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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  産業上利用(29条1項柱書) /  創作性(創作) /  公然知られ(29条1項1号) /  公然実施(29条1項2号) /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  同一の発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  権利の濫用(権利濫用) /  参酌 /  文言解釈 /  技術的意義 /  意識的除外(意識的に除外) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  乗じた額 /  実施料 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 1334号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社モリタ製作所
訴訟代理人弁護士 牧野利秋
同 那須健人
補佐人弁理士 水谷好男
被告 藤栄電気株式会社
訴訟代理人弁護士 奥野泰久
訴訟代理人弁理士 野河信久
補佐人弁理士 鈴江武彦
同 福原淑弘
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙ロ号製品目録記載の製品を製造し、販売してはならない。
2 被告は、別紙ロ号製品目録記載の製品及びその半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金1億6118万0287円及び内金379万0897円に対する平成13年2月23日から、内金1億5738万9390円に対する平成16年4月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第1ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項同旨 2 主文第2項同旨 3 被告は、原告に対し、金2億0844万7900円及び内金1268万7500円に対する平成11年1月14日から、内金1億9576万0400円に対する平成16年4月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は、後記2(2)の特許権を有する原告が、被告の製造販売する根管長測定器は、同特許権に係る特許発明技術的範囲に属するとして、特許権に基づき、根管長測定器の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、補償金及び特許権の侵害による不法行為に基づく損害賠償並びにこれらについての遅延損害金を請求した事案である。
2 基礎となる事実(証拠を掲記し又は争いがある旨記載した部分以外は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は、歯科医療機械器具及び材料の製造販売等を業とする株式会社である。
被告は、電子医療機器等の製造販売を業とする株式会社である。
(2) 特許権 ア 甲特許権 (ア) 原告は、次の特許権(以下「甲特許権」という。)を有する。
特許番号 第2873722号 発明の名称 根尖位置検出装置 出願年月日 平成2年7月3日(特願平2-177037号) 出願公開年月日 平成4年2月28日(特開平4-64354号) 登録年月日 平成11年1月14日 (イ) 甲特許権の特許出願の願書に添付された明細書(以下、甲特許権の特許出願の願書に添付された明細書、図面を「甲明細書」、「甲図面」といい、特許公報(甲第2号証、本判決末尾添付)を「甲公報」という。なお、甲第2号証の特許公報には「欄」、「行数」の記載がないが、本判決末尾添付の特許公報にはそれらの記載があるから、特許公報中の記載箇所の特定は、本判決末尾添付の特許公報による。)の特許請求の範囲の請求項1、請求項2の記載は、次のとおりである(以下、同特許請求の範囲の請求項1記載の発明を「甲-1発明」、請求項2記載の発明を「甲-2発明」といい、「甲-1発明」と「甲-2発明」を包括して「甲発明」という。)。
「【請求項1】測定電極と口腔電極との間のインピーダンスの変化から根尖位置を検出する装置であって、測定電極と口腔電極の間に周波数の異なる測定信号を印加する信号出力手段と、各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段とを備え、測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し、上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出することを特徴とする根尖位置検出装置。
【請求項2】上記信号出力手段が、周波数の異なる測定信号を交互に出力するマルチプレクサを備えたものである請求項1記載の根尖位置検出装置。」 (ウ) 甲-1発明を構成要件に分説すると、次のとおりである。
A 測定電極と口腔電極との間のインピーダンスの変化から根尖位置を検出する装置であって、
B 測定電極と口腔電極の間に周波数の異なる測定信号を印加する信号出力手段と、
C 各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段とを備え、
D 測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し、
上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出することを特徴とする E 根尖位置検出装置。
(エ) 甲-2発明を構成要件に分説すると、次のとおりである。
F 上記信号出力手段が、周波数の異なる測定信号を交互に出力するマルチプレクサを備えたものである G 請求項1記載の根尖位置検出装置。
イ 乙特許権 (ア) 原告は、次の特許権(以下「乙特許権」という。)を有する。
特許番号 第2873725号 発明の名称 根管長測定器 出願年月日 平成2年7月13日(特願平2-186329号) 出願公開年月日 平成4年3月9日(特開平4-73055号) 登録年月日 平成11年1月14日 (イ) 乙特許権の特許出願の願書に添付された明細書(以下、乙特許権の特許出願の願書に添付された明細書、図面を「乙明細書」、「乙図面」といい、特許公報(甲第4号証、本判決末尾添付)を「乙公報」という。なお、特許公報中の記載箇所の特定は、本判決末尾添付の特許公報による。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、同特許請求の範囲の請求項1記載の発明を「乙発明」という。)。
「【請求項1】根管内に挿入されている測定電極の先端位置に対応した測定データを逐次検出するデータ検出手段と、上記データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段と、上記データ処理手段で得られた補正後データを表示する表示手段、とを備えたことを特徴とする根管長測定器。」 (ウ) 乙発明を構成要件に分説すると、次のとおりである。
H 根管内に挿入されている測定電極の先端位置に対応した測定データを逐次検出するデータ検出手段と、
I 上記データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段と、
J 上記データ処理手段で得られた補正後データを表示する表示手段、
とを備えたことを特徴とする K 根管長測定器。
(3) ロ号製品の製造販売 被告は、遅くとも平成9年1月から、別紙ロ号製品目録記載の製品(以下「ロ号製品」という。)を製造販売している。(製造販売の開始時期は、弁論の全趣旨により認められる。ロ号製品の構成については、後記のとおり、一部争いがある。) (4) ロ号製品の構成 ロ号製品の構成を分説すると、次のとおりである(符号は、別紙ロ号製品目録記載の符号を指す。)。
(a) ロ号製品の装置は、測定電極(ファイル又はリーマ)4が接続されるプローブ端子4aと口腔電極5が接続されるフック端子5aの間に周波数500Hz及び2000Hzの2つの測定用印加信号を印加し、プローブ端子とフック端子の間の各信号に対する測定電流を使用して根尖位置を検出して表示する装置である。
(b) 発振回路1は一つの測定用印加信号を発振し、タイミング制御部21において、周波数500Hz及び2000Hzの2つの測定用印加信号を生成し、
タイミング制御部21を経た後、これら測定用印加信号をスイッチA12により、
交互に切り替えて、二つの測定用印加信号を整合回路を経てプローブ端子4aとフック端子5aの間に順次印加し、プローブ端子4aとフック端子5aの間に流れる二つの測定電流を測定する。この測定は、二つの測定電流を抵抗25に流し、抵抗25の両端間(25a-25b)の電圧値として測定する。以下、この測定した値を測定電流値I500 及びI 2000 と記す。
(c) これらの測定電流値のうちI500は加算回路8及び演算回路17に入力される。
一方、測定電流値I2000 はI 500 とともに演算回路17に入力され、演算回路17でこれらの測定電流値I500 及びI 2000 を演算した演算値Gを得る。この演算値Gは、加算回路8に入力される。
(d) 加算回路8で、二つの入力I500 とGを、定数K 4及びK 5でそれぞれ重み付け処理して加算し(ただし、K4及びK 5は、ロ号製品に採用される回路基板完成後に各回路基板ごとに調整される定数である。)、
X=K4I 500 +K 5G (1) =K4I 500 +K 520log 10 {K 6(I 2000 -I 500 )/I 500 +1}(2) なる加算後電圧Xを得る。
(g) 折線近似回路19において、上記(d)で得られた加算後電圧Xを入力電圧として X2=(α-β-γ)X+C1+C2 (3) なる出力電圧を得ている。ここで、αは定数、β、C1は折線近似回路19への入力電圧が第1の特定電圧に達するまではゼロでそれ以降はある値をとる定数、γ、C2は折線近似回路19への入力電圧が第2の特定電圧に達するまではゼロでそれ以降はある値をとる定数であり、α>α一β>α-β-γ、α>0、α-β>0、α-β-γ>0、C1>0、C 2>0の値をとる。その結果、折線近似状に変化するデータとなるように処理される。
(h) メータ駆動回路10は、表示メータ11を出力電圧X2に応じて駆動するように、調整する。(構成(h)については、後記のとおり、一部争いがある。) (i) 根尖位置検出装置(根管長測定器)である。
(5) 対比 ア 甲-1発明 (ア) 構成(b)は構成要件Bを充足する。
(イ) 構成(i)は構成要件Eを充足する。
イ 甲-2発明 ロ号製品の構成は構成要件Fを充足する。
ウ 乙発明 ロ号製品の構成は構成要件Hを充足する。
構成(i)は構成要件Kを充足する。
(6) 無効審判 ア 甲特許権 被告は、甲-1発明及び甲-2発明について、平成13年10月11日、無効審判(無効2001-35444号)を請求し、特許庁審判官は、平成14年4月30日、甲-1発明及び甲-2発明について特許を無効とする旨の審決(乙第22号証)を行った。原告は、この審決について審決取消訴訟を提起し(平成14年(行ケ)第293号)、東京高等裁判所は、平成15年9月25日、上記審決を取り消す旨の判決(乙第30号証)を言い渡した。特許庁審判官は、平成16年7月21日、無効審判の請求は成り立たない旨の審決を行った(弁論の全趣旨)。
イ 乙特許権 被告は、乙明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明について無効審判(無効2001-35445号)を請求し、特許庁審判官は、
平成14年4月9日、無効審判の請求は成り立たない旨の審決(甲第38号証)を行った。
被告は、乙発明について無効審判(無効2002-35148号)を請求し、特許庁審判官は、平成14年10月8日、無効審判の請求は成り立たない旨の審決(甲第49号証)を行った。被告は、この審決について審決取消訴訟を提起し(平成14年(行ケ)第579号)、東京高等裁判所は、平成16年7月29日、請求棄却の判決を言い渡した。
3 争点 (1) 構成(h)の特定 (2) 甲特許権の侵害 ア I2000 /I 500 は、インピーダンス値の比といえるか。
イ 根尖位置の測定に果たす構成(d)の式の第1項(K4I500)と第2項(K5G)の役割 ウ ロ号製品は、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する装置か。
エ 甲発明の構成要件充足性 (3) 乙特許権の侵害 ア 構成(g)による構成要件Iの充足性 イ 構成(h)による構成要件Jの充足性 ウ 乙発明の構成要件充足性 (4) 甲特許の無効 (5) 乙特許の無効 (6) 補償金額、損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成(h)の特定) (1) 原告の主張 構成(h)は、「メータ駆動回路10は、表示メータ11を出力電圧X2に応じて駆動するように、調整する。」(前記第2、2(4)(h))とすべきである。
(2) 被告の主張 ア ロ号製品の検出原理を特定することは、甲-1発明の構成要件Dの「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という検出原理と対比し、ロ号製品が甲-1発明の技術的範囲に属するか否かを判断するために必要不可欠である。
ロ号製品は、表示メータがAPEX値を指したことを検知して根尖位置を検出する装置であり、表示メータの指示値が変化することを検知して根尖位置を検出することはできない。原告は、ロ号製品について、表示メータが所定値を示すことを検知して測定電極の先端が根尖に達したことを検出する装置であることを既に認めている。
したがって、構成(h)は、ロ号製品の表示メータの実際の駆動態様に合わせて、「メータ駆動回路10でこの出力電圧X2を電流に変換し、かつ根尖位置を表示するメータに適した駆動電流に調整し、表示メータ11に出力して表示メータ11を出力電圧X2に応じて駆動している。表示メータが所定値を示すことによって、測定電極の先端が根尖に達したことを検出する。」とすべきである。
イ 原告主張の構成(h)の特定は、ロ号製品の表示メータの実際の駆動態様を抽象化しているから、表示メータ11が電圧駆動であって、メータ駆動回路10が出力電圧X2をメータに適した電圧値に調整しているような誤解を生む。
2 争点(2)ア(I2000/I500とインピーダンス比) (1) 原告の主張 ア(ア) 甲明細書の「従来の技術」の項中の記載(甲公報2欄3行ないし9行)、及び「発明が解決しようとする課題」の項中の記載(同3欄21行ないし4欄6行)には、根管内インピーダンスを、インピーダンスに対応した検出電圧で代用することが開示されている。
(イ) 甲明細書は、原理説明において、「根管の等価回路に印加される電圧をVtとし、負荷電流をiとすると・・・を含んでいるため根管内の環境によりVtの値が変動し、このままでは検出値として使用できない」(甲公報4欄38行ないし5欄4行)と説明した上で、「ここで、前述の公報記載の後者において採用している2種類の異なる周波数信号に対応したインピーダンス値の差分を検出する方式は、上記の@式のVtを異なる周波数において求め、その差を計算していることになる。」(同6欄4行ないし7行)としており、この記載によれば、インピーダンス値とVtが対応しているものと理解できる。
さらに、甲明細書には、次のように記載されている。
「これに対して、この発明では2種類の周波数におけるインピーダンス値の比を求め、次の式Cによってkの影響を少なくしているのである。すなわち、
比=(1+1/k+ωC0R)/(1+1/k+5ωC 0R) ={1+ωC0R/(1+1/k)}/ {1+5ωC0R/(1+1/k)}・・・C ただし k=1〜10 であり、この式は、1/kの変化の影響が比をとるための割算処理によって小さくなり、根ごとのキャリブレーションが不要になることを示しているのである。」(同6欄下から4行ないし7欄5行) この記載によれば、「インピーダンス値の比を求め」としているが、
甲明細書記載の@式がVtを表しており、甲明細書記載のA式が角周波数ωと5ωの時のVtの差分を表しているのであるから、当業者にとっても、また文理上からも、C式が角周波数ωと5ωの時のVtの商を表すものであることが明らかである。よって、Vtはインピーダンス値に対応するものであることが理解できる。
したがって、インピーダンス測定を行うために、インピーダンスに対応する電圧を測定し、「2種類の周波数におけるインピーダンス値の比」に代え、
「2種類の周波数における電圧の比」を使うことは、当業者にとって明らかである。
(ウ) 甲発明は、甲明細書をそのまま翻訳した明細書により、米国及びドイツにおいて特許として登録されており、甲発明は、これらの国の当業者によっても、インピーダンス測定を行うためにインピーダンスに対応する電圧を使用するものと理解されている。
イ 従来から実用に供されてきた多くの根尖位置検出器は、根管内インピーダンスに対応する電圧値又は電流値を検出するタイプである。また、エンドドンティックメーターがインピーダンスを測定する原理に基づいていること、インピーダンスの測定法として、実際には、一定の周波数の交流を既知の抵抗を通して印加し、そのとき流れる電流の値を測定することによって行っていることは周知である。
ウ(ア) 被告が米国厚生省食品医薬品局(Food and Drug Administration, U.S.Department of Health and Human Services。 以下「FDA」という。)へ提出した製品概要書(甲第14号証の1)には、ロ号製品は2種類の周波数でのインピーダンス比較を行うと記載されており、このことから、被告は、ロ号製品において電流の値を測定することをもってインピーダンスによる測定と認識していたといえる。
被告は、原告から上記の指摘を受けた後、FDAに対し、上記製品概要書中の「2種類の周波数でのインピーダンス値の比較」という記載を「2種類の周波数での電流の測定」と修正する旨届け出た。しかし、このような修正は単なる届出事項であり、このような修正を行ったとしても、被告がロ号装置について「2種類の周波数でのインピーダンス値の比較」と認識していたことは明らかである。
