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関連審決 不服2008-4138
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  着想 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10347号 審決取消請求事件
原告 大豊建設株式会社
原告 日立造船株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士 高山道夫
被告 特許庁長官
指定代理人 神悦彦
同 山本忠博
同 黒瀬雅一
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/07/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2008-4138号事件について平成21年9月24日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯原告らは,発明の名称を「シールド掘進機」とする発明について,平成17年3月7日にされた特許出願〔特願2005-61842号。甲5〕を国内優先権主張の基礎として,平成17年12月26日,特許出願(特願2005-371363号)をし(甲7),平成19年11月13日付け手続補正書(甲13)により特許請求の範囲,明細書及び図面を補正したが(以下,この補正後の明細書を図面と併せて「本願明細書」という。),平成20年1月17日(起案日)に拒絶査定がされたことから(甲14),これに対し,同年2月21日,不服の審判(不服2008-4138号事件)を請求するとともに(甲15),同年3月21日付け手続補正書(甲17)により特許請求の範囲及び明細書を補正した(以下,この補正を「本件補正」という。)。
特許庁は,平成21年9月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年10月6日,原告らに送達された。
2特許請求の範囲(1) 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲13。以下,この請求項1記載の発明を「本願発明」という。なお,別紙「本願明細書参考図」【図1】,【図2】,【図4】及び【図5】参照)。
「【請求項1】シールド外筒部にシールド内筒部を固定・引き抜き可能に取り付け,シールド内筒部に,前端部にカッタボスを有するカッタ回転軸を支持し, このカッタ回転軸をカッタ回転駆動装置に連結し,前記カッタボスに地山掘削用の伸縮カッタスポークを取り付けたシールド掘進機であって,前記伸縮カッタスポークはカッタの回転中心より偏心した位置に所定の間隔をおいて複数基配置され,前記伸縮カッタスポークは,カッタ回転軸側に設けられたカッタスポーク外筒と,その内側に設けられ,かつ外径側に設けられた進退自在なカッタスポーク内筒と,前記カッタスポーク外筒およびカッタスポーク内筒内に設けられ,カッタスポーク内筒を進退させる伸縮自在なジャッキを有し,進退自在なカッタスポーク内筒の外周部に少なくともチャンバの最外周部を撹拌する撹拌翼を取り付け,シールド内筒部のほぼ外径を掘削する固定カッタスポークを設け,各伸縮カッタスポークをカッタの回転軌跡の接線方向に向けてカッタボスの外側部に取り付けたことを特徴とするシールド掘進機。」(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲17。下線部分が補正部分である。以下,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明を「本件補正発明」という。)。
「【請求項1】シールド外筒部にシールド内筒部を固定・引き抜き可能に取り付け,シールド内筒部に,前端部にカッタボスを有するカッタ回転軸を支持し,このカッタ回転軸をカッタ回転駆動装置に連結し,前記カッタボスの外側部に伸縮自在であって伸長状態で前記シールド外筒部の直径を掘削する一対の 伸縮カッタスポークを配置し たシールド掘進機であって,前記一対の伸縮カッタスポークはカッタの回転中心より偏心した位置に設けられ,かつカッタ回転軸の回転中心を中心とするカッタ円軌跡の接線方向に向け,互いに反対向きに 配置され,前記一対の伸縮カッタスポークは,それぞれ カッタボスの前記外側部に配置さ れたカッタスポーク外筒と,その内側に設けられた 進退自在なカッタスポーク内筒と,前記カッタスポーク外筒内に設けられ,前記 カッタスポーク内筒を進退させる伸縮自在なジャッキを有し,前記進退自在なカッタスポーク内筒はその背面 外周部に少なくともチャンバの最外周部を撹拌する撹拌翼を有し,かつ前記カッタスポーク外筒はその外側部に前記シールド外筒部の内部に設けた内筒の内部を通過し得る 固定カッタスポークを有するとともに,前記カッタスポーク外筒は前記シールド内筒部内に配置され,かつ前面には掘削用のカッタビットを有し,前記カッタスポーク内筒は伸長状態で前記シールド内筒部とシールド外筒部間を掘削する前記カッタビットを有し,前記固定カッタスポークは前記伸縮カッタスポークの伸長状態で前記シールド内筒部内を掘削するカッタビットを有することを特徴とするシールド掘進機。」3審決の理由(1) 審決は,特開平6-240981号公報(以下「刊行物1」という。
甲1)に記載された発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)及び特開2004-183251号公報(以下「刊行物2」という。甲2)に記載された発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)の各内容,並びに本件補正発明と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア刊行物1記載の発明の内容(別紙「刊行物1参考図」【図1】,【図2】参照)「外筒部1に内筒部2を結合,切り離し可能に取り付け,内筒部2に,前端部にボス13を有する回転軸12を支持し,この回転軸12を駆動装置21に連結し,前記ボス13の外周に伸縮可能であって伸長状態で前記外筒部1の直径を掘削する少なくとも1本の伸縮可能なカッタスポーク15を配置したシールド機であって,前記伸縮可能なカッタスポーク15は内部に組み込まれたカッタスポーク伸縮ジャッキ16を有し,前記伸縮可能なカッタスポーク15の切羽室20側の面には練り混ぜ翼19を有し,ボスの外周に取り付けられ,外筒部1の内部に設けた摺動部5の内部を通過し得る固定のカッタスポーク14を有し,固定のカッタスポーク14および伸縮可能なカッタスポーク15の外側の面にはそれぞれビット18が設けられたシールド機。」(審決書5頁28行〜6頁5行)イ本件補正発明と刊行物1記載の発明との一致点「シールド外筒部にシールド内筒部を固定・引き抜き可能に取り付け,シールド内筒部に,前端部にカッタボスを有するカッタ回転軸を支持し,このカッタ回転軸をカッタ回転駆動装置に連結し,前記カッタボスの外側部に伸縮自在であって伸長状態で前記シールド外筒部の直径を掘削する一対の(判決注 「一対の」は,相違点1に係る審決の認定部分に照らせば,「少なくとも1本の」の明らかな誤記であると認める。誤記である点について当事者間に争いはない。)伸縮カッタスポークを配置したシールド掘進機であって,前記伸縮カッタスポークは伸縮自在なジャッキを有し,伸縮カッタスポークの背面外周部にチャンバを撹拌する撹拌翼を有し,シールド外筒部の内部に設けた内筒の内部を通過し得る固定カッタスポークを有し,固定カッタスポークおよび伸縮カッタスポークにカッタビットを有するシールド機。」(審決書9頁20行〜30行)ウ本件補正発明と刊行物1記載の発明との相違点「(相違点1)伸縮カッタスポークについて,本件補正発明は,一対設けられ,カッタの回転中心より偏心した位置に設けられ,かつカッタ回転軸の回転中心を中心とするカッタ円軌跡の接線方向に向け,互いに反対向きに配置され,カッタボスの外側部に配置されたカッタスポーク外筒と,その内側に設けられた進退自在なカッタスポーク内筒を有し,かつカッタスポーク外筒はシールド内筒内に配置されているのに対し,刊行物1記載の発明は,伸縮カッタスポークは少なくとも1本であり,伸縮カッタスポークがカッタボスの外側部に配置されているものの,カッタスポーク内筒とカッタスポーク外筒の配置が本件補正発明と逆であり,かつシールド内筒内に配置されているのは,カッタスポーク内筒である点。
