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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 18年 ( ) 21405号 損害賠償等請求事件
山口県宇部市<以下略>
原告宇 部興産機械株式会社
同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫
同 牧野知彦
同訴訟代理人弁理士伊丹勝 東京都千代田区<以下略>
被告バ ブコック日立株式会社
同訴訟代理人弁護士野口明男
同 高橋元弘
同 飯塚卓也
同 内田晴康
同 落合孝文
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/09/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,金2億5167万3433円及びこれに対する平成18年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求2被告は,原告に対し,金12億円及びこれに対する平成18年10月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,発明の名称を「回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機」とする特許権(特許番号第1706534号)を有していた原告が,上記特許権が出願公告された平成2年10月31日から同特許権の存続期間の満了日である平成14年6月29日までの間における被告による回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機の製造,輸入又は販売は,上記特許権(出願公告後設定登録前については,平成6年法律第116号による改正前の特許法52条1項に規定する権利)を侵害する行為であると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権(特許法102条3項)ないし不当利得返還請求権に基づき,実施料相当額及び弁護士費用相当額の支払を求める事案である。
なお,附帯請求は,訴状送達の日の翌日である平成18年10月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者(弁論の全趣旨)ア原告は,粉砕装置等の一般産業機械の製造,販売等を業とする株式会社である。
イ被告は,蒸気発生装置,原子力機器の製造,販売及び修理等を業とする株式会社である。
(2)原告が保有していた特許権(甲1,2)原告は,宇部興産株式会社から,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲1の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という。)の移転を受け,これを有していた。
なお,本件特許権の原告への移転登録日は,平成13年6月20日である。
3特 許 番 号第1706534号発明の名称回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機出願日昭和57年6月29日出願公開日昭和59年1月11日出願公告日平成2年10月31日登録日平成4年10月27日存続期間満了日平成14年6月29日特許請求の範囲1「回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,この回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け,粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機において,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成したことを特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。」(3)本件発明の構成要件の分説本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下分説した各構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A回転テーブルと,Bこの回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,C粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,4Dセンターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,Eこの回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け,F粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機において,G回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,Hこの隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成したIことを特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。
(4)被告の行為(弁論の全趣旨)ア被告は,本件特許権が出願公告された平成2年10月31日以降本件特許権が存続期間の満了により消滅した平成14年6月29日までの間,別紙1のとおり,回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機を製造,販売した。
イ被告が別紙1のDないしI記載の発電所に納入した粉砕機(以下「イ号物件」という。)の,原被告間に争いのない範囲の構成は,別紙2-1記載のとおりである。
ウ被告が別紙1のB及びC記載の発電所に納入した粉砕機(以下「ロ号物件」という。)の,原被告間に争いのない範囲の構成は,別紙3-1記載のとおりである。
エ被告が別紙1のA発電所に納入した粉砕機(以下「ハ号物件」という。
また,イ号物件,ロ号物件及びハ号物件を併せて「被告製品」ということがある。)の,原被告間に争いのない範囲の構成は,別紙4-1記載のとおりである。
(5)被告製品の本件発明の構成要件の一部充足アイ号物件についてイ号物件は,本件発明の構成要件A,B,D,F及びIを充足する。
5イロ号物件についてロ号物件は,本件発明の構成要件A,B,D,E,F及びIを充足する。
ウハ号物件についてハ号物件は,本件発明の構成要件A,B,D,E,F及びIを充足する。
(6)損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の譲受け(甲8の1・2)ア原告と,本件特許権の出願人であり,特許権者であった宇部興産株式会社とは,事業分割に伴い,原告への移転日より前に発生した損害賠償請求権,不当利得返還請求権を含め,本件特許権に関するすべての権利義務を宇部興産株式会社から原告に移転する旨合意した。
イ宇部興産株式会社は,平成18年9月19日,被告に対し,下記債権を原告に譲渡した旨を,確定日付のある証書によって通知した。
記被告が本件特許権を侵害する製品を製造又は輸入し,販売したことにより,本件特許権の出願公告日(平成2年10月31日)から本件特許権の原告への譲渡日(平成13年6月20日)までの間に宇部興産株式会社が被った損害についての,?@特許法65条1項に基づく補償金支払請求債権,?A不法行為に基づく損害賠償請求債権,?B不当利得返還請求債権2争点(1)イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか(争点1)ア構成要件Cの充足性(争点1-a)イ構成要件Eの充足性(争点1-b)ウ構成要件Gの充足性(争点1-c)エ構成要件Hの充足性(争点1-d)オ均等侵害の成否(争点1-e)(2)ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか(争点2)ア構成要件Cの充足性(争点2-a)6イ構成要件Gの充足性(争点2-b)ウ構成要件Hの充足性(争点2-c)(3)ハ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか(争点3)ア構成要件Cの充足性(争点3-a)イ構成要件Gの充足性(争点3-b)ウ構成要件Hの充足性(争点3-c)(4)本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点4)ア乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由1)イ乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由2)ウ乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由3)エ乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由4)オ乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由5)カ乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由6)キ乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由7)ク乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由が認められるか(無効理由8)ケ本件特許の請求項の記載は昭和62年改正前特許法36条4項に違反するものか(無効理由9)コ本件特許の発明の詳細な説明の記載は昭和62年改正前特許法36条37項に違反するものか(無効理由10)被告は,無効理由9,10について,昭和60年改正前の特許法36条4項,5項違反を主張している。しかしながら,昭和60年法律第41号により,昭和60年改正前の特許法36条,123条は改正され,特別な場合を除き,経過措置は設けられていないので,本件特許には同改正法が適用され,昭和60年改正前の特許法36条4項,5項は,昭和62年法律第27号による改正前の特許法(以下「昭和62年改正前特許法」という。)123条1項3号の規定する同法36条3項,4項と規定内容を同じくするので,被告の上記主張は,昭和62年改正前特許法36条3項,4項違反を主張するものと善解して取り扱うこととする。
(5)損害額又は不当利得額(争点5)第3争点に対する当事者の主張1争点1(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について〔原告の主張〕(1)争点1-a(構成要件Cの充足性)についてアイ号物件におけるセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(8)の上方で,ケーシングの中央に位置した状態で垂直に配設されている。
よって,イ号物件は,構成要件Cを充足する。
イ被告の主張について(ア)被告は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」は,センターシュートが「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」にあることを意味する旨主張する。
しかしながら,被告が指摘する本件明細書中の「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該隙間下端開口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入8が確実に阻止される。」(2頁4欄37行ないし40行)との記載は,「・・ガス流が真上に上昇してきて該隙間下端開口から侵入しようとしても,」とあるとおり,構成要件Cの「粉砕ローラの上方に」を「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることになる上方位置」と限定解釈する根拠となるものではない。
また,被告が指摘する平成2年1月23日付け「意見書」(乙1の7)中の記載(6頁)も,「第2引用例(特開昭55-92145)」に開示されている「シール空気の供給構造」との差異を説明するものにすぎず,本件発明の構成を限定するものではない。
(イ)本件発明が解決しようとする課題は,本件明細書に明記されているとおり,「従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。」(1頁2欄10行ないし19行)点にあり,これを解決したのが本件発明である。
本件発明が解決しようとする課題の記載からしても,被告が主張するような限定解釈をすべき理由はない。
(ウ)被告は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方に・・・配置」は,ガスが粉砕部から上昇して回転筒の下端に直接ぶつかるものであるとの解釈を前提に,イ号物件においては,含塵ガスは粉砕部から真上へ上昇するのではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から固定ベーン及び回転ベーンに流入する旨主張し,構9成要件Cを充足しないとする。
aそもそも,被告の解釈自体が誤りであるし,仮に,被告のように解したとしても,イ号物件において,微粉炭の空気搬送の流れが,「粉砕機内壁に沿っている」とするのは,事実に反する(甲14)。
すなわち,イ号物件においては,熱風を送るスロート(14)は,装置の中心方向に傾けて内向きに取り付けられており,スロート(14)からミルケーシング内に吹き込まれた熱風は,粉砕機内壁に沿って上昇する流れである熱風(A)のみならず,粉砕機の中心に向かって流れ分級機ホッパーの内部を通過して上昇する流れである熱風(B)があるのであり,被告のように,微粉炭は粉砕機の内壁に沿って粉砕機上部に搬送されるとするのは誤りである。
熱風(B)は,微粉炭を回転筒の下部に吹き上げており,イ号物件の回転筒とセンターシュートとの間に微粉炭を詰まらせる可能性があるため,イ号物件では,回転筒とセンターシュートとの環状隙間に加圧空気を送り込み,そのような弊害を防いでいるのである。
bスロート部から噴出されたガスが壁面に沿ってのみ上昇していくというのは誤りである。
ガスは,圧力差があれば,高い方から低い方に流れるのが常識であり,スロート部からは高圧空気が噴出しており,中心部とは圧力差があるから,必ず圧力の低い中心部への流れも存在する。
イ号物件において,セパレータの回転羽根,スロートの傾斜による効果で,機内に旋回流が形成されていても,あくまでも,ガスは,圧力差により高い方から低い方に流れているのであり,回転筒下端付近の圧力がスロート部の圧力よりも小さい以上,環状隙間方向にガスの流れが形成されることは明らかである。
イ号物件のように,ノズルが円の外周部に設けられている場合であ10っても,スロート部からの噴流が壁面に沿ってのみ上昇するということはあり得ず,ガスは中心に向かって拡散して広がる。しかも,スロート部を中心方向に向かって傾けたイ号物件において,スロート部からの噴流が粉砕機内で拡散することなく,壁面に沿ってのみ上昇するということはあり得ない。
スロート部からミル中心に向かって流れるガスの流れが存在し,ガスと共に炭塵が舞い上がっていることは明白である。
このことは,イ号物件が,スロート部からミル中心に向かって流れるガスの流れによって運ばれる原料からローラ回転軸を保護するための「ロールブラケットウェアプレート」と称するプロテクターを備えていることからも裏付けられる。
(2)争点1-b(構成要件Eの充足性)についてア「放射状」とは,「中央の一点から四方に放出した形のもの」(広辞苑第四版)の意である。
本件明細書には,「センターシュート13の外側に放射状配置のベーン14を有する回転筒22」(2頁3欄40行ないし41行)と記載されており,構成要件Eは,回転筒22に対するベーン14の配置をいうものであることが明らかである。
イ号物件において,回転ベーンは,回転筒から放射状(回転筒の中心から四方に放出した位置にあたる箇所)に配置されているのであるから,構成要件Eを充足する。
イ被告の主張について(ア)被告は,イ号物件においては,「回転筒と平行に,縦方向にベーンが配置されており,さらに,上方から見ると各ベーンに角度がつけられて,渦巻き状とでもいうべき形状に配置されている」旨主張する。
しかしながら,「回転筒と平行に,縦方向にベーンが配置されて」い11ることや,「上方から見ると各ベーンに角度がつけられて」いることは,イ号物件のベーンが回転筒から四方に放出した形に配置されていることを否定するものではなく,ベーンが回転筒から四方に放出した形に配置されていることを前提に,ベーンの具体的な配置角度等を問題にするものにすぎない。ベーンの具体的な配置角度をどのようにするかは,本件発明の作用効果とは直接関係がない,任意の設計事項にすぎない。
(イ)被告は,ベーンが「同心円状に配置」されており,「放射状に配置」されていない旨主張する。
しかしながら,別紙2-3の「回転ベーンの配置及び形状(上から見た図)」のとおり,各ベーンの配置された位置は,回転筒に対して放射状といえるのであって,放射状に配置された各回転ベーン(羽根)に30°の角度がつけられているにすぎない。
ベーン(羽根)を備えた装置の技術分野において,羽根が「内側から外側に向かう位置関係に配置される」ことを意味し,ベーンが回転中心と同心円状に配置されている場合であっても,ベーンに角度がついていてその放射中心が点でない場合であっても,回転する筒をその放射中心として,「放射状に配置」と表現されている。
被告のいう「同心円状に配置」されていることは,回転ベーンが回転筒に対し「放射状に配置」されていることを否定するものではない。
(3)争点1-c(構成要件Gの充足性)についてアイ号物件は,回転筒(16)下端から2メートルから3メートル程度離れた上方位置に,回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入する12ことができるように構成されている。
したがって,イ号物件は,構成要件Gを充足する。
イ被告の主張について(ア)被告は,構成要件Gの「所定距離」の定める具体的な距離が明らかではないから,イ号物件が構成要件Gを充足するとはいえない旨主張する。
構成要件Gの「所定距離」とは,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」と記載されていることから明らかなとおり,回転筒下端ではなく,これより離れた上方位置に空気導管を取り付けることを規定しているのであり,構成要件Hの「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように」するために必要な適当な距離を意味する。
本件発明が対象とする回転式加圧型セパレータには,それぞれの目的に応じた様々な大きさがあり,それに伴って「送風装置に連絡された空気導管」の取付位置が異なるのであるから,具体的な距離で表示していないことに何ら問題はない。
(イ)被告は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付ける」とは,空気導管を回転筒自体に取り付けることを意味する旨主張する。
しかしながら,空気導管を回転筒自体に取り付けるという構成を実現できるはずはなく,被告の解釈は,当業者の理解から完全に離れたものである。
被告は,本件明細書の第2図をその主張の根拠にしているものの,これが単なる模式図であることは一見して明らかである。
また,構成要件文言解釈としても,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付ける」という構成を,被告のように,回転筒に「直接」空気導管を取り付ける意味であると解13釈しなければならない必然性はないのであって,センターシュートの外側に回転可能に設けられた回転筒(構成要件D)とセンターシュートとの間の環状隙間に,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込めるようにした(構成要件H)構成の意味であると解釈すべきである。
(4)争点1-d(構成要件Hの充足性)についてアイ号物件は,回転筒とセンターシュートとの間に,下端部に1ミリメートルないし2.4ミリメートル程度の隙間が空いており,送付装置に連結された空気導管を通じて,加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成されている。
したがって,イ号物件は,構成要件Hを充足する。
イ被告の主張について(ア)被告は,構成要件Hの「下端から噴出」とは,「回転筒の回転を利用することにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という意味に限定解釈されるべきであるとして,イ号物件は,回転筒の回転を利用することなく回転筒下端の全周から空気を噴出しているから,構成要件Hを充足しない旨主張する。
しかしながら,構成要件Hは,「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した」というものであって,被告が主張するように,「回転筒の回転を利用することにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にする」という意味に読み替えるべき根拠はない。
すなわち,本件明細書の記載を参酌しても,本件発明は,「固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する」という課題(1頁2欄15行な14いし19行)を解決しようとするものであり,構成Hの「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成」することによって,そのような課題が解決されることは明らかであるから,構成Hを被告主張のように限定解釈すべき理由はない。
本件明細書中には,「回転筒22の内周面が回転しているので,前記の供給位置か(ら)供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転筒22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降するため,供給位置から抵抗の少ない特定の部位のみを流れて,所謂,ショートパスしたり偏流したりして回転筒22下端の部分的な位置のみから排出されることがなく,該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下端の全周から噴出する」(2頁4欄21行ないし30行)との記載があるものの,これは,実施例によっては環状空間内に空気抵抗の大きい部位と小さい部位がある場合があり,そのような場合についても,回転筒の回転によって「空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下端の全周から噴出」し得る,という効果があることを述べているにすぎず,本件発明が特定の構成に限定されることを述べているのではない。
(イ)被告は,構成要件Hの「下端から噴出」が「回転筒の回転を利用することにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という意味に限定解釈されることを前提に,乙第5号証のシミュレーションを提出して,イ号物件においては,回転筒が回転している場合とそうでない場合とにおける空気の噴出状態に違いが認められず,回転筒の内周面の回転を利用する構造を採っていないから,構成要件Hを充足しない旨主張する。
そもそも,回転筒の回転の有無により空気の噴出状態に差異がないこ15とを立証しても,構成要件Hを充足しないとする根拠には全くならない。
また,構成要件Hの解釈は別論としても,イ号物件は,本件発明と同様の作用効果を奏する(甲12,13)。
被告の提出するシミュレーションは,下端の隙間が回転筒の全周にわたって均一としている(実際には,数ミリ程度のばらつきがある),構造物の壁面は滑らかなものとしている(実際には,さびなどの影響があり,均一という条件設定はあり得ない)など,現実にはあり得ない条件設定下におけるシミュレーションにすぎず,現実の装置の空気の流れを再現したものではない。
(5)争点1-e(均等侵害の成否)について仮に,イ号物件が構成要件Eを充足せず,本件発明の文言侵害が成立しないとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。
ア本件発明の本質的部分は構成要件G,Hにあり,構成要件Eは本件発明の本質的部分ではない。
イベーンがイ号物件のように配置されていても,「回転筒22の下端である環状隙間の下端から侵入しようとする微粒子を確実に吹き飛ばすことができ,センターシュート13と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入することが防止され,センターシュート外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できるとともに,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」(本件明細書3頁5欄20行ないし6欄4行)という本件発明と同様の作用効果を奏する。
ウイ号物件との差異は,単にベーンの具体的な配置角度の問題にすぎず,任意の設計事項ともいうべきものであって,本件発明の属する技術分野における当業者において,イ号物件の製造時点において容易に想到することができたものである。
エイ号物件は,本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者16がこれから上記出願時に容易に推考することができたものではない。
オイ号物件が本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
〔被告の主張〕(1)争点1-a(構成要件Cの充足性)についてア構成要件Cの「上方」の意義構成要件Cにいう「上方」が具体的にいかなる意味を有するかにつき,特許請求の範囲の記載からは明確でない。
構成要件Cを含むおいて書きは,本件発明が解決しようとする課題を有する加圧型ミルの構造を特定する構成要件であるから,構成要件Cの「上方」の解釈は本件発明が解決しようとする課題を参酌し,その課題を提供する構造を特定するものとして解釈しなければならない。
本件明細書には,「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該隙間下端開口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が確実に阻止される。」(2頁4欄37行ないし40行)と記載されている。この記載は,本件発明が解決すべき課題が,「下方の粉砕部からガス流が真上に上昇してきて環状隙間の下端から侵入しようとする」という現象であることを示すものである。
そして,上記課題に照らせば,本件発明のおいて書きによって特定される粉砕機の構造は,このような課題を生じる構造であることを要するから,構成要件Cにおける「上方」は,単にセンターシュートが粉砕ローラの上方にあるという意味ではなく,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味と解釈される。
この解釈は,本件特許の出願過程において,出願人が,本件発明と引用例(特開昭55-92145号)との差異を説明するに当たり,本件発明は,「粉砕部から含塵ガスが真上に上昇して来て丁度そこに垂直状態で位17置するセンターシュートと回転筒にぶつかる構造のセパレータ」であって,「該センターシュートと回転筒との間の環状の隙間への粉塵の侵入防止を計るようにしたもの」であることを強調していること(乙1の7。6頁7行ないし20行)からも裏付けられる(すなわち,粉砕部から含塵ガスが真上に上昇して来て,ちょうどそこに垂直状態で位置するセンターシュートと回転筒にぶつかる構造のセパレータに関するエアシール技術である点にこそ本件発明の特許性が認められるのであり,かかる悪条件が生じないミルにおいては,本件発明が解決しようとする課題を欠き,その技術的範囲から除外されると解すべきである。)。
イイ号物件の構成要件Cの非充足(ア)イ号物件においては,含塵ガスは粉砕部から真上へ上昇するのではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から固定ベーン及び回転ベーンに流入する。
したがって,イ号物件は,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる構造」を有しない。
よって,イ号物件は粉砕ローラの「上方」,すなわち「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」にセンターシュートが配設されているものではなく,構成要件Cを充足しない。
(イ)原告は,イ号物件には,ミル内壁面に沿って上昇する熱風(A)とは別に,分級機ホッパの内部を通過して上昇する熱風(B)がある旨主張する。
しかしながら,イ号物件には,原告主張にかかる熱風(B)のような微粉炭の流れは存在しない。
aイ号物件のスロートはミル円周方向に傾斜しているので,微粉炭はミルの中心に向かっては流れず,ミル内壁面に沿って上昇する。
18すなわち,イ号物件におけるスロートは,ミルの中心方向に向かって傾いていると同時に,ミルの円周方向にも傾いているため,スロートで吹き上げられた微粉炭は,スロートから粉砕機内壁へ向かって吹き上げられ,粉砕機の内壁にぶつかった上で,ミル内壁に沿って旋回しながら上昇することになる。
bイ号物件の分級機ホッパ下端では,鉛直方向下向きに空気が流れており,熱風(B)のような微粉炭の流れは存在しない。
すなわち,イ号物件においては,粉砕される石炭は,センターシュートより分級機ホッパの下端開口部を通じてミルの粉砕部へと落下し,ミルの運転中,センターシュートより間断なく供給される。また,回転ベーンによる分級で分離された粗い粒子は分級機ホッパの上面を滑落して粉砕部へと戻っていく。分級機ホッパの下端開口部では,相当量の石炭が鉛直方向下向きに常に落下しているのである。この石炭の流れに伴い,分級機ホッパの下端開口部付近では鉛直方向下向きの空気の流れが生じるため,仮に,スロートから吹き上げられた微粉炭が分級機ホッパ下端開口部に近づいたとしても当該開口部から流入することはなく,熱風(B)のような微粉炭の流れは生じない。
