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関連審決 無効2000-35408
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ460審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10380審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10735審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  有用性 /  創作性(創作) /  新規性 /  公然知られ(29条1項1号) /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  同一の発明 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の理由 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 434号 審決取消請求事件
原告 森正株式会社
原告 株式会社丸玄工芸
原告 株式会社はせがわ
原告 浜屋株式会社4名訴訟代理人弁護士 堀弘二
同 浦野正幸
同 弁理士 森治
被告 株式会社八木研
訴訟代理人弁護士 福原哲晃
同 中島清治
同 弁理士 朝日奈 宗太
同 佐木啓二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2000−35408号事件について平成13年8月28日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「扉およびそれを用いた仏壇」とする特許第3040345号発明(平成8年5月13日特許出願、平成12年3月3日設定登録)の特許権者である。
原告らは、共同して、平成12年7月25日、上記特許の請求項1及び3に係る発明についての特許を無効とする旨の審判の請求をし、無効2000-35408号事件として特許庁に係属したところ、被告は、同年10月18日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求(以下、
「本件訂正請求」といい、その訂正を「本件訂正」という。)をした。なお、本件訂正は、訂正前の請求項全3項中、請求項1及び2を削除するとともに、請求項3につき特許請求の範囲減縮して訂正後の請求項1としたものである。
特許庁は、同無効審判事件につき審理した上、平成13年8月28日に「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年9月7日原告らに送達された。
2 本件訂正後の明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨 相手部材の左右両側にそれぞれ戸板が蝶番を介して揺動自在に取り付けられたフラットタイプの両開きの扉であり、かつ左右それぞれの戸板が内側部分と外側部分とに分割され、該内側部分および外側部分が折畳み用蝶番によって互いに回転できるように連結された扉を備えた仏壇であって、前記左右の戸板が、前記内側部分における内側端縁から前記折畳み用蝶番までの距離が前記外側部分における外側端縁から前記折畳み用蝶番までの距離よりも大きくなるようにされてなることを特徴とする仏壇。
3 審判における請求人(原告)らの主張の要旨及び審決の理由 請求人(原告)らは、(1) 無効審判請求書において、本件訂正前の前記無効審判請求に係る発明についての特許の無効理由として、@ 特開平3-247316号公報(審判甲第1号証・本訴甲第4号証の1、以下「引用例1」といい、その記載の発明を「引用例発明1」という。)又は実願昭61-107107号(実開昭63-13076号)のマイクロフィルム(審判甲第2号証・本訴甲第4号証の2、以下「引用例2」といい、その記載の発明を「引用例発明2」という。)に記載された発明であるか、そうでなくとも、引用例発明1又は同2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項3号又は同条2項の規定に違反して特許されたものである、A 本件出願前公然知られた家具調仏壇17号「歩」(審判甲第10〜第14号証・本訴甲第4号証の10〜14参照)と同一の構成を有し、同一の効果を奏するものであるから、同条1項1号の規定に違反して特許されたものであるとの主張をしたほか、(2) 本件訂正請求を踏まえて提出した平成13年3月2日付け及び同年7月6日付け各審判事件弁駁書(以下「本件弁駁書」という。)において、本件発明についての特許の無効理由として、
