運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2007-26063
関連ワード 容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  相違点の判断 /  周知技術 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (行ケ) 10179号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士花田吉秋
被告特許庁長官
指定代理人北川清伸,紀本孝,岩田洋一,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/11/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2007-26063号事件について平成20年4月7日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,原告が,下記1(1)の特許出願(以下「本件特許出願」という。)についてされた拒絶査定に対して,同1(2)のとおり不服審判請求をしたところ,特許庁は上記審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許出願(甲第4号証)出願人:原告発明の名称:「腰部ガードル」出願日:平成17年9月26日出願番号:特願2005-309068号拒絶査定日:平成19年7月24日(2)不服審判請求等の手続審判請求日:平成19年8月24日(不服2007-26063号)手続補正日:平成19年8月24日(以下「本件補正」という。)(甲第5号証)審決日:平成20年4月7日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年4月22日2本件補正前後の特許請求の範囲の記載(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載(甲第6号証)「腰部を緊縛する腰部ガードルであって,腹部と臀部の上部を包含して緊縛する腹帯部と,該腹帯部の大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーする左右一対の大腿部の保護帯を腹帯部と一体的に形成し,前記保護帯の下端に足を挿通する環状の裾口を設けたことを特徴とする腰部ガードル。」(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載(甲第5号証)「腰部を緊縛する腰部ガードルであって,腹部と臀部の上部を包含して緊縛する腹帯部と,該腹帯部の大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーする左右一対の大腿部の保護帯を前記腹帯部と一体的に形成し,前記保護帯の下端に足を挿通する伸縮性を呈する素材で形成された環状の裾口を設けたことを特徴とする腰部ガードル。」(なお,請求項の数は3個であり,下線部分は本件補正に係る補正箇所である。以下「補正発明」という。)3審決の理由の要旨審決は,補正発明は,特開平11-89864号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから独立特許要件を欠くとして本件補正を却下し,本願発明の要旨を上記2(1)に記載されたとおりのものと認定した上,同記載の発明も引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。審決の理由は以下のとおりである(ただし,項目の番号について改めた部分がある。)。
(1)引用例の記載事項原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平11-89864号公報(引用例)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
a.「伸縮性素材からなる本体を備え,本体は腰部に巻き付けられる腰部ベルトと,大腿部に巻き付けられる大腿部ベルトとからなり,腰部ベルトと大腿部ベルトは装着状態の大腿部の外側部において連結されており,腰部ベルト,大腿部ベルトはそれぞれ両端に面ファスナーを有し,腰部ベルトと大腿部ベルトとの連結部分において・・・(中略)・・・股関節用サポーター。」(特許請求の範囲,【請求項1】)b.「図1,図6は一方の大腿部にのみベルトを装着する型のサポーターであるが,図7に示す実施例は,両大腿部に装着するベルトを有する例を示す。即ち,本体71は伸縮性素材からなり,腰部ベルト72と,左大腿部ベルト73と,右大腿部ベルト74と,腰部ベルト72と左大腿部ベルト73とを連結する連結部分75と,腰部ベルト72と右大腿部ベルト74とを連結する連結部分76とを備え,正中から左右対象に形成されている。腰部ベルト72は腰部に巻き付けられるだけの長さを有し,両端に面ファスナー77,78が取り付けられ,左大腿部ベルト73,右大腿部ベルト74は各大腿部の回りに巻き付けられるだけの長さを有し,両端にそれぞれ面ファスナー79,710,711,712が取り付けられている。