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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ7635損害賠償請求事件 判例 特許
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平成18 21405損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  債務不履行 /  利害関係人 /  実施 /  差止請求(差止) /  損害額 /  逸失利益 /  実施権 /  専用実施権 /  変更 /  利害関係人 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 33405号 損害賠償請求事件
群馬県藤岡市〈以下略〉
原告株式 会 社スター
訴訟代理人弁護 士橋爪健東京都目黒区〈以下略〉
被告株式 会 社ヒラネ
訴訟代理人弁護 士加藤義明
同 角田邦洋
同 松永章吾
訴訟代理人弁理 士矢野敏雄
補佐人弁理士星公弘
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/10/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,6646万4900円及びこれに対する平成20年10月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が,被告が原告と被告間の訴訟上の和解で合意された和解条項において製造,販売等の禁止された製品(自動車外装板金工具であるプーラーカセット本体)を販売したことにより,原告が製造する類似製品の販売の機会を奪われ,その逸失利益相当の損害を被った旨主張して,被告に対し,訴訟上の和解の債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因(1) 当事者ア原告は,自動車,船舶,航空機の整備用機械器具の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,電気溶接機械の製造販売,自動車整備用機械,器具,計器類の製造販売等を目的とする株式会社である。
(2) 訴訟上の和解ア原告は,平成12年5月19日,被告に対し,専用実施権に基づき,被告が製造,販売する自動車外装板金工具(商品名「ハンディプーラー」)の製造,輸入,販売等の差止め及び損害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所平成12年(ワ)第10175号)を提起し,これに対し被告は,原告に対し,損害賠償等を求める反訴(東京地方裁判所平成13年(ワ)第10296号)を提起した(以下,この訴訟を「別件訴訟」という。)。
イ原告と被告は,平成14年5月7日,利害関係人2名とともに,別件訴訟において訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をした。
本件和解の和解条項には,?@「被告は,原告に対し,和解調書添付第1ないし第11物件目録記載の物件(以下「被告物件A」という。)を製造,輸入,販売又は販売の申出をしない。」(1項),?A「被告は,原告に対し,平成14年7月末日限り,被告物件Aを廃棄する。」(2項)との条項があった。
(3) 被告の債務不履行ア(ア)被告は,本件和解成立後,現在に至るまで,被告物件A(上部レバーと下部レバーとの間にコイルばねが使用されたプーラーカセット本体)に属するプーラーカセット本体(以下,このプーラーカセット本体を単に「被告物件A」ということがある。)を少なくとも合計529台販売した。
(イ) 被告による上記販売の事実は,次の諸点から明らかである。
a被告は,遅くとも平成19年10月1日から平成20年10月1日までの間,自社のホームページに被告物件Aを掲載し,その販売又は販売の申出をした。
b原告は,被告が本件和解後も被告物件Aを販売していることを取引業者や被告のホームページで確認し,株式会社エヒメマシン(以下「エヒメマシン」という。)及びフジックス株式会社(以下「フジックス」という。)に対し,被告から被告物件Aを取り寄せることを依頼した。
?@エヒメマシンは,原告から被告物件Aの取り寄せの依頼を受けて,ヤマト自動車株式会社(以下「ヤマト自動車」という。)に対し,被告物件Aを発注した。
