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関連審決 無効2010-800114
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  国際公開 / 
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事件 平成 23年 (行ケ) 10118号 審決取消請求事件

原告 株式会社東和コーポレーション
同訴訟代理人弁護士 山上祥吾 甲谷健幸 中村亮介
同 弁理士 松尾憲一郎 市川泰央
被告 株式会社ユニワールド
被告株式会社ウィード
被告株式会社布施商店
上記3名訴訟代理人弁理士 阿部伸一 藤江和典 金子一郎
同訴訟復代理人弁護士 横井康真
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/04/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2010-800114号事件について平成23年3月8日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の下記2の本件発明に係る特許に対する被告らの無効審判請求について,特許庁が,同請求を認め,当該特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「樹脂表面の形成方法,表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の製造方法及びその物品,手袋の製造方法及び手袋」とする特許第4331782号(平成20年3月25日特許出願。国内優先権主張日:平成19年3月30日。平成21年6月26日設定登録。請求項の数7。以下「本件特許」という。)に係る特許権者である(甲15)。
(2) 被告らは,平成22年7月7日,本件特許に係る発明の全てである請求項1ないし7について特許無効審判を請求し,特許庁に無効2010-800114号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成23年3月8日,「特許第4331782号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。」との本件審決をし,同月17日,その謄本が原告に送達された。
2 本件発明の要旨 特許請求の範囲の請求項1ないし7の記載は次のとおりである。以下,これらの請求項に係る発明を,順に「本件発明1」ないし「本件発明7」といい,併せて「本件発明」という。文中の「/」は,「または/及び」の部分を除き,原文の改行箇所を示す。
【請求項1】異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し,しかも実用上十分な耐摩耗性を有する樹脂皮膜表面の形成方法であって,/気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し,/第1の凹状部よりも小さ い第2の凹状部は,未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成されることを含み,/上記第1の凹状部は,内径が100μm〜500μmであり,/上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,/上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,/形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5〜30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である,/樹脂皮膜表面の形成方法【請求項2】異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し,しかも実用上十分な耐摩耗性を有する樹脂皮膜表面を有する物品の製造方法であって,/気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し,/未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部を形成することを含み,/上記第1の凹状部は,内径が100μm〜500μmであり,/上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,/上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,/形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5〜30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である,/表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の製造方法【請求項3】異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し,しかも実用上十分な耐摩耗性を有する樹脂皮膜表面を有する物品であって,/気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより形成された第1の凹状部と,/未固化状態または固 化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成された,第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部と,/を含み,/上記第1の凹状部は,内径が100μm〜500μmであり,/上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,/上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,/形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5〜30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である,/表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品【請求項4】異なる大きさの凹状部が樹脂皮膜の表面に混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し,しかも耐実用上十分な摩耗性を有する手袋の製造方法であって,/気泡を含んだ樹脂組成物で未固化状態の樹脂皮膜(3)を形成し,その後粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が樹脂皮膜(3)の表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂皮膜(3)の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部(31)を形成し,/第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)は,未固化状態または固化状態の樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)が表面側で開口することによって形成されることを含み,/上記第1の凹状部は,内径が100μm〜500μmであり,/上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,/上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,/形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5〜30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である,/手袋の製造方法【請求項5】異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し,しかも耐実用上十分な摩耗性を有する手袋であって,/気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に,第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており,/上記第1の凹状部(31)は,樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を 除いた後の痕跡によって形成され,/上記第2の凹状部(32)は,樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されており,/上記第1の凹状部は,内径が100μm〜500μmであり,/上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,/上記樹脂皮膜(3)は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,/形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5〜30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である,/手袋【請求項6】気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に,気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)を少なくとも有している,/請求項5記載の手袋【請求項7】樹脂皮膜(3)に含まれる気泡の量が5〜10vol%である,請求項5または6記載の手袋 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,@本件発明1ないし6は,いずれも下記アの引用例1に記載された発明及び下記イないしエの引用例2ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,A本件発明7は,引用例1に記載された発明並びに引用例3及び4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例1:国際公開第2005/002375号(平成17年(2005年)1月13日公開。甲1) イ 引用例2:特開昭59-95135号公報(甲3) ウ 引用例3:特開2006-169676号公報(甲4) エ 引用例4:実願平3-3590号(実開平4-100213号)のマイクロフィルム(甲5) (2) なお,本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明1a」「引用発明1b」という。)は,次のとおりである。