腰部ベルト72からそれぞれ連結部分75,76を経て左大腿部ベルト73,右大腿部ベルト74に到る各領域に,・・・(後略)」(段落番号【0013】)c.「【発明の効果】本発明によれば,伸縮性素材からなる本体に重ねて,・・・(中略)・・・それらにより股関節に圧迫力を加えることにより,股関節に対する確実にして十分な圧迫支持力が得られ,・・・(中略)・・・しかもサポーター全体の重量は極めて軽く,フィット感も極めて良好で,体の動きも制限されないという顕著な効果を得ることができる。」(段落番号【0015】)d.図5には,使用に当たり「腰部ベルト」が腹部と臀部の上部を包含するように腰部に巻き付けられて装着され,「腰部ベルト」と「大腿部ベルト」を連結する「連結部分」が大腿部の外側部に位置し,「連結部分」の下端に位置する「大腿部ベルト」が大腿部に巻き付けられてている様子が図示されている。
e.図7には,「腰部ベルト72」と「連結部分75」とが一体的に形成され,また,「腰部ベルト72」と「連結部分76」とが一体的に形成されている様子が図示されている。
上記記載事項及び図示内容を総合し,本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると,引用例には,次の発明(引用発明)が記載されている。
「股関節に対する十分な圧迫支持力が得られる股関節用サポーターであって,本体71は,伸縮性素材からなり,腹部と臀部の上部を包含するように腰部に巻き付けられて使用される腰部ベルト72と,腰部ベルト72と一体的に形成される連結部分75と連結部分76を備え,連結部分75の下端に左大腿部ベルト73を設け,連結部分76の下端に右大腿部ベルト74を設け,股関節用サポーターは,使用に当たり,連結部分75と連結部分76が大腿部の外側部に位置し,左大腿部ベルト73と右大腿部ベルト74はそれぞれ左右の大腿部に巻き付けられる股関節用サポーター。」(2)補正発明と引用発明の対比・判断補正発明と引用発明とを対比すると,その構造または機能からみて,後者の「腰部ベルト72」は前者の「腹帯部」に相当し,以下同様に,「大腿部の外側部」は「大腿部外側」に,「連結部分74」及び「連結部分75」は「左右一対の大腿部の保護帯」にそれぞれ相当する。
また,引用発明の「股関節用サポーター」は,「本体71」が「伸縮性素材」からなり,「腰部ベルト72」を「腰部に巻き付け」て使用するものであるから,「腰部」についても「十分な圧迫支持力が得られる」ことは明らかであるから,引用発明の「股関節用サポーター」は,「腰部を緊縛する腰部ガードル」であるといえる。
また,引用発明の「腰部ベルト72」は「伸縮性素材」からなり,「腹部と臀部の上部を包含するように腰部に巻き付けられて使用される」ものであるから,補正発明の「腹部と臀部の上部を包含して緊縛する腹帯部」であるといえる。
また,引用発明は,「腰部ベルト72」と「連結部分75」,及び,「腰部ベルト72」と「連結部分76」とが一体的に形成され,使用に際しては,「連結部分75と連結部分76が大腿部の外側部に位置」しているから,引用発明の「連結部分75」及び「連結部分76」は,補正発明の「腹帯部の大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーする左右一対の大腿部の保護帯を前記腹帯部と一体的に形成」しているものといえる。
また,引用発明の「連結部分75」と「連結部分76」の下端にある「左大腿部ベルト73」と「右大腿部ベルト74」も伸縮性素材からなる「本体71」を構成するものであるから,引用発明の「左大腿部ベルト73と右大腿部ベルト74はそれぞれ左右の大腿部に巻き付けられる」と補正発明の「保護帯の下端に足を挿通する伸縮性を呈する素材で形成された環状の裾口を設けた」とは,「保護帯の下端において使用時に左右の大腿部に止着される伸縮性を呈する素材で形成された左右の大腿部止着部材を設けた」という概念で共通している。
してみると,両者は「腰部を緊縛する腰部ガードルであって,腹部と臀部の上部を包含して緊縛する腹帯部と,該腹帯部の大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーする左右一対の大腿部の保護帯を前記腹帯部と一体的に形成し,保護帯の下端において使用時に左右の大腿部に止着される伸縮性を呈する素材で形成された左右の大腿部止着部材を設けた腰部ガードル。」の点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点)補正発明の左右の大腿部止着部材は,保護帯の下端に足を挿通する環状の裾口であるのに対し,引用発明の左右の大腿部止着部材は,左右の大腿部に巻き付けられる大腿部ベルト73と右大腿部ベルト74である点。
そこで,上記相違点について検討する。
