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関連審決 不服2007-15678
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  寄せ集め /  周知技術 /  公知技術 /  技術常識 /  パリ条約 /  優先権 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  国際出願 /  国際公開 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10124号 審決取消請求事件
原告 マイクロ ・モーション ・インコーポレーテッ ド
訴訟代理人弁護士 鈴木修
同 岡本義則
同 星埜正和
訴訟代理人弁理士 田中英夫
被告 特許庁長官
指定代理人 江塚政弘
同 岩崎伸二
同 越川康弘
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2007−15678号事件について平成21年12月15日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求 主文同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成12年9月26日,発明の名称を「コリオリ流量計の本質的に安全な信号調整装置」とする発明について特許出願(特願2001-532063号。パリ条約による優先権主張平成11年10月15日,米国)をし,平成15年8月6日(明細書全文について,甲9)及び平成19年2月7日(明細書の特許請求の範囲について,甲10),その手続補正をした。
特許庁は,平成19年3月5日,上記補正後の請求項1ないし50記載の発明のうち,請求項45ないし50記載の発明については特許を受けることができないとして,本件の特許出願に対して拒絶査定をした(甲13)。
これに対し,原告は,平成19年6月6日,不服の審判(不服2007-15678号事件)の請求をし,同年8月16日付けで,審判請求書の請求の理由の記載を補正する手続補正書を提出した(甲11)。
特許庁は,平成21年12月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年12月28日,原告に送達された。
2特許請求の範囲平成19年2月7日付け手続補正書(甲10)による補正後の本件出願に係る明細書(以下,図面も併せて「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項45の記載は,次のとおりである(以下,請求項45に係る発明を「本願発明」という。別紙「本願明細書【図2】【図3】組合せ参考図」参照)。
「【請求項45】流量計信号処理システムであって,信号調整装置(201)と,前記信号調整装置(201)に遠隔結合されたホスト・システム(200)と,を具備し,前記信号調整装置(201)と前記ホスト・システム(200)とが本質的に安全な閾値内で動作し,前記信号調整装置(201)が,流量計組立体(10)に結合された流量計組立体保護回路(330)と,前記ホスト・システム(200)に結合されたホスト側保護回路(320)とを備える流量計信号処理システム。」3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下のとおりである。
(1) 審決は,以下のとおり,特開平8-166272号公報(以下「引用例」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)の内容,並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を認定した上,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであると判断した。
ア引用発明の内容「信号処理部20と,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29と,CPU30とを具備した,コリオリ流量計に適用される装置であって,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30は,信号処理部20に接続されており,信号処理部20は,スイッチ21,22と,演算増幅器24と,ツェナーバリアユニット25,26と,ヒューズ27,28とを具備し,コリオリ流量計1は,内側チューブ3,外側チューブ4,内側抵抗PTR9,外側抵抗PTR10,駆動部6,検出器7,8とを具備するものにおいて,信号処理部20は本質安全防爆であり,信号処理部20には,本質安全防爆となるため,スイッチ21,22を設け,内側抵抗PTR9又は外側抵抗PTR10を切換えることにより,1つの演算増幅器24と,1つのツェナーバリアユニット25およびヒューズ27を設け,また,CPU30から出力されるコントロール信号に対してもツェナーバリアユニット26,ヒューズ28が取り付けられ,信号処理部20は,コリオリ流量計1の内側抵抗PTR9,外側抵抗PTR10,駆動部6,検出器7,8と接続されており,信号処理部20のツェナーバリアユニット25,26とヒューズ27,28は,端子D,Eを介して,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30に接続されており,温度信号は演算増幅器24に入力され増幅され,演算増幅器24から出力されたアナログ温度信号は,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29によってディジタル信号に変換されCPU30に入力され,CPU30からはコントロール信号が出力されてスイッチ21又は22が切り換えられることにより内側チューブ3の温度と外側チューブ4の温度信号を切換え,各々の温度信号がCPU30に取り込まれ,CPU30は各々の温度に従ってコリオリ流量計1で計測された質量流量の補正が行われ出力される,コリオリ流量計に適用される装置。」(審決書6頁21行〜7頁11行,別紙「引用例【図2】参考図」参照)イ一致点「流量計信号処理システムであって,信号調整装置(201)と,前記信号調整装置(201)に」「結合された(判決注下線部分は削除されるべき誤記と認める。)ホスト・システム(200)と,を具備し,前記信号調整装置(201)と前記ホスト・システム(200)とが本質的に安全な閾値内で動作し,前記信号調整装置(201)が,流量計組立体(10)に結合された」部分「 と(判決注各下線部分は削除されるべき誤記と認める。),前記ホスト・システム(200)に結合されたホスト側保護回路(320)とを備える流量計信号処理システム。」(審決書12頁31行〜13頁1行)ウ相違点「《相違点1》『信号調整装置(201)』と『ホスト・システム(200)』の『結合』が,本願発明では『遠隔』であるのに対して,引用発明では特定されていない点。
