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関連ワード 新規性 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  同一の発明 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  クレーム /  特許出願日 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  審判制度 /  訂正審判 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 521号 審決取消請求事件
原告 ハリソン東芝ライティング株式会社
訴訟代理人弁理士 竹花喜久男,宇治弘
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 山川雅也,瀧廣往,高橋泰史,大橋信彦,井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2003-39102号事件について平成15年10月15日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告が,後記本件特許について,訂正審判の請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許 特許権者:ハリソン東芝ライティング株式会社(原告)。なお,設定登録時の特許権者は東芝ライテック株式会社であるが,原告に特許権が譲渡され,平成14年2月8日にその旨登録された。
発明の名称:「低圧放電灯」 特許出願日:平成3年9月27日(特願平3-249190号) 設定登録日:平成12年12月15日 特許番号:第3139077号 (2) 異議事件の概要 特許異議事件番号:異議2001-72267号 訂正請求日:平成14年1月25日 訂正請求書の補正:平成14年8月19日 異議の決定日:平成14年9月9日 決定の結論:「特許第3139077号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」(なお,訂正請求書の補正は認められず,訂正請求も認められなかった。) 決定謄本送達日:平成14年9月30日(原告に対し) 決定取消訴訟提起:平成14年10月29日(平成14年(行ケ)第553号) (3) 本件訂正審判手続 訂正審判請求日:平成15年5月20日(甲3) 審決日:平成15年10月15日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成15年10月27日(原告に対し) 2 本件発明の特許請求の範囲の記載(甲2。本件訂正の直接の対象となっていない請求項2の記載は省略する。) (1) 本件訂正審判請求前の特許請求の範囲請求項1の記載【請求項1】管状バルブの外面に,互いに周方向に離間して一対の電極を設け,この一対の電極のバルブ長手方向の一端側に高周波電源の配線が接続された低圧放電灯において,上記一対の導電体間に位置するバルブの一側面を有効発光面とした場合,この有効発光面に沿う上記導電体間の距離をA,反対側の面に沿う上記導電体間の距離をBとした場合,A>Bの関係を有するとともに,距離Bは,一対の導電体に印加する電圧に対して1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする低圧放電灯。
(2) 本件訂正審判請求に係る特許請求の範囲請求項1の記載(下線部分が訂正箇所)【請求項1】管状バルブの外面に,互いに周方向に離間して一対の電極を設け,この一対の電極のバルブ長手方向の一端_に高周波電源が配設 接続された低圧放電灯において,上記一対の電極間に位置するバルブの一側面を有効発光面とした場合,この有効発光面に沿う上記電極間の距離をA,反対側の面に沿う上記電極 間の距離をBとした場合,A>Bの関係を有するとともに,距離Bで離間 する 一対 の電極間は1mm/1kV以上の間隔を有し,かつ ,これらの 電極間 には ,1kV以上 の電圧 が印加 される ことを特徴とする低圧放電灯。」 3 審決の理由 (1) 審決は,「当審の判断」として,次のとおり判断を示し,本件訂正審判請求は成り立たないとした(明白な誤字脱字を訂正の上で引用する。)。
「訂正は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の項の記載において,『これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される』という事項を挿入する訂正を含むものであるが,該『これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される』という事項が,本件明細書及び図面に記載された事項の範囲内であるか否かについて以下に検討する。
