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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ワ12586特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ3381特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ11630損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成13ワ8137特許権使用差止等請求事件 判例 特許
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  製造方法 /  加工方法 /  物を生産する方法 /  技術的範囲 /  技術常識 /  援用権(援用) /  対象製品 /  技術的意義 /  均等 /  置き換え /  同一の作用効果 /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  加工 /  構成要件 /  方法の使用 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  実施権 /  通常実施権 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 10年 (ワ) 4551号 差止請求権不存在確認等請求事件
平成 11年 (ワ) 12018号 同事件
原告(反訴被告) 日本フネン株式会社 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 田倉整
同 内藤義三右補佐人弁理士 【B】
被告(反訴原告) 近畿車輛株式会社 右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 三山峻司右補佐人弁理士 【D】
同 【E】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/05/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
二 被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを二六分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。
事実及び理由
全容
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりであり、原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一二年三月九日)
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別紙事実及び理由第1請求(本訴)1被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、原告(反訴被告。以下「原告」という。)が別紙原告ロ号方法目録記載の方法で鋼製ドアを製造すること、及び別紙原告ロ号物件目録記載の鋼製ドアを製造、販売することが、被告の有する特許第1861289号(発明の名称「採光窓付き鋼製ドアの製造方法」)を侵害する旨の事実を第三者に陳述、流布してはならない。
2被告は、原告が別紙原告ロ号方法目録記載の方法で原告が鋼製ドアを製造すること、及び別紙ロ号物件目録記載の鋼製ドアを製造、販売することを、妨害してはならない。
(反訴)1原告は、別紙被告ロ号方法目録記載の方法を使用してはならない。
2原告は、別紙被告ロ号方法目録記載の方法を使用した採光窓付き鋼製ドアを生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
3原告は、被告に対し、金1億7363万円及びこれに対する平成11年11月19日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要(争いのない事実等)1被告は次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
発明の名称採光窓付き鋼製ドアの製造方法出願昭和63年7月20日(特願昭63-180682号)公開平成2年2月1日(特開平2-30877号)公告平成5年6月30日(特公平5-43037号)登録平成6年8月8日登録番号特許第1861289号2本件特許権の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲中の請求項1の記載は、本判決添付の特許公報の該当欄記載のとおりである(以下請求項1に記載された特許発明を「本件発明」という。)。
