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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成26ワ371 債務不存在確認請求事件 判例 特許
平成26ワ24183 損害賠償請求事件 判例 特許
平成26ワ20422 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成25ワ6674 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成27ネ10038 特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 26年 (ワ) 12198号 損害賠償請求事件

原告 アダプティックスインコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 隈部泰正
同 森山航洋
同訴訟代理人弁理士 黒田博道
同 北口智英
被告 AppleJapan合同会社
同訴訟代理人弁護士 片山英二
同 北原潤一
同 岡本尚美
同 岩間智女
同訴訟代理人弁理士 大塚康徳
同 補 佐人弁理士大塚康弘
同 坂田恭弘
同 江嶋清仁
同 前田浩次
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2015/12/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
1事 実 及 び 理 由第1 請求被告は,原告に対し,1億円及びうち5000万円に対する平成26年5月30日から,うち5000万円に対する平成27年3月17日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要本件は,発明の名称を「適応サブキャリア−クラスタ構成及び選択的ローディングを備えたOFDMA」とする特許権を有する原告が,携帯電話端末及びタブレットの輸入及び販売をする被告に対し,これらの行為が上記特許権を侵害する旨主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,一部請求として,損害賠償金1億円,及びうち5000万円に対する不法行為後である平成26年5月30日(訴状送達日の翌日)から,うち残金5000万円に対する不法行為後である平成27年3月17日(訴え変更申立書送達日の翌日)から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア 原告は,上記特許権を有するアメリカ合衆国の法人である。
イ 被告は,アメリカ合衆国カリフォルニア州に本社を置く,インターネット,デジタル家電製品等を開発販売するアップルインコーポレイテッドの日本法人である。
(2) 原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。)を有している。なお,平成26年12月9日に訂正審決がされ,請求項16が訂正された(後記(3)イの下線部分)。
ア 特許番号 特許第5119070号2イ 発明の名称 適応サブキャリア−クラスタ構成及び選択的ローディングを備えたOFDMAウ 出願日 平成20年7月14日エ 優先日 平成12年12月15日オ 優先権主張国 米国カ 登録日 平成24年10月26日(3) 特許請求の範囲の記載ア 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に係る発明を「本件特許発明1」という。)。
「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法において,加入者装置が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階と,前記加入者装置が,候補サブキャリアのセットを選択する段階と,前記加入者装置が,前記候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供する段階と,前記加入者装置が,前記加入者装置用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階と,から成り,前記加入者装置は,割り当てられるべき前記サブキャリアのセットを割り当てられた後,更新されたサブキャリアのセットを受けるために,更新されたフィードバック情報を提出する段階と,その後,前記加入者装置が,前記更新されたサブキャリアのセットの別の表示を受信する段階とを更に含んでいることを特徴とする方法。」イ 本件明細書の特許請求の範囲の請求項16の記載は,次のとおりである(ただし,下線部分は事後的に訂正された部分である。)(以下,同請求項に係る発明を「本件特許発明16」といい,本件特許発明1と併せて3「本件特許発明」と総称する。)。
「複数の加入者装置が使用を望んでいるサブキャリアのクラスタを表示するフィードバック情報を生成することができる,第1セル内の複数の加入者装置と,前記複数の加入者装置に対して,クラスタ内のOFDMAサブキャリアを割り当てることができる,前記第1セル内の第1基地局と,を備えており,前記複数の加入者装置は,それぞれ,前記第1基地局から受信したパイロット記号に基づいて前記複数のサブキャリアに関するチャネル及び干渉情報を測定し,前記複数の加入者装置のうちの少なくとも1つは,前記複数のサブキャリアから候補サブキャリアのセットを選択し,前記少なくとも1つの加入者装置は,前記候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供して,前記少なくとも1つの加入者装置が使用するように前記第1基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信するようになっており,前記加入者装置は,前記サブキャリアのセットを割り当てられた後,更新されたサブキャリアのセットを受信するために,更新されたフィードバック情報を提出し,その後,前記更新されたサブキャリアのセットの別の表示を受信することを特徴とする装置。」(4) 本件特許発明構成要件ア 本件特許発明1を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A」などという。)。