《相違点2》『信号調整装置(201)が』『備える』,『流量計組立体(10)に結合された』部分が,本願発明では『流量計組立体保護回路(330)』であるのに対して,引用発明では特定されていない点。」(審決書13頁3行〜10行)(2) 相違点に係る容易想到性について,以下のとおり判断した。
「(1)まず,上記相違点1について検討するに,『信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする』点は,以下に示すように流量計の技術分野において周知技術である。
例えば,特表平4-505506号公報の図24には,『メータエレクトロニクス20n』(『信号調整装置』に相当)と『遠隔ホストコンピュータ80』(『ホスト・システム』に相当)が『デファレンシャル線83』で遠隔結合されている点が記載されている。
また,特表平6-508930号公報の12頁左下欄15〜25行,図2には,『計器回路20』(『信号調整装置』に相当)と『遠隔積算計』,『遠隔測定装置』(『ホスト・システム』に相当)が『リード線26』で遠隔結合されている点が記載されている。
更に,特表平2-500537号公報の7頁右上欄3〜15行,図6には,『計器電子回路20』(『信号調整装置』に相当)と『遠隔の計算機』(『ホスト・システム』に相当)が『リード線282』で遠隔結合されている点が記載されている。
よって,引用発明に上記周知技術を適用して,引用発明の『信号処理部20』と『(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30』の『結合』を遠隔と特定することは,当業者において容易に想到し得るものと認められる。
(2)次に,上記相違点2について検討するに,『信号調整装置が備える,流量計組立体に結合された部分を,流量計組立体保護回路にする』点は,例えば,原査定の拒絶の理由において引用された,特開平6-281485号公報(主に【図5】の『本質安全防爆バリア回路18』参照),特開平6-288806号公報(主に【図3】の『本質安全防爆バリア回路26』参照),及び特開平8-35872号公報(主に【図5】の『本質安全防爆バリア回路16』参照)に記載されているように,流量計の技術分野において周知技術である。
よって,引用発明に上記周知技術を適用して,引用発明の『信号処理部20』が『コリオリ流量計1』に『接続』された部分を流量計組立体保護回路と特定することは,当業者において容易に想到し得るものと認められる。
(3)また,本願発明の効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲を超えるものとまではいえない。」(審決書13頁13行〜14頁11行)第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,容易想到性判断の誤り(取消事由1)及び手続違背(取消事由2)がある。
(1) 取消事由1(容易想到性判断の誤り)ア取消事由1-1(引用発明の認定の誤り)(ア) 【図2】に記載された構成要素以外の構成を含む何らかの「装置」の開示があると認定した誤り審決は,引用例の記載事項について,「(1)段落【0020】に記載の『図2は,本発明のコリオリ流量計に適用される変換器の一例を示す回路ブロックであり,図中,20は信号処理部,・・・,29は(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部,30はCPUであり,・・・』から,引用例のものは『信号処理部20と,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29と,CPU30を具備した,コリオリ流量計に適用される装置』についてのものであるといえる。」(審決書4頁29行〜34行)と認定した。
しかし,上記審決でいう「引用例のもの」とは何を示しているのか曖昧である。仮に,「コリオリ流量計に適用される装置」について,【図2】に記載された変換器及びPTR9,PTR10の温度検出素子以外の技術的な構成要素を付加した装置として認定しているとするならば,審決のその認定は,引用例の記載に基づかないものとして,誤りである。
引用発明については,「信号処理部20と,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29と,CPU30とからなる,コリオリ流量計に適用される変換器」と認定すべきである。
(イ)信号処理部20自体が本質安全防爆であると認定した誤り審決は,引用例の段落【0024】の「本発明においては,信号処理部20は本質安全防爆となるため」との記載から,引用発明においては「信号処理部20は本質安全防爆である」(審決書5頁12行〜14行)と認定した。
しかし,審決の上記認定は誤りである。すなわち,「本発明においては,信号処理部20は本質安全防爆となるため,図2に示す変換器回路を構成し・・・」との記載(甲1,段落【0024】)は,爆発性の環境下にあるコリオリ流量計1(流量計組立体)の内側チューブ及び外側チューブに設けられた内側温度検出器9,外側温度検出器10に対し,過大な電流,電圧が伝わらないようにツェナーバリアユニット及びヒューズを設置する信号処理部20の回路構成を採用することを記載したものであり,「信号処理部20」それ自体が本質安全防爆であることを記載したものではない。本質安全防爆化の対象は,センサユニットの各温度検出素子に繋がる信号ラインである。よって,「信号処理部20」それ自体が本質安全防爆であるとした審決の前記認定は誤りである。
イ取消事由1-2(一致点認定の誤り)(ア)「コリオリ流量計に適用される装置」が「流量計信号処理システム」に相当するとした一致点認定の誤り審決は,「引用発明の『コリオリ流量計に適用される装置』は,本願発明の『流量計信号処理システム』に相当する。」(審決書7頁21行,22行)と認定した。
しかし,審決の上記認定は誤りである。すなわち,流量計信号処理システムであるというためには,流量計組立体に設けられた流管の振動を検知するピックオフセンサーや流管の温度を測定する温度センサからの信号を処理するシステムでなければならないところ,引用発明の信号処理部20,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29,CPU30は,温度検出素子からの信号を増幅し,A/D変換した後,補正を行うにすぎないものであり,ピックオフセンサーからのピックオフ信号を処理するものではないので,流量計信号処理システムには相当しない。
(イ)「信号処理部20」が「信号調整装置(201)」に相当するとした一致点認定の誤り審決は,引用発明の「信号処理部20」が,本願発明の「信号調整装置(201)」に相当するとした(審決書7頁27行,28行)。
しかし,審決の上記認定は,誤りである。