上記訂正事項の『電極間には,1kV以上の電圧が印加される』に関連する記載として,願書に添付した明細書又は図面には, @『距離Bは,一対の導電体に印加する電圧に村して1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする低圧放電灯。』(特許請求の範囲の【請求項1】(特許公報1頁左欄9行〜11行)) A『距離Bは,一対の導電体に印加する電圧に村して1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする。』(段落番号【0010】(同2頁左欄47行〜49行)) B『外部電極2,3間の離間寸法Bは,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔をもつように設定されている。』(段落番号【0015】(同2頁右欄28行〜30行)) C『外部電極2,3の離間寸法Bが小さくなるが,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔であれば沿面放電を防止することができる。』(段落番号【0018】(同2頁右欄46行〜48行)) D『但し,この場合も外部電極2,3の離間寸法は,開口部11側及び反対側ともに,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔にすることが必要である。』(段落番号【0020】(同3頁左欄7行〜10行))と記載されている。
しかし,上記@ないしDには,『距離Bは,1mm/1kV以上の間隔』又は『離間寸法Bは,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔』の記載があるのみであって,『電極間には,1kV以上の電圧が印加される』そのものの記載はない。そして,『距離Bは,1mm/1kV以上の間隔』又は『離間寸法Bは,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔』は,『距離Bと印加電圧との比が1(mm/kV)以上』を意味するのであって,それらの記載が,『電極間には,1kV以上の電圧が印加される』を示唆しているとすることもできないし,これらの記載から『電極間には,1kV以上の電圧が印加される』ことが自明ということもできない。
なぜなら,距離Bが,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔であって,印加電圧が1kV未満のものが,例えば,距離Bが1mmで印加電圧0.9kV,0.8kV,距離Bが2mmで印加電圧0.9kV,0.8kVというように,いくらでも可能であるからである。
したがって,上記訂正事項は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものに該当しない。」 (2) 審決は,「請求人の主張について」と題して,請求人(原告)の平成15年8月21日付け意見書における主張を摘示した上,これに対する見解を示した。
(請求人(原告)の主張の摘示) 「(ア)先願の明細書(判決注:特願平03-129307号明細書,本訴甲4)に記載された技術思想は,先願明細書の段落【0016】の『上記幅約2mmの電極間には,ランプ外周面での電極間の絶縁破壊を防止するための絶縁材18が設けられている。』と記載されているように,電極間の絶縁破壊を,絶縁材を介在することにより防止するものであるのに対して,本件特許発明の技術思想は,電極間の絶縁破壊を,絶縁材を介在することなく防止するものであり,両者の技術思想は明確に異なっている。このため,本件訂正請求は,特許請求の範囲の記載に,『外部電極間に印加する電圧が1kV以上である』ことを明示することにより,本件特許発明の技術思想とは明らかに異なるにもかかわらず,特許法29条の2の規定により,本件特許請求の範囲に包含される怖れがある先願の技術をその特許請求の範囲から除外する目的で請求したものである。
(イ)本件明細書段落【0015】,【0018】及び【0020】には,一貫して『印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔』というように印加電圧をkVを単位として記載されている。該記載は数学的な厳密さから解釈すると,1kV以下の電圧に対しても適用される表現ではあるが,本件特許発明が対象としているような,低圧放電灯の電極構造においては,1kV以下の電圧が印加される場合には,本件特許発明が解決しようとする絶縁破壊の問題は生じない。したがって,本件特許明細書における上記段落の記載は,訂正事項である『電極間に,1kV以上の電圧が印加される』ことを十分に示唆するものである。
(ウ)特許法29条の2の規定を適用して後願を排除するためには,先願の明細書又は図面に発明が明確に記載されていることが条件となる。一般に発明とは,目的,構成及び効果の3要素を有すると解されるが,上記先願の明細書又は図面には発明の構成の一部が断片的に記載されているだけであり,同一の発明が明確に記載されているとは解されない。
このような事項を考慮しても,本件訂正請求に対して,『明細書又は図面に記載された事項の範囲内』という訂正の要件を余りに厳格に解釈することは,訂正審判制度の趣旨を生かすことができずそれによって特許権者の保護を十分に行うことができないという結果を招来する怖れがある。」(請求人の主張に対する審決の見解) 「(ア)について 先願(特願平3-129307号)の明細書の【請求項2】,段落【0008】,【0016】,【0025】,【0029】の記載(判決注:該当部分の内容の摘示は省略する。)からみて,先願の明細書及び図面に記載された発明(先願発明)は,電極を,電気的に絶縁を確保できる距離を置いて互いに接近させたものであって,絶縁材は,さらに絶縁破壊防止するために設けられるものであるから,請求人の『絶縁材を介在することにより防止するものである』という主張は誤りである。