3本件発明の特許請求の範囲は次のとおり分説するのが相当である。
A採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドアにおいて、
B前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側にパネル板厚のほぼ8倍以上のフランジ代を残した開口を設け、
C該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって形成し、
D上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ、
Eフランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓とに接着剤その他の手段を用いて固着し、
F両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とするG採光窓付き鋼製ドアの製造方法
4原告は、約0.6oの板厚の鋼板を用い、採光窓部のコーナー部の折曲線1のコーナー半径を約5.9oにした採光窓付き鋼製ドアを製造しているが、平成10年4月ころから、現行の製造方法で、当該ドアを製造している(乙40、41。
以下その製造方法を「ロ号方法」という。)。
ロ号方法の具体的内容については、後記のとおり、当事者間で争いがあるが、ロ号方法が、本件発明の構成要件A、B、E、F及びGを充足することについては当事者間に争いがない。
(当事者の請求)原告は、被告に対し、別紙原告ロ号方法目録記載のロ号方法を使用して鋼製ドアを製造し、販売することは、本件特許権を侵害するものではないことを理由に、不正競争防止法2条1項13号3条1項に基づき、虚偽陳述流布の差止めを求めるとともに、業務妨害行為の差止めを求めている(本訴請求)。
他方、被告は、原告に対し、原告が、別紙被告ロ号方法目録記載のロ号方法を使用して鋼製ドアを製造し、販売することは本件特許権を侵害するとして、その方法の使用及びその方法に基づく製品の生産、譲渡等の差止めを求めるとともに、
損害賠償を求めている(反訴請求)。
第3争点(本訴、反訴共通)1ロ号方法の内容2ロ号方法は、構成要件Dを充足するか。
ロ号方法は、「絞り加工」を行っているか。
3ロ号方法は、構成要件Cを充足するか。
ロ号方法は、「先端に丸味を備えた切り欠き」を備えているか。
4ロ号方法は、本件発明と均等か。
5原告は先使用に基づく通常実施権を有するか。
(本訴)6被告は、不正競争防止法2条1項13号所定の行為をするおそれがあり、原告の業務を妨害するおそれがあるか。
(反訴)7損害額第4争点に関する当事者の主張1争点1(ロ号方法の内容)について【原告の主張】ロ号方法は、別紙原告ロ号方法目録記載のとおりである。
【被告の主張】ロ号方法は、別紙被告ロ号方法目録記載のとおりである。すなわち、ロ号方法において、別紙原告ロ号方法目録aないしd3、e及びf工程記載の各工程が存在することは認めるが、ロ号方法の工程は以上であり、別紙原告ロ号方法目録d4工程記載の工程は存在しない。
2争点2(構成要件D該当性)について【被告の主張】ロ号方法においても別紙被告ロ号方法目録d2工程記載のとおり、採光窓部のコーナー部を、プレス機を使用してコーナー折曲線1の部分で内側に折り曲げているのであるから、ロ号方法においてプレス加圧による「絞り加工」が行われていることはいうまでもない。
したがって、ロ号方法は、構成要件Dを充足する。
なお、本件発明は、開口のコーナー部の成形加工に関するものであり、採光窓部の長手方向の直線部の内側への折り曲げ加工については、本件発明とは無関係である。
原告は、別紙原告ロ号方法目録記載のd4工程を理由に、ロ号方法においては、絞り加工をしていないと主張する。前記のとおり、被告は、ロ号方法において上記d4工程が行われていること自体を否認するが、仮に上記d4工程が行われているとしても、それは単なる改悪実施の一態様にすぎない。
【原告の主張】絞り加工は、加工の際、材料に圧縮と延びを同時にもたらす加工方法であるため、材料に歪みがでないように圧縮と延びを相殺させるなど圧縮と延びの調整を行う加工方法である。そして、このような調整を行うことの帰結として、プレスに用いる絞り加工の金型は、加工すべき箇所の全体をカバーするものでなければならないこととなる。
