曲線に対する理解を深めることによって得られるであろう。」(102頁3行〜13行)と記載されている。任意の運動を与えるために「速度・加速度」を制御することは,「刻々の動作変化」を制御することに他ならない。そして同号証の図5・3(108頁),図5・4(108頁),図5・5(109頁),図5・6(111頁)には,さまざまなカム曲線について,時刻Tを複数の期間に区分して,それぞれについて変位(位置)S,速度V,加速度A,躍動J(加速度の変化率)が設定されることが示されている。これらの図が示しているのは,変位(位置),速度,加速度の期間毎の時間変化,「刻々の動作変化」に他ならない。
上記甲114の図5.45(164頁)には,カムを回転角によって複数に区分し,各区分毎にカムの半径が設定されることが示されている。そして,カムの形の決め方として,「たとえば一定速度で回転している板カムを計画するときには,?@まず棒にどのような変位をされるかを考える。図5.45の(a)はその変位図である。横軸には角度を等間隔で0〜360°の範囲すなわちカムの一回転で示してある。カム軸が一定回転速度ならば,この角度は等間隔でよい。横座標は時間と考えてもよい。?Aつぎに変位図(a)に希望する変位を記入する。またその変位が忠実に表現できるように,その変位を分割する。…?E以上の交点1',2',3',……を順次なめらかに結んだものがカムの形(camprofile)である。」(163頁19行〜164頁13行)と記載されている。ここの図5.45(a)は,所定の期間毎の位置の時間変化,すなわち「刻々の動作変化」を示している。
上記甲115には,「カム曲線の理論は機械の運動における速度・加速度をどのように制御したらよいかということが基本である…」(287頁23行〜25行)と記載されており,図4.17(288頁)には,カム曲線として時間TをT ,T ,T と123いう複数の期間に区分し,それぞれの期間において動作の設定が行われることが示されている。図4.17を見れば明らかなように,T は加速期間,T は等速期間,T は減速期間となってい1 2 3る。同図が示しているのは,変位(位置)の期間毎の時間変化,すなわち「刻々の動作変化」に他ならない。
以上の機械工学に関する多数の教科書を参酌すれば,本件特許出願当時の機械設計分野の当業者において,カムの形状とは被駆動部材(従動体)に対し任意の「刻々の動作変化」を与えるために設定ないし設計されるものとして認識されていたことは明らかである。ただし,ここでの「任意」とは,設計段階(製造段階)における任意性を示し,必ずしも操作段階(使用段階)における任意性を意味しない。
γカムによる被駆動部材の運動の設定における衝撃防止の位置付け本件特許発明の作用効果として,「…ホッパゲートをできるだけ速く開放させて,排出スピードを速めたり,或は,ゲートの急激な開閉運動による衝撃音を和らげるために,運動の始めと終わりを指数関数的に立ち上げ,或いは収束させるようにして,騒音を押えることができる。」(特許審決公報[甲123]10頁21行〜24行)ことが挙げられているところ,このような作用効果は従来技術たるカムによっても実現されうる陳腐なものに過ぎない。
上記甲116には,「躍動(原告注:加速度の変化率)の曲線がなめらかであれば衝撃および振動が少なく,磨耗の状態もなめらかである。」(214頁15行〜16行)と記載されている。
上記甲113には,「さらに加速度の変化率も衝撃,振動の発生に影響する。したがって変位の三次微分を躍動と称して,高速機械においてはその大きさも検討事項に入れている。」(7-152頁右欄8行〜11行)と記載されている。
以上の記載から,本件特許出願時におけるカムの設計においては,衝撃や振動,磨耗が重要な検討事項であり,そのために加速度の時間変化(躍動)もカムの形状をもってする設定の対象とされていたことが分かる。
δ その他の刊行物の記載その他,以下の刊行物の記載によっても,組合せ計量装置におけるカムの輪郭形状がホッパゲートの刻々の動作変化を設定するものであることが本件特許出願時の技術常識であったことは明らかである。
?@特開昭61-61014号公報(発明の名称「組合せ計量装置」,出願人 A,公開日 昭和61年3月28日。甲125)同号証には,組合せ計量装置のホッパ駆動機構に組み込まれるカムの形状は,タイムチャートに基づく動作,すなわち「刻々の動作変化」を設定するものであったことが開示されている。
?A前記甲72同号証には,組合せ計量装置のホッパ駆動機構に組み込まれるカムの形状は,カムの回転角に対する従動ローラ等のリフト量の変化の特性を設定するもの,すなわち被駆動部材たる従動ローラ等の「刻々の動作変化」を設定するものであったことが開示されている。
?B1986年(昭和61年)10月発行のGood PackagingMagazine誌 に 掲 載 さ れ た 「 Woodman introduces twonewmachines as combined packaging system」と題する記事(甲127)同号証に開示された組合せ計量装置(Woodman社製のCommander2) は , 電 子 制 御 式 モ ー タ ( electronicallycontrolled motor,ステッピングモータなどのデジタル制御式モータ)を用いて,当該モータをプログラム制御している。そして,そのことにより,「ドア(すなわちホッパゲート)の開き方の特性」(the door opening profile )すなわち,ホッパゲートの刻々の動作変化を,「個々の物品(の種類)と,重量(すなわち供給量)と速度とに応じてパフォーマンスを最適化するように任意に設定できる」(can be tailored to maximizeperformance for individual products, weight and speed)ものである。
なお,甲127は本件特許出願時の技術水準を示す公知文献として提出されたものであり,これと関連する具体的な一製品がどのような構成であったかという事情は,甲127の証拠価値と関係がないが,念のため原告が確認したところによれば,甲127の実機は,1個のスケールホッパ(計量ホッパ)と1個のホールディングビン(溜めホッパ)とが1個のタワーに設けられ,該スケールホッパとホールディングビンのそれぞれについて,個別にステップモータが設けられている。
?C1986年(昭和61年)10月発行のPackaging誌に掲載された「SOME THINGS WORK TOGETHER LIKE MAGIC.」と題する広告(甲130)?D米国特許第4193465号公報(1980年[昭和55年]3月18日,発明の名称「計量ホッパードアメカニズム」,出願人 The Woodman Company,Inc.。甲131)同号証には,計量装置のホッパゲートを駆動するためのカムの輪郭形状を,「素早くスムーズな立ち上がり」や「振動の抑制」を実現するために設計するという技術的思想が開示されている。
?E実願昭49-059738号(実開昭50-149059号)のマイクロフィルム(考案の名称「計量装置における自動排出装置」,出願人 明治機械株式会社ほか,公開日 昭和50年12月11日。甲132)同号証には,計量装置において,ホッパゲート(底板2)の開放時間を任意に設定したり,開閉時の騒音や閉鎖時に生じる衝撃を防止したりするために,ホッパゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を,カムの形状を適切に設計することで任意に実現する,という技術思想が開示されている。
?F特開昭56-129823号(発明の名称「定量秤のホッパー開閉装置」,出願人 東京電気株式会社,公開日 昭和56年10月12日。甲133)同号証の第6図,第9図には,ホッパゲートの開度とカム(回転円盤)の回転角度との関係(プロファイル)を適宜に設定するという技術思想が開示されている。そして,カム(回転円盤)の回転速度を一定とすれば,第6図,第9図は,ホッパゲートの開度の時間変化,すなわち刻々の動作変化を示す。したがって,同号証は,「被計量物の性質に応じてホッパゲートの刻々の動作変化を任意に設定する」という技術思想を開示するものである。
周知技術技術常識参酌したあるべき引用発明1の認定ε以上に示したような周知技術技術常識に加え,引用例1(甲3)の第3図において,カム17とカム18とは明らかに形状が異なるものとして記載されていることをも考慮すれば,操作段階(使用段階)での設定の任意性,変更容易性は得られないにしても,引用発明1が「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」ものであることは明らかである。
引用発明1について,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」という技術的事項を認定しなかった本件審決には事実誤認が存する。
なお,被告は,本件特許発明における「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」とは「ステップモータの動特性データとして設定されるものであって,本件明細書第1表の区間『i』毎に,ステップモータのパルス周期,パルス数,回転方向として設定されるものである」と主張するが,「発明の詳細な説明」の記載に基づき特許請求の範囲に記載された用語を限定解釈して発明の要旨を認定するものに他ならず,失当である。被告自身,別件訴訟(大阪地裁平成19年(ワ)第2076号)において,「本件特許請求の範囲の計量装置におけるゲートの開閉制御に係る構成はきわめて明瞭である。従って,クレーム解釈に当たり,機能クレームとか抽象的クレームであるとの理由で実施例限定等をされなければならない発明ではない。」と主張した(原告準備書面(6)[甲142]6頁25行〜28行)。それにもかかわらず被告は,本件訴訟では,本件明細書の第1表や区間「i」という実施例の記載に基づき,本件特許発明を限定して解釈すべきとするのは,信義則に反し許されない。
e本件審決の判断過程自体における矛盾・齟齬(a) 甲86及び甲72に関する本件審決の判断の不当性本件審決は,甲86及び甲72に関連して,「…上記各号証においてカムの形状が複雑であることから,その複雑なカムの形状をもってゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化の態様を規定しているとはいえるものの,このことが直ちにゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を変更できるように任意に設定することに結びつくものではない…」(31頁10行〜14行)などと述べている。この点,前審決(甲107)では,引用発明1について「…刻々の動作変化が前記カム(17)及び(18)のそれぞれの形状をもって設定されるようにした組合せ秤。」(12頁10行〜11行)とされているのであり,設定に「任意性」があるとまでは認定されていない。
甲86及び甲72には「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をモータに接続されたカムの形状をもって設定する」技術思想が開示されているから,間接的に,引用発明1が,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」ものであるとの前審決の認定を支持するものである。
カムを用いた設定に任意性がないことは当然であって,だからこそ甲73〜75のような「プログラムを用いた任意設定」を可能にする技術が存在するのである。したがって,甲86及び甲72に設定の任意性が開示されているかを問題とする本件審決は,不当なものである。
(b) 甲73〜75に関する本件審決の判断の不当性本件審決は,甲73〜75に関連して,「…組合せ計量装置のホッパゲートの開閉動作には,ゲートの開度や開閉速度といったゲートに特有の動作が要求されることから,自動機械における制御技術が直ちにそのまま組合せ計量装置のホッパゲートの開閉動作の制御技術に適用できるということはできず…」(31頁22行〜25行)などと述べている。
この点,原告は,甲73〜75に基づき,カムというものがそもそも,その形状をもって被駆動部材の刻々の動作変化を設定しうるものである,という本件特許出願時の技術水準に基づき,引用発明1が「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」ものであるとの前審決の認定が支持される,と主張している。
原告が第1に問題にしているのは,引用例1(甲3)に基づいて,前審決のように「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」との技術的思想を認定しうるか否かである。本件審決が問題にしているような,甲73〜75に開示された発明を引用例1(甲3)に開示された発明に適用可能であるか否かではない。本件審決は,周知技術に基づく引用発明の「認定」の問題と,周知技術の適用に基づく発明の「想到容易性」の問題とを混同しているきらいがある。
甲73〜75は,いずれも被駆動部材をモータとカムでもって駆動する自動機械に関する技術である。これらの文献には,「被駆動部材の刻々の動作変化をモータに接続されたカムの形状をもって設定すること」が従来技術として記載されている。そして,引用例1(甲3)に開示された発明もやはり,被駆動部材たるゲートをモータとカムでもって駆動する自動機械に他ならない。これらの証拠に加えて,甲86及び甲72,本件特許出願時における機械工学の教科書等(甲111〜118)をも参酌すれば,引用例1(甲3)のカムが,その形状をもって被駆動部材の刻々の動作変化を設定するものであることは,当業者において自明である。引用例1(甲3)から「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」との技術的思想を認定しうることは明らかである。
甲73〜75に開示された発明を引用例1(甲3)に開示された発明に適用可能であるか否かのみを問題とする本件審決は不当である。
(イ) 相違点アに関する判断の誤りa引用発明2は周知技術であること本件審決によれば,引用発明2とは,「等速カム11の動作手順をプログラムするのに必要な従動体3の動作に関する基礎データをCPU16に入力するデータ入力手段17と,前記データ入力手段17により設定された動作手順に基づいて当接している従動体に所定の動作を与えるカム駆動モータとしてのパルスモータ13をプログラム制御するために,前記パルスモータ13の回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間を決定する各データをモータコントローラ15に送出するCPU16と,該データに従って駆動パルスを発生するモータコントローラ15とを設け,従動体3の動作モードに変更があってもプログラムの変更のみで対処し得るようにしたモータ制御装置。」である(28頁3行〜11行)。
この発明は,「カムの回転パターン(回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間等)をプログラムする基礎データを入力する入力手段と,該入力手段により設定されたプログラムに基づいてカムを駆動制御する制御手段とを設け,被駆動部材の動作モードに変更があってもプログラムの変更のみで対処し得るモータ制御装置。」である。
このような技術は,引用例2(甲119)のほかに,前記実願昭58-28565号(実開昭59-135639号)のマイクロフィルム(甲73),前記特開昭59-21531号公報(甲74),前記特開昭61-182888号公報(甲75)にも開示されており,周知技術である。仮に上記各号証が本件特許発明とは異なる技術分野での応用例であるとしても,ある技術が幅広く異なる技術分野から例示されるような場合は,そのこと自体が当該技術の周知性を証明するものであるといえる。
b本件審決の問題点しかし,本件審決は,引用発明2が周知技術であることを十分に考慮することなく,無効理由3に関し,「引用発明1に引用発明2を組み合わせて前記相違点(ア)の構成とすることは当業者といえども容易に推考し得たとすることができない。」(30頁下1行〜31頁2行)と述べるとともに,無効理由1に関し,「本件特許発明は…引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に推考し得たものであるとすることができないというべきである。」(33頁3行〜7行)と述べている。
c相違点アと引用発明2の技術との関係本件審決のいうところの相違点アの実質は,本件特許発明が「『ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,…設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段』を設けることによりゲートの刻々の動作変化を任意に実現できる」点にある。
ここで,引用例1(甲3)に開示された発明の底蓋(ホッパゲート)は「被駆動部材」であり,また,開かれて閉じられるものである。一方,カムはモータに直結されているのが通常であるから,カムの回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間は,モータの回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間,すなわち「モータの動特性データ」に他ならない。
また,特開昭58-195207号公報(発明の名称「間歇駆動装置」,出願人 東洋食品機械株式会社,公開日 昭和58年11月14日。甲120),特開昭59-123494号公報(発明の名称「パルスモータ制御装置」,出願人 株式会社東京計器,公開日 昭和59年7月17日。甲9),特開昭59-702号公報(発明の名称「加減速パルス発生装置」,出願人 株式会社日立製作所,公開日 昭和59年1月5日。甲121)に開示される発明によれば,組合せ計量装置の技術分野において,「被駆動部材の刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルあるいはメモリ等に任意に設定することによって該部材の動作を任意に制御できるようにしたモータ制御装置」は周知技術というべきものである。この点は,前審決(甲107)が周知技術として適切に認定している(24頁6行〜9行)。そして,上記周知技術に鑑みれば,「被駆動部材の刻々の動作変化をステップモータの動特性データとしてテーブルあるいはメモリ等に任意に設定することによって該部材の動作を任意に制御できるようにしたモータ制御装置」もまた,組合せ計量装置の技術分野における周知技術というべきものである。
以上検討したところに鑑みれば,相違点アとは,「カムの回転パターン(回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間等)をプログラムする基礎データを入力する入力手段と,該入力手段により設定されたプログラムに基づいてカムを駆動制御する制御手段とを設け,被駆動部材の動作モードに変更があってもプログラムの変更のみで対処し得るモータ制御装置」との引用発明2の技術に他ならない。
そうすると,引用発明1を基礎として相違点アの構成とすることが当業者にとって容易に推考し得たといえるか否かは,引用発明1に引用発明2の技術を適用することが当業者にとって容易に推考し得たか否かという問題に帰着する。
d周知技術の適用の可否(a) 周知技術の適用容易性周知技術とは,特許法29条2項にいうところの「その発明の属する技術の分野における通常の知識」に相当するものである。当該技術分野の周知技術の適用を試みることは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。したがって,特段の事情がない限り,引用発明1に引用発明2の技術を適用することは当業者にとって容易に推考し得たというべきである。
(b) 阻害要因の不存在本件審決は,「…組合せ計量装置のホッパゲートの開閉動作には,ゲートの開度や開閉速度といったゲートに特有の動作が要求されることから,自動機械における制御技術が直ちにそのまま組合せ計量装置のホッパゲートの開閉動作の制御技術に適用できるということはできず,…」(31頁22行〜25行)などと述べている。
上記のような「適用容易性」を問題にする本件審決の趣旨は必ずしも明らかでない。しかし,本件審決の当該部分の記載を,引用発明2の技術を引用発明1に適用することには阻害要因があると述べているものと読むことも不可能ではないが,以下のとおり,阻害要因は存在しない。
αゲートの「開度」や「開閉速度」は,被駆動部材の位置や速度そのものであって,一般的な「被駆動部材の動作」と異なる動作ではないし,組合せ計量装置のホッパゲートに「特有の動作」といえるようなものはない。仮に組合せ計量装置の「開度」や「開閉速度」といった「動作」が組合せ計量装置に「特有」のものであって,これを理由に引用発明2の技術の適用が否定されるというのであれば,ステップモータで被駆動部材を駆動する何らかの機械装置に引用発明2の技術を適用するだけで進歩性が認められることになる。このような帰結が不当なものであることは明白である。
βまた,本件訂正後の特許請求の範囲においては,単に「当該ホッパの前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記ステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段」,「組合せ演算の結果選択されたホッパについて設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段」,「被計量物の種類や供給量に応じて,前記指定されたホッパについての前記ゲートの動作を任意に制御できるようにした」との記載が認められるに過ぎない。「開き始めから閉じるまで」という事項も,一般の被駆動部材における動作の始点と終点とを意味するに過ぎず,また,組合せ計量装置に限定されないあらゆる装置のゲートに共通の動作を示すに過ぎない。したがって,本件訂正後の特許請求の範囲には,組合せ計量装置のホッパゲートの動作に特有のものといえるような具体的な動作の態様に関する記載も,これに応じた装置の特有かつ具体的な構成に関する記載も,一切含まれていない。本件特許発明は,特許請求の範囲の記載上,組合せ計量装置のホッパゲートに特有の動作に着目したものとなっていないし,該特有の動作に対応するために格別な装置構成を有するわけでもない。
γ以上のとおりであるから,ホッパゲートに「特有の動作」なるものが,引用発明2の技術を引用発明1に適用する阻害要因となるとはいえない。
その他,引用発明2の技術を引用発明1に適用することを妨げる特段の事情は存在しない。
(c) 課題の自明性α 本件審決における引用発明の認定の誤り前記(ア)で述べたとおり,引用発明1が「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」ものであることは明らかであり,引用発明1について,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する」という技術的事項を認定しなかった本件審決には事実誤認が存する。
β 本件特許出願時における技術常識としてのカム技術の問題点前記甲111の155頁〜157頁には,カムの利点として,?@運動特性が良く,高速に耐える,?A確動機構であって,動作が安定している,?B故障が少なく,保守が容易である,という点が挙げられるとともに,カムの欠点として,?@ストロークやタイミングが一定していて変更や調節がむずかしい,?A過負荷に対する保護機構を必要とする,?B設計や加工がむずかしい,という点が挙げられている。このことからすると,カムが,設計段階(製造段階)において被駆動部材の刻々の動作変化を任意に設定できるとはいえ,実際にカムを設計し加工することは難しく,また操作段階(使用段階)での変更や調節も難しいことは,本件特許出願時における技術常識であったといえる。
また,被駆動部材の刻々の動作変化をモータに接続されたカムの形状をもって設定する従来技術には,被駆動部材の動作変化の変更に対応することが困難であるという課題が存在することは,引用例2(甲119),前記甲120,前記甲73〜75など,極めて多数の先行技術文献に開示された技術常識であったといえる。一例を挙げれば,引用例2(甲119)には,従来技術の問題点として,「…従来から行なわれているカム制御技術では,従動体の動作モードが変るとそれに見合った形状のカムを新たに設計製造せねばならず,例え従動体の動作モードの変更が軽微なものであっても新規にカムを設計製造し直さねばならず,設計製造に要する工数が大きくなる等の問題点を有している。」(1頁右欄16行〜2頁左上欄2行)と記載されている。さらには,特開昭60-156117号公報(発明の名称「モータの回転位置制御装置」,出願人 日本電気精器株式会社ほか,公開日 昭和60年8月16日。甲76)においても,従来の「…回転位置制御装置は,カム201に刻み込んだ速度パターンを使用する機械式の制御機構のものであり,回転位置制御の精度はかなり良いものであるが,機構そのものがかなり複雑で高価なものである上,制御パターンを変更するには一々カムを取替える必要があり,かなり手間がかかる欠点があった」(2頁左下欄17行〜右下欄3行)との記載が認められる。