また,先願の明細書及び図面に記載された実施例1では,800Vの電圧が印加されているが,段落【0025】及び図5の記載から明らかなように,先願発明では,放電開始電圧と電極間隔が比例関係にあることが記載されており,図5の例では,印加電圧が800Vに限定されないことも明らかであるうえ,図5からは,印加する電圧に対して1mm/1kV以上となっていることが明らかである。
よって,『電極間に,1kV以上の電圧が印加される』という限定をしても,依然として,先願発明と同一部分を包含するものである。
(イ)について 本件特許明細書中には,沿面放電を防止する条件として,『印加電圧1kVあたり1mm以上の間隔』を設けることを挙げるのみで,電極に印加する電圧自体の値については,記載されていない。
このことは,言い換えれば,上記条件が適用される印加電圧の範囲について,明細書中に何ら記載されていないことになる。
そして,本件発明のような低圧放電灯において,1kV以上の電圧を印加することが常識であるとしても,上記条件の適用される範囲を1kV以上とすることまでは,常識的事項であるとは言えない。
そうすると,訂正事項1において,請求項1に『これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される』をつけ加える訂正は,上記条件が適用される印加電圧の範囲を新たに明示するものであって,新規事項の追加に該当すると言うべきものである。
(ウ)について 発明の適正な保護を図ることを目的として,特許法29条の2に係る先願明細書又は図面に記載された事項のみを,いわゆる『除くクレーム』によって,請求項に記載した事項から除外する訂正は,新規事項の追加には該当しないものとして取り扱われる場合がある。
しかしながら,その趣旨から明らかなように,このような取り扱いが認められるのは,先願発明と重複する部分が適切に除かれていることを条件として,後願の発明を保護する場合に限られるものであるところ,前述のとおり,本件訂正によっても,依然として,訂正後の本件発明は,先願発明と同一部分を包含するものであるから,そのような場合にまで,新規事項の追加には該当しないとする,例外的な取り扱いをするべきものではない。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 本件訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものに該当しないとした審決の判断は誤りである。
本件明細書には,「離間寸法Bは,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔」なる記載は随所になされており,また,「mm/V」との表現ではなく「mm/kV」と表現されており,かかる記載により,本件の低圧放電灯においては,電極間の印加電圧は少なくもkV単位で印加されていることを示唆している。したがって,たとえ「電極間には,1kV以上の電圧が印加される」ということそのものの記載がないとしても,かかる事項を示唆する記載は存在するものと解される。
また,「電極間には,1kV以上の電圧が印加される」ということそのものの記載がないとしても,かかる記載を追加する訂正は,本件発明の本質を変更することなく,特許請求の範囲減縮するものであるため,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
2 本件で訂正された請求項には,先願発明(甲4)と重複する部分は適切に除外されており,先願発明と同一部分を包含するものではない。このように,本件訂正は,発明の適正な保護を図ることを目的として,特許法29条の2にかかる先願明細書又は図面に記載された事項のみを,いわゆる「除くクレーム」によって,請求項に記載した事項から除外する訂正に該当し,新規事項の追加に該当しないものとして取り扱われるべきである。
被告の主張の要点
1 本件明細書には「電極間の印加電圧は少なくもkV単位で印加されている」との記載はない。そして,「離間寸法Bは,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔」というのは,電極間隔Bが印加電圧1kV当たり1mm以上であること,すなわち,電極間隔Bと印加電圧との比が1mm/1kV以上であることを意味するにすぎないのであるから,印加電圧が何kVであるかを限定するものではない。したがって,「離間寸法Bは,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔」なる記載が,「電極間には,1kV以上の電圧が印加される」を示唆していると解することはできない。
