運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2007-800098
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10304審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10272審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10144審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10282審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10190審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 容易に実施 /  発明特定事項 /  実施可能要件 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  訂正の許否 /  誤記の訂正 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正要件 /  異議申立 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 21年 (行ケ) 10004号 審決取消請求事件
原告ローディアアセトウゲー エムベーハー
同訴訟代理人弁護士横井康真
同弁理士森下賢樹 青木武司
被告ダイセル化学工業株式会社
同訴訟代理人弁理士平田忠雄 岩永勇二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/09/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2007−800098号事件について平成20年9月30日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において原告が有する下記2の発明に係る特許を無効とした別紙審判書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯原告は,平成14年(2002年)4月22日の優先権(ドイツ連邦共和国)を主張し,平成15年4月22日,名称を「高圧縮フィルタートウベール,およびその製造プロセス」とする発明について特許出願(特願2003-586035号)をし,平成19年2月16日に設定登録(特許第3917590号。請求項の数26。甲17)を受けた。
被告は 平成19年5月23日 本件特許を無効とすることを求める審判請求 甲 ,, (20)をし,特許庁に無効2007-800098号事件として係属したところ,原告は,平成19年9月25日付けで訂正(甲18。以下「本件訂正」という。なお,本件訂正前の明細書(甲17)を「本件明細書」という )請求を行ったが, 。
,, , 特許庁は 平成20年9月30日 本件訂正請求を認めることができないとした上「本件特許の請求項1〜26に係る発明についての特許を無効とする 」との本件 。
審決をし,同年10月15日,その謄本を原告に送達した。
2本件訂正前後の特許請求の範囲の記載本件訂正請求前及び同請求後の特許請求の範囲の記載はそれぞれ次のとおりである。以下,その請求の前後を通じ,請求項1ないし26に記載の各発明を,その順に,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明26」といい,総称して 「本件発 ,明」という。
本件訂正請求前(1)【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部,, , 分が無い 梱包され ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであって(a)前記ベールが,少なくとも300kg/m の梱包密度を有し;3(b)前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備えており;(c)非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;(d)前記ベールが,少なくとも約900mmの高さを有しており;(e)少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている,ことを特徴とするフィルタートウのベール。
【請求項2】前記ベールが,少なくとも約10N/15mmの裂破強度(DINENISO527-3に従って測定)を有する,こと特徴とする請求項1記載のベール。
【請求項3】0.9m よりも高い梱包容量,および/または350kg/m ,特3 3に800kg/m 未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1または2記3載のベール。
【請求項4】少なくとも970mm,特に970〜1200mmの高さを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のベール。
【請求項5】前記パッケージ包装材がフィルム,特にプラスチック・フィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のベール。
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシームであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に記載のベール。
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,またはヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール。
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とする,請求項1〜7のいずれか1項に記載のベール。
【】,,() 請求項9 ポリエチレン 特にLDPE または改良ポリエチレン LLDPEから成ることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載のベール。
【請求項10】前記パッケージ包装材が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層した積層フィルムであることを特徴とする請求項5〜8の少なくとも1項に記載のベール。
【請求項11】前記パッケージ包装材が,約100〜400μmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のベール。
【請求項12】前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動梱包を備え,および/または,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のベール。
【請求項13】梱包後に存在する,外圧に対して少なくとも約0.01barの負圧が,解放されていることを特徴とする請求項1〜12の少なくとも1項に記載のベール。