aすなわち,本願発明の「信号調整装置(201)」は,従来の流量計電子装置が行う,駆動信号を生じ,かつセンサからの信号を処理するという機能を果たすものである。これに対し,引用発明の「信号処理部20」は単に温度センサからの信号をA/D変換部へ伝える機能を有するにすぎないから,本願発明の信号調整装置(201)には相当しない。
bまた,審決は,引用発明の「信号処理部20」が本願発明の信号調整装置(201)に相当する理由として,引用発明における演算増幅器24による「増幅」が本願発明の「調整」に含まれると認定した(審決書7頁24行以下)。
しかし,その認定は誤りである。すなわち,引用発明の明細書の段落【0023】によれば,引用発明の演算増幅器24は,アナログ温度信号を出力する前提として,温度信号である電圧を大きくするとの意味での「増幅」を行うものにすぎない。他方,本願発明の信号調整装置(201)の「調整」とは,多数のケーブルにより送られる信号を2芯のケーブルで伝送し得る程度に加工することを意味する。したがって,引用例の「増幅」は,本願発明の「調整」には該当しない。
これを「調整の一態様」であるとした審決の認定は誤りであり,これを前提に引用発明の「信号処理部20」が,本願発明の「信号調整装置(201)」に相当するとした審決の認定は誤りである。
(ウ)(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30がホスト・システム(200)に相当するとした一致点認定の誤り審決は,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30を合わせたものを,ホスト・システム(200)に相当すると判断した(審決書10頁18行〜23行)。
しかし,審決の上記認定は,誤りである。すなわち,引用例は,信号処理部20と(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29及びCPU30を合わせたものを,コリオリ流量計に適用される変換器としているから,引用発明においては,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29及びCPU30が,1つの変換器の一部をなしているといえる。
そうすると,この1つの変換器を二つに分けるという発想はないから,(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29及びCPU30を信号処理部20から分離独立させ,本願発明のホスト・システムに相当するものとする開示や示唆はないといえる。
(エ)信号調整装置(201)とホスト・システム(200)が本質的に安全な閾値内で動作するとした一致点認定の誤り及びホスト側保護回路(320)を備えるとした誤り審決は,本願発明と引用発明が,「前記信号調整装置(201)と前記ホスト・システム(200)とが本質的に安全な閾値内で動作」(審決書12頁26行,27行)する点で一致すると認定した。
しかし,審決の上記認定は,誤りである。
a引用例には,信号処理部20に,A/D変換部29及びCPU30側からの過大な電流や電圧が温度検出素子へ伝達しないように,ツェナーバリアユニットやヒューズを設けることが記載されているものの,信号処理部20からA/D変換部29,CPU30側へのケーブルに対し過大な電流,電圧を載せないための構成がないから,A/D変換部,CPU側の保護回路を有しているとはいえない。
bまた,引用発明の信号処理部20を含む変換器は,爆発性の環境ではなく,安全な場所に配置されることを前提としているから,そのように安全な場所に配置される変換器の内部において「本質的に安全となるように保護回路を設ける」必要性は,全くない。
c過電流及び過電圧に対応して,ツェナー及びヒューズを設ける場合,電流及び電圧が流れ込む方向に対して,最初にヒューズを設け,その次にツェナーを設けないと過電圧及び過電流を防ぐことができないから,【図2】から分かるヒューズ及びツェナーの配置は,A/D変換部29及びCPU30側からの過大な電流や電圧が信号処理部20を通して温度検出素子の信号線に加わるのを防ぐために設けられていることを,端的に示しているといえる。
ウ取消事由1-3(相違点の看過) 審決には,上記引用発明の認定及び一致点の認定の誤りの理由において述べた相違点を看過した違法があり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。
エ取消事由1-4(周知技術の認定の誤り)(ア)「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との周知技術の認定の誤り審決は,?特表平4-505506号公報(甲2)の記載(図24),?特表平6-508930号公報の記載(甲3,12頁左下欄15行〜25行,図2),?特表平2-500537号公報の記載(甲4,7頁右上欄3行〜15行,図6)を根拠にして,「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術内容が周知技術であると認定した(審決書13頁13行〜27行)。
しかし,審決の上記認定は,誤りである。すなわち,本願発明のホスト・システムに相当する周知技術であるとするためには,基本的に従来の流量計電子装置の一部としての機能を有しなければならないが,流量計電子装置から得られるデータを受けて,その後の作業を実施する一般的なホストコンピュータを示すにすぎない甲2ないし4のものは,流量計電子装置の一部としての機能を有するものではないから,これらから本願発明のホスト・システムと信号調整装置の遠隔結合に係る周知技術を認定することはできない。
甲2の図24(別紙「甲2,図24」参照)は,流量計組立体(メータ組立て)とこれに一対一対応したメータエレクトロニクスの複数を遠隔ホストコンピュータにネットワーク接続して構成されたシステム全体を示したものである。これに対し,本願発明は,従来の流量計電子装置を,信号調整装置とホスト・システムに分離するという技術思想に基づくのであるから,甲2の「遠隔ホストコンピュータ」は本願発明の「ホスト・システム」に該当しない。また,従来の流量計電子装置である「メータエレクトロニクス20」は,本願発明の「信号調整装置」にも,「ホスト・システム」にも当たらない。
(イ)「信号調整装置が備える,流量計組立体に結合された部分を,流量計組立体保護回路にする」との周知技術の認定の誤り審決は,?特開平6-281485号公報(甲5,【図5】の「本質安全防爆バリア回路18),?特開平6-288806号公報(甲6,【図3】の「本質安全防爆バリア回路26」),?特開平8-35872号公報(甲7,【図5】の「本質安全防爆バリア回路16」)記載の3つの技術的事項を根拠として,「信号調整装置が備える,流量計組立体に結合された部分を,流量計組立体保護回路にする」点は,周知技術であると認定した(審決書13頁32行〜14頁6行)。