c原告は,ロールブラケットウェアプレートの存在を指摘し,これがミル中心部に向かう空気の流れが存在することを示すものである旨主張する。
しかしながら,ロールブラケットウェアプレートは,スロートから噴出した空気がミル内壁に衝突するまでの流れの途中にローラブラケットが位置するために,これを保護する目的で設けられたものにすぎない。
(2)争点1-b(構成要件Eの充足性)についてア構成要件Eにおける「放射状」の意義19構成要件Eにおける「放射状」とは,「線状のものが中心から四方に出ているさま。」(大辞林第三版)あるいは「中央の1点から四方八方に放出したもの。輻射状。」(広辞苑第五版)を意味する。
そして本件明細書の第1図および第2図の回転ベーンの形状に照らせば,構成要件Eにいう回転筒に「放射状」にベーンを配置するとは,「ベーンの長手方向を構成する直線部分が回転筒の中心から四方八方に延びるように配置すること」を意味していることは明らかである。
イイ号物件の構成要件Eの非充足イ号物件は,ベーンの長手方向を構成する直線は回転筒と平行になるように,水平面から垂直に配置されており,しかも,各ベーンの短手方向を構成する直線も,回転筒の中心から延びる線と角度が付けられており,それらの直線を回転筒方向に延長しても一致しないのであるから,いずれの点においても,「放射状」を構成するものではない。
イ号物件におけるベーンの配置は,回転筒と「同心円状」に配置されているとでもいうべきものであり,回転筒から「放射状」に配置されているものではないから,イ号物件は構成要件Eを充足しない。
(3)争点1-c(構成要件Gの充足性)についてア構成要件Gの「所定距離」について(ア)構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離を指すものであるかについては,特許請求の範囲に記載がなく,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌してもその具体的意味は不明である。
(イ)本件明細書中の記載(2頁4欄18行ないし30行)を参酌しても,「所定距離」は,せいぜい,「構成要件Hの『この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の回転を利用して,回転筒の下端全周から噴出するように』するために必要な適当な距離」と解釈することができる程度であり,その距離がどのようなものであることを20要するかを解釈し確定することは不可能であって,「所定距離」という構成を具体的に確定することはできない。
(ウ)原告は,構成要件Gの「所定距離」とは,「構成要件Hの『この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように』するために必要な適当な距離」を意味すると主張する。
しかしながら,環状隙間に空気を吹き込めば回転筒下端から空気が噴出するのは当然であるから,空気を吹き込む位置(空気導入孔の位置)と回転筒下端との距離は,長くても,短くてもよいことになる。
原告の上記主張を前提とすれば,原告が主張する「必要な適当な距離」というのは「どのような距離でもよい」という解釈にほかならない。
このような構成要件は発明上無用な構成要件であって,原告の主張するように解釈した場合,本件発明は昭和62年改正前特許法36条4項により無効である。
(エ)よって,イ号物件への当てはめの前提としての構成要件が特定できないのであるから,構成要件Gの充足が認められる余地はない(イ号物件が構成要件Gを充足することについて主張立証がない。)。
構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」について構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」とは,文言上,空気導管を回転筒それ自体に取り付けるものであると解釈される(本件明細書の第2図,2頁4欄9行ないし12行参照)。
これに対し,イ号物件は,回転筒の円周に空気導入孔を設け,その周囲に空気室を設け,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,上記空気導入孔を通じて環状隙間に空気を導入することができるようにしているものであるから,回転筒に空気導管を取り付けたものではない。
21したがって,イ号物件は構成要件Gを充足しない。
(4)争点1-d(構成要件Hの充足性)についてア構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」の意義構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」とは,以下のとおり,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転していることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周から噴出するもの」と限定解釈されるべきである。
(ア)構成要件Hの「回転筒の下端から噴出する」の意義本件明細書中には,以下の記載がある。
a「環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(2頁3欄7行ないし8行)b「該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下端の全周から噴出する。」(2頁4欄29行ないし30行)c「環状の隙間全体に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気が充満されて下端開口の全周から噴出される。」(3頁5欄14行ないし16行),「このため,回転筒22の下端である環状隙間の下端から侵入しようとする微粒子を確実に吹き飛ばすことができ,センターシュート13と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入することが防止され,」(3頁5欄19行ないし6欄1行)これらの記載によれば,本件発明は,回転筒下端の環状隙間の「全周から」空気を噴出させる構成を取ることにより,粉塵の侵入を確実に防止することを目的とするものである(回転筒下端の環状隙間へ微粉炭が侵入することを防止するという本件発明の目的は,環状隙間の全周から空気を噴出する構成によって初めて達成することができる。)。
22したがって,本件発明の構成要件Hにいう「回転筒の下端から噴出する」とは,回転筒下端の「全周から噴出」という意味と解釈される。
(イ)構成要件Hは,上記のとおり,「回転筒の下端の全周から空気を噴出させるように構成した」という意味であるところ,当該構成要件は,特許発明を,その構成がもたらす機能的な表現によって特定したものといえ,いわゆる機能的な構成要件である。
特許請求の範囲が作用的,機能的な表現で記載されている場合には,当該記載に加えて明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定しなければならない。
本件明細書中には,「所定圧力の空気が回転筒22の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,環状隙間を画成する一つの部材である回転筒22の内周面が回転しているので,前記の供給位置か(ら)供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転筒22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降するため,・・・該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下端の全周から噴出する。」(2頁4欄18行ないし30行)との記載がある。
上記記載からすると,本件発明は,空気が回転筒下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,回転筒の内周面が回転していることを利用して,上記供給位置から供給された空気を回転筒の下端に至る間で環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降させることにより,回転筒下端の全周からの空気の噴出を可能にすることを技術思想とするものであるといえる。
そして,本件明細書中には,上記のほか,回転筒の下端全周から空気を噴出させることを可能とする構成の開示はない。
23(ウ)以上によれば,構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」とは,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転していることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周から噴出するもの」をいう構成に限定され,その限りにおいて独占権が与えられているものと解されなければならない。
上記解釈は,本件特許の出願過程において,出願人が,本件発明と引用例(特開昭57-75156号,特開昭55-92145号)との差異は,本件発明が「回転筒の下端から所定の距離隔てた上方の位置から該環状の隙間に空気を供給し,かつ,回転筒の回転を利用することによって環状の隙間内全体に空気を行き渡らせ,隙間の下端の全周から空気を噴出させる構造」を採る点にあるとしていたこと(乙1の7。5頁11行ないし19行,7頁1行ないし2行,7頁20行ないし8頁16行)からも裏付けられる。
イイ号物件の構成要件Hの非充足イ号物件は,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周から空気を噴出させているのではない。イ号物件においては,?@回転筒下端の空気噴出口をリングとパッキンで狭め,?A回転筒とセンターシュートとの環状隙間の一部に狭隘部を設け,?B空気導入孔を回転筒の円周に30個配置して全ての空気導入孔から空気を吹き込む,という構造を有しているために回転筒下端の全周から空気が噴出されるものである。
イ号物件が,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周から空気を噴出させているものでないことは,乙第5号証のシミュレーションにおいて,回転筒の回転を止めた場合であっても回転筒下端の全周から空気が噴出されるとの計算結果が得られていることから明らかである。
24以上のとおり,イ号物件は,回転筒が回転していない場合でも下端全周から空気が噴出するのであるから,回転時に空気が内周面の回転によって移動したり旋回したりするといった現象の存否とは無関係であり,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転していることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して回転筒下端の全周から噴出するもの」ではないから,構成要件Hを充足しない。
(5)争点1-e(均等侵害の成否)についてア特許権の均等侵害が成立するためには,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がない」(第5要件)ことが必要とされ,特許の出願当初から特許請求の範囲に取り込むことができた構成や,審査過程の補正段階で取り込むことができたような構成については,均等論が及ばない。
本件特許の出願人は,?@回転筒の中心から四方八方に延びる直線とベーンとの間に角度が付けられている構成,?Aベーンの長手方向を構成する直線が回転筒と平行になっている構成を,本件特許の出願の際ないし出願手続中に特許請求の範囲に容易に取り込むことができたのであるから,これらの構成につき均等侵害が成立する余地はない。
イ?@の構成について回転筒の中心から四方八方に延びる直線とベーンとの間に角度が付けられている構成は,本件特許の出願日以前に既に周知となっていたし(乙14),本件特許発明の公告決定の送達時以前に周知であった(乙15)。
したがって,出願人は本件発明の出願時にこの構成を特許請求の範囲に含めた上で出願することができたはずであるし,また,遅くとも公告決定の送達時までの間に,補正によりかかる構成を特許請求の範囲に取り込む25こともできた。
しかしながら,出願人は,本件発明の出願の際にかかる構成を請求の範囲に含めず,また,上記のような補正も行わなかったのであるから,上記特段の事情がある。
よって,回転筒の中心から四方八方に延びる直線とベーンとの間に角度が付けられている構成につき均等侵害は成立し得ない。
ウ?Aの構成についてベーンの長手方向を構成する直線が回転筒と平行になっている構成は,本件発明の公告決定の送達時以前に周知となっていた(乙16ないし18)。
したがって,出願人は,遅くとも公告決定の送達時までの間に,補正によりかかる構成を特許請求の範囲に取り込むことができた。
しかしながら,出願人は,上記のような補正を行わなかったのであるから,上記特段の事情がある。
よって,ベーンの長手方向を構成する直線が回転筒と平行になっている構成につき均等侵害は成立し得ない。
2争点2(ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について〔原告の主張〕(1)争点2-a(構成要件Cの充足性)についてアロ号物件におけるセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(8)の上方で,ケーシングの中央に位置した状態で垂直に配設されている。
よって,ロ号物件は,構成要件Cを充足する。
イ被告は,構成要件Cの「上方」を,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」と限定解釈すべきであると主張するものの,被告の上記主張に理由がないことは,イ号物件に関して既に述べたとおりである。
26また,被告は,ロ号物件は,含塵ガスが粉砕部から真上へ上昇するものではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入する旨主張するものの,これが事実に反することは,イ号物件に関して述べたところと同様である。
(2)争点2-b(構成要件Gの充足性)についてアロ号物件は,回転筒(16)下端から2メートルから4メートル程度離れた上方位置に,回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入することができるように構成されている。
したがって,ロ号物件は,構成要件Gを充足する。
構成要件Gの「所定距離」,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」の解釈については,イ号物件に関し,既に述べたとおりである。
(3)争点2-c(構成要件Hの充足性)についてアロ号物件は,加圧雰囲気より高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から空気が噴出するように構成しているから,構成要件Hを充足する。
イ被告の主張について(ア)被告は,被告製品においては,「回転筒下端の環状隙間をパッキンで塞ぐことにより,回転筒下端より空気が噴出しないように構成している」(構成ロh)と主張する。
aしかしながら,被告の主張は,一方で,パッキンにより微粉の侵入を防ぐとしつつ,他方で,環状隙間に加圧空気を流している(構成ロg)とするものであり,明らかに技術的に矛盾する。
27すなわち,仮に,被告の主張が事実であるとすれば,回転筒とセンターシュートとの間の隙間は存在しないのであるから,30個の空気導入孔を有する空気室を設置し,そこから空気を吹き込むための加圧空気システムを設置する必要性はない。回転筒に,わざわざ空気導入孔を設け,空気導入孔を通じて環状隙間に加圧空気を送るという構成は,当該環状隙間が粉砕機内部に通じていて,そこに微粉炭が入り込むことを前提としなければ理論的に全く不要であり,そのような構成を費用をかけて製作し,設置しなければならない理由はない。
また,仮に,何らかの理由で環状隙間を粉砕機内部の圧力よりも高い加圧雰囲気とする必要性があったとしても,「回転筒下端の環状隙間をパッキンで塞ぐことにより,回転筒下端より空気が噴出しない」のであれば,分級機設置時に一度加圧空気を吹き込み封印してしまえばすむのであり,シールエアファンから加圧空気を常時送風できるように構成する必要性は全くない。
被告は,ロ号物件の回転筒に空気導入孔を設けているのは,オイルシールの保護の必要があるためであると主張する。しかしながら,被告の主張する部分のオイルシール用パッキンは,軸受け部に供給されている潤滑用のオイルを漏れないようにするためのパッキンであり,通常「Vシール」と称されるタイプのものである。このようなパッキンにおいては,わざわざ回転筒に孔を設けて,環状空間に圧縮空気を導入するなどという大掛かりな仕組みを用いてパッキンの両端の気圧を等しくする必要はない。
以上のとおり,ロ号物件における環状隙間に加圧空気を送る構成は,回転筒下端がパッキンによって完全に塞がれてはおらず,微粉の侵入があることを想定した上で,加圧空気をパッキンとセンターシュートとの間から噴出させるための構成であるとしか考えられない。
28b回転する回転筒と固定センターシュートとの間をパッキンで隙間なく完全に塞ぐことは技術的にも不可能である。
すなわち,本件のような長さ数メートルにもおよぶセンターシュートを持つ竪型ミルにおいて,完全な真円のセンターシュート,真円の回転筒及びパッキンを製作することが通常の工業技術では不可能であり,それらの設置においても偏差が生じることは避けられない。被告の主張のように,パッキンで回転筒とセンターシュートとの隙間を完全に塞ぐためには,パッキンの内径をセンターシュートの外形寸法よりも小さく製作し,無理やり装着させる方法を取る必要があり,この場合強い力でパッキンがシュートを締め付け,パッキンがセンターシュートをこすりながら回転することになる。このような回転方法は,いわば強くブレーキをかけたまま車を強引に走行させるようなものであり,回転機構全体に大きな負荷がかかるのみならず,装置の耐久性や消費エネルギー量等の観点からしても大きなデメリットとなるから,当業者がそのような構成を採用するはずがない。
また,被告の主張する構成では,現実にパッキンとセンターシュートとを接触したままで連続運転しようとすれば,パッキンとセンターシュートとの間に大きな摩擦熱が生じる。ロ号物件は,石炭粉砕用の設備であり,摩擦熱による発火等の危険性がある構成は,当業者であれば,およそ採用することができないものであることは明らかである。
仮に,設備設置当初においては,完全にパッキンで塞いでいる構成であったとしても,運転中のパッキンの摩耗により,パッキンとセンターシュートとの間に隙間が生じることによって,そのような摩擦が防げるというのであれば,その隙間からはシールエアが噴出するようになるのであるから,被告の主張するロ号物件の構成は,実際には,ハ号物件と異ならない(構成要件Hを充足する)。
29c被告は,ロ号物件において,パッキンとセンターシュート外形寸法との値の差を「0(ゼロ)」とすることにより,環状隙間の下端をシールしており,ここからの空気の噴出がないと主張するものの,工業的に回転するパッキンと固定したセンターシュート外形寸法との値の差を「0(ゼロ)」にすることによって,環状隙間を密閉することは,不可能である。
すなわち,固定されて静止している円形部材に,該円形部材の外形と同寸法に加工された内径をもつ円形部材を嵌め合わせて回転させようとする構造においては,両者の間には必ず隙間がなければならない。
しかも,静止している円形部材,回転する円形部材ともに,真円に加工することはできないから,2つの円形部材により形成された隙間の間隔は,それぞれの位置によって異なり,回転することによってその間隔は常に変化する。静止している円形部材と回転する円形部材とについて,2つの円の中心を完全に一致させることは不可能であるから,回転する円形部材の回転軸心と静止している円形部材の軸心との間にずれが生じるため,回転時には,隙間の大きさがさらに大きく変化する。ロ号物件のセンターシュートと回転軸とは,このような状態において相対的に回転しているのであり,回転筒に設けられたパッキンとセンターシュート外形寸法との値の差が「0(ゼロ)」の状態のまま,回転筒を回転させることは工業的に不可能である。仮に,回転筒下端の環状隙間を密閉しようとする場合には,パッキンとして柔軟なゴムのような素材を用い,かつ,その内径を回転筒の外形よりも小さくして回転筒を常時緊縛するようにしておかなければならないものの,このような構造では,ゴム部材とセンターシュートとの間で摩擦が生じ,回転時に装置に過大な負荷がかかり,また,高速回転によって高い摩擦熱を発生するから,現実には到底採用し得ない構造である。
30d被告がパッキンとして使用しているとする,シート状のガスケットは,あくまでも,固定された部材同士をシールするための静的シール素材であって,回転体と固定部材との間に用いる運動用のシール(動的シール)として用いることができないことは当業者にとって常識である。
回転部分をシールするためには,回転に伴う軸心のずれに対応することができるゴム状の素材であり,かつ,オイルのような流体によって摩擦を防ぐ構造が必須であるのに,被告が使用しているとするパッキンは,全くこのような機能を奏し得ない。
また,このパッキンは,わずかな厚みしかないシートであるというのであるから,そのわずかな厚み(側面)をセンターシュートに押し付けることによって,エアシールをすることができるはずはない。このパッキンには耐熱性がないから,摩擦や摩擦熱によって,パッキンが容易に破損してしまうことになる。
e被告の主張によっても,センターシュート外形寸法とパッキン内径寸法とが,厳密に同じ寸法に設計されてはおらず,●(省略)●ことを認めている。
なお,被告は,この隙間をボルト締付力によるパッキンの伸びと,センターシュート熱膨張とで塞ぐと主張するものの,およそ現実的ではない。
(イ)以上のとおり,被告の上記主張は事実に反するものである。
〔被告の主張〕(1)争点2-a(構成要件Cの充足性)について構成要件Cの「上方」が,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味であることは,イ号物件に関して既に述べたとおりである。
31ロ号物件は,含塵ガスが粉砕部から真上へ上昇するものではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し内壁側から回転ベーンに流入する。
したがって,ロ号物件のセンターシュートは,「粉砕部の真上から上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」に配置されたものではなく,構成要件Cを充足しない。
(2)争点2-b(構成要件Gの充足性)についてアイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「所定距離」は,具体的にどの程度の距離を指すのか不明であるから,ロ号物件についても,構成要件Gの充足が認められる余地はない。
イイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」るとは,空気導管を回転筒それ自体に取り付けることと解釈される。
ロ号物件は,回転筒に空気導管を取り付けたものではないから,構成要件Gを充足しない。
(3)争点2-c(構成要件Hの充足性)についてア構成要件Hについては,文言上,加圧空気が「回転筒の下端から噴出する」構成を採っていなければ,これを充足しない。
ロ号物件は,別紙3-3「下端絞り部の拡大図」にあるとおり,回転筒下端の環状隙間のパッキンはセンターシュートに接するように設けられ(センターシュートの外形寸法とパッキンの内径寸法とは同じ寸法に設計されており,),パッキンとセンターシュートとの間に隙間は存在しない。
そして,ロ号物件においては,回転筒に取り付けられ,回転筒と共に回転するパッキンが,固定されたセンターシュートに接した状態で回転筒が回転する。
ロ号物件においては,空気室に加圧空気を吹き込み空気導入孔を通じて32環状隙間内の空気を加圧してはいるものの,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでおり,回転筒の下端から空気は噴出されない。
したがって,ロ号物件が構成要件Hを充足しないことは明白である。
イ原告の主張について(ア)原告は,パッキンとセンターシュートとを接触させたまま回転筒を回転させると,大きな摩擦熱が生じるはずであり,そのような危険な構成を,当業者が採用することはない旨主張する。
しかしながら,ロ号物件を出荷するに当たり,ミルの試運転を行った際に,特に発熱の問題は発生しなかった。パッキンが接触しているセンターシュートは,それ自体,十分な放熱面積を有するので,発火の危険が生じる温度まで摩擦熱が蓄積されるような事態は想定されない。
また,ロ号物件に用いられている接触型のパッキンには,回転筒下端に設けられたもの以外にも,回転軸の軸受部に設けられたオイルシールや,粉砕機下部に設けられたカーボンパッキンなどもある。これらにおいても,摩擦熱による問題が生じたことはない。高速回転する部材と固定部材との間に接触型パッキンが用いられることは一般にも広く行われていることである。
(イ)原告は,回転筒下端の環状隙間をパッキンで塞ぐのであれば,回転筒に空気導入孔を設置して加圧空気を吹き込む必要はないのに,ロ号物件には空気導入孔が設置されていることに照らし,環状隙間をパッキンで塞いでいるはずがない旨主張する。
しかしながら,被告は,ハ号物件の回転筒下端の環状隙間をパッキンで塞ぐことでロ号物件を構成した。そのため,ロ号物件は,空気導入孔が設けられた従前のハ号物件の設計を維持したにすぎない。
また,ロ号物件の回転筒に空気導入孔を設けることは,回転部と固定部との間に設けられたオイルシールを保護する(パッキンは板状の弾性33体であるため,パッキンの両面に気圧差があると,パッキンがめくれるなどして破損し,あるいは,十分にシール機能を果たさなくなる可能性があるため,パッキンの両面の気圧を等しくすることにより,パッキンの破損等を防止する。)という技術的意義がある。
(ウ)仮に,ロ号物件において,パッキンを取り付けた際,パッキンとセンターシュートとの間に,寸法公差によりギャップが存在し得るとしても,パッキンをリングで全周にわたって押さえ付けることでパッキンが内径の中心方向に延びること及びミル運転中にミル内部の温度が上昇してセンターシュートが膨張し,環状隙間が狭められること,によって当該ギャップは塞がれるものと推測される。
また,仮に,公差内で生じる寸法のばらつきやパッキンの延びのばらつきに起因して,ミル運転中も塞ぎきれないギャップが存在したとしても,それは回転筒下端の全周ではなく,一部にとどまるものであるから,「回転筒下端の全周から噴出」させているものではなく,構成要件Hを充足しない。
(エ)原告は,回転筒の回転の軸心のずれによるギャップが存在する旨主張する。
しかしながら,ロ号物件においては,精密加工を施した歯車により回転筒を回転させるものであるから,軸心のずれはほとんど生じない。
3争点3(ハ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について〔原告の主張〕(1)争点3-a(構成要件Cの充足性)についてアハ号物件におけるセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(8)の上方で,ケーシングの中央に位置した状態で垂直に配設されている。
よって,ハ号物件は,構成要件Cを充足する。
イ被告は,構成要件Cの「上方」を,「粉砕部から真上に上昇したガス流34が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」と限定解釈すべきであると主張するものの,被告の上記主張に理由がないことは,イ号物件に関して既に述べたとおりである。
また,被告は,ハ号物件は,含塵ガスが粉砕部から真上へ上昇するものではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入する旨主張するものの,これが事実に反することは,イ号物件に関して述べたところと同様である。
(2)争点3-b(構成要件Gの充足性)についてアハ号物件は,回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度離れた上方位置に,回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入することができるように構成されている。
したがって,ハ号物件は,構成要件Gを充足する。
構成要件Gの「所定距離」,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」の解釈については,イ号物件に関し,既に述べたとおりである。
(3)争点3-c(構成要件Hの充足性)についてアハ号物件は,回転筒とセンターシュートとの間に,下端部に1.2ミリメートルないし2.4ミリメートル程度の隙間が空いており,送付装置に連結された空気導管を通じて,加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成されている。
したがって,ハ号物件は,構成要件Hを充足する。
イ被告は,構成要件Hの「下端から噴出」とは,「回転筒の回転を利用す35ることにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という意味に限定解釈されるべきである旨主張するものの,被告の上記主張に理由がないことは,イ号物件に関して既に述べたとおりである。
ウ被告は,構成要件Hの「下端から噴出」が「回転筒の回転を利用することにより環状隙間全周から空気の噴出を可能にするもの」という意味に限定解釈されることを前提に,乙第19号証のシミュレーションを提出して,ハ号物件においては,回転筒が回転している場合とそうでない場合とにおける空気の噴出状態に違いが認められず,回転筒の内周面の回転を利用する構造を採っていないから,構成要件Hを充足しない旨主張する。
