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事件 平成 21年 (ネ) 10006号 補償金等請求控訴事件
控訴人横 浜ゴム株式会社
訴訟代理人弁護士上谷清
同 永井紀昭
同 仁田陸郎
同 萩尾保繁
同 笹本摂
同 山口健司
同 薄葉健司
同 石神恒太郎
訴訟代理人弁理士島田哲郎
被控訴人ヨ ネックス株式会社
訴訟代理人弁護士小林幸夫
同 弓削田博
同 坂田洋一
訴訟代理人弁理士一色健輔
同 青木康
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 被控訴人が製造,販売する別紙製品目録記載のゴルフクラブは,控訴人が有する別紙特許目録記載の特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の技術的範囲に属する。同特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
- 2 -
事実及び理由
全容
第1控訴の趣旨1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,2億円及びこれに対する平成19年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。
4仮執行宣言第2事案の概要本件は 控訴人 原審原告 以下 単に 原告 というが 被控訴人 原 ,(。,「」。) ,(審被告。以下,単に「被告」という )に対し,被告が製造,販売する別紙製 。
品目録(原判決の別紙製品目録と同じである )記載の7つのモデルのゴルフ 。
クラブ(以下,これらを包括して「被告製品」という )は,原告が有する別 。
紙特許目録記載の特許(特許第3725481号)の特許請求の範囲の請求項(「」。) , 1記載の発明 以下 本件発明 というの技術的範囲に属すると主張して出願公開後の警告から設定登録までの間の特許法65条1項に基づく補償金と設定登録後の民法709条に基づく損害賠償との合計額の一部請求として2億円及び補償金請求の後でありかつ不法行為の後である平成19年11月7日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求した事案である。
原判決は,被告製品は本件発明の構成要件を文言上充足せず,本件発明の構成と均等なものと解することもできず,被告製品は本件発明の技術的範囲に属さないとして,原告の請求を棄却した。そこで,原告は,原判決を不服として控訴を提起した。
なお,原判決の略語表示は当審においてもそのまま用いる。
1前提となる事実次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」の欄の「第2事案の概要「1前提となる事実 (原判決2頁14行目ないし4頁24行 」,」目)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決2頁21行目ないし3頁16行目を次のとおり改める。
「ア原告は,別紙特許目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という )を有している (甲1,2) 。。
イ本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(平成17年5月9日付け手続補正書による手続補正後のもの。以下,同手続補正後の明細書を同手続補正後の図面とともに「本件明細書」という )の特許請求の範 。
, 。(, )」 囲の請求項1の記載は 別紙特許目録記載のとおりである甲2 6(2)原判決4頁13行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「被告製品は,次の構成を備える (争いのない事実) 。
< > 金属製外殻部材1とFRP製外殻部材9,10とを接合して中空構造aのヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであり,< > 金属製外殻部材1のフランジ部5にFRP製下部外殻部材9,FRPb製上部外殻部材10の接合部を接着すると共に,< > 金属製外殻部材1のフランジ部5aに透孔7を設け,c< > 中空ゴルフクラブヘッド。 eなお,透孔7,炭素繊維からなる短小な帯片8,金属製外殻部材1,FRP製上部外殻部材9,FRP製上部外殻部材10の関係を示す構成< >dの特定については,後記のとおり当事者間に争いがある 」。
2争点次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要「2争点 (原判決4頁26行目ないし5頁3行目)記載のとお 」,」りであるから,これを引用する。
(1)原判決5頁3行目の「 4)原告の補償金等」を「 4)補償金請求の可 ( (否,補償金及び損害賠償等の金額」に改める。
(2)原判決5頁3行目の後に行を改めて,次のとおり付加する。
「なお,本判決は,中間判決として,上記争点(1)ないし(3)に限定して判断したものである 」。
第3争点に関する当事者の主張次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に関する当事者の主張 (原判決5頁5行目ないし33頁9行目)記載のと 」おりであるから,これを引用する。
1原判決7頁7行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「また,本件発明における「縫合材」は,繊維強化プラスチック製であり,繊維強化プラスチック製の部材が硬化のプロセスを経て利用されること,厚さのいかんにかかわらず,硬化により剛性を生ずること,硬化により剛性を有する繊維強化プラスチック製部材は,金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との「接着界面側」及び「その反対面側」に機械的に係止されることは,当業者にとって技術常識である。以上のとおり,本件発明は,硬化することによって,繊維強化プラスチック製外殻部材と金属製外殻部材とが結合され,剥離を阻止する張力が働き,繊維強化プラスチック製外殻部材と金属製外殻部材との接合強度を高める効果を生じさせる発明である。構成要件(d)の「縫合材」は 「接合する(つなげる)役割を果たす部材」と ,いう意味であり,上記の態様で,繊維強化プラスチック製部材が,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを機械的に係止することによって接合強度を高める部材は 「縫合材」であると解すべきである 「縫合材」 , 。