なお,訂正が,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内かどうかの判断は,訂正事項が当該明細書又は図面に記載されているかどうかでなされるものであり,本件発明の本質を変更することなく,特許請求の範囲減縮するものであれば,どのようなものでも認められるというものではない。
2 本件訂正によっても,依然として,先願発明と同一部分を包含するものである。
当裁判所の判断
1 審決は,本件で訂正審判請求された事項のうち,請求項1に「これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される」という事項を挿入するとした訂正が,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものに該当しないという理由から,本件訂正審判の請求は成り立たないとの結論に達したものであり,原告主張の審決取消事由もこの点の判断の誤りをいうものに尽きると解される。
そこで,審決の上記判断の当否について,以下に検討する。
(1) 本件特許公報(甲2)により,本件発明の願書に添付した明細書又は図面の内容が把握されるところ,この記載中で,上記訂正事項である「これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される」という事項に関係するものを挙げると,次のとおりであり(審決も同様の認定をしているが再掲する。),この他には,関係する記載は存在しない。
「【請求項1】…距離Bは,一対の導電体に印加する電圧に対して1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする低圧放電灯。」 「【0010】【課題を解決するための手段】…距離Bは,一対の導電体に印加する電圧に対して1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする。」 「【0015】…外部電極2,3間の離間寸法Bは,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔をもつように設定されている。…」 「【0018】…外部電極2,3の離間寸法Bが小さくなるが,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔であれば沿面放電を防止することができる。」 「【0020】…但し,この場合も外部電極2,3の離間寸法は,開口部11側及び反対側ともに,印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔にすることが必要である。」 以上によれば,本件の願書に添付した明細書又は図面には,距離Bは「1mm/1kV以上の間隔」,又は,離間寸法Bは「印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔」という記載があるのみであって,「これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される」という記載が存在しないことは明らかである。
(2) そこで,原告が主張するように,距離Bは「1mm/1kV以上の間隔」,又は,離間寸法Bは「印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔」という記載により,上記「これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される」という事項が示唆されているか否かを検討する。
上記記載のうち,「1mm/1kV」という表記は,やや特異なものであるが,上記各記載に照らせば,距離Bは「1mm/1kV以上の間隔」と,離間寸法Bは「印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔」とは,同義に使用されていることが認められる。また,本件の願書に添付した明細書又は図面の記載を参酌しつつ,「1mm/1kV」の意味を検討しても,通常の単位の記載である「1(mm/kV)」の意味と異なるものと理解すべき理由も見当たらない。
そうすると,距離Bは「1mm/1kV以上の間隔」という記載と,離間寸法Bは「印加電圧1kV当たり1mm以上の間隔」という記載は,いずれも,「距離Bと印加電圧との比が1(mm/kV)以上であること」を意味することは明らかであって,「電極間には,1kV以上の電圧が印加される」ことを示唆しているとは到底いえない。そして,本件の願書に添付した明細書又は図面の全体の記載を斟酌しても,「電極間には,1kV以上の電圧が印加される」ことが自明であるとは認められず,また,印加電圧をkV単位という整数値とすることや,その下限を「1kV」という特定の範囲に限定する思想の開示があるとは認められない。
よって,上記訂正事項が,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものに該当しないとした審決の判断は正当である。