そして、本件発明は、採光窓部の絞り線のところで絞り加工を行うものであるから、結局、本件発明の絞り加工で用いられる金型は、採光窓部全体で一つでなければならない。
これに対し、ロ号方法では、別紙原告ロ号方法目録d1及びd2工程記載のとおり、タレットパンチプレスを用い、パネルの端から順次繰り返しプレスして折り曲げているのであるから、絞り加工のような圧縮と延びの調整を行っていない。
その結果、ロ号方法においては、曲げられているところと、まだ曲げられていないところには、かなり大きな歪みが発生し、折り曲げ加工後も、大きなシワとでもいうべき波打ち状の歪みが残る。そこで、ロ号方法では、別紙原告ロ号方法目録d4工程記載のとおり、そのような波打ち状の歪みをハンマー加工で修正して商品としての外観を確保している。
よって、ロ号方法におけるタレットパンチプレスによる折り曲げは、単なる折り曲げであり、絞り加工ではなく、ロ号方法は、構成要件Dを充足しない。
3争点3(構成要件C充足性)について【被告の主張】(1)ロ号方法において形成される円形の丸穴4は、構成要件Cの「先端に丸味を備えた切り欠き」に該当する。
(2)本件発明の「切り欠き」の用語は、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が用いる通常の意味において、
理解されなければならない。この点、社団法人日本サッシ協会発行の「カタログ、
商品説明書などに於ける表現と用語の統一に関する指針」(乙5、6)には、切り欠きとして、材料の中間に加工された欠損部も挙げられおり、その他多くの文献(乙25ないし32)の記載からして、円形の丸穴が切り欠きに当たることは明らかである。
そして、本件発明の特許請求の範囲の記載においては、切り欠きが開口のコーナーと連続しているか否かについては、何ら限定がない。そして、本件発明において切り欠きは、隅フランジ代に歪みや板割れを生じさせないために設けられるのであるから、そのような形状であれば、先端に丸味をもたせる形状以外には特にその形に限定はなく、ロ号方法のような円形の丸穴も含まれる。
(3)ロ号方法においては、別紙被告ロ号方法目録d3工程記載から明らかなように、円形の丸穴4は、プレス加圧前の当初から、採光窓部のコーナー部に達する切れ目を形成することが予定されて設けられている。
そして、円形の丸穴4は、コーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から周縁までの最短距離が鋼板の板厚のほぼ8倍以下になる位置に設けられている。
これはパネル表面に歪みを発生させないようにするためである。また、構成要件Cの「先端」とは、隅フランジ代に向かう側の「先端」であるところ、ロ号方法における円形の丸穴4も「円形」である以上、曲線部中央3側の先端は、丸味を備えた形状になっている。
したがって、ロ号方法は、構成要件Cを充足する。
(4)原告は、ロ号方法が特許登録されていることを主張するが、そのことと、
ロ号方法が本件発明の技術的範囲に属するかという問題とは何ら関係がない。
【原告の主張】(1)ロ号方法において形成される円形の丸穴4は、構成要件Cの「先端に丸味を備えた切り欠き」に該当しない。
(2)広辞苑(第2版)には、「切り欠き」として、「材料力学において、材料の縁に局部的にできたへこみ部。ノッチ。」と記載されている。したがって、材料のいずれの縁にも距離をおいて開けられた丸穴が、「切り欠き」に含まれないことは、文言上明らかである。
当業者も、切り欠きを、材料の縁を切り取った部分を指し示す用語として使用している(甲6の1、甲10、17、19、24及び25)。
被告が引用する指針(乙5及び6)における中間部とは、サッシ等長尺なものの両端から見た場合の中間部をいうのであって、周囲が材料に囲まれた円形の丸穴をいうものではない。また、その他被告が自己に有利に援用する文献(乙25ないし32)は、破壊箇所の説明として広く切り欠きという言葉を用いているのであるから、本件発明の「切り欠き」を解釈する指針とはならない。
(3)本件発明は、構成要件C及びDから明らかなように、切り欠きを設ける工程と、絞り加工で折り曲げる工程を分けているが、ロ号方法の円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間(ニ)が破断するのは、別紙原告ロ号方法目録d3工程記載のとおり、タレットパンチプレス機による折り曲げ工程の過程においてである。
(4)本件発明が切れ目又は切り欠きを形成するのは、開口のコーナー部に応力集中による歪みが発生するのを避け、フランジ代のコーナー部に板割れが発生するのを避けるためである。しかし、本件発明は、切れ目又は切り欠きで応力を吸収しようとするため、逆に切れ目又は切り欠きに力が集中し、切れ目又は切り欠きに、