を一連の連続状の部材に限定する理由はない 」。
2原判決7頁17行目ないし19行目を次のとおり改める。
「被告製品の構成〈 〉における 「樹脂によって包み込まれた炭素繊維からd ,なる短小な帯片」は,貫通孔(透孔)を介して,金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側に通すとともに,これを反対面に係止するとの接合形態を採用し,帯片により繊維強化プラスチック製外殻部材と金属製外殻部材を結合し,これによって帯片の張力により接合強度を高めるとの効果を実現している点において,本件発明の構成要件( )における「縫合材」と共通する。
dしたがって,被告製品の「炭素繊維からなる短小な帯片」は,本件発明の構成要件( )の「縫合材」に該当し,被告製品の構成〈 〉は,本件発明の構d d成要件( )を文言上充足する 」 d 。
3原判決13頁4行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「また,本件発明の「縫合材」は,以下のとおり,剛性による係止効果を利用するものではない。
まず,繊維強化プラスチック製の部材が剛性を有するか否かは,プラスチック内に含まれる強化繊維の量や入り方,樹脂の種類,その厚さによって大きく異なる。本件発明では,貫通穴は,せいぜい数ミリメートルの口径を有するにすぎず,縫合材の肉厚は,金属製外殻部材(肉厚約1ミリメートルと考えられる )より更に薄いはずである。このように,本件発明の繊維強化 。
プラスチック製の縫合材は,非常に肉薄であるから,剛性を有しないことは明らかである。
次に,本件明細書には,繊維強化プラスチック製の部材について,これを係止することについての開示がない。繊維強化プラスチック製の部材は可撓性を有するから,その部材が金属製外殻部材の貫通穴を曲折しながら連続的に通されていない限りは,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部。 , 材との接合強度を高めることはできない 繊維強化プラスチック製の部材は大きな引っ張り強度を有するから,縫合材を金属製外殻部材の複数の貫通穴に曲折させながら連続的に通し,かつ繊維強化プラスチック製外殻部材と接着された場合に,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを剥離するような大きな力が加わっても,それに抗することができる 」。
4原判決13頁14行目から23行目までを,次のとおり改める。
「被告製品は,金属製外殻部材の複数の貫通孔(透孔)内に炭素繊維からなる短小な帯片を挿入し,その帯片の上下端部を金属製外殻部材の上下面に沿って延設し,金属製外殻部材を挟むように繊維強化プラスチック製上部外殻部材と繊維強化プラスチック製下部外殻部材を設置し,これらを金型に挿入して加熱・加圧し,これにより,上下の繊維強化プラスチック製外殻部材の樹脂が貫通孔内に充填されるとともに帯片の上下端縁部にも充填され,上下の繊維強化プラスチック製外殻部材は,各貫通孔内に充填された短小な帯片の上下端縁部と一体的に接着される。その結果,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを剥離するような大きな力が加わっても,それに抗することができる。
このように,被告製品においては,金属製外殻部材をFRP製上部外殻部材とFRP製下部外殻部材とで上下から挟んで一体化させた上,このFRP製各外殻部材を短小な帯片で繋ぎ,一体化を強めることで剥離を防止している。つまり,短小な帯片の効果は,いわば一体化の強化である。
このように,被告製品は,本件発明と技術的思想において異なる 」。
5原判決27頁2行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「仮に本件発明の縫合材が金属製外殻部材の反対面側に係止するものであるとしても,乙13の第5図には,金属製ソール部2の上方に通孔7を介して金属製の芯体3をソール部と一体的に形成し,芯体に繊維強化プラスチックの外殻4を被覆し,通孔にプラスチックの強化繊維10を通して芯体に巻き付ける構成が示されており,このプラスチックの強化繊維10は,通孔の一方の側から他方の側に通されて芯体に巻き付けて係止されているから,縫合材が金属製外殻部材の反対面側に係止するものであることは,乙13に開示されている 」。
6原判決27頁17行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「乙14は,ゴルフクラブ用ヘッドの製造方法の発明であり,FRTP(繊維強化熱可塑性樹脂)のヘッド本体と金属枠がボールを打ったときの衝撃力によりゆるむ問題があったため,これを解決するために金属枠とヘッド本体を金型内で一体成形することを特徴とする発明であるところ,実施例との比較例として,金属枠とフェイス部材を接着剤で固定した例が示されており,接着剤による接着強度は一体成形による接着強度と比べて弱いものと評価されている。しかし,乙14が公開された平成元年から本件特許が出願された平成14年までの間に接着剤は大幅に技術革新され,その接着強度は著しく向上しているから,接着剤によって接着するか一体成形によって接着するかは,本件特許の出願時には単なる選択的な事項であった。したがって,本件発明の構成要件( )( 前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスb 「チック製の外殻部材の接合部を接着すると共に)は,乙14に開示・示唆 ,」されていたといえる 」。
7原判決28頁23行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「本件特許が出願された平成14年当時,平成元年当時に比べて接着剤の接着強度が向上していたとしても,乙14の比較例の接着の記載は,本件発明の構成を開示・示唆するものではない 」。