人体の腰部に装着されるバンド状の部材に接続され,足を挿通する環状の裾口は,例えば,特開平3-60655号公報(第2頁右上欄第10行〜左下欄第10行参照),実公昭52-14102号公報(明細書第2欄第6行〜第34行参照)に示されるように周知であるから,これらの周知の事項を引用発明の左右の大腿部に巻き付けて足を保持する大腿部ベルト73と右大腿部ベルト74に適用し,この左右の大腿部ベルトを足を挿通する環状の裾口に形成し,上記相違点に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
また,補正発明による効果も,引用発明及び上記周知の技術から当業者が容易に予測し得た程度のものであって,格別なものとはいえない。
したがって,補正発明は引用発明及び上記周知の技術から,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
・・・したがって,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(3)本願発明の認定本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,平成19年6月4日付け手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「腰部を緊縛する腰部ガードルであって,腹部と臀部の上部を包含して緊縛する腹帯部と,該腹帯部の大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーする左右一対の大腿部の保護帯を腹帯部と一体的に形成し,前記保護帯の下端に足を挿通する環状の裾口を設けたことを特徴とする腰部ガードル。」(4)本願発明と引用発明の対比・判断本願発明は,・・・補正発明から「環状の裾口」についての限定事項である「伸縮性を呈する素材で形成された」を省いたものである。
そうすると,本願発明を包含し,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,・・・引用発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び上記周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・・以上のとおり,本願発明は,引用発明及び上記周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
第3審決取消事由の要点1取消事由1(引用発明の認定の誤りによる相違点の看過)審決は,引用例には「股関節に対する十分な圧迫支持力が得られる股関節用サポーターであって,本体71は,伸縮性素材からなり,腹部と臀部の上部を包含するように腰部に巻き付けられて使用される腰部ベルト72と,腰部ベルト72と一体的に形成される連結部分75と連結部分76を備え,連結部分75の下端に左大腿部ベルト73を設け,連結部分76の下端に右大腿部ベルト74を設け,股関節用サポーターは,使用に当たり,連結部分75と連結部分76が大腿部の外側部に位置し,左大腿部ベルト73と右大腿部ベルト74はそれぞれ左右の大腿部に巻き付けられる股関節用サポーター。」の発明が記載されていると認定した上,補正発明と対比しているが,以下に述べるとおり審決の上記認定は誤りであり,その結果,審決には相違点を看過した違法がある。
(1)引用例には「股関節用サポーター」の発明が記載されているところ,この股関節用サポーターは,股関節の疾患に基づく大腿骨頭の外偏移動を防止することを課題及び目的としている。そして,軽量で操作がしやすく,日常の動きが制限されないようにしながら,股関節の特定の部位に充分な圧迫力を加えることができるようにするために,伸縮性素材からなる本体に重ねて,「X形状の圧迫部材」と「パッド」を設け,それらにより股関節に圧迫力を加え,特に大転子に局部的な圧迫力を加えるようにしたものである。
したがって,引用例記載の股関節用サポーターは,伸縮性素材からなる本体に加えて「X形状の圧迫部材」及び「パッド」を備えることを一体不可分の構成とするものというべきである。
(2)被告は,引用発明が「X形状の圧迫部材」と「パッド」という構成を有しているとしても,補正発明と引用発明は,引用発明の大腿部止着部材は左右の大腿部に巻き付けられるものであり,環状の裾口とはなっていない点でのみ相違するから,いずれにしても,審決の結論に影響を及ぼすものではないとも主張する。
しかしながら,補正発明の「腰部ガードル」は素肌に直接装着したままで排泄の際に生じる尿・便の飛散による汚損を防ぐようにしているものであるところ,引用発明の「X形状の圧迫部材」は伸縮性素材からなる本体の表面上に固定され,「パッド」は本体の裏側,すなわち肌側に取り付けられて「X形状の圧迫部材」で圧迫し,大転子部位に対して局部的に強い圧迫力を加えるものであるから,該サポーターを長時間装着すると素材と肌との擦れ合いによる不快な摩擦感,皮膚の炎症を生起し,また,肌側にある「パッド」が素肌に食い込むことから苦痛に感じることになる。
したがって,本願発明の「腰部ガードル」は,引用発明にあるような「X形状の圧迫部材」及び「パッド」を含まないものと理解すべきである。