ア 引用発明1a:優れたグリップ,より高い吸汗性及び絶縁体の柔軟な層を提供する,テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって,ステップ:(i)型を凝固剤で処理する;(A)型を浸漬被覆することによりラテックスの第1層を形成する;(B)ラテックスの第1層をゲル化する;(C)型を浸漬被覆することによりラテックスの第1層の上に発泡ニトリルラテックスの第2層を形成する;(D)発泡ニトリルラテックスの第2層に離散粒子を塗布し,非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する;(E)発泡ニトリルラテックスの第2層をゲル化する;(F)離散粒子を溶解する;(G)形成した層を熱硬化する;及び(H)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外すを含む,方法であって,該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み,該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密及び一様な分布を有し,そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する,テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法イ 引用発明1b::優れたグリップ,より高い吸汗性及び絶縁体の柔軟な層を提供する,テクスチャード加工表面被覆手袋であって,ステップ:(i)型を凝固剤で処理する;(A)型を浸漬被覆することによりラテックスの第1層を形成する;(B)ラテックスの第1層をゲル化する;(C)型を浸漬被覆することによりラテックスの第1層の上に発泡ニトリルラテッ クスの第2層を形成する;(v)発泡ニトリルラテックスの第2層に離散粒子を塗布し,非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する;(E)発泡ニトリルラテックスの第2層をゲル化する;(F)離散粒子を溶解する;(G)形成した層を熱硬化する;及び(H)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外すを含む,方法により製造される,該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み,該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密及び一様な分布を有し,そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する,テクスチャード加工表面被覆手袋 (3) また,本件審決が認定した本件発明1と引用発明1aとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点:異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する樹脂皮膜表面の形成方法であって,気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し,第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部は,未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成されることを含み,上記第1の凹状部は,内径が100μmないし500μmであり,上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる,樹脂皮膜表面の形成方法 イ 相違点1:第2の凹状部について,本件発明1においては「形成された樹脂 皮膜に含まれる気泡の量は5ないし30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが,引用発明1aにおいては特に規定されていない点 ウ 相違点2:本件発明1においては「実用上十分な耐摩耗性を有する」と特定されているが,引用発明1aにおいては特に規定されていない点 (4) 本件審決が認定した本件発明2と引用発明1aとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点:異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する樹脂皮膜表面を有する物品の製造方法であって,気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し,未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部を形成することを含み,上記第1の凹状部は,内径が100μmないし500μmであり,上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる,表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の製造方法 イ 相違点3:本件発明1を本件発明2と読み替えるほかは,相違点1と同じ。
ウ 相違点4:本件発明1を本件発明2と読み替えるほかは,相違点2と同じ。
(5) 本件審決が認定した本件発明3と引用発明1bとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点:異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する樹脂皮膜表面を有する物品であって,気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより形成 された第1の凹状部と,未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成された,第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部と,を含み,上記第1の凹状部は,内径が100μmないし500μmであり,上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の点 イ 相違点5:本件発明1を本件発明3と,引用発明1aを引用発明1bとそれぞれ読み替えるほかは,相違点1と同じ。
ウ 相違点6:本件発明1を本件発明3と,引用発明1aを引用発明1bとそれぞれ読み替えるほかは,相違点2と同じ。
(6) 本件審決が認定した本件発明4と引用発明1aとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点:異なる大きさの凹状部が樹脂皮膜の表面に混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋の製造方法であって,気泡を含んだ樹脂組成物で未固化状態の樹脂皮膜(3)を形成し,その後粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が樹脂皮膜(3)の表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂皮膜(3)の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部(31)を形成し,第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)は,未固化状態または固化状態の樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)が表面側で開口することによって形成されることを含み,上記第1の凹状部は,内径が100μmないし500μmであり,上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,上記樹脂組成物は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる,手袋の製造方法の点 イ 相違点7:本件発明1を本件発明4と読み替えるほかは,相違点1と同じ。
ウ 相違点8:本件発明1を本件発明4と読み替えるほかは,相違点2と同じ。
(7) 本件審決が認定した本件発明5と引用発明1bとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点:異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋であって,気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に,第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており,上記第1の凹状部(31)は,樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され,上記第2の凹状部(32)は,樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されており,上記第1の凹状部は,内径が100μmないし500μmであり,上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,上記樹脂皮膜(3)は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる,手袋の点 イ 相違点9:本件発明1を本件発明5と,引用発明1aを引用発明1bとそれぞれ読み替えるほかは,相違点1と同じ。
