運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成23ネ10002特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成23ネ10004特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成22ワ43749特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22ワ12227特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成21ワ31535損害賠償請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術的範囲 /  実施可能要件 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  遡及 /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  組成した物 /  損害額 /  譲渡数量 /  単位数量 /  実施能力 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ワ) 27001号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2012/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年2月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成20年(ワ)第27001号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成23年11月15日

判 決

長野県諏訪郡<以下略>

原 告 日本電産サンキョー株式会社

訴 訟 代 理 人 弁 護 士 新 保 克 芳

同 高 崎 仁

同 洞 敬

同 井 上 彰

北九州市<以下略>

被 告 株 式 会 社 安 川 電 機

訴 訟 代 理 人 弁 護 士 松 尾 和 子

同 相 良 由 里 子

同 佐 竹 勝 一

同 小 林 正 和

訴 訟 代 理 人 弁 理 士 大 塚 文 昭

同 倉 澤 伊 知 郎

補 佐 人 弁 理 士 田 巻 文 孝

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,別紙目録1及び2記載の各製品を製造,販売してはならない。

2 被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。


3 被告は,原告に対し,3億円及びこれに対する平成20年10月3日から支

払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

本件は,発明の名称を「ダブルアーム型ロボット」とする特許第39730

06号(以下,この特許を「本件特許1」,この特許権を「本件特許権1」と

いう。)及び発明の名称を「ダブルアーム型ロボット」とする特許第3973

048号(以下,この特許を「本件特許2」,この特許権を「本件特許権2」

という。)の特許権者である原告が,被告による別紙目録1及び2記載の各製

品(以下,別紙目録1記載の製品を「被告物件1」,同目録2記載の製品を「被

告物件2」といい,これらを総称して「被告各物件」という。)の製造及び販

売が本件特許権1及び2(以下,これらを併せて「本件各特許権」といい,ま

た,本件特許1と本件特許2を併せて「本件各特許」という。)の侵害に当た

る旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告各物

件の製造及び販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行

為に基づく損害賠償を求めた事案である。

2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全

趣旨により認められる事実である。)

(1) 当事者

ア 原告は,精密機器,産業用機器の製造販売等を目的とする株式会社であ

る。

イ 被告は,電気機械器具・装置及びシステム,産業用機械器具の製造及び

販売等を目的とする株式会社である。

(2) 特許庁における手続の経過等

ア 本件特許1

(ア) 原告は,平成12年3月23日,発明の名称を「ダブルアーム型ロ


ボット」とする発明について特許出願(特願2000−82983号。

以下「本件出願1」という。)をし,平成19年6月22日,本件特許

権1の設定登録(請求項の数11)を受けた。

(イ) 被告は,本件訴訟係属後の平成20年10月27日,本件特許1に

ついて無効審判請求(無効2008−800220号事件)をした。

特許庁は,平成21年6月26日,上記無効審判事件について,本件

特許1の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決(以

下「別件審決1」という。)をした(甲10)。

これに対し原告は,同年7月29日,別件審決1の取消しを求める審

決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10204事件。

以下「別件訴訟1」という。)を提起したが,知的財産高等裁判所は,

平成23年1月25日,原告の請求を棄却する旨の判決(以下「別件知

財高裁判決1」という。)を言い渡した(乙40)。

更に,原告は,別件知財高裁判決1を不服として上告及び上告受理の

申立て(平成23年(行ツ)第147号,同年(行ヒ)第148号事件)