しかし,審決の上記認定は誤りである。甲5ないし7記載の技術は,爆発性の環境下に置かれた素子に対し,安全な環境下にある一般回路から過大な電流や電圧が伝わらないように,バリア回路を設けることにより,本質安全防爆構造とした従来技術を開示するものにすぎない。これに対し,本願発明の信号調整装置201の流量計組立体側保護回路は,流量計組立体に近接して配置された信号調整装置201が,爆発性の環境下におかれる場合であっても本質的に安全であるために必要な回路であって,甲5ないし7記載の安全な場所に置かれた「本質安全防爆バリア回路」に対応するものではない。このように,甲5ないし7には,本願発明の流量計組立体側の保護回路が開示されていないから,審決の周知技術に係る上記認定は誤りである。
オ取消事由1-5(特許法29条2項の判断の誤り) 前記のとおり,審決の周知技術の認定には誤りがあるから,その周知技術を用いた審決の特許法29条2項に係る判断にも誤りがある。引用発明と,審決が認定した2つの周知技術との組合せの動機付けが不明である上,引用発明は変換器を安価にすることを目的としているから,審決認定の2つの周知技術と組み合わせることを妨げる阻害事由がある。
(2) 取消事由2(手続違背)ア拒絶理由通知の記載の不十分さ拒絶理由通知には,出願に係る発明と対比する引用発明の内容,対比判断の結果である一致点及び相違点,相違点に係る出願発明の構成を容易に想到し得るとする根拠が具体的に記載されることが要請されている(特許庁の特許実用新案審査基準,第IX部 審査の進め方 第2節 各論 4.2拒絶理由を行う際の留意事項 (6)参照)。
平成18年8月2日付け拒絶理由通知書(甲12)の記載は,「コリオリ流量計の防爆回路技術を適宜利用するものでしかない」などとする抽象的な記載にとどまっており,?出願に係る発明と対比する引用発明の内容,?対比判断の結果である一致点及び相違点,?相違点に係る出願発明の構成を容易に想到し得るとする根拠がいずれも具体的に記載されておらず,拒絶理由の通知として要請されている記載の程度を満たしていない。よって,特許法159条2項が準用する特許法50条に基づき,審決は取り消されるべきである。
拒絶査定と異なる理由付けに係る新たな拒絶理由通知の欠如 拒絶査定不服審判において,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由で審決をする場合には,新たに拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,出願人に意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項が準用する特許法50条)。
しかし,本件においては,拒絶査定が主引用例を定めずに公知技術寄せ集めであることを理由として拒絶していた。これに対し,審決は,公知技術の1つである特開平8-166272号公報(甲1)を主引用例とし,周知文献を副引用例としており,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由により審決をする場合に当たる。それにもかかわらず,甲1を主引用例とする新たな拒絶理由通知がされず,出願人である原告に対しても意見書提出の機会が与えられなかったから,審決には手続違背の違法がある。
周知技術及び周知文献に係る意見書提出の機会の欠如本件の拒絶理由通知拒絶査定においては,「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」点及び「信号調整装置が備える,流量計組立体に結合された部分を,流量計組立体保護回路にする」点がいずれも周知技術であるとは記載されていなかった。また,審決がそれらを周知技術であると認定した文献も示されておらず,原告に意見を述べる機会が与えられていなかった。上記の各周知技術は,「引用発明にない構成」を開示するものとして審決が用いており,単に特許法29条1項,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する推論過程において参酌する技術として用いられたものではないから,新たな拒絶理由通知をして原告に意見を述べる機会(反論,補正,分割等の機会)を与えるべきであり,これを欠いた審判の手続には審決を取り消すべき違法がある。
2被告の反論(1) 取消事由1(容易想到性判断の誤り)に対しア取消事由1-1(引用発明の認定の誤り)に対し(ア) 【図2】に記載された構成要素以外の構成を含む何らかの「装置」の開示があると認定した誤りに対し審決にいう「引用例のもの」とは,信号処理部20とA/D(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30とを具備し,コリオリ流量計に適用される装置を意味するから,審決の認定に誤りはない。CPU30で補正され出力された質量流量及び密度値の信号を,表示,又はデータ加工等を処理する機器に入力するように構成することは,CPUを利用した計測装置の趣旨目的にかんがみれば当業者が当然に首肯し得る技術的事項であるといえる。
(イ)信号処理部20自体が本質安全防爆であると認定した誤りに対し技術常識のほか,引用例(甲1)の段落【0024】の記載によれば,演算増幅器24の出力側にツェナーバリアユニット25及びヒューズ27が接続され,定電圧源であるVREFにもツェナーバリアが取り付けられており,「信号処理部20」を構成する電気回路における電圧,電流がツェナーバリアユニットやヒューズにより規定された条件に制限され,爆発性雰囲気に点火するエネルギーをもった火花が発生しないようにされているから,信号処理部20自体が本質安全防爆であるとの審決の認定に誤りはない。
イ取消事由1-2(一致点認定の誤り)に対し(ア)「コリオリ流量計に適用される装置」が「流量計信号処理システム」に相当するとした一致点認定の誤り引用例(甲1)の段落【0013】,【0020】,【0021】及び【0025】の記載によれば,引用発明として認定した「コリオリ流量計に適用される装置」が具備する信号処理部20,A/D(アナログ-ディジタル)変換部29,及びCPU30が,コリオリ流量計1に設けられた,内側温度検出素子(内側抵抗PTR)9,外側温度検出素子(外側抵抗PTR)10からの信号を処理することに加えて,コリオリの力を検出する検出器7,8(ピックオフセンサー)からの信号(ピックオフ信号)に対しても,増幅,A/D変換との処理をしていることは,当業者であれば容易に認識し得る。よって,引用発明の「コリオリ流量計に適用される装置」が本願発明の「流量計信号処理システム」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
