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事件 |
平成
20年
(ワ)
5826号
不正競争行為差止等請求事件
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神奈川県鎌倉市<以下略> 原告有限会社p−collection 訴訟代理人弁護 士廣澤幹久 同 佐藤勝 同 太田美和 同 岡田耕次郎 同 川口昭彦 横浜市<以下略> 被告有 限会社横浜観光商会 訴訟代理人弁護 士影山光太郎 同 石橋武征 同 小川基幸 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2009/03/27 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1被告は,別紙被告商品目録1ないし5記載の各商品を譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。 2 被告は,前項の各商品を廃棄せよ。 |
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事案の概要
1 事案の要旨本件は,原告が,別紙被告商品目録1ないし5記載の各商品(以下「被告商品」と総称する。)を販売する被告に対し,被告商品は,原告がタイの民族人形を参考にして独自に開発した別紙原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という。)の形態を模倣した商品であり,被告による被告商品の販売等は不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当する旨主張して,同法3条1項に基づく被告商品の譲渡等の差止め及び同条2項に基づく被告商品の廃棄を求めた事案である。 2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1)ア原告は,衣料品,日用雑貨,玩具,観光土産物等の企画,輸出入,販売等を業とする会社である。 イ被告は,趣味の人形,玩具その他土産品の製造販売等を業とする会社である。 (2)原告は,遅くとも平成19年6月当時には,被告に対し,原告商品(商品名・「もっこりBOMBER」)を販売し,被告は,これを他に転売していた。 原告商品の形態には,別紙原告商品目録記載の写真のとおり,?@頭部にラメ入りボンボンが複数取り付けられていること,?A目がボタン状であること,?B厚い唇(いわゆる「たらこ唇」),?C股間部分にラメ入りボンボンが1個取り付けられていることなどの特徴がある。 (3)被告は,平成20年2月当時から,被告商品(商品名・「もっこりトゥカター」)を販売している。 被告商品の形態は,別紙被告商品目録1ないし5記載の各写真のとおりである。 (4)原告は,平成20年2月14日到達の内容証明郵便で,被告に対し,被告商品は原告商品と類似名称の類似商品であって,被告商品の販売は不正競争防止法に違反することを理由に,「もっこりトゥカター」の商品名の使用及び被告商品の販売の中止を求める旨の通知をした(甲5の1,2)。 3 争点本件の争点は,被告による被告商品の販売が不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当するかどうかであり,具体的には,原告商品が被告にとって「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するかどうか(争点1),被告商品が原告商品の形態を「模倣」(同条5項)した商品に該当するかどうか(争点2)である。 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(「他人の商品」の該当性の有無)について(1) 原告の主張ア 原告商品の開発の経緯原告商品は,原告がタイの民族人形を参考にして独自に開発し,「もっこりBOMBER」の名称を付したものである。原告商品の開発の経緯は,以下のとおりである。 (ア)a原告は,平成18年8月ころから,タイの民族人形の輸入,販売を行っている。