1A 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法において,1B 加入者装置が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階と,41C 前記加入者装置が,候補サブキャリアのセットを選択する段階と,1D 前記加入者装置が,前記候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供する段階と,1E 前記加入者装置が,前記加入者装置用として前記基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階と,から成り,1F 前記加入者装置は,割り当てられるべき前記サブキャリアのセットを割り当てられた後,更新されたサブキャリアのセットを受けるために,更新されたフィードバック情報を提出する段階と,1G その後,前記加入者装置が,前記更新されたサブキャリアのセットの別の表示を受信する段階とを更に含んでいる1H ことを特徴とする方法。
イ 本件特許発明16を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件16A」などという。)。
16A 複数の加入者装置が使用を望んでいるサブキャリアのクラスタを表示するフィードバック情報を生成することができる,第1セル内の複数の加入者装置と,16B 前記複数の加入者装置に対して,クラスタ内のOFDMAサブキャリアを割り当てることができる,前記第1セル内の第1基地局と,を備えており,16C 前記複数の加入者装置は,それぞれ,前記第1基地局から受信したパイロット記号に基づいて前記複数のサブキャリアに関するチャネル及び干渉情報を測定し,16D 前記複数の加入者装置のうちの少なくとも1つは,前記複数のサブキャリアから候補サブキャリアのセットを選択し,前記少な5くとも1つの加入者装置は,前記候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供して,前記少なくとも1つの加入者装置が使用するように前記第1基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信するようになっており,16E 前記加入者装置は,前記サブキャリアのセットを割り当てられた後,更新されたサブキャリアのセットを受信するために,更新されたフィードバック情報を提出し,16F その後,前記更新されたサブキャリアのセットの別の表示を受信する16G ことを特徴とする装置。
(5) 被告の行為ア 被告は,業として,別紙物件目録記載1ないし3,8,9の携帯電話端末及び同目録記載4ないし7,10,11のタブレット(以下,これらを「被告製品」と総称する。)を販売している。
イ 被告製品は,いずれも第3世代移動通信システムの標準化組織である3GPPが定めた第3世代(3G)移動通信システムの長期的高度化システムであるLTE(Long Term Evolution)の規格(以下「LTE規格」という。)のリリース8又は10に準拠している(具体的には,被告製品のうち別紙物件目録記載1ないし7の製品はリリース8に,同目録記載8ないし11の製品はリリース8又は10に,それぞれ準拠している。)。
2 争点原告は,「被告製品はLTE規格に準拠したものであるから,被告製品が用いられる通信システム方法(以下「本件通信システム方法」という。)は少なくとも別紙「本件通信システム方法の特徴」のとおりの構成を有し,被告製品により構築される通信システム(以下「本件通信システム」という。)は別紙6「本件通信システムの特徴」のとおりの構成を有するものであるところ,本件通信システム方法は本件特許発明1の,本件通信システムは本件特許発明16の技術的範囲にそれぞれ属するから,特許法101条5号又は2号により,被告製品の販売は本件特許権の侵害行為とみなされる」旨主張する。
また,LTE規格通信においては,チャネル品質インディケータ(以下「CQI」という。)の基地局への報告は複数の態様で行われるが,原告は,本訴において,非周期的CQIレポートのうち高次階層設定サブバンドフィードバックモードのみを問題としている。
本件の争点は以下のとおりである。
(1) 本件通信システム方法の本件特許発明1の技術的範囲への属否(構成要件1A,1G,1Hの充足につき争いがない)(2) 本件通信システムの本件特許発明16の技術的範囲への属否(構成要件16F,16Gの充足につき争いがない)(3) 本件特許権の間接侵害の成否(4) 本件特許の無効理由の有無(5) 原告が被った損害額3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件通信システム方法の本件特許発明1の技術的範囲への属否)についてア 原告の主張(ア) 構成要件1B本件通信システム方法において,基地局はユーザ端末に向けて,リファレンス信号を送信し,被告製品はこれを受信する。リファレンス信号は,既知の振幅,位相等を備えるもので,周期的に送信されるから,構成要件1Bのパイロット記号に相当する。
また,本件通信システム方法において,リファレンス信号を受信した7被告製品は,CQIを得るための基礎情報を得るため,リファレンス信号を乗せたサブキャリアに関するチャネル応答及び干渉(雑音を含む)に関するチャネル品質を測定する。したがって,被告製品がCQIを得るためにリファレンス信号を測定して基礎情報を取得することは,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定することに相当する。
なお,本件通信システム方法において,リファレンス信号を受信したユーザ端末は,受信信号からSINRを測定し,これを4ビットで量子化したCQIを得る。そして,SINR及びCQIは,構成要件1Bのチャネル及び干渉情報に相当する(構成要件16Cも同じ)。もっとも,特許請求の範囲では,「チャネル及び干渉情報」について「SINR」に限定されてはいない。
(イ) 構成要件1Ca LTE規格におけるリソース・ブロックは,本件特許発明1のサブキャリアのセットに相当するところ,所定数のリソース・ブロックはサブバンドに組織されており,サブバンドを選択することは,これを構成するリソース・ブロックが当然に特定される関係にあるから,リソース・ブロックの選択に相当する。
そして,本件通信システム方法において,高次階層設定サブバンドフィードバックモードが選択されたときは,被告製品はこれに応じて全部のサブバンドを選択するところ,これは,各サブバンドを構成するリソース・ブロックの全部を選択することに相当する(以下,この立場を「見解1」という。)。
なお,情報処理技術分野における用語法において,「全部の選択」等の用語の用い方はごく一般的なものである。そして,本件特許発明1は,コンピュータによる情報処理技術に関するものとしてアルゴリ8ズムが記載されているから,同発明の「選択」の技術的意義を解釈する場合には,単なる日本語の語義に基づくことは誤りである。
b また,被告製品は,基地局からのリファレンス信号を測定して,CQI報告のための基礎情報を獲得し,これに基づき,各リソース・ブロックのCQI及び所定数のリソース・ブロックから構成される各サブバンドのCQIを得る。同時に,被告製品は,全帯域の平均CQI(ワイドバンドCQI)を得るところ,前記各サブバンドCQIとワイドバンドCQIの差分をとって差分CQIを計算する。
