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関連審決 無効2007-800278
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術的特徴 /  クレーム /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の理由 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  訂正明細書 /  要旨変更 /  申し立てない理由 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10046号 審決取消請求事件
原告株 式会社ディスコ
同訴訟代理人弁護士中村智廣 三原研自
同弁理士佐々木功 川村恭子 久保健
被告本 間工業株式会社
同訴訟代理人弁護士伊原友己 加古尊温
同弁理士中越貴宣 楠本高義
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/08/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2007?800278号事件について平成21年1月27日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において下記2の本件発明についての特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1本件訴訟に至る手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「切削方法」とする特許第3887614号(平成9年7月2日原出願,平成15年7月8日特許出願(原出願の分割。以下「本件出願」という。),平成18年12月1日設定登録。請求項の数は,後記訂正の前後を通じ,全3項である。)に係る特許権を有する者である(以下,請求項3に係る特許を「本件特許」という。)。
(2)被告は,平成19年12月26日,本件特許について,特許無効審判を請求し,無効2007-800278号事件として係属した。
(3)特許庁は,平成20年6月24日,「本件特許を無効とする。」との審決(以下「前審決」という。)をした。
被告は,平成20年7月31日,知的財産高等裁判所に対し,前審決の取消しを求める訴え(平成20年(行ケ)第10294号)を提起した。
原告は,同年9月17日,特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判請求をしたため,知的財産高等裁判所は,同月29日,特許法181条2項により,前審決を取り消す旨の決定をした。
(4)特許庁は,無効2007-800278号事件を審理し,同手続中で原告は,平成20年10月17日,改めて訂正請求をしたため(以下「本件訂正」という。本件訂正後の発明を「本件発明」といい,その訂正明細書を「本件明細書」という。),これにより,上記訂正審判請求は取り下げられたものとみなされた。
(5)特許庁は,平成21年1月27日,本件訂正を認めた上,「特許第3887614号の請求項3に記載された発明についての特許を無効とする。」旨の本件審決をし,同年2月6日,その謄本を原告に送達した。
2本件発明の要旨本件審決が対象とした本件訂正後の請求項3に記載の発明,すなわち,本件発明は,本件審決が分説の便宜上付した符号によると,次のAないしD’,X,EないしG’の構成要件からなるものである。以下,その符号を付した構成要件をそれぞれ「構成要件A-1」などという。
A-1一方のモーターの駆動により回転する一方のネジと,他方のモーターの駆動により回転する他方のネジとが基台のY軸方向に配設され,A-2’該一方のネジには,該一方のネジの回転によりY軸方向に個別に移動する第一のスピンドル支持部材が係合し,該他方のネジには,該他方のネジの回転によりY軸方向に個別に移動する第二のスピンドル支持部材が係合し,A-3該第一のスピンドル支持部材の下部には第一のスピンドルが配設され,該第二のスピンドル支持部材の下部には第二のスピンドルが配設され,B該第一のスピンドルの先端には第一のブレードが装着され,該第二のスピンドルには第二のブレードが装着され,C該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとは,該第一のブレードと該第二のブレードとが対峙するよう該Y軸方向に略一直線上に配設され,D’半導体ウェーハを吸引保持するチャックテーブルが,X軸方向に移動可能に配設され,半導体ウェーハの表面を撮像する撮像手段と,該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートを検出するアライメント手段とを備えた精密切削装置を用いて正方形または長方形の半導体ウェーハを切削する切削方法であって,X半導体ウェーハが該アライメント手段の直下に位置付けされ,該アライメント手段によって該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートが検出され,E該第一のブレードがチャックテーブルに保持された正方形または長方形の被加工物の端部に位置付けられ,該第二のブレードが該被加工物の中央部に位置付けられ,F’該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルを下降させると共に,該チャックテーブルをX軸方向に移動させ,該被加工物の端部及び中央部に形成され該アライメント手段によって検出されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,G’該第一のスピンドルと該第二のスピンドルとの間隔を維持したまま,該第一のスピンドル及び該第二のスピンドルをもう片方の端部の方向に個別に割り出し送りし,該チャックテーブルをX軸方向に移動させて該アライメント手段によって検出されたストリートを2本ずつ切削する切削方法。
