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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  試行錯誤 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  均等侵害 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 12940号 特許権侵害差止等請求事件
原告淺 田鉄工株式会社
訴訟代理人弁護 士藤田邦彦
被告株 式会社井上製作所
訴訟代理人弁護 士美勢克彦秋山佳胤
訴訟代理人弁理 士亀川義示
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙物件目録(被告製品)記載の分散機(ビーズミル)を製造,販売してはならない。
2被告は,原告に対し,1億0200万円及びこれに対する平成19年10月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4仮執行宣言第2事案の概要等1事案の概要本件は,発明の名称を「攪拌ディスク及びメディア攪拌型ミル」とする発明の特許権者である原告が,被告の製造販売するメディア攪拌用ミルは上記特許発明技術的範囲に属し,同製品を製造する被告の行為は原告の有する上記特許権を侵害するとして,特許法100条1項に基づく製造・販売の差止め並びに民法709条不法行為に基づく損害賠償として1億0200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年10月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2争いのない事実1当事者()ア原告は,主として媒体(メディア)分散機・攪拌機,その他各種機械の製造並びに修理等を業とする株式会社である。
イ被告は,主として上記分散機・攪拌機その他銑鉄鋳物製造及び化学機械・食品加工機械・同装置・器具の製造並びに修理加工等をする株式会社である。
2原告の有する特許権()原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,後記オの特許請求の範囲【請求項1】記載の発明を「本件特許発明1 ,同【請求項5】記載の発明 」を「本件特許発明5」といい,これらを合わせて「本件特許発明」という。
また,本件特許出願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という )の。
。)。 特許権者である(本件特許に係る特許権を,以下「本件特許権」というア登 録 番 号第3830194号イ出願日平成8年2月27日ウ登録日平成18年7月21日エ発明の名称攪拌ディスク及びメディア攪拌型ミルオ特許請求の範囲【請求項1】ディスク外周部にディスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝を有するとともに該切り欠き溝より半径方向内側部分に複数のメディア通過用貫通孔を有し,前記切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し少数点〔判決注: 小数点」の誤記であることが明らか 「なので,以下「小数点」と表記する 〕以下切り捨ての整数)であり,但 。
し該計算結果最大個数が4個以下のときは5個として,少なくとも5個としてあるメディア攪拌型ミル用の攪拌ディスク。
【請求項5】請求項1から4のいずれかに記載の攪拌ディスクを攪拌用部材として備えているメディア攪拌型ミル。
3構成要件の分説()本件特許発明は,次の構成要件に分説することができる(以下,本件特許発明の各構成要件を単に「構成要件A」などという。。)【本件特許発明1】Aディスク外周部にディスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝を有するとともにB該切り欠き溝より半径方向内側部分に複数のメディア通過用貫通孔を有しC前記切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)でありD但し該計算結果最大個数が4個以下のときは5個として,少なくとも5個としてあるEメディア攪拌型ミル用の攪拌ディスク。
【本件特許発明5】F請求項1から4のいずれかに記載の攪拌ディスクを攪拌用部材として備えているメディア攪拌型ミル。
4被告の行為()被告は別紙物件目録(被告製品)記載の分散機(ビーズミル (以下,同 )目録に記載された製品につき,同目録に記載された番号に従って「被告製品(1)」などという。また,被告製品(1)ないし同(6)を合わせて「被告各製品」という )のうち,被告製品(1)ないし同(5)を製造販売している(被告 。
が被告製品(6)を製造販売しているか否かについては争いがある。。)なお,被告製品(1)ないし同(5)における攪拌ディスク(以下,単に「ディスク」ともいう )の形状については後記のとおり争いがあるものの,少な 。
くとも構成要件A及び同Eを充足することについて,被告は争うことを明らかにしない。
3争点1被告各製品は本件特許発明技術的範囲に属するか(争点1)()ア被告各製品の構成(争点1-1)イ構成要件Bの充足性(争点1-2)ウ構成要件C及び同Dの充足性(争点1-3)エ均等侵害の成否(争点1-4)2本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)()ア進歩性の欠如(争点2-1)本件特許発明は,実開平3-38147号公報(乙1:以下「乙1公報」という )に記載された発明(以下「乙1発明」という )に基づい 。 。
て当業者が容易に発明することができたものか。
イ記載不備(争点2-2)本件明細書の発明の詳細な説明は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項(以下「改正前特許法36条4項」という )の規。
定する要件を満たしているか。また,本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号の規定する要件を満たしているか。
3損害の額(争点3)()第3当事者の主張1争点1-1(被告各製品の構成)【原告の主張】被告各製品は,別紙物件目録説明書及び被告ディスク図面のとおりであり,以下の構成を備える。
aディスク外周部にディスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する,別紙被告ディスク図面記載の切り欠き溝を有するとともにb該切り欠き溝より半径方向内側部分に,同図面記載の個数のメディア通過用貫通孔を有しc前記「切り欠き溝」の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切捨ての整数)でありd最も少ない場合の「切り欠き溝」の個数を6個としてあるeメディア攪拌型ミル用の攪拌ディスク。
f上記攪拌ディスクを攪拌用部材として備えているメディア攪拌用ミル(ビーズミル 。)【被告の主張】否認する。
被告製品(1)ないし同(5)は,別紙被告製品説明書及び図面のとおりである。
また,被告製品(6)は,現在まで一切製造販売した実績がなく,今後も製造する予定はない。
2争点1-2(構成要件Bの充足性)【原告の主張】1貫通孔の位置について,本件明細書の段落【0018】には 「孔の大き() ,さ,切り欠き溝Xの溝深さを考慮して定めればよいが,代表的には,それには限定されないが,貫通孔の中心Oyを結ぶ円の直径D3でみて,ディスク外径D1の1/3〜2/3の範囲,さらに好ましくはディスク外径D1の0.45〜0.55倍程度,例えば0.5倍程度でよい 」と記載されている。 。
