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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ13513特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成20ワ4394損害賠償請求事件 判例 特許
平成18 21405損害賠償等請求事件 判例 特許
平成20ワ12516損害賠償請求事件 判例 特許
平成20ワ2387特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 19年 (ワ) 10772号 特許権侵害差止等請求事件
アメリカ合衆国オハイオ <以下略>
原告ノードソン コーポレーション
訴訟代理人弁護 士近藤惠嗣
訴訟復代理人弁護 士丸山隆
同 森田聡 東京都三鷹市<以下略>
被告武蔵エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護 士竹田稔
同 川田篤
訴訟代理人弁理 士須藤阿佐子
同 須藤晃伸
訴訟復代理人弁護 士服部謙太朗
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/04/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
1被告は,別紙物件目録記載の各装置を製造し,販売し,その販売の申出をしてはならない。
2 被告は,前項記載の各装置を廃棄せよ。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,発明の名称を「少量材料分配用装置」とする特許第3762384号の特許(以下,この特許を「本件特許1」,この特許権を「本件特許権1」という。)及び特許第3506716号の特許(以下,この特許を「本件特許2」,この特許権を「本件特許権2」という。)の特許権者である原告が,被告が別紙物件目録記載の各装置(以下「被告装置」と総称し,また,同目録1記載の装置を「被告装置-1」,同目録2記載の装置を「被告装置-2」という。)の製造,販売及び販売の申出をする行為が,本件特許権1,2の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づき,被告装置の製造,販売等の差止め及び廃棄を求める事案である。
2 争いのない事実(1) 当事者ア原告は,液体精密制御装置の製造販売を業とするアメリカ合衆国オハイオ州法によって設立された会社である。
イ 被告は,液体精密制御装置の製造販売を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権ア 本件特許権1(ア)原告は,平成9年7月15日にした特許出願(特願平10-507367号)の一部を分割して,平成15年4月28日,発明の名称を「少量材料分配用装置」とする発明につき特許出願(優先権主張日平成8年7月17日・優先権主張国米国,特願2003-123874号。以下「本件出願1」という。)をし,平成18年1月20日,本件特許権1の設定登録(請求項の数9)を受けた。
(イ)本件特許1に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書1」という。)の特許請求の範囲の請求項5の記載は,次のとおりである(以下,請求項5に係る発明を「本件発明1」という。)。
「【請求項5】少量の液体材料を分配する材料分配装置であって,該材料分配装置は,出口端および該液体材料を受ける入口端を有する第一流路と,該第一流路の該出口端の近傍に配置されるバルブ座と,往復動バルブと,を有するバルブ組立体と,該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路と液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分とを備えるノズル組立体と,該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成することを特徴とする材料分配装置。」(ウ) 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。
1-A少量の液体材料を分配する材料分配装置であって,該材料分配装置は,1-B出口端および該液体材料を受ける入口端を有する第一流路と,該第一流路の該出口端の近傍に配置されるバルブ座と,往復動バルブと,を有するバルブ組立体と,1-C該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路と液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分とを備えるノズル組立体と,1-D該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,1-E該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成する1-F ことを特徴とする材料分配装置。
イ 本件特許権2(ア)原告は,平成9年7月15日,発明の名称を「少量材料分配用装置」とする発明につき特許出願(優先権主張日平成8年7月17日・優先権主張国米国,特願平10-507367号。以下「本件出願2」という。)をし,平成15年12月26日,本件特許権2の設定登録(請求項の数6)を受けた。
(イ)本件特許2に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書2」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明2」という。)。
「【請求項1】少量の液体材料を分配する方法であって,第一流路(608)の出口端部の近くに配置されたバルブ座(612)と,前記第一流路内に位置された往復動バルブとを有するバルブ組立体(600)を貫通して延在している前記第一流路(608)の入口端部に液体材料を供給し,前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体(602)を貫通して延在している第二流路を,前記バルブが前記バルブ座(612)から離れた第一位置にあるときに前記液体材料で満たし,前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ,前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座(612)と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路(608)の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ,前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ座(612)に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する前記液体材料の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されている前記液体材料の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にすることを特徴とする方法。」(ウ) 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。
2-A 少量の液体材料を分配する方法であって,2-B第一流路(608)の出口端部の近くに配置されたバルブ座(612)と,前記第一流路内に位置された往復動バルブとを有するバルブ組立体(600)を貫通して延在している前記第一流路(608)の入口端部に液体材料を供給し,2-C前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体(602)を貫通して延在している第二流路を,前記バルブが前記バルブ座(612)から離れた第一位置にあるときに前記液体材料で満たし,2-D前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ,2-E前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座(612)と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路(608)の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ,2-F前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ座(612)に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する前記液体材料の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されている前記液体材料の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にする2-G ことを特徴とする方法。
(3) 被告装置の構成ア 被告装置は,次のとおりの構成を備えている。
a少量の液体材料を分配する材料分配装置であって,その材料分配装置は,b1バルブシート機構に設けられた出口開口部と,ケーシングに設けられた前記液体材料の供給源に接続されている入口部分とに渡って延在する流路と,b2前記バルブシート機構の前記出口開口部の近傍に配置されるバルブシートと,b3 上下方向に往復運動を行うバルブシャフトと,b4 を有するバルブ組立体と,c前記バルブシート機構の前記出口開口部と流体的に連通するとともに,液体材料の流れを分配する出口部分を有する円筒形のオリフィスを備えるノズル機構と,を有しており,d前記バルブシャフトは,前記往復運動における最も上方の位置(第一位置)から前記バルブシートに着座する位置(第三位置)まで急速に移動可能であって,その過程で前記流路における液体材料のうち,そのバルブシャフトの進行方向に存在する液体材料の一部を前記流路の周囲に逃がす一方,そのバルブシャフトの進行方向に存在する前記液体材料の前記一部よりも相対的に少ない残部を前記バルブシート機構の出口開口部から前記ノズル機構のオリフィスに流し込み,e前記バルブシャフトが前記バルブシートに着座して,前記オリフィスを通しての前記液体材料の流れが分断され,前記オリフィスから分配される液体材料の流れがそのオリフィスの出口部分から離れて液体材料の小滴を形成するf ことを特徴とする材料分配装置。
イ被告装置は,本件発明1の構成要件1-A,1-B,1-Fを充足している。
(4) 被告装置による少量の液体材料を分配する方法の構成ア被告装置により少量の液体材料を分配する方法(以下「被告方法」という。)は,次のとおりの構成を備えている。
a 少量の液体材料を分配する方法であって,bバルブシート機構に設けられた出口開口部からケーシングに設けられた入口に渡って延在する流路の前記出口開口部の近くに配置されたバルブシートと,前記流路内において上下方向に往復運動を行うバルブシャフトとを有するバルブ組立体を貫通して延在している前記流路の前記入口に液体材料を供給し,c前記流路の前記出口開口部と流体的に連通するとともに,前記液体材料を分配する出口部分を有し,ノズル機構を貫通して延在している円筒形のオリフィスを,前記バルブシャフトが前記バルブシートから離れて前記往復運動における最も上方の位置(第一位置)にあるときに前記液体材料で満たし,d前記バルブシャフトを,前記第一位置から,前記バルブシートへ向けて加速し,それによって,前記流路にある前記液体材料を前記流路の周囲にその一部を流すとともに,前記流路内の前記液体材料の残部を前記出口開口部から前記オリフィス内へ流して前記ノズル機構の出口部分から液体材料の流れとして分配させ,e前記バルブシャフトが前記バルブシートに接近することにより,前記流路の周囲に向かう前記液体材料の流れが減少し,前記オリフィス内に入る前記液体材料の流れが増加し,f前記バルブシャフトを前記バルブシートと係合して着座する位置(第三位置)に移動して,前記バルブシャフトを前記バルブシートに対して急速に閉鎖し,それによって,前記オリフィスを通過する前記液体材料の流れを止め,前記ノズル機構の前記出口部分から分配されている前記液体材料の流れを前記ノズル機構の前記出口部分で分配して小滴にするg ことを特徴とする方法。
イ被告方法は,本件発明2の構成要件2-A,2-B,2-F,2-Gを充足している。
(5) 被告の行為被告は,業として,被告装置を製造し,販売している。
3 争点本件の争点は,被告装置が本件発明1の構成要件を充足し,本件発明1の技術的範囲に属するか否か(争点1),被告方法が本件発明2の構成要件を充足し,本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2),本件特許1に無効理由があり,原告の本件特許権1の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点3),本件特許2に無効理由があり,原告の本件特許権2の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点4)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告装置の構成要件充足性)について(1) 原告の主張被告装置が本件発明1の構成要件1-A,1-B,1-Fを充足していることは,前記第2の2(3)イのとおりである。
そして,被告装置は,以下のとおり,構成要件1-Cないし1-Eも充足し,本件発明1の構成要件すべてを充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
構成要件1-Cについて(ア)被告装置は,「前記バルブシート機構の前記出口開口部と流体的に連通するとともに,液体材料の流れを分配する出口部分を有する円筒形のオリフィスを備えるノズル機構」を有し(前記第2の2(3)アc),被告装置の「バルブシート機構の前記出口開口部」,「ノズル機構」は,構成要件1-Cの「第一流路の該出口端」,「ノズル組立体」にそれぞれ相当するところ,被告装置のノズル機構には,流動通路となるべき空洞部があり,当該空洞部にオリフィスが圧入装着されている。
そして,被告装置の当該空洞部は,「第一流路の該出口端」に接続される入口部分を有しているから,構成要件1-Cの「該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路」に相当し,また,当該空洞部に圧入装着されたオリフィスは,ノズル機構の出口部分に位置しているから,被告装置のノズル機構(ノズル組立体)は,構成要件1-Cの「液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分」を有している。
したがって,被告装置は,「該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路と液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分とを備えるノズル組立体」を有しているから,構成要件1-Cを充足する。
(イ)被告は,後記(2)アのとおり,被告装置のノズル機構は,「ノズル」に同径のオリフィスが圧入装着され,そのオリフィス中に流動通路に相当するものが形成され,「該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路」と「オリフィスを有する出口部分」とに分かれていないから,構成要件1-Cを充足しない旨主張する。
しかし,構成要件1-Cは,ノズル組立体は,オリフィスが出口部分に存在することを規定しているだけで,オリフィスが第二流路の入口部分に達していることを排除していない。
また,本件明細書1(甲4)には,本件発明1の第2実施形態として,図18に管状受座組立体600が,図19ないし21にノズル組立体602が図示され,出口開口606について,入口端部604の「反対側の出口開口606は,ノズル組立体602と連通しており」(段落【0052】),「延長ノズル616は,ノズルキャップ426’の閉塞端450’を貫通して,ボア(内径)448’内に収容固定される。前記ノズル616は,延長オリフィス622を有する円筒形管(チューブ)であり」(段落【0053】)との記載がある。上記記載によれば,ノズル組立体602には貫通孔448’が存在し,これによって管状受座組立体600の出口開口606と連通しているので,この点が「該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路」を意味し,また,延長オリフィス622の下端がそのままノズル組立体の出口を形成しているから,この点が「液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分」を意味する。
このように本件発明1の第2実施形態では,延長オリフィス622の内径は一定であり,かつ,延長オリフィス622が閉塞端450’を貫通して管状受座組立体600の下端に達しているところ,被告装置の構成は,実質的に第2実施形態と同じであるから,被告装置が構成要件1-Cを充足することは明らかである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
構成要件1-Dについて(ア)被告装置は,「前記バルブシャフトは,前記往復運動における最も上方の位置(第一位置)から前記バルブシートに着座する位置(第三位置)まで急速に移動可能であって,その過程で前記流路における液体材料のうち,そのバルブシャフトの進行方向に存在する液体材料の一部を前記流路の周囲に逃がす一方,そのバルブシャフトの進行方向に存在する前記液体材料の前記一部よりも相対的に少ない残部を前記バルブシート機構の出口開口部から前記ノズル機構のオリフィスに流し込み」との構成を有しているところ(前記第2の2(3)アd),被告装置の「バルブシャフト」,「バルブシート」,「バルブシート機構の出口開口部」,「ノズル機構のオリフィス」は,構成要件1-Dの「往復動バルブ」,「バルブ座」,「(第一流路の)出口端」,「第二流路」にそれぞれ相当する。
(イ)a構成要件1-Dの「第二位置」は,往復動バルブが,以下に述べる「最初の段階」から「次の段階」へ移行する時点を意味する。
すなわち,本件発明1においては,「第一位置」から下降する往復動バルブの下端とバルブ座との間の空間が大きい「最初の段階」では,液体が放射状に外側に流れ,液体供給源の圧力に逆らって往復動バルブの周囲を逆流する。この段階では,ノズルの抵抗があるために液体はノズルをほとんど通過できない。しかし,往復動バルブがバルブ座に接近するにつれて,往復動バルブの下端とバルブ座との間の空間が小さくなって「次の段階」に達すると,液体が放射状に外側に流れることに対する抵抗が大きくなり,往復動バルブの下端とバルブ座との間の空間に高圧が生じる。このようにして生じる高圧は液体供給源の圧力よりもはるかに大きいため,ノズルの抵抗を上回って液体を出口から排出する。そして,液体の排出は,往復動バルブがバルブ座に着座してバルブ座を閉塞するとともにその運動も停止することによって終了する。