3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記(1)及び(2)の引用例1及び2に記載された各発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)並びに下記(3)ないし(16)の周知例1ないし14に記載された周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の規定により無効にすべきものである,というものである。
(1)引用例1:実願昭58-49304号(実開昭59-156753号)のマイクロフイルム(甲1)(2)引用例2:実願平1-76555号(実開平3-16343号)のマイクロフイルム(甲2)(3)周知例1:特公平2-42604号公報(甲3)(4)周知例2:特開平7-186007号公報(甲4)(5)周知例3:特開昭59-224250号公報(甲5)(6)周知例4:特開昭61-65754号公報(甲6)(7)周知例5:特開平4-122501号公報(甲7)(8)周知例6:特開平4-372302号公報(甲8)(9)周知例7:特開平4-69107号公報(甲9)(10)周知例8:実願平1-85083号(実開平3-26414号)のマイクロフイルム(甲10)(11)周知例9:特開昭62-162406号公報(甲11)(12)周知例10:徳丸芳男ほか「機械工作2改訂版」(実教出版株式会社平成元年2月25日発行。甲12)(13)周知例11:小林輝夫「機械技術入門シリーズ研削作業の実技」(理工学社平成8年11月15日発行。甲13)(14)周知例12:日本規格協会「JISハンドブック工作機械」(財団法人日本規格協会平成8年4月20日発行。甲14)(15)周知例13:特開平7-335593号公報(甲23)(16)周知例14:特開平8-97271号公報 (甲24)4取消事由(1)本件発明の認定誤り及び手続上の瑕疵(取消事由1)(2)相違点の看過及び相違点についての判断の遺脱(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件発明の認定誤り及び手続上の瑕疵)について〔原告の主張〕本件審決は,本件発明の技術内容を誤認すると共に,その誤認に係る部分について原告に弁明の機会を与えずにされたものであるから,違法として取消しを免れない。
(1)本件発明の誤認ア本件審決は,「しかし,「すべての」ストリートを検出することは,請求項3にも,特許明細書にも記載されていないから,根拠がない。」と認定した(21頁29〜30行)。
イしかし,本件発明の特許請求の範囲の文言からは,切削対象のすべてのストリートを検出することが明らかである。すなわち,(ア)構成要件Xの「該アライメント手段によって該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートが検出され,」は,切削すべきストリートをアライメント手段によって検出することを示している。
(イ)構成要件F’の「該被加工物の端部及び中央部に形成され該アライメント手段によって検出されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,」は,端部及び中央部に形成されたストリートが切削される前提として,その端部及び中央部に形成されたストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものであることを示している。
(ウ)構成要件G’の「該アライメント手段によって検出されたストリートを2本ずつ切削する」は,構成要件F’で切削した2本のストリートに続いて割り出し送りをしながら順次ストリートを2本ずつ切削していく前提として,順次切削していく2本のストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものであることを示している。
(エ)このように,本件発明の特許請求の範囲では,切削すべきストリートがすべて予め検出されることが明確となっており,本件審決の上記認定は,本件発明の内容の明らかな誤認に基づくものである。
ウまた,本件明細書におけるストリートとは,添付図面【図2】における符号15で図示された部分であり,符号15は不特定かつ複数のストリートを指しているのであるから,ストリート15が切削すべきすべてのストリートを指すことは明らかである。
エしたがって,特許請求の範囲のみならず,本件明細書にもすべてのストリートを検出することが記載されていることは明らかである。
(2)手続上の瑕疵本件審決は,「しかし,「すべての」ストリートを検出することは,請求項3にも,特許明細書にも記載されていないから,根拠がない。」と認定している一方で(21頁29〜30行),「仮に,本件発明3が,「すべての」ストリートを検出するものであるとしても,この点は,被請求人も認めるとおり,少なくとも甲第24号証に記載されている(調書2「被請求人3」)から,審決の結論を左右するものではない。」と判断している(21頁31〜34行)。