ウ 相違点10:本件発明1を本件発明5と,引用発明1aを引用発明1bとそれぞれ読み替えるほかは,相違点2と同じ。
(8) 本件審決が認定した本件発明6と引用発明1bとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点:異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋であって,気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に,第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており,上記第1の凹状部(31)は,樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され,上記第2の凹状部(32)は,樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されて おり,上記第1の凹状部は,内径が100μmないし500μmであり,上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,上記樹脂皮膜(3)は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5ないし30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下であり,気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に,気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)を少なくとも有している,手袋の点 イ 相違点11:本件発明1を本件発明6と,引用発明1aを引用発明1bとそれぞれ読み替えるほかは,相違点1と同じ。
ウ 相違点12:本件発明1を本件発明6と,引用発明1aを引用発明1bとそれぞれ読み替えるほかは,相違点2と同じ。
(9) 本件審決が認定した本件発明7と引用発明1bとの一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点:異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋であって,気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に,第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており,上記第1の凹状部(31)は,樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され,上記第2の凹状部(32)は,樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されており,上記第1の凹状部は,内径が100μmないし500μmであり,上記第2の凹状部は,樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており,上記樹脂皮膜(3)は,天然ゴム,アクリロニトリル-ブタジエンゴム,クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され,形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5ないし30vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である,手袋であって,気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に,気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)を少なくとも有しているかまたは有していない,手 袋の点イ 相違点13:第2の凹状部について,本件発明7においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5ないし10vol%,気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが,引用発明1bにおいては特に規定されていない点ウ 相違点14:本件発明1を本件発明7と,引用発明1aを引用発明1bとそれぞれ読み替えるほかは,相違点2と同じ。
4 取消事由 (1) 本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由1)ア 相違点の認定の誤りイ 相違点1に係る判断の誤りウ 相違点2に係る判断の誤り (2) 本件発明2ないし7の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)
当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 相違点の認定の誤りについてア 本件発明1と引用発明1aとの対比の誤り本件審決は,@ 引用発明1aにおいて,第2層を形成するラテックス材料として使用されている発泡ニトリルラテックスには,発泡に由来する気泡が多数存在しているものと認められ,未ゲル化状態でその表面に離散粒子を塗布,包埋し,ゲル化した後,離散粒子を溶解するのであるから,発泡ニトリルラテックス層の表面に離散粒子の形の複数の痕を有するとともに,ラテックス中の気泡に由来し,ゲル化と離散粒子溶解ないし熱硬化により生じた気泡の表面側での開口を有する,A 上記@の判断は,引用例1の「手袋の内側に含まれた場合は,テクスチャード加工表面は吸汗性を向上する」との記載(【0007】),「発泡材料は,テクスチャー ド加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わりに使用されてもよく,より高い吸汗性を提供する」との記載(【0013】),「発泡ラテックスのテクスチャード加工表面は,発泡構造により吸汗性を提供する」との記載(【0027】)からも明らかである,B 上記@の判断は,本件明細書【0047】の記載とも符合する,C 引用発明1aにおける「発泡ニトリルラテックス層の表面に離散粒子に由来する離散粒子の形の複数の痕」と,「ラテックス中の気泡に由来し,ゲル化及び離散粒子の溶解ないし熱硬化したことにより生じた気泡の表面側での開口」は,本件発明1の「第1の凹状部」,「第2の凹状部」にそれぞれ相当し,気泡開口は離散粒子の痕よりも小さいものであって,それにより,発泡ニトリルラテックス層表面には異なる大きさの凹状部が混在し,しかも,気泡開口は当然に発泡ニトリルラテックス層から窪んでいる離散粒子の痕の表面を含む発泡ニトリルラテックス層表面全体に多数形成されていることは明らかである,D 第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部は,未固化状態又は固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成されることを含む,などと判断している。
しかし,次のとおり,本件審決の判断は誤りである。
前記@の判断について引用例1に記載された製造方法においても,ラテックス層の平坦表面に気泡の開口が生じ得ることは認めるとしても,本件発明1のような気泡の量や気泡径の数値限定がないから,第1の凹状部の内表面に多数の気泡開口が形成されることはない。
引用例1には,発泡体に含有される気泡が破裂して開口する現象を説明した記載はなく,発泡体に含有される気泡の破裂による開口という技術はその発明の技術範疇にはない。また,引用発明1aで生起される気泡の大きさは,引用例1【図3】記載のスケールと比べると200μm以上であり,本件発明1における第1の凹状部の内表面に存在する第2の凹状部のような微細な気泡開口ではない。本件審決は,これらの点を看過し,引用例1記載の製造方法においても第1の凹状部(離散粒子の痕)が形成され,また,発泡に由来する気泡が存在するという理由だけで,第1 の凹状部の内表面にまで気泡開口が多数形成されるかのように判断しており,明らかな誤りである。
~ 前記Aの判断について引用例1【0007】【0013】【0027】にいう「テクスチャード加工表面」とは,第1の凹状部が形成された表面を指すから,これらの記載は,引用発明1aにおいても第1の凹状部の表面に多数の気泡開口が形成されることの理由にはならない。すなわち,吸汗性は,引用発明1aの離散粒子の痕(第1の凹状部)でも生起する機能であるから,吸汗性があることから当然に第1の凹状部の内表面に多数の気泡開口が形成されていることにはならない。
前記Bの判断について本件明細書【0047】の記載は,第2の凹状部が形成されるメカニズムを推測したものであるから,引用例1には開示も示唆もない「第1の凹状部の内表面の気泡開口」という技術と符合するはずはなく,本件審決の判断は誤りである。
。 前記Cの判断について前記のとおり,引用例1には,第1の凹状部の内表面に多数の気泡開口が生起することの開示はなく,引用例1に「窪んでいる離散粒子の痕の表面に気泡開口が形成されている」技術が開示されているとした本件審決は誤りである。
。 前記Dの判断について前記のとおり,本件発明1と引用発明1aとは,第1の凹状部の内面以外の表面に第2の凹状部が形成される点では一致するとしても,引用例1には,本件発明1のように第1の凹状部の内面に存在する第2の凹状部は開示されておらず,本件審決の判断は誤りである。
イ 相違点の看過 本件審決は,前記第2の3(3)イ,ウのとおり,本件発明1と引用発明1aとの相違点として,相違点1及び2を認定している。
しかし,本件発明1は,第1の凹状部の内表面に第2の凹状部が開口していると いう特殊な構造,すなわち,大きな凹状部の内表面側に更に小さな気泡開口の凹状部が形成されているという凹状部の二重構造に特徴があり,単に気泡が開口していればよいという技術ではない。そして,本件発明1は,このような凹状部の二重構造において,特に気泡の量を5ないし30vol%とし,気泡の長さ平均径を50μm以下とする数値限定を設けることにより,滑り止め,柔軟性,耐摩耗性などの機能,効果を発揮するものであるが,引用発明1aには,このような凹状部の二重構造についての開示や示唆はない。
