運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2007-2630
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10065審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10019審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10266審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10181審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10188審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  択一的 /  翻訳文 /  優先権 /  実質的に同一 /  警告 /  クレーム /  優先日 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  国内公表 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 21年 (行ケ) 10291号 審決取消請求事件
原告フレゼニウス メディカル ケアー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミットベシュレンクテルハフツング
訴訟代理人弁理 士前田弘
同 今江克実
同 前田亮
被告特許庁長官
指定代理人黒石孝志
同 高木彰
同 岩崎伸二
同 田村正明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2007-2630号事件について平成21年5月11日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1本件は,原告が,名称を「薬液管理装置のソフトウェアの更新」とする発明について国際特許出願をしたところ,日本国特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をし,平成19年2月16日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが,同庁が本件補正を却下した上,請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,?本件補正は特許請求の範囲減縮を目的とするものであるか,?本件補正後の発明(本願補正発明)及び補正前発明(本願発明)が下記の刊行物に記載された発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記・特開平10-171644号公報(発明の名称「電子制御装置」,出願人株式会社デンソー,公開日 平成10年6月26日。以下「刊行物1」という。)第3当事者の主張1請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成11年(1999年)11月9日(ドイツ国)の優先権を主張して,平成12年11月9日,名称を「薬液管理装置のソフトウェアの更新」とする発明について国際特許出願(PCT/EP00/11093,日本国における出願番号は特願2001-536217号)をし,平成14年5月8日に日本国特許庁に翻訳文を提出し(請求項の数16,国内公表公報は特表2003-513714号),平成18年4月7日付けで特許請求の範囲等を変更する補正(第1次補正,甲9,請求項の数16)をしたが,拒絶査定を受けたので,不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2007-2630号事件として審理し,その中で原告は,平成19年2月16日付けで特許請求の範囲等を変更する補正(本件補正,甲13。請求項の数16)をしたが,特許庁は,平成21年5月11日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成21年5月26日原告に送達された。
(2) 発明の内容ア 本件補正前の発明本件補正前の特許請求の範囲は平成18年4月7日付けの第1次補正後のものであり,その請求項の数は,前記のとおり16であるが,そのうち【請求項1】は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「a)流体治療装置及び流体源の一方または両方と,b)患者と上記流体治療装置及び流体源の一方または両方との間で流体を輸送するための流体路と,c)それぞれ関連するソフトウェアプログラムを有する少なくとも二つのプロセッサシステム(3)と,d)上記プロセッサシステム(3)を接続するデータ転送システム(2)と,e)上記データ転送システム(2)に接続され,上記プロセッサシステム(3)にそれぞれ属する上記ソフトウェアプログラムの更新を行うデータ入力装置(1)と,f)上記少なくとも二つのプロセッサシステム(3)に接続され,第一状態において上記プロセッサシステム(3)を動作モードに,第二状態において上記プロセッサシステム(3)をソフトウェア更新モードに切り替える動作モードスイッチ(5)と,g)上記動作モードスイッチ(5)及び上記データ転送システム(2)に同じく接続され,ソフトウェア更新モードにおいて,上記ソフトウェアプログラムの既存のバージョン及び上記既存のプロセッサシステム(3)の一方または両方を記憶データに基づき考慮しながら,どのソフトウェアプログラムがどのプロセッサシステム(3)のために上記データ入力装置(1)によってロードされなければならないかを決定し,これらのソフトウェアプログラムのロードを関連するプロセッサシステムに対して開始する検知システム(4,30)を備えている薬液管理装置。」イ 本件補正後の発明平成19年2月16日付けの本件補正後における請求項の数は,前記のとおり16であるが,そのうち【請求項1】は,次のとおりである(下線部が本件補正部分。以下,この発明を「本願補正発明」という。)。
「a)流体治療装置及び流体源の一方または両方と,b)患者と上記流体治療装置及び流体源の一方または両方との間で流体を輸送するための流体路と,c)それぞれ関連するソフトウェアプログラムを有する少なくとも二つのプロセッサシステム(3)と,d)上記プロセッサシステム(3)を接続するデータ転送システム(2)と,e)上記データ転送システム(2)に接続され,上記プロセッサシステム(3)にそれぞれ属する上記ソフトウェアプログラムの更新を行うデータ入力装置(1)と,f)上記少なくとも二つのプロセッサシステム(3)に接続され,第一状態において上記プロセッサシステム(3)を動作モードに,第二状態において上記プロセッサシステム(3)をソフトウェア更新モードに切り替える動作モードスイッチ(5)と,g)上記動作モードスイッチ(5)及び上記データ転送システム(2)に同じく接続され,ソフトウェア更新モードにおいて,上記既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムが上記データ入力装置(1)によって最新のバージョンに更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始する検知システム(4,30)を備えている薬液管理装置。」(3) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,?本件補正は,特許請求の範囲減縮等を目的とするものではないから違法である,?本願補正発明は,刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明することができたから,独立して特許を受けることができず(特許法29条2項),したがって,本件補正は,違法である,?本願発明は,引用発明に基づいて容易に発明することができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
なお,審決が認定する引用発明の内容,本願補正発明及び本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,上記審決写し記載のとおりである。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,次のとおり誤りがあるから違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本件補正が特許請求の範囲減縮等を目的とするものではないと判断したことの誤り)(ア)審決は,本件補正に関し,「…検知システム(4,30)について,(1)『上記ソフトウェアプログラムの既存のバージョン及び上記既存のプロセッサシステム(3)の一方または両方を記憶データに基づき考慮しながら,どのソフトウェアプログラムがどのプロセッサシステム(3)のために上記データ入力装置(1)によってロードされなければならないかを決定し,これらのソフトウェアプログラムのロードを関連するプロセッサシステムに対して開始する』ものから,『上記既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムが上記データ入力装置(1)によって最新のバージョンに更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始する』ものとするものである。そこで,当該補正をさらにみると,検知システムにおける,ロードされるソフトウェアプログラムの決定について,補正前の請求項1には,『記憶データに基づき……決定し,』と記載されているのに対し,補正後の請求項1には,この記載に対応する記載はない。
そうすると,上記補正は,検知システムにおける,ロードされるソフトウェアプログラムの決定について,記憶データに基づいて行なうものから,記憶データに基づかないものをも含むものとするものであるから,当該決定について限定するものとはいえない。」と認定している(2頁下2行〜3頁18行)。
(イ)しかし,上記検知システムがシステム(装置)としてロードされるソフトウェアプログラムを決定するものである以上,何らかのデータに基づいて決定動作を実行するものであり,何らのデータも記憶されずに当該決定を実行することはシステム(装置)としてあり得ない。
審決は,記憶データに基づかない決定を行う検知システムを含むと認定しているところ,システム(装置)として機能しない検知システムを含むこととなり,本願補正発明が,このようなシステム(装置)として機能しない検知システムを含むものでないことは明白である。
本願補正発明の検知システムは,ロードされるソフトウェアプログラムを決定(最新のバージョンに更新しなければならないかの決定)するものであるところ,そのためには何らかのデータを記憶している必要があることは技術常識であり,この記憶データに基づいて当該決定動作を実行しているものである。
特に,本願補正発明が,検知システムについて,当該「決定」を行う旨を特定しているということは,取りも直さず何らかの「記憶データに基づいて」いる事項を特定していることを含む意味であることは明らかであり,本願補正発明の検知システムにおいて,「記憶データに基づいて」という技術常識の特定の有無にかかわらず両者は実質的に同一の意味を持つ以上,「記憶データに基づいて」いる点を特定する技術的意義がない。
(ウ)なお,被告は,「例えば,当該装置にアナログのカウンターを設け,更新したソフトウェアプログラムのバージョンを手動で当該カウンターに「記録」し,検知システムが当該カウンターの『記録データ』に基づいて更新の決定を行う態様も十分に想定できるものである。」と主張するが,カウンターの「記録データ」も検知システムの「記憶データ」に相当することは明らかである。したがって,被告が想定する態様の「記録データ」も検知システムの「記憶データ」に相当するものである。
(エ)以上のとおり,本件補正は記憶データに基づかないものを含むものではないから,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第4項の要件を満たしている。本件補正を却下した審決の判断は誤りである。
イ取消事由2(本願補正発明と引用発明との一致点・相違点認定の誤り)(ア)審決は,本願補正発明の独立特許要件(進歩性)の判断に関し,引用発明の「メモリ書込装置4」が本願補正発明の「データ入力装置(1)」に相当すると認定している(12頁28行〜30行)。
しかし,引用発明の「メモリ書込装置4」は,メインマイコン18とサブマイコン26との何れのフラッシュメモリ42に格納された制御プログラム及び制御データ(以下,「制御プログラム等」という。)を書き換えるかを選択する選択スイッチと,メインマイコン18またはサブマイコン26のフラッシュメモリ42に格納された上記制御プログラム等についての新たな制御プログラム等とを備え,当該制御プログラム等をメインマイコン18及びサブマイコン26に送信するものである(刊行物1[甲1]段落【0058】,【0060】,【0075】)。すなわち,引用発明の「メモリ書込装置4」は,「選択スイッチ」を備え,制御プログラム等を書き換えるマイコンを選択するものであって,引用発明は,作業者が制御データ等を書き換える対象マイコンを特定することを必須の要件とし,この作業者のマイコン特定なしにデータの書き換えが行われないものである。
