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事件 平成 23年 (行コ) 10001号 審査結果無効確認及びその損害賠償請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/02/07
権利種別 特許権
判例全文
判例全文
平成24年2月7日 判決言渡

平成23年(行コ)第10001号 審査結果無効確認及びその損害賠償請求控訴

事件(原審・東京地裁平成22年(行ウ)第304号)

口頭弁論終結日 平成23年11月14日

判 決

控訴人(一審原告) X

控訴人(一審被告) 国

処 分 行 政 庁 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 豊 島 英 征

同 河 村 浩 幸

同 佐 藤 一 行

同 大 江 摩 弥 子

同 河 原 研 治

同 平 瀬 知 明

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は,控訴人に対し,8946万円を支払え。

3 控訴人が「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約

に基づく国際出願(PCT/JP2006/307179)について平成18

年8月18日にした国際予備審査の請求に対して,@特許庁審査官が作成し平

成18年10月10日付けで送付した国際予備審査機関の見解書の請求の範囲

21及び22の進歩性についての見解に係る部分,及びA特許庁審査官が作成




し平成19年7月3日付けで送付した国際予備審査報告書の請求の範囲9ない

し13の進歩性についての見解に係る部分が無効であることを確認する。

4 特許庁長官は,@前項の国際予備審査機関の見解書及び国際予備審査報告書

が無効である事実を認め,無効な審査結果によって控訴人が被った損害を賠償

し,A特許庁審査官の特許法29条に基づく実体審査の在り方,審査業務の取

組姿勢を見直し,再発を防止せよ。

5 訴訟費用は,第1審,2審を通じて,一審被告の負担とする。

第2 事案の概要(略号は原判決の例による。)

1 一審原告たる控訴人は,平成17年4月18日の優先権(特願2005−1

19427号)を主張して,平成18年(2006年)3月29日,名称を「微

弱電流施療具」とする発明につき,日本国特許庁を通じて,「千九百七十年六

月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(昭和53年7月15日条

約第13号,以下「PCT条約」という。)に基づく国際出願(PCT/JP

2006/307179,特許請求の範囲〔請求項〕1〜28,国際公開日平

成18年(2006年)11月2日,国際公開番号WO2006/11499

7A1,以下「本件国際出願」という。)をしたので,特許庁審査官は,本件

国際出願についての国際調査報告書及び国際調査機関の見解書を作成し,これ

を平成18年6月20日に控訴人に送付した。

2 控訴人は,平成18年8月15日に国際事務局に対しPCT条約19条に基

づく補正書を提出するとともに,平成18年8月18日,PCT条約32条

国際予備審査機関である特許庁長官に国際予備審査請求をしたところ,特許庁

審査官は,請求の範囲全28項のうち請求の範囲(請求項)20は新規性が欠

如し,その余の請求の範囲(請求項)は進歩性が欠如する旨の見解書(本件見

解書,乙9)を作成して,これを平成18年10月10日,控訴人に送付した。

3 これに対し控訴人は,その後,平成18年11月7日,平成19年1月30

日,平成19年4月16日に,答弁書及び補正書をそれぞれ提出したが,特許




庁審査官は,平成19年6月13日,請求の範囲全28項のうち,請求の範囲

(請求項)20は新規性が欠如し,請求の範囲(請求項)1〜15・18・2

0 25〜28は進歩性が欠如する旨の見解を記載した国際予備審査報告書
・ (本

件報告書,乙16)を作成し,これを平成19年7月3日,控訴人に送付した。

4 特許庁審査官の上記各見解のうち,控訴人により進歩性の有無が争われてい

請求の範囲(請求項)の具体的内容は,次のとおりである。

(1) 本件見解書(乙9)

・請求項21(乙7による補正後のもの)

「中敷きや履き物の履き具において,履き具に適当に撓んで適当な大きさ

の圧電フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電される導電部(6

:6A)と導電部(6:6B)を設け,履き具に足を載せた状態で,弾性

部材上に設けた圧電フィルム(4)に加わる圧力によってひずむ変形で起

電する微弱電流を,導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から体

表面の接面する足の裏の組織内に通電するようにした履き具の微弱電流

施療具。」

・請求項22(乙7による補正後のもの)

「足を載せる踏み台において,踏み台に適当に撓んで適当な大きさの圧電

フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電される導電部(6:6

A)と導電部(6:6B)を設け,踏み台に足を載せた状態で,弾性部材

上に設けた圧電フィルム(4)に加わる圧力によってひずむ変形で起電す

る微弱電流を,導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から体表面

の接面する足の裏の組織内に通電するようにした踏み台の微弱電流施療

具。」【請求項22】(乙7)

(2) 本件報告書(乙16)

・請求項9(乙13による補正後のもの)

「手に嵌めて装着する手袋において,該手袋に圧電フィルム(4)と該




圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を設け,さらに該手袋の手の平

側に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)で起電する電気を通電する

導電部(6)を設け,該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該手袋の手

の平側を体表面に当接してマッサージすることで,その手の平のマッサ

ージする動きで手袋体に加わる曲げや伸ばす力に追従して,該手袋体に

設けた圧電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電

流を,該圧電フィルム(4)から通電する前記導電部(6)と電極(5)

の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するように

した手袋の微弱電流施療具。」

・請求項10(乙13による補正後のもの)

「手に嵌めて装着する手袋において,該手袋に圧電フィルム(4)を設

け,さらに該手袋の手の平側に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)

で起電する電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6:6B)を

設け,該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該手袋の手の平側を体表面

に当接してマッサージすることで,その手の平のマッサージする動きで

手袋体に加わる曲げや伸ばす力に追従して,該手袋体に設けた圧電フィ

ルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フ

ィルム(4)から通電する前記導電部(6:6A)と導電部(6:6B)

の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するように

した手袋の微弱電流施療具。」

・請求項11(乙13による補正後のもの)

「手に嵌めて装着する手袋の手の平側に着脱可能に係着する係着手段

(8)であって,該係着手段(8)の体表面に当接させる側に圧電フィ

ルム(4)と該圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を設け,さらに

該圧電フィルム(4)で起電する電気を通電する導電部(6)を設け,

該係着手段(8)を手袋に係着し該手袋を手に嵌めて装着した状態で,




該係着手段(8)を体表面に当接させマッサージすることで,その手の

平のマッサージする動きで該係着手段(8)に加わる曲げや伸ばす力に

追従して,該係着手段(8)に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲げ

や伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電す

る前記導電部(6)と電極(5)の面から当接する体表面の組織内に,

閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電流施療具。」

・請求項12(乙13による補正後のもの)

「手に嵌めて装着する手袋の手の平側に着脱可能に係着する係着手段

(8)であって,該係着手段(8)に圧電フィルム(4)を設け,さら

に該係着手段(8)に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)で起電す

る電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6:6B)を設け,該

係着手段(8)を手袋に係着し該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該

係着手段(8)を体表面に当接させマッサージすることで,その手の平

のマッサージする動きで該係着手段(8)に加わる曲げや伸ばす力に追

従して,該係着手段(8)に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲げや

伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電する

前記導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から当接する体表面

の組織内に,閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電流施療

具。」

・請求項13(乙13による補正後のもの)

「手に嵌めて装着する1対の手袋において,該1対の手袋の体表面と当

接させる手の平側に導電部(6)を各設け,さらに少なくとも片方の手

袋に圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)で起電する電気をその

1対の手袋間で通電する導電線(6d)を設け,該1対の手袋を手に嵌

めて装着した状態で,各手袋の手の平側を体表面に当接させマッサージ

することで,その手の平のマッサージする動きで手袋体に加わる曲げや




伸ばす力に追従して,該手袋体に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲

げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電

する前記片方の手袋に設けた導電部(6)と,前記導電線(6d)を介

して通電するもう片方の手袋に設けた導電部(6)の各面から当接する

体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電

流施療具。」

5 控訴人は,上記各送付を受けた後,本件国際出願についてその選択国への国

内移行の手続を行うことはなかったが,日本国に対しては,改めて本件国際出

願とほぼ同内容の特許出願を行い,そのうちのいくつかについては下記のとお

り特許登録がなされた。



・特許第4379624号 発明の名称「微弱電流活性具」

(乙42) 出願日 平成18年2月6日

登録日 平成21年10月2日

特許権者 X,株式会社東京企画販売

・特許第4395874号 発明の名称「健康履き具」

(乙29) 出願日 平成18年6月2日

登録日 平成21年10月30日

特許権者 X,株式会社東京企画販売

・特許第4385160号 発明の名称「健康踏み台」

(乙36) 出願日 平成18年2月17日

登録日 平成21年10月9日

特許権者 X,株式会社東京企画販売

6 そこで一審原告たる控訴人は,本件見解書の請求項21と22,及び本件報

告書の請求項9〜13において特許庁審査官が進歩性なしとした判断は誤りで

あるとして,一審被告たる被控訴人(国)に対し,




@ 国家賠償法1条に基づき控訴人の被った損害賠償金8946万円の支払

い,

A 行政事件訴訟法36条3条4項に基づき本件見解書及び本件報告書に係

る審査結果が無効であることの確認,

B 行政事件訴訟法37条の33条6項2号に基づき,特許庁長官が,(a)

国際予備審査機関の見解書及び国際予備審査報告書が無効である事実を認

め,無効な審査結果によって控訴人が被った損害を賠償し,(b) 特許庁審査

官の特許法29条に基づく実体審査の在り方,審査業務の取組姿勢を見直

し,再発を防止することの義務付けを求めたのが,本件訴訟である。

7 平成23年1月28日になされた原判決は,前記@の国家賠償請求は特許庁

審査官及び特許庁長官がその職務上尽くすべき注意義務を怠ったという事情は

認められない等としてこれを棄却し,前記Aの無効等確認の訴え及び同Bの義

務付けの訴えは,いずれもその適法要件を欠くとしてこれらを却下した。

そこでこれに不服の一審原告(控訴人)が本件控訴を提起した。

8 当審における争点も,原審におけるのと同様に,@本件見解書及び本件報告

書においてなした特許庁審査官の行為が国家賠償法1条1項の要件を満たす

か,A無効等確認の訴えの適法性,B義務付けの訴えの適法性等である。

第3 当事者の主張

以下のとおり付加するほか,原判決記載のとおりであるから,これを引用す

る。

1 当審における控訴人の主張

(1) 本件で控訴人が問題とするのは,本件国際予備審査請求における担当審査

官が特許法29条に即しない無効な審査(当業者〔その発明の属する技術の

分野における通常の知識を有する者〕が絶対にできない論理付けの審査)を

したことである。そして,特許法29条2項には2つの要件が存在するとこ

ろ,控訴人は「当業者の立場に立って」進歩性判断をすべきとの点を問題と




するものである。

被控訴人は,進歩性について論じているが,進歩性の有無自体は本訴での

争点ではなく,意味のない主張である。

(2) 本件国際予備審査請求の請求の範囲(請求項)21及び22について,請

求の範囲が同じである国内特許出願(乙29,乙36)に係る発明が特許査

定されていることからして,本件見解書における特許性(進歩性)がない旨

の審査結果は無効である。

また,本件国際予備審査請求の請求の範囲(請求項)9ないし13につい

て,請求の範囲が同じである国内特許出願(乙42)に係る発明が特許査定

されていることからして,本件報告書における特許性(進歩性)がない旨の

審査結果は無効である。

(3) 控訴人が,特許法29条に基づく訴えを提起しているにもかかわらず,原

判決は,控訴人が全く申し立てていないPCT国際予備審査の制度について

延々と記載しており,民事訴訟法246条違反である。

(4) 控訴人が原審で提出した平成22年9月6日付けの「本事件平成22年(行

ウ)第304号『審査結果無効確認及びその損害賠償請求事件』の解決を求

める回答書」に記載した,本件の審査結果が無効であることを証明する9事

項につき,被控訴人は正式に回答しておらず,この点を正式に回答させる必

要がある。

2 当審における被控訴人の反論

原判決の認定・判断に誤りはない。

なお,特許庁審査官が本件見解書及び本件報告書において示した進歩性なし

との判断に誤りがないことは,以下に述べるとおりである。

(1) 本件見解書における進歩性の見解について(請求項21及び22)

ア 請求項21

(ア) 請求項21について本件見解書の基礎とされた発明(以下「本願発明




21」という。)は,「補正書の請求の範囲」と題する書面(乙7)の

請求項21に記載された,次のとおりのものである。

「中敷きや履き物の履き具において,履き具に適当に撓んで適当な大き

さの圧電フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電される導電

部(6:6A)と導電部(6:6B)を設け,履き具に足を載せた状態

で,弾性部材上に設けた圧電フィルム(4)に加わる圧力によってひず

む変形で起電する微弱電流を,導電部(6:6A)と導電部(6:6B)

の面から体表面の接面する足の裏の組織内に通電するようにした履き

具の微弱電流施療具。」

(イ) 引用発明

本件見解書に記載された進歩性の見解を裏付ける文献8(実願昭60−5

8157号(実開昭61−174946号)のマイクロフィルム:乙20)

