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関連ワード 特許を受ける権利 /  協議 /  出願公開 /  名義変更 /  警告 /  善意 /  特許料(維持年金) /  実施 /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  移転登録 /  変更 /  費用の額 /  代理権 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 11226号 特許権移転登録抹消登録手続請求事件
原告A
被告B
同訴訟代理人弁護士 杉野修平
同 曽我徳章
被告C
同訴訟代理人弁護士 谷雅文
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/09/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告Bは,別紙1特許目録記載の特許権について,特許庁平成14年12月27日受付第006743号(平成15年1月16日登録)の本権の移転登録の抹消登録手続をせよ。
2 被告Cは,別紙1特許目録記載の特許権について,特許庁平成15年3月27日受付第002424号(同年4月8日登録)の専用実施権設定登録の抹消登録手続をせよ。
3 訴訟費用は,被告らの負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
原告は,原告の有する特許権について,移転登録の名義人である被告B及び専用実施権設定登録の名義人である被告Cに対し,各登録の抹消登録手続を求めた。これに対し,被告らは,原告と被告Bとの間で,本件特許権を対象として,代物弁済契約がされ,これに基づき被告Bに移転登録がされ,また,被告Bと被告Cとの間で専用実施権の設定契約がされ,これに基づき専用実施権設定登録がされたと反論し,さらに被告Cは,仮に被告Bに本件特許権の譲渡契約がされなかったとしても,そのことについて善意かつ無過失であるから,民法94条,110条により,原告は被告Cに対して,譲渡が存在しないこと等を対抗できないと反論した。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。) (1) 平成5年11月22日,Dは,別紙1特許目録記載の特許権に係る廃水処理用凝集剤に関する発明(以下「本件発明」という。)に係る出願をした(出願番号05-315966)(以下「本件出願」という。)。
(2) 原告は,平成12年6月ころ,Dから本件発明に係る特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)を200万円で譲り受け(甲11),同年10月にDから原告への出願人名義変更届出を行い,平成14年7月1日,特許査定を受け,同年8月7日に,3年分の特許料合計5万2200円を納付し,同年9月6日,本件発明について特許権の設定登録を受けた(以下「本件特許権」という。)。
(3) 平成14年12月27日,原告から被告Bに対する本件特許権移転登録の申請がされ(特許庁受付第006743号),平成15年1月16日,その旨の移転登録がされた(以下「本件移転登録」という。)。
(4) 平成15年3月15日,被告Bと被告Cは,被告Cに本件特許権の専用実施権を設定する旨合意した(以下「本件専用実施権設定契約」という。)(乙15)。そして,同月27日,被告Cに対する専用実施権設定登録申請がされ(特許庁受付第002424号),同年4月8日,被告Cに対する専用実施権設定登録がされた(以下「本件専用実施権設定登録」という。)。
2 争点 (1) 原告は被告Bに対して,本件特許権を代物弁済として譲渡する旨の意思表示をしたか。
(2) 原告は,被告Cに対して,原告から被告Bに対する譲渡の意思表示をしていないこと等について対抗できないか。
3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(原告から被告Bに対する譲渡する旨の意思表示の有無)について (被告らの主張) ア 本件特許権は,原告と被告B間の代物弁済契約を原因として,原告から被告Bに譲渡されたものである。
イ 被告Bは,平成12年9月26日,原告から,本件出願の審査請求期限(同年11月21日)前に被告Bにおいて審査請求の手続を採ることを依頼され,同年10月19日,原告との間で,必要書類の準備等に関して協議をした。その際,原告は,被告Bに対し,本件出願の審査請求をしたいが費用がないこと,その費用を被告Bに立て替えてもらいたいと伝えた。被告Bは,原告の申出を了承し,原告との間で,被告Bが本件出願の審査請求に必要な費用を立て替えて支払い,特許査定を受けて特許権の設定登録がされた後に,原告が被告Bに当該費用,経費等を支払うこと,原告がその支払をしない場合には,当該支払に代えて本件特許権を被告Bに譲渡することを内容とする代物弁済の予約を合意した。
ウ 被告Bは,平成12年10月22日ころ,原告から,本件出願の審査請求に必要な書類の送付を受け,知的財産権の情報サービス等を専門とする株式会社サンエム(以下「サンエム」という。)の従業員であるEに手続一切を依頼した。