原告は,その中で,直径約5?oの複数のボンボンを取り付けた頭部(アフロヘア),ボタンをモチーフにした目,たらこ唇の各特徴を有する,大きさ約6?pのタイの民族人形をタイの業者から輸入し,これを「ハッピーラッキーボンバー」の商品名で販売していた。 原告代表者は,平成19年3月ころ,ハッピーラッキーボンバーの頭部に取り付けられていたボンボンが直径約5?oであったのを,他のタイの民族人形に使用されている直径約1?pのラメ入りボンボンに付け替えることを考え,タイの業者に対し,ハッピーラッキーボンバーの頭部に1?pのラメ入りボンボンを取り付けた商品を,原告代表者がタイへ渡航する予定であった同年4月下旬ころまでに制作するよう指示をした。 原告代表者は,同月21日,タイへ渡航し,タイの業者から,頭部に1?pのラメ入りボンボンを取り付けた人形(新商品)を受け取り,これを日本へ発送した上,同月25日に帰国した。 その後,原告は,上記新商品を自社の店舗等で販売していた。 b原告代表者は,平成19年4月27日,ハッピーラッキーボンバーを見ていた際,男の子をイメージして股間部分に頭部と同様のボンボンを取り付けることを思い付き,原告店舗内において,サンプル品から頭部のボンボンを一つ取り外し,これをボンドで同サンプル品の股間部分に取り付けた試作品を制作した。原告代表者は,上記試作品を見た際,新商品として展開できると直感し,上記試作品を基に独自の新商品を制作することを決めた。 なお,原告代表者は,当時,売れ行きが好調であった他社商品「まりもっこり」の存在を認識していたが,新商品は「まりもっこり」とは形態が全く異なる別個の商品として売り出すことができるものと考えていた。 原告代表者は,同日,股間部分にボンボンを取り付けたハッピーラッキーボンバーの写真を撮影し,当時取引のあった被告の担当者であるA(以下「A」という。)に対し,上記写真を添付した「もっこりボンバーです。」との文面のEメールを送信したところ,Aから,50体の販売依頼を受けた。そこで,原告は,ハッピーラッキーボンバーを基に,股間部分にボンボンを取り付けた新商品50体を制作し,被告にこれらを販売した。 原告は,同年5月から6月ころ,ハッピーラッキーボンバーを基に,股間部分にボンボンを取り付けた上記新商品と,頭部に1?pのラメ入りボンボンを取り付けた新商品(前記a)の特徴を併せ持った原告商品を制作し,原告商品の形態を完成させた。 cそして,原告がタイの民族人形を基に開発した原告商品の特有の形態は,主として,股間部分に頭部と同様のボンボンが取り付けられた点,頭部のボンボンが直径約1?pのラメ入りボンボンである点にあるところ,上記形態を発案したのは,前記a及びbのとおり,いずれも原告代表者である。 (イ)原告代表者は,原告商品を他者に盗用されないように保護するため,原告商品の名称を「もっこりBOMBER」と確定し,商標登録を受けることを考え,平成19年5月ころから,商標登録出願の準備を進めた。原告代表者は,その準備の傍ら,被告担当者のA及びB(以下「B」という。)らに対しても,「もっこりBOMBER」を商標登録する予定であることを告げ,A及びBらから,賛同を得ていた。 原告は,同年7月30日,指定商品を第9類「携帯電話用ストラップ」とし,「もっこりボンバー」の横書きの文字と「もっこりBOMBER」の横書きの文字の上下2段から成る商標(甲16)の登録出願をし,平成20年3月14日,その商標権の設定登録を受けた。 (ウ)被告は,後記のとおり,原告商品の形態及び名称を発案したのは,原告代表者ではなく,被告担当者のAであり,原告商品は原告が開発した商品ではない旨主張する。 しかし,?@被告が作成した原告商品用の台紙(甲12)には,「企画p-collection」と明記され,被告自らが原告商品の開発主体が原告であることを表記していること,?A上記台紙には「もっこりBOMBER イ まとめ以上によれば,原告商品は,原告が独自に開発した商品であり,被告にとって不正競争防止法2条1項3号所定の「他人の商品」に該当することは明らかである。 (2) 被告の反論ア原告商品は,被告従業員のAが,?@タイで以前から製造・販売され,日本でも別の業者が先行して輸入・販売していた民族人形と,?A平成18年末ころから北海道から全国へ流行しつつあった商品「まりもっこり」の二つの先行商品の形態を参考にして開発したものであり,原告は,単に被告からの指示をタイの業者に伝えて原告商品を制作させ,輸入していたにすぎない。 