8原判決29頁13行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「被告は,乙13のプラスチックの強化繊維10は,通孔の一方の側から他方の側に通されて芯体に巻き付けて係止されているから,縫合材が金属製外殻部材の反対面側に係止するものであることは,乙13に開示されていると主張する。この被告の主張は,芯体3が金属製外殻部材に相当することを前提とするものであるが,芯体3には貫通穴が存在しないから,芯体3をもって金属製外殻部材に相当するということはできず,被告の上記主張は,採用することができない 」。
第4当裁判所の判断1争点(1 〔構成要件( )の充足性〕について ) d原判決33頁12行目ないし45頁22行目を次のとおり改める。
「 1)構成要件( )の「縫合材」の意味について (d構成要件(d)における「縫合材」について,それが 「該貫通穴を介 ,した繊維強化プラスチック製」であり,かつ 「前記金属製外殻部材の ,前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」ものであることは,特許請求の範囲の記載上明らかであるが,その他 「縫合」という語を用いたことにより,技術的な観点 ,等から,何らかの限定を加えて解釈すべきものであるか否かについて,以下に検討する。
ア特許請求の範囲の記載(ア)上記のとおり,特許請求の範囲(構成要件( ))には 「該貫通穴d ,を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」と記載され,同記載からすれば 「縫合,材」は,繊維強化プラスチック製外殻部材と金属製外殻部材とを結合する目的で用いられる部材であることは明らかである。
ところで 「縫合」とは,通常は 「ぬいあわせること「縫っ ,,」,。。」,,「」 て両方が合うようにする 合せて縫うとの意味を また縫う,「 。。 とは?@糸を通した針で布や皮などを刺し綴る ?A縫取りをする刺繍をする。?B針で布や皮などを縫ったように,槍または矢が鎧などを貫く。?C物と物との間を左右に曲折しながら通る 」などの意 。
味で用いられる旨の説明がされている(広辞苑,乙2参照 。)そうすると 「縫合材」は,一般的な意味に即して解釈すると, ,「結合させようとする複数の対象物のすべてを貫き通すことによって結合させるために用いられる部材」ほどの意味を有することになる。仮に,本件発明の「縫合材」が,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを,上記のような意味で,縫合する部材であるとするならば,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材の双方に貫通穴を穿ち,この穴に縫合材を通して刺し綴って止める部材を意味することになろう。
しかし,構成要件( ),( )によれば,本件発明の縫合材は,金属cd製外殻部材にのみ貫通穴を設けて,通す部材であって,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材の両者に貫通穴を穿ち,両者を貫通させる部材である旨の記載はされていない。
(イ)以上によれば,構成要件( )の「縫合材」は 「複数の対象物のd ,すべてを貫き通すことによって結合するために用いられる部材」と, 。,「」 いう通常の意味とは 異なる意味で用いられている 他方縫合の意味が多義的であることもあり,特許請求の範囲(請求項1)の記載からは 「縫合材」の技術的意義を一義的に確定することがで ,きない。
イ本件明細書の記載等本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照する。
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明の「従来技術」の欄には 「金,属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成しようとした場合,その接合強度が十分に得られず,ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保することが極めて困難であった( 0003 )と記載され 「発明が解決 。」【】,しようとする課題」の欄には 「本発明の目的は,金属製の外殻部 ,材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることを可能にした中空ゴルフクラブヘッドを提供することにある0。」(【004 )と記載されているが 「課題を解決するための手段」の欄 】,( 0005【0006 )には,金属製の外殻部材と繊維強化 【】,】プラスチック製の外殻部材との接合強度を高める構成として,本件発明と同様の構成が記載されているにとどまり,その記載からは,「縫合材」の意味は明らかではない。
(イ)「発明の実施の形態」の欄には,次のとおり記載されている。
「図2(a(b)の接合形態では,金属製の外殻部材11の接合 ),部11aに繊維強化プラスチック製の外殻部材21の接合部21aを接着し,かつ金属製の外殻部材11の接合部11aに複数の貫通穴13を設け,該貫通穴13に繊維強化プラスチック製の縫合材22を通し,該縫合材22により繊維強化プラスチック製の外殻部材21と金属製の外殻部材11とを結合している。上記接合形態によれば,縫合材22が金属製の外殻部材11に対して繊維強化プラスチック製の外殻部材21に強固に結び付けるため,ゴルフクラブヘッドとして十分な耐久性が得られる。なお,外殻部材21と縫合材22はプラスチック同士であって相互接着性が良好であるため図示のように互いに密着するだけで良い( 0011 )。」【】図2によれば,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材との接合強度を高めるために,金属製の外殻部材11の接合部11aに複数の貫通穴13を設け,この貫通穴13に繊維強化プラスチック製の縫合材22を一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折して通し,この縫合材22を一方の側(接着界面側)において繊維強化プラスチック製の外殻部材に接着することにより,金属製の外殻部材11と繊維強化プラスチック製の外殻部材21とを結合する実施例が開示されている。そして,図2では,3つの貫通穴の例が示されている。
