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関連審決 不服2008-6589
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  発明が不明確 /  補正要件 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10051号 審決取消請求事件
原告X
同訴訟代理人弁理士 田代攻治
被告特 許庁長官
同 指定代理人堀川一郎大 河原裕岩崎伸二豊田純一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/10/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2008-6589号事件について,平成22年1月4日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲9)及び拒絶査定発明の名称:「振動発生装置」出願日:平成17年2月2日特許出願(請求項の数9)出願番号:特願2005-56554手続補正日:平成18年6月20日(請求項の数9。甲10。以下,同日の補正を「第1回補正」という。)最初の拒絶理由通知日:平成19年4月11日(甲13)手続補正日:平成19年6月25日(請求項の数1。甲3。以下,同日の補正を「第2回補正」という。)最後の拒絶理由通知日:平成19年8月13日(甲6)手続補正日:平成19年10月22日(請求項の数1。甲11。以下,同日の補正を「第3回補正」という。)第3回補正の却下決定日:平成20年2月5日(甲4)拒絶査定日:平成20年2月5日(甲5)(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年3月17日(不服2008-6589号事件)手続補正日:平成20年4月11日(請求項の数3。甲2。以下,同日の補正を「第4回補正」という。)審決日:平成22年1月4日本件審決の結論:第4回補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成22年1月15日2本願発明の要旨本件審決が判断の対象とした第2回補正後及び第4回補正後の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。以下,第2回補正後の特許請求の範囲請求項1に記載された発明を「本願発明」ということがある。なお,願書に最初に添付した明細書及び図面(甲9)を「当初明細書等」,本願発明に係る明細書(甲3)を「本件明細書」という。
(1)本願発明(第2回補正後の特許請求の範囲請求項1に記載された発明)請求項1:胴体部の両側にシャフトを突出した振動モーターの両端に偏重心の分銅を備え,該分銅は振動モーター胴体部の中心点を中心とし,その両側のシャフトに略対称に取り付けた振動発生器において,発生する振動幅の設定は,該胴体部と分銅間の該間隔を変えて,発生する振動の大きさを決めて,該分銅の取り付け位置を設定し,又,その間隔は軸方向の幅の二分の一以上とする事を特徴とする振動発生装置(2)第4回補正後の特許請求の範囲請求項1ないし3に記載された発明ア請求項1:胴体部の両側にシャフトを突出させた振動モーターの両端に偏重心の分銅を備え付け,前記分銅は,前記胴体部の中心点を中心としてその両側の前記シャフトに略対称に取り付けた振動発生装置において,前記胴体部と前記分銅の間隔を変えると前記装置が発生する振動幅の大きさが変わるという特性を利用し,前記間隔を,所望の大きさの振動幅が得られる間隔に対応する間隔に調節して成ることを特徴とする振動発生装置イ請求項2:前記胴体部と前記各分銅との間の間隔は,前記各分銅の前記シャフトの軸方向の幅の略3分の2以上である,請求項1に記載の振動発生装置ウ請求項3:前記分銅は断面半円形状で,その両端角部に丸みを持たせた形状である,請求項1又は2に記載の振動発生装置3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,?第4回補正は,第2回補正による特許請求の範囲の請求項の数を1項から3項に増加させるものであるから,第4回補正の目的は,平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下「法」という。)17条の2第4項各号のいずれの事項にも該当しないから却下を免れず,?第2回補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない上,本願発明は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていないから,法49条1項1号及び4号に該当し,同条1項本文の規定により拒絶をすべきものである,というものである。