すなわち,Aは,平成19年3月ころ,富士急ハイランドで土産店を経営している得意先から,タイの民族人形の中でも,頭にカラフルなボンボンの付いた,ボタン状の目,たらこ唇を特徴とする民族人形が特に売れているとの情報を聞きつけ,当該民族人形をタイから輸入して扱っている原告のところに商談に行き,これを売り出すに際し,当時売れ始めていた商品「まりもっこり」の股間部分を強調するというアイデアをも取り入れ,当該民族人形を原型にアレンジを加えた商品として,原告商品を開発した。また,「もっこりボンバー(BOMBER)」という名称を考え付いたのも,Aである。 イ以上のとおり,原告商品を開発したのは原告ではなく,被告従業員のAであるから,原告商品は,被告にとって不正競争防止法2条1項3号所定の「他人の商品」に該当しない。 2 争点2(原告商品の形態の「模倣」の有無)について(1) 原告の主張ア 模倣行為(ア)原告は,従来からタイにおいて製造・販売され,日本国内の業者も輸入していたタイの民族人形(原告が販売する同人形の商品名「ハッピーラッキーボンバー」)を基に原告商品を開発した。 前記1(1)ア(ア)cのとおり,タイの民族人形と相違する原告商品の特有の形態は,主として,?@股間部分に頭部と同様のボンボンが取り付けられた点,?A頭部のボンボンが直径約1?pのラメ入りボンボンである点にある。 ?@の点は,「もっこり」という名称とも相まって,原告商品において,他の多くの民族人形にはない斬新な形態的特徴を生み出した。 ?Aの点は,頭部のボンボンの大きさをハッピーラッキーボンバーの直径約5?oから直径約1?pに変更することで,アフロヘアが約2倍の大きさとなり,また,ボンボンをラメ入りとしたことで,原告商品とタイの民族人形との差別化が図られた。 そして,原告商品は,ハッピーラッキーボンバー等のタイの民族人形と比べて圧倒的に売れ行きが好調であり,多くの業者及び消費者の注目を集めた。 上記各事実は,原告商品が,その形態から,他の民族人形とは別個の商品として広く認識・評価されたことを示すものであり,原告商品が独自の形態的特徴を有していることの証左である。 このように,原告商品は,タイの民族人形を基礎とはするものの,独自の特徴を付加して制作された独自の商品であり,他の民族人形と比べて特別に売れ行きも好調であったことからしても,原告商品の形態は,他の商品とは異なるものとして,法的に保護されるべきものである。 (イ)被告商品は,股間部分に頭部と同様のボンボンが取り付けられ,かつ,頭部に直径約1?pのラメ入りボンボンが取り付けられており,原告商品の特有の形態(前記(ア)?@,?A)をそのまま利用している。 そして,別紙原告商品目録記載の写真と別紙被告商品目録1ないし5記載の各写真を対比すれば明らかなとおり,被告商品は,原告商品と酷似し,実質的に同一の形態の商品である。 加えて,被告は,原告代表者による原告商品の形態の発案,最終的な形態の確定,商標登録出願,派生品の制作に至るまで,原告商品の開発,販売経緯について熟知していたから,原告商品の形態に依拠して,被告商品を制作したものである。 イ まとめ以上によれば,被告商品は,原告商品の形態を「模倣」(不正競争防止法2条5項)した商品に該当することは明らかである。 (2) 被告の反論ア被告商品は,?@「大根」のような付属品が付いていること(別紙被告商品目録1参照),?A原告商品に比べて手足が短いこと,?B頭部や股間部分のボンボンが原告商品のものより小さいこと,?C原告商品の股間部分のボンボンはラメ入りであるのに対し,被告商品の股間部分のボンボンにはラメが入っていないこと,?D原告商品は,たらこ唇部分が分厚く,その分ボタン状の目が顔の中央より上に付いているのに対し,被告商品のたらこ唇部分は薄く,その分ボタン状の目が顔の中央付近に取り付けられていることなど,被告商品と原告商品との間には多くの相違点があり,原告商品と被告商品は類似していないから,被告商品は,原告商品の形態を模倣した商品とはいえない。 もっとも,原告商品と被告商品は,頭部のカラフルなボンボン,ボタンを用いた目,たらこ唇などに類似する点があるが,これは,以前からタイで製造・販売され,日本でも別の業者によって先行して輸入・販売されていた民族人形(乙3の「カミナリ君」,乙20の「ハッピードールボンボンヘアー」等)を原形として双方とも制作されたことによるものであり,被告商品が原告商品に依拠して制作されたからではない。 イ以上のとおり,被告商品は,原告商品の形態を「模倣」した商品に該当しない。 |