をした。

イ 本件特許2

(ア) 原告は,平成12年3月23日にした本件出願1の一部を分割し

て,平成18年4月12日,発明の名称を「ダブルアーム型ロボット」

とする発明について特許出願(特願2006−109567号。 「本
以下

件出願2」という。)をし,平成19年6月22日,本件特許権2の設

定登録(請求項の数10)を受けた。

(イ) 被告は,本件訴訟係属後の平成21年5月15日,本件特許2につ

いて無効審判請求(無効2009−800096号事件)をした。

原告は,同年11月30日,本件特許2の特許請求の範囲減縮等を

目的とする訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。


特許庁は,同年12月21日,上記無効審判事件について,本件訂正

を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下

「別件審決2」という。)をした(甲20)。

これに対し原告は,平成22年1月29日,別件審決2の取消しを求

める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第1003

4事件。以下「別件訴訟2」という。)を提起したところ,知的財産高

等裁判所は,平成23年1月25日,別件審決2を取り消す旨の判決(以

下「別件知財高裁判決2」という。)を言い渡した(乙41)。

そこで,原告は,別件知財高裁判決2を不服として上告受理の申立て

(平成23年(行ヒ)第149号事件)をした。

(3) 発明の内容

ア 本件特許1

(ア) 本件特許1の特許請求の範囲は,請求項1ないし11から成り,そ

の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を

「本件発明1」という。)。

「【請求項1】 ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前

腕を連結するハンド関節部と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節

部と,前記上腕の前記肘関節部とは反対側に設けたアームの基端の関

節部と,前記各関節部を連結駆動して回動させる回転駆動源とを有す

るとともに,前記ハンド部が一方向を向いて,前記上腕と前記前腕と

を伸ばしきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハ

ンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダ

ブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがそれぞれ取り付

けられる第1及び第2の支持部材と,前記第1及び第2の支持部材を

上下方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構を備え,前記

アームは前記アームの基端の関節部が互いに上下に異なる高さで配


置された前記第1及び第2の支持部材にそれぞれ取り付けられると

共に,前記アームの基端の関節部はともに前記第1及び第2の支持部

材の間に配置され,前記アームを前記縮み位置に移動させたときに,

当該アームに取り付けられたそれぞれのハンド部が前記アームの基

端の関節部の間に位置し,かつ,二組の前記肘関節部を二組ともに前

記ハンド部の移動方向に関して同方向でかつ水平方向側方に突出さ

せ,前記ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方向と

反対側に前記移動機構を配置し,前記ハンド部はワークを載置して前

記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであって,前記縮み位

置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関

節部の間に位置させるものであるダブルアーム型ロボット。」

(イ) 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各

構成要件を「構成要件1−A」,「構成要件1−B」などという。)。

1−A ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前腕を連結

するハンド関節部と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と,前

記上腕の前記肘関節部とは反対側に設けたアームの基端の関節部と,

前記各関節部を連結駆動して回動させる回転駆動源とを有するとと

もに,前記ハンド部が一方向を向いて,前記上腕と前記前腕とを伸ば

しきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハンドを

引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダブルア

ーム型ロボットにおいて,

1−B 前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の

支持部材と,前記第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に保

持するコラムとを含む移動機構を備え,

1−C 前記アームは前記アームの基端の関節部が互いに上下に異な

る高さで配置された前記第1及び第2の支持部材にそれぞれ取り付


けられると共に,

1−D 前記アームの基端の関節部はともに前記第1及び第2の支持

部材の間に配置され,

1−E 前記アームを前記縮み位置に移動させたときに,当該アームに

取り付けられたそれぞれのハンド部が前記アームの基端の関節部の

間に位置し,

1−F かつ,二組の前記肘関節部を二組ともに前記ハンド部の移動方

向に関して同方向でかつ水平方向側方に突出させ,

1−G 前記ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方

向と反対側に前記移動機構を配置し,

1−H 前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位

置の間を移動するものであって,

1−I 前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアー

ムの前記基端の関節部の間に位置させるものである

1−J ダブルアーム型ロボット。

イ 本件特許2

(ア) 設定登録時のもの

a 本件特許2の設定登録時の特許請求の範囲は,請求項1ないし10

から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項

1に係る発明を「本件発明2」といい,また,本件発明1と本件発明

2を併せて「本件各発明」という。)。

「【請求項1】 関節部により回転可能に連結されて回転駆動源によ

る回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備

えたダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基

端の関節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高

さで前記コラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及


び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとから

なる移動部材と,前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部

とを備え,前記ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向

及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する

方向であって,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを

折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するよう

になされ,前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部

の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの

前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置

されるとともに,前記アームの前記基端の関節部は,前記支持部材

の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先

端部に,前記二組のアームを挟んで配置され,前記ハンド部はワー

クを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するもので

あって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のア

ームの前記基端の関節部の間に位置させるものであることを特徴

とするダブルアーム型ロボット。」

b 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各

構成要件を「構成要件2−A」,「構成要件2−B」などという。)。

2−A 関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回転

力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダ

ブルアーム型ロボットにおいて,

2−B 前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けら

れると共に,互いに上下に異なる高さで前記コラムに配置された第

1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を上下方向へ

移動可能に保持するコラムとからなる移動部材と,前記移動部材が

取り付けられる旋回可能な台座部とを備え,


2−C 前記ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及

び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方

向であって,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折

り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するように

なされ,

2−D 前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋

回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記

基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置され

るとともに,

2−E 前記アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラ

ムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に,前記

二組のアームを挟んで配置され,

2−F 前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み

位置の間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに

前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置さ

せるものである

2−G ことを特徴とするダブルアーム型ロボット。

(イ) 本件訂正後のもの

本件訂正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし9から成り,その請

求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項1に係

る発明を「本件訂正発明2」という。下線部は訂正箇所である。)。

「【請求項1】 関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による

回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えた

ダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関

節部を介して取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで前記

コラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支


持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材

と,前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部とを備え,前記

二組のアームは複数の関節部を有し,水平多関節型ロボットであり,

前記ハンド部は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支

持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって,

前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハ

ンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ,前記コラ

ムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,

前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回

転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに,前記アー

ムの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取り付けられ

ている側とは反対の自由端である先端部に,前記二組のアームを挟ん

で配置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮

み位置の間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに

前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させ

るものであることを特徴とするダブルアーム型ロボット。」

(4) 被告の行為等

ア 被告は,平成19年6月22日から平成20年7月12日までの間,被

告物件1又は被告物件2を製造及び販売していた(乙26,39)。

イ(ア) 被告物件1は,本件発明1の構成要件1−A,1−Eないし1−J

を充足する。

被告物件2は,本件発明1の構成要件1−A,1−B,1−Eないし

1−Jを充足する。

(イ) 被告各物件は,本件発明2の構成要件2−A,2−F及び2−G

を充足する。

3 争点


本件の争点は,被告各物件が本件各発明の技術的範囲にそれぞれ属するか否

か(争点1),本件各発明に係る本件各特許に特許無効審判により無効にされ

るべき無効理由があり,原告の本件各特許権の行使が特許法104条の3第1

項に基づいて制限されるかどうか(争点2),被告が賠償すべき原告の損害額

(争点3)である。

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件各発明の技術的範囲の属否)について

(1) 原告の主張

ア 本件発明1について

(ア) 被告物件1

被告物件1が本件発明1の1−A,1−Eないし1−Jを充足するこ

とは,前記第2の2(4)イ(ア)のとおりであるところ,被告物件1は,

以下のとおり,構成要件1−Bないし1−Dを充足するから,本件発明

1の構成要件をすべて充足する。

構成要件1−Bの充足

本件発明1の構成要件1−Bは,二つのアームがそれぞれ支持部材

によって,コラムに上下に移動可能なように保持されていることを意

味する。

しかるところ,被告物件1がこの構成であることは,別紙被告各物

件説明書の別添1の図面1(A)ないし(D)に示すとおりであり,被

告物件1の二つのアームは,それぞれ支持部材10a,10bによっ

て,コラム12に移動可能なように保持されており,別添1の図面2

(A)ないし(C)に示すように上下に移動する。

したがって,被告物件1は,構成要件1−Bを充足する。

構成要件1−C及び1−Dの充足

本件発明1の構成要件1−C及び1−Dは,アームの基端の関節部


が,上下異なる高さで配置された第1及び第2の支持部材の間に配置

されるように取り付けられることを意味する。

しかるところ,被告物件1がこのような構成であることは,別紙被

告各物件説明書の別添1の図面1(A)ないし(D)から明らかである。

したがって,被告物件1は,構成要件1−C及び1−Dを充足する。

(イ) 被告物件2

被告物件2が本件発明1の1−A,1−B,1−Eないし1−Jを充

足することは,前記第2の2(4)イ(ア)のとおりであるところ,被告物

件2は,前記(ア)bと同様の理由により,構成要件1−C及び1−Dを

充足するから,本件発明1の構成要件をすべて充足する。

(ウ) 小括

以上のとおり,被告各物件は,いずれも本件発明1の技術的範囲に属

するから,被告による被告各物件の製造及び販売は,本件発明1に係る

本件特許権1の侵害行為に該当する。

イ 本件発明2について

(ア) 被告物件1

被告物件1が本件発明2の構成要件2−A,2−F及び2−Gを充足

することは,前記第2の2(4)イ(イ)のとおりであるところ,被告物件

1は,以下のとおり,構成要件2−Bないし2−Eを充足するから,本

件発明2の構成要件をすべて充足する。

構成要件2−Bの充足

(a) 被告物件1は,別紙被告各物件説明書の別添1の図面2(A)

ないし(C)に示すとおり,コラム12の上下の位置に,アームを

支持する支持部材10a,10bが備えられて移動部材11a,1

1bを構成し,支持部材10a,10bに取り付けられたアームを

上下方向に移動可能に保持している。そして,コラム12が設置さ


れる被告物件1の台座部13は,別添1の図面4(A)ないし(D)

に示すとおり,旋回する。

したがって,被告物件1は,構成要件2−Bを充足する。

(b) 被告は,後記のとおり,構成要件2−Bは,第1の支持部材に

取り付けられているアームの基端の回転中心軸と,第2の支持部材

に取り付けられているアームの基端の関節部の回転中心軸とが同

軸上にあることを意味すると解すべきである旨主張する。

しかしながら,本件出願2の願書に添付した明細書(以下,図面

を含めて「本件明細書」という。甲2の2)には,二つのアームの

回転中心軸が同軸上にあることに限定されないことが明記されて

いる(段落【0059】,【0062】)ことに照らすならば,構

成要件2−Bは,アームの基端の関節部(肩関節部)の回転中心軸

を同軸とする場合に限定しないことは明らかであり,被告の上記主

張は理由がない。

(c) 被告は,後記のとおり,構成要件2−Bにおける「支持部材」

とは,二組のアームが取り付けられる,二つの(第1及び第2の)

別体構造の部材のことを意味するものと解すべきである旨主張す

る。

しかしながら,本件明細書(甲2の2)には,支持部材が別体で

あることを示唆する記載は一切なく,むしろ,「コラムに沿って昇

降可能な一体若しくは別体の第1及び第2の支持部材」(段落【0

026】)として,「支持部材」が一体構造及び別体構造の双方を

含むことが明記されている。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

構成要件2−Cの充足

被告物件1の上支持部材10aは,別紙被告各物件説明書の別添1


の図面1(B)に示すとおり,X方向を短辺,Y’方向を長辺とする

ほぼ長方形の形状であり,かつ,コラムの前側面12aに沿ってY’

方向へはみ出る形状で取り付けられており,かかる形状においては,

通常,そのはみ出た長辺の方向(Y’方向)が当該支持部材がコラム

から延びる方向と解される。また,被告物件1の下支持部材10bは,

コラムの前側面12aから斜め右上(XY’)方向に短く延びた後,

上支持部材10aと並行にY’方向に長く延びているのであるから,

通常,当該支持部材がコラムから延びる方向とは,上支持部材10a

と同様にY’方向と解される。

そうすると,被告物件1の上下の支持部材の移動方向は,いずれも

Y’方向であって,アームの伸縮方向であるX方向と直交することは

明らかであり,被告物件1は構成要件2−Cを充足する。

構成要件2−Dの充足

構成要件2−Dは,その文言上,コラムの旋回軌跡が,台座部の旋

回中心を中心として,アームの基端の関節部の回転中心軸より外側と

なることを要件としていることは明らかであり,アームの基端の関節

部の回転中心軸が台座部の旋回中心とコラムの間に位置する場合に

限定していない。

そして,被告物件1は,別紙被告各物件説明書の別添1の図面4

(A)に示すとおり,コラム12の旋回軌跡(「ロボット本体旋回半

径R1700」)が,台座部の旋回中心13bを中心として,アーム

の基端の関節部の回転中心軸3a,3bよりも外側を旋回しているの

であるから,構成要件2−Dを充足する。

構成要件2−Eの充足

本件発明2の支持部材10は,コラム12に対して一端を固定し,

他端を自由にした形状となっているところ,通常こうした片持ち梁で


は,固定端とは支持固定される端と定義され,自由端とは固定端から

長手方向に離れた非固定である端と定義される。

そうすると,構成要件2−Eの「前記支持部材の前記コラムに取り

付けられている側とは反対の自由端」とは,「支持部材のコラムに取

り付けられている固定端から長手方向に離れた非固定である端」を意

味するものである。

そして,被告物件1の上支持部材10a及び下支持部材10bは,

いずれもコラム12に対して,片持ち梁の形状で取り付けられている

ところ,両支持部材は,別紙被告各物件説明書の別添1の図面1(B)

におけるX方向を短辺とし,Y’方向を長辺とする形状であるから,

かかる場合の長手方向とは,Y’方向をいうのであり,その先端には,

アームの基端の関節部3a,3bが配置されている。

したがって,被告物件1は,構成要件2−Eを充足する。

(イ) 被告物件2

被告物件2が本件発明2の構成要件2−A,2−F及び2−Gを充足

することは,前記第2の2(4)イ(イ)のとおりであるところ,被告物件

2は,前記(ア)a(a)及び(b),bないしdと同様の理由により,構成

要件2−Bないし2−Eを充足するから,本件発明2の構成要件をすべ

て充足する。

(ウ) 小括

以上のとおり,被告各物件は,いずれも本件発明2の技術的範囲に属

するから,被告による被告各物件の製造及び販売は,本件発明2に係る

本件特許権2の侵害行為に該当する。

(2) 被告の主張

ア 本件発明1について

(ア) 被告物件1


被告物件1は,以下のとおり,本件発明1の構成要件1−Bないし1

−Dをいずれも充足しないから,本件発明1の技術的範囲に属さない。

構成要件1−Bの非充足

構成要件1−Bには,「前記二組のアームがそれぞれ取り付けられ

る第1及び第2の支持部材」と記載されていることから,本件発明1

における「支持部材」とは,二組のアームがそれぞれ個別に取り付け

られ,別個に上下移動することができる,二つの(第1及び第2の)

別体構造の部材のことを意味するものと解すべきである。

被告物件1は,別紙被告各物件説明書に記載されているとおり,上

アーム2a及び下アーム2bがそれぞれ上支持部材10a及び下支

持部材10bに取り付けられているところ,上支持部材10aと下支

持部材10bとはその上腕部11a及び下腕部11bがボルト23

で連結されており,実質的に一つの部材となるように構成されている

一体構造である(別紙被告各物件説明書の別添1の図面8(A)ない

し(C)参照)。

したがって,被告物件1は,本件発明1の「支持部材」を備えるも

のではなく,構成要件1−Bを充足しない。

構成要件1−C及び1−Dの非充足

(a) 被告物件1は,上記aのとおり,本件発明1の「支持部材」を

備えるものではないから,構成要件1−Cを充足するものではな

い。

(b) 構成要件1−C及び1−Dによれば,本件発明1における第1

及び第2の支持部材は互いに上下に配置されていること及びアー

ムの基端の関節部はともに第1及び第2の支持部材の間に配置さ

れていることを要するものである。

そして,構成要件1−C及び1−Dは,第1の支持部材に取り付


けられているアームの基端の関節部の回転中心軸と,第2の支持部

材に取り付けられているアームの基端の関節部の回転中心軸とが

同軸上にあることを意味すると解すべきである。

被告物件1は,上支持部材10aに取り付けられている上アーム

2aの基端の関節部3aと,下支持部材10bに取り付けられてい

る下アーム2bの基端の関節部3bとはハンド8の移動方向に関

して前後にずらされて配置されていることから(別紙被告各物件説

明書の別添1の図面1(B)及び図面7(A)ないし(C)参照),

関節部3aの回転中心軸と関節部3bの回転中心軸は同軸上に存

在しない。

したがって,被告物件1は,構成要件1−C及び1−Dを充足し

ない。

(イ) 被告物件2

被告物件2は,前記(ア)b(b)と同様の理由により,構成要件1−C

及び1−Dを充足しないから,本件発明1の技術的範囲に属さない。

イ 本件発明2について

(ア) 被告物件1

被告物件1は,以下のとおり,本件発明2の構成要件2−Bないし2

−Eをいずれも充足しないから,本件発明2の技術的範囲に属さない。

構成要件2−Bの非充足

(a) 本件明細書(甲2の2)の段落【0041】,【0048】,

【0054】及び【0062】の記載,本件出願2の原出願である

本件出願1の出願当初明細書(以下,図面を含めて「原出願当初明

細書」という。乙9)の記載並びに本件出願2の出願経過(乙11)