エ 被告Bは,上記合意に基づいて,特許印紙代9万2300円,審査請求書作成費4万2000円を支払った。また,本件出願の審査請求手続のために数回上京し,交通費,宿泊費等の経費を要した。これらの費用等は,別紙2費用等一覧表記載のとおりであり,合計42万0327円である。
オ 被告Bは,平成14年9月,株式会社新澤組から,原告が本件特許権の登録を得たことを聞き,原告に連絡したが,原告は被告Bと話そうとせず,被告Bが原告のために立て替えた費用等を支払わなかった。
そこで,被告Bは,前記の代物弁済予約の予約完結権を行使して,本件特許権を被告Bに移転する旨の登録手続をEを通してFに依頼し,それに基づいて,本件移転登録がされた。
(原告の反論) ア 被告らの主張は否認する。
イ 原告は,平成12年10月,Dから,本件特許を受ける権利を200万円で譲り受け,それに伴い,本件出願の名義人変更届出手続を,被告Bに紹介された弁理士に依頼した。その際,原告は,被告Bとともにサンエムに赴いて手続を依頼したが,対応したのがEであった。
ウ 本件出願の名義人変更届出の手続後,原告は,被告Bから,手続費用は被告Bが支払ったと聞いた。その際,原告は,費用の額について照会したが,被告Bは,その支払の必要はないと述べた。原告は,その後,サンエムに照会して,費用額が13万4300円であることを知った。しかし,原告においても,被告Bのために,諸経費を負担したことがあり,また,業者を紹介したり,取引先に出向いて商品説明などを実施して,販売協力をしたこと等を考慮すると,審査請求の費用を被告Bが負担して,清算済みとすることには合理性があると理解した。
エ 原告は,その後も平成14年2月ころまで,被告Bのために取引先を紹介したり商品説明を行うなどしていたが,原告と被告Bは,お互いに,自己の負担した諸経費の支払や分担を請求することはなかった。
オ 本件特許権が登録された後である平成15年1月16日,原告は,特許庁からの通知書によって,被告Bに対する本件移転登録がされていることを知った。そこで,本件移転登録の申請書類を確認したところ,原告から被告Bに本件特許権を譲渡した旨を記載した原告名義の譲渡証書が偽造されていることが判明した。
カ 以上のとおり,原告は,被告Bとの間で代物弁済予約の合意をしたことはなく,本件特許権は被告Bに移転していない。
(2) 争点(2)(原告は,被告Cに対して,原告から被告Bに対する譲渡が存在しないこと等につき対抗できないか。)について (被告Cの主張) ア 仮に,本件特許権が被告Bに移転していないとしても,被告Cは,被告Bが本件特許権の権利者であると信じて,被告Bとの間で本件専用実施権設定契約を締結したから,被告Cは,民法94条2項及び同法110条の重畳的類推適用により,善意の第三者として保護され,原告は,被告Bが無権利者であることを被告Cに主張し得ない。
イ 原告は,被告Bに対し,本件出願の審査請求に関する委任をして,必要な書類を交付した上で,かかる手続を進行させる代理権を授与していた。
そして,原告は,その後,審査請求の費用を被告Bに支払わず放置した結果,被告Bによる原告名義の冒用につながったのであり,民法94条2項及び同法110条の重畳的類推適用に必要とされる帰責性が認められる。
他方,被告Cは,@本件特許権が被告B名義で登録されていたこと,A原告から被告Bに対する本件特許権の譲渡証書を示されたこと,B当該譲渡証書にはその裏面に特許庁による「登録済」の押印があったこと,C本件専用実施権設定契約については第三者であるEが介在していたことなどから,被告Bが本件特許権の権利者であることを信頼したものであって,被告Bが無権利者であることを知らなかったことについて過失はない。
(原告の反論) ア 被告Cの主張は否認する。
イ 原告には,民法94条2項及び同法110条の重畳的類推適用に必要とされる帰責性がない。被告Bに代理権を授与した事実もない。
争点に対する判断
1 争点(1)(原告から被告Bに対する譲渡する旨の意思表示の有無)について (1) 被告らは,抗弁として,原告と被告のBとの間において,被告Bが本件出願の審査請求に必要な費用を立て替えて支払い,特許査定を受けて特許権の設定登録がされた後に,原告が被告Bに当該費用,経費等を支払うこと,原告がその支払をしない場合には,当該支払に代えて本件特許権を被告Bに譲渡することを内容とする代物弁済の予約契約を締結したと主張する。
しかし,以下詳細に認定,判断するとおり,被告らの主張は,同主張に沿った事実を認めることができないので,採用の限りではない。
ア 事実認定 争いのない事実,証拠(甲1ないし12,乙6ないし14)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(ア) 原告は,平成12年6月ころ,Dから本件特許を受ける権利を200万円で譲り受けた(甲11)。
また,本件出願は,平成5年11月22日にされており,審査請求期限(平成11年法律第41号による改正前の特許法48条の3第1項により特許出願の日から7年以内)である平成12年11月21日が迫っていた。