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当裁判所の判断
1 前提事実前記争いのない事実等と証拠(甲1ないし7,13,15ないし18,乙1ないし5,7ないし9,12ないし14,19ないし23,検甲1,2,検乙2,3(以上,枝番のあるものは枝番を含む。),証人A,証人B,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1)原告は,平成18年8月ころから,多種類のタイの民族人形を輸入し,日本国内で販売するようになった。 (2)被告の従業員で観光土産の営業を担当していたAは,平成19年3月ころ,得意先である有限会社カワイコーポレーションの経営者から,カラフルな複数のボンボンを取り付けた頭部,ボタン状の目,たらこ唇の各形態的特徴を有するタイの民族人形(お守り人形)が土産物店で特に売れているとの情報に接した。そこで,Aは,上記情報に接した後,被告との間でタイの物産品の取引歴があった原告の店舗に赴き,原告代表者に商談を持ち込んだ。 その当時,原告は,タイの業者から上記形態的特徴を有するタイの民族人形を輸入し,これを「ハッピーラッキーボンバー」の商品名で販売していた。 一方,株式会社ライスフィールド(以下「ライスフィールド社」という。)などの他社においても,上記形態的特徴を有するタイの民族人形(検乙3の1,乙1)を取り扱っていた。また,同年4月24日ころには,ライスフィールド社が,頭部のボンボンをラメ入りのものとしたタイの民族人形を「ハッピードールBIGボンボンヘアー」の商品名(乙20)で販売していた。 (3)原告代表者は,平成19年4月21日,タイへ渡航し,同月25日,帰国した。 (4)原告代表者は,平成19年4月27日午後8時14分ころ,ハッピーラッキーボンバーの頭部に取り付けられていたボンボンの一つをハッピーラッキーボンバーの股間部分に取り付けた人形のサンプルを携帯電話のカメラ機能で写真撮影し,そのころ,その写真(甲6)をEメールに添付してAに送信した。 (5)ア原告は,平成19年4月28日,前記(4)のサンプルと同種の商品を50体制作した。 イ被告は,平成19年4月29日,「ギャラリー雅」(以下「雅」という。)に対し,原告から仕入れた前記アの商品50体を「もっこりボンバー」の名称(乙12)で納品した。 上記商品は,ハッピーラッキーボンバーの頭部に取り付けられていたボンボンの一つをハッピーラッキーボンバーの股間部分に取り付けた人形であったが,ボンボンはラメ入りのものではなかった。 ウその後,被告は,原告から仕入れた「もっこりボンバー」の名称の商品を,株式会社A&Mサンワに対し,平成19年5月31日ころ1000体,同年6月20日ころ4000体,同月22日ころ1000体を販売するなど,原告と被告との上記商品の取引が拡大していった。 「もっこりボンバー」の名称の商品は,同年6月ころには,ボンボンがラメ入りのものとなり,原告商品の形態(別紙原告商品目録記載の写真)のものとなった。 エAは,平成19年6月ころないし7月ころ,原告商品に観光地の特徴を表す付属品を持たせるなどした地域限定商品(いわゆる「ご当地物」)を売り出す話を原告代表者に持ちかけたが,原告代表者は,乗り気ではなく,結局,「ご当地物」は原告によって商品化されるに至らなかった。 オ原告は,平成19年7月ころから,原告商品にメロンなどの果物等を持たせるなどした各種の派生商品を考案し,また,原告商品を「もっこりー」(男の子・8歳)と名付け,同種の人形の股間部分にスカートを,胸部分に2個のボンボンを取り付けた派生商品を「ぷりりん」(女の子・10歳)と名付けて,「もっこりBOMBER&family」(甲13)としてホームページを作成し宣伝するなどして,商品展開をした。 (6)原告は,平成19年7月30日,指定商品を第9類「携帯電話用ストラップ」とし,「もっこりボンバー」の横書きの文字と「もっこりBOMBER」の横書きの文字の上下2段から成る商標(甲16)の登録出願をした。その後,原告は,平成20年3月14日,上記商標の商標権の設定登録を受けた。 (7)ア原告は,平成20年1月4日,被告の依頼を受けて,同年2月に開催される「第65回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2008」に被告が出品するための原告商品及びその派生商品のサンプルを被告に納品した。 イ原告と被告は,平成20年2月5日から同月8日にかけて,東京ビッグサイトで開催された前記アの「ギフト・ショー」にそれぞれ出店した。 被告は,原告商品及びその派生商品のサンプルを展示するとともに,観光地の名産品等を付属品とする「ご当地物」として制作した被告商品等のサンプルを「もっこりトゥカター」の名称で展示した。被告商品は,被告が原告とは別の業者に発注して制作させたものであった。 原告代表者は,同月6日,被告の出店に立ち寄った際に,被告が被告商品を展示していることに気付いた。 (8)ア原告は,平成20年2月14日到達の内容証明郵便で,被告に対し,被告商品は原告商品と類似名称の類似商品であって,被告商品の販売は不正競争防止法に違反することを理由に,「もっこりトゥカター」の商品名の使用及び被告商品の販売の中止を求める旨の通知をした。 イ 原告は,平成20年3月5日,本件訴訟を提起した。 2 争点1(「他人の商品」の該当性の有無)について(1)原告は,原告商品は,原告代表者の発案により,タイの民族人形を基に原告が開発した商品であり,原告商品の特有の形態は,主として,股間部分に頭部と同様のボンボンが取り付けられた点,頭部のボンボンが直径約1?pのラメ入りボンボンである点にあり,これらの形態はいずれも原告代表者の発案によるものである旨主張し,これに沿う原告代表者の供述がある。これに対し被告は,被告従業員のAが,タイの民族人形を原型に,当時売れ始めていた商品「まりもっこり」の股間部分を強調するというアイデアを取り入れて原告商品を開発した旨主張し,これに沿う証人Aの供述がある。 そこで,まず,原告の上記供述内容の信用性について検討する。 ア 原告代表者の供述内容原告代表者は,本人尋問において,次のように供述する。 (ア)原告代表者は,平成19年3月ころ,原告がタイから輸入,販売していたタイの民族人形「ハッピーラッキーボンバー」の頭部のボンボンの大きさを元の5?oから1?pに変えるのと一緒に,ボンボンをラメ入りのものにすることを考え,4月の20日過ぎ,ゴールデンウィーク前に1度タイを訪れた際に,そのサンプルを持参し,タイの業者に製造を依頼した。 (イ)原告代表者は,平成19年4月27日,ハッピーラッキーボンバーの5?oの頭部のボンボンを股間部分に取り付けることを考え,ボンボンを一つ取り外して股間部分にボンドで接着してサンプルを制作した,?@(そのサンプルを制作した際)「このサンプル,どう思うとCに聞いたところ,とてもかわいいですと言って,これは『もっこりBOMBER』だわということで,取りあえずAさんにも見せてみようかと言って携帯のカメラ機能で写真を撮ってメールで送信して,文章のところに『もっこりBOMBER』というふうに書いて,いかがでしょうかというふうに。」,(Aに対し)「その日だと思うんですが,私,電話したんですね。それが夜の8時過ぎで遅かったんです。 それで送ってすぐ届きましたかということがあって,それで面白いねという話をしました。」,(Aから)「取りあえず50個,雅さんとおっしゃったと思うんですけれども,雅さんにちょっと持ってってみるから50個作ってみてよと言われました。」,「28日かゴールデンウィークの直前に鎌倉のギャラリー雅さんにどうしても持っていって,ちょっと様子を見たいからということで,急遽発注を受けました。」,「50体の注文を受けました。それで,翌日作ったと思います。」,?A(股間部分にボンボンを取り付けることを発案した理由について)「それは,男の子ということで付けました。」,「『まりもっこり』という商品が出ていまして,それを見たこともあるんですけれど,ただ,商品としてストーリー展開をしていきたかったんです。 男の子がいて女の子がいて,お母さんがいてお父さんがいてというようなストーリー展開を考えていく上で,男の子を表現するんだったらこれかなというふうに,女の子を表現するんだったら胸かなというふうに考えました。」,?B(「まりもっこり」について)「発明する直前にAさんから,その話は聞きました。」,「こういうのがはやっているんだよという話が出たことはあります。」