に照らすならば,構成要件2−Bは,第1の支持部材に取り付けら

れているアームの基端の回転中心軸と,第2の支持部材に取り付け


られているアームの基端の関節部の回転中心軸とが同軸上にある

ことを意味すると解すべきである。

被告物件1においては,上支持部材10aに取り付けられている

上アーム2aの基端の関節部3aと,下支持部材10bに取り付け

られている下アーム2bの基端の関節部3bとはハンド8の移動

方向に関して前後にずらされて配置されており(別紙被告各物件説

明書の別添1の図面1(B)及び図面7(A)ないし(C)参照),

関節部3aの回転中心軸と関節部3bの回転中心軸は同軸上に存

在しないから,被告物件1は,構成要件2−Bを充足しない。

(b) 構成要件2−Bによれば,前記二組のアームがその基端の関節

部を介して取り付けられるのが「第1及び第2の支持部材」である

ことからすると,本件発明2における「支持部材」とは,二組のア

ームが取り付けられる,二つの(第1及び第2の)別体構造の部材

のことを意味するものと解すべきである。

被告物件1においては,上支持部材基部11a及び下支持部材基

部11bとは,その上腕部11a及び下腕部11bがボルト23で

連結され,実質的に一つの部材となるよう構成された一体構造であ

り(別紙被告各物件説明書の別添1の図面8(C)参照),別体構

造とはいえないから,被告物件1は,構成要件2−Bを充足しない。

構成要件2−Cの非充足

(a) 「直交」とは「直角に交わること」(広辞苑第六版)であるか

ら,「直交する方向」とは直角に交わる方向を意味すること,本件

明細書(甲2の2)には,「前記第1及び第2の支持部材の移動方

向」とはZ方向,「前記支持部材が前記コラムから伸びる方向」と

はY方向,これらの方向に関して「直交する方向」とはX方向であ

り,ハンド部8は「直交する方向」であるX方向に伸び縮みを行っ


ている旨の記載があること(段落【0044】,図1),本件出願

1の出願経過において,原告が,拒絶理由通知(乙8)に対応し,

「ほぼ直交する」とあった請求項1の記載の「ほぼ」を削除する手

続補正(乙12)を行ったことからすると,構成要件2−Cにおけ

る「直交する方向」とは,ほぼ直角に交わる方向では足りず,完全

に直角に交わる方向でなければならないと解すべきである。

被告物件1においては,上下支持部材10a,10bの移動する

方向は,別紙被告各物件説明書の別添1の図面1(D)のZ方向で

あり,コラム12から伸びる上下支持部材基部11a,11bに連

結された上下支持部材10a,10bがコラム12から伸びる方向

は,同図面1(B)のY’方向と平行の方向ではなく,X方向とY’

方向の間でY’方向に近接した方向である。これらの方向に関して

直交する方向は,同図面1(B)のX方向と平行の方向ではなく,

X方向とY方向の間でX方向に近接した方向である。

一方,被告物件1において,ハンド8が伸び縮みを行う方向は,

同図面1(B)のX方向であり,上記方向に関して直交する方向(X

方向とY方向の間でX方向に近接した方向)であることとは一致し

ない。

したがって,被告物件1は,構成要件2−Bを充足しない。

(b) 前記a(b)のとおり,被告物件1は,本件発明2の「支持部材」

を備えるものではないから,この点においても,構成要件2−Cを

充足しない。

構成要件2−Dの非充足

本件出願2の出願経過において,原告が,拒絶理由通知(乙13)

に対応し,「台座部の旋回半径に関してコラムが関節部の回転中心軸

よりも外側に配置される」ことについて,関節部の回転中心は,コラ


ムと該コラムを支持する台座部の回転中心との間に位置することを

意味する旨述べていること(乙7)からすると,構成要件2−Dは,

アームの基端の関節部の回転中心軸が台座部の旋回中心とコラムの

間に位置する場合に限定して解釈すべきである。

被告物件1においては,上アーム2aの基端の関節部3aの回転中

心軸及び下アーム2bの基端の関節部3bの回転中心軸が,台座13

の旋回中心13bよりも上ハンド8及び下ハンド8’が伸びる方向に

位置しており,台座13の旋回中心13bとコラム12の間には存在

しないから(別紙被告各物件説明書の別添1の図面1(B)及び図面

4(A)参照),被告物件1は,構成要件2−Dを充足しない。

構成要件2−Eの非充足

構成要件2−Eには,アームの基端の関節部が,支持部材がコラム

に取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に配置され

ていることが記載されているところ,これを本件明細書(甲2の2)

の図2で示せば,「アームの基端の関節部」とは肩関節部3,「支持

部材がコラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端

部」とはスライダ10がコラム12に取り付けられている側と対極の

側にあり何物も固定されていない先端の部分である。

そうすると,構成要件2−Eは,アームの基端の関節部が,支持部

材がコラムに取り付けられている側とは対極の側にある何物も固定

されていない先端の部分に配置されていることを意味すると解すべ

きである。

被告物件1においては,上支持部材10a及び下支持部材10bが

コラム12に取り付けられている側とは対極の側にある何物も固定

されていない先端部とは,上支持部材10a及び下支持部材10bが

コラム12と面で接している側(コラム12の前側面12a側)とは


対極の側,すなわち別紙被告各物件説明書の別添1の図面1(B)に

おけるX方向側の何物も固定されていない先端の部分であって,上支

持部材10a及び下支持部材10bが同図面のY’方向側に伸びた先

の先端部分ではない。

一方,被告物件1においては,上アーム基端の関節部3a及び下ア

ーム基端の関節部3bは上支持部材10a及び下支持部材10bが

Y’方向側に伸びた先の先端部分に配置されており,上支持部材10

a及び下支持部材10bがコラム12と面で接している側(コラム1

2の前側面12a側)とは対極の側の何物も固定されていない先端の

部分には配置されていない。

したがって,被告物件1は,構成要件2−Eを充足しない。

(イ) 被告物件2

被告物件2は,前記(ア)a(a),b(a),c及びdと同様の理由によ

り,構成要件2−Bないし2−Eを充足しないから,本件発明2の技術

的範囲に属さない。

ウ まとめ

以上のとおり,被告各物件は,本件各発明の技術的範囲に属さないから,

被告による被告各物件の製造及び販売が本件各発明に係る本件各特許権

侵害に当たるとの原告の主張は理由がない。

2 争点2(本件各特許権に基づく権利行使の制限の成否)について

(1) 被告の主張

本件各発明に係る本件各特許には,それぞれ以下のとおりの無効理由があ

り,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,特許法104条

の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件各特許権を行使するこ

とができない。

ア 無効理由1(本件発明1についての進歩性の欠如)


本件発明1は,以下のとおり,当業者が,本件出願1の出願前に頒布さ

れた刊行物である特開平4−87785号公報(乙A1)に記載された発

明(以下「乙A1記載発明」という。)及び周知技術に基づいて容易に発

明をすることができたものであるから,進歩性が欠如し,本件発明1に係

る本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条

1項2号)がある。

なお,別件知財高裁判決1(甲40)は,本件発明1について,上記無

効理由と同様の理由により,進歩性が欠如するとの判断を示している。

(ア) 本件発明1と乙A1記載発明との対比

乙A1の記載事項によれば,乙A1には,次のとおりの相違点1及び

2に係る本件発明1の各構成を除き,本件発明1のその余の構成が開示

されている。

(相違点1)

本件発明1は,二組のアームは「第1及び第2の支持部材」に取り付

けられ,「二組の前記肘関節部を二組ともに前記ハンド部の移動方向に

関して同方向に突出させ」るものであり,「第1及び第2の支持部材を

上下方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構」が,「ハンド

部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方向と反対側に」設けら

れているが,乙A1記載発明は,二組のアームは「搬送チャンバの上板

部材,下板部材」に取り付けられ,二組の肘関節部が同方向に突出させ

るか不明であり,上下移動機構の詳細は明らかでない点。

(相違点2)

本件発明1は,「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組の

アームの前記基端の関節部の間に位置させる」が,乙A1記載発明は,

明らかでない点。

(イ) 相違点1の容易想到性


a 本件出願1の出願当時,コラム型の上下移動装置を有する産業用ロ

ボットは,周知技術(例えば,乙A2,A4ないしA6)であった。

また,乙24(特開平9−102526号公報)には,従来技術と

して,コラム型又はテレスコピック型の上下移動装置を有する真空内

基板搬送装置が開示されており,産業用ロボットにおける上下移動装

置には,コラム型又はテレスコピック型があることも,周知技術であ

った。

b 別件知財高裁判決1が認定判断するとおり,@当業者が,乙A1の

記載から,乙A1の実施例において開示された搬送チャンバ内に上下

一対に配設されたロボットについて,「ハンドがアーム部に対して昇

降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構

成として,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを支持

部材を介して上下昇降機構に組み合わせる際に,周知技術であるコラ

ム型の移動装置を採用することも,容易であるものということができ

る,Aそして,本件発明1においても,乙A1記載発明においても,

二組のアームの突出方向に干渉が生じることを防止することが共通

の課題とされているところ,肘関節部の突出と移動機構との干渉を回

避するためには,移動機構を,アームと接触しない位置,すなわち,

ハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に設

ける構成を採用することは,設計事項にすぎないものということがで

きる,Bその場合,二組のアーム部の肘関節部が突出する方向も,相

互の干渉や移動機構との干渉を防止するために,同方向とすることは

むしろ当然であって,肘関節部が突出する方向を同方向とすることも

また,設計事項というほかない。

したがって,当業者であれば,乙A1記載発明に相違点1に係る本

件発明1の構成を採用することを容易に想到することができたもの


である。

(ウ) 相違点2の容易想到性

a 本件出願1の出願当時,シングルアーム型ロボット又はダブルアー

ム型ロボットにおいて,「縮み位置においてワークを基端の関節部の

間に位置させる」構成あるいは「縮み位置においてワークを二組のア

ームの基端の関節部の間に位置させる」構成は,周知技術(乙C7な

いしC12)であった。

b 別件知財高裁判決1が認定判断するとおり,当業者が,引用発明に

おいて,アーム部とハンド部とを支持部材を介してコラム式の上下昇

降機構に組み合わせる際,アームを折りたたんだ縮み位置の状態にお

いて,省スペース化の観点から,周知技術である「縮み位置において

ワークを二組のアームの基端の関節部の間に位置させる」構成を採用

することは容易であるというべきである。

したがって,当業者であれば,乙A1記載発明に相違点2に係る本

件発明1の構成を採用することを容易に想到することができたもの

である。

(エ) 小括

以上によれば,本件発明1は,当業者が,乙A1記載発明及び周知技

術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性

欠如している。

イ(ア) 無効理由2−1(本件発明2についての分割要件違反に基づく新規

性の欠如)

以下のとおり,本件発明2には本件出願2の原出願である本件出願1

の出願当初明細書(原出願当初明細書)(乙9)に開示されていない事

項が含まれており,本件出願2は分割要件(平成18年法律第55号に

よる改正前の特許法44条。以下同じ。)に違反するものであるから,


出願日の遡及が認められない。そして,本件発明2は,本件出願2の出

願前に頒布された本件出願1の公開特許公報である特開2001−2

74218号公報(乙D1)に記載された発明と同一のものであり,新

規性が欠如しているから,本件発明2に係る本件特許2には,特許法2

9条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

a 本件発明2の構成要件2−Dの「前記コラムは,前記台座部が旋回

するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持

部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋

回するように配置される」との文言によれば,アーム基端関節部の回

転中心軸のオフセット方向を何ら特定していない。

一方,構成要件2−Dに関し,原出願当初明細書(乙9)に記載さ

れていた技術的事項は,「肩関節部3の回転中心が台座13の回転中

心とコラム12との間に位置するように,該肩関節部3の回転中心と

台座13の回転中心とがオフセットされている」構成のみであり,こ

の構成によって,「台座2を回動させる際にダブルアーム型ロボット

1の周囲に必要となる最小領域円15から肘関節部4やハンド部8

が突出することがない」という効果が達成されるというものであり,

それ以外の構成は開示されていない。

そうすると,本件発明2は,原出願当初明細書に開示されていない

内容を含むものであって,本件出願2は,分割要件に違反してされた

ものといえるから,出願日の遡及が認められず,その出願日は現実に

出願がされた平成18年4月12日となる。

b 本件出願2の出願前に頒布された本件出願1の公開特許公報であ

る乙D1には,上記(ア)のとおり本件発明2の構成要件2−Dの構成

が開示されているほか,その余の本件発明2の構成も開示されてい

る。


したがって,本件発明2は,乙D1に記載された発明と同一のもの

であるから,新規性が欠如している。

(イ) 無効理由2−2(本件発明2についての乙C1を主引例とする進歩

性の欠如)