それほど大きくないものの裂け目が生じやすくなってしまう。
これに対し、ロ号方法では、周囲が囲まれた円形の丸穴4を形成するため、力がその丸穴全体に分散し、切り欠きの場合では裂けやすい箇所に力が集中することはなく、その反対に位置する円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間(ニ)が破断する(別紙原告ロ号方法目録d3工程)。
そして、このようなロ号方法は、本件発明を従来技術として開示した上で、本件発明とは別発明として特許登録されているところである。
4争点4(均等)について【被告の主張】(1)本件明細書の記載から明らかなように、本件発明の本質的部分は、@採光窓部のフランジ代をパネル板厚の8倍以上とし、A各コーナーの隅フランジ代をパネル板厚のほぼ8倍以下とし、Bその隅フランジ代の先端を丸味を備えて形成することである。なお、「切れ目または切り欠き」は欠損部を設けるための技術常識であり、その点に本件発明の新規な点があるわけではない。
ロ号方法は、フランジ代のコーナー折曲線1に沿って折り曲げる前に円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6の間(ニ)はつながっているが、別紙被告ロ号方法目録d3工程記載のとおり、折り曲げ後には、当該部分は破断して円形の丸穴4と開口とはつながっている。その結果、ロ号方法も、@フランジ代(イ)を板厚の8倍以上としつつ、A隅フランジ代は板厚のほぼ8倍以下となり、B隅フランジ代の先端は丸味を備えて形成されるのであるから、ロ号方法は、本件発明の本質的部分を備えている。
(2)ロ号方法における円形の丸穴4も「円形」である以上、曲線部中央3側の先端は、丸味を備えた形状になっている。また、円形の丸穴4は、コーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から周縁までの最短距離が鋼板の板厚のほぼ8倍以下になる位置に設けられている。そして、折り曲げ前には、円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間(ニ)がつながっていても、折り曲げ工程の過程でそれは破断するのであるから、ロ号方法は、本件発明の目的を達成し、本件発明と同一の作用効果を奏する。
(3)原告が、ロ号方法による採光窓付き鋼製ドアの製造を開始したのは、平成10年4月ころであるが、その当時、防火ドアの量産メーカーと自負する原告であれば、本件発明の「切れ目または切り欠き」に代えて円形の丸穴4を設けることは、容易に推考できた。
このことは、原告が、短期間で、採光窓付き鋼製ドアの製造方法をロ号方法に変更しことからも明らかである。
【原告の主張】(1)本件発明は、@フランジ代を板厚のほぼ8倍以上とすること、A隅フランジ代に先端に丸味を備えた切り欠き又は切れ目を設けること、B絞り加工により絞り線の部分で内側に折り曲げること、以上が相互に関連し、本件発明の作用効果を発揮し、美感を良くするとともに、乙種防火戸の要件を備えやすいドアを作業工数の少ない状態で能率良く作ることができるという本件発明の目的を達成している。
したがって、上記3点がいずれも本件発明の本質的部分である。
したがって、上記ABを具備しないロ号方法が、本件発明と均等となる余地はない。
(2)切り欠きに代えて、円形の丸穴を設けた公知例は存在しなかったのであるから、容易推考性も存在しない。
5争点5(先使用)について【原告の主張】原告は、昭和63年5月12、13日ころ、別紙原告ロ号方法目録記載の方法の「円形の丸穴」を「先端に丸味を備えた切り欠き」に置き換えた方法(以下「イ号方法」という。)を完成し、同年6月初めころイ号方法で製造するドアの受注活動を開始し、本件発明の出願日よりも前に、第三者と、イ号方法で製造したドアを販売する契約を締結していた。
したがって、原告は、イ号方法を使用するにつき、先使用に基づく通常実施権を有している。
そして、仮にロ号方法が本件発明と均等であるというのであれば、それは、
当業者がイ号方法からロ号方法を読み取ることができるということに他ならないから、ロ号方法は、上記先使用に基づく通常実施権の範囲内に含まれることになる。
【被告の主張】争う。
6争点6(不正競争、業務妨害)について【原告の主張】被告は、イ号方法で製造した物を対象とした仮処分決定(当庁平成9年(ヨ)第2741号)に基づく執行の際、その決定文の内容とは異なるロ号方法で製造した物についても執行するよう執行官に指示し、当該物についても執行させた。
そして、原告が、ロ号方法を使用して本件特許権を侵害している旨、各方面に陳述している。