2被告製品(1)ないし同(5)の各ディスクのD3及びD1を測定すると,それ()ぞれ以下のとおりであり,それぞれD3の値はいずれもD1の1/3(0.33…)ないし2/3(0.66…)の範囲内にある。
D3(?o)D1(?o)D3/D1被告製品(1)8120.666被告製品(2)14230.608被告製品(3)17270.629被告製品(4)25400.625被告製品(5)35530.660本件明細書の記載を参酌すれば 「切り欠き溝より半径方向内側」との文 ,言は,少なくとも「D3がD1の1/3から2/3」を指すものであることは明白であり,被告製品(1)ないし同(5)の各ディスクはいずれもこれに該当する。また,貫通孔の位置はディスク強度を考慮して切り欠き溝の深さを考慮して定めるものとされているところ,被告製品(1)ないし同(5)の各ディスクの切り欠き部分は溝の深さが短く,ディスク強度の点からは問題がない。
3よって,被告製品(1)ないし同(5)の各ディスクの貫通孔は,切り欠き溝か()ら半径方向内側にあるといえる。
【被告の主張】1構成要件Bの「貫通孔」の位置について()構成要件Bは「切り欠き溝より半径方向内側部分に複数のメディア通過用貫通孔を有し」というものである。すなわち,半径方向から見て,貫通孔がディスク外周部にある切り欠き溝にかからない部分に存在しているものである。本件明細書の【図3】及び【図4】も,本件明細書の段落【0027】に記載のものも,半径方向から見て,貫通孔の全体がディスク外周部にある切り欠き溝より内側部分に存在しており,貫通孔はディスク外周部にある切り欠き溝にかからない部分に存在している。
また,本件明細書の段落【0017】では「切り欠き溝Xの深さについては,前記のメディア通過用貫通孔との干渉を避けるように定めればよい」と記載されており,切り欠き溝と貫通孔との干渉を避けている。
よって,構成要件Bは,半径方向から見て,貫通孔がディスク外周部にある切り欠き溝と重なり合わない内側部分に存在していると解釈すべきである。
2被告製品(1)ないし同(5)の各ディスクとの対比()被告製品(1)ないし同(5)の各ディスクの貫通孔は,いずれも「切り欠き溝より半径方向内側部分」ではなく,切り欠き溝と半径方向で重なり合う位置にあり,構成要件Bを充足しない。
【原告の反論】1「貫通孔」の位置について,特許請求の範囲の【請求項1】では 「切り() ,欠き溝より半径方向内側部分に」と記載されているだけで 「貫通孔」の位 ,置が被告主張のように限定されるものではない。
貫通孔の位置については,特許請求の範囲の【請求項1 ,本件明細書の 】段落【0017 ,同【0018】及び図面【図1【図3【図4】に記 】 】,】,載されているが,図面の記載は本件特許発明の一例を示しているにすぎず,また,本件明細書の段落【0019】にも「攪拌用ディスクの1例を挙げると」とあるように,図面に記載された範囲に貫通孔の位置を限定して解釈しなければならないものではない。
2本件明細書の段落【0017】及び同【0018】の各記載からも明らか()なように 「貫通孔」は,ディスク外周部にある切り欠き溝にかかって少な ,くともディスクの強度を低下させない範囲(ディスク強度に支障がない範囲)に設ければ十分であって,その位置は【請求項1】以上には特定されていない。
したがって,被告主張のように貫通孔の全体が「切り欠き溝より半径方向内側部分」に存在しなければならないというものでもなく,その一部でも「切り欠き溝より半径方向内側部分」にあれば,本件特許発明技術的範囲に属する。
3貫通孔が,少なくとも一部でも「切り欠き溝より半径方向内側部分」に形()成されておれば 「被処理流体が高粘性のものであったり,被処理流体圧送 ,量が多かったり,その両者であったりするときでも,メディアをミル容器内部で従来より均一に分散させ,メディアの十分な運動量を確保して所望の処理を行うことができるとともに被処理流体のミル通過に支障がなく,また,スケールアップに際してもメディアの十分な運動量を確保して所望の処理を行う (本件明細書の段落【0009 )ことが可能となることは明らかで 」 】ある。
3争点1-3(構成要件C及び同Dの充足性)【原告の主張】1被告各製品のディスク形状は原告主張のとおりであるから,下記のとお()り,いずれも構成要件C及び同Dを充足する。
ディスク外径×1/15〜1/25切り欠き溝の個数被告製品□90?o×1/15〜1/25=6〜3個6個被告製品□130?o×1/15〜1/25=8〜5個8個被告製品□180mm×1/15〜1/25=12〜7個8個被告製品□260mm×1/15〜1/25=17〜10個12個被告製品□300mm×1/15〜1/25=20〜12個12個被告製品□400mm×1/15〜1/25=26〜16個16個2仮に,被告各製品のディスク形状が被告の主張するとおりであってとして ()も,以下のとおり,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクは,構成要件C及び同Dを充足する。
ア「切り欠き溝」の解釈について「切り欠き」とは本来は「材料の縁に局部的にできたへこみ部」を意味する語でもある。また 「切り欠き溝」の解釈に当たっては,一般人では ,なく当業者を基準に解釈されるべきであり,単に一般的な語句の解釈ではなく,技術的な作用効果からも判断すべきである。
この点,本件明細書の段落【0005】及び同【0006】によれば,図9の図(A)ないし図(L)のいずれの方法によっても,同各段落の1ないし5の作用効果を発揮するとされており,かかる記載によれば 「切,り欠き溝」に当たるかどうかは,同各段落に記載されている1ないし5の作用効果,すなわち,メディアを速く,ランダムに動かし,均一に分散させ,適度に循環させ,メディアの被処理流体からの分離を容易化する作用効果を奏するか否かによって判断すべきである。
被告は,本件明細書の段落【0004】及び同【0010】の記載から「切り欠き溝」は図9の図(A)ないし図(C)の形状に限定されると主張するが,段落【0004】の記載は単に従来例を示すものにすぎず,段落【0010】の記載は単に切り欠き溝の数の例として示しているものにすぎない。よって,これらの記載から「切り欠き溝」を図9の図(A)ないし図(C)に限定して解釈すべきではない。
イ充足性被告がカム部と称する被告製品(2)及び同(3)の各ディスクの部分であっても,切り欠いた部分によってメディアと被処理流体をディスクの回転によって動かして分散,循環させることができることは明らかであり,本件特許発明における「切り欠き溝」と同一の作用効果を奏する。
また,本件明細書の段落【0017】によれば 「切り欠き溝」の深さ ,について,強度のために 「切り欠き溝Xの底部の中心Oxを結ぶ円の直 ,径D2でみて,該D2がディスク外径D1の65〜95%程度,より好ましくは75〜90%程度,例えば81〜83%程度がよい」としている。
別紙被告製品説明書の図面から判断するに,被告製品(2)及び同(3)のディ) ), スクの直径をD1(?o ,カム部の底部を結んだ円の直径をDX1(?oディスクの溝の底部を結んだ円の直径をDX2(?o)とすると,以下のとおり,少なくとも被告製品(2)及び同(3)の各ディスクのカム部の底部を結んだ円の直径は本件特許発明の「切り欠き溝」が想定している95%以内に収まる。
D1DX1DX2DX1/D1DX2/D1被 告 製 品2319170.8260.739(2) 被告製2725210.9250.777品(3)しかも,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクは,溝型の部分と切り欠き部分とを組み合わせているので両者の底部を結ぶと真円とならないものの,両者は同数なので上記数式の結果を足して2で除すと,以下のとおり,本件特許発明がより好ましいとする75〜90%の範囲に入る。