(イ) 被告とFDAとの間でロ号製品の米国内での販売認可に関してやり取りされた書類には、ロ号製品の検出原理がインピーダンス値の比であることが明らかにされており、FDAは、ロ号製品が、甲-1発明の実施品で、既に米国で認可されていた原告の製品「ルートZX」と本質的に同じであると判断し、そのような判断を理由にロ号製品の販売を認可した。
エ 被告は、ロ号製品の取扱説明書(甲第11号証の1)に、ロ号装置の測定原理について、「・・・『ジャスティU』は、・・・『相対値』法と呼ばれる新しい根管長測定器です。・・・新しく・・・『ジャスティU』に採用した方法は『2WAY周波数LOG演算』という相対値方式で500Hzと2000Hzの二つの周波数を交互に用いて根管のインピーダンスをそれぞれ測定しこれらの測定値をLOG演算してある値を根尖の位置として規定します。2つの周波数がそれぞれ測定誤差を含んでいたとしてもインピーダンスの演算値で根尖表示するため測定誤差は共通項として消去され無視する事ができるため、根管内に血液、電導性の薬液があっても測定できます。」と記載している。
被告は、原告が被告に対して警告書を送付した後の平成10年7月ごろから、上記の記載を含む測定原理の記載を削除した取扱説明書を使用している。しかし、被告が、最初の取扱説明書を作成した時点で、ジャスティUが相対値法を採用し、インピーダンスを測定し、インピーダンスの演算値で根尖を表示するものであると認識し、ユーザーに説明していたことは明らかである。
オ ロ号製品の先行品であるジャスティーが二つの周波数でインピーダンス値の比を測定する方式を採用していたことは、文献に記載されており、ロ号装置が同様の方式を採用していることは、学会を含め、当業者の間では共通の認識事項であった。
カ 甲特許の審決取消訴訟(平成14年(行ケ)第293号)の判決は、甲発明におけるインピーダンス値の比の変化とは、従来技術におけると同様に電圧値の比の変化の意味に解釈すべきものであるとしている。
キ 以上によれば、ロ号装置においては、電流測定を行っているが、その電流測定値は、甲-1発明のインピーダンス値に対応するものであり、I2000 /I 500 は、電流測定値の比、換言すればインピーダンス値の比であることは明らかである。
(2) 被告の主張 ア 構成(d)の演算式(2)の第2項の対数演算中の式は「K6(I 2000-I 500 )/I 500 +1」であるが、この式は、二つの測定電流I 2000 とI 500のみを使用した演算であり、電圧V/電流Iを算出していないから、第2項の式も、根管内インピーダンス値を算出するものではなく、また、その比でもない。
イ 原告は、「根管内インピーダンス値の比」を「インピーダンス応答値の比」を意味するものであると主張する。しかし、このように定義することは、甲明細書及び甲図面には記載されていない。そもそも、インピーダンスとは、「JIS工業用語大辞典第2版」(財団法人日本規格協会編、1987年(昭和62年)11月10日発行、乙第1号証)に記載されているように、学術用語として「回路の端子電圧を、そこを流れる電流で除して得られる値」として一義的に定義された用語であるから、「根管内インピーダンス値の比」は、「根管内のインピーダンスの値の比」を意味するものであり、「根管内インピーダンス応答値の比」を意味するものではない。甲特許の無効審判請求事件(無効2001-35444号)の審決も、「根管内電圧値の比は、あくまでも、根管内インピーダンス値の比とは異なる概念であることは明らかである。」としている。
ウ したがって、ロ号製品は、インピーダンスの変化から根尖位置を検出する装置に該当しないから、構成要件Aを充足せず、根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段を備えるものではなから、構成要件Cを充足せず、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知するものではないから、構成要件Dを充足しない。
3 争点(2)イ(根尖位置の測定に果たす第1項と第2項の役割) (1) 原告の主張 ア エンドドンティックメーターのような1周波数を使用する従前の電気的根管長測定器は、根管内に導電性のある液体が存在する湿潤状態では測定が不可能であり、根管を乾燥させて測定する方がよいことは、当業者に周知の技術的事項であった。一方、ロ号製品の取扱説明書には、測定に際して「根管内に『ヒポクロリット』液などの電気を通す薬液、又は生理食塩水を少量注入します。」とされ、高い導電性を有する液が根管内に存在、残留している状態で測定するように指定されている。ロ号製品は、湿潤状態で使用するのであるから、乾燥状態での使用を予定したエンドドンティックメーターのような従前の電気的根管長測定器と同一の測定原理を用いる構成(d)の演算式(2)の第1項(K4I 500 )では、原理的に測定が不可能である。
イ 原告は、実際に歯牙を用いて測定したAPEX値を使用して最小二乗法によりK4、K 5の値を求め、構成(d)の(1)式について、X=1.11I 500 +1.63Gの算式を求めた。そして、この式に基づいて、第1項(1.11I500 )の電圧、第2項(1.63G)の電圧、及び第1項の電圧と第2項の電圧を加算した後の加算後電圧Xの変化をグラフ等にした。その結果、第1項は、第2項と比べて、絶対値として小さく、変化の度合いも小さかった。これに対し、第2項は、第1項と比べて、絶対値として数倍大きく、急激に増加しており、変化の度合いも著しく大きいことが明らかであった。
ウ 被告は、ロ号装置が歯牙の根尖位置を検出したときに、測定電極と根尖位置との間に実際に存在する誤差は、根尖の手前0.4mmから1.5mmであるが、この誤差は、根尖位置の検出原理の判断を左右するものではないと主張する。
しかるところ、実際に歯牙を用いて測定した数値を基にグラフを作成すると、第2項K5Gの値が、根尖位置を検出したとする電圧値(APEX電圧)に達したとき、測定電極の位置は、根尖から0.1mmないし1.3mmの範囲に収まっており、専ら第2項K5Gの値の変化により根尖位置の検出が可能であることは明らかである。
エ 第2項は、第1項より数値として大きく、加算後電圧Xの変化は、専ら第2項の変化に依存しており、その変化に第1項は寄与していないから、根尖位置を検出するために第2項が主として使用されているというべきであり、第2項が修正用の補正項であるということはできない。
オ ロ号製品には折線近似回路があるが、根尖位置検出を第1項で行うのであれば、同回路は不要であり、同回路が存在するのは、第2項が主だからである。
カ 被告は、第1項K4I 500 はエンドドンティックメーターSUの測定電流そのものであると主張する。エンドドンティックメーターSUの根尖検出原理は、根尖位置の電気抵抗値が、年齢、歯種による差がなくほぼ一定の値(6.5kΩ)を取る点にあり、このような根尖検出原理に基づく根管長測定器は、測定対象として6kΩの抵抗を測定端子に接続すると、表示メーターの指針はAPEX位置を表示する。エンドドンティックメーターSUに6kΩの抵抗を接続すると表示メーターの指針はAPEX位置を表示したのに対し、3台のロ号製品に6kΩの抵抗を接続したところ、表示メーターの指針は全く振れず、第1項による根尖位置検出原理では、根尖位置を検出することはできなかった。
(2) 被告の主張 ア 加算後電圧Xにおけるその第1項(K4I 500 )と第2項(K 5G)は、
根尖近傍でも大小の差はなく、その差は無視し得る程度である。第1項は根尖位置を検出するための信号値であり、第2項は、第1項を補正する補正項である。
イ 第1項による測定は、従前のエンドドンティックメーターと同様、1周波数を使用して、メーター値が一定値を指すことにより、リーマが根尖位置に達したことを検知するという測定原理によるものである。しかし、根管内の電解液等による湿潤の程度や測定対象の歯牙の相違等によって、メーターの値が一定値(APEX)を指した時とリーマが根尖位置に達した時とが必ずしも一致しないという誤差が生ずる。第2項は、第1項による測定のこのような誤差を補正するものである。
ウ K4、K 5は、四つの歯牙についてのAPEX時の測定値をX=K 4I 500+K 5Gに代入して得られた四つの式を組み合わせて連立方程式により求めることができ、K4=1.11、K 5=1.5である。
エ Gの値は根尖位置に近づくに従って上昇していくが、根尖付近での変化に特異性はみられず、第2項の変化はGの変化と基本的に一致するから、第2項の変化から根尖位置を検出することはできない。また、第2項のGの値は大きなばらつきがあるから、第2項が所定の値に達したことを検知して根尖位置を検出することはできない。したがって、第2項は、それ自体で根尖位置を検出することはできず、根尖位置検出信号ではない。
4 争点(2)ウ(ロ号製品は、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する装置か) (1) 原告の主張 ア ロ号製品は、インピーダンス値の比を表す演算式の第2項K5Gの値が根尖に近づくにつれて大きくなることによって根尖位置を検出しているから、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出している。
イ ロ号製品は、取扱説明書により、根管内が湿潤状態で使用するように指定されているから、乾燥状態での使用を予定したエンドドンティックメーターのような従前の電気的根管長測定器と同一の測定原理を用いる第1項(K4I 500 )は、原理的に根管長測定機能を有さず、第2項により根尖位置が検出される。
ウ 被告は、甲発明は、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する原理(以下「変化による検出原理」という。)であり、インピーダンス値の比が所定値になることを検知して根尖位置を検出する原理(以下「所定値による検出原理」という。)ではないのに対し、ロ号製品は「所定値による検出原理」の根尖位置検出装置であるから、ロ号製品は甲発明の技術的範囲に属さないと主張する。
しかし、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」という検出原理の分類は、被告が創作したものである。甲明細書、当業者の技術常識、従前の根管長測定器に関する特許公報の記載のいずれからしても、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する原理と、インピーダンス値の比が所定値になることを検知して根尖位置を検出する原理は、同じ意味のことを別の言葉で表現しているとしか解されず、検出原理が相違するということは、ロ号製品が甲発明の技術的範囲に属さないとする理由とはならない。
エ 甲特許の無効審判請求事件(無効2001-35444号)の審判事件答弁書の記載は、単に比が特定の値になった時に根尖位置とすることを甲発明の本旨とするものではなく、むしろ、相対比検出手段により算出した根管内インピーダンス値の比が根尖付近で変化することを検知して、すなわち表示メーターの指針が根尖付近で大きく振れて最終的にAPEX位置を表示するのを予測して根尖位置を検出することが甲発明の特徴であることを説明したにすぎない。したがって、審判事件答弁書の記載をもって、原告が、被告のいう「所定値による検出原理」を甲発明から意識的に除外したということはできない。
(2) 被告の主張 ア 「変化」という用語の意味からして、構成要件Dの「インピーダンス値の比の変化」とは、インピーダンス値の比がある値から他の値に変わることであり、インピーダンス値の比が所定値になることではない。したがって、甲発明は、
構成要件Dが規定するとおり、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する検出原理(「変化による検出原理」)による根尖位置検出装置であり、インピーダンス値の比が所定値になることを検知して根尖位置を検出する検出原理(「所定値による検出原理」)によるものではない。
原告は、甲発明の無効審判請求事件(無効2001-35444号)の審判事件答弁書(乙第23号証)において、「しかしながら、本件特許は、根尖付近では根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置に達したことを検出するものであり、比が特定の値になった時に根尖位置とするものではない。」と答弁し、原告は、これにより、甲発明から「所定値による検出原理」を意識的に除外した。
イ(ア) ロ号製品の取扱説明書(甲第11号証の2)には、ロ号製品による根尖位置の測定について、「メータのAPEX表示は解剖学的根尖を示していますのでアピカルシートの形成は少なくとも0.5から1.0の値で行ってください。
症例の個体差がありますので注意が必要です。」と記載されており、施術者は、この説明に従って解剖学的根尖位置等を検出している。この取扱説明書の記載によれば、解剖学的根尖位置は、メータのAPEX値で検出することが明らかである。
(イ) ロ号製品には、メーターに「APEX」が表記されている。
(ウ) 抜歯牙の根管内にリーマを挿入した場合の根尖位置からリーマの先端までの距離とロ号製品のメーター指示値を測定した結果(乙第6号証)によれば、根管内に挿入したリーマが根尖位置0mmに達した際に、表示メーターはAPEX(表示メータ上の所定値)を指示している。
(エ) 10の歯牙を実験して得られた補正後データ(ロ号図面のメータ回路10から得られる表示メータを駆動するための出力電圧)の推移を示したグラフ(乙第37号証)によると、ロ号製品のメーターがAPEXを指したときのリーマの先端の位置は、根尖手前0.4mmから1.5mmの間にある。0.4mmないし1.5mmの誤差は、根尖位置の検出の判断を左右するものではないから、ロ号製品は、メーターがAPEXを指したときに根尖位置を検出する装置である。
(オ) 原告は、「特に臨床上重要な根尖近傍を示すメータ値1からAPEX(根尖)の部分では」と主張しており、APEX(表示メータ上の所定値)が根尖を表示することを認めている。
(カ) 「最近の電気的根管長測定器」(小林千尋、須田英明著、the Quintessence Vol.14,No.11、1995年(平成7年)発行、乙第38号証)には「ジャスティが0.5のメータ値を示す位置は、図7に示した位置で、根尖狭窄部よりはやや根尖側である。」と記載され、図7には、その位置がBと記載されている。この記載は、ロ号製品と同様の測定原理によるジャスティが、メータ値0.5により根尖付近の根尖狭窄部Bを検知することが説明されている。
(キ) 上記(ア)ないし(カ)によれば、ロ号製品は、「所定値による検出原理」に基づく根尖位置測定装置である。
5 争点(2)エ(甲発明の構成要件充足性) (1) 原告の主張 これまで述べたとおり、I2000 /I 500 は、甲-1発明における「インピーダンス値の比」に該当し、加算後電圧Xの算出において、第1項よりも第2項の方が大きく寄与しており、第2項には、I2000 /I 500 の値が用いられている。したがって、ロ号製品は、インピーダンス値の変化から根尖位置を検出する装置に該当するから構成要件Aを充足し、根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段を備えるから構成要件Cを充足する。また、ロ号製品は、甲-1発明の構成要件Dの「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という文言を充足する。
さらに、前記第2、2(5)ア、イ記載のとおり、構成(b)が構成要件Bを充足し、構成(i)が構成要件Eを充足し、ロ号製品の構成が構成要件Fを充足することは、当事者間に争いがない。
したがって、ロ号製品は甲-1発明及び甲-2発明の構成要件を充足する。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
6 争点(3)ア(構成(g)による構成要件Iの充足性)について (1) 原告の主張 ア(ア) 乙明細書の記載(乙公報3欄22行ないし25行、5欄24行ないし28行)によれば、乙発明の技術的意義は、従来の根管長測定器において、測定電極の先端が根尖に近くなると、測定電極の移動距離に比して測定データ及び表示値が急激に変化し、施術者の手指感覚と一致せず使いづらかったところ、乙発明は、補正後データが測定電極と根尖の間の距離に応じてリニア又はほぼリニアになるようにし、使い易くしたという点にある。
(イ) 乙明細書の記載(乙公報5欄29行ないし35行)によれば、補正後データを乙図面第2図中のC線のように途中で勾配が変化する折線にした場合、
施術者に対して屈曲点の前後で根尖に近づいたことの注意を喚起することができ、
また、屈曲点の後の増加割合は補正前の測定データの変化割合より緩やかであるので、施術者が使いにくくなるという弊害は生じない。さらに、測定電極2の動きやその位置を拡大して表示する効果も新たに得られる。したがって、C線、D線はリニア又はほぼリニアに変化する実施例に該当する。
(ウ) 乙明細書の記載(乙公報3欄15行ないし31行)によれば、従来技術の表示値は、測定電極の先端が根尖位置に1mm前後に近づいてから急激に大きくなる。また、乙明細書の記載(乙公報6欄21行ないし24行)によれば、乙発明の作用効果は、根尖付近で急激に変化するという測定原理に起因する表示値の急変がなくなることである。これらの乙明細書の記載からすると、データ処理手段の処理範囲は、根尖付近で急激に変化する測定原理に起因する表示値の急変がなくなるようにする領域を含む範囲といえる。測定データを補正する具体的な範囲は、
使い勝手や施術の効率等により決められる設計事項である。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば、構成要件Iの「データ処理手段」とは、測定電極の先端位置が根尖に至るまでに生じる測定データの急激な変化をリニア又はほぼリニアに変化するようなデータに変換する手段と解釈できる。
また、構成要件Iの「リニア又はほぼリニアに変化するデータ」とは、施術者が施術するに当たり、測定データを施術し易い程度に変化させ、理想的にはリニアに変化するようなデータと理解される。