しかし,甲24は,公知例として扱われ,被告が平成20年11月14日に弁駁書と共に遅れて提出したものである。公知例を遅れて提出することは,請求の理由の要旨を変更することにほかならないから,かかる公知例を理由に進歩性を否定するのであれば,その証拠は職権で採用されたものとしての扱いとなり,特許法153条2項に基づき,職権による無効理由が通知されて然るべきである。それにもかかわらず,実際には,無効理由が通知されることなく審決がなされた。しかも,口頭審理においても,審判官から,甲24を公知例として引用する可能性についての言及はなかった。
原告は,職権無効理由通知があれば,更なる訂正請求をして無効理由を解消する用意もしていたのであり,甲24の記載内容を根拠に本件発明の進歩性を否定して審決をすることは,原告にとってまさに不意打ちというよりほかない。
(3)まとめ以上のように,本件審決においては,本件発明の認定には誤りがあり,その誤りに係る部分について原告に本来与えられるべき弁明の機会も与えられなかった。そして,弁明の機会が与えられれば,訂正請求により無効理由を解消することができたのであるから,本件審決は違法であって,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕(1)「すべての」というクレームの限定解釈は,リパーゼ事件について最高裁判決が示した発明の要旨解釈の手法に反するものである。
(2)また,「すべて」であろうがなかろうが,所望のストリートを切削することは,甲24等にみられるごく当たり前の周知技術である。また,こういった議論は,平成21年1月22日に開催された第2回口頭審理調書に明確に記載されているとおり,口頭審理でも双方で陳述された事柄であり,不意打ちとか審理不尽とか指摘されるようなことでもない。
(3)よって,本件審決の発明の要旨の認定及び審理には,何らの違法もなく,取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(相違点の看過及び相違点についての判断の遺脱)について〔原告の主張〕本件審決は,本件発明と引用発明1との相違点を看過しており,その相違点についての判断がなされておらず,違法であって,取り消されるべきである。
(1)相違点の看過本件発明は,被加工物の端部及び中央部に形成されたストリートを検出し,その検出したストリートを2本同時に切削することを前提としており(構成要件F’),複数ある被加工物の各被加工物ごとに当該2本のストリートを検出する。本件発明の文言上,被加工物が同種のものであるという限定はないから,検出した2本のストリートの間隔が常に同じであるわけではなく,被加工物の種類によってストリート間隔が異なったり,同じ種類の被加工物であっても製造誤差によって切削すべき2本のストリートの間隔が異なったりすることも当然ある。これは,最初の切削時におけるブレードの位置やブレード間隔も,被加工物ごとにまちまちとなることがあることを意味する。つまり,本件発明の構成要件F’には,文言上の明示はなくとも,被加工物ごとに,検出結果に応じて各ブレードの位置,ひいてはブレード間隔が変化し得るという技術事項が当然に包含されている。
一方,引用例1には,スピンドルの位置関係については複数の例が記載されているが,2つのブレードが対面した状態において,その対面した状態のまま2つのブレードが動くことや,切削すべき位置の検出結果に応じてブレード間隔が変化する点は記載されていない。
したがって,本件発明は,引用発明1との間に,検出結果に応じてブレードの位置やブレード間隔が変化するという相違点も有しているのであり,本件審決では,かかる相違点が看過されている。
(2)相違点についての判断の遺脱本件審決では,上記相違点が看過されているから,その相違点についての判断もなされていない。そして,かかる相違点については,他の文献にも記載されていない。したがって,すべての文献の記載事項を組み合わせても,本件発明には想到しない。
そもそも,引用発明2は,ブレード間隔が固定されているものであり,1つのブレードの位置が決まれば自動的にもう1つのブレードの位置も決まるのであるから,これを適用した上で周知検出手段を適用して2箇所の切削すべき位置を検出したとしても,ブレード間隔が変わらないことはいうまでもない。また,検出した位置に1つのブレードを位置決めすれば,自動的にもう1つのブレードの位置も決まってしまうのであるから,2本のストリートを検出する意味はなく,仮に2箇所を検出したとしても,結果的に片方の検出結果は活かされないままである。したがって,引用発明1に,引用発明2及び周知移動機構を適用したものに,更に周知検出手段を適用する意味はなく,当業者がそのような適用を考えることはあり得ない。
また,引用発明2には最初に設定されたブレード間隔が固定され維持されるという技術思想しかないから,その状態から検出結果に応じてブレードの位置や間隔が変化する技術思想は到底読み取れないのである。周知移動機構を採用した引用発明1に引用発明2を適用し,更に周知検出手段を適用した装置を構築したとしても,引用発明2を適用する限りは,ブレード間隔が固定されるため,少なくとも2枚目以降の被加工物については,検出した位置にブレードを位置決めすることができず,本件発明と同様の機能を実現することができないことは明らかである。