以上検討したところに前記(ア)d(c)δの刊行物の記載を総合すれば,引用発明1について「動作変化の変更に対応できない」という課題が存することは,当業者に自明あるいは技術常識であったものである。
引用発明1について,「…ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定するカム制御技術を用いた組合せ計量装置において,その動作変化の変更に対応できないという課題についても記載も示唆もされていない。」(29頁28行〜31行)などとする本件審決の認定が,本件特許出願時の周知技術及び技術常識を無視した不相当なものであることは明らかである。
γ 周知技術Aの不斟酌組合せ計量装置の技術分野において,その運転に先立って,設定重量に応じて,計量ホッパ及び供給ホッパを含む指定されたホッパについてゲートの開放時間を任意に設定する技術的手法は,周知である(前審決[甲107]21頁12行〜15行。以下,前審決にならい,この周知技術を「周知技術A」と呼ぶ。)ゲートの開放時間を任意に設定するための具体的な技術手段は種々あり得る。この点,引用発明1に対し,「カムの回転パターン(回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間等)をプログラムする基礎データを入力する入力手段と,該入力手段により設定されたプログラムに基づいてカムを駆動制御する制御手段とを設け,被駆動部材の動作モードに変更があってもプログラムの変更のみで対処し得るモータ制御装置」との引用発明2の技術を適用すれば,当然に,ゲートの開放時間を任意に設定することができる。
したがって,周知技術Aに照らせば,引用発明1において,ゲートの開放時間を任意に設定できないという課題が存することは明らかであり,この課題に対し引用発明2の技術を適用することでゲートの開放時間を任意に設定できるという効果を奏することもまた,容易に推考しうる事項といえる。
この点については,特許庁の審査基準においても,「別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても,別の思考過程により,当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは,課題の相違にかかわらず,請求項に係る発明の進歩性を否定することができる。」とされているところである(特許庁の審査基準第?U部第2章2.5(2)?A[甲124,16頁])。
前審決(甲107)における「…ゲートの動作を任意に制御できるようにする技術的手法には,…ゲートの開放時間を任意に設定する技術的手法が含まれる…」(22頁5行〜10行)との記載は,上記事項を端的に述べたものに他ならない。
以上検討したところによれば,周知技術Aに照らし,「…引用発明1に示される,各ホッパのゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定するカム制御技術を用いた組合せ計量装置において,その動作変化の変更に対応できないという課題が存することは,当業者に自明あるいは技術常識であったものと認められる」(24頁25行〜29行)とした前審決(甲107)こそ妥当である。周知技術Aに何ら言及することなく,「…ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定するカム制御技術を用いた組合せ計量装置において,その動作変化の変更に対応できないという課題についても記載も示唆もされていない。」(29頁28行〜31行)とする本件審決は,本件特許出願時の当業者における技術水準の内容を構成する周知技術を適切に考慮しないという過ちを犯している。
δ 引用例1(甲3)における2個のカム形状の相違の不斟酌引用例1(甲3)において,プールホッパー5と計量ホッパー6とにそれぞれ対応するカム17,18の形状は明らかに異なっている。このような構成が採用された理由は,プールホッパー5と計量ホッパー6とでゲートの開閉タイミングや開放時間等の動作変化を異ならせること,すなわち,ホッパの種類に応じて,被駆動部材たるゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって適宜に設定することにあることは明らかである。
ここで,カムの形状でもって動作変化を設定する場合,目的とする動作変化に合わせてカムの形状を変更(設計の変更や切削等による部材の形状の変更を含む)したりカムを交換することは容易でない。したがって,引用発明1では,設計段階(製造段階)及び操作段階(使用段階)において,動作変化の変更に対応することが困難であり,またその微調整も困難であることは当業者にとって自明である。すなわち,引用発明1において,設計段階(製造段階)及び操作段階(使用段階)での動作変化の変更や微調整を行うことが困難であるという課題が存在することは自明というべきである。
ところが,本件審決は,引用発明1において,異なる種類のホッパについてその動作変化を適宜に設定すべく形状の異なるカムが用いられていることを十分に考慮せず,「動作変化の変更に対応できないという課題についても記載も示唆もされていない」という不合理な判断を短絡的に導いている。
更にいえば,本件審決は,「…底蓋7及び底蓋8を…同時に開閉駆動する…」(25頁31行〜32行)とか,「…カム17,18は…モータの回転運動を繰り返し開閉するゲートの往復運動に置き換えているものとして作用しているものであり…引用例1の第3図にはかかる動作を実現するための形状が偏心カムとして略楕円状に図示されているに過ぎない…」(31頁26行〜31行)などと認定しており,カム17とカム18とで形状が異なることを全く考慮していないとさえいえる。
ε 組合せ計量装置における周知の技術的課題の不斟酌本件明細書によれば,本件特許発明が解決すべき課題は,「(1)ホッパに供給される毎回の供給量が第10図のように僅かな場合は,ゲートを半開にするだけで直ちに排出されるにもかかわらず,従来のアクチュエータでは,ゲートを必ず全開にしなければならなかったので,ゲートの開閉周期の短縮による計量速度の向上は望めなかった。(2)ゲートの開閉リングの摩耗等によってクリアランスが拡大するとゲート開閉時の騒音が大きくなるが,従来のアクチュエータでは,このクリアランスを補正するような動作特性の変更,例えばゲートが閉じる直前のスピードをより遅くするような変更ができなかった。(3)エアシリンダを使用するものでは,各ホッパのゲート開閉スピードを個別に変えることは容易であるが,逆に全てのスピードを同じに調節することは難かしいので,計量スピードは,ゲート開閉のスピードが最も遅いものに合さなければならないという難点があった。又,エアシリンダを使用するものでは,特性の経時変化が大きいので,メンテナンスを欠かすことはできず,整備のための時間とコストが多くかかるという問題があった。」というものである(特許審決公報[甲123]7頁30行〜40行)。
しかし,そもそも本件特許請求の範囲には,ゲートの半開と全開との間で適宜に変更するとか,閉じる直前のスピードをより遅くするように変更するといった具体的な問題点の解決に対応する具体的な手段は含まれていないから,本件特許発明の構成(本件特許請求の範囲)は,上記(1)や(2)のような具体的問題点をもたらす一般的課題,すなわち,組合せ計量装置の具体的使用状況の変化に対応するために必要となるホッパゲートの動作変化の変更に対応できなかったという課題に対応するものとなっている。上記(1)及び(2)の問題点は,「ゲートの開閉を自由に,かつ細かに制御することができない」ことから生じる「種々の問題」の一例に過ぎない。とすれば,本件特許発明の解決した課題とは,上記(1)や(2)に例示された具体的問題点ではなく,本件特許請求の範囲との対応が認められるところの一般的課題,すなわち,組合せ計量装置の具体的使用状況の変化に対応するために必要となるホッパゲートの動作変化の変更に対応できなかったという点にあるといわなければならない。しかるところ,上記周知技術A及び前記(ア)d(c)δの刊行物(甲127,132,133)の記載からすると,本件特許出願時,組合せ計量装置の技術分野において,被計量物の種類や量といった具体的使用状況の変化に対応するために,ゲートの開放時間や速度や開度によって規定されるホッパゲートの動作変化を適宜に変更する,との課題が当業者に広く共有されていたことは明らかであり,一方,上記の本件特許出願時における技術常識としてのカム技術の問題点を踏まえれば,本件明細書に記載された従来技術,すなわち「カム駆動機構によりホッパゲートを開閉する組合せ計量装置」であって「ホッパゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を,カムの形状をもって設定するもの」において,当業者に広く共有された上記課題,すなわち動作変化の変更に対応できないという課題が存在することは自明といえる。
しかも,本件特許出願時において,当業者であれば,上記(1)〜(3)の課題が存在することは自明というべきであった。
上記(1)の課題については,例えば,特開昭55-31987号公報(発明の名称「穀粒の自動計量装置におけるシャッタの制御装置」,出願人 B,公開日 昭和55年3月6日。甲45)には,「(9)は,操作レバー(8)の操作によりシャッタ(4)を上昇回動させるときに,その上昇回動の上限を規制してシャッタ(4)の全開とした開度量を規制するためのストッパーで,シャッタ(4)のシャッタ板(43)の上端部と衝合するように,支持機枠(12)に取付ネジ(90)(91)により固定組付けてある…」(4頁左下欄15行〜右下欄5行)として,シャッタ(すなわちホッパゲート)の開度を任意に調整可能であることが開示されている。
上記(2)の課題については,例えば,実願昭57-164887号(実開昭59-69197号公報)のマイクロフィルム(考案の名称「ホッパーの開閉機構」,出願人 株式会社寺岡精工,公開日 昭和59年5月10日。甲46)には,「…商品の軽重に関わらず,閉動がスプリング(11’)(12’)にて行なわれるので騒音が大きかった。」(2頁8行〜10行)ことを課題として,考案の目的の一つを「…底蓋の閉動間際の閉動速度を小さくして騒音を小さくすることにある。」(2頁14行〜16行)と記載されている。また,特開昭59-74092号公報(発明の名称「ゲート開閉装置」,出願人 大和製衡株式会社,公開日 昭和59年4月26日。甲122)には,「…第3図に曲線30で示すようにゲートの開く速度はクランク8が上死点より離れるに従って曲線に沿って上昇し,中間地点でその速度が最高になる。その後,中間リンク20がその上死点に近づいてゆくに従って曲線に沿って速度が低下し,シリンダ10のストロークエンドで,その速度はほぼ零となる。比較のため第3図に第1図のゲート開閉装置のゲート板の速度変化を曲線32で示す。また第4図にこのゲート開閉装置のゲートに印加される力または加速度の変化を曲線34で,従来のゲート開閉装置のゲート板の速度変化を曲線36でそれぞれ示す。シリンダ10のロッドがストロークエンドに達し,退行に移ると,ばね11の作用力によってゲート板5が閉じていく。そのときの速度変化,加速度変化も第3図の曲線30,第4図の曲線34と同様になる。」(2頁左下欄14行〜右下欄9行)と記載されており,ゲートが閉じる直前のスピードをより遅くするなど,ホッパゲートの詳細な速度変化や加速度変化を制御することは,本件特許出願時において周知の技術的課題であった。
上記(3)の課題は,エアシリンダをアクチュエータに用いた場合の課題に過ぎず,モータをアクチュエータに用いた組合せ計量装置が従来技術に存在することからすれば,本件特許発明の解決課題とすら呼べないものである。
以上をまとめると,本件特許出願時の技術常識に照らせば,引用発明1において本件明細書に記載されている課題の存することは当業者において自明であった。
本件審決は,以上述べたところの,組合せ計量装置における周知の技術的課題を参酌しないという点でも,重大な過ちを犯している。
ζしたがって,前審決(甲107)のように「引用発明1に示される,各ホッパのゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定するカム制御技術を用いた組合せ計量装置において,その動作変化の変更に対応できないという課題が存することは,当業者に自明あるいは技術常識であったものと認められる」(24頁25行〜29行)とするのが妥当である。
(d) 相違点アの想到容易性以上述べたところを総合すれば,引用発明2に相当する「カムの回転パターン(回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間等)をプログラムする基礎データを入力する入力手段と,該入力手段により設定されたプログラムに基づいてカムを駆動制御する制御手段とを設け,被駆動部材の動作モードに変更があってもプログラムの変更のみで対処し得るモータ制御装置」は周知であり,この周知技術を引用発明1に適用することで,相違点アの構成とすることは,当業者であれば容易に推考し得たといえる。
e以上のとおり,本件審決には,相違点アに関する進歩性の判断に誤りが存する。
(ウ) 相違点イに関する判断の誤りa相違点イの認定の誤り(a)本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」を「1個1個のホッパ毎」と解釈しているとした場合における相違点イの認定の誤り前記ア(ア)において述ベたところからすると,本件訂正後の特許請求の範囲の記載におけるモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈において,前記ア(ア)の構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられた構成を排除することはできないから,本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」を「1個1個のホッパ毎」と解釈しているとした場合には,「1個1個のホッパ毎」と解釈していることに判断の誤りが存する。
前記ア(ア)の構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられた構成も,本件訂正後の特許請求の範囲でいうところの「ホッパ毎」にモータが設けられている構成というべきであり,そうすると,引用例1(甲3)に開示された発明においても,モータは「ホッパ毎」に設けられている。
したがって,本件特許発明と引用発明1との相違点イとして「モータは,ホッパ毎に設けられ」ている点を挙げる本件審決には,認定の誤りが存する。
(b)本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈として「1個1個のホッパ毎」あるいは「種類の異なるホッパ毎」のいずれでもよいと解釈しているとした場合における相違点イの認定の誤り本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈として「1個1個のホッパ毎」(前記ア(ア)の構成1)あるいは「種類の異なるホッパ毎」(前記ア(ア)の構成3)のいずれでもよいと解釈している場合には,その構成から,前記ア(ア)の構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられた構成が排除されている。このことは,本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」を「1個1個のホッパ毎」と解釈しているとした場合と異なるところはない。
上記のとおり,本件訂正後の特許請求の範囲の記載におけるモータが設けられるところの「ホッパ毎」の解釈において,前記ア(ア)の構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられた構成を排除することはできないから,本件審決がモータが設けられるところの「ホッパ毎」から前記ア(ア)の構成2を排除し,「1個1個のホッパ毎」(前記ア(ア)の構成構成1)あるいは「種類の異なるホッパ毎」(前記構ア(ア)の構成3)のいずれでもよいと解釈していることに判断の誤りが存する。
前記ア(ア)の構成2のような「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられた構成も,本件訂正後の特許請求の範囲でいうところの「ホッパ毎」にモータが設けられている構成というべきであり,そうすると,引用例1(甲3)に開示された発明においても,モータは「ホッパ毎」に設けられている。
したがって,本件特許発明と引用発明1との相違点イとして「モータは,ホッパ毎に設けられ」ている点を挙げる本件審決には,認定の誤りが存する。
なお,前記ア(ア)の構成3に関連する事項として,本件審決は,「…モータを複数種類のホッパ毎に設けることは,…いずれの甲号各証にも示されていない。」(32頁2行〜4行)とか,「本件特許発明は,モータは複数種類のホッパ毎に設けられている…」(36頁25行)などと述べている。しかし,本件訂正後の特許請求の範囲には,単に「モータは,ホッパ毎に設けられ」ているとあるだけであり,「複数種類のホッパ毎に設けられている」などとは一切記載されていない。本件審決における本件特許発明の認定は,本件訂正後の特許請求の範囲の記載から逸脱した不当なものである。
b設計的事項に関する判断の誤り仮に,本件審決の相違点イの認定が妥当であるとしても,引用発明1において「1個1個のホッパ毎」あるいは「種類の異なるホッパ毎」にモータを設ける構成とすることは,いわゆる設計的事項あるいは周知の技術的事項に過ぎない。
本件明細書に従来技術として引用されている前記甲86の10頁14行〜11頁4行には「上記実施例では駆動ユニットの各々に駆動源としてモーター(24)を設けているが,モーター等の駆動源が複数もしくは全部の駆動ユニット(20)に共通するように構成してもよく,例えば第8図で示す如く,放射状に配列した駆動ユニット(20)で囲まれた中央空間部に適当な駆動源により回転する駆動シャフト(71)を配置し,このシャフト(71)に大径ギヤ(73)を取付けて各駆動ユニット(20)の伝達シャフト(28)の従動ギヤ(29)に噛合させ,全駆動ユニット(20)の駆動力を駆動シャフト(71)より得る構造等に種々変形可能である。」と記載されている。この記載によれば,本件特許出願時の技術水準又は技術常識に照らし,ホッパの個数とモータの個数との対応関係は適宜に変更しうる設計的事項であったこと,そのような変更は当業者が想定する範囲の事項であることは明らかである。また,甲127(Good PackagingMagazine誌に掲載された「Woodman introduces two new machines ascombined packaging system」と題する記事)にも,複数種類のホッパについて個別にモータが設けられることが記載されている。
したがって,引用発明1に基づいて相違点イの構成とすることは,当業者において容易に推考し得たといえる。
(エ) 作用効果に関する判断の誤りa本件審決の作用効果に関する認定とその誤り本件審決は,「すなわち,本件特許発明は,『モータはホッパ毎に設けられている』ことを前提に,ホッパゲートが所定の動作変化を行うべくその対象となるホッパを指定することにより,指定されたホッパゲートは所定の動作変化を行うことができたものということができる。そして,『…個別に指定できるようにすると,…』…種類の異なるホッパ毎に,すなわち,例えばプールホッパ毎や計量ホッパ毎に,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定できるので,種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることも可能となるとの作用効果をも奏するといえる。」(32頁10行〜26行)と認定している。この本件審決の認定は,1個1個のホッパ毎の指定が可能な構成において,ホッパの種類毎に指定した場合の作用効果を述べたものである。
しかし「個別」の指定は必ずしも「種類の異なるホッパ毎」の指定を意味するものではないし,あるいは「個別」の指定は当然に「種類の異なるホッパ毎」の指定をも含意するものでもない。
したがって,本件特許発明の作用効果として,「種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることも可能となるとの作用効果をも奏する」と認定した本件審決には,誤りが存する。
b「種類の異なるホッパ毎」との概念及びその効果の不存在本件明細書等において,「ホッパ毎」とは「1個1個のホッパ毎」あるいは「複数存在する同一種類のホッパたる計量ホッパにおける1個1個のホッパ毎」(ユニットの異なるホッパ毎)を意味するのであって,「ホッパ毎」が「種類の異なるホッパ毎」であるとする記載も,「ホッパ毎」が「種類の異なるホッパ毎」をも含意するとの記載も,一切存在しない。
そもそもホッパに複数種類が存在するという事項自体が,本件明細書において,「従来の技術」の欄(特許審決公報[甲123]7頁18行〜23行)に,「種々のホッパ」として,プールホッパ,計量ホッパ,タイミングホッパの3種類が挙げられているに過ぎず,それらプールホッパ,計量ホッパ,タイミングホッパにおいて,「動作スピード」や「ホッパへの供給量」が異なるなどとは記載されていない。
一方,親子計量については,親機と子機とで「…動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なる…」(特許審決公報[甲123]10頁32行〜33行)とされているものの,親機と子機とが「異種のホッパ」であるなどとは一切,記載も示唆もされていない。当該部分の記載は,同一種類のホッパである計量ホッパを,親機に属するものと,子機に属するものとで,「個別に指定」することにより,親子計量の動作を最適化することが記載されているに過ぎない。
このように,本件明細書において,ホッパの「種類」を「指定」して,ホッパの「種類毎」に動作を異ならせるといったこと,あるいは「種類の異なるホッパの最適制御」は,一切,記載も示唆もされていない。したがって,ホッパの種類毎の設定による効果を参酌する本件審決は,根拠を欠くものである。
また,本件訂正後の特許請求の範囲の記載においては,「組合せ演算の結果選択されたホッパについて設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段とを設け,」とあるように,設定されたゲートの動作変化に基づき制御される対象は,あくまで「組合せ演算の結果選択されたホッパ」である。「組合せ演算の結果選択」されるのは計量ホッパであって,供給ホッパ(プールホッパ)やタイミングホッパは制御対象ではない。このことは,本件明細書に,「ところで,計量ホッパは,所定のクリアランスが設けてあ…る。このためゲートを開放させる指令を受けても若干の遅れ(5… …0msec程度)が発生する。これが計量スピードを遅らせる1つの原因となっていたが,この発明では,この応答遅れをなくすことができる。次に,このような発明の制御について,第6図のフローチャートにより説明する。この場合,ゲートの開閉リンクには若干の遊び…があるので,ゲートは閉じたままである。そして,組合せ演算の結果,選択されて排出指令を受けると,ステップモータを直ちにドライブして,ゲートを開放させる()。また,組合せ選択されなか………った計量ホッパに対しても,次の計量に備えて,レバーを初期位置まで引き戻しておく。」(特許審決公報[甲123]10頁35行〜下1行)と記載されていることから明らかであるほか,甲134(特開昭59-137826号公報,発明の名称「自動計量装置の被計量物排出装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和59年8月8日)や甲135(特開昭63-95325号公報,発明の名称「組合せ計量方法」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和63年4月26日),甲136(特開昭61-260126号公報,発明の名称「組合せ計量装置又は組合せ計数装置と包装機との連動切替装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和61年11月18日)においても,組合せ演算の結果選択されるのが計量ホッパであることが明示されている。