には,以下の発明が記載されている。

「靴の敷皮において,敷皮に適当に撓んで適当な大きさの圧電性高分子

フィルム3と,該圧電性高分子フィルム3から通電される一方の電極4

と他方の電極5を設け,敷皮に足を載せた状態で,圧電性高分子フィル

ム3に加わる圧力によってひずむ変形で起電するピエゾ電流を,一方の

電極4と他方の電極5の面から足裏部に通電するようにした靴の敷皮

の電気刺戟装置」(以下「引用発明8」という。特に,乙20の2頁5

行目ないし7頁2行目,9枚目記載の第1図及び第2図参照。)

(ウ) 対比

本願発明21と引用発明8とを対比すると,引用発明8の「靴の敷

皮」,「圧電性高分子フィルム3」,「一方の電極4」,「他方の電極

5」,「ピエゾ電流」,「足裏部」,「電気刺戟装置」は,それぞれ,

本願発明21の「中敷き」又は「履き具」,「圧電フィルム(4)」,

「導電部(6:6A)」,「導電部(6:6B)」,「微弱電流」,「体




表面の接面する足の裏の組織内」,「微弱電流施療具」に相当する。

そうすると,本願発明21と引用発明8は,

「中敷きの履き具において,履き具に適当に撓んで適当な大きさの圧電

フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電される導電部(6:

6A)と導電部(6:6B)を設け,履き具に足を載せた状態で,圧電

フィルム(4)に加わる圧力によってひずむ変形で起電する微弱電流を,

導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から体表面の接面する足

の裏の組織内に通電するようにした履き具の微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明21の圧電フィルム(4)は,弾性部材上に設けられている

のに対して,引用発明8の圧電性高分子フィルム3は,弾性部材上に設

けられていない点。

(エ) 相違点についての検討

まず,「発電効率を向上する」ことは,発電装置の一般的な課題にす

ぎないから,引用発明8においてかかる課題を解決することを試みるこ

とは,文献8に接した当業者であれば自明のことである。

また,一般的に,圧電体を用いた発電装置の技術分野において,発電

効率を向上するため,圧電体を弾性部材上に設けることは,例えば,本

件見解書で示された文献13(特開2004−103265号公報。特

に,段落【0012】【0014】参照。:乙21)及び文献14(特

許第3360641号公報。特に,段落【0020】【0026】参照。

:乙22)に記載されているように,周知技術である。

したがって,当該技術分野における「先行技術」たる引用発明8と上

周知技術とを組み合わせること,すなわち,引用発明8において,上

周知技術に照らし,発電効率を向上するため,圧電性高分子フィルム




3を弾性部材上に設けることにより,本願発明21に到達することは,

当業者にとって自明である。

よって,本願発明21は,当業者にとって,PCT規則に定義する先

行技術たる引用発明8及び上記周知技術からみて自明のものである。

イ 請求項22

(ア) 請求項22について本件見解書の基礎とされた発明(以下「本願発明

22」という。)は,「補正書の請求の範囲」と題する書面(乙7)の

請求項22に記載された,次のとおりのものである。

「足を載せる踏み台において,踏み台に適当に撓んで適当な大きさの圧

電フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電される導電部(6

:6A)と導電部(6:6B)を設け,踏み台に足を載せた状態で,弾

性部材上に設けた圧電フィルム(4)に加わる圧力によってひずむ変形

で起電する微弱電流を,導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面

から体表面の接面する足の裏の組織内に通電するようにした踏み台の

微弱電流施療具。」

(イ) 引用発明

本件見解書に記載された進歩性の見解を裏付ける文献9(特開昭60−1

99462号公報:乙23)には,以下の発明が記載されている。

「基台1において,基台1に,圧電素子が配設された静電圧発生部15

と,該圧電素子から通電される帯状電極6と電極14を設け,基台1に

足を載せた状態で,圧電素子に加わる圧力によってひずむ変形で起電す

る微弱電流を,帯状電極6と電極14の面から足先又は踵と土踏まずの

間に通電するようにした足踏み健康器。」(以下「引用発明9」という。

特に,全文,第1図及び第2図参照。)

(ウ) 対比

本願発明22と引用発明9とを対比すると,引用発明9の「基台1」,




「帯状電極6」,「電極14」,「足先又は踵と土踏まずの間」,「足

踏み健康器」は,それぞれ,本願発明22の「足を載せる踏み台」又は

「踏み台」,「導電部(6:6A)」,「導電部(6:6B)」,「体

表面の接面する足の裏の組織内」,「踏み台の微弱電流施療具」に相当

する。また,引用発明9の「静電圧発生部15」に配設された「圧電素

子」 「圧電体」
は, の限りにおいて,本願発明22の「圧電フィルム(4)」

に相当する。

そうすると,本願発明22と引用発明9は,

「足を載せる踏み台において,踏み台に圧電体と,該圧電体から通電さ

れる導電部(6:6A)と導電部(6:6B)を設け,踏み台に足を載

せた状態で,圧電体に加わる圧力によってひずむ変形で起電する微弱電

流を,導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から体表面の接面

する足の裏の組織内に通電するようにした踏み台の微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明22の圧電体は,適当に撓んで適当な大きさの圧電フィルム

(4)であって,該圧電フィルム(4)は,弾性部材上に設けられてい

るのに対して,引用発明9の静電圧発生部15に配設された圧電体は,

圧電フィルムに限定されておらず,弾性部材上に設けられているもので

もない点。

(エ) 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,一般に,圧電体を用いた発電装置の

技術分野において,圧電体としての圧電フィルムは,例えば,本件見解

書で示された文献2(特開昭55−26960号公報。本件報告書の文

献1と同じ。:乙24)に記載されているように,周知技術である。ま

た,同技術分野において,発電効率を向上するため,圧電体を弾性部材




上に設けることも,前記ア(エ)のとおり,例えば,上記文献13及び1

4に記載されているように,周知技術である。

「発電効率を向上する」ことが発電装置の一般的課題にすぎないこと

は,前記ア(エ)のとおりであり,引用発明9においてかかる課題を解決

することを試みることは,文献9に接した当業者にとって自明のことで

ある。したがって,当該技術分野における「先行技術」たる引用発明9

と上記周知技術とを組み合わせること,すなわち,引用発明9において,

上記周知技術に照らし,圧電体として圧電フィルムを採用するととも

に,発電効率を向上するため,該圧電フィルムを弾性部材上に設けるこ

とにより,本願発明22に到達することは,当業者にとって自明である。

よって,本願発明22は,当業者にとって,PCT規則に定義する先

行技術たる引用発明9及び上記周知技術からみて,自明のものである。

(2) 本件報告書における進歩性の見解について(請求項9ないし13)

ア 請求項9

(ア) 本件国際予備審査請求の請求項9について本件報告書の基礎とされた

発明(以下「本願発明9」という。)は,「手続補正書」(乙13)の

請求項9に記載された,次のとおりのものである。

「手に嵌めて装着する手袋において,該手袋に圧電フィルム(4)と該

圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を設け,さらに該手袋の手の平

側に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)で起電する電気を通電する

導電部(6)を設け,該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該手袋の手

の平側を体表面に当接してマッサージすることで,その手の平のマッサ

ージする動きで手袋体に加わる曲げや伸ばす力に追従して,該手袋体に

設けた圧電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電

流を,該圧電フィルム(4)から通電する前記導電部(6)と電極(5)

の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するように




した手袋の微弱電流施療具。」

(イ) 引用発明

本件報告書に記載された進歩性の見解を裏付ける文献1,3,5及び

6には,それぞれ以下の発明が記載されている。

a 文献1(特開昭55−26960号公報:乙24)

「生物体の生理作用に刺激を与える装置において,高分子圧電膜1と

該高分子圧電膜1の上面に電極5を設け,さらに身体6に当接させ該

高分子圧電膜1で起電する電気を通電する電極4を設け,該装置を装

着した状態で,該電極5及び電極4を身体6に当接して,身体6の動

きに追従して,該高分子圧電膜1に生じる曲げや伸びの歪みで起電す

る微弱電流を,該高分子圧電膜1から通電する前記電極4と電極5の

面から当接する身体6に閉回路を形成して通電するようにした装

置。」(以下「引用発明1」という。特に,4頁右上欄7行〜左下欄

4行,第1図参照。)

b 文献3(特開2005−125045号公報:乙25)

「体表面に密着させて使用するシート状の健康具において,圧電体フ

ィルム10と該圧電体フィルム10の両面に電極20を設け,さらに

体表面に密着させ該圧電体フィルム10で起電する電気を通電する

電極パッド40を設け,該健康具を体表面に密着した状態で,該電極

パッド40を体表面に当接して,人の運動等に追従して,該圧電体フ

ィルム10に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電

体フィルム10から通電する前記電極パッド40の面から体表面に

閉回路を形成して通電するようにした健康具。」(以下「引用発明3」

という。特に,段落【0025】,図2(b)参照。)

c 文献5(実願平4−41166号(実開平5−91693号)のC

D−ROM:乙26)




「手に嵌めて装着する手袋1において,該手袋1の掌表面2に導電性

素材3を設け,該手袋1を手に嵌めて装着した状態で,該手袋1の掌

表面2を患部に当接してマッサージしながら,前記導電性素材3の面

から当接する患部に通電するようにした電気治療具。」(以下「引用

発明5」という。特に,段落【0006】〜【0008】,図1,2,

5参照。)

d 文献6(国際公開2003/088776号公報:乙27)

「手を嵌めて装着する手袋本体2において,該手袋本体2の手の平側

に面状電極3,4を設け,該手袋本体2を手に嵌めて装着した状態で,

該手袋本体2の手の平側を人体の局部に当接して,前記面状電極3,

4の面から当接する人体の局部に通電するようにした電極付手袋

1。」(以下「引用発明6」という。特に,4頁17〜21行,8頁

2〜12行,図1参照。)

(ウ) 文献1及び5の組合せ

a 対比

本願発明9と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「高分子圧

電膜1」,「身体6」,「電極4」,「生物体の生理作用に刺激を与

える装置」又は「装置」は,それぞれ,本願発明9の「圧電フィルム

(4)」,「体表面」又は「体表面の組織内」,「導電部(6)」,

「微弱電流施療具」に相当する。

そうすると,本願発明9と引用発明1は,

「圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を

設け,さらに体表面に当接させ該圧電フィルム(4)で起電する電気

を通電する導電部(6)を設け,装着した状態で,該電極(5)及び

導電部(6)を体表面に当接して,体表面の動きに追従して,該圧電

フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該




圧電フィルム(4)から通電する前記導電部(6)と電極(5)の面

から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するようにし

た微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明9は,手に嵌めて装着する手袋の微弱電流施療具であっ

て,圧電フィルム(4)と電極(5)を該手袋に設け,さらに導電部

(6)を該手袋の手の平側に設け,該手袋を手に嵌めて装着した状態

で,該手袋の手の平側を体表面に当接してマッサージすることで,そ

の手の平のマッサージする動きで手袋体に加わる曲げや伸ばす力に

追従して起電するものであるのに対して,引用発明1は,手袋の微弱

電流施療具に限定されていない点。

b 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,文献1には,高分子圧電膜を身体

に装着する場所として「手」が例示されており,装着態様について,

身体に直接装着せず,身体の動きに関連して動く部材(装身具等)に

取り付けることも記載されている(3頁右上欄9〜17行)。また,

引用発明1及び5は,共に電流を体表面に通電することで刺激を加え

る電流施療具に関する技術分野に属するものである。そして,文献1

の上記装着場所及び装着態様に関する記載,並びに,技術分野の共通

性に照らせば,引用発明1(微弱電流施療具)と引用発明5の手袋を

組み合わせることは,当業者にとって自明である。

具体的には,引用発明1は,高分子圧電膜1(圧電フィルム)に生

じる歪みで起電した微弱電流を,該高分子圧電膜1に通電する2つの

電極4,5から当接する身体6に通電するものであって,高分子圧電

膜1,電極5,身体6,電極4,高分子圧電膜1の順に,あるいは,




その逆の順に通電する電流の輪(閉回路)を形成することにより,身

体6に微弱電流を流すものである。このように,身体に当接する2つ

の電極を用いて,高分子圧電膜と身体との間に微弱電流の閉回路を形

成するという,電流の流れる仕組みに照らせば,引用発明1を引用発

明5の手袋に組み合わせるに当たり,その組合せの一態様として,該

2つの電極4,5の全てを身体の患部に当接する手袋1に設ける態様

(手袋1と身体の患部との間で閉回路を形成するもの)に到達するこ

とは,当業者にとって自明である。

したがって,引用発明5の手袋1において,掌表面2の導電性素材

3に代えて,同じ通電部材である,引用発明1の高分子圧電膜1,電

極5及び電極4を設けるとともに,引用発明5が手袋1の掌表面2を

患部に当接してマッサージしながら通電するものであることに照ら

して,引用発明5の手袋1を手にはめて装着した状態で,該手袋1の

掌表面2を体表面の患部に当接してマッサージすることで,その掌表

面2のマッサージする動きで手袋1に加わる曲げや伸ばす力に追従

して,引用発明1の高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱電流を起電す

るようにし,もって,本願発明9の上記相違点に係る構成とすること

は,当業者にとって自明である。

よって,本願発明9は,当業者にとって,PCT規則に定義する先

行技術たる引用発明1及び5からみて自明のものである。

(エ) 文献1及び5の組合せ以外の組合せ

文献3は,前記(イ)b記載のとおり,文献1と同様に,本願発明9の

基本構成,すなわち,体表面の動きに追従して圧電フィルムに生じる歪

みで起電する微弱電流を導電部ないし電極の面から体表面に通電する

微弱電流施療具を開示するものである。また,文献6は,前記(イ)dの

とおり,文献5と同様に,本願発明9と文献1又は3との差異に係る構




成,すなわち,手袋を手に嵌めて装着した状態で,該手袋の手の平側に

設けた導電部を体表面に当接して通電する手袋の電流施療具を開示す

るものである。

したがって,文献3及び5の組合せ,文献1及び6の組合せ,並びに,

文献3及び6の組合せについても,前記(ウ)と同様の理由により,本願

発明9は,当業者にとって,PCT規則に定義する先行技術からみて自

明のものである。

イ 請求項10

(ア) 請求項10について本件報告書の基礎とされた発明(以下「本願発明

10」という。)は,「手続補正書」(乙13)の請求項10に記載さ

れた,次のとおりのものである。

「手に嵌めて装着する手袋において,該手袋に圧電フィルム(4)を設

け,さらに該手袋の手の平側に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)