これらの被告の行為は、ロ号方法による製造行為や、製造した物についての販売行為に対する妨害行為であるとともに、不正競争防止法2条1項13号に該当する。
【被告の主張】否認又は争う。
7争点7(損害額)について【被告の主張】原告は、会社全体で、平成10年4月から同年12月までに約金8億2247万円の売上利益を得、同11年1月から同年10月まで約9億1386万円の売上利益を得ているところ、ロ号方法を使用した採光窓付き鋼製ドアの販売による利益は、その1割相当額である。したがって、原告は、ロ号方法を使用した採光窓付き鋼製ドアを販売したことにより、金1億7363万円の利益を得た。
したがって、同金額が原告の損害額と推定される。
【原告の主張】争う。
第5争点に関する当裁判所の判断1争点3(構成要件C該当性)について(1)別紙原告ロ号方法目録と別紙被告ロ号方法目録とを対照すると、ロ号方法が、c工程として、開口コーナー部に、コーナー折曲線1のコーナーから約7.6o幅のフランジ代(ロ)を設け、コーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から@周縁までの最短距離(ホ)が約3.0oでA中心までの距離(ハ)が約4.15oである、直径約2.3oの円形の丸穴4(周縁と開口のコーナー角6との間(ニ)は約2.3o(ただし、右間隔は2o未満とはしない。))を形成していることは、当事者間に争いがない。
被告は、ロ号方法で形成される上記円形の丸穴4が、本件発明の構成要件Cの「切り欠き」に該当すると主張するので、以下検討する。
(2)構成要件Cの「切り欠き」の意義について、本件明細書においてこれを一般的に定義した記載はなく、実施例として、背面パネル2に設けられた隅フランジ代11の一部の縁を切り取り形成した形状のものが記載されている(甲2の7欄24ないし44行並びに第9図及び第10図参照)にとどまる。
このような、本件明細書の記載からすると、少なくとも、本件発明の「切り欠き」に材料の一部の縁を切り取った形状のものが含まれることは明らかであるが、その他にどのようなものが本件発明の「切り欠き」に含まれるか(特に「円形の丸穴4」が含まれるか否か)は、本件明細書の記載からは直ちに明らかとはならない。
また、当業者が「切り欠き」の用語をどのような意味で使用するのが一般的であるかを検討してみても、材料の縁を切り取った形状のものだけを「切り欠き」と呼び、したがって「円形の丸穴4」は含まれないかのように解される文献(甲6の1、10、17、19、24、25)がある一方で、特に機械や構造物の材料の強度に関連する分野等では、材料の縁でない部分を切り取った形状のものも「切り欠き」と呼び、したがって「円形の丸穴4」を含むかのように解し得る文献もあり(乙25ないし32)、当業者が通常使用する意味(特許法施行規則24条、様式29、備考7、8及び14イ参照)から判断することも困難である。
(3)そこで、本件発明における「切り欠き」の技術的意義の観点から検討する。
ア本件明細書には、次の記載があることが認められる(甲2)。
(ア)「従来の技術」欄(a)採光窓部のコーナー半径が20o程度以下になると、絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪や板割れが発生し、ドアの美感を損なうことが知られている(2欄8〜11行)。
(b)このため、従来の採光窓付き鋼製ドアは、例えば、次の2通りの方法により製造されていた。
第1の方法は、・・(中略)・・一方の表面板eの開口部cの各折り曲げ線fの内側に、開口部cの各コーナーから両端部がそれぞれ設定された寸法L、Mだけ切り欠かれた折り曲げ代gを形成し、この折り曲げ代gをL字状に折り曲げ、その各折り曲げ先端部g1を枠体aに貼着されている他方の表面板dの内面に当接して溶接により一体に形成し、採光窓付き鋼製ドアが製造されていた(例えば、実開昭57-77478号公報参照)。
また、第2の方法は、・・(中略)・・表裏パネルAをそれぞれ採光窓開口部Bを形成する各辺に平行な線によって4つのパネル片A1〜A4に分割し、分割された各パネル片A1〜A4の上下、または左右を同じ方向に折り曲げ、
折り曲げられた2つのパネル片A1、A2を開口部Bの幅寸法だけ隔てて図示しない枠体に接着その他の手段により固着し、残りのパネル片A3、A4を固着されたパネル片A1、A2の上下両端に挿入して枠体とパネル片A1、A2の両方に接着その他の手段で固着することにより、採光窓付き鋼製ドアの構造が行われていた。
(2欄11行〜3欄10行)。
