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関連審決 無効2008-800211
関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  実質的同一 /  出願公開 /  同一の発明 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  実質的に同一 /  実質的同一性 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10299号 審決取消請求事件
原告 共同カイテック株式会社
訴訟代理人弁護士 高橋隆二
訴訟復代理人弁理士 上野晋
被告 Y
訴訟代理人弁理士 藤本昇
同 薬丸誠一
同 鶴亀史泰
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2008-800211号事件について平成22年8月17日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「植栽設備」とする特許第3979659号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許は,平成9年8月29日出願に係る特願平9-250023号を原出願として,平成18年10月20日に分割出願(特2願2006-286318号)がされ,平成19年7月6日にその設定登録がされた(甲1)。
被告は,平成20年10月20日,本件特許(請求項の数4)を無効にすることを求める審判(無効2008-800211号事件)を請求した。
特許庁は,平成21年4月21日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした。
上記第1次審決に対して被告が提起した取消訴訟(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10136号審決取消請求事件)において,知的財産高等裁判所は,平成22年1月28日,「特許庁が無効2008-800211号事件について平成21年4月21日にした審決を取り消す。」との判決を言い渡し,同判決が確定した。
特許庁は,上記無効審判請求事件についてさらに審理をし,原告から平成22年3月16日付けの訂正請求を受けた後の平成22年8月17日,「訂正を認める。特許第3979659号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第2次審決」という。)をし,その謄本は,平成22年8月26日,原告に送達された。
2特許請求の範囲平成22年3月16日付け訂正請求書(甲19)による訂正(以下「本件訂正」という。)がされた後の,本件出願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」といい,請求項2に係る発明を「本件発明2」という。下線部分は本件訂正に係る部分である。なお,本件訂正後の本件出願に係る明細書を「本件明細書」という。別紙「本件明細書【図1】参考図」,「同【図19】」,「同【図33】」,「同【図34】」及び「同【図43】参考図」参照)。
「【請求項1】底部と側面を有すると共に,該底部近傍に開口部を有する凹型のセルを有するマットフレーム内に植物育成材を設けてなる植栽マットを敷設面に空隙を生じること3なく 複数敷き詰め,該敷き詰めた植栽マット群の外周に框を配設し,該框の被覆部を該框の側壁上端から該植栽マット群側へ突出して設け,該植栽マット群と該框の側壁間の隙間及び 該植栽マット群の外周縁の上端部より該植栽マット群側の領域を該框の該被覆部 で被覆することを特徴とする植栽設備【請求項2】前記框を前記敷設面に固定して配設し,前記框 で前記敷き詰めた植栽マット群の位置ずれを防止することを特徴とする請求項1記載の植栽設備」3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。その判断の概要は,以下のとおりである。
(1)本件訂正の可否本件訂正は,特許請求の範囲減縮を目的としたものであり,本件特許の願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてされたものであって,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものでもないから,これを認める。