被告は,平成19年9月21日,ヤマト自動車に対し,被告物件A1台を販売した。
ヤマト自動車は,同日ころ,エヒメマシンに対し,被告物件A1台を販売した。
その後,原告は,同月22日,エヒメマシンから,被告物件A1台(検甲1の1又は検甲3の1)を購入した。
?Aフジックスは,原告から被告物件Aの取り寄せの依頼を受けて,被告に対し,被告物件Aを発注した。
被告は,平成20年7月31日,フジックスに対し,被告物件A1台を販売した。
その後,原告は,同年8月11日,フジックスから,被告物件A1台(検甲1の1又は検甲3の1)を購入した。
イ前記アの被告による被告物件Aの販売は,本件和解成立後に製造した被告物件A又は本件和解により廃棄すべきこととされた被告物件Aの販売に当たり,本件和解の和解条項1項,2項に違反するから,被告は債務不履行責任を負うというべきである。
(4) 原告の損害原告が製造,販売するプーラーカセット本体(商品名「ミラクルプーラー?U」あるいは「イージープーラー」。以下「原告製品」という。)と操作,機能,効果が類似する製品は,被告物件A以外にないところ,原告は,被告が前記(3)のとおり本件和解の和解条項に違反して被告物件Aを販売したことにより,原告製品529台を販売する機会を奪われた。
そして,原告製品529台分の代金合計額は1億4730万6930円であるところ,1台当たりの原告の利益率は45.12%を下回ることはないから,被告の本件和解の債務不履行により原告が被った損害額(逸失利益)は,合計6646万4900円(1億4730万6930円×45.12%)を下回ることはない。
(5) まとめよって,原告は,被告に対し,本件和解の債務不履行に基づく損害賠償として6646万4900円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成20年10月17日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否及び被告の主張(1) 請求原因に対する認否ア 請求原因(1)及び(2)の事実は認める。
イ 同(3)アの事実は否認し,イは争う。
ウ 同(4)は争う。
(2) 被告の主張ア本件和解の和解条項3項には,「原告及び利害関係人Cは,和解調書添付の平成14年2月22日付け「ハンディープーラー・設計変更」と題する書面記載のとおりの物件(以下「被告物件B」という。)が和解調書添付の特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」という。)の技術的範囲に属しないことを認め,同物件を製造,輸入,販売又は販売の申出をすることについて,本件特許権又は専用実施権に基づいて異議を述べないことを確約する。」との条項があった。
被告物件Bは,被告物件Aを設計変更したプーラーカセット本体であり,被告物件Aと被告物件Bとは,被告物件Aでは上部レバーと下部レバーとの間にコイルばねが使用されているのに対し,被告物件Bでは上部レバーと下部レバーとの間にゴム材(ゴムクッション)が使用されている点で異なる。
原告は,和解条項3項のとおり,被告物件Bが本件特許権(特許第2876402号)の技術的範囲に属しないことを認め,被告が被告物件Bを製造,販売することに異議を述べないことを確約している。
イ被告が本件和解後にホームページに掲載した商品「ハンディプーラー」(プーラーカセット本体)は,被告物件Bに属するもののみであり,被告物件Aに該当するものはない。
ウ(ア)被告が,本件和解成立後,平成21年2月28日までの間に,被告物件Bに属するプーラーカセット本体392台を販売した事実はあるが,本件和解成立後に,被告物件Aを販売した事実はない。
(イ)原告が被告がヤマト自動車及びフジックスに対し販売したと主張するプーラーカセット本体(請求原因(3)ア(イ)b)も,被告物件B(検乙1の1,2)であって,被告物件Aではない。同様に,原告がエヒメマシン及びフジックスから購入したと主張するプーラーカセット本体も,被告物件Bであって,被告物件Aではない。
また,仮に原告がエヒメマシン及びフジックスから購入したと主張するプーラーカセット本体が被告物件Aであったとしても,それらは,被告が本件和解成立前にヤマト自動車及びフジックスに対し販売した被告物件Aであった可能性を否定できるものではなく,被告が本件和解成立後にヤマト自動車及びフジックスに対し被告物件Aを販売したことを裏付けることにはならない。
