運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  寄せ集め /  慣用技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  同一の発明 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  遡及効 /  遡及 /  分割出願 /  警告 /  実施料相当額 /  クレーム /  原出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  実施料 /  設定登録 /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  減縮 /  補助参加 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 21年 (ワ) 6994号 補償金請求事件
原告P 1
訴訟代理人弁護士横井盛也
被告サンウエーブ工業株式会社
被告積 水ハウス株式会社
被告ら補助参加人株 式会社ムラコシ精工
被告ら及び被告ら補助参加人訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣 森田聡 重入正希
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2010/07/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,補助参加により生じた費用を含め,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告サンウエーブ工業株式会社(以下「被告サンウエーブ工業」という。)は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成21年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告積水ハウス株式会社(以下「被告積水ハウス」という。)は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成21年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,発明の名称を「地震時ロック方法及び地震対策付き棚」とする後記特許権を有する原告が,同特許権に係る特許出願についての出願公開があった後,被告らに特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたにもかかわらず,被告らが同特許権に係る発明の技術的範囲に属する製品を販売したとして,いずれも特許法65条1項に基づき,被告サンウエーブ工業に対し,補償金の一部請求として1000万円及びこれに対する催告をした日の翌日(訴状送達の日の翌日)である平成21年5月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,被告積水ハウスに対し,補償金の一部請求として200万円及びこれに対する催告をした日の翌日(訴状送達の日の翌日)である平成21年5月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。なお,補助参加人は,原告が後記特許権に係る発明の技術的範囲に属すると主張している被告らが販売している製品の部品である感知式耐震ラッチを,被告らに対して販売している者である。
1判断の基礎となる事実(末尾に証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)( )原告の特許権1ア原告は,下記特許権(以下,「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」といい,本件特許権に係る出願を「本件特許出願」という。また,特許請求の範囲の請求項4の発明を「本件特許発明」といい,本件特許出願に係る願書に添付した明細書及び図面(後記補正後のもの)を「本件明細書」という。)の特許権者である。なお,下記特許請求の範囲の請求項1の下線部は,平成18年2月25日付け手続補正書により補正された個所である。
記発明の名称地震時ロック方法及び地震対策付き棚特許番号特許第4304233号出願人原告出願日平成15年10月26日公開日平成16年5月13日(特開2004-137887号)分割の表示特願平11-116988の分割原出願日平成11年3月18日設定登録日平成21年5月15日特許請求の範囲【請求項1】地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態となるロック方法であって収納物のない扉等において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部を有し軸で回動可能な係止体が地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立しすなわち前記妨げ状態は扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法【請求項4】請求項1の地震時ロック方法を用いた地震対策付き棚イ本件特許発明は,次の構成要件に分説することができる(以下「構成要件A〜F」という。)。
A地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態となるロック方法であってB収納物のない扉等において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部を有し軸で回動可能な係止体がC地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,D前記係止体は扉等の戻る動きとは独立しすなわち前記妨げ状態は扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,E地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になるF扉等の地震時ロック方法を用いた地震対策付き棚( )分割出願の経緯2本件特許権は,平成11年3月18日に出願された,発明の名称を「地震時ロック方法及び地震対策付き棚」とする特許出願(特願平11-116988号:以下「原出願」といい,原出願の願書に添附した明細書を「原出願明細書」という。)について,平成15年10月26日にされた分割出願(本件特許出願)に基づいて設定登録された特許権である。
なお,原出願に基づく特許権(特許番号:特許第3650955号,以下「原出願特許権」という。)は,平成17年3月4日に設定登録されたが,平成18年6月13日,補助参加人が申し立てた無効審判請求事件において無効とする旨の審決がされ,これに対して原告が知的財産高等裁判所に提起した同審決の取消訴訟においても平成19年3月28日に原告の請求を棄却する判決がされ,そのころ確定し,その結果,原出願に基づく特許は無効となった。 (乙1,4)( )原告による警告3ア原告は,本件特許出願の出願公開後である平成16年6月10日,被告積水ハウスに対し,本件特許出願の出願公開に係る公開特許公報(特開2004-137887号公報,甲16)を送付するとともに,特許法65条警告をする旨記載した内容証明郵便を送付した。(甲6の1,2)イ原告は,本件特許出願の出願公開後である平成16年6月11日,被告サンウエーブ工業に対し,上記公開特許公報を送付するとともに,特許法65条警告をする旨を記載した内容証明郵便を送付した。
(甲5の1,2)( )警告後の補正4原告が上記( )の警告に際して被告らに送付した公開特許公報に記載され 3た特許請求の範囲の請求項1及び請求項4は下記のとおりであったが,その後,平成18年2月25日付け手続補正書により,上記( )アのとおり特許1請求の範囲の請求項1について補正が行われ,その補正された特許請求の範囲に基づき特許権の設定登録がされた。(甲16,甲24)記【請求項1】地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法【請求項4】請求項1の地震時ロック方法を用いた地震対策付き棚( )被告らの行為5ア被告積水ハウスは,平成16年6月10日以降,別紙イ号物件図面に図示される耐震ロック装置を用いた棚(以下「イ号物件」という。)及び別紙ロ号物件図面に図示される耐震ロック装置を用いた棚(以下「ロ号物件」という。)を販売していた(以下,イ号物件及びロ号物件をあわせて「被告物件」という。)。
イ被告サンウエーブ工業は,平成19年4月1日から,ロ号物件を販売していた。