さらに、個々の歯牙の特性が異なることを勘案すると、リニア又はほぼリニアに変換する範囲は、測定データが急激に変化するため施術者が困難を感じる範囲であって、測定データをリニア又はほぼリニアに変換すると施術し易くなる範囲を含み、それは、換言すれば、臨床上重要な根尖近傍を含む。
イ(ア) ロ号製品により種々の歯牙について測定データ(折線近似回路への入力電圧CH7)と補正後データ(折線近似回路からの出力電圧(表示メータの駆動電圧))の測定を行った測定結果のグラフ(甲第50号証の1ないし6、甲第62号証の1ないし120)によると、歯牙は、測定データの電圧値が根尖に向かうにつれて徐々に立ち上がり、根尖付近で急激に変化するα型と、測定データの電圧値が左端から所定の電圧でほぼ水平状に推移し、根尖に至る途中から急激に立ち上がるβ型に分類される。α型の補正後データの変化は乙図面第2図のB線に当たり、β型の補正後データは、測定データが急激に大きくなるデータ部分について、
リニア又はほぼリニアに変化する。したがって、ロ号製品は、歯牙によって、範囲、大きさ、傾きは異なるが、データ検出手段で得られる測定データを、測定データが根尖に近づくにつれて急激に大きくなる部分においてリニア又はほぼリニアな補正後データに処理するデータ処理特性を有する。
(イ) ロ号製品の構成(g)の折線近似回路19は、乙第11号証に記載されている「ダイオード折線近似回路」と同様の回路であり、根尖から遠く離れている所(入力の小さい範囲)では出力を大きくし、根尖に近づくにつれて(出力が大きくなるにつれて)出力を小さくする変換特性を有しており、ロ号製品のカタログ(甲第52号証の1、2)にも「(根尖部の拡大率を約70%縮小/従来品ジャスティ比較)」と記載されていることから、根尖近傍での傾斜を抑える回路である。
(ウ) ロ号製品のカタログ(甲第52号証の1、2)には、「ドクターの『手指感覚』をそのまま表示。」、「『ジャスティ2』は挿入したインスツルメントの動きとメータの動きが一致。」、「手に合った自然な針の動きが得られるため、どなたにも違和感なくご使用いただけます。」と記載されている。
(エ) 以上によれば、ロ号製品の構成(g)の折線近似回路19は、具体的測定結果から判明したデータ特性からしても、また回路構成からしても、データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じて略リニアに変化するデータとなるように処理しており、構成要件Iの「データ処理手段」に当たる。
ウ したがって、構成(g)は構成要件Iを充足する。
(2) 被告の主張 ア(ア) 原告の主張は争う。構成要件Iの「データ処理手段」が処理の対象とする「測定データ」は、構成要件Hによれば、「根管内に挿入されている測定電極の先端位置に対応した測定データ」である。
(イ) 根管内に測定電極の先端を挿入して得る測定データは、根管口に余りに近い位置では得にくいが、根管口からある程度の距離の位置から得ることができ、ロ号製品については、少なくとも根尖位置から9mm手前の位置から測定データを得ている。
(ウ) 乙明細書には「そこで、測定電極2が歯牙1の根管1aに挿入され、その挿入量に応じて電極2の先端2aと根尖1b間の距離に対応した測定データが・・・出力されると、・・・この各測定データの値に応じて・・・加算し、その結果得られた補正後データによって表示部6を作動させるのである。」(乙公報5欄12行ないし17行)と記載されており、ここにいう「挿入量に応じて」とは、測定電極が根管に挿入される量であり、根管内で特別に限定された範囲での挿入量ではないから、この乙明細書の記載は、測定電極の根管への挿入開始からの挿入量に応じて測定データを補正することを説明している。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)と、乙発明の特許請求の範囲に、処理の対象とする測定データの範囲を特別な範囲に限定する記載がないことからすると、処理の対象とする測定データは、根尖付近等に特別に限定された範囲の測定データではなく、根管内に挿入した測定電極の先端により測定可能な全範囲のデータ、すなわち測定領域全体にわたるデータである。
(オ) 乙明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明についての無効審判請求事件(無効2001-35445号)の審決(甲第38号証)は、「甲第8号証に示される『エンドドンティックメーターSU』の指示値特性は、根管長の部分的な範囲において、ほぼリニアに変化していると見られないこともないが、全体として、リニアまたはほぼリニアに変化するものとは認め難く」と述べ、リニア又はほぼリニアに変化するように処理された測定データは、特別に限定された範囲ではなく、「根管長の部分的な範囲ではなく、全体」であると認定しており、このことからも、補正が行われる部分が、施術者が実質的に参照する部分のみではなく、測定範囲全体にわたる範囲であることが明らかである。
イ(ア) 構成要件Iの「リニアまたはほぼリニアに変化するデータ」という構成については、乙明細書には、定義や明文の説明はない。
「リニア」とは、一般に、「線形すなわち直線的な比例関係」(工業教育研究会編「機械用語図解辞典」第2版、乙第15号証)と説明されており、乙明細書及び乙図面(乙公報第2図)には、「変化するデータ」として、根尖位置に近づくに従って増加していくデータが説明されているから、「リニアに変化するデータ」とは、直線的な比例関係に増加していくデータのことと解釈される。また、
「ほぼ」とは、おおかた、およそという意味であるから、「ほぼリニア」とは、厳密にはリニアでないがリニアに近い関係、すなわちほぼ直線的な比例関係と解するのが相当であり、「ほぼリニアに変化するデータ」とは、ほぼ直線的な比例関係を持って増加していくデータのことと解釈される。
しかし、このような文言解釈によっても、「ほぼ直線的な比例関係」がどのような態様の比例関係であるのかは、明確ではない。
(イ) 原告は、補正前のデータはほぼリニアでなく、補正後のデータはリニアであると主張する。
しかし、被告作成のグラフ(乙第24号証)によれば、補正前のデータと補正後のデータは極めて類似した曲線であり、どのような変化の違いをもって、一方を「ほぼリニア」でないとし、他方を「ほぼリニア」であるとしているのか、その基準が明確ではない。「ほぼリニア」であるとする外延を規定する基準は、乙明細書及び乙図面には示されておらず、原告の主張によっても明らかでない。
「リニアまたはほぼリニアに変化するデータ」をもって、「施術者が施術しやすい程度に測定データを変化させ、理想的にはリニアに変化させるようなデータ」とすることは、乙明細書及び乙図面に記載も示唆もされていない。
(ウ) 上記(ア)、(イ)によれば、乙発明の構成要件Iの「リニアまたはほぼリニアに変化するデータ」の外延、すなわち技術的範囲は全く不明であり、このように技術的範囲が不明確な状況の下において、ロ号製品が乙発明の技術的範囲に属すると判断することはできない。
ウ(ア) 乙発明の技術的範囲が不明確な状況の下においては、ロ号製品の乙発明の技術的範囲への属否を判断するに当たり、乙発明の技術的範囲実施例に限定して解釈することもやむを得ない。
(イ) 乙明細書の「実施例」の項には、乙図面第2図のB線に関して、
「補正後データが根尖1bまでの距離に応じて図B線のようにほぼリニアに変化するものとなる」(乙公報5欄20行ないし21行)と記載され、第2図のB線をほぼリニアに変化するデータとしている。乙図面第2図には、補正後データを示す複数の○がプロットされ、これらの○は千鳥足状に変化しながら測定領域全体にわたって増加しており、B線は、複数の○が描く曲線を近似した直線で表示したものであると解される。
(ウ) 前記イ(ア)の文言解釈と上記(イ)の乙明細書及び乙図面の記載からすると、構成要件Iの「リニアに変化するデータ」とは、複数の補正後データの指示特性が測定領域全体にわたって、横軸の距離に対して厳密な意味で直線的な関係で増加していくデータを意味し、「ほぼリニアに変化するデータ」とは、複数の補正後データ自体は直線的ではなく(例えば千鳥足状に)上昇していくものの、全体的にみれば、測定領域全体にわたって横軸の距離に対してほぼ直線的な比例関係で増加していくデータを意味すると解される。乙図面第2図のC線、D線は、このような変化とは別異の変化をしているから、「ほぼリニアに変化するデータ」に該当すると解することはできない。
(エ) 原告は、ロ号製品による種々の歯牙の測定結果のグラフ(甲第62号証の1ないし120)により、歯牙をα型とβ型に分類し、α型の補正後データは乙図面第2図のB線であるとする。原告は、乙図面第2図のC線、D線をリニア又はほぼリニアに変化する実施例に該当するとするから、原告の主張によれば、C線、D線は、β型の補正後データの出力に相当すると推測される。
乙第37号証は、甲第62号証の1ないし10の補正後データのグラフを1枚のグラフに示したものであり、横軸は測定電極の先端の位置を根尖からの距離で示し、縦軸は折線近似回路からの出力電圧を示しているが、いずれの曲線も異なる軌跡をたどっており、ロ号製品においては、歯牙が異なると補正後データが変わり、測定電極先端の位置と表示値の相関がなく、根尖に達するまでの概略距離を逆算できないことが分かる。
したがって、C線、D線と推測されるβ型歯牙の補正後データにおいて、測定電極先端の位置と表示値とは相関がなく、根尖に達するまでの概略距離を逆算することはできないから、「ファイルなどの測定電極先端の位置と表示値との相関が明瞭になる」、「根尖に達するまでの概略距離を逆算することも容易となる」という乙発明の効果を奏しない。したがって、C線、D線及びβ型歯牙の補正後データは乙発明の効果を奏さず、「リニアまたはほぼリニアに変化するデータ」には該当しない。
7 争点(3)イ(構成(h)による構成要件Jの充足性) (1) 原告の主張 前記6(1)記載のとおり、ロ号製品の構成(g)の折線近似回路19は、構成要件Iの「データ処理手段」に該当し、構成(h)の「出力電圧X2」は、構成要件Jの「上記データ処理手段で得られた補正後データ」に該当するから、構成(h)は構成要件Jを充足する。
(2) 被告の主張 ロ号製品の構成(g)の折線近似回路19は、構成要件Iの「データ処理手段」に該当せず、構成(h)の「出力電圧X2」は、構成要件Jの「上記データ処理手段で得られた補正後データ」に該当しないから、構成(h)は構成要件Jを充足しない。
8 争点(3)ウ(乙発明の構成要件充足性)) (1) 原告の主張 前記6(1)記載のとおり、構成(g)は構成要件Iを充足し、前記7(1)記載のとおり、構成(h)は構成要件Jを充足する。
また、前記第2、2(5)ウ記載のとおり、ロ号製品が構成要件Hを充足すること、構成(i)が構成要件Kを充足することは、当事者間に争いがない。
したがって、ロ号製品は乙発明の構成要件を充足する。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
9 争点(4)(甲特許の無効) (1) 被告の主張 ア 構成要件C (ア) 甲明細書の発明の詳細な説明において、構成要件Cの「相対比検出手段」に関する説明は、次のとおりである。
a 「上述の目的を達成するために、この発明では、・・・各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段とを備えており、測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し、上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出するようにしている。」(甲公報4欄8ないし15行) b 「これに対して、この発明では2種類の周波数におけるインピーダンス値の比を求め、次の式Cによってkの影響を少なくしているのである。すなわち、
比=(1+1/k+ωC0R)/(1+1/k+5ωC 0R) ={1+ωC0R/(1+1/k)}/ {1+5ωC0R/(1+1/k)}・・・C ただし k=1〜10 であり、この式は、1/kの変化の影響が比をとるための割算処理によって小さくなり、根ごとのキャリブレーションが不要になることを示しているのである。」(同6欄下から4行ないし7欄21行) c 「負荷電流は抵抗5によって電圧の形で検出され、これを波形整形回路16で整流して波形を整えた後、A-D変換器17でディジタルデータに変換される。演算回路18はこのデータをラッチしながら周波数fの測定信号によるデータと周波数5fの測定信号によるデータとの比を逐次演算するように構成されており、演算結果は表示部19に送られる。表示部19には指針式メータや信号音または断続音発生器、断続発光器などの適宜のものが使用される。」(同7欄39行ないし47行) (イ) 甲明細書の上記(ア)aの記載は、構成要件Cに準じた文章であり、
相対比検出手段を当業者が容易に実施することができる程度に説明するものではない。
(ウ)a 甲明細書の上記(ア)bの式Cを用いた説明は、相対比検出手段が行う「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を求める」ことを説明しようとしたものとみられる。しかし、式Cは、甲明細書に記載された式@により計算されるところの、根管の等価回路に印加される電圧Vtに基づいて、その比を求める式であり、インピーダンス値の比を求める式ではない。
根管内インピーダンス値は、測定電極2と口腔電極3の間の電圧値を、測定電極2と口腔電極3の間の電流値で除することにより求められ、甲明細書において、「測定電極2と口腔電極3の間の電圧値」はVt、「測定電極2と口腔電極3の間の電流値」はiとして記載され、Vtとiとの関係はi=Vt・(1/kR+ωC0)であると説明されているから、根管内インピーダンス値は、Vt/i=1/(1/kR+ωC0)となる。したがって、甲図面第1図の測定電圧発生回路4より角周波数ω、5ωの2種類の測定電圧を発生させた時の根管内インピーダンス値の比は次の式で求められる。
根管内インピーダンス値の比=角周波数5ω時の根管内インピーダンス/角周波数ω時の根管内インピーダンス ={1/(1/kR+5ωC0)}/{1/(1/kR+ωC 0)} =(1/kR+ωC0)/(1/kR+5ωC 0) 式Cを上記式と比較すると、分母、分子とも異なっており、式Cは根管内インピーダンスを求める式ではない。式Cは、甲図面第1図の測定電極2と口腔電極3の間の電圧値Vtの比を求める式であることが明らかであり、インピーダンスを求める式ではない。
したがって、式Cを用いた前記(ア)bの甲明細書の記載は、構成要件Cの「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を計算する相対比検出手段」を説明するものではない。
b 甲明細書に記載された根管の等価回路の式i=Vt・(1/kR+ωC0)(甲公報4欄40行)は誤っているから、この式を使用する式Cを用いた前記(ア)bの甲明細書の記載は、甲-1発明の「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を計算する相対比検出手段」を説明するものではない。
c 甲明細書の式@を導き出す過程(5欄1行ないし3行)には誤りがあり、式Cは、式@を使用するから、式Cも誤りであり、式Cを用いた前記(ア)bの甲明細書の記載は、構成要件Cの「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を計算する相対比検出手段」を説明するものではない。
(エ) 甲明細書の前記(ア)cの記載中の「周波数fの測定信号によるデータと周波数5fの測定信号によるデータ」は、甲図面第3図の回路図と、甲明細書の前記(ア)cの記載中の「負荷電流は抵抗5によって電圧の形で検出され、これを波形整形回路16で整流して波形を整えた後、A-D変換器17でディジタルデータに変換される。演算回路18はこのデータを・・・」という説明からみて、電圧の形で検出された負荷電流に関するデータである。甲明細書の前記(ア)cの記載中には、「演算回路18は周波数fの測定信号によるデータと周波数5fの測定信号によるデータとの比を逐次演算する」と説明されているから、演算回路18は、負荷電流を整流し、ディジタルデータに変換されたデータの比を演算するもの、すなわち負荷電流の比を演算するものであって、インピーダンス値の比を求めるものではない。
したがって、このような演算回路18に関する甲明細書の前記(ア)cの記載は、構成要件Cの「各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段」を説明するものではない。
(オ) このように、甲明細書の発明の詳細な説明には、構成要件Cの相対比検出手段について具体的な説明がないことから、当業者が容易に実施できる程度にその発明の構成が記載されているとはいえない。
構成要件D (ア) 甲明細書の発明の詳細な説明において、構成要件Dに関する説明は、次のとおりである。
a 「測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し、上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出するようにしている。」(甲公報4欄12ないし15行) b 「例えばC式において、C=100nF、R=10kΩ、f=1kHzとしてk=1〜10を代入すると、次の表のようになる。この表に示されるように、kが変化してもその影響をほとんど受けないのであり、2種類の周波数におけるインピーダンス値の比をとることによって、根管内の状態の影響が自動的に消去され、インピーダンス値の差分を取る方式では必要であった根ごとのキャリブレーションが不要となり、根管内の状態に関係なく正確な測定が可能となるのである。
」(同7欄22行ないし8欄26行) c 「以上の構成と動作により、演算結果が表示部19で表示されることになるが、2種類の周波数fと5fによる検出値は周波数の高い方が全般に大きく、根尖付近での増加率も大きくなっており、その比は電極2の先端2aが根尖に近づくにつれて大きくなるので、例えば指針の振れによって電極2の先端2aが根尖に到達したことが表示されるのである。」(同7欄48行ないし8欄30行) d 「上記の説明から明らかなように、この発明は測定電極と口腔電極の間に周波数の異なる測定信号を印加し、各測定信号に対応して得られた根管内インピーダンス値の比を算出し、その比が変化することを検知して根尖位置を検出するようにしたものである。」(同8欄39行ないし43行) (イ) 甲明細書の上記(ア)aの記載は、構成要件Dと同じ文章であり、構成要件Dを当業者が容易に実施することができる程度に説明するものではない。