~ また,本件発明1は,樹脂組成物(ラテックス層)の固化後に付着体(塩)を除去するから,塩の痕跡である第1の凹状部の内表面において,塩と接触した気泡表面の破裂を生起して確実に気泡の開口を行うことができる。これに対し,引用発明1aは,ラテックス層のゲル化の直後に塩の粒子を溶解するものであり,その場合は,仮に塩の溶解除去痕跡の内表面に気泡が存在して破裂開口する状態が生起していたとしても,ゲル化しきれなかったラテックスの一部が流動化して塩の痕跡内に流れ,気泡の開口が閉塞されるおそれがある。要するに,引用発明1aは,塩の粒子自体の多面的な形状を模写する痕跡をラテックス層にいかに形成するかという発明であり,気泡の破裂開口の技術に関するものではない。
以上のとおり,本件発明1と引用発明1aとは,凹状部の二重構造の開示の有無や製造プロセスの点でも異なるものであり,本件審決は,これらの相違点を看過した違法がある。
(2) 相違点1に係る判断の誤りについてア 本件審決は,引用発明1aでは,第1の凹状部の内表面を含む手袋の表面に気泡破裂の開口部(第2の凹状部)が形成されていると認定した上,第2の凹状部について,耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いを考慮しつつ気泡の量を15ないし30%と特定し,かつ,耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10ないし50μmと特定することは,引用例2ないし4から当業者が容易し得たことであると判断した。
しかし,引用発明1aでは,発泡ニトリルラテックスの第2層表面での気泡開口による凹状部を開示しているだけであり,第1の凹状部の内表面での気泡開口やこれを生起するのに必要な気泡の量と気泡径の数値は開示されていない。
また,次のとおり,引用例2ないし4に記載された数値は,あくまで平坦な樹脂表層で気泡開口が行われる際に必要な気泡の量や気泡径を示すものであって,本件発明1のように凹状部の二重構造という特定形状における気泡開口の技術に引用することはできない。
引用例2について本件発明1は,耐久性,耐摩耗性及びグリップ機能の相関関係の中で最良の状態の手袋を提供できるように,気泡の量と気泡の長さ平均径を一定の数値に限定したものであるが,引用例2記載の発泡工程は,気泡の大きさや量を一定の数値に管理したものではない。また,引用例2には,凹状部の二重構造も全く開示されていない。本件発明1と引用例2記載の発泡工程は,目的,機能が異なるから,引用例2に記載された気泡の量が本件発明1の気泡の量の範囲と重複するとしても,これらを類似又は同一の技術とすることはできない。
~ 引用例3について引用例3に記載された手袋は,熱可塑性樹脂の使用を前提としているため,塩粒子を樹脂表面に散布しても塩凝固が直ちに生起せず,熱硬化するまでの熱可塑性樹脂の流動化のために,塩凝固の周辺において飛散した簿膜樹脂が浮遊状態で硬化することになり,樹脂表面に本件発明1のような耐摩耗性を有する第1の凹状部は形成されない。引用例3に記載された手袋は,凹状部の構造が本件発明1とは全く異なるものであり,気泡数値の範囲の一部に重複があるとしても,本件発明1のような凹状部の二重構造を造ることは技術的に不可能である。
引用例4について引用例4には,樹脂表面の開口気泡の最大直径が3ないし250μmである手袋やその気泡径が好ましくは20ないし100μmであることが記載されているが, 凹状部の二重構造の開示はなく,気泡の平均径の数値の一部が本件発明1と一致しているにすぎない。
イ また,本件審決は,本件明細書では樹脂皮膜に含まれる気泡の平均径が耐摩耗性に及ぼす影響について調べられ(【0097】〜【0101】),気泡の量が耐摩擦性及びグリップ性に及ぼす影響についても調べられているものの(【0102】〜【0105】),樹脂被膜に含まれる気泡の量と平均径との関係が耐摩耗性及びグリップ性にどのような影響を及ぼすかについては記載がなく,相違点1に係る本件発明1の数値限定の奏する効果は,格別顕著なものではないと判断している。
しかし,本件発明1では,樹脂皮膜に含まれる気泡の平均径が耐摩耗性に及ぼす影響について調べた結果,樹脂被膜に含まれる気泡の平均径が100μm以下の場合に急激に耐摩耗性が上がり,特に50μm以下では,実用上十分な耐摩耗性があることがわかったことから(【表3】),気泡の長さ平均径を50μm以下と設定した。また,気泡径を50μm以下とした上で,樹脂皮膜に含まれる気泡の量が耐摩擦性及びグリップ性に及ぼす影響について調べた結果,,5vol%以下では摩擦係数が急激に低下し,30vol%を超えると破損回数が急激に低下したことから(【表4】),気泡の量を5ないし30vol%と設定したものである。このように,本件発明1は,耐摩耗性やグリップ性の観点から気泡の量と気泡径の数値を選択したものであり,本件明細書には気泡の量と気泡平均径との関係が耐摩耗性にどのような影響を及ぼすかについての記載がないとした本件審決の判断は誤りである。
また,実際,本件発明1のように第1の凹状部の内表面に第2の凹状部が多数形成されるためには,気泡の量と気泡の長さ平均径が一定の関係にないと不可能である。
ウ 以上によれば,引用発明1aにおいて,相違点1に係る本件発明1の数値限定を採用することは,引用例2ないし4に基づき当業者が容易に想到することができたものではなく,本件審決の判断は誤りである。
(3) 相違点2に係る判断の誤りについて本件審決は,引用発明1aにおいても,耐摩耗性を考慮しつつ,第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているから,得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものということができるのであり,相違点2は実質的な相違点ではないと判断している。
しかし,引用発明1aには,本件発明1と同様の製造プロセスの開示がなく,また,第1の凹状部の内面に第2の凹状部を形成するための気泡の量及び平均径に関する開示もない以上,得られた手袋の耐摩耗性の点において実質的な相違があることは明らかであり,本件審決の判断は誤りである。
(4) 小括よって,本件発明1の容易想到性に係る本件審決の判断は誤りである。
〔被告らの主張〕 (1) 相違点の認定の誤りについて原告は,引用例1には,凹状部の二重構造についての開示や示唆はないと主張する。
しかし,引用例1には,発泡構造が吸汗性を発揮するとの記載があるが,吸汗性を発揮するためには,気泡が形成するスペースに汗が導かれるように,気泡が開口している必要がある。また,本件発明の発明者らは,気泡を含む樹脂組成物から付着体を除去するに伴って気泡の一部が開口すると考えているが(本件明細書【0047】),引用例1においても,発泡ラテックスから離散粒子を除去することが記載されているから,同様に気泡が開口していると考えるのが自然である。
(2) 相違点1に係る判断の誤りア 原告は,引用例2ないし4の各記載事項と本件発明1が相違していると主張するが,本件審決は,引用例1に気泡が記載されていることを前提として,気泡の量及び気泡径を所望の機械的性質を有するように適宜設定することは公知であることを示すため,引用例2ないし4を引用しているのであり,各引用例の記載事項と 本件発明1に相違があるからといって,相違点1に係る本件審決の判断が誤りとなるものではない。
イ また,本件発明1において,気泡の長さ平均径に50μm以下という数値限定を付したのは,気泡の長さ平均径の大きさが耐摩耗性に影響することを考慮し,破損回数が6000回という実用上十分な耐摩耗性を有する領域を選択したものであるところ(【0098】【0101】),引用例3にも,「気泡径が400μmを超えると耐摩耗性が不十分となる」との記載があり,本件発明1と同様に,気泡径が大きくなると耐摩耗性に悪影響を及ぼすという気泡の物理的特性,技術的課題が開示されている。
そして,樹脂皮膜に含まれる気泡の平均径が耐摩擦性に及ぼす影響を調べたという本件明細書【表3】においても,気泡の平均径が50μmである場合に破損回数の挙動が大きく変化しているなどの臨界的意義を見出すことはできないこと,引用例3及び4では,気泡の平均径について,50μmをほぼ中心とする範囲の構成が記載されていることなどからすると,50μmという気泡の平均径は,当業者が所望の耐摩耗性を持たせる基準としては常識的な数字であり,これを気泡の長さ平均径の上限として適宜選択することは,当業者が容易にできることである。
ウ 次に,原告は,本件明細書【表3】【表4】には,樹脂皮膜に含まれる気泡の量と気泡径との関係が耐摩耗性及びグリップ性に及ぼす影響が記載されていると主張する。
しかし,本件明細書【表4】には,気泡の長さ平均径を50μm以下とした条件で気泡の量を変化させて試験を行ったことは一切記載されていないから,同表に記載された試験は,気泡の長さ平均径を一定とするような制御をすることなく,単純に気泡の量を変化させて行ったものというべきである。したがって,本件発明1では,気泡の量と気泡の長さ平均径は,それぞれ独立して最適範囲が定められたものとして理解するべきであり,両者の相関関係から定められたものとはいえない。
(3) 小括 よって,本件発明1の容易想到性に係る本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(本件発明2ないし7の容易想到性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件発明2について ア 相違点の認定の誤りについて 前記1〔原告の主張〕(1)における本件発明1と引用発明1aとの対比についての主張と同様に,本件発明2と引用発明1aとは,凹状部の二重構造の開示の有無や製造プロセスの点でも異なるものであり,本件審決にはこれらの相違点を看過した違法がある。
イ 相違点3に係る判断の誤りについて 前記1〔原告の主張〕(2)のとおり,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである以上,相違点3に係る判断も誤りである。
ウ 相違点4に係る判断の誤りについて 相違点3に対する本件審決の判断が誤りである以上,これを引用した相違点4に係る判断も誤りである。
(2) 本件発明3について ア 相違点の認定の誤りについて 引用発明1bは,引用発明1aの方法で製造した手袋についての発明であるが,前記1〔原告の主張〕(1)における本件発明1と引用発明1aとの対比についての主張と同様に,本件発明3と引用発明1bとは,凹状部の二重構造の開示の有無や製造プロセスの点でも異なるものであり,本件審決にはこれらの相違点を看過した違法がある。