(イ)「発明が解決しようとする課題」欄(a)従来の技術で述べたもののうち前者の方法においては、表面板eの開口部cの各折り曲げ代gを内側に折り曲げても、開口部cの各コーナーの表面板eに歪や板割れは発生しないが、開口部cに採光用窓ガラスを装着する場合、各折り曲げ代gの両端を切り欠いた部分が表面板eの外観から見えて採光窓付きドアの美観を著しく損なうだけでなく、乙種防火戸に要求される要件をも満たすことができなくなるから、開口部cの周辺、少なくとも切り欠き部分が外側から見える開口部cの各コーナー部を、表面板eから外側に突出する飾り縁兼用のガラス押え部材を用いて外観から見えないようにしなければならない不都合があった(3欄12〜24行)。
(b)また、後者の方法においては、開口部Bの周辺は分割された各パネル片A1〜A4の折り曲げによって形成されるため、開口部Bの各コーナーの表裏パネルAに応力の集中する歪や板割れは発生しなくなるが、・・(中略)・・1枚ものの表裏パネルAを使って同じドアを作る場合に比べて、パネルの切断工数が増加するだけでなく、組み立て時においては、分割されたパネル片A1〜A4の位置決め、およびそれらの作業工数も加わるため、ドアの製造に要する費用が割高になる不都合があった。しかも、多くの工数をかけて出来上った各パネル片A1〜A4の接合面には、外部から見える接合線a〜dが発生するため、ドアの美感も損なわれる不都合があった(3欄25〜42行)。
(c)この発明は、従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、開口部コーナーに設けられる切り欠きや採光窓開口部に沿って区分される分割パネルの接合線が外側から見えないようにして美感を良くするとともに、乙種防火戸の要件を備え易いドアを作業工数の少ない状態で効率良く、かつ割安に作ることができる採光窓付き鋼製ドアの製造方法を提供しようとするものである(3欄43行〜4欄7行)。
(ウ)「作用」欄上記製造方法によって採光窓付き鋼製ドアを作ると、採光窓部の各絞り線に沿ったフランジ代をパネル板厚の8倍以上でドアの構成に必要な寸法に設定した場合にも、採光窓部の各コーナーの隅フランジ代を絞り加工によって歪が生じないパネル板厚のほぼ8倍以下にするとともに、切れ目又は切り欠きの先端部に形成した丸みによって隅フランジ代に板割れを生じさせないから、表裏パネルの美感を損なわせなくなる(4欄33〜41行)。
(エ)「発明の効果」欄(a)採光窓部の絞り線内側のフランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以上となる場合に、そのフランジ代を備えたパネル開口の各コーナー部に隅フランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以下となる先端に丸みを備えた切れ目又は切り欠きを設けているので、絞り加工によって形成される採光窓部の各コーナー部に応力の集中による歪や板割れの発生するのを防止して、美感の優れた採光窓付きドアを極めて容易に作ることができる(8欄11〜20行)。
(b)さらに開口の各コーナー部に形成した隅フランジ代が、絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となるように形成していることにより、絞り加工が容易であるとともに絞り加工によっても歪みが生じないようにすることができ、部材の隙間や板歪みの発生し易いコーナー部に合わせ目がなく歪みのない鋼製ドアを工程数少なく提供できた(8欄38行〜9欄1行)。
(c)しかも、隅フランジ代を形成していることにより、絞り加工したとき、折り曲げ代の両端に切欠部分が露出せず、防火戸として使用しうる鋼製ドアを提供できた(9欄1〜5行)。
イ以上のような、本件明細書の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、@コーナー半径20o以下Aフランジ代が板厚の8倍以上という、絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪みや板割れが生じやすい条件で、採光窓付き鋼製ドアを製造する場合に、従来技術同様歪みや板割れを防止しつつ、従来技術では解決できていなかった、開口部コーナーに設けられる切り欠きや採光窓開口部に沿って区分される分割パネルの接合線が外側から見えないようにして美感をよくするとともに、乙種防火戸の要件を備え易いドアを作業工数の少ない状態で効率良く、かつ割安に作ることができる採光窓付き鋼製ドアの製造方法を提供することであると認められる。
そのために本件発明は、従来技術とは異なり、一体形成されたパネルであって、しかも隅フランジ代を具備するパネルを絞り加工することにより、完成品の美感の良さを維持しつつも、@隅フランジ代を、切れ目又は切り欠きによって、
絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となるように形成することにより、絞り加工の際、絞り線のコーナー部が開口部方向へ引っ張られ歪みが生じること、及び開口付近の隅フランジ代が左右に引っ張られ歪みが生じることを少なくし、A当該切れ目又は切り欠きの先端に丸みを備えることにより、絞り加工の際、隅フランジ代の開口側角に応力が集中し隅フランジ代が剪断することを防止しようとしたものと考えられる。
そして、本件発明の意義についてのこのような理解からすると、構成要件Cにおいて「切り欠き」を形成することの技術的意義は、それによって、隅フランジ代の長さ(前記明細書の記載からすると、絞り線のコーナー部分曲線中央から、切り欠きの先端に備わった丸味部までの最短距離部分を指すものであると認められる。)をパネル板厚のほぼ8倍以下とすることにより、構成要件Dにおいてパネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げた際に、絞り加工によるコーナー部の引張りが生じる範囲を上記範囲に限局することによって、パネルの開口部コーナーに歪みが生じることを防止する点にあると解される。そして、本件発明が物を生産する方法の発明であり、物を生産する方法の発明は、最終的な生産物の完成に向かう経時的な複数の工程(手順)を示す点に発明としての意味があることからすれば、本件発明の構成要件Cにおいて「切り欠き」を設け、それにより隅フランジ代の長さをパネル板厚のほぼ8倍以下とする工程は、構成要件Dで絞り加工を行う前の段階で終えている必要があると解される。
これらの検討からすると、本件発明における「切り欠き」は、絞り加工によってコーナー部の引張りが生じる範囲を、絞り加工を行う前に、上記の意味での隅フランジ代に限局するものであるから、パネルの隅フランジ代の一部の縁を切り取り、開口部と連通する欠損部を意味するものと解するのが相当である。
オしかるところ、ロ号方法においては、工程d1において折り曲げが行われる前の段階(工程c)では、0.6oの板厚の鋼板に対し、@コーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から円形の丸穴4の周縁までの部分(ホ)約3.0oと、
A円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間の部分(ニ)約2.3o(ただし、右間隔は2o未満とはしない。)が存在しており、本件発明の「隅フランジ代」に相当するのは@のみであり、これは開口部と連通していないから、円形の丸穴4は、本件発明の「切り欠き」を充足しないものというべきである。
カこの点について被告は、ロ号方法においては、パネルをコーナー折曲線1及び短手折曲線5の部分で内側にほぼ直角になるまで折り曲げる過程で、円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6の間(ニ)が破断することが当然に予定されている(別紙原告ロ号方法目録及び被告ロ号方法目録の各d3工程参照)と主張する。
この主張は、ロ号方法の工程cで円形の丸穴4が形成された段階で、隅フランジ代をパネル板厚のほぼ8倍以下としたことになるという趣旨であると解される。
しかし、本件発明における「切り欠き」は、前記のとおり、パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げるに先立ち設けられるものであるから、ロ号方法においてパネルの折り曲げ過程で、円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6の間(ニ)が破断することを理由に、円形の丸穴4又は円形の丸穴4と破断箇所を合わせたものを「切り欠き」と見ることはできない。被告の上記主張は、本件発明が物を生産する方法の発明であることを看過するものといわざるを得ない。
(4)よって、ロ号方法は、構成要件Cを充足しない。
2争点4(均等)について(1)上記のとおり、ロ号方法と本件発明とを比較すると、本件発明の構成要件Cでは、絞り加工前に隅フランジ代と開口部とが連通する構成であるのに対し、ロ号方法では、折り曲げ時に円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間の部分が破断して連通する構成である点で相違する。そして被告は、右相違点について均等が成立すると主張するので検討する。
