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関連審決 無効2009-800048
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10120審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10223審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10147審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10033審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10247審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  下位概念 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10271号 審決取消請求事件
原告株式会社スズデン
同訴訟代理人弁理士 田辺敏郎田辺恵
被告ジェフコム株式会社
同訴訟代理人弁護士 辻本希 世士笠鳥智敬松田さ とみ辻本良知
同訴訟代理人弁理士 辻本一義神吉出上野康成森田拓生
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/07/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800048号事件について平成21年8月3日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件特許に対する被告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件発明の要旨を下記2のとおり認定2した上で,本件特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲10)発明の名称:「工事用防水型ソケットの製造方法」出願日:平成4年11月18日登録日:平成10年4月17日特許番号:第2769663号(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成21年2月23日(甲11。無効2009-800048号)審決日:平成21年8月3日審決の結論:「特許第2769663号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」審決謄本送達日:平成21年8月13日(原告に対する送達日)2本件発明の要旨本件審決が判断の対象とした本件発明は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明であって,その要旨は,次のとおりである。
電球の口金と係合する金属製のソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続するとともに,前記ソケット本体外周と絶縁ケーブルを耐熱合成樹脂材にて射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,前記ソケット本体と電線の接続個所を前記耐熱合成樹脂材にて成形固定したことを特徴とする工事用防水型ソケットの製造方法3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イ及びウの周知例1及び2に記載され3た周知技術(以下,順に「周知技術1」,「周知技術2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の規定により無効にすべきものである,というものである。
ア引用例:米国特許第2265360号明細書(頒布日:昭和16年(1941年)12月9日。甲1)イ周知例1:特開平3-211020号公報(甲3)ウ周知例2:特開平2-291689号公報(甲4)(2)なお,本件審決が認定した引用発明並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明:電球の螺子が形成された端部を受けるようにされた内面に螺子が形成された金属製の環と,環の内端における環部材は,内方に曲がってフランジを構成し,さらに,フランジの端から延びる,下向きの細い刺通端子を構成しており,上記刺通端子は絶縁された導電ケーブルの絶縁体及びケーブルより線を完全に貫通し,環,フランジ,刺通端子及び導電ケーブルの絶縁体の近接部分の周りに,ベークライト等の絶縁樹脂材料をモールドして,鞘とすることで,フランジ,刺通端子及び導電ケーブルの周囲にモールドされて,堅固な絶縁部品として鞘のすべての部品を保持し,容易かつ安価に製造でき,ぐらぐらした部品や露出した電気接続部分のない,安全で,信頼でき,非常に丈夫で安価な,特にクリスマスツリーに好適な,電球のソケットの製造方法イ一致点:電球の口金と係合する金属製のソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続するとともに,前記ソケット本体外周と絶縁ケーブルを合成樹脂材にて成形により被覆して外装体を形成し,前記ソケット本体と電線の接続個所を前記合成樹脂材にて成形したソケットの製造方法ウ相違点(ア)相違点1:「合成樹脂材」に関して,本件発明が「耐熱合成樹脂材」であ4るのに対して,引用発明は「ベークライト等の絶縁樹脂材料」である点(イ)相違点2:外装体の形成に関し,本件発明が「ソケット本体外周と絶縁ケーブルを」,「合成樹脂材にて射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,ソケット本体と電線の接続個所を」,「合成樹脂材にて成形固定した」ものであるのに対して,引用発明は,「環,フランジ,刺通端子及びケーブルの絶縁体の近接部分の周りに,ベークライト等の絶縁樹脂材料をモールドして,鞘とする」とともに「フランジ,刺通端子及び導電ケーブルの周囲にモールドされ」るものの,射出成形ではなく,ソケット本体外周と絶縁ケーブルを一体的に隙間なく密着し,ソケット本体と電線の接続個所を成形固定したものか否か不明である点(ウ)相違点3:ソケットに関し,本件発明が「工事用防水型ソケット」であるのに対して,引用発明は「特にクリスマスツリーに好適な,電球のソケット」である点4取消事由(1)一致点の認定の誤り(取消事由1)(2)進歩性についての判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(一致点の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1)「金属製のソケット本体」についてア本件審決は,その構成・機能から,引用発明の「環」,「フランジ」,「刺通端子」は一体であって,本件発明の「金属製のソケット本体」に相当するとする。