これに対し,本願補正発明の「データ入力装置(1)」は,「選択スイッチ」を備えておらず,検知システムにおいても選択スイッチは備えておらず,ソフトウェアプログラム(制御プログラム等)を書き換えるプロセッサシステム(マイコン)を選択するものではない。
(イ)なお,被告は,「刊行物1(甲1)に記載された『第1実施形態』においては,『選択スイッチ』により選択されたマイコンは,その『選択スイッチ』のみにより制御プログラム等の書き換えが行われるのではなく,最終的には,上記識別コードの一致によって制御プログラム等の書き換えが行われるのであるから,実質的には,上記識別コードによりマイコンが選択されるといえるものである。」と主張している。
しかし,引用発明は,作業者が選択スイッチによって選択したマイコンを単に識別コードにより判別しているに過ぎず,しかも,選択されたマイコンはメモリ書込装置4から送信される書込データをそのまま書き込んでいるものであって,書込データが書き込まれなければならないか,つまり,最新のバージョンに更新しなければならないかを決定しているものではない。
引用発明は,メインマイコン18とサブマイコン26の双方に書込電圧VPPが同じように供給されるものであり,この点からみても,引用発明は,作業者がデータを書き換えるマイコンを選択スイッチによって必ず選択しなければならないものであって,この選択されたマイコンのみのデータが書き換えられているのである。
刊行物1(甲1)の第2実施形態においては,書込電圧VPPがメインマイコン18とサブマイコン26とに別個に供給され(刊行物1[甲1]段落【0096】,【0097】),しかも,識別コードを有していない(刊行物1[甲1]段落【0109】)。この点の記載からしても,引用発明は,作業者がメインマイコン18とサブマイコン26の何れかを特定し,この特定されたマイコンのデータのみを書き換えているものであることは明白である。
そもそも引用発明は,「即ち,何れか1つのマイクロコンピュータに対して不揮発性メモリ内のデータ書き換えを行っている最中に,他のマイクロコンピュータが通信ラインへデータを送信すると,データ書き換えのための書込処理を行っているマイクロコンピュータの受信データが,他のマイクロコンピュータからの送信データによって破壊されてしまい,この結果,データの書き換え対象であるマイクロコンピュータの不揮発性メモリに誤ったデータが書き込まれてしまうのである。」(刊行物1[甲1]段落【0008】)という課題を解決するために,例えば,メインマイコンがデータ書き換えのための書込処理を実行している時に,サブマイコンが通信ラインへデータを送信することを禁止するようにすることを要旨とするものである(刊行物1[甲1]段落【0084】)。引用発明の識別コードは,マイコンのデータ送信を禁止するコードであり,例えば,メインマイコンがデータ書き換えのための書込処理を実行している時には,サブマイコンが通信ラインへデータを送信することを禁止するためのコードである。この点は,刊行物1の「すると,サブマイコン26においては,両識別コードが不一致となり(S220:NO),この結果,スイッチ素子SW1〜SW3が全て遮断状態となって,サブマイコン26とシリアル通信ライン32及び電源ライン38との電気的接続が遮断される(S280)。」(刊行物1[甲1]段落【0078】)との記載から明らかである。このように,引用発明は,マイコンのデータ送信を強制的に禁止するために「識別コード」を用いているものであり,識別コード(識別データ)によりデータを書き込むマイコンを選択するものではなく,この識別コードには何れのマイコンに書込データが書き込まれなければならないかを決定するという技術的意義は全く存しない。
(ウ)審決は,引用発明について「既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し,既存の制御プログラム等のメインマイコン18または既存の制御プログラム等のサブマイコン26に対して新たな制御プログラム等の書き込みを開始する書込開始手段」を備えている旨を認定し(13頁6行〜11行),引用発明と本願補正発明とは,「『既存のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムが上記データ入力装置によって更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステムに対してソフトウェアプログラムのロードを開始する更新手段』であるかぎりにおいて一致する。 」と認定している(13頁16行〜19行)。
しかし,引用発明の「メモリ書込装置4」は,「選択スイッチ」を備え,制御プログラム等を書き換えるマイコンを選択するものであることから,引用発明は,「メモリ書込装置4の選択スイッチによって選択された既存のメインマイコン18のみの制御プログラム等または既存のサブマイコン26のみの制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し,既存の制御プログラム等のメインマイコン18または既存の制御プログラム等のサブマイコン26に対して新たな制御プログラム等の書き込みを開始する書込開始手段」を備えているものである。引用発明は,「メモリ書込装置4が選択スイッチを備えている」ことを開示し,かつ「選択されたマイコンのみに新たな制御プログラム等の書き込み」という構成を開示している。
(エ)したがって,審決は本願補正発明と引用発明との一致点の認定を誤まり,その結果,本願補正発明が,各プロセッサシステムに対し,最新のバージョンに更新しなければならないかを検知システムが決定し,選択スイッチをもたない,という引用発明との相違点を看過したものである。
(オ)ちなみに,審決は,特開平10-57475号公報(発明の名称「制御装置」,出願人 ガムプロアクチーボラグ,公開日 平成10年3月3日。甲2)を引用している。しかし,これは,監視マイクロプロセッサ44及び制御マイクロプロセッサ50を備えた血液透析用制御装置を開示(段落【0016】及び段落【0017】)しているが,ソフトウェアプログラムの最新のバージョンの更新については何ら開示していない。
審決は,特開平6-315530号公報(発明の名称「血液の体外処理方法および装置」,出願人 A,公開日 平成6年11月15日。甲3)を引用している。しかし,これは,コントロールコンピュータ102及びモニタコンピュータ104を備えた血液の体外処理装置を開示(段落【0037】)しているが,ソフトウェアプログラムの最新のバージョンの更新については何ら開示していない。
審決は,特開平6-314190号公報(発明の名称「電子装置」,出願人 ソニー株式会社,公開日 平成6年11月8日。甲4)を引用している。しかし,これは,プログラムの更新を行う電子装置を開示(段落【0023】等)しているが,コマンダ18の操作によって書き換えを行うものであり(段落【0012】),単にプロセッサシステムのソフトウェアプログラムのバージョンから更新するか否かを決定する点は何ら開示していない。
審決は,特開平6-219021号公報(発明の名称「画像形成装置」,出願人 株式会社リコー,公開日 平成6年8月9日。甲5)を引用している。しかし,これは,プログラムの書き換えを行う画像形成装置を開示(段落【0002】等)しているが,操作パネル3の操作によって書き換えを行うものであり(段落【0013】),単にプロセッサシステムのソフトウェアプログラムのバージョンを更新するか否かを決定する点は何ら開示していない。
ウ 取消事由3(本願補正発明の進歩性判断の誤り)(ア)本願補正発明は,各プロセッサシステムにおけるソフトウェアプログラムのバージョンを個別に更新する手間を省くためになされた発明であり(本願明細書[甲6]段落【0009】),本願補正発明によれば,更新モードの際,実際に必要なソフトウェアプログラムのみが確実にロードされる(段落【0016】)。
一般に,ソフトウェアプログラムのバージョンを更新する場合(既存の制御プログラム等を新たな制御プログラム等に更新する場合),ユーザ(使用者)が更新するか否かを決定するのが通常である。バージョン等を更新する場合,更新後のプログラムの使い勝手やコスト等をユーザが自己の都合により意思決定することが通常である。
したがって,引用発明においても,選択スイッチによって制御プログラムを更新するマイコンを選択することを必須とし,この選択されたマイコンのみを制御プログラムの更新の対象とし,選択スイッチによって選択されなかったマイコンは制御プログラムの更新を行わないように積極的にユーザが決定する構成にされている。
また,上記特開平6-314190号公報(甲4)及び特開平6-219021号公報(甲5)においても,本願補正発明のように薬液管理装置を対象としたものではなく,ビデオテープレコーダ(甲4)やプリンタ(甲5)を対象としたものであり,一般的なマイコンにおけるバージョンの更新と同様に,更新を行うか否かはユーザの意思に委ねることを必須としている。
これに対し,本願補正発明は,薬液管理装置のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムのバージョンの更新を対象としたものである。
薬液管理装置は,血液透析装置等の血液治療装置として使用されるものであり,患者を危険にさらすことなく治療が行われるように構成することが要求されている。
このため,本願補正発明は,引用発明の自動車の電子制御装置とは異なり,使用者(患者)の意思決定を要さずにソフトウェアプログラムのバージョンの更新を行う必要があるという特殊性のもとに発明されたものであり,通常の一般的なソフトウェアプログラムのバージョンの更新とは全く異なる課題を有するものである。
そこで,本願補正発明は,選択スイッチによる選択を行うことなく,各プロセッサシステムに対し,ソフトウェアプログラムの最新のバージョンに更新しなければならないかを検知システムが決定し,プロセッサシステムが最新のバージョンでなければ最新のバージョンのソフトウェアプログラムをロードするようにしたものである。この結果,本願補正発明では,何れのプロセッサシステムも最新のバージョンのソフトウェアプログラムに統一されることとなり,患者を危険にさらすことなく薬液管理を行うことができるものである。
(イ)このように,本願補正発明のバージョンの更新と引用発明のプログラムの書込みとは,プログラムの更新という点では共通するものの,その更新に用いられる技術的要求,課題が大きく異なる。引用発明は,一般的な電子制御装置という分野において,ユーザの意思に委ねられたプログラムの更新を対象とし,この目的の達成のために,選択スイッチを設け,選択スイッチで選択されているマイコンのみにデータを書き込むことを要件とし,単にマイコンのプログラムの内容(バージョン)そのもののみから更新を決定するという技術的思想について,何らの開示も示唆もない。この点は,上記特開平6-314190号公報(甲4)及び特開平6-219021号公報(甲5)においても同様である。
引用発明は,選択スイッチを必須要件としていることから,この引用発明から必須要件の選択スイッチを省略するという技術的思想は生じない。
それにもかかわらず,審決は,本願補正発明と引用発明との選択スイッチの要件の違いを看過して,本願補正発明は引用発明から容易に発明することができたと判断したものであり,この本願補正発明の進歩性についての判断は誤りである。
(ウ)なお,被告は,「使用者である患者の意思決定を要さずにソフトウェアプログラムのバージョン更新を行うことは,本願補正発明を待つまでもなく当然に考慮(配慮)されるべき自明な技術的事項である。」と主張している。
しかし,患者を危険にさらすことなく治療が行われるように構成することが要求されているという課題は,薬液管理装置全般にいえることではあるが,この一般的な課題解決には各種の手段が考えられるところ,この一般的な課題から「使用者である患者の意思決定を要さずにソフトウェアプログラムのバージョン更新を行うことは,当然に考慮(配慮)されるべき自明な技術的事項」とはいえない。
複数のプロセッサシステムを有する薬液管理装置 本願補正発明は,「のソフトウェアプログラムの更新を,熟練の技術者のみがこれを行える立場にあるのではなく,平易な方法でかつ都合のよい価格で行える装置を提供することである。」を目的とするものであり(本願明細書[甲1ソフトウェアプログラムのバージョン更 3]段落【0012】),単に新を課題とするものではなく,バージョン更新をいかに 薬液管理装置の平易な方法でかつ都合のよい価格で行えるかを課題とするものである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
エ 取消事由4(本願発明の進歩性判断の誤り)仮に,審決の本件補正却下の判断に誤りがないとしても,審決には,下記のとおり,本願発明の進歩性判断に関し,その認定,判断に誤りがある。
(ア) 一致点・相違点認定の誤り審決は,本願発明に関しても,引用発明の構成について,前記イと同様に認定している(16頁下5行〜17頁1行)。
しかし,本願発明においても,各プロセッサシステムに対し,ソフトウェアプログラムがロードされなければならないかを決定しており,選択スイッチの選択を要件とはしていないから,審決は,引用発明が選択スイッチを備えているという相違点を看過したものである。
したがって,上記イの本願補正発明と同様に,本願発明に関し,審決の一致点・相違点の認定は誤りである。
(イ) 進歩性判断の誤り本願発明は,各プロセッサシステムに対し,ソフトウェアプログラムがロードされなければならないかを決定しており,選択スイッチの選択を要件とはしていない。