(DX1/D1+DX2/D1)/2=0.782(被告製品(2))0.851(被告製品(3))つまり,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクは,カム部の形状をとっているものの,これは作用効果において本件特許発明の「切り欠き溝」と同一であり,発明の詳細な説明のより好ましい形態に当たるものであることからも,カム部は「切り欠き溝」に該当する。
ウ以上より,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクのカム部は「切り欠き溝」に外ならないから,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクの切り欠き溝の個数は,いずれも8個になり,ディスク外径の1/15〜1/25の範囲内にあるから,構成要件C及び同Dを充足する。
【被告の主張】1「切り欠き溝」の解釈について()ア「溝」とは,一般に「細長くくぼんだところ 」をいうところ,本件で 。
は,構成要件Aにおいて 「ディスク外周円より内側部分からディスク回 ,転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝」との限定が付されている。また,本件明細書の段落【0004】及び同【0010】の記載を参酌すると,かかる「切り欠き溝」は,従来例として記載されている図9の図(A)ないし図(C)に示されているものをいうことが明記されている。
そうすると 「切り欠き溝」とは 「ディスク外周円より内側部分を底 ,,部とし,ディスクの回転方向において下流側,すなわちディスクの回転方向とは反対側に向かって延び,ディスク外周円で開口している細長くくぼんだところ」との形状を意味する。
イまた,本件明細書の段落【0014】の記載によれば,構成要件C及び同Dにおける切り欠き溝の個数は,溝の数が多いほど粉砕能力等が上がるという積極面と,多すぎるとディスク強度が低下し,摩耗により寿命が短くなるという消極面を加味して選択された限定であると解される。すなわち 「切り欠き溝」が本件明細書図9の図(A)ないし図(C)のような ,形状であるが故に,かかる溝の数が多すぎると,近接して設けられ,細長く切り込まれた溝と溝の間隔が狭くなることにより,ディスク強度が低下し,摩耗により寿命が短くなるという問題が生じるので,その問題を回避するため,構成要件C及び同Dにおいて 「切り欠き溝」の個数を規定し ,たものと考えられる。
そうすると 「切り欠き溝」は,図9の図(A)ないし図(C)の91, ,92,93のような「下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝」をいうものであり,同図(L)に示されるような「段部103」を有するディスクの形状が除外されていることは明白である。
2被告製品(1)ないし同(5)の各ディスクとの対比()ア被告製品(1)のディスクについて, 被告製品(1)のディスクの切り欠き溝の個数は3個である。したがって「前記切り欠き溝の個数は,…少なくとも5個」との構成要件C及び同Dを充足しない。
イ被告製品(2)のディスクについて, 被告製品(2)のディスクの切り欠き溝の個数は4個である。したがって「前記切り欠き溝の個数は,…少なくとも5個」との構成要件C及び同Dを充足しない。
なお,被告製品(2)のディスクには,ディスク外周に切り欠き溝の他,カム部が4個あるが,このカム部は,その形状からして 「下流側へ延び ,てディスク外周円に開口する切り欠き溝」に該当する余地はない。すなわち,被告製品(2)のディスクのカム部は,その右側部分がディスクの中心を通る線上を外周円に向かって延びているのであり 「ディスク外周円よ ,り内側部分を底部とし,ディスクの回転方向において下流側,すなわちディスクの回転方向とは反対側に向かって延び」ていないし,右側部分がディスクの中心に向かっているのに対して,左側部分はディスクの円周に沿う形で延びているのであり 「ディスクの回転方向とは反対側に向かって ,延び,ディスク外周円で開口」していないし 「細長くくぼんだところ」 ,でもない。
このように,被告製品(2)のディスクのカム部は,そもそも図9の図(A)ないし図(C)のような「下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝」ではないので,仮に構成要件C及び同Dの範囲を超えて設けたとしても,ディスク強度が低下したり,摩耗により寿命が短くなるという欠点を何ら有しない形状なのである。
以上のとおり,被告製品(2)のディスクのカム部は「切り欠き溝」に当たらないので,被告製品(2)のディスクの切り欠き溝の個数は前記のとおり4個である。
ウ被告製品(3)のディスクについて, 被告製品(3)のディスクの切り欠き溝の個数は4個である。したがって「前記切り欠き溝の個数は,…少なくとも5個」との構成要件C及び同Dを充足しない。
なお,被告製品(3)のディスクには,ディスク外周に切り欠き溝の他,カム部が4個あるが,前記イのとおり,このカム部が構成要件Aの「下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝」に該当する余地はない。
エ被告製品(4)のディスクについて被告製品(4)のディスク外径は249?oであり,その1/15〜1/25(小数点以下切り捨て)を計算すると,16〜9である。これに対し,被告製品(4)のディスクの切り欠き溝の個数は8個であり,16〜9の範囲に入らず 「前記切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜 ,1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)であり」との構成要件C及び同Dを充足しない。
オ被告製品(5)のディスクについて被告製品(5)のディスク外径は330?oであり,その1/15〜1/25(小数点以下切り捨て)を計算すると,22〜13である。これに対し,被告製品(5)のディスクの切り欠き溝の個数は8個であり,22〜13の範囲に入らず 「前記切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15 ,〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)であり」との構成要件C及び同Dを充足しない。
4争点1-4(均等侵害の成否)【原告の主張】仮に,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクのカム部が本件特許発明の「切り欠き溝」に当たらないとしても,カム部は以下のとおり「切り欠き溝」と均等なものとして本件特許発明技術的範囲に属するものである。
1本質的部分ではないこと()本件特許発明は,メディアの十分な運動量を確保して所望の処理ができ,スケールアップに際しても十分な処理が可能になることを課題とし,その構成として「切り欠き溝」の個数,貫通孔の個数をディスク外径に比して一定数値とすることとしている。
すなわち,本件特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分は,ディスクの外径に比して「切り欠き溝」や貫通孔の個数を一定数値にすることであり,これが本件特許発明の本質的部分を形成する。