で起電する電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6:6B)を

設け,該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該手袋の手の平側を体表面

に当接してマッサージすることで,その手の平のマッサージする動きで

手袋体に加わる曲げや伸ばす力に追従して,該手袋体に設けた圧電フィ

ルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フ

ィルム(4)から通電する前記導電部(6:6A)と導電部(6:6B)

の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するように

した手袋の微弱電流施療具。」

(イ) 引用発明

本件報告書に記載された進歩性の見解を裏付ける文献1,3,5及び

6には,前記ア(イ)aないしd記載の発明が記載されている。

(ウ) 文献1及び5の組合せ

a 対比




本願発明10と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「高分子

圧電膜1」,「身体6」,「電極4」,「電極5」,「生物体の生理

作用に刺激を与える装置」又は「装置」は,それぞれ,本願発明10

の「圧電フィルム(4)」,「体表面」又は「体表面の組織内」,「導

電部(6:6A)」,「導電部(6:6B)」,「微弱電流施療具」

に相当する。

そうすると,本願発明10と引用発明1は,

「圧電フィルム(4)を設け,さらに体表面に当接させ該圧電フィル

ム(4)で起電する電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6

:6B)を設け,装着した状態で,該導電部(6:6A)と導電部(6

:6B)を体表面に当接して,体表面の動きに追従して,該圧電フィ

ルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電

フィルム(4)から通電する前記導電部(6:6A)と導電部(6:

6B)の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電す

るようにした微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明10は,手に嵌めて装着する手袋の微弱電流施療具であっ

て,圧電フィルム(4)を該手袋に設け,さらに導電部(6:6A)

と導電部(6:6B)を該手袋の手の平側に設け,該手袋を手に嵌め

て装着した状態で,該手袋の手の平側を体表面に当接してマッサージ

することで,その手の平のマッサージする動きで手袋体に加わる曲げ

や伸ばす力に追従して起電するものであるのに対して,引用発明1

は,手袋の微弱電流施療具に限定されていない点。

b 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,前記ア(ウ)bと同様の理由により,




引用発明1(微弱電流施療具)と引用発明5の手袋を組み合わせるに

当たり,引用発明5の手袋1において,掌表面2の導電性素材3に代

えて,同じ通電部材である,引用発明1の高分子圧電膜1,電極5及

び電極4を設けるとともに,該手袋1を手にはめて装着した状態で,

該手袋1の掌表面2を体表面の患部に当接してマッサージすること

で,その掌表面2のマッサージする動きで手袋1に加わる曲げや伸ば

す力に追従して,引用発明1の高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱電

流を起電するようにし,もって,本願発明10の上記相違点に係る構

成とすることは,当業者にとって自明である。

したがって,本願発明10は,当業者にとって,PCT規則に定義

する先行技術たる引用発明1及び5からみて自明のものである。

(エ) 文献1及び5の組合せ以外の組合せについて

前記ア(イ)aないしd,及び前記ア(エ)記載のとおり,文献3は文献1

と同様に本願発明10の基本構成を,文献6は文献5と同様に本願発明

10と文献1又は3との差異に係る構成をそれぞれ開示するものであ

る。したがって,文献1及び5の組合せ以外の組合せについても,前記

(ウ)と同様の理由により,本願発明10は,当業者にとって,PCT規

則に定義する先行技術からみて自明のものである。

ウ 請求項11

(ア) 請求項11について本件報告書の基礎となった発明(以下「本願発明

11」という。)は,「手続補正書」(乙13)の請求項11に記載さ

れた,次のとおりのものである。

「手に嵌めて装着する手袋の手の平側に着脱可能に係着する係着手段

(8)であって,該係着手段(8)の体表面に当接させる側に圧電フィ

ルム(4)と該圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を設け,さらに

該圧電フィルム(4)で起電する電気を通電する導電部(6)を設け,




該係着手段(8)を手袋に係着し該手袋を手に嵌めて装着した状態で,

該係着手段(8)を体表面に当接させマッサージすることで,その手の

平のマッサージする動きで該係着手段(8)に加わる曲げや伸ばす力に

追従して,該係着手段(8)に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲げ

や伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電す

る前記導電部(6)と電極(5)の面から当接する体表面の組織内に,

閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電流施療具。」

(イ) 引用発明

本件報告書に記載された進歩性の見解を裏付ける文献1,3,5及び

6には,前記ア(イ)aないしd記載の発明が記載されている。

(ウ) 文献1及び5の組合せ

a 対比

本願発明11と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「高分子

圧電膜1」,「身体6」,「電極4」,「生物体の生理作用に刺激を

与える装置」又は「装置」は,それぞれ,本願発明11の「圧電フィ

ルム(4)」,「体表面」又は「体表面の組織内」,「導電部(6)」,

「微弱電流施療具」に相当する。

そうすると,本願発明11と引用発明1は,

「体表面に当接させる側に圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)

の上面に電極(5)を設け,さらに該圧電フィルム(4)で起電する

電気を通電する導電部(6)を設け,装着した状態で,該電極(5)

及び導電部(6)を体表面に当接させ,体表面の動きに追従して,該

圧電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,

該圧電フィルム(4)から通電する前記導電部(6)と電極(5)の

面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するように

した微弱電流施療具。」




の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明11は,手にはめて装着する手袋の微弱電流施療具であっ

て,圧電フィルム(4)と電極(5)と導電部(6)を,係着手段(8)

を用いて該手袋の手の平側に着脱可能に設け,該係着手段(8)を手

袋に係着し該手袋を手にはめて装着した状態で,該係着手段(8)を

体表面に当接させマッサージすることで,その手の平のマッサージす

る動きで該係着手段(8)に加わる曲げや伸ばす力に追従して起電す

るものであるのに対して,引用発明1は,手袋の微弱電流施療具に限

定されておらず,係着手段に相当する構成を有しない点。

b 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,前記ア(ウ)bと同様の理由により,

引用発明1(微弱電流施療具)と引用発明5の手袋を組み合わせるこ

とは,当業者にとって自明である。また,一般的に,電流施療具の技

術分野において,電極ないし導電部を係着手段(例えば,スナップ,

面ファスナー等)により着脱可能に設けることは,例えば,本件報告

書で示された文献5(図4),文献6(3頁16行〜18行)又は文

献7(特許第3479797号公報。請求項1:乙28)に記載され

ているとおり,常套手段ないし当業者の一般的技術知識であるから,

引用文献1及び5を組み合わせる際に上記常套手段の適用を試みる

ことも,当業者にとって自明である。

したがって,引用発明1と引用発明5を組み合わせるに当たり,引

用発明5の手袋1において,掌表面2の導電性素材3に代えて,同じ

通電部材である,引用発明1の高分子圧電膜1,電極5及び電極4を

上記常套手段たる係着手段により着脱可能に設けるとともに,該係着

手段を手袋1に係着し該手袋1を手に嵌めて装着した状態で,該係着




手段を体表面の患部に当接させマッサージすることで,その掌表面2

のマッサージする動きで該係着手段に加わる曲げや伸ばす力に追従

して,引用発明1の高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱電流を起電す

るようにし,もって,本願発明11の上記相違点に係る構成とするこ

とは,当業者にとって自明である。

よって,本願発明11は,当業者にとって,PCT規則に定義する

先行技術たる引用発明1及び5並びに上記常套手段からみて自明の

ものである。

(エ) 文献1及び5の組合せ以外の組合せ

前記ア(イ)aないしd,及び前記ア(エ)記載のとおり,文献3は,文献

1と同様に,本願発明11の基本構成を,文献6は,文献5と同様に,

本願発明11と文献1又は3との差異に係る構成(ただし,上記常套手

段に係る構成を除く。)をそれぞれ開示するものである。したがって,

文献1及び5の組合せ以外の組合せについても,前記(ウ)と同様の理由

により,本願発明11は,当業者にとって,PCT規則に定義する先行

技術からみて自明のものである。

エ 請求項12

(ア) 請求項12について本件報告書の基礎となった発明(以下「本願発明

12」という。)は,「手続補正書」(乙13)の請求項12に記載された,

次のとおりのものである。

「手に嵌めて装着する手袋の手の平側に着脱可能に係着する係着手段

(8)であって,該係着手段(8)に圧電フィルム(4)を設け,さら

に該係着手段(8)に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)で起電す

る電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6:6B)を設け,該

係着手段(8)を手袋に係着し該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該

係着手段(8)を体表面に当接させマッサージすることで,その手の平




のマッサージする動きで該係着手段(8)に加わる曲げや伸ばす力に追

従して,該係着手段(8)に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲げや

伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電する

前記導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から当接する体表面

の組織内に,閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電流施療

具。」

(イ) 引用発明

本件報告書に記載された進歩性の見解を裏付ける文献1,3,5及び

6には,前記ア(イ)aないしd記載の発明が記載されている。

(ウ) 文献1及び5の組合せ

a 対比

本願発明12と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「高分子

圧電膜1」,「身体6」,「電極4」,「電極5」,「生物体の生理

作用に刺激を与える装置」又は「装置」は,それぞれ,本願発明12

の「圧電フィルム(4)」,「体表面」又は「体表面の組織内」,「導

電部(6:6A)」,「導電部(6:6B)」,「微弱電流施療具」

に相当する。

そうすると,本願発明12と引用発明1は,

「圧電フィルム(4)を設け,さらに体表面に当接させ該圧電フィル

ム(4)で起電する電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6

:6B)を設け,装着した状態で,該導電部(6:6A)と導電部(6

:6B)を体表面に当接させ,体表面の動きに追従して,該圧電フィ

ルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電

フィルム(4)から通電する前記導電部(6:6A)と導電部(6:

6B)の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電す

るようにした微弱電流施療具。」




の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明12は,手にはめて装着する手袋の微弱電流施療具であっ

て,圧電フィルム(4)と導電部(6:6A)と導電部(6:6B)

を,係着手段(8)を用いて該手袋の手の平側に着脱可能に設け,該

係着手段(8)を手袋に係着し該手袋を手にはめて装着した状態で,

該係着手段(8)を体表面に当接させマッサージすることで,その手

の平のマッサージする動きで該係着手段(8)に加わる曲げや伸ばす

力に追従して起電するものであるのに対して,引用発明1は,手袋の

微弱電流施療具に限定されておらず,係着手段に相当する構成を有し

ない点。

b 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,前記ウ(ウ)bと同様の理由により,

引用発明1(微弱電流施療具)と引用発明5の手袋を組み合わせるに

当たり,引用発明5の手袋1において,掌表面2の導電性素材3に代

えて,同じ通電部材である,引用発明1の高分子圧電膜1,電極5及

び電極4を上記常套手段たる係着手段により着脱可能に設けるとと

もに,該係着手段を手袋1に係着し該手袋1を手に嵌めて装着した状

態で,該係着手段を体表面の患部に当接させマッサージすることで,

その掌表面2のマッサージする動きで該係着手段に加わる曲げや伸

ばす力に追従して,引用発明1の高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱

電流を起電するようにし,もって,本願発明12の上記相違点に係る

構成とすることは,当業者にとって自明である。

したがって,本願発明12は,当業者にとって,PCT規則に定義

する先行技術たる引用発明1及び5並びに上記常套手段からみて自

明のものである。




(エ) 文献1及び5の組合せ以外の組合せ

前記ア(イ)aないしd,及び前記ア(エ)記載のとおり,文献3は,文献

1と同様に,本願発明12の基本構成を,文献6は,文献5と同様に,

本願発明12と文献1又は3との差異に係る構成(ただし,上記常套手

段に係る構成を除く。)をそれぞれ開示するものである。したがって,

文献1及び5の組合せ以外の組合せについても,前記(ウ)と同様の理由

により,本願発明12は,当業者にとって,PCT規則に定義する先行

技術からみて自明のものである。

オ 請求項13

(ア) 請求項13について本件報告書の基礎となった発明(以下「本願発明

13」という。)は,「手続補正書」(乙13)の請求項13に記載さ

れた,次のとおりのものである。

「手に嵌めて装着する1対の手袋において,該1対の手袋の体表面と当

接させる手の平側に導電部(6)を各設け,さらに少なくとも片方の手

袋に圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)で起電する電気をその

1対の手袋間で通電する導電線(6d)を設け,該1対の手袋を手に嵌

めて装着した状態で,各手袋の手の平側を体表面に当接させマッサージ

することで,その手の平のマッサージする動きで手袋体に加わる曲げや

伸ばす力に追従して,該手袋体に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲

げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電

する前記片方の手袋に設けた導電部(6)と,前記導電線(6d)を介

して通電するもう片方の手袋に設けた導電部(6)の各面から当接する

体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電

流施療具。」

(イ) 引用発明

本件報告書に記載された進歩性の見解を裏付ける文献1,3及び5に




は,それぞれ以下の発明が記載されている。

a 文献1(特開昭55−26960号公報:乙24)

