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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 進歩性(29条2項) /  周知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  権原 /  交換 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  逸失利益 /  販売数量(販売数) /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 2810号 特許権侵害差止等請求事件
原告株 式会社中山鉄工所
訴訟代理人弁護士浜田愃
訴訟代理人弁理士平田義則
被告株式会社ハヤマ
訴訟代理人弁護士平野和宏
訴訟代理人弁理士小谷昌崇
補佐人弁理 士小谷悦司
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/06/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙物件目録1ないし4記載の各製品を譲渡し,貸し渡し,輸入し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
2被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,125万0652円及びこれに対する平成18年4月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
6この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙物件目録1ないし4記載の各製品(以下,順に「イ号製品」,「ロ号製品」,「ハ号製品」,「二号製品」といい,これらを併せて「被告製品」という。)を製造し,譲渡し,貸し渡し,輸入し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
2被告は,被告製品及びその製造に供した金型を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,335万1930円及びこれに対する平成18年4月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,発明の名称を「衝撃式破砕機におけるハンマ」とする後記特許権を有する原告が,後記ハンマを製造販売する被告の行為は同特許権を侵害すると主張して,被告に対し,同特許権に基づき,同ハンマの製造販売等の差止め並びに同ハンマ及びその製造に供した金型の廃棄を求めるとともに,特許権侵害不法行為に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日である平成18年4月6日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求めた事案である。
1争いのない事実(1)原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)の特許権者である(以下,本件特許権の特許請求の範囲請求項1の発明を「本件特許発明1」,同請求項2の発明を「本件特許発明2」といい,併せて「本件特許発明」という。また,本件特許発明に係る特許を「本件特許」といい,本判決末尾添付の本件特許に係る特許公報の明細書を「本件明細書」という。)。
特許番号第3306043号発 明 の 名 称衝撃式破砕機におけるハンマ出願日平成12年4月14日登録日平成14年5月10日特許請求の範囲本件明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】に記載のとおり。
(2)構成要件の分説本件特許発明構成要件を分説すると,次のとおりである。
(本件特許発明1)Aロータの外周部にハンマ挿入部が形成され,このハンマ挿入部の背後にハンマ保持部材が取り付けられ,前記ハンマ挿入部にハンマを,その上端側がロータ外周面から突出する状態に挿入すると共に,ハンマの後面に突設した突起部をハンマ保持部材で係止することにより,ハンマをロータの外周部に取り付け,ロータの回転に伴うハンマの回転によって,投入された原料を打撃破砕すると共に,飛散した原料をロータの周囲に配設した反撥板により破砕するようにした衝撃式破砕機において,B前記突起部の根元入り隅部に,アール面取部を形成すると共に,C突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したことを特徴とするD衝撃式破砕機におけるハンマ。
(本件特許発明2)E請求項1記載の衝撃式破砕機におけるハンマにおいて,Fハンマが上下反転可能に取り付けられると共に,ハンマの前面及び後面に突起部が突設され,ハンマを上下反転した場合に,前面側突起部と後面側突起部の前後位置が入れ替わるようにしたG衝撃式破砕機におけるハンマ。
(3)被告の行為被告は,平成15年ころ,イ号製品及びロ号製品の販売を開始し,平成17年ころ,ハ号製品及びニ号製品の販売を開始した。
(4)被告製品アイ号製品は,別紙物件目録1記載の構造及び作用効果を有する衝撃式破砕機におけるハンマであり,本件特許発明構成要件をすべて充足している。
イロ号製品は,別紙物件目録2記載の構造及び作用効果を有する衝撃式破砕機におけるハンマであり,本件特許発明構成要件A,B,D,F及びGを充足している。
ウハ号製品は,別紙物件目録3記載の構造及び作用効果を有する衝撃式破砕機におけるハンマであり,本件特許発明構成要件A,C,D,F及びGを充足している。
エニ号製品は,別紙物件目録4記載の構造及び作用効果を有する衝撃式破砕機におけるハンマであり,本件特許発明構成要件A,D,F及びGを充足している。
2争点(1)ロ号製品は本件特許発明技術的範囲に属するか。
ロ号製品は構成要件Cを充足するか。(争点1)(2)ハ号製品は本件特許発明技術的範囲に属するか。
ハ号製品は構成要件Bを充足するか。(争点2)(3)ニ号製品は本件特許発明技術的範囲に属するか。
アニ号製品は構成要件Bを充足するか。(争点3)イニ号製品は構成要件Cを充足するか。(争点4)(4)本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか。
本件特許には進歩性欠如の無効理由があるか。(争点5)(5)原告の損害(争点6)第3争点に関する当事者の主張1争点1(ロ号製品は構成要件Cを充足するか。)について【原告の主張】(1)ロ号製品の構成を本件特許発明1の構成要件に即して分説すると次のとおりであり,ロ号製品の構成cは,本件特許発明構成要件C「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したことを特徴とする」を充足する。