この「第二位置」の技術的意義は,本件明細書1の記載(段落【0021】,【0054】,【0056】,【0058】,図19,20等)から,往復動バルブが「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,入口方向に逆流する流れが急激に減少し,同時に,出口方向に向かう流れが増加する位置であることを理解できる。すなわち,本件明細書1には,「本発明によって,少量の液体を分配する方法を開示する。この方法は,バルブ機構を通って延びる第1流路の入口末端に液体燃料を供給する工程を含み,バルブ機構は,第1流路の出口末端の近くに配置されたバルブ座及び第1流路の中に配置された往復運動バルブを有する。バルブヘッドがバルブ座から間隔をおいた第1位置にある時,ノズル機構を通って延びる第2流路は液体材料で満たされている。第2流路は,第1流路の出口末端から液体材料を受け取る入口部分,及び液体材料を分配する延長ノズルを通って延びるオリフィスを備えた出口部分を有する。バルブは第1位置からバルブ座の近くに間隔をおいて配置された第2位置に加速され,これによって第1流路中の液体材料の大部分の一部が第1流路の入口末端に向かって流れ,第1流路中の残りの液体材料は出口末端から第2流路の中に流れ,延長ノズルの出口から液体材料の流れとして分配される。バルブは第2位置からバルブ座と係合する第3位置に向かって移動し続け,これによって第1流路の入口末端に向かう液体材料の流れが減少し,第2流路を通る液体材料の流れが急速に増加する。最後に,バルブは第3位置に移動してバルブ座に座り,これによって第1流路の入口末端に向かう液体材料の流れは切られて,延長ノズルの出口から分配される液体材料の流れはノズルオリフィスの出口末端から切れて,滴を形成する。」(段落【0021】),「バルブ432’は,図19に示したようにバルブ座612から距離”d”離間した第1ポジションと,図20に示したように前記第1ポジション”d”よりバルブ座612に接近して離間した第2ポジション”e”と,図21に示したようにバルブ座612と着座係合する第3ポジションと,を有する。前記第1ポジション”d”は,バルブ座612から約0.050インチの位置に配設される。前記第2ポジション”e”は,ノズルオリフィス622の直径の約3倍より小さい距離に,好ましくはノズルオリフィス622の直径の約1.5倍より小さい距離に配置される。」(段落【0054】),「ノズル616から分配される流れ(stream)の中に,そのフローを加速させるために働き,その後,前記流れ(stream)を減速させ,かつ前記流れ(stream)を材料の滴に分断する力を生成するために,急速に前記シート612に対して前記バルブ432’を閉じるように働く。」(段落【0056】),「要求される加速および減速を実現するために,流れは分配装置を通る複合せん断流れが要求される。バルブ432’は,初めに,バルブ座612からもっとも遠くに離間した第1位置”d”から第2位置”e”へ下向きに加速される。・・・バルブ432’の前速度は,バルブ432’における局部的な高圧をつくるために,少なくとも50cm/秒でなければならず,好ましくは,少なくとも80cm/秒であって,100cm/秒を超えるのがもっとも好ましい。液体もしくは粘性流体は,チューブ形状素子601の入口端604すなわち液体もしくは粘性材料供給源に向かってもどすように,または,出口端6060(注:606の誤記)に向かって移動可能である。その供給源は約10psiで加圧されているが,交差する流動領域612よりはるかに大きい流動領域(バルブ軸430’と流動穴607の壁との間の環状領域)の効果により,材料の多く,すなわち約90%,が供給源に流れ戻る。例えば,コンピュータによる流体の動的シミュレーションでは・・・バルブ432’が第2の位置,すなわちシート612からノズル直径の約1.5〜3倍に近づくにしたがい,バルブ432’とシートとの間の流動に利用可能な領域がますます制限される。・・・バルブ432’がシート612により近く動くにしたがい,バルブとシートとの間の流動はさらに制限される。これにより,代わりに流量が約75%に減少し,供給元に戻ることにより,ノズルからの流出速度が約20cm/秒に増加する。バルブ432’が第2位置”e”を通ってバルブ座612へ通じた後,バルブ432’とシート612との間の主要な流動制限が存在し,この制限により流動速度は100cm/秒に近づき,バルブ432’とシート612との間の圧力低下は約500psiとなる。この段階では,ノズル612の流れは,約30cm/秒に加速されている。」(段落【0058】)と記載されている。そして,上記段落【0058】の「バルブ432’とシートとの間の流動に利用可能な領域がますます制限される」という説明と,「交差する流動領域612よりはるかに大きい流動領域(バルブ軸430’と流動穴607の壁との間の環状領域)の効果により」という説明とをあわせて理解すれば,「第二位置」の技術的意義を理解することは容易である。
なお,本件明細書1の「前記延長オリフィス622は,一般的には,約0.002〜約0.016インチの間の直径を有している。」(段落【0053】),「バルブ432’が第2の位置,すなわちシート612からノズル直径の約1.5〜3倍に近づくにしたがい,バルブ432’とシートとの間の流動に利用可能な領域がますます制限される。」(段落【0058】)との記載に照らすならば,段落【0054】の「即ち,第2ポジション”e”は,バルブ座612から約0.036インチから約0.150インチより小さく」の部分が「即ち,第2ポジション”e”は,バルブ座612から約0.006インチから約0.048インチより小さく」の誤記であることは明らかである。
b構成要件1-Dの「第二位置」は,単純に図面に示される形状によって定まる位置ではなく,機能的な観点を加味して定まる位置である。この「第二位置」は,第一流路におけるバルブシャフトと流路の直径比,ノズルの内径及び長さ,バルブシャフトの加速度などに影響され,バルブシャフトの加速度は,バルブシャフトの重量とスプリングの強さに影響される。
そして,被告装置においては,バルブシャフトが「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に増加することがシミュレーション(甲7,8の1ないし18)によって確認されている(被告装置-1につき別紙流量グラフ目録1及び2,被告装置-2につき同目録3及び4)。
この液体の逆流量が急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に増加する位置(別紙流量グラフ目録記載のシミュレーションの条件下では,1.6ミリ秒付近においてバルブシャフトが存在する位置)が,被告装置の「第二位置」である。なお,被告装置において,例えば,マイクロ・アジャストを調整することによって,「第二位置」を変えることは可能であるが,被告装置を使用する限り,必ず「第二位置」が存在する。
(ウ)以上によれば,被告装置には,バルブシャフト(往復動バルブ)が「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に増加する「第二位置」が存在し,「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み」との構成を有しているから,構成要件1-Dを充足する。
構成要件1-Eについて被告装置は,「前記バルブシャフトは,前記往復運動における最も上方の位置(第一位置)から前記バルブシートに着座する位置(第三位置)まで急速に移動可能であって」(前記第2の2(3)アd),「前記バルブシャフトが前記バルブシートに着座して,前記オリフィスを通しての前記液体材料の流れが分断され,前記オリフィスから分配される液体材料の流れがそのオリフィスの出口部分から離れて液体材料の小滴を形成する」(同e)との構成を有しているところ,被告装置の「バルブシャフト」,「バルブシート」,「オリフィス」は,構成要件1-Eの「往復動バルブ」,「バルブ座」,「第二流路」にそれぞれ相当する。
そして,被告装置には,前記イ(イ)bのとおり,「第二位置」が存在する。
したがって,被告装置は,「該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成する」との構成を有しているから,構成要件1-Eを充足する。
エ 小括以上のとおり,被告装置は,本件発明1の構成要件1-Aないし1-Fをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告装置の製造,販売は,本件特許権1の侵害に当たる。
(2) 被告の反論被告装置は,以下のとおり,本件発明1の構成要件1-Cないし1-Eをいずれも充足しないから,本件発明1の技術的範囲に属さない。
したがって,被告による被告装置の製造,販売は,本件特許権1の侵害に当たらない。
構成要件1-Cについて被告装置は,以下のとおり,本件発明1の構成要件1-Cを充足しない。
(ア)構成要件1-Cにおいては,ノズル組立体は,「入口部分を有する第二流路」と「液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分」とを備えることが必要とされており,あえて「入口部分」と「出口部分」(オリフィス)とを構成として明確に区別して規定した以上は,一定の技術的意義を有していると解さざるを得ない。
そして,本件明細書1(甲4)の発明の詳細な説明には,「入口部分」との用語は使われておらず,「入口部98」との用語が図1などが示す実施例との関係において用いられているのみであり,また,段落【0026】には,「流路96は,下端部88を通って伸びる流路36と流動連絡された入口部98を有する。流路96はまた延長ノズルオリフィス100を含み,ノズルオリフィス100の上端は,入口部98と整列してこれと交差し,ノズルオリフィス100の出口端101から液体又は粘性材料の流れが分配される。」との記載がある。上記記載からは,「流路96」は,「入口部98」と「延長ノズルオリフィス100」とから構成されるものと理解され,このように「入口部分」と「オリフィス」とを区別する構成は,「入口部分」における流体の速度よりも「出口部分」における流体の速度を上昇させるためのものであり,「ノズルオリフィス100の出口端101から液体又は粘性材料の流れが分配される。」との効果も,このような構成から得られるものと理解される。本件明細書1の図18から21までの実施例は,「第二流路」の「入口部分」を備えていない点において,本件発明1の実施例とはいえない。
(イ) 以上のとおり,構成要件1-Cにおいては,ノズル組立体には,「入口部分を有する第二流路」と「液体材料の流れを分配するオリフィスを有する出口部分」とを備えることが必要とされるが,被告装置のノズルの構成は,同径のオリフィスを有するのみであり,「入口部分」と「オリフィスを有する出口部分」に分かれていないから,被告装置は,構成要件1-Cを充足しない。
構成要件1-Dについて被告装置は,以下のとおり,本件発明1の構成要件1-Dを充足しない。
(ア)構成要件1-Dの「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の用語の技術的意義は,本件明細書1の記載を参酌しても,いずれも明らかではない。そのため,被告装置においては「第二位置」を定めることができず,「第二位置」が存在しているとはいえないし,また,被告装置における液体の流量が「大部分」及び「いくらか」の構成を充足しているともいえない。
(イ)原告は,構成要件1-Dの「第一流路の該入り口端方向に流す」とは,「逆流」が生じること,「第二位置」とは,逆流量(逆流の量)が減少し,ノズルからの流出量(ノズルの流量)が増加する位置をいい,この「第二位置」は,装置の一定の位置に固定されるものではなく,シミュレーションにより機能的に定まる旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
まず,本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)には,「第二位置」において逆流の量が「減少」し,ノズルの流量が「増加」しているとの記載はなく,特許請求の範囲(請求項5)の記載からは「第二位置」において,逆流の量が「増加」しているか,ノズルの流量が「減少」しているかは,問題とはならないはずである。
次に,本件明細書1の発明の詳細な説明には,「第二位置」において,「逆流」の量が「約90%」から「約75%」に減少し,他方,「ノズル」の流速(ノズルの径は同じなので,「流速」は同時に「流量」の変化を示している。)が「約10cm/秒」から「約20cm/秒」に増加している旨の記載(段落【0058】)がある。
この記載によれば,「第二位置」に到達するよりも前に「逆流」の量は既に減少を開始し,「第二位置」において既に約15%(「約90%」-「約75%」)流量が減少した状態にあり,他方で,「第二位置」に到達するよりも前に「ノズル」の流量も既に少しずつ増加しているのであるから,「逆流」が最大値を示す位置を「第二位置」としているわけではない。したがって,被告装置のシミュレーション(甲7,8の1ないし18)において逆流が最大になる「1.6ミリ秒」付近が「第二位置」であるとの原告の主張は,本件明細書1の発明の詳細な説明の記載と一致しない。
さらに,構成要件1-Dによれば,「第二位置」において,「大部分」が「逆流」し,「いくらか」がノズルを流れれば足りるのであり,その「大部分」及び「いくらか」とはどの程度の流量をいうのか明確ではないが,仮に「大部分」及び「いくらか」が相対的な大小をいうとすれば,原告主張の被告装置のシミュレーションにおいては「逆流」の量が最大になる位置を過ぎても,なお「大部分」が逆流しているので,この点からも,「第二位置」は,原告が被告装置の関係で主張する「逆流」が最大値を示す位置とはいえない。
以上のとおり,構成要件1-Dの「第二位置」は,その技術的意義が明らかでなく,不明確であるため,たとえシミュレーションをしたところで,機能的に定まるものではないから,原告の上記主張は,失当である。
構成要件1-Eについて構成要件1-Eの「前記第二位置」は,構成要件1-Dの「第二位置」を意味するところ,前記イのとおり,被告装置には構成要件1-Dの「第二位置」が存在しているといえないから,被告装置は,構成要件1-Eを充足しない。
2 争点2(被告方法の構成要件充足性)について(1) 原告の主張被告方法が本件発明2の構成要件2-A,2-B,2-F,2-Gを充足していることは,前記第2の2(4)イのとおりである。
そして,被告方法は,以下のとおり,構成要件2-Cないし2-Eも充足し,本件発明2の構成要件すべてを充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
構成要件2-Cについて(ア)被告方法は,「前記流路の前記出口開口部と流体的に連通するとともに,前記液体材料を分配する出口部分を有し,ノズル機構を貫通して延在している円筒形のオリフィスを,前記バルブシャフトが前記バルブシートから離れて前記往復運動における最も上方の位置(第一位置)にあるときに前記液体材料で満たし」との構成を有するところ(前記第2の2(4)アc),被告方法の「流路」の「出口開口部」,「ノズル機構」,「バルブシャフト」,「バルブシート」は,構成要件2-Cの「第一流路」の「出口端部」,「ノズル組立体」,「バルブ」,「バルブ座」にそれぞれ相当する。
したがって,被告方法は,「前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体(602)を貫通して延在している第二流路を,前記バルブが前記バルブ座(612)から離れた第一位置にあるときに前記液体材料で満たし」との構成を有しているから,構成要件2-Cを充足する。
(イ)被告は,後記(2)アのとおり,被告方法のノズル機構は,「ノズル」に同径のオリフィスが圧入装着され,そのオリフィス中に流動通路に相当するものが形成され,「第二流路」が,「前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」と「オリフィス(622)が設けられている出口部分」とに分かれていないから,構成要件2-Cを充足しない旨主張する。
しかし,本件明細書2(甲6)には,本件発明2の第2実施形態として,図18に管状受座組立体600が,図19ないし21にノズル組立体602が図示され,出口開口606について,入口端部604の「反対側の出口開口606は,ノズル組立体602と連通しており」(26欄2行〜3行),「延長ノズル616は,ノズルキャップ426’の閉塞端450’を貫通して,ボア(内径)448’内に収容固定される。前記ノズル616は,延長オリフィス622を有する円筒形管(チューブ)であり」(26欄8行〜12行)との記載がある。上記記載によれば,ノズル組立体602には貫通孔448’が存在し,これによって管状受座組立体600の出口開口606と連通しているので,この点が「前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」を有する「第二流路」を意味し,また,延長オリフィス622の下端がそのままノズル組立体の出口を形成しており,この点が「前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分」を意味する。このように第2実施形態では,延長オリフィス622の内径は一定であり,かつ,延長オリフィス622が閉塞端450’を貫通して管状受座組立体600の下端に達しているところ,被告方法の構成は,実質的に第2実施形態と同じであるから,被告方法が構成要件2-Cを充足することは明らかである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
構成要件2-Dについて(ア)被告方法は,「前記バルブシャフトを,前記第一位置から,前記バルブシートへ向けて加速し,それによって,前記流路にある前記液体材料を前記流路の周囲にその一部を流すとともに,前記流路内の前記液体材料の残部を前記出口開口部から前記オリフィス内へ流して前記ノズル機構の出口部分から液体材料の流れとして分配させ,」との構成を有するところ(前記第2の2(4)アd),被告方法の「バルブシャフト」,「バルブシート」,「流路」,「出口開口部」,「オリフィス」,「ノズル機構の出口部分」は,構成要件2-Dの「バルブ」,「バルブ座」,「第一流路」,「出口端部」,「第二流路」,「ノズルの出口」にそれぞれ相当する。
(イ)構成要件2-Dの「第二位置」は,構成要件1-Dの「第二位置」と同様に(前記1(1)イ),往復動バルブが,以下に述べる「最初の段階」から「次の段階」へ移行する時点を意味する。
すなわち,本件発明2においては,「第一位置」から下降する往復動バルブの下端とバルブ座との間の空間が大きい「最初の段階」では,液体が放射状に外側に流れ,液体供給源の圧力に逆らって往復動バルブの周囲を逆流する。この段階では,ノズルの抵抗があるために液体はノズルをほとんど通過できない。しかし,往復動バルブがバルブ座に接近するにつれて,往復動バルブの下端とバルブ座との間の空間が小さくなって「次の段階」に達すると,液体が放射状に外側に流れることに対する抵抗が大きくなり,往復動バルブの下端とバルブ座との間の空間に高圧が生じる。このようにして生じる高圧は液体供給源の圧力よりもはるかに大きいため,ノズルの抵抗を上回って液体を出口から排出する。そして,液体の排出は,往復動バルブがバルブ座に着座してバルブ座を閉塞するとともにその運動も停止することによって終了する。
この「第二位置」の技術的意義は,往復動バルブが「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,入口方向に逆流する流れが急激に減少し,同時に,出口方向に向かう流れが増加する位置である。
そして,被告方法においては,バルブシャフトが「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に増加することがシミュレーション(甲7,8)によって確認されており,この位置(別紙流量グラフ目録記載のシミュレーションの条件下では,1.6ミリ秒付近においてバルブシャフトが存在する位置)が,被告方法における「第二位置」である。
(ウ)以上によれば,被告方法には,バルブシャフト(往復動バルブ)が「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,液体の逆流量が急激に減少し,ノズルからの流出量が急激に増加する「第二位置」が存在し,「前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ」との構成を有しているから,構成要件2-Dを充足する。
構成要件2-Eについて被告方法は,「前記バルブシャフトが前記バルブシートに接近することにより,前記流路の周囲に向かう前記液体材料の流れが減少し,前記オリフィス内に入る前記液体材料の流れが増加し」との構成を有するところ(前記第2の2(4)アe),被告方法の「バルブシャフト」,「バルブシート」,「流路」,「オリフィス」は,構成要件2-Eの「バルブ」,「バルブ座」,「第一流路」,「第二流路」にそれぞれ相当する。
そして,被告方法には,前記イのとおり,「第二位置」が存在する。
したがって,被告方法は,「前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座(612)と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路(608)の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ,」との構成を有しているから,構成要件2-Eを充足する。