(イ)「信号処理部20」が「信号調整装置(201)」に相当するとした一致点認定の誤りに対しa「信号処理部20」が「信号調整装置(201)」に相当しない理由として原告が主張する事項,すなわち,?本願発明の「信号調整装置(201)」が,当然に駆動装置に対する駆動信号を与え,センサからの信号を調整して,ホスト・システム(200)へ2芯ケーブルで伝送し得るようにする機能を有すること,?本願発明の信号調整装置(201)の「調整」とは,多数のケーブルにより送られる信号を2芯のケーブルで伝送し得る程度に加工することを意味することは,いずれも特許請求の範囲の請求項45の記載に基づかない主張であるから,失当である。
b引用発明における「信号処理部20」は,「内側温度検出素子(内側抵抗PTR)9,外側温度検出素子(外側抵抗PTR)10や検出器7,8」からの入力信号を,「A/D変換部29及びCPU30」で適正に処理できるように,演算増幅器で増幅して,「A/D変換部29及びCPU30」に出力しているから,入力信号を適宜な信号強度に「調整」しているといえる。そして,センサ一般の技術分野において,センサからの出力の増幅や変換は,「シグナルコンディショニング」とも言われる周知技術であり(乙1,633頁の左欄3行〜右欄18行),引用発明の「信号処理部20」が実行する「増幅」は,「シグナルコンディショニング」である。
他方,本願発明の「信号調整装置(201)」は,本願の国際出願であるPCT/US00/26420の明細書に記載された「a signal conditioner 201」(国際公開01/29519号・乙3,9頁12行)の日本語訳である。
そうすると,引用発明における「信号処理部20」は,「内側温度検出素子(内側抵抗PTR)9,外側温度検出素子(外側抵抗PTR)10や検出器7,8」からの入力信号の増幅,すなわち「シグナルコンディショニング」を行うものであって,本願発明の「信号調整装置(201)」に相当する。
(ウ)A/D変換部29とCPU30がホスト・システム(200)に相当するとした一致点認定の誤りに対しa引用発明の「(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29及びCPU30」は,伝送線を介して接続されてはいるものの,「信号処理部20」から分離されている。よって,A/D変換部29及びCPU30を信号処理部20から分離独立させ,本願発明のホスト・システムに相当するものとする開示や示唆がないとする原告の主張は失当である。
b引用発明の「(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30」は,信号処理部20に設けたスイッチ21,22をコントロール信号により切り換えることにより,コリオリ流量計1の内側チューブ3の温度信号と外側チューブ4の温度信号を切り換えて演算増幅器24に入力させて,増幅された各々の温度信号を(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29を介して取り込んだCPU30が,各々の温度信号を基にコリオリ流量計1からの信号に由来するデータの補正という情報処理を行っている(甲1,段落【0022】,【0023】)。
そして,一般に「ホスト」とは,「処理すべき仕事の中枢部分を担当する」装置を意味すること(「新版電気工学ハンドブック」・乙4,1282頁,左欄10行〜14行)に照らすと,本願発明の流量計信号処理システムを構成する信号調整装置(201)とホスト・システム(200)において,該ホスト・システム(200)が,信号処理の中枢部分を担当するいわゆる「ホスト」である。他方,引用発明の信号処理部20と(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30とを具備したコリオリ流量計に適用する装置において,該(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30とが,情報処理の中枢部分を担当するいわゆる「ホスト」である。よって,引用発明の「A/D(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30」は本願発明の「ホスト・システム(200)」に相当するものであり,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
(エ)信号調整装置(201)とホスト・システム(200)が本質的に安全な閾値内で動作するとした一致点認定の誤り及びホスト側保護回路(320)を備えるとした誤りに対しa引用例においては,演算増幅器24の出力信号をA/D変換部29,CPU30へ送出するに当たり,ツェナーバリアユニット25及びヒューズ27により,信号処理部20からA/D変換部29(CPU30)側に対する過電流,過電圧からの保護,及び,ツェナーバリアユニット26,ヒューズ28により,CPU30側から信号処理部20に対する過電流,過電圧からの保護が示唆されており,信号処理部20と,A/D変換部29及びCPU30は,ツェナーバリアユニット及びヒューズにより,本質的に安全な閾値内で動作しているといえる。
b引用例(甲1)には,信号処理部20を含む変換器が,防爆危険区域に配置されるのか,安全な場所に配置されるのかについての示唆はなく,その配置場所を特定することはできない。よって,引用発明の信号処理部20を含む変換器が安全な場所に配置されることを前提として審決の認定を誤りであるとする原告の主張は,その前提を認めることができないから,理由がない。
c引用発明のツェナーバリアユニット25,26やヒューズ27,28は,本願発明の「ホスト側保護回路(320)」に相当する。
ウ取消事由1-3(相違点の看過)に対し審決における引用発明の認定及び一致点の認定には誤りがないから,審決が認定した相違点に看過はなく,原告の主張は失当である。
エ取消事由1-4(周知技術の認定の誤り)に対し(ア)「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との周知技術の認定の誤りに対し甲2には,「流量計において,信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術内容が記載されている。
aまず,甲2には,「実質的にノイズに無感なコリオリ質量流量計」(発明の名称)に関する発明が記載されており,審決が引用した図24は,遠隔ホストコンピュータとコリオリ保管移送計量システムとの連絡を示す図である(別紙「甲2,図24」参照)。そして,図24には,メータエレクトロニクスと遠隔ホストコンピュータとを備えた質量流量を計測するシステムにおいて,メータエレクトロニクスと遠隔ホストコンピュータとの結合が遠隔結合であることが示されている。