【請求項14】(a)前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;(b)前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップと;(c)前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;(d)前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;(e)外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放されたパッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,特に請求項1〜13のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包するプロセス。
【請求項15】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発生されることを特徴とする請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項14または15記載のプロセス。
【請求項17】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とする請求項16記載のプロセス。
【請求項18】周囲圧力よりも約0.15〜0.7bar低い負圧が生成されることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】周囲圧力よりも約0.2〜0.40bar低い負圧が生成されることを特徴とする請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを特徴とする請求項14〜19のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定される水蒸気透過率が,5g/(m ・d)以下,好ましくは2g/(m ・d)以2 2下であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14〜20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380-Vに従って測定される空気に関するガス透過率が,10,000cm /(m ・d・bar)3 2以下であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14〜21のいずれか1項に記載のプロセス。
3 2 3 2【請求項23】200cm /(m ・d・bar ,好ましくは20cm /(m )・d・bar)以下のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの裂破強度(DINENISO527-3に従って測定される)を有するフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14〜23のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項25】前記裂破強度が,少なくとも200N/15mm(DINENISO527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】前記プロセスが,少なくとも300kg/m の梱包密度が得られ3るように制御されることを特徴とする請求項14〜25のいずれか1項に記載のプロセス。
(2)本件訂正請求後(下線部分が訂正箇所である )。
【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部,, , 分が無い 梱包され ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであって(a)前記ベールが,少なくとも300kg/m の梱包密度を有し;3(b)前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備えており;(c)非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から40mm以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;(d)前記ベールが,少なくとも900mmの高さを有しており;(e)少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている,ことを特徴とするフィルタートウのベール。
【請求項2】前記ベールが,少なくとも10N/15mmの引裂き強度(DINENISO527-3に従って測定)のフィルムを有する,こと特徴とする請求項1記載のベール。
【請求項3】0.9m 以上の梱包容量,および/または350kg/m よりも高3 3く,特に800kg/m 未満の梱包密度を有することを特徴とする請求項1また3は2記載のベール。
【請求項4】少なくとも970mm,特に970〜1200mmの高さを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のベール。
【請求項5】前記梱包材料がフィルム,特にプラスチック・フィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のベール。
【請求項6】対流に対して気密性を有する接続部が,対流空気が透過不可能なシームであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に請求項のいずれか1項に記載のベール。
【請求項7】空気が透過不可能なシームが,重ね合わせヒートシールシーム,またはヒレ状シームであることを特徴とする請求項6に記載のベール。
【請求項8】前記内接矩形内に位置する前記ベールの頂部側表面の90%が,25mm以下,好ましくは,10mm以下の距離で前記平坦板から離間することを特徴とする,請求項1〜7のいずれか1項に記載のベール。
【】,,() 請求項9 ポリエチレン 特にLDPE または改良ポリエチレン LLDPEから成る梱包材料を有することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載のベール。
【請求項10】前記梱包材料が,ポリアミド層とポリエチレン層を積層した積層フィルムであることを特徴とする請求項5〜8の少なくとも1項に記載のベール。
【請求項11】前記梱包材料が,100〜400μmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のベール。
【】 , 請求項12 前記ベールが厚紙または合成布地から成る追加の移動用梱包を備えおよび/または,さらにストラップで包装されている,ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のベール。
【請求項13】梱包後に存在する,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧が,解放されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のベール。