(相違点2)撹拌翼が設けられた位置について,本件補正発明は,チャンバの最外周部を撹拌する位置であるのに対し,刊行物1記載の発明は,チャンバの最外周部を撹拌する位置であるか不明である点。
(相違点3)固定カッタスポークについて,本件補正発明は,カッタスポーク外筒の外側部に設けられているのに対し,刊行物1記載の発明は,ボスの外周に取り付けられているものであって,カッタスポーク外筒の外側部に設けられていない点。
(相違点4)カッタビットの位置について,本件補正発明は,カッタスポーク外筒の前面及び伸長状態のカッタスポーク内筒のシールド内筒部とシールド外筒部間を掘削する位置,並びに固定カッタスポークのシールド内筒部内を掘削する位置にそれぞれ設けられているのに対し,刊行物1記載の発明は伸縮カッタスポーク及び固定カッタスポークに設けられているものの,具体的位置は明示されていない点。」(審決書9頁32行〜10頁21行)(2) 審決は,容易想到性について,以下のとおり判断した。
ア本件補正発明は,次のとおり,刊行物1及び2記載の各発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。
(ア) 相違点1について「刊行物2記載の発明は,従来のシールド掘削機のカッタヘッドに設けられているオーバカッタの軸線はすべてカッタヘッドの揺動中心0または回転中心0を通るようにされているので,オーバカッタのストロークの確保には自ずと限界があるという課題に着目し,オーバカッタまたはコピーカッタのストロークを非常に長くて大きいものにするシールド掘削機のカッタヘッドを提供するという目的に適した構造を有する発明であり,本件補正発明の課題と同様の課題を解決した刊行物2記載の発明が公知である以上,刊行物1記載の発明において,ストロークを長くするために,刊行物2記載の発明を適用して,カッタスポークを偏心させて配置することは,当業者であれば容易に着想できたものである。
そして,刊行物1記載の発明も,外筒部1と内筒部2が切り離し可能であることを考慮すると,伸縮可能なカッタスポークのボス13に取り付けられた部分は,当然にシールド内筒内に配置されているはずのものであり,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,カッタスポーク外筒の内側にカッタスポーク内筒を配置した場合,カッタスポーク外筒をシールド内筒内に配置することは,当業者が容易になし得たことである。」(審決書10頁下から5行〜11頁11行)(イ) 相違点2について「シールド掘進機において,チャンバの最外周部を撹拌する位置に撹拌翼を設けることは,例えば,特公平7-990号公報(練り混ぜ翼27),特開平3-115697号公報(外周リング付混合羽根21)等に開示されているように周知の技術であり,この点を刊行物1記載の発明に適用して,撹拌翼をチャンバの最外周部を撹拌する位置に設けることは,当業者が容易になし得たことである。」(審決書11頁13行〜18行)(ウ) 相違点3について「刊行物2記載の発明は,1本目のスポーク14Gのやや根元付近の左側の側面と,2本目のスポーク16Gのやや根元付近(ともに,本件補正発明の「カッタスポーク外筒」に相当。)の左側の側面にそれぞれオーバカッタ20aFを装備していないスポーク19G,19G(本件補正発明の「固定カッタスポーク」に相当。)の内側の端部を接合し固定したものであり,この点を刊行物1記載の発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである。」(審決書11頁20行〜26行)(エ) 相違点4について「シールド掘進機において,切羽に当接して掘削するスポークの,切羽全面が掘削可能となる位置にカッタビットを設けることは,当業者であれば当然に行う事項であり,切羽前面(判決注 「切羽全面」の誤記と認める。)の掘削を行うために,本件補正発明のように,カッタスポーク外筒の前面及び伸長状態のカッタスポーク内筒のシールド内筒部とシールド外筒部間を掘削する位置,並びに固定カッタスポークのシールド内筒部内を掘削する位置にカッタビットを配置することは,当業者が適宜決定し得た事項である。」(審決書11頁28行〜34行)(オ) 作用効果について「本件補正発明の効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明,並びに周知の技術から予測することができる程度のことである。」(審決書11頁末行〜12頁1行)イそうすると,本件補正発明は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項所定の特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとの要件を欠いているから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,本件補正を却下する。
ウ本願発明の特定事項を全て含む本件補正発明が,前記のとおり,刊行物1及び2記載の各発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1及び2記載の各発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。よって,本願発明は,特許法29条2項により特許を受けることができないものであり,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
当事者の主張
1取消事由に係る原告らの主張審決には,以下のとおり,(1)一致点及び相違点認定の誤り(取消事由1),(2)容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3)作用効果に係る判断の誤り(取消事由3),がある。
(1) 取消事由1(一致点及び相違点認定の誤り) ア「伸縮カッタスポーク」について審決は,刊行物1記載の発明の「伸縮可能なカッタスポーク15」が本件補正発明の「伸縮カッタスポーク」に相当すると認定した(審決書9頁2行〜6行)。
しかし,審決の認定は,誤りである。すなわち,刊行物1記載の発明の「伸縮可能なカッタスポーク15」は,【図1】及び段落【0018】の記載から明らかなように,内部にカッタスポーク伸縮ジャッキ16が設けられ,ボス13側に設けられたスポーク伸縮ジャッキ16を支持するスポーク状の部材(内筒)に比べ径が大に構成された外筒となっており,この場合,泥土に対する摩擦力や粘着力が大となり,大きな回転トルクを必要とする。したがって,刊行物1の「伸縮可能なカッタスポーク15」と本件補正発明の「伸縮カッタスポーク」とは異なる。
イ「攪拌翼」についてまた,審決は,刊行物1記載の発明の「練り混ぜ翼19」が本件補正発明の「攪拌翼」に相当すると認定した(審決書9頁4行〜6行)。