4取消事由(1)第4回補正を却下した判断の誤り(取消事由1)(2)本願発明を拒絶した判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(第4回補正を却下した判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)補正却下について本件審決は,第2回補正による特許請求の範囲の請求項の数が1項であるのに対し,第4回補正では請求項の数が3項に増加しているとして,法17条の2第4項違反を理由に,第4回補正を却下した。
しかしながら,この判断には誤りがあり,本件審決は取り消されるべきである。
すなわち,第2回補正は,平成19年8月13日付け拒絶理由通知書(甲6)により補正要件違反を指摘されているため,本来であれば補正を却下されることによって以降の補正の基礎となるものではない。第2回補正が却下されれば,第2回補正の前となる第1回補正に係る特許請求の範囲が第4回補正の基礎とされるべきである。第1回補正による特許請求の範囲は請求項の数が9項であるから,第4回補正により請求項の数は3項に減少しており,第4回補正は,法17条の2第4項違反とはならない。
(2)対象となる発明の認定について本件審決は,以下のとおり,発明の認定を誤ったものである。
すなわち,第2回補正は,補正違反を指摘されたものであり,本願発明は,審理の対象とはなり得ないものである。さらには,前記(1)のとおり,本件審決の補正却下の決定が誤りであって,第4回補正が審理の対象となるべきである。
(3)被告の主張に対する反論ア平成5年の特許法改正によって,最初の拒絶理由通知を受けた場合の補正が補正要件に違反するものである場合には,拒絶理由とすることで補正却下の対象とされないものとなったため,いわば「不純物」は排除されないものとなり,これを正しいものとする前提で次のステップに進むこととなる。これではもはや本来あるべき補正制度の「浄化作用」であるとはいえないし,認められないはずの補正を加えた出願を補正後の出願とみなすこと自体に矛盾がある。補正要件違反がありながら,その実質的に存在価値のない補正を出願に織り込んでおいて,この違反を含んだままの出願を以降の判断の基準にする被告の主張は,発明者の保護の観点を無視するものである。
17条の2第4項2号括弧書にいう「その補正前の当該請求項に記載された発明」とあるのは,「その補正前の有効に継続する当該請求項に記載された発明」という意味であって,これは「その補正前の直前になされた補正に係る当該請求項に記載された発明」と機械的に解釈すべきではない。現在の被告のプラクティスでは,「不純物」が排除されることのない平成5年の特許法改正による状況変化を全く無視して,「その補正前の当該請求項に記載された発明」を以前と全く同様に「その補正前の直前にされた補正に係る当該請求項に記載された発明」と一方的に解釈し,発明者の権利を不当に害している。平成5年の特許法改正では,最初の拒絶理由通知までの補正が補正要件に違反している場合にはこれを拒絶理由の対象とすべきことを定めたまでであって,当該補正違反を含む補正を以降の補正の基礎とすべしなどとはどこにも規定していない。被告の主張は,発明者保護はおろか,補正制度の本来の趣旨すらをも無視する勝手な解釈に基づくものである。
本件審決では,最後に行った第4回補正が,その直前の補正である第2回補正に対して補正要件を満たしていないとするものである。しかしながら,第2回補正は,直前の補正であるとはいいながら補正要件違反であると指摘されたものであり,本来ならば補正却下されるべきものであって,法改正後においても少なくとも有効に継続する出願の一部とみなされるべきものではない。したがって,第4回補正の基礎はそれよりも一つ前となる第1回補正と見るべきであり,第2回補正を基礎とする被告の判断は誤ったものである。
イ第2回補正は,この補正は認められないと被告自身が判断したものであり,認められないとした補正を含む本願発明を審理の対象とすることはできない。第4回補正は第1回補正を基礎として判断されるべきであり,その結果に基づいて本件では第4回補正による特許請求の範囲が審理の対象とされるべきである。
〔被告の主張〕(1)補正却下についてア拒絶査定不服審判を請求する場合において,特許請求の範囲についてする補正が,法17条の2第4項2号の特許請求の範囲減縮に該当しない場合,審判官は決定をもって補正を却下しなければならない(法53条,159条)。