(ウ)上記の実施例では,繊維強化プラスチック製の縫合材22は,同種素材である繊維強化プラスチック製の外殻部材21とは相互に接着性が良好であるものの,異種素材である金属製の外殻部材11とは接着しただけでは接合強度が不十分であるから,縫合材22を金属製の外殻部材11の複数の貫通穴13に接着界面側とその反対面側との間を曲折させながら通した上で,縫合材22と繊維強化プラスチック製の外殻部材21とを接着することにより,金属製の外殻部材11に対して繊維強化プラスチック製の外殻部材21を強固に結合する態様が示されている。
(エ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっても,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材の双方に貫通穴を穿ち,この貫通穴に縫合材を通して刺す態様は,本件発明の実施態様として示されていないから 「縫合材」の語は 「複数の対象物のすべてを ,,貫き通すことによって結合させるために用いられる部材」という通常の意味から離れて用いられていることが明らかである。
ウ本件発明に係る出願経過本件発明に係る出願経過において,原告は,平成15年11月18日,拒絶理由通知を受け(乙6 ,平成16年4月12日,同日付け )手続補正書(甲5,乙12)を提出して明細書の補正を行うとともに同日付け意見書(乙7)を提出したが,平成17年2月15日,拒絶査定を受けた(乙8 。原告は,平成17年4月7日,拒絶査定不服 )審判を請求し(乙9 ,同審判において,同年5月9日付けで,明細 )書を補正対象とする手続補正書(甲6)と,審判請求書を補正対象とする手続補正書(乙10)を提出した。
上記の出願経過において,以下の拒絶理由通知が発せられた。すなわち,本件発明は,?@繊維強化プラスチック製の外殻部材と縫合材とを密着させることだけによって結合させる態様,?A繊維強化プラスチック製の外殻部材にも貫通穴を設け,該貫通穴にも縫合材を通すことによって,二つの外殻部材どうしを縫合材の縫合力のみによって結合させる態様,?B上記?@,?Aの態様を併用する態様のうちいずれの態様を意味しているか明りょうでない旨の拒絶理由が通知された。
これに対して,原告は,?@縫合材を金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接着界面に通し,繊維強化プラスチック製の外殻部材に対しては貫通させることなく密着するように配置しているので,繊維強化プラスチック製の外殻部材の強度低下を回避することができ,?A金属製の外殻部材の貫通穴に通した縫合材に基づいて金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを一体的に結合させた上で,繊維強化プラスチック製の外殻部材に貫通穴を設けた場合に起こる応力集中による破壊を抑制し,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を最大限に発揮するようにしたと,本件発明の特徴を述べ,構成要件(d)を現状のとおりに補正したものである。なお 「縫合材」は,補正によって付加された ,構成ではない。
エ小括以上を整理すると,以下のとおりとなる。
構成要件(d)における「縫合材」は,そもそも,当該用語が 「複,数の対象物のすべてを貫き通すことによって結合させるために用いられる部材」という通常の意味から離れて用いられていることが明らかであるから 「縫合材」の通常の語義のみに従って,その内容を限定 ,する合理性はないといえる。
そこで,技術的な観点をも含めて,その意義を解釈する。
ところで,?@「縫合材」を,金属製外殻部材の複数の貫通穴に,金属製外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)とを曲折させて通すという構成を採用した目的は,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材との接合強度を高めるためである。
「」 , , ?A 縫合材 が そのような結合強度を高める効果を奏するためには金属製外殻部材の接着界面側の少なくとも2か所で接合(接着)することが必要である(「縫合材」は,金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側で繊維強化プラスチック製外殻部材に接合することになるから,その接着性によって,接合強度を高める効果を生じることになる。)。そして,?B「縫合材」を,2か所で接合(接着)するためには 「金属製外殻部材の接着界面側から,貫通 ,穴を通して反対面側に達し,さらに,貫通穴を通して接着界面側に回帰させる態様を含む」ことが必要となる。
原告が,構成要件(d)について,単に「部材」などの語を用いることなく 「縫合材」との語を選択した以上,その内容は,単なる「部 ,材」とは異なり,何らかの限定をして解釈されるべきところ,その限,「」, 定の内容を技術的な観点をも含めて解釈するならば縫合材 とは「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」であると解するのが相当である。
そうすると,構成要件(d)を充足するためには 「該貫通穴を介し ,た繊維強化プラスチック製」であり,かつ 「前記金属製外殻部材の ,前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」部材であることが必要であるのみならず,さらに 「縫合材」との構成から 「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の) ,,貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する」部材であることが必要であるといえる。