すなわち,被告は,ヤマト自動車に対し,本件和解成立前の平成12年に1台,平成14年に1台の被告物件Aを販売しており,原告がヤマト自動車を介してエヒメマシンから購入したものが,これらの被告物件Aのいずれかであった可能性を否定できない。同様に,被告は,フジックス(旧商号・「不二塗料株式会社」)に対し,本件和解成立前の平成13年11月5日に被告物件Aを1台販売したほか,平成12年に8台,平成13年に2台の被告物件Aを販売しており,原告がフジックスから購入したものが,これらの被告物件Aのいずれかであった可能性を否定できない。
3 被告の主張に対する認否被告の主張アの事実は認め,イ及びウは争う。
当裁判所の判断
1 前提事実請求原因(1)及び(2)の事実,被告の主張アの事実は,当事者間に争いがない。
2 被告の本件和解の債務不履行の成否原告は,被告が,本件和解成立後に,被告物件Aを少なくとも合計529台販売した旨(請求原因(3)ア)主張するので,以下において判断する。
(1) ヤマト自動車に対する被告物件Aの販売について原告は,エヒメマシンが原告から被告物件Aの取り寄せの依頼を受けて,ヤマト自動車に対し被告物件Aの発注をした後,被告は,平成19年9月21日,ヤマト自動車に対し,被告物件A(プーラーカセット本体)を販売し,次いで,原告は,同月22日,ヤマト自動車から被告物件Aを仕入れたエヒメマシンから,これを購入した旨(請求原因(3)ア(イ)b?@)主張し,これに対し被告は,被告がヤマト自動車に販売したプーラーカセット本体は,被告物件Aではなく,被告物件Bである旨主張する。
ア(ア)証拠(甲9の1,2,乙5の2)及び弁論の全趣旨によれば,?@被告は,平成19年9月21日,ヤマト自動車(ロジスティスセンター)に対し,「ハンディプーラー本体」1台及び「ハンディプーラー50φ」1台を販売し,納品したこと,?A「ハンディプーラー」は,被告製品の商品名であり,「ハンディプーラー本体」はプーラーカセット本体,「ハンディプーラー50φ」はその丸型支持台であることが認められる。
(イ)証拠(甲14の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,エヒメマシンは,平成19年9月22日,原告に対し,「ハンディプーラースタットタイプ(カセット丸50φ付)」1台を代金3万8400円(消費税別)で販売し,納品したことが認められる。
(ウ)原告提出の検甲1の1及び検甲3の1は,上部レバーと下部レバーとの間にコイルばねが使用されており,いずれも被告物件Aに属するプーラーカセット本体であることが認められる。そして,原告は,検甲1の1及び検甲3の1のいずれか一方は,原告がエヒメマシンから購入した前記(イ)のプーラーカセット本体である旨主張している。
(エ)エヒメマシン作成の平成21年4月14日付け原告あての書面(甲16)には,「私は,株式会社スターC1会長より,株式会社ヒラネの商品ハンデイプーラースタットタイプを取寄せて欲しいとの要請により,2007年9月に問屋のヤマト自動車株式会社から仕入れ,株式会社スターにお送り致しました。」,「また,株式会社スターC1会長より要請を受けた際,製品本体のスプリングの有無を確認され,スプリングが有る事を確認して株式会社スターにお送り致しました。」との記載がある。
(オ)弁論の全趣旨によれば,被告が販売する「ハンディプーラー本体」は,店頭で大量に市販されていたものではなく,取扱業者を通じて取り寄せなければ入手が困難な製品であったことが認められる。
イ前記ア(ア)ないし(オ)の認定事実及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告が平成19年9月21日にヤマト自動車に対し販売した「ハンディプーラー本体」(プーラーカセット本体)1台は,被告物件Aに属する検甲1の1及び検甲3の1のいずれか一方であること,すなわち,原告がエヒメマシンに対し被告物件Aを取り寄せることを依頼し,その依頼を受けたエヒメマシンから発注を受けたヤマト自動車が被告物件Aを被告に発注し,これに基づいて被告が平成19年9月21日にヤマト自動車に対し検甲1の1及び検甲3の1のいずれか一方を販売し,これをヤマト自動車から仕入れたエヒメマシンが原告に同月22日に販売し,原告がこれを所持するに至ったことを推認することができる。