【請求項14】(a)前記フィルタートウを圧縮形態で準備するステップと;(b)前記圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップと;(c)前記パッケージ包装材を気密状態にシールするステップと;(d)前記包装されたベールにかかる負荷を解放するステップと;(e)外圧に対して少なくとも0.01barの負圧を,前記負荷が解放されたパッケージ包装材内に発生させるステップとを備えた,特に請求項1〜13のいずれか1項に記載のフィルタートウのベールを梱包するプロセス。
【請求項15】前記負圧が前記圧縮されたフィルタートウの自然の膨張によって発生されることを特徴とする請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】前記負圧が空気の排出によって発生されることを特徴とする請求項14または15記載のプロセス。
【請求項17】前記空気が,真空ポンプの補助によって排出されることを特徴とする請求項16記載のプロセス。
【請求項18】周囲圧力よりも0.15〜0.7bar低い負圧が生成されることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】周囲圧力よりも0.2〜0.4bar低い負圧が生成されることを特徴とする請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】前記パッケージ包装材が,溶着またはヒートシールによって,特に重ね合わせシームまたはヒレ状シームを形成するような方法でシールされることを特徴とする請求項14〜19のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】温度23℃,相対湿度85%で,DIN53,122に従って測定される水蒸気透過率が,5g/(m ・d)未満,好ましくは2g/(m ・d)未2 2満であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14〜20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】温度23℃,相対湿度75%で,DIN53,380-Vに従って測定される空気に関するガス透過率が,10,000cm /(m ・d・bar)3 2未満であるフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14〜21のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】200cm /(m ・d・bar)未満,好ましくは20cm /3 2 3(m ・d・bar)未満のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材とし2て使用することを特徴とする請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】少なくとも10N/15mm,特に少なくとも100N/15mmの引裂き強度(DINENISO527-3に従って測定される)を有するフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項14〜23のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項25】前記引裂き強度が,少なくとも200N/15mm(DINENISO527-3に従って測定される)であることを特徴とする請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】前記プロセスが,少なくとも300kg/m の梱包密度が得られ3るように制御されることを特徴とする請求項14〜25のいずれか1項に記載のプロセス。
3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件訂正請求のうち請求項19及び23に係る各訂正事項は,いずれも実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものであるとして,本件訂正請求は,特許法134条の2第5項において準用する126条4項の規定に違反するものであるから認められないとした上で,本件発明は,同法36条4項1号又は6項1号,2号の規定に適合するものではなく,本件特許は無効とされるべきである,としたものである。
4取消事由(1)個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤り(取消事由1)(2)特許法36条4項1号違反とした判断の誤り(取消事由2)(3)特許法36条4項1号の解釈の誤り(取消事由3)第3当事者の主張1取消事由1(個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤り)について〔原告の主張〕() ,「..」 (1)本件審決 3頁9〜20行 は 請求項19に係る 約0 2〜0 40を「0.2〜0.4」とする訂正及び請求項23に係る「200cm /(m・d3 2・bar ,好ましくは20cm /(m・d・bar)以下」を「200cm / )3 2 3(m ・d・bar)未満,好ましくは20cm /(m ・d・bar)未満」とする2 32訂正は,実質上,特許請求の範囲変更又は拡張するものであるとして,本件訂正請求を不可分一体的に認められないとした。
(2)しかしながら,上記判断は,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲減縮を目的とする訂正請求については,請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されるものであるとする最高裁平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁に違反する。同判決は,特許異議申立事件における訂正に関するものであるが,同判決が訂正について請求項ごとに個別に判断する根拠として,その訂正請求が特許異議申立事件における付随的手続であり,独立した審判手続である訂正審判の請求とは特許法上の位置付けを異にすること及び訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するとはいえないことを挙げている。そして,無効審判請求事件における訂正請求も,無効審判における付随的手続であって,訂正審判請求とは特許法上の位置付けを異にし,特許異議申立事件と同様の訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されているのであるから,無効審判請求事件における訂正請求についても,同判決の射程は及ぶと解されるべきものである。
また,同判決は,第一義的には,特許請求の範囲減縮を目的とする訂正について述べているが,請求項ごとに訂正を認める理由として 「請求項ごとに申立てを ,することができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる 」と。
判示している。このことからすると,特許異議ないし無効審判請求に対する防御手段としてされた訂正であれば,それが特許請求の範囲減縮ではなく,明りょうでない記載の釈明等であったとしても,請求項ごとの訂正が認められなければ,攻撃,, , 防御の均衡を欠くことになるから 同判決は 請求項ごとに判断すべき訂正として明りょうでない記載の釈明を除外するものではない。