「生物体の生理作用に刺激を与える装置において,身体6に当接させ

る1対の電極4,5を各設け,さらに片方の電極5に高分子圧電膜1

と該高分子圧電膜1で起電する電気をその1対の電極4,5間で通電

する導線3を設け,該装置を装着した状態で,該1対の電極4,5を

身体6に当接させ,身体6の動きに追従して,該高分子圧電膜1に生

じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該高分子圧電膜1から

通電する前記片方の電極5と,前記導線3を介して通電するもう片方

の電極4の各面から当接する身体6に,閉回路を形成して通電するよ

うにした生物体の生理作用に刺激を与える装置。」(以下「引用発明

1a」という。特に,4頁右上欄7行〜左下欄4行,第1図参照。な

お,引用発明1aは,引用発明1に対して,@「高分子圧電膜1で起

電する電気をその1対の電極4,5間で通電する導線3を設け」た点,

及び,A片方の電極4に関して「導線3を介して通電する」点を追加

した発明に相当する。)

b 文献3(特開2005−125045号公報:乙25)

「体表面に密着させて使用するシート状の健康具において,体表面に

当接させる1対の電極パッド40を各設け,さらに圧電体フィルム1

0と該圧電体フィルム10で起電する電気をその1対の電極パッド

40間で通電する被覆銅線22を設け,該健康具を装着した状態で,

該1対の電極パッド40を体表面に当接させ,人の運動等に追従し

て,該圧電体フィルム10に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱

電流を,該圧電体フィルム10から前記被覆銅線22を介して通電す

る該1対の電極パッド40の各面から当接する体表面に,閉回路を形

成して通電するようにした健康具。」(以下「引用発明3a」という。




特に,段落【0025】,図2(b)参照。なお,引用発明3aは,

引用発明3に対して,@「圧電体フィルム10で起電する電気をその

1対の電極パッド40間で通電する被覆導線22を設け」た点,及び,

A1対の電極パッド40に関して「被覆導線22を介して通電する」

点を追加した発明に相当する。)

c 文献5(実願平4−41166号(実開平5−91693号)のC

D−ROM:乙26)

「手に嵌めて装着する1対の手袋1において,該1対の手袋1の患部

と当接させる掌表面2に導電性素材3を各設け,さらに低周波パルス

発生機器6で発生する電気をその1対の手袋1に通電するコード4

を設け,該1対の手袋1を手に嵌めて装着した状態で,各手袋1の掌

表面2を患部に当接してマッサージしながら,前記コード4を介して

通電する前記1対の手袋1に設けた前記導電性素材3の各面から当

接する患部に通電するようにした電気治療具。」(以下「引用発明5

a」という。特に,段落【0006】〜【0008】,図1,2,5

参照。なお,引用発明5aは,引用発明5に対して,@手袋1が「1

対の」ものである点,A導電性素材3に関して1対の手袋1の掌表面

2に「各設け」た点,B「低周波パルス発生機器6で発生する電気を

その1対の手袋1に通電するコード4を設け」た点,及び,C1対の

手袋1の導電性素材3に関して「コード4を介して通電する」点を追

加した発明に相当する。)

(ウ) 文献1及び5の組合せ

a 対比

本願発明13と引用発明1aとを対比すると,引用発明1aの「身

体6」,「電極4,5」,「高分子圧電膜1」,「導線3」,「生物

体の生理作用に刺激を与える装置」又は「装置」は,それぞれ,本願




発明13の「体表面」又は「体表面の組織内」,「導電部(6)」,

「圧電フィルム(4)」,「導電線(6d)」,「微弱電流施療具」

に相当する。

そうすると,本願発明13と引用発明1aは,

「体表面と当接させる1対の導電部(6)を各設け,さらに片方の導

電部(6)に圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)で起電する

電気をその1対の導電部(6)間で通電する導電線(6d)を設け,

装着した状態で,各導電部(6)を体表面に当接させ,その体表面の

動きに追従して,該圧電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで

起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電する前記片方の

導電部(6)と,前記導電線(6d)を介して通電するもう片方の導

電部(6)の各面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して

通電するようにした微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明13は,手に嵌めて装着する1対の手袋の微弱電流施療具

であって,1対の導電部(6)を該1対の手袋の手の平側に各設け,

さらに圧電フィルム(4)を少なくとも片方の手袋に設けることで,

導電線(6d)をその1対の手袋間で通電するようにし,該1対の手

袋を手に嵌めて装着した状態で,各手袋の手の平側を体表面に当接さ

せマッサージすることで,その手の平のマッサージする動きで手袋体

に加わる曲げや伸ばす力に追従して微弱電流を起電するものである

のに対して,引用発明1aは,手袋の微弱電流施療具に限定されてい

ない点。

b 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,前記ア(ウ)bのとおり,文献1に,




高分子圧電膜を身体に装着する場所として「手」が例示されており,

装着態様について装身具等に取り付けることが記載されていること,

引用発明1a及び5aは,共に電流を体表面に通電することで刺激を

加える電流施療具に関する技術分野に属するものであることから,引

用発明1a(微弱電流施療具)と引用発明5aの手袋を組み合わせる

ことは,当業者にとって自明である。

具体的には,引用発明1aは,高分子圧電膜1(圧電フィルム)に

生じる歪みで起電した微弱電流を,該高分子圧電膜1から通電する一

方の電極5と,該高分子圧電膜1から導線3を介して通電する他方の

電極4の2つの電極から当接する身体6に通電するものであって,高

分子圧電膜1,電極5,身体6,電極4,導線3,高分子圧電膜1の

順に,あるいは,その逆の順に電流の輪(閉回路)を形成することに

より,身体6に微弱電流を流すものである。このように,身体に当接

する2つの電極を用いて,高分子圧電膜と身体との間に微弱電流の閉

回路を形成するという,電流の流れる仕組みに照らせば,引用発明1

aを引用発明5aの手袋に組み合わせるに当たり,かかる組合せの態

様として,該2つの電極4,5の全てを身体の患部に当接する片方の

手袋1に設ける態様(片方の手袋1と身体の患部との間で閉回路を形

成するもの)と,該2つの電極4,5の各電極をそれぞれ身体の患部

に当接する一方の手袋1と他方の手袋1に設ける態様(1対の手袋1

と身体の患部との間で閉回路を形成するもの)に到達することができ

ることは明らかであり,組合せの一態様にすぎない後者を採用するこ

とは,当業者にとって自明である。

したがって,引用発明5aの1対の手袋1において,各掌表面2の導

電性素材3に代えて,片方の手袋1の掌表面2に,同じ通電部材である,

引用発明1aの高分子圧電膜1及び電極5を,もう片方の手袋1の掌表面




2に,同じ通電部材である,引用発明1aの電極4を設けることで,引用

発明1aの導線3を介して1対の手袋1間で通電するようにするととも

に,該1対の手袋1を手に嵌めて装着した状態で,各手袋1の掌表面2を

体表面の患部に当接させマッサージすることで,その掌表面2のマッサー

ジする動きで手袋1に加わる曲げや伸ばす力に追従して,引用発明1aの

高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱電流を起電するようにし,もって,本

願発明13の上記相違点に係る構成とすることは,当業者にとって自明で

ある。

よって,本願発明13は,当業者にとって,PCT規則に定義する

先行技術たる引用発明1a及び5aからみて自明のものである。

(エ) 文献1及び5の組合せ以外の組合せ

前記(イ)aないしc記載のとおり,文献3は,文献1と同様に,本願

発明13の基本構成を開示するものである。したがって,文献3及び5

の組合せについても,前記(ウ)と同様の理由により,本願発明13は,

当業者にとって,PCT規則に定義する先行技術からみて自明のもので

ある。

第4 当裁判所の判断

当裁判所も,一審原告(控訴人)の本訴請求は,国家賠償法1条に基づく損

害賠償請求についてはこれを棄却すべきであり,無効等確認の訴え及び義務付

けの訴えについてはこれを却下すべきものと判断する。その理由は,国家賠償

1条に基づく損害賠償請求について以下に付加するほか,原判決記載のとお

りであるから,これを引用する。

1 本件における基本的事実関係

証拠(甲10,乙4ないし16,29,31,36,38,42,44)及

び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 控訴人は,平成17年4月18日の優先権(特願2005−119427




号)を主張して,平成18年3月29日,発明の名称を「微弱電流施療具」

とする発明につき,日本国特許庁長官に対し,PCTに基づく国際出願(P

CT/JP2006/307179。「本件国際出願」)をした(乙4)。

(2) これを受けた特許庁審査官は,本件国際出願について国際調査報告及び国

際調査機関の見解書を作成し,特許庁は,控訴人に対し,平成18年6月2

0日,これらの書類を送付した(乙5,6)。

控訴人は,平成18年8月15日,世界知的所有権機関(WIPO)の国

際事務局(国際事務局)に対し,PCT19条に基づく補正書を提出した(乙

7)。

(3) 控訴人は,平成18年8月18日,特許庁長官に対し,本件国際出願に係

国際予備審査の請求(本件国際予備審査請求)をした(乙8)。特許庁審

査官は,本件国際予備審査請求の請求の範囲全28項のうち,請求の範囲

0につき新規性が欠如し,また,全ての請求の範囲について進歩性が欠如す

る旨の見解を記載した国際予備審査機関の見解書(本件見解書)を作成し,

特許庁は,平成18年10月10日,控訴人にこれを送付した(乙9)。

なお,本件見解書(乙9)においては,本願発明21につき文献8,13,

14(それぞれ乙20ないし乙22に相当する。)により進歩性がない旨,

本願発明22につき文献2,9,10,13,14(文献2は乙24,文献

9は乙23,文献13は乙21,文献14は乙22に,それぞれ相当する。)

により進歩性がない旨,それぞれ判断した。

(4) 本件見解書の送付を受けた控訴人は,特許庁に対し,平成18年11月7

日(乙10,11),平成19年1月30日(乙12,13),平成19年

4月16日(乙14,15)に,それぞれ答弁書及び手続補正書を提出した。

(5) 特許庁審査官は,平成19年6月13日,本件国際予備審査請求の請求の

範囲全28項のうち,請求の範囲(請求項)20につき新規性が欠如し請求

の範囲(請求項)1〜15,18,20,25〜28について進歩性が欠如




する旨の見解を記載した国際予備審査報告書(本件報告書)を作成し,特許

庁は,平成19年7月3日,控訴人にこれを送付した(甲10,乙16)。

なお,請求の範囲(請求項)5〜13に係る上記各補正が出願時における

開示の範囲を超えてされたものと認められたため,本件報告書は,その補正

がされなかったものとして作成されている。

また,本件報告書(乙16)においては,本願発明9ないし13につき,

文献1,3,5,6,7(それぞれ乙24ないし乙28に相当する。)によ

進歩性がない旨の判断がされている。

(6) 控訴人は,日本以外の国の指定官庁(又は選択官庁)に,本件国際出願

明細書及び請求の範囲等の翻訳文を提出していない。

(7) 控訴人は,本願発明9ないし13に対応する発明(発明の名称「微弱電流

活性具」)につき,平成18年2月6日,日本国内において特許出願(特願

2006−28210号)をし,平成21年7月29日,同発明につき特許

査定を受け,同年10月2日,特許登録(特許第4379624号)された

(乙42,44)。

(8) 控訴人は,本願発明21に対応する発明(発明の名称「健康履き具」)に

つき,平成18年6月2日,日本国内において特許出願(特願2006−1

54209号)をし,平成21年9月24日,同発明につき特許査定を受け,

同年10月30日,特許登録(特許第4395874号)された(乙29,

31)。

(9) 控訴人は,本願発明22に対応する発明(発明の名称「健康踏み台」)に

つき,平成18年2月17日,日本国内において特許出願(特願2006−

40655号)をし,平成21年6月22日,同発明につき特許査定を受け,

同年10月9日,特許登録(特許第4385160号)された(乙36,3

8)。

2 本件見解書及び本件報告書において特許庁審査官の示した見解の適否につい






(1) 事案に鑑み,本件見解書の請求項21及び22,本件報告書の請求項9〜

13につき特許庁審査官が示した進歩性に関する見解の法適合性について

判断する。

(2) 特許庁が示した上記見解は,一審原告たる控訴人が平成18年8月18日

付けでなした国際予備審査の請求についてのものであるが,上記請求に対し

て特許庁審査官がなすべき見解の判断基準となるのは,PCT条約33条

あり,その(1)には,「国際予備審査は,請求の範囲に記載されている発明

新規性を有するもの,進歩性を有するもの(自明のものではないもの)及

び産業上の利用可能性を有するものと認められるかどうかの問題について

の予備的なかつ拘束力のない見解を示すことを目的とする」と規定されてい

るから,当該発明が@「新規性を有するもの」か,A「進歩性を有するもの

(自明でないもの)」か,B「産業上の利用可能性を有するものか」がその

基準となるものである。そして本件見解書及び本件報告書において該請求項

につき特許庁審査官が示した見解は,控訴人の出願した各発明は(請求項2

1及び22,9〜13)は上記Aの「進歩性を有するもの(自明でないもの)」

に該当しない,というものである。

この要件は,国内出願に対して定められている特許法29条2項の「特許

出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前

項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたとき」と極めて

類似するが,法的には同一ではない。控訴人は,本件各見解はPCT条約で

はなく特許法29条2項に基づき判断されるべきである旨主張するようで

あるが,後に述べるとおり,採用することができない。

そこで,特許庁審査官が示した上記各見解がPCT条約33条(1)に適合

するものであるかについて,以下検討する。

なお,国際予備審査請求に対する特許庁審査官の判断は,国内出願に対す




る別の特許庁審査官の判断とは別個独立になされるものであるから,仮に国

際予備審査の対象となった国際出願と類似した内容の国内出願が控訴人に

より別途なされ,それについて日本国特許庁から特許査定を受け特許登録が

なされたからといって,法的には別の手続である国際予備審査における特許

庁審査官の見解表明が違法となるものでないことは明らかである。

(3) 本願各発明及び引用各発明の確定

控訴人のなした国際出願に対し特許庁審査官が本件見解書及び本件報告

書において示した進歩性に関する見解のうち,控訴人により争われている各

発明(請求項9〜13・21・22,本願各発明)と前記見解表明をするに

至る根拠となる各文献(引用発明)の内容は,次のとおりである。

ア 本願各発明

(ア) 本件国際出願に係る国際公開第2006/114997号公報(乙4)