もっとも,他方で,?@被告提出の検乙1の1,2は,上部レバーと下部レバーとの間にゴムクッションが使用されており,被告物件Bに属するものであることが認められるところ,被告は,検乙1の1,2は,ヤマト自動車に販売した前記ア(ア)のプーラーカセット本体と同種の製品であると主張していること,?A証拠(乙10の1,2,11の1,2,12の1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成14年6月14日,有限会社セアラコーポレーション(以下「セアラ」という。)から,被告物件Bに使用するゴムクッションの金型(ME-1022)1台及び材料のスプリングゴム500個を購入していることが認められること,?B被告が開設するホームページには,「ハンディプーラー」の見出しの下に,ハンディプーラー本体及び支持台を組み合わせた写真3枚が掲載されていたが(甲3,4),いずれの写真からも上部レバーと下部レバーとの間に使用されている部材の材質は判明しないこと(なお,乙4によれば,被告は,本件訴訟の係属中の平成21年4月5日までに,上記写真の説明として「ゴムクッション使用」と明記するようになったことが認められる。),?C前記ア(エ)のエヒメマシン作成の原告あての書面(甲16)は,その内容が被告の反対尋問の機会にさらされていない上(原告は,その作成者の人証の取調べの申請をしない。),同書面中には「製品本体のスプリングの有無を確認され,スプリングが有る事を確認して株式会社スターにお送り致しました。」との記載があるものの,誰がいつどのようにして確認したのか具体的状況を説明するものではないため,同書面の記載内容の信用性については慎重に評価すべきものであることなどの事情もある。
しかし,前記ア(ア)及び(イ)の認定のとおり,エヒメマシンの原告に対する「ハンディプーラー本体」の販売の日は平成19年9月22日,被告のヤマト自動車に対する「ハンディプーラー本体」の販売の日は,その前日の21日であることからすれば,エヒメマシンが原告に販売した「ハンディプーラー本体」は,ヤマト自動車が被告から購入した「ハンディプーラー本体」であるとみるのが自然である。加えて,被告が販売する「ハンディプーラー本体」は,店頭で大量に市販されていたものではなく,取扱業者を通じて取り寄せなければ入手が困難な製品であったこと(前記ア(オ))及び原告が被告物件Aに属する検甲1の1及び検甲3の1を所持し,これらを証拠として提出していること(前記ア(ウ))に照らすならば,上記?@ないし?Cの事情を勘案しても,上記推認を妨げるものではない。
ウこれに対し被告は,ヤマト自動車に対し,本件和解成立前の平成12年に1台,平成14年に1台の被告物件Aを販売しており,原告がヤマト自動車を介してエヒメマシンから購入したものが,これらの被告物件Aのいずれかであった可能性を否定できないから,原告がエヒメマシンから購入した「ハンディプーラー本体」が被告物件Aであるからといって被告が本件和解成立後に被告物件Aを販売したことを裏付けることにならない旨主張する。
しかし,前記イ認定のとおり,被告のヤマト自動車に対する「ハンディプーラー本体」の販売の日は,エヒメマシンの原告に対する「ハンディプーラー本体」の販売の日の前日(平成19年9月21日)であることからすれば,エヒメマシンがヤマト自動車から仕入れて原告に販売した「ハンディプーラー本体」は,ヤマト自動車が被告から購入した上記「ハンディプーラー本体」であるとみるのが自然であるのみならず,ヤマト自動車が平成12年又は平成14年に被告から購入した被告物件Aに属する「ハンディプーラー本体」(プーラーカセット本体)を約5年あるいは7年もの後の平成19年9月まで在庫として保管していたことをうかがわせる証拠はない。
かえって,?@原告が,別件訴訟で証拠として提出した被告物件Aに属する「ハンディプーラー本体」(検甲2の1)は,下部レバーにネジ孔様の孔はなく,その表面が平滑であること,?A本件和解の和解調書添付の平成14年2月22日付け「ハンディープーラー・設計変更」と題する書面(甲2)には,被告物件Bの「構造説明」として,「?D上部レバーと下部レバーの間には,「ゴム材」(F)を介在させている。・・・ゴム材と下部レバーとは,固定ネジによって固定されている。」,「?E下部レバーとゴム材を固定する固定ネジの下端は,下部レバーを貫通している。」