イ 相違点5に係る判断の誤りについて 前記1〔原告の主張〕(2)のとおり,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである以上,相違点5に係る判断も誤りである。
ウ 相違点6に係る判断の誤りについて 相違点5に対する本件審決の判断が誤りである以上,これを引用した相違点6に係る判断も誤りである。
(3) 本件発明4についてア 相違点の認定の誤りについて前記1〔原告の主張〕(1)における本件発明1と引用発明1aとの対比についての主張と同様に,本件発明4と引用発明1aとは,凹状部の二重構造の開示の有無や製造プロセスの点でも異なるものであり,本件審決にはこれらの相違点を看過した違法がある。
イ 相違点7に係る判断の誤りについて前記1〔原告の主張〕(2)のとおり,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである以上,相違点7に係る判断も誤りである。
ウ 相違点8に係る判断の誤りについて相違点7に対する本件審決の判断が誤りである以上,これを引用した相違点8に係る判断も誤りである。
(4) 本件発明5についてア 相違点の認定の誤りについて前記1〔原告の主張〕(1)における本件発明1と引用発明1aとの対比についての主張と同様に,本件発明5と引用発明1bとは,凹状部の二重構造の開示の有無や製造プロセスの点でも異なるものであり,本件審決にはこれらの相違点を看過した違法がある。
イ 相違点9に係る判断の誤りについて前記1〔原告の主張〕(2)のとおり,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである以上,相違点9に係る判断も誤りである。
ウ 相違点10に係る判断の誤りについて相違点9に対する本件審決の判断が誤りである以上,これを引用した相違点10に係る判断も誤りである。
(5) 本件発明6についてア 相違点の認定の誤りについて前記1〔原告の主張〕(1)における本件発明1と引用発明1aとの対比についての主張と同様に,本件発明6と引用発明1bとは,凹状部の二重構造の開示の有無や製造プロセスの点でも異なるものであり,本件審決にはこれらの相違点を看過した違法がある。
イ 相違点11に係る判断の誤りについて前記1〔原告の主張〕(2)のとおり,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである以上,相違点11に係る判断も誤りである。
ウ 相違点12に係る判断の誤りについて相違点11に対する本件審決の判断が誤りである以上,これを引用した相違点12に係る判断も誤りである。
(6) 本件発明7についてア 相違点の認定の誤りについて前記1〔原告の主張〕(1)における本件発明1と引用発明1aとの対比についての主張と同様に,本件発明7と引用発明1bとは,凹状部の二重構造の開示の有無や製造プロセスの点でも異なるものであり,本件審決にはこれらの相違点を看過した違法がある。
イ 相違点13に係る判断の誤りについて本件審決は,引用例3及び4に基づき,相違点13のように特定することは当業者が容易にすることができたものであり,その特定の効果も格別顕著であるとすることもできないと判断した。
しかし,前記1〔原告の主張〕(2)で主張したとおり,引用例3及び4には,凹状部の二重構造について何らの記載や示唆はなく,相違点13に対する判断の根拠となり得るものではないから,本件審決の判断は誤りである。
ウ 相違点14に係る判断の誤りについて 相違点13に対する本件審決の判断が誤りである以上,これを引用した相違点14に係る判断も誤りである。
(7) 小括よって,本件発明2ないし7の容易想到性に係る本件審決の判断も誤りである。
〔被告らの主張〕争う。
当裁判所の判断
1 本件発明1について本件発明1は,第2の2のとおりであり,本件明細書(甲15)には,本件発明1を含む本件発明について,概略,次の記載がある。
(1) 作業用手袋の表面に凹凸を形成する方法として,食塩等の水溶性の粉粒物を用いることが提案されている。この作業用手袋は,ゴム皮膜の表面に形成される凹凸により滑り止め効果を発揮するものであるが,一般的に作業用手袋は,強度を確保する観点からは樹脂皮膜が厚い方がよいが,その分柔軟性に劣り,指先の作業性が悪くなるという課題があった(【0002】〜【0004】)。
(2) 本件発明は,気泡を含ませた樹脂組成物に手袋基体を浸漬して作業用手袋を作ると,気泡を含まない場合に比べて柔軟性を有し,滑り止め効果の点でも優れた効果を発揮するという知見によって完成されたものである(【0005】)。
(3) 本件発明による樹脂表面の形成方法では,気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状又は/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,樹脂組成物の固化後に付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し,未固化状態又は固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することにより,第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部を形成する。このため,付着体の除去によって第1の凹状部だけが形成されるものと比べると,単位表面積当たりに形成される凹状部の数を大幅に増やすことができ,樹脂表面が優れた滑り止め効果を発揮する。さらに,固化状態の樹脂組成物には気泡が含まれてい るから,気泡を含まないものと比べ,優れた柔軟性を発揮する(【0015】)。
(4) 樹脂組成物から樹脂皮膜を作成する方法には,凝固法,感熱法,ストレート法等がある。凝固法は,樹脂組成物を塩凝固によってゲル化させる方法であり,感熱法は,配合液に初めから感熱剤を添加しておき,温度によってゲル化させる方法である。また,ストレート法は,凝固剤や感熱剤を使用せず,乾燥によってゲル化させる方法である(【0037】【0038】)。
(5) 第2の凹状部が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではないが,気泡の破泡による開口(破泡痕)あるいは気泡に接した付着体の除去に伴って気泡の一部が開口して形成されるものと推量される(【0047】)。
(6) 実施例 サポートタイプの手袋(手袋基体の表面に樹脂被膜を形成した手袋)の製造方法は,次のとおりである。
ア NBR(ニトリルゴムラテックス,ゴム固形分43重量%)のゴム固形分100重量部に対し,アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5重量部,硫黄1重量部,架橋促進剤ジブチルカルバミン酸亜鉛0.5重量部,亜鉛華3重量部,増粘剤1重量部を添加し,撹拌して第1のNBR配合液を得る。その一部を別の容器に分け,ミキサーで撹拌して機械発泡を行い,液中に気泡を含む第2のNBR配合液(液状の樹脂組成物)を得た。撹拌は,第2のNBR配合液全体に占める気泡の体積割合が20vol%程度になるまで行った。2種類のNBR配合液(気泡を含まない第1のNBR配合液,気泡を含む第2のNBR配合液)を使用し,手袋基体に対して以下のような処理を行った(【0021】【0056】〜【0058】)。
イ まず,メリヤス編みの手袋基体を被せた手型を凝固剤(5重量%の硝酸カルシウムメタノール溶液)が入った浸漬槽内に浸漬し,その後引き上げて乾燥させた。
次に,第1のNBR配合液が入った浸漬槽内に手型を浸漬し,引き上げた後,70℃で30分乾燥させた。これにより,手袋基体の表面に第1のNBR配合液によって構成される,浸透防止膜となる樹脂皮膜(2)を形成した(【0059】)。
ウ 次に,第2のNBR配合液が入った浸漬槽に樹脂皮膜(2)が形成された上記手型を浸漬した。浸漬槽から引き上げた後,手型表面の第2のNBR配合液が固まる前に,付着体である塩化ナトリウム粒子をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,70℃で15分乾燥させた。これにより,気泡を含んだ第2のNBR配合液を固化し,塩化ナトリウム粒子の一部又は全部を食い込ませた気泡を含む樹脂皮膜(3)を樹脂皮膜(2)の上に形成した(【0060】)。
エ そして,樹脂皮膜(3)に付着した塩化ナトリウム粒子を水洗除去した後,80℃で60分乾燥させ,その後,125℃で40分架橋を行い,目的とする手袋を得た(【0061】)。
(7) 樹脂被膜(3)に含まれる気泡の平均径が耐摩耗性に及ぼす影響をテーバー摩耗試験における破損回数,摩耗率により調べると,【表3】記載の結果となり,気泡の平均径が100μm以下の場合では急減に耐摩耗性が上がり,特に50μm以下の場合には,破損回数は6000回以上となり,実用上十分な耐摩耗性があることがわかった(【0098】〜【0101】)。
次に,樹脂被膜(3)に含まれる気泡の量が耐摩耗性及びグリップ性に及ぼす影響を上記テーバー摩耗試験により調べると,【表4】の結果となり,気泡の量が40vol%以上になると,30vol%の場合に比して耐摩耗性が半分以下となるから,気泡の量は30vol%以下がより好ましい。また,気泡の量が5vol%以上では,3vol%の場合に比して摩擦係数の変化が大きくなるため,グリップ性の観点からは気泡の量が5vol%以上が好ましい。したがって,耐摩耗性及びグリップ性を考慮すると,実用性から好ましい気泡の量は5ないし30vol%である(【0102】〜【0104】)。
2 引用発明1a及び引用発明1bについて 引用発明1aは,第2の3(2)アのとおりであり,また,引用発明1bは,第2の3(2)イのとおりであるところ,引用例1(甲1)には,引用発明1a及び引用発明1bについて,概略,次の記載がある。
(1) 本発明は,非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋することにより製造した,無発泡ラテックス又は発泡ラテックスのいずれかにより製造されたテクスチャード加工表面被覆を伴う手袋に関するものである。