そして,甲2記載の「メータエレクトロニクス」は,本願発明の「信号調整装置」に相当する。すなわち,図24には,例えば,左端にあるメータシステム1を例に採ると,そのメータシステム1の構成要素であるメータエレクトロニクス201(以下,単に「メータエレクトロニクス」という。)が,同じく構成要素であるメータアセンブリ101(本願発明の「流量計組立体」に相当する。)と接続1001を介して結合され,また,メータエレクトロニクス201は,出力インターフェースRS485を有し,遠隔ホストコンピュータ80と2ワイヤ差動ライン83を介して結合されていることが図示されている。そして,「メータエレクトロニクス」と呼称されていることから,「メータエレクトロニクス」は,メータアセンブリ101からの信号を何も加工せずそのまま遠隔ホストコンピュータへ送出するものではなく,種々の電子回路から構成され,メータアセンブリ101からの信号を処理し,該信号に由来するデータを遠隔ホストコンピュータへ送出する処理装置であるといえる。また,流量計に限らず,一般的に,センサーの信号強度は微弱であり,センサーから出力される信号強度そのままでは,センサーの信号を離れた場所に正確に伝送したり,センサーの信号を適正にデータ処理することが,困難であるから,メータアセンブリ101からの信号は,メータエレクトロニクスが具備する電子回路によって適宜増幅や変換等の処理(シグナルコンディショニング)をするものであるといえる。よって,甲2の「メータエレクトロニクス」は,本願発明の「信号調整装置」に相当する。
また,甲2の「遠隔ホストコンピュータ」は,本願発明の「ホスト・システム」に相当する。すなわち,メータエレクトロニクスは,アセンブリ101からの信号を処理し,メータアセンブリ101からの信号に由来するデータを遠隔ホストコンピュータへ送出する処理装置である。そして,一般に,コンピュータの機能は,入力される信号やデータを情報処理することであるから,図24に示された「質量流量を計測するシステム」が備える「遠隔ホストコンピュータ」は,メータエレクトロニクスから出力される信号を情報処理する中枢部分であって,本願発明の「ホスト・システム」の機能を奏する。よって,甲2記載の「遠隔ホストコンピュータ」は,本願発明の「ホスト・システム」に相当する。
そうすると,甲2の図24に図示された流量計において,「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術的事項を認定することができる。
b基本的に従来の流量計電子装置の一部としての機能を有するものに限るという原告主張の本願発明のホスト・システム(200)の機能については,請求項45には何らの記載も示唆もなく,また自明な技的術事項であるともいえないから,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,失当である。
(イ)「信号調整装置が備える,流量計組立体に結合された部分を,流量計組立体保護回路にする」との周知技術の認定の誤りに対し特開平8-35872号公報(甲7)に記載された「流量計測回路14が備えるセンサユニット15に結合された部分にある,本質安全防爆バリア回路16」は,本願発明の「信号調整装置(201)が備える流量計組立体保護装置」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
特開平8-35872号公報(甲7)の流量計測回路14は,本質安全防爆バリア回路16を具備し,該本質安全防爆バリア回路16は,センサユニット15の各センサの信号を本質安全防爆化する電圧電流制限素子(ツェナーダイオード,抵抗等よりなる)を有し,「本質安全防爆バリア回路16」が有する電圧電流制限素子により,センサユニット15(本願発明の「流量組立体」に相当する。)の各センサに入出力する信号の電圧・電流が制限され,センサユニット15が流量計測回路14からの過大な電圧・電流から保護されている(甲7,段落【0001】,【0015】,【0017】,【0036】〜【0038】,【0040】,【0041】,【0044】,【図1】,【図5】)。してみると,甲7に記載された「本質安全防爆バリア回路16」は本願発明の「流量計組立体保護回路」に相当する。また,流量計測回路14は,励振・時間差検出回路17により,励振信号とセンサユニットからの検出信号との時間差を検出し(段落【0037】,【0038】),ヤング率・V/F変換回路18により,温度センサ21の信号を増幅し,時間差信号(電圧値)をパルス化し(段落【0037】,【0040】),出力回路19により,ヤング率・V/F変換回路18からのパルス化された時間差信号をアナログ信号に変換して増幅する機能を有する(段落【0037】,【0041】)。そうすると,流量計測回路14は,本願発明の「信号調整装置(201)」と同様に信号の調整という機能を有する回路であり,本願発明の「信号調整装置(201)」に相当する。
なお,本願発明の信号調整装置(201)が爆発性の環境下に置かれることを前提として,甲5ないし7記載の「本質安全防爆バリア回路」が安全な場所に置かれるのとは異なるとする原告の主張は,上記の前提が本願発明に係る特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから,失当である。
オ取消事由1-5(特許法29条2項の判断の誤り)に対し 前記のとおり,審決の周知技術の認定には誤りがなく,本件発明の効果は当業者が予測し得るものであって,特許法29条2項に係る審決の判断には誤りがないから,原告の主張は理由がない。
(2)取消事由2(手続違背)に対しア拒絶理由通知の記載の不十分さに対し 特許法50条には,拒絶理由通知の記載の程度についての規定はなく,拒絶理由通知において引用した文献の記載から認定した引用発明について,どの程度詳しく記載すべきか,また,本願発明と引用発明との一致点,相違点の認定を記載すべきか否か,記載するにしてもどの程度詳細に記載するかは,事案に応じて審査官が裁量の範囲内で決定し得る事項である。
本件においては,原告提出の意見書(乙5)によれば,原告は,審査官が通知した先の拒絶理由通知で引用した特開平8-166272号公報等の4件の引用例に関して,各引用例の記載の発明の内容,本願発明と上記各引用発明との一致点及び相違点,当該相違点に係る本願発明の容易想到性に関して,具体的に主張しているから,審査官が通知した拒絶理由の趣旨が十分に原告に伝わり,例えば原告がその対応に苦慮するほどの瑕疵が先の拒絶理由通知にはなかったといえるから,審査官の裁量の範囲内でした本件の拒絶理由通知に違法な手続違背があるとはいえない。
拒絶査定と異なる理由付けに係る新たな拒絶理由通知の欠如に対し本願発明に係る拒絶査定の理由(甲13)は,平成18年8月2日付け拒絶理由通知書(甲12)記載のとおりであり,本願発明は,4つの刊行物に共通して記載された「コリオリ流量計の防爆回路技術の発明」から容易に想到できるとの理由である。本願発明の進歩性を否定する理由の根拠となる主引用例は,先の拒絶理由通知書(甲12)に記載された4つの刊行物,すなわち,?特開平8-166272号公報(甲1),?特開平6-281485号公報(甲5),?特開平6-288806号公報(甲6),?特開平8-35872号公報(甲7)のいずれかの刊行物であるといえるから,本件の拒絶査定において,特開平8-166272号公報(上記?,甲1)を主引用例として,本願発明が容易想到であるとした理由を含んでいる。また,審決は,本願発明が容易想到であるとした理由は,特開平8-166272号公報(甲1)に基づくものであるから,原審の拒絶査定の理由と審決の理由に不一致はなく,新たな拒絶理由通知をしなくとも手続違背にはならない。