本件訂正も,被告から主張された発明が不明瞭であるという記載不備にかかる無効理由を回避するために,その防御手段として請求項ごとについてされた訂正であるから,同判決に従い,その訂正の適否については個別に判断されるべきものであった。
(3)原告は,本件訂正請求において,請求項1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25について訂正請求を行ったところ,本件審決は,請求項19及び23に係る2つの訂正請求のみを判断し,訂正要件を欠くとして本件訂正すべてを認めないとした。
しかしながら,本件特許は,請求項1ないし26から成り,請求項2ないし26はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用する従属項であるところ,従属項である請求項19及び23については訂正についての判断がされているとしてこの請求項に係る部分については本件審決を取り消さないとすると,独立項とその独立項を利用する従属項との間で特許請求の範囲の不整合という不都合が生ずる。すなわち,独立項及び従属項のいずれについても訂正請求がされている場合,その従属項は独立項を引用しているため,従属項の訂正の内容には独立項に係る訂正事項も含むことになるが,その従属項のみに係る訂正の判断がされ,訂正要件が欠くとされたとき,特定の請求項につき複数の訂正事項を含んでいる場合には,このような訂(() 正事項について個別に判断することは認められないので 最高裁昭和53年 行ツ第27号,第28号昭和55年5月1日第一小法廷判決・民集34巻3号431頁参照 ,この従属項は請求項全体として訂正を認められないことになる。 )そうすると,仮に訂正について判断された従属項については取消しの対象にならないとすると,この従属項については訂正前の独立項を引用した形で存続することになる。他方,独立項に係る部分のみ審決が取り消され,その後,改めてこの独立項につき訂正の適否が判断され,その結果,この独立項の訂正が認められると,上記従属項のみが訂正前の独立項を引用することになり,独立項と従属項との間で,その特許請求の範囲にそごが生ずることになる。
したがって,従属項についてのみ訂正の判断がされている場合,このような従属, 。 項を含め 訂正の対象となっている請求項に係る部分の審決を取り消すべきである(4)以上の次第であるから,本件審決は本件発明の認定を誤っており,これを前提として,その余の無効理由を判断した本件審決には,結論に影響を及ぼす違法がある。
〔被告の主張〕(1)本件訂正は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるところ,前掲最高裁平成20年7月10日判決は 「訂正請求の中でも,…特許請求の範囲 ,の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,…「特許異議の申立てがされている請求項についての特許請 」,求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる 」と判示し,明りょうで 。
ない記載の釈明を目的とする訂正については適用されるものではないことが明らかにされている。
そして,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正は,独立特許要件が要求されていない 特許法134条の2第5項 126条5項 から 上記判決でいう い ( ,),「わゆる独立特許要件が要求されないなど,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されて」いるという理由も当てはまらない。
(2)また,本件特許の請求項1の訂正は 「約40mm」を「40mm」に訂正 ,するなどのものであって,仮に訂正が認められたとしても本件審決の無効理由は解消しないので,本件審決の無効理由に対する防御手段としての実質を有するものではない さらに 少なくとも 本件審決が記載不備であると判断した請求項1の 少 。,, 「なくともベールが梱包された後に…負圧がベールにかかっている」との部分については何ら訂正請求がされておらず,本件訂正の許否にかかわらず,本件審決のその他の無効理由は解消せず,本件審決の結論に影響しないものである。
さらにまた,仮に,本件訂正請求について請求項ごとの判断がされなければならないものであったとしても,訂正の判断がされなかった請求項に係る訂正は,本件審決のその他の無効理由の判断に何ら影響を及ぼさない訂正であるから,その他の無効理由について審理を行ったことに全く支障がないものであった。
(3)以上の次第であるから,本件審決の判断には誤りはない。
2取消事由2(特許法36条4項1号違反とした判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決(15頁21行〜16頁10行)は,本件発明1における「ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40 mm 以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平面であり」及び「少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」との構成については,特定の数値限定を伴うもので, , () , あり このような数値限定については 数値限定を付した場合の効果 実施例 とこのような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)とを十分に記載しておき,技術上の意義を明確にしておくこと等が必要であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,そのような記載はないとし,本件発明1において,このような数値限定を特定する技術的意義が十分に記載されているとはいえず,特許法36条4項1号の規定に適合するものとはいえない,とした。
(2)特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明について,経済産業省令で定めるところにより記載することを求め,特許法施行規則24条の2は,同記載につき,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならないと規定する。
, 【】 これを本件発明1についてみると 本件明細書の発明の詳細な説明の 0004及び【0006】の記載から理解されるとおり,従来のベール(フィルタートウ・パッケージ)では,パッケージ段階でベールに加えられた圧力を開放すると,パッケージ内のフィルタートウが膨張し,その頂部及び底部がふくらみを帯びる形状となってしまい,ベールを安全に積み上げておくことができず(第1の問題点 ,ま)た,フィルタートウの膨張により,パッケージが破裂してしまい,パッケージに掛けられたストラップが切断され,それにより作業員にけがを負わせるという危険があった(第2の問題点)ところ,これら第1及び第2の問題点等を解決することを本件発明の課題(以下「本件第1課題」及び「本件第2課題」という )とするも 。
のである。