そこで,原告は,出願人名義変更の届出及び審査請求の手続について,従前から仕事上の付き合いがあった被告Bに相談し,被告Bから知的財産権の情報サービス,調査,管理を専門とするサンエムのEを紹介された(甲11)。そして,原告は,同年10月ころ,被告Bに対し,委任状,印鑑登録証明書,「出願公開のお知らせと審査請求の確認」と題する書面などを送付した上(乙6ないし14),被告Bとともにサンエムの事務所を訪れ,Eに対し,出願人名義変更届出及び審査請求の手続を依頼した(甲10,11)。
これらの手続に要する費用は,被告Bにおいてひとまず負担することになり,被告Bは,サンエムに対し,特許印紙代9万2300円のほか,その他の手続費用として4万2000円を支払った(甲9の1ないし9の2,11)。
(イ) 被告Bがサンエムに支払った費用合計13万4300円について,同被告から知らされなかったので,原告は,Eに照会して,領収証の写しの送付を受けた(甲9の1ないし9の2)。その後も,原告と被告Bとは,相互の仕事に関して協力をし合って,良好な関係を保っていたが,平成14年2月ころから,両者間での仕事面での協力関係は途絶えた(甲11)。
(ウ) 平成14年7月1日,本件出願について特許査定があり,原告は,同年8月7日に3年間分の特許料5万2200円を納付した。そして,本件特許権は,同年9月6日に原告を権利者として設定登録された。
ところが,被告Bは,平成14年12月27日,本件特許権を原告から被告Bに移転する旨の移転登録の申請を行い,平成15年1月16日に,その旨の本件移転登録を受けた。
(エ) 原告は,本件移転登録後,特許庁からの通知により,本件特許権について,被告Bに対する本件移転登録がされたことを知り,特許庁や知人などに相談するなどした上,平成15年2月14日,被告Bに対し,原告代理人を通じて,本件特許権の登録を原状に戻すよう警告書を発送した(甲4,5)。被告Bの発した同警告書に対する回答書には,「費用の支払がない時は権利が交付されたらその権利を私のものとすると約束しました。」「弁理士より特許庁の書類を頂きました。私自身驚いています。」などの記載がされている(甲6の1)。
(オ) その後,平成15年3月15日,被告Bと被告Cとの間で本専用実施権設定契約が合意され,同年4月8日,本件専用実施権設定登録がされた。
イ 判断 以上認定した事実等に基づいて,被告らの抗弁事実の存否について判断する。
(ア) 前記のとおり,原告は,本件発明の特許を受ける権利をDから200万円で譲り受けている点に照らすならば,わずか13万円程度の立替費用の支払に代えて,特許権を被告Bに譲渡することを合意するのは,不自然である(この点,被告Bの主張に沿って,同被告が負担した諸費用の合計が50万円程度に達していたとしても,同様に不自然である。)。
(イ) 被告Bは,本件発明を自己の事業に利用しているので,本件発明の価値を十分に認識していると推測され(甲11,丙5),そのような経緯に照らすならば,被告Bが,真実,原告から本件特許権の代物弁済予約契約を締結して,特許権を譲り受けようとするのであれば,書面の作成を求めることが合理的であるといえるが,両者間では,そのような契約書の作成は全く行われていない。
(ウ) 原告は,特許査定を受けた後,自らの負担で3年分の特許料を納付して,自己に対する特許権の設定登録を受けていることに照らすならば,審査請求の手続に関して,被告Bから立て替えを受けた13万円程度の費用等の支払のために,特許権を代物弁済予約契約の対象にしていたということは,いかにも不自然である。
(エ) 本件移転登録の申請書(甲3)及びこれに添付された原告作成名義の譲渡証書(乙2)について,原告は,それらの作成に一切関与しておらず,これらの書面の原告名下の印影も,原告の印章によるものではなく(甲11),被告Bから原告に対し,本件移転登録について知らせた形跡もないことに照らすならば,原告と被告Bとの間で代物弁済予約について,了解をしたと解することもできない。
(2) 以上のとおり,原告は被告Bに対して,本件特許権を代物弁済として譲渡する旨の意思表示をしたことはない。
2 争点(2)(原告は,被告Cに対して,原告から被告Bに対する譲渡が存在しないこと等につき対抗できないか。)について 被告Cは,本件特許権が被告Bに移転していないとしても,被告Cは,被告Bが本件特許権の権利者であると信じて,被告Bとの間で本件専用実施権設定契約を締結したから,被告Cは,民法94条2項及び同法110条の重畳的類推適用により,善意の第三者として保護され,原告は,被告Bが無権利者であることを被告Cに主張し得ない旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,原告は,被告Bとの間で,本件特許権の譲渡に関する何らの意思表示をしたこともなく,原告が被告Bに対して,特許権の移転に関連して何らかの代理権を授与したこともない。また,その他原告が本件移転登録の作出に関与し,あるいは,本件移転登録により被告Bが本件特許権者であることを示す外観を容認していたことをうかがわせる事情も認められない。
したがって,被告Cのこの点の主張を認めることはできない。
結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 山田真紀