aロータの外周部にハンマ挿入部が形成され,このハンマ挿入部の背後にハンマ保持部材が取り付けられ,前記ハンマ挿入部にハンマを,その上端側がロータ外周面から突出する状態に挿入すると共に,ハンマの後面に突設した突起部をハンマ保持部材で係止することにより,ハンマをロータの外周部に取り付け,ロータの回転に伴うハンマの回転によって,投入された原料を打撃破砕すると共に,飛散した原料をロータの周囲に配設した反撥板により破砕するようにした衝撃式破砕機に使用されるハンマであってb前記突起部が2個形成されると共に各突起部の根元入り隅部に,アール面取部が形成され,c各突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したd衝撃式破砕機におけるハンマ(2)被告は,本件特許発明実施例として,ハンマの幅方向中央部に1個だけの突起部が形成され,この1個だけの突起部の中央に縦溝を形成した構成が開示されている点をとらえて,本件特許発明は,1本吊りを前提とした発明であると主張する。しかし,特許発明技術的範囲は,実施例の構成に限定されるものではない。本件明細書の特許請求の範囲には,1個だけの突起部の中央に縦溝を形成するとの構成は記載されていない。したがって,被告の主張は理由がない。
【被告の主張】ロ号製品の構成の分説は認める。
ロ号製品の構成cは,本件特許発明構成要件Cを充足しない。その理由は次のとおりである。
本件特許発明にいう「突起部」とは,「ハンマの後面に突設した突起部をハンマ保持部材で係止することにより,ハンマをロータの外周部に取り付け」(構成要件A)と特許請求の範囲に記載され,図2ないし図4に示す幅狭のハンマと図5ないし図7に示す幅広(横長)のハンマのいずれの実施例においても,幅方向中央部に1個だけでの突起部が形成され,この1個だけの突起部の中央に縦溝を形成した構成が示され,この突起部6が図1に示されているとおりハンマ保持部材に係止してハンマをロータの外周部に取り付けるものである。
したがって,本件特許発明は,ハンマの幅方向中央部に1個の突起部を構成してこの突起部をハンマ保持部材に係止してロータの外周部に取り付けることを前提とした発明である。
そうすると,ハンマの表面の左右に2個の突起部を形成するロ号製品は,本件特許発明構成要件Cを充足しない。
2争点2(ハ号製品は構成要件Bを充足するか。)について【原告の主張】(1)ハ号製品の構成を本件特許発明1の構成要件に即して分説すると次のとおりであり,ハ号製品の構成bは,本件特許発明構成要件B「前記突起部の根元入り隅部に,アール面取部を形成すると共に,」を充足する。
aロータの外周部にハンマ挿入部が形成され,このハンマ挿入部の背後にハンマ保持部材が取り付けられ,前記ハンマ挿入部にハンマを,その上端側がロータ外周面から突出する状態に挿入すると共に,ハンマの後面に突設した突起部をハンマ保持部材で係止することにより,ハンマをロータの外周部に取り付け,ロータの回転に伴うハンマの回転によって,投入された原料を打撃破砕すると共に,飛散した原料をロータの周囲に配設した反撥板により破砕するようにした衝撃式破砕機に使用されるハンマであって,b前記突起部の根元入り隅部に,ハンマ面に窪み込まない状態でアール面取部を形成すると共にc突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したd衝撃式破砕機におけるハンマ(2)構成要件Bの「アール面取部」は,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を防止できるものであればよく,その防止の程度はJIS規格上要求されている程度でよい。この点については,被告自身が,ハ号製品にJIS規格と同程度のアール面取部が付されたことを認めている。
【被告の主張】ハ号製品の構成の分説のうち,構成bは否認し,その余は認める。
ハ号製品は,本件特許発明構成要件Bを充足しない。その理由は次のとおりである。
構成要件Bの「アール面取部」は,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を十分に防止し得る程度に全周にわたって窪み込む状態に形成されたアール面取部でなければならない。すなわち,構成要件Bの「アール面取部」は,本件明細書の段落【0005】の「遠心力や衝撃力による大きな荷重が加わるハンマにおいて,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を防止して,根元入り隅部のひび割れや突起部の破壊を防止できるようにした衝撃式破砕機におけるハンマを提供することを第1の課題としている。」の記載,段落【0008】の「遠心力や衝撃力による大きな荷重が加わるハンマにおいて,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中をアール面取部によって防止することができる。」の記載,並びに段落【0013】の「前記ロータ2の外周部には,4個のハンマ4が90度の等配間隔でそれぞれ着脱可能に取り付けられている。このハンマ4は,図2〜図4に示すように,正面形状が方形の板状に形成され,その前面及び後面にそれぞれ横長方形状の突起部5,6が突設されている。この場合,前面側突起部5は,ハンマ4の左右方向中央部において上下方向中央部よりやや下側寄り位置に突設され,その根元入り隅部には,ハンマ前面41に窪み込む状態でアール面取部50が全周に亘って形成されている。また,他方の後面側突起部6は,ハンマ4の左右方向中央部において,前面側突起部5と上下対称になる位置に突設され,その根元入り隅部には,同様にハンマ後面42に窪み込む状態でアール面取部60が全周に亘って形成されている。」の記載からすれば,図示されているような前面側及び後面側の各突起部の根元入り隅部の全周に亘って窪み込む状態に形成されたアール面取部50,60のように,相当程度広い面的広がりをもったものを指し,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を十分に防止し得るものでなければならず,ハ号製品における突起部の根元に形成された丸みのように応力集中の回避や型抜きのため設計上要求されるわずかな丸みは,構成要件Bの「アール面取部」には含まれない。
原告は,構成要件Bの「アール面取部」は,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を防止できるものであればよく,その防止の程度はJIS規格上当然に要求されている程度でよいと主張する。しかし,本件明細書の段落【0003】に「このように,ハンマには,遠心力や衝撃力によって大きな荷重が加わり,この荷重を主にハンマ保持部材によって係止された突起部で支えることになるため,突起部の根元入り隅部に応力が集中し,その根元入り隅部からひび割れが生じて,ついには突起部が根元部分から完全に破壊されることがあるという問題があった。」と記載されているように,本件特許発明の従来技術では,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を十分に防止できないため,本件特許発明は,「突起部の根元入り隅部にアール面取部を形成する」という構成を採用したものである。
しかるところ,乙第3号証の1記載のJIS規格は,本件特許の特許出願前である1987年10月1日に改正され,それ以降改正されていないことから明らかなとおり(乙3の2),本件特許発明の従来技術に該当するものであり,しかもJIS規格という技術常識にすぎないものである。そうすると,乙第3号証の1記載のJIS規格と同程度のアール面取部が付されたハ号製品は,従来技術そのものであり,本件特許発明における「アール面取部」に含まれないことは明らかである。