よって 「切り欠き溝」の形状は本質的部分でない事項である。 ,2置換可能であること()上記カム部の形状によっても,切り欠いた部分によってメディアと被処理流体をディスクの回転によって動かして分散,循環させるという作用効果を有する。これは本件特許発明の「切り欠き溝」と同じであることから,これをカム部と置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。
3置換が容易であること()上記カム部は通常の「切り欠き溝」を形成する部分の一部を削除した形状である。通常,ディスクを使用していれば当該部分が擦り減っていくことがあり,当業者にとって理解可能な形態である。
よって,かかる周知な形状を用いることは当業者にとって置換容易である。
4出願時に容易推考ではないこと()被告製品(2)及び同(3)の各ディスクは,本件特許請求の範囲に記載された発明のうち,切り欠き溝の半数をカム部としたものである。
このような構成をとったとしても 「切り欠き溝」とカム部の個数がディ ,スク外径の1/15〜1/25の個数とした先行技術文献はなく,本件特許の出願時における公知文献と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できるものではない。
5意識的除外等の特段の事情がないこと()本件明細書の図9の図(A)ないし図(L)は,いずれの方法でも同じ作用を有するとしているのみであって,このうち図(A)及び図(B)に限定する趣旨の文言は何ら記載されていないのであるから,意識的に除外したとはいえない。
しかも,本件特許は特許請求の範囲に関する補正をしていないのであるから,意識的除外に当たる事項はない。
【被告の主張】原告は,構成要件Aの「切り欠き溝」が,本件発明の本質的な部分ではないと主張するが,本件特許発明は,切り欠き溝の数をディスク外径の数値に応じて限定するものであり,これにより明細書記載の作用効果を奏するというのであるから 「切り欠き溝」の形状に応じて上記臨界的数値が変化することは明 ,白であり 「切り欠き溝」の形状はまさに本件特許発明の本質的な部分である ,とともに,置換可能性もないのであり均等論が適用される余地はない。
5争点2-1(進歩性の欠如)【被告の主張】1乙1公報の記載()平成3年4月12日に発行された乙1公報には,以下の発明(乙1発明)が記載されている。
〔A〕中心部から放射状にのびる溝を設けて媒体に遠心力を与えるように羽根を形成した媒体分散機用ディスク(実用新案登録請求の範囲1:乙1公報の2頁16〜18行,同3頁12〜13行,同第1図,同第2図)〔B〕該羽根と羽根の間のディスク中心部に媒体を軸方向へ流動させるよう開口部を形成した(実用新案登録請求の範囲1:乙1公報の2頁19〜20行,同3頁15〜17行,同第2図)〔CD〕上記溝の個数は4個としてある(乙1公報の第2図)〔E〕媒体分散機用ディスク(実用新案登録請求の範囲1:乙1公報の1頁16〜17行,同3頁1〜2行,同第1図,同第2図)2本件特許発明との対比()構成要件Aと乙1発明の構成要件〔A (以下,乙1発明の構成要件 〕〔A〕を,単に「構成要件〔A 」などという )は一致する。 〕。
構成要件Bと構成要件〔B〕は,構成要件Bが半径方向から見て,貫通孔がディスク外周部にある切り欠き溝と重なり合わない内側部分に存在しているのに対して,構成要件〔B〕では溝(本件特許発明1における切り欠き溝に相当)と半径方向で重なり合う位置に開口部(本件特許発明1における貫通孔に相当)を有している点で異なり(以下「相違点1」という,他は。)一致する。
構成要件C及び同Dと構成要件〔CD〕は,構成要件C及び同Dの切り欠き溝の個数がディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)で,ディスク外径に比例して個数が増加すること,個数は少なくとも5個であるのに対して,構成要件〔CD〕では上記溝の個数が4個のものしか記載されていない点で異なり(以下「相違点2」という,他。)は一致する。
構成要件Eと構成要件〔E〕は一致する。
3相違点1について()構成要件Bにおける「貫通孔」は 「ミル容器に圧送されてくる被処理流 ,体が高粘性のものであったり,被処理流体圧送量が多かったり,その両者であったりするときでも,ミル容器内のメディアは適度の循環運動をして容器の被処理流体出口へ偏在することが抑制され,容器内に均一的に分散し,また,メディアが容器内に分散されるため被処理流体のミル通過も容易となり,さらに,前記切り欠き溝の数は従来ディスクより多くしてあり,これによりメディアの運動量を大きくでき,前記メディアの円滑にして適度の循環運動が達成されることと相まって目的とする処理が達成される 」ものである 。
(本件明細書の段落【0012。】)一方,構成要件〔B〕における「開口部」も「上記開口部11によって媒体は中心部において,一側面から吸い込まれ,他側面から吐き出されるような運動を与えられるから,中心部においても積極的に運動し,しかも吐き出された媒体は続いて溝に入り込み,羽根による遠心力運動を与えられるから,一層効果的に分散処理することができる(乙1公報の4頁18行〜5頁 。」4行)ものである。
このように,構成要件Bと構成要件〔B〕は,いずれもメディア攪拌型ミル用の攪拌ディスク(媒体分散機用ディスク)において同様の作用をするものであるから,この「貫通孔 (開口部)を,ディスクの中心部において, 」半径方向から見て貫通孔がディスク外周部にある切り欠き溝と重なり合わない位置に設けるか,それとも切り欠き溝(溝)と半径方向で重なり合う位置に設けるかは,必要に応じて当業者が適宜に採択するような設計上の問題にすぎない。
4相違点2について()ア1970年12月29日に登録された米国特許第3550915号公報(乙4:以下「乙4公報」という )には,本件特許発明1と同様の分散 。
媒体と分散される固定粒子懸濁液の混合物を攪拌する装置の回転可能な軸上に回転するように取付けられた攪拌ディスクにおいて,弧状に湾曲し,ディスク2の中心孔2を通って伸びる軸3のほぼ接線方向に伸びている切抜き6を備え,この切抜き6の個数を2ないし10個の間で設けることが記載されている(以下「乙4発明」という。。)また,本件特許発明1の構成要件C及び同Dにおける切り欠き溝の個数を,ディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)とすることは,乙4発明のように切抜きの数を2ないし10個の間で適宜に選択すれば,当然にこの範囲内に含まれることとなる。すなわち,本件明細書の段落【0014】及び同【0015】の記載によれば,ディスク外径が125?o以上のときにはその外径の1/15〜1/25が好ましいとされ,ディスク外径が185?o程度以上のときにはその外径の1/20〜1/25が好ましいと記載されている。そうすると,ディスク外径を125?oにすると切り欠き溝の個数は8ないし5個となり,ディスク外径を185?oにすると切り欠き溝の個数は9ないし7個となる。したがって,上記両者を考慮すると,これらのディスクにおいて切り欠き溝の個数は,5ないし9個が好ましいこととなるが,乙4公報には,切抜き(切り欠き溝)の好ましい個数が2ないし10個と記載されているから,本件特許発明1におけるような切り欠き溝の個数にすることは,極めてありふれた個数の選択にすぎない。このように,切り欠き溝の個数をディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25にするようなことは,ごく普通に採択されるような周知,慣用技術でしかない。
イさらに,物質の分散に用いられる円盤状の攪拌ディスクにおいて,ディスクの外径の増大に伴って攪拌作用を営む攪拌羽根の個数を増大することは,普通に行われている周知,慣用技術にすぎない。例えば,1962年7月17日に登録された米国特許第3044750号公報(乙5:以下「乙5公報」という )には,インペラーのディスク36の外周部に,デ 。
