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関連審決 異議2002-71899
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 82号 特許取消決定取消請求事件
原告 シャープ株式会社
同訴訟代理人弁理士 原謙三
同 木島隆一
同 金子一郎
被告 特許庁長官小川 洋
同指定代理人 瀧本 十良三
同 平井良憲
同 大野克人
同 立川功
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が、異議2002−71899号事件について、平成16年1月16日にした異議の決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
1 争いのない事実 (1) 手続の経緯 原告は、平成7年11月9日に出願(特願平7-290729号)され、
発明の名称を「液晶表示素子の製造方法」とする特許第3253505号(平成13年11月22日設定登録、以下「本件特許」という。)の特許権者である。
その後、訴外Aから、本件特許の請求項1に係る特許に対し、特許異議の申立てがなされた。
特許庁は、上記申立てを異議2002-71899号事件として審理した上、平成16年1月16日、「特許第3253505号の請求項1に係る特許を取り消す。」との異議の決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年2月6日、原告に送達された。
(2) 本件特許発明の要旨 本件特許の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の要旨は、
本件決定に記載された、以下のとおりである。
【請求項1】一対の電極基板を、シール材料及びスペーサーを介して貼り合わせ、該電極基板間を排気して減圧することにより、大気圧によってプレスしてセルギャップを制御する液晶表示素子の製造方法において、前記シール材料として熱硬化型の材料を用いるとともに、前記排気を段階的に行うと同時に加熱を行い、該シール材料の硬化温度に到達する前に、前記電極基板間の圧力が最終目標値に到達していることを特徴とする液晶表示素子の製造方法
(3) 本件決定の概要 本件決定は、本件発明が、「特許査定時の明細書及び図面(注、本訴甲7)の記載から見て、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであると認める。これに対して、平成15年10月15日付けで取消理由を通知(注、本訴甲5、以下「本件取消通知」という。)し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。」とした。
そして、本件取消通知は、別紙取消理由通知書写し記載のとおり、本件発明が、その出願前日本国内又は外国において頒布された、特開平1-257824号公報(甲3、「刊行物1」という。)及び特開平7-64101号公報(甲2、
「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
2 原告主張の本件決定の取消事由の要点 本件決定の具体的内容を記載する本件取消通知は、本件発明と引用発明1との相違点(1)の判断を誤った(取消事由)ものであるから、本件決定は、違法として取り消されるべきである。
(1) 本件発明と引用発明1との相違点(1)が、本件取消通知(甲5)認定のとおり、「前者(注、本件発明)では、電極基板間の排気を段階的に行うのと同時にシール材料の加熱を行い、シール材料の硬化温度に到達する前に、前記電極基板間の圧力が最終目標値に到達しているのに対し、後者(注、引用発明1)では、排気による減圧を維持した状態でシール材料の加熱を行い、シール材料の転移温度に到達する前においても、減圧開始時点と同じ圧力で継続している点」(1頁)であることは認め、上記相違点の検討において、「上記刊行物2には、図2及び段落0011などの記載を参照すれば、前者と同様の液晶表示装置の製造方法において、
シール材の加熱および加圧を同時に行い、加熱により温度がシール材の硬化温度に達する以前に、シール材への加圧圧力を段階的に下げ、最終的なシール硬化圧力に到達している点が記載されており」(1〜2頁)と認定したことも争わない。
しかしながら、本件取消通知が、上記判断に続いて、「このような技術を上記刊行物1に記載の発明の基板間の圧力設定に適用することは、それらの技術分野の共通性からみて当業者にとって格別困難なことではない。」(2頁)と判断したことは、以下のとおり、誤りである。
(2) 引用発明2を、引用発明1の「基板間の圧力設定」に適用することについては、何らの動機付けも存在しない。