これに対し,引用発明は,選択スイッチによる選択を書き換えの必須要件とし,この必須要件の選択スイッチを省略するという技術的思想は引用発明からは生じない。
したがって,本願発明は引用発明から容易に発明することができたとの審決の判断は誤りである。
2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対し本件補正に関しては,審決に記載したとおり,「…検知システムにおける,ロードされるソフトウェアプログラムの決定について,補正前の請求項1には,『記憶データに基づき…決定し,』と記載されているのに対し,補正後の請求項1には,この記載に対応する記載はない。」(3頁11行〜14行)当該検知システムが,薬液管理装置のプロセッサシステムにロードされるソフトウェアプログラムを決定するものである以上,何らかのデータに基づいてその決定動作を実行するものといえるが,この「データ」が,必ずしも原告が主張するように「記憶データ」のみに限定されるものとはいえない。
例えば,当該装置にアナログのカウンターを設け,更新したソフトウェアプログラムのバージョンを手動で当該カウンターに「記録」し,検知システムが当該カウンターの「記録データ」に基づいて更新の決定を行う態様も十分に想定できるものである。
したがって,「検知システム」が,「何らかのデータに基づいて決定動作を実行するものであり,何らのデータも記憶されずに当該決定を実行することはシステム(装置)としてあり得ない。」とまではいえない。
以上のとおりであるから,原告が,「本願補正発明の検知システムにおいて,『記憶データに基づいて』という技術常識の特定の有無にかかわらず両者は実質的に同一の意味を持つ」と主張する点は失当であり,審決が,本件補正について,「…検知システムにおける,ロードされるソフトウェアプログラムの決定について,記憶データに基づいて行なうものから,記憶データに基づかないものをも含むものとするものであるから,当該決定について限定するものとはいえない。」(3頁15行〜18行)とした点に誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア審決は,引用発明の認定(11頁下11行〜12頁13行)の中で,新たな制御プログラム等に書き換えるためにメインマイコン18またはサブマイコン26を選択するための要件として,「書込開始手段」の「記憶データに基づき」,「既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを」「決定」することを認定したのであって,「メモリ書込装置4」が「選択スイッチ」を有することをその要件として認定したのではない。
イ次に,審決は,引用発明を認定するに当たり,刊行物1(甲1)から,その「第1実施形態」に係る,以下の段落【0044】,【0058】,【0061】〜【0062】,【0065】〜【0066】,【0067】〜【0068】の記載を引用した。
?「また,本第1実施形態において,フラッシュメモリ42には,上記制御プログラム及び制御データと共に,メインマイコン18とサブマイコン26とを識別可能な識別コードが格納されている。尚,この識別コードは,制御プログラム及び制御データの一部として,その先頭に配置されている。そして,本第1実施形態では,メインマイコン18の識別コードは『0001』であり,サブマイコン26の識別コードは『0010』である。」(段落【0044】,審決6頁下6行〜下1行)?「…メモリ書込装置4は,当該装置を作動させるための起動スイッチや,メインマイコン18とサブマイコン26のうちの何れのフラッシュメモリ42に格納されたデータ(制御プログラム及び制御データ)を書き換えるかを選択するための選択スイッチに加えて,更に,その書き換えるべきデータであってECU2へ送信する書込データ(新たな制御プログラム及び制御データを構成するデータ)を格納したROMやフロッピーディスクなどの記憶媒体と,様々なメッセージを表示するための表示部とを備えている。」(段落【0058】,審決7頁20行〜27行)?「…最初のS100にて,前記選択スイッチによりメインマイコン18がデータの書き換え対象として選択されている場合には,信号線36aにハイアクティブの書込許可信号K1を出力し,また,サブマイコン26がデータの書き換え対象として選択されている場合には,信号線36bにハイアクティブの書込許可信号K2を出力する。尚,このようにメモリ書込装置4からECU2へ書込許可信号K1,K2の何れか一方が出力されることにより,ECU2側の電源回路34(書込電圧作成部54)は,両マイコン18,26へ書込電圧VPPを供給可能な状態となる。
そして,続くS110にて,前記記憶媒体に格納されている書込データを読み出して,その書込データをECU2へシリアル通信ライン30を介して送信する。尚,この送信動作により,ECU2へは,まず,前述の如く書込データの先頭に配置された識別コードが送信され,次いで,エンジンや自動変速機を制御するための制御プログラムや制御データを構成するデータが送信される。」(段落【0061】〜【0062】,審決7頁下8行〜8頁6行)?「…両マイコン18,26の各CPU40は,最初に,マスクROM44に格納されたブートプログラムの実行を開始し,まずS200にて,電源回路34から電源ライン38を介して書込電圧VPPが供給されているか否かを判定する。
ここで,イグニッションスイッチIGSがオンされた時点で,当該ECU2にメモリ書込装置4が接続されており,しかも,前述した図4におけるS100の処理によりメモリ書込装置4から書込許可信号K1,K2の何れかが出力されていれば,電源回路34の書込電圧作成部54から電源ライン38を介して両マイコン18,26に書込電圧VPPが供給されるため,上記S200にて肯定判定される(書込電圧VPPが供給されていると判定される)。」(段落【0065】〜【0066】,審決8頁23行〜33行)?「そこで,S200で肯定判定された場合には,次のS210に進んで,前述した図4におけるS110の処理によりメモリ書込装置4からシリアル通信ライン30を介して送信されて来る識別コードを受信し,続くS220にて,その受信した識別コードと,フラッシュメモリ42に格納されている自分の識別コードとが一致しているか否かを判定する。
そして,上記S220にて,両識別コードが一致していると判定した場合には,通常動作モードではない書換モードであると判断して,次のS230に進む。そして,このS230にて,前述したようにメモリ書込装置4から上記識別コードに続いて送信されて来る書込データ(制御プログラムや制御データを構成するデータ)を受信し,その受信したデータをS210で受信した識別コードを先頭にして,フラッシュメモリ42内に更新して書き込む。」(段落【0067】〜【0068】,審決8頁下6行〜9頁6行)ウ以上の記載によると,刊行物1(甲1)に記載された「第1実施形態」は,上記?から,「メモリ書込装置4」が「メインマイコン18とサブマイコン26のうちの何れのフラッシュメモリ42に格納されたデータ(制御プログラム及び制御データ)を書き換えるかを選択するための選択スイッチ」を備えているところ,上記?及び?から,該選択スイッチにより何れのマイコン(メインマイコン18またはサブマイコン26)がデータの書き換え対象として選択されたとしても,両マイコン(メインマイコン18及びサブマイコン26)には,書込電圧VPPが同じように供給されるものである(すなわち,両マイコン共に,書込動作可能状態にあることが明らかである。)。そして,上記?から,両マイコンは,メモリ書込装置からシリアル通信ラインを介して送信されて来る識別コード(上記?及び?から,メインマイコン18とサブマイコン26とを識別可能にするコードであって,記憶媒体に格納されている書込データの先頭に配置されたもの)を受信し,その受信した識別コードと,フラッシュメモリに格納されている自分の識別コード(すなわち,審決が認定した引用発明の「記憶データ」)とが一致しているか否かを判定し,両識別コードが一致していると判定した場合には,メモリ書込装置から上記識別コードに続いて送信されて来る書込データ(制御プログラムや制御データを構成するデータ)を受信し,該マイコンのフラッシュメモリ内に更新して書き込むものである。
すなわち,刊行物1(甲1)に記載された「第1実施形態」においては,「選択スイッチ」により選択されたマイコンは,その「選択スイッチ」のみにより制御プログラム等の書き換えが行われるのではなく,最終的には,上記識別コードの一致によって制御プログラム等の書き換えが行われるのであるから,実質的には,上記識別コードによりマイコンが選択されるといえるものである。この点は,刊行物1(甲1)の段落【0092】の「第1実施形態のECU2は,メモリ書込装置4からの識別コードにより,データの書き換え対象であるマイコンが指定されるものであったが」という記載とも整合するものである。
したがって,審決が,制御プログラム等を書き換えるマイコンを選択するために,引用発明の「メモリ書込装置4」が「選択スイッチ」を備えていることを認定しなかった点に誤りはない。
以上のことから,審決が,引用発明の認定の中で,新たな制御プログラム等に書き換えるためにメインマイコン18またはサブマイコン26を選択することに関して,「既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し」(12頁7行〜10行)と認定したことに誤りはなく,それに基づく本願補正発明との対比において,引用発明の「メモリ書込装置4」が本願補正発明の「データ入力装置(1)」に相当すると認定したこと(12頁下10行〜下8行),及び,引用発明の「既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し,既存の制御プログラム等のメインマイコン18または既存の制御プログラム等のサブマイコン26に対して新たな制御プログラム等の書き込みを開始する書込開始手段」が,本願補正発明の「上記既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムが上記データ入力装置(1)によって最新のバージョンに更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始する検知システム(4,30)」と,「『既存のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムが上記データ入力装置によって更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステムに対してソフトウェアプログラムのロードを開始する更新手段』であるかぎりにおいて一致する。」と認定したこと(13頁6行〜19行)に誤りはない。
(3) 取消事由3に対しア前記(2)のとおり,引用発明は,新たな制御プログラム等に書き換えるために,メインマイコン18またはサブマイコン26を,「書込開始手段」の「記憶データ」(刊行物1[甲1]では「識別データ」)により選択するものであり,「選択スイッチ」により選択するものではない。
したがって,引用発明も,本願補正発明同様,ソフトウェアプログラムを書き換えるプロセッサシステムを選択スイッチ等によって予め特定するものではなく,選択スイッチによって制御プログラムを更新するマイコンを選択することを必須とするものではない。また,引用発明は,「書込開始手段」の「記憶データ」(刊行物1[甲1]では「識別データ」)によりマイコン選択を行うものであるから,実質的に,更新するマイコンは積極的にユーザが決定する構成にされているものではない。
イ原告が主張する,患者を危険にさらすことなく治療が行われるように構成することが要求されているという課題は,薬液管理装置のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムのバージョンの更新を対象とした本願補正発明のみならず,薬液管理装置全般にいえることであり,およそ薬液管理装置における自明の技術課題に他ならず,本願補正発明のようなソフトウェアプログラムのバージョン更新においても何ら格別の課題といえるものではない。そうすると,使用者である患者の意思決定を要さずにソフトウェアプログラムのバージョン更新を行うことは,本願補正発明を待つまでもなく当然に考慮(配慮)されるべき自明な技術事項である。そもそも,プログラムを使用して作動させる装置一般において,その使用や用途に問題や支障が生じることのないように,プログラム更新を始めとした装置のメンテナンスを行うことは,共通する一般的な課題である。
したがって,本願補正発明は,薬液管理装置という特殊性に基づく新規な課題を解決するためになされたものとはいえない。
原告は,本願補正発明では,何れのプロセッサシステムも最新のバージョンのソフトウェアプログラムに統一されるという効果を主張しているところ,この効果は,検知システムが,少なくとも二つのプロセッサシステムを備えている場合,それら全てのプロセッサシステムを更新しなければならないと決定し,それら全てのプロセッサシステムを更新することにより奏する効果とも,又は,何れか一つのプロセッサシステムを更新しなければならないと決定し,何れか一つのプロセッサシステムを更新することにより奏する効果ともいえるものである。