(2)被告製品の構成〈 〉についてdア被告製品の構造等が別紙「イ号図面及びその説明書 (原判決の別 」紙「イ号図面及びその説明書」と同じである )記載のとおりである 。
ことは,当事者間に争いがない(原判決第2,1(4。))ところで,被告製品の構成〈 〉について,原告は 「透孔7を介しd ,て炭素繊維からなる短小な帯片8を,前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側に通して,前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる」と主張する。これに対し,被告は 「透孔7を介して各透孔7 ,毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに通して,前記FRP製上部外殻部材10とFRP製下部外殻部材9とを結合してなる」と主張する。
, , 原被告の双方の主張の間には 実質的な対立があるものではないが誤解を避けるために,以下のとおり確認的に判断する。
「」(「」 イ別紙 イ号図面及びその説明書 の説明書部分 以下 別紙説明書という )には 「これらの各透孔7には,第2図および第3図に示す 。,ように,炭素繊維からなる短小な帯片8が挿入され,各帯片8は隣接する帯片8と分離し」と記載されていることから,構成〈 〉は 「透d ,孔7を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を」との構成を備えるものと認められる。
別紙説明書には,上記の記載の他 「このFRP製下部外殻部材9 ,は,第3図に示すように,前方フランジ部5aにおいては帯片8の下縁部の下面に一体的に接着されている。また,金属製外殻部材1の上面全体を覆ってゴルフクラブヘッドのクラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10が上面フランジ部5の上面に接着されるとともに環状のFRP製下部外殻部材9上に一体的に接着されて両者でFRP外殻部材を形成している。このクラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10は前方フランジ部5aにおいては,帯片8の上縁部の上面に一体的に接着されている。上記の構成により,第4図に示されているように,金属製外殻部材1の上面フランジ部5を上下から挟むようにFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が金属製外殻部材1に接着され,かつ前方フランジ部5aにおいてはFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10は炭素繊維からなる帯片8によって一体的に連結されている 」と記載されており,第3図には,各 。
帯片8が,金属製外殻部材1の各一つの貫通穴に通されている図が示されている。そうすると,構成〈 〉は (炭素繊維からなる短小な帯d ,片8を 「前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材1 )0との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着し,FRP製下部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる」との構成を備えるものと認められる(本件明細書の図2においては,金属製外殻部材と結合される繊維強化プラスチック製縫合材は,金属製外殻部材の下側に存在するが,別紙「イ号図面及びその説明書」においては,金属製外殻部材と結合される繊維強化プラスチック製外殻部材は,FRP製上部外殻部材10として,金属製外殻部材の上部に存在するものとして示されている。。)以上によれば,被告製品の構成〈 〉は,次のとおり特定されるもdのと認められる。
「透孔7を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着し,前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる」(3)構成要件( )における「縫合材」の文言充足性d前記(1)のとおり,本件発明の構成要件( )の「縫合材」は 「金属 d ,製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」であることを要する。他方,被告製品の構成〈 〉における「炭素繊維からなるd短小な帯片8」は 「金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部 ,材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着した炭素繊維」であり,金属製外殻部材に設けた一つの貫通穴に1回だけ通すものであって 金属製外殻部材の一方の側 接 ,(着界面側 と他方の側 その反対面側 を貫く複数の貫通穴に複数回(2 )()回以上)通すものではなく,また,上面側のFRP製上部外殻部材10と1か所で接着するにとどまり,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)するものではない。そうすると,被告製品の構成における 炭素繊維からなる短小な帯片8 は 構成要件( ) 〈 〉「 」 ,d dの 縫合材 であることの要件金属製外殻部材の複数の(二つ以上の) 「」(「貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻」)。,, 部材と接合(接着)する部材を充足しない したがって 被告製品は本件発明の構成要件( )を文言上充足せず,文言侵害は成立しない 」d 。
2争点(2 〔均等侵害の成否〕について )原判決45頁24行目ないし46頁20行目を次のとおり改める。
「当裁判所は,被告製品の構成〈 〉における「(炭素繊維からなる短小な)d帯片8 は 本件発明の構成要件( )における (繊維強化プラスチック製の) 」 , 「 d縫合材」の均等物であると判断する。その理由は,以下のとおりである。