しかしながら,回転筒の回転の有無により空気の噴出状態に差異がないことを立証しても,構成要件Hを充足しないとする根拠には全くならない。
被告の提出するシミュレーションは,現実にはあり得ない条件設定におけるシミュレーションにすぎず,現実の装置の空気の流れを再現したものではない。
〔被告の主張〕(1)争点3-a(構成要件Cの充足性)について構成要件Cの「上方」は,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味であることは,イ号物件に関して既に述べたとおりである。
ハ号物件において,含塵ガスは粉砕部から真上へ上昇するものではなく,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し内壁側から回転ベーンに流入する。
したがって,ハ号物件のセンターシュートは,「粉砕部の真上から上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」に配置されたものではなく,本件特許発明構成要件Cを充足しない。
(2)争点3-b(構成要件Gの充足性)について36アイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「所定距離」は,具体的にどの程度の距離を指すのか不明であるから,ハ号物件についても,構成要件Gの充足が認められる余地はない。
イイ号物件に関して既に述べたとおり,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」るとは,空気導管を回転筒それ自体に取り付けると解釈される。
ハ号物件は,回転筒に空気導管を取り付けたものではないから,構成要件Gを充足しない。
(3)争点3-c(構成要件Hの充足性)についてア構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」とは,「回転筒下端の全周から噴出するように構成した」という意味であり,かつ,かかる機能的構成要件に対応して本件明細書上具体的に開示されている技術思想は,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転していることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周から噴出するもの」に限られているから,構成要件Hを充足するのは,この技術思想を利用して「回転筒下端全周からの噴出」を達成しているものに限られることは,イ号物件に関し既に述べたとおりである。
イハ号物件は,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周から空気を噴出させているのではなく,回転筒下端の空気噴出口をリングによって狭めていること,回転筒とセンターシュートとの環状隙間の一部に狭隘部を設けていること,空気導入孔を回転筒の円周に30個配置して全ての空気導入孔から空気を吹き込むこと,により回転筒下端の全周から空気を噴出させている。
したがって,ハ号物件は,回転筒の回転を利用して回転筒下端の全周か37ら空気を噴出させているのではないから,構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」を充足しない。
ウハ号物件が,回転筒の回転を利用することによって回転筒下端の全周から空気を噴出させているものでないことは,乙第19号証のシミュレーションにおいて,回転筒の回転を止めた場合であっても回転筒下端の全周から空気が噴出されるとの計算結果が得られていることから明らかである。
4争点4(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について〔被告の主張〕本件特許は,以下のとおり,特許無効審判により無効にされるべきものであって,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することはできない。
(1)無効理由1(乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙第6号証(Energie und Technik〔1969年3月号〕。以下「乙6文献」という。)の記載(ア)乙6文献には,粉砕皿(構成要件Aに対応),粉砕ローラ(構成要件Bに対応),センターシュート(別紙5-1の符号j。構成要件Cに対応),回転筒(別紙5-1の符号k。構成要件Dに対応)及び分級羽根(構成要件Eに対応)が記載されている(別紙5-1参照)。
また,「圧力を加えた運転には,今まで使用してきた構築を変更しなければならない。何故なら,ハウジングの中を貫通する揺動アームの気密封止が困難になるからである。全く新しい設計が生じた(図2)。」(乙6の112頁左欄20行ないし23行。なお,訳文は乙90の3頁)との記載から,乙6文献に記載された粉砕機の内部が加圧雰囲気とされていることは明らかであるので,粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機(構成要件Fに対応)も開示されている。
そして,乙6文献には,図4に示された分級機と図2に示されたロー38ラミルとを組み合わせることができることも開示されており,以上を総合すれば,乙6文献には,回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機(構成要件Iに対応)が開示されていることも明らかである。
(イ)本件特許の出願当時,回転式分級機のセンターシュートは固定であるというのが従来技術であった(乙88参照)。上記技術水準を踏まえれば,その20年も前の文献である乙6文献の図4に接した当業者が,その回転式分級機のセンターシュートも固定であること,したがって,その周囲を回転する分級羽根はセンターシュートと同心状に設けられた回転筒に設けられているものと理解することは明らかである。
(ウ)仮に,「回転筒」及び「環状隙間」が存在することが,乙6文献の記載それ自体から明確ではないとしても,乙6文献に開示されている形状においてセンターシュートの周りで分級機を回転させようとする場合,センターシュートの周りに同心状に回転筒を設け,センターシュートと回転筒との間には環状隙間が存在するという構成は,乙6文献の刊行時の前後において既に当業者の技術常識となっていたのであるから(乙39の1,乙53の1,乙58,乙59の1,乙60,乙69,乙89の1),乙6文献に基づいて「回転筒」及び「環状隙間」が存在する構成は技術常識から容易に導くことができる設計事項にすぎず,実質的に乙6文献に開示されているといえる。
(エ)以上のとおり,乙6文献には,本件発明の構成要件AないしF及びIが開示されているものといえる。
イ本件発明と乙6文献記載の技術との一致点及び相違点(ア)一致点本件発明と乙6文献記載の技術とは,回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した39状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの外側に同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に配置されたベーンが取付けられ,粉砕機内部が加圧雰囲気とされた回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機である点(構成要件AないしF及びI)において一致する。
(イ)相違点本件発明と乙6文献記載の技術とは,本件発明が,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成しているのに対し,乙6文献記載の技術にはそのような構成の記載がない点(構成要件G及びH)において相違する。
ウ相違点についての検討(ア)乙第7号証(米国特許第2981490号公報。以下「乙7公報」という。)には,流路206及びパイプ216(構成要件Gの「空気導管」に対応)が記載され,かかる流路をスリーブ127とリング状部材202との間の環状隙間に接続することが記載されている。また,この流路206及びパイプ216に加圧空気を吹き込むことにより,スリーブ127とリング状部材202との間の環状隙間に空気を流し,環状隙間の下端から空気を噴出させることが記載されている(図6。別紙5-2参照)。
(イ)乙7公報記載の技術を乙6文献のセンターシュート及び回転筒,並びに両者の間の環状隙間(図4)に適用すれば,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から40噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることができる。
(ウ)乙6文献記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉砕機分野に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙6文献記載の技術を実現しようとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し,回転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙7公報記載の技術は,上記課題を解決することができる技術であるから,乙6文献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙6文献には,「圧力を加えた運転には,今まで使用してきた構築を変更しなければならない。何故なら,ハウジングの中を貫通する揺動アームの気密封止が困難になるからである。全く新しい設計が生じた(図2)。」と記載されており(乙6の112頁左欄20行ないし23行。なお,訳文は乙90の3頁),加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆されている。かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも当業者の常識となっていた(乙9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙6文献記載の技術において生じる課題を認識し,かかる課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙6文献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙6文献記載の技術及び乙7公報記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)無効理由2(乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙6文献の記載内容,本件発明と乙6文献記載の技術との一致点,相違点は,上記(1)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討41(ア)乙第8号証(特開昭57-90304号公報。以下「乙8公報」という。)には,センターシュートの外側に外筒を設け,センターシュートと外筒との間の環状空間に空気導管を連通させて空気を吹き込み下端から噴出する構成が開示されている(図2。別紙5-3参照)。
(イ)乙8公報記載の技術を乙6文献のセンターシュート及び回転筒,並びに両者の間の環状隙間(図4)に適用すれば,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることができる。
(ウ)乙6文献記載の技術と乙8公報記載の技術とは,いずれも粉砕機分野に係る技術であって,技術分野が同一であり,その構造においても,ミルの中心に石炭を投入するシュートを設け,当該シュートの周りに分級機を設けている点で類似している。
また,乙8公報記載の技術は,外筒とセンターシュートとの間の環状空間に冷却用空気を吹き込むことによる,高温下で石炭がセンターシュートに付着することの防止を主たる解決課題とする技術である。原料炭の固着によりセンターシュートが閉塞するという課題は乙6文献のセンターシュートにも存在するから,乙6文献記載の技術と乙8公報記載の技術とを組み合わせることには動機付けがある。
さらに,乙6文献記載の技術を実現しようとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し回転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙8公報に「冷却空気の流れにより分級機12において分級された大径の粉砕炭が再度舞い上がることなく良好に粉砕部に落下するという副次的効果も発揮する」(2頁左下欄9行ないし12行)と記載されていることから明らかなように,乙8公報記載の技42術は,上記課題を解決し得るものであって,この点においても,乙6文献記載の技術と乙8公報記載の技術とを組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙6文献には,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆されており,かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも当業者の常識となっていた(乙9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙6文献記載の技術において生じる課題を認識し,かかる課題を解決するために乙8公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙6文献記載の技術に乙8公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙6文献記載の技術及び乙8公報記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)無効理由3(乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙第53号証の1(MITTEILUNGEN DER VEREINIGUNG DER GROSSKESSELBESITZER〔1961年4月号〕。以下「乙53の1文献」という。)の記載(ア)乙53の1文献の第2図には,以下のとおり,構成要件AないしEに相当する構成が記載されている(別紙5-4参照)。
a乙53の1文献には,「Loescheミル(図2),即ち,バネ・ロールミルは,ミルのサイズに応じて40-90rpmで回転する粉砕台からなり,2つの大きい円錐形粉砕ローラーが粉砕台上を転動する。」旨記載されており(124頁右欄18行以下),この記載と第2図とを対比すれば,構成要件A及びBに相当する構成を理解することができる。
b第2図に原料となる石炭を投入するセンターシュートが開示されて43いることは,粉砕台との位置関係からも自明であり,構成要件Cに相当する構成が開示されている。
c第2図には,環状隙間の下端に隙間が記載されており(乙53の2〔第2図の拡大図〕),この部分に開口が存在することが開示されている(乙59の1参照)。
これにより,回転筒がセンターシュートの外側に別部材として構成されていることが分かり,構成要件Dに相当する構成を理解することができる。
また,第2図における細部の記載を別にしても,本件特許出願時点において,センターシュートの外側に回転筒を配設し,この回転筒に分級機を設ける構成は,当業者の技術常識であった(乙39の1,58,乙59の1,乙60,69,乙89の1)から,第2図から,センターシュートの周りに回転筒が配設され両者の間に環状隙間が存在する構造を,当業者が導くことができたことは明らかであり,構成要件Dに相当する構成は乙53の1文献に開示されているに等しい。
d乙53の1文献には,「ミルのハウジング上に設置された分級機は・・・近年,アメリカで普及した分級羽根を有する構造が使用されている。」旨記載されており(125頁左欄13行以下),この記載と第2図とを対比すれば,構成要件Eに相当する構成を理解することができる。
(イ)乙53の1文献には,「使用目的にもとづき,このミルは,その都度,負圧(大気圧以下の圧力),半圧(大気圧付近の圧力),全圧(大気圧以上の圧力)で運転する(図7)。」旨の記載があり(126頁右欄30行以下),また,「Loescheミルは,現在,全ての部位が完全に気圧シールされているので,全圧(大気圧以上の圧力)の加圧ミルとしても運転できる。」旨の記載がある(127頁左欄21行以下)。
44したがって,本件発明の構成要件Fに相当する構成が開示されている。
(ウ)第2図のミルを加圧雰囲気下で運転することが記載されていること,及び当該ミルが「回転分級機」を有するとされていることからすると(125頁左欄35行以下),本件発明の構成要件Iに相当する構成も開示されている。
(エ)以上のとおり,乙53の1文献には,本件発明の構成要件AないしF及びIが開示されているものといえる。
イ本件発明と乙53の1文献記載の技術との一致点及び相違点(ア)一致点本件発明と乙53の1文献記載の技術とは,回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの外側に同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に配置されたベーンが取付けられ,粉砕機内部が加圧雰囲気とされた回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機である点(構成要件AないしF及びI)において一致する。
(イ)相違点本件発明と乙53の1文献記載の技術とは,本件発明が,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成しているのに対し,乙53の1文献記載の技術にはそのような構成の記載がない点(構成要件G及びH)において相違する。
ウ相違点についての検討45(ア)乙7公報に記載されている技術内容は,上記(1)ウ(ア)記載のとおりである。
(イ)乙7公報記載の技術を乙53の1文献記載の技術に適用すれば,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることができる。
(ウ)乙53の1文献記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉砕機分野に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙53の1文献記載の技術を実現しようとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し,回転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙7公報記載の技術は,上記課題を解決することができる技術であるから,乙53の1文献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙53の1文献には,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆されている。かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも当業者の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙53の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,かかる課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙53の1文献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙53の1文献記載の技術及び乙7公報46記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)無効理由4(乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙53の1文献の記載内容,本件発明と乙53の1文献記載の技術との一致点,相違点は,上記(3)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討(ア)乙8公報に記載されている技術内容は,上記(2)イ(ア)記載のとおりである。
(イ)乙8公報記載の技術を乙53の1文献記載の技術に適用すれば,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出させる構成(構成要件G及びH)を得ることができる。
(ウ)乙8公報記載の技術は,石炭粉砕機のセンターシュートに関するものであり,乙53の1文献記載の技術と技術分野が同一である。
また,乙8公報記載の技術は,センターシュートの壁面温度が高温となるとセンターシュートの閉塞を惹起することに鑑み,冷却用空気によりセンターシュートを冷却してセンターシュートの閉塞を防止するという効果を奏するものである。乙53の1文献には,石炭の乾燥のため高温のガスが用いられることが開示されているのであるから,センターシュートの壁面温度が高温となることは自明であり(126頁右欄16行以下),センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が生じるという乙8公報記載の技術と同一の課題が生じる。
さらに,乙53の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転しようとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し回転47筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙8公報に「冷却空気の流れにより分級機12において分級された大径の粉砕炭が再度舞い上がることなく良好に粉砕部に落下するという副次的効果も発揮する」(2頁左下欄9行ないし12行)と記載されていることから明らかなように,乙8公報記載の技術は,上記課題を解決し得るものであって,この点においても,乙53の1文献記載の技術と乙8公報記載の技術とを組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙53の1文献には,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在することが示唆されている。かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることも当業者の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙53の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,かかる課題を解決するために乙8公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙53の1文献記載の技術に乙8公報記載の技術を組み合わせることは容易である。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙53の1文献記載の技術及び乙8公報記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)無効理由5(乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙第58号証(ドイツ実用新案第1699676号公報〔1955年5月登録〕。以下「乙58公報」という。)の記載(ア)乙58公報の図面には,構成要件AないしCに相当する構成が記載されている(別紙5-5参照)。
(イ)乙58公報の図面には,落下管の外側に風力分級機(1)を固定する48部材が落下管と同心円状に配置されている。当該部材の上部に風力分級機のベーンに回転駆動力を与えるためのギヤ及びこれと噛み合う三角形の部材が記載されていることからすると,上記風力分級機を固定する部材も回転することが明らかであり,構成要件Dに相当する構成も記載されている。
なお,落下管を構成する部材(4)は上記風力分級機を固定する部材とは別部材であり,図面の左上には部材(4)から左方向への水平線が引かれており,部材(4)の高さを調整するためのものと思料されるハンドルが記載されている。
(ウ)また,落下管の外側に配置された上記部材には風力分級機(1)が固定され,また,この風力分級機は放射状に配置されたベーンによって構成されているから,構成要件Eに相当する構成も記載されている。
(エ)乙58公報記載のミルが「風力分級機」を有するとされていることからすると(3頁16行目),構成要件Iのうち「回転式・・・セパレータをそなえた粉砕機」に相当する構成も記載されている。
(オ)以上のとおり,乙58公報には,本件発明の構成要件AないしE及び構成要件Iのうち「回転式・・・セパレータをそなえた粉砕機」に相当する構成が開示されているものといえる。
イ本件発明と乙58公報記載の技術との一致点及び相違点(ア)一致点本件発明と乙58公報記載の技術とは,回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの外側に同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に配置されたベーンが取付けられた構造を有する回転式セパレータをそなえた49粉砕機である点(構成要件AないしE及び構成要件Iのうち「回転式・・・セパレータをそなえた粉砕機」)において一致する。
(イ)相違点本件発明と乙58公報記載の技術とは,以下の点で相違する。
?@本件発明は内部を加圧雰囲気とした粉砕機に関する技術であるのに対し,乙58公報記載の技術には,粉砕機内部を加圧雰囲気にすることの記載がない点(相違点1)?A本件発明は,回転筒上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出するように構成しているのに対し,乙58公報には,そのような構成の記載がない点(相違点2)?B本件発明は,回転式加圧型セパレータをそなえたミルに関する技術であるのに対し,乙58公報記載の技術は,回転式分級機を備えたミルに関する技術である点(相違点3)ウ相違点についての検討(ア)相違点1について乙58公報には,粉砕機内部を加圧雰囲気として運転するか,あるいは負圧雰囲気として運転するかについて明確な記載がない。
しかしながら,本件特許の出願時点において,シールを強化することによりミル内部を加圧雰囲気として運転する構成は周知の技術常識だったのであるから(乙53の1,乙6,22),当該構成の採用は必要に応じて当業者が任意に定めることができる単なる設計上の選択事項に過ぎない。
よって,当業者は,相違点1に係る本件発明の構成を,乙58公報の記載及び本件特許の出願時点における技術常識から容易に推考すること50ができた。
(イ)相違点2についてa乙7公報に記載されている技術内容は,上記(1)ウ(ア)記載のとおりである。
b乙7公報記載の技術を乙58公報記載の技術に適用すれば,回転筒上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙58公報記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉砕機分野に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙58公報記載のミルを内部を加圧雰囲気とした状態で運転しようとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し,回転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙7公報記載の技術は,上記課題を解決することができる技術であるから,乙58公報記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることには動機付けがある。
そして,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在すること,かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることは,本件特許の出願時点で当業者の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙58公報記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,かかる課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙58公報記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることにより,相違点2に51係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(ウ)相違点3について粉砕機内部を加圧雰囲気とする構成は当業者が任意に定めることができる設計上の選択事項にすぎない。
当業者において,乙58公報記載の技術を実施するに当たり,粉砕機内部を加圧雰囲気として運転する構成を採用することは容易であって,相違点3に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙58公報記載の技術及び乙7公報記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)無効理由6(乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙58公報の記載内容,本件発明と乙58公報記載の技術との一致点,相違点は,上記(5)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討(ア)相違点1については,上記(5)ウ(ア)記載のとおりである。
(イ)相違点2についてa乙8公報に記載されている技術内容は,上記(2)イ(ア)記載のとおりである。