3争点3(ニ号製品は構成要件Bを充足するか。)について【原告の主張】(1)ニ号製品の構成を本件特許発明1の構成要件に即して分説すると次のとおりであり,ニ号製品の構成bは,本件特許発明構成要件B「前記突起部の根元入り隅部に,アール面取部を形成すると共に,」を充足する。
aロータの外周部にハンマ挿入部が形成され,このハンマ挿入部の背後にハンマ保持部材が取り付けられ,前記ハンマ挿入部にハンマを,その上端側がロータ外周面から突出する状態に挿入すると共に,ハンマの後面に突設した突起部をハンマ保持部材で係止することにより,ハンマをロータの外周部に取り付け,ロータの回転に伴うハンマの回転によって,投入された原料を打撃破砕すると共に,飛散した原料をロータの周囲に配設した反撥板により破砕するようにした衝撃式破砕機に使用されるハンマであって,b前記突起部が2個形成されると共に,各突起部の根元入り隅部に,ハンマ面に窪み込まない状態でアール面取部を形成すると共にc各突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したd衝撃式破砕機におけるハンマ(2)被告の主張に対する反論は,前記2〔争点2(ハ号製品は構成要件Bを充足するか。)について〕の【原告の主張】の(2)で述べたところと同様である。
【被告の主張】ニ号製品の構成の分説のうち,構成bは否認し,その余は認める。
ニ号製品は,本件特許発明構成要件Bを充足しない。その理由及び原告の主張に対する反論は,前記2〔争点2(ハ号製品は構成要件Bを充足するか。)について〕の【被告の主張】で述べたところと同様である。
4争点4(ニ号製品は構成要件Cを充足するか。)について【原告の主張】ニ号製品の構成の分説は,前記3〔争点3(ニ号製品は構成要件Bを充足するか。)について〕の【原告の主張】の(1)で述べたとおりであり,ニ号製品の構成cは,本件特許発明構成要件C「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したことを特徴とする」を充足する。
被告の主張に対する反論は,前記1〔争点1(ロ号製品は構成要件Cを充足するか。)について〕の【原告の主張】の(2)で述べたところと同様である。
【被告の主張】ニ号製品の構成cは,本件特許発明構成要件Cを充足しない。その理由及び原告の主張に対する反論は,前記1〔争点1(ロ号製品は構成要件Cを充足するか。)について〕の【被告の主張】で述べたところと同様である。
5争点5(本件特許には進歩性欠如の無効理由があるか。)について【被告の主張】本件特許発明進歩性を有しない。その理由は次のとおりである。
(1)実願平2-88563号(実開平4-45547号)のマイクロフィルム(乙1)記載の考案(以下「引用発明」という。)について本件特許発明に係る特許出願前の平成4年4月17日に公開された実願平2-88563号(実開平4-45547号)のマイクロフィルムの全文明細書には,「ロータの外周部にハンマ挿入部が形成され,このハンマ挿入部の背後にハンマ保持部材が取り付けられ,前記ハンマ挿入部にハンマを,その上端側がロータ外周面から突出する状態に挿入すると共に,ハンマの後面に突設した突起部をハンマ保持部材で係止することにより,ハンマをロータの外周部に取り付け,ロータの回転に伴うハンマの回転によって,投入された原料を打撃破砕すると共に,飛散した原料をロータの周囲に配設した反撥板により破砕するようにした衝撃式破砕機において,前記突起部の根元入り隅部に,アール面取部を形成したことを特徴とする衝撃式破砕機におけるハンマ。」,及び,該「衝撃式破砕機におけるハンマにおいて,ハンマが上下反転可能に取り付けられると共に,ハンマの前面及び後面に突起部が突設され,ハンマを上下反転した場合に,前面側突起部と後面側突起部の前後位置が入れ替わるようにした衝撃式破砕機におけるハンマ。」が開示されている。
(2)本件特許発明の構成と引用発明の構成との対比・相違点について本件特許発明の構成と引用発明の構成を対比すると,両者の相違点は,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝」の有無のみである。
(3)進歩性の欠如についてア本件明細書の段落【0004】には,「ハンマは,上端側がロータ外周面から突出する状態に取り付けられることから,この上端側が打撃によって磨耗した場合には,ハンマを上下反転して取り付け,又,ハンマの上下両端側が共に磨耗した場合には,これを新たなハンマに交換することになる。このハンマの付け替えに際しては,突起部に対するハンマ保持部材による係止を解除して,ハンマ挿入部からハンマを持ち上げることになるが,ハンマの重量が重いため,人力では無理があり,ハンマにワイヤロープを掛け回して吊り上げる必要がある。この際,突起部がハンマの左右方向中央部に突設されているのが通常であるため,バランス的に突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すのが好ましい。しかしながら,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでは,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すのが困難であるし,又,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回したとしても,ワイヤロープが突起部上から滑ってズレ動き,バランスが崩れてしまうという問題が生じる。」という記載がある。
しかし,突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成していないハンマでも,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことはでき,ハンマを吊り上げる際,ハンマ自重でワイヤロープが突起部上で締付け固定される。
そうすると,引用発明において,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝」を形成するか否かは,本来,単なる設計事項にすぎない。
そればかりか,本件のハンマと同様の重量物をクレーンで吊り上げる作業において,玉掛け用ワイヤーロープを掛け回す部分にワイヤーロープを係合する溝を形成することは,古くから知られた周知な技術にすぎない(乙2の1ないし3)。
イ衝撃式破砕機におけるハンマは重量物であり,付け替え(交換)に際してワイヤーロープを掛け回し吊り上げる必要があるので,引用発明の衝撃式破砕機におけるハンマにおいても,重量物を安全に吊り上げなければならないという課題が内在している。この引用発明に,重量物の玉掛け用ワイヤーロープを掛け回す部分にワイヤーロープを係合する溝を形成してロープのずれを防止し安全性,作業性を向上することを課題及び解決手段とする上記周知技術を組み合わせることによって,衝撃式破砕機におけるハンマの突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで縦溝を形成することは,当業者が容易に想到し得るものである。
そして,引用発明に上記周知技術を組み合わせることによって,本件特許発明と同じ構成が得られ,ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができることとなるので,本件特許発明進歩性を有しない。