ィスク外周円より内側の部分から角度「a」で外側に傾斜してディスク回転方向において下流側へ延びる翼40の数を,インペラーの直径によって決めることが記載されている(以下「乙5発明」という。そして,最。)大の外側直径(ブレード40の後縁70により形成される直径)を有するインペラーは下記に示す翼数を有することができるとして,直径(インチ)翼数4・・・・・・126・・・・・・148・・・・・・1610・・・・・・1812・・・・・・2014・・・・・・22と記載されており,インペラーの外側直径の増大に伴って,翼数を増大させていることが明示されている。
その上,12インチ(304.8?o)における翼数は20個であるが,この個数は,本件特許発明1における「切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数 」である )20ないし12に該当している。また,14インチ(355.6?o)における翼数は22個であるが,これも本件特許発明1における「切り欠き溝の個数」である23ないし14に該当する。
このように,本件特許発明1における「切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数 」であ)ることは,特段の個数とはいえず,当業者が必要に応じて任意に採択し得るような周知,慣用技術でしかない。
5上記のように,構成要件Aないし同Eを必須の構成要件とする本件特許発()明1のメディア攪拌型ミル用の攪拌ディスクは,乙1発明,乙4発明及び乙5発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,これによって本件特許発明1と同様の作用効果が当然に得られるものであって,本件特許発明1において何ら特段の作用効果が得られるものでもない。
よって,本件特許発明1には進歩性がなく,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法123条1項2号により無効にされるべきものである。
6また,乙1公報には,第2図に示す媒体分散機用ディスクを備えた媒体分()散機が第1図に示されていることから,本件特許発明5に記載のメディア攪拌型ミルは,乙1発明,乙4発明及び乙5発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,その作用効果においても何ら特段の作用効果が得られているものでもない。
よって,本件特許発明5には進歩性がなく,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法123条1項2号により無効にされるべきものである。
【原告の主張】1乙1発明は,構成要件Cのように「ディスク外径」については全く記載さ()れていない。本件特許発明1は,従来のメディア攪拌ディスクの溝(羽根)が4個であるのと異なり,最低5個以上とし,さらに「ディスク外径 ,」「切り欠き溝」の個数を相互に関連付けて規定することにより,メディアの十分な運動量を確保して所定の作用効果を得ることを特徴としている。
よって,乙4公報に切り欠き溝の個数が2ないし10個と記載されているとしても,ディスク外径との関連性を欠いており,これをもって,本件特許発明1には容易に至らない。
乙1公報の第2図及び同第7図のディスク形状からも明らかなように,乙1発明の出願当時の攪拌・分散の技術水準からすると,当業者であれば第2図の溝8を4個,同開口部11を4個それぞれ設けるのが一般的であり,当時とすればそれらを組み合わせたディスクを用いれば,要求されていた攪拌・分散効果を十分に果たすことができていた。ところが,その後,ユーザーから被処理材料をより微細かつ効率的に攪拌・分散する技術が要求された結果,従来数の切り欠き溝と貫通孔との組合せでは不十分ということが判明し,原告が試行錯誤を繰り返した結果,従来の4個でなく5個以上の切り欠き溝を具備する本件特許発明を完成させたものである。
2乙4公報に記載の攪拌装置は,いわゆる横型ミルの初期のころのものであ()り,ディスクに「貫通孔」は全く形成されていない。しかも,ディスク外径に応じて 「切抜き (cutout)の個数をどのようにすべきかについても全 ,」く記載されておらず,その示唆もない。
よって,乙4公報に切抜きの個数が2ないし10であることが好ましいと記載されているからといって,本件特許発明1のような切り欠き溝の個数にすることが,極めてありふれた個数の選択にしかすぎず,構成要件Cのような構成がごく普通に採択されるような周知,慣用技術でしかないということはできない。
3乙5公報に記載された攪拌機は,本件特許発明における媒体式分散機では()なく,水平状に回転するインペラー(羽根車)32によりタンク内の液状混合物を単に攪拌するだけの器具にすぎず,しかも,当該インペラー32のディスク36には,本件特許発明のような「切り欠き溝」や「貫通孔」は全く形成されていない。
すなわち,同攪拌機は均一に混合することのみを目的としたものであり,本件特許発明1の分散機のように,媒体(ビーズ)を利用して液状混合物を微細に粉砕,分散するという構成のものではない。現場では,同攪拌機でミリ単位に混合した材料を,さらに本件特許発明のメディア攪拌型ミル(分散機)でミクロン(1000分の1?o)単位に粉砕,分散させているのであり,両者は目的とする技術分野や技術課題も異なる。よって,乙5発明のインペラーの外径と翼数との関係をもって,本件特許発明のディスク外径と溝数の関係を容易に想到することはできない。
しかも,乙5公報に記載されている翼40に形成されている孔50は,ディスク36の盤面に沿う方向に形成されたものであり,本件特許発明のようにディスクの表裏両側に貫通するものではなく,本件特許発明における「切り欠き溝」にも「貫通孔」にも該当しない。そうすると,インペラーの外側直径12インチ(304.8?o)における翼数20個,14インチ(355.6?o)における翼数22個が,本件特許発明において規定するディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25に該当するとしても,本件特許発明1における切り欠き溝の個数がディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25であることは,特段の個数とはいえず,当業者が必要に応じて任意に選択し得るような周知,慣用技術でしかないということはできない。
4以上より,本件特許発明1に進歩性がないとはいえず,特許法123条1()項2号により無効とされるべきものではない。また,本件特許発明1に進歩性が認められる以上,本件特許発明5も同様に特許法123条1項2号により無効にされるべきものではない。
6争点2-2(記載不備)【被告の主張】1構成要件Cに関しては,本件明細書の段落【0013】ないし同【001()5】に記載があるが,かかる記載によっても,何故に切り欠き溝の下限の個数がディスク外径の1/25であり,上限の個数がディスク外径の1/15でなければならないのか,その臨界的な意味について何の説明も記載もされていない。
2また,構成要件Dについても,切り欠き溝の個数を「少なくとも5個とし()てある」と限定しているが,本件明細書の段落【0015】においては,「但し,ディスクの粉砕能力等を向上させるために,ディスク外径にかかわらず,切り欠き溝Xの数は5個以上が好ましい」と記載されているのみであり,何故に5個以上でなければならないのかについては何の記載もない。このように,構成要件Dにおける切り欠き溝の個数が少なくとも5個以上が必要であることの技術的な意義,臨界的な意義は何ら明らかにされていない。