しかしながら,引用発明の上記各部材は,電球に対して送電する役割を有するが,これらをシェル(鞘)が覆うことにより,ぐらぐらと動くことなく固定するものであるから,一体とはいえず,本件発明の「金属製ソケット本体」には相当しない。
イ被告は,本件明細書には,「ソケット本体」について具体的な構成が記載さ5れていないから,引用発明の「環」等が連結された部材も,「ソケット本体」に相当するなどと主張する。
しかしながら,引用発明における環,フランジ,刺通端子の各部品はそれぞれ別個の部品であり,刺通端子をケーブルに差し込んで電気接続部を形成し,その周りをシェルで覆うことにより固定される導電機構である。
引用発明のようなクリスマスツリー等の装飾に用いられる電球への導電電圧は,通常4Vないし12V程度の電圧であり(甲25),個別の部品から形成され,端子をケーブルに差し込む構造の導電機構でも十分であるが,工事現場照明用電球への導電電圧は200Vないし600Vであって(甲21),このような電球のためのソケットは,本件発明のような1つのソケット本体からなるものである。
もとより,被告が指摘するように,工事用電球においても,例えばいわゆるスズラン灯のように,110V/20Wないし100Wの電球を接続することもあるが,それは電球の1例にすぎないのであって,110V以上の電球が接続されることもあり,耐電圧600Vの基準を充足する設計とされているのである。
工事用電球のソケットは,道路照明用,船舶用等,特殊条件下における使用が前提となる場合には,特別な構造が要求されており,電飾用等のランプ用のソケットと工事用電球のソケットとは,JIS適合試験において区別されているから,技術面においても区別されるべきである(甲26)。同様に,工事用電球のソケットは,電気用品の技術上の基準を定める省令に基づく各種試験を行う必要もある(甲27,28)。
このように,本件発明が対象とする工事用防水型ソケットは,耐熱性や耐腐食性等の試験の基準を満たす必要があり,また,実際の使用において高度な耐熱性,防水性が求められるから,引用発明のクリスマスツリー等用の小型の装飾用ソケットとでは,使用状態が異なることから,構造面,技術面で区別されるものである。
したがって,引用発明のような個別の部品をシェル(鞘)で覆って固定される導電機構は,本件発明のソケット本体に相当しない。
6(2)引用発明の接続状態本件審決は,引用発明においても,本件発明の「金属製のソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続する」接続状態が認められるとする。
しかしながら,引用発明は,環,フランジを刺通端子を介してケーブルに貫通した接続状態であるのに対し,本件発明は,金属製のソケット本体に絶縁ケーブルを接続する接続態様であるから,両発明の接続態様は異なるものである。
〔被告の主張〕(1)「金属製のソケット本体」についてア引用発明における「環」,「フランジ」,「刺通端子」は,いずれも金属製で,全体が電気的に連絡した導電部材であるソケット本体の構成部分となっており,本件審決は,これらがソケット本体を構成するものとして構成・機能的に一体であるから,本件発明における「金属製のソケット本体」に相当すると認定したものである。
また,本件発明における「ソケット本体」は,特許請求の範囲及び本件明細書の記載に原告の主張するような限定的に解釈すべき記載がないことからすれば,シェル(鞘)に覆われなければぐらぐらするような複数の部品を連結して構成されたものでも,その技術的範囲から排除されていないことは明らかである。
イ原告は,工事用電球と装飾用電球の導電電圧の違いを強調するが,原告が引用する書証(甲21)における「VCT(600V)」は,「ビニルキャブタイヤケーブル,耐電圧600V」を意味するにすぎず,個々の電球への導電電圧が600Vというわけではない。また,同文献には,「スズラン灯」のように,工事用電球でも110V程度のものも記載されている。
したがって,工事用電球用のソケットと装飾用電球のソケットとの間には,技術面で格別の差は存在しないものである。
(2)引用発明の接続形態引用発明において,ケーブルを貫通した刺通端子とケーブル内の電線は電気的に7接続されているのであるから,かかる接続形態は,本件発明の「ソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続する」形態と同様である。
本件発明における接続形態については,本件明細書の発明の詳細な説明に,ソケット本体に絶縁ケーブルの電線をスポット溶接若しくはハンダ付けした実施例(【0012】,図2)が記載されているが,特許請求の範囲は,単に「ソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続する」と記載されているだけであり,上記実施例の構成に限定されるものではない。
したがって,本件発明と引用発明とにおける接続形態は,同一であるというべきである。
2取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)相違点1についての判断「ベークライト」が熱硬化性樹脂であり,従来,電球のソケットに用いられていたことは争わない。
しかしながら,本件発明の耐熱合成樹脂材は,ベークライトに限られるものではなく,ベークライトが本件発明と同様の耐熱性を有するものといえるかについては不明である。
また,耐熱性合成樹脂材の選択は,そのソケットが,装飾用電球用であるか,小型の電球用(引用発明)であるか,工事用の電球用(本件発明)であるか等,電球の種類や用途,ソケットの製造方法によって異なるものであるから,当業者が適宜なし得る設計的事項であるとした本件審決の判断は誤りである。
(2)相違点2についての判断ア本件審決は,引用発明について,環の外側とともに,接続個所である刺通端子及びケーブルの絶縁体の近接部分の周りにおいても,絶縁樹脂材料を隙間なく密着してモールドするものといえるものであり,一体的に隙間なく密着して被覆させることも当業者が通常なす成形方法であるといえるとするが,その判断は誤りであ8る。