(2)分割出願の要件適合性の有無本件発明 1 及び2に係る分割出願は,原出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり,原出願のときにしたものとみなされるから,本件発明 1 及び2が原出願の出願公開公報に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたもの(特許法29条2項の規定に違反して特許されたもの)として無効であるとはいえない。
(3)本件発明1と甲2-1発明との同一性審決は,特開平10-84774号公報(甲2の1。以下「甲2-1」という。)に記載された発明(以下「甲2-1発明」という。)の内容,並びに本件発明1と甲2-1発明との一致点及び相違点,実質的な相違点の有無について,以下のとおり4認定判断した。
ア甲2-1発明の内容(別紙「甲2-1【図1】参考図」参照)「上部が開口した容器状に形成され,その中に用土を入れて植物を植え込むためのプランタ3を載置部4に複数載置し,該載置したプランタ3群の外周に仕切部5を配設し,該仕切部5の突出部5aを該仕切部5の側壁上端から該プランタ3群側へ突出して設け,該プランタ3群と該仕切部5の側壁間の隙間及び該プランタ3群の外周縁の上端部を該仕切部5の該突出部5aで被覆する緑化構造」(審決書13頁1行〜7行)イ一致点「底部と側面を有すると共に,該底部近傍に開口部を有する凹型のセルを有するマットフレーム内に植物育成材を設けてなる植栽マットを敷設面に複数敷き詰め,該敷き詰めた植栽マット群の外周に框を配設し,該框の被覆部を該框の側壁上端から該植栽マット群側へ突出して設け,該植栽マット群と該框の側壁間の隙間及び該植栽マット群の外周縁の上端部を該框の該被覆部で被覆する植栽設備。」(審決書13頁30行〜末行)ウ相違点「(相違点1)植栽マットの敷き詰めについて,本件発明1は『隙間を生じることなく』(判決注;「空隙を生じることなく」の誤記と認める。以下,訂正後の表記のみをする。)なされているのに対して,甲2-1発明ではそのような限定がない点。
(相違点2)框の被覆部の被覆する範囲が,本件発明1では『(植栽マット群の外周縁の)上端部より植栽マット群側の領域』にまで及んでいるのに対して,甲2-1発明では『上端部』までしかない点。」(審決書14頁2行〜8行)エ実質的な相違点の有無に関する判断5「本件発明1の『空隙を生じることなく』とは,潅水装置用空間22以外の箇所で,平面的に形成されて見栄えが良くなるようにマットを敷き詰めることを意味すると解釈できる。
これに対して,甲2-1発明は,・・・プランタを複数載置して花壇のように美しい景観を造り出すものであるから,上記第6の1.(1i)の図1においてプランタの間に隙間が介在しているように見えるものの,同隙間を積極的に生じさせるとは考え難く,できるだけ隙間なく載置していると考えるのが自然である。
そうすると,本件発明1の『空隙を生じることなく』という構成は,甲2-1発明も備えている構成ということができるから,上記相違点1は,実質的な相違点ではない。」(審決書14頁21行〜32行)「甲2-1発明は,・・・仕切部5を設けることにより,植物2を花壇に植えられたかのように見せ,美しい景観を造り出すことができるようにしたものである。
そして,このような甲2-1発明の目的に照らすならば,仕切部5の突出部5aは,上記第6の1.(1g)の『前記仕切部5は,前記プランタ3より高く,かつ,該プランタ3に植えられた植物2を隠さない程度の高さに形成されたもので』との記載事項からして,高さ方向のみではなく,水平方向においても,突出部5aが,プランタ3における植物が上方に突出することを妨害しない範囲内であれば,プランタ3群側に突出してプランタ3と仕切部5の側壁との隙間を被覆することも許容されるものと解され,甲2-1発明は,突出部5aのプランタ3群側への突出がないことを必須のものとすると理解することはできない・・・。
そうすると,甲2-1発明において,突出部5aを『(植栽マット群の外周縁の)上端部より植栽マット群側の領域』まで被覆する構成とすることは,植物を花壇に植えられたかのように見せ美しい景観を造り出すという課題を解決するための,具体化における微差に過ぎないということができるから,上記相違点2は,実質的な相違点ではない。
6以上より,本件発明1と甲2-1発明の間には,相違するところがないから,両者は同一のものである。」(審決書14頁下から2行〜15頁19行)(4)本件発明2と甲2-1発明の同一性本件発明2は,本件発明1に「前記框を前記敷設面に固定して配設し,前記框で前記敷き詰めた植栽マット群の位置ずれを防止する」との発明特定事項を付加したものであるから,本件発明2と甲2-1発明との対比に当たっては,その付加事項のみを検討すれば足りる。