(ウ) 甲明細書の上記(ア)bには、「例えばC式において」と記載されているが、C式は、前記ア(ウ)a記載のとおり、電圧Vtの比を求める式であってインピーダンス値の比を求めるものではない。
したがって、甲明細書の上記(ア)bの記載は、インピーダンス値の比に関する構成要件Dを、当業者が容易に実施することができる程度に説明するものではない。
(エ) 構成要件Dは、測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検知するものであって、等価インピーダンス値の比が特定の値に達した時に根尖位置を検出するものではない。
一方、甲明細書の上記(ア)bの記載は、式Cにより算出された「比」の値が0.25ないし0.23という特定の値になったことを検知して根尖位置を検出するという説明であり、構成要件Dにいう根管内インピーダンス値の比の変化に基づいて根尖位置を検出することを説明するものではない。
したがって、甲明細書の上記(ア)bの記載は、「比」がどのような状態になるときに根尖位置が検出されるかについて、構成要件Dと基本的に異なる説明をしており、構成要件Dを当業者が容易に実施することができる程度に説明するものではない。
(オ) 甲明細書には、「(c)根尖部付近では、概略C=50nF、kR=6.5kΩ程度になる。以下この時のCをC0と記す。」(甲公報4欄32行ないし33行)と記載されているところ、このkRは、甲図面第1図に示された等価回路における等価抵抗である。一方、上記(ア)bの表に記載された計算は、「C=100nF、R=10kΩ、f=1kHz、k=1〜10」という条件で行っているから、この計算は、kRが10kΩないし100kΩであるという条件で行っており、これは、kR=6.5kΩ程度という条件とは相当に異なり、このような条件で計算された結果は、実際の歯科の診療、治療とはかけ離れたものである。したがって、上記(ア)bの表の計算結果からは、実際の歯科の診療、治療において「根ごとのキャリブレーションが不要となり、根管内の状態に関係なく正確な測定が可能となるのである。」ということを導き出すことはできない。
(カ) 甲明細書の上記(ア)bの記載の末尾には、「根ごとのキャリブレーションが不要となり、根管内の状態に関係なく正確な測定が可能となるのである。」と記載されているところ、ここにいう「測定」とは、根尖位置の測定であって、この記載は「根尖位置の正確な測定が可能となる」ことを説明していると解される。しかし、上記(ア)bの表には、「C=100nF、R=10kΩ、f=1kHz、k=1〜10」をC式により計算した結果は示されているが、測定電極を根管内に挿入した後、根尖位置に到達するまでに順次得られたVtを、C式に基づいて演算処理した演算結果を表示部で表示すると、どのような表示経過を経て根尖位置が正確に測定できるかということが説明されておらず、「根尖位置の正確な測定が可能となる」ということが達成される理由又は根拠が説明されていない。
(キ) 甲明細書の上記(ア)cには、「・・・その比は電極2の先端2aが根尖に近づくにつれて大きくなるので、例えば指針の振れによって電極2の先端2aが根尖に到達したことが表示されるのである。」と記載されている。
構成要件Dは、「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」とするものであるところ、上記記載は、インピーダンス値の比の大きさにより根尖位置を検出するとしているから、構成要件Dとは異なる根尖位置の検出方法を説明している。また、「比」が真に大きくなるのか、どのような態様で大きくなるのかなどが具体的に説明されていないから、上記記載は、
「比」によって電極2の先端が根尖に到達したことを表示できる理由を具体的に説明するものではない。
したがって、甲明細書の上記(ア)cの記載は、構成要件Dを当業者が容易に実施することができる程度に説明するものではない。
(ク) 甲明細書の上記(ア)dの記載は、発明の効果を説明しているにすぎず、甲-1発明がその効果を奏するための構成又はその効果を奏する理由を、当業者が容易に実施できる程度に説明するものではない。
ウ 産業上の利用 前記4(2)ア記載のとおり、原告は、甲発明の無効審判請求事件(無効2001-35444号)において、構成要件Dの「上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という検出原理は、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する原理であるとし、
根管内インピーダンス値が所定値に達したことを検知して根尖位置を検出する検出原理を甲発明から意識的に除外したから、これに反する主張は禁反言の原理に照らして許されない。
ところが、甲発明の発明者の論文(「電気的根管長測定法に関する基礎的研究」(小林千尋ほか著、日本歯科保存学雑誌34巻5号、1991年(平成3年)10月31日発行、甲第58号証)の1444頁の図2及び同頁のインピーダンスの商に関する記述によれば、根管内インピーダンス値の比を使った根尖位置検出の検出原理は、「一定値による検出原理」が正しい原理であり、甲特許発明の上記「変化による検出原理」は誤った原理であると判断せざるを得ない。
したがって、甲発明は、「@煩わしいキャリブレーションが不要であり、しかもA正確に根尖位置を検出できる根尖位置検出装置を得る」という目的を達成することができず、産業上利用することができない発明に該当する。
エ 無効理由 前記ア、イのとおり、甲明細書の発明の詳細な説明には、当業者が甲-1発明の構成要件C、Dを容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されているとはいえない。また、甲-2発明は甲-1発明を引用しているから、甲-2発明についても、当業者が容易に実施できる程度にその発明の目的、構成、効果が記載されているとはいえない。したがって、甲特許には、特許法36条3項123条1項3号(いずれも平成2年法律第30号による改正前)の無効理由が存在することが明らかである。
また、前記ウのとおり、甲発明は、産業上利用することができない発明に該当し、甲特許には、特許法29条柱書、123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由が存在することが明らかである。
したがって、甲特許権に基づく差止め、損害賠償の請求は、権利の濫用であり、許されない。
(2) 原告の主張 被告の主張は争う。
構成要件C (ア) 甲明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成が説明されている。
(イ)a 当業者にとって、「根管内インピーダンス値の比を算出する」という用語に測定のための抵抗の影響が内包されていることは明らかである。
b 等価回路は、対象物の電気的現象を所要目的の限りにおいて模擬的に表現した電気回路であるから、一つの対象物について目的に応じて複数存在し得るし、個体差のある人体について絶対的に正しい等価回路などは存在し得ない。甲明細書中の等価回路及び等価回路に基づく式も概ね正しく、甲発明の原理説明に関する限り、それらで十分であり、いずれの等価回路を用いて原理を説明しているかということは、当業者の実施可能性に影響を与えることはない。
c 等価回路中の抵抗の値と検出抵抗の値は異なるから、甲明細書においては、係数kを用いて等価回路の抵抗の値をkRとし、検出抵抗の値をRとしており、甲明細書の記載に矛盾はない。
(ウ) 被告の主張は、「根管内インピーダンス値の比を算出する」という用語についての独断的な解釈を前提とするものであり、失当である。
構成要件D (ア) 甲発明は、根尖付近でインピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置に達したことを検出するものであり、比がどのような状態になったときに根尖位置とするかは、装置の回路や構成要素などに応じて当業者が容易に設計することができ、その点について説明がないことは、甲発明の実施を妨げる要因にはならない。被告の甲特許の無効についての構成要件Dに関する主張は、いずれも、比がどのような状態になったときに根尖位置が検出されるかについて具体的記載がなければ当業者が容易に実施できないという独自の見解に基づくものであり、
失当である。
(イ) 被告が前記(1)イ(構成要件D)(ア)bで指摘する甲明細書中の記載(甲公報7欄22行ないし8欄26行)は、インピーダンス値の比を取ることによって根管内の状態の影響を受けにくくなり、従来の差分を取る場合に必要であったキャリブレーションが不要になるということを説明するものであり、そもそも比がどのような状態になるときに根尖位置が検出されるかを説明するものでないから、
被告の主張は失当である。
甲明細書中の上記記載に含まれる表は、単に原理説明の一環として、
一定の条件下でkに1から10までの値を与えた場合の計算結果を例示するものにすぎず、この表の記載内容が当業者の実施可能性に影響を与えるものではない。
甲明細書中の上記記載は、表示過程を説明したものではなく、表示過程も、当業者において容易に設計できるものである。
(ウ) 被告が前記(1)イ(ア)cで指摘する甲明細書中の記載(甲公報7欄48行ないし8欄30行)について、インピーダンス値の比が「大きくなること」は「変化すること」に含まれる概念であるから、この部分の記載は構成要件Dと齟齬することはない。具体的な比の変化態様は、当業者が容易に確認できるから、その記載がないことは、当業者による甲発明の実施を妨げることにはならない。
ウ 無効理由 被告の甲特許の無効理由に関する主張は、甲明細書の発明の詳細な説明の中の実施可能性に何ら影響を与えない部分を取り上げて特許法36条3項違反を主張するものであるか、又は特許請求の範囲の用語の解釈についての独断的主張を前提とするものであり、被告の主張はいずれも失当である。
10 争点(5)(乙特許の無効) (1) 被告の主張 ア(ア) 乙明細書(3欄15行ないし31行、4欄8行ないし11行)には、抵抗検出方式又はインピーダンスの変化を検出する方式の根管長測定器では、
測定データをそのまま表示に用いると、表示値は、測定電極の先端が根尖から離れている間は小さく、しかも余り増加しないが、1mm前後に近づいてから急激に大きくなるため、非常に使いにくく、この傾向は、特にインピーダンスの変化を検出する方式で顕著である旨説明されている。そして、乙発明は、このような問題を、
測定データが測定電極先端と根尖との間の距離に応じてリニア又はほぼリニアに変化するデータとなるように処理することで解決する旨説明されている。
一方、エンドドンティックメーターSUは、昭和61年8月1日当時、すでに公知であり、甲発明の発明者の論文(「電気的根管長測定法」小林千尋、砂田今男著、日本歯科保存学雑誌32巻3号、乙第10号証)822頁右欄34行ないし824頁左欄17行、813頁右欄9行ないし28行には、エンドドンティックメーターSUがインピーダンス値の変化を検出する根管長測定器であることが記載されている。
原告は、乙特許の無効審判請求事件(無効2001-35445号)の口頭審理において、エンドドンティックメーターSUの指示特性値がほぼリニアに変化することを認めた(同無効審判請求事件第1回口頭審理調書(乙第40号証)2頁11行ないし12行)。
(イ) 「歯科材料・器械」Vol.3、No.2(乙第18号証、313頁右欄「W.考察」1行ないし10行)に記載されているように、電気的根管長測定の分野においては、施術者の便宜を考えて、異なった機種でも同一指示値で測定できるように電気回路の設計が行われている。そして、根管長測定器で測定されたデータを従来公知のエンドドンティックメーターSUの指示態様に近似させるために「精選アナログ実用回路集」(乙第11号証)に開示された折線近似回路を採用することは、当業者が格別の発明力を要することではない。
(ウ) したがって、特公昭62-2817号特許公報(乙第5号証)記載の根管長測定装置を製造する際に折線近似回路を適用して乙発明を構成することは、特許出願前の公知の刊行物に記載された発明から容易になし得たものである。
イ(ア) エンドドンティックメーターSUの可変抵抗器VR2の抵抗値は、
実際は17.7kΩであるが、可変抵抗器VR2の抵抗値を変化させた場合における、根尖位置までの距離に対するメーター指示値(電流値)の変化を示すグラフ(乙第21号証)において、測定された生データに近いと考えられる2.57kΩのグラフと、実際のメーター表示値に近い17.7kΩのグラフを比較すると、可変抵抗器VR2が生データをほぼリニアに処理していることが分かる。
検出抵抗器VR2の抵抗値は、微弱電流の測定誤差を少なくするためにできるだけ小さいのが好ましいにもかかわらず、その抵抗値が17.7kΩと相当大きい値に設定されていることは、検出抵抗器VR2が検出抵抗としての機能のみならず、データ処理手段としての機能も有していることを示している。
(イ) 測定電流は、患者に痛みを感じさせない範囲の微弱電流にすることが必要であるところ、エンドドンティックメーターSUは、検出抵抗によってではなく、電源電圧を低下させることによってこれを達成しており、検出抵抗器VR2は、測定電流を微弱電流にするために設定されているのではない。
(ウ) 乙発明の構成要件Iは、「上記データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段」と規定しているから、「補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータ」となればよいのであって、根尖からの個々の距離での測定データと補正後データとの比がそれぞれ異なっているように補正して「補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータ」となるように処理することに限定されるものではない。
また、乙発明の構成要件Jは、「上記データ処理手段で得られた補正後データを表示する表示手段」と規定しているから、表示手段は補正後データを表示できればよいのであって、その表示が測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニア又はほぼリニアに変化することまでは要求されていない。
そうであるとすると、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニア又はほぼリニアに変化するデータとなるように処理できればデータ処理手段であるといえる。
(エ) したがって、エンドドンティックメーターSUの400Hz発振回路、及び検出抵抗器VR2のうち測定信号を検出する機能の部分は、乙発明のデータ検出手段に該当し、検出抵抗器VR2以降メーターまでの回路は表示手段に該当するから、エンドドンティックメーターSUは乙発明と同一発明である。
ウ 原告は、エンドドンティックメーターSUの指示値特性をほぼリニアに変化するデータと認めているから、エンドドンティックメーターSUには、測定電極先端と根尖間の距離に応じてほぼリニアに変化するデータとなるように処理する技術思想が示されており、このような技術思想に基づき、データを検出する機能とデータを処理する機能とを一つの手段で実現するか、各機能ごとに個別の手段で実現するかは単なる設計事項である。
したがって、当業者であれば、特許出願前に公然実施され、又は公知であったエンドドンティックメーターSUから乙発明を構成することは容易になし得た。
エ(ア) 乙明細書は、根尖に達するまでの距離と測定データとの関係が歯牙や患者が異なっても一定であるという状況を前提とし、測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニア又はほぼリニアに変化する補正後データが得られるように測定データの各値ごとに補正値を一義的に定めることができるとする。しかし、実際には、根尖に達するまでの距離と測定データとの関係は、歯牙や患者によって異なるから、乙明細書には、実際の歯牙の根管長を測定できるようにする解決手段について何も説明されていない。
したがって、乙明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。
(イ) 構成要件Iの「リニアまたはほぼリニア」の意味、又はその判断基準は、乙明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明によっても明らかでない。
乙明細書(6欄16行ないし24行)には、「この発明の根管長測定器は、測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアに変化するデータとなるようにして表示するようにしたものである。従って、・・・最初は出力がほとんど変化しないで根尖付近で急激に変化するという測定原理に起因する表示値の急変がなくなる。」と説明されている。しかし、たとえリニアであっても、根尖近傍で傾きが急峻なリニアの表示であれば、根尖付近で急激に増加することとなるから、構成要件Iのみでは、「最初は出力がほとんど変化しないで根尖付近で急激に変化するという測定原理に起因する表示値の急変がなくなる」という発明の効果を奏することはできない。
(ウ) したがって、乙特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではない。
オ 前記ア、ウ記載のとおり、乙発明は、特許出願前に公然実施され、又は公知であった発明に基づいて容易に発明をすることができたから、乙特許には、特許法29条2項123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由が存在することが明らかである。また、前記イ記載のとおり、乙発明は、特許出願前に公然実施され、又は公知であったエンドドンティックメーターSUと同一の発明であるから、乙特許には、特許法29条1項1号、3号(平成11年法律第41号による改正前)、123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由が存在することが明らかである。さらに、乙特許には、前記エ記載のとおり、特許法36条3項123条1項4号(いずれも平成2年法律第30号による改正前)の無効理由が存在し、前記エ(イ)記載のとおり、特許法36条4項2号123条1項3号(いずれも平成2年法律第30号による改正前)の無効理由が存在することが明らかである。