b乙8公報記載の技術を乙58公報記載の技術に適用すれば,回転筒上部に空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙8公報記載の技術は,石炭粉砕機のセンターシュートに関するものであり,乙58公報記載の技術と技術分野が同一である。
また,乙8公報記載の技術は,センターシュートの壁面温度が高温となるとセンターシュートの閉塞を惹起することに鑑み,冷却用空気によりセンターシュートを冷却してセンターシュートの閉塞を防止す52るという効果を奏するものである。乙58公報記載のミルも石炭の粉砕乾燥工程において駆動されることが予定されており,乾燥のため高温のガスが用いられることが予定されているのであるから,センターシュートの壁面温度が高温となることは自明であり(5頁2行以下),センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が生じるという乙8公報記載の技術と同一の課題が生じる。
さらに,乙58公報記載の粉砕機を,粉砕機内部を加圧雰囲気として運転するという設計上の選択肢を当業者が採用した場合,隙間部分をシールする必要がある。乙8公報記載の技術は,環状空間の下端開口部から冷却用空気を噴出させることによって粉砕炭を粉砕部に落下させるという副次的効果をも奏するものであるから(2頁左下欄9行ないし12行),環状隙間のシールという効果は,乙8公報記載の技術においても当然に得られる。そして,環状隙間への微粒子の侵入を阻止すれば,「センターシュート外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できるとともに,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」という本件発明の効果も,自然と達成される。この点においても,乙58公報記載の技術と乙8公報記載の技術とを組み合わせることには動機付けがある。
そして,乙58公報記載の粉砕機を,粉砕機内部を加圧雰囲気として運転するという設計上の選択をした場合,隙間部分をシールする必要があること,シールの一つの方法としてエアシールの技術があることは,本件特許の出願時点で当業者の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙58公報記載の技術を実施するに当たり,粉砕機内部を加圧雰囲気下で運転する場合において,落下管と風力分級機を固定する部材との環状隙間に微粉が侵入し,落下管及び風力分級機の固53定部材の摩耗が生じるという課題を認識し,かかる課題を解決するために乙8公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙58公報記載の技術に乙8公報記載の技術を組み合わせることにより,相違点2に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(ウ)相違点3については,上記(5)ウ(ウ)記載のとおりである。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙58公報記載の技術及び乙8公報記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)無効理由7(乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙第59号証の1(Brennstoff W□rme Kraft 11〔1959年8月号〕。
以下「乙59の1文献」という。)の記載(ア)第8図にはロプルコミルの構造が記載されている。乙59の1文献中には「従来型では2基であったローラーを3基とした。図8は二重分級機をローラーの上に設置した状態も示す。」(383頁左欄29行以下)旨記載されており,かかる本文の記載と第8図の記載とを参酌すれば,第8図に記載された各部材が構成要件A及びBに相当する構成であると理解することができる(別紙5-6参照)。
(イ)乙59の1文献中には,「石炭流入口を中央に移し」(383頁左欄28行以下)との旨の記載があり,当該記載と第8図の記載とを参酌すれば,第8図にはセンターシュート(構成要件Cに相当する構成)が開示されていることが分かる(乙69参照)。
(ウ)ミルの中央に配置されたセンターシュートの周りに,これと明らかに別の部材としてセンターシュートと同心状に筒状の部材(第8図の拡大図である乙59の2参照)が配置されている。
そして,当該筒状の部材の上部には回転運動の駆動力を与えるための駆動装置及びベルトが配置されており,これによって与えられた回転の54駆動力を分級羽根(乙69参照)に伝達するため,上記筒状の部材は全体として回転することが明らかであるから,乙59の1文献には,構成要件Dに相当する構成が記載されている。
(エ)第8図には,上記回転部材に「二重分級機」(383頁左欄33行)が取り付けられている旨が記載されていること(乙69参照)からすれば,当該部材が構成要件Eに相当するものであることを確認することができる。
(オ)以上によれば,乙59の1文献には回転する分級羽根が明確に記載されているから,構成要件Iのうち「回転式・・・セパレータをそなえた粉砕機」に相当する構成も記載されている。
イ本件発明と乙59の1文献記載の技術との一致点及び相違点(ア)一致点本件発明と乙59の1文献記載の技術とは,回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートが配設され,センターシュートの外側に同心状に回転筒が回転可能に設けられ,この回転筒には放射状に配置されたベーンが取り付けられた構造を有する回転式セパレータをそなえた粉砕機である点(構成要件AないしE及び構成要件Iのうち「回転式・・・セパレータをそなえた粉砕機」)において一致する。
(イ)相違点本件発明と乙59の1文献記載の技術とは,以下の点で相違する。
?@本件発明は内部を加圧雰囲気とした粉砕機に関する技術であるのに対し,乙59の1文献記載の技術は,内部を負圧雰囲気とした粉砕機に関する技術である点(相違点1)?A本件発明は,回転筒上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシ55ュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出するように構成しているのに対し,乙59の1文献には,そのような構成の記載がない点(相違点2)?B本件発明は,回転式加圧型セパレータをそなえたミルに関する技術であるのに対し,乙59の1文献記載の技術は,回転式負圧型分級機を備えたミルに関する技術である点(相違点3)ウ相違点についての検討(ア)相違点1について乙59の1文献記載の技術は,粉砕機内部を負圧雰囲気として運転するものである。
一方,本件特許の出願時点において,負圧型ミルにおける回転部分と固定部分との間のシールを強化することによって,当該ミルを加圧型ミルにすることができることは当業者の常識となっていた(乙6,9,22,乙53の1,乙68)。
上記技術常識からすれば,シールの強化により乙59の1文献記載の負圧型ミルを加圧型ミルに転用することは,当業者が容易に想到しうる設計事項にすぎない。
よって,当業者は,相違点1に係る本件発明の構成を,乙59の1文献の記載及び本件特許の出願時点における技術常識から容易に推考することができた。
(イ)相違点2についてa乙7公報に記載されている技術内容は,上記(1)ウ(ア)記載のとおりである。
b乙7公報記載の技術を乙59の1文献記載の技術に適用すれば,回転筒上部に空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環56状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙59の1文献記載の技術と乙7公報記載の技術とは,いずれも粉砕機分野に係る技術であって,技術分野が同一である。
また,乙59の1文献記載の負圧型ミルを加圧型ミルに転用した場合,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し,回転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙7公報記載の技術は,上記課題を解決することができる技術であるから,乙59の1文献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることには動機付けがある。
そして,加圧型粉砕機では回転部分と非回転部分との隙間に粉塵が侵入するという課題が存在すること,かかる課題を解決するためにエアシール技術を用いることは,本件特許の出願時点で当業者の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙59の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,回転筒及びセンターシュートの摩耗が生じるという課題を認識し,かかる課題を解決するために乙7公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙59の1文献記載の技術に乙7公報記載の技術を組み合わせることにより,相違点2に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(ウ)相違点3について粉砕機のシールを強化し,加圧型ミルとして運転することは,当業者が任意に定めることができる設計上の選択事項にすぎない。
当業者において,乙59の1文献記載の技術を実施するに当たり,粉砕機のシールを強化し,加圧型ミルとして運転することは容易であって,57相違点3に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙59の1文献記載の技術及び乙7公報記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8)無効理由8(乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙59の1文献の記載内容,本件発明と乙59の1文献記載の技術との一致点,相違点は,上記(7)ア及びイ記載のとおりである。
イ相違点についての検討(ア)相違点1については,上記(7)ウ(ア)記載のとおりである。
(イ)相違点2についてa乙8公報に記載されている技術内容は,上記(2)イ(ア)記載のとおりである。
b乙8公報記載の技術を乙59の1文献記載の技術に適用すれば,回転筒上部に空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み回転筒の下端から噴出させる構成が得られる。
c乙8公報記載の技術は,石炭粉砕機のセンターシュートに関するものであり,乙59の1文献記載の技術と技術分野が同一である。
また,乙8公報記載の技術は,センターシュートの壁面温度が高温となるとセンターシュートの閉塞を惹起することに鑑み,冷却用空気によりセンターシュートを冷却してセンターシュートの閉塞を防止するという効果を奏するものである。乙59の1文献記載のミルも,乙59の1文献中に「石炭の水分含有量が非常に高く,バンカーから粉砕装置への石炭供給パイプが詰まりやすい可能性を考慮しなければならない」旨記載されていること(383頁左欄45行以下),水分含有量が高い物質をミルで粉砕する場合には高温の乾燥用空気を用いる58必要があるという技術常識(乙69)に照らせば,センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が生じるという乙8公報記載の技術と同一の課題が生じる。
さらに,乙59の1文献記載の負圧型ミルを加圧型ミルに転用した場合,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵入し回転筒の円滑な回転が阻害されるとの課題が生じる。乙8公報記載の技術は,環状空間の下端開口部から冷却用空気を噴出させることによって粉砕炭を粉砕部に落下させるという副次的効果をも奏するものであるから(2頁左下欄9行ないし12行),上記課題を解決しうるものである。環状隙間への微粒子の侵入を阻止すれば,「センターシュート外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できるとともに,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」という本件発明の効果も,自然と達成される。
そして,乙59の1文献記載の負圧型ミルを加圧型ミルに転用した場合,隙間部分をシールする必要があること,シールの一つの方法としてエアシールの技術があることは,本件特許の出願時点で当業者の常識となっていた(乙6,9,10,22,乙53の1,乙68)。
したがって,乙59の1文献記載のミルを加圧雰囲気下で運転する場合において,センターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が侵入し,センターシュート及び回転筒の摩耗が生じるという課題を認識し,かかる課題を解決するために乙8公報記載の技術を組み合わせることには,動機付けがあったものといえ,当業者において,乙59の1文献記載の技術に乙8公報記載の技術を組み合わせることにより,相違点2に係る本件発明の構成を容易に推考することができた。
(ウ)相違点3については,上記(7)ウ(ウ)記載のとおりである。
(エ)以上によれば,本件発明は,乙59の1文献記載の技術及び乙8公報59記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9)無効理由9(昭和62年改正前特許法36条4項違反の無効理由)について本件発明の構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離であるのか明確ではなく,本件明細書中にはその意義を特定し得る記載はない。
したがって,本件特許の請求項の記載は,発明の構成に欠くことができない事項を記載したものとはいえず,本件特許は,昭和62年改正前特許法36条4項の要件を充たさない。
(10)無効理由10(昭和62年改正前特許法36条3項違反の無効理由)についてア当業者が本件発明を実施するためには,構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離であるかを特定する必要がある。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,これを特定し得ない。
したがって,本件特許は,発明の詳細な説明の記載を参酌しても当業者において実施することができないものである。
構成要件Gの記載は,空気導管を回転筒それ自体に取り付けることを意味するものの,上記構成を取ると,本件発明の作用効果を奏することは不可能である。
発明の詳細な説明参酌しても,高速で回転する回転筒に具体的にどのような方法で空気導管を取り付ければよいのか,その方法につき十分な開示がなく,本件発明の作用効果を生じることが可能な構成は発明の詳細な説明にも開示されていない。
したがって,この点においても,本件特許は,発明の詳細な説明の記載を参酌しても当業者において実施することができないものである。
60ウ以上のとおり,本件特許は,発明の詳細な説明参酌しても実施不可能なものであるから,当業者が容易に実施することができる程度に記載されたものとはいえず,昭和62年改正前の特許法36条3項の要件を充たさない。
〔原告の主張〕本件特許は,以下のとおり,特許無効審判により無効にされるべきものであるとは認められない。
(1)無効理由1(乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙6文献の記載について(ア)被告は,乙6文献の図4に記載された分級機が,加圧式及び負圧式ミルのいずれにも搭載可能であるかのように主張する。
しかしながら,乙6文献中には,図4記載の分級機が加圧式ミルにも搭載可能なものである旨の記載は一切ない。乙6文献の図4と図2とは,全く別の構造であるにも関わらず,被告は乙6文献中にある「加圧ミル」に関する記載と「回転式分級装置」に関する記載を組合せ,あたかも図4が「加圧ミル」において「回転式分級装置」が使用されている例であるかのように主張しているにすぎない。
乙6文献中の「加圧動作用には,ハウジングを通って案内される揺動レバーのシーリングが困難になることがあるので,従来から使用されている構造を変更する必要があった。それは全面的に新たな構造になった[図2]。」旨の記載があり(甲11の2頁),加圧式ミルと記載されているのは,明らかに「図2」のミルでしかない。この「図2」に記載されている分級装置は,回転式の分級機ではなく,固定式分級機であることは,図面自体から明らかである。
このことは,乙6文献中の「上記のロール・ミルは2つの分級装置,すなわちフラップ遠心分級装置[図2],または回転式分級装置[図614]を備えることができる。回転式分級装置は急峻な粒度特性曲線を有する優れた分級効果を有している。この曲線は無段階の回転数調整によって粗調整または微調整範囲にシフトすることができる。分級装置は,極めて均一な,または微細な完成した粉炭が必要な場合は常に使用される。吹き込み式ミル用にはほとんどの場合フラップ遠心分級装置で充分である。分級装置は構造が簡単で,保守は必要ない。」旨の記載(甲11の3頁)からも分かる。すなわち,上記記載において,「フラップ遠心分級装置[図2]」と「回転式分級装置[図4]」とを明確に分け,図2のものを「フラップ遠心分級装置」とし,図4のものを「回転式分級装置」としており,「吹き込み式ミル用」には「フラップ遠心分級装置で充分」としている。吹き込み式ミルとは,粉砕した石炭を直接燃焼装置に吹き込むミルを示し,加圧式ミルは吹き込み式のミルに使用される。乙6文献の記載は,加圧式ミルには「フラップ遠心分級装置」すなわち固定式のベーンをもつ分級装置で充分であるとし,加圧式のミルを示す図2のミルには,当該記載のとおり固定式分級装置が示されている。
乙6文献においては,図4の「回転式分級装置」は,負圧式に適用することを記載しているにすぎず,加圧式ミルには固定式分級装置で充分であるという本件発明とは反対の示唆をしているのである。
したがって,乙6文献の開示内容から,図2に示す加圧式ミルの固定式分級装置に代えて,図4に示す回転式分級機を使用しようとする必要性が存在しない。
(イ)乙6文献には,センターシュートと分級装置が相互に分離して相対的に回転することはどこにも記載されていない。
むしろ,上記のとおり,「構造が簡単で保守が必要ない」としていることから分かるとおり,センターシュートと回転羽根部分が分離して相対的に回転するような複雑な仕組みではないことが理解される。
62(ウ)以上のとおり,乙6文献には,?@図2に加圧式のミルの記載はあるものの,そのミルに用いられているのは,固定ベーンを用いた固定式分級機であること,?A図4に回転分級機の記載はあるものの,それは負圧式ミルに用いられるものであること,?B図4のミルはセンターシュートと分級装置とが相互に分離して相対的に回転するものであることについての記載がないこと,しか開示されていない。
イ本件発明と乙6文献記載の技術との相違点について(ア)乙6文献には,本件発明の構成要件のうち,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I)のいずれも記載されていない。
(イ)したがって,乙6文献記載の技術には,本件発明の「粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する」(本件明細書1頁2欄13行ないし19行)という課題が生じることはないから,構成要件G及びHによって,回転筒とセンターシュートとの隙間に高い圧力空気を吹き込むことにより,「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該隙間(センターシュートと回転筒の隙間)下端開口か63ら侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が確実に阻止される。従って,センターシュートの外周面や回転筒の内周面に摩耗による損傷を与えることもなく,また回転筒の円滑な回転を阻害することもない」(本件明細書2頁4欄37行ないし43行)とする構成を想到するはずはない。
ウ乙6文献と乙7公報との組合せによる容易想到性について(ア)乙7公報の記載a乙7公報記載の技術は,インパクタと呼ばれる「破砕機」であり本件発明の「粉砕機」とは技術分野が全く異なる。すなわち,乙7に開示された「破砕機」とは,図4から分かるように,回転プレート56の上にシュート72によって破砕物を斜め上から供給し,遠心力で飛ばしてターゲット62,64にぶつけて「破砕」する構造であり,本件発明の「センターシュート」も,その「外側に同心状に回転筒を設けた」構造も存在しない。しかも,加圧雰囲気下で使用されるものではないから,粉塵が回転筒の間隙に常に吹き込むような構造でもなく,本件発明の粉砕機とは作用も構造も全く異なるものである。
被告が主張する図6のシール部分は,装置の内外の境界に設けられ,粉塵が装置外部に洩れないように装置内部と外部とを遮断するための軸方向に狭い範囲をシールすることによって,シール部分とそれ以外の部分を遮断する技術である(乙7の7欄41行ないし61行)。
このような構造は,本件発明のようなセンターシュートと回転筒との関係における課題,解決手段とは異なる技術である。
b乙7公報記載の技術は,漏洩防止用のシールであるから,シール部分の長さは軸方向に極めて短いものにすぎない。本件発明の粉砕機のように,センターシュートと回転筒という上下方向にある程度の長さを必要とする円筒部分が相対的に回転する構造を全く想定していない。
64c以上のとおり,乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F)との構成はなく,全く一致しない。
また,乙7公報記載の技術において回転するのは内側の中実状のスリーブ127であり,外側のリング202は回転せず,空気導管は固定されたリング202側に設けられている。すなわち,「隙間」があっても「回転筒とセンターシュートとの環状隙間」ではないから,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G)との構成とも一致しない。
さらに,乙7公報記載の技術における「隙間」は,「回転筒とセンターシュートとの環状隙間」ではないから,「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H)との構成とも一致せず,「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I)との構成も備えていない。
(イ)乙6文献と乙7公報との組合せについて乙7公報には,上記のとおり,構成要件DないしIのいずれの構成も記載されていないから,乙6文献記載の技術に乙7公報記載の技術をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(2)無効理由2(乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙8公報の記載(ア)乙8公報に開示された技術は,本件発明や乙6文献記載の技術の「ローラミル」とは異なるいわゆる「ボールミル」において,センターシュートの壁面が高温になることを防止するための技術である。
「ボールミル」では,センターシュートを粉砕テーブル直上まで伸ば65すようになっていて,センターシュートの壁面温度が高くなるので,センターシュートを冷却するため,二重管構成として冷却用の空気を流すようになっている。
したがって,本件発明とは,課題,目的,解決手段,作用効果のいずれも相違する。
(イ)乙8公報記載の技術は,シュート8の外側に設けられた外筒17が回転する構造ではないから,外筒17の回転が阻害される,という本件発明が解決しようとする課題が存在しない。
乙8公報の「この発明の目的は上述した従来技術の問題点を除去し,原料炭の閉塞が生じない竪型のボールミルを提供する」(2頁左上欄6行ないし8行)との記載は,環状隙間の閉塞を問題にしているのではなく,シュート内部に原料炭が付着してシュート自体が閉塞することを問題にしており,そのような閉塞がシュートを冷却することで防止できるとしているのであって,本件発明とは意味内容が全く異なる。
(ウ)乙8公報記載の技術は,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けたものではないから,本件発明と乙6文献記載の技術との相違点に係る構成は開示されていない。
(エ)乙8公報には,加圧型ミルは開示されていない。
(オ)乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F)との構造はなく,全く一致しない。
また,乙8公報にある「隙間」は,冷却用のものであって「回転筒とセンターシュートとの環状隙間」ではないから,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件66G)とも一致しない。
さらに,乙8公報にある「隙間」には冷却空気を導入するだけであるから,「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H)とも一致しないし,「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I)とも一致しない。
イ乙6文献と乙8公報との組合せについて(ア)乙6文献には,センターシュートが高温になってセンターシュートの内面に石炭が付着するなどという課題は全く示唆されていない。
そもそも,乙6文献記載のローラミルでは,センターシュートは粉砕ローラと干渉しないように,粉砕テーブルよりもはるかに高い位置に設けられるので,センターシュートを冷却する必要自体がない。
乙8公報の「冷却空気の流れにより分級機12において分級された大径の粉砕炭が再度舞い上がることなく良好に粉砕部に落下する」という記載は,本件発明のように,微紛が環状隙間に吹き込むことを想定したものではない。
以上のとおり,乙6文献記載の技術に,乙8公報記載の技術を組み合わせる動機付けは存在しない。
(イ)当業者において,何の理由もなく,負圧型ミルを加圧型に適用しようとすることはない。
乙8公報記載の技術は,センターシュートを冷却するために,センターシュートを二重管にし,その間に冷却用の空気を流す技術である。このような構成を本件発明のような加圧型ミルに適用することはできないから,仮に,乙6文献の図2のミルが加圧型ミルであったとしても,これに乙8公報記載の技術を組み合わせることはできない。
加圧型ミルは,粉砕された石炭を,粉砕部から吹き込んだ熱空気によりまず乾燥させ,次いで,同空気で微粉炭を気流搬送し,直接ボイラに67吹き込むシステムに使用されるので,ミル運転がボイラ運転に連動する必要があり,ボイラ運転の負荷変動に対する追従が要求される。また,燃焼の際の燃焼温度を高温とするため,加圧型ミルにおいては,一次空気以外の空気をミル内に挿入することは,好ましくないものとしてできる限り排除する必要がある。このように,ミル内への熱乾燥用の空気以外のエアー(特に冷却エアー)の導入がミル運転にとって好ましくないことは,乙8公報記載の技術を加圧型ミルに適用する場合の決定的な阻害要因となる。
(ウ)乙8公報には,上記のとおり,構成要件DないしIのいずれの構成も記載されていないから,乙6文献記載の技術に乙8公報記載の技術をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(3)無効理由3(乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙53の1文献の記載乙53の1文献の第2図は,センターシュートの外側の垂直線による外形線のみが記載され,しかもその先端が途中で切れたような記載となっている,通常の製図法によらない図であり,このような記載ではどのような構造を示したものであるのか全く不明である。
また,第2図には,センターシュートと分級装置が本件発明のように相互に分離して相対的に回転することなどは記載されていない。
上記第2図のように正確さの期待できない図面の部分の記載によって,詳細な構造を特定しようとする被告の主張には無理がある。
イ本件発明と乙53の1文献記載の技術との相違点について(ア)乙53の1文献には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡68された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていない。
(イ)したがって,乙53の1文献記載の技術には,本件発明の「粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する」(本件明細書1頁2欄13行ないし19行)という課題が生じることはないから,構成要件G及びHによって,回転筒とセンターシュートとの隙間に高い圧力空気を吹き込むことにより,「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該隙間(センターシュートと回転筒の隙間)下端開口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が確実に阻止される。従って,センターシュートの外周面や回転筒の内周面に摩耗による損傷を与えることもなく,また回転筒の円滑な回転を阻害することもない」(本件明細書2頁4欄37行ないし43行)とする構成を想到するはずはない。
ウ乙53の1文献と乙7公報との組合せによる容易想到性について乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を69連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
技術常識との主張について被告は,証拠(乙6,58,乙59の1,乙60,69,乙89の1)を参照すれば,センターシュートの周りに同心状に回転筒を設け,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在するという構成は,直ちに導くことができる旨主張する。