さらにいえば,各ホッパの「開き始めから閉じるまで」のホッパ動作を制御するに過ぎない本件特許発明は,種類の異なるホッパ間でのタイミングを調整することなどできない。
したがって,種類の異なるホッパ毎に設定を行うといった方法は,本件訂正後の特許請求の範囲の記載に照らし,意味をなさないから,そのような効果を参酌して本件特許発明進歩性が支持されるとすることは許されない。
c「ゲートが開き始める前に,レバーがローラに当接するように,モータを所定角度だけ回転させること」は,本件特許発明の作用効果とはいえない「ゲートの開閉リンクのローラとの間のクリアランスによって生じる若干の計量スピード遅れ」を解消するためには,ゲートが開き始める前に,レバーがローラに当接するように,モータを所定角度だけ回転させる必要がある(特許審決公報[甲123]10頁35行〜11頁2行)。しかし,本件特許請求の範囲の記載において,「入力手段」は「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を任意に設定するものである。「ゲートが開き始める前」のモータの動作について設定を行う構成とはされていない。したがって,ゲートが開き始める前に,レバーがローラに当接するように,モータを所定角度だけ回転させることは,本件特許発明の構成とは関係がなく,本件特許発明特有の作用効果とは認められない。
ウ 取消事由3(無効理由2に関する審決の判断の誤り)(ア)本件審決は,引用例3(甲4)を主引用例とする無効理由2についても否定した。この点についても,本件審決の認定判断には誤りがある。
(イ)本件審決は,無効理由2に関し,「…投入ゲート14の開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化は,供給される物品の種類,すなわち,密度,大きさ,または,粘性等に応じて異なるように制御されるものであることから,引用発明3の上記フィードバック制御は予めゲートの刻々の動作変化を設定することが予定されていない制御であるといえる。」(38頁16行〜20行)としている。
しかし,引用例3(甲4)には,「…供給装置に収容されている物品の種類が変更されて,供給流量を変更する場合も,供給制御信号の大きさを変えるだけでよく,…」(2頁右上欄5行〜8行)とあるように,被計量物の種類(密度,大きさ)が変更されればそれに応じて供給制御信号(流量・切替重量)の設定を変更することにより,被計量物の性状に合わせたゲートの刻々の動作変化が予定され,稼働時には予定通りの刻々の動作変化が実現される。
引用例3(甲4)は,多段階に切替えることで供給量の変化を小さくでき,振動を小さくすることによって「振動が収まるまで待つ必要がなく,計量時間を短かくできる。」(2頁右上欄2行〜4行)とあるように,各段階の切替え区間に短い時間を予定して設定できるようにしたこと,制御区間はゲート開度を設定するのでなく流量(g/sec)という時間要素を含む単位のパラメータを設定することで,各段階の切替重量とでもって各区間に要する時間及び全体の供給時間を把握できる設定となっている。
引用発明3では「予めゲートの刻々の動作変化を設定することが予定されていない」とする本件審決の認定判断に誤りがあることは明らかである。
(ウ)また,本件特許発明では被計量物の性状に合わせて刻々の動作変化を設定することが特許請求の範囲に記載されているところ,稼働時の被計量物の性状が設定時点から変化すれば,それに応じた供給量制御はできなくなるという点で,本件特許発明も引用発明3も何ら異なるところがない。
例えば,空気含有量,粒度,湿気の変化などによって被計量物の密度が変わるとゲート開口部からの流れの状態は大きく変化する。したがって稼働時に被計量物の種類や供給量に応じてゲートの動作を制御させるには,被計量物の性状が設定時点から変化してはならないという前提条件が存在する。引用発明3の技術も稼働前の時点において,「稼働時の流量」を設定するようにしている。ゲート開度ではなく流量とは,稼働時の被計量物の性状を反映したパラメータであり,予め稼働時の被計量物の性状に基づいて設定する意図は明らかである。予め設定したとおりに供給量を制御させるための前提条件は本件特許発明と同じであり,引用発明3の設定・制御技術が上記の「…刻々の動作変化は…密度,大きさ,または,粘性等に応じて異なるように制御されるものである…」(本件審決38頁17行〜18行)という,稼働時において予め設定された流量が変化することを前提にした追従制御であるかのような判断は誤っている。この前提条件下で刻々の動作変化の設定・制御に関してフィードバックとオープンループという制御方式の違いが関係しないことも明らかである。
(エ)さらに,本件審決は,無効理由2に関し,相違点ウとして「本件特許発明は,モータは複数種類のホッパ毎に設けられているのに対し,…」(36頁25行)などとしている。本件訂正後の特許請求の範囲には,単に「モータは,ホッパ毎に設けられ」ているとあるだけであり,「複数種類のホッパ毎に設けられている」などとは一切記載されていない。本件審決における本件特許発明の認定は,本件訂正後の特許請求の範囲の記載から逸脱した不当なものである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(4)の各事実は認めるが,(5)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1につきア「『前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,』とする本件訂正は,新規事項を追加するものであって,訂正要件を欠くから,不適法である」との主張に対し(ア)本件訂正後の特許請求の範囲に「前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータ」であると明記されているとおり,本件特許発明は,個々のホッパ毎にステップモータを備えるものであることは特許請求の範囲の記載上一義的に明らかである。
(イ)本件訂正前明細書には,本件訂正前の発明の課題について,「計量装置には種々のホッパが用いられているが,第9図には組合せ計量装置Aの概略構成が示されている。図において,被計量物品は,分散テーブルa,供給トラフb,プールホッパdを介して計量ホッパeに供給され,ロードセル等の重量検出器により重量が計量される。ハウジングcは,分散テーブルa,供給トラフbを支持している。…このような計量装置のホッパゲートを開閉するアクチュエータとしては,…エアシリンダによるものや,…モータによるもの等が知られている。ところが,これら従来のアクチュエータは,ゲートの開閉を自由に,かつ細かに制御することができないので,種々の問題が生じていた。即ち,(1)ホッパに供給される毎回の供給量が…僅かな場合は,ゲートを半開にするだけで直ちに排出されるにもかかわらず,従来のアクチュエータでは,ゲートを必ず全開にしなければならなかったので,ゲートの開閉周期の短縮による計量速度の向上は望めなかった。(2)ゲートの開閉リングの摩耗等によってクリアランスが拡大するとゲート開閉時の騒音が大きくなるが,従来のアクチュエータでは,このクリアランスを補正するような動作特性の変更,例えばゲートが閉じる直前のスピードをより遅くするような変更ができなかった。(3)エアシリンダを使用するものでは,各ホッパのゲート開閉スピードを個別に変えることは容易であるが,逆に全てのスピードを同じに調節することは難かしいので,計量スピードは,ゲート開閉のスピードが最も遅いものに合さなければならないという難点があった。」(特許審決公報[甲123]7頁18行〜38行)との記載がある。このように,従来の種々のホッパを有する「計量装置のホッパゲートを開閉するアクチュエータとしては,…エアシリンダによるものや,…モータによるもの等が知られて」いたが,「これら従来のアクチュエータは,ゲートの開閉を自由に,かつ細かに制御することができないので,種々の問題が生じていた」のである。この課題を解決する手段として,「ホッパ毎」ではなく「ユニット毎」,すなわち,プールホッパと計量ホッパに共通のステップモータを設けただけでは(原告主張に係る「構成2」),結局,甲3の従来技術と同様に,プールホッパと計量ホッパとは1個のモータによって同期して駆動されることになるため,「計量スピードは,ゲート開閉のスピードが最も遅いものに合さなければならないという難点」を解決できない。したがって,原告主張に係る「構成2」が本件特許発明の意味内容であるとの解釈を本件訂正前明細書から導き出すことが困難であることは明らかである。そして,原告主張に係る「構成3」があり得ないことは,組合せ計量装置が組合せ演算の結果選択されたホッパが排出動作を行うものであり,全部のホッパを1個のモータで開閉しては組合せ計量を実行できない以上,当然である。そうだとすれば,本件訂正前明細書の「発明の詳細な説明」から導かれる結論は,本件訂正後の特許請求の範囲の字義どおり,「モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータ」と解釈される。
(ウ)本件訂正前明細書には「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる」ことが記載されている(特許審決公報[甲123]10頁28行〜29行)。ゲートの開閉パターンを全てのホッパを対象に一括して設定することも,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる構成として自然に導き出されるモータの配置に係る構成が,モータをホッパ毎に設けられたステップモータとする構成であることは自明であり,本件訂正は,このような明細書から自明な事項に基づく適法な訂正であって,本件訂正前明細書等を総合して導き出されるすべての技術的事項に何ら新規事項を追加するものではない。したがって,本件訂正が訂正要件に適合するとした本件審決の判断に瑕疵は存在しない。
(エ)原告は,特開昭58-223718号公報(甲69)の記載事項を引用して本件特許発明の要旨認定に供しようとしているが,原告が引用する甲69の記載事項をもって,本件明細書の記載に代替しようという手法自体が失当である。そして,親子計量やミックス計量において「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成が事後分析的に想定できるからといって,一方では,原告自身が「1個1個のホッパ毎」にステップモータが設けられている構成も「自然に考えられる」としているのだから,その自然に考えられる構成に基づき本件訂正は適法であると判断した本件審決が誤った判断であるとすることはできない。
(オ)他方,原告は,ホッパの種類毎に設定を行う構成は,本件特許発明下位概念に過ぎないから,このような構成に伴う作用効果を本件特許発明の作用効果として参酌することは適切ではない,と主張する。
しかし,例えば,いわゆる「親子計量」の場合,複数のホッパを荒充填用グループという種類のホッパ群と補正充填用グループという種類のホッパ群とに分け,あるいは,いわゆる「ミックス計量」の場合,複数のホッパを種類の異なる被計量物毎のホッパ群に分け,夫々のグループ毎に開閉パターンを任意に設定する本件特許発明を適用すれば,計量スピードの向上という作用効果を奏することは自明であると共に,このことは本件明細書に開示された事項そのものでもあり,その作用効果を本件特許発明特有の作用効果として参酌できないということはない。さらに,種類の異なるホッパ間での適切な開閉スピードの調整により「計量スピードは,ゲート開閉のスピードが最も遅いものに合さなければならないという難点」が克服できることも,本件明細書に開示された事項そのものであって,「下位概念に過ぎないから」,その作用効果を本件特許発明の作用効果として参酌し得ないということもない。
(カ)原告は,?@1個のステップモータに第1のホッパのゲートと第2のホッパのゲートとが連結され,回転角0°〜90°の範囲で第1のホッパを開閉駆動し,90°〜180°の範囲で第2のホッパを開閉駆動する構成や,?A1個のステップモータに第1のホッパのゲートと第2のホッパのゲートとが連結され,原点から時計方向(正の角度)にモータが回転する場合には第1のホッパのゲートが開閉駆動され,原点から反時計方向(負の方向)にモータが回転する場合には第2のホッパのゲートが開閉駆動されるような構成が存在すると主張する。
しかし,原告が挙げる上記?@,?Aの実施形態は,いずれも本件訂正前明細書等を総合しても導き出すことのできない新規事項であり,このような実施形態が本件訂正前明細書等から自明の事項であるとされるいわれはない。かつ,上記の各実施形態は,「第1ホッパ」と「第2ホッパ」とが時間軸上で同時に駆動できない(?@においては0°〜90°で第2ホッパが停止するし,?Aにおいては時計方向回転時に第2ホッパは駆動されない)というものであるから,例えば供給ホッパが開放され排出されたタイミングでは既に計量ホッパが前工程の排出を終え閉じられていなければならないといった開閉シーケンスが要求される組合せ計量装置において,適切な計量処理に適しないものである。
イ「本件特許発明の『複数種類のホッパ』という概念を特許性の判断に影響を与える要素として捉えた場合には,本件訂正は,新規事項を追加するものであって,訂正要件を欠く上,独立特許要件にも適合せず,不適法である」との主張につき後記(2)エのとおり,本件特許発明の作用効果として,『種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることも可能となるとの作用効果をも奏する』と認定した本件審決には,誤りがなく,本件特許発明の「複数種類のホッパ」という概念を特許性の判断に影響を与える要素として捉えた場合に本件訂正が不適法であるということはない。
(2) 取消事由2に対しア 「引用発明1認定の誤り」の主張につき(ア)引用例1(甲3)から把握される発明は,従来の組合せ秤では「ホッパーがフレームに固定されている」ため清掃の作業性が悪いので,清掃性の向上を目的として,ホッパをフレームに着脱自在に設ける組合せ秤である。
引用例1に開示された発明と本件特許発明との一致点が「被計量物品を貯蔵し排出する複数種類のホッパと,各ホッパの排出口にそれぞれ設けられたゲートと,各ゲートをリンク機構を介して開閉駆動するモータとを備えた組合せ計量装置であって,前記モータは,ステップモータであり,組合せ演算の結果選択されたホッパについて前記モータを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする組合せ計量装置。」であるとの本件審決の認定には誤りがない。
引用例1には,底蓋7,8すなわちゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を設定する旨の記載は一切ないし,底蓋7,8すなわちゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を変更するために偏心カム17,18を別の形状のものに取り替える旨の記載もないことは明らかである。
(イ)特許発明容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であるから,本件特許発明進歩性を判断するに際しても,複数種類のホッパを有する組合せ計量装置の従来のアクチュエータでは,各ホッパの貯蔵量に見合った開度設定ができないことによる計量速度の遅延があったこと,摩耗の進行によるクリアランス補正が困難であったこと,エアシリンダ式ホッパでは種類の異なるホッパを適切に同期させて計量速度を向上させることが困難であったことを解決すべき課題としている点が重要となる。
そして,これらの課題の解決手段として,ホッパ毎にステップモータを設けると共に,動作変化を設定するホッパを指定し,該指定されたホッパのゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する構成に想到したのが本件特許発明である。本件特許発明においては,200〜300msecといった瞬時に行われるホッパゲートの開閉動作について,刻々の,すなわち,本件明細書第1表のステップ「i」で示される各区間にゲートの動作を区分し,その区間毎のゲートの動作変化をステップモータの動特性データとして任意に設定する。その結果,指定されたホッパについての開閉パターンを自由に細かく設定することができるので,各ホッパの貯蔵量に見合った適切な開度調整,摩耗の程度に応じたクリアランス補正,ホッパ間の開閉シーケンスの不整合による計量速度の遅延解消を実現することができる。また,「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる」(本件明細書[特許審決公報(甲123)]10頁28行〜29行)ため,「…個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223718号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる」(本件明細書[特許審決公報(甲123)]10頁31行〜34行)という作用効果を奏するのである。種類の異なるホッパ間でホッパを指定してこれらホッパ間の最適制御を行わせる作用効果は本件審決も明示的に触れている(32頁23行〜26行)。さらには,「…計量ホッパは,計量中においてはアクチュエータに連結されたレバーと分離されていなければならないので,ゲートが閉じた状態では,レバーとゲート開閉リンクのローラとの間には第9図Bの部分を示した第8図のように所定のクリアランスが設けてある。このためゲートを開放させる指令を受けてもレバーがローラに当接してゲートが開き始めるまでには,若干の遅れ(50msec程度)が発生する。これが計量スピードを遅らせる1つの原因となっていたが,この発明では,この応答遅れをなくすことができる」(本件明細書[特許審決公報(甲123)]10頁35行〜40行)のである。このような微細かつ多彩なゲートの開閉パターンを簡便かつ任意に設定できることで,本件特許発明は,動作スピードやホッパへの供給量が異なる種類の異なるホッパへの最適制御(開閉スピードの最適化)が可能になるなど,応用範囲が一挙に広がるものであって,さらには,「ゲート開閉リンクのローラとの間のクリアランス」によって生じる若干の計量スピード遅れ(50msec)さえも解消することができるという,計量速度の極限までの向上を実現したものである。
一方,引用例1には,上記(ア)のとおり,清掃性を向上するためにフレームからホッパを着脱自在にした発明が開示されているにすぎず,本件特許発明において解決しようとする課題の開示も示唆もないことは明らかである。
したがって,カムの形状によりゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を設定する事項が引用例1に開示も示唆もされていないことはもとより,本件特許発明の解決課題である計量速度の向上に関し一切の教示,示唆が引用発明1に存在しないことは明らかであって,この点に関する本件審決による一致点認定ないし課題認定には誤りはない。
(ウ)原告は,引用例1(甲3)について,「カム17とカム18とは明らかに形状が異なるものとして記載されている。このようにカム17とカム18の形状が異なることは,プールホッパー5と計量ホッパ6との開閉タイミングが異なること,すなわち,それぞれのホッパのゲートについて互いに異なる動作変化が実現されることを明瞭に示している。」と主張するが,プールホッパーが開いているとき計量ホッパーが閉じていなければ計量ホッパーが被計量物品を貯蔵することなく落下させてしまうから時間軸上で異なる開閉シーケンスにより開閉されるのは当然である。しかし,だからといって引用例1(甲3)の計量ホッパーにおけるゲート開閉が「開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を設定したものであるとすることは,根拠を欠き,失当である。
(エ)原告は,甲86,甲72,甲74,甲75,甲111〜118を援用して,「操作段階(使用段階)での設定の任意性,変更容易性は得られないにしても,引用発明1が『ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定する』ものであることは明らかである。」と主張する。しかし,引用例1(甲3)そのものにカムの形状によってゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を設定する技術事項の開示ないし示唆がないことはいうに及ばず,カムを変更することによってゲートの動作変化を変更する課題ないし動機が開示も示唆もされていない以上,それ以外の上記各証拠を援用したところで,引用発明1に引用発明2を適用することが,当業者にとって容易に想到できた事項であるということはできない。
さらにいえば,甲111における「与えられた運動から,カムの回転30°ごとの従節ローラの位置を求め,これを1',2',3',……のようにプロットする。カム中心O からO 1'を半径とする円弧を描c cき,これが1を中心とする半径Rの円弧と交わる点を1"とする。同様にして2",3",……を求める。1",2",3",……を中心とするローラと同じ径の円を描き,これらになめらかに接するような曲線を描けば,それが求めるカムの輪郭である。」との記述(160頁4行〜10行),あるいは,甲116における第9・4図の記載(213頁)が,本件特許発明における「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を設定」したものであるとの原告の解釈も失当である。本件特許発明におけるゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化とは,ステップモータの動特性データとして設定されるものであって,本件明細書第1表の区間「i」毎に,ステップモータのパルス周期,パルス数,回転方向として設定されるものであるのに対し,甲111の図4・3「円端揺動従節板カムの作図法」(159頁)であるとか甲116の第9・4図「変位Y」(213頁)によって示唆される「従節」の運動は,偏心カムの回転運動によって奏されるなだらかに変位する円運動類似の運動であり,本件特許発明にいう「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」(期間「i」毎の俊敏な動作変化)に相当するものでないからである。甲117の図3・3(43頁)や図3・7(49頁)には「変位(位置),速度,加速度の期間毎の時間変化,すなわち『刻々の動作変化』」が示されているとの原告の主張も,同様に失当である。このように,本件特許発明における,組合せ計量装置に特有のゲートの動作特性に着眼したゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化が,甲111〜118に開示も示唆もされていないことは明らかである。
(オ)原告は,組合せ計量装置におけるカムの輪郭形状がホッパゲートの刻々の動作変化を設定するものであることが本件特許出願時の技術常識であったとして,甲125,72,127,131〜133を引用するが,次のとおりいずれも失当である。
a甲125甲125には「タイムチャートに基づき動作を設定した形状のカム」という事項が記載されているのみであり,本件特許発明の特徴点である「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を任意に設定する技術的思想は開示も示唆もされていない。
b甲72,甲131〜133甲72は,カム面に従動ローラが接する状態で偏心カムが回転すれば従動ローラのリフト量が変化するという自明の事項を記載しているにすぎず,本件特許発明における「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を任意に設定するという発明の要旨とは全く関係がない。
また,甲131〜133を,「カムの輪郭形状」を「刻々の動作変化を設定するために設定する」ことを開示した文献と解釈することも,本件特許発明技術的意義を見誤った当を得ない主張である。
さらに,甲72や甲131〜133におけるカムは装置内に組み込まれた構成部材であることは明らかであるから,甲72や甲131〜133に開示された計量装置におけるカムを別の形状にしてゲートの動作変化を簡便に変更するという動機を導き出すことができないのは明白である。