ところで,上記効果を奏する本願補正発明の「検知システム」は,請求項1の記載から,「既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムが上記データ入力装置(1)によって最新のバージョンに更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始する」と特定されるものであるところ,当該特定は,既存のプロセッサシステム(3)の内の一つのソフトウェアプログラムを最新のバージョンに更新しなければならないと決定し,その一つのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始することを包含するもので,決して排除するものではない。
一方,引用発明においても,「書込開始手段」の「記憶データに基づき」,「既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを」「決定」し,「新たな制御プログラム等の書き込みを開始する書込開始手段」を備えるものであるから,当該「書込開始手段」は,上記本願補正発明において特定される検知システムと,二つのプロセッサシステムの内の一つのソフトウェアプログラムを更新することを決定し,ソフトウェアプログラムのロードを開始する点において共通し,引用発明も,何れか一つのプロセッサシステムを更新しなければならないと決定し,何れか一つのプロセッサシステムを更新することにより奏する効果を備えるものである。
また,審決が,14頁下1行〜15頁5行で述べたように,「既存のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムが上記データ入力装置によって更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステムに対してプログラムのロードを開始するにあたり,その決定と開始とを既存のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムのバージョンとデータ入力装置から送られてくるソフトウェアプログラムのバージョンとに基づいて行うことは周知である。」。そして,審決は,そのことの裏付けとして,特開平6-219021号公報(甲5)を提示し,関係する記載(段落【0013】〜【0016】)を摘示している。なお,この甲5について,原告は,「単にプロセッサシステムのソフトウェアプログラムのバージョンを更新するか否かを決定する点は何ら開示していない」旨を主張しているが,甲5の段落【0014】及び【0015】によれば,ダウンロード・プログラム・データのバージョン番号が新しい場合に書き換え動作を行うことが開示されているから,この原告主張は失当である。
したがって,引用発明も,ソフトウェアプログラムの更新をバージョンに基づいて行うことは,当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎないから,それにより奏される効果も本願補正発明と同様のものである。
ウ上記イで述べたように,本願補正発明の課題に特殊性はなく,プログラムの更新に用いられる技術的要求において,引用発明は,前記(2)で述べたように,新たな制御プログラム等に書き換えるために,メインマイコン18またはサブマイコン26を,「書込開始手段」の「記憶データ」(刊行物1[甲1]では「識別データ」)により選択するものであり,「選択スイッチ」により選択するものではないから,本願補正発明と大きく異なるものではない。そして,引用発明は,上記アのとおり,選択スイッチによるマイコンの選択を必須要件としていない。
(4) 取消事由4に対し引用発明は,前記(2),(3)で述べたとおり,新たな制御プログラム等に書き換えるために,メインマイコン18またはサブマイコン26を,「書込開始手段」の「記憶データ」(刊行物1[甲1]では「識別データ」)により選択するものであり,「選択スイッチ」により選択するものではないから,審決における,本願発明と引用発明との一致点・相違点の認定及び本願発明の進歩性についての判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願補正発明及び本願発明の意義(1)本件補正後の【請求項1】(本願補正発明)は,前記第3,1(2)イのとおりであり,本件補正前の【請求項1】(本願発明)は,前記第3,1(2)アのとおりである。
また上記補正前(甲9)及び補正後(甲13)の各明細書の【発明の詳細な説明】の記載は,次のとおりである(以下の記載は,本件補正の前後を通じて共通である。)。
ア・「本発明は,複数のプロセッサーシステムを有し,患者と流体治療装置及び/または流体源との間の流体路を通じて流体が輸送される薬液管理装置に関する。」(冒頭)・「この点について,流体管理装置とは,特に,液体または気体の主要な治療または分配を行うための装置とする。」(段落【0001】)・「高度に複雑な専門的医療器具の多くは,個別の機能を有する複数のモジュールから組み立てられている。これは流体管理装置,特に,血液治療装置等の流体治療装置についてもますます当てはまっている。血液治療装置では,患者の体液は流体路を通じて流体治療装置に導かれ,流体治療装置によって処理された後,動脈分岐と静脈分岐に分けられる流体路を通じて患者に戻される。最新の血液透析装置は,透析液作成副装置,超濾過装置,及び血液治療副装置等を備えている。このような血液治療装置は,本願出願人のDE19849787C1号における主題である。」(段落【0002】)・「当然ながら,患者の体液を治療したり,患者へ流体を輸送するための薬液管理装置の動作上の安全性がとりわけ強く求められている。この点に関して,互いに独立していて,明確に定められた目的にそれぞれが適合しなければならない部品装置やモジュールから薬液管理装置が構成されていれば有利である。各モジュールは,それぞれの目的のためにエリアリザーブシステム及び故障の診断・修理ルーチンを有しており,これらによって,他のシステムが故障した場合にモジュールがその目的を確実に満たすことができるようになっている。このような故障の診断・修理は集中制御システムよりもずっと確実に機能することがわかっている。」(段落【0003】)・「モジュールで構成されている流体管理装置の他の長所は,それぞれのハードウェアの構成を使用目的に柔軟に適合できることである。例えば,顧客が要求すれば追加の測定装置や監視装置を設けることができる。個々のモジュールの性能も用途の種類に合わせて調整することができる。」(段落【0004】)・「このような流体管理装置のさまざまなモジュールは,一般的に複数のマイクロプロセッサを備えている。測定装置及び機能装置はどちらもたいてい独自のプロセッサシステムを備えている。各プロセッサシステムは,付属のメモリーに格納されている個別のオペレーティングソフトウェアを必要とする。」(段落【0005】)・「薬液管理装置が複数のモジュールで構成されることになっていない場合でも,安全上の理由から少なくとも二つのプロセッサシステムが装置に設置されていることが多い。第一のプロセッサシステムは実際の制御作業を受け持ち,第二のプロセッサシステムは第一のプロセッサシステムの機能について監視する機能を受け持つ。」(段落【0006】)・「薬液管理装置のオペレーティングシステムは,時々取り替えまたは更新されなければならない。このようなソフトウェアの更新は,例えば,新しいオプションを追加することによって,ソフトウェアの実行上のエラーを除去したり,またはソフトウェアの機能領域を変更もしくは拡張するためといった,複数の理由により必要となり得る。さらに,このような流体管理装置のソフトウェアの変更は,顧客の要求または一般的な技術もしくは医療の進歩によっても行われることがある。」(段落【0007】)・「この点において,複数のプロセッサシステムを有する薬液管理装置の構成には,各プロセッサシステムのオペレーティングソフトウェアを個別に新しいバージョンに取り替えなければならないという欠点がある。このため,最新の薬液管理装置においてソフトウェアの更新を行うには,特別に訓練を受けた技術者が複数の更新プログラムを用いて,それぞれのハードウェアの構成に必要なソフトウェアプログラムを装置にロードするために薬液管理装置に対し作業を行う必要がある。したがって,そのような手作業で行われるソフトウェアの更新には非常に時間や費用がかかる。」(段落【0008】)・「他の技術領域のさまざまな公報において,プロセッサシステムのソフトウェアの更新の実施が扱われている。いわゆる起動回路は,EP0457940A1号から公知であるが,プログラムコードまたはテストコードをモニタにロードするためにモニタに接続することができる。」(段落【0009】)・「US5,800,473号には,特定のパラメータに依存する心臓ペースメーカーにさまざまなプログラムまたはデータを転送することができる心臓ペースメーカーの再プログラミングについて記載されている。」(段落【0010】)・「DE4414597A1号及びUS5,155,847号には,中央コンピュータを備えたコンピュータネットワークが提案されており,中央コンピュータがワークステーションのソフトウェア及びその更新を管理している。」(段落【0011】)・「DE4404544C2号からは,あるコンピュータネットワークが公知であり,そのネットワークを使用すれば,供給装置により使用可能になった作成済みのオペレーティングシステムを用いて対象のコンピュータを前もって構成することができる本発明の目的は,複数のプロセッサシステムを有する薬液管理装置のソフトウェアプログラムの更新を,熟練の技術者のみがこれを行える立場にあるのではなく,平易な方法でかつ都合のよい価格で行える装置を提供することである。さらに,ソフトウェアの更新処理によって流体管理装置に接続されている患者を危険にさらすことを効果的かつ簡単に防ぐことができるように安全面も考慮しなければならない。」(段落【0012】)・「本発明の目的は,請求項1の特徴を備えた薬液管理装置によって達成できる。そして従属クレームからは有利な実施形態が得られる。」(段落【0013】)イ・「本発明の薬液管理装置では,複数のプロセッサシステムを備えた構成にもかかわらず,個々のプロセッサシステムに属するソフトウェアプログラムの更新を平易にかつより低価格で行うことができる。この点に関して,検知システムにより,実際に必要なソフトウェアプログラムのみが確実にロードされるようになっている。したがって,常にすべてのソフトウェアプログラムが改めてロードされる必要がない。どのソフトウェアがロードされなければならないかを決める際に,検知システムはそれぞれ個別のハードウェアの構成についても考慮する。」(段落【0015】)・「また,動作モードスイッチは,ソフトウェアの更新のためにすべてのプロセッサシステムを同時に起動させることもできる。このスイッチは,プロセッサシステムが流体管理に関する動作状態の結果から許可した場合のみ,動作モードからソフトウェア更新モードに適切に切り替えられる。一方,ソフトウェア更新モードでは,流体の治療または患者への流体の輸送を行うことはできない。このようにして,ソフトウェアの更新処理によって患者が不必要に危険にさらされることを防いでいる。」(段落【0016】)・「上記薬液管理装置は,とりわけ血液透析装置等の血液治療装置として有効に使用することができる。この装置では,血液は体外血液回路を通じて患者から引き出され,体外で処理され,再び戻される。これらの装置が集中治療において使用された場合,迅速かつ常に更新されている待機動作が保証されるという理由から,このような非常に複雑な装置のソフトウェアが簡単に更新できるということはいっそう有利である。」(段落【0017】)・「しかし上記流体管理装置は,その動作に応じて腹膜潅流のような他の分野において使用することもできる。いわゆる腹膜潅流サイクラー装置や絶え間なく血液透析液が循環する腹膜潅流装置を用いて,使用済みの血液透析液を新しいまたは治療済の血液透析液と取り替えることで,装置は患者の腹腔内において血液透析液の周期的または連続した取り替えを独立して行う。」(段落【0018】)・「腹膜潅流装置や血液透析装置は家庭用透析器としても使用される。
とりわけ遠隔地では,これに代わる選択肢がほとんどない。このような場合,ソフトウェアの更新を行うためだけに技術者を雇うには特に費用及び時間がかかる。請求項1にかかる本発明の流体管理装置の構成によれば,このような場合に,より容易に患者がソフトウェアの更新も自分で行えるようになる。」(段落【0019】)・「CDディスク,DVDディスク,その他のデータ記憶媒体のような互換性のある大量メモリの読み取り装置がデータ入力装置として設けられていれば,それぞれ異なる装置構成について関連する薬液管理装置に対して使用可能なすべてのまたは複数のソフトウェアバージョンが記憶されている一枚のCD等のみを読み取り装置に挿入することができる。