2争点( )被告物件は本件特許発明技術的範囲に属するか(争点1)1( )本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2) 2ア分割要件違反があるか(争点2-1)本件特許出願が特許法44条1項に規定される分割要件を満たさない違法な分割であることから,原出願との関係で同法39条違法の無効事由となり,また原出願の公開特許公報が出願前に頒布された刊行物となって同法29条1項3号の無効事由となるか。
新規性進歩性が欠如しているか(争点2-2)本件特許発明は,特開平10-317772号公報(甲7,以下「甲7公報」という。)に記載された発明(以下「甲7発明」という。)と同一か。あるいは,当業者が甲7発明等に基づいて容易に発明することができたか。
ウサポート要件に違反しているか(争点2-3)本件特許に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号所定の要件(以下「サポート要件」という。)に適合するか。
明確性要件に違反しているか(争点2-4)本件特許に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号所定の要件(以下「明確性要件」という。)に適合するか。
( )補償金の額(争点3)3第3争点に関する当事者の主張1争点1(被告物件は本件特許発明技術的範囲に属するか)について【原告の主張】( )被告物件の構成1被告物件の構成は,次のとおりである。
a地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間で扉の往復動が許容されるばたつくロック状態となるロック方法であってb棚本体側に取り付けられた施錠機構がラッチ体を有し,該ラッチ体は,扉等が閉じられた位置で扉等に設けられた係合体と全く接触しない係止部を前方に有し,軸で回動可能であり,c該ラッチ体と係合可能に設けられた中間体も軸で回動可能であり,その後部の係合突部が地震時に前後又は左右にゆれる感震体によって上昇させられ,それに伴ってその前部の係止爪が下降してラッチ体後部上面に設けられた爪係合部(溝)と係合し,これによってラッチ体の係止部が上昇する動きが妨げられる扉等の開く動きを許容しない状態になり,d地震時のゆれが継続する間,前記中間体の後部は扉等の戻る動きで解除されず上昇させられた状態を保持し,e地震のゆれがなくなることにより前記中間体の後部が下降し得る状態となり,かつ,ばね付き蝶番であるから扉等からの前記ラッチ体の前方にある前記係止部を押し上げようとする力が前記係合体から動かなくなることにより,前記中間体の前方が上昇し得る状態,すなわち,前記係止部は扉等の戻る動きと関係なく扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になるf扉等の地震時ロック方法を用いた地震対策付き棚( )技術的範囲の属否について2ア構成要件A,Bについて被告物件の上記a,bの構成によれば,被告物件が構成要件A,Bを充足することは明らかである。
構成要件Cについて(ア)本件特許発明実施例では係止体の回動を妨げる手段は球であり,被告物件は倒立分銅であり異なる。しかし,本件明細書の段落【0013】には地震時に球(9)は安定位置A9を有する振動エリアAで振動すると記載されている。そして,「機械振動」と題する文献(甲14)には,「振動するもの」として「倒立振子」,「円筒内面を転がる回転体」など16種類のものが記載されており,地震時ロック方法という限定した技術分野における公知文献(甲7ないし13)においても,振動するものとして,球,バネ,振子及び倒立振子が記載されているから,建築工学又は機械工学の当業者であれば,ゆれているときだけロック位置になり,ゆれがなくなれば安定位置に戻るものとして,球以外の振動するものを適用することに容易に想到できる。また,被告物件の倒立分銅の頭部の震動は横方向(前後又は左右)の動きであり,被告物件のラッチ保持具(中間体)は,その上下動に変換しているが,そのような動きの変換は機械分野において慣用技術である上,本件明細書においても,図1ないし図5に係る実施例において,球の横方向の動きを係止体の上下動に変換する構成が開示されている。そして,倒立分銅と中間体(ラッチ保持具)の複合体は,本件特許発明実施例の球単独の前後と左右両方向のゆれを検出する「振動するもの」と原理は全く同じであるから,当業者にとってその程度の置換は極めて容易に想到できるといえる(被告物件の倒立分銅と中間体の複合体は,本件特許発明実施例の置換であるが,構成部品を増やし複雑にした改悪である。)。
したがって,本件明細書に実施例として記載された球を倒立分銅と中間体に置換して被告物件のような構成にすることは,当業者が容易に想到し得ることであるから,被告物件の上記構成は,本件特許発明構成要件Cを充足している。
(イ)被告ら及び補助参加人は,特許請求の範囲の記載が機能的クレームであるとして,本件明細書に記載された実施例に限定して技術的範囲を解釈すべきであると主張するが,特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的であるからといって,その技術的範囲が無条件に実施例に限定されるわけではない。明細書の記載から当業者が容易に実施できる発明は技術的範囲に含まれると解すべきであるから,被告物件が構成要件Cを充足することは上述のとおりである。
構成要件Dについて被告物件の上記構成dによれば,被告物件が構成要件Dを充足することは明らかである。
構成要件Eについて被告物件の上記構成eによれば,被告物件が構成要件Eを充足することは明らかである。
被告ら及び補助参加人は,被告物件では,地震終了時に係止体と中間体が係合したままになる場合があり,その場合は扉等を押す必要があるから,構成要件Eを充足しないと主張する。
しかし,本件特許発明では「ばたつくロック状態」(構成要件A)が前提とされているところ,開いた状態のロック位置において,収納物により扉等に何らかの力が加わる状態は「ばたつくロック状態」には該当しない。
また,本件特許発明は「収納物のない扉等において」(構成要件B)とされているから,被告物件においても収納物のない状態を問題とすべきである。したがって,構成要件Eの充足性を検討するに当たっては,被告物件において,収納物により扉等に力が加わって係止体と中間体が係合したままとなる場合を検討する必要はない。
構成要件F上記のとおり,被告物件は,構成要件AないしEを充足する扉等の地震時ロック方法を用いた地震対策付き棚であるから,構成要件Fも充足する。
( )まとめ3以上のとおり,被告物件は,本件特許発明構成要件をいずれも充足するから,その技術的範囲に属する。
【被告ら及び補助参加人の主張】( )被告物件の構成1被告物件の構成は,次のとおりである。
a’地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間で扉等の往復動が許容されるロック状態となるロック方法であってb’棚本体側に取り付けられた施錠機構がラッチ体を有し,該ラッチ体は,扉等が閉じられた位置で扉等に設けられた係合体と全く接触しない係止部を前方に有し,軸で回動可能であり,c’該ラッチ体と係合可能に設けられたラッチ保持具(別紙イ号物件図面及び同ロ号物件図面では「中間体」と表記されている部材。以下同じ。)も軸で回動可能であり,その後部の係合突部が地震時に前後又は左右にゆれる感震体によって上昇させられ,それに伴ってその前部の係止爪が下降してラッチ体上部に設けられた爪係合部(溝)と係合し,これによってラッチ体の係止部が上昇する動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,d’地震時のゆれが継続する間,前記ラッチ保持具の後部は上昇させられた状態を保持し,e’地震のゆれがなくなることにより前記ラッチ保持具の後部が下降し得る状態となり,かつ,前記ラッチ体の前方にある前記係止部を押し上げようとする力が前記係合体から動かなくなることにより,前記ラッチ保持具の前部の係止爪と前記ラッチ体の爪係合部との係合が解除され,前記ラッチ体の前方が上昇し得る状態となり,前記係止部が前記係合体によって押し上げられることによって扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になるf’扉等の地震時ロック方法を用いた棚( )技術的範囲の属否について2ア構成要件Cについて(ア)構成要件Cに係る特許請求の範囲の文言を形式的に読めば,地震時に何かが前後又は左右にゆれ,そのゆれと何らかの因果関係にある仕組みによって係止体の回動の動きが妨げられれば足りると解釈する余地がないわけではない。しかし,そのような解釈に立つと,特許請求の範囲には具体的な解決手段・構成が記載されていないことになって不明確となるから,このような機能的クレームについては,本件明細書に開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて技術的範囲を確定すべきである。