エ 小括以上のとおり,被告方法は,本件発明2の構成要件2-Aないし2-Gをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
そして,被告装置は,被告方法の使用のみ用いる物であるから,被告による被告装置の製造,販売は,特許法101条4号により,本件特許権2を侵害するものとみなされる。
(2) 被告の反論被告方法は,以下のとおり,本件発明2の構成要件2-Cないし2-Eをいずれも充足しないから,本件発明2の技術的範囲に属さない。
したがって,被告による被告装置の製造,販売は,本件特許権2を侵害するものとみなされる行為に当たらない。
構成要件2-Cについて本件発明2の構成要件2-Cの「第二流路」は「前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」と「オリフィス(622)が設けられている出口部分」を有することが必要であるところ,被告方法は,「第一流路」が「第二流路」の「出口部分」であるオリフィスと直接に連通した構成であり,「第二流路」が「前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」を備えていない。
したがって,被告方法は,構成要件2-Cを充足しない。
構成要件2-Dについて(ア)構成要件2-Dの「第二位置」,「大部分」及び「残りの」の用語の技術的意義は,本件明細書2の記載を参酌しても,いずれも明らかではない。そのため,被告方法においては「第二位置」を定めることができず,「第二位置」が存在しているとはいえないし,また,被告装置における液体の流量が「大部分」及び「残りの」の構成を充足しているともいえない。
(イ)これに対し原告は,「第二位置」とは,逆流量が減少し,ノズルからの流出量が増加する位置をいい,この「第二位置」は,装置の一定の位置に固定されるものではなく,シミュレーションにより機能的に定まる旨主張するが,上記主張は,前記1(2)イ(イ)と同様の理由により,理由がない。
(ウ) したがって,被告方法は,構成要件2-Dを充足しない。
構成要件2-Eについて構成要件2-Eの「前記第二位置」は,構成要件2-Dの「第二位置」を意味するところ,前記イのとおり,被告方法には構成要件2-Dの「第二位置」が存在しているといえないから,被告方法は,構成要件2-Eを充足しない。
3 争点3(本件特許権1に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 被告の主張本件特許1には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない。
ア 無効理由1(新規性の欠如?@)本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙4(米国特許第4066188号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許1には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)乙4には,?@請求項1として,「高温の粘性液体を加圧源から基材上に押出し吐出する接着剤分配装置において,内部を貫いて形成された中心ボアを有する本体;前記中心ボアに接続され,粘性液体を前記中心ボアに供給する前記本体内の通路手段;前記中心ボアの一端に取り付けられたバルブシート;前記中心ボア内に,前記バルブシートと動作係合するように配設された可動のバルブ機構;前記バルブシート内に形成された通路;前記バルブ機構が前記バルブシート内の通路を通る前記粘性流体の流れを動作制御すること;前記本体内に前記中心ボアと隣接して形成され,加熱手段が内部に配設されたヒータボア;及び前記本体内で前記加熱手段と前記中心ボアとの間に形成された複数の平行ボアで,前記バルブ機構と同心円状に配置され,熱交換手段として機能する複数の平行ボア;から成る接着剤分配装置。」(訳文・5頁15行〜6頁1行),?A「本発明はある表面への液体の塗布に関し,特に押出しあるいは吹出しされた物質をビーズ,リボンまたは小サイズの単位付着物として,高速の製造条件下において所望のパターンで塗布するのに用いられる装置に関する。」(訳文・1頁15行〜17行),?B「本発明の主目的は,溶融接着剤塗布器の吐出ノズルに隣接して配置される新規の熱交換器であって,接着剤を基材上に分配する直前に,接着剤の温度を高めた温度に上昇させ維持する熱交換器を提供することにある。本発明の別の目的は,マニホールド形状の熱交換器であって,接着剤がマニホールド内に配設されたヒ-タから伝達された最大量の熱を吸収するように形成された接着剤用の流体流路を有する熱交換器を提供することにある。本発明の更に別の目的は,マニホールド形状の新規な熱交換器であって,マニホールドの中心ボアに配設されたバルブエレメントを周方向から取り囲む熱交換器を提供することにある。この実施態様は,バルブのすぐ近くに隣接する溶融接着剤が液体状態に維持されることにより,液状の接着剤が固化点にまで冷却され,塗布バルブの機能動作を妨げるという問題の解消を保証する。」(訳文・2頁8行〜18行),?C「本体つまりマニホールドブロック11は,それを貫通して形成された段状ボア14を有し,段状ボア14はマニホールド11に形成された複数の並行ボアつまり通路によって入口ポート15に接続されている。バルブ機構17が段状ボア14を貫いて延び,マニホールドブロック11の一端に取り付けられたノズル機構13と動作連通している。」(訳文・3頁3行〜7行),?D「出口ノズル機構13は,不図示の小ネジによってマニホールドブロック11に密封固定されたエンドプレート25を有する。エンドプレート25は段状ボア26を備え,段状ボア26の一端にバルブシート27が圧入されている。出口ノズル28が,ネジ切り保持ナット29によりエンドプレート25に密封固定されている。
バルブエレメント19は圧縮バネ30によってバルブシート27と係合する閉位置に付勢され,圧縮バネ30は作動ロッド18のフランジ部31とモータハウジング(ブロック)22内の段状ボア32の一端とに対して作用している。」(訳文・3頁16行〜22行),?E「接着剤分配装置の所望の動作回数を制御する調整可能なタイミング手段が設けられ,接着剤分配装置から分配される接着剤の単位付着物のサイズを決める時間間隔の持続時間を定める。ホットメルト接着剤は,マニホールドブロック11の入口ポート15から環状通路24内へ入り,平行ボアつまり流体通路16を介し,段状ボア14の上端に至るように加圧ポンプ給送される。」(訳文・4頁21行〜26行),?F「エアモータ機構12が作動しバルブ機構17を往復移動させると,接着剤が段状ボア47及びノズル28の出口孔50を介して分配される。」(訳文・5頁2行〜3行)等の記載がある。
(イ)本件発明1の構成要件1-Dの「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の技術的意義はいずれも明確ではない。
しかし,本件発明の液体の流れの傾向は,構成要件1-Dにあるとおり,バルブが「第一位置」からバルブ座に向けて下降する際に,?@第一流路の液体材料の「大部分」を第一流路の入り口端方向に流すこと,?A第一流路の液体材料の「いくらか」を出口端から第二流路に流し込むことという単純なものである。このような流れの傾向は,流体における質量保存則(流体の流入量と流出量とが常に等しいという法則)に基づく流れの傾向を描写したにすぎず,流動抵抗を考慮しても,容易に予想される流れにすぎない。すなわち,このような液体材料の流れは,ノズルから流れた液体材料以外はすべて入口端(又は入口端部)に向けて流れざるを得ず,それは,流体における質量保存則そのものであり,また,流動抵抗を考えても,ノズルの径が小さいことから,バルブシート(又はバルブ座)に着座する直前までは,ノズルから流れ出る液体材料はわずかであることも容易に予想することができる。
また,A作成の鑑定意見(乙38,43)によれば,このような液体の流れは,乙4記載の装置においても容易に予測され,乙4記載の装置,乙5記載の装置及び乙22記載の装置に係るシミュレーション(乙31ないし33)の結果は,上記予測を適正に反映するものである。
そうすると,構成要件1-Dの「第二位置」は,バルブが「第一位置」からバルブ座に着座する「第三位置」までの間のいずれかの位置に存在し,「大部分」と「いくらか」は,単に液体材料の流れ(流量)の相対的な大小をいうにすぎないものと解される。
(ウ)前記(イ)の構成要件1-Dの「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の解釈を前提に,上記(ア)の各記載と図1(FIG.1)及び図2(FIG.2)を総合すると,乙4には,次のような発明(以下「乙4発明?@」という。)が記載されている。
a少量の接着剤を分配する分配装置であって,その分配装置は,b出口端(バルブシート27中の流路の下端)及び該接着剤を受ける入口端(入口ポート15)を有する第一流路(マニホールドブロック11内,段状ボア14内,スリーブ23内,エンドプレート25内,バルブシート27内などに形成される。)と,該第一流路の該出口端の近傍に配置されるバルブ座(バルブシート27の部材のうちバルブエレメント19が着座する箇所)と,往復動バルブ(バルブ機構17)と,を有するバルブ組立体と,c該第一流路の該出口端に接続される入口部分を有する第二流路(出口ノズル28中の流路)と液体材料の流れを分配するオリフィス(出口ノズル28内の流路の内径が小さい下端の部分)を有する出口部分とを備えるノズル組立体と,d該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,e該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成するfことを特徴とする材料分配装置。
(エ)これに対し原告は,乙4発明?@は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,液体材料の供給圧力が高く,バルブが開いているときに常に材料が流出しているはずであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない旨主張する。
しかし,乙4には,バルブが開いているときに,「常に」材料が流出していることを理解することができる記載はない。
また,乙4発明?@では,ホットメルトを使用しているが,ホットメルトを使用しているガン・ユニットにおいても,「約2.5?s/c?u」(約35psi)程度の低い圧力において使用することがあること(乙39の10頁2行〜3行)に照らせば,乙4発明?@においても,バルブが開いているときに,「常に」材料が流出していると理解することは困難である。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
(オ)そして,乙4発明?@の構成aないしfは,本件発明1の構成要件1-Aないし1-Fにそれぞれ相当するから,本件発明1は,乙4発明?@と同一である。
イ 無効理由2(新規性の欠如?A)本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙5(独国特許出願公開第4013323号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許1には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)乙5には,?@請求項1として,「分配すべき物質を供給する供給ボアと接続する貫通ボアと,ボアに軸線方向へ摺動自在に支持されたアンカおよび位置不変のストローク制限部材からなるパルス状に駆動される分配ピストンとを有し,支持部材に設置されたバルブ体を有し,1つまたは複数の流動性のまたは流動化可能な物質,特に,接着剤,加熱接着剤,インキ,ラッカなどを分配する分配バルブであって,貫通ボアが,分配すべき物質の出口範囲において,分配ボアに狭窄される形式のものにおいて,供給ボア(9,9’)が,アンカ(5)を受容する貫通ボア(3)の上端に設けてあることを特徴とする分配バルブ。」(訳文・7頁14行〜20行),?A請求項5として,「分配部材(20)には,ネジナット(22)によって分配部材(20)の雄ネジに固定され分配ボア(8)を形成する分配スリーブ(21)が設けてあり,この場合,分配スリーブ(21)が,下端に,分配媒体のための出口(23)を有することを特徴とする請求項1-4の1つまたは複数に記載の分配バルブ。」(訳文・8頁1行〜4行),?B「本発明は,分配すべき物質を供給する供給ボアと接続する貫通ボアと,ボアに軸線方向へ摺動自在に支持されたアンカおよび位置不変のストローク制限部材からなるパルス状に駆動される分配ピストンとを有しかつ支持部材に設置されたバルブ体を有し,1つまたは複数の流動性のまたは流動化可能な物質,特に,接着剤,加熱接着剤,インキ,ラッカなどを分配する分配バルブであって,貫通ボアが,分配すべき物質の出口範囲において,分配ボアに狭窄される形式のものに関する。」(訳文・2頁12行〜17行),?C「貫通ボア(3)は,分配バルブの出口範囲において,狭窄されて分配ボア(8,8’)に移行する。分配すべき物質の供給は,供給ボア(9)を介して,あるいは,別の方式として,バルブを直列に配置した場合に,例えば,非接触で横方向接着剤塗布のため,破線で示したボア(9’)を介して行われる。バルブ体(1)は,合目的的には,バルブ体に着脱自在に結合された分配ヘッド(10)と,調整ヘッド(11)とを有する。バルブ体(1)は,電磁コイル(13)の電気接続片(12’)を固定したスリーブまたはカバースリーブ(12)によって囲まれている。好ましくは六角形に構成されたアンカ(5)は,ボア(3)に同心に配置されかつ絶縁材料製スリーブまたは埋込部材(14)によって分離された電磁コイル(13)と作用結合する。アンカ(5)は,アンカ受容ボア(3)内に上下動自在に設けてあり,その下端に,好ましくは,プラスチックからなり密封円錐体を有することができるバルブヘッド(15)を備えている。バルブヘッド(15)は,バルブ座(14’)と作用共働して,縮小された貫通ボア(3’)を密封する。好ましくはプラスチックからなるバルブ座(14’)が,コイル埋込部材(14)の構成部分であれば極めて有利である。」(訳文・4頁25行〜5頁11行),?D「分配ヘッド(10)は,有利な簡単な組込のため,雄ネジによって支持部材(2)に螺着できるよう構成され,スリーブ(12)またはその閉鎖リング(12’’)を上端に支持したノズル部材(20)からなる。分配部材(20)には,ネジナット(22)によって分配部材(20)の雄ネジに固定され分配ボア(8,8’)を形成する分配スリーブ(21)が設けてある。分配スリーブ(21)は,下端に,分配媒体の出口(23)を有する。ボア(3,3’)および分配ボア(8,8’)またはコイル埋込部材(14)および分配スリーブ(21)は,密封リング(24)によって,分配材料の逸出が防止されるよう構成されている。」(訳文・5頁23行〜6頁3行),?E「本発明に係る分配バルブは,塗布ヘッドまたは塗布バーまたは塗布フレーム(図示しない)の構成部分であってよく,この場合,場合によっては,所定のパターンにもとづき複数の同一の分配バルブを設けることもできる。このような塗布ヘッドを使用して,1つまたは複数の分配バルブの補助下で,対向する対象物上に,滴状または線状に分配された低温接着剤を塗布でき,特に,加熱によって流動化した接着剤,即ち,加熱接着剤,インキ,ラッカなどを,所定のパターンにもとづき,滴状または線状に塗布することもできる。」(訳文・7頁2行〜7行)等の記載がある。
(イ)前記ア(イ)の構成要件1-Dの「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の解釈を前提に,上記(ア)の各記載と図1(FIG.1)を総合すると,乙5には,次のような発明(以下「乙5発明?@」という。)が記載されている。
a少量の接着剤を分配する分配装置であって,その接着剤分配装置は,b出口端(バルブ座14中の流路の下端)及び前記接着剤を受ける入口端(供給ボア9)を有する第一流路(バルブ座14内などに形成される。)と,その第一流路のその出口端の近傍に配置されるバルブ座(バルブ座14の部材のうちバルブヘッド15が着座する箇所)と,往復動バルブ(アンカ5)と,を有するバルブ組立体と,c前記第一流路の前記出口端に接続される入口部分を有する第二流路(分配ヘッド10中の流路)と液体材料の流れを分配するオリフィス(分配スリーブ21の先端)を有する出口部分(出口23)とを備えるノズル組立体と,d前記往復動バルブは,第一位置から前記バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより前記第一流路における液体材料の大部分をその第一流路の前記入口端方向に流す一方,その第一流路における液体材料のいくらかを前記出口端から前記第二流路に流し込み,e前記往復動バルブは,前記第二位置から前記バルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより前記第二流路を通しての液体材料の流れが分断され,前記オリフィスから分配される液体材料の流れがその第二流路の前記出口部分から離れて液体材料の小滴を形成するfことを特徴とする材料分配装置。
(ウ)これに対し原告は,乙5発明?@は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,液体材料の供給圧力が高く,バルブが開いているときに常に材料が流出しているはずであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない旨主張する。
しかし,乙5には,バルブが開いているときに,「常に」材料が流出していることを理解することができる記載はないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
(エ)そして,乙5発明?@の構成aないしfは,本件発明1の構成要件1-Aないし1-Fにそれぞれ相当するから,本件発明1は,乙5発明?@と同一である。
ウ 無効理由3(新規性の欠如?B)本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙22(特開平5-264412号公報)に記載された発明と同一であるから,本件特許1には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)乙22には,?@「液体がノズル放出口(3)を通してノズル(2)から少量,パルス方式でターゲット(5)へ放出される分析液体(7)のターゲットへの供給装置であって,分析液体が加圧下に保持される圧力チャンバー(1)からなり,圧力チャンバー(1)からノズル放出口(3)までの液体の流路にバルブ口(23)と,バルブ口(23)の開閉のための位置決め素子(12)によって動く閉鎖素子(13)とを有するバルブユニット(11)が備えられ,および,バルブ口が閉鎖するあいだ,閉鎖素子(13)の動きによって液体の放出が維持されるようにバルブユニット(11)が組み立てられていることを特徴とする装置。」(【請求項1】),?A「本発明は,液体(fluid) がノズル放出口を通してノズルから少量,パルス方式でターゲットへ放出される,分析液体のターゲットへの調整供給(proportionedfeeding)装置に関する。」(段落【0001】),?B「本発明の目的は,前記の不都合を避け,分析液体のために現在まで通常に使用される“ドロップ オン デマンド”法のばあいよりも実質的に多い,しかし一方では,希釈器やディスペンサーで現在まで成し遂げられる最少量よりも少ない,厳密に決められた量の,分析液体の特定量を生じ(generate)させうるような,分析液体のターゲットへの供給装置を提供することである。」(段落【0008】),?C「分析液体7は圧力チャンバー1中で加圧下に保持される。分析液体は,圧力発生デバイス9により,接続しているブランチ6aを経由して貯蔵容器6から供給される。」(段落【0017】),?D「圧力チャンバー1とノズル放出口3の間の液圧連結はバルブユニット11により開口および閉鎖されうる。バルブユニット11(図1ではバルブが開口位置にある状態を示し,また以下,単にバルブともいう)は,位置決め素子12によって動かされる閉鎖素子13からなり,バルブユニット11が閉鎖位置にある状態では,前記閉鎖素子13の環状のシーリングリム(sealingrim)15は,同じく環状のシーリングシート(sealing seat)17に板封じ方式で押しつけられている。シーリングリム15に囲まれた領域は閉鎖領域19を意味する。」(段落【0018】),?E「ノズル放出口3の方向においてシーリングシート17の前に,ノズルプレ-チャンバー4が配されている。これは,バルブ放出口とバルブ口23(バルブ開口時)を除いてふさがっている。」(段落【0019】),?F「閉鎖領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子13が閉鎖する間“液圧加速(hydraulic gearing up)”あるいは“液圧伝動(hydraulic transmission)”を引きおこす,言い換えれば,閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動する。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きによってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持され促進される。」(段落【0021】),?G「本発明においてとくに重要な点は,液圧加速にある。インクジェット技術(いわゆる“ジェッティング(jetting)”)において,要求される液体の放出を確実にするためには,ノズル内での流速が少なくとも1m/sでなければならない。