ラテックス層は,理想的には離散粒子に接触することでゲル化している。離散粒子は,粒子を適当な溶媒中に溶解させることにより,ゲル化又は硬化後のいずれかに層から除去され得る。このプロセスは,離散粒子が包埋していた箇所に痕を残し,グリップ,より少ない直の皮膚の接触を伴う手袋内の空気循環及び吸汗性の程度を改良し得るテクスチャード加工表面被覆となる。発泡材料は,テクスチャード加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わりに使用されてもよく,優れたグリップ,より高い吸汗性及び絶縁体の柔軟な層を提供する(【0013】)。
(2) 用いられる離散粒子の好ましい平均粒子サイズは,約50ミクロンから約2000ミクロンである(【0014】)。
(3) 実施例 ステップ1:硝酸カルシウム(水溶液濃度35容量%),TRITON X 100(約0.1容量%),DEFOAMER 1512M(約0.5容量%)からなる凝固剤溶液を調合し,30から40℃に加熱する。凝固剤溶液中に手型を浸漬し,表面を均一に被覆する。浸漬速度はおよそ1.5cm/秒,滞留時間は5から10秒,抽出速度はおよそ0.75cm/秒である。
ステップ2:凝固剤を被覆した手型は,指を立てた状態に反転し,暖かく穏やかな気流中(30から40℃)で2から2.5分間乾燥する。
ステップ3:乾燥した凝固剤被覆型は,指を下に向けた状態に再反転し,REVENEX 99G43(100phr),硫黄(0.5phr),酸化亜鉛(3.0phr),ZMBT(0.7phr)からなり,アンモニア又は水酸化カリウムを用いてpHを9.0に調節したニトリルラテックス化合物に浸漬する。ラテックスの粘度は通常20から40cpsであり,20から25℃に保持する。浸漬速度はおよそ1.5cm/秒,滞留時間は所望の壁厚に依存し30から90秒,抽出速度はおよそ1.2 cm/秒である。
ステップ4:ゲル化ニトリルラテックス被覆型は,指先の滴の分散を助けるために指を立てた状態に反転する(滞留時間周囲温度で最低30秒)。
ステップ5:ゲル化ニトリルラテックス被覆型(ニトリル手袋殻)は,指を下に向けた状態に再反転し,残余の表面シネレシス生成物を除去するため,40から60℃に加熱した水中に浸漬する(滞留時間60から80秒)。
ステップ6:ニトリル手袋殻は,指の滴の分散を助けるために指を立てた状態に反転し,その後ゲルの表面及び指先の残余の水を除去するため,部分的に乾燥する。
ステップ7:ニトリル手袋殻は,指を下に向けた状態に反転し,REVENEX99G43(100phr),硫黄(0.5phr),酸化亜鉛(3.0phr),ZMBT(0.7phr)からなるニトリルラテックスの第2層で手首まで(あるいは腕周りまで完全に)過浸漬する。このラテックスのpHは,アンモニア又は水酸化カリウムを用いて9.0に調節し,ラテックスの粘度はポリアクリル酸アンモニウムを用いて500cpsに調節する。また,ラテックスは20から25℃に保持する。浸漬速度はおよそ1から3cm/秒,滞留時間はおよそ10から30秒,抽出速度はおよそ2cm/秒である。
ステップ8:ニトリルラテックス過浸漬の液体第2層を有するニトリル手袋殻は,指の滴を分散するために指を立てた状態に反転し,その後即座に再反転して指を下に向けた状態に戻す。塩化ナトリウムの粒子(平均粒子サイズ400ミクロン)を流動床装置中でラテックスの第2層に塗布する。手袋殻は常温に保持する。流動床への浸漬速度はおよそ2cm/秒,流動床中の滞留時間は5から10秒,抽出速度はおよそ2cm/秒である。
ステップ9:塩被覆殻は,ゲル化表面に残っている塩化ナトリウムを除去するために常温で水洗浄する。
ステップ10:ゲル化手袋製品は,その後およそ40℃の温水中でおよそ15分間溶脱する。
ステップ11:ゲル化手袋製品は,130℃の従来の循環熱風炉内でおよそ60分間乾燥及び硬化処理する(【0030】〜【0040】)。
3 引用例2ないし4について (1) 引用例2についてア 特許請求の範囲【請求項1】(a)基材,前記基材は,不織繊維ウェブ,織成ウェブ,および編成ウェブから成る群より選ばれた1員である,(b)ラミネートの1つの表面に適用されたフォーム層,および(c)前記フォーム層は約10〜65%の範囲内の空気含量を有する,を特徴とする,グリース,油または水の環境におけるすべり止め表面を提供るラミネート【請求項2】(a)前記フォーム層は,ポリウレタン,ポリ塩化ビニル,アクリロニトリル,天然ゴム,合成ゴムおよびそれらの混合物から成る群より選ばれた1員である,ことをさらに特徴とする,特許請求の範囲第1項記載のラミネート【請求項3】(a)前記フォーム層は15〜30%の範囲内の空気含有量を有する,ことをさらに特徴とする,特許請求の範囲第1項記載のラミネート【請求項5】特許請求の範囲第1項記載のラミネートから構成された作業手袋イ 発明の詳細な説明 本発明は,滑り止め又はスキッド抵抗性のつかみ表面を必要とする摩耗性服飾品等の製作において有用なラミネートの製造法及びその方法により製造されたラミネートに関するものである。得られるフォームの表面は,多孔質であり,表面上の油,水又はグリースを吸収する性質を有し,スキッド抵抗性表面へ増大したつかみ表面を提供する。
~ ラミネートの発泡部分を形成する材料は,ポリウレタン,ポリ塩化ビニル,アクリロニトリル,天然ゴムまたは合成ゴムであることができる。この材料は,機械的手段または化学的手段により発泡させることができる。好ましい範囲は,15ないし30%である。よりすぐれた耐摩耗性は同範囲内のより低い空気含量を用い て得られるが,よりすぐれたつかみ性は同範囲内のより高い空気含量を用いて得られる。
(2) 引用例3について ア 特許請求の範囲【請求項1】繊維製手袋基材上に熱可塑性樹脂からなる発泡層が熱プレスにより凹凸状に形成された手袋 イ 発明の詳細な説明 従来,作業用手袋の被覆に用いられる熱可塑性樹脂に気泡を含有させると,滑り止め効果は向上するものの,皮膜強度や耐摩耗性が低下するという問題があった。本発明は,この問題を解決し,気泡を含んだ熱可塑性樹脂で被覆して,滑り止め効果,皮膜強度,耐摩耗性とも高い手袋を提供することを目的とするものである(【0002】【0003】)。
~ 気泡含有量は,コンパウンドの状態で発泡機や家庭用ミキサーで攪拌することによって1%から300%まで任意に調整できる。手袋表面に気泡跡の開口が多いと,対象物との間に介在する水や油を吸収排除することができ,滑り止め効果に優れる。気泡含有量1%ないし300%では,平均径10μmないし400μmの気泡を1p2あたり10個ないし130個,内面及び表面に含んでいる。気泡径10μm未満は機械発泡では非常に作り難く,400μmを越えると耐摩耗性が不十分になる(【0012】)。
(3) 引用例4について ア 実用新案登録請求の範囲【請求項1】粘弾性微多孔質膜で形成されてなる表面を有する布帛からなることを特徴とする手袋【請求項4】微多孔質膜が,最大直径3〜250ミクロンの気孔を含有し,厚さが0.1〜4.5mm,密度が0.01〜0.6g/cm3であり,かつ,該微多孔質膜の表層における微多孔は開孔され,その開孔された部分の該微多孔質膜の表面に占 める面積の割合が20%以上であることを特徴とする請求項1記載の手袋イ 考案の詳細な説明 本考案の微多孔質膜は,最大直径3ないし250ミクロン,好ましくは20ないし100ミクロンの微細孔径からなるもので,微多孔質膜表面から裏面に貫通する多数の微細な小孔を有するものであることが好ましい(【0014】)。
~ 微多孔質膜で形成されてなる表面を手袋の内側及び/または外側にして接合して手袋を作る。微多孔質膜面を外側にして接合した場合には,表面平滑な対象物との密着性が良く,滑り難い効果が得られる(【0030】)。
4 取消事由1(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 相違点の認定の誤りについてア 本件発明1と引用発明1aとは,いずれも凹状部の混在により滑り止め効果と柔軟性を発揮する樹脂皮膜表面の形成方法であって,気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状等の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ,その後,これを除去するなどの点で共通するものであるところ,原告は,本件発明1では,樹脂組成物の固化後に付着体(塩)を除去するため,塩の痕跡である第1の凹状部内表面において,塩と接触した気泡表面の破裂を生起して確実に気泡の開口を行うことができるが,引用発明1aでは,ラテックスの外層のゲル化の直後に塩の粒子を溶解するから,仮に,塩の溶解除去痕跡の内表面に気泡が存在し,破裂開口する状態が生起していたとしても,ゲル化しきれなかったラテックスの一部が流動化して塩の痕跡内に流れ,気泡の開口が閉塞されるおそれがあるなどと主張する。
イ そこで,本件発明1と引用発明1aにおける樹脂皮膜表面の形成方法を対比する。
まず,本件明細書の実施例に記載された第2のNBR配合液は,本件発明1の「気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物」に相当するから,この実施例における「70℃で15分乾燥」が,本件発明1の「固化」に相当する工程となる。この 「固化」は,発泡した樹脂組成物から未架橋の樹脂皮膜を形成する工程であるところ,本件明細書において,樹脂皮膜を形成する方法として記載されている凝固法,感熱法及びストレート法は,いずれも樹脂組成物をゲル化する技術であるから(【0037】【0038】),本件発明1にいう「固化」とは,樹脂組成物のゲル化によって樹脂皮膜を形成する工程をいうものであると認められる。
次に,上記実施例では,樹脂皮膜(3)に付着した塩化ナトリウム粒子を水洗除去した後,80℃で60分乾燥し,その後,125℃で40分の架橋を行っているところ(【0061】),この架橋とは,NBR溶液に含まれているニトリルゴムを硫黄(加硫剤)や加硫促進剤であるジブチルカルバミン酸亜鉛,亜鉛華によって加硫する工程をいうものである。
そうすると,本件発明1は,樹脂組成物のゲル化により樹脂皮膜が形成された後,樹脂皮膜に付着した塩化ナトリウムを水洗除去し,その後に乾燥と架橋を行う工程であるということができる。
~ 他方,引用例1の実施例に記載された樹脂被膜表面の形成方法は,ニトリルラテックス過浸漬の液体第2層を有するニトリル手袋殻に塩化ナトリウムの粒子が塗布された後,常温保持され(ステップ8),その後,ゲル化表面の塩化ナトリウムが水で洗浄され(ステップ9),40℃の温水による15分の溶脱の後(ステップ10),130℃の循環熱風炉内で60分間乾燥及び硬化処理される(ステップ11)というものである。