そして,本件明細書には,唯一の実施例として,係止体6が一体に形成され,中間部に設けられた軸を中心に係止体が回動し(係止体はこの軸の前後で前部と後部に分けられている。),通常(地震時以外)は,前方の係止部が下がった状態にあり,係止体の回動により前方の係止部が自由に上昇する構成とし,地震時の前後又は左右のゆれにより後方の球が直接的に係止体後部の下降を妨げる構成が開示されているだけである。
これに対し,被告物件において,本件特許発明の「係止体」に該当し得るものはラッチ体であり,このラッチ体の回動は地震時に妨げられるものの,それはラッチ保持具が下降してラッチ体の上部と係合するからであり,「前後または左右のゆれ」によってラッチ体の回動が妨げられるわけではない。
そして,被告物件では,地震時の前後又は左右にゆれるものとして倒立分銅が用いられており,通常(地震時以外)は,ラッチ保持具とラッチ体が独立し,地震時には,倒立分銅が傾斜することによりラッチ保持具が回動してラッチ体と係合する位置に移動し,ラッチ体の回動軸の真上付近において,ラッチ保持具とラッチ体が係止爪と爪係合部で係合して一体となることによりラッチ体の回動を妨げる構成(倒立分銅の傾斜によりラッチ体の回動を間接的に妨げる構成)を採用しているものであり,本件明細書に記載された球を用いた上記実施例の構成とは明らかに異なる。
したがって,被告物件は,構成要件Cを充足しないというべきである。
(イ)原告は,本件明細書に記載された実施例の球を倒立分銅とラッチ保持具(原告のいう中間体)に置換することは当業者が容易に想到することができるとして,被告物件が本件特許発明技術的範囲に属する旨主張をする。しかし,倒立分銅は,下端の位置が変わらずに上部が振動するものであり,球のように動き回るものではないから,両者の作動原理は全く異なる。また,被告物件のラッチ保持具は,地震終了時に収容物が扉側に倒れるなどして外方に付勢している場合に,ロック状態が解除されることを防ぎ,収容物が落ちることを防止するという,本件特許発明では果たすことができない役割を担っている。したがって,被告物件の技術思想は本件明細書に全く開示されおらず,原告の上記主張は失当である。
構成要件Eについて被告物件においては,地震が終了してゆれがおさまったときに,ラッチ体先端の係止部と扉側の係合体とが係合した状態(開き停止位置)で停止することがある。この場合,当該係合の影響により,ラッチ保持具の係止爪とラッチ体上部の爪係合部との係合(噛み合い)が解消されない状態となり,扉を押すことによってラッチ保持具とラッチ体の噛み合いを解消させる作業が必要となるから,ロック状態の解除は扉の戻る動きと関係している。
したがって,被告物件は,「扉等の戻る動きと関係なく」ロック状態が解除されるとはいえないから,構成要件Eを充足しない。
( )以上のとおりであるから,被告物件は,本件特許発明技術的範囲に属さ3ない。
2争点2-1(分割要件違反があるか)について【被告ら及び補助参加人の主張】( )原出願特許権に係る特許請求の範囲の請求項1は「地震時に扉等がばたつ1くロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法」であり,請求項4は「請求項1の地震時ロック方法を用いた地震対策付き棚」である。上記特許請求の範囲の記載は,本件特許発明と同様,具体的な構造を記載するものではなく,機能的な表現で発明を特定している。このような場合,実施例を参酌して技術的範囲を確定しなければならないが,本件明細書と原出願明細書を比較すれば,原出願特許権に係る上記発明と本件特許発明とは同一の実施例に依拠していることは明らかであるから,表現に微差があるとしても,両者は同一の発明ということになる。
( )そうすると,原出願が2以上の発明を包含していたことにはならないから,2本件特許出願は,特許法44条の規定に基づく適法な分割出願とはいえない結果,遡及効は認められず,本件特許出願は,現実に願書を提出した平成15年10月26日が出願日となり,またその結果,本件特許には特許法39条違反の無効事由があることになる。
また,原出願の出願日は平成11年3月18日であり,原出願に係る公開特許公報(特開2000-262343号公報:乙7)の発行日は平成12年9月26日である一方,本件特許の出願日が現実に願書を提出した平成15年10月26日であることから,原出願に係る上記公開特許公報が,本件特許出願にとって出願前に頒布された刊行物となって,本件特許には特許法29条1項3号違反の無効事由があることになる。
【原告の主張】本件特許発明は,原出願特許権に係る発明に対して,「閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間を」(構成要件A),「収納物のない扉等」(構成要件B),「扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止体を有し軸で回動可能な」(構成要件B),「前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ」(構成要件C)及び「すなわち前記妨げ状態は」(構成要件D)との要件を加えることにより,特許請求の範囲減縮補正を行い,これにより特許されたものであって,原出願特許権に係る発明とは決定的に異なっている。本件特許は特許法44条の規定に基づく適法な分割出願であり,したがって,本件特許に特許法39条違反,同29条1項3号違反の無効事由があるという被告ら及び補助参加人の主張は失当である。
3争点2-2(新規性進歩性の欠如があるか)について【被告ら及び補助参加人の主張】( )構成要件D,Eについて1甲7公報には,甲7発明が,?平常時(図5)には,転動子(8)が水平フレーム(6)の傾斜を許す位置にあるのに対して,地震時(図6)には,水平フレーム(6)が傾斜せず,球形ストッパー(5)が凹部(B)に入って自動施錠となる,?地震終了時には,水平フレーム(6)の傾斜に従い,転動子(8)が自然に後方の定位置に戻り,自動解錠となる,?球形ストッパー(5)と凹部(B)との間には隙間がある(図6),との各構成を有することが開示されている。
したがって,甲7発明は,本件特許発明の「前記係止体は扉等の戻る動きとは独立しすなわち前記妨げ状態は扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,」(構成要件D)及び「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」(構成要件E)の各構成を備えている。
( )構成要件Aについて2ア甲7公報の図6では,球形ストッパー(5)と凹部(B)の間に隙間があるが,地震時にはこの隙間の分だけ戸や引出が往復運動することになり,隙間がありさえすれば「ばたつく」といえるから,甲7公報の図6には地震時に扉等が閉じられた位置からばたつく構成が開示されていることになる。
また,甲7公報の図6によれば,球形ストッパー(5)の左側と凹部(B)との間には空間があるから,戸や引出(E)は地震時の開く動きによってこの空間の分だけ「隙間を有して開かれた開き停止位置」となる。
したがって,甲7発明は,本件特許発明構成要件Aの構成を備えている。
イこの点,甲7発明はインセット構造(棚の枠内に扉等が引き込まれる構造)であるため,球形ストッパー(5)と凹部(B)の隙間の範囲で開き戸が移動しても,扉等が「開かれた」開き停止位置にはならない可能性がある。
しかし,特開平10-266674号公報(乙9,以下「乙9公報」という。)には,アウトセット構造(開き戸が家具上板に突き当たるような構造)の収納箱において,扉の裏側にフック受け(6)を用いた扉の振動ロック装置が開示されている(以下,乙9公報に記載されている発明を「乙9発明」という。)。そうすると,アウトセット構造の棚に甲7発明の球形ストッパー(5)を利用しようと当業者が考えた場合に,甲7発明の開き戸上部に設けられた凹部(B)に代えて,乙9発明のフック受け(6)のような部品を扉の裏側に設けることは容易に思いつくことであり,その場合には,当然,球形ストッパーがフック受けに当たって停止するまで扉が開くことが許容される結果となる。
また,特開平10-25945号公報(甲9,以下「甲9公報」という。)には「(スライド)ヒンジ3に内蔵のばねの反発力で閉じ状態に自己保持」(甲9公報第4欄14〜15行目)する扉,すなわち,通常の状態において,スライドヒンジ3に内蔵されたばねの反発力で扉2がキャビネット1本体の枠に押付けられることで閉じる構造の扉が記載されている(以下,甲9公報に記載されている発明を「甲9発明」という。)。そして,甲9公報の図1及び図2においては,ロック本体5がキャビネットに,ロックピース6が扉にそれぞれ固定され,ロック本体5のラッチ爪10に比べて余裕のある凹部がロックピース6に形成されている。甲7公報の図5及び図6を参照すれば,当業者が甲9発明のロックピース6を甲7発明に適用することは容易になし得ることである。