本件審決は,まず,引用発明の特許公報(甲1)1頁左欄の「A shell of insulating material is molded around the ferrule, prongs and cables and holds all parts of the husk in firm dielectric assembly.」の記載について,「絶縁材料の被覆は,フランジ,刺通端子,及びケーブルの周囲に成型されており,堅固な絶縁部品として鞘のすべての部品を保持している」と訳したが,当該部分は「絶縁性材料製のシェル(甲1の訳文における「鞘」に相当)が,フェルール(同「環」に相当),プロング(同「刺通端子」に相当)及びケーブル周囲で成形され,シェルのすべての部品を安定した誘電アセンブリ中で保持する」と訳すべきである。
引用発明における「firm」という語は,本件発明の「一体的に隙間なく密着して被覆して」と同じ意味において堅固とはいえず,「firm dielectric assembly」は,固定された誘電性の組立て部品を意味するから,引用発明は,絶縁樹脂材料からなる鞘が環の外側と挿通端子及びケーブルの絶縁体の周りを「隙間なく密着してモールドした」ものとは認められない。
イ引用発明において,刺通端子は,ケーブルの絶縁体及びケーブルより線を直径方向にそれぞれ通過し,刺通端子の端部位は,鋭利形状になっており,これにより同ケーブルを貫通する構成であることから,刺通端子を貫通させてその周囲を覆うという手間がかかり,本件発明と異なり,容易に製造することはできない。
また,引用発明の構成は,ぐらぐらした取り付け態様であり,刺通端子の貫通部分においては電気接続部分が露出しているか,露出する可能性が高いところ,これを,鞘をモールドすることによりぐらぐらせず,電気接続部分が露出しない程度に覆って形成したものである。
しかも,引用発明の出願時には,熱硬化性樹脂の射出成形技術が存在しなかったから,引用発明における「モールド」とは,単に「成形した」,「形作った」程度の意味を有するにすぎない。
したがって,引用発明は,ソケット外周と絶縁ケーブルとを一体的に隙間なく密9着して被覆して外装体を形成したとの構成は全く表されておらず,本件発明のようにソケット本体外周と絶縁ケーブルを耐熱合成樹脂にて射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,ソケット本体と電線の接続個所を耐熱合成樹脂にて成形固定したものではない。
被告は,引用例に「隙間なく密着して」という文言はないとしても,射出成形技術のない時代においても,成形品内部に隙間が生じないようにモールドすることは,多少の技術的な困難性はあったにせよ,不可能ではなく,また,本件発明の出願時には,熱硬化性樹脂の射出成形技術は周知となっていたのであるから,引用発明に射出成形技術を適用することについての阻害要因は存在しないなどと主張する。
しかしながら,樹脂を流動化させてこれを射出する射出成形は,多くの成形法の中で,寸法精度や計画どおりの外観が得られる点で,最も優れた成形法であり,本件発明は,この射出成形によりソケット本体外周と絶縁ケーブルを耐熱性合成樹脂にて一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成するものである。
他方,引用発明など,従来のソケットの成形に用いられていた圧縮成形は,加圧方向に対する寸法精度に乏しく(甲23),また,その他の成形方法も射出成形ほどには寸法精度を出すことはできない。
したがって,射出成形以外のモールドによっても同様の効果を得ることはできるという被告の主張は誤りである。
また,工事用照明用ソケットのような耐熱電気部品を製造しようとする者にとって,耐熱性樹脂材の多くが含まれる熱硬化性樹脂を選択し,圧縮成形を用いることが最も簡単かつ当然の手法であった。もっとも,熱硬化性樹脂の圧縮成形には,加圧の不均一による充填不足や,内部ひずみによる割れが起きやすい,寸法精度が出しにくいという欠点があり,隙間が生じることも避けられない。
引用発明が前提とする装飾用ソケットは,乱暴に取り扱われることはなく,防水性,防塵性も要求されないから,圧縮成形によるものでも特に問題はない。
さらに,本件特許の出願時に射出成形技術が公知であったとしても,粉体状の樹10脂に一度流動性を持たせてから型に入れ射出するという2段階の手法を採る煩雑な熱硬化性樹脂の射出成形をソケットに用いることはなく,現実に工事用防水型ソケットに射出成形を適用したものは案出されてこなかった。しかも,電球が発する高熱に対する耐性が必要とされる部分に熱可塑性樹脂を好んで用いるということもなかった(甲8,23)。
本件発明以前の工事用防水型ソケットの成形技術の常識からすれば,そもそも取り扱われる分野の異なる引用発明に,ソケットの成形には通常用いられない射出成形技術を適用することは容易ではなく,本件発明は引用発明から容易に想到し得るものではない。
したがって,本件発明の出願時に,熱硬化性樹脂の射出成形技術が周知となっていたとしても,引用発明に射出成形技術を適用することには困難性があり,本件発明は,引用発明に射出成形を組み合わせることにより,容易に想到できるものではない。
ウ本件審決は,引用発明に,射出成形法に係る周知技術2を適用するが,周知例2に記載の板ばね一体型電源用高電圧コネクタは,工事用防水型ソケットのような強度性,防水性,防塵性はほとんど必要のない電気製品であり,本件発明とは全く異なる分野の電気製品である。また,周知技術2は,接続部分に相当する部分を射出成形したとはいえず,本件発明とは構成自体が異なるのみならず,その作用及び機能も全く共通しない。
したがって,周知技術2を,引用発明に組み合わせることは容易ではない。
エ本件発明は,工事用防水型ソケットの製造方法であるところ,工事用防水型ソケットは,工事用ランプの熱に耐え得る強度が要求されることは当然として,さらに,例えば,夜間道路工事,トンネル内のボウリング作業等において,乱暴に取り扱われることも十分予想されることから,劣悪な環境下においてソケットが劣化,破損して通電部分が露出して感電が生じたり,劣化,破損部分やソケット本体と外装体との間にできた隙間から雨水等が進入して,漏電や発火が生じることを防止す11る必要がある。
したがって,工事用防水型ソケットに要求される強度は,引用発明のような装飾用,小型電球用のソケットに要求される強度と比較して,圧倒的に高いものである。
そして,ソケットの強度と防水性の向上については,密接な関連性があることから,本件発明は,ソケット本体と電線の接続個所を耐熱合成樹脂材にて成形固定したことにより,ぐらぐらした部品や露出した電気接続部分のないというレベルを超えたソケット及びケーブルと外装体との密接な親和性が得られるのである。