そして,サブバンド差分CQI値の「0」,「1」及び「2」は,ワイドバンドCQI以上であることを示し,サブバンド差分CQI値の「3」は,ワイドバンドCQI以下であることを示す。
差分CQIが3になるようなサブバンドCQIは,ワイドバンドCQIよりチャネル品質が劣っているものであり,基地局に対して差分CQIの3を付して報告した場合,これは,通信に不適なものであると被告製品が判断していることを示す。
そのため,差分CQIの3以外の差分CQIである0,1又は2を付してサブバンドの差分CQIを報告することは,これら差分CQIが付されたサブバンドに属するリソース・ブロックを選択したことを意味する(以下,この立場を「見解2」という。)。
以上のとおり,被告製品は,基地局から高次階層設定サブバンドフィードバックモードによる非周期的CQI報告を求められると,差分CQIの0,1又は2を付してサブバンドを選択することにより,これを構成するリソース・ブロックを選択する。
なお,全部のサブバンドの差分CQIを伝送する方が,「選択」した一部のサブバンドの差分CQIを伝送するよりも情報量を低減化できるものである。
9c 以上のように,見解1,2のいずれを採った場合でも,本件通信システム方法は,構成要件1Cを充足する。
(ウ) 構成要件1D本件通信システム方法においては,被告製品が基地局から高次階層設定サブバンドフィードバックモードによるCQI報告を求められると,サブバンドCQIに関するCQI情報を基地局に提供するところ,これはサブバンドに属するリソース・ブロックに関するフィードバック情報を基地局に提供することに相当する。
そして,見解1又は2のいずれに基づいても,上記選択した候補サブバンドに関するフィードバック情報は,各サブバンドを構成する候補リソース・ブロックに関するフィードバック情報に相当する。
このように,本件通信システム方法は,構成要件1Dを充足する。
(エ) 構成要件1Ea 本件通信システム方法においては,基地局は,リソース・ブロックの集合を特定してDCIフォーマットにより被告製品に通知するところ,同DCIメッセージは,選択したサブキャリアの表示に相当する。
そして,被告製品の通信に関する測定結果(甲36ないし39)は,基地局が割り当てたリソース・ブロックがいずれも差分CQIの0,1又は2が付されたサブバンドに属するリソース・ブロックであることを証明している。この点に関し,見解1からすれば,この測定結果が示す基地局が割り当てたリソース・ブロックは,全帯域のリソース・ブロックに属するから,候補リソース・ブロックの中から基地局が選択したリソース・ブロックをDCIメッセージで特定し,これが被告製品に通知され,被告製品はこれを受信することになる。
また,見解2からすれば,この測定結果が示す基地局が割り当てたリソース・ブロックは,いずれも差分CQIの0,1又は2を付した10サブバンドを構成する候補リソース・ブロックに属するから,候補リソース・ブロックの中から基地局が選択したリソース・ブロックをDCIメッセージで特定し,これが被告製品に通知され,被告製品はこれを受信することになる。
このように,本件通信システム方法は,構成要件1Eを充足する。
b なお,基地局が,加入者装置が差分CQIの0,1又は2を付したサブバンドに属するリソース・ブロックのみを割り当てている場合(甲36ないし39参照)は,構成要件1Eを充足することは明らかである(構成要件16Dも同様)。
また,仮に基地局が,加入者装置が差分CQIとして0,1又は2を付したサブバンドに属するリソース・ブロックに付加して差分CQIとして3を付したサブバンドに属するリソース・ブロックを割り当てる場合であっても,加入者装置が差分CQIの0,1又は2を付したサブバンドに属するリソース・ブロックを割り当てる以上,構成要件1Eの充足性を否定することはできない(構成要件16Dも同様)。
そして,本件特許発明1の作用効果は「帯域幅コストと統合最適化のための計算費用」の低減化と統合最適化オペレーションの継続・維持であるところ,同作用効果は,差分CQIの0,1又は2を付したサブバンドに属するリソース・ブロックのみを割り当てなければ得られないということはないから,差分CQIの0,1又は2を付したサブバンドに属するリソース・ブロックのみを割り当てなければならないとの限定解釈をすべき理由はない。
いずれにしても,基地局が,加入者装置が差分CQIとして0,1又は2を付したサブバンドに属するリソース・ブロックに付加して差分CQIとして3を付したサブバンドに属するリソース・ブロックを割り当てることがあるとする立証はされていない。
11(オ) 構成要件1F被告製品の通信に関する測定結果(甲36ないし39)によれば,高次階層設定サブバンドフィードバックモードによるフィードバックを受けた基地局が,被告製品に対してDCIフォーマット情報により,割り当てるべきリソース・ブロックを特定して通知した後,改めて,非周期的CQI報告を被告製品に求め,被告製品はこれに応じて,高次階層設定サブバンドフィードバックモードによるフィードバック情報を基地局に提供していることが立証された。このフィードバック情報は,更新されたフィードバックモード情報に相当するから,本件通信システム方法は構成要件1Fを充足する。
イ 被告の主張(ア) 構成要件1BLTE規格には,ユーザ端末が基地局から受信したリファレンス信号に基づいてSINRを測定する旨の記載はないため,被告製品が基地局から受信したリファレンス信号に基づいてSINRの測定を行っているとはいえない。
また,CQIとSINRとは異なるものであり,CQIはSINRを指標化したものではない。
(イ) 構成要件1Ca 「選択」とは,二つ以上のものの中から,何らかの選択基準に適うものを抜き取ることを意味するところ,非周期的CQI報告の高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置は,常に全てのサブバンドについてサブバンド差分CQIをフィードバックするのであって,そこには,何らかの選択基準に適うものを抜き取るプロセスは存在しない。
また,一般論として,「選択」を行った結果としての全部選択とい12うことはあり得るとしても,同モードにおいては,常に全てのサブバンドを対象としてフィードバックを行うことが,LTE規格上定まっているのであるから,加入者装置には,そもそもサブバンドの「選択」の余地はない。
以上からすれば,同モードにおいては,いかなるサブキャリアのセットも「選択」されていない(構成要件16Dも同様)。
仮に,「全サブバンド」についてサブバンド差分CQIのフィードバックを行うことに情報量の低減効果があったとしても,そのことと,サブバンドの「選択」の有無とは無関係である。
b 本件特許発明1において,加入者装置が選択する単位,加入者装置によるフィードバック情報の提供単位,及び基地局が割り当てる単位は全て「サブキャリアのセット」と解すべきである。