c甲127(a)甲127の宣伝広告記事には,「ドア開放のプロファイルは,個々の物品と重量と速度に応じてパフォーマンスを最大化するために合わせられる」(the door opening profile can be tailored tomaximize performance for individual products, weight andspeed)という,Woodman社が展示会で発表しようとしていた計量装置の謳い文句が,具体的構成(「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をステップモータの動特性変化として任意に設定する入力手段」を設けること)についての何らの開示も伴わずに抽象的に述べられているにすぎない。甲127から示唆される組合せ計量機は,モータをアクチュエータとし,カムによって底蓋を開閉する引用例1の開示の域を出るものではない。実際にも,甲127に記載されている「Woodman The Commander 2」は,全開してそのまま素早く閉じる動作と,全開して150msec遅延し閉じる動作の2種類の動作を行う機能を有していたにすぎない。
(b )ま た , 原 告 は , 甲 1 2 7 に 断 片 的 に 記 載 さ れ た「electronically controlled motor」を「ステッピングモータなどのデジタル制御式モータ」と読み替えているが,電子制御式モータには本件特許発明の要旨をなすステップモータのほかにも,サーボモータやDCブラシレスモータが用いられていた可能性がある。甲127の実機が2つの単純な開閉パターンしか有していなかった前記事実からすれば,少なくとも,ステップモータを使用したものでなかったことは明白である。
(c)そして,本件特許発明は,親子計量における親機と子機のような動作スピードや供給量の異種ホッパについて最適制御を行わせるという課題を解決するために,「ステップモータによりゲートを開閉駆動する,指定されたホッパについて,当該ホッパの」ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定できるようにしたものであるが,そのような本件特許発明の構成についての開示ないし示唆は,甲127はもとより甲131〜133からも一切読み取れない。
(カ)原告は,別件訴訟(大阪地裁平成19年(ワ)第2076号)において,甲3におけるリンク機構と同様のリンク機構を用いた原告の製品について,「…モータとホッパゲートとは多数のリンク部材を介して接続されていることから,モータの回転角とホッパゲートの角度とは単純な比例関係とはならない。…モータの回転角とホッパゲートの角度との関係は非常に複雑であって,一方から他方を推定することは極めて困難である。」(乙2[被告第2準備書面]5頁15行〜20行)と主張している。しかるに,引用例1(甲3)からの推考容易性の局面に至るや,甲3に開示されたカムの形状から一義的に「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を設定できる」と主張することは,禁反言に該当し,訴訟上の信義則にもとるものである。
イ 「相違点アに関する判断の誤り」の主張につき(ア)原告が本件訴訟においても援用する甲72,甲86等の組合せ計量装置に係る本件特許出願時の公知技術を見ても,カム機構の形状を工夫することによって「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を任意に設定しようとする技術事項は全く開示されていないのであるから,本件審決の「…この種の組合せ計量装置において,引用例1を始めとして,モータの回転運動を偏心カムによってゲート開閉の往復運動に変換することは本件特許の出願当時周知であったということができるものの,カム機構の形状を工夫することによって,『ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化』を任意に設定しようとすることが当業者の技術常識であったとすることはできない。」(30頁9行〜14行)との判断に誤りはない。
(イ)原告は,甲9,甲120,甲121に開示される発明によれば,「被駆動部材の刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルあるいはメモリ等に任意に設定することによって該部材の動作を任意に制御できるようにしたモータ制御装置」もまた,組合せ計量装置の技術分野における周知技術というべきものであると主張する。
しかし,原告が引用する各公知文献は,「間歇駆動装置」(甲120),「パルスモータ制御装置」(甲9),「加減速パルス発生装置」(甲121)に関するものであり,「組合せ計量装置の技術分野における周知技術というべきもの」ではない。
(ウ)原告は,甲119,甲73〜75も引用した上で,「仮に上記各号証が本件特許発明とは異なる技術分野での応用例であるとしても,ある技術が幅広く異なる技術分野から例示されるような場合は,そのこと自体が当該技術の周知性を証明するものであるといえる。」と主張するが,課題も,機能作用も,期待される効果も異なる異別の技術分野の開示事項をもって組合せ計量装置の技術分野の周知技術であるということはできない。
組合せ計量装置において,引用例1を始めとしてモータの回転運動を偏心カムによってゲート開閉の往復運動に変換することは本件特許出願当時周知技術であったが,カム機構の形状を工夫することによって,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定しようとすることが当業者の技術常識であったとする根拠は全く存在しない。なぜなら,1開閉時間が200ms程度であることが技術常識である組合せ計量装置において(甲11[「データウェイ取扱説明書ADW-X23Rシリーズ」大和製衡株式会社1985年(昭和60年)3月20日]のD-22-00頁,甲40[「ADW221R型取扱説明書」大和製衡株式会社昭和58年7月]の33頁の計量ホッパの開閉時間参照),本件特許発明は,更にこの開閉時間を,本件明細書第1表のように例えば16区間(i=1〜16)の期間毎に分割し,この期間毎の動作変化を設定することによって,極限まで計量速度を向上しようとしたものなのであり,このような課題の着想そのものが本件特許発明において新規に開示されたものであるからである。
(エ)原告は,「仮に組合せ計量装置の『開度』や『開閉運動』といった『動作』が組合せ計量装置に『特有』のものであって,これを理由に引用発明2の技術の適用が否定されるというのであれば,ステップモータで被駆動部材を駆動する何らかの機械装置に引用発明2の技術を適用するだけで進歩性が認められることになる。」と主張する。
しかし,本件特許発明は「ステップモータで被駆動部材を駆動する何らかの機械装置に引用発明2を適用したもの」ではない。組合せ計量装置における計量速度の向上を企図し,ホッパ毎にステップモータを設け,指定されたホッパについて,該ホッパの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をステップモータの動特性データとして任意に設定する入力手段を設け,組合せ演算の結果選択されたホッパについて設定されたゲートの動作変化に基づいてステップモータを制御し,被計量物の種類や供給量に応じて指定されたホッパについてのゲートの動作を任意に制御できるようにした組合せ計量装置に係る発明である。
(オ)原告は,「ホッパゲートに『特有の動作』なるものが,引用発明2の技術を引用発明1に適用する阻害要因となるとはいえない。」と主張するが,引用例1には,ゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化についての記載自体がなく,ましてや,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をカムの形状をもって設定するカム制御技術を用いた組合せ計量装置において,その動作変化の変更に対応できないという課題についても記載も示唆もされていないから,当業者が引用発明に対する相違点アの適用を思考するに当たり,引用発明2を適用する動機付けとなる,課題の共通性,作用効果の共通性,文献中の示唆を見い出せない。このように,当業者において甲3の組合せ秤に引用発明2を適用する動機が形成されるといえない以上,阻害要因について検討するまでもなく,相違点アに係る推考容易性は否定される。
そして,甲73は半導体チップの移送装置,甲74は塑性物質のたねを供給するためのフィーダ機構,甲75はダイボンダーという,いずれも組合せ計量装置とは異なる技術分野の文献であり,そこから周知技術を想定して引用発明1への適用可能性を論じること自体,事後分析的,非論理的思考といわなければならない。特許法29条2項が想定する当業者は,あくまで当該「技術の分野」における「通常の知識」を有する者であって,原告がいうような広範かつ複数の技術分野にまたがるあらゆる先行技術を隅々まで知る,特許文献の博物館のような者を想定するものではない。
(カ)原告は,甲111の記述を挙げ,「カムが,設計段階(製造段階)において被駆動部材の刻々の動作変化を任意に設定できるとはいえ,実際にカムを設計し加工することは難しく,また操作段階(使用段階)での変更や調節も難しいことは,本件特許出願時における技術常識であったといえる。」と主張する。
しかし,本件特許発明において問題となるのは,引用例1の組合せ秤に「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化をステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する」技術(相違点ア)を適用するための課題ないし動機付け(示唆)が認められるかであり,甲111の記述を理由に,引用例1に「ストロークやタイミングが一定していて変更や調節が難しい」等の課題が開示されていると解釈することは,清掃性の向上以外の課題について何らの開示も示唆も存在しない引用例1の記載を逸脱した,証拠に基づかない不当な拡張解釈である。
引用例1(甲3)に「底蓋7,8すなわちゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を設定する旨の記載は…一切無いし,底蓋7,8すなわちゲートの開き始めから閉じるまでの動作変化を変更するために偏心カム17,18を別の形状のものに取り替える旨の記載もない。」(本件審決29頁23行〜26行)のは,「偏心カム17,18はリンク15,16と協働してモータの回転運動を底蓋すなわちゲートの開閉運動に変換させるための運動変換機構として」(本件審決29頁19行〜20行)用いられているのみであって,その開閉運動への変換に際してゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定し,自由かつ細かな制御を実現しようという本件特許発明の課題を着想する必然性も必要性も存在しないからに他ならない。
(キ)原告は,「周知技術Aに照らせば,引用発明1において,ゲートの開放時間を任意に設定できないという課題が存することは明らかであり,この課題に対し引用発明2の技術を適用することでゲートの開放時間を任意に設定できるという効果を奏することもまた,容易に推考しうる事項といえる。」と主張する。
しかし,原告の主張は,「周知技術A」(組合せ計量装置の技術分野において,その運転に先立って,設定重量に応じて,計量ホッパ及び供給ホッパを含む指定されたホッパについてゲートの開放時間を任意に設定する技術的手法)に関する主張において誤りがある。
前審決(甲107)が「周知技術A」の認定に供した甲11には,「…計量しようとする各品物に対し,それぞれの要求(製品重量)に応じた定数の設定を運転に先立って,行なっておく必要があります。」(D-16-00頁3行〜4行)との記述はあるものの,「設定重量に応じて,…ゲートの開放時間を任意に設定する」などという記述は存在しないからである。かえって,前審決が「周知技術A」の認定に供した甲44(「ADW130RW 型取扱説明書」大和製衡株式会社1昭和58年7月)には「計量ホッパの安定時刻を設定します。計量ホッパに被計量物が投入された後,重量センサが安定するまでの時刻で重量センサのダンパ係数,1台当たりの製品重量などを総合的に考慮して必要な時間を設定します。…この値はデータウェイの計量スピードに影響します。」(29頁8項)との記述が認められ,ゲートの開放時間が一義的に計量速度の向上をもたらすとの前審決の認定(甲107,21頁31行〜下1行)が,証拠を見誤ったものであることを明らかにしている。
周知技術A」は,エアシリンダ式アクチュエータを用いた組合せ計量装置に関する技術であって,ホッパの開閉時刻の設定に関する技術事項が記載されているとしても,そこから,引用例1にはホッパの開閉時刻を設定できない課題が開示されていると結論付けることは論理の飛躍が甚だしい。引用例1(甲3)に開示された組合せ秤の技術的課題は,あくまでも「ホッパーがフレームに固定されていると掃除の作業性が著しく悪い」という課題であり(2頁14行〜15行),開閉時刻の設定ができないなどという課題は存しない。
そして,「ゲートの開放時間を任意に設定する」という課題から引用発明1に「前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,前記ステップモータによりゲートを開閉駆動する,指定されたホッパについて,当該ホッパの前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記ステップモータの動特性データとして任意に設定する入力手段」を設けるとの本件特許発明の構成が導かれるわけでもない。
(ク)原告は,「引用発明1では,設計段階(製造段階)及び操作段階(使用段階)において,動作変化の変更に対応することが困難であり,またその微調整も困難であることは当業者にとって自明である。」と主張するが,使用段階における動作変化の変更が困難であるなどという「課題」は,引用例1(甲3)のほか,甲72,甲86,甲87といった組合せ計量装置に関する公知技術のいずれにも開示も示唆もされていないことは明白であり,したがって,本件審決における「…本件特許の出願時において当業者が引用例1をみても,引用発明1の組合せ計量装置がその底蓋7,8すなわちゲートの開閉動作に偏心カム17,18を用いているからといって,引用例1には底蓋7,8すなわちゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を変更したいとの動機付けが示唆されているとはいえず,しかも,動作変化を変更するためには偏心カム17,18を別の形状のものに取り替える必要があり,その取り替えは組合せ計量装置を分解等しなければならず簡便に行うことは困難であるところ,ゲートの動作変化を簡便に変更する,との動機付けも示唆されているとはいえない。」(30頁15行〜23行)とした判断に誤りはない。
また,原告は,本件特許発明の課題が甲45,甲46,甲122に開示されていると主張するが,原告が引用する甲45や甲122は組合せ計量装置の技術分野とは無関係の文献であり,甲46においても騒音を小さくする技術手段としてクリアランス補正を行うことの示唆も存在せず,本件特許発明進歩性に影響を及ぼす主張とはいえない。
ウ 「相違点イに関する判断の誤り」の主張につき(ア)原告は,本件審決による相違点イの判断に関し,「本件訂正後の特許請求の範囲におけるモータが設けられるところの『ホッパ毎』の解釈において,『ユニットの異なるホッパ毎』にモータが設けられた構成(原告主張に係る「構成2」)を排除する合理的根拠は一切存在しない。」と主張する。
しかし,この主張が理由のないものであることは,前記(1)アで述べたとおりである。
(イ)原告は,「仮に,本件審決の相違点イの認定が妥当であるとしても,引用発明1において『1個1個のホッパ毎』あるいは『種類の異なるホッパ毎』にモータを設ける構成とすることは,いわゆる設計的事項あるいは周知の技術的事項に過ぎない。」と主張する。
しかし,原告が上記主張において引用する甲86における「駆動ユニットの各々に駆動源としてモーター(24)を設けているが,モーター等の駆動源が複数もしくは全部の駆動ユニット(20)に共通するように構成しても」よいとの記述は,駆動ユニット間において駆動源を共通化させるという,モータの数を減少させる改変可能性を示唆する記述であることは明らかであり,ステップモータをホッパ毎に設けることによりモータの数を増加させる本件特許発明とは逆方向の開示であって,この記載に照らし「ホッパの個数とモータの個数の対応関係は適宜に変更しうる設計的事項であった」ということはできない。
(ウ)組合せ計量装置において,ゲートの刻々の動作変化を実現するためのモータを複数種類のホッパ毎に設けることは,先行技術文献のいずれにも示されていない新規な構成であり,このような構成を採用することを示唆する証拠も一切存在しない。
なお,甲127には「Scale hopper and holding bin attached to eachtower is accomplished using separate electronically controlledmotors」との記載があるが,この記載をもって「モータがホッパ毎に設けられている」と認定することもできない。甲72(実開昭59-163929),甲86(実開昭58-169532)等は複数の計量ホッパを共通して駆動する単一モータを有する,組合せ計量装置に係る出願前周知技術を示しており,該周知技術を考慮すれば,甲127は,「hopper」と「holding bin」のそれぞれに,各「hopper」及び「holding bin」毎に共通の「separate electronically controlledmotors」を備えたものであったと解するのが自然であるからである。
(エ)したがって,引用例1の組合せ秤と本件特許発明の相違点イを引用例1に適用することが出願時当業者が容易に推考できたとする理由はない。
エ 「作用効果に関する判断の誤り」の主張につき(ア)原告は,「本件特許発明の作用効果として,『種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることも可能となるとの作用効果をも奏する』と認定した本件審決には,誤りが存する。」と主張する。
しかし,計量ホッパと共に供給ホッパも選択されなければ選択された計量ホッパには被計量物が供給されないことは自明であるから,「組合せ演算の結果計量ホッパのみが選択される」ということはないし,さらにいえば,タイミングホッパを複数備えた組合せ計量装置においては組合せ演算の結果,複数のうちのいずれか1つのタイミングホッパが選択されなければ,計量ホッパから被計量物を排出できなくなるから,この点からも,「組合せ演算の結果計量ホッパのみが選択される」ということはない。本件明細書には,選択的に開閉される複数の「タイミングホッパh,j」を有する組合せ計量装置が開示されている(特許審決公報[甲123]7頁22行〜23行)。
また,本件明細書における発明が解決すべき課題の摘示(特許審決公報[甲123]7頁30行〜38行)は,従来技術における種々のホッパを有する計量装置という技術的前提を受けての記載であることはいうに及ばず,?@ゲートの貯蔵量が異なる計量ホッパとタイミングホッパとでいずれも全開にするのでは計量速度の向上が望めないこと,?A開閉頻度が異なる異種のホッパでは摩耗の激しいホッパについてクリアランス補正を行う動作特性の変更が困難であったこと,?Bプールホッパの排出準備が整っていても計量ホッパの受入れ準備が完了していなければ遅い計量ホッパに合わさなければならず,計量ホッパの排出準備が整っていてもタイミングホッパの受入れ準備が完了していなければ遅いタイミングホッパに合わさなければならないことを述べていることは自明である。しかも,本件明細書には,「個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223178号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる」との作用効果が明記されている(特許審決公報[甲123]10頁31行〜34行)。親子計量においては荒計量用計量セクションを構成する親機群と補正充填用計量セクションを構成する子機群という,ホッパへの供給量や動作スピードも異なる異種のホッパによって,ブリッジ等のトラブルが無い充填効率の良い組合せ計量装置が提供されるところ(甲69[特開昭58-223718号公報]2頁左下欄末行〜右下欄2行),本件特許発明は,ホッパへの供給量も動作スピードも原理的に異なる異種のホッパにおいて「それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる」ことが明細書に開示されているのであるから,本件審決による「種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることも可能となる」との認定は明細書の明示的記載あるいは当該記載から自明の効果について述べた,正しい認定である。
(イ)本件特許発明でいう「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」とは,排出スピードの向上という本件特許発明が奏しようとする作用効果に鑑みれば,当該作用効果に影響を及ぼすゲート開放開始動作に関する位置設定をも文言に含むものと解すべきことは当然であって,レバーをローラに接触させた状態からゲートの開放をスタートさせること,すなわち「ゲートの開き始め」の位置をどこに設定するかも「開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」に含まれると解釈するのが妥当である。しかも,1回の開閉動作が200〜300msecという短いシークエンスを更に例えば16分割して区間毎の「刻々の動作変化を任意に設定」できるからこそ,ゲート開放直前の微細ステップのドライブによりレバーをローラに当接させてレバーのスタート位置を決め,それによって更なる排出動作の向上を図ることができることは本件明細書に開示されている本件特許発明の作用効果以外の何物でもない。
(ウ)本件審決の本件特許発明の作用効果の認定に誤りはなく,それ以前に引用発明1(甲3)に他の公知技術を適用して本件特許発明のようにすることを当業者が容易に想到できたとはいえない以上,原告の主張は意味をなさない。
(3) 取消事由3に対し原告は,引用例3(甲4)を主引例とする進歩性欠如の主張について,引用発明3では「『予めゲートの刻々の動作変化を設定することが予定されていない』とする本件審決の認定判断に誤りがあることは明らかである。」と主張するが,甲4の開示事項に忠実になされた本件審決の認定判断(本件審決38頁13行〜32行)に誤りはない。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(訂正の内容),(4)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2訂正前発明及び本件特許発明の意義について(1) 訂正前発明ア本件訂正前明細書(特許審決公報[甲123]7頁〜11頁)には,「特許請求の範囲」として,前記第3,1(2)アの記載があるほか,「発明の詳細な説明」として次の記載がある。
(ア) 産業上の利用分野「本発明は,ホッパゲートの開閉をモータにより自由に制御できるようにした計量装置に関する。」(7頁16行)(イ) 従来の技術「計量装置には種々のホッパが用いられているが,第9図には組合せ計量装置Aの概略構成が示されている。図において,被計量物品は,分散テーブルa,供給トラフb,プールホッパdを介して計量ホッパeに供給され,ロードセル等の重量検出器により重量が計量される。ハウジングcは,分散テーブルa,供給トラフbを支持している。
計量ホッパで計量された被計量物品は,外側シュートf,または内側シュートgよりタイミングホッパh,jに供給され,下側シュートiまたはkより排出される。
このような計量装置のホッパゲートを開閉するアクチュエータとしては,特開昭59-74092号公報に開示されたエアシリンダによるものや,実開昭58-37520号公報,実開昭58-169532号公報等に開示されたモータによるもの等が知られている。」(7頁18行〜26行)(ウ) 発明が解決しようとする問題点「ところが,これら従来のアクチュエータは,ゲートの開閉を自由に,かつ細かに制御することができないので,種々の問題が生じていた。即ち,(1)ホッパに供給される毎回の供給量が第10図のように僅かな場合は,ゲートを半開にするだけで直ちに排出されるにもかかわらず,従来のアクチュエータでは,ゲートを必ず全開にしなければならなかったので,ゲートの開閉周期の短縮による計量速度の向上は望めなかった。