本発明において,液体の流れの正確な中断を達成するためにはバルブの閉鎖する間も同様に高速度が要求されることが見出された。」(段落【0022】),?H「液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口23,これはシーリングリム15とシーリングシート17との間の環状のすきまによって形成されるが,その開口横断面(opening cross-section)が閉鎖領域19よりも小さい方が有利である。」(段落【0024】)等の記載がある。
(イ)前記ア(イ)の構成要件1-Dの「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の解釈を前提に,上記(ア)の各記載と図1を総合すると,乙22には,次のような発明(以下「乙22発明?@」という。)が記載されている。
a少量の分析液体を分配する分配装置であって,その分配装置は,b出口端(圧力チャンバー1とノズルプレ-チャンバー4との境界部分)及び該液体を受ける入口端(ブランチ6aが圧力チャンバー1において開口する部分)を有する第一流路(圧力チャンバー1)と,該第一流路の該出口端の近傍に配置されるバルブ座(シーリングシート17のうち,閉鎖素子13が着座する箇所)と,往復動バルブ(閉鎖素子13)と,を有するバルブ組立体と,c該第一流路の該出口端に接続される入口部分(ノズルプレ-チャンバー4)を有する第二流路(ノズル2内の流路)と液体の流れを分配するオリフィス(ノズル2のうちノズル放出口3の径と同径の部分)を有する出口部分とを備えるノズル組立体と,d該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体の大部分を該第一流路の該入口端方向に流す一方,該第一流路における液体のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,e該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての液体の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成するfことを特徴とする材料分配装置。
(ウ)これに対し原告は,乙22発明?@は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,液体材料の供給圧力が高く,バルブが開いているときに常に材料が流出しているはずであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない旨主張する。
しかし,乙22には,バルブが開いているときに,「常に」材料が流出していることを理解することができる記載はないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,失当である。
(エ)そして,乙22発明?@の構成aないしfは,本件発明1の構成要件1-Aないし1-Fにそれぞれ相当するから,本件発明1は,乙22発明?@と同一である。
エ 無効理由4(新規性の欠如?C)本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙23(独国特許出願公開第4202561号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許1には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
すなわち,乙23は,乙22に係る特許出願(特願平5-11517号)の優先権主張の基礎とされた独国特許出願に係る公開特許公報であって,乙23の記載は,乙22の記載とほとんど同一である。
したがって,乙23には,乙22発明?@の構成aないしfを有する発明が記載されているところ(以下,この発明を「乙23発明?@」という。),構成aないしfが本件発明1の構成要件1-Aないし1-Fにそれぞれ相当することは前記ウ(エ)のとおりであるから,本件発明1は,乙23発明?@と同一である。
オ 無効理由5(進歩性の欠如)本件発明1は,以下のとおり,乙4(米国特許第4066188号明細書),乙5(独国特許出願公開第4013323号明細書),乙22(特開平5-264412号公報)又は乙23(独国特許出願公開第4202561号明細書)に記載された発明に,周知技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア) 相違点原告は,乙4,5,22又は乙23に記載された発明(以下「乙4等記載発明?@」という。)は,いずれも供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではないから,乙4等記載発明?@と本件発明1とは,乙4等記載発明?@が本件発明1の構成要件1-Dの「第二位置」及び「液体材料の大部分を第一流路の該入り口端方向に流す」との構成を備えていない点で相違する旨主張する(以下,この相違点を「原告主張相違点1」という。)。
(イ) 周知技術aバルブの先端に生ずる圧力を利用した分配方式液体の供給圧力よりも,バルブの先端に生ずる圧力を利用して液体又は粘性材料を押し出すという分配方式は,本件出願1の優先権主張日前に,周知である(例えば,下記の乙34ないし36,乙22)。
(a) 乙34乙34(特開平7-125199号公報)は,「インクジェットプリンタ用ヘッド」に関するものであるが,乙34には「従来のヘッドでは,比較的容量の大きいインク溜まり(キャビティ)の,ノズルから遠い箇所でインクに圧力を加え,その圧力によりインクをノズルから噴出させるという方式をとっていたため,インクの噴出力が弱い。しかし,本実施例のヘッドではノズルの直後に配置されたプランジャの平坦部を高速でノズル側に移動させることにより,プランジャ先端の平坦部とノズルとの間のインクを直接ノズル方向に押し出す。このため,インクの噴出力が強いと同時に,平坦部とノズルとの間に存在するインクが機械的圧力により効率よくノズルから押し出される。」(段落【0012】)との記載がある。上記記載によれば,乙34記載の装置は,インクを,その供給圧力によるのではなく,「ヘッド」の「機械的圧力」により,押し出している。
(b) 乙35乙35(特公昭48-9264号公報)は,「溶融材からの粒子を製造する方法」に関するものであるが,その明細書の発明の詳細な説明には,「針即プランジャ7,7’の下方への動きは出口領域に於けるノズル2の縮小領域6と針7の端面との間に比較的に高圧の遷移域即ち加圧領域を形成し,溶材12の一部にノズルから該溶材を放出しようとする余分の力が与えられる。」(4欄14行〜18行)との記載がある。上記記載によれば,プランジャが下方に動くことにより,加圧領域が次第に形成され,溶材がノズルから放出される。
(c) 乙36乙36(米国特許第5205439号明細書)は,「電子部品面実装用に少量の粘性物質を供給するディスペンサ」に関するものであるが,乙36には「本発明によれば,ディスペンサ内の粘性物質に作用する圧力は,バルブニードルが上昇位置にあるとき,粘性物質がノズルから流出しないように選定される。バルブニードルがバルブ当たり面の方向に向かって下方に移動するときだけ,粘性物質はノズルから流出する。」(訳文・4頁12行〜16行)との記載がある。上記記載によれば,バルブニードルが下方に移動するときだけ,(その圧力により)粘性物質がノズルから流出する。
(d) 乙22乙22には,「本発明は,・・・分析液体が加圧下に保持される圧力チャンバー1からなり,・・・バルブ口が閉鎖するあいだ,閉鎖素子13の動きによって液体の放出が維持される」(段落【0010】)との記載がある。上記記載によれば,「閉鎖素子13」の「動き」により液体が放出される。
b液体の供給圧力の適宜の調整(a)バルブの先端に生ずる圧力を利用して液体又は粘性材料を押し出す際,液体の供給圧力を適宜調整し得ることは,本件出願1の優先権主張日前に,周知である。例えば,乙22の段落【0012】には,「圧力チャンバー1」(=第一流路)が「0.1から5bar」(1平方インチ当たりポンド(psi)に換算すると「約1.5から約72.5psi」)で加圧されることが記載されており,供給圧力は,最大値と最小値とにおいて50倍もの幅際があり,供給圧力を広範囲に調整することが可能である。
(b)供給圧力を,バルブシャフトが「第一位置」にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定することも,周知である(例えば,下記の乙34,36)。
?@ 乙34乙34には,「インクが噴出した後は,ノズル穴25は再びインク自身のメニスカスにより蓋をされる」(段落【0012】)との記載がある。
?A 乙36乙36には,「ディスペンサ内の粘性物質に作用する圧力は,バルブニードルが上昇位置にあるとき,粘性物質がノズルから流出しないように選定される。」(訳文・4頁12行〜14行)との記載がある。
c逆流バルブシャフトが下降する際に「逆流」を生じさせ,また,バルブシャフトが下降する際に排除される液体のうち,ノズルから流出する量以外の量が逆流することは,本件出願1の優先権主張日前に,周知あるいは技術常識である(例えば,下記の乙34,35)。このような液体の流れは,乙4記載の装置,乙5記載の装置及び乙22記載の装置に係るシミュレーション(乙31ないし33)の結果からも裏付けられる(乙38,43)。
(a) 乙34乙34には,「プッシュロッド17を急速に伸ばす。すると図6(c)に示すように,プランジャ先端とノズル板との間の隙間27のインクの一部がノズル穴25から外部に噴出される。」(段落【0012】)との記載があり,「隙間27」にある「インクの一部」のみが,外部に噴出することが記載されている。また,図6(c)において,「インクの一部」が外部に噴出する一方,インクの残部が左右の方向に流れている状況が「矢印」により描かれている。
外部に噴出するインクの量は文字などの印刷に必要な微量であり,それ以外のインクは,質量保存則に従い,供給側に逆流せざるを得ない。
(b) 乙35乙35は,「溶融材からの粒子を製造する方法」に関するものであるが,その特許請求の範囲には,「溶融材を容器に入れ,該容器の底に設けられた少なくとも1個のノズルを通して該溶融材を移動する冷却表面上に滴下させてこれを固形化する溶融材から粒子を製造する方法において,前記ノズル内で該ノズルの出口端部の上方で針を上下往復動させること,前記針の往復動及び前記ノズルの下端面に設けられた流出制限通路とにより該ノズル内の領域で溶融材を加圧すること,前記加圧領域内に生じた比較的高い圧力を一方では所定量の溶融材を該加圧領域から前記出口端部の制限通路を通して放出しこれを分離させることにより又他方では溶融材を該加圧領域から前記針に沿って前記容器内へ逆流させることによって低減させることを特徴とする溶融材から粒子を製造する方法。」(4欄35行〜5欄4行)との記載がある。
上記記載は,ノズル内において「針」(プランジャ)により溶融材を加圧することにより,一方においては,所定量の溶融材を出口端部から放出し,他方では溶融材を「針に沿って前記容器内へ逆流させる」というものである。
乙35記載の装置において,出口端部から押し出された溶融剤は,「細粒状」のものであり,プランジャが下降する際にそれ以外の溶剤は,質量保存則に従い,「逆流」せざるを得ない。
(ウ) 容易想到性前記(イ)のとおり,?@「バルブの先端に生ずる圧力を利用して液体又は粘性材料をオリフィスから押し出す」構成,?Aその際,液体の供給圧力を適宜調整すること,?Bバルブシャフトが下降する際に「逆流」が生じるようにすることは,いずれも周知である。
また,往復動バルブのストロークを調整したり,ノズルの径を変更することも周知(例えば,乙4,5,36)であり,これを従来の分配装置に適用することは設計的事項にすぎない。
さらに,従来の液体の分配装置において,数値流体解析シミュレーション(例えば,乙30)を実施し,液体の供給圧力,ノズル径,往復動バルブのストロークなどを調整することも,そのようなシミュレーションを認識し,使いこなすことが可能な当業者において,何の困難もないことであるし,シミュレーション自体が当然に予想している適用例であるともいえる。
そして,本件発明1の構成要件1-Dのように「大部分」を逆流させるとすることの作用については,本件明細書1において,「バルブ432'は,初めにバルブ座612からもっとも遠くに離間した第1位置”d”から第2位置”e”へ下向きに加速される。この距離により,バルブ軸430’は,きわめて大量の材料がノズル616に存在する前に,必要な速度に加速されうる」(段落【0058】)との記載があるのみであり,その効果は,「液体又は粘性材料の小滴を分配する」という程度のものにすぎない。この程度の作用効果は,乙4等記載発明?@のいずれにおいても奏するものであり,格別のものとはいえない。
したがって,当業者においては,乙4等記載発明?@に,上記周知の技術を適用することにより,原告主張相違点1に係る本件発明1の構成(構成要件1-Dの「第二位置」及び「液体材料の大部分を第一流路の該入り口端方向に流す」との構成)を採用することは容易に想到することができたものである。
カ 無効理由6(明細書の記載要件違反)本件発明1に係る本件明細書1は,以下のとおり,「発明の詳細な説明」の記載が当業者が「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に」記載されたものではないため,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項(以下,同条を単に「特許法36条」という。)の要件(いわゆる実施可能要件)に適合せず,また,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確ではなく,同条6項2号の要件(いわゆる明確性要件)に適合しないから,本件特許1には,同条4項,6項2号の要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(平成14年法律第24号附則2条1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法123条1項4号)がある。
(ア)本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)の記載中には,「該往復動バルブは,第一位置からが該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み」(構成要件1-D)との記載がある。
しかし,以下のとおり,本件明細書1の特許請求の範囲の記載はもとより,発明の詳細な説明及び図面を参酌しても,本件発明1の「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の用語の技術的意義は明らかでない。そのため,どこが「第二位置」であるのかを特定することは困難であり,どのようにすれば「大部分」及び「いくらか」というような液体材料の量の関係になるのかも明らかではない。
a「第二位置」仮に「第二位置」が「第一位置」と「第三位置」との間に存在する位置であるとしても,その技術的意義は明らかでなく,これが明らかとならない以上,「第二位置」を特定することは当業者においておよそ困難である。
すなわち,本件明細書1(甲4)の発明の詳細な説明には,「前記第2ポジション”e”は,ノズルオリフィス622の直径の約3倍より小さい距離に,好ましくはノズルオリフィス622の直径の約1.5倍より小さい距離に配置される。」(段落【0054】)との記載があるように,「第二位置」である「第2ポジション”e”」をノズルオリフィス622の直径の約3倍より小さい距離にとることが示されており,また,図20には,「第2ポジション”e”」が図示されている。
しかし,本件明細書1には,「ノズルオリフィス622の直径の約3倍より小さい距離」を計測すべき始点及び終点は明確にされておらず,また,図20に記載された「バルブ座」はテーパーが付いており,どの部分を始点に計測するかによって異なった位置となり得るのに,本件明細書1には,どの位置を「第2ポジション”e”」として特定すべきなのか明らかでない。
さらに,本件明細書1の発明の詳細な説明には,?@「前記延長オリフィス622は,一般的には,約0.002〜約0.016インチの間の直径を有している。」(段落【0053】),?A「前記第2ポジション”e”は,ノズルオリフィス622の直径の約3倍より小さい距離に,好ましくはノズルオリフィス622の直径の約1.5倍より小さい距離に配置される。即ち,第2ポジション”e”は,バルブ座612から約0.036インチから約0.150インチより小さく,好ましくはバルブ座612から約0.003インチから約0.024インチより小さい。」(段落【0054】)との記載がある。上記?@の記載によれば,「オリフィス622」の直径は,「約0.002〜約0.016インチ」であるから,この直径から計算した「3倍より小さい距離」は「約0.006〜約0.048インチ」となるはずであるのに,上記?Aには,「第2ポジション”e”」の位置は,「約0.036インチから約0.150インチより小さく」と記載されており,「オリフィス622」の直径の「9.375倍」から「18倍」離れている。このように実施例の説明においても,矛盾があり,本件明細書1から,「第二位置」の技術的意義を理解し,かつ,その位置を特定することが一層困難なものとなっている。
b「大部分」と「いくらか」本件明細書1の発明の詳細な説明の段落【0058】には,「コンピュータによる流体の動的シミュレーション」に関する記載がある。しかし,上記記載は,多くの仮定を前提とした仮想モデルにおける一態様を描写しているにすぎず,上記記載から「大部分」及び「いくらか」の用語の技術的意義を認識することはできない。また,段落【0059】のa)からf)までにドットの加速及び減速並びに力に影響を与える多数の要素が例示されているが,これらの要素もまた複数の要素に影響されるものであるから,これらの多様な要素を規定することなく,「大部分」及び「いくらか」という用語の技術的意義を特定することもできない。
仮に「大部分」及び「いくらか」の用語には,格別の技術的意義がなく,単に相対的な大小をいうにすぎないとしても,前記aのとおり,「第二位置」を特定することは困難であり,どのようにすれば「大部分」及び「いくらか」というような液体材料の量の関係になるのか明らかではない。
(イ)以上のとおり,本件明細書1においては,本件発明1の「第二位置」,「大部分」及び「いくらか」の用語の技術的意義は明らかではなく,発明の詳細な説明の記載が当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないし,かつ,特許請求の範囲の記載により特許を受けようとする発明が不明確であるから,実施可能要件及び明確性要件を満たしていない。
(2) 原告の反論ア 無効理由1(新規性の欠如?@)に対し(ア)本件発明1と乙4発明?@とは,乙4発明?@が,本件発明1の構成要件1-D及び1-Eを充足する構成を有していない点において相違する。
