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事件 平成 14年 (ネ) 2776号 特許権侵害差止等,特許権侵害差止請求控訴事件

控訴人(1審第1・第2事件原告) 未来工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 伊神喜弘
同補佐人弁理士 樋口武尚
被控訴人(1審第1・第2事件被告)日動電工株式会社
同訴訟代理人弁護士 上原健嗣
同 上原理子
同補佐人弁理士 鈴江孝一
同 鈴江正二
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2003/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 第1事件 (1)ア 被控訴人は,原判決別紙イ号物件目録(以下「別紙イ号物件目録」という。)記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
イ 被控訴人は,原判決別紙商品目録(以下「別紙商品目録」という。)1,2記載の4oバー埋込用を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
(2)ア(ア) 被控訴人は,@別紙イ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックス,A別紙商品目録1,2記載の4oバー埋込用及びB4oバー(埋込用)取付法を記載したカタログを配布してはならない。
(イ) 被控訴人は,これらカタログを廃棄せよ。
イ(ア) 被控訴人は,既に配布済みの「2000-2001 電設系総合カタログ」を回収の上,廃棄せよ。
(イ) 被控訴人は,「2000-2001 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して原判決別紙削除部分目録(以下「別紙削除部分目録」という。)1記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。
ウ(ア) 被控訴人は,既に配布済みの「2001-2002 電設系総合カタログ」を回収の上,廃棄せよ。
(イ) 被控訴人は,「2001-2002 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して別紙削除部分目録2記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。
(3) 被控訴人は,別紙イ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックスを含む別紙イ号物件目録記載の物件及びその製造用金型を廃棄せよ。
(4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(5) 仮執行宣言 2 第2事件 (1) 被控訴人は,原判決別紙ハ号物件目録(以下「別紙ハ号物件目録」という。)記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
(2)ア(ア) 被控訴人は,@別紙ハ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックス,A4oバー(埋込用)取付法を記載したカタログを配布してはならない。
(イ) 被控訴人は,これらカタログを廃棄せよ。
イ(ア) 被控訴人は,既に配布済みの「2000-2001 電設系総合カタログ」を回収の上,廃棄せよ。
(イ) 被控訴人は,「2000-2001 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して別紙削除部分目録3記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。
ウ(ア) 被控訴人は,既に配布済みの「2001-2002 電設系総合カタログ」を回収の上,廃棄せよ。
(イ) 被控訴人は,「2001-2002 電設系総合カタログ」の配布済みの配布先に対して別紙削除部分目録4記載の部分が使用できない旨を記載したカタログ取扱説明書を配布せよ。
(3) 被控訴人は,別紙ハ号物件目録添付商品リスト記載のとおりの4oバーボックスを含む別紙ハ号物件目録記載の物件及びその製造用金型を廃棄せよ。
(4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(5) 仮執行宣言 (以下,控訴人(1審第1・第2事件原告)を「原告」,被控訴人(1審第1・第2事件被告)を「被告」という。また,略称については原判決のそれによる。)
事案の概要
1 原告の請求及び原審の判断 第1事件は,原判決別紙特許公報1(以下「別紙特許公報1」という。)記載の「コンクリート埋設物」に係る特許権(特許第2567807号)の特許権者である原告が,被告による別紙イ号物件目録記載のコンクリート埋設用電線接続ボックス(別紙イ号物件目録添付商品リスト記載の4oバーボックスと別紙商品目録1,2記載の4oバー埋込用を組み合わせたもの〔イ号物件〕)の製造,販売及びその宣伝広告の態様が,上記特許権の直接侵害又は間接侵害に当たるとして,被告に対し,イ号物件の製造,使用等の差止め並びにイ号物件及びその製造用金型の廃棄を求めるとともに,特許法100条2項に基づき,被告の商品カタログの配布の差止め,廃棄等を求めた事案である。
第2事件は,原判決別紙特許公報2(以下「別紙特許公報2」という。)記載の「コンクリート埋設物」に係る別の特許権(特許第2838511号)の特許権者である原告が,被告の製造,販売する別紙ハ号物件目録記載のコンクリート埋設用電線接続ボックス(別紙ハ号物件目録添付商品リスト記載の4oバーボックス〔ハ号物件〕)が,上記特許権の直接侵害に当たるとして,被告に対し,ハ号物件の製造,使用等の差止め並びにハ号物件及びその製造用金型の廃棄を求めるとともに,特許法100条2項に基づき,被告の商品カタログの配布の差止め,廃棄等を求めた事案である。
原審は,イ号物件及びハ号物件が上記の各特許の発明の技術的範囲に属することは肯定したが,これらの特許には明かな無効事由が存在し原告の請求は権利の濫用に当たるとして原告の請求をいずれも棄却した。このため,原告が本件控訴を提起した。
2 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告は,電気設備資材,給排水設備機械等の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,電力用配電機材及び住宅用電設資材等の製造,販売等を目的とする株式会社である。 (2) 本件特許権1について ア(ア) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許を「本件特許1」,その特許出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書1」,特許請求の範囲第1項の発明を「本件発明1」という。)を有している。