(3)以上によると,審決が,引用例記載の発明において本体と一体不可分の構成となっている「X形状の圧迫部材」及び「パッド」を摘示することなく引用発明を認定したことは誤りであり,これを前提とする審決の対比・判断には相違点を看過した誤りがある。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)審決は,補正発明と引用発明の相違点として,「補正発明の左右の大腿部止着部材は,保護帯の下端に足を挿通する環状の裾口であるのに対し,引用発明の左右の大腿部止着部材は,左右の大腿部に巻き付けられる大腿部ベルト73と右大腿部ベルト74である点。」を認定し,人体の腰部に装着されるバンド状の部材に接続され,足を挿通する環状の裾口は周知であるから,引用発明に周知の事項を適用して,相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであると判断したが,以下に述べるとおり上記判断は誤りである。
(1)本願発明における「環状の裾口」は,これに足を挿入することによって腰部ガードルを脚部に固定し,腹帯部を締めることで装着が行えることから,高齢者の装着作業が簡単なものとなるほか,腰部ガードルのズレ上がりを防止して常に身体にフィットした締め付け状態が持続できるというものであるところ,審決が周知の事項の認定の根拠とした甲第2号証及び甲第3号証には,単に環状の裾口が図示されているに過ぎない。これに対して,補正発明の「腰部ガードル」は,ガードルのよさを生かし,腹部,臀部及び大腿部を覆い,全体的に均一に締め付け,保護帯の下端に足を挿通する伸縮性の環状の裾口を設けることにより,長時間の装着に際しても使用者に負担を感じさせることなく腰痛を効果的に緩和し,腰部ガードルの上方へのズレを防止し,装着に際して高齢者が一人で簡単に装着することを可能とし,素肌に直接装着しても排泄時における支障を回避し得るという目的を達成するものであり,補正発明における「保護帯の下端に足を挿通する伸縮性を呈する素材で形成された環状の裾口」との構成は,これらの目的と分離して理解されるものではない。したがって,補正発明の「環状の裾口」は,甲第2,第3号証から認定される周知技術としての環状の裾口と似て非なるものであり,当業者は,周知技術を引用発明に適用して補正発明に係る「環状の裾口」とすることを動機付けられないというべきである。
また,引用発明は「股関節の疾患に基づく大腿骨頭の外偏移動を防止する」ことを目的とする股関節用サポーターであるところ,仮に,引用発明において仮に腰部ベルトは面ファスナーで固定し,大腿部は環状の裾口とした場合,大腿部の太さは人によってまちまちである上,腰部と大腿部で固定手段が異なることにより,面ファスナーによる腰部ベルトに比して環状の裾口は不安定となって,X形状の圧迫部材上のパッドが大転子からずれて,股関節の特定部位への圧迫力は不十分となってしまうほか,長時間装着すると皺が発生してしまうなどの問題がある。したがって,引用発明に接した当業者は,X形状の圧迫部材上のパッドが大転子からずれないようにし,皺の発生を防ぐためには,腰部と大腿部は両方とも面ファスナーで固定すべきものと考えるのであり,引用発明に周知技術を適用して相違点に係る構成とすることには阻害要因があるというべきである。
(2)以上によると,引用発明に周知の事項を適用して,相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとの審決の判断は誤りである。
3取消事由3(本願発明についての判断の誤り)審決は,本願発明についても,引用発明と対比して上記2のとおりの相違点を認定した上,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたと判断したが,この判断も上記1,2と同様の理由により誤りである。
第4被告の反論の要点1取消事由1(引用発明の認定の誤りによる相違点の看過)に対して原告は,審決による引用発明の認定は誤りであり,これを前提とする審決の対比・判断には相違点を看過した誤りがある旨主張するが,以下に述べるとおり上記主張は失当である。
(1)引用例には,「股関節に対する十分な圧迫支持力が得られる股関節用サポーター」について,?@本体71は,伸縮性素材からなること,?A前記本体71は,腰部ベルト72と,連結部分75と連結部分76を備えること,?B前記腰部ベルト72は,腹部と臀部の上部を包含するように腰部に巻き付けられて使用されるものであること,?C前記連結部分75と連結部分76は腰部ベルト72と一体的に形成されていること,?D前記連結部分75の下端に左大腿部ベルト73が設けられ,前記連結部分76の下端に右大腿部ベルト74が設けられていること,?E股関節用サポーターの使用に当たり,前記連結部分75と前記連結部分76は,それぞれ大腿部の外側部に位置すること,?F股関節用サポーターの使用に当たり,前記左大腿部ベルト73と前記右大腿部ベルト74はそれぞれ左右の大腿部に巻き付けられるものであることが記載されている。