したがって,本件審決が,小型電球用ソケットを前提とする引用発明の,「ぐらぐらした部品や露出した電気接続部分のない」,「安全で,信頼でき,非常に丈夫で安価な」等の記載を参酌して,引用発明が,接続個所である刺通端子及びケーブルの絶縁体の近接部分の周りにおいても,絶縁樹脂材料を隙間なく密着してモールドするものといえると判断したことは誤りである。
オ本件審決は,電球のソケットにおいて,雨水に対する絶縁性と耐水性が要求されることは,当業者が通常考慮することであって,引用発明においても,防水性を考慮しつつ鞘をモールドする場合,隙間なく密着させて被覆することは,当業者にとって格別の困難性を要することなくなし得たことであるとする。
しかしながら,先に指摘したとおり,劣悪な環境下において酷使される工事用防水型ソケットにおいて,防水性の向上は非常に重要な事項であり,本件審決が想定する豆電球が剥きだしの状態の装飾豆ランプ(甲18)や,装飾用として使用される屋外電灯のソケット(甲2)とは,その前提が異なるものである。だからこそ,電気機械器具の防水性に等級が設けられているものである(甲20)。
また,本件審決が指摘する周知技術1及び2は,いずれも技術分野の関連性も解決する課題の共通性もなく,本件発明のように,乱暴に取り扱われた場合にも,十分な耐久性,耐衝撃性,防水性,防塵性を得ることを解決課題とする示唆もなく,ソケットに特有の機能のために射出成形を用いることの示唆はない。しかも,引用発明には,防塵性,耐塵性の観点が全くない。
12したがって,本件審決の上記判断,防塵性,耐塵性は,成形固定が射出成形により行われることを根拠とするものであり,当業者が予測できるものにすぎないとする被告の主張は,いずれも誤りである。
(3)相違点3についての判断ア引用発明の用途について本件審決が指摘するとおり,引用例には,引用発明に係る電球のソケットの用途は,クリスマスツリーに限定されないとの記載はあるが,その他の具体的用途については明らかにされていない。クリスマスツリー用電球のソケットが,屋外での使用を前提として,防水性についても考慮されているとしても,工事用防水型ソケットにおける防水性とは,その程度が異なることは先に指摘したとおりである。
また,工事用防水型ソケットは,長くても数週間の間,屋内や軒先等の安定した環境下で用いられ,4Vないし12V程度の装飾用の電球を接合すればよいクリスマスツリー等の装飾用ソケットとは,求められる防水性,強度はおのずから異なる。
したがって,引用発明を工事用防水型ソケットに適用することが容易想到であるとした本件審決の判断は誤りである。
イ引用発明に係るソケットの強度について本件審決は,引用発明が,環,フランジ,刺通端子及びケーブルの絶縁体の近接部分の周りをモールドすることにより,安全で,非常に丈夫なソケットを,容易かつ安価に製造するものであって,電気的接続部分を含めて機械的強度を向上するものといえるとする。
しかしながら,引用発明の,「堅固な絶縁部品として鞘のすべての部品を保持し」は,先に指摘したとおり,「上記鞘のすべての部品を安定した誘電アセンブリ中で保持する」程度の意味を有するにすぎず,引用発明に記載のない機械的強度について,「電気的接続部分を含めて機械的強度を向上するものといえる」と判断することはできない。
周知技術1及び2の技術分野について13周知技術1は,電気部品の樹脂成形金型に係る発明であり,電子回路素子の射出成形が記載されているのみである。周知技術2も,本件発明とはその構成が異なり,そもそも防水性を考慮した発明ではないから,引用発明に甲3および甲4を適用することについて,当業者が容易に想到し得たものということはできない。
〔被告の主張〕(1)相違点1についての判断ベークライトが耐熱性合成樹脂の一種であることは明らかであり,また,本件特許の特許請求の範囲には,耐熱合成樹脂材の種類や耐熱性を特定する記載はなく,本件発明の技術的範囲からベークライトを除外していない。
相違点1は,本件発明の「耐熱合成樹脂材」が,本件明細書の記載から「FRP(繊維強化プラスチック)」を含む概念であると認められるのに対し,引用発明の「ベークライト等の絶縁樹脂材料」は,FRPを含むか否か明示されていないことから,相違点とされたものである。
しかし,「ベークライト等の絶縁樹脂材料」は,「耐熱合成樹脂材」と同質ないしその下位概念であるから,この点において本件発明と引用発明とに実質的な相違はなく,単なる設計事項にすぎないものである。
(2)相違点2についての判断ア引用発明の英訳について原告は,本件審決における引用発明の英文の和訳の誤りを指摘するが,「firm」は「堅固な」との,「dielectric」は「誘電性の,不伝導性の,絶縁の」との,「assembly」は「組立部品」との意味を有する(乙1)から,「firm dielectric assembly」は,「堅固な絶縁部品」の意味を有するものである。
また,引用発明の特許公報の図2には,絶縁体であるベークライトで成形されたシェル(鞘)に部品が堅固に保持された状態が明示されているものである。
イ「隙間なく密着してモールドする」構成原告は,引用発明が,絶縁樹脂材料を隙間なく密着してモールドするものといえ14るとした本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,引用発明の図2には,絶縁樹脂材料からなる鞘が環の外側と刺通端子及びケーブルの絶縁体の周りを隙間なく覆っている状態が図示されており,絶縁樹脂材料を隙間なく密着してモールドされたものと認めることができる。
また,引用発明には,「隙間なく密着して」との文言はないとしても,一般的に,樹脂成形品内部に生じる隙間(空隙)は成形不良とされるものであり,樹脂材料をモールドする際,意図的に隙間を生じさせることは通常考えられない。射出成形技術のない時代においても,成形品内部に隙間が生じないようにモールドすることは,多少の技術的な困難性はあったにせよ不可能なことではなく,また,本件発明の出願時には,熱硬化性樹脂の射出成形技術は周知となっていたのであるから,引用発明に射出成形技術を適用することについての阻害要因は存在しない。
周知技術2を引用発明に適用することについて周知例1の第1図ないし第6図によると,板ばねと高電圧電線との間の接続箇所を合成樹脂の射出成形により成形固定していることは明らかである。
したがって,周知技術2を引用発明に適用することは容易である。