(2) 原告の主張 被告の主張は争う。
ア エンドドンティックメーターSUは、施術者の便宜を考えて、従来の機種と同じ指示値で測定するように、すなわち具体的には測定電極が根尖に達したときに指示値が40となるように設計されている。
可変抵抗器VR2は、電流検出と演算増幅器IC2への入力調整の機能を果たしているだけであるが、それが可変抵抗とされているのは、製品に使用されている各電子回路の特性値のばらつきを吸収し、測定電極が根尖に達したときに所定の指示値が得られるように、製品の出荷前に可変端子の位置を調整するためであると推測される。出荷前に可変端子の位置が調整、固定された後は、その抵抗値は固定され、検出用抵抗器以上の機能を発揮するような回路構成は備えていない。可変抵抗器VR2の抵抗値を変化させればメーターの指示値がデータの全範囲にわたって一様に変化するだけである。したがって、可変抵抗器VR2は、測定電極先端と根尖間の距離に応じてほぼリニアに変化するデータとなるように処理する機能を備えず、ロ号製品は構成要件Iを充足しない。
イ エンドドンティックメーターSUは、構成要件Iのようなデータ処理手段を備えておらず、そこには、測定電極先端と根尖間の距離に応じてほぼリニアに変化するデータとなるように処理する技術思想は示されていない。
したがって、当業者がエンドドンティックメーターSUから乙発明を構成することが容易であるとはいえない。
11 補償金額、損害額 (1) 原告の主張 ア 補償金 (ア) 甲特許は平成4年2月28日出願公開され、乙特許は平成4年3月9日出願公開された。
原告は、平成10年6月1日、被告に対し、甲発明及び乙発明の内容を記載した書面を提示して警告をした。
(イ) ロ号製品の国内向の販売台数は、別紙「ロ号製品の国内向販売数量(原告主張)」記載のとおりであり、上記警告が行われた平成10年6月1日から甲特許権及び乙特許権の設定登録前の平成11年1月13日まで(以下、平成10年6月1日から平成11年1月13日までを「補償金請求期間」という。)のロ号製品の国内向の販売台数は、同別紙2(3)記載のとおり4095台であり、海外向の販売台数は632台である。
被告の主張するロ号製品の国内向の販売台数は、甲第96、第97号証、乙第55号証の資料3に示されたロ号製品(製造番号ND0261Jd、IH0233Jb、IL0478Jaの「JUSTYU」)の製造番号等からすると、
売上伝票を意図的に抽出して販売台数の一部を開示したにとどまるものと推測され、信用することができない。
(ウ) ロ号製品の販売価格は、国内向が3万6169円、海外向が3万1884円である。
(エ) 補償金請求期間におけるロ号製品の販売額は、国内向が1億4811万円(3万6169円×4095台≒1億4811万円)、海外向が2015万円(3万1884円×632台≒2015万円)であり、その合計は1億6826万円(1億4811万円+2015万円=1億6826万円)である。
(オ) 甲発明は、根管長測定器の技術分野で、根管が湿潤状態でも測定できる基本的な方法である相対値法の代表的な発明として高く評価され、通用しているから、甲特許権の実施料率は10%が相当である。
乙発明は、甲発明に付随する発明であるから、乙特許権の実施料率は4%が相当である。
(カ) 補償金額は、甲特許権につき1682万円(1億6826万円×0.1=1682万円)、乙特許権につき673万円(1億6826万円×0.04=673万円)であり、合計2355万円である。
イ 損害賠償 (ア) 甲特許権及び乙特許権の設定登録日である平成11年1月14日から平成16年4月13日まで(以下、平成11年1月14日から平成16年4月13日までを「損害賠償請求期間」という。)のロ号製品の国内向の販売台数は、別紙「ロ号製品の国内向販売数量(原告主張)」3(4)記載のとおり1万6583台であり、海外向の販売台数は4450台である。
(イ) ロ号製品の販売価格は、前記ア(ウ)記載のとおり、国内向が3万6169円、海外向が3万1884円である。
(ウ) ロ号製品1台当たりの製造原価は、本体材料費7353円、付属部品材料費3471円、組立調整費3650円、梱包費2000円の合計1万6474円である。
(エ) ロ号製品1台当たりの利益額は、国内向が1万9695円(3万6169円-1万6474円=1万9695円)、海外向が1万5410円(3万1884円-1万6474円=1万5410円)である。
(オ) 損害賠償請求期間におけるロ号製品の製造販売による利益額は、国内向が3億2660万円(1万9695円×1万6583台≒3億2660万円)、海外向が6857万円(1万5410円×4450台≒6857万円)であり、合計3億9517万円(3億2660万円+6857万円=3億9517万円)であって、この金額が原告の受けた損害額と推定される。
ウ 弁護士費用等 原告は、本件訴訟の追行を弁護士、弁理士に委任せざるを得なかったものであり、被告による甲特許権及び乙特許権の侵害相当因果関係にある損害としての弁護士費用及び弁理士費用は、補償金額2355万円及び損害額3億9517万円の合計4億1872万円の約10%に当たる4187万円である。
エ 一部請求 (ア) 原告は、被告に対し、次のとおり、補償金及び損害賠償の一部並びに遅延損害金を請求する。
a 補償金額2355万円の一部である1268万7500円及びこれに対する平成11年1月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
b 損害額3億9517万円の一部である1億8576万0400円及び弁護士、弁理士費用4187万円の一部である1000万円の合計1億9576万0400円及びこれに対する最後の不法行為の行われた日である平成16年4月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(イ) 請求額の合計は、前記第1、3記載のとおりである。
(2) 被告の主張 ア(ア) 原告の主張ア(補償金)(ア)の事実は否認する。
(イ) 原告の主張ア(イ)の事実のうち、補償金請求期間におけるロ号製品の海外向の販売台数が632台であることは認め、国内向の販売台数は491台の限度で認め、その余は否認する。
ロ号製品の販売数量は、別紙「ロ号製品の販売数量(被告主張)」記載のとおりである。
(ウ) 原告の主張ア(ウ)の事実は認める。
(エ) 原告の主張ア(エ)の事実のうち、補償金請求期間における海外向のロ号製品の販売額が2015万円であることは認め、その余は否認する。
(オ) 原告の主張ア(オ)は争う。 ロ号製品は、製造元が被告で、販売元が株式会社ヨシダほか2社であり、20%を超えるシェアを維持している、これは販売元が歯科医師などに対して長年にわたって営業努力を行ったことによる成果であり、特許権侵害行為の結果ではない。被告が販売元の注文に応じてロ号製品を製造しているのは、長年にわたる継続的取引を通じて販売元との間に培った信頼関係の成果である。また、ロ号製品全体が侵害品ではなく、回路全体からみれば、甲特許権の侵害と主張される部分は15%、乙特許権の侵害と主張される部分は10%以下である。技術的にみた場合、ロ号製品は甲発明と測定演算式が異なり、それにより、根管内が乾燥状態のときだけでなく湿潤状態であっても正確に根尖位置を検出できるという、甲発明にない格別の効果を奏し、これは専ら被告の技術力の成果であり、それが評価を得ている。したがって、仮に甲特許権、乙特許権の侵害があるとしても、実施料率は、甲特許権につき0.1%、乙特許権につき0.05%以下である。
甲特許権及び乙特許権は有効性が強く疑われ、甲発明は、公知であった二波長相対値法において一つの割算方式を開発したにすぎない。原告主張のような高率の実施料率は、いわゆるパイオニア発明には妥当するかもしれないが、甲特許権、乙特許権には当てはまらない。甲特許権の実施料率は1%を超えるものではなく、乙発明の評価は甲発明の10分の4であるから、乙特許権の実施料率は0.4%を超えることはない。
(カ) 原告の主張ア(カ)は争う。
イ(ア) 原告の主張イ(損害賠償)(ア)の事実のうち、損害賠償請求期間におけるロ号製品の海外向の販売台数が4450台であることは認め、国内向の販売台数は4002台の限度で認め、その余は否認する。
(イ) 原告の主張イ(イ)の事実は認める。
(ウ) 原告の主張イ(ウ)ないし(オ)は争う。
ロ号製品1台当たりの製造原価は、材料費1万0130円と製造経費1万2584円の合計2万2714円である。しかし、販売実績を達成するためには、材料費と労務費だけでなく、販管費が必要であるから、利益を算出するためには、販管費も売上げから控除すべきである。もっとも、被告はロ号製品の製造販売だけを専業としているのではないから、ロ号製品のみに関する販管費を算出するのは実際は困難である。そこで、ロ号製品の販売額に、販売期間に対応する各会計年度の被告全体の営業利益率(別紙「ロ号製品の販売数量(被告主張)」記載)を乗じた額の合計をもって超過利益の最大限と考えるのが現実的かつ相当である。
ウ 原告の主張ウ(弁護士費用等)は争う。
エ 原告の主張エ(一部請求)は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(構成(h)の特定)について 被告は、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別することを前提として、構成(h)の特定を争うものであるが、後記4(5)認定のとおり、
「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別する根拠はないというべきであるから、被告の主張は、その前提からして、採用することができない。
甲第12号証、第21号証及び弁論の全趣旨によれば、構成(h)は、「メータ駆動回路10は、表示メータ11を出力電圧X2に応じて駆動するように、調整する。」(前記第2、2(4)(h))とするのが相当であると認められる。
2 争点(2)ア(I2000 /I 500 とインピーダンス比)について (1) ロ号製品の構成(d)において、加算後電圧Xを求める式(2)は「X=K4I 500 +K 520log 10 {K 6(I 2000 -I 500 )/I 500 +1}」であり、I2000 /I 500 の値が用いられており、他方、甲発明の構成要件Aには「インピーダンスの変化」という文言が用いられ、構成要件C、Dには「インピーダンス値の比」という文言が用いられていることから、ロ号製品による構成要件A、
C、Dの充足性を判断するに当たって、I2000 /I 500 はインピーダンス値の比といえるかについて検討する。
(2) 甲-1発明の構成要件には、上記のとおり、「インピーダンスの変化」(構成要件A)、「インピーダンス値の比」(構成要件C、D)という文言が用いられているが、電流値の比であって電圧値の比とも等価であるI2000 /I 500 がインピーダンス値の比といえるかについては、構成要件の文言だけからでは、必ずしも一義的に明らかであるとはいえない。そこで、その点を明らかにするために、甲明細書の発明の詳細な説明の記載、甲発明の特許出願時の慣用技術などについて検討する。
(3) 甲明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明には、次のとおり記載されている。
ア 「〈従来の技術〉 根尖の位置を電気的に検出して根管長を測定する装置としては、根管内に挿入される測定電極と口の中の軟組織に接続される口腔電極との間の抵抗値を検出する方式のもの(例えば特公昭62-25381号公報参照)、あるいは両電極間のインピーダンスを検出する方式のもの(例えば特公昭62-2817号公報参照)等が知られている。」(甲公報2欄3行ないし9行、なお、特公昭62-2817号公報は、本件訴訟の乙第5号証である。) イ 「後者の方式は・・・1根ごとにキャリブレーションが必要で操作が煩わしく、治療の効率化が妨げられるという問題点がある。第4図はこのキャリブレーションを説明したものであり、・・・縦軸はインピーダンスに対応した検出電圧で示してある。2種類の周波数f1,f 2(ただしf 1 ΔV2-ΔV 1=(V 2-V 20 )-(V 1-V 10 ) =(V2-V1)-(V20-V10) の関係が成立するのであり、歯頚部での検出値を用いて上式の第2項の(V20 -V 10 )に相当するバイアス分を補償するためのキャリブレーションをその都度実施し、根管内の状態の影響を除くことが必要となるのである。」(同3欄33行ないし44行) エ 「係数kは薬液や血液の存在等の根管内環境によって決定されるもので、良電導液で満たされている場合は小となり、乾燥時には大となるので、これが誤差要因として作用する。なお、根管内の位置によってもkは変化する。今、根管の等価回路に印加される電圧をVtとし、負荷電流をiとすると、
i=Vt・(1/kR+ωC0) ただしω=2πfで、fは周波数 V=i・R+Vt =Vt+Vt・(1/kR+ωC0)×R =Vt・(1+1/k+ωC0R) ∴Vt=V/(1+1/k+ωC0R)………@ となり、分母に 1/k を含んでいるため根管内の環境によりVtの値が変動し、このままでは検出値として使用できない。」(同4欄34行ないし5欄4行) オ 「ここで、前述の公報記載の後者において採用している2種類の異なる周波数信号に対応したインピーダンス値の差分を検出する方式は、上記の@式のVtを異なる周波数において求め、その差を計算していることになる。すなわち、例えばωと5ωの角周波数を用いた場合、
差分=V/(1+1/k+ωC0R) -V/(1+1/k+5ωC0R)………A =4ωC 0RV/(1+1/k+ωC 0R)(1+1/k+5ωC 0R)………B という形になり、
1/k≪ωC0Rでない限り1/k の影響を消すためには根ごとにキャリブレーションを行うことが必要になるのである。」(同6欄4行ないし下から5行目) カ 「これに対して、この発明では2種類の周波数におけるインピーダンス値の比を求め、次の式Cによってkの影響を少なくしているのである。すなわち、
比=(1+1/k+ωC0R)/(1+1/k+5ωC 0R) ={1+ωC0R/(1+1/k)}/ {1+5ωC0R/(1+1/k)}………C ただし k=1〜10 であり、この式は、1/kの変化の影響が比をとるための割算処理によって小さくなり、根ごとのキャリブレーションが不要になることを示しているのである。」(同6欄下から4行目ないし7欄5行) キ 「負荷電流は抵抗5によって電圧の形で検出され、これを波形整形回路16で整流して波形を整えた後、A-D変換器17でディジタルデータに変換される。演算回路18はこのデータをラッチしながら周波数fの測定信号によるデータと周波数5fの測定信号によるデータとの比を逐次演算するように構成されており、演算結果は表示部19に送られる。」(同7欄39行ないし45行) ク 「このように検出値の比をとることによって、根管内が乾燥状態か湿潤状態であるかの差異、薬液や血液等の電導液の存在による差異などの根管内の状態や、根尖孔の直径、測定電極の太さなどの外部要素等の影響が自動的に消去され、
測定の都度煩わしいキャリブレーションを行う必要がなくなるのである。また構成部品の劣化の影響を自動的に除くことも可能となる。更に、交流電源によるハムやその他のノイズの影響も軽減できるので、スケーラーに組み込んで根管拡大する等の応用も容易となる。」(同8欄44行ないし9欄3行) (4) 甲発明の特許出願時の慣用技術について検討する。
ア(ア) 「電子通信ハンドブック」(社団法人電子通信学会編、昭和54年3月30日発行、甲第80号証)117頁右欄には、次のとおり記載されている。
「電圧計、電流計などを用いる電圧電流計法は、・・・原理的には未知インピーダンスZxを流れる電流とその端子間電圧の測定からZxを求める方法であるが、通常は図21に示すように電流を測定する代わりに、既知の高インピーダンスZsを直列に接続して定電流を作り、入出力の電圧比からZxを求めている。すなわち、Zs≫Zxでは、回路には定電流I=Ei/Zsが流れる。したがって、Zxは次式で与えられる。Zx=(Zs×E0)/Ei」、「また、Zxが大きい場合には、Zs≪Zxになるような小さなZsを用いて、Zsの端子間電圧を測定することによってZxを求めることができる。」 (イ) 上記の記載によれば、未知インピーダンスZxを流れる電流とその端子間電圧の測定から未知インピーダンス値を求めることに代え、既知の高インピーダンスZs(Zs≫Zx)を直列に接続して定電流を作り、入出力の電圧比からZxを求めること、又は直列に接続した既知の低インピーダンスZs(Zs≪Zx)の端子間電圧を測定することによってZxを求めることが、電気計測機器の技術分野において電圧電流計法として慣用されていたことが認められる。
イ(ア)a 「新しい原理による電気的根管長測定器」(山岡大ほか著、「ZOOM UP」66号、平成元年4月30日発行、甲第56号証、乙第41号証)6頁には、次のとおり記載されている。
「(2)相対値法の指示値 相対値法の指示値は、リーマー電極が根管内の任意の位置での2周波数のインピーダンス応答の差と他の位置でのインピーダンス応答の差とをさらに差を求めることで表される。
この指示値の導出は、図3によって理解される。
図3はリーマ電極が根管内を挿入して移動したときの1KHzと5KHzのインピーダンス変化を示したものである。図中、縦軸が電圧表示となっているが、インピーダンス変化と等価である。」 そして、図3には、「相対値の指示値」と題し、縦軸を「電極間インピーダンス」、横軸を「リーマー電極変位」としたグラフが示されている。
b 「Endodontic Meterについて」(川口叔宏ほか著、「日本歯科保存学雑誌」17巻2号、昭和49年10月1日発行、甲第23号証)99頁、100頁には、根管長測定器として、従前、一種のインピーダンス測定器が用いられていたこと、その測定原理は、歯牙電極(リーマー)と粘膜電極(口腔粘膜に接触させた排唾管等)の間の生体インピーダンスが、歯牙電極が根尖部に到達したときに大体一定の値を示すことを利用して根尖位置を知り、根管長を知るものであったこと、そのような測定原理による装置としてRoot Canal Meterを使用してきたが、Root Canal Meterにも問題があったので、改良してEndodontic Meter(エンドドンティックメーター)を試作したことが記載されている。そして、図4には、発振器、増幅器、メーター、被測定物からなるEndodontic Meterの構成図が示されている。図4によれば、Endodontic Meterは、検出抵抗の両端電圧を測定して、根管内インピーダンスの変化に伴って変化する電流値を測定するものであることが認められる。