そして,本件発明の詳細な説明の【0008【0010【0016【00 】,】,】,17】には,上記課題を解決するための手段として,本件発明1においては,?@本件第1課題を解決するために 「ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分 ,の少なくとも90%が,平坦な板から約40 mm 以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平面」であるようにしていること,すなわち,従来のベールでは,フィルタートウの膨張圧により,頂面及び底面がふくらんでしまい,ベールの積み上げが困難であったものを,これら頂面及び底面を所定の平坦度とすることにより,ベールの積み上げを容易にし,コンテナ等への収納の最適化を図ることができること,?A本件第2課題等を解決するため,フィルタートウのパッケージ包装材を気密にシールするとともに 「少なくともベールが梱包された後に,外圧に対し ,. 」, て少なくとも0 01barの負圧がベールにかかっている 状態にしていることすなわち,従来のベールでは,フィルタートウの内部からの膨張圧により,パッケージ梱包材が破裂するおそれ等があったところ,本件発明1においては,パッケージ梱包材を気密性のあるものとし,パッケージ内の気圧を外気圧に比べて0.01, , bar程度低減させることにより フィルタートウの内部からの膨張圧を減少させパッケージ梱包材が破裂することを防止していることが理解できる。そして,これらの限定を付すことによって,上記課題を解決できると記載されているのであるから,上記の発明の詳細な説明参酌すれば,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する当業者であれば,この限定の技術的意義は十分に理解できる。
(3)以上のとおり,本件明細書の詳細な説明においては,比較例等が記載されなくとも 「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属 ,する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」は十分に記載されている。
(4)なお,特許・実用新案審査基準(以下「審査基準」という )第?T部第1章 。
3.3.2(2)では 「?A…当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に ,基づいて,請求項に係る発明の属する技術分野,又は課題及びその解決手段を理解することができない出願については委任省令要件違反とする「なお,発明を特 。」,定するための事項に特殊パラメータを含む場合,従来技術との比較が十分示されていない出願は,上記?Aの課題及びその解決手段を理解することができない出願に該当するものとする 」とするが,そもそも,審査基準は,特許庁の内部の取決めで 。
あり,飽くまで規範となるのは特許法等の法令であるところ,上記のとおり,特許法ないし特許施行規則の規定に沿って判断する限り,本件発明には委任省令要件に反するような記載不備は存在しない。また,審査基準によったとしても,特殊パラメータとは 「()当該パラメータが,標準的なもの,当該技術分野において当業 ,??者に慣用されているもの又は慣用されていないにしても慣用されているものとの関係が当業者に理解できるもののいずれにも該当しないもの 」又は「()当該パラ 。??メータが,標準的なもの,当該技術分野において当業者に慣用されているもの又は慣用されていないにしても慣用されているものとの関係が当業者に理解できるもののいずれかに該当するが,これらのパラメータが複数組み合わされたものが,全体として()に該当するものとなるもの 」をいうとされる(2.2.2(注3 )とこ ?? 。 )ろ,本件審決において「特定の数値限定」とされているのは 「ベールの頂面にお ,ける内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm以下離間する程度」という,ある面が全体的にどの程度平坦になっているのかという限定と 「少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01 ,barの負圧がベールにかかっている」という,ベール内の圧力が外圧(常圧)に, 「」 比べてどの程度低いのかという限定であり これらはいずれも慣用されている mm及び「bar」という単位から当業者であれば容易に理解できるものにすぎず,本件発明1における数値限定は,特殊パラメータではなく,審査基準に従うにしても何ら委任省令要件に反するものではない。
〔被告の主張〕(1)ベールの安全な積み上げのために,積み上げ面が平坦であることが望ましいことは,よく知られた技術常識であるから,数値限定により本件発明の課題(目的)を達成したという本件発明の技術的意義が明らかであるというためには,数値限定を満足する場合と満足しない場合における効果の差が本件明細書において明らかにされていなければならない。
しかしながら,本件明細書には,ベールの平坦度の構成の技術的意義は記載されておらず,数値限定を満足する実施例も満足しない比較例も記載がなく,数値限定により本件発明の課題(目的)を達成したことが理解できず,その技術的意義は不明である。
また,そもそも,請求項1における「ベールの頂面における…,前記ベールの頂面および底面が平坦であり」という記載自体の意味が理解できず(頂面を所定の数値範囲を満足するように平坦にすると,なぜ頂面のみならず底面も平坦になるのか理解に苦しむ ,技術的意義が不明である。 ),「 , . (2)原告は少なくともベールが梱包された後に 外圧に対して少なくとも001barの負圧がベールにかかっている」との本件発明1の特定事項により,パッケージ梱包材の破裂を防止できると主張するが,従来技術においても,0.01bar程度の負圧がかかっていたと考えられるところ,上記数値限定により本件発明の課題(目的)を達成したという本件発明の技術的意義が明らかであるというためには,上記数値限定を満足する場合と満足しない場合における効果の差が本件明細書において明らかにされていなければならない。
しかしながら,本件明細書には,少なくとも上記数値限定を満足しない比較例の記載がなく,上記数値限定により本件発明の課題(目的)を達成したことが理解できず,その技術的意義が不明である。
また,そもそも,請求項1における「少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」という発明特定事項について,本件明細書に記載がなく,その技術的意義が不明である。
(3)原告は,請求項1に係る発明の数値限定は特殊パラメータではないと主張するが,請求項1の「ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり」及び「少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」という数値限定は,審査基準において定義される特殊パラメータに該当する。
原告は 「mm」及び「bar」という単位が当業者に慣用されているから,本 ,件発明1における数値限定は特殊パラメータではないと主張するが,これらの単位は 当業者に慣用されていない規定の仕方で記載された ベールの平坦度 及び ベ , 「」「ール内部の負圧」の単位を示すものにすぎず,上記数値限定のいずれも特殊パラメータと解される。