,「『まりもっこり』という商品は,後からも知ったんですが,初めから,ご当地とか観光関係からということで,私なんかの商品コンセプトとちょっと違うなということを,ぱっと見たときに思ったので,余り『まりもっこり』を参考にして商品開発をするということはしませんでした。」。 (ウ)初めボンボンが5?oのものを「もっこりBOMBER」として売っていたが,5月か6月ころ,ボンボンがラメ入りの1?pの商品を発注して出来上がってきたときにこちらのほうがいいなと思ったので,それに1?pのボンボンを股間に付けて売りに出したところ,反応が良かったので,1?pのものに変えていった。 イ 検討(ア)原告代表者は,タイの民族人形の股間部分に頭部と同様のボンボンを取り付けることを発案した時期及び状況について,前記ア(イ)のとおり,平成19年4月27日,ハッピーラッキーボンバーの5?oの頭部のボンボンを股間部分に取り付けることを考え,ボンボンを一つ取り外して股間部分にボンドで接着してサンプルを制作した旨供述する。 確かに,前記1(4)のとおり,原告代表者は,同日午後8時14分ころ,ハッピーラッキーボンバーの頭部に取り付けられていたボンボンの一つを股間部分に取り付けた人形のサンプルを携帯電話のカメラ機能で写真撮影し,そのころ,その写真(甲6)をEメールに添付してAに送信していること及び甲6の写真の内容によれば,原告代表者が上記写真撮影をする前に,股間部分に頭部と同様のボンボンを取り付けた上記人形のサンプルが制作され,同サンプルが原告代表者の手元にあったことが認められ,この事実は,原告代表者の上記供述に沿うものといえる。 aしかし,原告代表者は,平成19年4月27日に股間部分に頭部と同様のボンボンを取り付けることを発案した理由について,原告代理人の主尋問の際には,前記ア(イ)?Aのとおり,「それは,男の子ということで付けました。」,「・・・ただ,商品としてストーリー展開をしていきたかったんです。男の子がいて女の子がいて,お母さんがいてお父さんがいてというようなストーリー展開を考えていく上で,男の子を表現するんだったらこれかなというふうに,女の子を表現するんだったら胸かなというふうに考えました。」と供述する一方で,裁判官の補充尋問の際には,「4月の27日の時点で,いきなりこれでストーリーを,と考えたわけではないです。」と供述している。両供述を照らし合わせると,4月27日の時点では,原告代表者は,ストーリー展開を考えていなかったことになり,「ストーリー展開を考えていく上で,男の子を表現するんだったらこれかなというふうに」考えたのは同日のことではないことになるから,原告代表者が同日ハッピーラッキーボンバーの5?oの頭部のボンボンを股間部分に取り付けること発案した理由は何であるのか,あるいは,その発想が何に由来するのか,原告代表者の供述からは判然としないといわざるを得ない。また,原告代表者の陳述書(甲15)には,「同月27日,『ハッピーラッキーボンバー』を見ていた際に,人形の股間部分にアフロ同様のもこもこを付けるというアイデアを思いつき,私の販売店舗内で,『ハッピーラッキーボンバー』のアフロ(直径約5ミリメートル)を1つ取り外し,これを人形の股間部分に接着剤で付け,試作品を制作しました。」との記載部分(2頁)があるが,同陳述書中には,「人形の股間部分にアフロ同様のもこもこを付けるというアイデア」を思いついた理由や,そのアイデアが何に由来するのかについて具体的に記載した部分はなく,同陳述書からも,これらの点は判然としない。 かえって,?@証人Aの供述及び陳述書(乙22)中には,Aは,平成19年3月か4月に,原告代表者に対し,まりもをモチーフにした,股間部分に膨らみのある商品「まりもっこり」のことを原告代表者に話したことがある,平成18年末ころから,「まりもっこり」が流行っていて,タイの民族人形の頭部のボンボンを股間の部分に付けたら売れるんじゃないかと思った旨の供述部分及び記載部分があること,?A原告代表者の供述中には,前記ア(イ)?Bのとおり,「まりもっこり」について,「発明する直前にAさんから,その話は聞きました。」,「こういうのがはやっているんだよという話が出たことはあります。」