(3)まとめ以上のように,本件審決は,本件発明と引用発明1との本質的な相違点を看過しており,その相違点についての判断がなされていない。そして,その相違点は,いずれの文献にも記載されておらず,本件発明は進歩性を有する。よって,本件審決は違法であって,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕(1)本件審決の認定判断に誤りはない。引用発明1に引用発明2及び周知移動機構を適用したものにおいて,精密加工が必要な半導体ウェーハの切削において,周知の切削位置検出手段を用いるのは,常識的なことであるし,それぞれのブレードを適宜移動せしめて切削位置に位置付けるのも,当たり前のことである。原告は,本件審決の判断の遺脱を指摘するが,進歩性欠如の審決判断を論難しているだけである。
(2)よって,本件審決においては,何らの判断の遺脱もなく,取消事由2も理由がない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(本件発明の認定誤り及び手続上の瑕疵)について(1)本件発明の認定誤りの有無ア原告は,本件発明は,切削対象のすべてのストリートを検出するものであると主張する。
イ特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ,構成要件Xの「該アライメント手段によって該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートが検出され,」の文言は,切削すべきストリートをアライメント手段によって検出することを示しているものの,切削すべきストリートの「すべて」をアライメント手段によって検出することまで記載されているわけではない。そうすると,構成要件Xの上記記載からは,切削すべきストリートのうち所定の一部をアライメント手段によって検出するとの解釈も可能である。
そして,構成要件F’の「該被加工物の端部及び中央部に形成され該アライメント手段によって検出されたストリートをX軸方向に2本同時に切削し,」は,端部及び中央部に形成されたストリートが切削される前提として,その端部及び中央部に形成されたストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものであることを示している。上記構成要件について,切削すべきストリートのうち所定の一部をアライメント手段によって検出するとの解釈に立っても,切削すべきストリートのうち,少なくとも,端部及び中央部に形成されたストリートをアライメント手段によって検出し,この検出された端部及び中央部に形成されたストリートをX軸方向に2本同時に切削するとの解釈が技術的に成り立つものである。
さらに,構成要件G’の「該アライメント手段によって検出されたストリートを2本ずつ切削する」点は,構成要件F’で切削した2本のストリートに続いて割り出し送りをしながら順次ストリートを2本ずつ切削していく前提として,順次切削していく2本のストリートがアライメント手段によって事前に検出されたものであることを示している。上記構成要件G’について,切削すべきストリートのうち所定の一部をアライメント手段によって検出するとの解釈に立っても,切削すべきストリートのうちアライメント手段によって検出された所定の一部を2本ずつ切削していき,その他アライメント手段によって検出されなかった切削すべきストリートについては,例えば,予め得られたストリート間隔情報等を参考に,検出されたストリートの位置情報に基づいて切削するといった解釈が技術的に成り立つ。
このように,切削すべきストリートのすべてを検出するものではないと解釈しても,本件発明は技術的に成り立つといえるものであり,本件発明の特許請求の記載の文言から,切削対象のすべてのストリートを検出することが明らかであるとはいえない。
ウ原告は,本件明細書の記載からも,すべてのストリートを検出することが記載されている旨主張する。しかし,本件明細書の【図2】は,発明の実施の形態として,その1例が記載されているものであり,その記載から,本件発明がすべてのストリートを検出するものであると認めるに足りない。
エそして,本件審決は,「仮に」ではあるが,「すべての」ストリートを検出するものであると解釈する場合についても検討しているのであるから,結局,本件審決における本件発明の認定に関し,審決の結論に及ぼす誤りはない。
(2)手続上の瑕疵の有無ア原告は,本件発明の認定に係る手続に瑕疵があると主張する。
イ証拠(甲23,24,30)に弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(ア)被告は,本件特許を無効とするとの審決を求め,その理由として,本件発明は,本件原出願の出願前に頒布された刊行物である引用例1及び2並びに周知例1ないし12をもとに,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであると主張した。
(イ)平成20年6月24日,本件訂正前の発明に係る本件特許を無効とする旨の前審決がされたが,原告が訂正審判を請求したため,同年9月29日差戻決定がされ,再度特許庁において審理が行われることになった。
(ウ)被告は,平成20年11月14日,弁駁書とともに甲23及び甲24を提出した。被告は,上記各証拠を「半導体ウェーハの表面を撮像する撮像手段と,該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートを検出するアライメント手段」を備え,「半導体ウェーハが該アライメント手段の直下に位置付けされ,該アライメント手段によって該半導体ウェーハの表面に形成された切削すべきストリートが検出され」,そのストリートを1つのブレードにより切削するものが,周知技術であることを示すために,提出したものである。