本件発明2は,以下のとおり,当業者が,本件出願2の原出願である

本件出願1の出願前に頒布された刊行物である特開平4−87785

号公報(乙C1)に記載された発明(以下「乙C1記載発明」という。)

及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるか

ら,進歩性が欠如し,本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条

2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

なお,別件知財高裁判決2(乙41)は,本件発明2の構成要件2−

Cを一部訂正した本件訂正発明2(前記第2の2(3)イ(イ))について,

上記無効理由と同様の理由により,進歩性が欠如するとの判断を示して

いる。

a 本件発明2と乙C1記載発明との対比

乙C1の記載事項によれば,乙C1には,次のとおりの相違点1及

び2に係る本件発明2の各構成を除き,本件発明2のその余の構成が

開示されている。

(相違点1)

本件発明2は,二組のアームは「コラムに配置された第1及び第2

の支持部材」に取り付けられ,「該第1及び第2の支持部材を上下方

向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材」を有し,「移動

部材が取り付けられる旋回可能な台座部」とを備え,ハンド部は「第

1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムか

ら伸びる方向に関して直交する方向」に伸縮するが,乙C1記載発明

は,二組のアームは,「搬送チャンバの上板及び下板」に取り付けら


れ,ハンド部の伸縮方向は明らかでない点。

(相違点2)

本件発明2は,「コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座

部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの

前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置さ

れ」,前記アームの前記基端の関節部は,「前記支持部材の前記コラ

ムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部」に配置さ

れ,前記ハンド部は「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二

組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」ものであるが,乙

C1記載発明は,明らかではない点。

b 相違点1の容易想到性

別件知財高裁判決2が認定判断するとおり,@ 乙C13(特開昭

58−109284号公報)及び乙D6(特開平10−297714

号公報)において,シングルアーム型ロボットではあるものの,コラ

ム型の昇降機構と台座の旋回機構を有する構成が開示されており,か

かる構成は,本件出願2の原出願である本件出願1の出願当時,周知

技術であった,A乙C1においては,乙C1記載発明の実施例として,

一対のロボットを搬送チャンバ内に配置する構成について開示して

おり,かかる実施例においては,チャンバ内の床と天井が,アームが

取り付けられる支持部材に相当するものということができる,Bま

た,乙C1記載発明の特許請求の範囲においては,アーム部やハンド

全体が上下移動する構成を排除されているものではなく,乙C1に

も,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド

全体が昇降する機能が明示されている,Cそうすると,当業者が,乙

C1の記載から,乙C1の実施例において開示された搬送チャンバ内

に上下一対に配設されたロボットにつき,「ハンドがアーム部に対し


て昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有す

る構成として,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,

支持部材を介して周知技術であるコラム型の上下昇降機構に組み合

わせることは,容易であるということができる。

したがって,当業者であれば,乙C1記載発明に相違点1に係る本

件発明2の構成を採用することを容易に想到することができたもの

である。

c 相違点2の容易想到性

別件知財高裁判決2が認定判断するとおり,@当業者が,乙C1記

載発明において,アーム部とハンド部とを支持部材を介してコラム式

の上下昇降機構に組み合わせる際,アームを折り畳んだ縮み位置の状

態において,省スペース化の観点から,周知技術(例えば,乙C7な

いしC12)である「縮み位置においてワークを二組のアームの基端

の関節部の間に位置させる」構成を採用することは容易であるという

べきである,Aまた,二組のアームを支持部材に配置する際,支持部

材がコラムに取り付けられている付近に配置すると,アームとコラム

とが干渉するおそれがあることは明らかであるから,アームの基端の

関節部を,「前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは

反対の自由端である先端部」に配置することは,設計事項にすぎない

というべきである,Bシングルアーム型ロボットに関してではある

が,乙D6の図1においても,同様の構成が開示されている,C乙D

14(実願昭62−64194号(実開昭63−173107号)の

マイクロフィルム)は,重量物搬送装置に関する発明についての文献

であるところ,省スペース化を図るという目的が記載され,第4図に

は,回転テーブルの旋回中心に関して,第1アームの基端の関節部の

回転中心軸よりも移動機構が外側を旋回するように配置される構成


が開示されている,D乙D3(特開平10−278789号公報)の

図2,乙D4(特開平10−278790号公報)の図3にも,同様

の構成が開示されているから,かかる構成は,原出願発明に係る特許

の出願当時(本件出願1の出願当時),周知技術であったものという

ことができる,E当業者が,乙C1記載発明に当該周知技術を組み合

わせることは,容易であるということができる。

したがって,当業者であれば,乙C1記載発明に相違点2に係る本

件発明2の構成を採用することを容易に想到することができたもの

である。

d 小括

以上によれば,本件発明2は,当業者が,乙C1記載発明及び周知

技術に基づいて,容易に発明することができたものであるから,進歩

性が欠如している。

(ウ) 無効理由2−3(本件発明2についての乙B1を主引例とする進歩

性の欠如)

本件発明2は,以下のとおり,当業者が,本件出願2の原出願である

本件出願1の出願前に頒布された刊行物である特開昭58−1092

84号公報(乙B1)及び特開平4−87785号公報(乙B2)に記

載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか

ら,進歩性が欠如し,本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条

2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。

a 本件発明2と乙B1に記載された発明との対比

乙B1の記載事項によれば,乙B1には,次のとおりの相違点@及

びAに係る本件発明2の各構成を除き,本件発明2のその余の構成が

開示されている。

(相違点@)


乙B1記載のロボット装置(乙B1に記載された発明)が,上下に

配置されたダブルアームの構成(本件発明2の構成要件2−B)を備

えていない点。

(相違点A)

乙B1記載のロボット装置(乙B1に記載された発明)が,アーム

の縮み位置でワークを2本のアームの基端の関節部に位置させる構

成(本件発明2の構成要件2−F)を備えていない点。

b 相違点の容易想到性

乙B2には,液晶基板等を搬送するための「ダブルアーム型ロボッ

ト」が記載され,この「ダブルアーム型ロボット」は,縮み位置でハ

ンド部並びにハンド部に載置されたワークが上下2本のアームの基

部の関節の間に配置される構成を備えているため,相違点@及びAに

係る本件発明2の構成が開示されている。

そして,乙B1及びB2のいずれもが,関節連結された3本のアー

ム(部分)から構成されるアームを備えたロボットであり,これらを

組み合わせることは極めて容易なことである。

c 小括

以上によれば,本件発明2は,当業者が,乙B1及びB2に記載さ

れた発明に基づいて,容易に発明することができたものであるから,

進歩性が欠如している。

(エ) 無効理由2−4(本件発明2に係る明細書の記載不備)

以下のとおり,本件発明2に係る本件特許2には,平成11年法律第

160号による改正前の特許法36条(以下「特許法旧36条」という。)