B 訂正明細書の特許請求の範囲の記載は同法36条6項2号の要件を満たしていない、C 本件発明は家具調仏壇17号「歩」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項により特許を受けることができない等の主張を追加した。
審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件訂正を適法なものとして認め、上記2のとおり本件発明の要旨を認定した上、本件発明につき、請求人(原告)ら主張の上記無効理由@、Aは、いずれもそのようにいうことはできないとし、本件弁駁書に係る上記無効理由B、Cの主張は、審判請求の理由の要旨を変更するものであり、かつ、職権による審理の対象とすべき必要性も認められないとして、これを採用しなかったものである。
原告ら主張の審決取消事由
審決の理由中、本件訂正の適否に関する判断(審決謄本8頁36行目〜9頁17行目)、本件発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定(同22頁37行目〜23頁18行目)、本件発明と引用例発明2との一致点及び相違点の認定(同24頁23行目〜25頁3行目)、本件発明と家具調仏壇17号「歩」との一致点及び相違点の認定(同25頁37行目〜26頁10行目)は認める。
審決は、特許法131条2項の解釈適用を誤って、本件弁駁書に係る無効理由を取り上げなかった違法があり(取消事由1)、また、引用例発明1、2及び家具調仏壇17号「歩」のそれぞれに基づく本件発明の新規性及び進歩性の判断を誤った違法がある(取消事由2〜4)から、取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許法131条2項の解釈適用の誤り) (1) 審決は、原告らの審判における本件弁駁書(甲第12、第13号証)に係る無効理由の主張について、「新たな理由の提示に当たり、審判請求の理由変更するものであるので、平成10年法律第51号により改正された特許法第131条第2項の規定により、これを採用することができない」(審決謄本5頁2行目〜5行目)とし、また、本件弁駁書に添付して原告らが提出した審判甲第15〜第22号証(本訴甲第4号証の15〜22)について、「これらは、甲第18号証を除き、本件審判請求時に提示されている主張または証拠方法とは直接関連のない独立したものであるから、結局、新たな証拠方法の提示に当たり、審判請求の理由変更するものに該当し、特許法第131条第2項の規定により、これを本件無効審判の証拠方法として採用することはできない」(同6頁4行目〜8行目)と判断し、
これを取り上げなかったが、特許法131条2項の解釈適用を誤ったものである。
(2) 平成10年法律第51号により改正された特許法131条2項は、「前項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。ただし、第123条第1項の審判以外の審判を請求する場合における前項第3号に掲げる請求の理由については、この限りでない。」と規定し、無効審判については請求の理由の要旨の変更が許されない旨定めているが、原告らの上記主張は、
被告が本件訂正請求を行ったために必要となった主張であり、審判請求時に原告らには認識し得なかった発明に対するものである。すなわち、訂正請求においては、
構成要件を追加することによって特許請求の範囲減縮することが認められており、原告らには、訂正請求書が提出されるまでは、被告がどのような減縮を行うかを予測することはできない。したがって、審決の上記判断は、審判請求人に対し不可能を強いるものであり、著しく正義に反することが明らかである。