エ原告主張の効果について原告は,本件発明が,ぐらぐらした部品や露出した電気接続部分がないだけではなく,ソケット及びケーブルと外装体との密接な親和性が得られるものであるとして,本件審決が,一体に隙間なく密着して被覆させることも当業者が通常なす成形方法であるといえるとする判断は誤りであると主張する。
しかしながら,原告が主張する効果は,成形固定が射出成形により行われていることに基づくものであり,仮にかかる効果が認められるとしても,それは射出成形以外のモールドによっても同様の効果を得ることは不可能ではなく,また,射出成形技術自体は周知であって,引用発明に射出成形技術を適用することについての阻害要因は存在しないから,当該効果は当業者が予測できるものにすぎない。
オ防水性について15原告は,工事用防水型ソケットと電飾用電球用ソケットとの違いを強調し,本件発明は,工事用防水型ソケットに必要な強度性と防水性が向上し,同時に製作が容易であるという効果も生じるとして,本件審決が,防水性を考慮しつつ引用発明の鞘をモールドする場合,隙間なく密着させて被覆することは,当業者にとって格別困難性を要することなくなし得たとする判断は誤りであると主張する。
しかしながら,屋外催事場において使用される電灯照明用ソケットに関する発明(甲7)においても,「雨水に曝されることの多い道路工事や建築工事等の作業現場または屋外催事場,あるいは多量の水を扱う工場や施設等,その電灯照明に防水対策を必要とする場所は多い」との課題が指摘されているように,防水対策がなされた電灯照明用ソケットは,工事用,屋外催事場における装飾用のいずれにも使用されるのであるから,工事用防水型ソケットと,屋外に設置され得るクリスマスツリー用等の装飾用ソケットとの間に,防水技術面での明確な区別はない。
また,原告主張の効果は,成形固定が射出成形により行われていることに基づくものであって,当業者が予測できるものにすぎない。
原告は,工事用防水型ソケットに求められる防水性は高ければ高いほどよく,クリスマスツリー用のソケットはそれより低い防水性でも十分であると主張するが,防水性の程度が高いほどよいことは,装飾用ソケットでも同じであるから,引用発明において,高い防水性が得られるように,鞘を隙間なく密着させて被覆するようにモールドすることが格別困難性を要しないことは明らかである。
なお,原告が主張する防塵性,耐塵性の効果も,成形固定が射出成形により行われていることに基づくものであり,当業者が予測できるものにすぎない。
(3)相違点3についての判断ア工事用防水型ソケットと装飾用ソケットとの技術上の共通性について工事用防水型ソケットとクリスマスツリー用等の装飾用ソケットとの間に技術面での明確な区別はなく,また,原告主張の本件発明の効果は,成形固定が射出成形により行われていることを根拠とするものであり,当業者が予測できるものにすぎ16ない。
周知技術1及び2の技術分野について周知技術1及び2は,いずれも電気部品の樹脂成形固定技術に関する発明であって,当然に強度や防水性が考慮される点で電灯用ソケットに関する引用発明と共通するものであり,引用発明への適用が容易であることは明らかである。
第4当裁判所の判断1取消事由1(一致点の判断の誤り)について(1)引用発明の内容ア引用例の記載引用例には,以下の記載がある。
(ア)本発明の目的の1つは,容易かつ安価に製造でき,ぐらぐらした部品や露出した電気接続部分のない,この種の改良されたソケット又は鞘を提供することである。
(イ)加えて本発明の目的は,そのようなランプのソケット又は鞘を簡単かつ効率的にし,安全で,装飾的で,信頼して使用でき,しかも経済的に製造可能なこの種の極めてシンプルなソケットを提供することにある。
(ウ)これらや他の目的の達成のための独創的な特徴は,小型の電球ソケットないし鞘に関連するものとして開示されるものであって,内部の導電性を有する螺子が形成された金属製の環,内部端にあって,好ましくは環のフランジに完全に接合するように突き刺す刺通端子を構成する内部のフランジ及び細い導線を構成する部材である。環のフランジに固定された絶縁円板は,その中央に前記環との接触の範囲内及び外にある接触頭部を有する金属製のリベットを貫通させており,刺通端子は,リベットの他端に導電的に固定されている。
絶縁された1対の導電ケーブルには,前記刺通端子がそれぞれ導電的に貫通し,前記円板及び環に近接した前記ケーブルの外側の絶縁された壁の周りに曲げられた導線が通されている。
17(エ)私の改良された電球用の鞘は,拡径した開口縁部を有し,電球の螺子が形成された端部を受けるようにされた,内面に螺子が形成された環を含む。環の内端における環部材は,内方に曲がってフランジを構成し(図4),そして,切断され曲げられることにより,フランジの端に接合し,水平に対してほぼ垂直にフランジから離れて延びる,下向きの細い刺通端子を構成する。絶縁体からなる円板は,近接する内側に押された環の部分が,所定箇所に円板を保持するための台座を構成することにより,前記フランジ上において環の中に固定される。円板の中央開口部における金属製のリベットは,環の内側に,ランプ接触当接頭部と,リベットの他端におけるリベットのフランジを備える。その下側には,前記リベットを受け入れ,かつ前記絶縁円板に平坦に接触するリベットのフランジにより保持された,孔のあいた端部を有する接触片が当接し,前記片は前記円板からほぼ垂直に延びる接触刺通端子を構成する。
一対の絶縁された導電ケーブルは,前記円板付近において鞘と交差するように配される。前記各刺通端子(図7)は,それぞれこれらのケーブルの絶縁体及びケーブルより線を完全に貫通する。刺通端子の端部はケーブルを突き刺すため30の位置で鋭利になっており,ケーブルと刺通端子をともに保持するために29の位置で絶縁体の周囲に沿って曲げられる。ケーブルは前記円板付近に間隔を置いて位置し,フランジはほぼ円板の直径と平行である。前記環のための鞘は,ベークライト等のモールドされた絶縁樹脂材料からなるもので,環,刺通端子及びケーブルの絶縁体の近接部分の周りにモールドされており,前記拡径した端における34で円錐形に広がった円筒体を構成し,その中間部において取付具を受けるための螺子山を備えている。
イ引用発明における環,フランジ及び刺通端子の構造引用例における上記アの各記載及び図1〜7によれば,引用例には,ランプのソケットについて,電球の螺子が形成された端部を受けるようにされた内面に導電性を有する螺子が形成された「金属製の環」と,環の内端における環部材であって内18方に曲がって構成された「フランジ」と,切断され曲げられることによりフランジの端に接合し,フランジに対してほぼ垂直方向にフランジから離れて延びる下向きの細い「刺通端子」とにより構成されることが開示されている。