(2)いわゆる均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが(最高裁平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)、右にいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の作用効果を生じさせ、課題解決手段を基礎付ける、技術的思想の中核をなす特徴的部分をいうものと解するのが相当である。
この観点から本件発明を見ると、前記のとおり、本件発明は、従来技術とは異なり、一体形成されたパネルであって、しかも隅フランジ代を具備するパネルを絞り加工することにより、完成品の美感の良さを維持しつつも、@隅フランジ代を、切れ目又は切り欠きによって、絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となるように形成することにより、絞り加工の際、絞り線のコーナー部が開口部方向へ引っ張られ歪みが生じること、及び開口付近の隅フランジ代が左右に引っ張られ歪みが生じることを少なくし、A当該切れ目又は切り欠きの先端に丸みを備えることにより、絞り加工の際、隅フランジ代の開口側角に応力が集中し隅フランジ代が剪断することを防止しようとした点に特徴を有するものであると認められる。
ところで、絞り加工の際にパネルの開口部コーナーに歪みが生じないのは、前記のとおり、隅フランジ代をパネル板厚のほぼ8倍以下となるようにしたことによる効果であるといえる。しかし、本件発明が対象とする採光窓付き鋼製ドアを製造する際に、隅フランジ代を小さくすると歪みがなくなることは自明であるし、隅フランジ代をどの程度残すかは、歪みの発生と美感等との相関関係によって決せられる問題にすぎないと考えられる上に、本件発明の出願前に公開された甲17(実開昭63-62219号公開実用新案公報)によれば、プレス加工をする場合に、フランジの四隅に歪みが発生するのを回避するために、隅フランジ代を残すように切り欠きを形成する例も開示されていることが認められ、本件明細書を精査しても、切り欠きによって隅フランジ代を板厚のほぼ8倍以下とすることに、何らかの臨界的意義があるとは認められない。そうすると、絞り加工の際にパネルの開口部コーナーに歪みが生じないという効果を生じさせるための本件発明の本質的部分は、単に隅フランジ代を板厚のほぼ8倍以下とした点にあるのではなく、そのようにするための具体的構成にあると解するのが相当であり、本件発明が物を生産する方法の発明である点をも考慮すると、絞り加工を行う前の段階で、材料パネルの隅フランジ代の一部の縁を切り取り、開口部と連通する欠損部(すなわち前記の意味での「切れ目または切り欠き」)を設けることとした点にあると解するのが相当である。
被告は、「切れ目または切り欠き」は欠損部を設けるための技術的常識にすぎず、隅フランジ代の先端を丸味を備えて形成することが本質的部分であると主張するが、上記説示に照らして採用できない。
したがって、ロ号方法は、本件発明の本質的部分の構成を具備しない。
なお、ロ号方法においても、円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6の間(ニ)が破断した後においては、円形の丸穴4と破断箇所が、一体となって、本件発明と同様の効果を果たしていると見ることも可能である。しかし、それは、ロ号方法が本件発明の本質的部分とは異なる手段により、本件発明と同様に歪みや板割れを防止していることを意味するにすぎない。
(3)以上より、ロ号方法は、本件発明の本質的部分を具備しないものであるから、ロ号方法が本件発明と均等であると解することはできない。
3争点6(業務妨害、不正競争)について原告の本訴請求は、いずれも被告に原告主張に係る行為を行うおそれが認められることが前提となる。
しかし、本件本訴請求に係る保全事件である当庁平成10年(ヨ)第1323号製造販売妨害差止仮処分事件において、被告と原告との間で、被告は、本件特許権に基きイ号方法の使用差止めを求めた仮処分事件(当庁平成9年(ヨ)第2741号)の仮処分決定に基づいて、ロ号方法で製造した物件について執行することはしない旨の和解が成立したことは当裁判所に顕著な事実である。したがって、被告が、将来、原告主張に係る業務妨害行為をするおそれがあるとは認められない。
また、被告が、第三者に対し、原告がロ号方法を使用して本件特許権を侵害している旨陳述していると認めるに足る証拠もない。
4結論以上より、その余の争点について検討するまでもなく、原告の本訴請求、被告の反訴請求は、いずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 安永武央