との記載があり,「図1-1」には,下部レバーとゴム材が固定ネジにより固定され,固定ネジの下端が下部レバーに開けられたネジ孔を貫通している構成が示されていること,?B検甲1の1及び検甲3の1と被告物件Bに属する検乙の1,2においては,いずれも下部レバーに上記?Aの書面に示されたネジ孔様の孔が開けられている点で,このようなネジ孔様の孔がない検甲2の1のものと異なることからすれば,検甲1の1及び検甲3の1は,別件訴訟で本件和解が成立した後に製造されたものであることがうかがわれる。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(2) フジックスに対する被告物件Aの販売について原告は,フジックスが原告から被告物件Aの取り寄せの依頼を受けて,被告に対し被告物件Aの発注をし,被告は,平成20年7月31日,フジックスに対し,被告物件A(プーラーカセット本体)を販売し,次いで,原告は,同年8月11日,フジックスから,被告物件Aを購入した旨(請求原因(3)ア(イ)b?A)主張し,これに対し被告は,被告がフジックスに販売したプーラーカセット本体は,被告物件Aではなく,被告物件Bである旨主張する。
ア(ア)証拠(甲10の2,乙5の2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成20年7月22日,フジックスに対し,「ハンディプーラー用カセット丸型50φ」1台を代金9600円(消費税別)で販売し,納品したこと,被告は,同月31日,フジックスに対し,「ハンディプーラー(スタット用)本体」1台を代金1万9200円(消費税別)で販売し,納品したことが認められる。
前記(1)ア(ア)のとおり,「ハンディプーラー」は,被告製品の商品名であり,「ハンディプーラー本体」はプーラーカセット本体,「ハンディプーラー用カセット」はその支持台である。
(イ)証拠(甲15の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,フジックスは,平成20年8月11日,原告に対し,「ハンディプーラー(スタット用)本体」1台及び「ハンディプーラー用カセット丸型50φ」1台を代金3万0315円(消費税別)で販売し,納品したことが認められる。
(ウ)原告は,被告物件Aに属する検甲1の1及び検甲3の1のいずれか一方は,原告がフジックスから購入した前記(イ)のプーラーカセット本体である旨主張している。
(エ)フジックス営業部のD作成の原告あての書面(甲17の2)には,「2008年7月に?潟Xターの要請により?潟qラネのハンデイプーラーを仕入れ?潟Xターに送りました。」,「最初?潟qラネに注文した時,注文間違によりプーラの足(ハンデイプーラー用カセット)の部分だけしか送られて来なかったので,もう一度ハンデイプーラー本体を注文しました。」,「本体が送られて来た時に今度は製品の間違いないか良く確認しました。その時?潟Xターに前もって言われていた本体のスプリングについても確認した事を覚えています。」,「スターに送った商品は,その時?潟qラネから送られて来た商品に間違いはありません。」との記載がある。
イ前記ア(ア)ないし(エ)の認定事実及び前記(1)ア(オ)の認定事実と弁論の全趣旨を総合すれば,被告が平成20年8月11日にフジックスに対し販売した「ハンディプーラー本体」(プーラーカセット本体)1台は,被告物件Aに属する検甲1の1及び検甲3の1のいずれか一方であること,すなわち,原告がフジックスに対し被告物件Aを取り寄せることを依頼し,その依頼を受けたフジックスが被告物件Aを被告に発注し,これに基づいて被告が平成20年7月31日にフジックスに販売し,これをフジックスが原告に同年8月11日に販売し,原告がこれを所持するに至ったことを推認することができる。
もっとも,他方で,?@被告は,被告がフジックスに販売したプーラーカセット本体は,被告物件Bに属する検乙1の1,2と同種の製品であると主張していること,?A被告は,平成14年6月14日,セアラから,被告物件Bに使用するゴムクッションの金型(ME-1022)1台及び材料のスプリングゴム500個を購入していること(前記(1)イ?A),?B前記(1)イ?Bのとおり,被告が開設するホームページ(甲3,4)には,「ハンディプーラー」の見出しの下に,ハンディプーラー本体及び支持台を組み合わせた写真3枚が掲載されていたが,いずれの写真からも上部レバーと下部レバーとの間に使用されている部材の材質は判明しないこと(なお,被告は,本件訴訟の係属中の平成21年4月5日までに,上記写真の説明として「ゴムクッション使用」と明記するようになったこと),?Cフジックス営業部のD作成の原告あての書面(甲17の2)は,その内容が被告の反対尋問の機会にさらされていない上(原告は,その作成者の人証の取調べの申請をしない。),同書面中には「本体が送られて来た時に今度は製品の間違いないか良く確認しました。その時?潟Xターに前もって言われていた本体のスプリングについても確認した事を覚えています。」との記載があるものの,誰がいつどのようにして確認したのか具体的状況を説明するものではないため,同書面の内容の信用性については慎重に評価すべきものであることなどの事情もある。