このように,複数の更新プログラムを有する一枚のCDによってすべてのプロセッサシステムを更新することができるため,個別のCDを用いてそれぞれのプロセッサシステムを個々に更新する必要がなくなる。その場合,熟練の技術者が現場でソフトウェアの更新を行う必要がもはやなくなり,従来のようにさまざまな更新を装置の種類によって異なる境界パラメータを用いて行う必要もなくなる。」(段落【0020】)・「この点について,データ入力装置はプロセッサシステムの一部とすることもできる。例えば,プロセッサシステムは,キーボードやモニタ等のすべての入出力素子及びデータ入力装置による外部データ通信を制御するのに適している。」(段落【0021】)・「本発明によると,それぞれのソフトウェアの最新バージョンを有するCDのような比較的低価格で製造できるデータ記憶媒体を個々のユーザに配布(例えば,郵送)することができ,ユーザは薬液管理装置にそれぞれのソフトウェアの最新バージョンをロードするために,受け取ったCDまたはそれに相当するデータ記憶媒体を読み取り装置に挿入しさえすればよい。この点について,ロードまたは更新処理は,たいてい挿入後に自動的に行われる。」(段落【0022】)・「更新ソフトウェア全体をラップトップ機等の他の記憶媒体に記憶させることもまた可能である。その場合,所望のソフトウェアの更新を行うために,この記憶媒体を医療装置のデータ入力装置に接続しなければならない。更新が行われた後は,他の薬液管理装置を更新するために記憶媒体を薬液管理装置から再び分離または取り外すことができる。」(段落【0023】)・「データ入力装置の更新ソフトウェアをインターネットまたは電波や赤外線のような遠隔転送信号によって伝達することもできる。本発明の本実施形態では,すべての更新プログラムが一つの工程で次々と直接ロードされるので,個々のプロセッサシステムを一回の処理のみでそれぞれの最新のソフトウェアの状態にすることもできる。」(段落【0024】)・「本発明の装置の検知システムは,別個のプロセッサシステムとして,またはこの作業を追加的に受け持つ既存のプロセッサシステムの一部として設けることができる。特別にモジュール構成となるようにした実施形態では,検知システムは複数の検知システムに分割される。それらの検知システムは各プロセッサシステムに設置され,これらのプロセッサシステムに対してのみ責任を担う。ソフトウェア更新モードを起動することにより,各プロセッサシステムは,データ入力装置において新しいソフトウェアが入手可能であること及び個々の更新手順を確認し,開始しなければならないことを独自に検知する。」(段落【0025】)・「本発明の好ましい実施形態では,既存のソフトウェアプログラムのコードが検知システムに記憶され,該コードは特にバージョン番号及びそれぞれのバージョンの日付の一方または両方であることが可能である。これらのコードと更新記憶媒体上のプログラムのバージョンを比較することで,検知システムは既存のソフトウェアのバージョンが既に古くなってしまっているかどうかを決定することができる。」(段落【0026】)・「本発明の別の好ましい実施形態では,既存ハードウェア構成のコードが検知システムに記憶されている。これらのコードとCD等によって入手可能な更新ソフトプログラムを比較することで,それぞれのハードウェア構成に適したソフトウェアプログラムを決定し,ロードすることができる。これにより,実際には別の型の装置に使用されるソフトウェアがロードされることを防いでいるが,これは流体管理装置の高い安全要件に関して非常に重要である。」(段落【0027】)・「本発明の別の好ましい実施形態では,好ましい言語のバージョンのコードが検知システムに記憶されている。好都合なことに,装置全体のソフトウェアがCD等の記憶媒体上に複数の言語で直接収められている。言語コードとCDにより入手可能なさまざまな言語の更新ソフトウェアプログラムを比較することで,検知システムはそれぞれのユーザに適した言語バージョンを決定することができる。その後,必要なソフトウェアプログラムがデータ入力装置によって対応する言語バージョンでロードされる。」(段落【0028】)・「ハードウェアの構成,既存のソフトウェアプログラム,及び好ましい言語のバージョンに関するコードを記憶するために,メモリチップまたはハードディスク等を備えることもできる。更新処理において,検知システムはこれらのコードにアクセスし,更新はこれらのコードにしたがって行われる。このように,もはや操作者に技術的な知識を要求しない完全に自動の更新が可能となる。これは言わば,いわゆるソフトウェア更新処理そのもののプラグアンドプレイ機能に相当する。現行のソフトウェアを有するCD等がデータ入力装置に挿入され,動作モードスイッチがソフトウェア更新モードに切り替えられた後,さらに何の操作も必要なくソフトウェア更新処理が自動的に実行される。」(段落【0029】)・「ソフトウェアの更新において,データ記憶媒体に記憶されている情報によって,ソフトウェアまたは薬液管理装置の文書を有利に修正または変更することができる。この点について,文書データの更新もデータ入力装置によって行われる。このようにして,更新が行われた後,新しいソフトウェアに関してユーザにとって役に立つ情報が入手可能となる。これは,通常いかなる形態であってもモニタとして存在する表示装置上に,対応する情報が出力されることによって行われ,ユーザは対応して解説されるメニューを操作することで,更新済のソフトウェアを用いて簡単に作業することができる。特に,新性能に関して情報を出力することができる。さらに,技術的な文書,マニュアル,入手可能な予備部品等に関する情報をデータ記憶媒体上に記憶することができる。さらにまた,更新済のソフトウェアプログラム及び関連の文書を同時にロードすることによって,ユーザが確実にそれぞれの現行の文書を使用するようになっている。これもまた特に薬液管理装置においては安全面から重要である。」(段落【0030】)・「本発明のさらに有利な面として,文書データがユーザの好みの言語バージョンでロードされる。好ましい言語は,検知システムに記憶されているコードによって決めることができる。」(段落【0031】)・「ハードウェアの構成及び/または使用されているソフトウェアのバージョンの情報を示すことができる表示装置が薬液管理装置に設けられていることは有利である。この表示装置は,既存のプロセッサシステムの一部であるか,またはデータ転送システムに直接接続されている。例えば,薬液管理装置にどのプロセッサシステムがどの構成で実際に含まれているかをモニタで示すことができるし,使用されているソフトウェアバージョンをそれぞれのソフトウェアの最後に行われた更新の日付情報または更新データ等を用いて起動させたり,表示させることができる。」(段落【0032】)・「表示装置がロード処理に関する情報の出力に適していれば有利である。薬液管理装置は,ロード処理またはロード処理の一部を確認する確認手段を,プロセッサシステムの一部としてまたはデータ転送システムに直接接続された状態でさらに備えることができる。」(段落【0033】)(2)上記(1)の記載によれば,本願補正発明及び本願発明は,複数のプロセッサーシステムを有し,患者と流体治療装置及び/または流体源との間の流体路を通じて流体が輸送される薬液管理装置に関するもので,その目的は,複数のプロセッサシステムを有する薬液管理装置のソフトウェアプログラムの更新を,熟練の技術者のみが行えるのではなく,平易な方法でかつ都合のよい価格で行える装置を提供することであり,さらに,ソフトウェアの更新処理によって流体管理装置に接続されている患者を危険にさらすことを効果的かつ簡単に防ぐことができるように安全面も考慮したものである。
一方,本願補正発明に係る薬液管理装置は,ソフトウェア更新モードにおいて,既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムがデータ入力装置(1)によって最新のバージョンに更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始する検知システム(4,30)を備えている薬液管理装置である。
本願発明に係る薬液管理装置は,ソフトウェア更新モードにおいて,ソフトウェアプログラムの既存のバージョン及び既存のプロセッサシステム(3)の一方または両方を記憶データに基づき考慮しながら,どのソフトウェアプログラムがどのプロセッサシステム(3)のためにデータ入力装置(1)によってロードされなければならないかを決定し,これらのソフトウェアプログラムのロードを関連するプロセッサシステムに対して開始する検知システム(4,30)を備えている薬液管理装置である。
3 引用発明の意義(1)刊行物1(特開平10-171644号公報。発明の名称「電子制御装置」,出願人 株式会社デンソー,公開日 平成10年6月26日。甲1)には,次の記載がある。
ア 特許請求の範囲「【請求項1】 電気的にデータの書き換えが可能な不揮発性メモリを有し,通常時には,前記不揮発性メモリに格納されたデータにより構成される制御プログラム及び制御データに従って所定の制御対象を制御するための制御処理を実行し,予め定められた書き換え条件が成立した場合には,外部から送信されて来る書込データを受信して前記不揮発性メモリに更新して書き込むための書込処理を実行するマイクロコンピュータを,複数備えると共に,前記各マイクロコンピュータが1つの通信ラインを共用して外部との間でデータ通信を行うように構成された電子制御装置であって,前記複数のマイクロコンピュータのうちの何れか1つが前記書込処理を実行している時に,他のマイクロコンピュータの前記通信ラインへのデータ送信を禁止する通信動作調整手段を設けたこと,を特徴とする電子制御装置。」イ 発明の詳細な説明(ア) 発明の属する技術分野「本発明は,所定の制御対象を制御するための制御処理を実行するマイクロコンピュータを複数備えた電子制御装置に関し,特に,各マイクロコンピュータに内蔵された制御プログラムや制御データを書き換え可能な電子制御装置に関する。」(段落【0001】)(イ) 発明が解決しようとする課題・「…電子制御装置に搭載された各マイクロコンピュータが,1つの通信ラインを共用して,メモリ書込装置などの外部装置とデータ通信を行うように構成すれば,データ通信用のハードウェアの増加を抑制することが可能であるが,ただ単に上記の如く構成したのでは,以下の問題が生じる。」(段落【0007】)・「即ち,何れか1つのマイクロコンピュータに対して不揮発性メモリ内のデータ書き換えを行っている最中に,他のマイクロコンピュータが通信ラインへデータを送信すると,データ書き換えのための書込処理を行っているマイクロコンピュータの受信データが,他のマイクロコンピュータからの送信データによって破壊されてしまい,この結果,データの書き換え対象であるマイクロコンピュータの不揮発性メモリに誤ったデータが書き込まれてしまうのである。」(段落【0008】)・「本発明は,このような問題に鑑みなされたものであり,複数備えられた各マイクロコンピュータ内の制御プログラムや制御データを,簡単な構成で且つ確実に書き換えることができる電子制御装置を提供することを目的としている。」(段落【0009】)(ウ) 課題を解決するための手段,及び発明の効果・「上記目的を達成するためになされた本発明の電子制御装置は,電気的にデータの書き換えが可能な不揮発性メモリを有するマイクロコンピュータを,複数備えていると共に,その各マイクロコンピュータが1つの通信ラインを共用して外部との間でデータ通信を行うように構成されている。」(段落【0010】)・「そして,各マイクロコンピュータは,通常時には,前記不揮発性メモリに格納されたデータにより構成される制御プログラム及び制御データに従って,所定の制御対象を制御するための制御処理を実行し,これによって,当該電子制御装置の制御動作が行われる。」(段落【0011】)・「また,各マイクロコンピュータは,予め定められた書き換え条件が成立すると,外部から送信されて来る書込データを受信して前記不揮発性メモリに更新して書き込むための書込処理を実行する。よって,各マイクロコンピュータ毎に書き換え条件を成立させて,外部から当該電子制御装置に前記通信ラインを介して新たな制御プログラムや制御データを構成する書込データを送信してやることで,各マイクロコンピュータ毎に,不揮発性メモリ内のデータを書き換えることができる。」(段落【0012】)・「ここで特に,本発明の電子制御装置には,通信動作調整手段が設けられており,この通信動作調整手段は,前記複数のマイクロコンピュータのうちの何れか1つが前記書込処理を実行している時に,他のマイクロコンピュータの前記通信ラインへのデータ送信を禁止する。」(段落【0013】)・「このため,何れか1つのマイクロコンピュータがデータ書き換えのための書込処理を実行している時に,他のマイクロコンピュータが通信ラインへデータを送信することが禁止され,この結果,データの書き換え対象であるマイクロコンピュータの受信データが他のマイクロコンピュータの送信データによって破壊されてしまうことが確実に防止される。」 (段落【0014】)(エ) 発明の実施の形態a「[第1実施形態]まず図1は,自動車に搭載されて内燃機関型エンジン及び自動変速機の制御を行う電子制御装置(以下,ECUという)2と,ECU2に内蔵されたエンジン制御用及び自動変速機制御用の制御プログラムや制御データを書き換える際にECU2に接続されるメモリ書込装置4とからなる,第1実施形態の電子制御装置のメモリ書換システムの全体構成を表すブロック図である。」(段落【0036】)b・「図1に示すように,ECU2は,エンジンの回転状態に応じたパルス信号やオン/オフ信号を出力する種々のセンサ8からの信号を入力して波形整形する波形整形回路10と,エンジンの吸入空気量やスロットル開度などに応じたアナログ信号を出力する種々のアナログセンサ12からの信号を入力してノイズ除去を行う入力回路14と,入力回路14からのアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するA/D変換器(ADC)16と,波形整形回路10及びA/D変換器16からの信号に基づきエンジンに対する燃料噴射量や点火時期などの制御量を演算し,その演算結果に基づき制御信号を出力するエンジン制御用のシングルチップマイクロコンピュータ(以下,メインマイコン或いは単にマイコンという)18と,メインマイコン18からの制御信号を受けて,エンジンに取付けられたインジェクタやイグナイタなどのアクチュエータ22aを駆動する出力回路20aとを備えている。」