しかし,審決の認定は誤りである。すなわち,「練り混ぜ翼19」は,径の大きい伸縮可能なカッタスポーク15の背面に設けられているがために泥土の抵抗を大きく受け,また,その位置が【図1】(別紙「本願明細書参考図」【図1】参照)のとおり,先端部よりやや内側であってチャンバの最外周部を攪拌するものではないがために,チャンバの最外周部での掘削土砂の固結を生じさせ,掘進に支障をきたすから,本件補正発明の攪拌翼28とは異なる。
ウ「固定カッタスポーク」について審決は,刊行物1記載の発明の「固定のカッタスポーク14」が本件補正発明の「固定カッタスポーク」に相当すると認定した(審決書9頁5行,6行)。
しかし,審決の認定は,誤りである。すなわち,両者は取付け位置が異なるから,本件補正発明の「固定カッタスポーク」は刊行物1記載の発明の「固定のカッタスポーク14」には相当しない。刊行物1記載の発明の「固定のカッタスポーク14」は,ボス13の外周部に設けられているのに対し,本件補正発明の「固定カッタスポーク」は,シールド内筒部内に配置されたカッタスポーク外筒の外側部に設けられているから,異なる。
また,刊行物1記載の発明の「固定カッタスポーク14」は,シールド外径を掘削するものであるのに対して,本件補正発明の「固定カッタスポーク」は内筒よりわずかに小さい径となっており内筒内を掘削するものであり(別紙「本願明細書参考図」【図2】参照),刊行物1記載の発明の「固定カッタスポーク」とは機構が異なり,その役割が異なる。
エ相違点2に係る認定の誤り審決は,相違点2において,「攪拌翼が設けられた位置について,本件補正発明は,チャンバの最外周部を攪拌する位置であるのに対し,刊行物1記載の発明は,チャンバの最外周部を攪拌する位置であるか不明である点。」(審決書10頁7行〜9行)で相違すると認定した。
しかし,刊行物1記載の発明では,その【図1】ないし【図4】に明示されているように,練り混ぜ翼19はチャンバの最外周部を練り混ぜる位置ではないことが明確であるから,これを不明であるとした審決の認定は誤りである。
(2) 取消事由2(容易想到性判断の誤り)ア相違点1に係る容易想到性判断の誤り審決は,「刊行物2記載の発明は,・・・オーバカッタまたはコピーカッタのストロークを非常に長くて大きいものにするシールド掘削機のカッタヘッドを提供するという目的に適した構造を有する発明であり,本件補正発明の課題と同様の課題を解決した刊行物2記載の発明が公知である以上,刊行物1記載の発明において,ストロークを長くするために,刊行物2記載の発明を適用して,カッタスポークを偏心させて配置することは,当業者であれば容易に着想できたものである。」(審決書10頁31行〜11頁5行),「刊行物1記載の発明も,外筒部1と内筒部2が切り離し可能であることを考慮すると,伸縮可能なカッタスポークのボス13に取り付けられた部分は,当然にシールド内筒内に配置されているはずのものであり,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,カッタスポーク外筒の内側にカッタスポーク内筒を配置した場合,カッタスポーク外筒をシールド内筒内に配置することは,当業者が容易になし得たことである。」(審決書11頁6行〜11行)と認定した。
しかし,審決の認定は,誤りである。
すなわち,?本件補正発明は,泥土に対し摩擦力や粘着力を小とし,かつチャンバ最外周部も確実に攪拌できるようにした一対の伸縮カッタスポーク17によってシールド外筒部2内のシールド断面の全体を掘削するようにしたものであり,その目的,作用効果として,単一のカッタ部により小断面トンネルから大断面に至るまで掘削することができ,また,伸縮カッタスポーク17を縮小させ,カッタ部をコンパクトにまとめ,シールド外筒部2からのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの引き抜きと,シールド外筒部2へのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの挿入とを能率良く行うようにしたものである(甲13,段落【0008】,【0009】)。他方,?刊行物1記載の発明の課題,目的は,要するに,到達壁の撤去時に地山崩壊や地下水の流入を最小限に抑え,シールド機の到達時の補足注入を少量でまかなう到達方法を提供することにある。さらに,到達後シールド機や推進機の外筒部から内筒部を切り離し,再利用することが可能なシールド機の到達方法を提供することが目的である(甲1,段落【0003】,【0005】)。そして,?刊行物2記載の発明の課題は,大きな余掘り量を得るためのカッタヘッドを提供することにある(甲2,段落【0001】,【0003】ないし【0008】,【0010】,【0011】,【0014】)。なお,余掘りとは,シールド掘進機により曲線施工を行う場合,カッタスポーク内に収納したオーバカッタ(コピーカッタともいう。)を,スキンプレート(シールド外筒)の外側に突出させ,オーバカッタによりスキンプレートの内側ではなく外側を掘削することである。
このように,本件補正発明,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明とでは,発明の課題,目的が異なるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,本件補正発明の相違点1に係る構成に想到することは容易ではない。
また,刊行物1記載の発明におけるカッタスポークは,回転中心にあるボスに回転中心から法線方向(放射方向)に取り付けており,本件補正発明とは構成,作用効果が根本的に相違している。本件補正発明では伸縮カッタスポーク17は一対であってカッタスポーク内筒19の径も小とし,かつその背面外周部にチャンバ33の最外周部を攪拌する攪拌翼28が設けられているが,刊行物1記載の発明にはそれらの開示,示唆がない。
よって,刊行物1記載の発明は,特許法29条2項該当性の主引例にはなり得ない。
イ相違点2に係る容易想到性判断の誤り 審決は「シールド掘進機において,チャンバの最外周部を攪拌する位置に攪拌翼を設けることは,例えば,特公平7-990号公報(練り混ぜ翼27),特開平3-115697号公報(外周リング付混合羽根21)等に開示されているように周知の技術であり,この点を刊行物1記載の発明に適用して,攪拌翼をチャンバの最外周部を攪拌する位置に設けることは,当業者が容易になし得たことである。」(審決書11頁13行〜18行)と認定した。
しかし,審決の認定は誤りである。
すなわち,特公平7-990号公報(甲3)の練り混ぜ翼27は,その【図2】,【図4】,【図8】,【図9】,【図13】記載のとおり,スライドスポーク18の背面にチャンバ最外周部を攪拌するように設けられたものでなく,スライドスポーク18の先端部からやや内側の位置に設けられるものであり,本件補正発明と相違する。また,甲3開示のスライドスポーク18は径の大きな外筒構造となっており,本件補正発明とは相違する。
さらに,特開平3-115697号(甲4)の外周リング付混合羽根21は,第2図(ロ)からすると,カッターウィング16の外周部に設けられているが,カッターウイング16は,本件補正発明のカッタスポークのように,伸縮自在なものではなく,そもそもカッタ構成自体が別異である。
この甲4記載の発明の目的は,シールド掘進機が所定の地点に達した際,シールド路線の途中で大型の機械式シールド機のカッターウィング16を切断しカッタ装置を縮小し,小型のシールド機として管径断面を大から小へと変化させることを可能とした点にあり,この甲4記載の発明の構成を刊行物1記載の発明に適用しても本件補正発明のカッタスポーク内筒17の構成には到達しない。