しかしながら,被告の上記主張は,乙53の1文献に記載のないものを記載があることとして解釈せよ,というに等しいものであり,失当である。
(4)無効理由4(乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
イ乙53の1文献と乙8公報との組合せによる容易想到性について被告は,乙53の1文献記載の技術には,石炭の乾燥のため高温のガスが用いられることが開示されているのであるから,センターシュートの壁70面温度が高温となることは自明であり,センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が生じるという乙8公報記載の技術と同一の課題が生じる旨主張する。
しかしながら,乙53の1文献には,センターシュートが高温になってセンターシュートの内面に石炭が付着するなどという課題は一切示唆されていないし,当業者の技術常識から見ても,そのような問題が存在するとは考えられない。
乙53の1文献記載のローラミルでは,センターシュートは粉砕ローラと干渉しないように粉砕テーブルよりもはるかに高い位置にもうけられるので,センターシュート先端付近では,搬送空気は既にかなりの低温となる。このため,センターシュートを冷却する必要自体がない。
以上のとおり,乙53の1文献記載の技術に,乙8公報記載の技術を組み合わせる動機付けはない。
(5)無効理由5(乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙58公報の記載被告は,乙58公報には「回転式の分級装置」が開示されている旨主張する。
しかしながら,乙58公報記載の技術は固定式の分級装置であり,負圧型のミルである。
乙58公報には,その分級機について,「回転分級機」であることなど,一言も記載されていないし,図面上も回転分級機であると解釈する根拠は見当たらない。
被告の主張は,乙58公報の図面上部にギアが存在することに基づくものの,このギアは筒4を上下させるためのものである。被告の主張は,乙58公報の図面に明確に記載された右上の筒4に設けられたスリットとピンの図を全く無視しようとするものである。
71イ本件発明と乙58公報記載の技術との相違点乙58公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていない。
ウ乙58公報と乙7公報との組合せによる容易想到性について乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(6)無効理由6(乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由)について乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り72付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(7)無効理由7(乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙59の1文献の記載乙59の1文献の第8図は,簡略化した図面にすぎず,同図面からは,センターシュートと相対的に回転する回転セパレータを設けた構造であるのかどうか自体も明らかではない。第8図は,構成部材を記載したものであり,現実の構造を表したものとは考えらない。
また,乙59の1文献中には,分級機がセンターシュートに対し相対的に回転することの記載はない。
仮に,乙59の1文献記載の技術に回転分級機が備わっているとしても,同技術は負圧式のものである。本件特許の出願時の技術水準では,加圧型ミルに前記のような環状隙間を形成する回転式セパレータを採用した例は知られておらず,粉砕された微粉がセンターシュートや回転筒に付着するような事態はまったく想定されていなかった。ところが,加圧型ミルにおいては,センターシュートと回転筒との間の隙間に微粉が侵入して固着発達して回転筒の円滑な回転が阻害されるという問題が発生し,センターシュートと回転筒との間の環状隙間を,その上部において外気と遮断するシールを施すだけでは足りない,という課題が本件特許の発明者によって発見されたのであり,その課題の解決手段として回転筒下端から加圧空気を噴出する構成を選択したのが本件発明である。従来の負圧型ミルを加圧型に転用する場合のもつ問題こそが課題であり,本件発明は,構成要件G及びHによって,回転筒とセンターシュートとの隙間に高い圧力空気を吹き73込むことにより,この課題を解決しようとするものであるから,このような課題のない従来技術によって,本件発明の構成に想到することはない。
イ本件発明と乙59の1文献記載の技術との相違点乙59の1文献には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),の構成については,その存否が不明であると共に,「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),については記載されていない。
ウ乙59の1文献と乙7公報との組合せによる容易想到性について乙7公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(8)無効理由8(乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)について乙8公報には,「センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」(構成要件D),「回転筒には放射状に配置されたベーンを取り付74け」(構成要件E),「粉砕機内部を加圧雰囲気」(構成要件F),「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取り付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置を連通」(構成要件G),「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出する」(構成要件H),「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」(構成要件I),のいずれも記載されていないのであり,記載のないもの同士をいかに組み合わせても,本件発明に想到することはない。
(9)無効理由9(昭和62年改正前の特許法36条4項違反の無効理由)について構成要件Gの「所定距離」とは,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」と記載されていることから明らかなとおり,回転筒下端ではなく,これより離れた上方位置に空気導管を取り付けることを規定している。その意義は明確であり,本件明細書の第2図にも記載されているとおりである。
(10)無効理由10(昭和62年改正前の特許法36条3項違反の無効理由)について本件明細書の第2図は,本件発明の構成を示す概念図であり,現実の装置の図面でないことは明らかである。
回転する円筒体に空気を導入する装置構成は,本件特許の出願前に周知であり(甲9,10参照),本件明細書に示す空気導管16は,このような装置を前提として抽象的に図示したものである。
したがって,当業者において,上記の図示によって,本件発明の実施は可能である。
5争点5(損害額又は不当利得額)について〔原告の主張〕(1)被告は,遅くとも,本件発明が出願公告された平成2年10月31日には75被告製品の製造販売を開始し,本件特許権の存続期間が満了した平成14年6月29日まで,被告製品の製造販売を継続した。
(2)実施料相当額(特許法102条3項又は不当利得額)ア上記期間において被告が製造販売した被告製品の売上げは,総額226億円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額226億円の5%に相当する11億3000万円を下らない。
イ仮に,上記期間における被告が製造販売した被告製品の売上総額が上記アの金額と認められないとしても,被告製品の売上総額は199億7000万円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額199億7000万円の5%に相当する9億9850万円を下らない。
ウまた,仮に,上記期間における被告が製造販売した被告製品の売上総額が上記イの金額と認められないとしても,被告製品の売上総額は171億8792万9900円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額171億8792万9900円の5%に相当する8億5939万6495円を下らない。
エさらに,仮に,上記期間における被告が製造販売した被告製品の売上総額が上記ウの金額と認められないとしても,被告製品の売上総額は153億9440万6780円を下らない。
本件発明の実施料率としては,5%が相当である。
原告の損害は,被告製品の売上総額153億9440万6780円の5%に相当する7億6972万0339円を下らない。
76(3)弁護士費用本件の弁護士費用としては,7000万円を下らない。
〔被告の主張〕(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)販売数量について別紙1のA発電所へのハ号物件の販売数量6基のうち,3基については,本件特許の出願公告前に納入された(これら3基については,平成2年8月までに全ての部品の納入が完了している。)ものであり,損害賠償額等の算定の基礎から除外されるべきである(乙94)。
(3)実施料額及び実施料率についてア被告は,回転式分級機に関するライセンス契約の例として,乙第62,第63号証を提出する。これらは,被告が,ドイツ・バブコック社との間で締結した技術提携契約に係る契約書であり,被告製品(イ号物件,ロ号物件及びハ号物件)は,いずれも,上記契約に基づく技術協力によって製作されたものである。
イ上記ライセンス契約におけるライセンス料は,回転式分級機の全構造・機能に関する技術に対するものであるから,本件発明に関連する技術が同ライセンス料に占める部分比は,被告の回転式分級機において,環状隙間にシールエアを吹き込む技術に関連する部材(センターシュート,回転筒,シールエア送風機,送風機用モータ,シールエア配管,に関する部分)が回転式分級機全体に占める割合をその原価によって計算すると,約10%程度である。
また,上記ライセンス契約において,提供される回転式分級機の技術上の特徴点は14ないし15項目にわたっており,環状隙間にシールエアを吹き込む技術に対応する「Sealing air line」は,これらの項目のうちの1つにすぎない。これらの項目にライセンス料を割り付ければ,上記項目77に対応する部分比は14分の1ないし15分の1程度ということになる。
以上によれば,上記ライセンス契約におけるライセンス料のうち,環状隙間にシールエアを吹き込む構造の占める部分比が10%を上回ることはない。
ウ上記ライセンス契約におけるライセンス料のうち,本件発明に相当する構成の按分割合を10%とみて,1ドイツマルクを70円と換算し,各発電所ごとに試算を行うと,ライセンス料は669万8650円となる。
したがって,実施料相当額が,669万8650円を超えることはない。
エ上記実施料相当額から算出した実施料率は,約0.05%である。
(4)実施料相当額の算定に当たっては,以下の事情を考慮すべきである。
ア本件発明は,公知技術周知技術の単なる寄せ集めにすぎず,また,シール効果以上の画期的な効果をもたらすものではない。
イ本件発明は,ミルに搭載される分級機のセンターシュートと回転筒との環状隙間にエアシールを行うものであって,ミル全体の構成に関連する技術ではなく,回転分級機のごく一部に関する改良技術にすぎない(本件発明の寄与率による補正が必要である。)。
ウ被告製品の納品先は発電所であり,その用途はボイラーにおける燃焼設備の燃料用石炭の粉砕・乾燥であり,我が国において,発電所向けの大型ボイラーを受注し,製造することができるメーカーは,事実上,株式会社日立製作所,三菱重工業株式会社,株式会社IHIの3社に限られる。
本件発明に係る構成が被告製品の売上げに貢献した事実はなく,原告と被告とでは,顧客層や市場も異なる。
エ原告は,平成17年ころ,三菱重工業株式会社及び株式会社IHIとの間で和解に至っているものの,これらの和解合意におけるライセンス料は無償であるか,極めて低額なものであった。
オミルにおいて,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉塵が侵78入することを防止するためには,必ずしも本件発明のようなエアシール技術を用いる必要はなく,パッキンなどによる他のシール方法による代替が可能である。
第4当裁判所の判断1争点1(イ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について前記争いのない事実等(5)記載のとおり,イ号物件は本件発明の構成要件A,B,D,F及びIを充足する。
以下,イ号物件が構成要件C,E,G及びHを充足するか否かについて検討する。
(1)争点1-a(構成要件Cの充足性)ア「上方」の意義について(ア)被告は,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,「下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該隙間下端開口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が確実に阻止される。」(2頁4欄37行ないし40行)との記載があることから,本件発明が解決すべき課題は,下方の粉砕部からガス流が真上に上昇してきて環状隙間の下端から侵入しようとするという現象であるとし,本件発明の粉砕機は,解決すべき上記現象を生じる構造であることを要するから,構成要件Cにおける「上方」とは,単にセンターシュートが粉砕ローラの上方にあるという意味ではなく,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」を意味すると解すべきである旨主張する。
しかしながら,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明に「従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中79心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。」(1頁2欄10行ないし19行),「本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的としている。」(1頁2欄20行ないし22行)と記載されているとおり,本件発明が解決しようとする課題は,従来の回転式セパレータを加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部が加圧雰囲気であるため,粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に微粉が侵入し,固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷したりするという点にある。
この課題を解決したのが本件発明であって,「粉砕部から真上に上昇してきたガス流が回転筒の下端に直接ぶつかる」ことによって,センターシュートと回転筒との隙間に微粉が侵入するという現象のみを課題とした発明ではない。
(イ)本件特許の出願過程において出願人から提出された意見書(甲5の1,乙1の7)中には,被告が指摘するように,「第2引用例(特開昭55-92145号)に示されているものは,粉砕機のローラの軸受部への粉塵の侵入防止を計るためのシール空気の供給構造であり,本願発明のように粉砕部から含塵ガスが真上に上昇して来て丁度そこに垂直状態で位置するセンターシュートと回転筒にぶつかる構造のセパレータに対して該センターシュートと回転筒との間の環状の隙間への粉塵の侵入防止を計るようにしたものではない。このように,この引用例と本願発明とはシール空気を供給する対象が異なると共にシール空気を供給して粉塵80の侵入を阻止する対象部分への含塵ガス流の流入の仕方や含塵濃度が全く異なり本願発明の場合は引用例の場合よりもかなり条件が悪い。」(6頁7行ないし20行)との記載がある。
しかしながら,上記記載は,特開昭55-92145公報(甲5の2)を出願前公知技術として引用した拒絶理由通知がされたのを受けて(乙1の6),粉砕機のローラの軸受部への粉塵の侵入を防止するためのシール空気の供給構造を開示する引用例(甲5の2,2頁右下欄11行ないし19行)に対し,本件発明が粉砕部の上方に位置するセンターシュートと回転筒との間の環状隙間への粉塵の侵入を防止するためのシール空気を供給する構造であることを主張するものであり,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」こととなる構成と「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかる」こととなる構成との差異点を強調するものではない。
したがって,上記出願経過参酌して,構成要件Cにおける「上方」の意味を限定解釈すべきであるとはいえない。
(ウ)以上によれば,「上方」を「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」と限定解釈すべき理由はなく,構成要件Cの「上方」とは,単に,粉砕ローラの「うえの方」を意味するものと解すべきである。
イ対比(ア)イ号物件のセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)の上方で,ケーシングの水平方向中央に位置した状態で垂直に配設されている(別紙2-1の構成イc1及び別紙2-2)。
したがって,イ号物件は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」を充足する。
81(イ)この点,被告は,構成要件Cにいう「上方」とは,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味であるとした上で,イ号物件では,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から固定ベーン及び回転ベーンに流入するから,粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかる構造を有さず,構成要件Cを充足しない旨主張するものであって,「粉砕部から上昇した含塵ガスが回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じること自体を否定するものではない。
イ号物件は,「回転筒(16)下端から2メートルから3メートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むことにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間に空気を導入できるようにしている」(別紙2-1構成イg),「上記環状隙間は・・・この隙間に回転筒(16)下端における空気の噴出速度が平均約28メートル毎秒以上となるような加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している。」(同構成イh)との構成を有することから明らかなとおり,センターシュートと回転筒との間の環状隙間にエアシールを施していることに照らし,イ号物件においても,本件発明が解決しようとする課題に係る現象,すなわち,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象は生じているものと認められる。
そして,被告が主張する上記解釈(粉砕部から「真上に」上昇したガス流が回転筒の下端に「直接」ぶつかることとなる上方位置)を採用す82ることができないことは前述のとおりである。
(ウ)なお,被告は,イ号物件においては,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から固定ベーン及び回転ベーンに流入するのであり(熱風A),これとは別に,分級機ホッパの内部を通過して上昇する含塵ガス(熱風B)は存在しない旨主張する。
aこの点,被告は,イ号物件におけるスロートは,ミルの中心方向に向かって傾いていると同時に,ミルの円周方向にも傾いているため,スロートで吹き上げられた微粉炭は,スロートから粉砕機内壁へ向かって吹き上げられ,粉砕機の内壁にぶつかった上で,ミル内壁に沿って旋回しながら上昇するとする。
しかしながら,イ号物件におけるスロートは,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく,粉砕機の中心方向にも傾いているのであるから(乙23,27),スロートからの熱風が,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)にのみ向かうとは考え難い。
また,イ号物件においては,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく粉砕機の中心方向にも傾いているスロートから,高圧の空気が噴出しており,また,粉砕部の中心部の空気の圧力はスロート部より噴出された空気の圧力より低いのであるから,円周方向に向けて噴出された熱風も次第に拡散しつつ,その一部は,圧力の低い粉砕機の中心部に向かう流れを形成するものと考えられる(甲14,24,27)。
b被告は,イ号物件の内壁を観察すると,各タイルの中央のねじ止め箇所や各タイルの境界線から右上方向に摩耗痕が延びており,これは,微粉炭がミル内壁に衝突して右上方向に流れていくことを示す旨主張する。
しかしながら,上記摩耗痕は,粉砕機内壁に沿った旋回流が存在す83ることを示すものであるとはいえるものの,粉砕機の中心部へ向かう空気の流れの存在を否定するものとはいえない。
c被告は,イ号物件の分級機ホッパ下端では,鉛直方向下向きに空気が流れているから,仮に,スロートから吹き上げられた微粉炭が分級機ホッパ下端開口部に近づいたとしても,当該開口部から流入することはない旨主張する。
しかしながら,上記事実を認めるに足りる証拠はない。センターシュートから供給される石炭量は,粉砕機ごとに,また,実際の使用状況によっても異なるのであり(被告の主張においても,「センターシュートより供給される石炭と分級による戻り炭の落下量はミルの大きさによっても異なるが,合計で毎分1トンないし2トン程度にものぼる」とされており,供給される石炭量が,粉砕機によって異なることが述べられている。),センターシュートから分級機ホッパを経て粉砕部に石炭が供給されることから,直ちに,イ号物件の構成として,微粉炭が分級機ホッパ下端から流入することはないと断ずることはできない。
かえって,前記のとおり,イ号物件は,構成イg及びイhの構成を有し,センターシュートと回転筒との間の環状隙間にエアシールを施していることに照らしても,微粉炭が分級機ホッパ下端から流入するという現象が全く生じないとは考え難い。
d上記で検討したところによれば,イ号物件においては,分級機ホッパの内部を通過して上昇する流れの熱風(B)も存在するものと考えられる(原告平成19年7月2日付け「準備書面(原告その6)」4頁説明図(1)参照)。
よって,イ号物件は,この点においても,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じているものと考え84られる。
(2)争点1-b(構成要件Eの充足性)ア「放射状」の意義について被告は,構成要件Eにおける「放射状」にベーンを配置するとは,「ベーンの長手方向を構成する直線部分が回転筒の中心から四方八方に延びるように配置すること」を意味する旨主張する。
(ア)本件明細書中には,「放射状」について特に定義した記載はない。
また,図面(第1図,第2図)を参照すると,本件発明の実施例においては,「ベーンの長手方向を構成する直線部分が回転筒の中心から,傾斜した状態で四方八方に延びるように配置されている」ことが記載されているものの,ベーンの水平方向の断面図はなく,上記実施例における,ベーンの短手方向を構成する直線部分と「回転筒の中心部分から延びる線との位置関係(角度が付けられているのか否か)は特に記載されていない(乙15の第5図と第7図を参照)。
ところで,本件明細書中には,本件発明が解決しようとする課題に関し,「従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的としている。」(1頁2欄10行ないし22行)と記載されており,上記課題解決の手段として,「本発明においては,上記の目的を達成するために,センターシュート(原料85送入シュート)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み,環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(1頁2欄23行ないし2頁3欄8行)と記載されている。これらの記載によれば,本件発明の作用効果を奏するためには,回転筒にベーンを取付けたロータ(回転子)が固定されていることを要するものの,ベーンの長手又は短手方向を構成する直線部分が「回転筒の中心から,傾斜した状態で」配置されているのか,それとも,「回転筒と同心状に,平行して」配置されているのか,あるいは,ベーンの長手又は短手方向を構成する直線部分が「回転筒の中心部分から延びる線と一致する状態で」配置されているのか,それとも,「回転筒の中心部から延びる線と角度が付けられた状態で」配置されているのか等,ベーンの傾斜や角度が,本件発明の作用効果を奏するか否かと直接の関係を有するものではないことが分かる。
そうすると,本件構成要件Eの「放射状」を,本件明細書中の一実施例におけるベーンの配置,すなわち,「ベーンの長手方向を構成する直線部分が回転筒の中心から四方八方に延びるように配置すること」と限定解釈すべきであるとはいえない。
(イ)「放射状」とは,一般に,「中央の一点から四方八方に放出した形のもの」(乙3,広辞苑第五版),「線状のものが中心から四方に出ているさま」(乙2,大辞林第三版),「一点を中心に四方八方へ伸び出た形。」(乙28,大辞泉),「線が1点から四方八方に出ている形」(乙29,デイリーコンサイス国語辞典),「線などが,ある一点から四方八方に放ち出た形。」(乙30,角川国語大辞典),「線などが中86央の一点から四方にのび広がった形。」(乙31,学研国語大辞典),「一点から四方八方にひろがったかたち。また,その形状のもの。」(乙32,日本国語大辞典)を意味する。
(ウ)したがって,構成要件Eの「放射状」とは,その用語の意味内容に従い,「回転筒を中心として,四方に放出した位置にある態様」の意味であると解すべきである。
イ対比(ア)イ号物件の回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)(4)が取り付けられており,回転ベーン(4)の配置及び形状は,別紙2-2の図面,別紙2-3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベーンの配置及び形状(上から見た図)」及び「回転ベーンの写真」のとおりとなっている(別紙2-1の構成イe1)。
上記によれば,イ号物件における回転ベーン(4)は,回転筒を中心として,四方に放出した位置に配置されているから,構成要件Eの「この回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け,」を充足する。
(イ)被告は,イ号物件においては,「ベーンの長手方向を構成する直接は回転筒と平行になるように,水平面から垂直に配置されている」,「各ベーンの短手方向を構成する直線も,回転筒の中心から延びる線と角度が付けられており,それらの直線を回転筒方向に延長しても一致しない」から,構成要件Eを充足しない旨主張する。
しかしながら,構成要件Eの「放射状」とは,その用語の意味内容に従い,「回転筒を中心として,四方に放出した位置にある態様」の意味であると解すべきであることは,既に述べたとおりであり,これらの配置を特に除外すべき理由はない。
このことは,粉砕機,分級装置やファン装置に係る発明の公報等(甲15ないし18,乙14,17)によれば,ベーンが回転中心と同心円87状に配置されている場合,ベーンが回転筒の中心部から延びる線と角度が付けられた状態で配置されている場合,あるいは,放射中心が一点でない場合にも,位置関係を「放射方向」や「放射状」と表現している例があることが認められることからも裏付けられる。
(3)争点1-c(構成要件Gの充足性)ア「所定距離」の意義について(ア)被告は,構成要件Gの「所定距離」の意味は,それが具体的にどの程度の距離を指すものであるかについて特許請求の範囲に記載がなく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明である旨主張する。
(イ)本件明細書中には,本件発明が解決しようとする課題に関し,「従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。
本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的としている。」(1頁2欄10行ないし22行)と記載されており,上記課題解決の手段として,「本発明においては,上記の目的を達成するために,センターシュート(原料送入シュート)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み,環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(1頁2欄23行88ないし2頁3欄8行)と記載されている。