以上の工程からすると,ニトリルラテックスの液体第2層は,塩化ナトリウムの粒子が塗布される段階ではゲル化しておらず,その後常温で保持されている間に乾燥してゲル化するものであるといえる。また,130℃の循環熱風炉内における60分間の乾燥及び硬化処理(ステップ11)は,ラテックスに含まれるニトリルゴムが配合された硫黄(加硫剤)や酸化亜鉛(加硫助剤)によって加硫する工程である。
そうすると,引用発明1aは,ラテックスの第2層がゲル化した後に,表面の塩 化ナトリウムの水による洗浄と温水による溶脱とが行われ,塩化ナトリウムが除去された後に,乾燥と加硫が行われるものであるということができる。
以上によれば,本件発明1と引用発明1aの樹脂皮膜表面の形成方法は,樹脂組成物のゲル化,塩化ナトリウムの除去及び加硫の工程において,実質的に相違しないものであると認められる。すなわち,本件発明1の「固化」と引用発明1aの「ゲル化」とは同様の工程を指すものである以上,引用発明1aについてのみ,ゲル化しきれなかったラテックスの一部が流動化して,これが除去された塩化ナトリウムの痕跡内に流れ,気泡の開口が閉塞されるおそれがあるという原告の主張は,その前提を誤るものであって,採用することができない。
ウ そうすると,上記イ氓フとおり,本件発明1と引用発明1aにおける樹脂皮膜表面の形成方法は実質的に相違しないものであるところ,引用発明1aでは,本件発明1において気泡を含んだ第2のNBR配合液が用いられているのと同様に,第2ラテックス層として発泡体を用いているのであるから,発泡ラテックス由来の気泡から樹脂被膜の表面に気泡開口が生ずるというのが当業者の技術常識に照らしても妥当なものである以上,引用発明1aの形成方法によって製造されたテクスチャード加工表面においても,本件発明1と同様に,気泡の破裂による開口が生ずるものと推認することができる。そして,本件発明1では,本件明細書【0047】に「第2の凹状部が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではない」との記載があるように,第1の凹状部の内表面に気泡開口(第2の凹状部)を生じさせるため,格別の手段を講じているものではないことに照らすと,引用発明1aにあっても,第1の凹状部がない部分の表面だけでなく,第1の凹状部の内表面においても,気泡開口(第2の凹状部)が生ずるものというべきであって,以上の推認は妨げられないというべきである。
エ 原告の主張について 原告は,引用発明1aでは,発泡ニトリルラテックスの第2層表面の気泡開口の凹状部を開示しているだけであり,第1の凹状部の内表面の気泡開口やこれを 生起するのに必要な気泡の量と気泡径の数値は開示されていないと主張する。
しかし,本件発明1と引用発明1aにおける樹脂皮膜表面の形成方法は実質的に相違するものではないから,引用発明1aにおいても,本件発明1と同様に凹状部の二重構造が形成されるものと認めるのが相当である。確かに,引用例1には,第1の凹状部の内表面に気泡開口を生起するのに必要な気泡の量と気泡径の数値は記載されていないが,これらの数値の記載がなければ,凹状部の二重構造が生起されないというものではなく,原告の主張は採用できない。
~ また,原告は,引用例1【図3】の記載に基づき,引用発明1aで生起される気泡開口の大きさは200μm以上であって,本件発明1のような微細な気泡開口ではないと主張する。
しかし,同図に示された表面の窪みが,気泡開口によるものであるか否か明らかでない上,引用例1の実施例では,第2ラテックス層を形成するラテックスとして,非発泡のものが用いられているのであるから,図3にはラテックスが非発泡である場合が記載されているとも考えられ,これが引用発明1a(第2ラテックス層を形成するラテックスが発泡体である。)の形成方法によって製造されたテクスチャード加工表面を記載したものとまで断定することはできず,原告の主張は直ちに採用できない。
なお,原告は,本件審決が引用発明1aにおいてもラテックス中の気泡に由来する表面側での開口が存在する理由として,引用例1にテクスチャード加工表面が吸汗性を向上する旨の記載(【0007】【0013】【0027】)の存在を挙げたことについて,これらの記載は,第1の凹状部だけが形成されたテクスチャード加工表面について言及したものであり,引用発明1aにおいても第1の凹状部の内表面に多数の気泡開口が形成されることの理由とはならないとも主張する。
しかし,本件審決は,ラテックス中の気泡に由来し,皮膜の表面付近に存在する気泡の破泡によって皮膜の表面に気泡開口が生じるというメカニズムが推量されることを技術的観点から検討し,吸汗性からみて皮膜の表面に気泡開口が存在するこ とが明らかであると判断しているにすぎず,原告の主張は前提において失当である。
オ 以上のとおり,本件発明1と引用発明1とでは,樹脂皮膜表面の製造プロセスの点で異なるものではなく,塩化ナトリウムの除去によって生ずる第1の凹状部の内表面に気泡開口による第2の凹状部が生じ得るという点でも異なるものではないから,本件審決が相違点を看過したとの原告の主張は採用できない。
(2) 相違点1に係る判断の誤りについて ア 引用発明1aに引用例2ないし4記載の事項を組み合わせることの容易性について 引用例2に記載された事項は,表面層に発泡層を有する手袋に関する点で引用発明1aと共通するものであるところ,上記3(1)のとおり,引用例2には,表面の耐摩耗性やつかみ性と発泡層の空気含有量の関係が開示され,好ましい範囲が15ないし30%であることも記載されているから,引用発明1aにおいて,耐摩耗性やつかみ性が良好な樹脂表面を形成する目的で,発泡層の気泡の量を15ないし30%程度としたり,さらに耐摩耗性を向上させる目的で気泡の量を15%よりも少なくしたりすることは,当業者が容易にできることといわなければならない。
~ また,引用例3に記載された事項も,表面層に発泡層を有する手袋に関する点で引用発明1と共通するところ,上記3(2)のとおり,引用例3には,発泡層の材料であるラテックスを含む組成物は平均径10μmないし400μmの気泡を作ることができ,400μmを越えるとフォーム層(発泡層)の耐磨耗性が不十分になることが示されているから,引用発明1aにおいて,耐摩耗性に優れた発泡層を形成する目的で,平均径を400μmより小さい気泡を含有する材料組成物を用いることも当業者が容易にできることである。さらに,引用例3の上記記載からすると,気泡の平均径がより小さい方が耐摩耗性に優れると考えられるから,気泡の長さ平均径の上限値について,例えば50μm程度と限定することにも格別の困難性はない。
以上によれば,当業者において,引用発明1aのテクスチャード加工表面被 覆手袋を製造する方法に引用例2及び3に記載された事項を組み合わせることは容易であるということができる。
なお,引用例4に記載された事項は,通気性を有する手袋に関するものであって,引用発明1aとは気泡を含有することによって生ずる機能を異にするものであるから,引用発明1aに引用例4に記載された事項を適用するのは相当でない。
イ 相違点1に係る本件発明1の数値限定の効果について 原告は,本件発明1は本件明細書【表3】【表4】記載の試験に基づき,樹脂被膜に含まれる気泡の量と平均径との関係が耐摩擦性及びグリップ性に及ぼす影響を考慮してそれらの数値を設定したものであり,格別顕著な効果を奏するなどと主張する。
しかし,本件明細書【表3】には,気泡の長さ平均径が小さいほど,破損回数や耐摩耗率において優れているという結果が表示されているものの,同表に記載された試験が気泡の量を一定のものとして行ったものであるとの記載はない。一般に融体中の気泡は,表面エネルギーを少なくすることによって安定性が増すものであるから,気泡と気泡が合体することにより,気泡全体の総面積が減少し,その分気泡の長さ平均径が大きくなるような挙動に出ることが予想され,気泡の量が異なれば,安定的な気泡の長さ平均径も異なるものとなることが考えられる。そうすると,本件明細書【表3】記載の試験において,気泡の長さ平均径が小さいものは,そもそも気泡の量も少ないものであった可能性もあり,同表に示された上記結果が,直ちに気泡の長さ平均径が小さなものであることに起因したものであるということはできない。
また,上記のとおり,気泡の量と気泡の長さ平均径は関係性を有するものと考えられるところ,樹脂被膜に含まれる気泡の量が耐摩耗性及びグリップ性に及ぼす影響を調べたものであるという本件明細書【表4】については,気泡の長さ平均径を常に一定の値になるよう調整するとの前提で試験を行ったとの記載はないから,同試験においても,気泡の量が多いほど気泡の平均径も大きなものとなっていた可能 性があり,同表に示された結果が,気泡の長さ平均径を一定のものとした上で,,の大きさと耐摩耗性やグリップ性との関係を示したものであると断定することはできない。
したがって,本件明細書【表3】【表4】の各記載から,本件発明1は,気泡の量と平均径との関係が耐摩擦性及びグリップ性に及ぼす影響を考慮してそれらの数値を設定したものであると認めることはできず,原告の上記主張は失当というほかない。
~ また,原告は,本件発明1のように第1の凹状部の内表面に第2の凹状部の開口が多数形成されるためには,気泡の量と気泡の長さ平均径が一定の関係にないと不可能であるなどと主張する。
しかし,引用発明1aも本件発明1と同様に,皮膜表面に凹状部を設ける発明であり,当業者であれば,気泡と同じ程度の大きさの粒子や気泡よりも大きい粒子を使用した場合には,皮膜表面に粒子に基づく凹状部が形成されないことは,当然に理解することができるから,付着体の粒子径と差異がない程大きい気泡の発泡材料を使用するとは考え難い。そして,引用発明1aの付着体である離散粒子の好ましい平均粒子サイズが約50μmから約2000μmであること(引用例1【0014】)にかんがみると,付着体の粒子として比較的小さなものとした場合,発泡材料の気泡の大きさは,本件発明1で特定されるものと同程度のものになるといえる。
相違点1に係る本件発明1の気泡の量と気泡の長さ平均径の特定が格別顕著な効果を奏するものであると認めることはできない。この点においても,原告の主張は失当である。
ウ 以上によれば,相違点1に係る本件発明1の気泡の量と気泡の長さ平均径の特定は,当業者が引用発明1a並びに引用例2及び3に記載された事項に基づき容易に想到することができたものであるということができる。