周知技術及び周知文献に係る意見書提出の機会の欠如に対し「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする技術」は,特許法29条1項,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を是認する推論過程において参酌されるありふれた技術といえるものであるから,拒絶理由通知,拒絶査定に,それらが周知技術であることが記載されず,審決が,甲2ないし4を初めて提示したとしても,原告に対する不意打ちといえるものではなく,手続違背にはならない。
「信号調整装置が備える,流量計組立体に結合された部分を,流量計組立体保護回路にする技術」については,本件出願の審査手続において,審査官が公開特許公報を引用した拒絶理由を出願人に通知しているから,手続違背はなく,原告の主張は理由がない。
第4当裁判所の判断 事案にかんがみ,先に,取消事由2「周知技術及び周知文献に係る意見書提出の機会の欠如」に係る手続違背の有無について判断する。当裁判所は,以下のとおり,審決には,新たな拒絶理由通知をして原告に意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,同手続を怠った瑕疵があり,審決は,特許法159条2項,50条に違反するものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1審査手続の経緯及び審決の内容証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)本願明細書の記載等本願明細書には,以下の記載がある。
ア従来技術においては,?流量計の電子装置(駆動信号を生じ且つセンサからの信号を処理するのに必要な全ての回路を含む)を流量計組立体に接続するためには,高価な特注品である「9芯ケーブル」を用いる必要がある,?流量計電子装置は,揮発性物質を含む爆発性の環境で使用される場合があるため,その全体を防爆型ハウジング内に封入すること等が必要である,との2つの解決課題があった(甲9,5頁16行〜45行。別紙「従来技術のイメージ図」参照)。
イしかし,本願発明の解決手段によれば,この2つの課題を解決することができる。すなわち,?流量計電子装置20を,「ホストシステム200」と,「信号調整装置201」に物理的に分割し,「流量計組立体」と「流量計を駆動する信号調整装置」とを近接させる構成を採用することにより,「ホストシステム」と「信号調整装置」との間を比較的安価で入手の容易な2芯ケーブル又は4芯ケーブルで接続することができるようになる。また,?本質的に安全であるのに必要な所要のエネルギ及び(又は)電力の閾値よりも低い電力レベルで働く信号調整装置を用いた上,保護回路を設ける構成を採用することにより,信号調整装置を防爆型ハウジング内に密閉する必要がなくなる(甲9,6頁4行〜7頁19行。別紙「本願明細書【図2】【図3】組合せ参考図」参照)。
(2)審査手続の経緯ア拒絶理由通知の記載内容審査手続において発せられた平成18年8月2日付け拒絶理由通知(甲12)の記載内容は,次のとおりである。
「この出願の補正後の請求項1〜22に係る全発明は,特開平6-281485号公報や,特開平6-288806号公報や,特開平8-35872号公報や,特開平8-166272号公報に記載された,コリオリ流量計の防爆回路技術を適宜利用するものでしかないのであって,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」イ原告の意見書(乙5)の記載内容原告が記載した平成19年2月7日付け意見書(乙5)の内容は,次のとおりである。
「・・・審査官殿が引用された特開平6-281485号公報(以下,第1引用例という)には,出力回路21と,減衰率検出回路23と,センサユニット17に接続されたバリア回路18と,電源回路22とを有する制御装置14が記載されている。
同じく御引用の特開平6-288806号公報(以下,第2引用例という)及び特開平8-35872号公報(以下,第3引用例という)は,電源回路30(20)とバリア回路26(16)を一部として含み,センサユニット25(15)と他の構成要素との間にバリア回路を配置した演算装置16(流量計計測回路14)を記載している。
さらに,特開平8-166272号公報(以下,第4引用例という)には,CPU30に対するインターフェースの部分にツェナーバリアユニット25,26のツェナーバリアダイオードを設けた信号調整装置が記載されている。
・・・そこで,本願の独立請求項に記載された発明(以下,独立請求項の発明という)と第1引用例〜第4引用例に記載された事項とを比較すると,第1引用例における電源回路22は出力回路21から遠隔に配置されてはおらず,また,ホスト側保護回路によって出力回路と結合されるものでもない。
また,第2引用例及び第3引用例における電源回路30(20)も演算装置16(流量計計測回路14)から遠隔に配置されてはおらず,また,ホスト側保護回路によって演算装置に結合されるものでもない。
最後に,第4引用例には流量計組立体保護回路,ホスト・システム,ホスト側保護回路など全く記載されていない。
・・・以上,要するに,独立請求項の発明は,各独立請求項に記載された構成要件を有機的に結合して本質安全な流量計電子装置を提供するという所期の目的を達成するものであるところ,第1引用例〜第4引例のいずれも,独立請求項の発明の必須の構成要件を記載も示唆もしていないと言わざるを得ない。したがって,第1引用例〜第4引例に記載された事項に基づいて独立請求項の発明を想到することは当業者にとって困難であり,独立請求項の発明は進歩性を有すると思量する。その当然の帰結として,本願の従属請求項に記載された発明も進歩性を有する。・・・」ウ拒絶査定の記載内容審査官がした平成19年3月5日付け拒絶査定(甲13)の記載内容は,次のとおりである。
「この出願は,平成18年8月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由により,拒絶をすべきものである。
なお,意見書並びに手続補正書には,拒絶理由を覆す根拠がない。
拒絶理由通知に対する補正後の請求項45〜50の発明は,上記理由により,特許を受けることができない。
拒絶理由通知に対する補正後の請求項1〜44の発明は,上記理由では,拒絶することができない。