そして,「サブバンド」は,「リソース・ブロックの集合」であるから,「サブバンド」を選択することは「リソース・ブロックの集合」を選択することに相当はしても,「単一のリソース・ブロック」の選択には相当しない。
このように,被告製品は,「単一のリソース・ブロック」を単位として「選択」を含め何の処理も行っていない。
c サブバンド差分CQIは,ワイドバンドCQIに対する各々のサブバンドの相対的なチャネル品質の良し悪し(評価)を示すにすぎず,「割り当てには適さない」などという絶対的評価を下すものではない。
また,サブバンド差分CQIが3であるサブバンドに属するリソース・ブロック(・グループ)が割当ての対象となり得ることについては,原告自身も認めるところである。
(ウ) 構成要件1DLTE規格には,加入者が高次階層設定サブバンドフィードバックモ13ードにおいて,「サブバンド」に関するフィードバック情報であるワイドバンドCQIとサブバンド差分CQIを基地局に送信する旨は記載されているが,加入者が「単一のリソース・ブロック」に関するフィードバック情報を送信する旨の記載はない。
そして,上記サブバンドの「CQI」情報からは,サブバンドを構成する所定数の「リソース・ブロック」に関するチャネル品質情報は判明し得ない。
以上のとおり,被告製品が「単一のリソース・ブロックに関するフィードバック情報」を提供しない以上,かかるフィードバック情報の提供がされることを前提とした原告の主張は成り立たない。
(エ) 構成要件1E特許請求の範囲において,「前記」等の限定が付されていることからすれば,基地局は,加入者装置が選択した候補サブキャリアのセットの中からサブキャリアのセットを選択する必要があり,候補サブキャリアのセット以外のものを基地局が選択することは許容されていない。そして,この解釈は,明細書の記載や本件特許発明1の目的にも合致する。
しかるに,本件通信システム方法において,基地局が,サブバンド差分CQIが0,1又は2のサブバンドの中からユーザ端末に割り当てるリソース・ブロック・グループを選択しているという事実は立証されていない。
結局,基地局が,サブバンド差分CQIが0,1又は2のサブバンドの中からではなく,全周波数帯域中の全サブバンドの中から,総合的な判断に基づき,割当てのためのリソース・ブロック・グループを選択しているとすると,基地局は,候補サブキャリアのセットの中から選択しているとはいえず,本件通信システム方法は,構成要件1Eを充足しない。
14(オ) 構成要件1F前記(イ)ないし(エ)と同様の理由により,充足性を否認ないし争う。
(2) 争点(2)(本件通信システムの本件特許発明16の技術的範囲への属否)についてア 原告の主張(ア) 構成要件16A本件通信システムにおいて,各ユーザ端末(被告製品を含む。)は,いずれも非周期的CQI報告による高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおける全部のサブバンド又は差分CQIの0,1又は2を付したサブバンドを特定しながらそのチャネル品質をフィードバック情報として基地局に提供する機能を備えている。フィードバック情報を基地局に提供するということは,当該フィードバック情報を生成する機能を備えていることを意味する。
また,本件通信システムは,セルラーシステムであり,OFDMA通信を行うものであるから,システムは複数のセルに分割され,各セル内には複数のユーザ端末が存在し,セル内の基地局は当該セル内の複数のユーザ端末(被告製品を含む。)との間で,OFDMAによる多元接続を行う。
以上からすれば,本件通信システムは,構成要件16Aを充足する。
(イ) 構成要件16B本件通信システムにおいては,少なくとも下りリンクにおいて,OFDMAシステムが採用されている。OFDMAは,多元接続をする通信方式であるから,本件通信システムの基地局は複数のユーザ端末に対してリソース・ブロックを割り当てることができる。リソース・ブロックは,複数のOFDMAサブキャリアから構成されたクラスタに相当するため,リソース・ブロックが特定されると当然にこれを構成するOFD15MAサブキャリアが特定される関係にあるから,基地局は,リソース・ブロックを特定してOFDMAサブキャリアを割り当てるといえる。
以上からすれば,本件通信システムは,構成要件16Bを充足する。
(ウ) 構成要件16C前記(1)ア(ア)同様,本件通信システムは,構成要件16Cを充足する。
(エ) 構成要件16D前記(1)ア(イ)ないし(エ)同様,本件通信システムは,構成要件16Dを充足する。
(オ) 構成要件16E前記(1)ア(オ)同様,本件通信システムは,構成要件16Eを充足する。
イ 被告の主張(ア) 構成要件16Aユーザ端末は,「使用を望んでいる」サブキャリアからなる複数のリソース・ブロックからなるサブバンドを表示するフィードバック情報を生成するわけではない。
(イ) 構成要件16B構成要件16Bでは「クラスタ内のOFDMAサブキャリア」と規定されており,ここでの「クラスタ」は構成要件16Aの「加入者装置が使用を望んでいるサブキャリアのクラスタ」を指す以上,基地局による割当ての対象となるOFDMAサブキャリアのセットは,候補クラスタ内から選択されるものである。
(ウ) 構成要件16C前記(1)イ(ア)同様,争う。
(エ) 構成要件16D16前記(1)イ(イ)ないし(エ)同様,争う。
(オ) 構成要件16E前記(1)イ(オ)同様,争う。
(3) 争点(3)(本件特許権の間接侵害の成否)についてア 原告の主張被告製品は,LTE規格通信システムネットワークに用いられる携帯電話端末装置であり,LTE規格通信システム(ネットワーク)において本件特許発明1及び16の課題解決に不可欠なものである。
そして,被告製品は,基地局から非周期的CQI報告を求められると,これに応じて高次階層設定サブバンドフィードバックモードに基づくCQI報告をしている(甲36ないし39)。つまり,本件通信システム方法において,非周期的CQI報告の高次階層設定サブバンドフィードバックモードが実際に使用されていること,すなわち本件特許発明1が直接侵害されていることが証明された。
同様に,被告製品が基地局と無線接続されたネットワークが非周期的CQI報告の高次階層設定サブバンドフィードバックモードを使用すること,すなわち,生産されたネットワークが本件特許発明16の機能を備え,実際に同機能が発揮されていることが証明された(甲36ないし39)。
そして,被告は,通信事業者として被告製品を市場に導入するに当たり,LTE規格の詳細及び被告製品に関連する知的財産権を調査確認して参入したものであるから,本件特許発明につき十分に認識していたというべきである。仮にそうでないとしても,遅くとも本件訴えの提起により,本件特許発明特許発明であること,及び,本件通信システム方法と本件通信システムがそれぞれ本件特許発明1,16の構成要件を充足することを承知している。したがって,被告が主観的要件を充足することは明らかである。