との供述部分があること,?B「まりもっこり」のチラシ(乙6)の内容に照らすならば,タイの民族人形「ハッピーラッキーボンバー」の股間部分を膨らませるというアイデア自体は,Aが原告に紹介した「まりもっこり」に由来するものであり,Aの発案によるものと推認することができる(もっとも,そのアイデアを具体的に実現するために「ハッピーラッキーボンバー」の頭部のボンボンを股間部分に取り付けることを考えたのがAである旨の証人Aの供述部分及び陳述書(乙22)の記載部分は,後記のとおり,にわかに措信し難い。)。 b次に,原告代表者は,平成19年4月27日,ハッピーラッキーボンバーの5?oの頭部のボンボンを股間部分に取り付けることを考え,前記ア(イ)?@のとおり,そのサンプルの写真をAにEメールで送信した後に,Aから,同日,雅に納品する分として50体の注文を受け,翌日,これを制作した旨供述する。そして,前記1(5)ア,イのとおり,原告は,同月28日,「ハッピーラッキーボンバー」の頭部のボンボンを股間部分に取り付けた商品50体を制作し,被告は,同月29日,雅に対し,上記50体を「もっこりボンバー」の名称で納品している。 しかし,原告代表者の上記供述を前提とすると,同月27日に原告代表者が初めて発案した上記商品について,Aは,原告代表者が発案した当日に,A及び雅の担当者のいずれもが上記商品のサンプルの現物を手に取って確認することもなく,納品先を雅と決めた上で原告に対し50体の注文をしたことになり,その取引の経緯自体極めて不自然である。また,証人Aの供述中にも,雅に納品した50体は,Aが上記写真(甲6)を確認した上で,原告に注文をしたものではない旨の供述部分がある。 以上によれば,原告代表者がハッピーラッキーボンバーの5?oの頭部のボンボンを股間部分に取り付けることを考えた時期が同月27日であるというのは不自然であり,同日よりも前の段階で,「ハッピーラッキーボンバー」の頭部のボンボンを股間部分に取り付けた商品の取引をすることについて何らかの交渉があった可能性を否定できない。 c上記a及びbに照らすならば,平成19年4月27日の時点で,タイの民族人形「ハッピーラッキーボンバー」の股間部分に頭部と同様のボンボンを取り付けた人形のサンプルが制作されており,同サンプルが原告代表者の手元にあったからといって,同日,原告代表者が股間部分に頭部と同様のボンボンを取り付けることを発案した旨の原告代表者の供述(前記ア(イ))は直ちに措信することはできない。 一方,証人Aの供述及び陳述書(乙22)中には,Aは,当時売れていた「まりもっこり」にヒントを得て,タイの民族人形の頭部のボンボンを股間部分に付ければ売れるのではないかと考え,同年3月から4月にかけて,原告の店舗(事務所)で,原告代表者の目の前で,ハッピーラッキーボンバーの頭部を分解して,ボンボンを取り外し,「ホットグリューガン」という,ろうそく状の固形接着剤を熱で溶かして噴出させる接着装置を用いて,取り外したボンボンを他の人形の股間部分に取り付ける形で試作品を作成した,最初の試作品に取り付けたボンボンが取れたので,接着剤の量を増やして取れないように工夫して,商品を開発した旨の供述部分及び記載部分がある。 しかし,証人Aの上記供述部分及び記載部分を前提としても,Aが平成19年3月から4月の具体的にいかなる時期に,どのような経緯から,原告の店舗(事務所)で原告代表者の目の前で,A自らが上記試作品を作成したのか定かではなく,その際のAと原告代表者とのやりとりについての具体的な供述もないことに照らすと,Aがハッピーラッキーボンバーの頭部のボンボンを取り外して股間部分に取り付けて上記試作品を作成したとの上記供述部分及び記載部分は,にわかに措信し難い。 結局,「ハッピーラッキーボンバー」の股間部分を膨らませるというアイデア自体は,Aが原告に紹介した「まりもっこり」に由来するものであり,Aの発案によるものであるといえるとしても(前記a),その具体的な方法として,ハッピーラッキーボンバーの頭部のボンボンを取り外して股間部分に取り付けることを発案したのが,原告代表者とAのいずれであるのかについては,原告代表者の供述(陳述書を含む。)及び証人Aの供述(陳述書を含む。)から決することはできない。 (イ)以上のとおり,原告代表者が,平成19年4月27日,ハッピーラッキーボンバーの5?oの頭部のボンボンを股間部分に取り付けることを発案した旨の原告代表者の供述(陳述書を含む。)は措信することはできず,他に原告代表者が単独でハッピーラッキーボンバーの頭部のボンボンを股間部分に取り付けることを発案したことを認めるに足りる十分な証拠はない。 (2)これに対し原告は,?