ウ相違点3に係る容易想到性判断の誤り 審決は,本件補正発明の固定カッタスポーク25は,刊行物2記載の発明のスポーク19G,19Gに相当すると認定し,固定カッタスポークをカッタスポーク外筒の外側部に設けることが容易想到であると判断した(審決書11頁23行〜26行)。
しかし,審決の認定は,誤りである。
すなわち,?本件補正発明の固定カッタスポーク25は,シールド内筒部8内のみを掘削し,シールド内筒部8とシールド外筒部7間は,伸長させたカッタスポーク内筒19で掘削するものであるのに対し,刊行物2記載の発明のスポーク19G,19Gはスキンプレート(シールド外筒部)内をも掘削するものであるから,掘削部分が本件補正発明とは異なる。また,?刊行物2の【図13】(別紙「刊行物2参考図」【図13】参照)を見ると,オーバカッタ20aGを装備しているスポーク14Gと16Gが隣接しているように見えるから,当業者であれば,スポーク14Gと16Gは,カッタボスの側部に接続されるものではなく,カッタボスの前面に接続されるものであることが分かる。そして,刊行物2記載の発明では,これらスポーク14Gと16Gにスポーク19Gが設けられるものであり,当業者が,このようなスポーク19Gを刊行物1記載の発明に適用することは考えられないから,これを容易であるとした審決の判断は誤りである。
また,刊行物1記載の発明は,ボス13の一方の側に放射状に延びる伸縮可能なカッタスポーク15が設けられ,ボス13の他方の側にシールド内筒部5内を掘削する固定のカッタスポーク14が既に設けられている。
この固定カッタスポークがない場合,当業者は,固定カッタスポークを設けることについて参考となる文献の有無を検討することはあり得るが,刊行物1記載の発明では,既にシールド内筒部5内を掘削する固定カッタスポーク14が設けられているため,刊行物1記載の発明にわざわざ刊行物2記載の発明のスポーク19Gを適用することは,一般的にはあり得ない。
したがって,審決の判断は誤りである。
エ相違点4に係る容易想到性判断の誤り審決は,「シールド掘進機において,切羽に当接して掘削するスポークの,切羽全面が掘削可能となる位置にカッタビットを設けることは,当業者であれば当然に行う事項であり,切羽前面(判決注 「切羽全面」の誤記と認める。)の掘削を行うために,本件補正発明のように,カッタスポーク外筒の前面及び伸長状態のカッタスポーク内筒のシールド内筒部とシールド外筒部間を掘削する位置,並びに固定カッタスポークのシールド内筒部内を掘削する位置にカッタビットを配置することは,当業者が適宜決定し得た事項である。」(審決書11頁28行〜34行)と判断した。
しかし,審決の判断は,誤りである。すなわち,本件補正発明は,カッタビットについては任意の位置に適宜配置したビットで掘ればよいとしたものではない。本件補正発明においては,シールド内筒部内の掘削は,固定カッタスポークのビットとカッタスポーク外筒のビットにて掘削するものとし,シールド内筒部とシールド外筒部間は,カッタスポーク内筒の伸長状態でカッタスポーク内筒に設けたビットで掘削するものとし,掘削領域を掘り分けた特定のビット配置とするものであるが,そのことはいずれの刊行物にも示されていない。したがって,審決の判断は,誤りである。
(3) 取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)審決は,「本件補正発明の効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明,並びに周知の技術から予測することができる程度のことである。」(審決書11頁末行〜12頁1行)と判断した。
しかし,審決の判断は,誤りである。
すなわち,本件補正発明は,次の?ないし?の効果を有する。
?各伸縮カッタスポーク17はカッタの回転中心より偏心した位置に設けられ,かつカッタボス16の半径よりも大きく,任意のカッタ回転軌跡の接線方向に配置し,かつカッタボス16の外側部に取り付けられるものであり,カッタボス16の径による制約を受けないため,各伸縮カッタスポーク17は大ストロークのものを採用することができる。その結果,各伸縮カッタスポーク17を,シールド外筒部2の内筒6の内部を通過し得る長さに縮小させた状態から,長大なストロークに伸長させることができ,シールド内筒部8の外径D2に対して,シールド外筒部2の外径D1を大きく取ることができる。したがって,単一のシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリにより,小断面トンネルから大断面トンネルに至るまで掘削することができ,シールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの適用範囲を拡大することができる(甲13,段落【0008】,【0053】)。
?そして,カッタスポーク内筒はカッタスポーク外筒の内側に設けられているため,その径はカッタスポーク外筒に比べて小さいから,泥土の抵抗も小であり,回転トルクも小で済む。
?また,カッタスポーク内筒の背面外周部にはチャンバの最外周部を攪拌する攪拌翼が設けられているため,チャンバの最外周部において掘削土砂と作泥土材とを攪拌して泥土化でき,それによって切羽の外周部の崩壊を防止でき,かつ外周部の泥土の固結も防止し得るといった作用効果も派生する。
?さらに,各伸縮カッタスポーク17を縮小させた状態では,カッタ部をコンパクトにまとめることができる。したがって,シールド外筒部2からのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの引き抜き,シールド外筒部2へのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの挿入を容易に行うことができ,これらの作業を能率良く行うことができる(甲13,段落【0009】,【0055】)。
これに対し,刊行物1記載の発明では,上記?の効果を得ることはできない。刊行物2記載の発明もその伸長自在なオーバカッタ20aGは余掘り用のものであってスキンプレート(シールド外筒部)の外側を掘削するもので,本件補正発明のカッタスポーク内筒と異なり,単一のカッタ部で小断面トンネルから大断面トンネルに至るまで掘削することはできず,上記?の効果を得ることはできない。また,刊行物1記載の発明では,前記?の効果を得ることもできない。周知の技術(特公平7-990号公報記載の発明,特開平3-115697号公報記載の発明)も同様である。
よって,本件補正発明の効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明,並びに周知の技術から予測することができる程度のものであるとした審決の判断は誤りである。
2被告の反論(1) 取消事由1(一致点及び相違点認定の誤り)に対しア「伸縮カッタスポーク」について刊行物1の伸縮可能なカッタスポーク15と本件補正発明の伸縮カッタスポークとは,カッタボスの外側部に配置されて放射状に延びる形状で,カッタスポーク外筒とその内側に設けられたカッタスポーク内筒と,カッタビットと,伸縮自在なジャッキを有している伸縮自在なカッタスポークであって,カッタスポークを伸縮することにより地山を掘削し小断面トンネルから大断面トンネルまでの種々の大きさのものに対応できるものである点で共通するから,刊行物1の伸縮可能なカッタスポーク15は,その構造,機能,作用からみて,本件補正発明の伸縮カッタスポークと対応関係(相当関係)にある。また,刊行物1の伸縮可能なカッタスポーク15が,ボス13側に設けられた内筒に比べ径が大に構成された外筒となっている点は,別途に相違点1として認定した上で,その判断をしているから,「伸縮カッタスポーク」に係る審決の対比認定に誤りはない。