17以上からすれば,被告の行為は,特許法101条5号,2号により,それぞれ本件特許発明1,16を侵害するものとみなされる。
イ 被告の主張争う。LTE規格通信システムは本件特許発明1,16の構成要件を充足せず,この点だけからも,間接侵害が成立しないことは明らかである。
(4) 争点(4)(本件特許の無効理由の有無)についてア 被告の主張本件特許発明1及び16に係る特許は,以下の各理由により無効とされるべきものであるから,原告による本件特許権の行使は認められない。
(ア) 本件特許発明1及び16は,平成11年(1999年)7月29日にドイツ連邦共和国特許庁によって発行された同国特許第19800953号公報(乙12)に記載された発明(以下「乙12発明」という。)と同一であるから,新規性を欠く。また,仮に「サブキャリアのセットの割当てを更新する」構成が乙12発明にはないとしても,この点は,乙12発明に乙13記載事項を適用すれば容易想到であるから,本件特許発明1及び16は進歩性を欠く。
(イ) 本件特許発明1は,平成11年(1999年)に米国電気電子学会によって発行されたChuang及びSollenberger著「Wideband WirelessData Access Based on OFDM And Dynamic Packet Assignment」(乙13)に記載された発明(以下「乙13発明」という。)とは,乙13発明(方法発明)において「加入者装置が候補サブキャリアを選択する」か否かが不明である点において異なるが,この点は乙12記載事項を適用することにより容易想到であるから,進歩性を欠く。
また,本件特許発明16は,乙13発明とは,乙13発明(装置発明)において「加入者装置が,使用を望んでいるサブキャリアのフィードバック情報を生成することができる」か否か不明である点,及び「複18数のサブキャリアから候補サブキャリアのセットを選択する」か否かが不明である点において異なるが,これらの点は,乙12記載事項を適用することにより容易想到であるから,進歩性を欠く。
(ウ) 本件特許発明1及び16は,平成10年(1998年)8月13日に公開された国際公開WO98/35463号(乙16)に記載された発明(以下「乙16発明」という。)とは,乙16発明においては「端末が一度チャネルを割り当てられた後に,再びチャネルの品質を測定して基地局にフィードバックし,再びチャネルの割当てを受けること」が明示されていない点において異なるものの,この点は乙13にも記載されているとおり常套手段であるから,本件特許発明1及び16は乙16発明に基づき容易想到であって,進歩性を欠く。
イ 原告の主張いずれも争う。
(5) 争点(5)(原告が被った損害額)についてア 原告の主張被告は,被告製品のうち別紙物件目録記載1ないし7の製品につき,同目録の「発売年月」欄記載の各時期から訴え提起日である平成26年5月16日までの間に,少なくとも3555万台を,同目録記載8ないし11の製品につき,同目録の「発売年月」欄記載の各時期から「訴えの追加的変更申立書」提出日である平成27年3月16日までの間に,少なくとも1200万台を,それぞれ販売した。被告製品の実施料相当額は少なくとも1台当たり50円であるから,特許法102条3項所定の「その特許発明実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」は,被告製品1ないし7については17億円,同8ないし11については6億円を,それぞれ下ることはなく,合計23億円が原告の受けた損害額となる(特許法102条3項)。
19イ 被告の主張争う。
第3 当裁判所の判断1 争点(1)(本件通信システム方法の本件特許発明1の技術的範囲への属否)及び争点(2)(本件通信システムの本件特許発明16の技術的範囲への属否)について原告は,構成要件1C,1D,1E,16D充足性につき,見解1及び2を主張して,いずれの見解によっても上記各構成要件を充足すると主張する。しかしながら,当裁判所は,各構成要件に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載等に照らして,本件通信システム方法は,原告の主張する見解1を採用すると,少なくとも構成要件1C,1D,1Eを充足せず,原告の主張する見解2を採用すると,少なくとも構成要件1Eを充足しないし,本件通信システムは,いずれの見解によっても,少なくとも構成要件16Dを充足しないから,結局,本件通信システム方法及び本件通信システムが本件特許発明技術的範囲に属するとは認められないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 本件明細書の「発明の詳細な説明」には,以下の記載がある(甲4)。
ア 技術分野(段落【0001】)(略)本発明は,直交周波数分割多重化(OFDM)を使っている多重セル多重加入者無線システムに関する。
イ 背景技術(ア) 多数の加入者のための多重アクセスをサポートするためにOFDMを使用する1つのやり方として,(中略)時分割多重アクセス(TDMA)がある。直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)は,OFDMの基本的フォーマットを使用した多重アクセスの別の方法である。OFDMAでは,多数の加入者が,周波数分割多重アクセス(FDMA)に20類似した様式で,異なるサブキャリアを同時に使用する。(以下略)(段落【0003】)(イ) (略)OFDMAシステムでは,各加入者が高チャネルゲインを享受できるように,サブキャリアを加入者に適応させて割り当てれば好都合である。(以下略)(段落【0004】)(ウ) (略)積極的な周波数再使用プラン,例えば同一スペクトルを多数の隣接するセルで使用する場合,セル間干渉の問題が発生する。OFDMAシステムにおけるセル間干渉も周波数選択性であるのは明らかで,サブキャリアの適応割り当てを行ってセル間干渉の影響を緩和するのは,有用なことである。(段落【0005】)ウ 発明が解決しようとする課題(段落【0006】)OFDMAに関してサブキャリア割当を行うという1つのアプローチは,統合最適化オペレーションであるが,これは,全セル内の全加入者の行動とチャネルに関する知識が必要なばかりでなく,現在の加入者がネットワークを抜けたり新しい加入者がネットワークに加わったりした場合,その度毎に周波数の再調整が必要になる。これは,主に,加入者情報を更新するための帯域幅コストと統合最適化のための計算費用のせいで,実際の無線システムでは非実用的である場合が多い。
エ 課題を解決するための手段(段落【0007】)システムのためにサブキャリア選択を行う方法及び装置が記述されている。或る実施形態では,システムは,直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用している。或る実施形態では,サブキャリア選択のための方法は,加入者が,基地局から受信したパイロット記号に基づいてサブキャリア毎にチャネル及び干渉情報を測定する段階と,加入者が候補サブキャリアのセットを選択する段階と,候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を基地局に提供する段階と,加入者が使用するように基21地局が選択したサブキャリアのセットの内のサブキャリアの表示を受信する段階と,を備えている。