(2)ゲートの開閉リングの摩耗等によってクリアランスが拡大するとゲート開閉時の騒音が大きくなるが,従来のアクチュエータでは,このクリアランスを補正するような動作特性の変更,例えばゲートが閉じる直前のスピードをより遅くするような変更ができなかった。
(3)エアシリンダを使用するものでは,各ホッパのゲート開閉スピードを個別に変えることは容易であるが,逆に全てのスピードを同じに調節することは難かしいので,計量スピードは,ゲート開閉のスピードが最も遅いものに合さなければならないという難点があった。又,エアシリンダを使用するものでは,特性の経時変化が大きいので,メンテナンスを欠かすことはできず,整備のための時間とコストが多くかかるという問題があった。
そこで,本発明はこのような従来技術の問題点の解消を目的とした計量装置を提供するものである。」(7頁28行〜41行)(エ) 問題点を解決するための手段「本発明の計量装置は,被計量物品を貯蔵し排出するホッパと,該ホッパの排出口に設けられたゲートと,該ゲートを開閉駆動するモータとを備えた計量装置であって,前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記モータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,設定されたゲートの動作変化に基づいて前記モータを制御する制御手段とを設け,前記入力手段はコントロールパネルに含まれており,被計量物の種類や供給量に応じて前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とするものである。」(7頁43行〜47行)(オ) 作用「本発明の計量装置は,ホッパゲートを開閉駆動するモータの動特性データを,被計量物品の種類や供給量に応じて予めテーブルに,パルス周期,パルス数,回転方向等に関して設定しておき,該テーブルの情報に応じてホッパゲートを開閉制御するので,ゲート開度を被計量物の供給量に応じて任意に調製でき,計量スピードも任意に変えることができる。また,前記モータの動特性データを外部記憶装置に複数記憶し,必要に応じて切り替えられるので,複数の被計量物のデータを記憶しておき被計量物が変わったときに迅速にデータの変更ができる。」(7頁49行〜8頁4行)(カ) 実施例a「以下,図により本発明の実施例について説明する。第1図は,本発明の概略構成を示すブロック図である。
図において,1はコンピュータでタイマ2と接続され,また,入力装置や表示装置を含むコントロールパネル3と通信ラインで接続される。コンピュータの出力指令は,ドライバ4を介してステップモータ5に送出され,ステップモータは図示しないリンク機構を介してホッパのゲートと連結されてホッパ6のゲートを開閉制御する。コンピュータとコントロールパネルを接続する通信ラインには,他のメモリから後述するテーブルデータをロードする。」(8頁6行〜11行)b「第2図は,ステップモータの動作サイクル図であり,例えば,ステップモータを100パルスドライブするとホッパゲートが半開となり,200パルスドライブしたときにホッパゲートが全開となるように設定されているとする。
このようなステップモータを例えば,第2図のように,t 期間は等速1t 期間は漸次減速2t 期間は停止3t 期間は逆方向に漸次増速4t 期間は逆方向に等速5t 期間は逆方向に漸次減速6となるように動作させる場合,第2図に対応させた第3図から第1表のテーブルを作ることができる。但し,このテーブルは,ホッパゲートの半開を基準に作成している。 」(8頁12行〜23行)c「ここで,第1表のようなテーブルを基に,各パラメータ(Ti,Pi,Fi)の定数を,入力装置を用いて,予めコンピュータに登録しておき,ホッパゲートの開度設定に際しては,例えば,第4図(a)に示すようなメッセージを表示装置に表示させて,開度,周期を指定する。そして,例えば開度が100%,周期も100%に指定された時は,パルス周期(Ti)の各定数をそれぞれ1/2に,パルス数(Pi)の各定数をそれぞれ2倍にした新たなテーブルをコンピュータ内部で作成して記憶する。これにより,変更後のテーブル情報は,第2図の点線で示す全開の動作曲線に対応したものとなる。同様に,開度が75%であれば,Tiの各定数は3/4に,Piの各定数は4/3倍にそれぞれ変更され,又,周期が200%に指定された時は,パルス周期(Ti)の各定数はそれぞれ2倍に変更される。
但し,以上の例は,半開の場合を基準にしたものであって,全開のテーブル情報を予めコンピュータに登録した場合は,開度指定に伴う各パラメータ(Ti,Pi)の倍率は異なって来る。即ち,開度100%と指定された時は,各パラメータの定数はそのままで良いが,開度が50%に指定された時は,パルス周期(Ti)の各定数は2倍に,パルス数(Pi)の各定数は,それぞれ1/2に変更される。
こうして,ステップすなわち,ゲートの開閉スピード,加速度,開度を計量物品の種類や貯蔵量に応じたそれぞれのモータの動作特性値が作成され記憶されると,コンピュータは,この情報に基づいてステップモータを駆動する。」(9頁1行〜10頁5行)d「以上の説明のように,本発明によれば,(1)ステップモータは,ドライバ用のテーブルを作ることによって任意に制御できるので,ホッパゲートをできるだけ速く開放させて,排出スピードを速めたり,或は,ゲートの急激な開閉運動による衝撃音を和らげるために,運動の始めと終わりを指数関数的に立ち上げ,或は収束させるようにして,騒音を押えることができる。
(2)又,粘着性のある被計量物を計量する場合は,ホッパ内面やゲートへの被計量物の付着が問題となるがこのような場合は第7図のようにゲートが開ききった時に,ステップモータを微小期間,微小ステップ幅だけ正転,逆転させてゲートに微振動を与え,これによって,被計量物の付着を防止することもできる。
(3)ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる。
例えば,第4図(b)に示すようなメッセージを表示させて,ホッパ毎に個別に指定しても良い。このように個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223718号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる。」(10頁20行〜34行)e「ところで,計量ホッパは,計量中においてはアクチュエータに連結されたレバーと分離されていなければならないので,ゲートが閉じた状態では,レバーとゲート開閉リンクのローラとの間には第9図Bの部分を示した第8図のように所定のクリアランスが設けてある。
このためゲートを開放させる指令を受けてもレバーがローラに当接してゲートが開き始めるまでには,若干の遅れ(50msec程度)が発生する。これが計量スピードを遅らせる1つの原因となっていたが,この発明では,この応答遅れをなくすことができる。
次に,このような本発明の制御について,第6図のフローチャートにより説明する。
計量中は他の処理例えば,入出力装置からの信号をチェックし,その信号に基づいた処理を行ない(ステップP ),レバーをローラか2ら待避させて所定のクリアランスを設けておくが,計量が終ると,直ちにステップモータを微少ステップ数だけドライブして,レバーをローラに軽く接触させておく(ステップP ,P )。この場合,ゲート13の開閉リンクには若干の遊びがあるので,ゲートは閉じたままである。そして,組合せ演算の結果,選択されて排出指令を受けると,ステップモータを直ちにドライブして,レバーにより,応答遅れなくローラをプッシュしてゲートを開放させる(ステップP 〜P )。そし46て,ゲートの閉鎖サイクルでは,レバーとローラとの間に所定のクリアランスが生じる初期位置まで,ステップモータの逆回転でレバーを引き戻す(ステップP )。また,組合せ選択されなかった計量ホッ7パに対しても,次の計量に備えて,レバーを初期位置まで引き戻しておく。
こうした制御は,ステップモータをどのようにドライブさせるかの動作曲線を前述のように描き,これに基づいてデータを設定してテーブルに登録しておくことにより,容易に実現できる。」(10頁35行〜11頁2行)(キ) 発明の効果「以上説明したように,本発明によれば次のような効果が得られる。
(1)ホッパの供給量に応じてゲート開度を任意に調整することができるので,供給量に応じて計量スピードを変えることができる。
(2)ゲート開閉の動作特性を入力装置で簡単に変えることができるので,設計の自由度が増し,あらゆる被計量物の性状に応じたゲート開閉制御を行なうことができる。特に粘着性のある被計量物に対しては,ゲートを開放した姿勢でゲートに微振動を与えることができるので,付着による計量誤差をなくすことができる。
(3)各ホッパ毎に任意に開閉スピードを変えることができるので,親子計量のような特殊な計量方式のものにも使用でき,又,各ホッパの開閉スピードを異ならせることにより特開昭58-41324号公報のような時間差排出を行なわせることもできる。さらには,上部分散供給部をパーティションで複数に分割して,各々に種類の異なる被計量物を供給して所謂ミックス計量(特開昭58-19516号公報)する場合にも有効となる。
(4)ゲートをどのように開閉させるかは,データとして登録しておくことができるので,実開昭59-27425号公報に示すように,被計量物の性状に応じた最適なゲート開閉データを被計量物毎にメモリに登録しておき,被計量物を指定すれば,登録された所定のデータが呼び出されて最適なゲートの開閉を行なわせることができる。又,目標重量値の大小に応じても同様にできる。
(5)ゲート開閉リンクの摩耗によってゲート開閉時の騒音が大きくなっても,ゲート開閉特性をデータの変更によって調整することにより簡単に騒音を押さえることができる。」(10頁6行〜21行)イ本件特許の図面(特許公報,甲2)として,下記の「第1図」,「第2図」,「第4図」等がある。
「第1図」「第2図」「第4図」(2) 本件特許発明ア本件訂正後の本件明細書(全文訂正明細書[甲109])には,「特許請求の範囲」として,前記第3,1(2)イの記載があるほか,「発明の詳細な説明」については,次の各点が上記(1)の明細書とは異なる(下線部が訂正部分)。
(ア)前記(1)ア(ウ)の「(2)ゲートの開閉リングの摩耗」が「(2)ゲートの開閉リンクの摩耗」と訂正されている。
(イ) 前記(1)ア(エ)が,次のとおり訂正されている。
「本発明の計量装置は,被計量物品を貯蔵し排出する複数種類のホッパと,各ホッパの排出口にそれぞれ設けられたゲートと,各ゲートをリンク機構を介して開閉駆動するモータとを備えた組合せ計量装置であって,前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,前記ステップモータによりゲートを開閉駆動する,指定されたホッパについて,当該ホッパの前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記ステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する入力手段と,組合せ演算の結果選択されたホッパについて,設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段とを設け,前記入力手段はコントロールパネルに含まれており,被計量物の種類や供給量に応じて,前記指定されたホッパについての前記ゲートの動作を任意に制御できるようにしたことを特徴とするものである。」イ本件訂正後の特許請求の範囲には,「前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,」と記載されている。この「ホッパ毎」には「個々のホッパ毎」という明示の限定はないが,そうであるとしても,日本語の通常の意味として,「個々のホッパ毎」という意義に解することができるものである。
また,前記(1)ア(カ)aのとおり,本件明細書には,「コンピュータの出力指令は,ドライバ4を介してステップモータ5に送出され,ステップモータは図示しないリンク機構を介してホッパのゲートと連結されてホッパ6のゲートを開閉制御する。」との記載があり,前記(1)イのとおり,第1図には,1個のホッパに1個のステップモータが接続されている図が記載されている。また,前記(1)ア(カ)dのとおり,本件明細書には,「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる。」との記載があり,前記(1)イのとおり,第4図(b)の記載がある。これらの本件明細書及び図面の記載は,上記本件訂正後の特許請求の範囲の解釈を裏付けているということができる。
そうすると,本件特許発明においては,「ステップモータは,個々のホッパ毎に設けられている」ものということができ,原告が主張する構成2(異なるユニットに属するホッパ毎に異なるモータが接続されている構成)や構成3(種類の異なるホッパ毎に異なるモータが接続されている構成)を含むと解することはできない。
ウそして,?@本件訂正後の特許請求の範囲によれば,本件特許発明は,「複数種類のホッパ」を備えた「組合せ計量装置」であること,?A本件明細書には,前記(1)ア(イ)のとおり,従来から使用されている計量装置には,プールホッパ,計量ホッパ,タイミングホッパが備えられていることが記載されていること,?B本件明細書に記載されている,前記(1)ア(ウ)の「発明が解決しようとする問題点」(ただし,「(2)ゲートの開閉リングの摩耗」は「(2)ゲートの開閉リンクの摩耗」)は,特定のホッパに限定されず,いずれのホッパにおいても該当する問題であり,本件特許発明の技術的事項は,いずれのホッパにおいても達成し得るものである(本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1「組合せ演算の結果選択されたホッパについて設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段とを設け,」という部分については,次のとおり)から,本件訂正後の特許請求の範囲の「ホッパ毎」は,「複数種類のホッパ」を意味するものと認められる。
なお,原告は,本件特許発明においてステップモータが設けられている「個々のホッパ」は,「計量ホッパ」を意味すると主張するが,以下のとおり,この主張を採用することはできない。
(ア)本件特許発明は,「組合せ計量装置」についての発明であるところ,証拠(甲80,82,86,87,134)によれば,「組合せ計量装置」は,複数の計量装置で被計量物を計量して得た複数の計量値を基に組合せ計算を行い,所定重量に等しいか又はそれに最も近い重量の組合せに該当するものを排出する計量装置であると認められるから,組合せ演算によって直接,選択されるのは,計量ホッパであるということができる。
しかし,前記(1)ア(イ)のとおり,プールホッパ(供給ホッパ)は,被計量物を計量ホッパに供給するためのものであるから,ある計量ホッパが選択されて,被計量物が排出されると,当該計量ホッパに対応するプールホッパ(供給ホッパ)から被計量物が供給されることになるし,前記(1)ア(イ)のとおり,本件明細書には,「タイミングホッパh,j」として,二つのタイミングホッパが記載されているように,タイミングホッパは一つとは限らないのであるから,計量ホッパが選択された結果,当該計量ホッパに対応するタイミングホッパに被計量物が排出されるということもあり得ると考えられる。そうすると,計量ホッパのみならず,プールホッパ(供給ホッパ)やタイミングホッパについても,間接的であっても,組合せ演算によって選択されるということがあるから,本件訂正後の特許請求の範囲に「組合せ演算の結果選択されたホッパについて設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する制御手段とを設け,」という部分が含まれているからといって,本件訂正後の特許請求の範囲の「ホッパ毎」を「複数種類のホッパ」と解することが妨げられることにはならない。
(イ)計量ホッパは,前記(1)ア(カ)のとおり,実施例で具体的に言及して記載されているものの,これは実施例の記載であり,本件特許発明の意義が,この記載に限定されるということはできない。
(ウ)さらに,原告が引用する甲134(特開昭59-137826号公報,発明の名称「自動計量装置の被計量物排出装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和59年8月8日),甲135(特開昭63-95325号公報,発明の名称「組合せ計量方法」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和63年4月26日)及び甲136(特開昭61-260126号公報,発明の名称「組合せ計量装置又は組合せ計数装置と包装機との連動切替装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和61年11月18日)の記載についても,他の特許明細書の記載であって,本件特許発明についても同様に解釈しなければならないということにはならない。
エ本件特許発明における「当該ホッパの前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記ステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する」の意義については,次のように解することができる。
(ア)本件特許発明は,ステップモータの動特性データとして「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を設定するものであるところ,証拠(甲6,38)及び弁論の全趣旨によれば,ステップモータは,モータに対してパルス状の信号を送ることでモータを回転させ,与えたパルスに比例して正確にモータを回転させることができるので,容易に高精度の位置決めをすることができると認められる。
(イ)そうすると,本件特許発明にいう「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」についても,このようなステップモータの特性と関連付けて理解しなければならず,「ステップモータの動特性データとして設定される動作変化」を意味するというべきである。
(ウ)なお,上記(イ)の解釈は,ステップモータの動特性データとして「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」を設定するとの本件特許請求の範囲の記載に基づき,技術常識参酌して,本件特許発明の意義を解釈したものであって,「発明の詳細な説明」の記載に基づき特許請求の範囲に記載された用語を限定解釈して発明の要旨を認定するものではない。
また,被告は,別件訴訟(大阪地裁平成19年(ワ)第2076号)において,「本件特許請求の範囲の計量装置におけるゲートの開閉制御に係る構成はきわめて明瞭である。従って,クレーム解釈に当たり,機能クレームとか抽象的クレームであるとの理由で実施例限定等をされなければならない発明ではない。」と主張している(原告準備書面(6)[甲142]6頁25行〜28行)が,上記(イ)の解釈は,上記のとおり本件特許請求の範囲の記載に基づいて解釈したもので,実施例限定等をしたものではないから,被告の別件訴訟における上記主張との関係において信義則に反し許されないということもない。
オなお,前記(1)ア(カ)eに記載されている動作,すなわち,「ゲートが開き始める前に,レバーがローラに当接するように,モータを所定角度だけ回転させること」は,ゲートを開放させる際の応答遅れをなくすためのものであって,ゲート開放前のモータの動作であるから,本件特許発明のいう「当該ホッパの前記ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記ステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する」,「設定されたゲートの動作変化に基づいて前記ステップモータを制御する」に当たるということはできない。したがって,この動作を本件特許発明の作用効果ということはできない。
3 取消事由1(訂正要件に適合するとした判断の誤り)について(1)「『前記モータは,ホッパ毎に設けられたステップモータであり,』とする本件訂正は,新規事項を追加するものであって,訂正要件を欠くから,不適法である」との主張につきア前記2(2)イ,ウのとおり,本件特許発明においては,「ステップモータは,個々のホッパ毎に設けられている」ものということができ,ここでいう「個々のホッパ」は「複数種類のホッパ」を意味するものと認められる。
イ本件訂正前明細書及び図面の記載は,前記2(1)のとおりであって,前記2(1)ア(イ)のとおり,従来から使用されている計量装置には,プールホッパ,計量ホッパ,タイミングホッパが備えられていることが記載されていること,前記2(1)ア(カ)aのとおり,本件訂正前明細書には,「コンピュータの出力指令は,ドライバ4を介してステップモータ5に送出され,ステップモータは図示しないリンク機構を介してホッパのゲートと連結されてホッパ6のゲートを開閉制御する。」との記載があり,前記2(1)イのとおり,第1図には,1個のホッパに1個のステップモータが接続されている図が記載されている。また,前記2(1)ア(カ)dのとおり,「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる。例えば,第4図(b)に示すようなメッセージを表示させて,ホッパ毎に個別に指定しても良い。このように個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223718号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行なわせることができる。」との記載があり,前記2(1)イのとおり,第4図(b)の記載がある。
以上の記載に,本件訂正前明細書及び図面の他の記載をも総合すると,本件訂正前の明細書及び図面に「ステップモータは,個々のホッパ毎に設けられている」ものが記載されていたことは明らかであり,そこでいう「個々のホッパ」には「複数種類のホッパ」を含むものと解される。
ウそうすると,本件訂正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項が定める「その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず」との要件を満たすものである。
エこの点について,原告は,(ア)訂正前発明の作用効果(?@上記第4図(b)の記載,?A親子計量,?B時間差排出,?Cミックス計量)の観点及び(イ)本件特許出願時の技術水準又は技術常識に基づいて検討すると,本件訂正前明細書及び図面において,「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成(原告主張に係る構成2)は排除されない,と主張するが,たとえそうであるとしても,上記のとおり,本件訂正前の明細書及び図面に「ステップモータは,個々のホッパ毎に設けられている」ものが含まれているのであるから,本件訂正によって本件特許発明をそのようなものに限定することは,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項が定める「その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず」との要件を満たすものということができるのであって,原告の上記主張は,上記ウの認定を左右するものではない。また,原告は,「ホッパゲートの開度指定やスピード変更は,全てのホッパを対象にして一括して設定することもできれば,個々のホッパ毎に個別に指定することもできる」との作用効果を実現するに当たり,ホッパ毎にステップモータが設けられることは必須でない,として,その具体的な構成例を主張しているが,この主張も同様に上記ウの認定を左右するものではない。さらに,原告は,本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づき,本件訂正前明細書及び図面において「ユニットの異なるホッパ毎」にモータが設けられている構成(原告主張に係る構成2)は排除されないと主張するが,本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づいて本件訂正前の発明を解釈するものであるから,相当でない。
オしたがって,原告が主張する訂正要件違反は認められないから,本件審決の訂正要件についての判断に誤りがあるということはできない。