特許番号 第2567807号 発明の名称 コンクリート埋設物 分割の表示 特願平1-306218の分割 出 願 日 昭和59年1月17日(特願平5-271610) 公 開 日 平成6年10月25日(特開平6-299698) 登 録 日 平成8年10月3日 特許請求の範囲 別紙特許公報1該当欄記載のとおり (イ) 本件特許1は,昭和59年1月17日に出願された特願昭59-6833号(以下「親出願」という。)の特許出願の一部を平成元年11月24日に特願平1-306218号(以下「子出願」という。)として分割出願し,該分割出願の一部を平成5年10月29日に特願平5-271610号として分割出願した特許出願(以下「孫出願」又は「本件出願1」という。)に係るものであり,平成8年10月3日に設定登録がされた(原判決別紙「親出願(特願昭59-6833号)からの分割出願の推移一覧」〔以下「分割経緯図」という。〕参照)。
イ 本件発明1は,次の構成要件に分説することができる。
A 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材を有するものであること, B 複数の支持部材の各々を,鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して,埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に,線状又は複数の点状に固着するものであること, C コンクリート埋設物であること。
(3) 本件特許権2について ア(ア) 原告は,次の特許権(以下,「本件特許権2」といい,その特許を「本件特許2」,その特許出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書2」,特許請求の範囲第1項の発明を「本件発明2(1)」,同第2項の発明を「本件発明2(2)」,本件発明2(1)と(2)を併せて「本件発明2」という。)を有している。
特許番号 第2838511号 発明の名称 コンクリート埋設物 分割の表示 特願平7-173552の分割 出 願 日 昭和59年1月17日(特願平8-85107) 公 開 日 平成8年12月24日(特開平8-338130) 登 録 日 平成10年10月16日 特許請求の範囲 別紙特許公報2該当欄記載のとおり (イ) 本件特許2は,本件出願1の一部を平成7年7月10日に特願平7-173552号として分割出願し(以下「曾孫出願」という。),該分割出願の一部を平成8年4月8日に特願平8-85107号として分割出願した特許出願(以下「玄孫出願」又は「本件出願2」という。)に係り,平成10年10月16日に設定登録がされた(分割経緯図参照)。
イ 本件発明2(1)は,次の構成要件に分説することができる。
a 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に,曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を,前記埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えるものであること, b コンクリート埋設物であること。
ウ 本件発明2(2)は,次の構成要件に分説することができる。
(a) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に,曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を,前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備えるものであること, (b) コンクリート埋設物であること。
(4) 無効審判について ア 被告は,本件特許1について特許庁に無効審判を請求(無効2000-35598号)し(乙3),原告は,答弁書提出期間内に提出した平成13年2月5日付け訂正請求書(甲18の2)により,本件明細書1から図43及び図44並びにその説明を削除する訂正請求をした(以下,この訂正を「本件訂正1」という。)。特許庁審判官は,平成13年8月31日付けで,「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした(甲36)。被告は,この審決について,審決取消訴訟を提起したが(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第452号),平成14年8月29日,訴えを取り下げ,この審決は確定した(甲53ないし63)。
イ 被告は,本件特許2について特許庁に無効審判を請求(無効2000-35604号)し,原告は,答弁書提出期間内に提出した平成13年2月19日付け訂正請求書により,本件明細書2から図43及び図44並びにその説明を削除する訂正請求をした(以下,この訂正を「本件訂正2」という。)。特許庁審判官は,平成13年8月31日付けで,「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした(甲37)。被告は,この審決について,審決取消訴訟を提起したが(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第456号),平成14年8月29日,訴えを取り下げ,この審決は確定した(甲53ないし63,弁論の全趣旨)。
ウ 被告は,子出願に係る特許(特許2562698号)について特許庁に無効審判を請求した(無効2000-35610号)。特許庁審判官は,平成13年8月31日付けで,「特許第2562698号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下,この審決を「本件無効審決」という。)をした(乙61)。原告は,出訴期間内に審決取消訴訟を提起しなかったので,本件無効審決は確定し,子出願に係る特許権は,平成13年10月15日,消滅したとして,権利の消滅の登録がされた(乙62)。
(5) 被告製品(イ号物件,ハ号物件)について ア 被告は,別紙ハ号物件目録記載の電線接続ボックス(商品名・4oバーBOX。以下,第1事件においては「ボックス」,第2事件においては「ハ号物件」という。)を業として製造,販売している(ただし,ハ号物件が「コンクリート埋設用」か否かは当事者間に争いがある。)。
イ 被告は,別紙商品目録1,2記載のバー(商品名・4oバー(埋込用),以下「埋込用バー」という。)を業として販売している。
原告は,被告がボックスに埋込用バーを付設した別紙イ号物件目録記載のコンクリート埋設用電線接続ボックス(以下「イ号物件」という。)を製造,販売していると主張するが,被告はこれを否認している。
なお,別紙イ号及びハ号物件目録添付商品リスト記載のボックスのうち,@4oバーBOX薄型4OB(商品コード25B4OB3Z,品番V-4OB3Z),A4oバーBOX薄型(品番V-4OB3Z),B4oバーBOX薄型(品番V-4OBL3Z)は,埋込用バーを挿通させることができない(甲27,弁論の全趣旨)。