また,本件発明の効果として,「本発明は特許請求の範囲に記載したような構成にしたので,粉砕機内部が加圧雰囲気であっても,回転筒22と原料送入用のセンターシュート13との環状の隙間全体に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気が充満されて下端開口の全周から噴出される。また,この空気は送風装置15により供給されるので,粉砕機内部のガス圧力が変動したようなときでも確実に供給されて下端から噴出される。このため,回転筒22の下端である環状隙間の下端から侵入しようとする微粒子を確実に吹き飛ばすことができ,センターシュート13と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入することが防止され,センターシュート外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できるとともに,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」(3頁5欄11行ないし6欄4行)と記載されている。
(ウ)本件明細書中に記載された本件発明の目的,構成及び効果を参酌すれば,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付けて」の「所定距離」とは,空気導管を,回転筒下端ではなく,これより離れた上方位置に取り付けることを規定したもので,構成要件Hの「この隙間(回転筒とセンターシュートとの間の隙間)に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように」するのに必要な距離を意味するものと解される。
なお,本件発明は,「回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機」の発明であり,この回転式加圧型セパレータには種々の大きさのものがあり,空気導管の取付位置も異なるのであるから,特許請求の範囲の記載において,回転筒下端から空気導管の取付位置までの距離を具体的な数値で表示する必要はない。
イ「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け89て」の意義について(ア)被告は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付けて」とは,「空気導管を回転筒それ自体に取り付ける」との意味と解釈される旨主張する。
(イ)この点,本件明細書中の図面(第2図)には,送風装置(15)と連絡された空気導管(16)が回転筒(22)に直接接続された態様が記載されている(2頁4欄9行ないし12行参照)。
しかしながら,本件発明は,「回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータ」を提供することを目的とし,当該目的を達成するために,「センターシュート(原料送入シュート)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み,環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造」を採用するものである(本件明細書の1頁2欄20行ないし2頁3欄8行)。回転する回転筒の外周に,回転せず固定された空気導管を直接に接続することができないことは,当業者にとって明らかであるといえる。
また,第2図の上記記載(送風装置(15)と連絡された空気導管(16)が回転筒(22)に直接接続されているという記載)も,当業者にとっては,模式図として示されたものであることが明らかであるといえる。
構成要件Gには,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付けて」と記載されており,その文言上も,空気導管を回転筒それ自体に直接取り付けるという意味に解釈すべき必然性はない。
被告は,構成要件Gは,「空気導管を回転筒それ自体に取り付ける」90との意味であると解釈すべきであると主張するものの,上記のとおり,当業者の技術常識から判断すれば,そのように解釈する余地はない。
(ウ)また,甲第9号証(特開昭48-25216号公報)及び甲第10号証(特開昭54-100564号公報)によれば,回転筒に空気を供給するための装置として,回転筒の外周に通気孔を設け,回転筒の周囲に密封部材を備えた空気室(ケーシング,分配器)を設け,空気室に空気源を接続する構造は,周知のものであったと認められる。
(エ)以上によれば,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付けて」とは,「空気導管から回転筒内周の環状隙間に空気を導入し得るように,回転筒内周の環状隙間と空気導管とを連通させて取り付ける」ことを意味すると解するべきである。
ウ対比イ号物件においては,回転筒(16)下端から2メートルから3メートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入することができるように構成されており(別紙2-1の構成イg。なお,別紙2-3「空気室と空気導入孔の構造」参照),上記環状隙間に加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している(別紙2-1の構成イh)。
したがって,イ号物件は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,」を充足する。
(4)争点1-d(構成要件Hの充足性)91ア「回転筒の下端から噴出するように構成した」の意義について(ア)被告は,構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」とは,「所定圧力の空気が回転筒の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給されることにより,回転筒の内周面が回転していることを利用して,吹き込まれた空気が回転筒の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降して,回転筒下端の全周から噴出するもの」と限定解釈されるべきであると主張する。
(イ)本件明細書中には,本件発明が解決しようとする課題に関し,「従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注・「微粉」の誤記と認める。)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。
本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的としている。」(1頁2欄10行ないし22行)と記載されており,上記課題解決の手段として,「本発明においては,上記の目的を達成するために,センターシュート(原料送入シュート)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み,環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した。」(1頁2欄23行ないし2頁3欄8行)と記載されている。
また,本件発明の効果として,「本発明は特許請求の範囲に記載した92ような構成にしたので,粉砕機内部が加圧雰囲気であっても,回転筒22と原料送入用のセンターシュート13との環状の隙間全体に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気が充満されて下端開口の全周から噴出される。また,この空気は送風装置15により供給されるので,粉砕機内部のガス圧力が変動したようなときでも確実に供給されて下端から噴出される。このため,回転筒22の下端である環状隙間の下端から侵入しようとする微粒子を確実に吹き飛ばすことができ,センターシュート13と回転筒22の間の隙間に微粒子が侵入することが防止され,センターシュート外周面と回転筒内周面の微粒子による摩耗損傷を阻止できるとともに,回転筒の円滑な回転運動を確保することができる。」(3頁5欄11行ないし6欄4行)と記載されている。
上記の記載から明らかなとおり,本件発明は,従来の回転式セパレータを加圧型の粉砕機に取り付ける場合に,センターシュートと回転筒との隙間に微粉が侵入し,固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷したりするという課題を解決するために,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧雰囲気よりも高い加圧空気を供給し,回転筒下端から噴出させるという手段を用いることによって,上記環状隙間の下端から侵入しようとする微粒子を吹き飛ばし,微粒子の侵入を防止するという効果を奏するものである。
したがって,本件発明の効果を奏するには,センターシュートと回転筒との間に存在する隙間にエアシールを施すことによって微粒子が侵入することを防止すれば足りるのであって,必ずしも,回転筒の下端全周から加圧空気を噴出させる必要はないことは明らかである。
そうすると,特許請求の範囲1の「回転筒の下端から噴出するように構成した」との記載を,「回転筒の下端全周から噴出するように構成し93た」と限定解釈するべきであるとはいえない。
(ウ)ところで,本件明細書中には,「所定圧力の空気が回転筒22の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,環状隙間を画成する一つの部材である回転筒22の内周面が回転しているので,前記の供給位置か(ら)供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転筒22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降するため,供給位置から抵抗の少ない特定の部位のみを流れて,所謂,ショートパスしたり偏流したりして回転筒22下端の部分的な位置のみから排出されることがなく,該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下端の全周から噴出する。」(2頁4欄18行ないし30行)との記載がある。
しかしながら,上記記載は,回転筒が回転していることによって環状隙間に供給された空気流が受ける作用を記載したものであって,回転筒下端の全周から空気を噴出させるためには回転筒の回転を利用することが必須であることを述べたものではない。
(イ)で述べたとおり,回転筒下端から所定距離離れた上方位置から,環状隙間に加圧雰囲気よりも高い加圧空気を供給すれば,環状隙間が連通している以上,回転筒下端から空気が噴出するのが通常であって,回転筒下端から空気が噴出されれば,本件発明の効果を奏するのであるから,上記記載が,本件発明の構成を「回転筒の回転を利用することにより回転筒下端の全周から空気を噴出させるもの」に限定したものであるとは解されない。
(エ)本件特許の出願過程において出願人から提出された意見書(甲5の1,乙1の7)中には,被告が指摘するように,「また,たとえ,この引用例のものが本願発明のように固定されたセンターシュートの周りに回転筒を回転可能に設けたものであったとしても,次項でも説明するように,94回転筒の下端から所定距離隔てた上方の位置から該環状の隙間に空気を供給し,かつ,回転筒の回転を利用することによって環状の隙間内全体に空気を行き渡らせ,隙間の下端の全周から均等に空気を噴出させるようにしたことの効果は多大である。」(5頁11行ないし19行),「これに対して本願発明では,粉塵の侵入防止を行う部分はセンターシュート13と回転筒22の間の隙間の回転筒22の下端部分であるが,ここの全周から空気が噴出されるので粉塵の侵入を確実に防止することができる。即ち,所定圧力の空気が回転筒22の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,環状隙間を画成する一つの部材である回転筒22の内周面が回転しているので,前記の供給位置から供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転筒22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降するため,供給位置から抵抗の少ない特定の部位のみを流れて,所謂,ショートパスしたり偏流したりして回転筒22下端の部分的な位置のみから排出されることがなく,該空気は環状隙間内の全体に行き渡って回転筒22の下端の全周から噴出する。」(7頁20行ないし8頁16行)との記載がある。
しかしながら,上記記載は,特開昭57-75156号公報(乙4)及び特開昭55-92145公報(甲5の2)を出願前公知技術として引用した拒絶理由通知がされたのを受けて(乙1の6),粉砕部の上方に位置するセンターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧空気を供給する構成を開示しない両引用例に対し,上記構成を採用することによる作用効果を主張するものであり,回転筒下端の全周から空気を噴出させるために,回転筒の回転を利用した点を両引用例との差異点として強調するものではない。
したがって,上記出願経過参酌して,構成要件Hにおける「回転筒95の下端から噴出するように構成した」の意味を限定解釈すべきであるとはいえない。
(オ)以上によれば,構成要件Hの「回転筒の下端から噴出するように構成した」とは,文字どおり,「回転筒の下端から噴出するように構成した」の意味であると解すべきである。
イ対比イ号物件においては,回転筒(16)下端において,センターシュート(1)との間に,1ミリメートルから2.4ミリメートル程度の隙間があり,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間に,加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している(別紙2-1の構成イh)。
したがって,イ号物件は,構成要件Hの「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した」を充足する。
(5)まとめ以上によれば,イ号物件は本件発明の構成要件AないしIをいずれも充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
2争点2(ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について前記争いのない事実等(5)記載のとおり,ロ号物件は本件発明の構成要件A,B,D,E,F及びIを充足する。
以下,ロ号物件が構成要件C,G及びHを充足するか否かについて検討する。
(1)争点2-a(構成要件Cの充足性)についてア構成要件Cの「上方」の意義は,前記1(1)で述べたとおりである。
ロ号物件のセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)の上方で,ケーシングの水平方向中央に位置した状態で垂直に配設されている(別紙3-1の構成ロc1及び別紙3-2)。
96したがって,ロ号物件は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」を充足する。
イこの点,被告は,構成要件Cにいう「上方」とは,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味であるとした上で,ロ号物件では,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入するから,粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかる構造を有さず,構成要件Cを充足しない旨主張するものであって,「粉砕部から上昇した含塵ガスが回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じること自体を否定するものではない。
ロ号物件においては,回転筒(16)下端から2メートルから4メートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むことにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間の空気を加圧することができるようにしており(別紙3-1構成ロg),後述のとおり,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間は,回転筒(16)下端で塞がれてはおらず,ハ号物件と同様に,回転筒の下端から空気が噴出するように構成されている。このように,センターシュートと回転筒との間の環状隙間にエアシールを施していることに照らし,ロ号物件においても,本件発明が解決しようとする課題に係る現象,すなわち,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象は生じているものと認められる。
そして,被告が主張する上記解釈(粉砕部から「真上に」上昇したガス97流が回転筒の下端に「直接」ぶつかることとなる上方位置)を採用することができないことは,前記1(1)で述べたとおりである。
ウなお,被告は,ロ号物件においては,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入するのであり,これとは別に,粉砕機の中心部に向かって上昇する含塵ガスは存在しない旨主張する。
しかしながら,ロ号物件におけるスロートは,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく,粉砕機の中心方向にも傾いているのであるから(乙24,27),スロートからの熱風が,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)にのみ向かうとは考え難い。
また,ロ号物件においては,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく粉砕機の中心方向にも傾いているスロートから,高圧の空気が噴出しており,また,粉砕部の中心部の空気の圧力はスロート部より噴出された空気の圧力より低いのであるから,円周方向に向けて噴出された熱風も次第に拡散しつつ,その一部は,圧力の低い粉砕機の中心部に向かう流れを形成するものと考えられる。
以上によれば,ロ号物件においては,粉砕機の中心部に向かって上昇する含塵ガスも存在するものと考えられるから,この点においても,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じているものと考えられる。
(2)争点2-b(構成要件Gの充足性)について構成要件Gの「所定距離」及び「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」の意義は,前記1(3)で述べたとおりである。
ロ号物件においては,回転筒(16)下端から2メートルから4メートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された98空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間の空気を加圧することができるように構成されており(別紙3-1構成ロg。なお,別紙3-3「空気室と空気導入孔の構造」参照),また,後述のとおり,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間は,回転筒(16)下端で塞がれてはおらず,ハ号物件と同様に,回転筒の下端から空気が噴出するように構成されているものと認められる。
したがって,ロ号物件は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,」を充足する。
(3)争点2-c(構成要件Hの充足性)についてアロ号物件の構成について(ア)原告は,ロ号物件においては,加圧雰囲気より高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から空気が噴出するように構成されている旨主張する。
これに対し,被告は,ロ号物件においては,空気室に加圧空気を吹き込み空気導入孔を通じて環状隙間内の空気を加圧してはいるものの,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでおり,回転筒の下端から空気は噴出されない旨主張する。
(イ)被告の主張についてa仮に,被告が主張するように,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいるとすれば,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧空気を吹き込む必要はなく,このための構成を設ける必要はないはずである。
しかしながら,ロ号物件においては,回転筒円周に30個の空気導99入孔を設け,空気導入孔の周囲に空気室を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクトにより接続して,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じてセンターシュートと回転筒との間の環状隙間の空気を加圧することができるように構成されている(別紙3-1構成ロg)。
(a)この点につき,被告は,当初,ハ号物件として特定されるミルを製造していたものの,平成2年11月ころ,本件特許の出願公告がされたことが分かったため,ハ号物件にパッキンを設けて環状隙間を塞ぐ設計変更を行うこととし,製造されたのがロ号物件であるから,ロ号物件が,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧空気を吹き込むための構成を備えていても不合理ではない旨主張し,これに沿う証拠として,被告の研究員の陳述書(乙27)がある。
しかしながら,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧空気を吹き込むための構成は,回転筒円周に30個の空気導入孔を設け,空気導入孔の周囲に空気室を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクトにより接続するという大掛かりなものであり,この構成を実現するためには多額の費用を要すると共に,この構成を設けることで装置の構造も複雑化し,メンテナンスの手間やコストも増えることになるのであって,ハ号物件の設計を変更し,製造する際に,本来必要のなくなった構成をそのまま残したとは考えにくい。単に従来の装置(ハ号)の設計を引き継いだとの理由で,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞ぐことにしたにもかかわらず,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に加圧空気を吹き込む構成を備えている点を合理的に説明し得たとは言い難い。
しかも,被告の主張する構成では,回転筒下端の環状隙間のパッ100キンはセンターシュートに接するように設けられ,回転筒と共に回転するパッキンが,固定されたセンターシュートに接した状態で回転筒が回転することになるにもかかわらず,設計変更の段階でその安全性の確認等が行われたことについては言及がなく(乙27。同陳述書では,「ロ号物件の納入にあたっては試運転を行いましたが,パッキンが発熱するといった問題は生じませんでした。」と述べるのみである。),この点に照らしても,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいるとの被告の主張はにわかに信用し難い。
(b)また,被告は,この点につき,ロ号物件において回転筒に空気導入孔を設けることは,回転部と固定部との間に設けられたオイルシールを保護するという技術的意義があるとして,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいるにもかかわらず,回転筒に空気導入孔を設けていることに合理性がある旨主張し,これに沿う証拠として被告の研究員の陳述書(乙46)がある。
上記陳述書は,ロ号物件の「空気導入孔」にはオイルシールを保護するという技術的意義があることを説明するものである。同陳述書においては,その技術的意義について,「a部には送風装置から空気を送り込むためのエアダクトが接続されており加圧空気が流入するのですが,a部とb部の間には等圧管も存在しないので,送風装置の稼働時にはa部の気圧がb部の気圧よりも高くなるなど,両者に気圧差が生じてしまいます。そこで,回転筒の空気導入孔を維持すれば,環状隙間c部およびb部c部間の等圧管を介して,a部とb部の気圧を等しくすることができます。」と説明されているものの,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいるにもかかわらず,気圧差を生じる原因となる送風装置を設けなければならない技術的理由について,十分な説明がされているとはいえない(平101成19年11月22日付け被告第7準備書面20頁参照)。仮に,センターシュートと回転筒との間の環状隙間の圧力を,粉砕機内部の圧力よりも高くする必要性があったとしても,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいるのであれば,分級機設置時に,加圧空気を吹き込んだ上で密封すれば足りるとも考えられる。
被告が主張するオイルシールは,軸受部に供給されている潤滑用のオイルが漏れないようにするためのパッキンである。乙第46号証の別紙拡大図の「パッキン1」は,そもそも,「b」部から「a」部へのオイルの漏出をシールするものであり,「a」部から「b」部への空気の流入を完全にシールすることはできない(甲21)。また,「a」部の圧力が高まり,「a」部から「b」部に空気が流入しても,パッキンの「リップ」が開いて隙間ができるだけであり(甲22),パッキンが破損することはないし,等圧管を用いて,「a」部,「b」部,「c」部及び「d」部は等圧となるから,パッキンを保護するための構造として空気導入孔を設ける必要もないと考えられる。
以上によれば,オイルシールを保護するという技術的意義があることをもって,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいるにもかかわらず,回転筒に空気導入孔を設けている点を合理的に説明し得たとは言い難い。
b被告の主張する構成では,回転筒下端の環状隙間のパッキンはセンターシュートに接するように設けられ,回転筒と共に回転するパッキンが,固定されたセンターシュートに接した状態で回転筒が回転することになる。
被告は,ロ号物件については,発熱が問題となることはなかったとするものの,パッキンとセンターシュートとが接触した状態又はパッ102キンがセンターシュートに押し当てられた状態で,回転筒が回転すれば,両者の間には,当然に摩擦熱が生じ,温度が上昇するものと考えられる。そして,これが連続運転により長時間持続すれば,過熱されて発火等の危険も生じ得ることが予想される(ロ号物件は石炭粉砕用の設備である。)。それにもかかわらず,ロ号物件への設計変更の段階でその安全性の確認等が行われたことについては特段の言及がないことは前述のとおりであり,被告において,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞ぐとの構成を安全性の十分な検討もなく,採用したとはにわかに考え難い。
また,被告は,ロ号物件については発熱が問題となることはなかったとする一方で,当初製造されたイ号物件(製造時点ではロ号物件と同様に環状隙間をパッキンで塞いでいた)については,試運転の際にパッキンの発熱が問題となったとするものの(乙27),ロ号物件についてのみ摩擦熱による発熱が問題とならなかった理由について,合理的な説明はない。
c被告は,センターシュートの外形寸法とパッキンの内径寸法とは同じ寸法に設計されており,パッキンはセンターシュートに接している旨主張する。
しかしながら,原告が主張するように,ロ号物件のように長さ数メートルにも及ぶセンターシュートを持つ粉砕機において,完全な真円のセンターシュートやパッキンを製作することは工業技術上不可能である(甲28。被告は,乙52において,寸法公差があることを認めている。)。
また,上記のとおり,ロ号物件のセンターシュートは相当の大きさの設備であることやセンターシュートの内部空間を粉砕される石炭塊が落下していくことを考えれば,全く軸心のずれが生じないとは考え103難い(甲23,27)。
d被告は,パッキンを取り付けた際,パッキンとセンターシュートとの間に,寸法公差によりギャップが存在し得るとしても,パッキンをリングで全周にわたって押さえ付けることでパッキンが内径の中心方向に延びること及びミル運転中にミル内部の温度が上昇してセンターシュートが膨張し,環状隙間が狭められること,によって当該ギャップは塞がれるものと推測される旨主張する。
しかしながら,被告の上記推測(乙52)は,その計算に用いる数値の算出根拠が明確とはいえず,直ちに信用することができない。
(ウ)以上検討したところによれば,パッキンにより回転筒下端の環状隙間を塞いでいる旨の被告の主張はにわかに採用することはできない。
かえって,回転筒円周に30個の空気導入孔を設け,空気導入孔の周囲に空気室を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクトにより接続して,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じてセンターシュートと回転筒との間の環状隙間の空気を加圧することができるように構成されていることに照らせば,ロ号物件においては,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間は,回転筒(16)下端で塞がれてはおらず,ハ号物件と同様に,回転筒の下端から空気が噴出するように構成されているものと認めるのが相当である。
構成要件Hの「回転筒の下端から噴出する」の意義は,前記1(4)で述べたとおりである。
ロ号物件においては,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間は,回転筒(16)下端で塞がれてはおらず,環状隙間に,加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から空気が噴出するように構成されているから,構成要件Hの「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構104成した」を充足する。