また、特許法の上記改正は、無効審判請求の準備期間が十分与えられていること及び無制限な理由の補充が一方当事者にとって不当な審理遅延の一因となることから、無効審判に限って、請求の理由の要旨の変更を認めないとしたものであるが、本件弁駁書に係る原告らの主張及び証拠は、本件訂正請求があるまでは準備できなかったものであるし、本件訂正請求に対する反論の限度で行われたものであるから、無制限な理由の補充とはいえず、むしろ、訂正請求後の審判請求人の主張を一律に制限することは、別途の無効審判を余儀なくさせ、かえって審理の遅延を招くことが明らかである。
(3) また、本件弁駁書に添付して提出した証拠である甲第4号証の15〜22は、周知事実を裏付けるための証拠又は無効理由を証明する証拠の信用性を高めるための間接証拠に該当するものであり、要旨の変更に当たらないから、この点においても、審決は特許法131条2項の解釈適用を誤ったというべきである。仮に、
これらの証拠の提出に同項が適用されるとしても、衡平の原則に照らし、職権による審理の対象とすべきであるから、職権による審理の対象ともしなかった審決は、
いずれにせよ違法であるといわざるを得ない。
2 取消事由2(引用例発明1に基づく新規性及び進歩性の判断の誤り) (1) 審決は、本件発明と引用例発明1との相違点として、「本件発明の両開きの扉が・・・『フラットタイプ』であるのに対し、甲第1号証記載の発明(注、引用例発明1)のそれは、扉を閉じた時、内側部分と外側部分が平坦にならないいわゆる厨子型仏壇用の戸板である点で相違する」(審決謄本23頁15行目〜18行目)と認定した上、後述する根拠に基づいて、本件発明は引用例発明1との関係で新規性及び進歩性は否定されない旨判断するが、以下のとおり誤りである。
(2) 審決が上記の判断の根拠とする点の一つは、「甲第1号証(注、引用例1)記載の厨子型仏壇の戸板の場合・・・A証人の証言等からもわかるように、その幅寸法が厨子型仏壇本体の形状に合わせて決められるものであって、戸板独自の事情によりその寸法が決められるものとは云えない」(審決謄本23頁27行目〜30行目)というものであるが、審判におけるAの証言(甲第9号証)中には審決が指摘するような趣旨の証言はない上、そもそも、引用例発明1のような厨子型仏壇の戸板の幅寸法も、仏壇本体の形状に合わせて決められるものではなく、戸板独自の事情により決められるものであるから、審決の上記判断は誤りである。このことは、扉の折れ曲がり部に蝶番を設けることなく、戸板の任意の位置で戸板を分割し蝶番を設けた仏壇、すなわち、戸板の幅寸法が仏壇本体の形状とは無関係に決められている厨子型仏壇が「お仏壇総合カタログ’92」(甲第8号証)に多数掲載されていることから明らかである。
(3) 審決の上記判断の根拠とする次の点は、戸板の内側部分と外側部分とが折り畳まれた状態のままでこれを閉じようとした場合の作用効果に関し、本件発明は「『内側部分の先端部が相手部材に対して90度未満の小さい角度で確実に当接するとともに内側部分および外側部分が開きながら、円滑に相手部材の前面を閉じることができるため、相手部材に衝突して戸板と該相手部材とのあいだの連結部分が破損するなどの不具合を解消することができる』という実用上有用な作用効果を奏する」(審決謄本23頁38行目〜24頁4行目)のに対し、引用例発明1のような厨子型仏壇の場合、当然には上記作用効果を達成できるとは限らない(同24頁5行目〜12行目)というものであるが、本件発明の作用効果とされている上記の点は、信仰の対象として極めて丁寧に取り扱われるのが通例である仏壇においては何らその有用性が認められないものであり、技術的価値を見いだせない。現実にも、戸板の内側部分の先端が仏壇本体に衝突することによって蝶番やその周辺部が破損したとして修理を依頼される仏壇は全くなく(甲第4号証の8、9参照)、本件発明の課題とされる上記の内容は、本件特許出願のために被告が創作した課題にすぎない。
また、厨子型仏壇であっても、相手部材の形状によっては、上記作用効果を奏する一方、「フラットタイプ」の扉を使用する仏壇の場合でも、意匠性の観点等から、相手部材の扉開口部に段差や窪み等が設けられる事例が存在することを考えると、相手部材の扉開口部の形状によっては、本件発明の作用効果を奏することができない場合もある。
(4) 以上のとおり、フラットタイプの扉のものも、厨子型仏壇も、技術的に明確に区分することはできないものであって、この点に係る引用例発明1との相違を根拠に本件発明の新規性及び進歩性を認めた審決の判断は誤りというべきである。