3 争点 争点は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 争点」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決9頁1行目の次に改行して次のとおり付加する。
「ウ 子出願についての分割が不適法であるため,その出願日が親出願の出願日に遡及しないことにより,本件出願1の出願日も親出願の出願日に遡及せず,その結果,本件発明1は親出願の公開特許公報によって出願前公知の発明若しくは当業者が容易に想到し得た発明であるか否か。」 (2) 同17行目の次に改行して次のとおり付加する。
「ウ 子出願についての分割が不適法であるため,その出願日が親出願の出願日に遡及しないことにより,本件出願2の出願日も親出願の出願日に遡及せず,その結果,本件発明2は親出願の公開特許公報によって出願前公知の発明若しくは当業者が容易に想到し得た発明であるか否か。」 (3) さらに,その次に改行して次のとおり付加する。
「(5) 争点(5) 原告主張の違憲等の有無」
争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決中の「事実及び理由」の「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 争点(2)ウ(子出願についての分割が不適法であるため,その出願日が親出願の出願日に遡及しないことにより,本件出願1の出願日も親出願の出願日に遡及せず,その結果,本件発明1は親出願の公開特許公報によって出願前公知の発明若しくは当業者が容易に想到し得た発明であるか否か。)について (1) 被告の主張 ア(ア) 本件特許1は,子出願をもとの出願として分割出願されたものである。そして,子出願に係る特許(特許2562698号)の無効審判事件(無効2000-35610号)における本件無効審決は,子出願の親出願からの「分割出願の明細書又は図面は,原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むから,本件分割は不適法なものであって,本件特許発明に係る出願の出願日は,平成5年10月29日である。」として,子出願の出願日が親出願の出願日である昭和59年1月17日に遡及せず,平成5年10月29日に出願されたものと認められるから,既に公開されている親出願の公開特許公報(乙6)から当業者が容易に発明をすることができた発明についての特許であり,特許が特許法29条2項に違反してされたものとして,特許法123条1項2号により無効であるとすると判断した(乙61)。しかし,原告は,本件無効審決に対し,出訴期間内に東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起しなかったので,本件無効審決の確定により子出願は不適法な分割出願として親出願との関係が切断され,出願日の遡及の利益を享受することができなくなった。その結果,子出願を原出願として分割した本件特許1(孫出願に係る特許)の出願日は,当該分割出願が適法であった場合においても平成5年10月29日となり,親出願の出願日である昭和59年1月17日まで遡及することはあり得ない。
(イ) また,確定した本件無効審決の判断が,別個の特許に関する孫出願等に対し,拘束力を持つものではないとしても,以下の述べるところからして,やはり本件特許1の出願日は平成5年10月29日であるというべきである。
a 原告が昭和59年1月17日に特許出願(親出願)した特許請求の範囲は,「(1)手による折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と,支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。(2)コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部よりなる架設具とからなり,支持部材は手による折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し,支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」というものであった。そして,明細書には,「本発明に係る架設具は従来からある埋設物に取付けることができ,これの線状の支持部を折り曲げることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにし,また,本発明に係る埋設物は線状の支持部材である架設具を用いることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにしたもので,本発明の目的とするところは,埋設物を埋設するにあたって,埋設物の鉄筋への架設を容易かつ迅速に行い,作業の効率化を図ることにある。」と記載されている。明細書に記載されたこれらの特許請求の範囲及び発明の目的からして,埋設物の鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにするためには,支持部ないし支持部材が線状であることが必須の構成であるということができる。また,親出願の出願当初明細書又は図面にも,支持部ないし支持部材は線状のもののみしか記載されていない。
原告は,平成元年11月24日,親出願からの分割により名称を「コンクリート埋設物」とする特許出願(子出願)をし,特許請求の範囲は「(1)手による折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部を開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(2)コンクリート埋設物がボックスであり,その底壁に切り起こされた突起で支持部材を包むようにかしめて支持部材を底壁に一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。」というものであった。その後,原告は,平成5年3月19日付け手続補正書により,子出願の特許請求の範囲を補正し,補正後の特許請求の範囲として「(1)手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を,鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して,埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(2)埋設物本体がボックスであり,手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を,鉄筋に対しボックスを任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して,ボックスの外方に突出するようにボックスの底壁に切り起こされた突起でかしめて一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。」とした。