(段落【0037】)・「そして更に,ECU2は,メインマイコン18との間でDMA(Direct Memory Access)通信ライン24を介してスロットル開度やトルク制御信号といった制御情報の授受を行うと共に,自動変速機の変速タイミングなどを演算して制御信号を出力する自動変速機制御用のシングルチップマイクロコンピュータ(以下,サブマイコン或いは単にマイコンという)26と,サブマイコン26からの制御信号を受けて,自動変速機に取付けられた変速用リニアソレノイドなどのアクチュエータ22bを駆動する出力回路20bとを備えている。」(段落【0038】)c・「また,ECU2は,メインマイコン18とサブマイコン26の夫々が外部装置との間でシリアルデータ通信を行うための通信回路28を備えており,この通信回路28は,外部装置に図示しないコネクタを介して接続されるシリアル通信ライン30と,当該ECU2内にて両マイコン18,26に共通して接続されたシリアル通信ライン32との間に設けられている。尚,シリアル通信ライン32は,通信回路28から両マイコン18,26に至る経路の途中で,通信回路28とメインマイコン18を結ぶシリアル通信ライン32aと,通信回路28とサブマイコン26を結ぶシリアル通信ライン32bとに分岐している。」(段落【0039】)・「そして,通信回路28は,外部装置からシリアル通信ライン30を介して送信されて来るシリアルデータを,シリアル通信ライン32を介して両マイコン18,26に送り,両マイコン18,26からシリアル通信ライン32を介して受けたシリアルデータを,シリアル通信ライン30を介して外部装置に送信するように構成されている。」(段落【0040】)d・「次に,ECU2に搭載されたメインマイコン18とサブマイコン26の内部構成について,図2を用いて説明する。尚,本実施形態において,両マイコン18,26は,同一規格(同一品種)のものである。図2に示すように,両マイコン18,26の各々は,プログラムに従い動作する周知のCPU40と,CPU40を動作させるのに必要なプログラム及びデータを格納する不揮発性のフラッシュメモリ42及びマスクROM44と,CPU40の演算結果などを一時記憶するためのRAM46と,信号の入出力を行うためのI/O(図示省略)とを備えている。」(段落【0042】)・「ここで,フラッシュメモリ42は,所定の書込電圧(本実施形態では7.5V)VPPが印加された状態でデータの書き換え(詳しくは,データの消去及び書き込み)が可能な不揮発性ROMである。そして,メインマイコン18では,このフラッシュメモリ42に,エンジン制御用の制御プログラム及び制御データが既に格納されており,サブマイコン26では,このフラッシュメモリ42に,自動変速機制御用の制御プログラム及び制御データが既に格納されている。」(段落【0043】)・「また,本第1実施形態において,フラッシュメモリ42には,上記制御プログラム及び制御データと共に,メインマイコン18とサブマイコン26とを識別可能な識別コードが格納されている。
尚,この識別コードは,制御プログラム及び制御データの一部として,その先頭に配置されている。そして,本第1実施形態では,メインマイコン18の識別コードは「0001」であり,サブマイコン26の識別コードは「0010」である。」(段落【0044】)e・「また,図1に示すように,メインマイコン18とサブマイコン26には,電源回路34から共通の電源ライン38を介して,フラッシュメモリ42内のデータを書き換える際に必要な上記書込電圧VPPが供給されるようになっている。そして,図2に示すように,両マイコン18,26の内部において,上記電源ライン38から書込電圧VPPを受けるための電気的経路にも,その経路をCPU40からの指令に応じて連通又は遮断するスイッチ素子SW3が設けられている。尚,上記スイッチ素子SW1〜SW3の初期状態は全て連通状態である。」(段落【0047】)・「そして更に,電源回路34は,後述するようにメモリ書込装置4から択一的に出力される書込許可信号K1,K2を2本の信号線36a,36bを介して入力すると共に,その書込許可信号K1,K2のうちの何れか一方が入力され,且つ,イグニッションスイッチIGSのオンに伴い上記動作電圧VOMが出力されている間,バッテリ電圧VB 或いはIG電圧VIGから前述した書込電圧VPPを生成して,その書込電圧VPPを電源ライン38(延いては,両マイコン18,26)に出力する書込電圧作成部54を備えている。」(段落【0050】)f・「一方,メモリ書込装置4は,CPU,ROM,RAMなどを備えた周知のマイクロコンピュータを主要部として構成されており,図示しないコネクタを介してECU2に外部装置として接続される。そして,この接続時において,メモリ書込装置4は,図1に示すように,ECU2のシリアル通信ライン30と,電源回路34(書込電圧作成部54)から伸びた2本の信号線36a,36bとに接続される。」(段落【0057】)・「また,特に図示はされていないが,メモリ書込装置4は,当該装置を作動させるための起動スイッチや,メインマイコン18とサブマイコン26のうちの何れのフラッシュメモリ42に格納されたデータ(制御プログラム及び制御データ)を書き換えるかを選択するための選択スイッチに加えて,更に,その書き換えるべきデータであってECU2へ送信する書込データ(新たな制御プログラム及び制御データを構成するデータ)を格納したROMやフロッピーディスクなどの記憶媒体と,様々なメッセージを表示するための表示部とを備えている。」(段落【0058】)・「そして,上記記憶媒体に格納されている書込データの先頭には,その書込データが書き込まれるべきマイコン(メインマイコン18とサブマイコン26のうちの何れか)の識別コードが配置されている。次に,本第1実施形態のメモリ書換システムにおいて,メモリ書込装置4で実行される処理と,ECU2の両マイコン18,26で実行される処理について,図4,5のフローチャートを用いて説明する。尚,図4は,メモリ書込装置4で実行される処理を表すフローチャートである。また,図5は,両マイコン18,26の各々で実行される処理を表すフローチャートであり,そのステップ(以下,単に「S」と記す)200〜S260の処理が,マスクROM44内のブートプログラムによって実行され,S270の処理が,フラッシュメモリ42内の制御プログラムによって実行される。」(段落【0059】)g・「まず,メモリ書込装置4では,作業者によりECU2に接続された後に前述した起動スイッチがオンされると,内部に備えたマイクロコンピュータが図4に示す処理の実行を開始する。尚,メインマイコン18のフラッシュメモリ42に格納されたデータを書き換える場合には,予め,前記選択スイッチによりメインマイコン18がデータの書き換え対象として選択されていると共に,前記記憶媒体には,メインマイコン18のフラッシュメモリ42に書き込むべき書込データが格納されているものとする。また同様に,サブマイコン26のフラッシュメモリ42に格納されたデータを書き換える場合には,予め,前記選択スイッチによりサブマイコン26がデータの書き換え対象として選択されていると共に,前記記憶媒体には,サブマイコン26のフラッシュメモリ42に書き込むべき書込データが格納されているものとする。」(段落【0060】)・「図4に示すように,メモリ書込装置4側で処理の実行が開始されると,最初のS100にて,前記選択スイッチによりメインマイコン18がデータの書き換え対象として選択されている場合には,信号線36aにハイアクティブの書込許可信号K1を出力し,また,サブマイコン26がデータの書き換え対象として選択されている場合には,信号線36bにハイアクティブの書込許可信号K2を出力する。尚,このようにメモリ書込装置4からECU2へ書込許可信号K1,K2の何れか一方が出力されることにより,ECU2側の電源回路34(書込電圧作成部54)は,両マイコン18,26へ書込電圧VPPを供給可能な状態となる。」(段落【0061】)・「そして,続くS110にて,前記記憶媒体に格納されている書込データを読み出して,その書込データをECU2へシリアル通信ライン30を介して送信する。尚,この送信動作により,ECU2へは,まず,前述の如く書込データの先頭に配置された識別コードが送信され,次いで,エンジンや自動変速機を制御するための制御プログラムや制御データを構成するデータが送信される。すると,後述するように,上記S110で送信された書込データは,ECU2側の両マイコン18,26のうち,データの書き換え対象である方のフラッシュメモリ42に更新して書き込まれ,その後,ECU2側からその書き込まれたデータが読み出されて返送されて来るため,続くS120にて,ECU2からのデータを受信し,更に続くS130にて,前記記憶媒体に格納されている書込データと,上記S120で受信したECU2からのデータとをベリファイ(比較)する。」(段落【0062】)・「そして,続くS140にて,上記S130のベリファイ結果を判定し,前記記憶媒体に格納されている書込データとECU2からのデータとが一致していたならば,データの書き換え対象であるマイコンのフラッシュメモリ42に,上記S110で送信した書込データが正しく書き込まれたと判断して,S150に進む。そして,このS150にて,上記S110で信号線36a,36bの何れかに出力していた書込許可信号K1,K2をロウレベルに戻し,その後,当該処理を終了する。」(段落【0063】)・「一方,上記S140にて,前記記憶媒体に格納されている書込データとECU2からのデータとが一致していないと判定した場合には,S160に移行して,データの書き込みに失敗したことを示す警告メッセージを前述の表示部に表示し,その後,当該処理を終了する。」(段落【0064】)h・「次に,ECU2側では,イグニッションスイッチIGSがオンされると,両マイコン18,26の各々が,前述した電源回路34のリセット制御部58の働きによりリセット状態から動作を開始して,図5に示す処理を実行する。即ち,両マイコン18,26の各CPU40は,最初に,マスクROM44に格納されたブートプログラムの実行を開始し,まずS200にて,電源回路34から電源ライン38を介して書込電圧VPPが供給されているか否かを判定する。」(段落【0065】)・「ここで,イグニッションスイッチIGSがオンされた時点で,当該ECU2にメモリ書込装置4が接続されており,しかも,前述した図4におけるS100の処理によりメモリ書込装置4から書込許可信号K1,K2の何れかが出力されていれば,電源回路34の書込電圧作成部54から電源ライン38を介して両マイコン18,26に書込電圧VPPが供給されるため,上記S200にて肯定判定される(書込電圧VPPが供給されていると判定される)。」(段落【0066】)・「そこで,S200で肯定判定された場合には,次のS210に進んで,前述した図4におけるS110の処理によりメモリ書込装置4からシリアル通信ライン30を介して送信されて来る識別コードを受信し,続くS220にて,その受信した識別コードと,フラッシュメモリ42に格納されている自分の識別コードとが一致しているか否かを判定する。」(段落【0067】)・「そして,上記S220にて,両識別コードが一致していると判定した場合には,通常動作モードではない書換モードであると判断して,次のS230に進む。そして,このS230にて,前述したようにメモリ書込装置4から上記識別コードに続いて送信されて来る書込データ(制御プログラムや制御データを構成するデータ)を受信し,その受信したデータをS210で受信した識別コードを先頭にして,フラッシュメモリ42内に更新して書き込む。そして更に,続くS240にて,上記S230でフラッシュメモリ42に書き込んだ全てのデータを読み出して,メモリ書込装置4へ送信する。」(段落【0068】)・「すると,このS240でメモリ書込装置4へ送信されるデータは,前述したように,メモリ書込装置4側にて,前記記憶媒体に格納されている書込データと比較され,両データが一致していれば,ECU2側でのデータ書き込みが無事終了したと判断されて,当該ECU2へ出力されていた書込許可信号K1,K2がロウレベルに戻る。そして,これに伴い,当該ECU2側では,電源回路34の書込電圧作成部54が書込電圧VPPの供給を停止する。」(段落【0069】)・「そこで,続くS250にて,電源回路34からの書込電圧VPPの供給が停止されるまで待機し,書込電圧VPPの供給が停止したと判定すると,フラッシュメモリ42にメモリ書込装置4からの書込データを正しく書き込むことができたと判断して,次のS260に進む。」(段落【0070】)・「そして,このS260にて,フラッシュメモリ42内の制御プログラムへジャンプする。これにより,上記S230の処理でフラッシュメモリ42に書き込まれた制御プログラムが起動され,その後は,図5のS270に示すように,メインマイコン18の場合であれば,エンジンを制御するための制御処理が実行され,また,サブマイコン26の場合であれば,自動変速機を制御するための制御処理が実行される。」(段落【0071】)・「一方,上記S200にて,書込電圧VPPが供給されていないと判定した場合には,通常動作モードであると判断して,上記S210〜S250の処理を実行することなくS260に進む。つまり,メモリ書込装置4から当該ECU2へ書込許可信号K1,K2が出力されていない通常時には,フラッシュメモリ42に既に書き込まれている制御プログラムが起動されて,メインマイコン18ではエンジンの制御処理が実行され,サブマイコン26では自動変速機の制御処理が実行される。」