4項,6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対

してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。

a 本件発明2の構成要件2−Dは,「前記コラムは,前記台座部が旋


回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1及び第2の支

持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を

旋回するように配置されるとともに」というものであり,「コラム」

と「台座部の旋回中心」と「基端の関節部」(肩関節)の位置関係を

特定するものと理解される。

しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Dを

説明する記載は全く存在しないし,図面中にも,この構成要件を明確

に示す記載はみられない。

したがって,本件発明2は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載

したものとはいえないから,本件出願2は特許法旧36条6項1号

(サポート要件)に適合しない。

b また,本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載は十分に明

確であるとはいえない。例えば,請求項1の記載は,支持部材が台座

部の旋回中心を越えた位置まで延び,その支持部材の先端に,基端の

関節部の回転中心軸が設けられた結果,基端の関節部の回転中心軸が

台座部材の旋回中心を挟んでコラムとは反対側に配置されている構

成を明確に排除していない。しかし,請求項1の記載の範囲に含まれ

得るこのような構成は,本件出願1の出願当初明細書(原出願当初明

細書)の記載範囲を超えるものである。

したがって,本件発明2の特許請求の範囲の記載は,特許を受けよ

うとする発明が明確であるとはいえないから,本件出願2は特許法旧

36条6項2号明確性要件)に適合しない。

c さらに,本件発明2の作用効果は,台座旋回時の回転半径を最小に

できることにあると解されるが,本件明細書の発明の詳細な説明を参

酌しても,かかる作用効果を達成するために必要な構成は十分に記載

されておらず,当業者は,本件明細書の記載からは,台座旋回中心と


コラム,及び基端関節部の位置関係がどのような場合に,上記作用効

果を達成することができるのか全く理解することができない。

したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件発

明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたも

のとはいえないから,本件出願2は特許法旧36条4項実施可能要

件)に適合しない。

d 以上のとおり,本件明細書には,特許法旧36条4項,6項1号及

び2号に規定する要件に適合しない記載不備がある。

(2) 原告の主張

ア 無効理由1に対して

(ア) 本件発明1と乙A1記載発明との対比

a 乙A1には,「アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する構

成としても良い」との抽象的な記載はあるものの,その「支持部材」

(チャンバの天井・床である上板部材や下板部材)そのものが移動す

ることは何ら記載も示唆もなく,「支持部材」自体を昇降移動させる

こと,そのために「コラム」を設けることのいずれについても開示は

ない。

したがって,乙A1記載発明は,「第1及び第2の支持部材を上下

方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構」(構成要件1−

B)の構成を備えていない点においても本件発明1と相違する。

b 乙A1記載発明のハンド部は,基板載置部と可動部分からなり,そ

の基板載置部のみが本件発明1の「ハンド部」に相当するところ,乙

A1記載発明の基板載置部は,アームの縮み位置において,アーム及

び基端の関節部の間に位置するものではない。

したがって,乙A1記載発明は,「前記アームを前記縮み位置に移

動させたときに,当該アームに取り付けられたそれぞれのハンド部が


前記アームの基端の関節部の間に位置し」(構成要件1−E)との構

成を備えていない点においても本件発明1と相違する。

(イ) 相違点1の容易想到性について

乙A1記載発明の支持部材はチャンバの天井と床であって,その支持

部材をチャンバ外で上下に移動させることを想起することは困難であ

るし,乙A1記載発明及び周知技術は,省スペース化と上下方向の可動

範囲の拡大を同時に達成するという本件発明1の課題を有していない

から,乙A1記載発明と周知技術とを組み合わせても本件発明1が容易

に想到されるものではない。

(ウ) 相違点2の容易想到性について

被告主張の周知例は,いずれも上下移動機構としてのコラムを有さな

い(テレスコピック型の)シングルアーム型ロボットに関するものであ

って,これらを(コラム型の)ダブルアーム型ロボットに適用しようと

する場合,アームの配置やコラムとの位置関係等の解決すべき技術的課

題があるところ,上記周知例には当該課題を解決する技術的記載はな

く,また,上下作動領域の拡大と平面方向の省スペース化を同時に達成

するという本件発明1の課題認識もないから,相違点2に係る本件発明

1の構成は設計事項であるとはいえない。

(エ) 小括

以上によれば,被告主張の無効理由1は理由がない。

イ(ア) 無効理由2−1に対して

原出願当初明細書(乙9)の段落【0034】,【0035】,【0

039】の記載と図1ないし図3と併せて読めば,肩関節部3の回転中

心が台座13の回転中心から偏心する位置にあり,更にその外側にコラ

ムが設けられていることは容易に理解することができるから,台座が旋

回するときの状況を考えると,原出願当初明細書には,構成要件2−D


の「前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心

に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節

部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置される」との構成が示

されているといえる。

したがって,被告主張の本件出願2の分割要件違反には理由がなく,

本件出願2は分割要件を満たすものといえるから,本件発明2の新規性

の欠如をいう被告主張の無効理由2−1は,その前提を欠くものであ

り,失当である。

(イ) 無効理由2−2に対して

a 乙C1には,チャンバの天井や床である「支持部材」そのものが移

動することは何ら記載も示唆もされていない。乙C1記載発明の「支

持部材」自体は固定されたまま,その「支持部材」に設置されたアー

ム部やハンド部が「支持部材」との関係で昇降移動し得ることが乙C

1に示唆されているにすぎない。

ところが,被告が引用する本件訂正発明2の進歩性を否定した別件

知財高裁判決2は,それを超えて,「支持部材」自体を昇降移動させ

ること,そのために「コラム」を設けることという,いずれも乙C1

に全く記載も示唆もない事項について,特許請求の範囲では「排除さ

れているものではなく」という理由であたかも具体的開示があるかの

ような誤った判断を行ったものである。

b また,進歩性の判断については,「無意識的に,事後分析的な判

断,証拠や論理に基づかない判断等が入り込む危険性が有り得るた

め,そのような判断を回避することが必要となる」(知財高裁平成

21年4月27日判決(平成20年(行ケ)第10120号)参照)

のであって,事後分析的な判断にならないように,慎重な態度に基

づき進歩性が検討されなければならない。


しかるところ,乙C1には,チャンバ内での作業が完結する「引

用発明」(乙C1記載発明)について,アーム部及びハンド全体が

昇降する機構が示されているだけで,チャンバの外に「支持部材を

上下方向に移動可能に保持するコラムを含む移動機構」を設けてチ

ャンバ外で上下方向に可動範囲を確保するような動機や示唆の記載

はない。

この点に関し,別件知財高裁判決2は,省スペース化や可動範囲

の拡大等のおよそすべての機械・装置に共通の課題を有していれば,

動機が共通であるとして,その課題解決のための新規な構成が行わ

れても,設計事項とするに等しいものであって,その進歩性の判断

は誤っている。

c 以上のとおり,被告の引用する別件知財高裁判決2には本件訂正

発明2の進歩性の判断に誤りがあり,別件知財高裁判決2が示した判

断と同様の無効理由をいう被告主張の無効理由2−2も,理由がな

い。

(ウ) 無効理由2−3に対して

a 乙B1には,ハンドにワークを載置した状態で,アームの基端の関

節部の間まで引き込み,かつ,コラムが基端の関節部の外側を旋回す

ることで,ワークを含む装置全体の旋回半径を小さくするという本件

発明2の技術的思想は全く開示されていない。

したがって,乙B1には,被告主張の相違点のほかに,本件発明2

構成要件2−D及び2−Eの構成の開示がない点においても相違

する。

b 乙B2には,ハンド34に載置されている基板が,2本の第1のア

ーム50の基端側関節の間に配置されることについての記載はなく,

ロボットの旋回半径を小さくするため,「ハンド部とワークを第1及


び第2の支持部材の関節部の間に引き込む」ことや,「アームを縮み

位置に移動させたときにワークをアーム基端の関節部の間に位置さ

せる」ことも示唆されておらず,ワークを載置するハンド部がアーム

の基端の関節部の間に位置することを意図した設計構成となってい

ない。

したがって,乙B2には,相違点Aに係る本件発明2の構成(本件

発明2の構成要件2−F)の開示がない。

c 乙B2のアーム部又はハンド全体が昇降するとしても,エッチング

等の処理装置の性質上許される程度の小さな動きにすぎず,大きなス

トロークをもって上下移動することはおろか,上下ストロークをとる

ために敢えて,装置の大型化を招くことになるコラムの設置といった

発想はないから,乙B1と乙B2とを組み合わせることはあり得な

い。

d 以上によれば,被告主張の無効理由2−3は理由がない。

(エ) 無効理由2−4に対して

a 前記(ア)のとおり,本件出願2に係る原出願当初明細書(乙9)の

発明の詳細な説明及び図1ないし3には,「コラム」,「台座部の旋

回中心」,「基端の関節部」(肩関節)の位置関係を特定する記載が

あり,構成要件2−Dが開示されている。

したがって,本件出願2が特許法旧36条6項1号(サポート要件)

に適合しないとの被告の主張理由がない。

b 本件発明2は,大型液晶用ガラスのようなワークを搬送する場合に

おいて,ワークを台座の旋回中心上でコラムの懐に抱き込むようにす

ることにより,ロボットの旋回領域の縮小を図ったもので,従来コラ

ムから台座の旋回中心の外側方向に向かって設けられていたアーム

の支持部材を,コラムから台座の旋回領域の内側方向に延ばし,その


自由端側にハンドの基端の関節部の回転中心軸を設けることにより

これを達成している。この構成によって,本件明細書(甲2の2)の

段落【0027】に記載の「アームの基端の肩関節の回転中心からコ

ラムまでの支持部材の長さにコラムの厚み寸法分を加えた長さにほ

ぼ対応する分のロボットの旋回作動領域を小さくすることができる」

という効果が得られるが,ワークが大型になった場合に,ワークを抱

き込むために基端の関節部の回転中心軸が台座の旋回中心よりもコ

ラムと反対側に延ばす必要があることは,本件明細書の図2を見れば

当業者にとって明白なことである。

したがって,本件出願2は特許法旧36条6項2号明確性要件)

に適合しないとの被告の主張は,その前提を欠くものであり,理由が

ない。

c 本件発明2の特許請求の範囲の請求項1は,「基端関節部の回転中

心が台座旋回中心とコラムとの間に位置する関係」に限定するもので

はなく,「ワークを台座の旋回中心上,コラムの懐に引き込んで旋回

する」ための,台座の旋回中心とコラムと基端の関節部の回転中心と

の旋回位置の関係を述べたものである。そして,その効果は,旋回作

動領域を小さくすることにあり,被告が主張するような台座旋回時の

回転半径を最小にできることを効果とするものではなく,被告の主張

は本件発明2の権利範囲と効果を不当に狭く解釈するものである。

したがって,本件出願2は特許法旧36条4項実施可能要件)に

適合しないとの被告の主張は,その前提を欠くものであり,理由がな

い。

d 以上によれば,被告主張の無効理由2−4は理由がない。

3 争点3(原告の損害額

(1) 原告の主張


ア 被告が被告各物件を製造及び販売した行為は,原告の本件各特許権を侵

害する不法行為に当たるから,被告は,原告に対し,原告が受けた損害を

賠償する義務を負う。

イ 特許法102条1項は,侵害行為を組成した物譲渡数量に,「侵害

行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」を

乗じて得た額を,特許権者又は専用実施権者の実施能力を超えない限度に

おいて,特許権者又は専用実施権者が受けた損害額とすることができると

規定している。

しかるところ,@被告各物件の売上台数は,本件特許の設定登録日であ

る平成19年6月22日以降,150台を下回らないこと,A被告各物件

の売上台数の全部について原告が本件各発明の実施品を供給する能力(実

施能力)を有していたこと,B本件各発明の実施品を製造販売することに

よって得る原告の利益(限界利益)は1台当たり200万円を下回らない

ことからすると,特許法102条1項によって算定される原告の損害額

は,3億円を下回らない。

ウ 被告は,後記のとおり,被告各物件中には,「ハンド部」を欠いた状態

で製造及び販売される製品があり,そのような製品は,本件各発明の構成

要件を一部充足しないものであるから,売上台数に含めるべきではない旨

主張する。

しかしながら,そのような「ハンド部」を欠いた状態で製造及び販売さ

れた被告各物件についても,本件各発明と均等なものとして,本件各発明

技術的範囲に属するものというべきであるから,被告の上記主張は理由

がない。

エ 以上によれば,原告は,被告に対し,本件各特許権侵害不法行為に基

づく損害賠償として3億円及びこれに対する平成20年10月3日(訴状

送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損


害金の支払を求めることができる。

(2) 被告の主張

原告の主張は争う。

なお,被告による被告各物件の売上台数は,被告物件1については平成1

9年7月25日から平成20年7月12日までの間に合計50台,被告物件

2については平成19年7月10日から平成20年6月12日までの間に

合計40台である。ただし,被告は,被告各物件を「ハンド部」を付けて製

造及び販売する場合と,「ハンド部」を付けずに製造及び販売する場合(こ

の場合,顧客の希望により,顧客自身が,その仕様に応じて「ハンド部」を

準備することができる。)があるところ,「ハンド部」を欠く製品(上記の

被告物件1につき41台,被告物件2につき28台)は本件各発明の構成要

件を一部充足せず,本件各発明の技術的範囲に属さないから,被告各物件の

売上台数に含めるべきではない。

第4 当裁判所の判断

1 本件特許権1に基づく請求

本件の事案に鑑み,まず,争点2(本件各特許権に基づく権利行使の制限の

成否)の被告主張の無効理由1(本件発明1についての進歩性の欠如)から判

断することとする。

被告は,本件発明1は,本件出願1の出願前に頒布された刊行物である特開

平4−87785号公報(乙A1)に記載された発明(乙A1記載発明)及び

周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,

本件発明1に係る本件特許1には特許法29条2項に違反する進歩性欠如の

無効理由(無効理由1)があり,特許無効審判により無効にされるべきもので

あるから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,本件特許権1を行

使することができない旨主張する。

(1) 本件発明1と乙A1記載発明との対比


ア 乙A1(特開平4−87785号公報)には,次のような記載がある(な

お,下記(ク)の記載中に引用する図面のうち,「第1図」及び「第2図」

については,別紙1参照)。

(ア) 「特許請求の範囲」として,「駆動部と該駆動部の一側面に沿って

動作するアーム部とよりなるロボットを備え,前記アーム部の先端に設

けられたハンドに基板を載せて移動させる基板搬送装置であって,前記

一側面が相対向するようにして上下に前記ロボットが配設されている

ことを特徴とする基板搬送装置。」(1頁左欄3行〜10行)