なお,原告は,本件訂正審判請求は,本件発明の本質を変更することなく,特許請求の範囲減縮するものであるから,明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものとして許されるとも主張するが,訂正が許されるかどうかの判断は,発明の本質を変更することなく特許請求の範囲減縮するものであるかどうかだけではなく,当該訂正事項が願書に添付した明細書又は図面に記載されているかどうかによってもされるべきであるから,審決の判断は是認し得るのであり,原告の主張は,独自の見解として採用の限りではない。
(3) 原告は,前記第3,2のようにも主張するが,そもそも,「これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される」という事項を挿入する訂正は,実務上いわゆる「除くクレーム」といわれているもの(請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項であって,その請求項に係る発明が,先行技術と重なるために新規性等を失うおそれがある場合に,訂正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,当該重なりのみを除く訂正である場合には,当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと扱うというもの。)には該当しないものである。その他,原告主張の点を考慮しても,前判示の審決の判断を誤りであるとすべきことにはならない。
(4) 以上によれば,請求項1に「これらの電極間には,1kV以上の電圧が印加される」という事項を挿入するとした訂正が,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものに該当しないという理由から,本件訂正審判の請求は成り立たないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の審決取消事由は理由がない。
2 補足説明 (1) 審決は,前記第2,3(2)のとおり,請求人(原告)の主張(ア)ないし(ウ)を摘示した上で,これらに対する審決の見解を説示した。
上記請求人(原告)の主張(ア)ないし(ウ)をみると,その一部には,本件の願書に添付した明細書又は図面の記載が「電極間には,1kV以上の電圧が印加される」ことを示唆しているといえることや,いわゆる「除くクレーム」として訂正が認められるべきであることを主張する趣旨であると解される部分があるが(これらに関しては既に判示したとおりである。),これら以外の部分は,先願発明(甲4)との関係において,本件発明又は本件訂正後の発明との技術思想の違いや,特許法29条の2の適用について述べるものであって,上記のように,審決がいわゆる新規事項であることのみを理由に訂正審判請求を斥けるのであれば,結論を導くのに必要のない判断事項であったと解される。
原告は,当審において,前記第3において摘示した主張のほかに,多くの主張をしているが,これらは,審決中の上記結論を導くのに必要のない判断部分を非難するものであると解される。したがって,前記1における当審の判断においては,原告のこれらの主張もすべて事情として考慮しつつ検討したが,これらの主張は,本訴において,審決を取り消すべき直接的な事由とはなり得ないものというほかない。
(2) しかし,原告の主張にかんがみ,結論に影響のない事項であるとの前提の下に,次の2点について簡潔に補足しておく。
(a) 電極間に絶縁材を介在させる点について 甲4によれば,先願発明においては,実施例として絶縁材を介在させる構成が示されているものの,特許請求の範囲としては,絶縁材を介在させることが不可欠の構成要件とされてはいないものと認められる。一方,甲3によれば,本件発明の特許請求の範囲として,絶縁材を介在させないとの構成が記載されているわけではないことが認められる。よって,上記の点に関する原告の主張は,失当である。
(b) 先願発明の印加電圧について 甲4によれば,先願発明の特許請求の範囲では,印加電圧については,何ら限定がされておらず,発明の詳細な説明欄をみても,1kV以上であってはならないとは記載されておらず,電極間隔は3mm以下が好ましいとしつつも,図5において,1kV以上の放電開始電圧の場合(しかも,電極間隔が1kV当たり1mm以上という条件も満たす。)が示されている(段落【0025】)ことにも照らせば,先願発明においては,1kV以上の印加電圧が排除されていないと考えることができる。この考えによれば,本件発明の構成を1kV以上のものに限定しても,先願発明と同一部分を包含することになる。
一方,そのように解することができないとした場合には,先願明細書に明記された印加電圧は,段落【0021】の800Vのみであることになる(先願発明の特許請求の範囲をこのように解することは不自然かつ不合理であるが)。そうすると,これを適切に除くことができれば,本件発明と先願発明とは重なる部分はないことになるが,本件訂正は,「電極間には,1kV以上の電圧が印加される」との事項を加えるものであって,「1kV」とする意味をも含め,いわゆる「除くクレーム」として肯認されるべきものとは解されない。したがって,仮に,本件訂正をしても依然として先願発明と同一部分を包含するとした審決の説示に誤りがあるとしても,本件訂正審判請求を認めることができないとの結論に変わりはない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文