最後の拒絶理由に対する補正(第4回補正)が,法17条の2第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは,当該補正を却下するとの規定は,法53条にはあるが,最後の拒絶理由を通知する対象となった補正(第2回補正)を却下するとの規定は,法53条にはなく,その他の条文にもない。
イよって,第4回補正が,法17条の2第3項から第5項までの規定に違反しているか否かを判断するための基準となる補正は,第1回補正ではなく,第2回補正であり,第2回補正後の請求項と第4回補正後の請求項とは,一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
しかしながら,第2回補正により,請求項の数が1項となったものが,第4回補正では請求項の数が3項となっているから,第2回補正後の請求項と第4回補正後の請求項とは,一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものとは認められず,第4回補正を却下した判断には誤りはない。
(2)対象となる発明の認定についてア前記(1)のとおり,第4回補正が,法17条の2第3項から第5項までの規定に違反しているか否かを判断するための基準となる補正は,第1回補正ではなく,第2回補正であり,第2回補正後の請求項と第4回補正後の請求項とは,一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものとは認められず,第4回補正を却下した判断に誤りはない。
イまた,第4回補正が却下されたので,審理の対象を第2回補正に係る本願発明とした判断に誤りはない。
2取消事由2(本願発明を拒絶した判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)軸方向の幅について本件審決は,「軸方向の幅」とは何の軸方向の幅を意味するのかが特定されておらず,例えばモーター胴体部の軸方向幅と解することも排除していないと指摘する。
しかし,第2回補正による本願発明の請求項1全体の記載をみれば,この「軸方向の幅」は分銅の幅であることが容易に理解できる。上記請求項1は振動発生装置における分銅の構成を主に規定するものであり,文頭における分銅のシャフトへの取り付け,偏重心とした仕様,略対称との配置,取り付け位置等,主体は分銅に係る構成を定義するものである。しかも,当初明細書添付の図1(c2)の表示から,「軸方向の幅」を「モータ胴体部の軸方向の幅」とした場合には,胴体部と分銅との間隔が「軸方向の幅の二分の一」にも満たないものとなって請求項の記載と整合しないことが明らかであることからも,本件審決の指摘は当てはまらない。本件審決で指摘された「モータ胴体部」は,主に分銅との相対関係のために記載されるものであって,主体が分銅であることに変わりはないことから,ここでいう「軸方向の幅」も「分銅の軸方向の幅」と理解するのが最も自然である。他に軸方向に相当する対象物もないことからも,ここでいう「軸方向の幅」は,「分銅の軸方向の幅」と理解すべきである。
(2)新規事項について本願発明の目的は,「より大きな振動幅を得ることができる振動発生装置を実現すること」にある。特定な臨界点で所望振動幅の効果が得られれば,本願発明ではそれをさらにより大きなものとすることを求めていることは明らかである。臨界点が幅方向の2分の1であるとすれば,本願発明の趣旨からしてこれをより大きな振動を目指した「二分の一以上」とすることは,当初明細書等(甲9)全体から読み取り得る内容であり,当業者にも容易に理解できるところである。臨界点を「軸方向の幅の二分の一」とすることについては審査官も認めているところであるが,「軸方向の幅の二分の一」に限定して解釈しなければならないとすれば,発明者の意図に反して発明の技術的範囲を不当に狭くするものである。当初明細書等において図1(b2)に加えて,モーター胴体部と分銅の間の間隔のみを延長させ,間隔を分銅の軸方向の幅の2分の1以上に表した状態の別の図面(c2)をわざわざ追加して出願当初の請求項3としたものであり,【0011】の作用効果の記載をも考慮すれば,法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
(3)被告の主張に対する反論ア大小関係を誤って描いた図面が含まれるような信頼度の低いことが明らかとなっている図面のみに基づいて寸法や角度等を認定することは困難であるとしても,それが一般にどのケースにも当てはまるわけではない。