オ 発明を実施するための最良の形態(ア) ダウンリンクチャネルに関しては,各加入者は最初に全てのサブキャリアについてチャネルと干渉の情報を測定し,性能の良い(中略)複数のサブキャリアを選択して,それら候補サブキャリアに関する情報を基地局にフィードバックする。このフィードバックには,全てのサブキャリアについて又は一部のサブキャリアだけについてのチャネルと干渉の情報(中略)が含まれる。(以下略)(段落【0010】)(イ) 加入者からこの情報を受信すると,基地局は,基地局で入手可能な追加情報(中略)を利用して,候補の中からサブキャリアを更に選択する。(以下略)(段落【0011】)(ウ) (略)この情報に基づいて,各加入者は,相対的に性能が良好な(中略)1つ又は複数のクラスタを選択して,これらの候補クラスタに関する情報を所定のアップリンクアクセスチャネルを通して基地局にフィードバックする(処理ブロック103)。(以下略)(段落【0026】)(エ) 加入者からフィードバックを受信すると,基地局は,次に,候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する(処理ブロック104)。基地局は,基地局で入手可能な追加情報(中略)を利用する。
(中略)基地局は,この情報をサブキャリア割当に使用して,セル間干渉を低減する。(段落【0029】)(2) LTE規格(リリース8に対応するもの)に関する仕様書(「3GPP TS36.213 V8.8.0(2009-09)」と題するもの)(甲10の3)には,以下の記載がある。なお,記載中の「UE」とは「ユーザ端末」を意味する。
・ 「高次階層設定サブバンドフィードバック」22○モード3−0の説明:・UEはまた,各Sサブバンドセットについて1つのサブバンドCQI値を報告しなければならない。サブバンドCQI値はそのサブバンドのみで伝送するとの仮定で計算される。
○モード3−1の説明:・UEは,各Sサブバンドセットについてのコードワードにつき1つのサブバンドCQI値(全てのサブバンドについて単一のプリコーディング行列を使用するとの仮定,及び,対応するサブバンドで伝送がなされるとの仮定で計算される)を報告しなければならない。
○サブバンドCQI値は各コードワードごとにそれぞれ対応したワイドバンドCQIに対する差分が次のように定義された2ビットを用いて符号化される。
・サブバンド差分CQIオフセットレベル=サブバンドCQIインデックス−ワイドバンドCQIインデックス2ビット差分CQI値からオフセットレベルへのマッピングは表7.2.1-2に示されている。
表7.2.1-2サブバンド差分CQI値 オフセットレベル0 01 12 ≧23 ≦−1(3) 構成要件1Cの「選択」及び構成要件1Dの「情報提供」についてア 本件特許発明1は,直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのためのサブキャリア選択の方法に関するものであり(構成要件1A),加入者装置が,@基地局から受信したパイロット記号23に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階(構成要件1B),A候補サブキャリアのセットを選択する段階(構成要件1C),B候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を基地局に提供する段階(構成要件1D),C加入者装置用として基地局により選択されたサブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階(構成要件1E)等を含むことを特徴とする。
このように,本件特許発明1において,加入者装置は,構成要件1Cで「候補サブキャリアのセット」の「選択」を行い,構成要件1Dで,上記「選択」した「候補サブキャリアのセット」に関して情報提供を基地局に行うものである。
一方,LTE規格の非周期的CQIレポートの高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置(ユーザ端末)は,N個のサブバンドで構成されている全帯域の「N個のサブバンド全部」について,サブバンド差分CQI値を報告することとされている(当事者間に争いがない。また,前記(2)のとおり,LTE規格の仕様書には,高次階層設定サブバンドフィードバックの欄に,ユーザ端末が,各サブバンドセットについて1つのサブバンドCQI値を報告しなければならない旨の記載がある。)。
イ 原告は,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されている旨主張するが(見解1),このように,LTE規格の上記モードにおいて,全てのサブバンドについて情報提供が義務付けられているとすれば,これは本件特許発明1の特徴である「選択したものについて情報提供を行う」との処理とは異なるものであって,構成要件1Cでいう「選択」や,それに引き続く構成要件1Dの「情報提供」があるとはいえない。
広辞苑第6版(乙3)によれば,「選択」とは,「えらぶこと。適当なものをえらびだすこと。良いものをとり,悪いものをすてること。」を意24味するとされており,「選択」とは,何らかの基準を充たすものを選び出すことを意味すると解すべきである。
なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には,「各加入者は(中略)性能の良い(中略)複数のサブキャリアを選択して,それら候補サブキャリアに関する情報を基地局にフィードバックする。」と記載されており(甲4),これは実施例に関する記載ではあるが,各加入者が性能の良いものを選び出し,その選択したサブキャリアに関する情報を提供するという過程が記載されており,上記解釈を裏付けるものである。
また,選択を行う者が,何らかの基準に従って対象物につき選択を行った結果,全てが選ばれる場合も想定し得るが,上記のとおり,非周期的CQIレポートの高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置(ユーザ端末)は,常に全てのサブバンドについてのサブバンド差分CQI値を報告することとされており,このような場合には「選択」の余地はないというべきである。
なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には「このフィードバックには,全てのサブキャリアについて又は一部のサブキャリアだけについてのチャネルと干渉の情報(中略)が含まれる」(段落【0010】)との記載があるが(甲4),これはあくまで,結果的に「全てのサブキャリア」が選択されることもあり得ることを前提とした記載というべきであって,常に「全てのサブキャリア」が選択されることを前提とした記載ではない。
原告は,情報処理技術分野においては,「全部の選択」等の用語の用い方はごく一般的であり,本件特許発明の「選択」の技術的意義については,単なる日本語の語義に基づくことは誤りであるとも主張する。しかし,本件特許の関連技術分野全てにおいて「選択」との文言が上記のように用いられることが通常であることを認めるに足りる証拠はないし,本件明細書25においても,「選択」との文言の意義につき特段の説明はないから(甲4),原告の上記主張は採用できない。
このほか,原告は,全サブバンドについてサブバンド差分CQIのフィードバックを行うことによって,情報量の低減効果があるとも主張するが,情報量の低減効果の有無と,サブバンドの「選択」の有無とは,直接関係がないことである。
ウ 以上のとおり,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されているとの原告の主張(見解1)を前提にすると,本件通信システム方法では,加入者装置(ユーザ端末)において本件特許発明1の規定する「選択」をしていないから,構成要件1Cを充足せず,更に,選択したものについて「情報提供」をしているともいえないから,構成要件1Dも充足しない。
(4) 構成要件1Eの「選択」についてア 構成要件1Eの「選択」は基地局が行うものであるところ,同構成要件の「選択」の対象が「前記サブキャリアのセット」として,構成要件1Cや1Dの「候補サブキャリアのセット」を受けていることからすれば,構成要件1Eの「前記サブキャリアのセット」は,加入者装置(ユーザ端末)が選択した「候補サブキャリアのセット」を意味すると解すべきである。
この解釈は,本件特許発明1の目的からも裏付けられる。すなわち,前記(1)のとおり,本件特許発明1は,直交周波数分割多重化(OFDM)を用いた多重セル多重加入者無線システムにおいて,個々の加入者装置へのサブキャリアの割当ての最適化を行うためには,統合最適化オペレーションでは全てのセル(地域)内の全てのユーザ端末の行動とチャネルの知識が必要なために現実的ではないことから,基地局と個々の加入者装置との間のサブキャリアに関する情報のやりとりにより,役割の分散と複雑性26の低減を図ることを目的とするものである。しかるに,加入者装置が情報提供した候補サブキャリアのセット以外のものを基地局が選択できるように構成することは,基地局の負担を増大させるとともに,加入者装置が候補を挙げることの意味を失わせ,本件特許発明1の目的に反することになるから,この観点からも,上記解釈が裏付けられるものである。
また,前記(1)オ(エ)のとおり,本件明細書上も,「基地局は,次に,候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する」と記載されており,これは実施例に関する記載ではあるが,上記解釈を裏付けるものといえる。
そして,前記(3)のとおり,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されているとの原告の主張(見解1)を前提にすると,本件通信システム方法においては,本件特許発明1の規定する加入者装置(ユーザ端末)が選択した「候補サブキャリアのセット」はないから,構成要件1Eの「前記サブキャリアのセット」自体が存在せず,その余について考慮するまでもなく,同構成要件を充足しない。
イ 原告は,加入者装置(ユーザ端末)がサブバンドについてサブバンド差分CQIとして0,1又は2を付すことは,これらの値を付したサブバンドを「選択」したことに相当するとも主張する(見解2)。
しかし,仮に,加入者装置(ユーザ端末)が,サブバンド差分CQIとして0,1又は2を付したサブバンドを「選択」したと解しても,LTE規格において,基地局が,加入者装置(ユーザ端末)がサブバンド差分CQIとして0,1又は2を付したサブバンドの中から,同加入者装置(ユーザ端末)に割り当てるサブバンドを選択する旨の定めがあるとは認められない。
この点に関して,原告は,被告製品について行われた測定結果(甲36ないし39)を提出し,本件通信システム方法において,基地局は,加入27者装置(ユーザ端末)がサブバンド差分CQIとして0,1又は2を付したサブバンドを,同加入者装置(ユーザ端末)用として選択していることが立証されたと主張する。
しかし,上記測定において,サブバンド差分CQIとして0,1又は2が付されたサブバンドが加入者装置(ユーザ端末)に割り当てられているとしても,これは,原告が選択した特定の日時・基地局において,結果的にそのような割当てが行われたことを意味するにすぎず,これをもって本件通信システム方法全般について原告の主張するような事実が立証されたとはいえない。
また,原告も,いったんは,基地局の総合的な判断に基づき,サブバンド差分CQIが3であるサブバンドに属するリソース・ブロックが割当ての対象となり得ることにつき認めていたものである(原告準備書面(4)の36頁注1参照)。
そして,服部武編著「OFDM/OFDMA教科書」(甲13の2)の第9章「携帯電話:LTEおよびIMT-Advanced(4G)とOFDM/OFDMA(その2)」には「実際には,スケジューリングによる各ユーザー端末へのPDSCHの無線リソース割り当ては,各ユーザー端末の以下の情報を基に総合的に決定されます。」との記載(307頁参照)があり,「以下の情報」として(1)から(6)までの各種情報(そのうち(6)が「各RB(リソース・ブロック)のCQI(チャネル品質)」)が記載されている。
以上からすれば,LTE規格において,基地局は,サブバンド差分CQIも含め,様々な情報に基づく総合的な判断によって,ユーザ端末に割り当てるリソース・ブロックを決定しているものと認められ,基地局が,サブバンド差分CQIのみに基づく「選択」を行っているとは認められない。
ウ このほか,原告は,基地局が加入者装置(ユーザ端末)に対し,サブバンド差分CQIとして0,1又は2が付されたサブバンドに属するリソー28ス・ブロックを一部でも割り当ててさえいれば,基地局は,加入者装置(ユーザ端末)が選択した「サブキャリアのセット」の中から割り当てたことになり,仮に,そのほかに加入者装置(ユーザ端末)がサブバンド差分CQIとして3を付したサブバンドに属するリソース・ブロックをも割り当てたとしても,前記「サブキャリアのセット」から割当てが行われた事実に変わりはないとする。
しかし,前記アのとおり,本件特許発明1においては,基地局の負担の増大を防ぐために,基地局は,加入者装置が選択した候補サブキャリアのセットの中から,加入者装置に割り当てるべきサブキャリアのセットを選択するものとされているところ,加入者装置が選択していないサブキャリアのセットを割り当てた場合には,基地局の負担が増大し,このような事態は本件特許発明1の目的に反するものであるから,原告の上記主張は採用できない。