前記のとおり 「(炭素繊維からなる短小な)帯片8」は,金属製外殻部材 ,に設けた一つの貫通穴に1回だけ通すものであって,金属製外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)を貫く複数の貫通穴に複数回(2回以上)通すものではなく,金属製外殻部材の上下において上部繊維強(「 」 化プラスチック製外殻部材 本件発明の 繊維強化プラスチック製外殻部材に相当する )及び下部繊維強化プラスチック製外殻部材と各1か所で接着 。
するにとどまり,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)するものではない。
本件発明の構成中,被告製品の構成と異なる部分は,上記の点である。
(1)置換可能性についてア本件明細書(ア)本件明細書には,次のとおりの記載がある。
「本件発明の目的は,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることを可能にした中空ゴルフクラブヘッドを提供することにある( 発明が解決しようとする課 。」「題」欄 【0004 ),】「本発明によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成するに際して,金属製の外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したから,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることができる。従って,ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保しながら,異種素材の組み合わせに基づいて飛びを含むゴルフクラブ性能を向上することが可能になる( 発明の効果」欄 【0019 ) 。」「,】(イ)前記(ア)の本件明細書の記載によれば,本件発明の構成要件(d)において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果(ないし課題の解決原理)は,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにあるものと認められる。
イ被告製品における目的,作用効果の達成の有無被告製品の構成〈 〉における「炭素繊維からなる短小な帯片8」dは 「金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接 ,着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着した炭素繊維」であり,金属製外殻部材に設けた一つの貫通穴に1回だけ通すものであって,複数の貫通穴に通し,金属製外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)を複数回(2回以上)通しているものではない。
本件発明の縫合材は,金属製外殻部材の貫通穴を複数回(2回以上)通すものであり,金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側で少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合することになるから,その接着性によって,必然的に,接合強度を高める効果を生じることになる。
他方,被告製品では,FRP製下部外殻部材9は,前方フランジ部5aにおいては,帯片8の下縁部の下面に一体的に接着されており,クラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10は前方フランジ部5aにおいては,帯片8の上縁部の上面に一体的に接着されており,金属製外殻部材1の上面フランジ部5を上下から挟むようにFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が金属製外殻部材1に接着されている。
前方フランジ部5aにおいて,炭素繊維からなる帯片8は,一つの貫通穴に通され,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着されることにより,金属製の外殻部材(金属製外殻部材1)と繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製上部外殻部材10)との接合強度を高める効果を奏している。同効果は,本件発明において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果と共通するものである。
すなわち,被告製品では,金属製外殻部材の接着界面のみならず,その反対面側においても,FRP製下部外殻部材9を当てて加熱・加圧する成形がされているため,帯片8は,金属製外殻部材の接着界面の反対面側においても,繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP) , ,。 製上部外殻部材9 と 一体に接合している(甲11 弁論の全趣旨)そのため,帯片8を,金属製外殻部材に設けた貫通穴に複数回通すことによって強度を確保する必要がない。
以上のとおりであり,本件発明の構成要件(d)における「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」と被告製品の構成〈 〉における「(炭d素繊維からなる)短小な帯片8」とは,目的,作用効果(ないし課題解決原理)を共通にするものであるから,置換可能性がある。
(2)置換容易性本件発明においても,被告製品においても,金属製外殻部材に設けられた貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことは共通であり,金属製外殻部材の複数の貫通穴に複数回通し,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材を,一つの貫通穴に1回だけ通し,金属製外殻部材の上下において上部繊維強化プラスチック製外殻部材及び下部繊維強化プラスチック製外殻部材と各1か所で接着する部材に置き換えることは,被告製品の製造の時点において,当業者が容易に想到することができたものと認められる。したがって,置換容易性は認められる。