しかし,前記ア(ア)及び(イ)の認定のとおり,フジックスの原告に対する「ハンディプーラー本体」の販売の日は平成20年8月11日,被告のフジックスに対する「ハンディプーラー本体」の販売の日は,その11日前の同年7月31日であることからすれば,フジックスが原告に販売した「ハンディプーラー本体」は,フジックスが被告から購入した上記「ハンディプーラー本体」であるとみるのが自然である。加えて,被告が販売する「ハンディプーラー本体」は,店頭で大量に市販されていたものではなく,取扱業者を通じて取り寄せなければ入手が困難な製品であったこと(前記(1)ア(オ))及び原告が被告物件Aに属する検甲1の1及び検甲3の1を所持し,これらを証拠として提出していること(前記ア(ウ))に照らすならば,上記?@ないし?Cの事情を勘案しても,上記推認を妨げるものではない。
ウこれに対し被告は,フジックスに対し,本件和解成立前の平成13年11月5日に被告物件Aを1台販売したほか,平成12年に8台,平成13年に2台の被告物件Aを販売しており,原告がフジックスから購入したものが,これらの被告物件Aのいずれかであった可能性を否定できないから,原告がフジックスから購入した「ハンディプーラー本体」が被告物件Aであるからといって被告が本件和解成立後に被告物件Aを販売したことにはならない旨主張する。
しかし,前記イ認定のとおり,被告のフジックスに対する「ハンディプーラー本体」の販売の日は,フジックスの原告に対する「ハンディプーラー本体」の販売の日の11日前(平成20年7月31日)であることからすれば,フジックスが原告に販売した「ハンディプーラー本体」は,フジックスが被告から購入した上記「ハンディプーラー本体」であるとみるのが自然であるのみならず,フジックスが平成12年又は平成13年に被告から購入した被告物件Aを約7年ないし8年もの後の平成20年7月まで在庫として保管していたことをうかがわせる証拠はない。
かえって,前記(1)ウのとおり,原告が,別件訴訟で証拠として提出した被告物件Aに属する「ハンディプーラー本体」(検甲2の1)は,下部レバーにネジ孔様の孔はなく,その表面が平滑であるのに対し,検甲1の1及び検甲3の1と被告物件Bに属する検乙の1,2は,いずれも下部レバーに,本件和解の和解調書添付の平成14年2月22日付け「ハンディープーラー・設計変更」と題する書面(甲2)に示されたネジ孔様の孔が開けられている点で,検甲2の1のものと異なることからすれば,検甲1の1及び検甲3の1は,別件訴訟で本件和解が成立した後に製造されたものであることがうかがわれる。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3) (1)及び(2)以外の被告物件Aの販売について原告は,前記(1)及び(2)の被告による被告物件A2台の販売の事実に加えて,被告が,遅くとも平成19年10月1日から平成20年10月1日までの間,自社のホームページに被告物件Aを掲載し,その販売又は販売の申出をしたこと(請求原因(3)ア(イ)a)からすれば,被告は,本件和解成立後,被告物件Aを少なくとも合計529台販売した旨主張する。
しかし,原告の主張は,前記(1)及び(2)の被告物件A2台を除き,以下のとおり理由がない。
ア本件においては,前記(1)及び(2)の被告物件A2台に関するものを除き,被告が本件和解成立後に被告物件Aを販売していたこと及びその販売台数を具体的に裏付ける客観的な証拠は提出されていない。
イ前記(1)イ?B認定のとおり,被告が開設するホームページには,「ハンディプーラー」の見出しの下に,ハンディプーラー本体及び支持台を組み合わせた写真3枚が掲載されていたが,いずれの写真からも上部レバーと下部レバーとの間に使用されている部材の材質は判明せず,上記写真が被告物件Aの写真であることを認めることはできない。