ウ原告は,本件特許発明は,ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができるようにすることを課題とし,この課題を解決する手段として,突起部の頂面に縦溝を形成した構成を採用したと主張する。しかし,本件特許発明に係るハンマには,縦溝の有無に関係なく,ハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回したハンマを挿入することができる空間が確保されている。したがって,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回すことができるということは,本件特許発明特有の作用効果ではない。
すなわち,引用発明のハンマは,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝が形成されていない点においてのみ,本件特許発明のハンマと異なるところ,乙第1号証の全文明細書には,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回して取り付けたり取り外したりすることは具体的には記載されていないが,本件明細書の発明が解決しようとする課題の欄(3欄28行目〜29行面)には,従来の構造でも「ハンマにワイヤロープを掛け回して吊り上げる必要がある。」旨記載されており,従来から,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回して吊り上げていたものであることは明らかである。また,被告は,現在,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝が形成されていないハンマを販売しているが,被告のハンマを購入した顧客から苦情を受けたことはない。実際,乙第10号証の1ないし6に示すとおり,ユーザーは,保持ブロックが挿入されるハンマ後面側の空間(乙第1号証記載の保持ブロック挿着部5に相当する空間)を利用することにより,ハンマ挿入部に挿入したままで,縦溝が形成されていないハンマに直径5〜6o程度のワイヤロープを掛け回している。また,別紙ハンマ挿入図面記載のロータ2の側板においてハンマ挿入部20の前方側が後方側に比べて低く形成されているため,このハンマ7の引き上げに際しては,ハンマ挿入部20の遊びにおいてハンマ7を若干傾けることにより,後面側突起部9の頂面9aと切欠部22の前面22aとの間にワイヤロープWが挿通可能な間隙が生じ,この間隙を利用してハンマ7を傾けながらワイヤロープWでハンマ挿入部20から抜き出しあるいは挿入することは可能である。そうすると,被告が販売した突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝が形成されていないハンマも,ハンマ挿入部に挿入したままで,ハンマにワイヤロープを掛け回して吊り上げることが可能であることは明らかである。
以上のとおり,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝の有無に関係なく,ハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回したハンマを挿入することができる空間が確保されていることは明らかであるから,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回すことができるということは,本件特許発明特有の作用効果ではないといえる。
そして,ワイヤロープの太さ相当分の隙間をハンマの突起部と支持部材との間に設けることは自明のことであり,さらに,そのためにハンマの突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を設けることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。なお,本件特許発明の特許請求の範囲においては,ハンマの突起部に上面から下面に至るまで延長する縦溝の深さや幅は特定されていないが,このことは,ワイヤロープの太さ相当分の隙間を,ハンマの突起部と支持部材との間に設けることが自明であることの証左である。
【原告の主張】(1)被告の主張(1)及び(2)は認める。
(2)進歩性があることについてア本件特許発明は,ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができるようにすることを目的として,突起部の頂面に縦溝を形成したものであり,このような目的を達成するための構成は,単なる設計事項ではない。
イ乙第2号証の1ないし3の文献のいずれにも,突起部の頂面に縦溝を形成した構成,ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができるようにするという目的,作用,効果の記載はない。したがって,当業者が,これらの文献に記載された技術に基づいて,突起部の頂面に縦溝を形成することを容易に想到できたとはいえない。
ウ本件特許発明が,ワイヤロープのズレ防止のみを目的としたのであれば,被告の主張にも理があるが,本件特許発明は,ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことを課題としており,そのための手段として,ワイヤロープを通す縦溝を突起部に形成したのである。単に,ワイヤロープのズレを防止することだけを目的とするのであれば,必ずしも突起部に縦溝を形成する必要はなく,たとえば,ハンマの底面に溝を形成しても,ワイヤロープのズレを防止することは可能である。
6争点6(原告の損害)について【原告の主張】(1)逸失利益(特許法102条2項)原告は,被告による被告製品の販売により,少なくとも288万円の損害を受けた。
ア被告の売上被告は,平成15年4月1日から現在までの間に,イ号製品を,単価3万円で,少なくとも136個,ロ号製品を,単価6万円で,少なくとも12個販売し,平成17年1月1日から現在までの間に,ハ号製品を,単価3万円で,少なくとも60個,ニ号製品を,単価6万円で,少なくとも10個販売した(売上合計720万円)。
イ利益率被告製品の製造販売による利益率は,40%を下回らない。
ウ被告の得た利益よって,被告は,被告製品の製造販売により,少なくとも288万円(720万円×0.4)の利益を得ており,この金額は原告の損害の額と推定される。
(2)調査費用原告は,被告が本件特許権を侵害する被告製品を製造販売しているという事実を確認するために,特許事務所に調査を依頼したり,原告の社員を各地の業者に派遣して現物を確認し写真撮影するなどして,次の合計47万1930円の費用を要した。
アP1特許事務所調査依頼費用9万1130円イ社員調査費用 38万0800円(内訳)P2(佐賀県)1人×1時間×単価1万1200円=1万1200円P31人×11時間×単価1万1200円=12万3200円P4(大分県)1人×7時間×単価1万1200円=7万8400円P5(鹿児島県)1人×11時間×単価1万1200円=12万3200円P6(京都府宇治市)1人×4時間×単価1万1200円=4万4800円(3)原告の損害の額原告は,被告による本件特許権の侵害により,上記(1)の288万円と上記(2)の47万1930円の合計335万1930円の損害を受けた。
【被告の主張】争う。
(1)逸失利益についてア被告の売上被告製品の売上(製品及び運送費の売上合計)は,合計351万2515円(消費税抜き)である。