c 「根管長測定器の性能と使用上の注意」(高阪真人著、「歯界広報」41巻6号、昭和55年12月発行、甲第57号証)13頁には、次のとおり記載されている。
「これらの根管長測定器は、口腔粘膜と拡大器具の間のインピーダンスを測定する原理であることはすでに述べた。インピーダンスの測定法として、
被測定物に一定の周波数の交流を既知の抵抗を通して印加し、その時流れる電流の値より求める方法と、被測定物のインピーダンスに応じて発振周波数が変る回路を用い得られる発振周波数を対照と比較する方法とがある。」 (イ) 上記(ア)aないしcの記載によれば、根尖位置検出装置の分野においても、根管内インピーダンスの変化検出回路としては、定電圧源を用い、検出抵抗の両端電圧値を測定して、根管内インピーダンス値の変化に伴って変化する電圧値を測定するようにしたものが広く採用されており、従来から、根管内インピーダンスの変化を直接検出するのではなく、根管内インピーダンスの変化に対応して変化する検出抵抗の両端電圧値又は電流値を検出して、根管内インピーダンスの変化を間接的に検出することが慣用されていたことが認められる。
もっとも、根尖位置検出装置の技術分野における慣用法は、電気計測機器の技術分野における慣用法と異なり、インピーダンス値そのものを計算によって求めるものではなく、検出抵抗に流れる電流の変化をもって根管内インピーダンスの変化を検出するというものである。しかし、定電圧源を用いて根管内インピーダンスの変化を検出する回路においては、インピーダンス値と検出抵抗に流れる電流値とが、オームの法則に基づく一定の対応関係にあり、インピーダンスの変化を検出抵抗に流れる電流の変化ととらえることができるということを前提としていることは明らかである。
ウ(ア) 甲明細書に従来の技術として引用されている特公昭62-2817号公報(乙第5号証)には、次のとおり記載されている。
a 「特許請求の範囲 1 測定針と片電極間のインピーダンス変化により根尖孔位置を検出する根尖孔位置検出装置において、2種類の異なる周波数信号を発生する回路と、
前記各々の周波数に応答して前記インピーダンス変化を検出する回路と、前記検出する回路の各出力を逐次比較して、差分を出力する回路とを備えたことを特徴とする歯科用根尖孔位置検出装置。」(乙第5号証1欄1行ないし11行) b 「前記従来方法の欠点を改良するものとして、第1図に示す装置も知られている。この装置は根管1に挿入したリーマ2と口腔粘膜3に当接した片電極5との間に抵抗6、交流電源7および電流計8からなる回路を構成し、リーマ2が根尖孔9に致った時に生じるリーマ2と片電極5間のインピーダンス変化を電流計8により電流変化として検出して根尖孔9の位置を検出するものである。」(同2欄15行ないし22行) c 「パルス発生器15からは1KHzのインパルス信号と5KHzのインパルス信号が所定周期で多重され出力される。この出力信号およびリーマ2と片電極5間のインピーダンスとに応答した微弱電流が抵抗16に流れ、この微弱電流は増幅器17および18でそれぞれ増幅される。
このうち1KHzのインパルス信号に応答するものだけがフイルタ22を通りa点(第2図)の出力波形は第3図中aで示す出力波形となる。同様に、5KHzのインパルス信号に応答するものだけがフイルタ19を通りb点(第2図)の出力波形は第3図中bで示す出力波形となる。」(同4欄2行ないし14行) d 「両出力aおよびbの差分に着目すると、各入力周波数に対する周波数特性により出力aおよびbの変化率が異なるがこの変化率は根尖孔9付近で最も大きくなるため、この両出力aおよびbの差分が最少となる点(第3図中A点)が根尖孔9の位置として検出される。」(同4欄27行ないし32行) (イ) 上記(ア)aないしdの記載によれば、特公昭62-2817号公報には、測定針と片電極間のインピーダンス変化により根尖孔位置を検出する根尖孔位置検出装置が示されており、同装置においては、リーマ(測定針)と片電極間のインピーダンスに応答して回路を流れる微弱電流を、回路に接続した検出抵抗によって検出するようにしたインピーダンスの変化検出回路を設けており、この検出回路は、根尖位置検出装置の技術分野における慣用法に従ったものということができる。
(5) このような甲発明の出願時の慣用技術を前提として、甲明細書の記載を検討する。
ア 前記(3)アないしクの甲明細書の記載からすると、同明細書の発明の詳細な説明中には、特公昭62-2817号公報に係る従来技術は、インピーダンスの変化を検出するに当たり、2種類の異なる周波数信号を用いて検出回路に流れる微弱電流の差分を算出し、その差分が最小となる点を根尖孔位置として検出するというものであり、その都度キャリブレーションを実施する煩わしさがあったことから、甲発明は、キャリブレーションを不要とすることを技術的課題として、従来技術においてインピーダンス値の差分を求めていたことに代え、インピーダンス値の比を求めることによってインピーダンスの変化を検出することが記載されている。
そして、インピーダンス値の比を求めるに際して、インピーダンス値自体を直接検出し又は計算により求めるのではなく、インピーダンスに対応した電圧値の検出又は検出抵抗に流れる負荷電流を電圧値の形で検出することによって間接的にインピーダンスを検出していることが、発明の詳細な説明の記載全体からみて明らかである。つまり、甲明細書の発明の詳細な説明中には、インピーダンス値の比の変化を検出するに際して、インピーダンスを、特公昭62-2817号公報に係るような従来技術と同様にして検出すること、すなわち、根尖位置検出装置の技術分野における慣用法に立脚して検出することが記載されているということができる。
イ 甲-1発明の構成要件Aの「測定電極と口腔電極との間のインピーダンスの変化から根尖位置を検出する装置であって」という文言からすると、甲発明が、「インピーダンスの変化から根尖位置を検出する」ことを前提とするものであることが明らかである。そして、前記のとおり、根尖位置検出装置の技術分野においては、インピーダンスの変化を、インピーダンスの変化に対応する電圧等の変化により検出することが慣用されているのであるし、甲明細書の発明の詳細な説明も、慣用法を用いることを前提として記載されている。
そうすると、甲-1発明において、「インピーダンスの変化から根尖位置を検出する」(構成要件A)とは、「インピーダンスの変化をインピーダンスの変化に対応する電圧等の変化により検知して根尖位置を検出する」という、根尖位置検出装置の技術分野における慣用法を採用して検出することと理解することができる。また、「根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段」(構成要件C)、「測定電極の先端が根尖付近に達して等価インピーダンスが減少し、上記根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」(構成要件D)も、前記慣用法を前提として解釈すべきであり、そのように解釈することは、甲明細書の発明の詳細な説明の記載とも合致する。
したがって、甲発明にいう「インピーダンス値の比」とは、インピーダンス値に対応した電圧値又は電流値の比と解釈すべきである。
(6) 「JIS工業用語大辞典第2版」(財団法人日本規格協会編、1987年(昭和62年)11月10日発行、乙第1号証)97頁には、「インピーダンス」という用語の意義として、「回路の端子電圧を、そこを流れる電流で除して得られる値」と記載されており、これが学術用語としての「インピーダンス」の意義であると認められる。しかし、そうであるからといって、「インピーダンス」という用語を、常にそのような学術用語として解釈すべきことにはならないと解される。これまで述べたとおり、電気計測機器の技術分野及び根尖位置検出装置の技術分野における慣用技術並びに甲明細書の記載によれば、甲発明にいう「インピーダンス値の比」とは、インピーダンス値に対応した電圧値又は電流値の比と解釈されるというべきであり、「インピーダンス」の学術用語としての意義が上記のとおりであったとしても、そのような解釈をすることは否定されないというべきである。
(7) 弁論の全趣旨(別紙ロ号製品目録)によれば、I 2000 /I 500 は、インピーダンス値に対応した電流値の比であると認められるから、甲発明における「インピーダンス値の比」に該当するというべきである。
3 争点(2)イ(根尖位置の測定に果たす第1項と第2項の役割)について (1)ア 甲第31号証は、東京都立産業技術研究所長作成の試験成績書であり、
複数の抜歯牙(21ないし23、K1)を用いて、生理食塩水中に植立した状態で、ロ号製品のメーター指示値ごとのI500 (CH5)、G(CH6)及びその加算後電圧X(CH7)を測定した結果を記載したものである。
甲第31号証のデータに基づき、各歯牙から得られるメーター指示値APEXにおけるデータを用いて連立方程式を解く方法によりK4、K 5の値を求め(21と22、23とK1の各組合せで算出)、この定数を用いて第1項及び第2項の数値を各メーター指示値ごとに算出し、加算後電圧Xと第1項の値をグラフに示したものが甲第32、第33号証の各1ないし4であり、加算後電圧Xと第2項の値をグラフに示したものが甲第34号証の1ないし4である。なお、後記(3)ア記載のとおり、K4、K 5の値を求めるために連立方程式によることは適切ではなく、最小二乗法によるのが相当であるが、被告が、K4、K5の値を求めるために連立方程式によることを主張しているところから、ここでは、連立方程式によって得たK4、K 5の値を用いて検討することとする。
甲第32ないし第34号証の各1ないし4によれば、第1項の値はほとんど変化しておらず、加算後電圧Xの絶対値及び変化は、第2項の絶対値及び変化によってその大部分が決められていることが認められる。
イ 甲第32、第33号証の1ないし4によれば、第1項の値はほとんど変化しておらず、根尖に近いメーター値1からメーター値APEXまでの変化は、大きいもので49.7ミリボルト(甲第32、第33号証の各1)、小さいもので20.8ミリボルト(甲第32、第33号証の各4)でしかないことが認められ、他方、ロ号製品のメーター値を1からAPEXに変化させるためには、電圧の変化が約316ミリボルト必要であることが認められるから、このような第1項の微小な変化のみによってロ号製品が機能しているのではないことが認められる。なお、これらの測定の基となった甲第31号証のデータは、歯牙を生理食塩水中に植立した状態で測定されたものであるが、ロ号製品の取扱説明書(甲第11号証の2)には、測定時に根管内に電解液を注入することが記載されているから、このデータは、ロ号製品の使用状態でのデータであるということができる。
(2)ア 乙第3号証は、東京都立産業技術研究所長作成の試験成績書であり、抜歯牙を用いて、乾燥状態と湿潤状態(根管内に生理食塩水を浸した状態)において、ロ号製品のメーター指示値ごとのI500 (TP5)、G(TP6)及び加算後電圧X(TP7)等を測定した結果を記載したものである。
被告は、K4=1.11、K 5=1.58と主張しているから、この定数を用いて第1項及び第2項の数値を各メーター指示値ごとに算出し、加算後電圧Xと第1項の値をグラフに示したものが甲第35、第36号証の各1、2であり、加算後電圧Xと第2項の値をグラフに示したものが第37号証の1、2である。甲第35ないし第37号証の各1は乾燥状態のグラフであり、甲第35ないし第37号証の各2は湿潤状態のグラフであるが、前記認定のとおり、ロ号製品は根管内が湿潤の状態で使用されるから、湿潤状態のグラフである甲第35ないし第37号証の各2を基に判断するのが相当と認められる。
甲第35ないし第37号証の各2によれば、メーター指示値2から1の区間において、第1項の変化が大きく、加算後電圧Xの変化に対する第1項の変化の寄与度が大きいことが認められるが、臨床上重要な根尖に近いメーター値1からAPEXまでの区間など、それ以外の区間では、第2項の変化の方が大きく、加算後電圧Xの変化に対する第2項の変化の寄与度の方が大きいことが認められる。
イ また、甲第35ないし第37号証の各2によれば、第1項の値の変化のみによってロ号製品のメーター値を1からAPEXに変化させることができないこと、APEXを示すためのメーター駆動電圧は750mV前後であるが、第1項のみではそのような電圧値に到らないことが認められる。
(3)ア 甲第60号証(南茂夫監修、河田聡編著「科学計測のためのデータ処理入門」2002年(平成14年)5月15日第2版発行)及び弁論の全趣旨によれば、多数のデータを要約してデータ間に存在する関係を求めるための基本的な方法として、自然科学、工学の多くの分野で最小二乗法が用いられてきたこと、複数のデータ間に存在する関係を示す近似直線を得るために連立方程式による場合は、解に大きなばらつきが生じるが、最小二乗法による場合は、すべてのデータに対して誤差の少ない結果が得られることが認められる。したがって、実測データを基にロ号製品の構成(d)のK4、K 5の値を求めるためには、最小二乗法によるのが相当であると認められる。
イ 甲第67号証の1ないし4は、甲第31号証のデータ中の4つの歯牙のAPEX値を用いて最小二乗法によってK4=1.11、K 5=1.63という定数を求め、この定数を用いて第1項及び第2項の数値を各メーター指示値ごとに算出し、加算後電圧Xと第1項の値をグラフに示したものである。
甲第67号証の1ないし4によれば、第2項は第1項に比べて絶対値として5倍ないし16倍大きいこと、第1項は余り増加せず、その推移はグラフ上水平に近いのに対し、第2項は急激に増加し、変化の度合いが第1項に比べて非常に大きいことが認められ、加算後電圧Xの絶対値及び変化に対する第2項の絶対値及び変化の寄与が大きいことが認められる。
(4) 甲第68号証の1、2は、10の歯牙について第1項と第2項の値を測定したデータであり、甲第69号証の1ないし20は、横軸に根尖からの距離を取ってそのデータをグラフ化したものである。
甲第69号証の1ないし20によれば、第1項は、根尖からの距離が変化してもほとんど変化しないが、第2項は大きく増加し、少なくとも根尖前約3mmの位置から絶対値が第1項よりも大きくなり、根尖付近では、第2項の値は第1項の値の4ないし8倍であることが認められる。
(5) 甲第76号証の1ないし4は、甲第68号証の2のデータのうち、4本の各歯牙に関する第2項の値と加算後電圧Xの測定値をグラフに示したものであり、
甲第77号証の1ないし4は、根尖付近で両者が重なるように第2項の変化曲線を移動したものである。
甲第77号証の1ないし4によれば、第2項の値と加算後電圧Xの測定値が、同様の変化をしていることが認められる。
(6) 以上によれば、第1項は、その絶対値及び変化の度合いが少ないのに対し、第2項は、変化の度合いが第1項に比べて非常に大きく、絶対値も、少なくとも根尖前約3mmの位置から第1項よりも大きくなり、根尖付近において、第1項の数倍以上にも及んでいることが認められ、加算後電圧Xの算出において、第1項よりも第2項の方が大きく寄与していることが認められる。
4 争点(2)ウ(ロ号製品は、根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する装置か)について (1) 甲-1発明の構成要件Dの「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という文言は、同発明の構成要件の文言のみからすると、インピーダンス値の比がある値から他の値に変わるという変化の事実のみによって根尖位置を検知することを意味し、インピーダンス値の比が所定値になることによって根尖位置を検知することを含まないと解釈する余地がないとはいえない。しかし他方、インピーダンス値の比が変化した上で所定値になることによって根尖位置を検知することを意味すると解釈する余地もある。そこで、その意味を明らかにするために、甲明細書の発明の詳細な説明技術常識などを検討する。
(2)ア 甲明細書には次のとおり記載されている。
(ア) 「以上の構成と動作により、演算結果が表示部19で表示されることになるが、2種類の周波数fと5fによる検出値は周波数の高い方が全般に大きく、根尖付近での増加率も大きくなっており、その比は電極2の先端2aが根尖に近づくにつれて大きくなるので、例えば指針の振れによって電極2の先端2aが根尖に到達したことが表示されるのである。」(甲公報7欄48行ないし30行) (イ) 「例えばC式において、C=100nF、R=10kΩ、f=1kHzとしてk=1〜10を代入すると、次の表のようになる。この表に示されるように、kが変化してもその影響をほとんど受けないのであり、2種類の周波数におけるインピーダンス値の比をとることによって、根管内の状態の影響が自動的に消去され、インピーダンス値の差分をとる方式では必要であった根ごとのキャリブレーションが不要となり、しかも根管内の状態に関係なく正確な測定が可能となるのである。」(同7欄22行ないし8欄22行) (ウ) 「演算回路18はこのデータをラッチしながら周波数fの測定信号によるデータと周波数5fの測定信号によるデータとの比を逐次演算するように構成されており、演算結果は表示部19に送られる。表示部19には指針式メータや信号音または断続音発生器、断続発光器などの適宜のものが使用される。」(同7欄42行ないし47行) イ このような甲明細書の発明の詳細な説明からは、測定電極が根尖位置に達したときのインピーダンス値の比が所定値を取るように、装置の回路構成、回路条件、使用周波数等を予め適宜設定することが理解される。また、施術者は、測定電極が根尖位置に近づきインピーダンス値の比が大きくなるに連れて表示部の指針の振れが大きくなるのを見て、測定電極が根尖位置に近づいたことを知り、インピーダンス値の比が所定値になって指針が所定値を示すことによって測定電極が根尖位置に到達したことを知ることが理解される。