(4)以上の次第であるから,本件発明1については,発明の技術的意義を理解するために従来技術との比較が十分に示されていなければならないにもかかわらず,その比較が何らされていないものであるから,特許法36条4項1号の規定に適合するものとはいえず,本件審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(特許法36条4項1号の解釈の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決(16頁8〜10行)は,数値限定を伴う請求項1に係る発明に, , おいて かかる数値限定を特定する技術的意義が十分に記載されているとはいえず特許法36条4項1号の規定に適合するものとはいえないとする。これは,委任省令要件に関し,実施可能要件とは無関係に,それ自体の不適合が特許法36条4項1号に違反すると判断するものであり,同号の解釈を誤ったものである。
同号は,発明の詳細な説明の記載要件として 「経済産業省令で定めるところに ,より,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」を要求しており,当業者が発明を実施できる程度に,経済産業省令で定めたような方法により当該発明の詳細な説明について記載することを求めたものである。
このように,委任省令要件とは,実施可能要件を判断するための1つの基準であり,当該発明が最終的に実施可能であるかどうかとは切り離して考えることができない事項であって,逆にいえば,いわゆる委任省令要件とされている事項等の記載を総合的に勘案して,当該発明を当業者が実施することができるのであれば,単に委任省令要件違反のみをもって同条項の違反にはならない。
(2)本件発明については,その詳細な説明の【0021】以下において,ベールへの負圧の発生方法が明確に記載されており,上記2の原告の主張で挙げた本件明細書の記載等も併せて考慮すると,当業者であれば本件発明を容易に実施することができるというべきである。
したがって,本件発明の詳細な説明においては,当業者が発明を実施できる程度。,, に経済産業省令において定める事項が記載されているといえる 他方 本件審決は本件発明の詳細な説明について,発明を実施できる程度の記載があるか否かについて検討することなく,単に委任省令要件をそれ単独で判断し,これに基づき,本条項に違反するという結論を導いており,本件審決は,特許法36条4項1号の解釈を誤った結果,本件発明は同条項に反するとしたものというべきであって,その結論には誤りがある。
〔被告の主張〕(1)本件審決は,数値限定を特定する技術的意義が十分に記載されているとはいえないと判断しているところ,このことは,当然に,その発明の目的,構成及び効果の記載が十分ではなく,実施可能要件を満たしているとはいえない。
したがって,本件発明が特許法36条4項1号違反であることは明らかであり,本件審決に誤りはない。
(2)本件請求項1に係る「ベールの平坦度」及び「ベール内部の負圧」の測定, ,,「」 方法につき 本件明細書において何ら記載されておらず 特にベールの平坦度を測定する方法について,その平坦な板がどのようにベールに圧接されるのか,水平か,などの基本的な事項すら記載されておらず,また,比較例はもとより,実施例においてすら,どの程度の平坦度を示したのか何ら記載がない。
(3)したがって,当業者は,本件発明1を本件明細書の記載により実施することができないもので,実施可能要件を満たしていないことが明らかである。
第4当裁判所の判断1取消事由1(個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤り)について(1)無効審判における複数の請求項に係る訂正の請求昭和62年法律第27号による特許法の改正によりいわゆる改善多項制が,そして,平成5年法律第26号による特許法の改正により無効審判における訂正請求の制度がそれぞれ導入され,特許無効審判の請求については,2以上の請求項に係るものについては請求項ごとにその請求をすることができ(特許法123条1項柱書き後段 ,請求項ごとに可分的な取扱いが認められているところ,特許無効審判の )申立てがされている請求項についての特許請求の範囲減縮を目的とする訂正請求は,この請求項ごとに請求をすることができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることに照らすと,特許無効審判請求がされている請求項についての特許無効の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに個別に行うことが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されることになる(前掲最高裁平成20年7月10日判決参照 。)そして,特許無効審判の請求がされている請求項についての訂正請求は,請求書に請求人が記載する訂正の目的が,特許請求の範囲減縮ではなく,明りょうでない記載の釈明であったとしても,その実質が,特許無効審判請求に対する防御手段としてのものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることからして,請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものである。
(2)これを本件についてみるに,特許無効審判請求に係る本件審判において,請求人である被告は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確であるなどとの無効理由を主張したこと(甲20 ,これに対し,被請求人である原告は,被告 )主張の無効理由を回避するために,特許無効審判における訂正の請求として,本件特許の請求項1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25につき本件訂正請求を行ったこと(甲18,22)が認められ,本件訂正請求は,特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであることが明らかである。
(3)そうすると,本件訂正請求は,請求項ごとに個別に行われたものであった, 。 以上 その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものといわなければならないそして,本件訂正請求は,直接的には本件特許に係る請求項のうち1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25の訂正を求めるものであるが,前記第2の2のとおり,本件特許は,請求項1ないし26から成り,請求項2ないし26はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用する従属項であるから,請求項1について訂正を求める本件訂正は,請求項1を介してその余の請求項2ないし26についても訂正を求めるものと解さなければならない。
しかるところ,本件審決は,本件訂正につき,請求項19及び23についてのみ判断をし,その訂正が求められないことをもって,他の請求項1ないし18,20ないし22及び24ないし26に係る訂正の判断をしないまま,これらの請求項に係る訂正も認められないとしたものであるから,これらの請求項に係る各訂正事項につき判断をすることなく,本件発明1ないし18,20ないし22及び24ないし26の各要旨認定をしてしまったものであって,この点において,本件審決には違法があることになる。
(4)また,本件訂正のうち請求項19についても,本件審決は,同請求項が直接的又は間接的に引用する請求項1ないし3,5,9ないし13及び18に係る各訂正事項につき判断をすることなく,本件発明19の要旨認定をしてしまったものであって,この点において,本件審決には違法があることになる。