(内訳)(ア)イ号製品90万0315円(24個)(イ)ロ号製品88万3200円(16個)(ウ)ハ号製品128万1000円(32個)(エ)ニ号製品44万8000円(8個)イ経費被告は,被告製品を中国の企業に委託して製造させ輸入していたところ,被告製品の委託製造,輸入及び販売のため,合計310万8993円の経費(被告が被告製品を製造販売する場合に追加的に必要となる経費)を要した。
(内訳)(ア)支払金額183万2539円〔製品(鋳鉄)代+木型代〕なお,支払はドル建てであるため,為替レートの変動により,支払金額は仕入金額と一致していない。
(イ)輸入消費税9万1447円(ウ)乙仲費用18万1160円(消費税を含む。)(エ)運送費24万7847円(消費税を含む。)(オ)営業経費75万6000円被告製品の受注のための商談及び受注した被告製品の納入のための立会に要した時間に相当する人件費ウ被告の得た利益被告製品の製造販売によって被告が得た利益は,上記アの351万2515円から上記イの310万8993円を控除した残額40万3522円である。
(2)調査費用について原告は,被告製品の現物の確認のために調査費用を要した旨主張する。しかし,被告製品の販売先は,原告が衝撃式破砕機を販売した取引先であるから,原告が被告に対して特許権侵害を理由とする警告をしたり損害賠償請求訴訟を提起するためには,その取引先に被告が販売した製品の構造を問い合わせたり写真を送付してもらうことなどによって容易に被告製品の構造を確認できたのであり,必ずしも原告従業員が直接現地まで行って確認する必要はなく,また,そのすべてについて確認が必要であったとも認められない。しかも,被告は,本件訴訟において自ら被告製品の構造及び販売数量を明らかにしているから,原告主張の調査は必要なかった。
第4争点に対する判断1争点1(ロ号製品は構成要件Cを充足するか。)について(1)ロ号製品は,構成c「各突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成した」を備えている(当事者間に争いがない。)。
よって,ロ号製品は,本件特許発明構成要件C「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したことを特徴とする」を充足する。
(2)被告は,ハンマの表面の左右に2個の突起部を形成するロ号製品は本件特許発明構成要件Cを充足しないとして,その理由について,要旨,本件特許発明は,ハンマの幅方向中央部に1個だけの突起部を構成してこの突起部をロータの外周部に取り付けることを前提とした発明であると主張する。
しかし,本件明細書の【特許請求の範囲】には,突起部及び縦溝に関して,「ハンマの後面に突設した突起部をハンマ保持部材で係止する」(構成要件A),「突起部の根元入り隅部に,アール面取部を形成する」(構成要件)B),「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成した」(構成要件C),「ハンマが上下反転可能に取り付けられると共に,ハンマの前面及び後面に突起部が突設され,ハンマを上下反転した場合に,前面側突起部と後面側突起部の前後位置が入れ替わるようにした」(構成要件F)との記載しかなく,突起部及び縦溝の数やワイヤロープによるハンマの吊り上げ方については,何ら限定はなされていない。
したがって,本件特許発明が,1個だけの突起部を構成し,この突起部に縦溝を形成して,ハンマの幅方向中央部にワイヤロープを掛け回して吊り上げる,いわゆる1本吊りを前提とした発明であるとはいえない。したがって,これを前提とする被告の上記主張は理由がない。
2争点2(ハ号製品は構成要件Bを充足するか。)について(1)ハ号製品の構造及び作用効果は,別紙物件目録3記載のとおりであり,ハ号製品は,「ハンマの前面41及び後面42には突起部5,6が突設されている。この場合,前面側突起部5は,ハンマの左右方向中央部において上下方向中央部よりやや下側寄り位置に突設され,その根元入り隅部には,ハンマ前面41に窪み込まない状態でアール面取部50が全周に亘って形成されている。
また,他方の後面側突起部6は,ハンマ4の左右方向中央部において,前面側突起部5と上下対称になる位置に突設され,その根元入り隅部には,同様にハンマ後面42に窪み込まない状態でアール面取部60が全周に亘って形成されている。」との構造を有し,「突起部5,6の根元入り隅部に,アール面取部50,60が形成されている。従って,遠心力や衝撃力による大きな荷重が加わるハンマにおいて,突起部5,6の根元入り隅部に生じる応力集中をアール面取部50,60によって防止することができる。」との作用効果を奏する(当事者間に争いがない。なお,被告は,ハ号製品が構成bを備えることを否認しているが,その趣旨は,構成要件Bの「アール面取部」に相当するような「アール面取部」が存在しないというものであって,アールで面取をした部分である「アール面取部60」がハ号製品に存在すること自体を否認しているものではないと解される。)。
(2)被告は,構成要件Bの「アール面取部」は,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を十分に防止し得る程度に全周に亘って窪み込む状態に形成されたアール面取部でなければならず,JIS規格と同程度のアール面取部が付されたハ号製品は従来技術そのものであり,構成要件Bの「アール面取部」に含まれない旨主張する。
しかし,本件明細書の【特許請求の範囲】はもとより,【発明の詳細な説明】にも,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を防止し得る程度において,本件特許発明における「アール面取部」が,JIS規格上要求されている「丸み」を上回るものであることを示す記載はない。なるほど,【発明の実施の形態】において,根元入り隅部に窪み込む状態で全周に亘ってアール面取部が形成された例が開示されてはいるが,本件特許発明における「アール面取部」をこのようなアール面取部に限定する趣旨の記載はない。
したがって,構成要件Bの「アール面取部」は,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を防止できるものであればよく,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を十分に防止し得る程度に全周に亘って窪み込む状態に形成されたアール面取部でなければならないとの被告の上記主張は理由がない。
そして,上記(1)のとおり,ハ号製品の突起部の根元入り隅部には,ハンマに窪み込まない状態でアール面取部が全周に亘って形成されており,これによって,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を防止できる以上,ハ号製品のアール面取部は,構成要件Bの「アール面取部」に相当するということができる。
(3)よって,ハ号製品は,本件特許発明構成要件B「前記突起部の根元入り隅部に,アール面取部を形成すると共に,」を充足する。