3 取消事由3(引用例発明2に基づく新規性及び進歩性の判断の誤り) (1) 審決は、本件発明と引用例発明2との相違点として、「本件発明は、その戸板が内側部分と外側部分とに分割され、前記内側部分における内側端縁から折畳蝶番までの距離が前記外側部分における外側端縁から折畳蝶番までの距離より大きくされてなるのに対し、甲第2号証記載の発明(注、引用例発明2)は、その戸板が折曲扉5と2枚の戸板からなる外扉7の合計3枚の戸板に分割され、前記外扉7のうちの1枚の戸板における内側端縁から折畳み用蝶番までの距離が折曲扉5における外側端縁から折畳み用蝶番までの距離より大きくなっている点で相違する」(審決謄本24頁36行目〜25頁3行目)と認定した上、当該相違点に関し、後述する根拠を挙げて、「両仏壇の戸板の構成の一部にたまたま共通するものがあるからといって、前提となる戸板の型式にそもそもの相違があり、戸板の数を変更すること自体に・・・阻害要因のあるもの同士を、同一または当業者が容易に発明し得る範囲のものとまで認定することはできない」(同25頁26行目〜29行目)とし、本件発明は引用例発明2との関係で新規性及び進歩性を否定されない旨判断するが、以下のとおり誤りである。
(2) 審決は、上記判断の根拠として、「甲第2号証記載の発明(注、引用例発明2)は、もともと合計3枚に分割された戸板を発明の前提とするものであって、
その戸板の数を、同号証図面第7図記載の従来の仏壇におけるように、合計2枚のものにわざわざ変更して戻すようなことは、そもそも意図されていないものである。・・・甲第2号証記載の発明には・・・戸板の内側部分における内側端縁から前記折畳み用蝶番までの距離を、戸板の外側部分における外側端縁から前記折畳み用蝶番までの距離よりも大きくするという技術的思想は存在しない」(審決謄本25頁13行目〜25行目)点を挙げる。しかし、引用例2(甲第4号証の2)には、審決も認めるように、「仏壇本体の左右両側にそれぞれ扉板が蝶番11を介して揺動自在に取り付けられた両開きの扉であり、同扉は仏壇の開口部を閉じたとき、扉板が全体として平坦となり、かつ左右それぞれの扉板が折曲扉5と2枚の扉板からなる外扉7に分割され、該折曲扉5と2枚の扉板からなる外扉7が蝶番13、14によって互いに回転できるように連結された扉を備えた仏壇であって、前記左右の扉板が、前記折曲扉5の幅が前記外扉7のうちの1枚の扉板の幅よりも狭くなるようにされてなる仏壇」(審決謄本12頁24行目〜30行目)との発明が記載されているから、そこには、フラットタイプの扉を使用する仏壇について、戸板の幅を異ならせる構成が示されていることが明らかである。
そうすると、引用例発明2で採用されている上記「戸板の幅を異ならせる構成」を、フラットタイプの2分割した戸板からなる扉を使用する仏壇の扉に適用するのを阻害する要因は何も存在しないというべきであり、審決の上記認定判断が誤りであることは明らかである。
4 取消事由4(家具調仏壇17号「歩」に基づく新規性及び進歩性の判断の誤り) (1) 審決は、本件発明と家具調仏壇17号「歩」との相違点として、本件発明と引用例発明1の相違点(前記2(1)参照)と同じ内容の認定をした上、当該相違点のあるものを実質的に同一のものと認定することはできないと判断するが、取消事由2に関して述べたところと同様の理由により、誤りである。なお、家具調仏壇17号「歩」に基づく進歩性欠如の主張は、無効審判請求書において主張したものではないが、前記1で述べたとおり、職権による審理の対象とすべきものである。
(2) また、審決は、上記判断の根拠の一つとして、「厨子型仏壇の場合には、
戸板の内側部分における内側端縁から折畳み用蝶番までの距離を外側部分における外側端縁から折畳み用蝶番までの距離よりも大きく形成した事例を、本件出願前に多数確認することができるにもかかわらず、『フラットタイプ』の戸板を使用する仏壇の場合・・・そのような事例の存在を本件出願前に確認することはできないのであるから、『フラットタイプ』の戸板を使用する仏壇の場合、戸板の内側部分における内側端縁から折畳み用蝶番までの距離と外側部分における外側端縁から折畳み用蝶番までの距離とをとくに相違させることには、それなりの動機を必要とするはずのものである」(審決謄本26頁24行目〜33行目)点を挙げる。しかし、