本件訂正のうち請求項23についても,本件審決は,同請求項が直接的又は間接的に引用する請求項1ないし3,5,9ないし13,18,21及び22に係る各訂正事項につき判断をすることなく,本件発明23の要旨認定をしてしまったものであって,この点において,本件審決には違法があることになる。これに加え,請求項23のみに係る訂正事項をみても 「200cm /(m ・d・bar ,好ま , )3 2しくは20cm /(m ・d・bar)以下」を「200cm /(m ・d・ba3 2 3 2r)未満,好ましくは20cm /(m ・d・bar)未満」とするものであると3 2ころ,訂正前の「200cm /(m ・d・bar ,好ましくは20cm /(m3 2 3)・d・bar)以下」との記載は 「200cm /(m ・d・bar 」とし,2 3 2, )それに続いて「好ましくは20cm /(m ・d・bar)以下」とするものであ3 2って これを合理的に解すると 訂正前の上記 以下 の語は 200cm / m ,,「」「(3・d・bar 」と「好ましくは20cm /(m ・d・bar 」の双方に掛か2 3 2) )るものとして記載されていると解することができ,このことは,本件明細書【0029】の「パッケージ梱包材またはフィルムにおける空気のガス透過率は,好ましくは10,000cm /(m ・d・bar)未満,また,好ましくは200cm3 2(),,()32 32/ m ・d・bar 未満 さらに好ましくは 20cm / m ・d・barである 」との記載とも 「以下」か「未満」かの相違がある点を除き整合するもの 。,である。そうすると,請求項23に係る本件訂正は 「200cm /(m ・d・ ,3 2bar)以下 」及び「好ましくは20cm /(m ・d・bar)以下」を 「2 , ,3 200cm /(m ・d・bar)未満 」及び「好ましくは20cm /(m ・d3 2 3 2,・bar)未満」と訂正するものであり,この訂正部分だけをみると,実質的に特許請求の範囲減縮及び誤記の訂正といえるものであるから,これと異なり,請求3 2 3 2項23に係る「200cm /(m ・d・bar ,好ましくは20cm /(m )・d・bar)以下」を「200cm /(m ・d・bar)未満,好ましくは23 20cm /(m ・d・bar)未満」と訂正する訂正事項は 「200cm /(m3 2 3,・d・bar 」を「200cm /(m ・d・bar)未満」とする訂正であっ2 3 2)て,実質上特許請求の範囲変更又は拡張するものであるとした本件審決の判断も首肯できず,同訂正は特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するものでなく,同訂正部分につき同条項に違反するとした本件審決の判断は誤りである。
(5)被告は,特許無効審判における訂正の請求において,請求項ごとの個別の訂正が認められるのは,特許請求の範囲減縮を目的とする訂正請求であり,独立特許要件が要求されていない明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正請求については,請求項ごとの個別の適用が認められるものではないと主張するが,たとい特許無効審判における訂正請求の請求書に記載されている訂正の目的が明りょうでない記載の釈明であったとしても,それが請求項ごとに請求することができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解され,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠く結果となってしまうものであって,被告の主張は採用できないというべきである。
また,被告は,本件特許の請求項1の訂正は 「約40mm」を「40mm」に ,訂正するなどのものであって,仮に訂正が認められたとしても本件審決の無効理由は解消しないので,本件審決の無効理由に対する防御手段としての実質を有するものではなく,また,少なくとも,本件審決が記載不備であると判断した請求項1の「少なくともベールが梱包された後に…負圧がベールにかかっている」との部分については何ら訂正請求がされておらず,本件訂正の許否にかかわらず本件審決のその他の無効理由は解消せず,本件審決の結論に影響しないと主張するが,前記第2の2のとおり 本件訂正における請求項1に係る訂正内容は約40mm を 4 , ,「」 「0mm」と 「約900mm」を「900mm」と訂正するものであり,上記(2)の ,とおり,この訂正は特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであるにもかかわらず,審判体は,その訂正に対する判断をしないまま,本件訂正前の請求項1ないし26を前提として記載要件につき判断をしているものであって,その判断の前提を欠いている以上,本件審決には違法があるといわざるを得ない。なお,後記3のとおり,本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2ないし26につき,特許法36条4項1号の規定に適合しないとした本件審決の判断にも問題があるところである。
2小括以上のとおり,本件訂正請求が認められないとした本件審決の判断は是認できないから,本件訂正請求が認められないことを前提として本件発明について判断した本件審決には違法があり,取消事由2及び3について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきことになる。
3取消事由2(特許法36条4項1号違反との判断の誤り)についてなお,本件審決は,本件発明1における「ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm以下離間する程度に,」,「 , 前記ベールの頂面および底面が平坦であり少なくともベールが梱包された後に外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」との発明特定事項につき,特定の数値限定を伴うものであり,このような限定を付した構成を採用することにより,本件発明1の課題を解決するものと解されるが,発明の課題解決との関係が明らかであるというためには,数値限定を付した場合の効果(実施例)と,このような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)とを十分に記載しておき,技術上の意義を明確にしておくこと等が必要と考えられるところ,本件明細書の発明の詳細な説明をみても,このような記載は見当たらず,してみると,このような数値限定を伴う本件発明1において,かかる数値限定を特定する技術的意義が十分に記載されているとはいえないことから,特許法36条4項1号の規定に適合するものとはいえず,また,本件発明1を引用する本件発明2ないし26についても同様であるとする。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には 「 発明が解決しようとする ,【課題 【0004】…,ストラップを全く使用しないタイプの梱包には,ベールに 】付加した圧力がプレス動作の最後において解放された後に,圧縮されたフィルタートウの弾性復元力によって,ベールが圧縮された方向とは主に反対の方向に向かう圧力が梱包に加えられてしまう問題が伴う。