また,原告らは,地山を掘削するカッタスポークには,地山の切羽を掘削する力と共に,カッタトルクが必要となるからカッタ内筒の径が小さい方がおしのけの断面積が小さくなり,内装されたカッタスポークの周面積が小さくなるので,摩擦抵抗力や粘着抵抗力が小さくなり,駆動装置の小型化,コスト縮減が可能となると主張する。しかし,本願の発明の詳細な説明又は図面には,そのような作用効果に関する記載も示唆もなく,その具体的構成(内筒を外筒に比べてどの程度小さくする必要があるのか等)も記載されていないから,原告らの上記主張は本願明細書又は図面に基づかないものとして,失当である。
イ「攪拌翼」について刊行物1の練り混ぜ翼19と本件補正発明の攪拌翼とは,伸縮カッタスポークの背面外周部に設けられたものであって,チャンバ内に取り込まれた掘削土砂を撹拌し混練する点で共通するから,刊行物1の練り混ぜ翼19は,その構造,機能,作用からみて,本件補正発明の攪拌翼と対応関係(相当関係)にある。そして,撹拌翼が設けられた位置については,別途に相違点2として認定した上で,その判断をしているから,「攪拌翼」に係る審決の対比認定に誤りはない。
ウ「固定カッタスポーク」について刊行物1記載の発明の固定のカッタスポーク14と本件補正発明の固定カッタスポークとは,放射状に延びる形状をしておりシールド外筒部の内部に設けた内筒の内部を通過し得る大きさで,カッタビットを有している伸縮しない固定のカッタスポークであって,地山を掘削するものである点で共通するから,刊行物1の固定のカッタスポーク14は,その構造,機能,作用からみて,本件補正発明の固定カッタスポークと対応関係(相当関係)にある。そして,固定カッタスポークの取り付けられた位置については,別途に相違点3として認定した上で,その判断をしているから,「固定カッタスポーク」に係る審決の対比認定に誤りはない。
エ相違点2に係る認定の誤りに対し刊行物1には,練り混ぜ翼19に関して,「前記固定のカッタスポーク14および伸縮可能なカッタスポーク15の・・・内側の面である切羽室20側の面にはそれぞれ練り混ぜ翼19が設けられている。」(甲1,段落【0018】),「・・・ここで固定のカッタスポーク14および伸縮可能なカッタスポーク15に設けられた練り混ぜ翼19により攪拌され,掘削された土砂と作泥材とが混練され,切羽を押さえるに足る塑性と流動性とを持った土砂が作られる。・・・」(甲1,段落【0025】)と記載され,【図1】等には,練り混ぜ翼19が,伸縮可能なカッタスポーク15の先端から約1/4の位置に配置されているものが開示されているが,これらの記載から,刊行物1の練り混ぜ翼19(本件補正発明の「撹拌翼」に相当する。)が,切羽室20(本件補正発明の「チャンバ」に相当する。)の最外周部における作泥土材が混入された掘削土砂を撹拌し,混練しているか否かは,明らかではない。したがって,審決の相違点2の認定に誤りはない。
また,審決は,相違点2に係る容易想到性判断において,「シールド掘進機において,チャンバの最外周部を撹拌する位置に撹拌翼を設けることは,・・・周知の技術であり,この点を刊行物1記載の発明に適用して,撹拌翼をチャンバの最外周部を撹拌する位置に設けることは,当業者が容易になし得たことである。」と判断しているから,仮に原告ら主張の認定の誤りがあったとしても,それは審決の結論には影響を及ぼさない。
(2) 取消事由2(容易想到性判断の誤り)に対しア相違点1に係る容易想到性判断の誤りに対し本件補正発明の課題,刊行物1記載の発明の課題と刊行物2記載の発明の課題とは,伸縮可能なオーバカッタがストロークを調整可能ではあるが大ストロークのものとすることができないとの点で共通性を有するものであり,しかも,両者は,シールド掘削機という同一の技術分野に属し,カッタスポークが伸縮可能である点で共通する。したがって,刊行物1記載の発明において,上記の課題を解決するために,刊行物2記載の発明を適用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
イ相違点2に係る容易想到性判断の誤りに対し本件補正発明の攪拌翼の位置は,【図1】に示されているようにチャンバ33を区画するフード7の「内側に」配置されて,チャンバの最外周部を撹拌している。周知例として挙げた特公平7-990号公報(甲3)の【図2】に示されているように,練り混ぜ翼27(本件補正発明の「撹拌翼」に相当する。)は,本件補正発明と同様にチャンバの最外周部を撹拌できるように切羽室29(本件補正発明の「チャンバ」に相当する。)を区画するシールド筒2の「内側」に設けられている。そうすると,甲3には,周知の技術である「シールド掘削機において,チャンバの最外周部を撹拌する位置に撹拌翼を設けること」が示されていることになる。
また,周知例として挙げた特開平3-115697号公報(甲4)においても,「シールド掘削機において,チャンバの最外周部を撹拌する位置に撹拌翼を設ける」ことが示されており,その周知の技術はカッタの伸縮とは無関係であるから,カッタが伸縮自在でないからといって,上記技術の周知性が否定されるものではない。よって,本件補正発明の相違点2に係る構成に想到することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。
ウ相違点3の容易想到性判断の誤りについて刊行物2記載の発明は,相違点3の本件補正発明の構成要件である「カッタスポーク外筒はその外側部に固定カッタスポークを有する」点を示したものとして適用されたのであって,固定カッタスポーク(スポーク19G)の切削部分やカッタスポーク外筒(スポーク14G,16G)のカッタボスへの接続位置を示したものとして適用されたものではないから,カッタの掘削部分の相違や,カッタボスへの接続位置の相違は,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用することの妨げにはならない。
なお,刊行物2の【図2】,【図4】には,スポーク14Aないし17Aがカッタボスの側面に接続されているものが開示されているから,刊行物2記載の発明において,スポーク14G,16Gがカッタボスの側面に接続されていることは,自明である。また,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明の「一対の伸縮カッタスポークを回転中心に対して偏心した位置に取り付ける」という構成を採用すると,刊行物1記載の発明の固定カッタスポークに代えて,刊行物2記載の発明の一対の伸縮カッタスポークのカッタスポーク外筒(スポーク14G,16G)の外側部に設けられている固定カッタスポーク(スポーク19G)をそのまま採用することになる。よって,本件補正発明の相違点3に係る構成に想到することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。