ウしたがって,甲7発明は,本件特許発明構成要件Aを備えているか,そうでないとしても,甲7発明に乙9発明又は甲9発明を適用することは当業者が容易に想到することができる。
( )構成要件Bについて3甲7公報によれば,甲7発明が前部を有する軸で回動可能な係止体を有することは明らかである。
そして,一般に,インセット構造の戸や引出の閉位置は,何らかの当たり止めに突き当てることによって保持するものであるが,係止体と扉等を全く接触しない構成とすることによりロック解除機構を単純化できることは当業者に自明のことである。そうすると,甲7公報の図6を見た当業者は,当たり止め等を利用することによって,球形ストッパー(6)と凹部(B)とが全く接触しない状態を閉位置とすることを容易に想到することができる。
したがって,甲7発明は,本件特許発明構成要件Bを備えている。
( )構成要件Cについて4ア「前後または左右のゆれ」甲7発明は,地震のゆれが生じた場合の発明であるから,本件特許発明の「前後または左右のゆれ」との要件を備えている。仮に,本件特許発明の「前後または左右のゆれ」が球のゆれを意味するとしても,甲7発明の転動子(8)は,「球やローラー及び円盤などのような回転するもの」であり,転動子(8)が自由に動くために前後左右にある程度の隙間があることは当然であるから,甲7発明と本件特許発明とは異なるものではない。
イ「後部において」(ア)本件特許発明構成要件Cの「後部」が,係止部よりも後ろであれば足り,軸よりも前方部分も含むと解した場合について甲7公報の図6では,転動子(8)が傾斜空間(C)の中央付近(球形ストッパー(5)よりも後方位置)にある場合にも,戸や引き出し(E)の開放が制限されることが開示されているから,甲7発明も,「後部において」水平フレーム(6)の回動を妨げる構成ということになる。
(イ)本件特許発明の「後部」が軸よりも後方を意味すると解した場合について特開平7-305551号公報(甲8,以下「甲8公報」という。)に記載されている発明(以下「甲8発明」という。)は,扉等が閉じられた状態(図5)で地震のゆれが生じると,ころがり部材(16)が前方に移動し,棒状部材(14)と爪部材(9)の後部の切り欠き凹部(9c)の下に移動し,爪部材(9)の時計回りへの回動が妨げられてロック状態となるが,甲8公報の図5から明らかなとおり,ころがり部材(16)は爪部材(9)の軸(11)より後方で爪部材(9)の回動を妨げるものである。
したがって,甲7発明に甲8発明の上記構成を組み合わせることにより,甲7発明について,「後部」で水平フレーム(6)の回動を妨げる構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。
( )構成要件Fについて5甲7発明は,棚の扉等の地震時ロック方法に関する発明である。
( )まとめ6以上のとおりであるから,本件特許発明は,甲7発明と同一であるか,そうでないとしても,当業者が甲7発明等に基づいて容易に発明をすることができたものである。
【原告の主張】( )本件特許発明の内容1地震時ロック装置は,係止体が地震時にロック位置に移動する方式(以下「A方式」という。)と係止体が常時ロック位置にある方式(以下「B方式」という。)がある。
B方式は,A方式より技術レベルとしては進化したロック方法であるが,従来のB方式の係止体は,扉等が閉じられた位置で扉等と接触するため,解除という技術課題については問題があった。
本件特許発明は,B方式ではあるが,従来のB方式について解除が確実で解除機構を単純にするという視点に立って,扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部を有する係止体としたものであり,新しいB方式といえるものである。
( )甲7発明について2ア甲7発明の係止体は,B方式ではあるが,扉等が閉じられた位置で扉等と接触するものであり,本件特許発明の係止体とは異なるものである。
イ被告ら及び補助参加人は,甲7発明の球形ストッパー(5)と凹部(B)の間の空間である「遊び」をもって,「隙間を有して開かれた開き停止位置」に相当すると主張するが,「遊び」とはそもそも「閉じられた位置」の許容範囲を指す概念であるから,「遊び」を「開かれた位置」とすること自体に矛盾がある。本件明細書では,「閉じられた位置」と「開かれた位置」は明確に使い分けられている。
( )乙9発明について3乙9発明の係止体は,A方式であるから,本件特許発明の係止体とは異なる。
被告ら及び補助参加人は,甲7発明の係止体と乙9発明の係止体を寄せ集めれば本件特許発明の係止体となると主張するようであるが,甲7発明の係止体は地震時に移動しない係止体であり,乙9発明の係止体は地震時に移動する係止体であって,両者の係止体の作動原理は異なるから,甲7発明に乙9発明を適用することには阻害要因がある。
また,被告ら及び補助参加人は,甲7発明がインセット構造であり,乙9発明がアウトセット構造であるから,甲7発明の係止体をアウトセット構造に適用するとすれは本件特許発明の係止体になると主張する。しかし,アウトセット構造である甲9発明を見ると,その係止体は扉等が閉じられた位置で扉等と接触しているのであるから,甲7発明の係止体をアウトセット構造に適用したとしても「扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない」構成になるとは限らず,被告ら及び補助参加人の理由付けは成り立たない。
( )甲9発明について4甲7発明の係止体は,B方式ではあるが,扉等が閉じられた位置で扉等と接触するものであり,本件特許発明の係止体とは異なるものである。
( )甲8発明について5甲8発明の係止体は,B方式ではあるが,扉等が閉じられた位置で扉等と接触するだけでなく,地震終了時に扉等の戻る動きにより解除される構成であり,本件特許発明の係止体とは異なるものである。
( )まとめ6したがって,本件特許発明には進歩性がある。
4争点2-3(サポート要件違反があるか)について【被告ら及び補助参加人の主張】( )「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置と1の間をばたつくロック状態となるロック方法であって」(構成要件A)との記載について本件特許発明の効果は,「解除機構を単純に出来る」ことであるが(本件明細書段落【0004】,【0021】),かかる効果が扉等がばたつく構成(構成要件A)を採用したことによる結果であることを説明する記載は本件明細書の発明の詳細な説明にはない。また,他に,扉等がばたつく構成を採用したことにより,いかなる効果が奏され,いかなる課題が解決できるのかについて,当業者が認識できるような記載は本件明細書の発明の詳細な説明には全く存在しない。
したがって,本件特許に係る特許請求の範囲の「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態となるロック方法であって」(構成要件A)の記載は,明細書のサポート要件に違反する。
( )係止部が「扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない」(構成要件2B)との記載について本件明細書の発明の詳細な説明からは,係止部が「扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない」(構成要件B)ことの作用効果も,それにより解決される課題も不明であるから,特許請求の範囲の上記記載は,明細書のサポート要件に違反する。
( )「前後または左右のゆれで」(構成要件C)との記載について3本件特許発明構成要件Cの「前後または左右のゆれで」との要件が,球以外の何らかの感震体の左右方向のゆれでもロック状態を実現できるとの意味であれば,そのような仕組みは本件明細書では説明されていないから,特許請求の範囲の上記記載は明細書のサポート要件に違反することになる。
【原告の主張】被告ら及び補助参加人は,本件特許発明において「ばたつく」との構成から直接に「確実解除と単純な解除機構」という効果が達成されるもの解釈し,本件特許に係る特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に違反すると主張する。