(3) 乙第19号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、甲発明の特許出願前から販売されていた根管長測定器(アピット、エンドドンティックメーターSU)の表示メーターには、測定電極の先端が根尖位置にあることを示すAPEXの目盛りがあり、施術者は、指針の振れが大きくなることによって測定電極が根尖位置に近づいていることを知り、指針がAPEXに達したことにより、測定電極が根尖位置に達したことを知ることが認められる。
(4) 甲発明の特許出願前の根尖位置検出装置に関する特許公報の記載について検討する。
ア 甲明細書中で従来技術として「抵抗値を検出する方式のもの」の例とされている特公昭62-25381号公報(甲第16号証)には次のとおり記載されている。
(ア) 「・・・その電流変化に対応する前記メータの振れの変化から、前記電極間に存在する歯の根管の深さの程度を検出するようにしたことを特徴とする歯科用診断装置」(甲第16号証1欄16行ないし19行) (イ) 「したがって掘削する探針の深さによって生体の抵抗が変化するので施療者(医師)がメータの指針の振れも見ながら探針が歯30の根尖32または根表33に達するのが間近か否かが判る。前記の段階でメータ8の振れが40(40μAあるいは20μAにしてもよい)を指示していることを確めた上で、次に治療している患者の歯30の根管長の測定に入る。」(同5欄12行ないし19行) イ 甲明細書中で従来技術として「インピーダンスを検出する方式のもの」の例とされている特公昭62-2817号公報(乙第5号証)には次のとおり記載されている。
(ア) 「測定針と片電極間のインピーダンス変化により根尖位置を検出する根尖孔位置検出装置において」(乙第5号証1欄2行ないし4行) (イ) 「各入力周波数に対する周波数特性により出力aおよびbの変化率が異なるがこの変化率は根尖孔9付近で最も大きくなるため、この両出力aおよびbの差分が最少となる点(第3図中A点)が根尖孔9の位置として検出される。」(同4欄28行ないし32行) (ウ) 「この出力cは表示装置26により、ブラウン管上あるいはメータ上に可視的に表示され、さらに根尖孔位置を示す最小点Aがブザー等により可聴的に表示され、歯科医師は容易に根管治療中に根尖位置を知ることができる。」(同4欄41行ないし5欄2行) ウ 特開平2-271854号公報(甲第74号証の5)には次のとおり記載されている。
(ア) 「測定針と片電極間の2種類の異なる周波数信号に対応するインピーダンス変化により根管内位置を検出する歯科用根管処置装置において」(甲第74号証の5、1頁左欄5行ないし7行) (イ) 「第4図に本実施例リファレンス補償動作終了後の前記加減算器22の出力波形を示す。第4図で縦軸は差分電圧Vfを示し、横軸は根尖狭窄部までの到達距離を示す。第4図からも明白な様に、差分Vfは歯頸部X1で零であり、
検出目標位置である根尖狭窄部X2付近で著しく増加している。第4図中にαで示す値が予め設定された根尖狭窄部を検出する為の設定値である。」(同5頁右上欄16行ないし左下欄3行) エ 特開平2-297359号公報(甲第17号証)には次のとおり記載されている。
(ア) 「測定針と片電極間のインピーダンス変化により根尖孔位置を検出する根尖孔位置検出装置において」(甲第17号証1頁左欄5行ないし7行) (イ) 「差分を検出する回路の出力値が所定の一定の値となった時点をもって根尖孔の位置とするものである。」(同3頁左上欄11行ないし13行) (5)ア 上記(3)認定の甲発明の特許出願前から販売されていた根管長測定器の構成及び上記(4)認定の甲発明の特許出願前の根尖位置検出装置に関する特許公報の記載からすると、甲発明の特許出願当時のインピーダンス値を使用した根管長測定装置については、インピーダンス値の変化に応じて指針等が振れ、インピーダンス値が所定値になって指針等が所定値を示したことによって測定電極が根尖位置に到達したことを知るものであることが、当業者の一般的な認識となっていたことが推認される。このような当業者の一般的な認識は、前記(2)認定の甲明細書に対する理解と一致するものである。
イ そうであるとすると、甲-1発明の構成要件Dの「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という文言は、インピーダンス値の比が変化した上で所定値になることによって根尖位置を検知することを意味すると解するのが相当であり、インピーダンス値の比がある値から他の値に変わるという変化の事実のみによって根尖位置を検知することを意味し、インピーダンス値の比が所定値になることによって根尖位置を検知することを含まないと解する根拠はないというべきである。
また、被告は、甲明細書の解釈に当たり、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別し、甲発明は「変化による検出原理」による根管位置検出装置であると主張するが、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別する根拠はないというべきであり、被告の主張は採用することができない。
(6) 被告は、原告が、甲発明の無効審判請求事件(無効2001-35444号)の審判事件答弁書(乙第23号証)において、「しかしながら、本件特許は、
根尖付近では根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置に達したことを検出するものであり、比が特定の値になった時に根尖位置とするものではない。」(乙第23号証8頁16行ないし19行)と答弁したことをもって、原告が甲発明から「所定値による検出原理」を意識的に除外したと主張する。
しかし、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別する被告の主張を採用することができないことは、前記(5)記載のとおりである。また、
上記無効審判答弁書(乙第23号証)には、被告による上記引用部分の前後を含めて、次のとおり記載されている。
「また、請求人は8〜11行目において、『比がどのような態様で大きくなるのか、比によって電極の先端が根尖に到達したことを表示できるのか、等が具体的に説明されていない。』という趣旨の主張をしている。しかしながら、本件特許は、根尖付近では根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置に達したことを検出するものであり、比が特定の値になった時に根尖位置とするものではない。そして、比がどのような状態になった時に根尖位置とするか、あるいは根尖位置に達したことを表示するかは、装置の回路や構成要素などに応じて適宜設定すれば足りる設計事項であり、比の変化の態様や比によって電極が根尖に到達したことを表示することについての説明がないことは、当業者にとって何ら本件特許発明実施を不可能とする理由にはならない。」(乙第23号証8頁14行ないし24行) このような記載からすると、原告は、被告による上記引用部分において、単にインピーダンス値の比が特定の値になった時に根尖位置とすることだけが甲発明の特徴ではなく、インピーダンス値の比が根尖付近で変化することによって測定電極が根尖位置に近づいたことを知り、インピーダンス値の比が所定値になったことによって測定電極が根尖位置に到達したことを知ることに甲発明の特徴があることを説明したものと認められ、当該引用部分によって甲発明から「所定値による検出原理」を意識的に除外したとは認められない。
(7) 甲第11号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、ロ号製品は、施術者が、測定電極が根尖位置に近づきインピーダンス値の比が大きくなるに連れて表示部の指針の振れが大きくなるのを見て、測定電極が根尖位置に近づいたことを知り、インピーダンス値の比が所定値になって指針がAPEXを示すことによって測定電極が根尖位置に到達したことを知るものであることが認められる。
したがって、ロ号製品は、甲-1発明の構成要件Dの「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という文言を充足するものと認められる。
5 甲発明の構成要件充足性 前記2(7)記載のとおり、I2000 /I 500 は、甲-1発明における「インピーダンス値の比」に該当するというべきであり、前記3(6)記載のとおり、加算後電圧Xの算出において、第1項よりも第2項の方が大きく寄与しており、第2項には、I2000 /I 500 の値が用いられている。したがって、ロ号製品は、インピーダンスの変化から根尖位置を検出する装置に該当するから構成要件Aを充足し、根管内インピーダンス値の比を算出する相対比検出手段とを備えるから構成要件Cを充足する。また、前記4(7)記載のとおり、ロ号製品は、甲-1発明の構成要件Dの「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という文言を充足する。
また、前記第2、2(5)ア、イ記載のとおり、構成(b)が構成要件Bを充足し、構成(i)が構成要件Eを充足し、ロ号製品の構成が構成要件Fを充足することは、当事者間に争いがない。
したがって、ロ号製品は甲-1発明及び甲-2発明の構成要件を充足するというべきである。
6 争点(3)ア(構成(g)による構成要件Iの充足性)について (1) 構成要件Iの「測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータ」の意味については、データがどの範囲でどのように変化することを意味するのか、その文言に解釈の余地があると認められることから、その意味を明らかにするために、乙明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。
ア 乙明細書(甲第4号証)には次のとおり記載されている。
(ア) 「〈従来の技術〉 電気的に根管長を測定する装置としては、根管内に挿入される測定電極と口の中の軟組織に接続される口腔電極との間の抵抗値を検出する方式のもの・・・、あるいは両電極間のインピーダンスを検出する方式のもの・・・等が知られている。・・・前者は、測定電極の先端が根尖に近づくと抵抗値が低下することを、また後者は測定電極の先端が根尖に近づくとインピーダンスが低下することをそれぞれ検出するものであるが、測定電極と口腔電極間は抵抗とコンデンサが並列に接続された等価回路とみなされるため、測定の原理としては後者の方が実情に適合していると考えられている。
〈発明が解決しようとする課題〉 しかしながら、測定電極の先端が根管中央の歯頚部にある時と根管先端の根尖に達した時における上記の等価回路における抵抗値とコンデンサ容量の変化率は、コンデンサ容量の方が抵抗値に比べてかなり大きく、特に根尖付近ではインピーダンスが格段に大きく変化するという性質がある。このため、電流や電圧の形で検出される測定データは測定電極の先端が根尖から離れている間は小さい値のままであまり増加せず、根尖付近で急に増加し始める。・・・このような測定データをそのまま表示に用いると、測定電極の先端が根尖から離れている間は表示値は小さくしかもあまり増加しないが、1mm前後に近づいてから急激に大きくなるという結果となり、非常に使いにくいものとなる。このような傾向は抵抗検出方式のものである程度は認められるが、特にインピーダンスの変化を検出する方式では顕著である。」(乙公報2欄10行ないし3欄27行) (イ) 「〈作用〉 この発明によれば、測定データが測定電極先端と根尖との間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するように補正されて表示されるので、表示値が根尖付近で急激に増加するようなことがなくなる。」(同4欄7行ないし11行) (ウ) 「測定電極2が歯牙1の根管1aに挿入され、その挿入量に応じて電極2の先端2aと根尖1b間の距離に対応した測定データがデータ検出回路4から出力されると、データ処理回路5ではこの各測定データの値に応じて第2図の補正値をそれぞれ加算し、その結果得られた補正後データによって表示部6を作動させるのである。測定データは測定電極2の先端2aが根尖1bに近づくにつれて図のA線のように急激に大きくなるが、この例では、補正後データが根尖1bまでの距離に応じて図B線のようにほぼリニアに変化するものとなるように補正値が選定してあり、表示部6に対する出力信号もほぼリニアに変化する。従って、表示部6が例えば指針式メータであれば、その指針は測定電極2が根管1aに挿入されるにつれて挿入量にほぼ比例して振れるようになるのであり、根尖1bに近づいてから急に大きく振れるということがなく、表示が見やすく、使いやすい根管長測定器が得られる。」(同5欄12行ないし28行) (エ) 「補正後データは例えば第2図に1点鎖線で示したC線のように途中で勾配が変化する折れ線にしてもよい。このC線のようにした場合には、生データのような急激なものでないが、根尖1bに近づいてから指示値の増加割合が大きくなるので、術者に対して根尖に近づいたことの注意を喚起することができると共に、測定電極2の動きやその位置を拡大して表示することができる。なおこのC線のような折れ線でなく、2点鎖線で示したD線のように、根尖から遠い位置における直線と根尖に近くなるほど勾配が急になる曲線とを組み合わせたものであっても同様な作用効果が得られる。」(同5欄29行ないし39行) イ(ア) 上記ア(ア)ないし(エ)の記載及び乙図面の第2図によれば、乙発明において、「ほぼリニアに変化する」とは、測定電極2の根管1aへの挿入量にほぼ比例して変化することを意味するものであり、乙発明の構成要件Iの「測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータ」であるかどうかは、根尖位置の近傍で急激に変化するのではなく、根尖から離れた位置から根尖位置に至る間の全体において、データがほぼ単調に増加し、急激な変化がみられないといえるかどうかで判断すべきものというべきである。
(イ) ところで、乙明細書の記載及び弁論の全趣旨によれば、根尖治療において、施術者がリーマの先端と根尖位置との関係を把握することが重要になるのは、リーマの先端が根尖から離れた位置にある段階ではなく、根尖に比較的近づいてから根尖に到達するまでの段階においてであると認められ、したがって、補正後データがリニアに変化することが強く要請されるのは、リーマの先端が根尖から遠い位置にあるときではなく、根尖に比較的近い位置にあるときであると認められる。そして、乙明細書に「測定電極の先端が根尖から離れている間は表示値は小さくしかもあまり増加しないが、1mm前後に近づいてから急激に大きくなるという結果となり、非常に使いにくいものとなる。」(乙公報3欄22行ないし25行)と記載されていることからすれば、上記「1mm前後」の位置よりも遠く離れた位置から補正後データがリニアになるならば、乙発明の作用効果が奏されるものと認められる。乙図面第2図(乙公報第2図)には、根尖から5mm離れた位置からのデータが示されているが、それによって、直ちに、根尖から5mm以内で補正後データがリニアになることが必要とされるとは認められない。また、測定可能な範囲のすべてにわたって補正後データがリニアになることが必要であると認める根拠もない。そうであるとすると、前記(ア)の「根尖から離れた位置から根尖位置に至る間の全体において」という「根尖から離れた位置」とは、上記「1mm前後」の位置よりも遠く離れた位置をいうものと解され、数値として5mm離れた位置でなければならないとか、測定可能な最も離れた位置でなければならないとする根拠はないというべきである。
(2) 甲第61号証の2ないし4は、財団法人日本品質保証機構作成の試験成績書であり、60本の抜歯牙を用いて、生理食塩水中に植立した状態で、2台のロ号製品(製造番号ND0261Jd、KD0006Jd)につき、根尖からの距離ごとに、測定データ(加算後電圧CH7)と補正後データ(折線近似回路からの出力電圧、正確には表示メータの駆動電圧)を測定した結果を記載したものであり、その結果をグラフに表示したものが甲第62号証の1ないし120である。
甲第62号証の1ないし120によれば、補正前の測定データの曲線は、
根尖から5mm手前における電圧値、曲線の立ち上がり位置及び形状、根尖付近での値の変化、メータがAPEXを指すときの測定電極の位置などにつき、各歯牙の特性に応じて異なっているものの、すべて右上がりで、APEXに近づくに連れて立ち上がる曲線であることが認められる。これに対し、補正後データは、乙図面第2図のB線のように斜めの一本の直線状を成すものと、C線又はD線のように途中で勾配が変わるものがあることが認められるが、ほとんどが、根尖から3mm程度離れた位置から根尖位置に至る間の全体においてほぼ単調に増加し、急激な変化は認められず、構成要件Iの「測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータ」に該当するものと認められる。したがって、構成(g)の折線近似回路19が、構成要件Iの「データ処理手段」に該当することも認められる。
(3) したがって、構成(g)は、構成要件Iを充足するものというべきである。
7 争点(3)イ(構成(h)による構成要件Jの充足性)について 前記6(2)認定のとおり、構成(g)の折線近似回路19は、構成要件Iの「データ処理手段」に該当するから、構成(g)、(h)の「出力電圧X2」は、 構成要件Iの「データ処理手段」で得られたデータ、すなわち構成要件Jの「上記データ処理手段で得られた補正後データ」に該当するものと認められる。したがって、構成(h)は構成要件Jを充足するものというべきである。
8 争点(3)ウ(乙発明の構成要件充足性)について 前記6(3)記載のとおり、構成(g)は構成要件Iを充足し、前記7記載のとおり、構成(h)は構成要件Jを充足する。
また、前記第2、2(5)ウ記載のとおり、ロ号製品が構成要件Hを充足すること、構成(i)が構成要件Kを充足することは、当事者間に争いがない。
したがって、ロ号製品は乙発明の構成要件を充足するというべきである。
9 争点(4)(甲特許権の無効)について (1) 構成要件C ア 甲特許権の無効に関する構成要件Cについての被告の主張は、甲発明にいう「インピーダンス値の比」の「インピーダンス」の意義を、学術用語としての「インピーダンス」の意義と解することを前提とし、構成要件Cに関し、甲明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度にその発明の構成が記載されているとはいえないとするものである。