(3)非本質的な部分か否かについて本件発明の目的,作用効果は,前記(1)ア(ア)の本件明細書の記載によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある。特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,本件発明は,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことによって上記目的を達成しようとするものであり,本件発明の課題解決のための重要な部分は 「該貫通穴を介して 「前記金属製外殻部材の前記 ,」繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にあると認められる。
,,「」 本件発明の特許請求の範囲には 接合させる部材について縫合材と表現されている。
しかし,既に詳細に述べたとおり,?@本件発明の課題解決のための重要な部分は,構成要件(d)中の「該貫通穴を介して 「前記金属製外殻 」部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成部分にあること,?A本件発明の「縫合材」の語は,繊維強化プラスチック製の部材を金属製外殻部材に通す形状ないし態様から用いられたものであって,通常の意味とは明らかに異なる用いられ方をしているから 「縫合」の語義を重視するのは,妥当 ,とはいえないこと,?B前記のとおり 「縫合材」の意味は,技術的な観 ,点を入れると 「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し, ,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」と解すべきであるが,当該要件中の「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分 「少なくとも2か所 ,で(接合(接着)する 」との要件部分は,本件発明を特徴付けるほどの )重要な部分であるとはいえないこと等の事情を総合すれば 「縫合材で ,あること」は,本件発明の課題解決のための手段を基礎づける技術的思想の中核的,特徴的な部分であると解することはできない。
したがって,本件発明において貫通穴に通す部材が縫合材であることは,本件発明の本質的部分であるとは認められない。
(4)対象製品の容易推考性について本件の全証拠によっても,被告製品が,本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものであるとは認められない。
(5)意識的除外についてア本件特許の出願経過は,以下のとおりである。
原告は,平成14年1月11日,本件特許を出願し(特願2002-4675号 甲4平成15年7月22日 出願公開されたが 特 ,),,(開2003-205055号公報,乙5 ,同年11月18日,拒絶 )理由通知を受けた(乙6 。)原告は,平成16年4月12日,同日付け手続補正書(甲5,乙12)を提出して明細書の補正を行うとともに同日付け意見書(乙7)を提出したが,平成17年2月15日,拒絶査定を受けた(乙8 。),, (), 原告は 平成17年4月7日 拒絶査定不服審判を請求し 乙9, () , 同年5月9日付けで 明細書を補正対象とする手続補正書 甲6 と審判請求書を補正対象とする手続補正書(乙10)を提出した。
,,(, )。 本件特許は 平成17年9月30日 設定登録された 甲1 2イ前記1(1)ウのとおり,原告は,出願経過において,?@縫合材を金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接着界面に通し,繊維強化プラスチック製の外殻部材に対しては貫通させることなく密着するように配置しているので,繊維強化プラスチック製の強度低下を回避することができ,?A金属製の外殻部材の貫通穴に通した縫合材に基づいて金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを一体的に結合させた上で,繊維強化プラスチック製の外殻部材に貫通穴を設けた場合に起こる応力集中による破壊を抑制し,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を最大限に発揮するようにした点に,本件発明の特徴がある旨を述べている。しかし,出願経過及びその過程で提出された手続補正書や意見書の内容に照らして,原告が,本件特許の出願経過において,本件発明の「縫合材」を,一つの貫通穴を通し,金属製外殻部材の上下のFRP製外殻部材と各1か所で接着した部材に置換する構成を意識的に除外したと認めることはできない。
(6)均等の成否以上によれば,被告製品は,本件発明の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属する 」。
3争点(3 〔進歩性欠如の有無〕について )原判決46頁20行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「3争点(3 〔進歩性欠如の有無〕について )(1)乙13ア乙13記載の発明乙13には,シャフト挿入部と連続する金属製ソール部と,該ソール部と一体で上方に突出する金属製芯体とをそなえ,該芯体に繊維強化プラスチックの外皮を被覆してなるゴルフクラブのヘッドであって,前記芯体の下側を潜るようにして芯体の表裏両側に開口する通孔をソール部に設け,該通孔に前記外皮となる繊維強化プラスチックと連続する繊維強化プラスチックを充填したことを特徴とするゴルフクラブのヘッド( 実用新案登録請求の範囲 )であって, 「」金属部と繊維強化プラスチックを一体成形する前に,通孔7内に長い強化繊維10を束ねたものや,クロス状に編んだ繊維を丸めたもの等を予め通しておいたもの(乙13,5頁18行目ないし6頁3行目,第4図,第5図)が開示されている。