したがって,審決で引用発明として認定したとおりの構成が引用例に記載ないし図示されているということができるから,審決の引用発明の認定に誤りはない。
(2)仮に,原告が主張するように,引用発明と「X形状の圧迫部材」及び「パッド」が一体不可分のものであるとして認定したとしても,引用発明の「腰部ベルトとX形状の圧迫部材の上方部分からなる部分」は補正発明の「腹帯部」に相当し,引用発明の「連結部とX形状の圧迫部材の中央部分とパッドからなる部分」は補正発明の「左右一対の大腿部の保護帯」に相当し,引用発明の「大腿部ベルトとX形状の圧迫部材の下方部分からなる部分」と補正発明の「環状の裾口」とは「保護帯の下端において使用時に左右の大腿部に止着される伸縮性を呈する素材で形成された左右の大腿部止着部材」である点で共通するものであるから,結局,審決の認定した一致点において一致し,相違点は引用発明の大腿部止着部材は左右の大腿部に巻き付けられるものであり,環状の裾口とはなっていない点でのみ相違するものである。
したがって,結局,補正発明と引用発明は,引用発明の大腿部止着部材は左右の大腿部に巻き付けられるものであり,環状の裾口とはなっていない点でのみ相違するから,審決における引用発明の認定に原告主張の誤りがあったとしても,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(3)以上によると,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対して原告は,審決は「環状の裾口」を周知の事項と認定したが,甲第2号証及び甲第3号証には,単に環状の裾口が図示されているに過ぎず,これは補正発明の「環状の裾口」とは似て非なるものであるから,このような周知技術を引用発明に適用して補正発明に係る構成とすることについて,当業者に動機付けがない旨主張するほか,引用発明に接した当業者は,X形状の圧迫部材上のパッドが大転子からずれないようにし,皺の発生を防ぐために,腰部と大腿部は両方とも面ファスナーで固定すべきものと考えるのであり,引用発明に周知技術を適用して相違点に係る構成とすることには阻害要因があると主張するが,以下に述べるとおり上記主張はいずれも失当である。
(1)審決は,甲第2号証及び甲第3号証から「人体の腰部に装着されるバンド状の部材に接続され,足を挿通する環状の裾口」が周知の事項であるとしたうえで,当該周知の事項を引用発明の左右の大腿部に巻き付けて足を保持する大腿部ベルト73と右大腿部ベルト74に適用し,この左右の大腿部ベルトを足を挿通する環状の裾口に形成し,上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとしたものであり,甲第2号証及び甲第3号証から,補正発明の構成である「環状の裾口」そのものを周知技術として認定し,これを単純に引用発明に適用して補正発明の構成とすることが容易であるとしたものではないから,原告の主張は前提を誤っている。
そして,引用発明の「大腿部ベルト73,74」は,伸縮性を呈する素材で形成され,装着者の大腿部に巻き付けられて固定するものであるから,このような引用発明に審決が認定した周知の事項を適用し,「大腿部ベルト73,74」による大腿部への止着もしくは係止に代えて,「環状の裾口」による大腿部への止着もしくは係止とすることは当業者であれば容易になし得ることであり,その際に,面ファスナーによる腰部ベルトに比して環状の裾口が不安定となることなく,同等な固定力で大腿部を保持できる「環状の裾口」の径とすることは当業者であれば当然考慮すべきことである。
したがって,引用発明及び上記周知の事項に接した当業者であれば,面ファスナーで固定する「大腿部ベルト73,74」に代えて「環状の裾口」とした場合に,大腿部に十分な固定力を保持できるような「環状の裾口」とすることは当然であり,股関節用サポーターを装着する者の大腿部の太さに合わせて十分な固定力が保持できるような環状の裾口の径とする程度のことは単なる設計的な事項にすぎないことである。
(2)以上によると,引用発明において大腿部ベルトを伸縮性の素材の環状の裾口とすることには動機付けがなく,阻害要因があるとの主張は誤りであり,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(本願発明についての判断の誤り)に対して上記1,2のとおり,取消事由1,2はいずれも理由がないから,同様の理由により,本願発明についての審決の判断にも誤りはなく,取消事由3は理由がない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用発明の認定の誤りによる相違点の看過)について原告は,審決が,引用例記載の発明を認定するに当たり,本体と一体不可分の構成となっている「X形状の圧迫部材」及び「パッド」を摘示することなく引用発明を認定したことは誤りであり,これを前提とする審決の対比・判断には相違点を看過した誤りがあると主張するので,以下において検討する。