しかし、前記2(7)記載のとおり、甲明細書の発明の詳細な説明の記載、
甲発明の特許出願時の慣用技術などを考慮し、甲発明にいう「インピーダンス値の比」とは、インピーダンス値に対応した電圧値又は電流値の比と解釈すべきである。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
イ 甲明細書の記載及び弁論の全趣旨によれば、甲明細書に記載された等価回路の式(甲公報4欄40行)は、誤っているものはなく、相当なものであると認められる。等価回路は、対象物の電気的現象を必要な目的に応じて模擬的に表現した電気回路であり、必ずしも一つに限られるものではないから、甲発明の発明者の論文(「電気的根管長測定法」小林千尋、砂田今男著、日本歯科保存学雑誌32巻3号、乙第10号証)に、高周波回路を使用した場合の等価回路の式として別の式が記載されていたとしても、それによって、甲明細書の等価回路の式が誤りであるということにはならない。
ウ また、甲明細書の記載及び弁論の全趣旨によれば、甲明細書の式@及び同式を導く過程の変形式は、等価回路の抵抗の値をkR、検出抵抗の値をRとして表されたものであり、その記載に誤りがあるとは認められない。
エ 甲明細書の記載及び弁論の全趣旨によれば、甲発明にいう「インピーダンス値の比」をインピーダンス値に対応した電圧値又は電流値の比と解釈する場合には、甲明細書には、構成要件Cにつき、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成が説明されているものと認められる。
(2) 構成要件D ア 甲特許権の無効に関する構成要件Dについての被告の主張は、本件明細書の解釈に当たり、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別し、甲発明は「変化による検出原理」による根管位置検出装置であるという主張を前提とするものである。
しかし、前記4(5)記載のとおり、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別する根拠はないというべきであるから、被告の主張は、採用することができない。
イ 前記4(5)記載のとおり、構成要件Dの「根管内インピーダンス値の比が変化することを検知して根尖位置を検出する」という文言は、インピーダンス値の比が変化した上で所定値になることによって根尖位置を検知することを意味すると解するのが相当であり、甲明細書の記載及び弁論の全趣旨によれば、構成要件Dの文言をそのような意味として解釈する場合には、甲明細書には、構成要件Dにつき、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成が説明されているものと認められる。
(3) 産業上の利用 前記4(5)記載のとおり、「変化による検出原理」と「所定値による検出原理」を区別する被告の主張は採用することができず、また、前記4(6)記載のとおり、原告は、甲発明の無効審判請求事件における審判事件答弁書によって甲発明から「所定値による検出原理」を意識的に除外したとは認められない。
甲発明の構成要件の解釈についてこれまで述べてきたところに従い、甲明細書の記載、及びロ号製品と抜歯牙を用いて行われた測定結果等を示した既述の証拠を参酌すると、甲発明は、インピーダンス値の比を利用することによって、乾燥状態か湿潤状態か、薬液や血液等の電導液が存在するか否かなどの根管内の状態、
根尖孔の直径、測定電極の太さなどの外部的要素等の影響が消去され、測定の都度煩わしいキャリブレーションを行う必要がなくなり、正確に根尖位置を検出することができる根尖位置検出装置を得ることができるものと認められ、甲発明は、産業上利用することができる発明に該当するものと認められる。
(4) 無効理由 以上によれば、甲特許に特許法36条3項123条1項3号(いずれも平成2年法律第30号による改正前)の無効理由、同法29条柱書、123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由が存在することが明らかであるとは認められない。
10 争点(5)(乙特許の無効)について (1)ア 乙第19号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、エンドドンティックメーターSUの検出抵抗器VR2は、抵抗値を17.7kΩに設定調整されて測定回路に組み込まれ、測定回路に流れる電流値を検出するためのものであること、検出抵抗器VR2は、可変抵抗ではあるものの、いったんエンドドンティックメーターSUの測定回路に組み込まれて調整された後は、使用時に抵抗値が変更されることはなく、測定回路内の固定抵抗として機能するものであることが認められる。したがって、検出抵抗器VR2は、根管内抵抗値の変化によってその値が変化する測定回路内の電流値を、測定データとして検出するものということができ、その測定データが表示データとして表示目盛に表示されるものと認められる。
エンドドンティックメーターSUの測定回路において、抵抗値の異なる検出抵抗器VR2を用いれば、それぞれの検出抵抗器VR2の抵抗値に応じて検出回路に流れる電流値も変化するため、それぞれの検出抵抗器VR2により測定される測定データは異なるものとなるが、抵抗値を異にする別の検出抵抗器VR2を用いた場合とは異なる測定データが得られるだけであって、測定データに測定電極の先端位置に対応する補正値を加えたデータを得ることはできない。したがって、エンドドンティックメーターSUの検出抵抗器VR2は、抵抗器の有する一般的な作用を利用して測定回路に流れる電流値を測定データとして検出するものにすぎず、
測定データに測定電極の先端位置に対応して補正値を加えるというデータ処理を行い、測定データの傾きを変化させるように処理するデータ処理手段であるとはいえない。
したがって、エンドドンティックメーターSUの検出抵抗器VR2は、
測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニア又はほぼリニアに変化するデータとなるように処理する測定データの傾きを変化させる処理を行う乙発明の「データ処理手段」に相当するものとはいえない。
イ 乙発明の無効審判請求事件(無効2001-35445号)の第1回口頭審理調書(乙第40号証)には、被請求人である原告の陳述として、「甲第8号証のグラフで『エンドドンティックメーターSU』のグラフはほぼリニアに変化している。」と記載されている。
乙第40号証及び弁論の全趣旨によれば、ここにいう「甲第8号証」は、東京都立産業技術研究所長作成の成績証明書(13産技技評証第12号)(乙第7号証)記載の測定データを基に被告が作成したものであり、本件訴訟の乙第8号証に相当するものであると推認されるところ、乙第8号証に照らして、上記陳述は、乙第8号証のデータの一部がリニアであることを述べたにとどまると認めるのが相当であり、上記陳述をもって、原告が、エンドドンティックメーターSUのデータが全体にわたってリニアであることを認めたと認定するに足りる証拠はないというべきである。
ウ したがって、エンドドンティックメーターSUは、構成要件Iのようなデータ処理手段を備えているとは認められず、乙発明と同一発明であるとは認められない。
(2)ア 乙明細書には、「根尖に達するまでの距離と測定データとの関係は、歯牙が異なりあるいは患者が異なってもほぼ一定である」(乙公報4欄1行ないし3行)と記載されている。甲第62号証の1ないし120によれば、厳密にみると、
根尖に達するまでの距離と測定データとの関係は、歯牙によって異なるところがある。しかし、いずれも、根尖との距離が近くなったところから急激に測定データが上昇する関係にあると認められる。そして、乙明細書の上記部分の記載は「ほぼ一定」とされ、距離と測定データとの関係について一義的なものに限定するのではなく、ある程度の幅を許容しており、また、甲第62号証の1ないし120に示された測定データは、いずれも補正されてリニア又はほぼリニアな補正後データとされており、乙発明の作用効果(乙明細書の「作用」欄(乙公報4欄7行ないし11行)、「発明の効果」欄(同6欄15行ないし29行)参照)を奏しているものと認められる。したがって、甲第62号証の1ないし120に示された根尖に達するまでの距離と測定データとの関係は、「ほぼ一定」なものに該当すると認めるのが相当である。乙明細書には、このように、根尖に達するまでの距離と測定データとの関係がほぼ一定であることを前提として、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていると認められる。
イ 乙明細書の記載によれば、前記6(1)イ記載のとおり、乙発明の構成要件Iの「リニアまたはほぼリニア」という文言は、根尖から離れた位置(根尖から1mm前後の位置よりも遠く離れた位置)から根尖位置に至る間の全体において、測定電極の挿入量にほぼ比例して変化することを意味するものと理解される。特許請求の範囲には、「ほぼリニア」といえるかどうか、その基準又は程度について数値による限定はないが、そうであるとしても、そのことによって、乙明細書の記載が不明確であるとはいえず、乙特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるというべきである。
(3) 以上によれば、乙特許に特許法29条2項123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由、29条1項1号、3号(平成11年法律第41号による改正前)、123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前)の無効理由、36条3項123条1項4号(いずれも平成2年法律第30号による改正前)の無効理由、36条4項2号123条1項3号(いずれも平成2年法律第30号による改正前)の無効理由が存在することが明らかであるとは認められない。
11 争点(6)(補償金額、損害額)について (1)ア 甲特許が平成4年2月28日出願公開されたこと、乙特許が同年3月9日出願公開されたことは、前記第2の2(2)ア(ア)及びイ(ア)記載のとおりである。
甲第10号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成10年6月1日、被告に対し、甲発明及び乙発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたことが認められる。
イ 補償金請求期間のロ号製品の海外向の販売台数が632台であることは、当事者間に争いがなく、国内向の販売台数は、491台の限度で当事者間に争いがない。
原告は、ロ号製品の国内向の販売台数は、別紙「ロ号製品の国内向販売数量(原告主張)」記載のとおりであると主張する。原告の主張は、無作為に抽出した主要ディーラーの平成15年のロ号製品の販売台数が合計271台であることを基に、数段階の推定を重ねた上で販売数を算出するものである。しかし、無作為というものの、上記主要ディーラーの抽出が、損害額算定の基礎となる販売台数を明らかにするために相当であると認めるに足りる証拠はない。また、原告は、出荷台数変動比率を算出する前提として、厚生労働省の統計を使用し、平成15年におけるすべての根管長測定器の国内向出荷台数を1173台と推定しているが(別紙「ロ号製品の国内向販売数量(原告主張)」1(2)イ(イ))、他方で、原告は、平成15年のロ号製品の国内向の販売台数を1411台と推定しており(同別紙1(1)ウ)、ロ号製品の国内向の販売台数が、すべての根管長測定器の国内向出荷台数を上回るという矛盾を生じており、いずれかの推定台数が相当でないものと推認され、これらの推定台数を基にロ号製品の販売台数を算出することは相当でないというべきである。その他、本件全証拠を検討しても、ロ号製品の国内向の販売台数が、被告の認める台数を超えることを認めるに足りる証拠はないというべきであり、ロ号製品の国内向の販売台数は、被告の認める限度において認められる。
ウ ロ号製品の販売価格が、国内向が3万6169円、海外向が3万1884円であることは、当事者間に争いがない。
エ 補償金請求期間における海外向のロ号製品の販売額が2015万円であることは、当事者間に争いがない。補償金請求期間における国内向のロ号製品の販売額は、1台当たりの販売価格3万6169円に販売台数491台を乗じた1775万8979円であると認められる。したがって、補償金請求期間におけるロ号製品の販売額は、海外向と国内向を合わせて3790万8979円であると認められる。
オ 甲第74号証の4、第84、第85号証、乙第77、第78号証によれば、甲発明又はその実施品である原告の根管長測定器は、根管長測定の手段としての相対値法の代表的な発明又は機種として紹介されていること、根管長測定器として、甲発明と異なる仕組みによるものも製造販売されていることが認められる。また、弁論の全趣旨によれば、乙発明は、甲発明に付随する発明として位置づけられることが認められる。これに加え、甲発明、乙発明の内容、その他本件訴訟において明らかにされた諸般の事情を考慮すると、甲特許権の実施料率は7%、乙特許権の実施料率は3%とするのが相当である。
カ 補償金額は、甲特許権につき265万3628円(3790万8979円×0.07=265万3628円)、乙特許権につき113万7269円(3790万8979円×0.03=113万7269円)であり(円未満切捨て)、その合計は379万0897円であると認められる。
(2)ア 損害賠償請求期間のロ号製品の海外向の販売台数が4450台であることは、当事者間に争いがなく、国内向の販売台数は、4002台の限度で当事者間に争いがない。前記(1)イ記載のとおり、ロ号製品の国内向販売台数は、被告の認めた限度によるものというべきである。
イ 前記(1)ウ記載のとおり、ロ号製品の販売価格が、国内向が3万6169円、海外向が3万1884円であることは、当事者間に争いがない。
ウ(ア) 甲第88号証によれば、ロ号製品1台当たりの製造原価は、本体材料費7353円、付属部品材料費3471円、組立調整費3650円、梱包費2000円の合計1万6474円であることが認められる。
(イ) 被告は、被告の全製品についての材料費及び製造経費に、ロ号製品の売上が全製品の売上に占める比率を乗じた金額をもって、ロ号製品の材料費及び製造経費として主張し(同主張に副う証拠として乙第62号証、第82号証を提出している。)、また、ロ号製品の販売額に被告全体の営業利益率を乗じた額をもって、ロ号製品の製造販売による利益と主張する。
しかし、特許法102条2項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から、侵害者において当該侵害行為を構成する商品の製造、仕入、輸入、販売等に必要であった諸経費を控除した金額であると解するのが相当である。したがって、本件において、ロ号製品の製造販売による利益を算出するために控除されるべき経費は、ロ号製品の製造販売に必要な経費である。
ところで、特許権侵害訴訟において、事案によっては、侵害品の製造販売に必要であった経費を直接立証する証拠がなく、その他の商品を含めた被告全体の経費や利益から、侵害品の製造販売に必要であった経費や利益を推定せざるを得ない場合もある。しかし、本件においては、甲第88号証により、ロ号製品のみの製造原価が立証されているから、利益の算出に当たり控除すべき製造原価はそれによるのが相当であり、その他の製品の製造原価等も含む被告全体の経費又は利益の額によるべきではない。なお、被告は販管費の控除を主張し、展示会関係の書証(乙第83ないし第95号証)などを提出するが、それらに要した販管費は、ロ号製品以外の製品のためにも要したものであり、仮に被告が甲特許権及び乙特許権の侵害を避けてロ号製品の製造販売を行わなかったとしてもかかった費用であると推認されるから、ロ号製品の製造販売に必要であった経費とは認められず、これを控除するのは相当でない。
本件において、前記(ア)記載の経費以外に、ロ号製品の販売による利益を算出するために販売価格から差し引くべき経費が存在するとは認められない。
エ ロ号製品1台当たりの利益額は、国内向が1万9695円(3万6169円-1万6474円=1万9695円)、海外向が1万5410円(3万1884円-1万6474円=1万5410円)であると認められる。
オ 損害賠償請求期間におけるロ号製品の製造販売による利益額は、国内向が7881万9390円(1万9695円×4002台=7881万9390円)、海外向が6857万円(1万5410円×4450台≒6857万円。原告は、1万円未満を切り捨てた6857万円の限度で主張する(前記第3、11(1)イ(オ))。)であり、合計1億4738万9390円(7881万9390円+6857万円=1億4738万9390円)であって、この金額が原告の受けた損害額と推定される。
(3) 被告による甲特許権及び乙特許権の侵害相当因果関係にある損害としての弁護士費用及び弁理士費用は、事案の内容、審理の経過等諸般の事情に鑑み、1500万円をもって相当と認めるが、原告は、弁護士費用及び弁理士費用の一部として1000万円を請求しているから、原告の請求はその限度で認められる。
(4)ア 補償金の支払義務は、法律の規定から生ずる債務であり、期限の定めがない債務であるから、請求のときから遅滞に陥るというべきであり、遅延損害金の起算日は、本件訴状送達の日であることが記録上明らかな平成13年2月22日の翌日であると認められる。
イ したがって、原告の請求は、補償金379万0897円、損害額1億4738万9390円及び弁護士費用1000万円の合計1億6118万0287円、並びにうち379万0897円に対する本件訴状送達の日の翌日である平成13年2月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、うち1億5738万9390円に対する最後の不法行為の行われた日である平成16年4月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
12 結論 以上の次第であるから、原告の請求は、主文第1ないし第3項掲記の限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美