厨子型仏壇において、左右の戸板が、内側部分における内側端縁から折畳み用蝶番までの距離が外側部分における外側端縁から折畳み用蝶番までの距離よりも大きくなるようにされているのは、崇拝者に対する荘美的効果、すなわち意匠上の要請によるものであり、そのような要請は厨子型仏壇に限られないから、厨子型仏壇で採用されている戸板の分割態様に係る上記構成を、フラットタイプの扉を使用する仏壇の扉に適用する動機が存在したことは明らかである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(特許法131条2項の解釈適用の誤り)について 特許法131条2項は、無効審判における請求書の請求の理由の要旨を変更する補正は認められないとしているだけであって、この規定の適用についてはその他に何らの制約も規定していない。すなわち、無効審判かそれ以外の審判かということだけが補正の制約の基準とされているのであって、平成5年改正により、無効審判の請求に対して訂正審判と同じ内容の訂正請求が認められ、審判官において無効審判と訂正請求の審理を併せて行うことができるようになっていたにもかかわらず、平成10年改正による特許法131条2項が、無効審判における訂正後の手続については何ら触れていない以上、たとえ訂正請求後の特許請求の範囲に係る発明に対する主張や証拠方法であろうとも、請求書の請求の理由の要旨を変更するものとして許されない。
原告らは、そのような扱いは審判請求人に対し不可能を強いるものであると主張するが、訂正後の特許請求の範囲は訂正前の特許請求の範囲に含まれている事項であるから、無効審判請求人は、訂正請求を予想した上で特許請求の範囲について十分に検討準備をすべきなのであり、不可能を強いるものではない。
また、原告らは、甲第4号証の15〜22は、周知事実を裏付けるための証拠又は無効事由たる事実を証明する証拠の信用性を高めるための間接証拠に該当するので、要旨の変更には当たらないとも主張するが、実質的に無効理由である事実を証明する証拠の変更となる場合に、要旨を変更する補正に当たることは当然である。
2 取消事由2(引用例発明1に基づく新規性及び進歩性の判断の誤り)について (1) 原告らは、「お仏壇総合カタログ’92」(甲第8号証)に、戸板の幅寸法が仏壇本体の形状とは無関係に決められている厨子型仏壇が多数記載されていると主張するが、審決は引用例発明1の厨子型仏壇について、「幅寸法が厨子型仏壇本体の形状に合わせて決められるものであって、戸板独自の事情によりその寸法が決められるものとは云えない」(審決謄本23頁28行目〜30行目)と判断したのであって、厨子型仏壇一般の問題を論じているものではないから、失当である。
(2) 原告らは、戸板の内側部分と外側部分とが折り畳まれた状態のままでこれを閉じようとした場合の作用効果に係る本件発明の課題は本件特許出願のために被告が創作した課題にすぎないと主張するが、被告代表者八木龍一の陳述書(乙第1号証)から明らかなように、本件発明は、漆や金箔を用いた従来の仏壇とは異なる都市型の家具調仏壇を被告が開発、販売していく過程において、現実に起こった破損例を解決するためにされたものであり、原告らの主張するようなものではない。
また、原告らは、厨子型仏壇の場合も、相手部材の形状によっては、上記作用効果を奏すると主張するが、仮に、厨子型仏壇において本件発明に類似した作用効果を奏し得るものが存在したとしても、戸板の幅寸法の技術的意義は、フラットタイプの扉の仏壇(本件発明)と厨子型仏壇(引用例発明1)とでは全く異なる。すなわち、引用例発明1では、蝶番を用いたとしても、扉の内側部分と外側部分とが互いに重ねられた状態のままで閉じようとするとき、単に内側部分の幅が外側部分の幅よりも大きいというだけでは、内側部分先端部は仏壇本体前面部に対して90度未満の角度で当接することはない(審判事件答弁書〔乙第2号証〕添付の参考図3〜4参照)のであるから、本件発明の作用効果が当然に奏されるものではない。
3 取消事由3(引用例発明2に基づく新規性及び進歩性の判断の誤り)について 引用例発明2は、片側2枚の戸板からなる扉の収納性を改善するために、前記2枚の戸板よりも幅狭の戸板を仏壇本体側に付加したものであり、審決も認定しているように、この3枚の戸板を2枚に戻すことには、阻害要因こそあれ、動機付けとなるものは一切存在しない。