エ相違点4の判断の誤りについて刊行物1記載の発明においても,【図1】,【図2】等の記載からみて,本件補正発明と同様に,シールド内筒部内の掘削は,固定カッタスポークのビットとカッタスポーク外筒のビットで行われる。また,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用することは,当業者が容易になし得たことであるから,刊行物1記載の発明の伸縮カッタスポークとして刊行物2記載の発明の「カッタヘッドの回転中心より偏心した位置に設けられたカッタスポーク外筒内に進退自在なカッタスポーク内筒を有する伸縮カッタスポーク」を採用すれば,刊行物1記載の発明のカッタスポーク内筒は伸張状態でシールド内筒部とシールド外筒部間に配置されることになり,当然,シールド内筒部とシールド外筒部間は,カッタスポーク内筒の伸張状態でカッタスポーク内筒に設けたビットで掘削することになる。そして,シールド掘進機において,切羽に当接して掘削するスポークの,切羽全面が掘削可能となる位置にカッタビットを設けることは,当業者であれば当然に行う事項である。そうすると,切羽全面の掘削を行うために,本件補正発明のように,カッタスポーク外筒の前面及び伸長状態のカッタスポーク内筒のシールド内筒部とシールド外筒部間を掘削する位置,並びに固定カッタスポークのシールド内筒部内を掘削する位置にカッタビットを配置することは,当業者が適宜決定し得た事項である。よって,本件補正発明の相違点4に係る構成に想到することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)に対し刊行物1記載の発明に,刊行物2記載の発明及び周知の技術を適用して本件補正発明のように構成することに格別の困難性はないものであるから,原告ら主張の効果も,当然,刊行物1及び2記載の各発明,並びに上記周知の技術から,当業者が予測し得る範囲内のものである。
当裁判所の判断
1取消事由1(一致点及び相違点認定の誤り)について(1) 「伸縮カッタスポーク」について原告らは,本件補正発明の「伸縮カッタスポーク」は「内筒」であって径が小さいのに対し(別紙「本願明細書参考図」【図1】,【図4】参照),刊行物1記載の発明の「伸縮可能なカッタスポーク15」は径が大に構成された「外筒」であり(別紙「刊行物1参考図」【図1】参照),泥土に対する摩擦力や粘着力が大となり,大きな回転トルクを必要とするから,刊行物1記載の発明の「伸縮可能なカッタスポーク15」が本件補正発明の「伸縮カッタスポーク」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,審決は,刊行物1の伸縮可能なカッタスポーク15が,ボス13側に設けられた内筒に比べ径が大に構成された外筒となっている点については,別途,相違点1として認定した上,その容易想到性判断をしているから,「伸縮カッタスポーク」に係る審決の認定に誤りがあるとはいえない。
(2) 「攪拌翼」について原告らは,刊行物1記載の発明の「練り混ぜ翼19」は,径の大きい伸縮可能なカッタスポーク15の背面に設けられているために泥土の抵抗を大きく受け,また,その位置が【図1】(別紙「刊行物1参考図」【図1】参照)のとおり,先端部よりやや内側であってチャンバの最外周部を攪拌するものではないがために,チャンバの最外周部での掘削土砂の固結を生じさせ,掘進に支障を来すから,本件補正発明の攪拌翼28とは異なる,と主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,審決は,撹拌翼が設けられる位置については,別途,相違点2として認定した上,その容易想到性判断をしているから,「攪拌翼」に係る審決の対比認定に誤りがあるとはいえない。
(3) 「固定カッタスポーク」について原告らは,?刊行物1記載の発明の「固定のカッタスポーク14」はボス13の外周部に設けているのに対し(別紙「刊行物1参考図」【図1】参照),本件補正発明では,シールド内筒部内に配置されたカッタスポーク外筒の外側部に「固定カッタスポーク」を設けている(別紙「本願明細書参考図」【図2】参照),?また,刊行物1記載の発明の「固定カッタスポーク14」は,シールド外径を掘削するものであるのに対して,本件補正発明の「固定カッタスポーク」は内筒よりわずかに小さい径となっており内筒内を掘削するものであり(別紙「本願明細書参考図」【図2】参照),刊行物1記載の発明の「固定カッタスポーク」とは機構が異なり,その役割が異なると主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,審決は,固定カッタスポークの取付位置については,別途,相違点3として認定した上,その容易想到性判断をしているから,固定カッタスポークの取付位置に係る審決の対比認定に誤りがあるとはいえない。
(4) 相違点2に係る認定の誤りについて原告は,刊行物1記載の発明では,その【図1】ないし【図4】に明示されているように,練り混ぜ翼19はチャンバの最外周部を練り混ぜる位置ではないことが明確であるから,その位置が不明であるとした審決の相違点2に係る認定は誤りであるから審決は取り消されるべきである旨主張する。
しかし,原告らの主張は理由がない。すなわち,後記2(2)説示のとおり,刊行物記載の発明に,本件補正発明の撹拌翼に相当する練り混ぜ翼14を,チャンバの最外周部を攪拌する位置に設けることは,撹拌翼をチャンバの最外周部を攪拌する位置に設けるとの周知技術を適用することにより,当業者が容易に行い得たことであるといえるから,仮に原告ら主張のとおり,練り混ぜ翼19はチャンバの最外周部を練り混ぜる位置ではないことが明確であるのにその位置を不明であるとした点について審決に誤りがあったと仮定してみても,それは審決の結論には全く影響を及ぼさないものである。よって,原告らの上記主張は理由がない。
2取消事由2(容易想到性判断の誤り)について(1) 相違点1に係る容易想到性判断の誤りについてア原告らは,相違点1(伸縮可能なカッタスポークを偏心した位置に配置し,カッタスポーク外筒をシールド内筒内へ配置すること等)について,本件補正発明,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明とは,その発明の課題,目的が異なるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,本件補正発明の相違点1に係る構成に想到することは容易ではないと主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。
すなわち,刊行物1記載の発明においては,伸縮可能なカッタスポークをカッタボス(回転中心)より放射方向に取り付けているので,カッタボスの径及びシールド外筒径との制約を受け,伸縮可能なカッタスポークとして大ストロークのものを採用することができないとの課題があった(甲13,段落【0003】,【0004】)。また,刊行物2記載の発明においても,伸縮可能なオーバカッタ(「伸縮可能なカッタスポーク」に相当するもの)は,従来は,その揺動中心又は回転中心を通る構成とされ,放射方向に取り付けられていたため,揺動中心又は回転中心を越えるほど長いものとすることは不可能であり,伸縮可能なオーバカッタとして大ストロークのものを取り付けることができないとの課題があったと記載されている(甲2,段落【0007】,【0008】)。そうすると,刊行物1記載の発明の課題と,刊行物2記載の発明の課題とでは,カッタスポーク(オーバカッタ)のストロークを長くする課題を有する点で共通しているから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明のカッタスポークを適用することは,当業者にとって容易であるといえる。
その際,刊行物2記載の発明のオーバカッタがいわゆる余堀りを行うものであり,シールド外筒部を掘削する本件補正発明の伸縮カッタスポークとは掘削場所が異なるとしても,カッタスポークのストロークを長くするとの課題を達成するために各発明を組み合わせる上では,その掘削場所の相違は何ら妨げとなるものではない。