には,以下の記載がある(なお,特許請求の範囲については,本件見解

書及び本件報告書において審査の対象とされた2006年8月15日

受理の補正書(乙7)及び2007年1月30日受理の補正書(乙13)

記載部分を引用した。)。

a 特許請求の範囲

・「中敷きや履き物の履き具において,履き具に適当に撓んで適当な

大きさの圧電フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電さ

れる導電部(6:6A)と導電部(6:6B)を設け,履き具に足

を載せた状態で,弾性部材上に設けた圧電フィルム(4)に加わる

圧力によってひずむ変形で起電する微弱電流を,導電部(6:6A)

と導電部(6:6B)の面から体表面の接面する足の裏の組織内に

通電するようにした履き具の微弱電流施療具。 【請求項21】
」 (乙

7)

・「足を載せる踏み台において,踏み台に適当に撓んで適当な大きさ




の圧電フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電される導

電部(6:6A)と導電部(6:6B)を設け,踏み台に足を載せ

た状態で,弾性部材上に設けた圧電フィルム(4)に加わる圧力に

よってひずむ変形で起電する微弱電流を,導電部(6:6A)と導

電部(6:6B)の面から体表面の接面する足の裏の組織内に通電

するようにした踏み台の微弱電流施療具。」【請求項22】(乙7)

・「手に嵌めて装着する手袋において,該手袋に圧電フィルム(4)

と該圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を設け,さらに該手袋

の手の平側に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)で起電する電

気を通電する導電部(6)を設け,該手袋を手に嵌めて装着した状

態で,該手袋の手の平側を体表面に当接してマッサージすること

で,その手の平のマッサージする動きで手袋体に加わる曲げや伸ば

す力に追従して,該手袋体に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲

げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から

通電する前記導電部(6)と電極(5)の面から当接する体表面の

組織内に,閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電流施

療具。」【請求項9】(乙13)

・「手に嵌めて装着する手袋において,該手袋に圧電フィルム(4)

を設け,さらに該手袋の手の平側に体表面に当接させ該圧電フィル

ム(4)で起電する電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6

:6B)を設け,該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該手袋の手

の平側を体表面に当接してマッサージすることで,その手の平のマ

ッサージする動きで手袋体に加わる曲げや伸ばす力に追従して,該

手袋体に設けた圧電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起

電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電する前記導電部

(6:6A)と導電部(6:6B)の面から当接する体表面の組織




内に,閉回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電流施療

具。」【請求項10】(乙13)

・「手に嵌めて装着する手袋の手の平側に着脱可能に係着する係着手

段(8)であって,該係着手段(8)の体表面に当接させる側に圧

電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を設

け,さらに該圧電フィルム(4)で起電する電気を通電する導電部

(6)を設け,該係着手段(8)を手袋に係着し該手袋を手に嵌め

て装着した状態で,該係着手段(8)を体表面に当接させマッサー

ジすることで,その手の平のマッサージする動きで該係着手段(8)

に加わる曲げや伸ばす力に追従して,該係着手段(8)に設けた圧

電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,

該圧電フィルム(4)から通電する前記導電部(6)と電極(5)

の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するよ

うにした手袋の微弱電流施療具。」【請求項11】(乙13)

・「手に嵌めて装着する手袋の手の平側に着脱可能に係着する係着手

段(8)であって,該係着手段(8)に圧電フィルム(4)を設け,

さらに該係着手段(8)に体表面に当接させ該圧電フィルム(4)

で起電する電気を通電する導電部(6:6A)と導電部(6:6B)

を設け,該係着手段(8)を手袋に係着し該手袋を手に嵌めて装着

した状態で,該係着手段(8)を体表面に当接させマッサージする

ことで,その手の平のマッサージする動きで該係着手段(8)に加

わる曲げや伸ばす力に追従して,該係着手段(8)に設けた圧電フ

ィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該

圧電フィルム(4)から通電する前記導電部(6:6A)と導電部

(6:6B)の面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成し

て通電するようにした手袋の微弱電流施療具。 【請求項12】
」 (乙




13)

・「手に嵌めて装着する1対の手袋において,該1対の手袋の体表面

と当接させる手の平側に導電部(6)を各設け,さらに少なくとも

片方の手袋に圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)で起電す

る電気をその1対の手袋間で通電する導電線(6d)を設け,該1

対の手袋を手に嵌めて装着した状態で,各手袋の手の平側を体表面

に当接させマッサージすることで,その手の平のマッサージする動

きで手袋体に加わる曲げや伸ばす力に追従して,該手袋体に設けた

圧電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流

を,該圧電フィルム(4)から通電する前記片方の手袋に設けた導

電部(6)と,前記導電線(6d)を介して通電するもう片方の手

袋に設けた導電部(6)の各面から当接する体表面の組織内に,閉

回路を形成して通電するようにした手袋の微弱電流施療具。」【請

求項13】(乙13)

発明の詳細な説明(明細書)

・【技術分野】

「本発明は,圧電フィルム体が持つピエゾ効果の起電作用を利用

し,その起電する微弱電流を体表面に流して体内の細胞組織を活性

化する微弱電流施療具に関する。」(明細書1頁3行〜6行)

・【背景技術】

「・・・生体電流に近い微弱電流を体外から流してやることで,自

然治癒力が高まることがピッツバーグ大学の研究結果でも報告さ

れており,その治療法として微弱電流療法(マイクロカレントセラ

ピー)がある。その微弱電流療法によって,個々の細胞や組織が傷

ついた場合,体外から微弱(=損傷)電流を人工的に流してやるこ

とで,その修復に必要なエネルギーを供給するATP(アデノシン




三燐酸)酵素の生成や,たんぱく質の合成等が促進されて自然治癒

力が高まり,治癒(回復)が早まることが証明されている。・・・

・・・そこで本発明者は,圧電フィルム体が持つ起電作用に着目

し本発明に至ったもので,強誘電性高分子でなる圧電フィルム体に

圧力を加えると,ピエゾ効果により起電流を発生する。そのピエゾ

効果を利用して起電する微弱な電流を体内に流せば,前記した微弱

電流による施療効果が得られる。・・・

・・・然しながら・・・その起電される起電流は非常に僅かであ

り,・・・効果的な施療は得られない。

・・・またパッチ内に微弱電流を発生する回路を内蔵するため,

とても高価であった。

・・・エステサロンに行く以外にはそのトリートメントを容易に

実施できなかった。・・・」(1頁7行〜4頁10行)

・【発明が解決しようとする課題】

「本発明は,前述の問題に鑑みてなされたもので,ピエゾ効果で起

電する圧電フィルムを絆創膏,バンド,手袋,指圧具,打具,フェ

イスマスク,ヘアーネット,サポータ,履き具,踏み台に設けて,

その構成する圧電フィルムに加える圧力で効率良く起電させ,その

起電した微弱電流を体内に流して無電源で施療できる微弱電流施

療具を提供することである。」(4頁下12行〜下7行)

・【課題を解決するための手段】

「本発明の微弱電流施療具は,平薄状で適当に撓む圧電フィルム体

を設けて構成することで,圧電フィルム体にいかなる方向からの圧

力や外力を加えると,その方向に圧電フィルム体が自由に変形し,

その都度圧電フィルム体が曲げや引張りのひずみの変形が起きて

電気分極を起こし,その圧電フィルム体は継続的に起電して微弱電




流を発生する。そして圧電フィルム体を体に貼る絆創膏や,体に装

着するバンドやサポータや,体表面を叩く打具や,顔に被せるフェ

イスマスクや,頭に被るヘアーネットの適所に設けることで,その

各構成する微弱電流施療具を体に装備すると,体表面と接する圧電

フィルム体が,その体表面の動きに連動して変形するため,圧電フ

ィルム体がその変形のひずみによって起電する微弱電流を,体表面

の皮膚内に通電する構成である。また圧電フィルム体を手に嵌める

手袋や,体表面を指圧する指圧具や,体表面を叩く打具や,足を載

せる履き具や踏み台に設けることで,その圧電フィルム体が体の各

部(手,指,足の裏)の動きで加わる圧力で変形するため,圧電フ

ィルム体がその変形のひずみによって起電する微弱電流を,体の各

部の皮膚内に通電する構成である。・・・」(4頁下6行〜5頁下

4行)

・【発明の効果】

「本発明の圧電フィルムを設けて構成する微弱電流施療具は,平薄

状の圧電フィルムが適当に撓んで自由に変形するため,その圧電フ

ィルムにあらゆる方向から加える圧縮や曲げ(せん断)や引張りの

圧力や外力によって,その圧電フィルム体がその方向にひずんで変

形し,そして継続的に起電し微弱電流を発生できるため,本発明の

微弱電流施療具は無電源で微弱電流(マイクロカレント)のトリー

トメントが可能であり,圧電フィルムは体表面の形状によくフィッ

トして変形するためかさばることがなく,また無電源のため電源コ

ードが不要であり,どこでも自由な姿勢で動きながらいかなる体表

面にも微弱電流(マイクロカレント)のトリートメントが可能であ

る。」(5頁下3行〜6頁7行)





・図11(本発明の1実施例の正面図とそのX−Y方向の分解縦断面図)




・図13(本発明の1実施例の正面図とそのX−Y方向の分解縦断面図)





・図14(本発明の1実施例の正面図とそのX−Y方向の分解縦断面図)




・図18(本発明の1実施例の正面図)





・図29(本発明の1実施例の斜視図(a),縦断面図(b),各構成部品に

分解した斜視図(c))





・図32(本発明の1実施例の縦断面図(a),各構成部品に分解した斜視

図(b))




(イ) 以上によれば,本願各発明は,「ピエゾ効果」を利用して起電する微

弱な電流を体内に流すことで,施療効果を得ようとするものであり,平

薄状で適当に挟む圧電フィルム体を設けて構成することで,継続的に起

電し微弱電流を発生でき,効率よく,無電源で,安く施療できる微弱電




流施療具を提供しようとするものであることが認められる。

なお,本願発明21は履き具,同22は踏み台,同9ないし13は手

袋についての発明である。

イ 引用発明

本件見解書(乙9)によれば,請求項21は文献8(実開昭61−17

4946号のマイクロフィルム,乙20)等により,同22は文献9(特

開昭60−199462号公報,乙23)等により,また本件報告書(乙

16)によれば,請求項9〜13は,文献1(特開昭55−26960号

公報,乙24)・文献3(特開2005−125045号公報,乙25)

・文献5(実開平5−91693号のCD−ROM,乙26)・文献6(国

際公開03/088776号公報,乙27)等により,それぞれ進歩性

有しないとされているところ,その各内容は,次のとおりである。

(ア) 乙20(実願昭60−58157号(実開昭61−174946号)

のマイクロフィルム,考案の名称「足の電気刺戟装置」,公開日 昭和

61年10月31日)には,以下の記載がある。

・〔問題を解決するための手段〕

「これがため為された装置は,足裏における人の荷重がかって当接す

る位置,例えば踵,もしくは爪先のつけ根に存在する隆起部分に圧電

素子の一方の電極が露出し,足裏の当接する他の位置に,他方の電極

が露出していることを特徴とするものである。

こゝに使用される圧電素子は,第1〜2図に符(2)として示した通

り,圧電体(3)の表裏に電極(4,5)を接着したものである。本考案に適

用される圧電体(3)としては,・・・等の圧電性高分子フィルム,・

・・が挙げられ,それら自体は公知に属する。

・・・それは,この本考案装置上に人が立ったとき,その荷重によ

って生じたピエゾ電流は,足裏部における踵と前記つぼとの間を流




れ,その部分を刺戟するからである。」(2頁8行〜4頁3行)