3争点3(ニ号製品は構成要件Bを充足するか。)について(1)ニ号製品の構造及び作用効果は,別紙物件目録4記載のとおりであり,ニ号製品は,「ハンマの前面41及び後面42には突起部5A,5B,6A,6Bが突設されている。この場合,前面側突起部5A,5Bは,ハンマの左右方向中央部において上下方向中央部よりやや下側寄り位置に突設され,その根元入り隅部には,ハンマ前面41に窪み込まない状態でアール面取部50が各突起部全周に亘って形成されている。また,他方の後面側突起部6A,6Bは,ハンマ4の左右方向中央部において,前面側突起部5と上下対称になる位置に突設され,その根元入り隅部には,同様にハンマ後面42に窪み込まない状態でアール面取部60が各突起部全周に亘って形成されている。」との構造を有し,「突起部5A,5B,6A,6Bの根元入り隅部に,アール面取部50,60が形成されている。従って,遠心力や衝撃力による大きな荷重が加わるハンマにおいて,突起部5A,5B,6A,6Bの根元入り隅部に生じる応力集中をアール面取部50,60によって防止することができる。」との作用効果を奏する(当事者間に争いがない。なお,被告は,ニ号製品が構成bを備えることを否認しているが,その趣旨は,構成要件Bの「アール面取部」に相当するような「アール面取部」が存在しないというものであって,アールで面取をした部分である「アール面取部50,60」がニ号製品に存在すること自体を否認しているものではないと解される。)。
(2)被告は,構成要件Bの「アール面取部」は,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を十分に防止し得る程度に全周に亘って窪み込む状態に形成されたアール面取部でなければならない旨主張するが,前示のとおり,この主張には理由がない。
そして,上記(1)のとおり,ニ号製品の突起部の根元入り隅部には,ハンマに窪み込まない状態でアール面取部が全周に亘って形成されており,これによって,突起部の根元入り隅部に生じる応力集中を防止できる以上,ニ号製品のアール面取部は,構成要件Bの「アール面取部」に相当するということができる。
(3)よって,ニ号製品は,本件特許発明構成要件B「前記突起部の根元入り隅部に,アール面取部を形成すると共に,」を充足する。
4争点4(ニ号製品は構成要件Cを充足するか。)について(1)ニ号製品は,構成c「各突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成した」を備えている(当事者間に争いがない。)。
よって,ニ号製品は,本件特許発明構成要件C「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成したことを特徴とする」を充足する。
(2)被告は,ハンマの表面の左右に2個の突起部を形成するニ号製品は本件特許発明構成要件Cを充足しないとして,その理由について,要旨,本件特許発明は,ハンマの幅方向中央部に1個だけの突起部を構成してこの突起部をロータの外周部に取り付けることを前提とした発明であって,この突起部に縦溝を形成することによって本件明細書の段落【0022】記載の作用効果が得られるものであり,本件特許発明は,ハンマの幅方向中央部に1本のワイヤロープを掛け回して吊り上げる,いわゆる1本吊りを前提とした発明である旨主張する。しかし,前示のとおり,この主張には理由がない。
5争点5(本件特許には進歩性欠如の無効理由があるか。)について(1)引用発明〔実願平2-88563号(実開平4-45547号)のマイクロフィルム(乙1)記載の考案〕証拠(乙1)によれば,上記マイクロフィルムには,「ロータ本体の外周に突設したハンマで,投入された原料を打撃して破砕し,かつ飛散した原料を反発板で破砕する衝撃式破砕機において,前記ロータ本体の外周部にその略半径方向に形成された切欠部に対して着脱自在に挿通され,ロータ本体の回転方向とは反対側の面に係合突起を有するハンマと,該ハンマの係合突起が係脱自在に嵌合する係合穴を有する保持ブロックと,前記ロータ本体側に設けられ,前記保持ブロックの上下両面に当接して保持ブロックの上下方向移動を固定可能な上下支持部材を有し,かつ,前記係合突起に対する係合穴の係脱方向に保持ブロックを係脱自在に挿着可能な保持ブロック挿着部と,を備えたことを特徴とする衝撃式破砕機におけるハンマ取付構造。」(1頁5行目から2頁1行目),「第1図,第4図に示すように,長手方向の中心点に対し対称位置に横幅より適宜短い係合突起20が設けられている。」(6頁9行目から11行目),「また,前記ハンマ2が摩耗した場合には,前記ハンマ2の取付け時と逆の手順によってハンマ2を取り外し反転させて使用することができる。」(10頁10行目から13行目)との記載があり,第1図には,ハンマ2に形成された係合突起20の根元入り隅部に,アール面取部が形成されたものが開示されていることが認められる。
(2)本件特許発明と引用発明の対比・相違点本件特許発明と引用発明を対比すると,引用発明の「ロータ本体」,「切欠部」,「保持ブロック」,「係合突起」及び「反発板」は,その構造,機能,作用からみて,それぞれ,本件特許発明における「ロータ」,「ハンマ挿入部20」,「ハンマ保持部材」,「突起部」及び「反撥板」に相当する。
本件特許発明と引用発明の相違点は,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝」の有(本件特許発明)無(引用発明)のみである(以下「本件相違点」という。)。
(3)周知技術証拠(乙2の1ないし3)によれば,@特開平9-25621号公報(乙2の1)には,人工魚礁用ブロックのベース1の周壁に,玉掛け作業のための凹部1eを縦方向の全長に形成したものが開示されていること(2頁2欄下から6行目から4行目,図1及び図2参照),A実公昭44-21553号公報(乙2の2)には,ワイヤロープBにより物体Aを吊り上げる際,物体Aの角縁に重量物懸吊用ワイヤロープの滑り止兼保護具の基材1を外接させながら,該基材1の表面凹溝2にロープBを嵌込んだものが開示されていること(1頁2欄2行目から8行目,第1図ないし第3図参照),B実願昭60-89802号(実開昭61-206583)のマイクロフィルム(乙2の3)には,互いに直交する面で形成される被搬送物のコーナー受け部と外周部に玉掛ロープ用溝を有する治具本体を備えた玉掛け用吊り治具が開示されていること(1頁5行目から9行目,第3図参照)が認められる。
上記事実によれば,重量物をクレーンで吊り上げる作業において,ワイヤーロープのずれ防止のため,玉掛け用ワイヤロープを掛け回す部分にワイヤーロープを係合する溝を形成することは,周知の技術であることが認められる(以下,この周知の技術を「周知技術」という。)。
(4)容易想到性について本件特許発明は,従来の技術の問題点,すなわち,ハンマの付け替えに際して,ハンマにワイヤロープを掛け回して吊り上げる際,突起部がハンマの左右方向中央部に突設されているのが通常であるため,バランス的に突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すのが好ましいが,従来の技術では,@ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでは,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すのが困難であり,また,A突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回したとしても,ワイヤロープが突起部上から滑ってズレ動き,バランスが崩れてしまうという問題が生じる(本件明細書の段落【0004】参照)ことから,この問題を解決するため,@ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができ,かつ,Aワイヤロープが突起部上から滑ってズレ動くといったことがなく,バランスの崩れを防止しながらワイヤロープによってハンマを吊り上げることができるようにすることを課題として(同【0006】参照),本件相違点である,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成した」構成を採用したものであり(同【0007】参照),このような構成を採用したことにより,@ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができ,かつ,Aワイヤロープが突起部上から滑ってズレ動くといったことがなく,バランスの崩れを防止しながらワイヤロープによってハンマを吊り上げることができるという作用効果を奏するものである(同【0022】参照)。