また,原告らは,本件補正発明の課題が,単一のカッタ部により小断面トンネルから大断面に至るまで掘削することができることのほか,伸縮カッタスポーク17を縮小させ,カッタ部をコンパクトにまとめ,シールド外筒部2からのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの引き抜きと,シールド外筒部2へのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの挿入とを能率良く行うようにすることにあるとし,刊行物1及び2記載の各課題とは異なると主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,本件補正発明の請求項及び明細書には,トンネルの断面径を変更するために必要な構成であるシールド外筒を変更すること等について,格別の記載がないから,組合せの容易性判断に際して,原告ら主張の大小断面径に係る課題の相違を考慮するのは相当ではない。そして,本件補正発明におけるアセンブリの引抜き及び挿入に係る課題は,刊行物1記載の発明の効果ともされているから(甲1,段落【0005】,【0012】,【0032】,【0051】,【0055】),共通であり,その点に係る原告らの主張は採用の限りでない。
イまた,原告らは,?刊行物1記載の発明におけるカッタスポークは,回転中心にあるボスに回転中心から法線方向(放射方向)に取り付けており,本件補正発明とは構成,作用効果が相違する,?本件補正発明では,伸縮カッタスポーク17は一対であってカッタスポーク内筒19の径も小とし,かつその背面外周部にチャンバ33の最外周部を攪拌する攪拌翼28を設けているが,刊行物1記載の発明にはそれらの開示,示唆がないと主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,本件補正発明と刊行物1記載の発明とは,前記説示のとおり,シールド掘進機という同一の技術分野に属するものであって,本件補正発明は,従来技術としての刊行物1記載の発明が持つ課題を解決する発明とされているから(甲5,段落【0002】,【0003】),原告らの主張は採用の限りでない。
ウそして,刊行物1記載の発明の伸縮可能なカッタスポークは,一対設けられると共に,カッタの回転中心より偏心した位置に設けられ,かつカッタ回転軸の回転中心を中心とするカッタ円軌跡の接線方向に向け,互いに反対向きに配置され,カッタボスの外側部に配置されたカッタスポーク外筒と,その内側に設けられた進退自在なカッタスポーク内筒を有するものとするために,刊行物2記載の発明を適用することに困難はない。相違点1のうち,伸縮可能なカッタスポークを偏心した位置等とする構成を採用することに困難性はないといえる。
また,刊行物1には,「シールド機の到達後,到達立坑内で,カッタ部11や駆動部分である駆動装置21を含んだ内筒部2をそっくり回収し,再利用することが可能となる。・・・」(甲1,段落【0032】)と記載されているように,カッタ部11を構成する伸縮可能なカッタスポーク15は縮小された状態で内筒部2内に配置されるものであるから,必然的に,カッタスポーク外筒は内筒部2(本件補正発明の「シールド内筒」に相当する。)内に配置されることになる。したがって,カッタスポーク外筒をシールド内筒内へ配置する構成を採用することに困難はない。
なお,相違点1の容易想到性判断について原告らが縷々主張するその他の点も,いずれも理由がない。
(2) 相違点2に係る容易想到性判断の誤りについて原告らは,?刊行物1記載の練り混ぜ翼19は,切羽室20の最外周部を撹拌,混練するものではない,?チャンバの最外周部を撹拌することが周知技術であるとして審決が引用した甲3,甲4は,いずれも伸縮可能なカッタスポークに撹拌翼を取り付けた事例ではない,?よって,攪拌翼をチャンバの最外周部を攪拌する位置に設けることは,当業者が容易になし得たことであるとした審決の判断は誤りである,と主張する。
しかし,原告らの主張は,採用の限りでない。まず,撹拌翼をチャンバの最外周部を攪拌する位置に設けることが周知技術であること(甲3,4)は,カッタスポークが伸縮可能であるかどうかとは別個の技術的事項であるから,周知文献が,伸縮可能なカッタスポークにおいて撹拌翼をチャンバの最外周部を攪拌する位置に設けるものでないことは,甲3,4に記載された前記周知技術を適用することの妨げとはならない。そして,刊行物記載の発明に,本件補正発明の撹拌翼に相当する練り混ぜ翼14を,チャンバの最外周部を攪拌する位置に設けることは,撹拌翼をチャンバの最外周部を攪拌する位置に設けるとの周知技術を適用することにより,当業者が容易に行い得たことである。
(3) 相違点3に係る容易想到性判断について原告らは,?本件補正発明の固定カッタスポーク25はシールド内筒部8内のみを掘削するのに対し,刊行物2記載の発明のスポーク19G,19Gはスキンプレート(シールド外筒部)内を掘削するもので,掘削部分が異なる,?当業者が刊行物2の【図13】を見れば,隣接するスポーク14Gと16Gは,カッタボスの側部に接続されたものではなく,カッタボスの前面に接続され,これらのスポーク14Gと16Gにスポーク19Gが設けられていると理解するから,そのようなスポーク19Gを刊行物1記載の発明に適用することは考えられない,?刊行物1記載の発明では,既にシールド内筒部5内を掘削する固定カッタスポーク14が設けられているため,刊行物1記載の発明にわざわざ刊行物2記載の発明のスポーク19Gを適用することはあり得ない,と主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,?審決は,原告ら主張の相違については,相違点3として,本件補正発明の固定カッタスポークは,カッタスポーク外筒の外側部に設けられているのに対して,刊行物1記載の発明ではボスの外周に取り付けられていると認定した上,その相違点3については,刊行物2記載のスポーク19G,19Gが本件補正発明の固定カッタスポークに相当しており,スポーク19G,19Gの取付けの形態を,刊行物1の固定カッタスポークの取付けに適用することは容易であるとしたものであり,その判断に不当な点はない。したがって,本件補正発明の固定カッタスポーク25と,刊行物2記載の発明のスポーク19G,19Gの掘削部分が異なることをもって,本件補正発明の固定カッタスポーク25をカッタスポーク外筒の外側部に設けることが容易ではないとする原告らの主張は採用の限りでない。
また,?刊行物2の【図2】及び【図4】で示される実施例ではスポークはカッタボスの側面に接続されているから,同様に【図13】(別紙「刊行物2参考図」【図13】参照)で示される実施例においてもスポーク14G,16Gがカッタボスの側面に接続されるものと理解される。仮に【図13】が原告ら主張のとおりカッタボスの側面に接続されない実施例であるとしても,原告ら主張の点は,刊行物2記載の,偏心させて取り付けた(刊行物2の【0009】【課題を解決するための手段】)スポーク14Gと16Gに,スポーク19Gを設けたものを,刊行物1記載の発明のカッタスポークの取付けに適用することについての妨げとはならない。さらに,?刊行物1記載の発明に,刊行物2記載の「一対の伸縮カッタスポークを回転中心に対して偏心した位置に取り付ける」という構成を適用するのであれば,刊行物1記載の発明の固定カッタスポークに代えて,刊行物2記載の発明の一対の伸縮カッタスポークのみならず,そのカッタスポーク外筒(スポーク14G,16G)の外側部に設けられている固定カッタスポーク(スポーク19G)も同様に採用することが自然であるといえるから,原告らが主張するように,既に固定スポークがあるから刊行物2記載の発明のスポーク19Gを適用することはあり得ないとはいえない。