(段落【0072】)・「また特に,上記S200にて書込電圧VPPが供給されていると判定しても,上記S220にて,メモリ書込装置4からの識別コードと,フラッシュメモリ42に格納されている自分の識別コードとが一致してないと判定した場合には,データの書き換え対象であるマイコンが自分ではない(換言すれば,自分以外のマイコンがデータの書き換え対象である)と判断して,S280に移行する。」(段落【0073】)・「そして,このS280にて,図2に示した3つのスイッチ素子SW1〜SW3を全て遮断状態(オフ状態)にし,その後S210へ戻る。つまり,この場合には,シリアル通信ライン32及び電源ライン38との電気的接続を自ら遮断して,何の処理も行わないアイドル状態に入るのである。」(段落【0074】)i・「このような本第1実施形態のメモリ書換システムにおいて,例えば,ECU2のメインマイコン18に内蔵された制御プログラム及び制御データを書き換える場合には,作業者は,まず,メモリ書込装置4の記憶媒体に,識別コードとしてメインマイコン18に対応する「0001」を含んだ書込データを格納しておく。そして,メモリ書込装置4をECU2に接続して,メモリ書込装置4の選択スイッチにより,メインマイコン18をデータの書き換え対象として選択し,その後,メモリ書込装置4の起動スイッチをオンし,更に車両のイグニッションスイッチIGSをオンしてECU2を初期状態から作動させる。」(段落【0075】)・「すると,メモリ書込装置4からECU2へ信号線36aを介して書込許可信号K1が出力されるため(S100),イグニッションスイッチIGSのオンに伴い,ECU2側では,電源回路34から両マイコン18,26へ電源ライン38を介して書込電圧VPPが供給される。」(段落【0076】)・「そして,メモリ書込装置4からECU2へ,上記記憶媒体に格納された書込データが送信され(S110),ECU2側では,両マイコン18,26の各々が,メモリ書込装置4からの書込データの先頭に配置された識別コードを,シリアル通信ライン30,通信回路28,及びシリアル通信ライン32を介して受信して(S200:YES,S210),その受信した識別コードと自分のフラッシュメモリ42に格納されている識別コードとを比較する(S220)。」(段落【0077】)・「すると,サブマイコン26においては,両識別コードが不一致となり(S220:NO),この結果,スイッチ素子SW1〜SW3が全て遮断状態となって,サブマイコン26とシリアル通信ライン32及び電源ライン38との電気的接続が遮断される(S280)。」(段落【0078】)・「これに対して,メインマイコン18においては,両識別コードが一致するため(S220:YES),このメインマイコン18だけが,メモリ書込装置4からの書込データを全て受信して,その受信したデータを先に受信した識別コードと共にフラッシュメモリ42に更新して書き込むこととなる(S230)。」(段落【0079】)・「その後は,メインマイコン18からメモリ書込装置4へ,シリアル通信ライン32,通信回路28,及びシリアル通信ライン30を介して,フラッシュメモリ42に書き込まれたデータが送信され(S240),メモリ書込装置4において,記憶媒体に格納されたマスターの書込データとメインマイコン18からのデータとがベリファイされる(S130)。そして,そのベリファイの結果が良好ならば(S140:YES),メモリ書込装置4から出力されていた書込許可信号K1がロウレベルに戻り(S150),これに伴い,ECU2側では,電源回路34から両マイコン18,26への書込電圧VPPの供給が停止する。」(段落【0080】)・「そして,この状態で,メインマイコン18に対する制御プログラム及び制御データの書き換えが終了する。尚,サブマイコン26に内蔵された制御プログラム及び制御データを書き換える場合には,メモリ書込装置4の記憶媒体に,識別コードとしてサブマイコン26に対応する「0010」を含んだ書込データを格納しておくと共に,メモリ書込装置4の選択スイッチにより,サブマイコン26をデータの書き換え対象として選択すれば良い。」(段落【0081】)・「また,本第1実施形態では,図5におけるS220の処理が判定手段に相当し,図5におけるS280の処理が送信禁止手段に相当している。そして,両マイコン18,26にて,上記S220及びS280の処理が夫々実行されることで,通信動作調整手段としての機能が実現されている。また,本第1実施形態では,フラッシュメモリ42が識別情報記憶手段として用いられている。」(段落【0082】)・「以上詳述したように,本第1実施形態のECU2では,電気的にデータの書き換えが可能なフラッシュメモリ42を有するメインマイコン18とサブマイコン26とが,1つのシリアル通信ライン30,32を共用してメモリ書込装置4との間でシリアルデータ通信を行うように構成されている。」(段落【0083】)・「そして,両マイコン18,26の各々は,イグニッションスイッチIGSがオンされてリセット状態から動作を開始した時に,電源回路34から書込電圧VPPが供給されおり,且つ,メモリ書込装置4から送信されて来る識別コードと自分の識別コードとが一致していれば,メモリ書込装置4からの書込データを受信してフラッシュメモリ42に更新して書き込む,といった書込処理(S230)を実行するのであるが,特に,両マイコン18,26の各々は,メモリ書込装置4からの識別コードと自分の識別コードとが一致していない場合に,自分以外のマイコンがデータ書き換えのための書込処理を実行していると判断して,内部に設けられたスイッチ素子SW1,SW2を遮断状態にし,これにより,自己のシリアル通信ライン32への通信を強制的に禁止するようにしている。」(段落【0084】)・「このため,両マイコン18,26のうちの何れか一方がデータ書き換えのための書込処理を実行している時に,他方のマイコンがシリアル通信ライン32へデータを送信することが禁止され,この結果,データの書き換え対象であるマイコンの受信データが他のマイコンの送信データによって破壊されてしまうことが確実に防止される。」(段落【0085】)・「従って,本第1実施形態のECU2によれば,2つのマイコン18,26が1つのシリアル通信ライン30,32を共用しているという簡単な構成であるにも拘らず,各マイコン18,26のフラッシュメモリ42に格納された制御プログラムや制御データを確実に書き換えることができる。また,本第1実施形態によれば,特別なハードウェアを設けることなく,上記効果を得ることができる。」(段落【0086】)・「そして更に,本第1実施形態のECU2によれば,当該ECU2にシリアル通信ライン30を介して送信してやる識別コードにより,データの書き換え対象であるマイコンを指定して,そのマイコンのフラッシュメモリ42に格納された制御プログラムや制御データを確実に書き換えることができるため,当該ECU2に搭載すべきマイコンの数が3つ以上に増加したとしても,特別な回路を追加することなく容易に対応することが可能である。」(段落【0087】)(2)上記(1)の記載によれば,刊行物1(甲1)に第1実施形態として記載されている発明(引用発明)は,審決が認定する(11頁下11行〜12頁13行)とおり,次のようなものであると認められる。
「アクチュエータ22a及びアクチュエータ22bと,ECU2とを備え,前記ECU2は,エンジン制御用の制御プログラム等を有するメインマイコン18及び自動変速機制御用の制御プログラム等を有するサブマイコン26と,上記メインマイコン18とサブマイコン26とを接続する通信回路手段と,上記通信回路手段に接続され,上記メインマイコン18とサブマイコン26とにそれぞれ属する上記制御プログラム等の書き換えを行うメモリ書込装置4と,上記メインマイコン18と上記サブマイコン26に接続され,イグニッションスイッチIGSがオンされ,かつ,書込電圧VPPを供給しない状態においてメインマイコン18とサブマイコン26を通常動作モードに,イグニッションスイッチIGSがオンされ,かつ,書込電圧VPPを供給する状態においてメインマイコン18とサブマイコン26を非通常動作モードに切り替える書込電圧作成部54と,上記書込電圧作成部54及び上記通信回路手段に同じく接続され,非通常動作モードにおいて,既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し,既存の制御プログラム等のメインマイコン18または既存の制御プログラム等のサブマイコン26に対して新たな制御プログラム等の書き込みを開始する書込開始手段を備えている自動車。」(3)この点について,原告は,引用発明の「メモリ書込装置4」は,「選択スイッチ」を備え,制御プログラム等を書き換えるマイコンを選択するものであることから,引用発明は,「メモリ書込装置4の選択スイッチによって選択された既存のメインマイコン18のみの制御プログラム等または既存のサブマイコン26のみの制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し,既存の制御プログラム等のメインマイコン18または既存の制御プログラム等のサブマイコン26に対して新たな制御プログラム等の書き込みを開始する書込開始手段」を備えているものである,と主張する。
上記(1)の記載によれば,刊行物1の第1実施形態においては,メモリ書込装置4に「選択スイッチ」があり,作業者は,メインマイコン18をデータの書き換え対象とするか,サブマイコン26をデータの書き換え対象とするかを選択するものである。しかし,「選択スイッチ」によっていずれをデータの書き換え対象とした場合であっても,書込電圧VPPは,メインマイコン18とサブマイコン26の双方に供給され,書込データの先頭に配置された識別コードとフラッシュメモリ42に格納されている識別コードとを比較することによって,メインマイコン18とサブマイコン26のいずれの書き換えデータであるかが判別されて,書換えが行われるのであるから,「既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し,既存の制御プログラム等のメインマイコン18または既存の制御プログラム等のサブマイコン26に対して新たな制御プログラム等の書き込みを開始するもの」ということができるのであって,審決の引用発明の認定に誤りがあるということはできない。
また,原告は,引用発明の「識別コード」について,マイコンのデータ送信を強制的に禁止するために「識別コード」を用いているものであり,識別コード(識別データ)によりデータを書き込むマイコンを選択するものではなく,この識別コードには何れのマイコンに書込データが書き込まれなければならないかを決定するという技術的意義は全く存しない,と主張するが,上記のとおり,引用発明においては,書込データの先頭に配置された識別コードとフラッシュメモリ42に格納されている識別コードとを比較することによって,メインマイコン18とサブマイコン26のいずれの書き換えデータであるかが判別されるものである。上記の両識別コードが不一致となる場合に,「スイッチ素子SW1〜SW3が全て遮断状態となって,サブマイコン26とシリアル通信ライン32及び電源ライン38との電気的接続が遮断される」(刊行物1[甲1]段落【0078】)ことにより,「何れか1つのマイクロコンピュータがデータ書き換えのための書込処理を実行している時に,他のマイクロコンピュータが通信ラインへデータを送信することが禁止され,この結果,データの書き換え対象であるマイクロコンピュータの受信データが他のマイクロコンピュータの送信データによって破壊されてしまうことが確実に防止される」(刊行物1[甲1]段落【0014】)こととなるのであるが,その前段階において,上記の両識別コードを比較してメインマイコン18とサブマイコン26のいずれの書き換えデータであるかが判別されているのであるから,上記の両識別コードが不一致となる場合にマイコンのデータ送信を強制的に禁止しているからといって,識別コードには何れのマイコンに書込データが書き込まれなければならないかを決定するという技術的意義がないということはできず,原告の上記主張を採用することはできない。
さらに,原告は,刊行物1の第2実施形態においては,書込電圧VPPがメインマイコン18とサブマイコン26とに別個に供給され,しかも,識別コードを有していないとも主張するが,上記(2)のとおり,引用発明は,刊行物1の第1実施形態であるから,第2実施形態が原告主張のようなものであることは,引用発明の上記認定を左右するものではない。
(4)審決は,引用発明を認定するに当たって,「選択スイッチ」について認定していないが,審決は,引用発明が,上記のとおり「既存のメインマイコン18の制御プログラム等または既存のサブマイコン26の制御プログラム等がメモリ書込装置4によって新たな制御プログラム等に書き換えなければならないかを記憶データに基づき決定し,既存の制御プログラム等のメインマイコン18または既存の制御プログラム等のサブマイコン26に対して新たな制御プログラム等の書き込みを開始するもの」という構成を有していることに着目して,その旨を認定をし,本願補正発明と対比しているのであって,その前段階に存する「選択スイッチ」についても認定しなければならないという理由はないから,審決がその点を引用発明として認定しなかったとしても,そのことをもって引用発明の認定に誤りがあるということはできない。