しかし,本件特許発明では「扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部」の構成を有することによって「確実解除と単純な解除機構」という効果が達成されるのであって,「ばたつく」とは「扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部」の構成を採用した結果にすぎない。そして,「扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部」の構成を採用したことにより,扉等が閉じた位置になれば係止部には何らの力も作用しない状態になるから,扉等が閉じた位置で地震が終了すれば無条件に確実にロック解除ができることは当業者に自明である。
したがって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に違反しない。
5争点2-4(明確性要件違反があるか)について【被告ら及び補助参加人の主張】( )「閉じられた位置」(構成要件A)1ア本件特許に係る特許請求の範囲には「閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部」(構成要件B)と記載されているところ,「全く接触しない」と強く限定する表現が用いられていることから,「閉じられた位置」は厳密に定義される必要がある。また,同特許請求の範囲には「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態」(構成要件A)とも記載されているが,「閉じられた位置」の意義が明確でなければ,「ばたつく」との構成が充足されているか否かの判断をすることができない。
しかるに,本件特許に係る特許請求の範囲の記載からは「閉じられた位置」の意味を把握することができず,本件明細書にも当該位置に関する説明はないから,特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確に記載されているとはいえない。
イこの点,原告は,アウトセット構造で扉等が棚本体に当たった位置,インセット構造で扉等が当止めに当たった位置を「閉じられた位置」と解釈しているようである。
しかし,本件明細書の図1には,ゴムのようなクッション性のある部材が本体の扉側に付いているが,「閉じられた位置」が,当該部材が全く変形していない位置なのか,多少変形した位置を指すのか全く不明である。
また,本件明細書には,インセット構造について図示もされていない。原告の上記解釈に沿うような記載は本件明細書にはない。
( )「ばたつくロック状態」(構成要件A)2本件特許に係る特許請求の範囲には「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態」(構成要件A)と記載されているところ,上記のとおり「閉じられた位置」の意義が不明であるだけでなく,「隙間を有して開かれた開き停止位置」における「隙間」がどの程度かについても不明である。したがって,「ばたつくロック状態」がいかなる状態を意味するのかも不明である。
( )「前後または左右のゆれで」(構成要件C)3本件特許に係る特許請求の範囲には「地震時に前後または左右のゆれで」(構成要件C)と記載されているが,「前後または左右」にゆれる主体についての記載はない。「地震時に」と限定されてはいるが,地震に伴ってあらゆるものがゆれるのであるから,特許請求の範囲の記載からは何がゆれるのか不明である。
もっとも,本件明細書の段落【0016】,【0018】,図6,図7及び図12ないし図17を参酌すれば,前後または左右にゆれる主体は球(9)と考えられるが,そうであれば「地震時に球が前後または左右にゆれることにより」と記載すべきものである。
したがって,「地震時に前後または左右のゆれで」との特許請求の範囲の記載は不明確である。
( )「後部」(構成要件C)4本件特許に係る特許請求の範囲には「その後部において回動の動きが妨げられ」(構成要件C)と記載されているところ,「その」とは「軸で回動可能な係止体」(構成要件B)を指すものと解される。
本件明細書の段落【0014】及び図7によれば,係止体の軸よりも後部(係止部の反対側)を指すものと解されるから,特許請求の範囲には「前記軸に対して係止部と反対側に位置する後部」と明記すべきである。
しかるに,本件特許に係る特許請求の範囲には単に「後部」と記載されているだけであり,その意味が不明確である。
( )「扉等の戻る動きとは独立し」(構成要件D)及び「扉等の戻る動きと関5係なく」(構成要件E)本件特許に係る特許請求の範囲には「扉等の戻る動きとは独立し」(構成要件D)及び「扉等の戻る動きと関係なく」(構成要件E)と記載されているが,これらの技術的意義は特許請求の範囲の記載自体から理解することができない。
【原告の主張】( )「閉じられた位置」(構成要件A)1本件明細書では,図11が隙間を有して開かれた状態を示す図(段落【0017】),図19が図11と同じだけ開かれた位置で単に停止した状態を示す図(段落【0019】),図7が閉じられた状態を示す図である。図7,図11及び図19を比較すれば「閉じられた位置」は明確であり,「閉じられた位置」は「隙間を有して開かれた位置」の否定として説明されていることがわかる。
この点,被告ら及び補助参加人は,図7に記載されているクッション性の部材を問題にするが,図7は閉じられた状態を図示しているのであり,クッション性のある部材は何ら関係がない。
したがって,「閉じられた位置」とは,日常的な扉の開閉の概念・日本語の通常の意味から,扉が棚本体に対して「当たって止まる位置」又は「隙間を有しない位置」のことであり,本件明細書ではそのような常識に従った概念で用いられている。
( )「ばたつくロック状態」(構成要件A)2被告ら及び補助参加人は,本件特許に係る特許請求の範囲の「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態」との記載につき,「隙間」が不明確であるから「ばたつくロック状態」の意味が不明であると主張する。
しかし,本件明細書の図11は隙間を有して開かれた状態であり,図19も図11と相似の図であるから,「隙間」の意味は何ら不明確ではない。
( )「前後または左右のゆれで」(構成要件C)3地震時には前後だけでなく左右,上下のゆれが同時に生じることは自明であるが,本件明細書に記載された実施例では,図12及び図16に示された振動エリアAにおける球(9)が「前後のゆれ」だけでなく「左右のゆれ」でもロック位置(係止体(6)の後部(6f)の下方位置)に至ることは当業者に自明である。
したがって,本件特許に係る特許請求の範囲の「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり」(構成要件C)との記載は不明確ではない。
( )「後部」(構成要件C)4本件明細書では,「係止体(6)は図8に示す様に前部(6a)と後部(6f)を有し」(段落【0013】)と説明されており,軸(6e)と関係なく,「後部」とは係止体の後ろの部分であると定義されている。
( )「扉等の戻る動きとは独立し」(構成要件C)及び「扉等の戻る動きとは5関係なく」(構成要件E)本件特許に係る特許請求の範囲に記載の「扉等の戻る動きとは独立し」(構成要件C)とは扉等が閉じようとする動きが係止体に何ら作用しないことであり,「扉等の戻る動きとは関係なく」(構成要件E)とは係止体が回動せず扉等の隙間以上に開く動きを妨げる状態が維持されることを意味するのであって,技術的意味は明確である。
6争点3(補償金の額)について【原告の主張】( )被告サンウエーブ工業について1被告サンウエーブ工業は,原告による警告後の平成19年4月1日から平成21年4月30日までの間,ロ号物件を75万セット販売した。
ロ号物件の1セット当たりの本件特許発明実施料相当額は600円であるから,原告が特許法65条1項に基づいて請求することができる補償金の額は4億5000万円である。
原告は,被告サンウエーブ工業に対し,本件訴訟において,上記補償金の一部請求として1000万円の支払を求める。
( )被告積水ハウスについて2被告積水ハウスは,原告による警告後の平成16年6月10日から平成21年5月9日までの間,イ号物件及びロ号物件を合計11万7200セット販売した。
イ号物件及びロ号物件の1セット当たりの本件特許発明実施料相当額は600円であるから,原告が特許法65条1項に基づいて請求することができる補償金の額は7032万円である。
原告は,被告積水ハウスに対し,本件訴訟において,上記補償金の一部請求として200万円の支払を求める。
【被告らの主張】原告の主張は否認ないし争う。
なお,原告は,被告らに対する警告後,本件特許の出願人の地位を一時失い,その後回復した。
第4当裁判所の判断1争点1(被告物件は本件特許発明技術的範囲に属するか)について( )構成要件Aについて1ア構成要件Aに係る特許請求の範囲の記載は,「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態となるロック方法であって」であり,本件明細書の【発明の詳細な説明】の【発明を実施するための最良の形態】の個所には,次の記載がある。