3よって,本件明細書の発明の詳細な説明,特許請求の範囲の記載は本件特()許発明の内容,特許請求の範囲を何の意味もなく限定しているにすぎず,その限定の意味について何の開示もされていないものであるから,本件明細書は,改正前特許法36条4項の要件を満たしていない。また,本件特許請求の範囲( 請求項1 )は,特許法36条6項2号の要件を満たしていない。 【】したがって,本件特許発明1は,特許法123条1項4号により無効にされるべきものである。
【原告の主張】1技術的意義,臨界的な意義について,原告は,従来型ディスクの欠点を改()良するため,原告が長年培ってきた攪拌・分散技術に基づく経験則から,また,原告が多額の時間と費用をかけて試行錯誤を繰り返して知り得た知見に基づいて,さらには,それらの技術に裏付けされた詳細なデータに基づいて本件特許発明1における個数,数値を特定することができたのである。
その結果,画期的な効果を上げることができ,原告が製造する本件特許発明実施品である「ナノミル」の製造販売実績は,販売開始から100億円以上となり,今後も増加が予想され,商業的にも成功している。
したがって,本件特許発明1において特定した個数,数値は,特段の個数,特段の数値ということができ,当業者であれば,本件特許発明1の明細書全体から,特に,段落【0014】の記載に基づいて,その技術的意義,臨界的な意義を認識することができる。
2よって,本件明細書は改正前特許法36条4項の要件を満たしており,本()件特許請求の範囲( 請求項1 )は特許法36条6項2号の要件を満たし 【】ている。
7争点3(損害の額)【原告の主張】1原告は,本件特許発明実施品である分散機(商品名・ナノグレンミル) ()を製造販売している。同分散機の型式は,モーターの出力(kw)や,ベッセル(処理槽)の容量の大きさごとに,被告各製品の型式と対応しており,市場において常に競合している。
2被告は遅くとも平成18年7月21日以降,現在に至るまで,被告各製品()を平均単価金850万円で,少なくとも60台(合計5億1000万円)以上製造販売している。
3被告は,被告各製品の製造販売により少なくとも1台につき金170万円()(利益率20% ,合計1億0200万円の利益を得ており,原告は特許法 )102条2項により同額の損害を受けたものである。
【被告の主張】争う。
第4当裁判所の判断1争点1-1(被告各製品の構成)について1被告製品(1)ないし同(5)の構成については,主としてディスクの形状にお()いて当事者間に争いがある。
この点,原告は,原告主張のディスク形状の被告製品(3)を原告従業員が現認したと主張し,その証拠として,その際に撮影したとする被告製品(3)のディスクの写真(甲9〜11)を提出する。
しかし,原告は,その撮影場所について 「関東地区某塗料メーカー」 ,(甲9「関西地区某塗料メーカー (甲10「名古屋地区某塗料メーカ ), 」),ー (甲11)と主張するのみで,これ以上の具体的な事実を明らかにしな 」い。本件では,被告各製品のディスクに本件特許発明にいう「切り欠き溝」がいくつ形成されているかという点が重要な争点の一つとなっているのであるから,その認定に際しては,上記各証拠とされる写真が真に被告製品(3)を撮影したものであるかなどについて被告にその検証の機会を与えるなどその信用性を慎重に吟味しなければならないところ,撮影場所に係る事実は被告が同各証拠の信用性を検証するために不可欠な事実であり,この点について原告が具体的に明らかにしない以上,かかる証拠の信用性をにわかに肯定することはできないというべきである。
2原告は,被告製品(3)の取扱説明書(甲7:ただし,納入先及び作成日付()がマスク処理されているもの )の中で原告主張のディスク形状のものが記 。
載されているとも主張する。しかし,原告が指摘する取扱説明書の記載は,ディスクの回転方向などを示す「参考図」にすぎず,ここに被告製品(3)のディスク形状が正確に表示されていることを示す確たる証拠もない。また,甲第7号証のマスク部分を外した乙第6号証によれば,甲第7号証の取扱説明書の作成日付は,平成18年3月14日であることが認められるところ,同日付は本件特許の登録日(平成18年7月21日)より前であるから,同取扱説明書がディスク形状を正確に示しているとしても,これをもって,直ちに被告が本件特許の登録後に原告主張のディスク形状の製品を納入したとは認め難い。
よって,甲第7号証によっても,被告各製品のディスク形状に係る原告の主張を認定するには足りないというべきであり,他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
3以上より,ディスク形状に係る原告の主張は採用できず,かえって証拠()(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,別紙被告製品説明書添付の図面1ないし5(以下,単に「図面1」などという )の形状をもって被告製品(1)な 。
いし同(5)のディスク形状と認めるのが相当である。
なお,被告製品(6)については,被告がこれを製造販売したと認めるに足りる証拠はない。
2争点1-3(構成要件C及び同Dの充足性)について1被告製品(1),同(4)及び同(5)の各ディスクに係る構成要件C及び同Dの()充足性ア被告製品(1)について被告製品(1)のディスク形状を示す図面1によれば,被告製品(1)のディスクの切り欠き溝の個数は3個であることが認められる。
そうすると,被告製品(1)のディスクは,構成要件Dにおける切り欠き溝の個数が「少なくとも5個としてある」を充足しない。
イ被告製品(4)について被告製品(4)のディスク形状を示す図面4によれば,被告製品(4)のディスクの外径は249?oであることが認められ,その1/15〜1/25(小数点以下切り捨ての整数)は16ないし9となる。また,同図面によれば,被告製品(4)のディスクの切り欠き溝の個数は8個であることが認められる。
そうすると,被告製品(4)のディスクの切り欠き溝の個数(8個)は上記16ないし9の範囲内に入らないので,被告製品(4)のディスクは構成要件Cの「前記切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)であり」を充足しない。
ウ被告製品(5)について被告製品(5)のディスク形状を示す図面5によれば,被告製品(5)のディスクの外径は330?oであることが認められ,その1/15〜1/25(小数点以下切り捨ての整数)は,22ないし13となる。また,同図面によれば,被告製品(5)のディスクの切り欠き溝の個数は8個であることが認められる。
そうすると,被告製品(5)のディスクの切り欠き溝の個数(8個)は上記22ないし13の範囲に入らないので,被告製品(5)のディスクは構成要件Cの「前記切り欠き溝の個数はディスク外径〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)であり」を充足しない。
2被告製品(2)及び同(3)に係る構成要件C及び同Dの充足性 ()ア被告製品(2)のディスク形状を示す図面2(下記左図参照)及び被告製品(3)のディスク形状を示す図面3(下記右図参照)によれば,被告製品(2)及び同(3)のディスクには,明らかに溝の形をしているものとして,当事者双方においても本件特許発明にいう「切り欠き溝」であることに争いのない部分(下記各図の1,3,5,7の各部分)と 「切り欠き溝」に ,当たるかどうかにつき争いのある部分(下記各図の2,4,6,8の各部分。以下「カム部」という )が存する。。