本件発明1の往復動バルブは,構成要件1-D及び1-Eの構成によって,単なる開閉バルブとも,注射器のような往復動ポンプのピストンとも異なる作用をしている。
これに対して,乙4記載のバルブ機構17は,単に,ボールエレメントバルブ19によってバルブシート27を開閉しているにすぎず,バルブが開いている時間によって接着剤の流出量を制御するものであり,高圧によって生ずるホットメルト材料の流れを遮断することがバルブ機構17の作用である(乙4の訳文・4頁24行〜26行,5頁15行)。
このように乙4記載の装置は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,本件発明1のようにバルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではなく,また,乙4には,本件発明1の構成要件1-D及び1-Eの構成は開示されていない。
すなわち,乙4には,「この種の加熱循環システムの一例は・・・米国特許第3,788,561号に示されている。同特許に例示されているように,・・・」(訳文・4頁18行〜20行)との記載があるように,「米国特許第3788561号」は,乙4の記載を補充するものである。そして,甲12(米国特許第3788561号明細書)には,「ホットメルト材料の比較的高い圧力,例えば,1平方インチ当たり350ポンドの圧力で作動し,・・・。ボールバルブ(67又は67a)のほとんど瞬間的な開放により,それぞれのノズルからホットメルト材料の流れが射出される(もし,バルブが開放されたままであれば,流れが継続するであろう)。」(原文8欄16行〜27行,訳文・2頁11行〜18行)との記載等があることに照らすならば,乙4記載の装置は,材料供給源の圧力が高いことにより材料がオリフィスから射出され,バルブを開いている時間を制御することによって1回当たりの射出量を制御するものであることが明らかであり,バルブが開いている間は材料が流出することが前提となっている。他方,本件発明1においては,本件明細書1に「約4psi〜約30psiの一定の圧力で液体又は粘性材料を押し込む。」(段落【0029】)との記載があるとおり,液体又は粘性材料の供給圧力は,1平方インチ当たり約4ポンド〜約30ポンドにすぎず,この程度の圧力では,「一般的には約50,000〜約250,000センチポアーズの粘度を有する液体又は粘性材料」(段落【0029】)を細いオリフィスを通して押し出すことはできない。
(イ)被告が主張する乙4記載の装置に係るシミュレーション(乙31)は,原告が被告装置について行ったシミュレーションの条件をそのまま用いたものであり,被告の選択した条件は,乙4には記載がなく,また,技術常識を働かせても,乙4から読み取ることはできない。かえって,乙31のシミュレーションは,10psiという低い圧力を液体供給源の圧力として選択するなど,明らかに,乙4の開示に反する条件設定を行っている。
したがって,乙31のシミュレーションをもって,本件発明1が乙4発明?@と同一であることの根拠とすることはできない。
(ウ)以上によれば,本件発明1は乙4発明?@と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
イ 無効理由2(新規性の欠如?A)に対し(ア)本件発明1と乙5発明?@とは,乙5発明?@が,本件発明1の構成要件1-D及び1-Eを充足する構成を有していない点において相違する。
本件発明1の往復動バルブは,構成要件1-D及び1-Eの構成によって,単なる開閉バルブとも,注射器のような往復動ポンプのピストンとも異なる作用をしている。
これに対して,乙5記載のアンカ5は,ピストンのように働くものであるところ(乙5の訳文・6頁10行〜20行),アンカ5の周囲には小さい隙間しか構成されていないこと,ストローク間隙4’が極めて小さいのと比較して貫通ボア3の下部である貫通ボア3’が大きいこと,分配ボア8,8’の直径がアンカ5の周囲の隙間と比較して大きいことに照らし(同訳文・5頁5行,17行〜19行等),アンカ5が下降する際に,貫通ボア3’に存在する流動性の物質又は流動化可能な物質が上方に流れることはあり得ない。
このように乙5記載の装置は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,本件発明1のようにバルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない。
また,乙5には,本件発明1の構成要件1-D及び1-Eの構成は開示されていない。
(イ)被告が主張する乙5記載の装置に係るシミュレーション(乙32)は,原告が被告装置について行ったシミュレーションの条件をそのまま用いたものであり,被告の選択した条件は,乙5には記載がなく,また,技術常識を働かせても,乙5から読み取ることはできない。かえって,乙32のシミュレーションは,バルブが最も大きく開かれているとき(Time=0)でも,ノズルから流れ出る流量が全くないなど,乙5記載の装置の作動状況を正しくシミュレーションしたものではない。
したがって,乙32のシミュレーションをもって,本件発明1が乙5発明?@と同一であることの根拠とすることはできない。
(ウ)以上によれば,本件発明1は乙5発明?@と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
ウ 無効理由3(新規性の欠如?B)に対し(ア)本件発明1と乙22発明?@とは,乙22発明?@が,本件発明1の構成要件1-D及び1-Eを充足する構成を有していない点において相違する。
乙22記載の装置は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,本件発明1のようにバルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない。
すなわち,乙22には,?@「その目的は,・・・分析液体が加圧下に保持される圧力チャンバーからなり,圧力チャンバーからノズル放出口までの液体の流路にバルブ口と,バルブ口の開閉のための位置決め素子(positioning member)によって動く閉鎖素子とを有するバルブユニットが備えられ,およびバルブ口閉鎖の際の閉鎖素子の動きによって液体の放出が維持(support)されるようにバルブユニットが組み立てられることによって達成される。」(段落【0009】),?A「本発明のばあい,前記の“ドロップオンデマンド”微調整のための装置とは対照的に,ノズル区画(これはノズル放出口のすぐうしろに位置する)が特定量の液体が放出されるべきときに圧縮されるわけではない。そのかわり,ノズル放出口は,中の分析液体が(たとえば0.1から5barの)永続的な圧力を受けている圧力チャンバーと,流体的に連結している(hydraulically connected)。特定量の分析液体の放出は,圧力チャンバーとノズル放出口の間の液圧連結(hydraulic connection)を短時間開口し再び閉鎖するバルブユニットの閉鎖素子によって,制御される。」(段落【0012】),?B「閉鎖領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子13が閉鎖する間“液圧加速(hydraulic gearing up)”あるいは“液圧伝動(hydraulic transmission)”を引き起こす,言い換えれば,閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動する。それによって,閉鎖素子13がの比較的ゆっくりした動きによってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持され促進される。」(段落【0021】),?C「本発明においてとくに重要な点は,液圧加速にある。
インクジェット技術(いわゆる“ジェッティング(jetting)”)において,要求される液体の放出を確実にするためには,ノズル内での流速が少なくとも1m/sでなければならない。本発明において,流体の流れの正確な中断を達成するためにはバルブの閉鎖する間も同様に高速度が要求されることが見出された。したがって,液圧加速がなければ,閉鎖素子が開口位置から閉鎖位置まで1m/sのオーダーで移動することが必須である。前記高速度に伴う困難な点(バルブのシーリングシートに対するダメージ,位置決め素子に対するダメージ,閉鎖位置からの閉鎖素子のはね返り)は,液圧加速により回避される。
最適の流体動力学的条件は,理にかなった構造の経費で達成されうる。」(段落【0022】)との記載がある,上記記載から明らかなとおり,乙22記載の装置は,バルブを開放している間,圧力源の圧力によって液体がノズルから放出されるものであり,バルブが閉鎖されつつある間も流量が低下しないように,閉鎖素子の動きによって流体の放出を維持(support)するものである。このことは,特許請求の範囲の「請求項1」において,「バルブ口が閉鎖するあいだ,閉鎖素子(13)の動きによって液体の放出が維持されるようにバルブユニット(11)が組み立てられていることを特徴とする装置」と記載されていることからも明らかである。したがって,乙22記載の装置においては,閉鎖素子のゆっくりした動きであっても,液圧加速(hydraulic gearing up)によって液体の放出が「維持され促進される」ものである。
これに対して,本件発明1では,往復動バルブが第一位置から第二位置まで移動する間は,流体の大部分を入り口端方向に流す流れ(逆流)が生ずることが必須の要件(構成要件1-D)となっており,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない乙22記載の装置とは明らかに異なる。
また,乙22には,本件発明1の構成要件1-D及び1-Eの構成の記載も示唆もない。
(イ)被告が主張する乙22記載の装置に係るシミュレーション(乙33)は,原告が被告装置について行ったシミュレーションの条件をそのまま用いたものであり,被告の選択した条件は,乙22には記載がなく,また,技術常識を働かせても,乙22から読み取ることはできない。かえって,乙22の特徴は,「・・・閉鎖操作の間,すなわちバルブユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くことによって,液体の放出が阻止されず維持され促進されるように考慮してバルブユニットが組み立てられる・・・」(段落【0015】)ことにあり,この特徴について,乙22の対応米国特許である米国特許第5356034号に係るクレーム15(甲13)に「ノズルを通過する分析液体の流量が閉鎖動作の間を通して実質的に変化しない」と明確に記載されている。すなわち,乙22の装置は,閉鎖素子(バルブ)が閉鎖位置(バルブシート)に接近するに従って流量が減少することを防止する点に特徴があり,バルブが開いている間は液体供給源の圧力によって液体が流出することが前提とされている。しかるに,乙33のシミュレーションは,バルブが開いているにもかかわらず,ほとんど流出する流量がない期間がほとんどであるのみならず,流量が大きく変化しており,乙22記載の装置の作動状況をシミュレーションしているものといえない。
したがって,乙33のシミュレーションをもって,本件発明1が乙22発明?@と同一であることの根拠とすることはできない。
(ウ)以上によれば,本件発明1は乙22発明?@と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
エ 無効理由4(新規性の欠如?C)に対し前記ウにおいて,乙23発明?@と実質的に同一の発明である乙22発明?@について述べたところと同様の理由により,本件発明1は乙23発明?@と同一であるとの被告の主張は,理由がない。
オ 無効理由5(進歩性の欠如)に対し(ア) 乙34等の開示事項についてa乙34には,単に,プランジャによってインクを押し出すことを記載しているだけであり,プランジャの動きによってインクがノズル方向とは逆方向に押し出されることについての記載も示唆もない。また,乙34においては,「インク保留部14のインクはノズル25の先端部でそれ自身の表面張力によりメニスカスを形成し,これによりノズル穴からのインクの漏出が防止される。」(段落【0010】)との記載があるとおり,プランジャがノズル25の穴を塞ぐことはなく,バルブがバルブ座(バルブシート)に着座することによって液体材料の小滴を形成することも記載されていない。
b乙35は,乙34と同様に,単に,プランジャによって溶材を押し出すことを記載しているだけであって,「液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す」こと(構成要件1-D)の記載も示唆もなく,また,乙35記載の小径通路3は常時開放されており,プランジャが小径通路を塞ぐこともないから,バルブがバルブ座(バルブシート)に着座することによって液体材料の小滴を形成することも記載されていない。
もっとも,乙35には,「該材料の圧力を一方では溶融材の所定の分量のノズルからの流出と分離をもって他方では溶融材をノズル内の針に沿って逆流させ前記容器内に戻すことによって逃がすこと」(2欄20行〜23行)との記載があるが,この記載は,乙35におけるその他の記載(例えば,3欄12行〜13行の「溶材12の流入と吸引のための領域4」との記載,4欄7行〜12行のプランジャ7,7’の動きと溶融材の動きとの関係に係る記載)と矛盾しており,「逆流させ前記容器内に戻すことによって逃がす」との記載箇所を文字どおりの意味に理解することはできず,プランジャによって押しのけられる容積の大部分を逆流させることを示唆していると解釈すべきではない。
c乙36には,「プランジャ40がその最下端位置にあるとき,バルブニードル30がバルブ当たり面32に当接する」(訳文・5頁26行〜27行)との記載があるが,「液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す」こと(構成要件1-D)の記載はない。かえって,乙36には,「バルブニードルのサイズは,バルブニードルが2つの両端位置間を移動する際に分配すべき粘性物質の量に等しい分だけ容量を変化させるように選択するのが極めて有利である。」(訳文・4頁3行〜5行),「プランジャとして作用するバルブニードルがその前方に存在する一定量の粘性物質をノズルに向かって押すことで排除量におおよそ等しい量の粘性物質が吐出される。」(訳文・4頁9行〜11行)との記載がある。上記記載は,「バルブニードルが一方の端から他方の端まで移動する際に押しのける容積が,分配すべき粘性物質の量と等しくなるようにバルブニードルのサイズを選択しておくことが極めて有利である。」,「バルブニードルがプランジャとして作用していて,その前方に存在する粘性物質をノズルに向かって押し出すから,それによって押しのけられる容積とほぼ等しい量の粘性物質が吐出される。」という意味であり,バルブニードルによって押しのけられた容積が吐出されることを明示している。したがって,乙36では,「液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す」ことは明らかに否定されている。
(イ) 容易想到でないことa(a)乙4等記載発明?@は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではなく(前記ア(ア),イ(ア),ウ(ア),エ),いわゆるオン-オフ・バルブ,すなわち,液体供給源の圧力によって液体が流出するような条件の下で,バルブがバルブ座に当接して流路を閉鎖することによって液体の流出を止めるという構成のものである。
(b)これに対して,乙34,35は,いずれも,バルブがバルブ座を閉鎖するという構成を有しておらず,プランジャ又は圧力発生部材の動きによって圧力変動を生じさせることによって液滴の形成を加速するという構成のものである。このように,乙4等記載発明?@と乙34,35に記載された発明は,基本的な原理が全く異なるから,両者を組み合わせる動機などあり得ない。
(c)また,乙36は,バルブニードルが押しのけた容積とほぼ等しい量の液体を吐出すること,バルブニードルがバルブ当たり面に当接することを開示しているものの,乙36の「粘性物質に作用する圧力は,ノズル部24の底部にある粘性物質を流出させるのに充分なものとし,バルブニードル30とバルブ当たり面32が粘性物質の通過を開始及び停止させる単なるドロップシャッタとして作用するようにしてもよい。」(訳文・6頁22行〜27行)との記載からも明らかなとおり,乙36に主たる実施態様として記載されているバルブニードルの作用と,乙4等記載発明?@におけるオン-オフ・バルブとは択一的なものであるから,乙4等記載発明?@に乙36に記載された発明を組み合わせる動機は存在しない。
b分断されなければ糸状になる材料を分断して滴にするには,バルブを急加速してから材料を押し出し,かつ,その流れを急速に止める必要があるため,本件発明1においては,第一位置から第二位置までの間には,ほとんど材料をノズルに送り込むことなく,バルブを加速し,その後,材料をノズルに送り込み,バルブがバルブ座に着座して急速に停止する際に,その加速度(減速度)によって生じる慣性力によって材料の糸を分断して滴を形成している(本件明細書1の段落【0055】,【0056】,【0058】)。
しかるに,乙34ないし36には,本件発明1の「液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す」という構成(構成要件1-D)についての記載もなければ,示唆もない。
また,本件発明1の優先権主張日当時,本件発明1の属する液体分配装置の技術分野においては,バルブ(シャフト)が下降する際に排除される液体は,そのほとんどがノズルから吐出することが想定されており,仮に物理現象としては逆流が起こりうる条件が存在していたとしても,それは望ましくないこととして当業者の意識から排除されていた。
なお,被告提出の鑑定意見(乙38,43)は,バルブエレメントが運動する前の状態でノズルからの液体の流出量が無視できるほど小さいことを前提とした場合,バルブエレメントが下降する動作を開始した当初は液体の入口ポートの方向への流れが出口ノズルへの流れよりも多く生じ,バルブエレメントがバルブシートに着座する前に,液体の入口ポートの方向へ流れが減少し,かつ,出口ノズルからの流れが増加することを当業者が予測できると結論するものであり,その結論自体は争わない。しかし,上記鑑定意見は,流体抵抗を無視した場合,質量保存則のみから上記結論を導くことができるとした点で理論的に誤りであり,また,乙4,5,22記載の各装置に係るシミュレーション(乙31ないし33)の結果は上記予測を適正に反映しているとした点においても誤りがある(甲15のB作成の意見書)。
c以上のとおり,乙4等記載発明?@と乙34ないし36を組み合わせる動機が存在せず,また,仮にこれらを組み合わせたとしても,当業者が,本件発明1の「液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す」構成(構成要件1-D)を容易に想到することができたものとはいえない。
(ウ)したがって,本件発明1は進歩性を欠く旨の被告の主張は理由がない。
カ 無効理由6(明細書の記載要件違反)に対し(ア)前記1(1)イ(イ)aのとおり,本件明細書1(甲4)の段落【0021】,【0054】,【0056】,【0058】の各記載及び図19,20等によれば,当業者が「第二位置」がいかなる技術的意義を有するものであるかを理解することができ,また,「第二位置」が存在すべき場所がどこであるかも理解することができる。
(イ)したがって,本件明細書1は特許法36条4項,6項2号に適合しないとの被告の主張は理由がない。
4 争点4(本件特許権2に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 被告の主張本件特許2には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない。
ア 無効理由1(新規性の欠如?@)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙4(米国特許第4066188号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)本件発明2の構成要件2-Dの「第二位置」及び「大部分」の用語の技術的意義はいずれも明確ではない。