これにより,パッケージの容量が増加することで,ベールの頂部と底部に望ましくない膨張が生じてしまう。WO 02/32,238 A2号に記載の測定を実施した場合,これらの膨張部分によって目的とするフィルタートウの使用が妨害されることはないが,フィルタートウ・パッケージの安全な積み上げが阻害されてしまう。この問題は,上述で引用したRhodia 刊行物に記載されているもののように,ベールをその側部上に積み上げるか,または特別なパレットを使用する最新技術によって解決できる。さらに,連続した内圧によるパッケージの破裂開封に関連した問題も頻繁に発生する「 00。」,【05】ストラップに関連した問題の解決方法は,US-A4,577,752号に記載されている。ストラップで梱包したフィルタートウを目的どおりに使用した場合,膨張部分は,WO02/32,238A2に記載の膨張抵抗に変化を生じさせてしまうくびれ部分よりも問題は小さかった。さらに,ストラップを施したベールでさえも破裂開封してしまう。…」及び「 0006】本発明の課題は,ベー 【ルの移動を妨害するような膨張部分,ならびにトウベールの頂部と底部におけるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分の無い,理想的なブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供することであり,この場合,梱包したフィルタートウにかかる負荷が低減されることで,特に,内圧の影響下におけるパッケージの破裂開封をほぼ完全に回避することができる。本発明のさらなる課題は,これに関連した梱包プロセスを提供することである 」との記載があり,これらによ 。
ると,本件明細書には,従来のベール(フィルタートウ・パッケージ)では,ベールに付加した圧力が開放されると,これまで圧縮されていたフィルタートウの弾性復元力によって,ベールの頂部と底部に膨張が生じることになり,ベールを安全に積み上げておくことができなくなるという課題,及び,フィルタートウの膨張によってストラップを施したベールのパッケージでさえも破裂開封してしまうという課題があったことについての記載があることが認められる。
, ,「【】,, そして 本件明細書の発明の詳細な説明には0008 すなわち 本発明は(a)ベールが,少なくとも300kg/mの梱包密度を有し;(b)ベールが,機3械的に自己支持する弾性梱包材料で完全に包装され,かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の結合部分を備えており;(c)非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの中心上で垂直方向に作用する100Nの力でベールの頂部上に圧接したとき,圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が平坦板から約40mm以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であることを特徴とする,ベールの頂面または底面に妨害となるような膨張部分またはくびれ部分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールである「 0010】一連の失敗経験を経て,梱 。」,【包工程中に梱包を気密シールすることより,移動を妨害する妨害部分も,目的としたフィルタートウの使用を妨害するくびれ部分も無いブロック形態のベールを製造できるという驚くべき発見が得られた。したがって,実用的な考慮に基づき,請求項1によるベールは,機械的に自己支持する弾性梱包材料で完全に包装され,この, 。」 材料は 1つまたはそれ以上の対流に対して気密性を有する結合部を備えている及び0016 本発明にかかるフィルタートウベールを梱包するプロセスは (a) 「【】 ,フィルタートウを圧縮形態にするステップと;(b)圧縮されたフィルタートウをパッケージ包装材で包装するステップと;(c)パッケージ包装材を気密にシールするステップと;(d)包装されたベールにかかる負荷を解放するステップとを備えている。気密シールされたベールに対する負荷が解放されると,パッケージ包装材内に負圧が発生する。この負圧は少なくとも0.01barであることが好ましく,特に有利な方法では0.15〜0.7barの範囲内である「 0017】したが 。」,【って,包装材で取り囲まれた領域内で発生した負圧は,パッケージ包装材の気密シールによって維持することができる。この負圧により,可撓性材料の弾性復元力によって内部から梱包へ加わる圧力が減衰される。この理由のために,最新技術によれば通常はフィルタートウベールに発生する膨張を防止することができる。これにより,積層ベールの製造が遥かに容易になる。梱包内部から作用する機械圧が(負圧によって)減衰されるために,梱包が失敗する危険性または梱包が裂開する傾向が低減される。さらに,より高い梱包密度も得られ,これにより,より小型なパッケージの利点が得られ,保管容量および移動容量を縮小することが可能になる。特に,この方法によれば,このように梱包されたフィルタートウを収納するコンテナの収納容量を最適に使用できるようになる 」及び「 0021】主に本発明にかか 。【る工程で必要な負圧は,様々な方法で発生させることができる。特に単純な実施形,, 。 態によれば 負圧は 圧縮したフィルタートウ材料を膨張させることで発生される圧縮状態にあるフィルタートウをパッケージ包装材で包装し,これを気密シールした後に,梱包した材料に付加されている外圧を開放する。その結果,パッケージ内部で,材料が,自己の弾性復元力の作用下で膨張する。パッケージの容量が増加することで,包装材で包囲された範囲内において負圧が発生する。パッケージのサイズは,圧縮されたフィルタートウが完全に膨張できないように,つまり,包装材内部のフィルタートウが,その部分的な膨張後にも,パッケージ内部で特定の度合いで圧縮状態に維持されるように選択することが好ましい。…」との記載がある。
これに対し,本件明細書には,上記課題を解決するための手段として,ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40 mm 以下離間する程度に,ベールの頂面及び底面が平面であるようにすること,フィルタートウのパッケージ包装材を気密にシールするとともに,少なくともベールが梱包された後に外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている状態にすること,負圧の制御方法の記載があることが認められるのであって,本件発明1につき,当業者において,本件明細書の記載により,その課題との関係での数値限定を付した技術的意義を理解できるものと解され,そうすると,数値限定を付した場合の効果(実施例)と,このような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)との十分な記載がないから,本件発明1の技術的意義が十分に記載されているとはいえないとの理由のみで,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし26が特許法36条4項1号の規定に適合しないとした本件審決の判断も首肯し得ないものといわなければならない。
4結論以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