甲2-1発明の「仕切部5」は,本件発明2の框が有する「敷設面に固定して配設」される点,及び,「敷き詰めた植栽マット群の位置ずれを防止する」機能を備えていると認められる。
そうすると,甲2-1発明は,本件発明2の上記付加された事項も包含しており,本件発明2と甲2-1発明は相違するところがなく,両者は同一のものである。
(5) 「以上のとおり,本件発明1及び2は,本件特許出願の日前に出願され且つ本件特許出願後に出願公開された甲2-1発明と同一であり,本件特許発明発明者が甲2-1発明の発明者と同一の者ではなく,本件特許出願の出願人が甲2-1発明に係る特許出願の出願人と同一の者でないから,その特許は,特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであり,無効理由2及び3について検討するまでもなく同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。」(審決書16頁2行〜8行)第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張第2次審決は,本件発明1において植栽マットを空隙を生じることなく複数敷き詰めることと,甲2-1発明においてプランタ3を複数載置することとは,いずれも美しい景観を作り出すとの美的外観上の主観的意図において共通することを根拠として,甲2-1 発明も,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との本件発明 1 の構成を備えているものと認定し,相違点1(「空隙を生じることなく複数敷き7詰め(る)」との限定の有無)は実質的な相違点には当たらないから,本件発明1と,甲2-1 発明とは同一の発明である旨判断した。
しかし,第2次審決の上記判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1)本件発明1の「空隙を生じることなく」の意義についての認定の誤り第2次審決は,本件発明1の「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義について見栄えが良くなるようにマットを敷き詰めることであると認定した。
しかし,第2次審決の上記認定は誤りである。
すなわち,本件発明1は,人工地盤上の植栽を可能にするため軽量で既存の建築物にも適用でき,土壌の管理が容易であり,さらに敷設,撤去に多大な労力,時間やコストを要さない植栽設備を提供することを目的としたものであること(甲19,段落【0006】),そして,本件発明1がマットフレーム内に植物育成材を設けた植栽マットを敷設面に複数敷き詰め,外周をボーダー部材によって配設処理する植栽設備であることなど(甲19,段落【0094】〜【0096】,【0099】)からすれば,本件発明1における「植栽マットを敷設面に空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成は,隣接する植栽マットを空隙なく前後左右の平面全体にわたって連続して敷設する態様を意味するものと認定するのが相当であり,単に見栄えが良くなることを目的としたものではない。また,審決が引用する本件明細書の段落【0064】の記載は,カバー部材25によって得られる平面的な見栄え効果に関する記載であって,植栽マット1を空隙なく複数敷き詰める意図に関する記載ではない。さらに,審決が同様に引用する本件明細書の段落【0094】及び【0058】の記載においても,見栄えが良くなる意図を裏付けるような記載は存在しない。
(2)甲2-1発明のプランタ3間に実質的に空隙がないと認定した誤り第2次審決は,甲2-1の【図1】(別紙「甲2-1【図1】参考図」)上のプランタ3間には空隙が介在しているように見えるとしつつも,図面上のプランタ3間8に空隙を積極的に生じさせるものとは考え難く,できるだけ空隙なく載置していると考えるのが自然であると認定し,実質的には空隙がないと認定した。
しかし,第2次審決の上記認定は,誤りである。
すなわち,まず,甲2-1の【図1】(別紙「甲2-1【図1】参考図」)にあるプランタ3の間には空隙が存在することを否定し得ない。
また,第2次審決は,美観の観点を理由に,甲2-1発明のプランタ3を空隙なく配置することが自然であると認定する。しかし,それは,甲2-1に明記されていない事項である。また,離間して配置する方が美観上優れるとの判断もあり得ることに照らせば,第2次審決の上記判断は極めて主観的な認定であって,失当である。