すなわち,別紙ハンマ挿入図面記載のとおり,衝撃式破砕機では,付け替えのためにハンマ7を吊り上げるに際し,後面側突起部9が上側支持部材22に干渉するのを防止するために,この上側支持部材22をハンマ7から若干後退した位置におかなければならないことは自明である(後退した部分が切欠部22aである)。しかし,破砕時に大きな荷重が上側支持部材22に加わることから十分な強度を確保するために,上側支持部材22とハンマ保持部材21の接触範囲が広い(切欠部22aの深さが浅い)のが望ましく,このため上面支持部材22は,後面側突起部9がギリギリ通るような位置まで迫ることとなり,後面側突起部9の頂面9aと切欠部22aの前面22bとの隙間はごく狭い。
したがって,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成」しない従来のハンマでは,ハンマ7の付け替えに際し,ハンマ7をハンマ挿入部20に挿入したまま突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すと,ハンマ7を吊り上げる際,後面側突起部9が切欠部22aを通るときにワイヤロープWが後面側突起部9の頂面9aと切欠部22aの前面22bとの間に噛み込んでしまう。すなわち,ハンマの付け替えに際して,ハンマ7をハンマ挿入部20に挿入したままで,後面側突起部9上を通るようにワイヤロープWを掛け回すのが困難であるし,また,突起部8,9上を通るようにワイヤロープWを掛け回したとしても,ワイヤロープWが突起部8,9上から滑ってズレ動き,バランスが崩れてしまうという問題が生じていた。そこで,本件特許発明は,構成要件Cの構成を採用したものである。
これに対し,周知技術は,玉掛け用ワイヤロープを掛け回す部分にワイヤーロープを係合する溝を形成するものにすぎず,溝を形成する箇所及び溝の態様について,ハンマの「突起部の頂面に」,「突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝」を形成することについては,何ら開示されていないから,引用発明に周知技術を組み合わせても,構成要件Cの構成が直ちに得られるものではない。そして,本件特許発明は,この構成により,周知技術とは異なり,上記のような特有の作用効果を奏するものである。
したがって,引用発明と周知技術から本件特許発明の構成を想到することが容易であるとは認められない。
(5)被告の主張についてア被告は,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝」を形成していないハンマでも,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことはでき,ハンマを吊り上げる際,ハンマ自重でワイヤロープが突起部上で締付け固定されるから,引用発明において,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝」を形成するか否かは単なる設計事項にすぎないと主張する。
しかし,前記のとおり,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成した」構成を採用したことにより,@ハンマをハンマ挿入部に挿入したまま,突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができ,かつ,Aワイヤロープが突起部上から滑ってズレ動くといったことがなく,バランスの崩れを防止しながらワイヤロープによってハンマを吊り上げることができるという作用効果を奏するものであるから,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成した」構成は,単なる設計事項とはいえない。
イ被告は,引用発明のハンマにおいても,重量物を安全に吊り上げなければならないという課題が内在しており,引用発明に周知技術を組み合わせることによって,ハンマの「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成」することは,当業者であれば容易に想到し得る旨主張する。
しかし,前示のとおり,引用発明に周知技術を組み合わせても,当業者が,溝を形成する箇所及び溝の態様について,ハンマの「突起部の頂面に」,「突起部上面から下面に至るまで延長する縦溝」を形成することを想到することが容易であるとは認められず,しかも,本件特許発明は,この構成により,上記のような作用効果を奏するものである。
ウ被告は,引用発明においても,ハンマ挿入部20の遊びにおいてハンマ7を若干傾けることにより,ワイヤロープWが挿通可能な間隙が生じ,ハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回して吊り上げることが可能であるから,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回すことができるということは,本件特許発明特有の作用効果ではないことを前提として,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回して吊り上げるために,ワイヤロープの太さ相当分の隙間をハンマの突起部と支持部材との間に設けることは自明のことであり,さらに,そのためにハンマの突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を設けることは,当業者であれば容易に想到し得る旨主張する。
しかし,引用発明のハンマは,被告も主張するように,ハンマ7を若干傾けて,後面側突起部9の頂面9aと切欠部22の前面22aとの間に隙間を生じさせなければ,ワイヤロープWを掛け回すことができない。これに対して,本件特許発明は,「突起部の頂面に」,「突起部上面から下面に至るまで延長する縦溝」を形成することにより,引用発明のようにハンマを若干傾ける必要もなく,より容易に突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができるものであって,これは引用発明にはない特有の作用効果であるから,被告の主張は前提を欠く。
そうである以上,上記特有の作用効果を奏する構成たるハンマの「突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を設ける」ことを容易に想到し得るということはできない。