(4)まとめ以上によれば,ロ号物件は本件発明の構成要件AないしIをいずれも充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
3争点3(ハ号物件は本件発明の技術的範囲に属するものか)について前記争いのない事実等(5)記載のとおり,ハ号物件は本件発明の構成要件A,B,D,E,F及びIを充足する。
以下,ハ号物件が構成要件C,G及びHを充足するか否かについて検討する。
(1)争点3-a(構成要件Cの充足性)についてア構成要件Cの「上方」の意義は,前記1(1)で述べたとおりである。
ハ号物件のセンターシュート(1)は,粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)の上方で,ケーシングの水平方向中央に位置した状態で垂直に配設されている(別紙4-1の構成ハc1及び別紙4-2)。
したがって,ハ号物件は,構成要件Cの「粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,」を充足する。
イこの点,被告は,構成要件Cにいう「上方」とは,「粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかることとなる上方位置」の意味であるとした上で,ハ号物件では,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入するから,粉砕部から真上に上昇したガス流が回転筒の下端に直接ぶつかる構造を有さず,構成要件Cを充足しない旨主張するものであって,「粉砕部から上昇した含塵ガスが回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じること自体を否定するものではない。
ハ号物件は,「回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)105を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むことにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間に空気を導入できるようにしている」(別紙4-1構成ハg),「上記環状隙間は・・・この隙間に回転筒(16)下端における空気の噴出速度が平均117メートル毎秒程度となるような加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している。」(同構成ハh)との構成を有することから明らかなとおり,センターシュートと回転筒との間の環状隙間にエアシールを施していることに照らし,ハ号物件においても,本件発明が解決しようとする課題に係る現象,すなわち,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象は生じているものと認められる。
そして,被告が主張する上記解釈(粉砕部から「真上に」上昇したガス流が回転筒の下端に「直接」ぶつかることとなる上方位置)を採用することができないことは,前記1(1)で述べたとおりである。
ウなお,被告は,ハ号物件においては,含塵ガスは粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)から粉砕機内壁に沿って上昇し,内壁側から回転ベーンに流入するのであり,これとは別に,粉砕機の中心部に向かって上昇する含塵ガスは存在しない旨主張する。
しかしながら,ハ号物件におけるスロートは,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく,粉砕機の中心方向にも傾いているのであるから(乙25,27),スロートからの熱風が,粉砕ローラの外側(粉砕機内壁側)にのみ向かうとは考え難い。
また,ハ号物件においては,粉砕機の円周方向に傾いているだけでなく粉砕機の中心方向にも傾いているスロートから,高圧の空気が噴出してお106り,また,粉砕部の中心部の空気の圧力はスロート部より噴出された空気の圧力より低いのであるから,円周方向に向けて噴出された熱風も次第に拡散しつつ,その一部は,圧力の低い粉砕機の中心部に向かう流れを形成するものと考えられる。
以上によれば,ハ号物件においては,粉砕機の中心部に向かって上昇する含塵ガスも存在するものと考えられるから,この点においても,「粉砕部から上昇したガス流が回転筒の下端にぶつかる」という現象が生じているものと考えられる。
(2)争点3-b(構成要件Gの充足性)について構成要件Gの「所定距離」及び「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に・・・空気導管を取付け」の意義は,前記1(3)で述べたとおりである。
ハ号物件においては,回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,送風装置から空気室に空気を吹き込むことにより,空気導入孔を通じて,センターシュート(1)と回転筒との間の環状隙間に空気を導入することができるように構成されており(別紙4-1構成ハg。なお,別紙4-3「空気室と空気導入孔の構造」参照),上記環状隙間に加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している(別紙4-1の構成ハh)。
したがって,ハ号物件は,構成要件Gの「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,」を充足する。
(3)争点3-c(構成要件Hの充足性)について構成要件Hの「回転筒の下端から噴出する」の意義は,前記1(4)で述107べたとおりである。
ハ号物件においては,回転筒(16)下端において,センターシュート(1)との間に,1.2ミリメートルから2.4ミリメートル程度の隙間があり,センターシュート(1)と回転筒(16)との間の環状隙間に,加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している(別紙4-1の構成ハh)。
したがって,ハ号物件は,構成要件Hの「この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した」を充足する。
(4)まとめ以上によれば,ハ号物件は本件発明の構成要件AないしIをいずれも充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
4争点4(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について(1)無効理由1(乙第6号証と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙6文献に記載された発明乙6文献には次の記載がある(訳文による。以下,外国語の書証については,同様とする。)。
(ア)「2.ミルの構造より大きいボイラユニットは,このボイラの燃料需要を同数の3〜4個のユニットでカバーするため,益々大きなミルを要求している。数年前でも粉塵送風機を後置接続している石炭吹込みミルが未だ圧倒的に使用されていたが,そのうち,増圧送風機を前置接続している加圧ミルが一般に認められてきた。」(抄訳?D)(イ)「加圧運転のためには,今まで使用してきた構築を変更しなければならなかった。何故なら,ハウジングの中を貫通する揺動アームの気密封止が困難になるからである。全く新しい構造が生じた。(図2)」(抄108訳?E)(ウ)「(判決注・図面省略)図2:新しい設計のローラミルa;ミルの伝動機構e;揺動粉砕ローラb;粉砕皿f;羽根の輪c;粉砕ローラg;ストッパー緩衝器d;油圧バネシステムf;フラップ遠心力分級機」(抄訳?F)(エ)「3.分級機説明したローラミルには二つの構造様式の分級機が装備され得,一つのフラップ遠心力分級機(図2)または一つの回転分級機(図4)(判決注・判決書別紙5-1は,図4に被告が符号を書き入れた参考図である。)である。この回転分級機には粒度特性曲線の勾配が急な良好な分級効率がある。回転数を連続的に調整して,この特性曲線を粗い領域あるいは微細な領域の中で変化させることができる。この分級機は,極度に均一な,もしくはより繊細な仕上がり炭塵を搬送する場合に必ず採用される。」(抄訳?H)(オ)「(判決注・図面省略。別紙5-1参照)図4:V字ベルトによる上部駆動体を有する回転分級機a;分級羽根を含む周回する円錐体b;ころ軸受を伴うV字ベルトにプーリーc;分級機の出口」(抄訳?I)上に認定したところによれば,乙6文献には,「粉砕皿と,この粉砕皿上に配置された粉砕皿の回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にセンターシュートが存在し,分級体を有する回転する円錐体を設け,ローラミル内部を加圧雰囲気とした構成にした回109転式加圧型セパレータをそなえたローラミル」の発明(以下「乙6発明」という。)が記載されているということができる。
イ乙7公報に記載された発明乙7公報には,次の記載がある。
(ア)「遠心力を利用した衝撃装置及びその支持構造」(抄訳?@)(イ)「本発明は,遠心力を利用した衝撃装置に関するものであって,連続的に移動する物体を遠心力により,非常に高速度で外方向に激突させるための電動ローターからなる。本発明はより詳細には,電動機及びローターのための支持構造にも関する。流動性の物体に遠心力を利用して衝撃を与えるための設備は,粒子の微細化,破壊及び粉砕,並びに化学,冶金その他の工業における様々な種類の物質の変形といった,様々な目的のために使われた。」(抄訳?A)(ウ)「図6(判決注・判決書別紙5-2は,乙7公報の図6に被告が着色等を施した参考図である。)は,図3に示された構造のうち,エアシールに関係する部分を拡大した部分的な垂直断面図である。」(抄訳?B)(エ)「図3及び図6の参酌によって明らかなとおりであるが,ローターのケーシングから汚染物質が漏洩することを防止するため,空気を逆流させる作用を及ぼすための構造を提供する。図示されているように,リング状の構成要素(202に大まかに図示されている)は,カバープレート32に適切に固定される。リング202は流路206を形成し,これはリング202により形成される環状の流路208に至っている。リング202の環状部品202aは,流路208の直上に配置されるとともに,スリーブ127に隣接しており,流路210a,210bおよび210cが形成される。各種部品は,カラー127及び環状部品202aの間に若干の間隔(図面において誇張した)が形成されるような寸法に設計されている。これらの間隔の寸法は,加圧空気がパイプ216を経110て流路206に入ったときに,リング202とスリーブ127との隙間を抜けるよりも,流路210a,210b及び210cを抜ける方がより大きな抵抗を受けるように設計されている。このようにして,流路206に流入する空気の大部分は,ローターのケーシング内部に向かって下向き矢印の流路の方へと進むこととなるのであり,これにより,危険ないし有害なおそれのある粒子が外部に向かってケーシングから上方へ出ていくことを防止する。」(抄訳?C)上に認定したところによれば,乙7公報には,「パイプ216を介してリング202とスリーブ127との隙間に加圧空気を入れ,加圧空気がリング202とスリーブ127との隙間を抜けるように構成した衝撃装置」の発明(以下「乙7発明」という。)が記載されているということができる。
ウ被告は,乙6発明にかかる回転式分級機の構造について,本件発明と同じく,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けており,センターシュートと回転筒との間に「環状隙間」が存在する旨主張する。
しかしながら,乙6文献中には,図4の回転式分級機の構造について上記アで認定した以上に具体的に説明した記載は見当たらず,図4自体もどの程度の正確性をもって記載されているか不明であると言わざるを得ず,回転分級機の構造が明瞭に記載されているとみることはできない。したがって,乙6文献の記載からは,乙6発明にかかる回転式分級機について,センターシュートの外側に同心状に回転筒を設けたものであることまでは認められるものの,センターシュートと回転筒との間に本件発明と同じく「環状隙間」が設けられているものであるか否かは不明であるといわざるを得ない。
被告は,乙6文献の刊行時の前後において,乙6文献に開示されている形状においてセンターシュートの周りで分級機を回転させようとする場合,111センターシュートの周りに同心円状に回転筒を設け,センターシュートと回転筒の間には環状隙間が存在するという構成は当業者の技術常識となっていたと主張し,その根拠として,乙第39号証の1,乙第53号証の1,乙第58号証,乙第59号証の1,乙第60号証,乙第69号証,乙第89号証の1を挙げる。
(ア)乙第39号証の1は,1961年(昭和36年)4月に発行された論文集「MITTEILUNGENDERVEREINIGUNGDERGROSSKESSELBESITZER」に所収の「ボイラ装置のための石炭の粉砕」と題する論文(以下「乙39の1文献」という。)であり,乙53号証の1は,同論文集に所収の「ロールミル」と題する論文(乙53の1文献)である。両論文は,いずれも乙6文献に記載された回転分級機と製造元を同じくするロッシェ社製の回転分級機について述べたものであり,乙39の1文献の図9と乙53の1文献の図2は同一の回転分級機についての同一図面である。
被告は,同図面の回転分級機には「環状隙間」及び「回転筒」が存在する旨主張する。しかしながら,同図面の回転分級機については,シュートがどのように粉砕機に設置されているか,回転分級機とどのような関係になっているか等具体的な構造の説明がなく,また,同図面がどの程度の正確性を持って記載されているか不明であるといわざるを得ないから,乙39の1文献及び乙53の1文献に,センターシュートの周りに同心円状に回転筒を設け,センターシュートと回転筒の間には環状隙間が存在するという構成が開示されているということはできない。
(イ)乙第58号証は,1955年(昭和30年)6月2日に公開された旧西ドイツ実用新案公報(乙58公報)である。その記載内容は,後記(5)アのとおりであり,同記載と同文献の図によれば,同文献には,センターシュートに相当する供給管(2)の周りに,回転式セパレータに相当する風力分級機(1)の回転筒が回転する構成が示されていると112認められるものの,加圧式であるか負圧式であるかの開示はなく,不明である。
(ウ)乙第59号証の1は,1959年(昭和34年)8月5日付けで発行された雑誌「Brennstoff-W□rme- Kraft」11巻8号355頁に掲載された「DasKraftwerkHighMarnham」と題する論文(乙59の1文献)であり,その記載内容は,後記(7)ア記載のとおりであり,同記載によれば,同文献には,3つのローラが設置された負圧型の粉砕装置であって,水分含有量の多い石炭が供給管内で詰まることを防止するために粉砕装置をバンカーの直下に配置し,供給管を粉砕器中央に設けたこと,センターシュートと回転筒の間に環状隙間が存在する粉砕装置が開示されていることが認められる。
(エ)乙第60号証は,1975年(昭和50年)1月9日に公開された風力分級機の発明についての旧西ドイツ特許出願公報(以下「乙60文献」という。)である。同文献には,「本風力分級機は,通常,ハウジング1とカバー2から構成される。該カバーの上には,分級機のシャフト3用ないしシャフト群3,4用の動力装置(個別には記載しない)が設置されている。該カバー2の内部には,分級機のシャフト3ないしシャフト群3,4が軸受けされている。中空構造となっているシャフト3を貫通して,分級機への材料供給のための中央供給管5が垂直に挿入されている。シャフト3は,放散盤6,分級ホイール7および送風ホイール8用の駆動回転シャフトとして機能しうる。」(抄訳3頁末行〜4頁6行)との記載がある。同記載と同文献の図1ないし3によれば,同公報の分級機は,「センターシュート」に相当する中央供給管5の周りに,回転式セパレータに相当する風力分級機のシャフト3(回転筒)が回転する構造を有するものであると認められるものの,加圧式であるか負圧式であるかの開示はなく,不明である。
113(オ)乙第69号証は,1974年(昭和49年)に発行された書籍「CrushingandGrinding」からの抜粋(以下「乙69文献」という。)である。同文献の記載と図8.30とによれば,同文献には,ロッシェ社製の粉砕機についての記載があり,図8.30には,3つのローラーが設置された粉砕機において,そのセンターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在していることが認められるものの,同粉砕機が加圧式であるか負圧式であるかは,不明である。
(カ)乙第89号証の1は,1960年10月に発行された雑誌「MITTEILUNGENDERVGB」68巻297頁に掲載された「EntwicklungstendenzenimenglischenKesselbauseit1950」と題する論文(以下「乙89の1文献」という。)である。同文献には,「22図は最新構造の3-ローラミルを示している。これは,11図のボイラーのために製作され,27トン/hの名目性能を有しているが,まだ吸引ミルである。
16図のボイラーのための最新ミルは,57トン/hの名目性能を有し,加圧化(判決注・「加圧下」の誤記と認める。)で稼働する。小さいほうのミルはなお分級機を有しており,大きい方では分級機は外部に設置された。」(抄訳)との記載がある。同記載と同文献の図22とによれば,同図のミルは3つのローラーが設置された負圧型のミルであり,そのセンターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在していることが認められる。同文献の上記記載中には,加圧型のミルの存在が示唆されているものの,分級機が外部に設置されたもののことであり,図22のミルとは異なるものである。
上記(ア)ないし(カ)において述べたところによれば,加圧式の粉砕機に用いる回転式分級機の構造として,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けること,及びその「センターシュート」と回転筒との間に「環状隙間」が存在することが一般的な技術常識であったと認114めることはできず,他にこれを認めるに足る証拠はない。
被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
エ上に述べたところによれば,乙6発明において,本件発明と同じく,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを前提とする無効理由1は,その前提を欠くものである。乙7発明が上記の構成を備えていると認めることはできないから,乙6発明に乙7発明を適用することによって本件発明の構成に想到することが容易であったと認めることはできない。
無効理由1は理由がない。
(2)無効理由2(乙第6号証と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙6発明の内容は(1)で認定したとおりである。
イ乙8公報に記載された発明乙8公報には次の記載がある。
(ア)「この発明は石炭の閉塞が生じない石炭粉砕機のシュートに関する。
石炭粉砕機の一種である竪型ボールミルは軸心をほぼ鉛直に配置したシュートにより原料炭を自然落下させ,粉砕部において所定の粒径の粉砕炭に粉砕するものであるが,粉砕機の運転中にシュート内で原料炭が詰まってしまい,粉砕機の運転を停止せざるを得ないような事態が生ずることがある。先ず第1図において竪型ボールミルの作動状態の概略を説明すると,原料炭Cはシュート8内を自然落下して粉砕機本体1の下部粉砕輪5に至り,この粉砕輪の遠心力によりボール7側に移動し粉砕される。粉砕された石炭は空気入口15から流入する乾燥用空気A(200〜300℃)により分級器12に搬送され,所定の粒径以下の粉砕炭はこの乾燥用空気と共に微粉炭出口14を経て燃焼装置に供給される。一方所定の粒径より大きな粉砕炭は下降して再度粉砕される。以上の装置において,原料炭中に粘土分が多く含まれ115ていると,原料炭の一部がシュート内に付着し,かつ乾燥用空気により熱せられたシュート壁面は相当の高温となっているため固化する。
この固化部を核としてさらに原料炭が付着生長し,ついにはシュートを閉塞することになる。シュートの閉塞は単に石炭の粉砕および粉砕炭の供給が不可能になるのみならず,ボールや上下の粉砕輪を摩耗することにもなる。この発明の目的は上述した従来技術の問題点を除去し,原料炭の閉塞が生じない竪型ボールミルを提供することにある。」(1頁左欄18行ないし2頁左上欄8行)(イ)「第2図(判決注・判決書別紙5-3)は以上の実験結果に基づいて構成したシュートの構造を示す。シュート8の外部にはこのシュート8と同一軸心線上に位置するよう外筒17を配置し,この外筒17とシュート8の間に冷却空気通過用の環状空間20を形成する。外筒17の上部には冷却用空気供給管18が接続し,一方外筒17の下端部は環状空間20の開口部つまり冷却用空気出口19となっている。環状空間20に供給する冷却用空気A1は常温のもので良くこの冷却空気A1の通過によりシュート8の壁面温度を降下させる。環状空間20を下降した冷却用空気A1は出口19から噴出するが,この冷却空気の流れにより分級機12において分級された大径の粉砕炭が再度舞い上がることなく良好に粉砕部に落下するという副次的効果も発揮する。」(2頁右上欄18行ないし左下欄12行)上に認定したところによれば,乙8公報には,「下部粉砕輪5と,この下部粉砕輪5上に配置された複数個のボール7とを有し,ボール7の上方に,その軸心をほぼ鉛直に配置したシュート8を配設し,シュート8の外側に同心状に外筒17を設けたボールミルにおいて,外筒下端から所定距離離れた上方位置に冷却空気供給管18を取り付けて外筒17とシュート8との間の環状空間20とを接続させ,この環状空間20に冷116却空気を供給し,出口19から噴出するように構成した分級機12を備えたボールミル」の発明(以下「乙8発明」という。)が記載されているということができる。乙8発明において,シュート8の外側に同心状に配置された外筒17が回転可能に設けられていることを認めるに足る証拠はない。
ウ(1)で説示したところによれば,乙6発明において,本件発明と同じく,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを前提とする無効理由2は,その前提を欠くものである。乙8発明が上記回転筒の構成を備えていると認めることはできないことは上記認定のとおりであるから,乙6発明に乙8発明を適用することによって本件発明の構成に想到することが容易であったと認めることはできない。
無効理由2は理由がない。
(3)無効理由3(乙第53号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙53の1文献に記載された発明乙53の1文献には次の記載がある。
(ア)「LoescheミルLoescheミル(図2)(判決注・判決書別紙5-4は,乙53の1文献の図2に被告が部位等を書き入れた参考図である。),即ち,バネ・ロールミルは,ミルのサイズに応じて40-90rpmで回転する粉砕台からなり,2つの大きい円錐形粉砕ローラーが粉砕台上に転動する。・・・(中略)・・・ミルのハウジング上に設置された分級機は,長年,スリット板を備えた回転する篩ゲージとして構成されていたが,近年,アメリカで普及した分級羽根を有する構造が使用されている。」(抄訳3頁22行ないし4頁8行)(イ)「ミル送風機117・・・(中略)・・・吹き込みミル内における乾燥を行うために,空気予熱機からの熱風または排煙ガスを使用できる。使用目的にもとづき,このミルは,その都度,負圧(大気圧以下の圧力),半圧(大気圧付近の圧力),全圧(大気圧以上の圧力)で運転する(図7)。」(抄訳5頁20行ないし6頁12行)(ウ)「Loescheミルは,現在,全ての部位が完全に気圧シールされているので,全圧(大気圧以上の圧力)の加圧ミルとしても運転できる。
このミルは,回転する部位において,機械的には,実証ずみの摺動リングパッキンによってシールされ,加圧ミルにおいてはさらにシール空気が供給される。機械的シールはそれゆえ,冷気が加わる量を最小限に維持する。回転部分の軸受は,リップパッキンまたはジンマーリングパッキン(訳者注:オイルシールパッキン)に加えて,洗浄空気によって粉塵進入から守られる。」(抄訳6頁21行ないし26行)上に認定した記載と乙53の1文献の図2によれば,同文献には,「回転する粉砕台と,この回転する粉砕台上に配置された粉砕台上を転動する2つの粉砕ローラーとを有し,粉砕ローラーの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,分級羽根を備えた回転する分球篩を設けた加圧ミル」の発明(以下「乙53の1発明」という。)が記載されているということができる。
イ乙7発明の内容は,(1)で認定したとおりである。
ウ被告は,乙53の1文献の図2の回転分級機には「環状隙間」及び「回転筒」が存在する旨主張する。しかしながら,同図面の回転分級機については,シュートがどのように粉砕機に設置されているか,回転分級機とどのような関係になっているか等具体的な構造の説明がなく,また,同図面がどの程度の正確性を持って記載されているか不明であるといわざるを得118ないから,乙53の1文献に,センターシュートの周りに同心円状に回転筒を設け,センターシュートと回転筒の間には環状隙間が存在するという構成が開示されているということができないことは,前記(1)ウ(ア)で説示したとおりである。
エそうである以上,乙53の1発明において,本件発明と同じく,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを前提とする無効理由3は,その前提を欠くものである。乙7発明が上記の構成を備えていると認めることはできないから,乙53の1発明に乙7発明を適用することによって本件発明の構成に想到することが容易であったと認めることはできない。
無効理由3は理由がない。
(4)無効理由4(乙第53号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙53の1発明の内容は(3)で,乙8発明の内容は(2)で認定したとおりである。
イ(3)で説示したところによれば,乙53の1発明において,本件発明と同じく,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在することを前提とする無効理由4は,その前提を欠くものである。乙8発明が上記の構成を備えていると認めることはできないから,乙53の1発明に乙8発明を適用することによって本件発明の構成に想到することが容易であったと認めることはできない。
無効理由4は理由がない。
(5)無効理由5(乙第58号証と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙58公報には次の記載がある。
(ア)「保護請求1)粉砕乾燥工程において駆動し,水平で回転する粉砕盤を有する気流ミルに,湿った,粘り気のある原材料の供給装置であって,貯蔵庫から119の排出口に接した落下管を,回転する粉砕盤のほぼ上まで下方延伸し,それにより,原材料群が回転により,同じ様に継続的に排出されるようにしたことを特徴としたもの」(抄訳4頁1行ないし5行)(イ)「水平な回転式粉砕軌道(下方に位置した動力によって駆動し,その上でローラや他の粉砕主要部がスプリングで押し付けられている)とを有するミルにおいて,これらミルは,粉砕乾燥工程における運転に用いられるので,石炭や石灰石やボーキサイトその他のような湿った生原料を同様にミルに供給するためには困難が発生する。なぜなら,これらの原料は供給装置もしくは供給滑走路の中で,高い湿度のゆえに貼りついて離れなくなる傾向があるからである。
発明に従うと,この障害は,以下により解決される。すなわち,垂直の供給管(2)を生原料の貯蔵庫の下に持ってきて,その供給管は中央で,ミルの上方に存在する風力分級機(図の番号1)(判決注・判決書別紙5-5は乙58公報の図に被告が符号等を書き入れた参考図である。)を貫通して,回転する粉砕盤(3)の近くにまで下方に延伸される。盤の回転によって,粉砕盤は皿状排出機のように機能し,落下管の中で待っている原料群および貯蔵庫を空にする。それにより,原料が粘り付いて離れなくなるという危険はもはやなくなる。というのは,原料貯蔵庫と粉砕室との間にはいかなる排出装置も空気遮断ももはや存在しないからである。
量的な調整のために,上述の落下管はミル上部を(望遠鏡のような)入れ子型の管(4)に形成されるべきである。それによって,供給管の下端と粉砕盤の上端の間に形成される円錐型の出口(5)が適切な高さに調整され,それにより排出量が調整される。この高さ調節は管(本来の供給管の上に存在し,かつ,該高さ調整が,(下端と)同様に(斜めに)切られ分級機の上に存在する(落下管の)反対側部上で回すことに120よって達成されうるように下端が斜めに切られている管)によってうまく行うことができる。」(抄訳3頁3行ないし21行)上に認定した記載と乙58公報の図によれば,同文献には,「回転する粉砕盤(3)と,この回転する粉砕盤(3)上に配置された複数個のローラーとを有し,垂直に供給管(2)及び入れ子式の管(4)の外側に同心状に風力分級機(1)を回転可能に設けたミル。」の発明(以下「乙58発明」という。)が記載されているということができる。
イアで認定したところによれば,乙58発明においては,センターシュートに相当する供給管(2)の周りに,回転式セパレータに相当する風力分級機(1)の回転筒が回転する構成が開示されており,供給管(2),入れ子式の管(4)及び回転筒の間に「環状隙間」が形成されているということができるものの,これが加圧式のミル(粉砕機)であるか,負圧式のミル(粉砕機)であるかについては,乙58公報に開示がなく,不明であるといわざるを得ない。
したがって,本件発明と乙58発明とは,?@本件発明が加圧式の粉砕機であるのに対し,乙58発明は粉砕機の内部の圧力が不明であり,加圧式の粉砕機であるか否かが不明である点,?A本件発明では「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した(構成要件G,H)ものであるのに対し,乙58発明はそのような構成を備えていない点において,少なくとも相違する。