(2)「本件特許発明の『複数種類のホッパ』という概念を特許性の判断に影響を与える要素として捉えた場合には,本件訂正は,新規事項を追加するものであって,訂正要件を欠く上,独立特許要件にも適合せず,不適法である」との主張につき原告は,?@「複数種類のホッパ」という概念を特許性の判断に影響を与える要素として捉える限り,本件訂正は,新規事項を追加するものであって,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項が定める訂正要件を欠く,?A「複数種類のホッパ」という概念は,特許性の判断に影響を与える要素としては本件明細書に開示されていないから,本件特許発明が「複数種類のホッパ」という概念を含むとすれば,本件訂正により新たに追加された「ホッパ毎に設けられたステップモータ」,「指定されたホッパ」との技術的事項を含む本件特許発明は,「サポート要件」(平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号の要件)を満たしていないことになるから,本件訂正は独立特許要件に適合せず,不適法である,と主張する。
しかし,上記?@については,上記(1)のとおり,「ステップモータ」が「複数種類のホッパ」を意味する「個々のホッパ」ごとに設けられるものとすることは,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項が定める訂正要件を欠くものではなく,後記4(5)のとおり,この点を特許性(進歩性)の判断に当たって考慮することができるというべきである(もっとも,後記4(5)のとおり,「プールホッパ毎や計量ホッパ毎に,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定できるので,種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることができる」ことを,当業者[その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者]が相違点イに係る構成について容易に想起することができなかったことの根拠とすることはできない。)。
また,上記?Aについては,本件訂正は,特許無効審判における訂正請求であるから,訂正の可否について独立特許要件は要件とならないものである(特許法134条の2第5項)し,また,上記事由は,本件無効審判において審理判断されなかった事由であるから,本件訴訟において主張することができない。
4取消事由2(無効理由1及び3に関連する審決の認定判断の誤り)について(1) 引用発明1につきア引用例1(甲3,実願昭58-101360号[実開昭60-8843号]のマイクロフイルム)の「考案の詳細な説明」には,次の記載がある。
(ア)「本考案は組合せ秤,詳しくは被計量物を振動させながら分散搬送させる分散板の周辺に,複数の供給トラフを設け,各供給トラフに夫々プールホッパーを,各プールホッパーに計量ホッパーを設けるとともに,前記分散板上の被計量物を供給トラフにより計量ホッパーへ搬送し,設定重量又は設定重量に近い重量に達する複数の計量ホッパーを選択する組合せ秤におけるホッパー構造の改良に関する。
上記プール計量ホッパーはホッパー本体と底蓋とからなり,底蓋には底蓋を開閉する開閉機構が設けられている。
所謂組合せ秤における被計量物は食料品が多いので,衛生上掃除が必須であると共に,被計量物を変えて別の被計量物を計量する場合には,分散板,供給トラフ及び計量ホッパー等を掃除しなくてはならないので,ホッパーがフレームに固定されていると掃除の作業性が著しく悪いものである。
又,ホッパー全体を取付け,取外し自在にするには,ホッパーの底蓋の開閉機構の一部を着脱自在にしなくてはならず著しく複雑な構造となってしまう。又,ホッパーの汚れがひどい場合でも底蓋の開閉機構があるので水洗いもできない。
本考案は上記従来事情に鑑みてなされたものでその目的とする処は,構造簡単で且つ掃除の容易なホッパーを提供することにある。」(1頁下3行〜3頁5行)(イ)「本考案実施例の組合せ秤を第1図乃至第2図により説明すれば,図中(1)は縦長の板を隣り合うように設けてなる分散板であり,該分散板(1)上の被計量物を互いに異なる方向に搬送するように分散板(1)の下方に電磁振動式のフィーダ(9)を設けると共に,分散板(1)の外側辺に供給トラフ(2)を列状に並設する。
供給トラフ(2)は断面略コの字状に形成した搬送路であり,下方に電磁振動式のフィーダ(10)を設けると共に,各供給トラフの搬出端にプールホッパー(5)を設ける。
プールホッパー(5)はホッパー本体(3)と底蓋(7)とからなる被計量物貯溜用のホッパーであり,各プールホッパー(5)の下方に計量ホッパー(6)を配設する。
計量ホッパー(6)はホッパー本体(4)と底蓋(8)とからなり,ロードセル(11)を介してフレーム(12)に設けたもので,該ホッパー(6)内の被計量物を計量するものである。
上記底蓋(7)(8)は夫々軸(13)(14)を介してフレーム(12)に設けてなり,その開閉機構は夫々リンク(15)(16),カム(17)(18)及びパルスモータ(19)とからなる。即ちパルスモータ(19)の回転によってカム(17)(18)が回転して,リンク(15)(16)を夫々所定角度回動して底蓋(7)(8)を開閉動するものである(第3図)。」(3頁12行〜4頁18行)(ウ)「本考案は以上のように,被計量物を振動させながら分散搬送させる分散板の周辺に,複数の供給トラフを設け,各供給トラフに夫々プールホッパーを,各プールホッパーに計量ホッパーを設けるとともに,前記分散板上の被計量物を供給トラフにより計量ホッパーへ搬送し,設定重量又は設定重量に近い重量に達する複数の計量ホッパーを選択する組合せ秤において,上記プール,計量ホッパーはホッパー本体と底蓋とからなり,該底蓋とその開閉機構とをフレームに設けると共に,ホッパー本体をフレームに着脱自在に設けてなる組合せ秤におけるホッパー構造に構成したので,簡単な開閉機構を用いたホッパー構造においてホッパー本体のみ取り外し自在となる為水洗いもでき,掃除が非常に容易となり,衛生的である。」(7頁10行〜8頁5行)イ引用例1(甲3)の組合せ秤の要部拡大図である第3図から,カム(17),(18)はいずれも偏心カムであるが,その形状は異なっていること,カム(17),(18)は一つのパルスモータ(19)のロータに同軸固定されており,カム(17),(18)が同時に回転することが見て取れる。
ウまた,引用例1(甲3)の組合せ秤は,組合せ秤であることから,当然に「複数の計量ホッパ(6)のうち組合せ演算の結果選択された計量ホッパ(6)に排出指令を出力して,対応する底蓋(8)をリンク(16)とカム(18)の組を介して開閉駆動するパルスモータ(19)を制御する制御手段」を備えているものと解される。
エ以上によれば,引用例1(甲3)には,次の発明(引用発明1)が記載されているものと認められる。
「被計量物品を貯蔵し排出する,プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6と,該プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6にそれぞれ設けられた底蓋7及び底蓋8と,該底蓋7及び底蓋8をそれぞれリンク15と偏心カム17の組及びリンク16と偏心カム18の組を介して開閉駆動する一つのモータとを備えた組合せ秤であって,前記モータは,パルスモータ19であり,組合せ演算の結果選択された計量ホッパ6について前記パルスモータ19を制御する制御手段とを設けた組合せ秤。」オ以上の引用発明1につき,本件審決は,「底蓋7及び底蓋8は,同時に開閉駆動する」と認定している(25頁下7行〜下6行)。
しかし,上記のとおり,底蓋7を開閉駆動するカム17と,底蓋8を開閉駆動するカム18は,一つのパルスモータ19のロータに同軸固定されているから,カム17,18は同時に回転すると理解することができるものの,カム17とカム18とは,上記のとおり形状が異なるから,底蓋7と底蓋8では開閉駆動の動作が異なることはあり得るのであり,このことからすると,「底蓋7及び底蓋8は,同時に開閉駆動する」とまで認定することはできない。
カさらに,原告は,引用発明1につき,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化がカムの形状をもって設定される」という技術的事項が含まれるべきであると主張するが,この点については,後記(5)のとおりである。
(2) 引用発明2につきア引用例2(甲119,特開昭61-35192号公報)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲「当接している従動体に所定の動作を与えるカムと,該カムに機械的に接続されたカム駆動モーターと,該モーターを所要の速度で所要の角度だけ正転若しくは逆転させ,または所要時間だけ停止させるモーター制御手段と,プログラムされた前記カムの動作手順に従い前記モーターの回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間を決定する各データを該モーター制御手段に送出して前記モーターをプログラム制御するCPUと,前記カムの動作手順をプログラムするために必要な前記従動体の動作に関する基礎データを該CPUに入力するデータ入力手段とを具備したことを特徴とするカム動作制御装置。」(1頁左下欄5行〜17行)(イ) 発明の詳細な説明・[発明の技術的背景]「従来から第6図に示したような所定形状のカム1をこれに機械的に接続されたカム駆動モーター2を等角速度で回転させることによって該カム1に当接する従動体3に所定の動作を付与するカム制御技術が知られている。この種カム制御技術は,例えば第7図に示した如き複雑な形状のカム1をカム軸5を中心にして回転させることによって第8図のカムダイヤグラムで示したような動作を従動体3(第6図)に付与しようとするものである。」(1頁右下欄6行〜14行)・[従来技術の問題点]「しかしながら従来から行なわれているカム制御技術では,従動体の動作モードが変るとそれに見合った形状のカムを新たに設計製造せねばならず,例え従動体の動作モードの変更が軽微なものであっても新規にカムを設計製造し直さねばならず,設計製造に要する工数が大きくなる等の問題点を有している。」(1頁右下欄16行〜2頁左上欄2行)・[発明の目的]「本発明は叙上の問題点に鑑みなされたもので,例え従動体の動作モードに変更があってもカムを新たに設計製造し直すことなくカム駆動モーターを制御するプログラムの変更のみでこの事態に対処し得るカム動作制御装置を提供することを目的とする。」(2頁左上欄4行〜9行)・[発明の実施例]「本発明の好ましい実施例を第1図を参照して詳述する。本発明のカム動作制御装置10は,カムとしての等速カム11と減速機12とカム駆動モーターとしてのパルスモーター13とモータードライバー14とモーター制御手段としてのモーターコントローラー15とCPU16とデータ入力手段17と原点センサー18とで構成されている。まず第2図に示した様なカムダイヤグラムを呈する第3図に示した等速カム11は,当接している従動体としてのカム接触ロッド(第6図)3に所定の動作を与えるものである。また減速機12は,例えば減速比1/1.8で機械的に等速カム11に接続されている。そしてパルスモーター13は,減速機12を介して等速カム11に機械的に接続されていて例えば1.8°/PULSEの出力特性を有している。このパルスモーター13に電気的に接続されたモータードライバー14は,該モーター13を直接に駆動するものである。またCPU16と電気的に接続されたモーターコントローラ15は,CPU16より送出されてきたデータを取り込んでそのデータに従ってパルスを発生しモータードライバー14に送り込むものであり,パルスモーター13を所要の速度で所要の角度だけ正転若しくは逆転させ,または所要時間だけ停止させんとするものである。さてCPU16は,カム接触ロッド(第6図)3の動作モードに即してプログラムされた等速カム11の動作手順に従いパルスモーター13の回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間を決定する各データをモーターコントローラ15に送出してパルスモーター13をプログラム制御するものである。更にデータ入力手段17は,等速カムの動作手順をプログラムするために必要なカム接触ロッド(第6図)3の動作に関する基礎データをCPU16に入力するものである。また原点センサー18は,等速カム11の原点をセンシングするセンサーであり,このセンスされた信号をCPU16に送出するものである。
次に以上のように構成されたカム動作制御装置の動作を説明する。この本発明のカム動作制御装置で用いられる等速カムは第3図で示されるような外形を有しており,このカムダイヤグラムは第2図に示す如くカム回転角度に対するカムリフトの変化量が比例したものとなっている。
まず一例として第4a図に示したようなカムダイヤグラム仕様で1サイクル時間が1080msecで完結するカムの動作手順は,第5図(a)(b)(c)に示すフローチャートで説明される。このカムの動作手順を第4b図を参照して略説すると以下の様になる。この場合において外部よりCPU(第1図)16にスタート信号が入力されるタイミングを0msecとすると,0〜90msecモータ停止(カム接触ロッド接触ポイントa)90〜180msecモータ正転(〃〃a b)↓↑180〜360msecモータ停止(カム接触ロッド接触ポイントb)360〜540msecモータ正転(〃〃bc)↓↑540〜810msecモータ停止(〃〃c)810〜990msecモータ逆転(〃〃ca)↓↑990〜1080msecモータ停止(〃〃a)というようにパルスモータ(第1図)13をプログラム制御することにより,従来から用いられている第7図に示したカム1が一回転したと同様の動作をカム接触ロッド(第6図)3に付与したことになる。また第4a図に示すように各カムリフト間のつなぎは,パルスモーター(第1図)13の発振周波数を増減可能な状態にプログラム制御することにより速度を可変させて対応することができる。このようにすることによって自在性が要求される精密機械への応用が期待される。」(2頁右上欄6行〜3頁左上欄20行)イ上記アの記載に,引用例2(甲119)の第1図ないし第7図を総合すると,引用例2には,審決(28頁1行〜11行)が認定する次の発明(引用発明2)が記載されているものと認められる。
「等速カム11の動作手順をプログラムするのに必要な従動体3の動作に関する基礎データをCPU16に入力するデータ入力手段17と,前記データ入力手段17により設定された動作手順に基づいて当接している従動体に所定の動作を与えるカム駆動モータとしてのパルスモータ13をプログラム制御するために,前記パルスモータ13の回転速度,回転角度,正転逆転の別,停止時間を決定する各データをモータコントローラ15に送出するCPU16と,該データに従って駆動パルスを発生するモータコントローラ15とを設け,従動体3の動作モードに変更があってもプログラムの変更のみで対処し得るようにしたモータ制御装置。」(3) 「引用発明1の認定の誤り」の主張につきア原告は,引用発明1につき,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化がカムの形状をもって設定される」という技術的事項が含まるべきであると主張するので,以下,この点について検討する。
イ引用例1(甲3)には「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化がカムの形状をもって設定される」との記載はないが,前記(1)イのとおり,カム17とカム18とは形状が異なっている。
ウ カムの機能等に関する先行技術文献カムの機能等に関する先行技術文献として,以下のようなものがあり,これらの記載を総合すると,本件特許出願(昭和61年11月15日)当時,各種の機械において,カムの形状を変えることにより,その従節作動端の運動を所望のものとすることが,一般的に行われていたものと認められる。
(ア)甲111(牧野洋著「自動機械機構学」日刊工業新聞社 昭和51年6月1日発行)には,次の各記載がある。
a自動機械におけるカムの役割につき,「カム(cam)は任意形状を持った機械要素であって,その直接接触によって相手側に任意の運動を与えようとするものである。」(155頁4行〜5行),「任意の運動を与えることができるので,負荷の性質に応じた,運動特性の良いカム曲線を用いることによって,他の機構では到達しえない高速度で機械を動かすことができる。」(155頁22行〜156頁1行),「カムでは動作時間は機械的な回転角で決められてしまい,つねに一定である。そうして,何秒で動作が完結するかという幅が決まっているだけではなくて,その間の途中のストロークの任意の時点における動作端の位置も確定している。」(156頁14〜17行)と記載されている。
bカムの欠点につき,「ストロークやタイミングが一定していて変更や調節が難しい。」(157頁13行)と記載されている。
c図4・2(158頁)にカム機構の構成の一例が示され,その従節作動端yにつき,「…正しい運動をyに与えるためには,まず従節変位yを時間tの関数(あるいはカムの回転角θの関数)として定めて,これから従節構成を解いて,カムの形状を決定しなければならない。このような手順,すなわち『運動から形状を求める』手順によるカム設計をシンセシス過程によるカム設計と呼ぶことにする。」(158頁20行〜24行)と記載されている。
dカムの作図法の例として図4・3が示され,「従節レバーの支点(pivot)がカムのまわりに描く軌跡を支点円(pivotcircle)と呼ぶ。この支点円をたとえば12分割し,それぞれの時点における支点の位置を1,2,3,……とする。レバーの長さ(支点からローラ中心までの距離)をRとすると,それぞれの時点におけるローラ中心の位置は1,2,3,……を中心とする半径Rの円弧の上にある。つぎに従節の運動,すなわち,カムの回転角に対する従節の揺動角が与えられるとする。ローラがカムの中心O にもっとも近付いた時を0とcし,このときの位置でカムの形を描く。このときのローラ中心O'がカムのまわりに描く軌跡を基円(base circle)と呼んでいる。与えられた運動から,カムの回転30°ごとの従節ローラの位置を定め,これを1',2',3',……のようにプロットする。カム中心O からOc1'を半径とする円弧を描き,これが1を中心とする半径Rの円弧とc交わる点を1"とする。同様にして2",3",……を求める。1",2",3",……を中心とするローラと同じ径の円を描き,これらになめらかに接するような曲線を描けば,それが求めるカムの輪郭である。」(159頁11行〜160頁10行)と記載されている。
(イ)甲112(富塚清編「機械工学概論改訂版」森北出版株式会社1974年[昭和49年]8月1日発行)には,次の各記載がある。
a「カムは特殊の輪郭をもった部品で,この輪郭に,ナイフエッジ,ローラー,円筒面あるいは平面をもつ接触子を直接に接触させて運動を伝えるもので,カム,接触子およびこれらを支持するフレームの3部分で構成される機械構造をカム機構という…」(57頁2行〜5行),b「カムで重要なことは原動側の変位に対する被動側の位置,速度および加速度で,これらが指定されることによってカムの輪郭はきまる。」(57頁18行〜19行),c「カム機構は比較的簡単な構造で複雑な運動を導くことができるので,内燃機関その他の弁開閉機構に使われるほか,各種の工作機械や紡績機械,ミシン,印刷機械その他の作業機械に広く用いられている。」(57頁24行〜26行)(ウ)甲113(「機械工学便覧改訂第6版[分冊7]」社団法人日本機械学会 昭和50年12月20日発行)には,次の各記載がある。
a「カム装置とは特殊な形状をもった節と,ナイフエッジ,ローラ,平面などの単純な形状の接触子を持った節との直接接触によって,従動体に所要の周期的運動を与える機構である。」(7-151頁右欄10行〜13行)b「元来カム装置は,時間的にこまかく指定された運動や,複雑な軌跡を描く運動を誘導するために用いられることが多い…」(7-152頁左欄25行〜27行)c「さらに加速度の変化率も衝撃,振動の発生に影響する。したがって変位の三次微分を躍動と称して,高速機械においてはその大きさも検討事項に入れている。」(7-152頁右欄8行〜11行)(エ)甲114(堀川明著「機械工学入門」株式会社朝倉書店昭和50年9月5日発行)には,次の各記載がある。
a「…カム(cam)は回転運動あるいは直線運動などから,一挙に複雑な動作を得ようとするもので,複雑な運動をさせる目的には欠かせない機構の一つである。」(162頁2行〜4行)b「たとえば一定速度で回転している板カムを計画するときには,?@まず棒にどのような変位をされるかを考える。図5.45の(a)はその変位図である。横軸には角度を等間隔で0〜360°の範囲すなわちカムの一回転で示してある。カム軸が一定回転速度ならば,この角度は等間隔でよい。横座標は時間と考えてもよい。?Aつぎに変位図(a)に希望する変位を記入する。またその変位が忠実に表現できるように,その変位を分割する。図では0°で0,30°でx,60°でy,90°でz,120°で最大値3?pになるように分割してある,?Bさらにカムの軸の中心から,変位図で分割した角度と同じ角度で放射線を引き,それぞれの先端に,出発点0°からの角度を記入しておく。この例の場合は,0°,30°,60°,90°……と等角度にとってある。?C変位は0°のとき0であるが,これを基礎円Oの周上にとる。?Dその点から鉛直上方にxをプラスした半径で円弧11'を画き,これと30°の放射線との交点を1とする。y,zなどについても同様にして2',3'などの点を求める。120°の4'では最大値に達し,120°から240°までは一定高さであるから,4'5'のカーブはOを中心とし,O4'を半径とする円弧である。5'から後は,変位図の240°から360°までの曲線に対し,前と同じ手順で作図する。?E以上の交点1',2',3',……を順次なめらかに結んだものがカムの形(cam profile)である。」(163頁19行〜164頁13行)(オ)甲116(小川潔著「リンク・カムの設計」株式会社オーム社昭和42年5月31日発行)の第9・4図(213頁)には,カム機構の変位曲線としてさまざまな種類のものが記載され,それぞれについて,期間に区分して,期間毎に変位,速度,加速度,躍動(加速度の変化率)が示されており,また,第9・6図(215頁)には,1周期を5個の期間に区分し,それぞれの期間毎に,「休止」「上昇」「休止」「下降」「休止」のように従動節の動作が設定されることが示されており,さらに,「躍動の曲線がなめらかであれば衝撃および振動が少なく,磨耗の状態もなめらかである。」(214頁15行〜16行)と記載されている。
(カ)甲117(林杵雄著「機械要素(1)(機構と機械の運動)10版」株式会社コロナ社昭和42年4月20日発行)の図3・3(a)(43頁),図3・4(a)(44頁),図3・5(46頁),図3・6(48頁),図3・7(49頁)には,さまざまな種類のカムについて,横軸を角度,縦軸を変位(位置),速度,加速度としたグラフが示されている。
(キ)甲118(牧野洋・高野政晴著「機械運動学」株式会社コロナ社昭和53年9月30日発行)には,「カム機構に用いられる運動曲線をカム曲線という。カム曲線とはカムの輪郭曲線のことではなく,カムによって動かされる従節出力端の運動曲線をいうのである。従節リンク系の寸法や配置によって,同じ運動を与えるべきカムの形状は異なり,同一のものとならない。カム輪郭座標に対してカム曲線を割り付ける設計法は誤りであり,ストロークやタイミングのずれの原因となるとともに,運動曲線にひずみを生じさせる。機械要素のうちで任意の運動を与えることのできるものはカムだけである。したがって,理想運動の追及はもっぱら"どのようなカム曲線が良いか"という設問の形で行われている。電子制御などにより電動機の回転を制御するような場合でも,その速度・加速度をどのように制御したら良いかの回答は,カム曲線に対する理解を深めることによって得られるであろう。」(102頁3行〜13行)と記載されており,また,図5・3(108頁),図5・4(108頁),図5・5(109頁),図5・6(111頁)には,さまざまなカム曲線について,時刻Tを複数の期間に区分して,それぞれについて変位(位置)S,速度V,加速度A,躍動J(加速度の変化率)が設定されることが示されている。
エカムを用いた装置の問題とそれを解決する手段としてのモータの回転の制御に関する先行技術文献以下の先行技術文献に従来技術として記載されているところによれば,本件特許出願(昭和61年11月15日)当時,「半導体チップの移送装置」(下記(ア)),「塑性物質のたねを供給するためのフィーダ機構」(下記(イ)),「ダイボンダー」(下記(ウ))において,カムの形状を変えることにより,その従節作動端の運動を所望のものとすることが行われていたものと認められる。