そして,刺通端子が,絶縁された導電ケーブルの絶縁体及びケーブルより線を貫通することによって,導電ケーブル内のケーブルより線と金属製の環とが(フランジ及び刺通端子を介して)導電的に接続される構造を有しているものであるから,金属製の環,フランジ及び刺通端子は,全体として,電気的に連結した一体の導電部材を形成してなるものと認めることができる。
ウ小括したがって,本件審決が,電気的に連結した一体の導電部材(環,フランジ及び刺通端子)を,本件発明の「金属製のソケット本体」に相当することを前提に,一致点として,「電球の口金と係合する金属製のソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続する」と認定したことに,誤りは認められない。
この点について,原告は,?引用発明の各部材(環,フランジ及び刺通端子)は,シェル(鞘)で覆われることにより,ぐらぐらした部品でなくなるから,一体の導電部材とはいえない,?引用発明と本件発明とにおける接続態様は異なる,?装飾電球用のソケットと工事電球用のソケットとでは,用いられる電球の電圧が異なるなどと主張する。
しかしながら,特許請求の範囲の記載からすると,本件発明における「金属製ソケット本体」は,「絶縁ケーブルの電線を接続」していれば足り,引用発明のように,「一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成」することでぐらぐらしなくなるような金属製のソケット本体を排除していないから,引用発明が,シェル(鞘)に覆われることでぐらぐらしなくなるような一体の導電部材で構成されていることをもって,本件発明の「金属製のソケット本体」に相当しないということはできない。
また,先に指摘したとおり,引用発明の接続状態は,接続箇所が導電ケーブル内19ではあるが,刺通端子(本件発明の金属製のソケット本体の一部に相当)に,導電ケーブルのケーブルより線(本件発明の絶縁ケーブルの電線に相当)を接続するものであって,本件発明の接続状態と同様である。
さらに,本件発明と引用発明とが前提とする電球に通常用いられる電圧が異なるとしても,本件発明と引用発明の導電部材の構造やその接続形態が異なるものではないことは,先に指摘したとおりである。原告の主張は採用できない。
2取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について(1)相違点1についての判断の誤りについてア本件明細書の記載(ア)本件明細書の【産業上の利用分野】(【0001】),【従来の技術】(【0002】),【発明が解決しようとする課題】(【0005】,【0006】,【0007】),【作用】(【0009】)の記載によると,本件発明は,工事用防水型ソケットの製造方法に係り,特に乱暴に取扱われても破損するおそれがなく,最も重要な防水性を確実に維持できるとともに,製造に際しても容易で,製造効率良く大量生産することが可能な工事用防水型ソケットの製造方法に関する発明で(【0001】),従来,金属製のソケット本体に,本線ケーブルより分岐した単芯の防水絶縁ケーブルの電線をハンダ付けし,このハンダ付け個所にアスファルトを塗着することで絶縁防水処理し,この上にベークライトにて合成樹脂外装体を形成し,その上から更に可撓性を有するゴム等の絶縁材からなる防水カバーによって被覆していた(【0002】)が,使用する電球の熱による防水カバー等の劣化,乱暴に取扱われた場合に生ずる防水カバーや合成樹脂外装体の破損及び両者の間に隙間が生じたり,断線や雨水浸入による漏電の危険性があるのみならず,製造工程も多大な手間と時間とコストを要するものであったことから,電球の熱で劣化することなく,乱暴に取扱われても破損等するおそれがなく,防水性を確実に維持することができるとともに,容易に製造することができる工事用防水型ソケットを提供することを目的として(【0005】,【0006】,【0007】),電20球の口金と係合する金属製のソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続するとともに,ソケット本体外周と絶縁ケーブルを耐熱合成樹脂材にて射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,ソケット本体と電線の接続個所を耐熱合成樹脂材にて成形固定したことで,上記課題を解決することができる(【0009】)というものである。
(イ)また,本件明細書の【実施例】(【0010】,【0012】,【0013】,図1)には,ソケット本体に接続された電線及び防水絶縁ケーブルを一体的に被覆して成形されてなる,耐熱性,耐食性,耐久性に優れた合成樹脂外装体として,絶縁性を有するFRP(繊維強化プラスチック)等が例示され,具体的製造方法として,まずソケット本体に防水絶縁ケーブルの電線をスポット溶接若しくはハンダ付けをし,この電線付きソケット本体を所定の成形金型内にセットして,金型に溶融合成樹脂材を注入し,固化後に取り出すことが示されている。
さらに,本件発明の,【発明の効果】(【0014】)としては,電球の口金と係合する金属製のソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続するとともに,ソケット本体外周と絶縁ケーブルを耐熱合成樹脂材にて射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,ソケット本体と電線の接続個所を耐熱合成樹脂材にて成形固定したことで,使用する電球の熱によって工事用防水型ソケットが劣化することなく,また,乱暴に取扱われても,外装体がソケット本体と分離したり,電線の接続部分が切断したりするという破損のおそれがなく,かつ,雨水等が浸入するおそれの全くない優れた防水性を維持できるとともに,製造効率も良く,大量生産が可能となるものと記載されている。
イベークライトについてベークライトは,明治42年(1909年)に発表された最古のプラスチックで,耐熱性合成樹脂(甲2)であり,耐熱性,難燃性を有する熱硬化性プラスチックである(甲8)。
したがって,本件特許の出願時において,ベークライトが耐熱性を有する熱硬化21性樹脂であることについては,周知であったと認められる。