なお,引用発明において,ハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回して吊り上げるために,ワイヤロープの太さ相当分の隙間をハンマの突起部と支持部材との間に設けることが自明のことであればなおさら,構成要件Cの構成によらなくてもハンマをハンマ挿入部に挿入したままでワイヤロープを掛け回して吊り上げることができるのであるから,当業者において,構成要件Cの構成がもたらす引用発明と異なる作用効果である「ハンマを若干傾ける必要もなく,より容易に突起部上を通るようにワイヤロープを掛け回すことができる」に係る課題を発見することが困難であって,構成要件Cの構成に想到することを容易であるとはなお一層認め難いようにも思われる。
(5)以上によれば,本件特許には進歩性欠如の無効理由はない。
6小括以上によれば,被告製品はいずれも本件特許発明技術的範囲に属し,本件特許には無効理由が認められないから,被告は,被告製品の販売により原告が受けた損害を賠償する義務を負う。
7争点6(原告の損害)について(1)逸失利益についてア被告製品の売上証拠(乙11,12の1ないし10,13,14の1ないし10,19)及び弁論の全趣旨によれば,平成15年4月1日から現在までの間に,イ号製品を24個(型式ACD1Bを8個,同NCDH1Bを16個),ロ号製品(型式ACD1A)を16個,平成17年1月1日から現在までの間に,ハ号製品を32個(型式ACD1Bを8個,同NCDH1Bを24個),ニ号製品(型式ACD1A)を8個販売したこと,これら被告製品の売上(製品及び運送費の売上合計)は,合計351万2515円(消費税抜き)であったことが認められる(別紙逸失利益算定表「売上」欄参照)。
甲第12号証には,このほかに,被告が型式NCD1Bを72本,同NCF2Bを12本,同NCD2Bを36本販売した旨の記載がある。しかし,証拠(甲12,乙7,8の各1ないし3)によれば,被告は,「突起部の頂面に,突起部の上面から下面に至るまで延長する縦溝を形成した」との構成を備えないハンマも多数販売しており,甲第12号証の上記記載に係るハンマの図面として被告が原告に送付したものの中にも上記構成を備えない図番1GCB-009A-01-0の図面(乙8の2)が含まれていることが認められ,上記事実に照らし,甲第12号証の記載をもって,被告が被告製品を前記認定以上に販売したことの証左とすることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
イ経費証拠(乙11,12の1ないし10,13,14の1ないし10,15の1ないし13,16の1ないし12,17の1ないし12,18の1ないし12,19)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品を中国の企業に委託して製造させ輸入していたこと,被告は,上記アの被告製品の委託製造,輸入及び販売のための経費として,合計235万2993円(費目ごとの内訳は以下のとおり)を追加的に要したことが認められる(別紙逸失利益算定表「経費」欄参照)。
(費目ごとの経費の内訳)(ア)支払金額183万2539円〔製品(鋳鉄)代+木型代 〕(イ)輸入消費税9万1447円(ウ)乙仲費用18万1160円(消費税を含む。)(エ)運送費24万7847円(消費税を含む。)被告は,被告製品の受注のための商談及び被告製品の納入のための立会に要した時間に相当する人件費の控除を主張する。しかし,上記人件費は,結局のところ被告の従業員の給与であって,被告が被告製品を販売しなかった場合に支払いを免れた性質のものとは認められない。したがって,これを被告製品の売上げのために追加的に要した費用として控除することはできない。
ウ被告の得た利益被告製品の販売によって被告が得た利益は,上記アの351万2515円から上記イの235万2993円を控除した残額115万9522円であり,この金額は原告が受けた損害の額と推定される(特許法102条2項。別紙逸失利益算定表「利益」欄参照)。
(2)調査費用について証拠(甲9,10,13,15)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成16年に被告が本件特許権の実施品と疑われるハンマを販売していることを知って弁理士に調査を依頼し,同弁理士を通じて同年12月7日付けで警告書(甲9)を送付するなどして9万1130円の費用を要したことが認められるところ,同費用は,被告による本件特許権の侵害相当因果関係のある損害と認められる。
原告は,上記調査依頼費用に加えて,社員調査費用として,原告の従業員を各地の業者に派遣して現物を確認し写真撮影するなどして要した費用を原告の損害として主張する。しかし,原告が従業員を派遣した業者はいずれも原告の取引先であって,これら取引先から原告に対して被告製品納入の連絡があったから従業員を派遣したというのであれば,これら取引先を通じて被告製品の構造を確認することが可能であり,必ずしも従業員を直接現地に派遣させる必要があったとはいえないし,また,取引先に派遣された従業員は,被告製品の現物の確認が目的であったとしても,実際には営業活動も併せて行ったであろうことが推認されること,他方,原告の従業員が他の目的で取引先に派遣された際に被告製品を確認したというのであれば,その派遣は被告製品の販売の有無にかかわらず行われたものであることから,いずれにせよ,原告主張の社員調査費用は,被告による本件特許権の侵害相当因果関係のある損害とは認められない。
(3)原告の損害の額原告は,被告による本件特許権の侵害により,上記(1)の115万9522円円と上記(2)の9万1130円の合計125万0652円の損害を受けたものと認められる。
8差止めの必要性について証拠(乙9,19)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製品を中国の企業に委託して製造させ輸入していたことが認められるから,被告に対し,被告製品の譲渡,貸渡し,輸入,譲渡又は貸渡しの申出の差止め及び被告製品の廃棄を命ずる必要性が認められる。なお,被告は,被告製品の在庫品を所持していない旨主張するが,上記製造委託先に在庫品が残存していないことについては,これを認めるに足りる証拠はなく,被告は現在でも同委託先から製品を輸入している(被告が自認している。)から,被告が同委託先から被告製品の在庫品を輸入し,譲渡等するおそれはあるものと認められる。
他方,被告が自ら被告製品を製造していたこと及び被告が被告製品の金型を所持していることを認めるに足りる証拠はないから,被告に対し,被告製品の製造の差止め及び被告製品の金型の廃棄を命ずる必要性は認められない。
9結論以上によれば,原告の請求は,被告に対し,本件特許権に基づき,被告製品の譲渡,貸渡し,輸入,譲渡又は貸渡しの申出の差止め及び被告製品の廃棄を命じることを求め,特許権侵害不法行為に基づき,125万0652円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年4月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,差止め及び損害賠償についての仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し,廃棄についての仮執行宣言は相当でないから付さないこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 西理香
裁判官 村上誠子