(ア)甲73(実願昭58-28565号[実開昭59-135639号公報]のマイクロフィルム(考案の名称「半導体チップの移送装置」,出願人 新日本無線株式会社,公開日 昭和59年9月10日)には,「本考案は,半導体チップを例えばリード・フレーム等にボンディングさせる際に,その半導体チップを上下方向に移動させる部分について改良を図った移送装置に関する。」(2頁2行〜5行),「そこで,コレットが半導体チップに対して近接開始当初は速く,近接真近でゆっくり,且つ半導体チップを吸着した後は速く移動するように,移送アームのシーソー動作の速度を制御するようにしたものがある。これは,予め上記運動を複雑な外形でプログラム設定した板カムを使用して,その板カムを一定速度で回転させて移送アームの上記シーソー動作を実現するようにしたものである。ところが,この板カムを使用する方法では,その板カムの形状によって設定されたプログラムを変更することができないので,複数種のコレットや半導体チップの全てに対応するには,各々異なった形状でプログラム設定された複数個の板カムを用意する必要があり,汎用性に欠ける他,その板カムの形状を設定することは容易にはできなかった。本考案は斯かる点に鑑みて成されたもので,その目的は,カムの回転速度を制御できるようにして上記問題を解決した半導体チップの移送装置を提供することにある。…1は速度可変のモータであり,制御装置2はモータ1に直結されたエンコーダ3により,モータ1の回転角(つまり後記する偏心カム5の回転角)を検知し,そのモータ1の回転を制御する。一方,モータ1の出力は減速ギア4を介して偏心カム5に接続されている。6は半導体チップを上下方向に移送するための移送アームであり,軸受機構により構成される支点7によりシーソー動作可能に支承され,また半導体チップ吸着用のコレット8が取り付けられる先端6aと支点7との間にはショック・アブソーバ用のバネ9が介在され,更に基端6bは引張スプリング10により上方向に引っ張られている。そして,この基端6bの部分に設けられた滑車11が上記した偏心カム5の外周端面に,引張スプリング10による圧力を受けて接触している。」(3頁2行〜4頁19行),「…モータ1の回転速度が一定であれば,偏心カム5の一回転により,コレット8は第2図破線に示すよう運動するが,エンコーダ3および制御装置2により,モータ1の回転を制御することにより,第2図実線で示すプログラム動作を実現することができ,コレット8の上下移動の迅速性と,半導体チップを破壊することになく確実に吸着することの両者を満足させることができる。」(6頁3行〜10行)との記載があり,第2図として,下記の図が記載されている。
[第2図](イ)甲74(特開昭59-21531号公報,発明の名称「塑性物質のたねを供給するためのフィーダ機構」,出願人 エムハート・インダストリーズ・インコーポレーテッド,公開日 昭和59年2月3日)には,「本発明は,溶融ガラス等の塑性物質のたねを供給するためのフィーダ機構であって,プランジャを上記塑性物質を含むチャンネルの底部の開口に入れたり出したりすることによりプランジャが上記開口から出ている時に上記塑性物質が上記開口から流れ出るように作動可能なプランジャ駆動手段,上記開口から流れ出る上記物質からたねを剪断するための装置であって互いに近づいたり離れたりしてその開口位置と剪断位置との間を移動できる1組の剪断刃を含む装置,及び上記剪断刃を駆動するように構成された駆動システムを含むフィーダ機構に関する。」(2頁左下欄2行〜13行),「特定のたねに対して時間曲線上の所望位置を達成するために,現在のフィーダ機構は刃に対する時間曲線上の所望位置に従った縁勾配を有するプレートカム及び刃に機械的に接続されたカムの縁を走るカム従動節含む剪断刃用駆動システムを含んでいる。このカムは機械の作動中,剪断刃の連続行程がカムの形状によって完全に決定される剪断刃の時間曲線上の位置によってなされるように一定速度にて連続的に回転する。異なる寸法や形状のたねを製造する時は,カムは異なる勾配を有する別のカムに取換えられる。常に代替のカムを準備する必要がある。更に,新しいカムを入れずに且つ機械を停止してそのカムを入れずに時間曲線上の位置を変えることはできない。本発明の目的は,剪断刃の時間曲線上の位置をカムを必要とせず且つ機械を停止しなくても変えることができるフィーダ機構を提供することにある。」(2頁右下欄6行〜3頁左上欄3行),「…上記カムがその軸を中心にサーボモータによって,記憶されたプログラムから発生した制御信号に従って変動する速度にて回転し,これにより上記剪断刃を上記カムトラックの形状によって画された限度間の時間曲線に沿った所望の位置に従って動かすことを特徴とするフィーダ機構である。…剪断刃の時間曲線上の位置を変えたい場合,記憶されたプログラムを変えるだけで斯かる変更を行なうことができる。」(3頁右上欄3行〜15行)との記載がある。
(ウ)甲75(特開昭61-182888号公報,発明の名称「ダイボンダー」,出願人 東京測範株式会社,公開日 昭和61年8月15日)には,「…従来の全自動ダイボンダーのボンディングヘッドにおいては,前後駆動と上下動作のカムが同一のモータ軸に固定され,第8図に示す全工程の動作時間T1〜T8はカムの割付角度により固定されてしまう。今日,脆く,割れ易いガリウムひ素系のダイ18があり,特に吸着時及びボンディング時の下降速度を遅くする必要が生じてきた。従来の方法では下降速度を変更する場合,1サイクルの時間を遅くするか,カムの割付角度を変更し,数種類のカムを製作し,実験の必要がある。1サイクルを遅くすることは,遅くする必要のない工程も遅くなるため,今日生産を高めるためにますます,高速化が要求されていることに反することになる。又カムの変更については製作期間,制作費,装置への組込み,確認実験の問題がある。」(2頁右下欄下1行〜3頁左上欄下2行),「この発明は,このような従来の問題点に着目してなされたもので,第8図に示す各工程時間が,1サイクルの時間と,2枚のカム(前後用カム24,上下用カム32)の割付角度により固定されているものを,ボンディングヘッド1の動作である前後駆動用として前後用パルスモータ19を,また上下動作用として上下用パルスモータ19aをそれぞれ別個に設け,第8図に示す各工程時間の速い工程は速く,遅い工程は遅くすることを,ROM49には工程順序のプログラムを,速度はキーボード47によりデーター(パルス/sec)をバックアップメモリ44に記録させ,CPU46により,それぞれのパルスモーターに動作指令を出力して最適の速度が簡単に得られるようにし,…」(3頁右上欄2行〜16行),「…従って,装置が完成した時点で,ダイ18,リードフレーム16等の変更があっても,プログラムとデーターの変更のみの工数により,素早く対処でき,…」(6頁右上欄7行〜10行)との記載があり,第8図として,下記の図が記載されている。
[第8図]オ 組合せ計量装置におけるカムの形状等に関する先行技術文献以下の先行技術文献によれば,本件特許出願(昭和61年11月15日)当時,本件特許発明と同じ組合せ計量装置において,カムの形状を変えることにより,ホッパゲート駆動の運動を所望のものとすることが行われていたものと認められる。そして,そのことは,以下のとおり複数の文献に記載されており,上記ウ認定のような一般的な技術や上記エ認定のような技術が(分野は異なるものの)存したことをも考慮すると,組合せ計量装置において,カムの形状を変えることにより,ホッパゲート駆動の運動を所望のものとすることは,本件特許出願当時,既に機械技術分野における技術常識であったものと認めることができる。
(ア)甲72(実願昭58-58197号[実開昭59-163929号公報]のマイクロフィルム,考案の名称「自動計量装置におけるホッパ開閉装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和59年11月2日)の第5図には,組合せ式の自動計量装置において,ホッパゲート駆動用カムの形状が複雑な形状をしていることが示されており,また,「然して上記カム40は,第5,6図に単体で示すように,回転時に従動ローラ54を介して従動部材53ないしプッシュロッド18a(18b,18c)を所定のリフト特性(カムの回転角に対する従動ローラ等のリフト量の変化の特性)に従って往復動させるカム面40aと,リフト零の位置aの前後一定範囲で従動ローラ54を案内する案内部40bとを有する。」(11頁3行〜10行)と記載されている。
(イ)甲86(実願昭57-67392号[実開昭58-169532号公報]のマイクロフィルム,考案の名称「組合せ計量装置」,出願人株式会社石田衡器製作所,公開日 昭和58年11月12日)の第4図には,組合せ計量装置において,ホッパゲート駆動用カムの形状が複雑な形状をしていることが示されている。
(ウ)甲125(特開昭61-61014号公報(発明の名称「組合せ計量装置」,出願人 A,公開日 昭和61年3月28日)には,「…タイムチャートに基づき動作を設定した形状のカムに回転を与えこれに係合するカムフォロア,リンクを介して上下運動に変え,複数本のスライド軸に上下動自在に軸支されたプールホッパー開閉作動盤,計量ホッパー開閉作動盤とその周辺部に各プールホッパー,計量ホッパーに対応して設けたプールホッパー開閉器,計量ホッパー開閉器と一体に所定の距離の上下運動として伝え,…当該するホッパー排出プレートを開き被計量物を排出し再び排出プレートを閉ぢる動作をその計量サイクルの一回毎に行う事を特徴とする組合せ計量装置。」(1頁左欄11行〜右欄5行)と記載されている。ここにおいては,組合せ計量装置において,プールホッパーを開閉するためのカムの形状は,タイムチャートに基づき動作を設定したものであることが示されているということができる。
(エ)甲131(米国特許第4193465号公報,1980年[昭和55年]3月18日,発明の名称「SCALEHOPPERDOORMECHANISM(計量ホッパードアメカニズム)」,出願人 TheWoodman Company,Inc.)には,「カムの輪郭形状は,排出のためにドアを素早く開閉すると共に,なめらかで振動のない動作を実現するように作られている。」(1枚目右欄15行〜18行,訳文による),「このカムは,ゲートの望ましい機能を従来よりも効果的に実現するように調整された輪郭形状を備えている。初期駆動部分は素早くスムーズな立ち上がりを持ち,計量が完了したらすぐに,迅速かつ振動を起こさずにドアを開けることができる。」(6枚目2欄46行〜51行,訳文による),「好適には,カム38の輪郭あるいは形状は,ホッパドア28を素早く開くように設計される。より具体的には,カムは,開動作のための素早くスムーズな正の隆起を持つ初期区分と,ドアを開状態に維持するためのほぼ180°の円形の区分とを備える。」(8枚目5欄18行〜23行,訳文による)との記載がある。
(オ)甲132(実願昭49-059738号[実開昭50-149059号]のマイクロフィルム,考案の名称「計量装置における自動排出装置」,出願人 明治機械株式会社ほか,公開日 昭和50年12月11日)には,「…この場合底板2が開いている時間は,あらかじめカム13の形状を適当に定めることによって決まる…」(5頁7行〜9行),「…底板2の開閉がカム13の回転によって管理される機構的動作のため,カム13の形状に従がい開き時間を一定に,また所望の如く保つこともできるので,被計量物によってこれを適度のものとなせば,運転速度を早めても内容物を残りなく確実に排出させる作用を営ませて,計量作業の能率を向上させることができる利益があるとともに,底板2の開閉がきわめて静かに行われ,殊に閉鎖の際,計量ホッパーに激しく衝突するおそれがない…」(5頁16行〜6頁5行)との記載がある。因みに,同号証の第2図,第3図によれば,底板2は,計量ホッパーの底板である。
(カ)なお,甲127(1986年[昭和61年]10月発行のGoodPackaging Magazine誌に掲載された「Woodman introduces twonewmachines as combined packaging system」と題する記事)及び甲130(1986年[昭和61年]10月発行のPackaging誌に掲載された「SOME THINGS WORK TOGETHER LIKE MAGIC.」と題する広告)に記載されている組合せ計量装置(「Commander2」)は,ホッパーゲートの速度や開度をモータにより制御するものであり,また,甲133(特開昭56-129823号公報,発明の名称「定量秤のホッパー開閉装置」,出願人 東京電気株式会社,公開日 昭和56年10月12日)に記載されている定量秤のホッパー開閉装置は,摺動スリットを用いたものであるから,これらを,組合せ計量装置において,カムの形状を変えることにより,ホッパゲート駆動の運動を所望のものとすることが技術常識であったかどうかの認定に供することはできない。
カ前記(1)イのとおり,引用例1(甲3)の装置において,カム17とカム18とは形状が異なっていることに加えて,上記ウ〜オのとおり認定することができる技術常識を考慮すると,引用発明1は,「カムの形状をもってゲートの動作変化を設定する」という技術的事項を含むものということができる。
しかし,前記2(2)エのとおり,本件特許発明にいう「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化」は,「ステップモータの動特性データとして設定される動作変化」を意味するのであって,容易に高精度の動作変化を設定できるものであるから,カムの形状によって設定されるものと同じであるとまでいうことはできない。
そして,前記(1)のとおり,引用発明1においては,パルスモータが使われているが,引用例1(甲3)には,パルスモータの動特性データとしてゲートの動作変化を設定する旨の記載はない。
したがって,本件特許発明と引用発明1とが「刻々の動作変化」の点で一致すると認定しなかった本件審決の判断に誤りがあるということはできない。
なお,原告は,前記甲86及び甲82(実願昭56-132244号[実開昭58-37520号公報]のマイクロフィルム。考案の名称「組合せ計量機におけるホッパーの駆動装置」,出願人 株式会社石田衡器製作所)が本件明細書に従来技術として記載されているとも主張するが,そのことは,上記判断を左右するものではない。
(4) 「相違点アに関する判断の誤り」の主張につきア 引用発明2及び原告主張に係る甲号証記載の技術の技術分野について(ア)引用発明2は,前記(2)のとおり「カム動作制御装置」に関する発明であって,これ自体が「組合せ計量装置」という特定の技術分野の発明ではない。
(イ)また,前記(3)エの甲73〜75の記載によれば,これらには,モータの回転を制御することにより機械の動作を制御することが記載されているが,その機械の分野は,前記(3)エのとおりであって,「組合せ計量装置」とは異なる。
(ウ)さらに,原告が主張する甲120,甲9,甲121の記載については,以下のとおりであると認められるところ,これらは,それ自体が「組合せ計量装置」という特定の技術分野のものということはできない(甲120については,下記のとおり,「物品供給装置」,「罐詰,壜詰等の充填装置」といった例示があるものの,それ自体は「間歇駆動装置」に関する発明である。)。その意味で,これらの甲号証に基づき,「組合せ計量装置の技術分野において,『被駆動部材の刻々の動作変化をモータの動特性データとしてテーブルあるいはメモリ等に任意に設定することによって該部材の動作を任意に制御できるようにしたモータ制御装置』は周知技術というべきものである。」との原告の主張を採用することはできない。
a特開昭58-195207号公報(発明の名称「間歇駆動装置」,出願人 東洋食品機械株式会社,公開日 昭和58年11月14日。甲120)には,「コンピュータには入力装置と,マイクロプロセッサと,メインプログラムを記憶しているP-ROM(A)と,タイマを可変作動するためのデータを記憶しているP-ROM(B)と,RAMと,各入出力装置との入出力を変換するインターフェースとを設けて,このコンピュータは一連の間歇駆動用の駆動パルス信号b及びパルス分配信号cを発生し,上記P-ROM(B)のデータにより上記駆動パルス信号bは間歇駆動の一定周期T毎においてその速度に略比例して密度の変る一連のパルス信号であり,これを上記パルス分配信号cによりロータリモータの励磁コイルの駆動回路に分配して送るようにしたことを特徴とする間歇駆動装置。」(1頁左欄5行〜18行),「本発明はプレス,特にプレスにおけるシート状の打抜素材の送り装置,物品供給装置,罐詰,壜詰等の充填装置,フィルムによる包装装置,または,工作機械,コンベヤ,シーマ,シーラ等の各種の機械に用いる間歇駆動装置に関する。従来このような間歇駆動装置にはインデックスカム,ゼネパ,非円ギア,クランク,ラチェット等カム,リンク等の機構を用いていた。しかしこのような機構は複雑かつ精密な加工を要するので高価になると共に製作に時間を要し,また,タイミング時間,速度,周期等の各種の変更に対して適応できなかった。本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,負荷を駆動するモータを一連の駆動パルス信号で駆動するようにして安価かつ迅速に提供しうると共にタイミング時間,速度,周期等の各種の変更に対して容易に適応できる間歇駆動装置を提供するものである。」(1頁右欄5行〜2頁左上欄2行)との記載がある。
b特開昭59-123494号公報(発明の名称「パルスモータ制御装置」,出願人 株式会社東京計器,公開日 昭和59年7月17日。
甲9)には,「予め定めた複数の移動量にパルスモータを回転駆動するに必要なパルス数をN分割し,N分の1となる分割パルス数を分割区分毎に記憶した第1の記憶手段と,パルスモータの駆動時間をN分割し,各分割時間毎にモータ駆動パルスのパルス間隔を任意に設定することにより複数種類の移動パターンを記憶した第2の記憶手段と,前記第1の記憶手段に対しパルスモータの移動量を指定する移動量設定器と,前記第2の記憶手段に対しパルスモータの移動パターンの種類を指定するパターン設定器と,該パターン設定器で指定した前記第2の記憶手段の移動パターンにおけるパルス間隔をもって前記移動量設定器で設定した前記第2の記憶手段の分割パルスとなる数のモータ駆動パルスを分割区分順に順次発生してパルスモータに供給するパルス発生器とで成ることを特徴とするパルスモータ制御装置。」(1頁左欄6行〜右欄5行),「次に本発明の効果を説明すると,N分割された分割区分に対するパルス数の記憶で複数種類の移動量をテーブル情報として記憶し,また時間軸をN分割した分割時間に対するパルス間隔の設定で複数種類の移動パターンをテーブル情報として記憶し,移動量と移動パータンの指定により任意の移動量に向って指定した速度変化をもってパルスモータを制御することができ,モータ負荷に要求されるあらゆる制御特性に適合した制御を簡単に実現することができる。また,移動パターンの指定を変更せずに移動量のみを設定変更すると,最終移動量が異なる相似形の移動パターンを簡単に得ることができ,制御負荷に合せた制御特性の変更が極めて容易に成し得る。」(5頁左下欄6行〜右下欄2行)との記載がある。
c特開昭59-702号公報(発明の名称「加減速パルス発生装置」,出願人 株式会社日立製作所,公開日 昭和59年1月5日。甲121)には,「所望の各種の速度曲線の加減速パターンデータを記憶しうるパターンメモリと,上記加減速パターンデータを上記パターンメモリに書き込むための書込回路と,上記パターンメモリのアドレス指示をするためのアドレス歩進回路と,上記パターンメモリの出力データを直列データに変換して加減速パルスとして出力する出力回路と,所要の各回路に対して所定のタイミング制御をするタイミング回路と,上記パターンメモリに対して与えられるアドレスと指定されたストップアドレスとの一致を検出するアドレス一致検出回路と,上記パターンメモリに関する書込み・読出しの制御,上記各回路に対する所要の制御その他所要の処理を行うプロセッサとを具備し,所望の速度曲線に対応する加減速パルスを実時間で高速に出力しうるように構成した加減速パルス発生装置」(1頁左欄4行〜下2行),「このようにして,任意の速度曲線に対応したビットパターンのパルス列が得られ,しかも一旦パターンメモリに書き込んでから出力するので,高速の加減速パルスが得られる。このため,特定の1台のモータに対しても加減速曲線を各種に変化することが可能で,例えば,減速時間を短かくしたいときは直線で軽速させ,停止精度を重視するときは正弦曲線または指数曲線を用いて減速させることができる。」(3頁右上欄15行〜左下欄3行)との記載がある。
イ 本件特許発明の課題を見い出すことについて(ア)前記(2)ア(イ)の引用例2(甲119)の記載,前記(3)ウ(ア)の甲111の記載,前記(3)エの甲73〜75の記載並びに特開昭60-156117号公報(発明の名称「モータの回転位置制御装置」,出願人日本電気精器株式会社ほか,公開日 昭和60年8月16日。甲76)における,従来の「…回転位置制御装置は,カム201に刻み込んだ速度パターンを使用する機械式の制御機構のものであり,回転位置制御の精度はかなり良いものであるが,機構そのものがかなり複雑で高価なものである上,制御パターンを変更するには一々カムを取替える必要があり,かなり手間がかかる欠点があった」(2頁左下欄17行〜右下欄3行)との記載及び特開昭58-195207号公報(発明の名称「間歇駆動装置」,出願人 東洋食品機械株式会社,公開日 昭和58年11月14日。甲120)における「従来このような間歇駆動装置にはインデックスカム,ゼネバ,非円ギヤ,クランク,ラチエット等カム,リンク等の機構を用いていた。しかしこのような機構は複雑かつ精密な加工を要するので高価になると共に製作に時間を要し,また,タイミング時間,速度,周期等の各種の変更に対して適用できなかった。」(1頁右欄10行〜16行)との記載によれば,カムは,その形状によって規定される従節作動端の運動を変更するためには,カム自体を取り換えなければならず,そのための手間と費用を要したことが,技術常識となっていたものと認められる。
しかし,これらは,飽くまでもカム一般についての問題であって,「組合せ計量装置」についてカムを用いた場合の問題点について述べたものではない。また,本件明細書にも,このような問題点についての記載はない。
(イ)本件特許発明は,前記2(1)ア(ウ)記載の問題点,すなわち,「(1)ホッパに供給される毎回の供給量が第10図のように僅かな場合は,ゲートを半開にするだけで直ちに排出されるにもかかわらず,従来のアクチュエータでは,ゲートを必ず全開にしなければならなかったので,ゲートの開閉周期の短縮による計量速度の向上は望めなかった。
(2)ゲートの開閉リングの摩耗等によってクリアランスが拡大するとゲート開閉時の騒音が大きくなるが,従来のアクチュエータでは,このクリアランスを補正するような動作特性の変更,例えばゲートが閉じる直前のスピードをより遅くするような変更ができなかった。(3)エアシリンダを使用するものでは,各ホッパのゲート開閉スピードを個別に変えることは容易であるが,逆に全てのスピードを同じに調節することは難かしいので,計量スピードは,ゲート開閉のスピードが最も遅いものに合さなければならないという難点があった。又,エアシリンダを使用するものでは,特性の経時変化が大きいので,メンテナンスを欠かすことはできず,整備のための時間とコストが多くかかるという問題があった。」を解消するためにされた発明であるところ,「組合せ計量装置」についてそれらの問題点が本件特許出願(昭和61年11月15日)前に知られていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)この点について,原告は,上記(1)の問題点については,特開昭55-31987号公報(発明の名称「穀粒の自動計量装置におけるシャッタの制御装置」,出願人 B,公開日 昭和55年3月6日。甲45)に開示されていると主張する。同公報には,「(9)は,前記操作レバー(8)の操作によりシャッタ(4)を上昇回動させるときに,その上昇回動の上限を規制してシャッタ(4)の全開とした開度量を規制するためのストッパーで,シャッタ(4)のシャッタ板(43)の上端部と衝合するように,支持機枠(12)に取付ネジ(90)(91)により固定組付けてある…」(4頁左下欄下1行〜右下欄5行)として,シャッタの開度を調整することが記載されているものの,「組合せ計量装置」についてのものではないし,上記(1)のようなシャッタの開度を調整する理由が記載されているわけでもない。