そして,甲2-1発明におけるプランタ3の敷設態様において,空隙を生じることなく複数敷き詰める状態を実現しようとすれば,載置されている全てのプランタ3を相互に連続させて空隙を生じることなく配置することが必要となるはずである。
しかし,甲2-1発明の目的及び「・・・プランタより高い仕切部を設けることにより,プランタ自体は仕切部によって隠される。」ことを考慮すると,外観から隠されることが予定される複数のプランタ3の全てが空隙なく連続して隣接載置されている必要性はなく,ましてやプランタ3の外観上の美観など考慮する理由もないことからすれば,甲2-1発明において隣接する全てのプランタ3が隣接する空隙を生ずることなく載置されているものと認定することは,不自然である。
また,甲2-1発明におけるプランタ3の取替えによる植替えの容易性の観点からみても(段落【0009】,【0031】,【0033】),プランタ3のみの取替え作業には隣接するプランタ3の間に空隙が存在している状態の方が「植栽を容易に植替えることができる」ことになるから,甲2-1発明における全てのプランタ3が連続して空隙なく載置されているものであるとは理解されない。
なお,被告は,本件発明1についても撤去の容易性に係る記載が本件明細書中にあることをもって甲2-1発明と同じである旨主張する。しかし,甲2-1発明に9おける「植替え」と本件発明1における「撤去」とを同列に論ずることはできないから,被告の上記主張は理由がない。
そうすると,甲2-1発明におけるプランタ3間に介在する空隙は実質的な意味での空隙に相当するものと評価すべきである。
(3)小括以上によれば,プランタ間に空隙のない本件発明1と,空隙のある甲2-1発明とでは実質的に異なる。それにもかかわらず本件発明1と甲2-1発明が実質的に同一であると認定して本件発明1及び2の特許について特許法29条の2の規定に違反してされたものとして特許を無効であるとした第2次審決は違法であるから,取り消されるべきである。
2被告の反論(1)本件発明1の「空隙を生じることなく」の意義についての認定の誤りに対し本件明細書の記載,すなわち,「図33の如く,・・・潅水装置配設用空間22以外の空隙を生じることなく,マットを敷き詰めることができる。」(甲19,段落【0094】),「・・・空間部22に・・・植栽マット1の上端部と同一平面を形成する逆U字型のカバー部材25を給水管24を覆うように設ける。」(段落【0058】),「・・・植栽マット1の上端部と略同一平面を形成するカバー部材25により,植栽マット1による設備が全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなる。」(段落【0064】)との記載によれば,本件発明1は,空隙を生じることなくマットを敷き詰めることにより,(カバー部材25を設けた場合と同様に,)マット全体として平面的に形成されるため,見栄えが良くなることを意図しているものと認められる。
原告は,「空隙を生じることなく」の語句が何を意味するものであるかについて全く主張しておらず,上記の技術的意味が「平面的に形成されて見栄えが良くなるようにマットを敷き詰めることを意味する」ということ以外に,何を意味するものであるのかを理解することができない。
10そうすると,本件発明1の「空隙を生じることなく」複数敷き詰めるとは,第2次審決のとおり,「潅水装置配設用空間22以外の箇所で,平面的に形成されて見栄えが良くなるようにマットを敷き詰めることを意味すると解釈する」のが当然である。第2次審決には,本件発明1の「空隙を生じることなく」の意義についての認定に誤りがあるとする原告の主張は,理由がない。
(2)甲2-1発明のプランタ3間に実質的に空隙がないと認定した誤りに対し甲2-1発明は,プランタを複数載置して花壇のように美しい景観を造り出すものであることが,甲2-1の記載上,明確である(段落【0002】,【0004】,【0007】,【0008】,【0031】)。そして,花壇のように美しい景観を造り出すために,プランタが仕切部によって隠されていることに鑑みると,甲2-1発明においては,プランタの間の空隙をできるだけなくしてプランタを載置する方が美観上自然であると判断するのが当然である。したがって,甲2-1には,プランタの間の空隙をできるだけなくしてプランタを載置することが実質的に開示されているということができ,その開示がないとする原告の主張は理由がない。
甲2-1発明は,隣接するプランタ間の空隙の存否にかかわらず,従来の緑化構造に対して,植栽を容易に植え替えることができるものであるから(段落【0002】,【0003】,【0009】),植替えに係る原告の主張は理由がない。