被告は,本件特許の出願時点において,シールを強化することによりミル内部を加圧雰囲気として運転する構成は周知の技術常識であったから,当該構成の採用は必要に応じて当業者が任意に定めることができる単なる設計上の選択事項にすぎないと主張し,前記(3)ア(ウ)で認定したと121ころによれば乙53の1文献には,ミル装置についてシールを強化することによりミル内部を加圧雰囲気として運転することが記載されていることが認められる。しかしながら,仮に,当業者においてシールを強化することにより粉砕機内部を加圧雰囲気とすることに思い至ることが容易であったとしても,粉砕機を加圧式とした場合に,本件発明が解決しようとする課題であるセンターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が進入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷するとの課題を認識し,この課題を解決するために上記?Aの相違点に係る構成に想到することが容易であったことを認めるに足りる証拠はない。
ウ乙7発明の内容は,(1)で認定したとおりであり,その構成は,本件発明の上記?Aの相違点に係る構成とはかなり異なるものであり,乙58発明のセンターシュートと回転筒との環状隙間に外部から空気を吹き込む構成を示唆するものであると認めることはできず,前記イで説示したところに照らすと,乙58発明に乙7発明を適用することにより本件発明に想到することが容易であるとはいえない。
無効理由5は理由がない。
(6)無効理由6(乙第58号証と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙58発明の内容は(5)で,乙8発明の内容は(2)で認定したとおりである。
イ(5)で説示したところによれば,乙58発明の粉砕機を加圧式とした場合に本件発明が解決しようとする課題であるセンターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が進入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷するとの課題を認識し,この課題を解決するために前記(5)イ?Aの相違点に係る構成に想到することが容易であったと認めることができないことは,(5)イ122で説示したとおりである。
ウ上記イで説示したところによれば,乙58発明に乙8発明を適用することにより本件発明に想到することが容易であるとはいえない。
被告は,?@乙8発明は,乙58発明と技術分野が同一であること,?A乙8発明も乙58発明も,センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が生じるという課題において共通していることなどから,乙58発明に乙8発明を組み合わせることに動機付けがあると主張する。
しかしながら,乙8発明と乙58発明の技術分野が同一であることは被告の主張するとおりであるものの,乙58発明の粉砕機を加圧式のものとすることと,センターシュートの壁面温度の高温化を防止することとの間に関連性があるとは認められないから,乙58発明の粉砕機を加圧式のものとしつつ,センターシュートの壁面温度の高温化防止のために乙8発明を組み合わせることによって本件発明に想到することが容易であると認めることはできない。
無効理由6は理由がない。
(7)無効理由7(乙第59号証の1と乙第7号証に基づく無効理由)についてア乙59の1文献に記載された発明乙59の1文献には次の記載がある。
「粉砕装置新式Lopulco型粉砕装置を図8及び9に示す。まず第一に,石炭流入口を中央に移し,さらに,毎時27トンの出力を確保するために,従来型では2基だったローラーを3基とした。図8(判決注・判決書別紙5-6は,乙59の1文献の図8に被告が符号等を書き入れた参考図である。)は二重分級機をローラーの上に設置した状態も示す。同分級機はまだハウジング内に取り付けられているが,後の出力毎時57トンの開発品では,粉砕装置と分級機を離して配置された。
123・・・(中略)・・・石炭の水分含有量が非常に高く,バンカーから粉砕装置への石炭供給パイプが詰まりやすい可能性を考慮しなければならないため,粉砕装置はバンカー吐出口直下に配置した。しかし,これにより,粉砕装置から燃焼装置までの間に,全ての直列加熱面及び空気予熱器を配置することになるため,粉砕装置から燃焼装置までの距離が非常に大きくなる。このため,ここで使用した負圧粉砕装置の場合には,粉砕装置とこれに帰属する燃焼装置との間に粉砕機ブロワーを装備することが有益であり,石炭を確実に連続供給し,他の全ての問題を克服するには,同配置が最適であった。」(抄訳2頁)上に認定した記載と乙59の1文献に記載された図8とによれば,同文献には,「複数個のローラーを有し,ローラーの上方にハウジングの中央に位置した状態で垂直にセンターシュートを配設し,センターシュートの周りに複式分級機の回転筒が回転する構成をそなえた粉砕装置。」の発明(以下「乙59の1発明」という。)が記載されているということができる。
イアで認定したところによれば,乙59の1発明の粉砕機においては,負圧型の粉砕機であって,水分含有量の多い石炭が供給管内で詰まることを防止するために粉砕機をバンカーの直下に配置し,供給管を粉砕機直下に設け,センターシュートと回転筒との間に環状隙間が存在していることを認めることができる。
したがって,本件発明と乙59の1発明とは,?@本件発明が加圧式の粉砕機であるのに対し,乙59の1発明が負圧式の粉砕機である点,?A本件発明では「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力を吹き込み,124回転筒の下端から噴出するように構成した(構成要件G,H)であるのに対し,乙59の1発明はそのような構成を備えていない点において,少なくとも相違する。
そして,仮に,当業者においてシールを強化することにより乙59の1発明の粉砕機内部を加圧雰囲気とすることに思い至ることが容易であったとしても,粉砕機を加圧式とした場合に,本件発明が解決しようとする課題であるセンターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が進入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷するとの課題を認識し,この課題を解決するために上記?Aの相違点に係る構成に想到することが容易であったと認めるに足りる証拠はないことは,(5),(6)で説示したとおりである。
ウ乙7発明の内容は,(1)で認定したとおりであり,その機械構成は,本件発明の上記?Aの相違点に係る構成とはかなり異なるものであり,乙59の1発明のセンターシュートと回転筒との環状隙間に外部から空気を吹き込む構成を示唆するものであると認めることはできず,前記イで説示したところに照らすと,乙59の1発明に乙7発明を適用することにより本件発明に想到することが容易であるとはいえない。
無効理由7は理由がない。
(8)無効理由8(乙第59号証の1と乙第8号証に基づく無効理由)についてア乙59の1発明の内容は(7)で,乙8発明の内容は(2)で認定したとおりである。
イ乙59の1発明の粉砕機を加圧式とすることした場合に本件発明が解決しようとする課題であるセンターシュートと回転筒との環状隙間に微粉が進入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷するとの課題を認識し,この課題を解決するために前記(7)イ?Aの相違点に係る構成に想到することが容易125であったと認めることができないことは,(7)イで説示したとおりである。
ウ上記イで説示したところによれば,乙58発明に乙8発明を適用することにより本件発明に想到することが容易であるとはいえない。
被告は,?@乙8発明は,乙59の1発明と技術分野が同一であること,?A乙8発明も乙59の1発明も,センターシュートの壁面温度が高温となりセンターシュートの閉塞が生じるという課題において共通していることなどから,乙59の1発明に乙8発明を組み合わせることに動機付けがあると主張する。
しかしながら,乙8発明と乙59の1発明の技術分野が同一であることは被告の主張するとおりであるものの,乙59の1発明の粉砕機を加圧式のものとすることと,センターシュートの壁面温度の高温化を防止することとの間に関連性があるとは認められないから,乙59の1発明の粉砕機を加圧式のものとしつつ,センターシュートの壁面温度の高温化防止のために乙8発明を組み合わせることによって本件発明に想到することが容易であると認めることはできない。
無効理由8は理由がない。
(9)無効理由9(昭和62年改正前特許法36条4項違反の無効理由)について被告は,本件発明の構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離であるのか明確でなく,本件明細書中にはその意義を特定し得る記載はないから,本件特許の請求項の記載は,発明の構成に欠くことのできない事項を記載したものとはいえず,本件特許は昭和62年改正前特許法36条4項の要件を充たさない,と主張する。
しかしながら,本件発明における「所定距離」は,実際に装置を製造する際に当業者が適宜設計し得る事項であるというべきであるから,その具体的126な範囲を特定することが発明の構成に必須の要件であるということはできない。
無効理由9は理由がない。
(10)無効理由10(昭和62年改正前特許法36条3項違反の無効理由)について被告は,?@本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,構成要件Gの「所定距離」が具体的にどの程度の距離であるかを特定することができず,?A構成要件Gは,空気導管を回転筒それ自体に取り付けることを意味するものの,本件明細書の発明の詳細な説明参酌しても,高速で回転する回転筒に具体的にどのような方法で空気導管を取り付ければ良いのかについて方法の十分な開示がなく,当業者において本件特許を実施することができないものであるから,本件特許は,明細書の発明の詳細な説明が当業者において容易に実施をすることができる程度に記載されたものとはいえず,昭和62年改正前特許法36条3項の要件を充たさない,と主張する。
しかしながら,上記?@の点については,環状隙間への加圧空気の吹き込み位置は,実際の装置において,通常の試行錯誤の範囲で設計可能な事項であるというべきであるから,「所定距離」の具体的な特定方法が明らかにされていないことをもって,実施可能要件に違反すると認めることはできない。
また,上記?Aの点については,回転する円筒体に空気を導入する装置の構成は,本件出願前に周知であったことが認められ(甲9,10),当業者にとって,上記の構成を実施することは十分に可能であるというべきであるから,実施可能要件に違反すると認めることはできない。
無効理由10は理由がない。
5争点5(損害額又は不当利得額)について(1)上記1ないし3のとおり,イ号物件,ロ号物件及びハ号物件は,いずれも本件発明の技術的範囲に属し,また,上記4のとおり,本件発明が特許無効127審判により無効とされるべきものであるとは認められないから,本件特許の出願公告日である平成2年10月31日から平成4年10月26日までの間における,被告によるイ号物件,ロ号物件及びハ号物件の製造,販売は,本件特許の出願人が専有する「業としてその特許出願に係る発明の実施をする権利」を侵害するものであり(平成6年法律第116号による改正前の特許法52条1項),本件特許権が成立した平成4年10月27日から存続期間が満了した平成14年6月29日までの間における,被告によるイ号物件,ロ号物件及びハ号物件の製造,販売は,本件特許権を侵害するものである。
なお,別紙1のE発電所に販売されたイ号物件の製造者及びH発電所に販売されたイ号物件の製造者は,証拠(乙98ないし101)及び弁論の全趣旨によれば,いずれも被告であると認められる。
(2)前記争いのない事実等(6)記載のとおり,原告は,本件特許権の出願人であり,特許権者であった宇部興産株式会社から,原告への本件特許権の移転日である平成13年6月20日よりも前に発生した損害賠償請求権を譲り受けた。
したがって,原告は,平成13年6月19日以前の被告の行為については,譲受債権に基づき,本件特許権の移転日である平成13年6月20日から本件特許権の存続期間の満了日である平成14年6月29日までの間における被告の行為については,不法行為に基づき,被告に対し,本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を損害の額として賠償を請求することができる(特許法102条3項)。
(3)被告の売上額についてア販売数量について(ア)被告は,別紙1のA発電所へのハ号物件の販売数量6基のうち,3基については,本件特許の出願公告前に納入されたものであるから,損害賠償額の算定の基礎から除外されるべきであると主張するのに対し,原128告は,これについても本件特許の出願公告後に実施(譲渡)されたものであるから,損害賠償額の算定の基礎とされるべきであると主張する。
なお,この点を除き,別紙1記載の被告製品の販売数量については当事者間に争いがない。
(イ)この点,証拠(乙94)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,A発電所へのハ号物件の販売数量6基のうちの3基(「Aミル」,「Bミル」,「Cミル」)については,遅くとも平成2年8月にはすべての部品の納入を完了していたことが認められる。
しかしながら,ハ号物件が粉砕機であることに照らせば,粉砕機を構成する部品の納入が完了したからといって,完成品たる粉砕機自体の納入が完了したことにはならないというべきである。かえって,乙第106号証の「工程欄」には,機器の売上時期は平成3年9月であると記載されていることからすれば,購入者が被告から粉砕機の引渡しを受けたのは平成3年9月であったと認められるのであり,上記事実によれば,上記3基(「Aミル」,「Bミル」,「Cミル」)についても,本件特許の出願公告日である平成2年10月31日以降に実施されたものというのが相当である。
イ売上額について(ア)証拠(乙106ないし114)及び弁論の全趣旨によれば,別紙1記載の被告製品の総原価額は,別紙6の表「ミル総原価」欄記載のとおり,●(省略)●であると認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(イ)ところで,本件においては,被告製品(ミルのみ)の売上高や収益率を記載した資料は存しない。
そこで,上記ミル総原価額を基に,損害額算定の基礎とすべき被告製品の売上高を算出することとする。
(ウ)AないしDの各発電所分について129●(省略)●(エ)EないしIの各発電所分について●(省略)●(オ)以上によれば,被告製品の売上高は,別紙6の表「ミルの売上高」欄記載のとおり,●(省略)●となる。
(4)本件発明の寄与率についてア本件発明は,「回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機」に係る発明であり,従来の回転式セパレータを加圧型の粉砕機に取り付ける場合に,センターシュートと回転筒との隙間に微粉が侵入し,固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷したりするのを防止するために,センターシュートと回転筒との間に存在する隙間にエアシールを施すことを内容とするものである。
すなわち,従来負圧型の粉砕機に用いられていた回転式セパレータを,加圧型の粉砕機にも適用することができるようにした点に特徴があり,これにより,固定ベーン式のセパレータを備えた場合に比して,分級効率を向上させることができるものである(甲2)。
また,証拠(甲51)によれば,?@石炭焚ボイラの高効率化が求められるようになり,石炭を細かく砕いて燃焼するために,より細かい分級が可能な回転式分級機が求められるようになったこと,?A堅型ミルにおいては,連続,安全運転を実現するため,石炭ホッパーから石炭を導き出し,粉砕機に投入する際,サイドシュート方式は採用せず,ミルの中止部上方から垂直に石炭を粉砕テーブルに供給するセンターフィード方式が要求されること,?Bイニシャルコストを安価に抑えることができ,また,コンパクトなシステム構築が可能となることなどから,事業用ボイラでは加圧型の粉砕システムが求められること,が認められる。本件発明は,上記?@ないし?Bの要求を同時に充たすために有用な技術であるといえる。
130火力原子力発電に関する文献(甲3,20,33)において,「ミルは,石炭焚ボイラの運用性,信頼性を支配する最重要機器の一つである。」,「石炭火力発電所における微粉炭機(ミル)は,単に石炭を粉砕するという機能だけでなく,電力の安定供給の観点から,発電プラントの信頼性を大きく左右する重要な機器としての役割を持っている。」,「最近の石炭焚ボイラでは,エグゾースタの摩耗による補修を必要としない加圧ミルが多く採用されている」,「ミルの運用には摩耗部品の保守は非常に重要なことであり,従来から,耐摩耗材の開発,ロール・リング・ライナ等の取替の簡便化など,常に考慮が払われてきた。」などの記載がある。
これらの記載に照らせば,ミルにおいては,機械の保守や耐摩耗性の観点が重要であり,本件発明によって解決される課題が重要性を有することが分かる。
イ他方,イ号物件,ロ号物件及びハ号物件は,いずれも堅型ミルに分類されるものである。堅型ミルは,大きく分けて,「駆動部(減速機部とも言われる。)」,「粉砕部(粉砕乾燥部とも言われる。)」及び「分級部(粗粉分離部とも言われる。)」,の3つの部分から構成される(甲3,20,33)。
粉砕部(粉砕乾燥部)及び駆動部(減速機部)は,粉砕機の本来の機能,すなわち,原料を粉砕する機能を担う部位であるのに対し,分級部(粗粉分離部)は,粉砕部における粉砕の精度を担保するための分級を行う部位である。
ウこれらのことに照らせば,粉砕機における本件発明の寄与率を考える場合に,分級部に関連する部材の原価のみを基礎とするのは相当でない。
また,被告は,本件発明の代替技術が多数存在する旨主張する。しかしながら,パッキンその他のシール方法を用いることが,本件発明の代替技術であるといえるまでに完成された手段であるのかについては,立証がな131い。
さらに,被告は,原告と被告とでは,顧客層や市場が異なる旨主張するものの,甲第49号証によれば,原告には,国内外を問わず,多数の堅型ミルの納入実績があることが認められる。
エ以上で検討したところを総合考慮すると,粉砕機に対する本件発明の寄与率としては,30%が相当である。
(5)実施料率について●(省略)●この点,被告は,被告とドイツ・バブコック社との間で締結された技術提携契約書(乙62,63)に基づいて,実施料率を定めるべきである旨主張する。
しかしながら,上記各契約は,回転分級機に関する技術を対象とするものの,本件特許権の実施を許諾したもの(あるいは,本件特許権を有する者がその実施を許諾したもの)ではないから,これらに基づいて,本件における実施料率を定めるべきであるとは言えない(特許権を侵害した者が,特許権者以外の者との間で,特許権者の関与なく任意に定めた条件に従って,実施料率を定めるのが相当でないことは,明らかである。)。
そもそも,上記各技術提携契約書(乙62,63)の内容からは,当該契約で許諾対象とされている技術の具体的構成も実施料率も明らかであるとはいえない。
被告の上記主張は採用することができない。
(6)実施料相当額の損害賠償金額以上によれば,実施料相当額の損害賠償金額は,次の計算式のとおり,合計2億3167万3433円となる。
●(省略)●(7)弁護士費用等132原告は,本件の訴訟追行を弁護士及び弁理士に委任して,報酬の支払を約しているものと認められる(弁論の全趣旨)。
本件事案の内容,認容額,本件訴訟の経過等を総合すると,被告の行為と相当因果関係のある弁護士費用等の額は2000万円と認めるのが相当である。
(8)まとめ以上によれば,実施料相当の損害賠償金及び弁護士費用等相当の損害賠償金の合計は,2億5167万3433円である(なお,原告は選択的に不当利得返還請求権に基づく請求を主張するものの,不当利得額が上記損害賠償額を上回ることはない。)。
6結論よって,原告の本訴請求は,被告に対し,2億5167万3433円及びこれに対する弁済期の経過した後である平成18年10月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
133裁判官舟橋伸行別紙1,別紙2-2,別紙2-3,別紙3-2,別紙3-3,別紙4-2,別紙4-3,別紙6は省略134(別紙2-1)イ号物件目録イa回転テーブル(9)がある。
イbこの回転テーブル(9)の上に配置された,該回転テーブルの回転に伴って従動回転する3個の粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)を有している。
イc1上記ローラタイヤ(8)の上方に,ケーシングの水平方向中央に位置した状態で分級機ホッパ(5)が配設され,さらに分級機ホッパ(5)の上方にケーシングの水平方向中央に位置した状態でセンターシュート(1)が配設されている。
イc2上記回転テーブル(9)の円周に粉砕機内壁に沿ってスロート(14)を設け,該スロートより粉砕機内部に熱風を送風して粉砕された微粉炭を吹き上げ,該微粉炭を空気搬送するようにしている。
イc3上記スロート(14)及び上記分級機ホッパ(5)により,粉砕された微粉炭は粉砕機上部に空気搬送され,イe1記載の固定ベーン(15)において分級され(この際に,一定以上の径の微粉炭は上記分級機ホッパ上面を滑落し粉砕機下部へ落下する。),イe1記載の回転ベーン(4)においても分級され(この際にも,一定以上の径の微粉炭は上記分級機ホッパの上面を滑落し分級機下部へ落下する。),一定以下の径の微粉炭は送炭管(2)より排出される。
イd上記センターシュート(1)の外側に,該センターシュートと同心状に回転筒(16)が回転可能に設けられている。
イe1この回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)(4)が取り付けられており,回転ベーン(4)の配置及び形状は,別紙2-2の図面,別紙2-3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベーンの配置及び形状(上から見た図)」及び「回転ベーンの写真」のとおりとなっている。
135イe2上記回転ベーン(4)の外側に,固定されたベーン(固定ベーン)(15)が配置され,固定ベーン(15)の配置及び形状は,別紙2-2の図面,別紙2-3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベーンの配置及び形状(上から見た図)」のとおりとなっている。
イf内部を加圧雰囲気とした粉砕機である。
イg上記回転筒(16)下端から2メートルから3メートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)(長径は90ミリメートルから110ミリメートル程度,短径は30ミリメートルから40ミリメートル程度)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むことにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間に空気を導入できるようにしている。
イh上記環状隙間は下記構造を有しており,この隙間に回転筒(16)下端における空気の噴出速度が平均約28メートル毎秒以上となるような加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している。
記?@上記環状隙間の間隔は,最も広いところで数十ミリメートル程度である。
?A上記回転筒(16)下端と上記空気導入孔(17)の位置の間に隙間が約10ミリメートルから20ミリメートル程度の狭隘部(20)が設けられている。
?B上記回転筒(16)下端には,金属製のリング(21)及びパッキン(22)を配することにより,上記センターシュート(1)と上記回転筒の下端における環状隙間を1ミリメートルから2.4ミリメートル程度まで狭めている。
136イi回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機である。
137(別紙3-1)ロ号物件目録ロa回転テーブル(9)がある。
ロbこの回転テーブル(9)の上に配置された,該回転テーブルの回転に伴って従動回転する3個の粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)を有している。
ロc1上記ローラタイヤ(8)の上方に,ケーシングの水平方向中央に位置した状態でセンターシュート(1)が配設されている。
ロc2上記回転テーブル(9)の円周に粉砕機内壁に沿ってスロート(14)を設け,該スロートより粉砕機内部に熱風を送風して粉砕された微粉炭を吹き上げ,該微粉炭を空気搬送するようにしている。
ロc3上記スロート(14)により,粉砕された微粉炭は粉砕機上部に空気搬送され,ロe記載の回転ベーン(4)により分級され(この際に,一定以上の径の微粉炭は粉砕機下部へ落下する。),一定以下の径の微粉炭は送炭管(2)より排出される。
ロd上記センターシュート(1)の外側に,該センターシュートと同心状に回転筒(16)が回転可能に設けられている。
ロeこの回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)(4)が取り付けられ,回転ベーン(4)の配置及び形状は別紙3-2の図面,別紙3-3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベーンの配置及び形状(上から見た図)」,「回転ベーンの写真」のとおりになっている。
ロf内部を加圧雰囲気とした粉砕機である。
ロg上記回転筒(16)下端から2メートルから4メートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)(長径は90ミリメートルから110ミリメートル程度,短径は30ミリメートルから40ミリメートル程度)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング138側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むことにより,回転筒に空気導管を取り付けることなく,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間の空気を加圧できるようにしている。
ロh上記環状隙間は下記構造を有している。
記?@上記環状隙間の間隔は,最も広いところで数十ミリメートル程度である。
?A上記回転筒(16)下端と上記空気導入孔(17)の位置との間に隙間が約20ミリメートル程度の狭隘部(20)が設けられている。
?B上記回転筒(16)下端には,金属製のリング(21)及びパッキン(22)を配している。
ロi回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機である。
139(別紙4-1)ハ号物件目録ハa回転テーブル(9)がある。
ハbこの回転テーブル(9)の上に配置された,該回転テーブルの回転に伴って従動回転する3個の粉砕ローラ(ローラタイヤ)(8)を有している。
ハc1上記ローラタイヤ(8)の上に,ケーシングの水平方向中央に位置した状態でセンターシュート(1)が配設されている。
ハc2上記回転テーブル(9)の円周に粉砕機内壁に沿ってスロート(14)を設け,該スロートより粉砕機内部に熱風を送風して粉砕された微粉炭を吹き上げ,該微粉炭を空気搬送するようにしている。
ハc3上記スロート(14)により,粉砕された微粉炭は粉砕機上部に空気搬送され,ハe記載の回転ベーン(4)により分級され(この際に,一定以上の径の微粉炭は粉砕機下部へ落下する。),一定以下の径の微粉炭は送炭管(2)より排出される。
ハd上記センターシュート(1)の外側に,該センターシュートと同心状に回転筒(16)が回転可能に設けられている。
ハeこの回転筒(16)には,回転可能なベーン(回転ベーン)(4)が取り付けられ,回転ベーン(4)の配置及び形状は別紙4-2の図面,別紙4-3の「分級機全体図」,「分級機を横から見た平面図」,「回転ベーンの配置及び形状(上から見た図)」,「回転ベーンの写真」のとおりとなっている。
ハf内部を加圧雰囲気とした粉砕機である。
ハg上記回転筒(16)下端から3730ミリメートル程度離れた上方位置に,上記回転筒円周に30個の略楕円状の空気導入孔(17)(長径は110ミリメートル程度,短径は38ミリメートル程度)を設け,該空気導入孔の周囲に,分級機ケーシング側に固定された空気室(18)を設け,該空気室と140送風装置とをシールエアダクト(19)により接続し,上記送風装置から上記空気室に空気を吹き込むことにより,上記空気導入孔を通じて,上記センターシュート(1)と上記回転筒との間の環状隙間に空気を導入できるようにしている。
ハh上記環状隙間は下記構造を有しており,この隙間に回転筒(16)下端における空気の噴出速度が平均117メートル毎秒程度となるような加圧雰囲気よりも高い圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端全周から空気が噴出するように構成している。
記?@上記環状隙間の間隔は,最も広いところで70ミリメートル程度である。
?A上記回転筒(16)下端と上記空気導入孔(17)の位置との間に隙間が約23ミリメートル程度の狭隘部(20)が設けられている。
?B上記回転筒(16)下端には,金属製のリング(21)を配することにより,上記センターシュート(1)と上記回転筒の下端における環状隙間を1.2ミリメートルから2.4ミリメートルまで狭めている。
ハi回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機である。
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裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子