さらに,原告は,平成5年10月29日付け手続補正書により,発明の名称を「コンクリート埋設物の固定方法及び埋設方法」として特許請求の範囲を補正し,補正後の特許請求の範囲として「(1)手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け,前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して,コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に埋設物を固定することを特徴とするコンクリート埋設物の固定方法。(2)手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け,先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して,コンクリート埋設物を埋設位置に固定し,コンクリートを打設して埋設物を埋設することを特徴とするコンクリート埋設物の埋設方法。」とし,補正された内容で特許権が付与された。
そうすると,親出願の特許請求の範囲に記載された埋設物に設けられる支持部ないし支持部材は線状であることが必須の構成で,しかも,出願当初の明細書又は図面の記載においても線状以外のものは記載していなかったところ,平成5年10月29日付け手続補正書により子出願が補正された結果,子出願の特許請求の範囲は,支持部材については線状でないものをも含むこととなり,親出願の出願当初明細書にも図面にも記載されていないものを含んで構成が拡大され,親出願から子出願への分割は特許法44条の分割要件を満たさない不適法なものとなった。したがって,子出願の出願日は,出願日の遡及の利益を享受することができないので,親出願の出願日(昭和59年1月17日)には遡及せず,また,平成5年10月29日付け補正書による補正後の子出願の特許請求の範囲は,子出願の出願当初の明細書又は図面の範囲内の事項を超えるものであるから,上記手続補正書が提出された平成5年10月29日に出願がされたものとみなされる。
b 孫出願は,平成5年10月29日,子出願の上記手続補正書の提出と同時に,子出願から分割して出願され,平成7年7月10日手続補正書により特許請求の範囲が補正され,孫出願に係る権利は,同日付手続補正書で補正された内容で特許権が付与された。
特許出願の分割出願は,特許法44条1項の分割要件を満たしている場合には,その効果として,分割に係る新たな特許出願はもとの特許出願のときにしたものとみなされる(特許法44条2項)。これは,特許出願の分割制度が,特許出願人に対し,二以上の発明を包含する特許出願の一部を分割して新たな特許として出願する機会を与え.この新たな特許出願が分割出願として分割要件を具備して適法となる場合には,分割された新たな特許出願がもとの特許出願のときになされたものとみなすという出願日の遡及の効果を与えたものである。つまり,分割出願の出願日時の利益の享受は,あくまで原出願の出願日時の利益の享受に止まるものにすぎない。そして,この場合,原出願も分割出願であって,分割要件を満たして分割が適法に行われた場合には,原出願も原々出願の出願の日時の遡及の利益を享受する結果,結局,最後の分割出願が親出願の出願の日時に遡って出願したものとみなされるにすぎず,最後の分割出願の日時が原出願と無関係に親出願のときまで遡及するものではない。それ故に,いずれかの分割の段階で,分割要件を満たすことができず,不適法な分割が行われた場合には,その段階で出願日の遡及が切断され,分割出願された特許の出願日が親出願の日まで遡及するという利益を享受することができなくなるのである。分割が適法な場合にのみ,分割された特許出願が保護されるべきものであって,不適法に分割された特許出願は,これを保護する必要がない。原出願の内容と分割出願の内容とは相互に関連性を有するものであり,特許出願の明細書又は図面について適法な補正がされた場合には,出願当初に遡及して補正後の内容であるとみなされるのであるから,分割要件の適法性がそれぞれの出願についての補正の内容如何によって影響を受けるのは当然である。
そうすると,前述のとおり,子出願が親出願に対して不適法な分割であるので,孫出願は子出願からの分割について各分割要件を満たしていたとしても,その出願日は,少なくとも子出願の出願日とされる平成5年10月29日までしか遡及することができず,親出願の出願日である昭和59年1月17日に遡及することはできない。
イ したがって,孫出願の出願日は平成5年10月29日となるから,本件発明1は,既に公開されている親出願の公開特許公報によって出願前全部公知の発明若しくは当業者が容易にできた発明にすぎず,特許法29条1項3号又は同条2項に違反するもので無効であることが明白である。なお,子出願に係る特許については,特許法123条1項の無効審決である本件無効審決が確定しており,もはや訂正審判により明細書の訂正をすることができない(特許法126条5項)。
よって,本件特許1は無効であることが明白であるから,本件特許権1に基づく権利行使は権利の濫用として許されず,原告の本訴請求は直ちに棄却されるべきである。
(2) 原告の主張 ア そもそも,子出願にかかる特許に関する本件無効審決における判断が別個の特許に関する孫出願等に対し,当然に拘束力を持つものではなく,本件無効審決の確定により,自動的に本件特許1が無効となるのではない。
イ 子出願は,特許法44条に基づき,適法に分割された分割出願であるから,親出願の出願日まで出願日が遡及していたものである。
ところで,平成5年10月29日付け手続補正書による補正後の子出願の明細書の特許請求の範囲に記載された「支持部材」には「線状」という限定がなく,原出願の願書において最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含んでいるから,子出願の出願日が,独立した特許として,平成5年法律第26号による改正前の特許法40条(以下「特許法40条」という。)に基づき,「手続補正書を提出した時にした」と擬制され,出願日が上記手続補正書を提出した平成5年10月29日に繰り下がった結果,子出願に係る特許権の新規性がないとして無効となったに過ぎず,親出願から子出願への分割自体が不適法,無効となったわけではない。本件無効審決も上記の見解に立つものである。
他方,子出願の分割出願時の原出願の明細書(当初明細書)及び孫出願の分割出願直前の子出願願書の明細書(平成5年3月19日付け手続補正書による補正後のもの)は,いずれも,特許請求の範囲には「線状」という限定を付した事項を発明の要旨としているから,本件出願1(孫出願)は,原出願(親出願,子出願)の最初に添付した明細書(親出願の明細書)又は図面に記載した事項の範囲内であり,かつ,分割直前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるから,適法に分割されたものであり,独立した子出願の平成5年10月29日付補正書の補正内容に左右されるものではない。したがって,孫出願の出願日は親出願の出願日まで遡及するものである。このことは,本件特許1についての無効審判請求事件(無効2000-35598号)の審決(甲36)において,本件特許1(孫出願)の分割出願が適法とされたことからも裏付けられる。