(イ) 「「産業上の利用分野」 本発明は,半導体基板等の基板に対して

エッチング等の処理を施す処理装置における基板の搬送装置に関す

る。」(1頁左欄12行〜15行)

(ウ) 「「従来の技術」 …このように半導体基板や液晶基板(以下,基

板という。)が大型化すると,これら基板に対して例えばプラズマアッ

シングやプラズマエッチング等の処理を施す基板処理装置には,処理速

度が均一でかつ高速であることが要求される。…そして,この種のプラ

ズマ処理装置は…基板を一枚づつ受け渡すための搬送装置を必要とす

るものであるが,従来,この搬送装置としては,周回するベルトよりな

りこのベルト上に基板を載せて搬送する構造のものが一般的であった。

ところで,このベルトによる基板の搬送装置であると,ベルトの運動に

よってベルトから多量にダストが発生し…製品の品質が確保し難く,歩

留まりが悪くなるという問題があった。また,基板はベルトの摩擦力(粘

着力)によって搬送するため位置決めが不正確になり易く,しばしば基

板破損等の事故が発生するという問題点があった。そこで,基板を載せ

るハンドが先端に設けられたアーム部を有するマニピュレータ(いわゆ

るロボット)より構成された搬送装置が,上記問題点を解消したものと

して使用されつつある。」(1頁左欄16行〜2頁左上欄16行)


(エ) 「「発明が解決しようとする課題」 ところが,このロボットより

構成された搬送装置は,従来,ロボットを一台しか搭載しておらず,…

処理済み基板と未処理の基板の搬送を順次行わなければならない。これ

故,基板の搬送に要する時間が長く,処理装置のスループット(単位時

間当たりの基板処理枚数)が低下するという問題があった。」,「とこ

ろで,ロボットを2台並べて配設して搬送装置を構成するということが

考えられるが,この場合でもロボット相互の干渉のためにやはりスルー

プットを向上させることはできず,それどころか基板処理装置が横方向

に大型になり高価なクリーンルーム内において占める面積が増大する

という問題が生じる。」(以上,2頁左上欄17行〜右上欄15行)

(オ) 「本発明は上記従来の事情に鑑みなされたものであって,設置スペ

ースが小さくしかも基板処理装置における基板の搬送が短時間で行え

る基板搬送装置を提供することを目的としている。」(2頁右下欄5行

〜8行)

(カ) 「「課題を解決するための手段」 本発明の基板搬送装置は,駆動

部と該駆動部の一側面に沿って動作するアーム部とよりなるロボット

を備え,前記アーム部の先端に設けられたハンドに基板を載せて移動さ

せる基板搬送装置であって,前記一側面が相対向するようにして上下に

前記ロボットが配設されていることを特徴としている。」(2頁右下欄

9行〜16行)

(キ) 「「作用」 本発明の基板搬送装置であると,各ロボットのそれぞ

れのアーム部がどの方向に動作してもアーム部,ハンドあるいはハンド

に載せた基板が互いに干渉することはなく,しかも,上下のロボットの

ハンドを互いに重ねるようにして同時に処理室へ挿入することができ

る。…しかも,ロボットは上下に配設するので,設置スペースは少なく

とも従来と同様に小さく維持できる。」(2頁右下欄17行〜3頁左上


欄10行)

(ク) 「「実施例」 以下,本発明の一実施例を第1図〜第5図により説

明する。」(3頁左上欄11行〜13行),「搬送装置13は,第1図,

第2図に示すように,駆動部30とこの駆動部30の一側面30aに沿

って動作するアーム部31とを備えたロボット32,33より構成され

るもので,これらロボット32,33は前記一側面30aを相対向させ

るように上下に配置されている。そして,各アーム部31の旋回中心す

なわち駆動部30の軸中心は搬送チャンバ10の中心に一致させられ,

アーム部31が搬送チャンバ10内に位置し,駆動部30が搬送チャン

バ10から上下に張り出すように搬送チャンバ10に取り付けられて,

各アーム部31の先端に設けられたハンド34に基板を載せて移動さ

せるものである。」(4頁左上欄2行〜14行),「以下,この搬送装

置13(すなわち,ロボット32,33)の各部の構成を説明する。ま

ず,駆動部30は,第3図に示すように,フランジ部40aを有するケ

ース40と,このケース40内のフランジ部40aの中心線上に配設さ

れた第2モータ42と,ケース40内に第2モータ42と並んで配設さ

れた第1モータ41と,フランジ部40aの中心線上に基端が第2モー

タの上方に位置し先端がフランジ部40aから突出した状態に配設さ

れた第1駆動軸43と,基端が第2モータ42の出力軸に固定され先端

が第1駆動軸43内を貫通して伸びるように設けられた第2駆動軸4

4と,第1駆動軸43とフランジ部40aとの間に設けられた磁気シー

ル45とより主構成をなすものである。そして,ケース40内の第2モ

ータ42の上方位置には,軸受46aによって回転自在に支持され第1

駆動軸43の基端外周に固定されたプーリ47が設けられ,このプーリ

47と第1モータ41の出力軸に固定されたプーリ48とに巻回され

た歯付きベルト49を介して,第1駆動軸43は第1モータ41によっ


て駆動されるようになっている。」
(4頁左上欄15行〜右上欄17行),

「アーム部31は,前記第1駆動軸43の先端に固定されて前記一側面

30aに沿って伸びる箱状の第1アーム50と,この第1アーム50の

先端部上面に回転自在に連結されて第1アーム50と同方向に伸びる

箱状の第2アーム51とを備えるものである。 第1アーム50にはそ

の基端部下面に位置してボス部50aが形成されており,このボス部5

0aが第1駆動軸43の先端部外周に嵌合固定させられることによっ

て,第1アーム50は第1駆動軸に固定されて第1駆動軸の回転によっ

て前記一側面30aに沿って回転するようになっている。また,第2ア

ーム51にもその基端部下面から伸びるボス部51aが形成されてお

り,このボス部51aが第1アーム50の先端部内に伸びてこの先端部

底面に立設固定された軸52の外周に軸受53,54を介して取り付け

られることによって,第2アーム51は第1アーム50に連結されてや

はり前記一側面30aに沿って回転できるようになっている。」(4頁

右下欄4行〜5頁左上欄3行),「ハンド34は,第4図に示すように,

先端に基板載置部(この場合半導体ウエハ用)70が形成されたもので,

その基端が前記軸部61aの上面に固定されることによって,やはり前

記一側面30aに沿って回転するようになっている。このハンド34の

基板載置部70は,周囲にガイド71a,71b,71cが形成された

コ字状の載置面70aを有するものであり,これらガイド部間に基板が

載せられると,基板はその中央部下面がこのハンド34の裏側に望んだ

状態で支持されるようになっている。なお,このハンド34は,上側の

ロボット32においては前記載置面70aが駆動部30側に向くよう

な向きで取り付けられ,また下側のロボット33においては前記載置面

70aが駆動部30と反対側に向くような向きで取り付けられており,

どちらも載置面70aが上方に向くようになっている。」(5頁右上欄


17行〜左下欄14行)

(ケ) 「本発明のロボットはハンドが二次元的にしか動作できないものに

限られず,例えば,ハンドがアーム部に対して昇降する機能を有してい

たり,アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有する構成とされ,さ

らに多自由度なハンドの動きが可能なロボットでもよい。」(8頁左下

欄10行〜15行)

(コ) 「「発明の効果」 本発明の基板搬送装置によれば,基板処理装置

における基板の搬送時間は従来よりも大幅に低減され,基板処理装置の

スループットを格段に向上できるという効果が奏される。しかも,ロボ

ットは上下に配設するので横方向の大きさは少なくとも従来と同じで

あり,基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積は従来よりも大き

くならないという効果がある。」(8頁左下欄19行〜右下欄7行)

イ 本件発明1の内容は,本件特許1に係る特許請求の範囲の請求項1記載

のとおりである(前記第2の2(3)ア(ア))。

本件発明1の上記内容と前記ア認定の乙A1の記載事項を総合すると,

本件発明1と乙A1記載発明との間には,別件審決1(甲10)が認定し

たように,次のような一致点と被告主張のとおりの相違点1及び2がある

ことが認められる。

(一致点)

「ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前腕を連結するハ

ンド関節部と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と,前記上腕の前

記肘関節部とは反対側に設けたアームの基端の関節部と,前記各関節部を

連結駆動して回動させる回転駆動源とを有するとともに,前記ハンド部が

一方向を向いて,前記上腕と前記前腕とを伸ばしきった伸長位置と前記上

腕と前記前腕とを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移

動するアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて,前記二組の


アームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の被取付部材と,前記二組

のアームの上下移動機構を備え,前記アームは前記アームの基端の関節部

が互いに上下に異なる高さで配置された前記第1及び第2の被取付部材

にそれぞれ取り付けられると共に,前記アームの基端の関節部はともに前

記第1及び第2の被取付部材の間に配置され,前記アームを前記縮み位置

に移動させたときに,当該アームに取り付けられたそれぞれのハンド部が

前記アームの基端の関節部の間に位置し,かつ,二組の前記肘関節部を水

平方向側方に突出させ,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と

前記縮み位置の間を移動するものであるダブルアーム型ロボット。」であ

る点。

(相違点1)

本件発明1は,二組のアームは「第1及び第2の支持部材」に取り付け

られ,「二組の前記肘関節部を二組ともに前記ハンド部の移動方向に関し

て同方向に突出させ」るものであり,「第1及び第2の支持部材を上下方

向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構」が,「ハンド部の移動

方向に関して前記肘関節部が突出する方向と反対側に」設けられている

が,乙A1記載発明は,二組のアームは「搬送チャンバの上板部材,下板

部材」に取り付けられ,二組の肘関節部が同方向に突出させるか不明であ

り,上下移動機構の詳細は明らかでない点。

(相違点2)