原告らは、単純に引用例2には「戸板の幅を異ならせる構成」が示されていると主張しているが、発明を創作する際に重要なことは、何のために戸板の幅を異ならせているのかということである。この点について、引用例発明2では、扉の収納性を高めるために戸板の幅を異ならせているのであり、内側戸板の先端を仏壇本体にスライドさせつつ扉を閉めるために戸板の幅を異ならせた本件発明とは目的が全く異なっている。原告らの主張は、技術的思想及び発明の創作における動機付けについての理解を全く欠き、失当というべきである。
4 取消事由4(家具調仏壇17号「歩」に基づく新規性及び進歩性の判断の誤り)について 取消事由2について述べたと同様、審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由3(引用例発明2に基づく新規性及び進歩性の判断の誤り)について (1) 本件発明と引用例発明2の各構成を対比した場合、「本件発明は、その戸板が内側部分と外側部分とに分割され、前記内側部分における内側端縁から折畳蝶番までの距離が前記外側部分における外側端縁から折畳蝶番までの距離より大きくされてなるのに対し、甲第2号証記載の発明(注、引用例発明2)は、その戸板が折曲扉5と2枚の戸板からなる外扉7の合計3枚の戸板に分割され、前記外扉7のうちの1枚の戸板における内側端縁から折畳み用蝶番までの距離が折曲扉5における外側端縁から折畳み用蝶番までの距離より大きくされている点で相違する」(審決謄本24頁36行目〜25頁3行目)ことは争いがない。
そして、このような相違点にもかかわらず両者が実質的に同一であるとまでは認めるに足りないので、以下、上記の相違点に係る本件発明の構成を当業者が容易に想到し得たかどうかについて検討する。
(2) 引用例2(甲第4号証の2)には、@[産業上の利用分野]欄に「この考案は仏壇の改良に関し、特に、壁内に嵌め込まれて扉を大きく開くことができる仏壇に関する」(明細書2頁8行目〜10行目)との記載が、A[従来の技術並びにその問題点]欄に「仏壇は両開きの外扉と内扉とを有する。この仏壇は、第7図に示すように、壁内に置くと、外扉1が開口部の隅角2に当たって充分に開くことができない」(明細書2頁12行目〜15行目)、「この考案の重要な目的は、狭い収納部に幅の広い仏壇を収納して扉を大きく開くことができる仏壇を提供するにある。又、この考案の重要な目的は、扉を大きく開くことができるにもかかわらず、
仏壇と収納部内面との隙間を狭くでき、扉を閉じた状態でスッキリと収まる仏壇を提供するにある」(同3頁7行目〜13行目)との記載が、B[作用、効果]欄に「第1図に示すように、細幅の折曲扉5を介して本体の側板6開口部に取り付けられた折曲自在な外扉7は、外扉7と折曲扉5との連結部分を折曲することによって、外扉7を収納部内面に沿って大きく開くことができる。この為、側板6と収納部内面との隙間が狭くとも、外扉と内扉とを大きく開くことができる。
従って、同一幅の収納部に、従来の仏壇よりも幅広の高級仏壇が収納でき、扉を閉じた状態で、仏壇と収納部内面との隙間を狭くして、スッキリと美しく収納できる」(同4頁7行目〜16行目)との記載が、C[好ましい実施例]欄に「第1図と第2図に示す仏壇は、全体が木製である仏壇本体と、この仏壇本体の開口部を2重に閉鎖する内扉8と外扉7と、外扉7を本体に取り付ける折曲扉5とを備えている。・・・外扉7は、内扉8と同様に、中間で折曲自在な両開扉で、4枚の扉板からなる。第1図と第2図とに示すように、2枚の扉板が蝶番13を介して折曲自在に連結され、これが蝶番14を介して折曲扉5に連結されている。外扉7は、これと折曲扉5とで仏壇の前面開口部を閉塞する。従って、外扉7は折曲扉の幅だけ幅が狭く形成されている。外扉7の中間を連結する蝶番13は、通常第1図に示すように、外扉7が外側に折曲出来るように扉板を連結する」(同5頁4行目〜6頁8行目)との記載が、それぞれ認められる。