出願人が図面を描く主な目的は,その発明に係る物品の構成を視覚的に明らかにして発明の理解を促進させることにある。したがって,通常はその構成を示す部分の図面が1つあれば事足りるものとなる。これに対して本件では,その構成を示す図1(甲9)において,(b2)に示す構成に対して,全く同一の構成ながらモーター胴体部と分銅との間隔のみを長くした(c2)をわざわざ追加している。そして,その長くすることの内容とこれによる振動増幅の特有の効果を,当初明細書等の【0010】【0011】に明記している。すなわち,図1(c2)は,前記間隔を長くすることそのものを表示する目的として追加された図面である。
イ「軸方向の幅」について,被告は未だ軸方向の幅が何であるか不明であると主張するが,本件審決において,「軸方向の幅」がモーター胴体部の軸方向の幅ではないと認識していることを明瞭にしていることと,矛盾する。図1(c2)において,軸方向の幅があるのは,モーター胴体部か分銅かのいずれしかなく,その他の要素は存在しない。したがって,モーター胴体部を否定しているのであれば,残りは分銅しかなく,「軸方向の幅」は分銅の軸方向の幅であると特定できることは明らかである。
図1(c2)からは,モーター胴体部と分銅の間隔がモーター胴体部の軸方向の幅の2分の1よりもはるかに短く描かれており,請求項1にいう「軸方向の幅の二分の一以上」がモーター胴体部の軸方向の幅では条件を満たさないことは明らかである。意味が不明であるならば,特許法70条2項に基づき明細書の記載及び図面を考慮すべきであるし,図面を考慮することによって原告の主張は極めて明瞭に理解されるはずである。
加えて,原告は上記の「軸方向の幅」がモーター胴体部と分銅の軸方向の幅であることを繰り返し主張してきている。第2回補正と同日に提出した意見書には,補正後の請求項1を引用して説明した箇所において,当該間隔が分銅の軸方向の幅の2分の1以上であることを明瞭に記載している(甲7)。第3回補正においては請求項1に「該分銅の軸方向の幅の略二分の一」と明示し,同日提出した意見書において「分銅の軸方向の幅の二分の一」に関して詳細説明をすると同時に参考図を添付し,その参考図の中で分銅の幅を「w」,モーター胴体部と分銅の間隙を「d」として,両者の間が「d≧w/2」の関係にあることを明示している(甲8)。
被告は,仮に「軸方向の幅」がモーター胴体部の「軸方向の幅」であっても上記作用効果を奏するから,「軸方向の幅」が分銅以外の物の「軸方向の幅」であることは排除されていないなどと主張するが,図1(c2)の表示においてモーター胴体部と分銅の間隔がモーター胴体部の軸方向の幅の2分の1を明瞭に下回っており,被告の主張は全く根拠のない,いいがかりにすぎない。
ウ当初明細書等に添付した図面において,モーター胴体部と分銅の間隔は,分銅の軸方向の幅の2分の1を明瞭に含む図1(c2)が提供されている。特許法70条の規定を適用すれば,この表示によって当業者は臨界点を認識するはずであり,そして,【0011】の記載から,該間隔は広範囲を意味しており,図1(c2)からモータ胴体部と分銅の間隔は分銅の軸方向の幅の2分の1以上であると認識するはずである。
〔被告の主張〕(1)軸方向の幅についてア請求項1には,「その間隔は軸方向の幅の二分の一以上とする」とあるのみで,「軸方向の幅」が何の「軸方向の幅」を意味しているのか特定されてはいない。
イ原告は,図1(c2)に基づいて,軸方向の幅が分銅の軸方向の幅であると主張するが,願書に添付される図面は設計図ではなく,これによって当該部分の寸法や角度等が特定されるものではない。図1(c2)のモーター胴体部と分銅の間隔が,(b2)のモーター胴体部と分銅の間隔より大きいことは認められるが,(c2)のモーター胴体部と分銅の間隔が,分銅の軸方向の幅に対してどのような寸法関係にあるかまでは,原告が主張するように読み取ることはできない。
さらに,モーター胴体部と分銅の間隔の下限値が2分の1である点も,図1(c2)からは読み取ることは出来ない。
ウ原告主張のように,仮に請求項1が分銅を主体に記載されているとしても,「軸方向の幅」が分銅以外の物の「軸方向の幅」であることが排除されていないから,「軸方向の幅の二分の一以上」が,分銅の「軸方向の幅の二分の一以上」と必ずしも読み取ることは出来ない。しかも,【0011】の作用効果の記載から判断すれば,仮に「軸方向の幅」がモーター胴体部の「軸方向の幅」であっても上記作用効果を奏するから,「軸方向の幅」が分銅以外の物の「軸方向の幅」であることは排除されていない。
そうすると,「軸方向の幅」が何の「軸方向の幅」を意味しているのか不明であり,結果として発明が不明確であるとして,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていないとした本件審決の判断に誤りはない。