2 争点(4)ウ(子出願についての分割が不適法であるため,その出願日が親出願の出願日に遡及しないことにより,本件出願2の出願日も親出願の出願日に遡及せず,その結果,本件発明2は親出願の公開特許公報によって出願前公知の発明若しくは当業者が容易に想到し得た発明であるか否か。)について (1) 被告の主張 ア 本件特許2は,分割経緯図のとおり,平成8年4月8日,曾孫出願から分割して出願され特許権が付与されており,子出願の系統から分割されたものであるところ,子出願は,前記のとおり,不適法な分割出願として親出願との関係が遮断され,親出願までの出願日の遡及の利益を享受することができなくなった結果,出願日が平成5年10月29日とみなされた。その結果,子出願の系統から分割した本件特許2の出願日も,子出願の出願日である平成5年10月29日よりも前まで遡及することはない。
イ したがって,本件特許2もまた,出願前頒布された親出願の公開特許公報に記載された発明,若しくは,その発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,その特許が特許法29条1項3号若しくは同条2項の規定に違反してされたものとして,同法123条1項2号による無効理由があることは明らかである。
(2) 原告の主張 子出願の出願日は,特許法40条に基づき,「手続補正書を提出した時にした」と擬制され,平成5年10月29日に繰り下がった結果,子出願に係る特許権の新規性がないとして無効となったに過ぎず,親出願から子出願への分割自体が不適法,無効となったわけではない。
そして,本件特許2は,曾孫出願からの分割出願に係るところ,本件特許1と同様,分割出願当初明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項は,共に「線状」という特定を付した「支持部材」をその構成とするから,原出願(親出願,子出願,孫出願〔本件出願1〕,曾孫出願)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり,かつ,分割直前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるから,適法に分割出願されたものといえる。
また,本件特許2は,無効審判請求事件(無効2000-35604号)の審決(甲37)で,適法に分割出願されたものと認定された。この審決は,子出願に係る本件無効審決をした合議体と同一の合議体が同一日付でした審決である。
分割不適法の適用を受けた後の分割出願分割出願になるのであれば,その後の分割出願を適法とする審決が出ることはないし,本件無効審決の確定がその後の分割出願の成否を左右するのであれば,当該分割出願以降の審決が同日付でされることもあり得ない。
3 争点(5)(原告主張の違憲等の有無)について 特許法178条の訴えの管轄権のない裁判所が上記1,2の被告の主張を認めて明らかな無効理由の存在を根拠に権利濫用となるとすることは,弁論主義を超え,特許庁の審査実務に反し,憲法29条に反する。
当裁判所の判断
当裁判所の判断は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「第4 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決37頁3行目から同48頁6行目までを次のとおり改める。
「(2) 同イ(本件発明1は,子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより,その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果,新規性又は進歩性を欠くか。)及び同ウ(子出願についての分割が不適法であるため,その出願日が親出願の出願日に遡及しないことにより,本件出願1の出願日も親出願の出願日に遡及せず,その結果,本件発明1は親出願の公開特許公報によって出願前公知の発明若しくは当業者が容易に想到し得た発明であるか否か。)について ア 本件特許1及び本件特許2の分割出願に関する手続の経緯 (ア) 原告は,昭和59年1月17日,名称を「コンクリート埋設物の架設具および架設具を有するコンクリート埋設物」とする発明について特許出願(特願昭59-6833号〔親出願〕)をした(甲39)。その特許請求の範囲は,「(1)手による折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と,支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。(2)コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり,支持部材は手による折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し,支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行なうようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」というものであった。
親出願は,昭和60年8月12日,公開され,平成元年8月9日,拒絶理由通知がされ,平成元年11月24日,手続補正がされ,意見書が提出されるとともに,名称を「コンクリート埋設物」とする発明について,親出願からの分割により,特許出願(特願平1-306218号〔子出願〕)がされた。その後,親出願は,平成2年4月4日,拒絶査定されて,査定不服審判請求がされ,平成2年7月30日,特許法17条の2第4項の手続補正がされ,平成3年5月17日,拒絶査定不服審判において出願公告決定がされ,平成4年6月29日の手続補正を経て,平成5年3月14日,原査定取消,特許査定の審決がされ,平成5年7月28日,登録された後,平成5年10月29日,特許法64条による補正がされた(甲40の1,乙6)。