また,上記ホームページ全体(甲3,4)を読んでも被告が被告物件Aを紹介し,その広告宣伝をしているものとまで認めることはできない。
かえって,被告は,本件和解成立後に,平成14年6月14日,セアラから,被告物件Bに使用するゴムクッションの金型(ME-1022)1台及び材料のスプリングゴム500個を購入していること(前記(1)イ?A),被告は被告物件B(検乙1の1,2)を証拠として提出していること(前記(1)イ?@),被告は,本件訴訟の係属中の平成21年4月5日までに,上記ホームページに記載された写真の説明として「ゴムクッション使用」と明記するようになったこと(前記(1)イ?B)からすれば,被告が本件和解成立後に被告物件Bを製造,販売していること,被告が少なくとも平成21年4月5日以降に上記ホームページをもって販売又は販売の申出をしている製品は被告物件Bであることを認めることができる。これらの事実に照らすならば,被告が開設する上記ホームページをもって販売又は販売の申出をしている製品は,平成21年4月5日より前においても,それ以降と同様に,被告物件Bであった可能性を否定できない。
ウ被告が販売した前記(1)及び(2)の被告物件A2台は,原告がエヒメマシン及びフジックスに対し被告から被告物件Aを取り寄せることを依頼し,その依頼を受けたエヒメマシンから発注を受けたヤマト自動車及びフジックス自らが被告物件Aを被告に発注し,これに基づいて被告がヤマト自動車及びフジックスに販売したものである(前記(1)イ及び(2)イ)。
加えて,前記イのとおり,被告が本件和解成立後に被告物件Bを製造,販売していることに照らすならば,前記(1)及び(2)の被告による被告物件A2台の販売の事実があるからといって被告がこれら以外に被告物件Aを販売していたものと直ちに認めることはできない。
ましてやその販売台数が527台(前記(1)及び(2)の被告物件A2台を除く。)に及ぶものと認めることはできない。
エ以上のとおり,本件全証拠によっても,前記(1)及び(2)の被告物件A2台を除き,被告が本件和解成立後に被告物件Aを販売したことを認めるに足りない。
(4) 小括以上によれば,請求原因(3)アのうち,被告が本件和解成立後の平成19年9月21日にヤマト自動車に対し,平成20年7月31日にフジックスに対し,それぞれ被告物件A1台(合計2台)を販売したことが認められるが,その余の被告物件Aの販売の事実は認められない。
そして,被告によるヤマト自動車及びフジックスに対する被告物件Aの上記販売は,本件和解の和解条項1項に違反する債務不履行に当たるもの(請求原因(3)イ)と認められる。
なお,本件証拠上,被告が本件和解成立前に製造した被告物件Aを廃棄することなく保管していたことを認めるに足りないから,被告が本件和解の和解条項2項に違反した旨の原告の主張は理由がない。
3 原告主張の損害の有無(1)原告は,被告が本件和解の和解条項に違反して被告物件Aを販売したことにより原告製品を販売する機会を奪われ,その逸失利益相当の損害を被った旨(請求原因(4))主張する。
前記2(4)認定のとおり,被告が本件和解成立後の平成19年7月21日にヤマト自動車に対し,平成20年7月31日にフジックスに対し,それぞれ被告物件A1台(合計2台)を販売したことは,本件和解の和解条項1項に違反する債務不履行に当たるものである。
しかし,前記2(1)イ及び(2)イ認定のとおり,被告によるヤマト自動車及びフジックスに対する被告物件Aの上記販売は,原告がエヒメマシン及びフジックスに対し被告から被告物件Aを取り寄せることを依頼し,その依頼を受けたエヒメマシンから発注を受けたヤマト自動車及びフジックス自らが被告物件Aを被告に発注し,これに基づいて被告がヤマト自動車及びフジックスに販売したものであって,この一連の取引によって原告が当該被告物件A(合計2台)を取得したものである。
そうすると,被告によるヤマト自動車及びフジックスに対する被告物件Aの上記販売によって,原告がヤマト自動車及びフジックスに対する原告製品の販売の機会を奪われたものと評価することができないことは明らかである。
したがって,被告による上記債務不履行によって,原告にその主張する逸失利益相当の損害が生じたものと認めることはできない。
(2) 以上によれば,原告主張の損害は認められない。
4 結論以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 関根澄子