なお、上記A記載の従来例とされている第7図に図示の仏壇は、内側部分と外側部分(本件発明に関する用語例とひょうそくを合わせるため、扉を閉じた状態の扉中央側を「内側」、同じく両端側を「外側」と表記する。)とに等しい幅で二分割された扉(外扉)を有するものであるが、扉の内側部分の幅が、仏壇と収納部内面との距離(隙間長)よりも長いため、扉の内側部分が壁面開口部の角隅に当たって、開口面に平行に扉を開くことができない状態が図示されているものと認められる(なお、仏壇の収納される壁面のやや奥に仏壇の開口面が位置することが前提となっていることは明らかである。)。そして、引用例2の上記記載、特に、第7図の上記図示及びその状態を「外扉1が・・・充分に開くことができない」と説明している記載によれば、引用例発明2の目的の一つとされている「扉を大きく開くことができる」とは、扉を開口面に平行に開くことを意図するものと認められる。
(3) 上記認定に基づいて判断するに、引用例発明2は、「狭い収納部に幅の広い仏壇を収納」するためには、「仏壇と収納部内面との隙間を狭く」しつつ、「扉を大きく開くことができる」ようにする、すなわち扉を開口面に平行に開くことができるようにするという矛盾する要請(仏壇は、その収納される壁面のやや奥に開口面が位置することが前提となっていることは上記のとおりである。)を充足する必要があることを踏まえ、これを解決するために、仏壇本体に折曲扉を取り付け、
その折曲扉に外扉を取り付けるとともに、折曲扉と外扉外側部分間では内側に折り曲げるように蝶番を設け、外扉の外側及び内側部分間では外側に折り曲げるように蝶番を設け、さらに折曲扉の幅を外扉の外側及び内側部分よりも狭くしたものと認めることができる。なお、ここでいう「折曲扉」と「外扉」は、ともに仏壇外側に位置する扉であるから、引用例2においては異なる名称が付されているものの、両者を併せたものが本件発明の「扉」に相当することは明らかであり、結局、引用例発明2の左右の扉は、それぞれ3枚の戸板を連結させた三分割構成とされており、
そのうち最も外側となる部分(折曲扉)が他の2枚のそれぞれよりも幅が狭くなっているということができる。
そうすると、引用例発明2に示される技術的思想は、仏壇収納部に仏壇を収納した際、仏壇と収納部内面との隙間が狭くても、扉を開口面に平行に開けることができるよう、扉を開ける場合に壁面開口部の角隅と干渉する可能性のある扉の外側部分を、相対的に短い幅としたというものにほかならない。そして、仏壇の扉の全体としての幅が、仏壇の開口部をカバーするに足りるものでなければならないことは明らかであり、扉全体の幅を狭くするわけにいかないのであるから、刊行物2記載の発明の従来例として示されている「等しい幅で二分割された扉」を改良して、扉の外側部分を相対的に短い幅とするためには、扉の分割枚数を増やすか、内側部分と外側部分との幅を変えるしかないことは、当業者の容易に想定し得るところというべきである。そして、引用例発明2は、扉を三分割構成とするとともに、
最も外側となる部分の幅を他の2枚よりも狭くしたものであることは前示のとおりであるから、結局、引用例発明2においては、「等しい幅で二分割された扉」を有する従来例を改良する方法として、扉の分割枚数を増やす方法と、扉の内側部分と外側部分との幅を変える方法とを併用したものと理解することができる。
(4) 引用例発明2が、二分割された扉の内側部分と外側部分との幅を変える方法だけにとどまらず、三分割する方法まで併用した理由は、明細書の記載上必ずしも明らかでないが、その課題と目的に照らせば、上記の両方法を必ず併用しなければならない必然性は見いだせない(扉の最も内側となる部分を開口面に平行に外側に折ることによる外観上の効果を意図したものだとすれば、設計的事項にすぎないというべきである。)。そうすると、「等しい幅で二分割された扉」を有する従来例を改良する方法として、二分割構成を維持しつつ、外側部分の幅を内側部分の幅より狭くするという方法を採用することに格別の困難性はないというべきであり、
そのような構成のものも、引用例発明2(従来例との対比において示されるその技術的思想)に基づいて当業者の容易に想到し得たものというべきである。