ウ本件発明における「耐熱合成樹脂材」とベークライトについて本件発明は,「耐熱合成樹脂材」にて「外装体」を射出成形することにより,電球の熱によって工事用防水型ソケットが劣化しないようにすることを目的としたものということができるが,本件明細書の記載及び特許請求の範囲のいずれにおいても,「耐熱合成樹脂材」の「耐熱」の意味する内容は明確ではない。
そして,引用発明の「ベークライト」は,引用例においても,絶縁樹脂材料と説明されている,耐熱性を有する合成樹脂材であるから,本件発明における「耐熱」の意味内容が明確でない以上,「耐熱」という語に格別の意義を認めることができず,本件発明の「耐熱合成樹脂材」と引用発明の「ベークライト」あるいは「ベークライト等の絶縁樹脂材料」という合成樹脂材との間には,相違点が認められない。
仮に,本件発明の「耐熱合成樹脂材」における「耐熱」の意味について,本件明細書の発明の効果に関する記載等にかんがみ,使用する電球の熱による劣化が防止できる程度の耐熱性を有するという内容として理解するとしても,先に指摘したとおり,ベークライトは「耐熱合成樹脂」として周知であるから,引用発明の「ベークライト等の絶縁樹脂材料」は,本件発明と同じ「耐熱合成樹脂材」を包含するものであり,引用発明の方法により製造されるソケットは,本件発明の方法により製造されるソケットと同程度の耐熱性を有していると認めることができる。
エ小括したがって,相違点1について,「耐熱合成樹脂材」と「ベークライト」との間には,実質的な相違点が認められない以上,「引用発明の『ベークライト等の絶縁樹脂材料』を耐熱性樹脂材料とすることは,当業者が設計上適宜なし得たことといわざるを得ない」とした本件審決の判断は,その結論に影響を及ぼさない。
(2)相違点2についての判断ア本件明細書の記載相違点1について先に指摘したとおり,本件明細書の記載によると,本件発明は,22「ソケット本体外周と絶縁ケーブルを耐熱合成樹脂材にて射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,ソケット本体と電線の接続個所を耐熱合成樹脂材にて成形固定」する構成を有することにより,工事現場において,乱暴な取扱いをしても,外装体がソケット本体と分離したり,電線の接続部分が切断したりするといった破損のおそれがなく,優れた防水性を維持する工事用防水型ソケットを効率よく大量生産できるという課題を解決するものである。
すなわち,本件発明は,「一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,ソケット本体と電線の接続個所を…成形固定」することにより,上記課題を解決し,さらに,「射出成形により…成形固定」することにより,「効率よく大量生産できる」製造方法を実現するものである。
イ引用例における「in firm dielectric assembly」についてこの点は,その意義(英文の和訳)をめぐって当事者間に争いがあるが,引用例の図2には,絶縁樹脂材料からなる鞘が,金属製の環,フランジ及び刺通端子の外周と導電ケーブルを隙間なく密着して被覆してなる構成及び(ソケット本体の一部である)刺通端子とケーブルより線の接続個所(導電ケーブル内の絶縁体の内側)を,絶縁樹脂材料にて,直接ではないが絶縁体を介して間接的に成形固定(mold)する構成が示されており,引用発明においても,耐熱合成樹脂材において,「隙間なく密着して被覆」され,「接続個所を…成形固定」する構成が開示されているものといえる。
また,本件発明は,「一体的に」隙間なく密着して被覆するものであるが,これは,耐熱合成樹脂材により,ソケット本体外周と絶縁ケーブルとが不可分に同一体を形成している状態を有しているものと解し得るところ(本件明細書【実施例】【0013】図1ないし図3),引用発明には,金属製の環,フランジ及び刺通端子の外周と導電ケーブルとが絶縁樹脂材料である鞘によってモールドされて不可分に同一体を形成している構成が開示されているから,引用発明も本件発明と同様,「一体的に」隙間なく密着して被覆する構造を有するものというべきである。
23そして,引用発明は,当該構造を有していることからすると,本件発明が解決しようとする課題(機械的強度及び防水性等の向上並びに製造過程の効率化等)を解決し得るものであることは明らかである。
したがって,引用発明には,ソケット本体(金属製の環,フランジ及び刺通端子)外周と絶縁ケーブル(導電ケーブル)を合成樹脂材にて一体的に隙間なく密着して被覆して外装体(鞘)を形成し,ソケット本体と電線(ケーブルより線)の接続個所を合成樹脂材にて成形固定(mold)した構成が開示されているものと認められるから,本件審決が前提とした引用例における「in firm dielectric assembly」の意義(和訳)が誤りであることに基づく原告主張は,採用することができない。
ウ射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して…耐熱合成樹脂材にて成形固定する点について(ア)上記(1)イのとおり,ベークライトは,耐熱性合成樹脂であり,耐熱性,難燃性を有する熱硬化性プラスチックである。
また,株式会社松田製作所は,昭和32年(1957年),熱硬化性樹脂射出成形機を開発している(甲9)。
したがって,本件特許の出願時において,ベークライトを含む熱硬化性樹脂を用いて射出成形により熱硬化性樹脂成形物を得ることは,周知技術であったといわなければならない。
(イ)引用発明は,「環,フランジ,刺通端子及び導電ケーブルの絶縁体の近接部分の周りに,ベークライト等の絶縁樹脂材料をモールドして,鞘とする(「Ashell 33 for said ferrule comprises molded insulating plastic material, such as Bakelite or the like, molded around the ferrule, prongs and adjacent portion of the insulation of the cables, … 」)ものであるところ,「mold」とは,「かたどる, 鋳る, 型に入れて造る, 成形[鋳造]する; 〈液体・展性のある物質〉に形を与える。」(リーダーズ英和辞典)を意味するから,引用発24明の鞘は,ベークライト等の絶縁樹脂材料すなわち熱硬化性樹脂材料を「成形して」得られるものということができる。
そして,上記(ア)のとおり,熱硬化性樹脂を射出成形して熱硬化性樹脂成形物を得ることは,本件特許の出願時において周知であるから,引用発明において熱硬化性樹脂材により鞘を成形するに当たり,その成形方法として射出成形を用いることは当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