(イ) 前記の平成元年11月24日に名称を「コンクリート埋設物」とする発明についてされた親出願からの分割による特許出願(特願平1-306218号〔子出願〕)は,その特許請求の範囲が,「(1)手による折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部材を開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(2)コンクリート埋設物がボックスであり,その底壁に切り起こされた突起で支持部材を包むようにかしめて支持部材を底壁に一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。(甲40の1)」というものであり,平成4年12月21日,拒絶理由通知がされ,平成5年3月19日付け手続補正書(甲40の2)により特許請求の範囲の補正がされるとともに,意見書が提出され,その補正後の特許請求の範囲は,「(1)手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を,鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して,埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(2)埋設物本体がボックスであり,手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を,鉄筋に対しボックスを任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して,ボックスの外方に突出するようにボックスの底壁に切り起こされた突起でかしめて一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。」というものであり,平成5年5月7日付け手続補正後,平成5年8月11日,拒絶査定され,査定不服審判請求がされ,平成5年10月29日付けで,手続補正書を提出するとともに,子出願からの分割として,特許出願(特願平5-271610号,本件出願1〔孫出願〕)をし,子出願は,平成8年6月17日,原査定取消,特許査定の審決がされ,平成8年9月19日,登録された(乙68の1ないし11)。平成5年10月29日付け手続補正書は,子出願の発明の名称を「コンクリート埋設物の固定方法及び埋設方法」とし,特許請求の範囲を,「(請求項1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け,前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して,コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定することを特徴とするコンクリート埋設物の固定方法。(請求項2) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け,先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して,コンクリート埋設物を埋設位置に固定し,コンクリートを打設して埋設物を埋設することを特徴とするコンクリート埋設物の埋設方法。」と補正するものであり(乙7,弁論の全趣旨),同補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲では「線状の支持部材」とされていたのが,同補正により「支持部材」とされた。この補正により,子出願に係る明細書の特許請求の範囲の「支持部材」は「線状」でないものも含むものとなったが,そのような事項は,親出願の出願当初明細書又は図面に記載はなく,子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されていないものであった(甲39,乙61)。子出願については,上記平成5年10月29日付け補正の内容で特許された(乙7)。
(ウ) 前記の平成5年10月29日付けで子出願からの分割として出願された本件出願1(孫出願)は,平成6年10月25日の公開を経て,平成7年5月16日,拒絶理由通知がされ,平成7年7月10日付け手続補正書による手続補正がなされ,意見書が提出されるとともに,孫出願からの分割として,特許出願(特願平7-173552号,〔曾孫出願〕)がなされた。上記補正後の特許請求の範囲は「(請求項1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の 各々を,鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して,埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に,線状又 は複数 の点状 に固着 して成ることを特徴とするコンクリート埋設物。(請求項2) 埋設物本体がボックスであり,手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で,かつ曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し,コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の 各々を,鉄筋に対しボックスを任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して,ボックスの外方に突出するようにボックスの底壁に切り起こされた複数の突起でかしめて固着 して成ることを特徴とする請求項1記載のコンクリート埋設物。」(下線が補正箇所)であったが,平成7年9月18日,拒絶査定され,査定不服審判請求がされ,平成8年1月11日付けで,審判請求書の補正がされ,平成8年6月27日,原査定取消,特許査定の審決がされ,平成8年10月3日,登録された(乙8)。分割出願時の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項は,分割直前の子出願の明細書,すなわち,上記平成5年10月29日付け手続補正書による補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載と全く同一であり,発明の詳細な説明及び図面も実質的に同一であった(甲40の2,41,乙8)。
(エ) 前記の平成7年7月10日付け特許出願(特願平7-173552号,〔曾孫出願〕)は,公開され,平成8年4月8日,本件出願2(玄孫出願)が分割出願され,特許された(甲43,乙41)。
イ 被告は,子出願に係る特許を無効とする本件無効審決が確定したことにより,子出願は不適法な分割出願として親出願との関係が遮断され,出願日の遡及の利益を享受できなくなったから,子出願を原出願とする孫出願の出願日は,当該分割出願が適法であった場合でも,子出願の出願日とみなされる平成5年10月29日であり,親出願の出願日(昭和59年1月17日)まで遡ることはあり得ないと主張する。
そこで,検討するに,子出願に係る特許を無効とする本件無効審決が確定したことは前記のとおりであるから,子出願に係る特許権(特許第2562698号)は初めから存在しなかったものとみなされ(特許法125条),このことは何人も争えないところである。しかしながら,被告が本件無効審決について主張している子出願の出願日に関する事項はあくまでも本件無効審決の理由中の判断事項に過ぎず,本件無効審決が確定したからといって,子出願とは別個独立の出願手続である孫出願の出願日につき,本件無効審決の判断が拘束力を持つと解すべき根拠はない。また,子出願の特許が後に無効とされたからといって,子出願から分割された孫出願が当然に影響を受けるということもない。したがって,被告の上記主張は採用できない。