「次に図18(判決注:下記図18)及び図19(判決注:下記図19)は本発明の扉等の地震時ロック方法の実施例であり,図6乃至図11に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法であることを特徴とする。すなわち係止体(6)の係止部(6b)は扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止されるものであり地震時に扉等がばたつくロック状態となる。」(段落【0019】)【図18】 【図19】イ特許発明技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(特許法70条1項),特許請求の範囲に記載された用語の意味は,明細書の記載及び図面を考慮して解釈される(同条2項)。なお,明細書に特許請求の範囲に記載された用語に関する特別な説明や定義が存しない場合には,当業者が理解する一般的な意味として解釈されるべきである。
(ア)「閉じられた位置」について本件特許発明は,地震対策付き棚に関するものであるところ,扉等が棚本体に対して開閉されることは自明であるから,構成要件Aにいう「閉じられた位置」とは「扉等が棚本体に対して閉じられた位置」を意味するものと解することができる。
(イ)「隙間を有して開かれた開き停止位置」について字義的には,「隙間」とは「物と物との間の少しあいている所。すき。
あい。」を,「開き」とは「ひらくこと。あけること。また,あくこと。」を,「停止」とは「いったん動きをとめること。判途でやめること。」をそれぞれ意味する(広辞苑第6版)。
そして,構成要件Aと同じく地震時の扉等の状態に関する構成要件B,Cにいう「回動可能な係止体が地震時に・・・扉等の開く動きを許容しない状態となり」との要件を考慮すれば,構成要件Aにいう「開き停止位置」とは,扉等の開く動きが止められる位置を指すものと理解できる。
そうすると,構成要件Aにいう「隙間を有して開かれた開き停止位置」とは「扉等が棚本体に対して閉じられた位置から所定の間隔を有して開かれてその開こうとする動きが止められる位置」を意味するものと解することができる。
(ウ)「ばたつくロック状態」について字義的には,「ばたつく」とは「ばたばたする。騒がしく動きまわる。
じたばたする。」を,「ロック」とは「錠をおろすこと。鍵をかけること。錠。」をそれぞれ意味する(広辞苑第6版)。
そして,これに上記で検討した「閉じられた位置」及び「隙間を有して開かれた開き停止位置」の用語の解釈に加え,本件明細書中の,係止体(6)の係止部(6b)が扉等の係止具(7)を単に停止するだけであって係止具(7)に係止しないことから,地震時に扉等がばたつくロック状態になるとの記載(段落【0019】),さらには本件特許発明実施例の図面とされる図18及び図19においても,開き戸(91)が棚本体に対して所定の間隔を有してそれ以上開くことのできない位置で停止された状態のものが図示されていることを参酌すると,「ばたつくロック状態」とは「地震時に,扉等が棚本体に対して閉じられた位置と閉じられた位置から所定の間隔を有して開かれてその動きが止められる位置(「開き停止位置」)との間をばたばたする状態であり,扉等が上記開き停止位置を超えて開かないようにロックされた状態」を意味するものと解することができる。
ウ以上によれば,構成要件Aの「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間をばたつくロック状態となるロック方法であって」とは,地震時の扉等の状態を特定するものであって,「地震時に,扉等が,棚本体に対して閉じられた位置と,閉じられた位置から所定の間隔を有して開かれてその動きが止められる位置(「開き停止位置」)との間をばたばたする状態であり,扉等が上記開き停止位置を超えて開かないようにロックされた状態となるロック方法であって,」という意味と解するのが相当である。
エ被告物件との対比構成要件Aに対応する被告物件の構成は「地震時に扉等が閉じられた位置と隙間を有して開かれた開き停止位置との間で扉等の往復動が許容されるロック状態となるロック方法であって」である。
そして,弁論の全趣旨によれば,上記「開き停止位置」とは,扉等が棚本体に対して閉じられた位置から所定の間隔を有して開かれてその動きが止められる位置(別紙イ号物件図面及び同ロ号物件図面の各「地震時の断面側面図(A-A断面)」に記載されている扉等の位置)であること,被告物件は,地震時には,扉等が開こうとすると,扉等に設けられた係合体がラッチ体に当たって停止させられることにより,扉等が上記「開き停止位置」を超えて開かないようにロックされた状態となることが認められる。
したがって,被告物件は,「地震時に,扉等が,棚本体に対して閉じられた位置と,閉じられた位置から所定の間隔を有して開かれてその動きが止められる位置(「開き停止位置」)との間をばたばたする状態であり,扉等が上記開き停止位置を超えて開かないようにロックされた状態となるロック方法であって,」との構成を有するものと認められるから,本件特許発明構成要件Aを充足するものということができる。
( )構成要件Bについて2ア構成要件Bの内容構成要件Bに係る特許請求の範囲の記載は,「収納物のない扉等において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しない前部の係止部を有し軸で回動可能な係止体が」である。
イ「収納物のない扉等」について「収納物のない扉等」については,その文言自体からは意味内容が一義的に明らかではないが,棚本体には収納物が収納されているのであるから,収納物が扉等に接触していない状態を説明しているものと理解することができなくはない。
また,特許請求の範囲には地震時の扉等の動作に関して「開く動き」及び「戻る動き」との記載があるところ,収納物が扉等に接するなどして扉等の「開く動き」及び「戻る動き」が妨げられれば,扉等が棚本体に対して閉じられた位置と開き停止位置との間をばたばたする状態とはならず,したがって構成要件Aにいう「ばたつくロック状態」とはならないから,扉等の開く動きや戻る動きが収納物により妨げられていない状態が前提とされているものと考えられる。
そして,本件明細書の【発明の詳細な説明】を見ても,上記で検討した内容と矛盾するような記載は見いだせない。
したがって,構成要件Bの「収納物のない扉等」とは「開く動きや戻る動きが収納物により妨げられていない状態の扉等」と解するのが相当である。
ウ被告物件との対比上記のとおり,被告物件は「扉等の往復動が許容されるロック状態」となるから,その状態では扉等の開く動きや戻る動きが収納物により妨げられていないことは明らかである。
そして,被告物件が「棚本体側に取り付けられた施錠機構がラッチ体を有し,該ラッチ体は,扉等が閉じられた位置で扉等に設けられた係合体と全く接触しない係止部を前方に有し,軸で回動可能であり,」との構成を有することは当事者間に争いがないところ,被告物件の「施錠機構」,「ラッチ体」及び「係止部」は,その機能に照らせば,順に本件特許発明の「装置本体」,「係止体」及び「係止部」にそれぞれ該当するものと認められる。
また,弁論の全趣旨によれば,被告物件の「係止部」を含む「ラッチ体」は,扉等が閉じられた位置で扉等と全く接触しないことが認められる(別紙イ号物件図面及び同ロ号物件図面参照)。
したがって,被告物件は,本件特許発明構成要件Bを充足するものということができる。
( )構成要件Cについて3ア特許請求の範囲の記載(ア)構成要件Cに係る特許請求の範囲の記載は,「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」というものである。
特許請求の範囲の記載によれば,「前後または左右のゆれ」とは前後又は左右の方向で規定される地震時のゆれを,「その後部」とは係止部の後部を意味するものと理解することができる。
そして,構成要件Aについて検討したとおり,本件特許発明は,扉等が開き停止位置(閉じられた位置から所定の間隔を有して開かれてその動きが止められる位置)を超えて開かないようにロックされた状態となるというものであるから,構成要件Cの「扉等の開く動きを許容しない」とは,「扉等が開き停止位置を超えてそれ以上に開く動きを許容しない」ことを意味するものと理解することができる。
そうすると,特許請求の範囲の記載によれば,構成要件Cの「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」とは地震時に,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれで,係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上に開く動きを許容しない状態になることを意味するものと解することができる。