しかし,前記3(1)ア(イ)と同様の理由により,構成要件2-Dの「第二位置」は,バルブが「第一位置」からバルブ座に着座する「第三位置」までの間のいずれかの位置に存在し,「大部分」とは,単に液体材料の流れ(流量)の相対的な大小をいうにすぎないものと解される。
(イ)前記(ア)の構成要件2-Dの「第二位置」及び「大部分」の解釈を前提に,前記3(1)ア(ア)の各記載と図1(FIG.1)及び図2(FIG.2)を総合すると,乙4には,次のような発明(以下「乙4発明?A」という。)が記載されている。
a少量の接着剤を分配する方法であって,b第一流路(マニホールドブロック11内,段状ボア14内,スリーブ23内,エンドプレート25内,バルブシート27内などに形成される。)の出口端部(バルブシート27中の流路の下端)の近くに配置されたバルブ座(バルブシート27の部材のうちバルブエレメント19が着座する箇所)と,前記第一流路内に位置された往復動バルブ(バルブ機構17)とを有するバルブ組立体を貫通して延在している前記第一流路の入口端部(入口ポート15)に接着剤を供給し,c前記第一流路の出口端部から前記接着剤を受け取る入口部分と,前記接着剤を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(出口ノズル28内の流路の内径が小さい下端の部分)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体を貫通して延在している第二流路(出口ノズル28中の流路)を,前記バルブが前記バルブ座から離れた第一位置にあるときに前記接着剤で満たし,d前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路にある前記接着剤の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から接着剤の流れとして分配させ,e前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路の入口端部に向かう前記接着剤の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する接着剤の流れを増加させ,f前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する前記接着剤の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されている前記接着剤の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にするgことを特徴とする方法。
(ウ)そして,乙4記発明?Aの構成aないしgは,本件発明2の構成要件2-Aないし2-Gにそれぞれ相当するから,本件発明2は,乙4発明?Aと同一である。
イ 無効理由2(新規性の欠如?A)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙5(独国特許出願公開第4013323号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)前記ア(ア)の構成要件2-Dの「第二位置」及び「大部分」の解釈を前提に,前記3(1)イ(ア)の各記載と図1(FIG.1)を総合すると,乙5には,次のような発明(以下「乙5発明?A」という。)が記載されている。
a少量の接着剤を分配する方法であって,b第一流路(バルブ座14内などに形成される。)の出口端部(バルブ座14中の流路の下端)の近くに配置されたバルブ座(バルブ座14の部材のうちバルブヘッド15が着座する箇所)と,前記第一流路内に位置された往復動バルブ(アンカ5)とを有するバルブ組立体を貫通して延在している前記第一流路の入口端部(供給ボア9)に接着剤を供給し,c前記第一流路の出口端部から前記接着剤を受け取る入口部分と,前記接着剤を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(分配スリーブ21の先端)が設けられている出口部分(出口23)とを有し,ノズル組立体を貫通して延在している第二流路(分配スリーブ21中の流路)を,前記バルブが前記バルブ座から離れた第一位置にあるときに前記接着剤で満たし,d前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路にある前記接着剤の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から接着剤の流れとして分配させ,e前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路の入口端部に向かう前記接着剤の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する接着剤の流れを増加させ,f前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する前記接着剤の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されている前記接着剤の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にするgことを特徴とする方法。
(イ)そして,乙5発明?Aの構成aないしgは,本件発明2の構成要件2-Aないし2-Gにそれぞれ相当するから,本件発明2は,乙5発明?Aと同一である。
ウ 無効理由3(新規性の欠如?B)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙22(特開平5-264412号公報)に記載された発明と同一であるから,本件特許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)前記ア(ア)の構成要件2-Dの「第二位置」及び「大部分」の解釈を前提に,前記3(1)ウ(ア)の各記載と図1を総合すると,乙22には,次のような発明(以下「乙22発明?A」という。)が記載されている。
a少量の分析液体を分配する方法であって,b第一流路(圧力チャンバー1)の出口端部(圧力チャンバー1とノズルプレ-チャンバー4との境界部分)の近くに配置されたバルブ座(シーリングシート17のうち,閉鎖素子13が着座する箇所)と,前記第一流路内に位置された往復動バルブ(閉鎖素子13)とを有するバルブ組立体を貫通して延在している前記第一流路の入口端部(ブランチ6aが圧力チャンバー1において開口する部分)に液体材料を供給し,c前記第一流路の出口端部から前記分析液体を受け取る入口部分(ノズルプレ-チャンバー4)と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(ノズル2のうちノズル放出口3の径と同径の部分)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体を貫通して延在している第二流路(ノズル2内の流路)を,前記バルブが前記バルブ座から離れた第一位置にあるときに前記液体材料で満たし,d前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路にある前記分析液体の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ,e前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ,f前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バルブ座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する前記液体材料の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されている前記液体材料の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にするgことを特徴とする方法。
(イ)そして,乙22発明?Aの構成aないしgは,本件発明2の構成要件2-Aないし2-Gにそれぞれ相当するから,本件発明2は,乙22発明?Aと同一である。
エ 無効理由4(新規性の欠如?C)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日(平成8年7月17日)前に頒布された刊行物である乙23(独国特許出願公開第4202561号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件特許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
すなわち,前記3(1)エのとおり,乙23は,乙22に係る特許出願(特願平5-11517号)の優先権主張の基礎とされた独国特許出願に係る公開特許公報であって,乙23の記載は,乙22の記載とほとんど同一である。
したがって,乙23には,乙22発明?Aの構成aないしgを有する発明が記載されているところ(以下,この発明を「乙23発明?A」という。),構成aないしgが本件発明2の構成要件2-Aないし2-Gにそれぞれ相当することは前記ウ(イ)のとおりであるから,本件発明1は,乙23発明?Aと同一である。
オ 無効理由5(進歩性の欠如)本件発明2は,以下のとおり,乙4,5,22又は乙23に記載された発明に,周知技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(ア)原告は,乙4,5,22又は乙23に記載された方法の発明(以下「乙4等記載発明?A」という。)は,いずれも供給源の圧力で液体を分配する装置に係るものであって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではないから,乙4等記載発明?Aと本件発明2とは,乙4等記載発明?Aが,本件発明2の構成要件2-Dの「第二位置」及び「液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流す」との構成並びに構成要件Eの構成を備えていない点で相違する旨主張する(以下,この相違点を「原告主張相違点2」という。)。
(イ)しかるに,前記3(1)オ(イ),(ウ)と同様の理由により,当業者においては,乙4等記載発明?Aに,周知の技術を適用することにより,原告主張相違点2に係る本件発明2の構成を採用することは容易に想到することができたものである。
カ 無効理由6(明細書の記載要件違反?@)本件発明2に係る本件明細書2は,以下のとおり,「発明の詳細な説明」の記載が当業者が「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に」記載されたものではないため,特許法36条4項の要件(いわゆる実施可能要件)に適合せず,また,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が明確ではなく,同条6項2号の要件(いわゆる明確性要件)に適合しないから,本件特許2には,同条4項,6項2号の要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(平成14年法律第24号附則2条1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法123条1項4号)がある。
(ア)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,「前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ」との記載(構成要件2-D)がある。
しかし,上記記載中の「第二位置」及び「大部分」の用語の技術的意義は,本件明細書2(甲6)を参照しても明らかでない。
(イ)そうすると,本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,いかなる場合に前記(ア)の記載(構成要件2-D)を充足することになるのか不明であって,特許を受けようとする発明が不明確であるから,本件明細書2は,特許法36条6項2号に適合せず,また,同様の理由により,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから,本件明細書2は,同条4項に適合しない。
キ 無効理由7(明細書の記載要件違反?A)本件特許2は,以下のとおり,本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載した以外の態様を含むものであって,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された発明であること」(特許法36条6項1号)の要件(いわゆるサポート要件)に適合しないから,本件特許2は,同項1号の要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。
(ア)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,「前記第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体(602)を貫通して延在している第二流路」との記載(構成要件2-C)があり,「第二流路」が「第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」と「液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス(622)が設けられている出口部分」とを有するものでなければならないことが明らかである。
しかし,「第二流路」の構成要素である「第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」については,本件明細書2(甲6)の発明の詳細な説明中に,具体的な構成を描写した記載がない。また,図19においても,「第一流路」が「第二流路」の「出口部分」を構成すべき「オリフィス622」に直結しており,「第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」は図示されておらず,他にこれを示した図面はない。
(イ)そうすると,本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載した以外の態様のものを含むものであり,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された発明」であるとはいえないから,特許法36条6項1号に適合しない。
(2) 原告の反論ア 無効理由1(新規性の欠如?@)に対し(ア)本件発明2と乙4発明?Aとは,乙4発明?Aが,本件発明2の構成要件2-D及び2-Eを充足する構成を有していない点で相違する。
その理由は,前記3(2)アと同様である。
また,乙4には,本件発明2の構成要件2-D及び2-Eの構成は開示されていない。
(イ)したがって,本件発明2は乙4発明?Aと同一であるとの被告の主張は,理由がない。
イ 無効理由2(新規性の欠如?A)に対し(ア)本件発明2と乙5発明?Aとは,乙5発明?Aが,本件発明2の構成要件2-D及び2-Eを充足する構成を有していない点で相違する。
その理由は,前記3(2)イと同様である。
また,乙5には,本件発明2の構成要件2-D及び2-Eの構成は開示されていない。
(イ)したがって,本件発明2は乙5発明?Aと同一であるとの被告の主張は,理由がない。
ウ 無効理由3(新規性の欠如?B)に対し(ア)本件発明2と乙22発明?Aとは,乙22発明?Aが,本件発明2の構成要件2-D及び2-Eを充足する構成を有していない点で相違する。その理由は,前記3(2)ウと同様である。
(イ)したがって,本件発明2は乙22発明?Aと同一であるとの被告の主張は,理由がない。
エ 無効理由4(新規性の欠如?C)に対し前記ウにおいて,乙23発明?Aと実質的に同一の発明である乙22発明?Aについて述べたところと同様の理由により,本件発明2は乙23記発明?Aと同一であるとの被告の主張は,理由がない。
オ 無効理由5(進歩性の欠如)に対し(ア)前記3(2)オ(ア)によれば,乙34ないし36には,本件発明1の構成要件1-Dの構成と同様に,本件発明2の「液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流す」構成(構成要件2-E)の記載も示唆もない。
そして,前記3(2)オ(ア)と同様の理由により,乙4等記載発明?Aと乙34ないし36を組み合わせる動機が存在せず,また,仮にこれらを組み合わせたとしても,当業者が,本件発明2の「液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流す」構成(構成要件2-D)を容易に想到することができたものとはいえない。
(イ)したがって,本件発明2は進歩性を欠く旨の被告の主張は,理由がない。
カ 無効理由6(明細書の記載要件違反?@)に対し(ア)本件明細書2(甲6)の9欄24行ないし47行,27欄11行ないし20行,28欄47行ないし29欄31行の各記載及び図19,20によれば,当業者において,「第二位置」がいかなる技術的意義を有するものであるかを理解することができ,また,「第二位置」が存在すべき場所がどこであるかも理解することができる。
(イ)したがって,本件明細書2は特許法36条4項,6項2号に適合しないとの被告の主張は理由がない。
キ 無効理由7(明細書の記載要件違反?A)に対し(ア)本件明細書2(甲6)の25欄末行ないし26欄20行の記載及び図19ないし21によれば,「ノズルの上端618」が,「第二流路」の「入口部分」に当たることを容易に理解することができる。
また,「前記ノズル616は,延長オリフィス622を有する円筒形管(チューブ)であり,・・・ノズルの上端618が閉塞端450'の内側底面454'と面一になるように・・・取り付けられ」(26欄10行〜15行)ている結果,延長オリフィス622の上端が「第二流路」の「入口部分」と重なっているが,「第二流路」において「第一流路(608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」が存在しないわけではなく,そのことによって,本件発明2の趣旨が不明確になるものでもない。
(イ)したがって,本件明細書2は特許法36条6項1号に適合しないとの被告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
本件の事案に鑑み,争点3(本件特許権1に基づく権利行使の制限の成否)及び争点4(本件特許権2に基づく権利行使の制限の成否)から判断することとする。
1 争点3(本件特許権1に基づく権利行使の制限の成否)についてまず,被告主張の無効理由5(進歩性の欠如)から判断する。
被告は,本件発明1は,乙4等記載発明?@(乙4,5,22又は乙23に記載された発明)に,甲34ないし36等に開示された周知技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主張する。
そこで,以下においては,乙22に記載された発明に基づいて当業者が本件発明1を容易に想到することができたかどうかについて検討する。
(1) 乙22の記載事項ア乙22(特開平5-264412号公報)には,次のような記載がある。