(2)新規事項について図1(c2)に関し,原告が主張するような寸法関係が読み取ることはできないのであれば,「その間隔は軸方向の幅の二分の一以上とする」という構成において,「軸方向の幅」が何の「軸方向の幅」であるか特定されてはおらず,「その間隔は(分銅の)軸方向の幅の二分の一以上とする」こと及び「その間隔は(分銅以外の物の)軸方向の幅の二分の一以上とする」ことのいずれも,当初明細書等又は特許請求の範囲に記載も示唆もされていない。
よって,第2回補正が法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(第4回補正を却下した判断の誤り)について(1)認定事実証拠によれば,本件特許出願について,特許庁における主な手続の経緯は,以下のとおりであると認められる。
ア原告は,平成17年2月2日,本件特許出願(請求項の数は9項)をした(甲9)。
イ原告は,平成18年6月20日提出の手続補正書(甲10)により,第1回補正(請求項の数は9項)を行った。
ウ原告は,平成19年4月11日,最初の拒絶理由通知(甲13)を受け,これに対応して,同年6月25日提出の手続補正書(甲3)により,第2回補正(請求項の数は1項)を行った。
エ審査官は,平成19年8月13日,以下の内容の最後の拒絶理由を通知した(甲6)。
(ア)理由1:第2回補正は,願書に最初に添付した明細書等の記載事項内においてしたものではないから,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(イ)理由2:請求項1に記載された本願発明は,引用文献に記載の発明から容易に想到できるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(ウ)理由3:本願発明は,請求項1の記載が不明確であるから,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。
オ原告は,上記エの拒絶理由通知に対応して,平成19年10月22日提出の手続補正書(甲11)により,第3回補正(請求項の数は1項)を行うとともに,以下の内容の意見書(甲8)を提出した(「/」は原文の改行部分を示す。)。
「本願に対する平成19年8月13日付拒絶理由通知に対し,次のとおり意見を申し述べます。/1.先ず,拒絶理由1,3に対処する為,当書と同日付にて,明細書全文,特許請求の範囲を訂正する手続補正書を提出致しました。…従って,特許法第17条の2第3項の規定に違反しておりません。/以上の補正により,拒絶理由1,3は解消されたものと考えます。」カ審査官は,平成20年2月5日,第3回補正は,願書に最初に添付した明細書等の記載事項内においてしたものではなく,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,法53条1項の規定により却下する旨の決定をし(甲4),上記エと同一の理由により拒絶査定をした(甲5)。
キ原告は,拒絶査定不服の審判を請求するに際し,平成20年4月11日提出の手続補正書(甲2)により,第4回補正(請求項の数は3項)を行った。
ク本件審決は,第4回補正を却下し,第2回補正による本願発明について上記エの拒絶理由のうち理由1及び3と同様の理由により,拒絶すべきである旨判断したものである(甲1)。
(2)第4回補正の適否ア手続補正の効果は,その手続補正を行う時点の記載事項を変更するものということができるところ,上記(1)イ,ウ,オ,キ認定のとおり,第1回補正による9項の請求項を含む特許請求の範囲が,第2回補正により1項の請求項のみの特許請求の範囲変更され,拒絶理由通知に対処するため第3回補正により1項の請求項のまま特許請求の範囲変更された後,第4回補正により3項の請求項を含む特許請求の範囲変更されたものである。
もっとも,上記(1)カのとおり,第3回補正は,第4回補正を行う以前に却下されているのであるから,第4回補正は,第3回補正を行う時点の特許請求の範囲の記載,すなわち,第2回補正による特許請求の範囲の記載を変更したものといわざるを得ない。
そうすると,第4回補正は,第2回補正により1項の請求項とされた特許請求の範囲を,3項の請求項を含む特許請求の範囲変更するものである。
イ法17条の2第4項は,拒絶査定不服審判請求に伴って行われる特許請求の範囲についてする補正は,同項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限ると規定するところ,上記のとおり,請求項を増加させる第4回補正の目的は,法17条の2第4項1号(請求項の削除),2号(特許請求の範囲減縮),3号(誤記の訂正)及び4号(明りょうでない記載の釈明)のいずれの事項にも該当しないといわざるを得ない。