@被告が作成した原告商品用の台紙(甲12)には,「企画p-collection」と明記され,被告自らが原告商品の開発主体が原告であることを表記していること,?A上記台紙には「もっこりBOMBER しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 ア被告が平成19年12月ころ作成した原告商品用の台紙(甲12)には,表面に「もっこりBOMBER この点について,証人Aの供述及び陳述書(乙22)中には,?@当初印刷した台紙には,「企画p-collection」との記載が入っていなかったが,原告代表者が台紙制作の際に「企画p-collection」と入れることを強く希望したことと,メロンなどの付属品を取り付けた原告商品の派生商品のサンプルを作成したのが原告であることは間違いがなかったことから,台紙に「企画p-collection」との記載を入れた,?A被告は,原告が「もっこりBOMBER」の商標登録出願をしていたことを聞いて知っていたので,他の業者に「もっこりBOMBER」の名称を真似されないために予防的に「 イ原告は,仮に被告が原告商品の真の開発者であるとすれば,原告が「もっこりBOMBER」の名称について商標登録出願をしたことに対し抗議行動をとるはずであるが,被告は,原告の上記商標登録出願の事実を認識しながら,原告に対し,何ら抗議をしていない旨主張する。 しかし,?@商品の形態を発案した者と当該商品の名称を発案した者は必ずしも一致するものではないこと,?A証人Aの供述及び陳述書(乙22)中には,被告は,平成19年6月か7月ころ,原告代表者から,原告が「もっこりBOMBER」の名称について商標登録出願をしたことを知らされたが,被告においては,流行の移り変わりが激しい土産物品について,費用をかけてまで商標登録はしていない旨の供述部分及び記載部分があることに照らすならば,被告が,原告が「もっこりボンバー」の横書きの文字と「もっこりBOMBER」の横書きの文字の上下2段から成る商標の登録出願をしたこと(前記1(6))を認識しながら,原告に対し抗議をしなかったとしても,そのことが原告商品の開発者が原告であることを認めていたことの根拠になるものではない。 ウ原告は,被告が被告商品を「もっこりトゥカター」の名称で販売しているのは,原告商品の開発主体が原告であって,「もっこりBOMBER」の名称を使用してはならないことを認識していたためである旨主張する。 しかし,前記イ?Aの証人Aの供述部分及び陳述書の記載部分によれば,被告は,「もっこりBOMBER」の名称について原告が商標登録出願をしたことを原告代表者から知らされていたのであるから,被告が原告とは別の業者に発注して制作させた被告商品(前記1(7)イ)を展示,販売するに際し,被告商品に原告商品と異なる名称を付すこと自体は何ら不自然なことではなく,そのことが原告商品の開発者が原告であることを認めていたことの根拠になるものでもない。 エ以上のとおり,原告が主張する諸点は,原告が原告商品を開発したことを裏付ける事情に当たるものと認めることはできない。 (3)以上によれば,原告が原告商品に特有の形態的特徴であると主張する,タイの民族人形(ハッピーラッキーボンバー)の頭部のボンボンを股間部分に取り付けた点については,原告代表者が単独で発案したとまで認めることはできず,原告代表者及び被告の従業員Aが共同で発案した可能性を否定できない。 また,原告が原告商品に特有の形態的特徴であると主張する,頭部のボンボンを5?oのものから1?pのラメ入りのものとした点については,ライスフィールド社が,原告が原告商品を販売する前の平成19年4月24日ころには,頭部のボンボンをラメ入りのものとしたタイの民族人形を販売していたこと(前記1(2)),その当時輸入販売されていたタイの民族人形の頭部のボンボンには5?oのものも,1?pのものもあったこと(弁論の全趣旨)に照らすならば,原告代表者が発案した原告商品に特有の形態的特徴であるということはできない。 したがって,原告商品は,原告が独自に開発した商品であり,被告にとって不正競争防止法2条1項3号所定の「他人の商品」に該当するとの原告の主張は,理由がない。 3 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 杉浦正典 |
裁判官 | 古庄研 |