次に,原告は,上記(2)の問題点については,上記甲46や特開昭59-74092号公報(発明の名称「ゲート開閉装置」,出願人 大和製衡株式会社,公開日 昭和59年4月26日。甲122)に開示されていると主張する。上記甲46には,「…商品の軽重に関わらず,閉動がスプリング(11’)(12’)にて行なわれるので騒音が大きかった。」(2頁8行〜10行)ことを課題として,考案の目的の一つを「…底蓋の閉動間際の閉動速度を小さくして騒音を小さくすることにある。」(2頁14行〜16行)と記載されている。しかし,この記載はは,閉動がスプリングで行われるので騒音が大きいという問題を述べたものであって,上記(2)の問題点とは異なるものである。また,上記甲122には,「…第3図に曲線30で示すようにゲートの開く速度はクランク8が上死点より離れるに従って曲線に沿って上昇し,中間地点でその速度が最高になる。その後,中間リンク20がその上死点に近づいてゆくに従って曲線に沿って速度が低下し,シリンダ10のストロークエンドで,その速度はほぼ零となる。比較のため第3図に第1図のゲート開閉装置のゲート板の速度変化を曲線32で示す。また第4図にこのゲート開閉装置のゲートに印加される力または加速度の変化を曲線34で,従来のゲート開閉装置のゲート板の速度変化を曲線36でそれぞれ示す。シリンダ10のロッドがストロークエンドに達し,退行に移ると,ばね11の作用力によってゲート板5が閉じていく。そのときの速度変化,加速度変化も第3図の曲線30,第4図の曲線34と同様になる。」(2頁左下欄14行〜右下欄9行)と記載されているが,上記(2)の問題点が記載されているものではない。
さらに,原告は,上記(3)の問題点については,エアシリンダをアクチュエータに用いた場合の課題に過ぎないと主張するが,そうであっても,それが知られていたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は,「組合せ計量装置」について上記(1)〜(3)の問題点が本件特許出願前に知られていたことを認めるに足りる証拠はないとの上記(イ)の認定を左右するものではない。
(エ)また,原告は,そもそも本件特許請求の範囲には,ゲートの半開と全開との間で適宜に変更するとか,閉じる直前のスピードをより遅くするように変更するといった具体的な問題点の解決に対応する具体的な手段は含まれていないから,本件特許発明の解決した課題とは,上記(1)や(2)に例示された具体的問題点ではなく,本件特許請求の範囲との対応が認められるところの一般的課題,すなわち,組合せ計量装置の具体的使用状況の変化に対応するために必要となるホッパゲートの動作変化の変更に対応できなかったという点にある,と主張する。
しかし,本件明細書の記載によれば,本件特許発明は,上記(1)〜(3)の問題点を解決するためにされたものであることが明らかであって,本件特許請求の範囲記載の構成は,その問題点解決のための構成であるから,原告主張の本件特許発明の課題を一般化することは相当でないというべきである。
ウ以上のア,イで述べたところを総合すると,?@引用発明2は,これ自体が「組合せ計量装置」という特定の技術分野の発明ではない上,原告が引用発明2と同様の技術を開示すると主張する文献も「組合せ計量装置」という特定の技術分野のものではないこと(なお,甲127と甲130については,後記のとおりである。),?A「組合せ計量装置」についてカムを用いた場合の問題点について述べたものがあるとは認められず,また,本件明細書記載の本件特許発明の問題点が「組合せ計量装置」について本件特許出願前に知られていたとも認められないことからすると,いまだ,当業者が,引用発明1に引用発明2を組み合わせて,相違点アに係る構成を容易に想到することができたとまで認めることはできない。前記(1)オのとおり,本件審決の引用発明1の認定には誤りがあるが,この点は,以上述べたところからすると,上記認定を左右するものではない。
なお,甲127(1986年[昭和61年]10月発行のGoodPackaging Magazine誌に掲載された「Woodman introduces twonewmachines as combined packaging system」と題する記事)には,「Commander2は,12個の計量センサを備えた統計秤(組合せ計量装置)であり,全く新しいモジュール設計思想を特徴としている。高精度のストレインゲージ計量センサは個別のタワー内部に設けられており,それぞれのタワーにはドア(ホッパゲート)を開くための完結した駆動システムと,計量タワーの演算ロジックを制御するマイクロプロセッサも内蔵されている。」(40頁中欄13行〜右欄1行,訳文による),「各々のタワーに取り付けられたスケールホッパ(計量ホッパ)とホールディングビン(溜めホッパ)の開動作は,個別に設けられた電子的に制御されるモータにより行われるため,ドアの速度や開度が精確に制御できる。その結果,ドアの開き方の特性(door opening profile)を,個々の物品(の種類)と,重量と速度とに応じて,パフォーマンスを最適化するように任意に設定できる(can be tailored)。加えて,ドアを開く機構は単純なカムであるため,複雑な連結装置が不要となる。」(40頁右欄7行〜下2行,訳文を交えたもの,原告の訳文1枚目下2行〜2枚目3行。なお,上記の第2文について,被告は,「その結果,ドア開放のプロファイルは,個々の物品と重量と速度に応じてパフォーマンスを最大化するために合わせられる。」と訳すべきことを主張する。)との記載があり,甲130(1986年[昭和61年]10月発行のPackaging誌に掲載された「SOME THINGSWORK TOGETHER LIKE MAGIC.」と題する広告)の53頁には,Kliklok社の1部門であるWoodman Systemsの広告が掲載されており,「柔軟性を最大化するために,ドアはモータ化されており,開く速度と開度とをこれまでになく多様に制御できる。」(中欄16行〜18行,訳文による)との記載がある。これらの雑誌は,本件特許出願(昭和61年11月15日)前に発行されたとしても,その直前に発行されたものであって,これらの雑誌の記載に沿う他の技術が公開されていたとも認められないから,これらの雑誌記載の技術は周知技術あるいは技術常識ということはできないものであり,本件無効審判の段階で提出されていなかったこれらの雑誌記載の技術を,本件訴訟において考慮することはできないというべきである。
エ原告は,引用発明1に引用発明2を組み合わせることに阻害要因はないと主張するが,上記のとおり,阻害要因について検討するまでもなく,引用発明1に引用発明2を組み合わせて相違点アに係る構成を容易に想到することができたと認めることはできないものである。
オ原告は,組合せ計量装置の技術分野において,その運転に先立って,設定重量に応じて,計量ホッパ及び供給ホッパを含む指定されたホッパについてゲートの開放時間を任意に設定する技術的手法(前審決がいう「周知技術A」)は,周知である(前審決[甲107]21頁12行〜15行)と主張する。
甲11(「データウェイ取扱説明書ADW-X23Rシリーズ」大和製衡株式会社1985年[昭和60年]3月20日)には,「…計量しようとする各品物に対し,それぞれの要求(製品重量)に応じた定数の設定を運転に先立って,行なっておく必要があります。データウェイは,2種類の設定モードがあり,各々リモート操作ボックス上のキー操作にて入力できます。…?C設定重量,…?H計量ホッパの“開”時間,?I供給ホッパの“開”時間」(D-16-00頁3行〜17行),「?L計量ホッパの“開”時間計量ホッパのゲートが開き,品物を排出する時間を示します。この時間が過ぎると,ゲートは再び閉じ始めます。?M供給ホッパの“開”時間供給ホッパのゲートが開き,品物を計量ホッパに供給する時間を示します。」(E-3-00頁10行〜14行)との記載があり,甲40(「ADW221R型取扱説明書」大和製衡株式会社昭和58年7月),甲42(「INSTRUCTIONMANUALMODELADW341RW2」大和製衡株式会社昭和59年7月21日),甲44(「ADW130RW 型取扱説明書」大和製衡株式会社昭1和58年7月)にも同旨の記載がある。しかし,これらの記載によるも,設定重量と計量ホッパ及び供給ホッパのゲートの開放時間の設定との関係は,必ずしも明らかではないから,上記「周知技術A」の存在を認めることはできない。
カしたがって,本件審決の相違点アに関する判断に誤りがあるということはできない。
(5)「相違点イに関する判断の誤り」及び「作用効果に関する判断の誤り」につきア前記2(2)イ,ウのとおり,本件特許発明においては,「ステップモータは,個々のホッパ毎に設けられている」ものであって,ここでいう「個々のホッパ」は「複数種類の個々のホッパ」を意味するものと認められる。これに対し,前記(1)エのとおり,引用発明1においては,モータは一組の「プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6」毎に設けられているから,この点に違いがあり,本件審決の相違点イの認定に誤りがあるということはできない。
イ原告は,本件明細書に従来技術として引用されている甲86の10頁14行〜11頁4行には「上記実施例では駆動ユニットの各々に駆動源としてモーター(24)を設けているが,モーター等の駆動源が複数もしくは全部の駆動ユニット(20)に共通するように構成してもよく,例えば第8図で示す如く,放射状に配列した駆動ユニット(20)で囲まれた中央空間部に適当な駆動源により回転する駆動シャフト(71)を配置し,このシャフト(71)に大径ギヤ(73)を取付けて各駆動ユニット(20)の伝達シャフト(28)の従動ギヤ(29)に噛合させ,全駆動ユニット(20)の駆動力を駆動シャフト(71)より得る構造等に種々変形可能である。」と記載されていると主張するが,甲86にはモータが個々のホッパ毎に設けられている構成は開示されておらず,その他モータが個々のホッパ毎に設けられている構成が知られていたとは認められない(甲127及び甲130は,前記(4)ウのとおり,本件訴訟において考慮することはできないし,引用発明1は上記のとおり異なるものである)。
かえって,甲82(実願昭56-132244号(実開昭58-37520号公報)のマイクロフィルム)には,「一般にこの種のホッパーの駆動装置は,その計量機本体のトラフの先端下部に配置したプールホッパー及びその下部に配置した計量ホッパー等の外側に配設されている。…いわゆる組合せ方式による自動計量機は,上記プールホッパー及び計量ホッパー等の各セクション毎での被計量物の供給,排出動作が,他の干渉を受けることなく独立して行われる事が必要である。従って,この種従来の駆動装置は,その駆動部(モータ等の駆動源も含む)を上記プールホッパー及び計量ホッパー等の各セクション毎の外側に,夫々独立させて多数個配置し,上記各セクション毎の被計量物の供給排出動作の円滑化を図っている。ところがこれであると,上記駆動部を計量機本体のプールホッパー及び計量ホッパー等の各セクションの外側に夫々独立して多数個配置しているためそれに要する部品点数の増大及び動力効率の低減につながり好ましくない。」(1頁13行〜2頁15行)と記載されていて,駆動源を多数個配置することはそれに要する部品点数の増大及び動力効率の低減につながり好ましくない旨が記載されている。
以上のとおり,相違点イに係る構成が従来から知られていたとは認められず,かえって駆動源を多数個配置することは好ましくないと考えられていたのであるから,相違点イに係る構成を当業者が容易に想起することができたと認めることはできず,その旨の本件審決の判断に誤りがあるということはできない。
ウ本件審決は,相違点イに関する判断に関連して,「すなわち,本件特許発明は,『モータはホッパ毎に設けられている』ことを前提に,ホッパゲートが所定の動作変化を行うべくその対象となるホッパを指定することにより,指定されたホッパゲートは所定の動作変化を行うことができたものということができる。 そして,『例えば,第4図(b)に示すようなメッセージを表示させて,ホッパ毎に個別に指定しても良い。このように個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223718号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる。』(特許審決公報10頁30〜34行)とあるように,いわゆる親子計量への適用にあたっては,親機と子機とでホッパゲートの動作変化をそれぞれ適した開度や開閉スピードに設定できるとの作用効果を奏するものであり,また,種類の異なるホッパ毎に,すなわち,例えばプールホッパ毎や計量ホッパ毎に,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定できるので,種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることも可能となるとの作用効果をも奏するといえる。 」(32頁10行〜26行)と認定している。
前記2(1)ア(カ)dのとおり,本件明細書には,「例えば,第4図(b)に示すようなメッセージを表示させて,ホッパ毎に個別に指定しても良い。このように個別に指定できるようにすると,例えば,特開昭58-223718号公報に開示されているような,所謂親子計量において有効となる。即ち,親機と子機とでは,それぞれ動作スピードが異なるし,又,ホッパへの供給量も異なるので,それぞれに適したスピードとゲート開度を指定することによって最適制御を行わせることができる。」と記載されている。この記載からすると,本件明細書には,親子計量に際して親機と子機とで,それぞれゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定することによって,ホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることが可能となるとの作用効果を奏することが記載されているが,この作用効果は,引用発明1のように,モータを一組の「プールホッパー5及びその下方に配設された計量ホッパ6」毎に設けた場合にも奏することが可能であると考えられるから,引用発明1との関係で,本件特許発明特有の作用効果であるということはできない。
また,本件明細書には,「プールホッパ毎や計量ホッパ毎に,ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を任意に設定できるので,種類の異なるホッパ間における開閉スピードの最適化を図ることができる」旨の記載はないし,このようなことが当業者にとって自明の事項であったとも認められない。
そうすると,本件審決の上記認定した事項を,当業者が相違点イに係る構成について容易に想起することができなかったことの根拠とすることは相当ではないが,相違点イに係る構成についても当業者が容易に想起することができたと認めることはできないとの上記イの認定が左右されることにはならない。
(6)以上のとおり,引用発明1及び2に基づいて容易に発明することができたとはいえないとする本件審決の判断は,結論において誤りはなく,取消事由2は理由がない。
5取消事由3(無効理由2に関する審決の判断の誤り)について(1) 引用発明3につきア引用例3(甲4。特開昭60-238722号公報)の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。
(ア)「…この発明は,第2図に示すように連続的に供給する物品の供給量を供給制御信号の大きさに応じて制御する供給装置4と,この供給装置4から供給された物品を計量する計量部6と,この計量部6の計量信号を予め定めた多数の設定重量と比較し,上記各設定重量を上記計量信号が超えるごとにそれぞれ大きさが異なる上記供給制御信号を生成する比較部8とを備えた構成である。
このように構成した定量秤では,計量部6の計量信号と多数の設定重量とを比較部8で比較し,計量信号が各設定重量を超えるごとに比較部8が生成する供給制御信号に基づいて物品供給装置4からの物品供給量が制御される。従って,供給量の切替時点を従来のものよりも多くすることができ,切替時の供給量の変化を小さくでき,計量信号に振動が生じることはない。よって,振動が収まるまで待つ必要がなく,計量時間を短かくできる。さらに,供給装置4は,供給制御信号の大きさに応じて供給量を調整するものであるから,供給装置に収容されている物品の種類が変更されて,供給流量を変更する場合も,供給制御信号の大きさを変えるだけでよく,非常に簡単に行なえる。」(2頁左上欄7行〜右上欄8行)(イ)「…第3図において,供給装置10は,溜めホッパ12を有する。
この溜めホッパ12の下端開口には投入ゲート14がその下端開口を開閉するように矢印16方向に駆動軸18を中心として回動可能に設けられている。この投入ゲート14の駆動軸18は,変速ギヤ20を介してサーボモータ22の回転軸に結合され,この回転軸にはポテンショメータ24も結合されている。このポテンショメータ24の出力は,サーボアンプ26に入力されている。このサーボアンプ26にはD/A変換器28から出力も供給されている。サーボアンプ26は両入力の電位差が零になるようにサーボモータ22を駆動する。これによって,D/A変換器28の出力に応じた量だけ,投入ゲート14が開かれる。」(2頁右上欄10行〜左下欄3行)(ウ)「次に第4図のフローチャートに基づいてマイクロコンピュータ40の各機能を説明する。まず,ステップ46において,キースイッチ48を用いて流量GA乃至GB,切替重量WA乃至WEをそれぞれ設定する。次に,ステップ50において,キースイッチ48または外部から投入開始信号が入力されたか否か判断する。入力されていなければ,ステップ50を繰返す。入力されると,ステップ52に移り,流量GAをD/A変換器28に供給する。これによって,上述したようにD/A変換器28からの出力に応じて投入ゲート14が開かれ,溜めホッパ12から流量GAで物品が計量ホッパ30に投入される。
次にステップ54において,A/D変換器38のディジタル計量信号Wが設定重量WA以上であるか否か判断し,以上でなければステップ54を繰返し,以上であればステップ56に移り,流量GBをD/A変換器28に供給する。これによって投入ゲート14の開度が変化し,流量がGBになる。そして,ステップ58においてディジタル計量信号Wが設定重量WB以上であるか否か判断し,以上でなければステップ58を繰返し,以上であればステップ60に移り,流量GCをD/A変換器28に供給する。これによって投入ゲートの開度が変化し,流量がGCになる。そして,ステップ62においてディジタル計量信号Wが設定重量WC以上であるか否か判断し,以上でなければステップ62を繰返し,以上であればステップ64に移り,流量GDをD/A変換器28に供給する。これによって投入ゲートの開度が変化し,流量がGDになる。次に,ステップ66においてディジタル計量信号Wが設定重量WD以上であるか否か判断し,以上でなければステップ68を繰返し,以上であればステップ68に移り,流量GEをD/A変換器28に供給する。これによって投入ゲートの開度が変化し,流量がGEになる。そして,ステップ70においてディジタル計量信号Wが設定重量WE以上であるか否か判断し,以上でなければステップ70を繰返し,以上であればステップ72においてD/A変換器28に供給停止信号を供給する。これによって,投入ゲート14が閉じられ,物品の供給が停止される。ここまでが,比較部として機能する。第5図にここまでの計量信号の変化を示す。」(2頁左下欄18行〜3頁左上欄18行)(エ)「…また,上記の実施例ではGA乃至GE,WA乃至WEを全て設定したが,第6図に示すように最初と最後の流量GA,GE及び最初と最後から2番目と最後の切替重量WA,WD,WEだけを設定し,これらの間の流量,切替重量はマイクロコンピュータ40で演算してもよい。」(3頁右上欄12行〜17行)(オ)「上記の実施例ではロードセル32,32を計量ホッパ30に設けたが,溜めホッパ12側に設けてもよい。その場合,計量信号は物品の投入に従って減少するので,切替重量WA乃至WEは,この順に小さくなるように設定する必要がある。」(3頁左下欄1行〜5行)(カ)「…また,この実施例では駆動部にサーボモータを用いたが,その代わりにパルスモータポジショナー,多点位置決めシリンダ等を用いてもよい。」(3頁左下欄9行〜12行)イ上記アの記載及び引用例3(甲4)の第2図〜第5図を総合すると,引用例3には,本件審決(34頁下3行〜35頁13行)が認定するとおり,次の発明(引用発明3)が記載されていると認められる。
「被計量物を貯蔵し排出する溜めホッパ12と,該溜めホッパ12の排出口に設けられた投入ゲート14と,該投入ゲート14を変速ギア20を介して開閉駆動するモータとを備えた定量秤であって,前記モータは溜めホッパ12に設けられたパルスモータポジショナーであり,前記パルスモータポジショナーにより投入ゲート14を開閉駆動する,溜めホッパ12について,前記投入ゲート14の開き始めから閉じるまでの動作変化を流量GA乃至GE及び切替重量WA乃至WEとしてマイクロコンピュータ40に任意に設定するキースイッチ48と,溜めホッパ12について,計量された被計量物に係る計量信号Wと該切替重量WA乃至WEとを順次比較して,各切替重量WA乃至WE以上となる毎に対応する流量GA乃至GEに相当する信号に応じてパルスモータポジショナーを駆動するマイクロコンピュータ40及びD/A変換器28とを設け,上記被計量物の種類が変更されて供給流量が変更される場合も,上記投入ゲート14の開度を任意に制御できるようにした定量秤。」(2)「引用発明3では『予めゲートの刻々の動作変化を設定することが予定されていない』」とする本件審決の認定判断につきア原告は,「引用発明3では『予めゲートの刻々の動作変化を設定することが予定されていない』」とする本件審決の認定判断に誤りがあると主張する。
しかし,前記(1)ア認定の引用例3の「発明に詳細な説明」の記載に照らすと,原告が上記主張の根拠として挙げる,前記(1)ア(ア)の「…供給装置に収容されている物品の種類が変更されて,供給流量を変更する場合も,供給制御信号の大きさを変えるだけでよく,…」との記載に係る作用効果は,被計量物の重量に係る計量信号Wに基づいたフィードバック制御によって実現されるものであると認められ,予めゲートの刻々の動作変化を設定することを意味するものではない。また,原告は,引用例3には,各段階の切替え区間に短い時間を予定して設定できるようにしたこと,制御区間はゲート開度を設定するのでなく流量(g/sec)という時間要素を含む単位のパラメータを設定していることを指摘し,各段階の切替重量とでもって各区間に要する時間及び全体の供給時間を把握できる設定となっていると主張するが,そうであるからといって,引用例3に,予めゲートの刻々の動作変化を設定する発明が記載されているということはできない。
イ原告は,本件特許発明では被計量物の性状に合わせて刻々の動作変化を設定することが特許請求の範囲に記載されているところ,稼働時の被計量物の性状が設定時点から変化すれば,それに応じた供給量制御はできなくなるという点で,本件特許発明も引用発明3も何ら異なるところがない,と主張し,その根拠として,引用発明3の技術も稼働前の時点において,「稼働時の流量」を設定するようにしていることを挙げる。
確かに,本件特許発明は,稼働時の被計量物の性状が設定時点から変化すれば,それに応じた供給量制御はできなくなるものと考えられるところ,引用発明3も,前記(1)ア(ウ)のとおり,予め,流量GA乃至GB,切替重量WA乃至WEをそれぞれ設定するから,稼働時の被計量物の性状が設定時点から変化すれば,それに応じた供給量制御はできなくなることが考えられるが,そうであるとしても,引用発明3は,被計量物の重量に係る計量信号Wに基づいたフィードバック制御を行っている点において,「ゲートの開き始めから閉じるまでの刻々の動作変化を前記ステップモータの動特性データとしてテーブルに任意に設定する」フィードフォワード制御を行っている本件特許発明とは異なっているのであって,その旨の本件審決の判断に誤りがあるということはできない。
ウ原告は,本件審決が相違点ウとして「本件特許発明は,モータは複数種類のホッパ毎に設けられているのに対し,」と認定している点について,本件訂正後の特許請求の範囲の記載から逸脱した不当なものであると主張する。
しかし,前記2(2)イ,ウのとおり,本件特許発明においてモータは個々のホッパ毎に設けられており,ここでいうホッパは「複数種類のホッパ」を意味するから,本件審決の上記認定に誤りがあるということはできない。
エ したがって,取消事由3は理由がない。
6結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海