第4当裁判所の判断当裁判所は,甲2-1 発明も,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との本件発明 1 の構成を備えているから,相違点1(「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との限定の有無)は実質的には相違点に当たらず,本件発明 1 と,甲2-1 発明とは同一の発明であり,特許法29条の2の規定に違反して特許されたものとして本件発明1及び2の特許がいずれも無効である旨判断した第2次審決には誤りがないと判断する。これに反する原告の主張は採用の限りでない。以下,理由を述べる。
111本件発明1の「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」の意義(1)本件明細書の記載本件明細書(甲19)には,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成に関して,以下の記載がある。
「【0052】次に,保水層21を用いて,本発明による植栽マット1を敷設する方法(植栽設備)について説明する。」「【0057】さらに,上記保水層21上に給水管を配設する実施形態について説明する。図19(a)は保水層上に植栽マットを敷設して給水管を配設する場合の平面図,同図(b)は上記実施形態のE-E線断面図である。
【0058】本敷設方法では,敷設面20に平面状の保水層21を形成した後,植栽マット1を敷き詰める際に,隣接する植栽マット1の相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成するように敷き詰める。そして,該空間部22の保水層21上に該空間部22に沿うように給水管24を配設し,該空間部22にマットフレーム2のリブ5,即ち,植栽マット1の上端部と同一平面を形成する逆U字型のカバー部材25を給水管24を覆うように設ける。」「【0064】また,植栽マット1の上端部と略同一平面を形成するカバー部材25により,植栽マット1による設備が全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなる。」「【0090】次に,貯水槽トレー28を用い,給水管24による灌水装置を設ける植栽マット1の敷設方法(植栽設備)について説明する。
【0091】図33は3種類のマットフレームを敷設して給水管配設空間を形成した概念図の一例,図34(a)は3種類のマットフレームを敷設して給水管配設空間を形成した実施形態の平面図,同図(b)はその断面図である。
【0092】本敷設方法は,敷設面20に貯水槽トレー28を敷設した後,植栽マット1を貯水槽トレー28内に敷き詰める際に,植栽マット1の隣接相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成するように敷き詰め,該空間部22に貯水槽12トレー28の側面上端部28a又は切り欠き凹部32(図示せず)で保持して給水管24を配設し,該空間部22の給水管24の上方から,マットフレーム2のリブ5と略同一平面を形成するカバー部材25を設けるものである。・・・」「【0094】図33の如く,給水管配設用空間部22を形成したときに曲がり部22aを有する場合,所定の大きさである1種類の貯水槽トレー28を敷き詰めた後,その貯水槽トレー28内に給水管配設用空間部22を形成し得る3種類の大きさのA,B,Cのマットフレーム2を組み合わせて敷設することにより,潅水装置配設用空間22以外の空隙を生ずることなく,マットを敷き詰めることができる。」(2)「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」の意義本件明細書の上記記載によれば,【図19】(別紙「本件明細書【図19】」)には「保水層21を用いて,本発明による植栽マット1を敷設する方法(植栽設備)」(段落【0052】)であって,「上記保水層21上に給水管を配設する実施形態」(段落【0057】)が示され,その実施例は,「隣接する植栽マット1の相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成するように敷き詰める。そして,該空間部22の保水層21上に該空間部22に沿うように給水管24を配設し,該空間部22にマットフレーム2のリブ5,即ち,植栽マット1の上端部と同一平面を形成する逆U字型のカバー部材25を給水管24を覆うように設ける。」(段落【0058】。別紙「本件明細書【図34】参照」)もので,「植栽マット1の上端部と略同一平面を形成するカバー部材25により,植栽マット1による設備が全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなる。」(段落【0064】)ものである。