ウ さらに,被告は,本件無効審決の拘束力が孫出願の出願日等に及ばないとしても,実体上,親出願から子出願の分割は分割要件を満たしていないから不適法であり,子出願は出願日の遡及の利益を享受できず,その出願日は手続補正書を提出した平成5年10月29日とみなされ,子出願を原出願とする本件出願1(孫出願)の出願日も上記平成5年10月29日であり,親出願の出願日まで遡及しないと主張する。
そこで,以下,本件無効審決の拘束力から離れて,本件出願1(孫出願)の分割出願に関する手続の経緯に即して,本件出願1(孫出願)の出願日について検討する。
(ア) 特許出願の分割について定めた平成6年法律第116号による改正前の特許法44条1項は,「特許出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定していた(なお,上記改正後の特許法44条1項は,特許出願を分割できる時期を「明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り」としている。)から,分割出願が適法であるための実体的な要件としては,@ もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,A 新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること,が必要である。さらに,分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという効果を有する(特許法44条2項)ことからすれば,新たな出願に係る発明は,分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されているだけでは足りず,もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要すると解される(逆に,もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項であれば,分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されていない事項であっても,補正が可能であるから,分割の要件を満たすことになる。)。
ところで,特許法には,分割出願に関する規定は同法44条以外に存在しないから,分割出願(子出願)をもとの出願として更に分割出願(孫出願)を行う場合についても同条が適用されることになる。したがって,孫出願の出願日が親出願の出願日まで遡及するためには,子出願が親出願に対し分割の要件を満たし,孫出願が子出願に対し分割の要件を満たし,かつ,孫出願に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要するというべきである。これを本件についてみると,本件出願1(孫出願)は,親出願からの分割出願である子出願を更に分割出願し,本件出願2(玄孫出願)は,本件出願1(孫出願)を更に分割出願した曾孫出願を更に分割出願した出願であるから,本件出願2(玄孫出願),曾孫出願,本件出願1(孫出願),子出願の各分割出願がそれぞれ特許法44条1項の分割要件を満たし,かつ,本件出願1,2に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内である場合には,本件出願1,2の出願日は,親出願の出願日まで遡及することになる。
(イ) そこで,まず,子出願の分割出願についてみると,子出願は,平成5年3月19日付け手続補正書(甲40の2)により補正された後,平成5年10月29日付け手続補正書によりさらに補正された。平成5年3月19日付け手続補正書による補正後の発明は,親出願の出願当初明細書又は図面に記載されており,子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されており,その他の分割要件を満たすといえるから,子出願は,親出願から適法に分割されたものといえることになる。しかしながら,平成5年10月29日付け手続補正書による「線状の支持部材」を「支持部材」とした補正は,親出願の出願当初明細書又は図面に記載されておらず,子出願の出願当初明細書又は図面にも記載されていない事項を含み,上記補正後の子出願の明細書は,親出願の出願当初明細書又は図面の範囲内でない事項を含むものであるから,子出願は,親出願から特許法44条1項に基づき適法に分割されたものといえないことになる。そして,子出願は,その後,特許登録され,本件無効審決を経て確定し,もはや,手続補正や訂正審判により上記平成5年10月29日付け手続補正書による内容を是正する余地はなく,上記補正後の内容で確定したから,子出願は,親出願から特許法44条1項に基づき適法に分割されたものとはいえず,親出願の時に出願したとみなされることはない。そして,親出願の時に出願したとみなされないことから,子出願は,本来の出願日である平成元年11月24日が出願日となるはずであるが,上記補正後の明細書の特許請求の範囲は,子出願の出願当初明細書又は図面の範囲内でない事項を含むから,子出願の出願日は,特許法40条に基づき,平成元年11月24日から繰り下がって上記補正書を提出した日である平成5年10月29日とみなされることになる。本件無効審決の結論もこのような判断に基づくものと認められる(乙61)。
この点に関し,原告は,子出願が特許法44条により適法に分割された分割出願であり,上記平成5年10月29日付け手続補正書による補正により,特許法40条に基づき,出願日が平成5年10月29日に繰り下がったに過ぎず,子出願の分割自体が不適法,無効となるものでない旨主張するが,上記のとおり,そもそも子出願の分割は分割要件を具備しておらず不適法であることは明らかであって,原告の上記主張は採用することはできない。
(ウ) 次に,本件出願1(孫出願)についてみるに,本件出願1(孫出願)に係る発明は,子出願を親出願とする分割出願としては,平成5年3月19日付け手続補正書により補正された後の明細書又は図面を対象とすると,平成7年7月10日付け手続補正書による手続補正が適法と認められるから,子出願に係る発明と同一でないといえるので,平成5年10月29日付け手続補正書により補正された後の明細書又は図面を対象とすると子出願に係る発明と同一でないことが明らかである。したがって,本件出願1(孫出願)は,子出願を親出願とする分割出願としては,その他の分割の要件も満たしているといえるから適法といえる。しかしながら,親出願との関係では,前記のとおり,子出願が親出願から適法に分割されたものとはいえない以上,本件出願1(孫出願)も親出願の時に出願したとみなされることはなく,子出願の時に出願したとみなされることとなり,子出願の出願日とみなされる平成5年10月29日に出願したとみなされることになる。