カム部が本件特許発明にいう「切り欠き溝」に当たらなければ,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクの切り欠き溝の個数は,いずれも4個となり,構成要件Dにおける切り欠き溝の個数が「少なくとも5個としてある」を充足しないことになる。
そこで,以下,カム部が本件特許発明にいう「切り欠き溝」に当たるかどうかについて検討する。
イ「切り欠き溝」の意義特許請求の範囲の記載(ア)本件特許の特許請求の範囲【請求項1】には 「ディスク外周部にデ ,ィスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝」と記載されている(構成要件A 。したがって,上記「切り欠き溝」は 「ディスク外周部にディス ) ,ク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する」ものでなければならない。
本件明細書の記載(イ)本件明細書には以下の記載があることが認められる。
a段落【0004】従来,このミルで使用されている攪拌用部材には図9(A)から 「(L)に例示するものがある。すなわち図9において,図(A)から(C)に示すように,ディスク外周部にディスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝91,92,93を複数有するディスク型のもの(図中矢印はディスク回転方向 ,図(D)や(E)に示すよう ), に,複数の円形孔94や円弧状の孔95を設けたディスク型のもの図(F)に示すように,三日月形状の孔96を設けたディスク型のもので,複数枚が偏心軸961に螺旋状配置で装着されるもの,図(G)に示すように外周面から複数の攪拌用ピン971を放射状に突出させたピン付きリング型のもの(なお図中,972は回転軸 ,)図(H)に示すように,容器内中央部の空洞化を防ぐための円筒体, 又は円柱体981の外周面に攪拌用ピン982を複数突設したもの図(I)に示すように,両面の適当な位置に攪拌用ピン991を立設すると共に孔992を設けたディスク型のもの,図(J1 (攪拌)用部材の正面図)及び図(J2 (同部材の断面図)に示すように, )平板型の孔あきリング901に重ねて回転軸に嵌めるボス部902を配置し,両者を連結部材903により数カ所で連結したもの,図(K)示すように,中央軸101の周囲に螺旋板102を周設したもの,図(L)に示すように,外周部を段部103を有するように切り欠いたディスク型のものである 」。
b【0010】段落「 課題を解決するための手段】 【本発明者は前記課題を解決するため研究を重ねた結果,攪拌用部材としてディスク外周部にディスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝を有する攪拌ディスクを採用し,さらに,該ディスクに複数のメディア通過用貫通孔を併設し,該切り欠き溝の数を図9(A)や(B)に示されるような従来攪拌ディスクにおける切り欠き溝の, 数より,ディスク外径が同じであるときでも,より多くすることでメディアの容器出口への偏在を抑制し,メディアの十分な運動量を確保できることを見いだし,また,スケールアップに際しては,ディスク外周速度を変更しないときでも,前記切り欠き溝の数,或いはさらに前記メディア通過用貫通孔の数を増やせば,メディアの運動量確保に支障がないことを見いだした 」。
c【0014】段落「前記切り欠き溝及びメディア通過用貫通孔は,それには限定されないが,メディアをミル容器内にできるだけ均一に循環させ,分散, させるために,それぞれ等間隔で設けてあることが望ましい。以下個々の部分について図1を参照して説明する。前記切り欠き溝Xの数nは,多いほど粉砕能力等が上がると考えられるが,多すぎるとディスク強度が低下し,また,摩耗により寿命が短くなるので,上述のとおり,ディスク外径D1〔?o〕の1/15〜1/25(但し, 小数点以下切り捨ての整数)程度がよい。それには限定されないが普通には,このディスク外径D1〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)の切り欠き溝数nは,一般に採用される攪拌ディスクのうち125?o以上の外径を有するものに適している 」。
d【0016】段落「また,前記切り欠き溝Xの幅W(溝幅が次第に拡がっているときはディスク外周円上の溝開口から溝深さの2/3程度入り込んだ位置での溝幅)は,メディアがそこを無理なく流通できる幅が望ましいが,大きすぎるとショートパスが発生する恐れがあるので,それには限定されないが,ディスク外径D1の4〜6%程度,より好ましくは,約5%程度がよい。また,使用メディアの最大径の3〜4倍程度以上,より好ましくは4倍程度以上がよい。通常,粒径1〜1.5〔?o〕程度のメディアを使用することが多いから,この場合は,大きい方を考慮にいれて1.5〔?o〕の3〜4倍以上,好ましくは4倍(6?o)以上がよい。なお,切り欠き溝の幅Wもディスク外径D1が増加するとそれに応じて拡げることが望ましい 」。
検討(ウ)a本件明細書の上記各記載を参酌して本件特許発明にいう「切り欠き溝」の意義について検討する。
前記(ア)のとおり,上記「切り欠き溝」は 「ディスク外周部にデ ,ィスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する」ものである。
ここでいう「下流側へ延びて…開口する切り欠き溝」という構成が具体的にどのような形状を指すかについて検討すると,本件明細書の記載を参酌すれば,その段落【0004】には,従来例として図9に図(A) 掲げられた図(A)ないし図(L)のディスクについて 「,から(C)に示すように,ディスク外周部にディスク外周円より内側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝91,92,93を複数有するディスク型のもの」と記載され 「下流側へ延びて…開口する切り欠き溝」とい ,う構成の具体例として図(A)ないし図(C)の91,92及び93の部分が示されている。他方で「図(L)に示すように,外周部を段部103を有するように切り欠いたディスク型のもの」と記載されているのに対し,図(L)の103の部分は「段部」として,「切り欠き溝」とは区別されている。このことを考慮すると,従来例として図9に掲げられている図(A)ないし図(L)のディスクのうち,図(A)から図(C)における91,92,93の部分が「切り欠き溝」に当たるもの(これらに限定されるものではないとしても)と解されるのに対し,同図(L)における103のような「段部」は「切り欠き溝」に当たらないものとしていると解される(下図参照 。)また,本件特許発明においては,単なる「切り欠き部」ではなく,あえて「切り欠き溝」と表現しており,本件明細書の段落【0016】には,切り欠き溝の幅Wの好ましい値が示されているところ,同溝幅が次第に拡がっているときはディスク外周円上 段落における「の溝開口から溝深さの2/3程度入り込んだ位置での溝幅」との記載からして溝の両側面が平行である必要まではないものの,少なくとも「切り欠き溝」というためには,幅を観念し得る溝状(なお,「溝」の語義につき,広辞苑〔第4版 (乙3)によれば 「細長く 〕,くぼんだところ」とされている )のものである必要があるというべ 。
きである。このことからすれば 「ディスク回転方向において下流側 ,, へ延びてディスク外周円に開口する」というためには,少なくとも切り欠きによって形成された凹部の底から開口部に向かって延びる二つの側面が,いずれもディスク回転方向において下流側へ延びていることを要し,一方の側面のみが下流側へ延びている形状は「ディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する」構成には当たらないと解すべきである。