ウよって,本件審決が,第4回補正の目的は,法17条の2第4項各号のいずれの事項にも該当しないと判断したことに誤りはない。
(3)対象となる発明の認定について原告は,第2回補正は,補正違反を指摘されたものであって,審理の対象とはなり得ないもので,第4回補正が審理対象となるべき発明である旨主張する。
しかし,上記1に判示したとおり,本件審決が第4回補正を却下した点に誤りはないから,原告の主張は失当である。また,第3回補正は,第4回補正の前に補正の却下の決定がされたものである。
そうすると,第4回補正及び却下された第3回補正の前になされた第2回補正に係る本願発明を審理の対象とすることに誤りがあるとはいえない。
(4)原告の主張についてア原告は,第2回補正は,拒絶理由通知により補正要件の違反を指摘されているため,本来であれば補正却下されることによって以降の補正の基礎となるものではない旨を主張する。
しかし,法17条の2第3項から第5項に補正の要件が規定されているところ,上記補正要件違反の場合に決定をもって補正を却下しなければならない場合として,法53条は,「第17条の2第1項第3号に掲げる場合において,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたとき」と規定し,法159条において準用される拒絶査定不服審判については,「第17条の2第1項第3号又は第4号に掲げる場合において,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正(同項第3号に掲げる場合にあっては,拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたとき」と規定している。他方,法49条1号は,「その特許出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとき」は,審査官はその特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならないと規定し,法50条は,審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,補正却下決定をするときを除き,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知しなければならないと規定している。
上記(1)ウのとおり,第2回補正は,最初の拒絶理由通知に対応してされたものであるところ,これらの規定によれば,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲等の補正が,法17条の2第3項に規定する要件(新規事項追加の禁止)を満たしていないときは,出願の拒絶理由となるのであって(法49条1号),拒絶の理由を通知しなければならない場合(法50条)に当たるが,決定をもって補正を却下しなければならない場合(法53条1項)には当たらない。
したがって,第2回補正について,補正却下をしなければならない理由はない。
補正が却下されない以上,第2回補正が存在しないものと扱うことは予定されていないから,これを,それ以降の補正の基礎とすることが違法であるとはいえない。
なお,原告自ら,第4回補正において,第2回補正を変更すべき部分にアンダーラインを引いていることからも(甲2),原告自身第2回補正を基礎として,その後の補正を行ったものということができる。
イ原告は,補正要件違反がありながら,その実質的に存在価値のない補正を出願に織り込んでおいて,この違反を含んだままの出願を以降の判断の基準にすることは,発明者の保護の観点を無視するものである旨主張する。
しかし,法17条の2第1項3号は,「拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において,最後に受けた拒絶理由通知に係る第50条の規定により指定された期間内にするとき」に補正をすることができる旨規定しているから,出願人には,最後の拒絶理由通知により指摘された拒絶理由についても,これを是正する機会が与えられている。
本件についてみると,原告が第3回補正と同日に提出した意見書(甲8)において,上記(1)オ認定のとおり意見を述べていることからすると,第3回補正は,最後の拒絶理由通知に記載された拒絶理由(第2回補正に係る補正要件違反)を是正するためになされたものということができる。
さらに,本件においては,原告は,拒絶査定不服審判を請求する際に第4回補正を行っているところ(法17条の2第1項4号),この第4回補正がされる前に,第3回補正が却下されたことは,原告に通知されているのであるから(甲4),出願人たる原告は,第4回補正の際にも,上記拒絶理由(第2回補正に係る補正要件違反)を是正する機会を与えられていたということができる。