・〔実施例〕

「本案装置を靴の敷皮として実現した。・・・

・・・圧電材料(3)・・・の表裏両面に,・・・その上側には一方

の電極(4)として・・・を,また下側には他方の電極(5)として第1図

示の『つちふまず』を含む形状で,厚さ0.10mm のアルミニウム箔

を,導電性接着剤・・・で接着し,こゝに圧電素子・・・を得た。

この圧電素子(2)を,図示の通り靴の敷皮内に埋め込んだ。・・・

それによって,足裏が直接各電極に当接できるようにし,こゝに本案

装置は完成した。」(5頁2行〜下2行)

・〔考案の効果〕

「人間の身体も導電性であるから,体重のある人間が,足裏を両極

(4,5)に当接させて,歩行ないし足踏みすれば当然これに近似し

た電圧が生じ,踵とつちふまず間に,それに相応した電流が流れ,換

言すれば足裏部が電気刺戟を受けるのである。」(6頁下4行〜7頁

2行)

・第1図(本考案を適用した靴敷皮の上面図)





・第2図(模式的に示した第1図U−U断面図)




(イ) 乙23(特開昭60−199462号公報,発明の名称「足踏み健康

器」,公開日 昭和60年10月8日)には,以下の記載がある。

・【特許請求の範囲

「基台と,この基台の上面に取り付けられた第1の電極と,前記基台

の上面に設けられた半円筒状の踏み付け部と,前記踏み付け部に突没

可能に配設された第2の電極と,前記第2の電極を介して押圧される

ことにより前記第1の電極と前記第2の電極との間に静電圧を印加

する静電圧発生手段とを具備することを特徴とする足踏み健康器。」

・【発明の詳細な説明

「この発明は足踏みを行なうことにより足の裏に点在するツボを刺

激して血行を促し,これにより健康の増進を図ることができる足踏み

健康器に関する。

・・・この静電圧発生部15は・・・頭部15aを下方へ押圧する

毎に,本体ケース15b内部に配設された圧電素子に衝撃力を加え,

この衝撃力が加えられる瞬間に圧電素子が発生する約15KV程度

の電圧を針金状のリード線15cと,ケース15bの下端部に取り付

けられた有底円筒形状の端子15dとを介して外方へ導くものであ

る。

・・・以上の様に構成された足踏み健康器を使用する場合は・・・

基台1の上に立つて足踏みを行なうが,このとき,足先または踵が帯




状電極6,6に当接し,かつ土踏まずが電極14を押圧する様に足踏

みを行なう。すると,静電圧発生部15の頭部15aが電極14を介

して下方へ押圧され,静電圧発生部15で静電圧が生じる。次いで,

この静電圧がリード線15cと端子15dおよび底板5とを各々介

して電極14と帯状電極6,6との間に印加され,足先または踵と土

踏まずの間に微電流が流れる。」(1頁左下欄下8行〜2頁右下欄1

0行)

・第2図(断面図)




・第5図(足踏み健康器の使用方法を説明するための側面図)




(ウ) 乙24(特開昭55−26960号公報,発明の名称「生物体の生理




作用に刺激を与える方法」,公開日 昭和55年2月26日)には,以

下の記載がある。

「上記例示した高分子のうち(1)に属するものは,シートに成形後これ

を1軸延伸することによつて圧電性が与えられ,延伸軸と±45°の方

向にフイルム面内に歪みを加えることによつて,膜の表,裏面間に最大

の圧電起電力が発生する。」(2頁左下欄下1行〜右下欄5行)

「(E)身体に装着する場所は,殆んどあらゆる場所に装着可能である。

〔(A)の場合〕

例えば,頭部,肩部,背部,腕,手,腹,足,腰等これらの1ヶ所若

しくは複数ヶ所に固定することができる。

身体に直接装着しないが,身体の動きに関連して動く部材に取付ける

方法においては,装身具,衣類,寝具,はき物(靴,スリツパ等),腕

輪等がある。」(3頁右上欄9行〜17行)

実施例−1

第1図は身体(皮膚)6上に発電体Eを装着したもので,この発電体

Eは高分子圧電膜1の両側に電極2,5を積層構造に設け,一方の電極

2に接続した導線3により発電体Eよりある距離をあけて身体6上に

固定した電極4と接続している。

このように高分子圧電膜1−電極4−身体6−高分子圧電膜1より

なる回路を構成することによつて,身体6の動きに応じて高分子圧電膜

1に歪みが与えられ,それによつて矢印7の如く電流が流れる。この場

合,身体6の1部も電気回路を構成しているので,この電流によつて人

体の諸器管,神経,細胞の活動等,医学上すでに証明されている各種の

効果を奏する。

また,第1図に示す如く,構造は極めて単純で装着が容易である上に,

殆んど故障を生じない等各種の効果がある。」(4頁右上欄7行〜左下




欄4行)




・第1図(1枚の発電体と1枚の電極で構成した電気回路の概略図)




(エ) 乙25(特開2005−125045号公報,発明の名称「健康具」,

公開日 平成17年5月19日)には,以下の記載がある。

・(実施例2)

「圧電体フィルムとして約50μmのポリフッ化ビニリデン(PVD

F)を用いた。この両面に蒸着法によってAI電極を形成し,両電極

がそれぞれ電気的に接しないようにし,図2(a),(b)の健康具をそれ

ぞれ得た。また,図2(a)は,1つの電極は裏面に形成した電極を圧

電体フィルムの側面を通して表面の電極と導通させてあり,もう一つ

の表面に形成した電極とは電気的に絶縁してある。本実施例では側壁

を通して裏面の電極を表面とつながるようにしたが,圧電フィルムの

中を貫通するようにして形成しても構わない。」(段落【0024】)

・「図2(b)は,圧電フィルム10に形成した電極の上をさらに,絶

縁フィルム25を貼り付けて保護したものである。さらに圧電フィル

ムの両面に電極を形成し,その電極から導電性のある線22を用い

て,電極取り出した。導電性のある線として,被覆銅線を用い,取り

出した電極の先端にPETフィルム上に電極が形成されているもの




を電極パッド40として接続している。

体表面には,保護シートを取り付けたフィルム部30と,電極パッ

ド40をそれぞれ貼り付けた。特にフィルム部30は歩行等の運動に

より,屈曲が生じやすい場所,例えば足裏,足首などに貼り付け,電

極パッド40は体表面のツボ近傍に貼り付けた。体表面に貼り付けら

れた健康具は,人の運動等によって貼り付けた部位が動き,圧電体フ

ィルムが屈曲や圧縮,引張りなどの歪みを受け,歪みを受けた圧電フ

ィルムは電圧を発生し,体表面に電気刺激を伝えることができた。」

(段落【0025】)

・図2(第2の実施の形態による健康具の概略構成を示す斜視図)




(オ) 乙26(実願平4−41166号(実開平5−91693号)のCD

−ROM,考案の名称「電気治療器具」,公開日 平成5年12月14

日)には,以下の記載がある。

・【作用】

「両手に手袋をはめ,一方を低周波パルス発生機器のプラス電極へ,

他方をマイナス電極へそれぞれ接続し,低周波パルス発生機器を作動

させれば,患部を両手でマッサージをしながら,掌表面の導電性素材

を通じて低周波パルスを患部に印加することができる。而も,患部の

形状に合わせることができる。




また,一対の導電面を形成した手袋を用いれば,片手で患部をマッ

サージしながら低周波パルスを患部に印加することができる。」(段

落【0005】)

・【実施例】

「図1〜図3は,本考案にかかる電気治療器具の説明図である。以下,

これらの図面に基づいて本考案を説明する。

(1)はシリコンゴム等で形成された絶縁性の高い手袋を示し,掌表

面(2)が導電性ゴムやカーボン等の可撓性を有する導電性素材(3)で

形成されている。掌表面にはコード(4)が電気的接続され,その先端

には低周波パルス発生器機(6)の出力端子に適合する差込ジャック

(5)が接続されている。」(段落【0006】)

・「図2は,本考案の電気治療器具を頭部の育毛や発毛促進に用いる場

合の一実施例を示す。図示のように両手にはめた手袋(1),(1)の一方

はコード(4)を介して低周波パルス発生機器(6)の出力端子であるプ

ラス端子(6a)へ,他方はマイナス端子(6b)へそれぞれ電気的接続され

ている。そして,低周波パルス発生機器を作動させ,所定の電圧に設

定した後,頭部のマッサージを開始する。すると,両手袋の掌表面が

頭皮に接触した時,両手袋は頭皮を介して通電状態となり,プラス端

子に接続された手袋の掌表面から頭皮に対して低周波パルスが印加

される。これによって頭皮が刺激され,血行が促進されるため発毛,

育毛効果が大いに期待できる。而も,手のひら表面を頭部の形状に合

わせることができるため,低周波パルスを面接触で印加することがで

きる。従って,点接触で印加する場合に比べ,痛みが少なく,効率の

良い血行促進を行なうことができる。」(段落【0007】)

・「図5は,本考案の電気治療器具を用いて捻挫した膝(10)をマッサー

ジするところを示す。従来のように板状のパッドを用いていた場合




は,膝頭のような突部に当てがうと点接触になってしまうが,本考案

のものを用いれば導電性素材で形成された掌表面で膝頭全体を包み

込むようにして接触することができる。従って,膝全体に斑無く低周

波パルスを印加することができると共に,マッサージすることができ

るため,治療効率が良く,治療時間も短縮できる。尚,肩についても

同様に治療することができる。」(段落【0008】)

・図1(電気治療器具の説明図) ・図2(左同)





・図4(電気治療器具の変更実施例) ・図5(電気治療器具を用いて捻挫し

た膝をマッサージするところ)




(カ) 乙27(国際公開第03/088776号公報,発明の名称「電極付

手袋」,公開日 2003年(平成15年)10月30日)には,以下

の記載がある。

・「・・・特に,この電極端子と操作パネルの出力端子を着脱自在のス

ナップ構造のものとすれば,手袋本体のみの洗濯も可能になる。 (明


細書3頁16行〜18行)

・「本発明の電極付手袋の一実施の形態を図1ないし図3を参照して説

明する。

同図に示すように,電極付手袋1は,電気絶縁材料からなる手袋本

体2,手袋本体2の手の平部分に固着された可撓性の面状電極3,4,

面状電極3,4に給電するとともに運転操作制御を行う操作パネル3

0,操作パネル30と各面状電極3,4とを電気的に接続するリード




配線5,6とから構成されている。」(明細書4頁15行〜21行)

・「次に,実際の電極付手袋の一使用例を説明する。

電極付手袋1の操作パネル30において,電源をオンし,運転モー

ドの設定がされると,トリートメント待機状態となる。次に,トリー

トメントしたい部分に電極付手袋1の各面状電極3,4が設けられて

いる手の平側を接触させ,または,細かい部分のトリートメントにお

いては,例えば親指と人差し指の各面状電極3,4を少し離して接触

させる。これらの接触によって体内をパルス電流が通電し,トリート

メントを行うことができる。なお,双方の面状電極3,4をトリート

メントしたい部分に少し離して接触させて使用できれば,この使用方

法に限るものではない。また,安全性が確保できれば,双方の手にそ

れぞれ電極付手袋1を装着し,異なる部分のトリートメントを同時に

することもできる。」(明細書8頁2行〜12行)

・図1(電極付手袋の一実施の形態における手の平側の構成図)





ウ その他の文献の記載事項

本件見解書において示された文献13(特開2004−103265号

公報,乙21),文献14(特許第3360641号公報,乙22),本

件報告書において示された文献7(特許第3479797号公報,乙28)

の各内容は,次のとおりである。

(ア) 乙21(特開2004−103265号公報,発明の名称「発光ユニ

ットおよびそれを用いた発光靴」,公開日 平成16年4月2日)には,

以下の記載がある。

・【課題を解決するための手段】

「また,前記圧電素子は1枚の圧電素子を弾性板などに貼り付けて構

成された圧電ユニモルフ構造を有し,前記荷重または衝撃の時間変化

を利用して発電する構成とすることができる。」(段落【0012】)

・「また,前記圧電素子は1枚の圧電素子を弾性板などに貼り付けて構

成された圧電ユニモルフ構造を有し,片持ち支持されて,前記荷重ま

たは衝撃により自由端側が弾かれることで発電する構成とすること

ができる。」(段落【0014】)

(イ) 乙22(特許第3360641号公報,発明の名称「発電装置とこれ

を用いた表示灯とこの表示灯を用いた自転車」,登録日 平成14年1

0月18日,発行日 平成14年12月24日)には,以下の記載があ

る。

・【発明の実施の形態】

「まず,円盤状の金属板12の両面に,この金属板12よりも小さな

円盤状の圧電素子13をエポキシ系等の接着剤を用いて貼り付けた

振動板9を得る。」(段落【0020】)

・「以下本発明のポイントについて記載する。

・・・(3) 発電効率をよくするために金属板12は,弾性率が衝撃物




11よりも小さく,弾性体8よりも大きくすることが望ましい。 (段


落【0026】)