エ 以上からすれば,見解1,2のいずれを採用しても,本件通信システム方法は,基地局において「前記サブキャリアのセット」から「サブキャリア(のセット)」を「選択」しているとはいえず,構成要件1Eを充足しない。
(5) 構成要件16Dの「選択」及び「情報提供」についてア 本件特許発明16は,加入者装置が,@基地局から受信したパイロット記号に基づいて複数のサブキャリアに関するチャネル及び干渉情報を測定すること(構成要件16C),A候補サブキャリアのセットを選択すること(構成要件16D),B候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報を基地局に提供すること(同構成要件),C加入者装置が使用するように基地局がサブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信すること(同構成要件)などを含むことを特徴とする装置に関するものであり,本件特許発明1と基本的に同様の技術思想に基づいてOFD29MAのサブキャリアの割当てを行うものである。また,本件特許発明16に係る発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明1と共通しているから,構成要件16Dのうち加入者装置及び基地局による各選択(上記A及びC),並びに加入者装置による情報提供(上記B)に関しては,本件特許発明1の構成要件1C,1E,1Dについて論じたところと同様に解するのが相当である。
なお,本件特許発明16の特許請求の範囲の記載が「基地局が前記サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示」となっている点は,本件特許発明1の「基地局により選択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示」との記載と異なるが,本件特許発明16において基地局が選択して割り当てるのがサブキャリアではなくサブキャリアのセットであることは,特許請求の範囲の記載からも明らかであり(訂正後の構成要件16E参照),この点は上記解釈に影響を及ぼすものではない。
イ 以上からすると,前記(3)と同様の理由により,本件通信システムにおいて,加入者装置(ユーザ端末)が「複数のサブキャリアから候補サブキャリアのセットを選択し」ているとはいえず,同「候補サブキャリアのセットに関するフィードバック情報」を基地局に提供しているともいえず,または,前記(4)と同様に,本件通信システムにおいて,第1基地局が「前記サブキャリアのセット」からサブキャリアのセットを「選択」したとはいえないから,いずれにしても,構成要件16Dを充足しない。
2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件通信システム方法及び本件通信システムは,それぞれ本件特許発明1及び16の技術的範囲に属さないから,ひいては,被告製品の販売が本件特許権の間接侵害に当たることもない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお30り判決する。
東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官 沖 中 康 人裁判官 矢 口 俊 哉裁判官 宇 野 遥 子31(別紙)物 件 目 録商品名 発売年月1 iPhone5S H25.9.202 iPhone5C H25.9.203 iPhone5 H24.9.214 iPad Air H25.11.15 iPad mini Retina ディスプレイモデル H25.11.146 iPad Retinaディスプレイモデル(第4世代) H24.11.307 iPad mini H24.11.308 iPhone6 H26.99 iPhone6 plus H26.910 iPad Air 2 (Wi-Fi+Cellular) H26.1011 iPad mini 3 (Wi-Fi+Cellular) H26.1032(別紙)本件通信システム方法の特徴1a 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのダウンリンクのためのサブキャリアの選択の方法である。
1b ユーザ端末は,基地局から受信したリファレンス信号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する。
1c ユーザ端末は,サブバンドに差分CQI「0」,「1」又は「2」を付して候補となるリソース・ブロックを選択する。
1d ユーザ端末は,候補としたリソース・ブロックに関するCQI情報を基地局に提供する。
1e ユーザ端末は,ユーザ端末用として基地局により選択された前記リソース・ブロックを特定するDCIフォーマット情報を受信する。
1f ユーザ端末は,DCIフォーマット情報により特定された割り当てられるべき前記リソース・ブロックを割り当てられた後,更新されたリソース・ブロックの割り当てを基地局から受けるために,更新されたCQI情報を基地局に提出する。
1g その後,ユーザ端末は,基地局により前記更新されたリソース・ブロックを特定する別のDCIフォーマット情報を受信する。
1h LTE規格通信システムにおけるダウンリンクにおけるサブキャリアの選択方法である。
以上33(別紙)本件通信システムの特徴16a ユーザ端末1及びユーザ端末2が使用を望んでいるサブバンドに差分CQI「0」,「1」又は「2」を付して表示して,当該サブバンドに関するCQIを生成することができる,第1セル内の複数のユーザ端末装置が存在する。
16b ユーザ端末1及びユーザ端末2に対して,サブバンド内のOFDMAサブキャリアを割り当てることができる,前記第1セル内の第1基地局が存在する。
16c ユーザ端末1及びユーザ端末2は,それぞれ,前記第1基地局から受信したリファレンス信号に基づいて複数のサブキャリアに関するチャネル及び干渉情報を測定する。
16d ユーザ端末1は,サブバンドに差分CQI「0」,「1」又は「2」を付して候補となるリソース・ブロックを選択し,候補としたリソース・ブロックに関するCQI情報を前記第1基地局に提供して,ユーザ端末1が使用するように前記第1基地局により選択された前記リソース・ブロックを特定するDCIフォーマット情報を受信する。
16e ユーザ端末1は,前記リソース・ブロックを割り当てられた後,更新されたリソース・ブロックを受信するために,更新されたCQI情報を第1基地局に提出する。
16f その後,ユーザ端末1は,前記更新されたリソース・ブロックを特定する別のDCIフォーマット情報を受信する。
16g LTE規格通信システムネットワークである。
以上34
事実及び理由
全容