また,【図33】(別紙「本件明細書【図33】」,同【図34】参照)には,「貯水槽トレー28を用い,給水管24による潅水装置を設ける植栽マット1の敷設方法」(段落【0090】)に関し,「3種類のマットフレームを敷設して給水管配設空間を形成した概念図の一例」(段落【0091】)が示されており,その実施例は,「植栽マット1の隣接相互間に所用経路の給水管配設用空間部22を形成するように敷き詰め,該空間部22に・・・給水管24を配設し,該空間部22の給水管24の13上方から,マットフレーム2のリブ5と略同一平面を形成するカバー部材25を設けるものである。」(段落【0092】)ところ,「潅水装置配設空間22以外の空隙を生じることなく,マットを敷き詰めることができる。」(【0094】)ものである。
このように,本件発明1の上記実施例は,「給水管配設空間部」を「カバー部材」により覆うことにより,全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなるとの効果を生じるとするものである。すなわち,「カバー部材」を用いずに「給水管配設空間部」のような空隙を生じさせた場合には,全体として平面的に形成されず,見栄えが悪くなると解される。以上のとおり,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義は,全体として平面的に形成され,見栄えが非常に良くなることを意味しているものといえる。本件明細書には,同記載部分を除いて,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義に関する記載はない。
2甲2-1発明のプランタ3の載置の意義(1)甲2-1の記載甲2-1には,プランタ3の配置について,以下の記載がある。
「【0002】【背景の技術】建物の屋上,バルコニー等を緑化する場合,例えば,レンガ,ブロック,コンクリート等で枠組みをして,この枠組内に庭土を投入して均し,ここに植栽を施したり,あるいは,前記屋上やバルコニーに,単に,植物が植えられたプランタ等を適当に配置したりしている場合が多い。
【0003】【発明が解決しようとする課題】ところが,前者の場合,庭土はそれが多量になると,庭土をバルコニー等にクレーン等を利用して搬入しなければならないので,かなり大掛かりなものとなり,また,庭土を入れた場合,そこに植栽を施したり,また,それを植替るのに手間がかかっていた。一方,後者の場合,植物が植えられたプランタ等を適当に配置しているだけであり,しかもプランタ自体が見えるので,雑然としたイメージとなり易く,花壇のような景観の美しいものとするのは困難であった。
【0004】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので,建物の屋上,バルコニ14ー等を容易に緑化するとともに,景観の美しいものとすることができるバルコニー等の緑化構造を提供することを目的としている。
【0005】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の請求項1のバルコニー等の緑化構造は,例えば図1に示すように,バルコニーまたは屋上の床面1を防水処理し,この防水処理した床面上の一部に,植物2が植えられたプランタ3を載置し,このプランタ3が載置された載置部4と,その他の床面1aとの境界部に,前記プランタ3より高い仕切部5を設けたものである。」「【0007】前記仕切部5は,前記プランタ3より高く,かつ,該プランタに植えられた植物2を隠さない程度の高さに形成されたもので,前記境界部に沿って延在するようにして設けられる。・・・【0008】請求項1のバルコニー等の緑化構造にあっては,バルコニーあるいは屋上の床面1の一部に設けられた載置部4に,植物2が植えられたプランタ3を載置することによって,該プランタ3自体は前記仕切部5によって隠され,一方,プランタ3に植えられた植物2は仕切部5から上方に突出しおり(判決注;「突出しており」の誤記と認める。),しかも,該植物2は仕切部5によって,載置部4以外の床面1aから分離しているので,あたかも花壇に植えられた植物のように美しい景観となる。」「【0024】前記仕切部5は,前記プランタ3より高く,かつ,該プランタ3に植えられた植物2を隠さない程度の高さに形成されたもので,前記境界部に沿って延在するようにして設けられている。