(ア)「【産業上の利用分野】本発明は,液体(fluid)がノズル放出口を通してノズルから少量,パルス方式でターゲットへ放出される,分析液体のターゲットへの調整供給(proportionedfeeding)装置に関する。」(段落【0001】)(イ)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,前記の不都合を避け,分析液体のために現在まで通常に使用される“ドロップオンデマンド”法のばあいよりも実質的に多い,しかし一方では,希釈器やディスペンサーで現在まで成し遂げられる最少量よりも少ない,厳密に決められた量の,分析液体の特定量を生じ(generate)させうるような,分析液体のターゲットへの供給装置を提供することである。」(段落【0008】)(ウ)「本発明において,閉鎖操作の間,すなわちバルブユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くことによって,液体の放出が阻止されず維持され促進されるように考慮してバルブユニットが組み立てられるならば,分析液体の調整に要求される高精度な調整にとって,本発明が非常に有利であることが見出された。」(段落【0015】)(エ)「図1に示される分析液体の微調整のための装置は,分析液体のための圧力チャンバー1および,ノズル放出口3とノズルプレ-チャンバー4を有しそれを通って分析液体が少量,ターゲット5(簡単に図で示される)へ放出されうるノズル2からなる。分析液体7は圧力チャンバー1中で加圧下に保持される。分析液体は,圧力発生デバイス9により,接続しているブランチ6aを経由して貯蔵容器6から供給される。たとえば,ポンプが圧力発生デバイス9として役立ちうる。しかしながら,外部の圧力源(たとえば圧縮空気)の圧力を隔膜(diaphragm)を経由して,圧力チャンバー1中の分析液体7へと伝達することも可能である。」(段落【0017】)(オ)「圧力チャンバー1とノズル放出口3の間の液圧連結はバルブユニット11により開口および閉鎖されうる。バルブユニット11(図1ではバルブが開口位置にある状態を示し,また以下,単にバルブともいう)は,位置決め素子12によって動かされる閉鎖素子13からなり,バルブユニット11が閉鎖位置にある状態では,前記閉鎖素子13の環状のシーリングリム(sealing rim)15は,同じく環状のシーリングシート(sealing seat)17に板封じ方式で押しつけられている。シーリングリム15に囲まれた領域は閉鎖領域19を意味する。」(段落【0018】)(カ)「ノズル放出口3の方向においてシーリングシート17の前に,ノズルプレ-チャンバー4が配されている。これは,バルブ放出口とバルブ口23(バルブ開口時)を除いてふさがっている。」(段落【0019】)(キ)「閉鎖領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子13が閉鎖する間“液圧加速(hydraulic gearing up)”あるいは“液圧伝動(hydraulic transmission)”を引きおこす,言い換えれば,閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動する。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きによってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持され促進される。」(段落【0021】)(ク)「本発明においてとくに重要な点は,液圧加速にある。インクジェット技術(いわゆる“ジェッティング(jetting) ”)において,要求される液体の放出を確実にするためには,ノズル内での流速が少なくとも1m/sでなければならない。本発明において,液体の流れの正確な中断を達成するためにはバルブの閉鎖する間も同様に高速度が要求されることが見出された。したがって,液圧加速がなければ,閉鎖素子が開口位置から閉鎖位置まで1m/sのオーダーの速度で移動することが必須である。前記高速度にともなう困難な点(バルブのシーリングシートに対するダメージ,位置決め素子に対するダメージ,閉鎖位置からの閉鎖素子のはね返り)は,液圧加速により回避される。最適の流体動力学的条件は,理にかなった構造の経費で達成されうる。」(段落【0022】)(ケ)「ノズルプレ-チャンバー4の壁4aはシーリングシート17からノズル放出口3まで,少なくともある断面において好ましくは円錐形である。液圧加速を確実にするために,閉鎖素子は合致した円錐をさらに備える必要はなく,かわりに,閉鎖領域19は,おおむね(示したように)水平であるか,わずかに内にわん曲しているか,もしくはノズル放出口3の方へわん曲しているならば少なくともノズルプレ-チャンバー4の円錐形の壁4aよりは有意に平らであることが望ましい。相互にかみ合い合致したシーリング面を有する円錐形のシールは,多くの場合シーリングに有利であるとみなされるが,それにもかかわらず,本発明においては目的とする液圧加速のために不都合である。」(段落【0023】)(コ)「液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口23,これはシーリングリム15とシーリングシート17との間の環状のすきまによって形成されるが,その開口横断面(opening cross-section)が閉鎖領域19よりも小さい方が有利である。他方,バルブ口23の開口横断面はノズル放出口3の横断面より大きくなければならない。
それによって,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保証される。」(段落【0024】)(サ)「図3は,閉鎖素子13が磁気的位置決め素子34によって動かされるばあいの具体例を示す。それは,電流の極性(polarity)の機能としての磁気コイル36によって矢印37の方向に上下に動きうる揺動電動子35からなる。磁気的作動は,充分に高い作動頻度,そして同時に比較的長い作動路(1mmの大きさのオーダーの)を可能にする。本発明において,位置決め運動が位置決め路の末端に近づいても速度が落ちず,加速さえされることがとくに有利である。したがって,閉鎖素子の直接的な磁気的作動は,閉鎖運動が本発明のためにとくに好都合なコース(course)を採用することを可能にする。そうして,閉鎖素子13は,バルブ11が閉鎖する間,シーリングリム(図3には示されていない)がシーリングシートに突き当たるまでノズル放出口3の方向に減速されずにあるいは加速さえして動く。この具体例においてもまた,圧力チャンバー1を位置決め素子区画31と分離するために隔壁32が備えられている。」(段落【0030】)(シ)図1として,「本発明」による装置の全体のレイアウトを示す断面図。
イ前記アの各記載及び図1によれば,乙22には,?@分析液体をノズルから少量,パルス状にターゲットへ放出する装置(前記ア(ア)),?A上記装置は,圧力発生デバイス9により加圧された分析液体7が供給され,ノズルプレ-チャンバー4に液圧連結される圧力チャンバー1と,シーリングシート17と,位置決め素子12によって動かされる閉鎖素子13と,圧力チャンバー1に液圧連結されるノズルプレ-チャンバー4と分析液体7を放出するノズル放出口3とを備えたノズル2とを有し(同(ウ)ないし(オ)),シーリングシート17が,圧力チャンバー1がノズルプレ-チャンバー4と液圧連結される位置の近傍に配置されていること(同(カ),図1)が記載されていることが認められる。
加えて,前記ア(オ),(キ)ないし(ケ)の記載によれば,乙22の上記装置において,閉鎖素子13が開口位置から閉鎖位置まで移動する際に,分析液体7が液圧加速によりノズル2から放出されるような速度で閉鎖素子13を移動させること,閉鎖素子13が閉鎖位置に移動してシーリングシート17に押しつけられることで分析液体7の流れを分断していることを把握でき,また,液圧加速とは,閉鎖素子13の移動により,閉鎖素子13前方の分析液体7に圧力が生じ,当該圧力により,閉鎖素子13前方の分析液体7にノズル2方向への流れが生じ,当該流れがノズルプレ-チャンバー4の円錐形状により加速されることを意味するものと理解できる。
ウ(ア)次に,乙22には,前記ア(コ)のとおり,「液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口23,これはシーリングリム15とシーリングシート17との間の環状のすきまによって形成されるが,その開口横断面(opening cross-section) が閉鎖領域19よりも小さい方が有利である。他方,バルブ口23の開口横断面はノズル放出口3の横断面より大きくなければならない。それによって,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保証される。」(段落【0024】)との記載がある。
上記記載及び図1を総合すると,上記記載中の「横断面」とは,分析液体7の流れに直交する面を意味する用語であって,「バルブ口23の開口横断面」は,バルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置にある時のバルブ口23を通る分析液体7の流れに直交する面を,「ノズル放出口3の横断面」は,「ノズル放出口3を通る分析液体7の流れに直交する面」をそれぞれ意味するものと解される。
そして,上記記載中の「バルブ口23の開口横断面はノズル放出口3の横断面より大きくなければならない。それによって,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保証される。」との記載部分から,バルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置にある時のバルブ口23の開口横断面をノズル放出口3の横断面より大きいものとすることによって,バルブ開口時に,分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗が,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さくされていることを把握することができる。
また,上記記載中の「液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口23,これはシーリングリム15とシーリングシート17との間の環状のすきまによって形成されるが,その開口横断面(opening cross-section)が閉鎖領域19よりも小さい方が有利である。」との記載部分は,液圧加速によって,バルブ口23を通る分析液体7の流れと,閉鎖領域19を通る分析液体7の流れとが生じており,バルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置にある時のバルブ口23の開口横断面(バルブ口23を通る分析液体7の流れに直交する面)を閉鎖領域19よりも小さくすることによって,閉鎖素子13の移動によって発生した圧力によって生じる流れのうち多くの部分をノズル側に流すことができること(すなわち「液圧加速が有効」となること)を説明しているものと理解できる。そうすると,当該記載部分から,閉鎖素子13の移動により生じた閉鎖素子13前方の分析液体7の圧力によって,分析液体7がノズル2方向にのみ流れるのではなくて,ノズル2方向への流れとともに,バルブ口23を通る分析液体7の供給側への逆流も生じていることを把握することができる。
(イ)これに対し原告は,乙22記載の装置は,供給源の圧力で液体を分配する装置であって,バルブが開いている時間間隔の制御によって液体の分配量を制御するものであり,バルブが下降する際に逆流が生じる構成のものではない旨主張する。
しかし,前記(ア)で認定のとおり,閉鎖素子13の移動により生じた閉鎖素子13前方の分析液体7の圧力によって,分析液体7がノズル2方向にのみ流れるのではなくて,ノズル2方向への流れとともに,バルブ口23を通る分析液体7の供給側への逆流も生じていることを把握することができるから,原告の上記主張は理由がない。
エ前記アないしウを総合すれば,乙22には,「少量の分析液体7を放出する分析液体放出装置であって,ノズル2のノズルプレ-チャンバー4に液圧連結されるとともに,加圧された分析液体7が供給される圧力チャンバー1と,圧力チャンバー1がノズルプレ-チャンバー4と液圧連結される位置の近傍に配置されるシーリングシート17と,位置決め素子12によって動かされる閉鎖素子13と,圧力チャンバー1に液圧連結されるノズルプレ-チャンバー4と分析液体7を放出するノズル放出口3とを備えたノズル2とを有し,閉鎖素子13は開口位置から閉鎖位置まで常に加速されて移動するものであって,その移動速度は,液圧加速によりノズル2から分析液体7を放出できるようなものであり,閉鎖素子13が開口位置から閉鎖位置まで移動する過程において,圧力チャンバー1内で,ノズル2方向への流れが生じているとともに,分析液体7の供給側への逆流も生じている状態が存在しており,閉鎖素子13が閉鎖位置に移動してシーリングシート17に押しつけられることで分析液体の流れが分断され,分析液体7の流れがノズル放出口3から離れて,分析液体7をパルス状に放出するとともに,バルブ開口時に,分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗が,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さいような構成を有する分析液体放出装置」(以下「乙22記載装置」という。)が記載されていることが認められる。
(2) 乙22記載装置と本件発明1との対比ア乙22記載装置の「分析液体7」は,本件発明1の「液体材料」と液体である点において共通する。
乙22記載装置の「放出する」ことと,本件発明1の「分配する」こととの間に相違は見出せないから,乙22記載装置と本件発明1は,共に「分配装置」であるということができる。
乙22記載装置の「圧力チャンバー1」,「シーリングシート17」,「閉鎖素子13」,「ノズルプレ-チャンバー4」,「ノズル放出口3」,「ノズル2」,「開口位置」,「閉鎖位置」は,本件発明1の「第一流路」,「バルブ座」,「往復動バルブ」,「入口部分を有する第二流路」,「オリフィスを有する出口部分」,「ノズル組立体」,「第一位置」,「第三位置」にそれぞれ相当する。
乙22記載装置の「圧力チャンバー1」,「シーリングシート17」,「閉鎖素子13」とを合わせて「バルブ組立体」と呼ぶかどうかは単なる名称の問題にすぎないから,乙22記載装置は,本件発明1の「バルブ組立体」に相当する構成を有している。
本件発明1の「急速」という速度は具体的な数値により規定される速度ではないところ,前記(1)イ,ウ(ア)のとおり,乙22記載装置の閉鎖素子13も,供給圧力を超える圧力を発生させて,逆流を生じさせるとともに,液体材料の流れを分断させる程度の速度で移動するものであり,本件発明1の「急速」という速度と乙22記載装置の閉鎖素子13の移動速度との間に,実質的な差異は見出せないから,乙22記載装置と本件発明とは,往復動バルブが第一位置から第三位置まで急速に移動可能である点で共通する。
また,乙22記載装置と本件発明1とは,往復動バルブが第一位置から第三位置まで急速に移動する過程で,「第一流路における液体のうちの所定割合を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体の残りを該出口端から該第二流路に流し込」む状態が存在している点,往復動バルブが第三位置に移動してバルブ座に着座することにより第二流路を通しての液体の流れが分断され,オリフィスから分配される液体の流れが第二流路の出口部分から離れる点で共通する。
イそうすると,本件発明1と乙22記載装置との間には,次のような一致点と相違点があることが認められる。
(一致点)乙22記載装置は,構成要件1-Aないし1-Cを備え,往復動バルブは,第一位置からバルブ座に着座する第三位置にまで急速に移動可能であって,その過程で,第一流路における液体のうちの所定割合を第一流路の入口端方向に流す一方,第一流路における液体の残りを出口端から第二流路に流し込み,往復動バルブが第三位置に移動してバルブ座に着座することにより,第二流路を通しての液体の流れが分断され,オリフィスから分配される液体の流れが第二流路の出口部分から離れて少量の液体を分配する液体分配装置である点で,本件発明1と一致する。
(相違点)本件発明1が,「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込」む構成(構成要件1-D)を有するのに対し,乙22記載装置は,往復動バルブが第一位置から第三位置まで移動する過程で,第一流路における液体のうちの「所定割合」を第一流路の入口端方向に流し,液体の残りを出口端から第二流路に流し込む状態が存在してはいるものの,「第二位置」が存在するかどうか,「所定割合」が「大部分」であるかどうか不明である点で相違する。
(3) 容易想到性ア 「第二位置」等の解釈(ア)本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)の記載中には,「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,」(構成要件1-D),「該往復動バルブは,該第二位置から該バルブ座に着座する第三位置まで急速に移動可能であって,これにより該第二流路を通しての液体材料の流れが分断され,該オリフィスから分配される液体材料の流れが該第二流路の該出口部分から離れて液体材料の小滴を形成する」(構成要件1-E)との記載部分がある。
上記記載部分のうち,「第二位置」,液体材料の「大部分」の用語について,請求項5において規定した記載はない。また,本件明細書1(甲4)中にも,これらの用語を定義した記載はない。
しかるに,「大部分」とは,一般に,「半分より多くの部分」(広辞苑第六版1695頁)を意味することに照らすならば,本件発明1の「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,」(構成要件1-D)とは,往復動バルブの移動方向前方より押し出される液体材料(以下,当該液体材料の流量を「全流量」という。)のうち,半分より多くの部分が第一流路の入口端方向に流れ(以下,当該第一流路の入口端方向に流れる液体材料の流量を「逆流量」という。),残りの部分が第二流路方向に流れる(以下,当該第二流路方向に流れる液体材料の流量を「オリフィス側流量」という。)状態が,往復動バルブが第一位置から第二位置に移動するまでの間,継続することを意味し,「第二位置」とは,往復動バルブが第一位置からバルブ座に向かって移動する過程で,逆流量が全流量の半分より多い状態にある位置を意味するものと解される。
(イ)これに対し原告は,「第二位置」の技術的意義は,本件明細書1の記載(段落【0021】,【0054】,【0056】,【0058】,図19,20等)から,往復動バルブが「第一位置」から「第三位置」まで移動する間に,入口方向に逆流する流れが急激に減少し,同時に,出口方向に向かう流れが増加する位置である旨(前記第3の1(1)イ(イ)a)主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲(請求項5)においては,「液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込み,」とあるとおり,逆流量とオリフィス側流量の流量について「大部分」か「いくらか」と規定しているが,逆流量及びオリフィス側流量が増加又は減少することについての記載はなく,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって採用することはできない。もっとも,原告主張の入口方向に逆流する流れが急激に減少し,同時に,出口方向に向かう流れが増加する位置が,逆流量が全流量の半分より多い状態にあれば,当該位置は「第二位置」に該当するものといえる。
(ウ)そこで,乙22記載装置において,往復動バルブが第一位置から第三位置まで移動する過程で,逆流量が全流量の半分より多い状態にある「第二位置」が存在するかどうかについて検討する。
乙22には,「本発明において,閉鎖操作の間,すなわちバルブユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くことによって,液体の放出が阻止されず維持され促進されるように考慮してバルブユニットが組み立てられるならば,分析液体の調整に要求される高精度な調整にとって,本発明が非常に有利であることが見出された。」(段落【0015】。前記(1)ア(ウ))との記載がある。この記載及び図1からは,閉鎖素子13の閉鎖操作の間,すなわち,閉鎖素子13が開口位置から閉鎖位置方向へと動くことによって分析液体7の放出が阻止されず維持され促進されることが理解されるが,一方で,段落【0012】に「中の分析液体が(たとえば0.1から5barの)永続的な圧力を受けている圧力チャンバー」との記載があり,「圧力チャンバー1」内における分析液体7の供給圧力(0.1から5bar)は決して高いものではないことをも考慮すると,乙22記載装置において,閉鎖素子13が開口位置(第一位置)にある時に,供給圧力により,分析液体7がノズル放出口3から放出されるか否かは,必ずしも明らかとはいえない。