エ小括したがって,本件発明の,「ソケット本体外周と絶縁ケーブルを」,「合成樹脂材にて射出成形により一体的に隙間なく密着して被覆して外装体を形成し,ソケット本体と電線の接続個所を」,「合成樹脂材にて成形固定」するという構成は,引用発明に周知技術を組み合わせることにより,容易に想到し得るものと認められる。
この点について,本件審決は,周知例2において,射出成形を用いることが開示されていることを前提に,引用発明において射出成形を適用するのは想到容易であるとするようであるが,周知技術2において射出成形される樹脂は,「溶融絶縁性合成樹脂」であって,「冷却,硬化」後に脱型するものであるから(周知例2の2頁右下「構成」欄),熱硬化性樹脂ではない。そうすると,引用発明に周知技術2を組み合わせることが,その素材の違いにもかかわらず,直ちに容易であるとすることは困難である。
しかしながら,射出成形を用いることにより,製品製造時の効率化を図るということは,周知の課題解決手段であったのであるから(周知例2の2頁上段「発明が解決しようとする問題点」及び「問題点を解決するための手段」欄),周知例2に接した当業者が,引用発明において,絶縁樹脂材料をモールド(成形)する際,前記合成樹脂の素材の違いにもかかわらず,射出成形それ自体を適用するのは想到容易と認められること,先に指摘したとおり,相違点2については,引用発明に周知技術を適用すれば,当業者にとって容易想到であることなどを考慮すると,本件審決の前記判断を是認し得ないものではない。
25オ原告の主張について(ア) 原告は,引用発明の導電部材はぐらぐらした取り付け態様であると主張する。
しかしながら,引用発明の導電部材は,成形後,ぐらぐらした状態ではなくなるものであるところ,本件発明も,先に指摘したとおり,「金属製のソケット本体に絶縁ケーブルの電線を接続する」構成であればよく,ソケット本体が刺通端子を有し,かつ,刺通端子を絶縁ケーブルの電線を貫通させて両者を接続する構成を排除するものではないから,射出成形前におけるぐらぐらした取り付け態様を排除するものではない。
現に,本件発明の実施例においても,射出成形前の状態,すなわち,ソケット本体に防水絶縁ケーブルの電線がスポット溶接若しくはハンダ付けした段階においては,引用発明と同様に,ぐらぐらした状態であるともいえるものであり,成形後,そのぐらぐらした状態がなくなることも,引用発明と同様である。
(イ) 原告は,周知例2のコネクタは,工事用防水型ソケットのような強度性,防水性,防塵性を必要としない電気製品であり,本件発明とは全く異なる分野の電気製品であるなどと主張する。
しかしながら,本件審決は,周知例2に開示された技術を引用発明に組み合わせて進歩性を否定しているわけではなく,周知技術2を周知技術の一例として挙げているにすぎない。また,先に指摘したとおり,相違点2に係る構成は,周知例2の記載内容のいかんにかかわらず,引用発明に周知技術を適用することによって容易想到である。
(ウ) 原告は,本件特許の出願時に射出成形技術が公知であったとしても,熱硬化性樹脂の射出成形を工事用防水型ソケットの製造に用いることはなかったなどと主張する。
しかしながら,引用発明における成形方法(モールド)として,本件特許の出願時において,圧縮成形以外の成形方法の適用を阻害する要因は見当たらないし,引26用発明の特許公報が頒布された当時の技術常識が圧縮成形であったとしても,そのことを理由に,本件発明の進歩性が認められるものではない。
(エ) 原告は,本件発明と引用発明とが前提とする電球の用途の違いやそれに伴う防水性,防塵性の程度の違いを強調するが,引用発明の上記構成からすると,引用発明にも,本件発明と同様の防水性等を有しているものということができるし,そもそも,原告主張の効果が,本件発明のいかなる構成によるものか自体,原告の主張からも不明である。
(オ)以上からすると,原告の主張はいずれも採用できない。
(3)相違点3についての判断ア本件明細書の記載について本件発明の特許請求の範囲においては,本件発明の方法により製造されるソケットが,「工事用防水型」としての用途を特徴づける構成を有することについて,具体的に特定されているものではない。
イ防水性を有する工事用ソケットについて実願平2-15532号(実開平3-106687号)のマイクロフィルム(甲7)には,「雨水に曝されることの多い道路工事や建築工事等の作業現場または屋外催事場,あるいは多量の水を扱う工場や施設等,その電灯照明に防水対策を必要とする場所は多い。」,「従来の防水性のソケット」などの記載があり,実願昭60-54428号(実開昭61-171128号)のマイクロフィルム(甲17)には,工事用電灯のソケットの分岐線構造に関してではあるが,「…衝撃性,耐久性にも劣り破損したり断線するおそれも多々あり又ソケットあるいはコネクター及び本線に対する接続不安定の原因となるとともに,ソケットあるいはコネクターとの接続部にあっては何らの防水加工も施されていないことから,雨水等の浸入による腐食あるいは漏電の原因ともなっていた。…本考案によれば…耐久性に富みかつ衝撃にも強く破損あるいは断線するおそれは全くなく,…雨水の浸入による腐食あるいは漏電のおそれも全くないものであり」などの記載があることから,本件特許27の出願時において,防水性を有する工事用ソケット,すなわち工事用防水型ソケットは周知であったといわなければならない。
ウ小括以上からすると,引用発明の方法により製造されるソケットにおいて,その用途を工事用防水型ソケットとすることは,当業者であれば容易に想到し得るものということができる。
エ原告主張について(ア)原告は,引用発明のようなクリスマスツリー用電球のソケットと,本件発明のような工事用防水型ソケットとは,防水性において求められる程度が異なるから,引用発明を工事用防水型ソケットに適用することは困難であると主張する。
しかしながら,先に指摘したとおり,本件発明は,その方法により製造されるソケットが「工事用防水型」の用途であることを特徴づける特定事項を何ら有していないのであるから,原告の主張は採用できない。
(イ)原告は,本件審決が,引用発明について「電気接続部分を含めて機械的強度を向上するものといえる」とした点は誤りであると主張するが,先に指摘したとおり,原告が指摘する和訳の適否にかかわらず,引用発明は機械的強度の向上という解決課題については本件発明と同様に解決できるといえるのであるから,原告の主張は採用できない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