また,前記仕切部5は,図1に示すように,内部が中空に形成された樹脂製のもので,その上部には,前記載置部4側に突出する突出部5aが,仕切部5の長手方向に延在するようにして形成されており,この突出部5aによって,仕切部5と,前記載置部4に該仕切部5と隣接して配置されたプランタ3との隙間を隠すようになっている。さらに,前記仕切部5の下面側には段部5bが形成されており,この段部5bには,前記床面1に敷設された床材10の縁部が挿入されて,該床材10の縁部の見切りが行われるとともに,段部5b15を床材10に当接させることで,仕切部5が床面1上に,倒れることなく安定的に設けられている。」「【0031】上述したように,本例のバルコニー等の緑化構造によれば,バルコニーの床面の一部に設けられた載置部4に,植物2が植えられたプランタ3を載置することによって,図8に示すように,該プランタ3自体は前記仕切部5によって隠され,一方,プランタ3に植えられた植物2は仕切部5から上方に突出しているので,該植物2を観賞することができ,しかも,該植物2は仕切部5によって,載置部以外の床面1aから分離しているので,あたかも花壇に植えられた植物2のように観え,美しい景観を造りだすことができる。また,前記載置部4に,植物2が植えられたプランタ3を載置するだけでバルコニー容易に植栽を施すことができ,また,プランタ3を取り替えるだけで,植栽を容易に植替ることができる。」また,甲2-1の【図1】ないし【図5】(別紙「甲2-1【図1】参考図」及び「甲2-1【図4】参考図」参照)においても,プランタ3が整然と載置されている様子が認められる。なお,【図1】(別紙「甲2-1【図1】参考図」参照)においては,仕切部5とプランタ3との間の隙間よりも,プランタ3相互の間の空隙の方が狭く記載されている。
(2)甲2-1の「載置」の意義上記記載によれば,甲2-1発明は,従来の屋上,バルコニー等の緑化においては,植物の植えられたプランタ等を適当に配置することから,プランタも同時に見えることによって,美しい景観にすることが困難であるという課題を解決するため,プランタよりも高い仕切部を設けるものとし,プランタ3自体は仕切部5によって隠される一方,プランタ3に植えられた植物2は仕切部5から上方に突出しているので,該植物2を観賞することができ,しかも,該植物2は仕切部5によって,載置部以外の床面1aから分離しているので,あたかも花壇に植えられた植物のように観え,美しい景観を造りだすことができるものである。そして,【図1】(別紙「甲2-1【図1】参考図」参照)においては,仕切部5とプランタ3との間の隙間よ16りも,プランタ3相互の間の空隙が狭く記載されており,隣り合うプランタ3の間に空隙を生じさせることが積極的に意図されるものであるとは認められない。
3相違点1の実質的同一性に係る判断上記によれば,本件発明1における植栽マットを「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成の技術的意味は,給水管配設用空間部22を形成し得るような「空隙」が生じないというものであって,植栽設備が全体として平面的に形成され,その見栄えが非常に良くなるとするものである。他方,甲2-1発明の緑化構造も,雑然としたイメージを排除して花壇のような美しい景観を造り出すように載置するものであって,本件発明1の植栽設備と同様の美観上の効果を有するものであることに照らせば,甲2-1発明の緑化構造は,本件発明1の「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成を備えるものであるといえる。
そうすると,相違点1(「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との限定の有無)は実質的な相違点に当たらず,本件発明 1 と,甲2-1 発明とは同一の発明であり,特許法29条の2の規定に違反して特許されたものとして本件発明1及び2の特許がいずれも無効である旨判断した第2次審決には誤りがないということができる。