すなわち、引用発明1では、2枚の基板を対向させ、これら基板に挟まれた空間(基板間隙)の排気を行うことによって、基板間の気圧を減じ、この減圧によって生じる基板外界の大気圧との相対的な気圧差により、上記2枚の基板に互いに接近する方向の圧力(プレス圧力)をかけるものである(甲3、2頁左上欄1〜4行、同頁左下欄6〜9行、同欄16行〜右下欄7行)。この減圧プレス法によると、2枚の基板に挟まれた空間(基板間隙)の気圧を減圧して低圧にするほど、基板外界の大気圧との気圧差が増大していくので、プレス圧力及び「シール材への加圧圧力」も増大する。
これに対して、引用発明2では、減圧プレス法のように気圧差を利用するのではなく、2枚の基板(液晶セル2)の外部から、エアー圧の付与によって動作するプレス部材(上ホットプレス1、下ホットプレス3)が機械的に押圧することによって、プレス圧力及び「シール材への加圧圧力」をかけるものである(甲2、
図1及び段落【0010】)。この機械的プレス法によれば、プレス部材に付与するエアー圧を減圧するほど、プレス部材による機械的な押圧力が減少していくので、プレス圧力及び「シール材への加圧圧力」も減少する(甲2、図1〜3及び段落【0010】〜【0011】、【0014】〜【0015】)。
このように引用発明1は、基板間隙の気圧を減圧するものであり、また、
引用発明2は、プレス部材のエアー圧を減圧するものであるから、引用発明1と引用発明2とは、いずれも、「減圧」という共通構成を有しているように見えるが、
引用発明2においては「シール材への加圧圧力」は、基板外部からのプレス部材による機械的押圧力であるのに対し、引用発明1においては、内部気圧である基板間隙内の気圧であるから、両者は全く物理的事象を異にしている。すなわち、両者における減圧プロファイルと「シール材への加圧圧力」との相関は逆であり、基板間隙の気圧とプレス部材のエアー圧とでは、減圧に伴う「シール材への加圧圧力」の変化は、全く正反対のものとなる。
したがって、引用発明2における「シール材への加圧圧力」を変化させるための減圧プロファイルを、引用発明1における「基板間隙内の気圧」(基板間の圧力設定)を変化させるために適用することは、そもそも、当業者にとって動機付けがなく、想到が困難である。
3 被告の反論の要点 本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は、理由がない。
(1) 原告が主張するように、引用発明1が基板間隙の気圧を減圧するものであり、引用発明2がプレス部材のエアー圧を減圧するものであることは認める。
引用発明2は、シール材の加圧・加熱を行う際に、セルの加圧圧力を途中で下げている点で、本件発明とは一見相違するが、これは加圧を段階的に行うことが液晶表示素子の製造方法において従来周知である(乙1〜4参照。ただし、本訴においては、当該周知事項の当否の判断を求めるものではない。)ことの例示として示されたものであって、仮に、上記の点から、引用発明2の適用が困難であるとしても、周知技術の適用を困難ということはできないから、本件決定は、その結論において誤りのないものである。
(2) なお、原告は、本件取消通知を受け取り、期間を指定して意見を述べる機会を得たにもかかわらず、何ら応答しなかったものであり、手続上、当該取消理由を妥当なものと認めたと解する以外にないものであるから、本件決定に違法性はない。
当裁判所の判断
1 取消事由(本件発明と引用発明1との相違点(1)の判断誤り)について (1) 本件発明と引用発明1との相違点(1)が、本件取消通知の認定のとおり、「前者(注、本件発明)では、電極基板間の排気を段階的に行うのと同時にシール材料の加熱を行い、シール材料の硬化温度に到達する前に、前記電極基板間の圧力が最終目標値に到達しているのに対し、後者(注、引用発明1)では、排気による減圧を維持した状態でシール材料の加熱を行い、シール材料の転移温度に到達する前においても、減圧開始時点と同じ圧力で継続している点」(1頁)」であること、引用発明1が基板間隙の気圧を減圧するものであり、引用発明2がプレス部材のエアー圧を減圧するものであることは、いずれも当事者間に争いがない。
原告は、本件取消通知が、上記相違点の判断において、「このような技術を上記刊行物1に記載の発明の基板間の圧力設定に適用することは、それらの技術分野の共通性からみて当業者にとって格別困難なことではない。」(2頁)と判断したことについて、引用発明2を引用発明1の「基板間の圧力設定」に適用することの動機付けが存在しないから、誤りであると主張するので、以下検討する。
(2) 刊行物1(甲3)には、「<従来の技術>2枚の対向するガラス基板を貼り合せる際、その押圧方法として機械的なプレス方式が用いられているが、この方式では、圧力分布が生じ易く、均一な間隙保持が困難であり・・・」(1頁右下欄)、「<課題を解決するための手段>・・・本発明は液晶パネル外界の気圧が、
パネル間隙内の気圧より、相対的に高くなるように圧力差を生じさせて、対向する2枚の基板に押圧力を働かせている。・・・上述した方法で押圧し、その状態を保ったまま、感光性樹脂のガラス転移点あるいはその近傍まで加熱することにより、