(エ)平成21年1月22日実施された口頭審理において,原告は,「ウエハの表面を撮像する撮像手段を有し,アライメント手段によってストリートを検出し,アライメント手段によって検出されたストリートを1つのブレードによって切削すること」が周知であることを認めた上,甲24のアライメント手段はすべてのストリートを検出するものであるが,かかる技術が周知とまでは認められない旨陳述した。
(オ)本件審決は,本件発明が,切削対象のすべてのストリートを検出するものではないとの前提で,相違点に係る,切削対象のストリートを検出する手段が,甲23及び甲24に見られるごとく周知であること,すべてのストリートを検出する点が少なくとも甲24に記載されていることを認定した。
ウ上記認定のとおり,本件審決は,甲24について,公知例としてではなく,周知技術の認定として用いたものである。周知技術が存在する事実を追加的に主張することや,その事実を立証する証拠を提出することは,特許を無効にする根拠となる事実を変更するものとはいえないから,請求の理由要旨変更に当たるとはいえない。
エそうすると,当事者が申し立てない理由についての審理に相当するものとは認められず,本件は,特許法153条2項に基づく職権による無効理由が通知されるべき場合には当たらない。また,本件審決は,被告が無効審判手続において主張した事実及び証拠に基づいて無効理由を構成したことが認められるから,職権審理の裁量権を発動するまでもない。
オさらに,すべてのストリートを検出するか否かの点は,特許庁での第2回口頭審理において原被告双方が陳述した事項であって,審判手続において原告が反論する機会も十分にあったことが窺われる(甲30)。よって,これが不意打ちに当たるという原告の主張は理由がない。
カ原告の主張は,本件発明が,切削対象のすべてのストリートを検出するものであるとの前提で,相違点となる切削対象のすべてのストリートを検出する点が周知とは認められないことにより,訂正する機会を与えるべきであったとの趣旨と解されなくもない。
しかし,そもそも,上記のとおり,その前提に誤りがある上,原告は,甲24のアライメント手段がすべてのストリートを検出するものであることについては認めていること(甲30),甲24自体原告が出願した特許出願に係る特許公報であることに照らせば,原告は,すべてのストリートを検出する点が,少なくとも,公知であることも熟知した上で,無効理由を回避するべく訂正請求をしているといえ,十分といえる防御を既に行っているというべきである。
キしたがって,原告主張の手続の瑕疵があるとは認め難い。
(3)小括以上のとおり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点の看過及び相違点についての判断の遺脱)について(1)相違点の看過の有無ア原告は,本件発明は,引用発明1と異なり,検出結果に応じてブレードの位置やブレード間隔が変化するという相違点も有しているのに,本件審決は,かかる相違点を看過したと主張する。
イしかしながら,まず,本件発明の特許請求の範囲には,原告の主張する,検出結果に応じて各ブレードの位置,ひいてはブレード間隔が変化するという技術事項は,記載されていないし,本件明細書にそれを裏付けるような記載は特段認められない。原告の上記主張は,本件発明の特許請求の範囲に記載された技術的事項から期待できる作用,効果を述べているにとどまるものである。
しかも,特許庁における第2回口頭審理において,本件発明と引用発明1の相違点及び一致点は,争いがないとされ,本件審決は,そのとおりの認定をしたものである(甲30)。
ウよって,原告の主張する相違点の看過はない。
(2)相違点の判断の遺脱の成否ア原告は,本件審決は,上記相違点を看過し,それについての判断もなされていないと主張する。
イしかしながら,上記のとおり,そもそも相違点の看過はない上,本件審決は,原告の主張した当該作用,効果についても検討,判断しており(21頁35行〜22頁1行),原告の主張する相違点についての判断の遺脱があるとはいえない。
ウなお,原告は,引用発明2はブレード間隔が変わらないなどと主張する。
しかし,引用例2(甲2)には,「上記スペーサ用リング8の長さLは,例えば,第1及び第2のダイシングブレード1,2間の間隔Hが切断する半導体ウエハ9の直径Dの2分の1の長さとなるように各ハブ4や切断刃3,3’の厚み等を考慮して設定されている。そのため,切断する半導体ウエハ9の直径Dが変更されると該半導体ウエハ9の直径の2分の1にダイシングブレード1,2の間隔Hが保たれるようなスペーサ用リング8に取り替えて使用される。」(6頁2〜10行)と記載され,ウェーハの直径が変更されたときはスペーサを取り替えることが記載されているから,引用発明2には,ブレードの間隔を実情に合わせて適宜に調整するといった技術思想が十分に示唆されているものである。
そして,製造誤差等は必然の前提であり,それにより被加工物ごとにストリート位置が異なり得ることは,当業者であれば容易に理解できる程度の事項であるし,1つのワークに対し個々に制御される2以上のカットホイールを配置するという引用発明1の技術的特徴を踏まえた上で,引用発明2及び周知検出手段を適用する場合に,製造誤差等が反映された検出結果に応じてブレードの位置やブレード間隔が変化し得るようにすることは,特に精密さが求められる半導体ウェーハの加工においては,当業者にとって格別困難なことではない。
(3)小括以上のとおり,取消事由2は理由がない。
3結論以上の次第であるから,原告の主張する取消事由はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 杜下弘記