上記理由に引用された刊行物である特開平6-281485号公報の【図5】や,特開平6-288806号公報の【図3】や,特開平8-35872号公報の【図5】には,流量計と信号処理回路との間に保護回路を設けることが示されている。また,上記理由に引用された刊行物である特開平8-166272号公報の【図2】や段落【0024】【0025】には,信号処理回路の流量計と反対側の回路接続部に,ツェナーバリアユニット等の保護回路を設けることが記載されている。
よって,拒絶理由通知に対する補正後の請求項45〜50の六発明は,上記公知技術寄せ集めの域を出ていない。」(3)審決における相違点1に係る容易想到性判断の内容 審決の相違点1に係る容易想到性判断の内容は,前記第2,3(2)記載のとおりである。
「(1)まず,上記相違点1について検討するに,『信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする』点は,以下に示すように流量計の技術分野において周知技術である。
例えば,特表平4-505506号公報の図24には,『メータエレクトロニクス20n』(『信号調整装置』に相当)と『遠隔ホストコンピュータ80』(『ホスト・システム』に相当)が『デファレンシャル線83』で遠隔結合されている点が記載されている。
また,特表平6-508930号公報の12頁左下欄15〜25行,図2には,『計器回路20』(『信号調整装置』に相当)と『遠隔積算計』,『遠隔測定装置』(『ホスト・システム』に相当)が『リード線26』で遠隔結合されている点が記載されている。
更に,特表平2-500537号公報の7頁右上欄3〜15行,図6には,『計器電子回路20』(『信号調整装置』に相当)と『遠隔の計算機』(『ホスト・システム』に相当)が『リード線282』で遠隔結合されている点が記載されている。
よって,引用発明に上記周知技術を適用して,引用発明の『信号処理部20』と『(A/D)(アナログ-ディジタル)変換部29とCPU30』の『結合』を遠隔と特定することは,当業者において容易に想到し得るものと認められる。・・・」2 判断本件では,審決において,本願発明と引用発明との相違点1に係る「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術的構成は,周知技術であり(甲2ないし4),本願発明は周知技術を適用することによって,容易想到であるとの認定,判断を初めて示している。
ところで,審決が,拒絶理由通知又は拒絶査定において示された理由付けを付加又は変更する旨の判断を示すに当たっては,当事者(請求人)に対して意見を述べる機会を付与しなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情がある場合はさておき,そのような事情のない限り,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項,50条)。そして,意見書提出の機会を与えなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情が存するか否かは,容易想到性の有無に関する判断であれば,本願発明が容易想到とされるに至る基礎となる技術の位置づけ,重要性,当事者(請求人)が実質的な防御の機会を得ていたかなど諸般の事情を総合的に勘案して,判断すべきである。
上記観点に照らして,検討する。
本件においては,?本願発明の引用発明の相違点1に係る構成である「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする技術」は,出願当初から「信号調整装置201から離れた位置のホスト・システム200」(甲8,【請求項1】),「信号調整装置201から遠隔位置のホスト・システム200」(甲8,【請求項14】)などと特許請求の範囲に,明示的に記載され,平成19年2月7日付け補正書においても,「信号調整装置(201)に遠隔結合されたホスト・システム(200)」と明示的に記載されていたこと(甲10,【請求項45】),?本願明細書等の記載によれば,相違点1に係る構成は,本願発明の課題解決手段と結びついた特徴的な構成であるといえること,?審決は,引用発明との相違点1として同構成を認定した上,本願発明の同相違点に係る構成は,周知技術を適用することによって容易に想到できると審決において初めて判断していること,?相違点1に係る構成が,周知技術であると認定した証拠(甲2ないし4)についても,審決において,初めて原告に示していること,?本件全証拠によるも,相違点1に係る構成が,専門技術分野や出願時期を問わず,周知であることが明らかであるとはいえないこと,?原告が平成19年2月7日付けで提出した意見書においては,専ら,本願発明と引用発明との間の相違点1を認定していない瑕疵がある旨の反論を述べただけであり,同相違点に係る構成が容易想到でないことについての意見は述べていなかったこと等の事実が存在する。
上記経緯を総合すると,審決が,相違点1に係る上記構成は周知技術から容易想到であるとする認定及び判断の当否に関して,請求人である原告に対して意見書提出の機会を与えることが不可欠であり,その機会を奪うことは手続の公正及び原告の利益を害する手続上の瑕疵があるというべきである。
同瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼす違法なものといえる。
この点,被告は,相違点1に係る構成は,容易想到性判断の推論過程において参酌されるありふれた技術であるから,審決が,甲2ないし4を初めて提示したとしても,原告に対する不意打ちとはいえないと主張する。しかし,相違点1に係る上記構成が推論過程において参酌されたありふれた技術にすぎないか否かは,結局,被告独自の見解にすぎないのであって,何ら論証されていないのであるから,そのような論拠に基づいて,原告に対して意見書提出の機会を要しないとする主張は,採用の限りでない。のみならず,審決において,相違点1に係る上記構成を採用することが容易であるとの判断内容は,主要な理由の1つとして記載されているのであり,そうである以上,推論過程について参酌された技術にすぎないことをもって意見書提出の機会を与える必要がないとする被告の主張は,根拠を欠く。
3結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事由2(手続違背)は理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)「従来技術のイメージ図」「本願明細書【図2】【図3】組合せ参考図」遠隔結合近接流量計組立体保護回路ホスト側保護回路防壁(保護回路)流量計組立体流量計電子装置(駆動信号を生じ且つセンサからの信号を処理するのに必要な全ての回路を含む)9芯ケーブル「引用例【図2】参考図」「甲2,図24」コリオリ流量計信号処理部温度検出素子ツェナーバリアユニットとヒューズ温度信号増幅切換信号
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子