(3) 相違点2に係る判断の誤りについて原告は,相違点2は実質的な相違点ではないとした本件審決の判断は,相違点1 に対する誤った判断を引用するものであるから,同様に誤っている旨主張するが,前記(2)イのとおり,相違点1に係る本件発明1の数値限定の奏する効果は格別顕著なものということはできないから,本件相違点2は実質的な相違点ではないとした本件審決の判断が誤りであるということはできない。
(4) 小括 よって,取消事由1は理由がない。
なお,本件発明1の容易想到性に係る本件審決の判断は,引用発明1aに引用例4記載の事項を組み合わせている点においては相当でないが,これは本件審決の判断の結論に影響を及ぼすものではない。
5 取消事由2(本件発明2ないし7の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 本件発明2について ア 相違点の看過について 前記第2の2のとおり,本件発明2は,本件発明1と同様の樹脂皮膜表面を有する物品の製造方法であるところ,前記4(1)と同様の理由により,本件発明2と引用発明1aとは,樹脂皮膜表面の製造プロセスの点で異なるものではなく,塩化ナトリウムの除去によって生ずる第1の凹状部の表面に気泡開口による凹状部が生じ得るという点でも異なるものではないから,本件審決が相違点を看過したとの原告の主張は採用できない。
イ 相違点3について 本件発明2と引用発明1aとの相違点3は,実質的に本件発明1と引用発明1aとの相違点1と同じものである。前記4(2)のとおり,相違点1についての本件審決の判断に誤りはないから,相違点1についての判断を引用して,本件発明2のように気泡の量と気泡の長さ平均径を特定することは当業者が容易にできることであるとした相違点3に係る本件審決の判断にも誤りはない。
ウ 相違点4について 原告は,相違点3に対する本件審決の判断が誤りである以上,相違点4の判断に これを引用した本件審決の判断も誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,相違点3に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張を採用することはできない。
(2) 本件発明3について ア 相違点の看過について 前記第2の2のとおり,本件発明3は,本件発明1と同様の樹脂製被膜表面を有する物品であり,また,前記第2の3(4)のとおり,引用発明1bは,引用発明1aと同様の製造工程からなるテクスチャード加工表面を有する手袋であるところ,前記4(1)と同様の理由により,本件発明2と引用発明1bとは,樹脂皮膜表面の製造プロセスの点で異なるものではなく,塩化ナトリウムの除去によって生ずる第1の凹状部の表面に気泡開口による凹状部が生じ得るという点でも異なるものではないから,本件審決が相違点を看過したとの原告の主張は採用できない。
イ 相違点5について 本件発明3と引用発明1bとの相違点5は,実質的に本件発明1と引用発明1aとの相違点1と同じものである。前記4(2)のとおり,相違点1についての本件審決の判断に誤りはないから,相違点1についての判断を引用して,本件発明3のように気泡の量と気泡の長さ平均径を特定することは当事者が容易にできることであるとした相違点5に係る本件審決の判断にも誤りはない。
ウ 相違点6について 原告は,相違点5に対する本件審決の判断が誤りである以上,相違点6の判断にこれを引用した本件審決の判断も誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,相違点5に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張を採用することはできない。
(3) 本件発明4について ア 相違点の看過について 前記第2の2のとおり,本件発明4は,本件発明1と同様の製造工程を有する手 袋の製造方法であるところ,前記4(1)と同様の理由により,本件発明4と引用発明1bとは,樹脂皮膜表面の製造プロセスの点で異なるものではなく,塩化ナトリウムの除去によって生ずる第1の凹状部の表面に気泡開口による凹状部が生じ得るという点でも異なるものではないから,本件審決が相違点を看過したとの原告の主張は採用できない。
イ 相違点7について。
本件発明4と引用発明1aとの相違点7は,実質的に本件発明1と引用発明1aとの相違点1と同じものである。前記4(2)のとおり,相違点1についての本件審決の判断に誤りはないから,相違点1についての判断を引用して,本件発明4のように気泡の量と気泡の長さ平均径を特定することは当事者が容易にできることであるとした相違点7に係る本件審決の判断にも誤りはない。
ウ 相違点8について 原告は,相違点7に対する本件審決の判断が誤りである以上,相違点8の判断にこれを引用した本件審決の判断も誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,相違点7に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張を採用することはできない。
(4) 本件発明5について ア 相違点の看過について 前記第2の2のとおり,本件発明5は,本件発明1と同様の製造工程により製造される手袋であるところ,前記4(1)と同様の理由により,本件発明5と引用発明1bとは,樹脂皮膜表面の製造プロセスの点で異なるものではなく,塩化ナトリウムの除去によって生ずる第1の凹状部の表面に気泡開口による凹状部が生じ得るという点でも異なるものではないから,本件審決が相違点を看過したとの原告の主張は採用できない。
イ 相違点9について 本件発明5と引用発明1bとの相違点9は,実質的に本件発明1と引用発明1a との相違点1と同じものである。前記4(2)のとおり,相違点1についての本件審決の判断に誤りはないから,相違点1についての判断を引用して,本件発明5のように気泡の量と気泡の長さ平均径を特定することは当事者が容易にできることであるとした相違点9に係る本件審決の判断にも誤りはない。
ウ 相違点10について 原告は,相違点9に対する本件審決の判断が誤りである以上,相違点10の判断にこれを引用した本件審決の判断も誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,相違点9に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張を採用することはできない。
(5) 本件発明6について ア 相違点の看過について 前記第2の2のとおり,本件発明6は,気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に,気泡(4)を含まない樹脂被膜(2)を少なくとも有している請求項5記載の手袋であるところ,前記4(1)と同様の理由により,本件発明6と引用発明1bとは,樹脂皮膜表面の製造プロセスの点で異なるものではなく,塩化ナトリウムの除去によって生ずる第1の凹状部の表面に気泡開口による凹状部が生じ得るという点でも異なるものではないから,本件審決が相違点を看過したとの原告の主張は採用できない。
イ 相違点11について。
本件発明6と引用発明1bとの相違点11は,実質的に本件発明1と引用発明1aとの相違点1と同じものである。前記4(2)のとおり,相違点1についての本件審決の判断に誤りはないから,相違点1についての判断を引用して,本件発明6のように気泡の量と気泡の長さ平均径を特定することは当事者が容易にできることであるとした相違点11に係る本件審決の判断にも誤りはない。
ウ 相違点12について 原告は,相違点11に対する本件審決の判断が誤りである以上,相違点12の判断にこれを引用した本件審決の判断も誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,相違点11に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張を採用することはできない。
(6) 本件発明7について ア 相違点の看過について 前記第2の2のとおり,本件発明7は,樹脂被膜(3)に含まれる気泡の量が5ないし10vol%である,請求項5又は6記載の手袋であるところ,前記4(1)と同様の理由により,本件発明7と引用発明1bとは,樹脂皮膜表面の製造プロセスの点で異なるものではなく,塩化ナトリウムの除去によって生ずる第1の凹状部の表面に気泡開口による凹状部が生じ得るという点でも異なるものではないから,本件審決が相違点を看過したとの原告の主張は採用できない。
イ 相違点13について。
前記3(2)のとおり,引用例3には,発泡層の材料であるラテックスを含む組成物は平均径10μmないし400μmの気泡を作ることができ,400μmを越えるとフォーム層(発泡層)の耐磨耗性が不十分になることが示されているから,引用発明1aにおいて,耐摩耗性に優れた発泡層を形成する目的で,平均径を400μmより小さい気泡を含有する材料組成物を用いることも当業者が容易にできることである。さらに,引用例3の上記記載からすると,気泡の平均径がより小さい方が耐摩耗性に優れると考えられるから,気泡の長さ平均径の上限値について,例えば50μm程度と限定することにも格別の困難性はない。また,前記3(2)のとおり,樹脂組成物の気泡の含有量は,1%から300%まで任意に調整できるものである上,気泡の量と気泡の長さ平均径は関係性を有するから,気泡の長さ平均径の上限値を50μm程度と限定した場合に,気泡の量を本件発明7のように5ないし10volの範囲に調整することも容易であるということができる。
したがって,相違点13に係る本件審決の判断に誤りはない。
ウ 相違点14について 原告は,相違点13に対する本件審決の判断が誤りである以上,相違点14の判 断にこれを引用した本件審決の判断も誤りであると主張する。
しかし,上記のとおり,相違点13に係る本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張を採用することはできない。
(7) 小括よって,取消事由2も理由がない。
なお,前記4(2)ア氓フとおり,引用例4に記載された事項は,通気性を有する手袋に関するものであって,引用発明1a又は引用発明1bとは気泡を含有することによって生ずる機能を異にするから,本件発明2ないし7の容易想到性に係る本件審決の判断についても,引用発明1a又は引用発明1bに引用例4記載の事項を組み合わせている点において相当でないが,これは本件審決の判断の結論に影響を及ぼすものではない。
6 結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 部眞規子
裁判官 齋藤巌