4取消事由1(本件補正が特許請求の範囲減縮等を目的とするものではないと判断したことの誤り)について(1)本件補正は,検知システム(4,30)について,「上記ソフトウェアプログラムの既存のバージョン及び上記既存のプロセッサシステム(3)の一方または両方を記憶データに基づき考慮しながら,どのソフトウェアプログラムがどのプロセッサシステム(3)のために上記データ入力装置(1)によってロードされなければならないかを決定し,これらのソフトウェアプログラムのロードを関連するプロセッサシステムに対して開始する」(補正前)ものから,「上記既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムが上記データ入力装置(1)によって最新のバージョンに更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始する」(補正後)ものとするものである。
したがって,本件補正前においては,検知システムにおける,ロードされるソフトウェアプログラムの決定について,「記憶データに基づき」決定されるとの限定があったのに対し,本件補正後においては「記憶データに基づき」決定されないものも含まれているから,本件補正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものということはできない。また,本件補正が,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
(2)この点について,原告は,検知システムがシステム(装置)としてロードされるソフトウェアプログラムを決定するものである以上,何らかのデータに基づいて決定動作を実行するものであり,何らのデータも記憶されずに当該決定を実行することはシステム(装置)としてあり得ない,と主張する。しかし,被告が主張するように,例えば,当該装置にアナログのカウンターを設け,検知システムが当該カウンターに基づいて更新の決定を行う態様も想定できるところ,このようなアナログのカウンターを読み取って更新を決定するものについて「記憶データに基づき」ということは困難であり,さらに,ロードされるソフトウェアプログラムの決定は必ず「記憶データに基づき」なされるとする技術常識があるとまで認めることもできないから,原告の主張を採用することはできない。
なお,【請求項1】に「記憶データに基づき」との文言が付加されたのは,平成18年4月7日付けの第1次補正(甲9)によってであるが,その際,原告は,特許庁に提出した平成18年4月7日付けの意見書(甲8)において,「『記憶データに基づく』点を限定したものであります。」との…意見を述べている(2頁4行〜5行)。
(3)このように本件補正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものではなく,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないから,平成14年法律第24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項に違反する旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
(4) 以上のとおり,取消事由1は理由がない。
5取消事由2(本願補正発明と引用発明との一致点・相違点認定の誤り)について(1)上記4で述べたことからすると,特許庁が審決において本件補正を却下したことは,次の取消事由2及び3の当否について判断するまでもなく,違法でないということになるが,審決の経緯に鑑み,念のため取消事由2及び3についても判断する。
(2)前記3のとおり,審決の引用発明の認定に誤りがあるということはできないから,本願補正発明と引用発明とは,審決が認定する(13頁20行〜14頁16行)とおり,次の一致点と相違点があることになる。
[一致点]本願補正発明と引用発明とは,「c)それぞれ関連するソフトウェアプログラムを有する少なくとも二つのプロセッサシステムと,d)上記プロセッサシステムを接続するデータ転送システムと,e)上記データ転送システムに接続され,上記プロセッサシステムにそれぞれ属する上記ソフトウェアプログラムの更新を行うデータ入力装置と,f)上記少なくとも二つのプロセッサシステムに接続され,第一状態において上記プロセッサシステムを動作モードに,第二状態において上記プロセッサシステムをソフトウェア更新モードに切り替える動作モードスイッチと,g)上記動作モードスイッチ及び上記データ転送システムに同じく接続され,ソフトウェア更新モードにおいて,上記既存のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムが上記データ入力装置によって更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステムに対してソフトウェアプログラムのロードを開始する更新手段を備えている装置。」である点で一致する。
[相違点1]本願補正発明は,「a)流体治療装置及び流体源の一方または両方と,b)患者と上記流体治療装置及び流体源の一方または両方との間で流体を輸送するための流体路」と,制御装置を備えている薬液管理装置であるのに対し,引用発明は,「アクチュエータ22a及びアクチュエータ22b」と,制御装置を備えている自動車である点。
[相違点2]制御装置の更新手段について,本願補正発明は,「上記既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムが上記データ入力装置(1)によって最新のバージョンに更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して最新のバージョンのソフトウェアプログラムのロードを開始する検知システム(4,30)」であるのに対し,引用発明は「上記既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムが上記データ入力装置(1)によって新たなソフトウェアプログラムに更新しなければならないかを記憶データに基づき決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステム(3)に対して新たなソフトウェアプログラムのロードを開始する書込開始手段」である点。
(3) 以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
6 取消事由3(本願補正発明の進歩性判断の誤り)について(1) 審決が引用する以下の各公報等によれば,次の事実が認められる。
ア特開平10-57475号公報(発明の名称「制御装置」,出願人ガムプロアクチーボラグ,公開日 平成10年3月3日。甲2)には,監視マイクロプロセッサ44及び制御マイクロプロセッサ50を備えた血液透析用制御装置が開示されている。
特開平6-315530号公報(発明の名称「血液の体外処理方法および装置」,出願人 A,公開日 平成6年11月15日。甲3)には,コントロールコンピュータ102及びモニタコンピュータ104を備えた血液の体外処理装置が開示されている。
以上の各公報の記載に弁論の全趣旨を総合すると,流体治療装置及び流体源の一方または両方と,患者と上記流体治療装置及び流体源の一方または両方との間で流体を輸送するための流体路と,少なくとも二つのプロセッサシステムを有する薬液管理装置は,本件特許出願の優先日(平成11年11月9日)当時,よく知られていた(周知であった)ものと認められる。
イ特開平6-314190号公報(発明の名称「電子装置」,出願人ソニー株式会社,公開日 平成6年11月8日。甲4)には,プログラムの更新(バージョンアップ)を行う電子装置が開示されているが,コマンダ18の操作によって書き換えを行うものである(段落【0012】参照)。
特開平6-219021号公報(発明の名称「画像形成装置」,出願人株式会社リコー,公開日 平成6年8月9日。甲5)には,プログラムの書き換え(バージョンアップ)を行う画像形成装置が開示されている。同装置においては,ホストコンピュータ4からのダウンロード・プログラム・データの転送指示,もしくは操作パネル3の操作あるいはディスク装置5,あるいはメモリカードからのダウンロード・プログラム・データの転送指示によって,CPU10は,予め用意されたダウンロード・プログラム・データの転送を行い,バージョン番号が,新しい場合(新規の場合)のみ不揮発性の記録媒体(ROM)に対して書き換え動作を行うものである(段落【0013】〜【0015】)。
以上の各公報の記載に弁論の全趣旨を総合すると,プロセッサシステムを有する制御装置において,プログラムのバージョンアップを行うことは,本件特許出願の優先日(平成11年11月9日)当時,よく知られていた(周知であった)ものと認められる。
(2) 相違点1につき引用発明は,「アクチュエータ22a及びアクチュエータ22b」と,制御装置を備えている自動車であるのに対し,本願補正発明は,「a)流体治療装置及び流体源の一方または両方と,b)患者と上記流体治療装置及び流体源の一方または両方との間で流体を輸送するための流体路」と,制御装置を備えている薬液管理装置であるが,上記(1)のとおり,流体治療装置及び流体源の一方または両方と,患者と上記流体治療装置及び流体源の一方または両方との間で流体を輸送するための流体路と,少なくとも二つのプロセッサシステムを有する薬液管理装置は,本件特許出願の優先日(平成11年11月9日)当時,よく知られていたものと認められる上,ソフトウェアプログラムの更新という点では,自動車であるか,薬液管理装置であるかで格別異なる点があるとも認められないから,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,相違点1に係る構成を容易に想到することができたというべきである。
この点について,原告は,薬液管理装置においては患者を危険にさらすことなく治療が行われるように構成することが要求されている旨の主張をするが,ソフトウェアプログラムの更新を始めとする装置のメンテナンスが確実に行われなければならないことは,薬液管理装置に限らないソフトウェアプログラムを用いる装置に共通する一般的な課題であって,上記のとおり自動車であるか薬液管理装置であるかで格別異なる点があるとは認められない。
(3) 相違点2につき前記5で述べたとおり,「既存のプロセッサシステムのソフトウェアプログラムが上記データ入力装置によって更新しなければならないかを決定し,旧ソフトウェアプログラムのプロセッサシステムに対してソフトウェアプログラムのロードを開始する更新手段」は,引用発明(甲1)に開示されているところであり,このことに,上記(1)のとおり,プロセッサシステムを有する制御装置において,プログラムのバージョンアップを行うことは,本件特許出願の優先日(平成11年11月9日)当時,よく知られていたことを総合すると,当業者は,相違点2に係る構成を容易に想到することができたというべきである。
この点について,原告は,一般に,ソフトウェアプログラムのバージョンを更新する場合,ユーザが更新するか否かを決定するのが通常であり,引用発明においても,選択スイッチによって制御プログラムを更新するマイコンを選択することを必須としていると主張する。
しかし,引用発明は,前記3で認定したようなものであって,「選択スイッチ」は存在するものの,「既存のプロセッサシステム(3)のソフトウェアプログラムがデータ入力装置(1)によって新たなソフトウェアプログラムに更新しなければならないかを記憶データに基づき決定している」のであるから,引用発明を原告が主張するようなものと認めることはできない。
また,原告は,本願補正発明では,何れのプロセッサシステムも最新のバージョンのソフトウェアプログラムに統一されることとなるとも主張するが,このような効果は,本願補正発明の構成により必然的に生ずる効果であって,格別顕著なものということはできないから,このような効果があるからといって,本願補正発明について進歩性を認めることができるものではない。
複数のプロセッサシステムを有する さらに,原告は,本願補正発明は,「薬液管理装置のソフトウェアプログラムの更新を,熟練の技術者のみがこれを行える立場にあるのではなく,平易な方法でかつ都合のよい価格で行える装置を提供することである。」を目的とするものであり(本願補正明細書[ソフトウェアプログラムのバージョン更 甲13]段落【0012】),単に薬液管理装置の 平易 新を課題とするものではなく,バージョン更新をいかにな方法でかつ都合のよい価格で行えるかを課題とするものであるとも主張す本願補正発明の構成により必然的に実現 るが,原告が主張する上記目的も,されるものであるから,このような目的が実現できるからといって,本願補正発明について進歩性を認めることができるものではない。
(4)以上のとおり,本願補正発明の進歩性判断に誤りがあるということはできないから,取消事由3は理由がない。
7取消事由4(本願発明の進歩性判断の誤り)(1)原告は,審決は,引用発明が選択スイッチを備えているという相違点を看過したものであると主張し,その主張に基づき,審決の本願発明(本件補正前の発明,平成18年4月7日第1次補正後のもの,甲9)と引用発明との一致点・相違点の認定に誤りがあり,さらに,審決の本願発明についての進歩性判断にも誤りがあると主張する。
しかし,前記3のとおり,引用発明の認定に誤りがあるとの原告の主張を採用することはできない。したがって,本願発明と引用発明との一致点・相違点の認定に誤りがあるということはできず,また,前記6で述べたと同様の理由により,審決の本願発明についての進歩性判断に誤りがあるということもできない。
(2) 以上のとおり,取消事由4は理由がない。
8結論以上によれば,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海