イ本件発明と乙13記載の発明の相違点乙13に開示された上記のゴルフクラブにおいて,金属芯体は,貫通穴が設けられていないから,本件発明の金属製外殻部材に該当しない。また,金属製ソール,又は金属芯体と金属製ソールを一体としてみたものについて,本件発明にいう繊維強化プラスチック製の外殻部材との接着界面側は,外皮に接する上側に該当するとみられるが,外皮に接する上側とその反対面側である下側とを貫通する貫通穴が設けられていないから,本件発明にいう接着界面側とその反対面側に貫通する貫通穴が設けられているとは認められず,金属製ソール,又は金属芯体と金属製ソールを一体としてみたものは,いずれも本件発明の金属製外殻部材に該当するとはいえない。さらに,通孔7内に通された強化繊維についてみても,貫通穴を介して接着界面側とその反対面側に通したものとはいえない。
(2)乙14ア乙14記載の発明乙14には,ゴルフシャフト挿着部を設けた金属枠と繊維強化プラスチック製のヘッド本体とを一体成形したゴルフクラブであり,ヘッドと金属枠の結合力を強くするために金属枠に貫通穴を設けたものが開示されている(乙14,特許請求の範囲1,2頁左下欄1行目ないし7行目,3頁左上欄9行目ないし11行目,第1図,第2図 。)イ本件発明と乙14記載の発明の相違点乙14に記載された発明においては,金属枠の貫通穴は,一体成形を前提としてヘッドと金属枠の結合力を強くするために設けられたものであるが,貫通穴に通される繊維強化プラスチック製部材は, , 存在せず 繊維強化プラスチック製部材を貫通穴に通すことにより金属枠と繊維強化プラスチック製のヘッド本体との結合力を高めるものではない。
(3)乙13記載の発明と乙14記載の発明の組み合わせによる本件発明の容易想到性, , 本件発明と乙13記載の発明 本件発明と乙14記載の発明の間にぞれぞれ,前記(1)イ (2)イのとおり相違点があることからす ,ると,乙13記載の発明と乙14記載の発明を組み合わせても,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け(構成要件( ) ,貫通穴を介しc)て繊維強化プラスチック製の縫合材を金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合した(構成要件( ))ことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド(構成要件( ))d eに想到することは容易とは認められず,本件発明の容易想到性は認められない。したがって,本件発明は,進歩性を欠くものとはいえず,本件特許は無効とは認められない 」。
4結論以上によれば,被告製品は本件発明の構成要件( )を文言上充足しないが,d本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するものであり,本件発明は進歩性を欠くものとはいえず,本件特許は無効とは認められない。
そして,本件において,原告の補償金請求及び損害賠償請求について,これらの請求の可否及び内容等を最終的に確定するためには,争点(4 (補償金 )請求の可否,補償金及び損害賠償等の金額)について更に審理をする必要がある。
よって,主文のとおり中間判決する。
追加
製品目録1CYBERSTARPOWERBRIDCB2CYBERSTARPOWERBRIDFWCB3CYBERSTARPOWERBRIDFLCB4CYBERSTARPOWERBRIDFLFWCB5CYBERSTARPOWERBRIDRXCB6CYBERSTARPOWERBRIDRXFWCB7CYBERSTARPOWERBRIDTXCB特許目録特許第3725481号出願番号特願2002-4675出願日平成14年1月11日審査請求日平成15年3月11日公開番号特開2003-205055公開日平成15年7月22日登録日平成17年9月30日発明の名称中空ゴルフクラブヘッド(請求項1】【金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって,前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド)。
イ号図面及びその説明書第1図はイ号物件に係るゴルフクラブヘッドの中空な金属製外殻部材を示す平面図,第2図はイ号物件に係るゴルフクラブヘッドを一部破断して示す平面図,第3図は第2図の?V-?V線に沿った断面図,第4図は第2図の?W-?W線に沿った断面図である。
第1図において,金属製の外殻部材1はフェース面部2と,底面部3と,側壁部4と,上面フランジ部5とがチタン材から一体的に形成され,これらの各部によって囲まれている金属製外殻部材の内部は空間部6となっている。上面フランジ部5のフェース面部2に隣接する前方フランジ部5aには5個の円形透孔7が穿設されている。
これらの各透孔7には,第2図および第3図に示すように,炭素繊維からなる短小な帯片8が挿入され,各帯片8は隣接する帯片8と分離し,各帯片の上縁部と下縁部はそれぞれ前方フランジ部5aの上面と上面に沿って添設されている。
上面フランジ部5の下面には,その下面全体を被覆するとともにフランジの内周端を超えて内方へ延出する炭素繊維からなる環状のFRP製下部外殻部材9が配設されている。このFRP製下部外殻部材9は,第3図に示すように,前方フランジ部5aにおいては帯片8の下縁部の下面に一体的に接着されている。
また,金属製外殻部材1の上面全体を覆ってゴルフクラブヘッドのクラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10が上面フランジ部5の上面に接着されるとともに環状のFRP製下部外殻部材9上に一体的に接着されて両者でFRP外殻部材を形成している。このクラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10は前方フランジ部5aにおいては,帯片8の上縁部の上面に一体的に接着されている。
上記の構成により,第4図に示されているように,金属製外殻部材1の上面フランジ部5を上下から挟むようにFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が金属製外殻部材1に接着され,かつ前方フランジ部5aにおいてはFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10は炭素繊維からなる帯片8によって一体的に連結されている。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