(イ)しかしながら,構成要件Cに係る特許請求の範囲の「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」との記載を上記のように解釈できるとしても,この構成要件は,抽象的な文言によって係止体の機能を表現するにとどまっているのであって,地震時の前後または左右のゆれによって,いかなる仕組みで係止体の回動の動きが妨げられることになるのか,また係止体の回動の動きが妨げられることによって,いかなる仕組みで扉等の開く動きが許容されないことになるのかという,本件特許発明にいう地震時ロック装置に欠かせない具体的構造そのものは明らかにされているとはいえない。
ところで,特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成すべてを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきであり,具体的には,明細書及び図面の記載から当業者が実施できる構成に限り当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。
イ本件明細書の記載そこで以上のような観点から本件明細書を見ると,本件明細書の発明の【詳細な説明】の個所には次の記載がある。
(ア)【背景技術】「従来において地震時に扉等を自動ロックする地震時ロック装置においてはゆれによって球が動くことにより地震を検出する地震時ロック方法が用いられている。この場合において係止体は扉等の戻る動きにより解除されていたため解除機構が複雑になっていた。」(段落【0002】)(イ)【発明が解決しようとする課題】「本発明は以上の従来の課題を解決し地震時に係止体が扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる構成にすることにより解除機構を単純に出来る扉等の地震時ロック方法及び該方法を用いた地震対策付き棚の提供を目的とする。」(段落【0003】)(ウ)【課題を解決するための手段】「本発明は以上の目的達成のために地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法等を提案するものである。」(段落【0004】)(エ)【発明を実施するための最良の形態】a「…図1(判決注:下記図1)及び図2(判決注:下記図2)は本発明の参考例の地震時ロック方法を用いた扉等の地震時ロック装置を示し,該地震時ロック装置は装置本体(1)に振動エリアAとしての凹所が設けられる。…更に振動エリアAには球(9)が振動可能に収納され該球(9)は振動エリアAの中央後端をその安定位置にしている。
次に装置本体(1)には係止体(2)が軸(2c)において回動可能に取り付けられる。該係止体(2)の軸(2c)より前方である前部には前記振動エリアAとしての開口が設けられ該開口において前記球(9)が収納される。…」(段落【0005】)【図1】 【図2】b「…地震時においては棚の本体(90)がゆれるため前方へのゆれの際には球(9)は振動エリアAの中央後端又は後端近くの安定位置から図3(判決注:下記図3)に示す様に前進する。その結果球(9)は係止体(2)の庇(2b)を押し上げて係止体(2)の前端の係止部(2e)は図4(判決注:下記図4)に示す様に上昇する。・・・」(段落【0007】)【図3】 【図4】c「…上昇した状態を継続している係止体(2)の係止部(2e)は開く方向の動きを継続する開き戸(91)の係止具(5)の係止部(5a)に係止し開き戸(91)は隙間を有してロックされる(図4から図5[判決注:下記図5]に到るのである)。…」(段落【0011】)【図5】d「…以上で明らかな通り図1乃至図5の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(2)が地震時に扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置へと動き,前記係止体(2)は扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず地震時にロック位置に到って振動し又はロック位置を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(2)は待機位置へと戻る扉等の地震時ロック方法である。そして図示のものは地震時に装置本体(1)の係止体(2)が扉等の係止具(5)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となる扉等の地震時ロック方法であった。図6乃至図11は本発明(但し図18及び図19と異なる構成部分は本発明の範囲から除く)の扉等の地震時ロック方法及び該方法を用いた地震対策付き棚である。」(段落【0012】)e「…図6(判決注:下記図6)及び図7(判決注:下記図7)は本発明(但し図18及び図19と異なる構成部分は本発明の範囲から除く)の地震時ロック方法を用いた扉等の地震時ロック装置を示し,該地震時ロック装置は装置本体(1)に振動エリアAとしての凹所が設けられる。該振動エリアAは球(9)が振動可能に収納され該振動エリアAは図9に示す様に後端室A9を有している。…次に装置本体(1)には係止体(6)が軸(6e)において回動可能に取り付けられる。該係止体(6)は図8に示す様に前部(6a)と後部(6f)を有し該後部(6f)は前記振動エリアAの前部の上方に突き出している。…」(段落【0013】)【図6】 【図7】f「…以上の実施例に示した図6乃至図9の地震時ロック方法及びそれを用いた扉等の地震時ロック装置の作用は次の通り。すなわち通常の使用状態においては図6及び図7に示す様に係止体(6)はその軸(6e)を中心に前部(6a)が自重で下降した状態になっている。
開き戸(91)はこの状態で開閉されるが係止体(6)の係止部(6b)の前面は係斜しているため係止具(7)が進入し当たると軸(6e)を中心として係止体(6)の係止部(6b)は上昇する。…以上の係止体(6)の係止部(6b)が持ち上げ可能であるのは振動エリアAにおいて球(9)が後端室A9の安定位置にあるからである。すなわち係止体(6)の後部(6f)は振動エリアAの前部に位置しているため係止体(6)は球(9)に妨げられることなく回動することが出来るのである。」(段落【0014】)g「…開き戸(91)が閉じられた状態では係止体(6)の係止部(6b)は図6及び図7に示す様に係止具(7)の開口(7a)に嵌入した状態になっている。この状態で地震が起こると球(9)は振動エリアAの図9(判決注:下記図9)に示す後端室A9の安定位置から前進し前縁A1において横方向に移動する。振動エリアAはその後部が後端室A9でありその前部は傾斜した前縁A1において側方に拡大している。従って球(9)は前進すると傾斜した前縁A1において横方向の動きが付加されることになる。」(段落【0015】)【図9】h「…開き戸(91)が開く方向への動きを継続しても球(9)は係止体(6)の後部(6f)の下方に位置したままである。その結果図10(判決注:下記図10)及び図11(判決注:下記図11)に示す様に係止体(6)の係止部(6b)は開き戸(91)が開く方向への動きに伴って開口(7a)の先端側の内壁へと動きこれに当たっても持ち上げられない。」(段落【0016】)【図10】【図11】i「…以上で明らかな通り図6乃至図11の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(6)が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体(6)は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(6)は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法である。」(段落【0017】)j「…以上の地震時ロック方法のいずれかに適用が可能な振動エリアAの他の参考例(但しこれに限るものではない)を図12乃至図17(判決注:図12ないし図17に図示される振動エリア内にはいずれも球が記載されている。)に示す。…」(段落【0018】)k「次に図18(判決注:図面は前記のとおり。)及び図19(判決注:図面は前記のとおり。)は本発明の扉等の地震時ロック方法の実施例であり,図6乃至図11に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法であることを特徴とする。すなわち係止体(6)の係止部(6b)は扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止されるものであり地震時に扉等がばたつくロック状態となる。」