4原告の個別的主張に対する判断(1)本件発明1の「空隙を生じることなく」の意義の認定の誤りについて原告は,本件発明1における「植栽マットを敷設面に空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」との構成について,隣接する植栽マットを空隙なく前後左右の平面全体にわたって連続して敷設する態様を意味すると認定するのが相当であり,単に平面的な見栄えの良好性を意図したものであるとした第2次審決の認定は,誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。すなわち,本件明細書には,「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義を明確に説明した記載がないところ,前記1(1)の本件明細書の記載によれば,前記1(2)で説示したとおり,本件発17明1における「空隙を生じることなく複数敷き詰め(る)」ことの意義は,全体として平面的に形成され,その見栄えを非常に良くすることに尽きるものであると認められるから,これと同旨の第2次審決の認定に誤りがあるとはいえない。
(2)甲2-1発明のプランタ3間に実質的に空隙がないと認定した誤りについて原告は,甲2-1発明のプランタ3間には実質的に空隙がないと認定した第2次審決が誤りであると主張し,その根拠として,?甲2-1の【図1】(別紙「甲2-1【図1】参考図」)にあるプランタ3間には空隙が存在する,?美観の観点からは甲2-1発明のプランタ3を空隙なく配置することが自然であるとした第2次審決の認定は,甲2-1に明記されていない事項に基づく認定である,?甲2-1発明においては,外観から隠されることが予定される複数のプランタ3の全てが空隙なく連続して隣接載置されている必要性はなく,また,プランタ3の一側面は既に隠れているのであるから,側面の外観上の美観を考慮する理由もない,?植替えの容易性の観点からみても(段落【0009】,【0031】,【0033】),甲2-1発明における全てのプランタ3が連続して空隙なく載置されるものであるとは理解されない,植替えと撤去とは異なるから,この点について本件明細書中に撤去の容易性に係る記載があることをもって甲2-1発明と本件発明1が同じであるとする被告の主張は理由がない,と主張する。
しかし,原告の上記各主張は,いずれも採用の限りでない。
すなわち,まず,?甲2-1の【図1】(別紙「甲2-1【図1】参考図」)にあるプランタ3間に空隙が図示されている点については,前記2(1)説示のとおり,それは,仕切部5とプランタ3との間の隙間よりも,狭く図示されており,隣り合うプランタ3の間に空隙を生じさせることを積極的に意図したものであるとは認められないから,その図示をもって実質的な意味での空隙の存在を認めることができるとの原告の主張は採用の限りでない。
次に,?前記説示のとおり,甲2-1記載の緑化構造は,あたかも花壇に植えら18れた植物のように観え,美しい景観を造りだすことができるものであるから,その美観上甲2-1発明のプランタ3はできる限り空隙なく配置することの方が自然であるとした第2次審決の認定には誤りがなく,これを誤りであるとする原告の上記主張は採用の限りでない。
また,?甲2-1発明では,プランタ3が仕切部5によって,既に隠されている以上,プランタ3間の空隙があっても構わないはずであるとする原告の主張については,甲2-1 発明の【図1】参考図において仕切部5によりプランタ3を隠すように図示しているのは,美観上の効果を考慮したものであって,そのような美観上の観点から,プランタ3間の空隙をできる限り設けないものとする技術思想は,甲2-1発明に示されていると解するのが合理的であるから,原告の上記主張は採用することができない。
さらに,?本件明細書の発明の詳細な説明においても,「本発明は,軽量で既存の建築物にも適用でき,土壌の管理が容易である。更に,分解可能な軽量資材で組み立てることが可能であり,その敷設や撤去時に,極めて容易かつ短時間にコストをかけず敷設や撤去を行うことができ,不使用時の管理も容易である。」(甲19,段落【0012】)との記載があり,甲2-1発明においても,植替えの容易性に関して同様の記載があることからすれば(段落【0009】,【0031】,【0033】),「敷設撤去」(本件発明1)と「植替え」(甲2-1発明)との間に実質上の差異はないものと認めるのが相当である。すなわち,本件発明1においても,甲2-1においても,植栽マット又はプランタを利用すること自体には言及がされていても,その植栽マット又はプランタ間の空隙と,敷設撤去又は植替えの容易性との関係には何ら説明がされていないことに照らせば,敷設撤去又は植替えの容易性にとって重要であるのは植栽マット又はプランタを利用することであって,甲2-1発明のプランタ間の空隙については,美観上の目的に反しない範囲内のものであれば足りると解されることにより本件発明1との実質上の差異はないといえるから,植替えの容易性を根拠に両者が異なるとする原告の上記主張は採用の限りでない。
195結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子