(1)引用例の記載引用例(甲第1号証)には,次の各記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は,股関節の種々の疾患に対応する股関節用サポーターに関する。
【従来の技術】股関節の脱臼,亜脱臼,臼蓋形成不全等の関節面の不安定疾患,外転筋力低下,機能不全,股関節拘縮,跛行,疼痛等大腿骨頭の外偏移動を防止するための股関節用サポーターには種々のものが開発されているが,硬性の材料を用いた装具として構成されたものが多く,それらは重く,装着が面倒で,日常的な動きが制限され,一方伸縮性の材料を用いた股関節用サポーターは,不安定な股関節に対する圧迫力が充分に得られず,特に股関節の特定の部位に局部的に圧迫力を加えることができず,更に伸縮性材料の被覆面積が大きく,体の動きが制限されるという問題点がある。
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,股関節の疾患に基づく大腿骨頭の外偏移動を防止するためのサポーターを,軽量で,操作がしやすく,日常の動きが制限されず,しかも股関節に対する充分な圧迫力,特に股関節の特定の部位に対する圧迫力が得られるように構成することにある。
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するため,本発明においては,伸縮性素材からなる本体を備え,本体は腰部に巻き付けられる腰部ベルトと,大腿部に巻き付けられる大腿部ベルトとからなり,腰部ベルトと大腿部ベルトは装着状態の大腿部の外側部において連結されており,腰部ベルト,大腿部ベルトはそれぞれ両端に面ファスナーを有し,腰部ベルトと大腿部ベルトとの連結部分において両ベルト間に亘る位置に本体と同等又はそれ以上の高伸縮性の素材からなるX形状の圧迫部材を設け,本体の装着時ほぼ大転子に対向する位置に脱着可能(段落【0001】〜【0004】) なパッドを取り付けるものである。」「図1,図6は一方の大腿部にのみベルトを装着する型のサポーターであるが,図7に示す実施例は,両大腿部に装着するベルトを有する例を示す。即ち,本体71は伸縮性素材からなり,腰部ベルト72と,左大腿部ベルト73と,右大腿部ベルト74と,腰部ベルト72と左大腿部ベルト73とを連結する連結部分75と,腰部ベルト72と右大腿部ベルト74とを連結する連結部分76とを備え,正中から左右対象に形成されている。腰部ベルト72は腰部に巻き付けられるだけの長さを有し,両端に面ファスナー77,78が取り付けられ,左大腿部ベルト73,右大腿部ベルト74は各大腿部の回りに巻き付けられるだけの長さを有し,両端にそれぞれ面ファスナー79,710,711,712が取り付けられている。腰部ベルト72からそれぞれ連結部分75,76を経て左大腿部ベルト73,右大腿部ベルト74に到る各領域に,本体71と同等又はそれより高伸縮性の素材よりなるそれぞれ2つの圧迫ベルト713,714,715,716がX形状をなすように交差して本体71の表面上に固定されている。また本体71の裏側,即ち肌側において,装着時大転子に対向する部分にそれぞれパッド717,718が取り付けられている。このサポーターは装着状態では,圧迫ベルト713,714の組が腰部から左大腿部にかけての体の左側部に位置し,圧迫ベルト715,716の組が腰部から右大腿部にかけての体の右惻部に位置し,パッド717は左大腿部の大転子に,パッド718は右大腿部の大転子に対向する位置をとる。なお,圧迫ベルトは,本体の表面上に全体的に固定せず,図6に示す実施例のように,一端のみ本体に固定し,他端は自由端とし(段落【0013】) て面ファスナーを設け,本体上に係着し得るようにしてもよい。」「上述の各実施例においてはX形状の圧迫部材を2本のベルトを交差させることにより形成したが,高伸縮性の生地をX形状に裁断して形成してもよい。又パッドは本体の裏側に取り付けたものを示したが,本体の面側でX形状の圧迫部材との間に挿入するようにすることもでき(段落【0014】) る。」「【発明の効果】本発明によれば,伸縮性素材からなる本体に重ねて,本体と同等又はそれ以上の高伸縮性の素材からなるX形状の圧迫部材とパッドとを設け,それらにより股関節に圧迫力を加えることにより,股関節に対する確実にして十分な圧迫支持力が得られ,特に大転子部位に対して局部的に圧迫力が加えられ,かつ大転子を外転させるような力が生じ,しかもサポーター全体の重量は極めて軽く,フィット感も極めて良好で,体の動きも制限されないとい(段落【0015】) う顕著な効果を得ることができる。」(2)上記(1)の各記載によると,引用例には,「股関節に対する十分な圧迫支持力が得られるパッド付き股関節用サポーターであって,本体71は,伸縮性素材からなり,腹部と臀部の上部を包含するように腰部に巻き付けられて使用される腰部ベルト72と,腰部ベルト72と一体的に形成される連結部分75と連結部分76を備え,連結部分75の下端に左大腿部ベルト73を設け,連結部分76の下端に右大腿部ベルト74を設け,腰部ベルト72と左右の大腿部ベルト(73,74)との連結部分において,それぞれ,両ベルト間に亘る位置にX形状の圧迫部材(713,714,715,716)を設け,本体の装着時,X形状の交差位置であって,ほぼ大転子に対向する位置に脱着可能なパッド(717,718)を取り付けたパッド付き股関節用サポーター」の発明(以下「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