(段落【0019】)l「次に図20(判決注:下記図20)の参考例は図1乃至図5に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法であることを特徴とする。…」(段落【0020】)【図20】(オ)【発明の効果】「本発明の扉等の地震時ロック方法及び該方法を用いた地震対策付き棚の実施例は以上の通りでありその効果を次に列記する。本発明の地震時ロック方法は特に係止体が扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる構成にすることにより解除機構を単純に出来る。」(段落【0021】)ウ検討(ア)以上に見た本件明細書の記載のうち,【背景技術】,【発明が解決しようとす課題】,【課題を解決するための手段】及び【発明の効果】には,本件特許発明は,従来から用いられているゆれによって球が動くことにより地震を検出する地震時ロック方法において,係止体が扉等の戻る動きにより解除されることで解除機構が複雑化していたという技術課題を解決するため,地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法等を課題の解決手段として採用したとの抽象的な記載があることが認められるが,これらの記載中には,本件特許発明の地震時ロック装置において,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれによって係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上開く動きを許容しない状態を生じさせるための具体的構成そのものは記載されていない。
しかし,本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】には,本件特許発明実施例として,図6ないし図11に示される地震対策付き棚(ただし,図18及び図19と異なる構成部分は本件特許発明の範囲から除くとされている。)並びに図18及び図19に示される地震対策付き棚が記載されており,これらの実施例には,装置本体(1)の振動エリアAに収納された球(9)が,地震のゆれで移動して係止体(6)の後部(6f)の下方に位置することで係止体(6)の回動を妨げ,その結果,開き戸(91)に取り付けられた係止具(7)の開口に嵌入した状態の係止部(6b)(係止体の前の部分)が,開き戸(91)が開こうとして開口(7a)の先端側の内壁に当たっても持ち上げられず,開き戸(91)の開く動きを許容しない状態となるという具体的な構成が記載されていることが認められる。
また,同欄には,本件特許発明の参考例として,図1ないし図5に示される地震対策付き棚及び図20に示される地震対策付き棚がそれぞれ記載されているが,これらの参考例は,装置本体(1)の震動エリアA内に収納された球(9)が,地震のゆれで移動して係止体(2)の庇(2b)を押し上げることにより係止体(2)の係止部(2e)を上昇させ,その結果,係止体(2)の係止部(2e)が開き戸(91)に取り付けられた係止具(5)の係止部(5a)に係止し,開き戸(91)の開く動きを許容しない状態となるという具体的な構成が記載されていることが認められるさらに,同欄には,実施例あるいは参考例のいずれかの地震時ロック装置に適用可能な振動エリアAの参考例として図12ないし図17が記載されていることが認められるが,図12ないし図17に図示される振動エリアはいずれも球を収納するものである。
(イ)以上のとおり,本件明細書には,地震時ロック装置において,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれによって係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上開く動きを許容しない状態を生じさせるための具体的構成としては,装置本体の震動エリアに収納された球により地震時に係止体の回動を妨げる構成が開示されていることが認められるが,それ以外の構成は記載されておらず,またそれを示唆する記載もない。また,本件明細書の【背景技術】にも,従来技術として地震時ロック方法が紹介されているが,それはゆれによって球が動くことにより地震を検出するものであって,他に,振動エリア内に収容した球を用いる以外の構成を示唆するような記載は一切認められない。したがって,本件明細書には,装置本体の振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げるという技術思想だけが開示されているというべきである。
以上によれば,本件明細書の記載から当業者が実施できる構成は,振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げる構成だけというべきであるから,かかる構成に限り本件特許発明技術的範囲に含まれる(構成要件Cを充足する)と解するのが相当である。
エ被告物件との対比構成要件Cに対応する被告物件の構成は,「該ラッチ体と係合可能に設けられた中間体(ラッチ保持具)も軸で回動可能であり,その後部の係合突部が地震時に前後又は左右にゆれる感震体によって上昇させられ,それに伴ってその前部の係止爪が下降してラッチ体上面に設けられた爪係合部(溝)と係合し,これによってラッチ体の係止部が上昇する動きが妨げられる扉等の開く動きを許容しない状態になり,」である。
すなわち被告物件では,地震時にラッチ体(本件特許発明の係止体に該当する部材)の回動を妨げるため,地震時のゆれで動作する感震体と感震体の動作に対応してラッチ体に係合する中間体を用いる構造を有しており(感震体及び中間体の具体的形状は別紙イ号物件図面及び同ロ号物件図面に記載のとおり。),振動エリア内に収納した球を用いて係止体の回動を妨げる構成を有するものではない。
したがって,被告物件は,本件特許発明構成要件Cを充足するものとはいえない。
オ原告の主張について原告は,本件特許発明実施例である球と被告物件の感震体である倒立分銅は「振動するもの」として適宜選択可能な慣用手段であること,倒立分銅の横方向の動きを上下動に変換することは慣用技術である上,本件明細書の図1ないし図5に係る実施例においても球の横方向の動きを係止体の上下動に変換する構成が開示されていることからすれば,本件明細書に実施例として記載された球を,倒立分銅と中間体に置換して被告物件の構成にすることは当業者が容易に想到して実施できる旨主張して,被告物件が構成要件Cを充足する旨主張する。
しかしながら,被告物件に用いられている倒立分銅は,下端の位置が変わらずに上部が振動するものであり,本件明細書の図1ないし図5に示された地震時ロック装置に用いられた球のように動き回るものではないから,ゆれを伝達する機構としては,両者の作動原理は全く異なっているものである(なお,本件明細書の図1ないし図5は,本件特許発明の参考例を示すものであり[本件明細書段落【0005】,【0006】参照],本件特許発明実施例を示す図面ではない。)。また,被告物件は,感震体の動きが直接係止体の回動の動きを妨げているわけではなく,原告のいう中間体としてのラッチ保持具を用い,この機構を介して,地震によるゆれが係止体の回動の動きを妨げる構成をとっており,その構成は本件明細書に開示された構成とは相当異なっている。
そうすると,当業者であれば「振動するもの」について多数の種類があることが常識であり,さらに地震時ロック装置の技術分野においても,地震のゆれによって「振動するもの」として球以外の種々の構成が公知であること(甲7ないし甲14)を考慮したとても,上記のとおり,本件明細書には装置本体の振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げるという技術思想しか開示されていないのであるから,たとえ当業者であったとしても,本件明細書の記載から被告物件の倒立分銅とラッチ保持具を用いた構成を実施できるものと認めることはできない(なお,弁論の全趣旨によれば,被告物件におけるラッチ保持具は,地震終了時に収容物が扉側に倒れるなどして外方に付勢している場合に,ロック状態が解除されることを防ぎ,収容物が落ちることを防止するという機能を果たしているのであるから,被告物件の構成が本件特許発明の改悪にすぎないという原告の主張は当たっていない。)。
したがって,被告物件の構成は,当業者であれば本件明細書の記載から容易に実施できるようにいう原告の主張は失当であって採用できない。
( )以上に検討したとおり,被告物件は,少なくとも構成要件Cを充足しな4いから,本件特許発明技術的範囲に属すると認めることはできない。
2結語以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 北岡裕章
裁判官 山下隼人