本件発明1は,「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のア

ームの前記基端の関節部に位置させる」が,乙A1記載発明は,明らかで

ない点。

ウ(ア) この点に関し,原告は,乙A1には,「支持部材」自体を昇降移動

させること,そのために「コラム」を設けることのいずれについても開

示がない点においても,乙A1記載発明は,本件発明1と相違する旨主


張する。

しかし,原告主張の相違点は,上記相違点1に含まれているといえる

から,原告の主張は採用することができない。

(イ) また,原告は,乙A1記載発明のハンド部は,基板載置部と可動部

分からなり,その基板載置部のみが本件発明1の「ハンド部」に相当す

るところ,乙A1記載発明の基板載置部は,アームの縮み位置において,

アーム及び基端の関節部の間に位置するものではないから,乙A1記載

発明は,「前記アームを前記縮み位置に移動させたときに,当該アーム

に取り付けられたそれぞれのハンド部が前記アームの基端の関節部の

間に位置し」(構成要件1−E)との構成を備えていない点においても

本件発明1と相違する旨主張する。

そこで検討するに,前記アの記載事項によれば,乙A1のダブルアー

ム型ロボット(乙A1記載発明)には,3個の軸部(基端のボス部,軸,

軸部)とそれらの間に2本のアーム(第1アーム,第2アーム)が設け

られていることが認められるところ,別件知財高裁判決1(甲40)が

認定判断するとおり,乙A1記載発明においては,第2アームに連結さ

れた軸部,軸受が本件発明1の「ハンド関節部」に相当し,その軸部,

軸受に連結されるハンドは,「ハンド関節部」につながる本件発明1の

「ハンド部」に相当するものといえるから,乙A1記載発明の基板載置

部のみが本件発明1の「ハンド部」であることを前提とする原告の上記

主張は,その前提において,採用することができない。

(2) 相違点の容易想到性

ア 相違点1について

(ア) 証拠(乙A2の図2,乙A4の図1,乙A5の第1図,乙A6の図

7,乙24)によれば,本件出願1の出願当時,コラム型の上下移動装

置を有する産業用ロボットは,周知技術であったことが認められる。


しかるところ,乙A1の「特許請求の範囲」(前記(1)ア(ア))は,

アーム部やハンド全体が上下移動する構成を排除するものではなく,ま

た,乙A1には,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部

及びハンド全体が昇降する機能(前記(1)ア(ケ))が明示されている。

そうすると,別件知財高裁判決1が認定判断するように,当業者が,

乙A1の記載から,その実施例において開示された搬送チャンバ内に上

下一対に配設されたロボットにつき,「ハンドがアーム部に対して昇降

する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構成と

して,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,支持部材

を介して上下昇降機構を組み合わせること及びその際に上記周知技術

であるコラム型の上下移動装置を採用することは容易であるというこ

とができる。

そして,乙A1では,二組のアームの突出方向に干渉が生じることを

防止することが従来技術における解決すべき課題とされていること(前

記1(1)ア(エ))に照らすならば,別件知財高裁判決1が認定判断する

ように,乙A1記載発明において,肘関節部の突出と移動機構との干渉

を回避するために,移動機構を,アームと接触しない位置,すなわち,

「ハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に」設

ける構成を採用し,ハンド部の伸縮方向を「第1及び第2の支持部材の

移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交

する方向」とする構成を採用することは設計事項にすぎず,また,その

場合,二組のアーム部の肘関節部が突出する方向も,相互の干渉や移動

機構との干渉を防止するために,当該肘関節部が突出する方向を同方向

とすることも設計事項にすぎないものということができる。

以上によれば,当業者であれば,乙A1及び上記周知技術に基づいて,

相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたもの


というべきである。

(イ) これに対し原告は,乙A1記載発明の支持部材はチャンバの天井と

床であって,その支持部材をチャンバ外で上下に移動させることを想起

することは困難であるなどと主張するが,前記(ア)で説示したとおり,

原告の上記主張は,採用することができない。

イ 相違点2について

(ア) 証拠(乙C7の図4,乙C8の図5,乙C9の図1,乙C10の図

2,乙C11の図2,乙C12の図2)によれば,本件出願1の出願当

時,シングルアーム型ロボット又はダブルアーム型ロボットにおいて,

「縮み位置においてワークを基端の関節部に位置させる」構成あるいは

「縮み位置においてワークを二組のアームの基端の関節部に位置させ

る」構成は,周知技術であったことが認められる。

そして,別件知財高裁判決1が認定判断するように,当業者が,乙A

1記載発明において,アーム部とハンド部とを支持部材を介してコラム

式の上下昇降機構に組み合わせる際,アームを折りたたんだ縮み位置の

状態において,省スペース化の観点から,上記周知技術である「縮み位

置においてワークを二組のアームの基端の関節部に位置させる」構成

(相違点2に係る本件発明1の構成)を採用することは容易であるとい

うべきである。

(イ) これに対し原告は,乙C7ないしC12は,いずれも上下移動機構

としてのコラムを有さない(テレスコピック型の)シングルアーム型ロ

ボットに関するものであって,これらを(コラム型の)ダブルアーム型

ロボットに適用しようとする場合,アームの配置やコラムとの位置関係

等の解決すべき技術的課題があるところ,乙C7ないしC12には当該

課題を解決する技術的記載はなく,また,上下作動領域の拡大と平面方

向の省スペース化を同時に達成するという本件発明1の課題認識もな


いから,相違点2に係る本件発明1の構成は設計事項であるとはいえな

い旨主張する。

しかしながら,乙C7ないしC12は,相違点2に係る本件発明1の

構成が周知技術であることを示す周知例として位置づけられるもので

あって,これらの各周知例により開示された発明の課題やその解決手段

それ自体は,上記周知技術を乙A1記載発明に適用するための阻害事由

となるものではなく,また,省スペース化の観点から,乙A1記載発明

に上記周知技術を適用することは,前記(ア)のとおり,容易であるとい

うべきであるから,原告の上記主張は,採用することができない。

(3) まとめ

以上のとおり,本件発明1は,当業者が乙A1記載発明及び周知技術に基

づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1は進歩性

を欠くものであり,本件発明1に係る本件特許1には,特許法29条2項

違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無

効とされるべきものと認められる。

したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告に対

し,本件発明1に係る本件特許権1を行使することができない。

2 本件特許権2に基づく請求

本件の事案に鑑み,まず,争点2(本件各特許権に基づく権利行使の制限の

成否)の被告主張の無効理由2−2(本件発明2についての乙C1を主引例と

する進歩性の欠如)から判断することとする。

被告は,本件発明2は,本件出願2の原出願である本件出願1の出願前に頒

布された刊行物である乙C1に記載された発明(乙C1記載発明)及び周知技

術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発

明2に係る本件特許2には特許法29条2項に違反する進歩性欠如の無効理

由(無効理由2−2)があり,特許無効審判により無効にされるべきものであ


るから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,本件特許権2を行使

することができない旨主張する。

(1) 本件発明2の内容

本件発明2の内容は,本件特許2に係る特許請求の範囲の請求項1記載の

とおりである(前記第2の2(3)イ(ア))。

本件明細書(甲2の2)には,本件発明が解決しようとする課題,本件発

明2の目的,解決手段及び作用効果等に関し,次のような記載がある(なお,

下記オの記載中に引用する図面のうち,「図1」ないし「図3」については,

別紙2参照)。

ア 「【技術分野】 本発明はロボットに関する。さらに詳述すると,本発

明は,ワークの取り出し及び供給を行なうダブルアーム型ロボットに関す

るものである。」(段落【0001】)

イ 「【背景技術】 従来,液晶用のガラス基板や半導体ウェハ等の薄板状

のワークをストッカから取り出す,またワークをストッカに供給するため

に,例えば図5から図7に示すダブルアーム型ロボットが利用されてい

る。」(段落【0002】)

ウ 「【発明が解決しようとする課題】・・・従来のダブルアーム型ロボット

100では,両アーム101が縮んだ際に両肘関節部115が左右対称に

突出して,ダブルアーム型ロボット100の旋回半径,即ち円106で示

す旋回に要する領域が大きくなってしまうという問題がある。さらに,2

つのハンド部113が接触することがないようにコの字型コラム117

aが基台上部103の旋回中心の外側に向かって突出しており,ダブルア

ーム型ロボット100の旋回半径が更に大きなものとなってしまう。(段


落【0010】),「これらに対し,他の装置にぶつかることがないよう

にダブルアーム型ロボット100の周囲に十分なスペースを設ける必要

が生じ,その分だけ大型のクリーンルームとそれに付帯する浄化設備等の


大型化が必要となりコスト高となる。また,クリーンルーム内におけるダ

ブルアーム型ロボットの占有するスペースが大きくなると,レイアウトの

自由度を低下させてしまう。」(段落【0011】),「近年の液晶用ガ

ラス基板の大型化により,ガラス板の撓みも大きくなることから,ストッ

カの各段の間隔(ピッチ)を大きくする必要が生じている。それに伴って,

ダブルアーム型ロボット100においても上下方向のストロークを大き

くする必要がある。ここで,従来のダブルアーム型ロボット100では,

アーム101の縮み動作に伴い両肘関節部115が左右対称に突出する

ため,設置スペースを考慮すると,アーム101の上下移動のための機構

はアーム101の下側に配置する必要がある。しかし,上下移動機構とし

て,従来採用されている多段テレスピック構造では,上下方向のストロー

クを大きくするほど,複雑大型化してしまう。」(段落【0012】)

エ 「本発明は,旋回半径が小さく,また,装置の大型化・複雑化を伴わな

い上下移動機構により構成可能なダブルアーム型ロボットを提供するこ

とを目的とする。」(段落【0013】)

オ 「【課題を解決するための手段】 かかる目的を達成するため,請求項

1記載の発明は,関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回

転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブル

アーム型ロボットにおいて,前記二組のアームがその基端の関節部を介し

て取り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで前記コラムに配置さ

れた第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を上下方向へ

移動可能に保持するコラムとからなる移動部材と,前記移動部材が取り付

けられる旋回可能な台座部とを備え,前記ハンド部は前記第1及び第2の

支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関

して直交する方向であって,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記ア

ームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するよう


になされ,前記コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回

中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関

節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに,前記

アームの前記基端の関節部は,前記支持部材の前記コラムに取り付けられ

ている側とは反対の自由端である先端部に,前記二組のアームを挟んで配

置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の

間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを

前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるようにしてい

る。」(段落【0014】),「図1から図4に,本発明のダブルアーム

型ロボットの一実施形態を示す。このダブルアーム型ロボット1は,関節

部3,4,5により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達

し所望の動作をさせるアーム2を二組備えてなるもので,二組のアーム2

に設けられる基端の関節部3の回転中心軸を上下(または軸方向)に配置

するように構成されている。」(段落【0041】)