パネル間隙の保持及び2枚のガラス基板を固着する。」(1頁右下欄〜2頁左上欄)、「<実施例>・・・D・・・ガラス基板(1)、(2)を、位置合せをして対向させ・・・パネル圧着装置にセットし、パネル間隙内を減圧する。E減圧状態を維持し、パネル圧着装置をオーブン中で、ポジ型フォトレジストのガラス転移点あるいはその近傍まで加熱する。F一定時間加熱後、室温まで徐冷する。以上の操作により、均一なパネル間隙を有する液晶パネルが作成できる。」(2頁右上欄〜同頁左下欄)、「<発明の効果>・・・第1に、均一な押圧力が印加されるために、高精度でのパネル間隙保持が要求される液晶パネル・・・の製造に適している。・・・従来のプレス装置等に比べて、比較的簡単な装置でパネルの作成が可能となる。」(同頁右下欄〜3頁左上欄)と記載されている。
これらの記載によれば、引用発明1は、機械的なプレス方式によると圧力分布が生じやすいという技術課題を解決するため、2枚の基板を対向させ、これら基板に挟まれた空間(基板間隙)の排気を行うことによって、基板間の気圧を減じ、この減圧で生じる基板外界の大気圧との相対的な気圧差によって、上記2枚の基板に互いに接近する方向の圧力(プレス圧力)をかけるようにするもの(減圧プレス法)であり、減圧状態を維持したまま、すなわち、一定の圧力がかかった状態において、感光性樹脂を、ガラス転移点あるいはその近傍まで加熱するようにしたものと認められる。
これに対し、刊行物2(甲2)には、【0006】「2枚の電極基板を、
液晶を封入するための熱硬化性樹脂を用いたシール材を挟んで対向させ重ね合わせた後、そのシール材を加熱および加圧し硬化させて液晶セルを形成する液晶表示装置の製造方法において、シール材の加熱および加圧は、加熱により温度がシール材の硬化温度に達する以前の所定温度において加圧圧力を所定の高圧から所定の低圧へと連続的または段階的に変化させて行うことを特徴とする。」、【0007】「前記所定の温度、高圧、および低圧の値は通常、前記シール材が前記所定の高圧によりつぶれて所定のセルギャップとなり、さらに前記所定の低圧によりシール材の存在しない液晶セルの内側部分のセルギャップも前記所定のセルギャップとなるように決定される。」、【0009】「【作用】この構成において、加熱によりシール材の温度が上昇し、シール材がつぶれて所定のセルギャップとなるのに適した所定の温度条件に達すると、高圧力の加圧によりシール材がつぶれて所定のセルギャップとなる。そしてこれに対応して、加圧圧力は段階的にあるいは徐々に低圧とされ、シール材のない液晶セルの内側部分においてセルギャップがそれ以上小さくなるのが防止され、液晶セル全体に渡って均一な所定のセルギャップが維持される。そしてこの均一なセルギャップの状態で、シール材が硬化する温度に達し、硬化が行われる。したがって、シール材が硬化する温度に達するまで加圧圧力が一定である従来のホットプレスによる加熱・加圧の場合のように加圧圧力が不足してシール材をつぶすことができなかったり、逆に加圧圧力が大きすぎて液晶セルの内側部分のセルギャップが小さくなったりすることがなく、適正なセルギャップが確保される。また、接着剤ビーズを用いる場合でも、これらをつぶし過ぎて液晶セル内側部分のセルギャップが小さくなり過ぎる以前に、所定のセルギャップにするために適した圧力まで加圧圧力が下げられ硬化が行われるため、液晶セルの周辺部分と内側部分の全体にわたってセルギャップが均一に保持される。」、【0010】「【実施例】図1は本発明の一実施例に係る方法を行う様子を示す側面図である。
同図において、2はスクリーン印刷または凸板フレキソ印刷によってシール材を形成した電極基板を対向させ重ね合わせた液晶セル、1および3は所定のセルギャップとするために加熱・加圧するための上ホットプレスおよび下ホットプレスである。」と記載されている。
これらの記載によれば、引用発明2は、シール材が硬化する温度に達するまで加圧圧力を一定に保つようにした従来のホットプレス法では、加圧圧力が不足してシール材をつぶすことができなかったり、逆に加圧圧力が大きすぎて液晶セルの内側部分のセルギャップが小さくなったりして、適正なセルギャップが確保されないことを技術課題として、これを改善するため、2枚の基板(液晶セル2)の外部から、エアー圧の付与によって動作するプレス部材(上ホットプレス1、下ホットプレス3)により機械的に押圧して、プレス圧力すなわち「シール材への加圧圧力」をかける際に、加熱により温度がシール材の硬化温度に達する以前の所定温度において、加圧圧力を所定の高圧から所定の低圧へと連続的又は段階的に変化させるようにしたものと認められる。
上記認定によれば、引用発明1と引用発明2とは、そもそも、気圧差を利用した減圧プレス法であるか、プレス部材を用いた機械的プレス法であるかの点で相違するものである(この点は、当事者間に争いがない。)。しかも、引用発明1は、2枚の対向するガラス基板を貼り合せる際に、機械的プレス方式では、圧力分布が生じやすく、均一な間隙保持が困難であるため、機械的プレス方式に代わる減圧プレス法を採用したものであるのに対し、引用発明2は、シール材が硬化する温度に達するまで加圧圧力を一定とした機械的プレス方式では、加圧圧力が不足してシール材をつぶすことができなかったり、逆に加圧圧力が大きすぎて液晶セルの内側部分のセルギャップが小さくなったりするため、機械的プレス方式そのものは変更することなく、加熱により温度がシール材の硬化温度に達する以前の所定温度において加圧圧力を所定の高圧から所定の低圧へと連続的又は段階的に変化させるという、加熱、加圧のプロファイリングを変更させたものである。したがって、両者は、本質的に技術思想を異にしていると認められる。