しかし,原告が主張するように(前記第3の3(2)ウ(ア)),閉鎖素子13が開口位置にある時に,分析液体7がノズル放出口3から放出されるものと考えると,乙22記載装置は,分析液体7の供給圧力と閉鎖素子13の前進によって生じる圧力の双方が作用して液体を分配するものと認められる。この場合には,乙22記載装置において,バルブ間口時に,分析液体7がバルブ口23を通る際の液体抵抗が,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さいという構成を有していても,必ずしも,往復動バルブが第一位置から第三位置まで移動する過程で逆流量が全流量の半分より大きくなるとは限らず,乙22記載装置が相違点に係る本件発明1の構成を備えているものとは直ちにはいえない。
この点に関し,被告は,供給圧力を,バルブシャフトが「第一位置」にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定することは,本件出願1の優先権主張日当時,周知(例えば,乙34,36)であった旨主張するので,この点について更に進んで検討する。
イ 乙36の記載事項(ア)乙36(米国特許第5205439号明細書)には,?@「本発明は,少量の粘性物質,例えば接着剤や半田ペーストなど,を印刷回路基板上に供給し,電子部品の面実装を行う装置に関する。」(訳文・1頁26行〜27行),?A「本発明によるディスペンサは,供給容器の充填高さや環境の温度あるいはその他のパラメータと独立に,一定の時間間隔で正確な量の粘性物質を放出可能である。」(訳文・3頁17行〜19行),?B「粘性物質は圧縮空気によってノズルから押し出され印刷回路基板上に塗布されるのではない。つまりそうではなくて,プランジャとして作用するバルブニードルがその前方に存在する一定量の粘性物質をノズルに向かって押すことで,排除量におおよそ等しい量の粘性物質が吐出される。従って,粘性物質の分配量は,粘性物質に作用する圧力及びその粘性に依存しない。本発明によれば,ディスペンサ内の粘性物質に作用する圧力は,バルブニードルが上昇位置にあるとき,粘性物質がノズルから流出しないように選定される。」(訳文・4頁8行〜14行)との記載がある。
(イ)上記記載によれば,乙36には,ディスペンサという技術分野において,供給容器の充填高さ(すなわち,粘性物質に作用させる圧力の変動)等に依存せずに正確な分配量の粘性物質を放出するために,粘性物質に作用させる圧力を,バルブニードルが上昇位置にあるときに粘性物質がノズルから流出しないような値に設定する技術思想が開示されているものと認められる。
そうすると,供給圧力を,バルブシャフトが開口位置(第一位置)にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定することは,本件出願1の優先権主張日当時,被告が主張するように周知であったかどうかはともかく,乙36から,少なくとも公知であったことが認められる。
ウ 相違点に係る構成の容易想到性(ア)乙22には,「本発明は,液体(fluid)がノズル放出口を通してノズルから少量・・・放出される,分析液体のターゲットへの調整供給(proportionedfeeding)装置に関する。」(段落【0001】。前記(1)ア(ア)),「本発明の目的は,・・・希釈器やディスペンサーで現在まで成し遂げられる最少量よりも少ない,厳密に決められた量の,分析液体の特定量を生じ(generate)させうるような,分析液体のターゲットへの供給装置を提供することである。」(段落【0008】。前記(1)ア(イ))との記載がある。上記記載によれば,「本発明」は,液体(fluid)をノズルから少量調整供給する装置の技術分野において,「厳密に決められた量」の分析液体を供給するという課題の解決を目的とするものと認められる。
一方,乙36には,「本発明は,少量の粘性物質,例えば接着剤や半田ペーストなど,を印刷回路基板上に供給し,電子部品の面実装を行う装置に関する。」(前記イ(ア)?@),「本発明によるディスペンサは・・・一定の時間間隔で正確な量の粘性物質を放出可能である。」(前記イ(ア)?A)との記載があることに照らすならば,乙36は,乙22と同様の技術分野に属し,かつ,「正確な量」(乙22の「厳密に決められた量」に相当)の分析液体を供給するという課題の解決を目的とする点で共通するものと認められる。
また,そもそも,逆流量の「所定割合」を,全流量の半分を超えた量(「大部分」)とするのか,それ以外の量とするのかは,液体の分配量をどの程度の量とするのかに応じて当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないものである。
(イ)そうすると,乙22及び乙36に接した当業者であれば,乙22記載装置において,正確な量の分析液体の供給を図るため,乙36記載の「供給圧力を,バルブシャフトが開口位置にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定する」という技術を適用して,分析液体7の供給圧力を,閉鎖素子13が開口位置(第一位置)にあるとき,分析液体7がノズル2から流出しない程度の値に設定することは,容易に想到することができたものと認められる。
そして,乙22記載装置において,閉鎖素子13が開口位置(第一位置)にあるときは,分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗が,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さいから(前記1(1)ウ(ア)),分析液体7の供給圧力をノズル2から分析液体7が流出しない程度の値に設定した場合には,閉鎖素子13が第一位置から第三位置まで移動する過程で,逆流量が全流量の半分を超え,オリフィス側流量が残りの部分を占めた状態が閉鎖素子13の加速開始から所定区間継続するものと認められるから(乙38,43),乙22記載装置には,「第二位置」が存在し,相違点に係る本件発明1の構成(「該往復動バルブは,第一位置から該バルブ座の側に近い第二位置にまで急速に移動可能であって,これにより該第一流路における液体材料の大部分を該第一流路の該入り口端方向に流す一方,該第一流路における液体材料のいくらかを該出口端から該第二流路に流し込」む構成)を備えるものと解される。
(ウ)これに対し原告は,乙36は,バルブニードルが押しのけた容積とほぼ等しい量の液体を吐出すること,バルブニードルがバルブ当たり面に当接することを開示しているものの,乙36の「粘性物質に作用する圧力は,ノズル部24の底部にある粘性物質を流出させるのに充分なものとし,バルブニードル30とバルブ当たり面32が粘性物質の通過を開始及び停止させる単なるドロップシャッタとして作用するようにしてもよい。」(訳文・6頁22行〜27行)との記載からも明らかなとおり,乙36に主たる実施態様として記載されているバルブニードルの作用と,乙22の装置におけるオン-オフ・バルブ(液体供給源の圧力によって液体が流出するような条件の下で,バルブがバルブ座に当接して流路を閉鎖することによって液体の流出を止めるという構成)とは択一的なものであるから,乙22に乙36を組み合わせる動機が存在しない旨主張する。
しかし,乙36に記載された装置においては,バルブニードルの排除量におおよそ等しい量の粘性物質が吐出するよう構成されていること,すなわち,ほぼ逆流が生じないように構成され,一方,乙22記載装置においては,逆流が生じる構成であるものの,?@前記(ア)のとおり,乙22と乙36とは技術分野及び課題が共通すること,?A分析液体7の供給圧力を,閉鎖素子13が開口位置にあるときに分析液体7がノズル2から流出しないような値に設定することで,少なくとも,供給圧力の変動等による供給量の変動を減少させることができることに照らすならば,乙22記載装置に乙36記載の技術(「供給圧力を,バルブシャフトが開口位置にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定する」という技術)を適用することの動機付けないし契機が存在するというべきである。
しだがって,原告の上記主張は理由がない。
(エ)以上によれば,当業者であれば,乙22記載装置において,乙36記載の公知技術(前記イ(イ))を適用して,相違点に係る本件発明1の構成を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
(4) まとめ以上のとおり,本件発明1は,当業者が乙22記載装置と乙36記載の公知技術に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件発明1は進歩性を欠くものであり,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。
したがって,原告は,同法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件特許権1を行使することができない。
2 争点4(本件特許権2に基づく権利行使の制限の成否)についてまず,被告主張の無効理由5(進歩性の欠如)から判断する。
被告は,本件発明2は,乙4等記載発明?A(乙4,5,22又は乙23に記載された方法の発明)に,甲34ないし36等に開示された周知技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある旨主張する。
そこで,以下においては,乙22に記載された方法の発明に基づいて当業者が本件発明2を容易に想到することができたかどうかについて検討する。
(1) 乙22の記載事項前記1(1)の認定事実を総合すれば,乙22には,「少量の分析液体7を放出する方法であって,圧力チャンバー1がノズルプレ-チャンバー4と液圧連結される位置の近傍に配置されたシーリングシート17と,圧力チャンバー1の中に配置された閉鎖素子13とを有し,側壁,上壁,及び,ノズルプレ-チャンバー4とノズル放出口3とを備えた下方部材により形成されている筐体を貫通して延在している圧力チャンバー1のブランチ6aと接続する部分に分析液体7を供給し,圧力チャンバー1に液圧連結されるノズルプレ-チャンバー4と,分析液体7を放出する細長いノズル部材を貫通して延在しているオリフィス状の小径の流路が設けられているノズル放出口3とを有し,ノズル2を貫通して延在している流路を,閉鎖素子13がシーリングシート17から離れた開口位置にあるときに分析液体7で満たし,閉鎖素子13を開口位置からシーリングシート17と係合して着座する閉鎖位置まで加速して移動させ,その過程において,圧力チャンバー1内で,ノズル2方向への流れが生じているとともに,分析液体7の供給側への逆流も生じている状態が存在しており,閉鎖素子13が閉鎖位置に移動して,閉鎖素子13をシーリングシート17に対して急速に閉鎖することで,ノズル2を貫通して延在している流路を通過する分析液体7の流れを止め,ノズル放出口3から放出されている分析液体7の流れをノズル放出口3で分断して,パルス状に放出する方法。」(以下「乙22記載方法」という。)が記載されていることが認められる。
(2) 乙22記載方法と本件発明2との対比ア乙22記載方法の「分析液体7」は,本件発明2の「液体材料」と液体である点において共通する。
乙22記載方法の「放出する」ことと,本件発明2の「分配する」こととの間に相違は見出せないから,乙22記載方法と本件発明2は,共に「分配する方法」であるということができる。
乙22記載方法の「圧力チャンバー1」,「シーリングシート17」,「閉鎖素子13」,「側壁,上壁,及び,ノズルプレ-チャンバー4とノズル放出口3とを備えた下方部材により形成されている筐体」,「ノズルプレ-チャンバー4」,「ノズル放出口3」,「ノズル2」,「開口位置」,「閉鎖位置」は,本件発明2の「第一流路」,「バルブ座」,「往復動バルブ」,「バルブ組立体」,「第一流路の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分」,「前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィスが設けられている出口部分」,「ノズル組立体」,「第一位置」,「第三位置」にそれぞれ相当する。
乙22記載方法と本件発明2とは,往復動バルブが第一位置から第三位置まで移動する過程で,「第一流路にある液体の所定割合を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体を前記出口端部から前記第二流路内へ流」す状態が存在している点,往復動バルブが第三位置に移動してバルブ座に急速に着座することにより第二流路を通過する液体の流れを止め,ノズルの出口から分配されている液体の流れをノズルの出口で分断する点で共通する。
イそうすると,本件発明2と乙22記載方法との間には,次のような一致点と相違点があることが認められる。
(一致点)乙22記載方法は,構成要件2-Aないし2-C,2-Fを備え,バルブ(往復動バルブ)がバルブ座から離れた第一位置にあるときに第二流路を液体で満たし,前記バルブを,第一位置からバルブ座と係合して着座する第三位置に向かって加速して移動させ,その過程において,第一流路にある液体のうちの所定割合を第一流路の入口端部に向けて流すとともに,第一流路内の残りの液体を出口端部から第二流路内へ流してノズルの出口から液体の流れとして分配させる点で,本件発明2と一致する。
(相違点1)本件発明2が,「前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座(612)へより近づいた第二位置まで,加速し,それによって,前記第一流路(608)にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流」す構成(構成要件2-D)を有するのに対し,乙22記載方法は,往復動バルブが第一位置から第三位置まで移動する過程で,第一流路における液体のうちの「所定割合」を第一流路の入口端部に向けて流し,液体の残りを出口端部から第二流路内へ流す状態が存在してはいるものの,「第二位置」が存在するかどうか,「所定割合」が「大部分」かどうか不明である点で相違する。
(相違点2)本件発明2が,「前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座(612)と係合して着座する第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路(608)の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ」る構成(構成要件2-E)を有するのに対し,乙22記載方法では,バルブが第二位置から第三位置に向かって移動する間,第一流路の入口端部に向かう液体の流れを減少させ,第二流路を通過する液体の流れを増加させるような第二位置が存在するのかどうか不明である点で相違する。
(3) 容易想到性ア 相違点1に係る構成の容易想到性前記1(3)で説示したところと同様の理由により,当業者であれば,乙22記載方法において,乙36記載の技術(「供給圧力を,バルブシャフトが開口位置にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定する」という技術)を適用して,相違点1に係る本件発明2の構成を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
イ 相違点2に係る構成の容易想到性(ア)まず,本件発明2における「第二位置」の意義について検討する。
本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明2における「第二位置」は,第一位置からこの位置に至るまでの間,「第一流路にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流」すもの(構成要件2-D)であるとともに,この位置から第三位置に至るまでの間,「第一流路の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ」るもの(構成要件2-E)である。
そして,前記1(3)ア(ア)と同様の理由により,構成要件2-Dの「第一流路にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流」すとは,逆流量が全流量の半分を超えており,オリフィス側流量が残りの部分を占めていることを意味するものと解される。また,構成要件2-Eの「第一流路の入口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増加させ」るとは,逆流量が減少し,オリフィス側流量が増加することを意味するものと解される。
そうすると,本件発明2における「第二位置」とは,第一位置から当該位置に至るまで逆流量が全流量の半分を超えた状態が維持されているとともに,当該位置から第三位置に至るまで逆流量が減少し,オリフィス側流量が増加する状態が維持されるという条件を満たす位置を意味するものと解される。
(イ)前記1(3)ウ(ア),(イ)のとおり,当業者であれば,乙22記載方法において,乙36記載の技術(「供給圧力を,バルブシャフトが開口位置にあるとき,液体がノズルから流出しない程度の圧力に設定する」という技術)を適用して,分析液体7の供給圧力をノズル2から分析液体7が流出しないような値に変更し,閉鎖素子13の前進によって生じる圧力のみによって分析液体7を分配させるような構成を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
加えて,乙22の段落【0030】(前記1(1)ア(サ))の「本発明において,位置決め運動が位置決め路の末端に近づいても速度が落ちず,加速さえされることがとくに有利である。」との記載から,閉鎖素子が運動している間常に加速することが有利であることを把握できること,加速運動としては等加速度運動とすることが技術的に最も容易な駆動方法であることに照らすならば,乙22記載方法において,閉鎖素子13を等加速度運動させることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。そして,乙22記載方法は,バルブ開口時に,分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗が,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗よりも小さいから(前記1(1)ウ(ア)),分析液体7の供給圧力をノズル2から分析液体7が流出しないような値に設定した上で,閉鎖素子13を等加速度運動させた場合には,バルブが第一位置から第三位置に向けて移動するに伴って,ある時点までは,逆流量がなだらかに増加し,当該時点以降は,逆流量が急激に減少するものであり,また,全流量に占める逆流量の割合はなだらかに減少するものと認められる。
そして,バルブ開口時すなわち閉鎖素子13が開口位置にある時の分析液体7がバルブ口23を通る際の流体抵抗(逆流方向の流体抵抗)を,ノズル放出口3を通る際の流体抵抗(オリフィス方向の流体抵抗)よりも,どの程度小さい値に設計するかについては,分析液体7の分配量,その用途等に応じて当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないものと認められる。また,上記時点において,逆流量が全流量の半分を超えるような流体抵抗の値を選択することも,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないものと認められる。
(ウ)以上によれば,当業者であれば,乙22記載方法において,乙36記載の公知技術(前記(イ))を適用して,往復動バルブ(閉鎖素子13)が第二位置から第三位置まで移動する間,第一流路の入口端部に向かう液体の流れを減少させるとともに,第二流路を通過させる液体の流れを増加させる構成(相違点2に係る本件発明2の構成)を採用することを容易に想到することができたものと認められる。
(4) まとめ以上のとおり,本件発明2は,当業者が乙22記載方法と乙36記載の公知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件発明2は進歩性を欠くものであり,本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。
したがって,原告は,同法104条の3第1項の規定により,被告に対し,本件特許権2を行使することができない。
3 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研