また,上記解釈は,構成要件C及び同Dによる数値限定の趣旨からも裏付けられるというべきである。すなわち,上記段落【0014】には 「切り欠き溝Xの数nは,多いほど粉砕能力等が上がると ,考えられるが,多すぎるとディスク強度が低下し,また,摩耗により寿命が短くなるので,上述のとおり,ディスク外径D1〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)程度がよい」と記載されているところ,この記載からすれば,構成要件C及び同Dにおける「切り欠き溝」の個数は,その数が多いほど粉砕能力等が上がるという積極面と,多すぎるとディスク強度が低下し,摩耗により寿命が短くなるという消極面を加味して選択された限定であると解される。そうすると,ここにいう「切り欠き溝」は,その数が多くなればディスク強度が低下し,摩耗により寿命が短くなるような形状のものが想定されていると考えられる。これに対し,, 切り欠きによって形成された凹部の底から延びる二つの側面のうち一方の側面しかディスク回転方向において下流側へ延びていないようなもの(例えば本件明細書図9の図(L)のような段部103)は,その個数を多くしたとしても,直ちにディスク強度が低下したり,摩耗による寿命が短くなるとは考え難い。よって,かかる観点からも 「切り欠き溝」の意義については前記のように解するのが相 ,当といえる。
bこれに対し,原告は 「切り欠き溝」に当たるかどうかは,本件明 ,細書の段落【0005】及び同【0006】の1ないし5の作用効果を奏するか否かによって判断すべきであり,図9の図(A)ないし図(C)に限定すべきではないと主張する。
この点,本件明細書の段落【0005】及び同【0006】には以下の記載があることが認められる。
「 0005】【このようにメディア攪拌型ミルで使用される攪拌用部材には種々のタイプのものがあるが,これらは,ミルにおける攪拌用部材に要求されるつぎのような特性を目指して工夫され,提案されたものである。
▲1▼メディアを速く動かす。
▲2▼ メディアをランダムに動かす 」。
【0006】▲3▼ メディアを容器内に均一に分散させる(容器の被処理流体出口に偏らない 。)▲4▼容器内でメディアを適度に循環させ,いわゆるショート。 パス(ある位置かある位置へ短絡的に動くこと)を発生させない▲5▼メディアの被処理流体からの分離を容易化する 」。
上記段落【0005】及び同【0006】の記載は,従来例について紹介した段落【0004】を受けて,攪拌用部材(ディスク)に求められる一般的な作用効果を1ないし5に分けて示したものと解すべきである。そうすると,仮に,原告が主張するように 「切り欠き ,溝」に当たるか否かを,もっぱら上記1ないし5の作用効果を奏するかどうかによって判断するとすると,段落【0004】において従来例として紹介された図9のディスク全てが「切り欠き溝」の構成を有することになりかねないのであり,例えば図(D)及び図(E)のようにディスク外周部に何らの開口部も有しないような形状のものまで「切り欠き溝」に含まれることにもなるが,このような解釈は 「切,り欠き溝」の語義から逸脱するものというべきである。
したがって,上記1ないし5の作用効果を奏するか否かのみをもって,ディスク外周部の切り欠き部分が本件特許発明にいう「切り欠き溝」に当たるかどうかを判断することは相当でなく,原告の主張は採用できない。
ウカム部が「切り欠き溝」に当たるか上記説示を前提にカム部が「ディスク外周部にディスク外周円より内(ア)側部分からディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する切り欠き溝」に当たるかどうかについて検討する。
まず,カム部もディスク外周部に存し,かつディスク外周円に開口す(イ)るものであると認められる。しかし,前記イにおいて判示したとおり,「ディスク回転方向において下流側へ延びてディスク外周円に開口する」というためには,少なくとも,切り欠きによって形成された凹部の底から開口部に向かって延びる二つの側面が,いずれもディスク回転方向において下流側へ延びていることを要するところ,以下の図で示したとおり,カム部は,いずれも切り欠きによって形成された凹部, の底から延びる上流側の側面が,ディスクの外周円方向に延びておりディスク回転方向において下流側へ延びているとは認められない。
したがって,カム部は,いずれも本件特許発明にいう「切り欠き溝」(ウ)に当たるとは認められない。
エ以上より,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクの「切り欠き溝」は,いずれも4個であるから,被告製品(2)及び同(3)の各ディスクは,いずれも構成要件Dにおける切り欠き溝の個数が「少なくとも5個としてある」を充足しない。
3以上のとおり,被告製品(1)ないし(5)の各ディスクは,いずれも構成要件()C又はDを充足するとは認められない。
3争点1-4(均等侵害の成否)について前記2(2)のとおり,カム部は「切り欠き溝」に当たらず,構成要件Dを充足しないところ,原告は,仮に上記各カム部が「切り欠き溝」に当たらないとしても,本件特許発明の本質的部分は,ディスクの外径に比して「切り欠き溝」や貫通孔の個数を一定数値にすることにあり 「切り欠き溝」の形状は本 ,質的部分ではないなどとして被告製品(2)及び同(3)の各ディスクは本件特許発明均等なものであるとして本件特許権を侵害する旨主張する。
確かに 「切り欠き溝」の形状自体は,本件明細書においても従来例として ,図9の図(A)ないし図(C)に掲げられている公知技術であるとともに,「切り欠き溝」の個数をディスク外径に応じて規定する公知文献は証拠上見当たらないから,少なくとも「切り欠き溝」の個数をディスク外径に応じて規定した点は本件特許発明の本質的部分であるといえる。
しかし,他方で,本件明細書の段落【0014】には,切り欠き溝の個数を切り欠き溝Xの数nは,多いほど粉砕能力等が上が 規定した趣旨について 「,ると考えられるが,多すぎるとディスク強度が低下し,また,摩耗により寿命が短くなるので,上述のとおり,ディスク外径D1〔?o〕の1/15〜1/25(但し小数点以下切り捨ての整数)程度がよい」と記載されており,前記2(2)イ(ウ)aにおいて判示したとおり,本件特許発明は「切り欠き溝」の個数を多くすることによる弊害を避けつつ攪拌の効果を維持するために「切り欠き溝」の個数を規定したものであり,その弊害はまさに「切り欠き溝」が前記2(2)イ(ウ)において認定した形状,すなわち,切り欠きによって形成された凹部の底から開口部に向かって延びる二つの側面がいずれもディスク回転方向において下流側へ延びているという形状であるが故に生じるものである。したがって,本件特許発明は 「切り欠き溝」の上記形状を前提と ,して,その個数を規定したことに本質的な部分があるというべきであり 「切,り欠き溝」の形状をカム部のように変更することは 「切り欠き溝」の個数を ,本件特許発明のように規定したことの主要な根拠となる部分を変更することとなるから 「切り欠き溝」の形状が本件特許発明の本質的部分に当たらない ,ということはできない。
よって,原告の主張は,本件特許発明の本質的部分の置換を前提とするものであるから,均等侵害のその余の要件について検討するまでもなく失当である。
4結論以上より,被告各製品のディスクはいずれも本件特許発明1の技術的範囲に属さず,また被告各製品はいずれも本件特許発明5の技術的範囲にも属さない。
よって,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。