そして,引用例記載の発明は,上記(1)の記載にあるとおり,「股関節の疾患に基づく大腿骨頭の外偏移動を防止するためのサポーターを,軽量で,操作がしやすく,日常の動きが制限されず,しかも股関節に対する充分な圧迫力,特に股関節の特定の部位に対する圧迫力が得られるように構成する」ことを課題とし,当該課題を解決するために,「伸縮性素材からなる本体を備え,本体は腰部に巻き付けられる腰部ベルトと,大腿部に巻き付けられる大腿部ベルトとからなり,腰部ベルトと大腿部ベルトは装着状態の大腿部の外側部において連結されており,腰部ベルト,大腿部ベルトはそれぞれ両端に面ファスナーを有し,腰部ベルトと大腿部ベルトとの連結部分において両ベルト間に亘る位置に本体と同等又はそれ以上の高伸縮性の素材からなるX形状の圧迫部材を設け,本体の装着時ほぼ大転子に対向する位置に脱着可能なパッドを取り付ける」との構成を備えるものであるから,引用例記載の発明として,上記課題中の中核をなす「股関節の疾患に基づく大腿骨頭の外偏移動を防止する」という機能を果たすために必須の構成である「本体と同等又はそれ以上の高伸縮性の素材からなるX形状の圧迫部材」及び「本体の装着時ほぼ大転子に対抗する位置に脱着可能なパッドを取り付ける」という構成を備えないものを認定することは相当ではないというべきである。
(3)上記(2)によると,審決はこの点において引用発明の認定を誤ったものといわざるを得ず,原告の主張はこの点を指摘する限りにおいて正当であるが,引用発明の認定の誤りによって審決が相違点を看過したものというべきかどうかは,対比すべき発明との関係において定まる事柄であり,引用例記載の発明との対比の結果,審決が認定した相違点と実質的に異なる相違点が認定されなければ,なお審決の結論に影響を及ぼさないことがあり得る。
そこで上記観点から更に検討する。まず,補正発明を再掲すると,以下のとおりである。
「腰部を緊縛する腰部ガードルであって,腹部と臀部の上部を包含して緊縛する腹帯部と,該腹帯部の大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーする左右一対の大腿部の保護帯を前記腹帯部と一体的に形成し,前記保護帯の下端に足を挿通する伸縮性を呈する素材で形成された環状の裾口を設けたことを特徴とする腰部ガードル。」ア引用例記載の発明においては,「本体71」が「伸縮性素材」からなり,「腰部ベルト72」を「腰部に巻き付け」て使用し,股関節に圧迫力を加えるものであるから,「腰部」についても「十分な圧迫支持力が得られる」ものであることは明らかである。
したがって,補正発明と引用例記載の発明とは,「腰部を緊縛する機能を有するもの」である点で共通するものといえる。
イ補正発明の「腹帯部」は,腹部と臀部の上部を包含して緊縛するものであるところ,引用例記載の発明の「腰部ベルトとX形状の圧迫部材の上方部分からなる部分」も,腹部と臀部の上部を包含して緊縛するものであるから,引用例記載の発明の「腰部ベルトとX形状の圧迫部材の上方部分からなる部分」は,補正発明の「腹帯部」に相当する。ここで,引用例記載の発明の「X形状の圧迫部材」は,本体の装着時ほぼ大転子に対向する位置に脱着可能なパッドを取り付け,これを支持するためのものではあるが,「本体と同等又はそれ以上の高伸縮性の素材からなる」ものであり,「X形状の圧迫部材」の存在によって,腹部と臀部の上部を包含して緊縛する機能が向上することはあっても,これが阻害されることはないと認められるから,引用例記載の発明と補正発明における上記対応関係を認定することに何ら問題はないというべきである。
ウ補正発明の「左右一対の大腿部の保護帯」は,「腹帯部」と一体的に形成され,大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーするように配置されるものであるところ,引用例記載の発明の「連結部とX形状の圧迫部材の中央部分とパッドからなる部分」も,「腰部ベルト」と一体的に形成され,大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーするように配置されているものであるから,引用例記載の発明の「連結部とX形状の圧迫部材の中央部分とパッドからなる部分」は,補正発明の「左右一対の大腿部の保護帯」に相当する。ここで,引用例記載の発明の「パッド」は本体の装着時ほぼ大転子に対向する位置に脱着可能に取り付けられるものであるが,「パッド」の存在によって,「保護帯」としての機能が阻害されるものでないばかりでなく,上記(2)のとおり,「パッド」は脱着可能なものであるから,引用例記載の発明と補正発明の上記対応関係を認定することに何ら問題はないというべきである。