(ウ) 乙28(特許第3479797号公報,発明の名称「毛布状電位治療

器」,登録日 平成15年10月10日,発行日 平成15年12月1

5日)には,以下の記載がある。

・【請求項1】

「基材シートと誘電体間に身体に広がる面積を有する導電性不織布

等の屈曲性に富む電極部材を密封し誘電体は非透湿性の0.6mmを

超えない厚み寸法の塩ビフィルムを用いてなる電位治療器において,

前記電極部材に500V以下の正極性の電位を印加する電源回路を

接続するとともに該電極部材に誘電体を介し毛布地から成る表装材

を重ね合わせて表装材側で生じる負極性の電荷が人体に帯電するよ

うに成し且つ暖房用の電気毛布をファスナー等を用いて着脱自在に

一体化した毛布状電位治療器。」

(4) 本件見解書における判断内容についての検討

ア 本願発明21

(ア) 引用発明

前記(3)イ(ア)からすれば,本件見解書で引用された文献8(乙20)

には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「靴の敷皮において,敷皮に適当に撓んで適当な大きさの圧電性高分子

フィルム3と,該圧電性高分子フィルム3から通電される一方の電極4

と他方の電極5を設け,敷皮に足を載せた状態で,圧電性高分子フィル

ム3に加わる圧力によってひずむ変形で起電するピエゾ電流を,一方の

電極4と他方の電極5の面から足裏部に通電するようにした靴の敷皮

の電気刺戟装置」(引用発明8)

(イ) 対比




本願発明21と引用発明8とを対比すると,引用発明8の「靴の敷

皮」,「圧電性高分子フィルム3」,「一方の電極4」,「他方の電極

5」,「ピエゾ電流」,「足裏部」,「電気刺戟装置」は,それぞれ,

本願発明21の「中敷き」又は「履き具」,「圧電フィルム(4)」,

「導電部(6:6A)」,「導電部(6:6B)」,「微弱電流」,「体

表面の接面する足の裏の組織内」,「微弱電流施療具」に相当する。

そうすると,本願発明21と引用発明8は,

「中敷きの履き具において,履き具に適当に撓んで適当な大きさの圧電

フィルム(4)と,該圧電フィルム(4)から通電される導電部(6:

6A)と導電部(6:6B)を設け,履き具に足を載せた状態で,圧電

フィルム(4)に加わる圧力によってひずむ変形で起電する微弱電流を,

導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から体表面の接面する足

の裏の組織内に通電するようにした履き具の微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明21の圧電フィルム(4)は,弾性部材上に設けられている

のに対して,引用発明8の圧電性高分子フィルム3は,弾性部材上に設

けられていない点。

(ウ) 相違点についての検討

まず,「発電効率を向上する」ことは,発電装置の一般的な課題にす

ぎないから,引用発明8においてかかる課題を解決することを試みるこ

とは,文献8に接した当業者であれば自明のことである。

また,一般的に,圧電体を用いた発電装置の技術分野において,発電

効率を向上させるため,圧電体を弾性部材上に設けることは,前記(3)

ウ(ア)(イ)のとおり,本件見解書で示された文献13(乙21)及び文献

14(乙22)に記載されているように,周知技術である。




したがって,当該技術分野における「先行技術」である引用発明8と

上記周知技術とを組み合わせること,すなわち,引用発明8において,

上記周知技術に照らし,発電効率を向上させるため,圧電性高分子フィ

ルム3を弾性部材上に設けることにより,本願発明21に到達すること

は,当業者にとって自明である。

よって,本願発明21は,当業者にとって,PCT規則に定義する先

行技術である引用発明8及び上記周知技術からみて自明のものである。

イ 本願発明22

(ア) 引用発明

前記(3)イ(イ)からすれば,本件見解書で引用された文献9(乙23)

には,以下の発明が記載されているものと認められる。

「基台1において,基台1に,圧電素子が配設された静電圧発生部15

と,該圧電素子から通電される帯状電極6と電極14を設け,基台1に

足を載せた状態で,圧電素子に加わる圧力によってひずむ変形で起電す

る微弱電流を,帯状電極6と電極14の面から足先又は踵と土踏まずの

間に通電するようにした足踏み健康器。」(引用発明9)

(イ) 対比

本願発明22と引用発明9とを対比すると,引用発明9の「基台1」,

「帯状電極6」,「電極14」,「足先又は踵と土踏まずの間」,「足

踏み健康器」は,それぞれ,本願発明22の「足を載せる踏み台」又は

「踏み台」,「導電部(6:6A)」,「導電部(6:6B)」,「体

表面の接面する足の裏の組織内」,「踏み台の微弱電流施療具」に相当

する。また,引用発明9の「静電圧発生部15」に配設された「圧電素

子」 「圧電体」
は, の限りにおいて,本願発明22の「圧電フィルム(4)」

に相当する。

そうすると,本願発明22と引用発明9は,




「足を載せる踏み台において,踏み台に圧電体と,該圧電体から通電さ

れる導電部(6:6A)と導電部(6:6B)を設け,踏み台に足を載

せた状態で,圧電体に加わる圧力によってひずむ変形で起電する微弱電

流を,導電部(6:6A)と導電部(6:6B)の面から体表面の接面

する足の裏の組織内に通電するようにした踏み台の微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明22の圧電体は,適当に撓んで適当な大きさの圧電フィルム

(4)であって,該圧電フィルム(4)は,弾性部材上に設けられてい

るのに対して,引用発明9の静電圧発生部15に配設された圧電体は,

圧電フィルムに限定されておらず,弾性部材上に設けられているもので

もない点。

(ウ) 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,一般的に,圧電体を用いた発電装置

の技術分野において,圧電体としての圧電フィルムは,前記(3)イ(ウ)の

とおり,本件見解書で示された文献2(乙24)に記載されているよう

に,周知技術である。また,同技術分野において,発電効率を向上する

ため,圧電体を弾性部材上に設けることも,前記ア(ウ)のとおり周知技

術である。

また,前記ア(ウ)のとおり,「発電効率を向上する」ことは発電装置

の一般的課題にすぎず,引用発明9においてかかる課題の解決を試みる

ことは,乙23に接した当業者にとって自明のことである。したがって,

当該技術分野における「先行技術」たる引用発明9と上記周知技術とを

組み合わせること,すなわち,引用発明9において,上記周知技術に照

らし,圧電体として圧電フィルムを採用するとともに,発電効率を向上

させるため,同圧電フィルムを弾性部材上に設けることにより,本願発




明22に到達することは,当業者にとって自明である。

よって,本願発明22は,当業者にとって,PCT規則に定義する先

行技術たる引用発明9及び上記周知技術からみて,自明のものである。

(5) 本件報告書における判断内容についての検討

ア 本願発明9

(ア) 引用発明

前記(3)イ(ウ)ないし(カ)からすれば,本件報告書で引用された文献1,

3,5及び6には,それぞれ以下の発明が記載されているものと認めら

れる。

a 文献1(乙24)

「生物体の生理作用に刺激を与える装置において,高分子圧電膜1と

該高分子圧電膜1の上面に電極5を設け,さらに身体6に当接させ該

高分子圧電膜1で起電する電気を通電する電極4を設け,該装置を装

着した状態で,該電極5及び電極4を身体6に当接して,身体6の動

きに追従して,該高分子圧電膜1に生じる曲げや伸びの歪みで起電す

る微弱電流を,該高分子圧電膜1から通電する前記電極4と電極5の

面から当接する身体6に閉回路を形成して通電するようにした装

置。」(引用発明1)

b 文献3(乙25)

「体表面に密着させて使用するシート状の健康具において,圧電フィ

ルム10と該圧電体フィルム10の両面に電極20を設け,さらに体

表面に密着させ該圧電体フィルム10で起電する電気を通電する電

極パッド40を設け,該健康具を体表面に密着した状態で,該電極パ

ッド40を体表面に当接して,人の運動等に追従して,該圧電体フィ

ルム10に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電体

フィルム10から通電する前記電極パッド40の面から体表面に閉




回路を形成して通電するようにした健康具。」(引用発明3)

c 文献5(乙26)

「手に嵌めて装着する手袋1において,該手袋1の掌表面2に導電性

素材3を設け,該手袋1を手に嵌めて装着した状態で,該手袋1の掌

表面2を患部に当接してマッサージしながら,前記導電性素材3の面

から当接する患部に通電するようにした電気治療器具。」(引用発明

5)

d 文献6(乙27)

「手に嵌めて装着する手袋本体2において,該手袋本体2の手の平側

に面状電極3,4を設け,該手袋本体2を手に嵌めて装着した状態で,

該手袋本体2の手の平側を人体の局部に当接して,前記面状電極3,

4の面から当接する人体の局部に通電するようにした電極付手袋

1。」(引用発明6)

(イ) 対比

本願発明9と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「高分子圧電

膜1」,「身体6」,「電極4」,「生物体の生理作用に刺激を与える

装置」又は「装置」は,それぞれ,本願発明9の「圧電フィルム(4)」,

「体表面」又は「体表面の組織内」,「導電部(6)」,「微弱電流施

療具」に相当する。

そうすると,本願発明9と引用発明1は,

「圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)の上面に電極(5)を設

け,さらに体表面に当接させ該圧電フィルム(4)で起電する電気を通

電する導電部(6)を設け,装着した状態で,該電極(5)及び導電部

(6)を体表面に当接して,体表面の動きに追従して,該圧電フィルム

(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電フィル

ム(4)から通電する前記導電部(6)と電極(5)の面から当接する




体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するようにした微弱電流施療

具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明9は,手に嵌めて装着する手袋の微弱電流施療具であって,

圧電フィルム(4)と電極(5)を該手袋に設け,さらに導電部(6)

を該手袋の手の平側に設け,該手袋を手に嵌めて装着した状態で,該手

袋の手の平側を体表面に当接してマッサージすることで,その手の平の

マッサージする動きで手袋体に加わる曲げや伸ばす力に追従して起電

するものであるのに対して,引用発明1は,手袋の微弱電流施療具に限

定されていない点。

(ウ) 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,前記(3)イ(ウ)のとおり,乙24には,

高分子圧電膜を身体に装着する場所として「手」が例示されており,装

着態様について,身体に直接装着せず,身体の動きに関連して動く部材

(装身具等)に取り付けることも記載されている。また,引用発明1及

び5は,共に電流を体表面に通電することで刺激を加える電流施療具に

関する技術分野に属するものである。このように,乙24の上記装着場

所及び装着態様に関する記載,並びに,技術分野の共通性に照らせば,

引用発明1(微弱電流施療具)と引用発明5の手袋を組み合わせること

は,当業者にとって自明である。

具体的には,引用発明1は,高分子圧電膜1(圧電フィルム)に生じ

る歪みで起電した微弱電流を,該高分子圧電膜1に通電する2つの電極

4,5から当接する身体6に通電するものであって,高分子圧電膜1,

電極5,身体6,電極4,高分子圧電膜1の順に,あるいは,その逆の

順に通電する電流の輪(閉回路)を形成することにより,身体6に微弱




電流を流すものである。このように,身体に当接する2つの電極を用い

て,高分子圧電膜と身体との間に微弱電流の閉回路を形成するという,

電流の流れる仕組みに照らせば,引用発明1を引用発明5の手袋に組み

合わせるに当たり,その組合せの一態様として,2つの電極4,5の両

方を身体の患部に当接する手袋1に設ける態様(手袋1と身体の患部と

の間で閉回路を形成するもの)に到達することは,当業者にとって自明

である。

したがって,引用発明5の手袋1において,掌表面2の導電性素材3

に代えて,同じ通電部材である,引用発明1の高分子圧電膜1,電極5

及び電極4を設けるとともに,引用発明5が手袋1の掌表面2を患部に

当接してマッサージしながら通電するものであることに照らして,引用

発明5の手袋1を手にはめて装着した状態で,同手袋1の掌表面2を体

表面の患部に当接してマッサージすることで,その掌表面2のマッサー

ジする動きで手袋1に加わる曲げや伸ばす力に追従して,引用発明1の

高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱電流を起電するようにし,もって,

本願発明9の上記相違点に係る構成とすることは,当業者にとって自明

である。

よって,本願発明9は,当業者にとって,PCT規則に定義する先行

技術たる引用発明1及び引用発明5からみて自明のものである。

イ 本願発明10

本願発明10は,本願発明9における「導電部(6)」が,「導電部(6

:6A)と導電部(6:6B)」となる点でのみ異なるが,複数の導電部

を備えることは乙24に開示されており,この点は自明というべきであ

る。

ウ 本願発明11

(ア) 引用発明




本件報告書で引用された乙24ないし27(文献1,3,5及び6)

には,前記ア(ア)の内容の発明が記載されているものと認められる。

(イ) 対比

本願発明11と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「高分子圧

電膜1」,「身体6」,「電極4」,「生物体の生理作用に刺激を与え

る装置」 「装置」 それぞれ,
又は は, 本願発明11の「圧電フィルム(4) ,


「体表面」又は「体表面の組織内」,「導電部(6)」,「微弱電流施

療具」に相当する。

そうすると,本願発明11と引用発明1は,

「体表面に当接させる側に圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)

の上面に電極(5)を設け,さらに該圧電フィルム(4)で起電する電

気を通電する導電部(6)を設け,装着した状態で,該電極(5)及び

導電部(6)を体表面に当接させ,体表面の動きに追従して,該圧電フ

ィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該圧電

フィルム(4)から通電する前記導電部(6)と電極(5)の面から当

接する体表面の組織内に,閉回路を形成して通電するようにした微弱電

流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明11は,手にはめて装着する手袋の微弱電流施療具であっ