この点に関し,原告は,本件出願1(孫出願)は,原出願(親出願,子出願)の最初に添付した明細書(親出願の明細書)又は図面に記載した事項の範囲内であり,かつ,分割直前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるから,適法に分割されたものであり,その後になされた独立した子出願の平成5年10月29日付補正書の補正内容に左右されるものではなく,本件出願1(孫出願)の出願日は親出願の出願日まで遡及する旨主張する。
しかしながら,親出願,子出願及び孫出願はそれぞれ別個の出願手続であり特許要件の具備の有無は別個独立に審査されるものであるとはいえ,孫出願の出願日の遡及の利益の享受は,あくまで子出願の出願日の利益の享受であって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われることを前提とするものであり,孫出願の出願日が子出願と無関係に本来の分割可能な時期から離れて無限定に親出願のときまで遡及するものではない。そして,特許法は,特許の出願などの特許に関する手続をした者がその補正をすることを原則として許容し,かつ,補正がその手続の初めに遡って効力を有することを認めており,特許に関する手続はこのような補正の遡及効を前提に運用されている。現に分割出願においても,出願の分割時には原出願に係る発明と分割出願に係る発明が同一であったが,その後に原出願の明細書又は図面が補正され両者の発明が同一でなくなった場合は,分割出願は適法なものとされ,他方,出願の分割時には原出願に係る発明と分割出願に係る発明が同一ではなかったが,その後に原出願の明細書又は図面が補正され両者の発明が同一となった場合は,分割出願は適法でないものとされており,しかも,このような補正の遡及効により分割不適法の事態などが生じる場合でも,補正を行った者はさらにこれを修正する補正を行うことにより不適法理由の解消を行うことなどが可能である。これらの点を考慮すると,親出願,子出願,孫出願と順次分割がされた場合において,子出願から孫出願への分割が分割要件に欠けるところがなかったとしても,子出願についての補正の有無,内容いかんにより,子出願の親出願からの分割がその要件を具備するか否かの帰趨が変動し,そのために,子出願の出願日が変動し,さらに孫出願の出願日が変動するような事態が生じることもやむを得ないところであり,原告の前記主張は採用することができない。
(エ) なお,原告は,本件特許1についての無効審判請求事件(無効2000-35598号)の審決(甲36)が請求不成立とするものであり,被告の分割不適法の主張を理由がないと判断していることによれば,本件出願1(孫出願)の出願日が親出願の出願日まで遡及しないことにはならないと主張する。
しかしながら,本件特許1についての前記無効審判請求事件においては,請求人は,本件出願1(孫出願)に係る発明が親出願の出願当初明細書に記載されていない事項を含むこと等を理由として本件出願1に分割要件違反があること等を主張しており,子出願についての補正の点に関しては主張しておらず,審決中でもその点の判断はしていないから(甲36),同審決があったことで上記判断が左右されるものではない。そればかりでなく,同審決は,本件無効審決が確定する前(本件無効審決と同じ平成13年8月31日付け)のものであり,この時点では,審決取消訴訟の提起により本件無効審決が取り消される可能性,若しくは,訂正審判の請求により子出願の分割不適法理由が解消される可能性が残っていたのであるから,同じ審判合議体のした審決であっても,補正に伴う子出願の分割不適法についての判断を示さなかったことも,首肯し得るところである。原告のこの点の主張も理由がない。」 2 原判決58頁9行目から59頁8行目を次のとおり改める。
「(2) 同イ(本件発明2は,子出願につき分割不適法と判断して子出願に係る特許を無効とした審決が確定したことにより,その出願日が親出願の出願日に遡及しないこととなる結果,新規性又は進歩性を欠くか。)及びウ(子出願についての分割が不適法であるため,その出願日が親出願の出願日に遡及しないことにより,本件出願2の出願日も親出願の出願日に遡及せず,その結果,本件発明2は親出願の公開特許公報によって出願前公知の発明若しくは当業者が容易に想到し得た発明であるか否か。)について ア 本件出願2は,平成7年7月10日付けで,本件出願1の一部を分割してされた出願(特願平7-173552号〔曾孫出願〕)の一部を,平成8年4月8日付けで更に分割して特許出願(特願平8-85107号〔玄孫出願〕)したものである(前記第2,2,(3),ア,(イ))。したがって,本件出願2(玄孫出願),曾孫出願,本件出願1(孫出願),子出願の各分割出願がそれぞれ特許法44条1項の分割要件を満たし,かつ,本件出願2に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内である場合には,本件出願2の出願日は,親出願の出願日まで遡及することになる。
イ 本件出願1(孫出願)は,子出願からの分割出願であるところ,前記2で判示したとおり,子出願の出願日は,平成5年10月29日とみなされ,親出願の出願日である昭和59年1月17日まで遡及することはない。そうすると,本件出願1から曾孫出願への分割,曾孫出願から本件出願2への分割が分割要件を満たしているとしても,本件出願2の出願日は,せいぜい,子出願の出願日とみなされる(本件出願1の分割出願の日とみなされる日でもある)平成5年10月29日までしか遡及しないこととなり,親出願の出願日である昭和59年1月17日まで遡及することはない。
ウ この点につき,原告は,本件特許2についての無効審判請求事件(無効2000-35604号)の審決(甲37)において,本件出願2が適法に分割出願されたと認定されたことによれば,本件出願2(玄孫出願)の出願日が親出願の出願日まで遡及しないことにはならないと主張する。しかしながら,前記2と同じ理由により,原告の主張は理由がない。」 3 争点(5)(原告主張の違憲等の有無)について 原審及び当審の被告の主張に明らかなとおり,被告は原告指摘の主張をしているから,同主張を認めても弁論主義を超えることにならず,また,同主張に沿う認定は特許庁の審査実務に反しておらず,特許法178条の訴えの管轄権のない裁判所が明らかな無効理由の存在を根拠に権利濫用と判断することは憲法29条に反しない。
結語
その他,原審及び当審における原告提出の各準備書面記載の主張に照らして,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,当審の認定判断を覆すほどのものはない。
よって,原告の請求はいずれも理由がなく棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であるから,本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成14年11月22日)
裁判長裁判官 若林諒
裁判官 小野洋一
裁判官 黒野功久