被告は、引用例発明2の3枚の戸板を2枚に戻すことには、阻害要因こそあれ、動機付けとなるものは一切存在しないと主張し、審決も、「甲第2号証記載の発明(注、引用例発明2)は、もともと合計3枚に分割された戸板を発明の前提とするものであって、その戸板の数を、同号証図面第7図記載の従来の仏壇におけるように、合計2枚のものにわざわざ変更して戻すようなことは、そもそも意図されていないものである」(審決謄本25頁13行目〜16行目)と判断する。確かに、引用例2(甲第4号証の2)の実用新案登録請求の範囲には、「外扉と内扉とは、中間の縦線に沿って折曲自在な両開扉で・・・折曲扉と外扉・・・とが蝶番を介して折曲自在に連結された」との記載があることからすれば、引用例発明2が二分割された両開扉を想定していないということはできるが、このこと自体が、引用例発明2について二分割された扉を採用する阻害要因ということはできない。むしろ、第7図に示される従来例をも踏まえて、引用例発明2の技術的思想を見た場合に、扉を二分割構成のまま維持し、内側部分と外側部分の幅のみを変えるように構成する動機付けに欠けるものでないことは前示のとおりである。
(5) 被告は、さらに、引用例発明2では、扉の収納性を高めるために戸板の幅を異ならせているのであり、内側戸板の先端を仏壇本体にスライドさせつつ扉を閉めるために戸板の幅を異ならせた本件発明とは目的が全く異なる旨主張する。確かに、訂正明細書(甲第3号証)には、「【0004】【発明が解決しようとする課題】・・・扉を開けた状態から、再び扉を閉じるとき、内側部分33aおよび外側部分33bが互いに折り重ねられてほぼ接触した状態のまま、蝶番35回りに回転すると、内側部分33aの先端部38が仏壇本体31の側板39、または仏壇本体31内部の台板40、または上部化粧板A(図6参照)にほぼ垂直に衝突する。・・・蝶番35およびその周辺部を破損することがある。【0005】本発明はかかる問題を解消するためになされたものであり、折畳み可能な両開きの扉において、閉めるときに戸板が折畳まれた状態のまま相手部材に衝突して蝶番、または戸板と相手部材とのあいだの連結部分が破損されることを防止することができる仏壇を提供することを目的とする」、「【0020】【発明の効果】本発明によれば、折畳み可能な戸板からなる両開きの扉を閉めるときに戸板が折り畳まれた状態のまま閉じても、内側部分の先端部が相手部材に対して90度未満の小さい角度で確実に当接するとともに内側部分および外側部分が開きながら、円滑に相手部材の前面を閉じることができるため、相手部材に衝突して戸板と該相手部材とのあいだの連結部分が破損するなどの不具合を解消することができる」との記載が認められ、これによれば、本件発明は、両開きの扉を折り畳まれた状態で閉じる際、内側部分の先端部が仏壇本体の側板等にほぼ垂直に衝突し、蝶番等の破損原因となることがあることから、扉の内側部分と外側部分の長さに差を持たせることにより、折り畳まれた状態で扉を閉めようとしたときでも、垂直に衝突せず、円滑に閉じることができるようにし、上記破損等の不具合を解消するとの作用効果を奏するものとされていることが認められる。
しかし、本件においては、上記のとおり、引用例2の従来例に係る課題とその解決方法として示されている引用例発明2の技術的思想に基づいて、本件発明と同一の構成を有する同一の発明に到達することができるのであるから、戸板の幅を内側部分で広く、外側部分で狭くした目的が、本件発明と引用例発明2とで異なるとしても、当該構成を採用するについての容易想到性の判断に消長を来すものではない。さらに、訂正明細書に記載された本件発明の上記の作用効果自体、仏壇の扉は頻繁に開閉を行うことが想定されているとはいえないこと、崇拝の対象とされる仏壇の性格上、通常、扉の開閉動作は丁寧に行われると考えられること等を考えると、「両開きの扉を折り畳まれた状態で閉じる」という特異な状況における上記作用効果が格別顕著なものとは認められず(原告株式会社はせがわ取締役商品事業副本部長B及び原告浜屋株式会社商品本部長C作成の各報告書〔甲第4号証の8、
9〕参照)、被告代表者作成の陳述書(乙第1号証)は、上記認定判断を左右しない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
2 以上のとおり、引用例発明2に基づく本件発明の容易想到性を否定した審決の判断は誤りというべきであって、原告ら主張の審決取消事由3は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。
よって、原告らの請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利