すなわち、引用発明1及び引用発明2は、均一な間隙(セルギャップ)を保持することを目的とするものであり、技術的課題は共通しているといえるが、前示のとおり、引用発明1は、機械的プレス方式に代わる減圧プレス法を採用するようにすることにより上記課題を解決するものであるのに対し、引用発明2は、機械的プレス方式そのものは変更することなく、加熱、加圧のプロファイリングを変更することで上記課題を解決するようにしたものであり、両者は、課題解決のための技術思想を全く異にしている。
そうすると、引用発明1の「基板間の圧力設定」について、引用発明2の技術を結びつける動機付けは見当たらないというべきであり、本件取消通知が、引用発明2の技術を引用発明1に適用することは、それらの技術分野の共通性からみて当業者にとって格別困難なことではないと判断した(2頁)ことは、誤りといわなければならない。したがって、原告主張の取消事由には理由がある。
(3) 被告は、引用発明2は、加圧を段階的に行うことが液晶表示素子の製造方法において従来周知である(乙1〜4参照)ことの例示として示されたものであって、仮に、引用発明2の適用が困難であるとしても、周知技術の適用を困難ということはできないから、本件決定は、その結論において誤りがないと主張する。
そこで検討するに、本件発明と引用発明1とは、いずれも減圧プレス法を採用しており、本件取消通知は、その相違点(1)として、前示のとおり、本件発明では、電極基板間の排気を段階的に行うのと同時にシール材料の加熱を行い、シール材料の硬化温度に到達する前に、前記電極基板間の圧力が最終目標値に到達しているのに対し、引用発明1では、排気による減圧を維持した状態でシール材料の加熱を行い、シール材料の転移温度に到達する前においても、減圧開始時点と同じ圧力で継続している点を認定したものである。すなわち、本件取消通知は、本件発明の有する、電極基板間の排気を段階的に行うことにより、圧力差を利用して基板間を加圧し均一な密着性を徐々に高めようとするための構成を相違点と認定し、これを前提として、刊行物2を引用し、上記構成を採用することに困難性がないと判断するものである。
しかるに、引用発明2は、前示のとおり、機械的プレス方式において、基板外側からの加圧圧力を高圧から低圧へと連続的又は段階的に変化させるものであり、本件発明の有する上記構成が開示されていないことは明らかであるから、仮に、引用発明1に引用発明2の当該構成を適用したとしても、本件発明に到達することはあり得ず、この点においても、本件取消通知の判断は、誤りといわなければならない。被告は、引用発明2が、加圧を段階的に行うことが液晶表示素子の製造方法において周知であることの例示であると主張するが、本件取消通知が、加圧を段階的に行うことを周知事項として認定したものではないこと、また、その例示として刊行物2を引用したものでもないことは、文理上、歴然としている。しかも、
引用発明2のように高圧から低圧へと連続的に変化させる構成によって、本件発明のように段階的に排気することにより徐々に加圧していく構成を容易に想到できるものでないことは、極めて自明のことである。このように引用発明2が前記相違点を開示していないにもかかわらず、取消訴訟において、加圧を段階的に行うという周知事項を持ち出して、引用発明2もその例示にすぎないと強弁することは、当該周知事項の内容を検討するまでもなく、到底許されることではない(被告も、本訴において周知事項の当否の判断を求めるものではない。)。
(4) なお、被告は、原告が、本件取消通知を受け取り、期間を指定して意見を述べる機会を得たにもかかわらず、何ら応答しなかったものであり、手続上、当該取消理由を妥当なものと認めたと解する以外にないから、本件決定に違法性はないと主張するところ、原告が本件取消通知に何ら応答しなかった事実は認められる(弁論の全趣旨)ものの、審判手続中の取消理由通知に応答していないからといって、当該取消決定の取消訴訟を提起してその違法性を主張立証することが妨げられるものではなく、当該取消決定の適法性は、あくまでもその客観的内容に即して判断されるべきものであるから、この主張が採用できないことも明らかである。
2 結論 以上のとおり、本件決定の具体的内容を記載する本件取消通知は、本件発明と引用発明1との相違点に関する判断を誤ったものであり、この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は、取消しを免れない。
よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 上田卓哉