て,圧電フィルム(4)と電極(5)と導電部(6)を,係着手段(8)

を用いて該手袋の手の平側に着脱可能に設け,該係着手段(8)を手袋

に係着し該手袋を手にはめて装着した状態で,該係着手段(8)を体表

面に当接させマッサージすることで,その手の平のマッサージする動き

で該係着手段(8)に加わる曲げや伸ばす力に追従して起電するもので

あるのに対して,引用発明1は,手袋の微弱電流施療具に限定されてお




らず,係着手段に相当する構成を有しない点。

(ウ) 相違点についての検討

上記相違点について検討するに,前記ア(ウ)と同様の理由により,引

用発明1(微弱電流施療具)と引用発明5の手袋を組み合わせることは,

当業者にとって自明である。また,一般的に,電流施療具の技術分野に

おいて,電極ないし導電部を係着手段(スナップ,面ファスナー等)に

より着脱可能に設けることは,前記(3)イ(オ),(カ),ウ(ウ)のとおり,本

件報告書で示された文献5(乙26)の図4,文献6(乙27)の3頁

16行〜18行,文献7(乙28)の請求項1記載のように常套手段な

いし当業者の一般的技術知識であるから,引用発明1及び5を組み合わ

せる際に上記常套手段の適用を試みることも,当業者にとって自明であ

る。

したがって,引用発明1と引用発明5を組み合わせるに当たり,引用

発明5の手袋1において,掌表面2の導電性素材3に代えて,同じ通電

部材である,引用発明1の高分子圧電膜1,電極5及び電極4を上記常

套手段たる係着手段により着脱可能に設けるとともに,該係着手段を手

袋1に係着し該手袋1を手にはめて装着した状態で,該係着手段を体表

面の患部に当接させマッサージすることで,その掌表面2のマッサージ

する動きで該係着手段に加わる曲げや伸ばす力に追従して,引用発明1

の高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱電流を起電するようにし,もっ

て,本願発明11の上記相違点に係る構成とすることは,当業者にとっ

て自明である。

よって,本願発明11は,当業者にとって,PCT規則に定義する先

行技術たる引用発明1及び引用発明5並びに上記常套手段からみて自

明のものである。

エ 本願発明12




本願発明12は,本願発明11における「導電部(6)」が,「導電部

(6:6A)と導電部(6:6B)」となる点でのみ異なるが,複数の導

電部を備えることは乙24に開示されているから,自明というべきであ

る。

オ 本願発明13

(ア) 引用発明

本件報告書で引用された乙24ないし26(文献1,3及び5)には,

それぞれ以下の発明が記載されているものと認められる。

a 文献1(乙24)

「生物体の生理作用に刺激を与える装置において,身体6に当接させ

る1対の電極4,5を各設け,さらに片方の電極5に高分子圧電膜1

と該高分子圧電膜1で起電する電気をその1対の電極4,5間で通電

する導線3を設け,該装置を装着した状態で,該1対の電極4,5を

身体6に当接させ,身体6の動きに追従して,該高分子圧電膜1に生

じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱電流を,該高分子圧電膜1から

通電する前記片方の電極5と,前記導線3を介して通電するもう片方

の電極4の各面から当接する身体6に,閉回路を形成して通電するよ

うにした装置。」(引用発明1a。なお,引用発明1aは,引用発明

1に対して, 「高分子圧電膜1で起電する電気をその1対の電極4,
@

5間で通電する導線3を設け」た点,及び,A片方の電極4に関して

「導線3を介して通電する」点を追加した発明に相当する。)

b 文献3(乙25)

「体表面に密着させて使用するシート状の健康具において,体表面に

当接させる1対の電極パッド40を各設け,さらに圧電体フィルム1

0と該圧電体フィルム10で起電する電気をその1対の電極パッド

40間で通電する被覆銅線22を設け,該健康具を装着した状態で,




該1対の電極パッド40を体表面に当接させ,人の運動等に追従し

て,該圧電体フィルム10に生じる曲げや伸びの歪みで起電する微弱

電流を,該圧電体フィルム10から前記被覆銅線22を介して通電す

る該1対の電極パッド40の各面から当接する体表面に,閉回路を形

成して通電するようにした健康具。」(引用発明3a。なお,引用発

明3aは,引用発明3に対して,@「圧電体フィルム10で起電する

電気をその1対の電極パッド40間で通電する被覆銅線22を設け」

た点,及び,A1対の電極パッド40に関して「被覆銅線22を介し

て通電する」点を追加した発明に相当する。)

c 文献5(乙26)

「手に嵌めて装着する1対の手袋1において,該1対の手袋1の患部

と当接させる掌表面2に導電性素材3を各設け,さらに低周波パルス

発生機器6で発生する電気をその1対の手袋1に通電するコード4

を設け,該1対の手袋1を手に嵌めて装着した状態で,各手袋1の掌

表面2を患部に当接してマッサージしながら,前記コード4を介して

通電する前記1対の手袋1に設けた前記導電性素材3の各面から当

接する患部に通電するようにした電気治療具。」(引用発明5a。な

お,引用発明5aは,引用発明5に対して,@手袋1が「1対の」も

のである点,A導電性素材3に関して1対の手袋1の掌表面2に「各

設け」た点,B「低周波パルス発生機器6で発生する電気をその1対

の手袋1に通電するコード4を設け」た点,及び,C1対の手袋1の

導電性素材3に関して「コード4を介して通電する」点を追加した発

明に相当する。)

(イ) 対比

本願発明13と引用発明1aとを対比すると,引用発明1aの「身

体6」,「電極4,5」,「高分子圧電膜1」,「導線3」,「生物




体の生理作用に刺激を与える装置」又は「装置」は,それぞれ,本願

発明13の「体表面」又は「体表面の組織内」,「導電部(6)」,

「圧電フィルム(4)」,「導電線(6d)」,「微弱電流施療具」

に相当する。

そうすると,本願発明13と引用発明1aは,

「体表面と当接させる1対の導電部(6)を各設け,さらに片方の導

電部(6)に圧電フィルム(4)と該圧電フィルム(4)で起電する

電気をその1対の導電部(6)間で通電する導電線(6d)を設け,

装着した状態で,各導電部(6)を体表面に当接させ,その体表面の

動きに追従して,該圧電フィルム(4)に生じる曲げや伸びの歪みで

起電する微弱電流を,該圧電フィルム(4)から通電する前記片方の

導電部(6)と,前記導電線(6d)を介して通電するもう片方の導

電部(6)の各面から当接する体表面の組織内に,閉回路を形成して

通電するようにした微弱電流施療具。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点]

本願発明13は,手にはめて装着する1対の手袋の微弱電流施療具

であって,1対の導電部(6)を該1対の手袋の手の平側に各設け,

さらに圧電フィルム(4)を少なくとも片方の手袋に設けることで,

導電線(6d)をその1対の手袋間で通電するようにし,該1対の手

袋を手にはめて装着した状態で,各手袋の手の平側を体表面に当接さ

せマッサージすることで,その手の平のマッサージする動きで手袋体

に加わる曲げや伸ばす力に追従して微弱電流を起電するものである

のに対して,引用発明1aは,手袋の微弱電流施療具に限定されてい

ない点。

(ウ) 相違点についての検討




上記相違点について検討するに,前記ア(ウ)のとおり,乙24に,

高分子圧電膜を身体に装着する場所として「手」が例示されており,

装着態様について装身具等に取り付けることが記載されていること,

引用発明1a及び5aは,共に電流を体表面に通電することで刺激を

加える電流施療具に関する技術分野に属するものであることから,引

用発明1a(微弱電流施療具)と引用発明5aの手袋を組み合わせる

ことは,当業者にとって自明である。

具体的には,引用発明1aは,高分子圧電膜1(圧電フィルム)に

生じる歪みで起電した微弱電流を,該高分子圧電膜1から通電する一

方の電極5と,該高分子圧電膜1から導線3を介して通電する他方の

電極4の2つの電極から当接する身体6に通電するものであって,高

分子圧電膜1,電極5,身体6,電極4,導線3,高分子圧電膜1の

順に,あるいは,その逆の順に電流の輪(閉回路)を形成することに

より,身体6に微弱電流を流すものである。このように,身体に当接

する2つの電極を用いて,高分子圧電膜と身体との間に微弱電流の閉

回路を形成するという,電流の流れる仕組みに照らせば,引用発明1

aを引用発明5aの手袋に組み合わせるに当たり,かかる組合せの態

様として,2つの電極4,5の両方を身体の患部に当接する片方の手

袋1に設ける態様(片方の手袋1と身体の患部との間で閉回路を形成

するもの)と,2つの電極4,5の各電極をそれぞれ身体の患部に当

接する一方の手袋1と他方の手袋1に設ける態様(1対の手袋1と身

体の患部との間で閉回路を形成するもの)に到達することができるこ

とは明らかであり,組合せの一態様にすぎない後者を採用すること

は,当業者にとって自明である。

したがって,引用発明5aの1対の手袋1において,各掌表面2の

導電性素材3に代えて,片方の手袋1の掌表面2に,同じ通電部材で




ある,引用発明1aの高分子圧電膜1及び電極5を,もう片方の手袋

1の掌表面2に,同じ通電部材である,引用発明1aの電極4を設け

ることで,引用発明1aの導線3を介して1対の手袋1間で通電する

ようにするとともに,該1対の手袋1を手にはめて装着した状態で,

各手袋1の掌表面2を体表面の患部に当接してマッサージすること

で,その掌表面2のマッサージする動きで手袋1に加わる曲げや伸ば

す力に追従して,引用発明1aの高分子圧電膜1に生じる歪みで微弱

電流を起電するようにし,もって,本願発明13の上記相違点に係る

構成とすることは,当業者にとって自明である。

よって,本願発明13は,当業者にとって,PCT規則に定義する

先行技術たる引用発明1a及び引用発明5aからみて自明のもので

ある。

カ 以上からすれば,本件国際予備審査請求における担当審査官は,本願発

明9ないし13,21及び22の非自明性(PCT条約33条所定の要件)

につき,当業者の立場に立って正しく検討した上で,これを否定したもの

といえ,その判断に誤りはない。

(6) 小括

以上によれば,特許庁審査官が本件見解書において本願発明21及び22

につき,本件報告書において本願発明9〜13につき,それぞれPCT条約

33条(1)にいう進歩性がないとした判断に誤りはないことになり,特許庁

審査官の判断の誤りを前提とする控訴人の本訴請求はいずれも失当である

ことになる。

3 控訴人の主張に対する判断

(1) 控訴人は,本件国際出願とは全く別個に,本願各発明とほぼ同内容の発明

につき日本国内出願をしており,日本国内出願においては,進歩性があるこ

とを前提として特許査定がなされたことを根拠として,本件における審査が




無効である旨主張するが,前記2で検討したとおり,本件国際出願に関する

特許庁審査官による非自明性の判断に誤りはない。

(2) また控訴人は,本件訴訟は特許法29条に基づく訴えであり,原判決がP

CT条約にいう国際予備審査の制度に関して延々と記載して判断したこと

は民事訴訟法246条違反であると主張するが,本訴で問題となっているの

は,控訴人が行った本件国際予備審査請求に係る審査であって,まさにPC

T条約が適用されるべき事項であるから,控訴人の上記主張は理由がない。

(3) また控訴人は,本訴の争点は,担当審査官が特許法29条に即しない無効

な審査を行ったか否かであって,進歩性の判断自体は争点ではないとも主張

するが,本件見解書及び本件報告書において特許庁審査官が示した見解は,

控訴人がなした本件国際予備審査請求に関する判断であって,その根拠とな

るのは前記のとおりPCT条約であって特許法ではないから,特許法29条

2項にいう「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者

(当業者)」を基準として判断すべきであるとする控訴人の主張は,その前

提において採用することができない。そして,担当審査官がPCT条約を前

提として行った進歩性ないし非自明性に関する判断が正当であることは前

記のとおりである。

(4) さらに控訴人は,本件では,当業者が絶対にできない論理付けの審査が行

われたとも主張するが,具体的に審査のどの部分が「当業者が絶対にできな

い論理付けの審査」であると主張するのか明らかではない上,前記2で検討

したとおり,本件での審査はPCT条約を前提とするものの,当業者と同様

の立場に立って正当に行われ,その結論にも誤りはないのであるから,控訴

人の上記主張は採用することができない。

(5) このほか控訴人が平成22年9月6日付けの「本事件平成22年(行ウ)

第304号『審査結果無効確認及びその損害賠償請求事件』の解決を求める

回答書」によって被控訴人に回答を求める事項に関しても,被控訴人が,本




願発明9ないし13,21及び22につき進歩性ないし非自明性はないと主

張したことにより,被控訴人は,担当審査官による審査結果は正しく,有効

である旨回答したことになるので,上記回答がない旨の控訴人の主張は前提

を欠く。

4 結論

以上によれば,控訴人の国家賠償法1条に基づく損害賠償請求は理由がない

から棄却すべきであり,無効等確認の訴え及び義務付けの訴えはいずれも不適

法であるから却下すべきであり,これと結論を同じくする原判決は正当である。

よって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文

のとおり判決する。

知的財産高等裁判所 第1部



裁判長裁判官 中 野 哲 弘




裁判官 東 海 林 保




裁判官 矢 口 俊 哉