(4) 相違点4に係る容易想到性判断の誤りについて原告らは,本件補正発明では,シールド内筒部内は,固定カッタスポークのビットとカッタスポーク外筒のビットにて掘削し,シールド内筒部とシールド外筒部間は,カッタスポーク内筒の伸長状態でカッタスポーク内筒に設けたビットで掘削するようにし,掘削領域を掘り分けた特定のビット配置としたものであり,そのことはいずれの刊行物にも示されていないと主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,刊行物1記載の発明の伸縮カッタスポークに代えて刊行物2記載の発明の「カッタヘッドの回転中心より偏心した位置に設けられたカッタスポーク外筒内に進退自在なカッタスポーク内筒を有する伸縮カッタスポーク」を採用すれば,刊行物1記載の発明のカッタスポーク内筒は,伸張状態でシールド内筒部とシールド外筒部間に配置されることになり,当然,シールド内筒部とシールド外筒部間は,カッタスポーク内筒の伸張状態でカッタスポーク内筒(オーバカッタ20aG)にビットを設けて掘削することになる。そして,シールド掘進機において,切羽に当接して掘削するスポークの,切羽全面が掘削可能となる位置にカッタビットを設けることは,当業者であれば当然に行う事項であるといえる。そうすると,切羽全面の掘削を行うために,本件補正発明のように,カッタスポーク外筒の前面及び伸長状態のカッタスポーク内筒のシールド内筒部とシールド外筒部間を掘削する位置,並びに固定カッタスポークのシールド内筒部内を掘削する位置にカッタビットを配置することは,当業者が適宜決定し得た事項であるということができ,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)について原告らは,刊行物1,2及び周知の技術から予測することはできなかった本件補正発明の効果として,?各伸縮カッタスポーク17はカッタの回転中心より偏心した位置に設けられ,カッタボス16の径による制約を受けないため,各伸縮カッタスポーク17は大ストロークのものを採用することができること,?カッタスポーク内筒はカッタスポーク外筒の内側に設けられ,その径はカッタスポーク外筒に比べて小であるため,泥土の抵抗が小であり,回転トルクも小さくて済むこと,?カッタスポーク内筒の背面外周部にはチャンバの最外周部を攪拌する攪拌翼が設けられているため,チャンバの最外周部において掘削土砂と作泥土材とを攪拌して泥土化でき,それによって切羽の外周部の崩壊を防止でき,かつ外周部の泥土の固化も防止し得ること,?各伸縮カッタスポーク17を縮小させた状態では,カッタ部をコンパクトにまとめることができ,シールド外筒部2からのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの引き抜き,シールド外筒部2へのシールド内筒部8とカッタ部のアセンブリの挿入を能率良く行うことができることを主張する。
しかし,原告らの主張は採用の限りでない。すなわち,(1)原告ら主張の伸縮カッタスポーク17の大ストローク化の点は,刊行物2において,「【0011】また,本発明に係るシールド掘削機のカッタヘッドによれば,カッタヘッドはスポークタイプであり,オーバカッタまたはコピーカッタを装備している少なくとも1 以上のスポークはその軸線がカッタヘッドの揺動/ 回転中心を通らないよう偏心させて取付けてあるので,スポークを非常に長いものにしても,スポークを長くする方向にはシールド掘削機のカッタヘッドの揺動/ 回転中心のところにある揺動軸,あるいは回転軸等が存在しないので干渉する恐れがないのでスポークを非常に長くすることができる。
これに伴いこの非常に長いスポーク内に,長くて大きなストロークとなるオーバカッタまたはコピーカッタと,及びこれを伸縮駆動せしめるオーバカッタ油圧装置またはコピーカッタ油圧装置を装備することができる。」と記載されているように,刊行物2記載の発明が有する効果に他ならない。したがって,上記効果を予測できない効果であるとする原告らの主張は採用の限りでない。
(2)また,原告ら主張のカッタスポーク内筒の構成による泥土抵抗や回転トルクの減少化については,本願明細書又は図面に基づかない効果の主張であるから失当である。刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用することが容易である以上,刊行物2記載の発明が,カッタスポーク外筒(スポーク14G)の内側に,それより小径のカッタスポーク内筒(オーバカッタ20aG)を配置するという構成を有するものであって,本件補正発明と同様に,カッタスポーク内筒がカッタスポーク外筒に比べて,その径が小であることになるから,当然,泥土抵抗や回転トルクの減少化の前記効果は,刊行物1及び2記載の発明から,当業者が予測し得る範囲のものであるといえる。
(3) 原告ら主張の切羽外周部の崩壊防止及び泥土の固化防止の点については,攪拌翼をチャンバの最外周部を撹拌する位置に設けることが周知の技術であって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明及び上記周知技術を適用することが容易である以上,本件補正発明と同様の「カッタスポーク内筒の背面外周部にチャンバの最外周部を攪拌する攪拌翼を有する」ことになるから,当然,切羽外周部の崩壊防止及び泥土の固化防止の効果は,刊行物1及び2記載の発明,並びに上記周知技術から,当業者が予測し得る範囲のものであるといえる。
(4)原告ら主張のカッタ部のアセンブリの引抜き又は挿入の能率向上の点については,刊行物1には,「【0054】【発明の効果】以上のように,本発明では外筒部1と内筒部2とを互いに結合,切り離し可能に構成し,かつ内筒部2の前側にカッタ部11を設け,このカッタ部11のカッタスポークの少なくとも1本を伸縮可能に構成したシールド機や推進機を用い,カッタ部11が到達壁30に到達するまでは,外筒部1と内筒部2とを一体に結合するとともに,伸縮可能なカッタスポーク15を伸長させた状態で掘進し,カッタ部11が到達壁30に到達後,伸縮可能なカッタスポーク15を縮小させ,かつ外筒部1と内筒部2とを切り離したのち外筒部1のみを推進させ,外筒部1の前端面を到達壁30に到達させるようにしているので,到達壁の撤去時に地山の崩壊や地下水の浸入を最少.限に抑えることができ,したがって安全に到達し得る効果を有する外,シールド機や推進機の到達時の補足注入が少量で足りるので,経済的に到達し得る効果がある。【0055】また,本発明では,シールド機または推進機の如きマシンが到達側の立坑内に到達後,カッタスポーク15と共に駆動部分を含んだ内筒部を外筒部から切り離すことができ,そっくり完成された坑内を通して内筒部側を発進立坑側に回収し,再利用が可能となり,設備を有効的に再利用でき,無駄を省くことができる。 」と記載されている。したがって,伸縮可能なカッタスポークを縮小させることにより,カッタ部をコンパクトにまとめることができ,外筒部からの内筒部とカッタ部のアセンブリの引抜き,外筒部への内筒部とカッタ部のアセンブリの挿入を能率良く行うことができることとなる。そうすると,カッタ部のアセンブリの引抜き又は挿入の能率向上の前記効果は,刊行物1記載の発明が有する効果にほかならず,これを予想外の効果であるとする原告らの主張は採用の限りでない。
4結 論以上によれば,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告らは縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告らの本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子