そうすると,本件出願の審査過程において,出願人から補正の機会を不当に奪う手続がされたということはできない。
ウしたがって,原告の主張は採用することができない(5)小括以上のとおり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(本願発明を拒絶した判断の誤り)について(1)特許法36条6項1号及び2号違反についてア第2回補正による本願発明の請求項1の記載は,「胴体部の両側にシャフトを突出した振動モーターの両端に偏重心の分銅を備え,該分銅は振動モーター胴体部の中心点を中心とし,その両側のシャフトに略対称に取り付けた振動発生器において,発生する振動幅の設定は,該胴体部と分銅間の該間隔を変えて,発生する振動の大きさを決めて,該分銅の取り付け位置を設定し,又,その間隔は軸方向の幅の二分の一以上とする事を特徴とする振動発生装置。」というものである(甲3)。
この請求項1には,「その間隔は軸方向の幅の二分の一以上とする」とあるのみで,「軸方向の幅」が何の「軸方向の幅」を意味しているのか,明確であるとはいえない。また,本件明細書の発明の詳細な説明や図面に,「軸方向の幅」に関して参酌すべき記載もない。
イ原告は,当初明細書等の図1(c2)等の記載を根拠に「分銅の軸方向の幅」であるとも主張する。
しかし,第2回補正においては,特許請求の範囲の全文,明細書の全文及び図面の全図を変更したものであり(甲3),当初明細書等(甲9)の記載を参酌することはできない。なお,第2回補正に係る本件明細書や図面に,「軸方向の幅」に関して参酌すべき記載もない。
ウよって,本願発明が特許法36条6項1号及び2号の要件を欠くとした本件審決の判断に誤りはない。
(2)法17条の2第3項違反についてア原告は,本件審決が第2回補正を新規事項の追加を理由に法17条の2第3項の要件違反とした判断について,「軸方向の幅」は「分銅の軸方向の幅」と理解するのが最も自然であり,「二分の一以上」とすることは,【0011】や図1(c2)の記載を含め,当初明細書等の全体から読み取り得る内容であり,当業者にも容易に理解できる旨主張する。
イ当初明細書等(甲9)には,「胴体部と分銅間の間隔」に関して,次の記載がある。
【0006】本発明の課題を解決する為に,請求項1に記載の発明は,図1(a1,2)に示すように,振動発生用小型モーター1のシャフト4をモーター胴体部2の両側に出した構造とし,そのシャフト4の両端に,偏重心の分銅3を固定し,その二個の偏重心の分銅3の位置が同角度,同一方向にしてあるため,小型モーター2の回転時にシャフト4の両端の該分銅3に対する遠心力が同期しているため,モーター全体に大きな遠心方向の力が発生し,振動幅が倍増する。
【0010】請求項3の記載の発明によれば,図1(c1,2)に示すように,モーター本体2とシャフト4の両端に固定された二個の該分銅3の位置との間に一定の間隔を持たせることである。
【0011】この間隔を大きくすればするほど,小型モーター2の回転時に発生する二個の該分銅3による遠心力がモーター2の軸受けに加わる力は非常に大きくなり,非常に効率的に大きな振動幅を得ることができる。
また,【図1】には,分銅がモーターのシャフトの両端にそれぞれ設けられ,各分銅とモーターの胴体部との間に間隔が設けられていることが看て取れる。
ウ当初明細書等には上記の事項が記載されているが,当初明細書等に,胴体部と分銅間の間隔が,何の軸方向の幅であるか特定する記載があるとはいえず,そして,この間隔が,何らかの物の軸方向の幅の2分の1以上であることを特定する記載があるとはいえない。
なるほど,原告主張のように,当初明細書等の記載事項によると,胴体部と分銅間の間隔を大きくするほど発生する振動を大きくすることができると理解できるとしても,上記間隔と「軸方向の幅」とを関係付ける技術的事項は何ら記載されておらず,しかも,その「二分の一以上」とすることが記載されているとはいえない。
そして,図面を参照したとしても,上記「軸方向の幅」が分銅の「軸方向の幅」であることや,上記間隔がこの幅の「二分の一以上」であることを,当業者が当然に理解できるものとはいえない。
エそうすると,「その間隔は軸方向の幅の二分の一以上とする」ことを含む第2回補正は,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえないから,本件審決が,第2回補正が法17条の2第3項に違反すると判断した点に誤りはない。
(3)小括以上によれば,取消事由2は,理由がない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 井上泰人