カ 「【発明の効果】・・・請求項1記載のダブルアーム型ロボットによると,

コラムに沿って昇降可能な一体若しくは別体の第1及び第2の支持部材

を介して二組のアームを互いに上下に異なる高さで支持し,旋回台の旋回

によりアームの向きを変更できるので,ワーク搬送の上下方向,特に下側

の領域を拡大でき,ワークの収納領域を下側に拡充できる。即ち,アーム

の最下位置を下げることが可能になり,ダブルアーム型ロボットのハンド

リングできる高さが下がり,アームの作業可能範囲を広げることができ

る。このように構成されたダブルアーム型ロボットは,多段テレスピック

構造等で上下移動機構を構成する場合に比して,機構を複雑化・大型化す

ることなく上下移動方向のストロークを大きくできる。」(段落【002

6】),「さらに,ロボットの旋回半径に関してコラムの旋回領域の内側

にアーム基端の関節部を位置させるようにオフセットさせているので,ア


ームの基端の肩関節の回転中心からコラムまでの支持部材の長さにコラ

ムの厚み寸法分を加えた長さにほぼ対応する分のロボットの旋回作動領

域を小さくすることができる。つまり,ロボットが旋回する際に,コラム

旋回領域の内側に折り畳んだ状態のアームが旋回する領域を確保できま

すので,ロボット作動領域の省スペース化ができます。」(段落【002

7】),「これら本発明特有の効果である「ワーク収納領域の拡充」と「ロ

ボット作動領域の減容化」によって,高価なクリーンルームや工場スペー

スの利用効率を大幅に高める,換言すればクリーンルーム並びにそれに付

帯する浄化設備等の小型化を可能とし,レイアウトの自由度を高めること

ができる。」(段落【0028】),「さらに,本発明によると,コラム

から離れた位置(支持部材のコラム側とは反対の端部,つまり自由端であ

る先端部)にアームの基端の関節部を設けたので,上下の基端関節部の間

に基板(ワーク)を引き込む動作(縮み動作)において,旋回半径に関し

てコラムよりも内側にワークの縁の移動軌跡が配置されることによりワ

ークとコラムが干渉してワークが壊れることない。また,移動部材(移動

機構)がアームの伸縮方向の側部に位置する構成であってもロボット作動

領域を省スペース化することができる。」(段落【0029】),「請求

項1記載の発明によると,ハンド部の高さを互いに変えるためのコの字型

コラムを設ける必要がなくなるので,その分だけ旋回半径の径方向外側へ

の突出物が減少し,さらに旋回半径を小さくできる。しかも,支持部材が

コラムに対し異なる高さで設置されているために,アームを縮め位置に引

き込んだ際にアームの基端の関節部即ち肩関節部の間にハンド部を収容

させて旋回中心近傍にハンド部ひいてはワークを配置することができる

ので,旋回半径の最小化を可能とする。」(段落【0030】)

(2) 乙C1の記載事項

ア 乙C1(特開平4−87785号公報)には,前記1(1)認定のとおり


の記載がある(乙C1と乙A1は,同一刊行物である。)。

イ 前記アの記載と図面(乙C1)を総合すると,乙C1には,「第1駆動

軸,ボス部,軸部により回転可能に連結されて,第1,第2モータによる

回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブ

ルアーム型ロボットにおいて,前記二組のアームが第1駆動軸を介して取

り付けられると共に,互いに上下に異なる高さで搬送チャンバに配置され

た搬送チャンバの上板及び下板とを備え,前記ハンド部は,前記アームを

伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ

縮み位置との間を移動するようになされ,前記アームの前記第1駆動軸は

前記二組のアームを挟んで配置され,前記ハンド部はワークを載置して前

記伸長位置と前記縮み位置との間を移動するものであるダブルアーム型

ロボット」が記載されていることが認められる。

(3) 本件発明と乙C1記載発明との対比

前記(1)及び(2)の認定を前提に,本件発明2と乙C1記載のダブルアーム

型ロボット(乙C1記載発明)とを対比すると,別件審決2が本件訂正発明

2及び乙C1記載発明についての一致点,相違点1及び2として認定(甲2

0の28頁12行〜末行)したのと同様に,次のような一致点と相違点があ

ることが認められる。

(一致点)

「関節部により回転可能に連結されて回転駆動源による回転力を伝達しハ

ンド部に所望の動作をさせるアームを二組備えたダブルアーム型ロボット

において,前記二組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると

共に,互いに上下に異なる高さで保持部分に配置された第1及び第2の支持

部分とを備え,前記ハンド部は,前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記

アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するよう

になされ,前記アームの前記基端の関節部は,前記二組のアームを挟んで配


置され,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間

を移動するものであるダブルアーム型ロボット」である点。

(相違点1)

本件発明2は,二組のアームは「コラムに配置された第1及び第2の支持

部材」に取り付けられ,「該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能

に保持するコラムとからなる移動部材」を有し,「移動部材が取り付けられ

る旋回可能な台座部」とを備え(構成要件B),ハンド部は「第1及び第2

の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから伸びる方向に関

して直交する方向」に伸縮するが(構成要件C),乙C1記載発明では,二

組のアームは,「搬送チャンバの上板及び下板」に取り付けられ,ハンド部

の伸縮方向は明らかでない点。

(相違点2)

本件発明2は,「コラムは,前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋

回中心に関して,前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関

節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置され」(構成要件D),

前記アームの前記基端の関節部は,「前記支持部材の前記コラムに取り付け

られている側とは反対の自由端である先端部」に配置され(構成要件E),

前記ハンド部は「縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアーム

の前記基端の関節部の間に位置させる」ものであるが(構成要件F),乙C

1記載発明は,明らかではない点。

(4) 相違点の容易想到性

ア 相違点1について

(ア) 証拠(乙C13の第7図,乙D6の図1)によれば,本件出願2の

原出願である本件出願1の出願当時,シングルアーム型ロボットにおい

て,コラム型の昇降機構と台座の旋回機構を有する構成は,周知技術

あったことが認められる。


そして,乙C1においては,その実施例として,一対のロボットを搬

送チャンバ内に配置する構成について開示しており(前記(2)ア,1(1)

ア(ク)),かかる実施例においては,チャンバ内の床と天井が,アーム

が取り付けられる支持部材に相当するものということができる。

また,乙C1の「特許請求の範囲」(前記(2)ア,1(1)ア(ア))は,

アーム部やハンド全体が上下移動する構成を排除するものではなく,ま

た,乙C1には,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部

及びハンド全体が昇降する機能(前記(2)ア,(1)ア(ケ))が明示されて

いる。

そうすると,別件知財高裁判決2(乙41)が認定判断するように,

当業者が,乙C1の記載から,その実施例において開示された搬送チャ

ンバ内に上下一対に配設されたロボットにつき,「ハンドがアーム部に

対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有

する構成として,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,

支持部材を介して上記の周知技術であるコラム型の昇降機構とし,台座

の旋回機構を有する構成に組み合わせることは,容易であるということ

ができる。

(イ) 乙C1記載発明においては,各ロボットのそれぞれのアーム部がど

の方向に動作しても,アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が

互いに干渉することはないとされていることから,ハンドの伸縮方向に

制限はない。

また,本件明細書(甲2の2)には,本件発明2において,ハンド部

の伸縮方向を「第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が

前記コラムから延びる方向に関して直交する方向」とする構成の有する

技術的意義が明示的には記載されていない。

そして,支持部材はコラムにより保持されているのであるから,ハン


ド部がコラムと干渉するおそれがあるコラム方向に伸縮することは想

定できないし,乙C1では,二組のアームの突出方向に干渉が生じるこ

とを防止することが従来技術における解決すべき課題とされているこ

と(前記(2)ア,1(1)ア(エ))に照らすならば,別件知財高裁判決2が

認定判断するように,乙C1記載発明において,二組のアーム同士及び

コラムなどとの干渉を回避するために,ハンド部の伸縮方向を「第1及

び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延び

る方向に関して直交する方向」とする構成を採用することは,設計事項

にすぎないものということができる。

(ウ) 以上によれば,当業者であれば,乙C1記載発明及び上記周知技術

に基づいて,相違点1に係る本件発明2の構成を容易に想到することが

できたものというべきである。

イ 相違点2について

(ア) 証拠(乙C7の図4,乙C8の図5,乙C9の図1,乙C10の図

2,乙C11の図2,乙C12の図2)によれば,本件原出願の出願当

時,シングルアーム型ロボットにおいて,「縮み位置においてワークを

基端の関節部に位置させる」構成,あるいは「縮み位置においてワーク

を二組の基端の関節部の間に位置させる」構成は,周知技術であったこ

とが認められる。

そうすると,別件知財高裁判決2が認定判断するように,当業者が,

乙C1記載発明において,アーム部とハンド部とを支持部材を介してコ

ラム式の上下昇降機構に組み合わせる際,アームを折り畳んだ縮み位置

の状態において,省スペース化の観点から,上記周知技術である「縮み

位置においてワークを二組のアームの基端の関節部に位置させる」構成

を採用することは容易であるというべきである。

また,別件知財高裁判決2が認定判断するように,二組のアームを支


持部材に配置する際,支持部材がコラムに取り付けられている付近に配

置すると,アームとコラムとが干渉するおそれがあることは明らかであ

るから,乙C1記載発明において,アームの基端の関節部を,「前記支

持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である

先端部」に配置することは,設計事項にすぎないというべきである。

(イ) 次に,証拠(乙D3の図2,乙D4の図3,乙D14の第4図)に

よれば,本件出願2の原出願である本件出願1の出願当時,「コラムは,

前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して,前記第1

及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よ

りも外側を旋回するように配置され」る構成は,周知技術であったこと

が認められる。

そして,別件知財高裁判決2が認定判断するように,「引用発明」(乙

C1記載発明)にも省スペース化を図るという課題があり,「引用発明」

(乙C1記載発明)において,支持部材におけるコラムが取り付けられ

た側の反対側の自由端にアームの基端部を配置した場合,コラムの旋回

領域の内側にアーム部の旋回領域を確保するために,当該構成を採用す

ることは,当業者における合理的な設計手法であるということができ

る。

そうすると,別件知財高裁判決2が認定判断するように,当業者が,

乙C1記載発明に上記周知技術を組み合わせることは容易であるとい

うことができる。

(ウ) 以上によれば,当業者であれば,乙C1記載発明及び上記周知技術

に基づいて,相違点2に係る本件発明2の構成を容易に想到し得たもの

というべきである。

ウ 原告の主張について

原告は,乙C1には,チャンバ内での作業が完結する乙C1記載発明


について,アーム部及びハンド全体が昇降する機構が示されているだけ

で,チャンバの外に「支持部材を上下方向に移動可能に保持するコラム

を含む移動機構」を設けてチャンバ外で上下方向に可動範囲を確保する

ような動機や示唆の記載はないから,当業者といえども各相違点に係る

本件発明2の構成を容易に想到し得たものといえないのであり,これが容

易であるとした別件知財高裁判決2は,省スペース化や可動範囲の拡大

等のおよそすべての機械・装置に共通の課題を有していれば,動機が共

通であるとして,その課題解決のための新規な構成が行われても,設計

事項とするに等しいものであって,その進歩性の判断は誤りである旨主

張する。

しかしながら,前記ア(ア)認定のとおり,乙C1の「特許請求の範囲

はアーム部やハンド全体が上下移動する構成を排除するものではないこ

と,乙C1には,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及

びハンド全体が昇降する機能が明示されていることなどに照らすならば,

原告の上記主張は,採用することができない。

(5) まとめ

以上のとおり,本件発明2は,当業者が乙C1記載発明及び周知技術に基

づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明2は進歩性

を欠くものであり,本件発明2に係る本件特許2には,特許法29条2項

違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無

効とされるべきものと認められる。

したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告に対

し,本件発明2に係る本件特許権2を行使することができない。

3 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由

がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。


東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 大 西 勝 滋




裁判官 上 田 真 史





(別紙) 目録

1 製品番号「MOTOMAN−CHL2400D」のダブルアーム型ロボット

2 製品番号「MOTOMAN−ECH2500D」のダブルアーム型ロボット



ただし,別紙被告各物件説明書(別添1及び2の各図面を含む。)記載の構成を

有するもの。





(別紙) 被告各物件説明書

※別添1及び別添2を含め省略※





(別紙1)





(別紙2)

【図1】




【図2】 【図3】