エ補正発明の「環状の裾口」は,「左右一対の大腿部の保護帯」の下端に足を挿通する伸縮性を呈する素材で形成されるものであるところ,引用発明の「大腿部ベルトとX形状の圧迫部材の下方部分からなる部分」は,「連結部とX形状の圧迫部材の中央部分とパッドからなる部分」の下端に配置され,「大腿部ベルト」及び「X形状の圧迫部材」が伸縮性を有する素材で形成され,装着者の大腿部に巻き付けられて固定されるものであるから,引用例記載の発明の「大腿部ベルトとX形状の圧迫部材の下方部分からなる部分」と,補正発明の「環状の裾口」とは「保護帯の下端において使用時に左右の大腿部に止着される伸縮性を有する素材で形成された左右の大腿部止着部材」である点で共通するものといえる。ここでも,「X形状の圧迫部材の下方部分」の存在によって,左右の大腿部止着部材としての機能が阻害されるものでないことは明らかであるから,引用例記載の発明と補正発明の上記対応関係を認定することに何ら問題はないというべきである。
(4)上記(3)によると,補正発明と引用例記載の発明とは,「腰部を緊縛するものであって,腹部と臀部の上部を包含して緊縛する腹帯部と,該腹帯部の大腿部に相当する位置に大腿部外側をカバーする左右一対の大腿部の保護帯を前記腹帯部と一体的に形成し,前記保護帯の下端に使用時に左右の大腿部に止着される伸縮性を呈する素材で形成された左右の大腿部止着部材を設けたことを特徴とするもの」である点で一致し,つぎの各点で相違する。
「補正発明が『腰部ガードル』であるのに対して,引用例記載の発明は『パッド付き股関節用サポーター』である点」(相違点1)「左右の大腿部止着部材に関し,本願補正発明が『保護帯の下端に足を挿通する伸縮性を呈する素材で形成された環状の裾口』であるのに対して,引用例記載の発明は大腿部に巻き付けられる左右の大腿部ベルトとX形状の圧迫部材の下方部分からなる部分である点」(相違点2)これらのうち,上記の相違点1については,引用例記載の発明,補正発明のいずれにおいても「腰部に十分な圧迫支持力が得られる」ことは上記(3)アのとおりであるほか,引用例記載の発明である「パッド付き股関節用サポーター」としての機能を果たす構成である「X形状の圧迫部材」及び「パッド」の存在によっても,補正発明の腰部ガードルとしての機能を果たすことに問題がないことは上記(3)イ〜エのとおりであるから,相違点1として残る部分はいわば発明に付与する名称の相違とでもいうべきものであり,これをもって実質的な相違点ということはできない。
そして,相違点2は,審決が認定した相違点との関係では,引用例記載の発明における左右の大腿部止着部材が,大腿部ベルトのほかに「X形状の圧迫部材の下方部分」も含まれる点で異なるものの,引用例記載の発明において,大腿部止着機能が主として大腿部ベルトによって果たされることはその構成から明らかであり,「X形状の圧迫部材の下方部分」がこの点において特段の作用をするものでないことも明らかであるから,審決の認定した相違点と上記相違点2が実質的に異なるものであるということはできない。
(5)以上によると,審決の引用発明の認定には一部誤りがあるものではあるが,その誤りは補正発明との対比おいて相違点を看過した違法をもたらすものとまではいえないから,引用発明の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすということはできない。
したがって,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について原告は,審決は「環状の裾口」を周知の事項と認定したが,甲第2号証及び甲第3号証には,単に環状の裾口が図示されているに過ぎず,これは補正発明の「環状の裾口」とは似て非なるものであるから,このような周知技術を引用発明に適用して補正発明に係る構成とすることについて,当業者に動機付けがない旨主張するほか,引用発明に接した当業者は,X形状の圧迫部材上のパッドが大転子からずれないようにし,皺の発生を防ぐために,腰部と大腿部は両方とも面ファスナーで固定すべきものと考えるのであり,引用発明に周知技術を適用して相違点に係る構成とすることには阻害要因があると主張するので,以下において検討する。
(1)審決認定の周知技術についてア特開平3-60655号公報(甲第2号証)には次の各記載がある。
「腰の骨盤側部に回動自在に保持された軸杆の上端部を前記保持点より上方の上半身に当て,軸杆の下端部を前記保持点より下方に位置させ,脚に固着した止着帯と軸杆の下端とを弾性帯で連結して成り,上半身の前傾時に腰ついにかかる力を身体の上下半身に分担させること(特許請求の範囲(1)) を特徴とする腰痛防止作業具」「左右同形の軸杆1は中央部で身体の下腹部に掛け回すバンド2に軸3で回動自在に取り付けられている。バンド2は止錠4と止孔5の係合により下腹部に固着自在となる。・・・膝関節10より下方の脚11に外嵌する止着帯12は脚から挿通するようにした環状帯で,脚11にしつかり止着できるよう脚に巻き付ける紐13を付している。止着帯12と軸杆1の下端間(2頁右上欄10行〜 は伸長自在にした弾性帯14で連結してこの発明は構成される。」左下欄10行)これらの記載によると,甲第2号証には,腰痛防止作業具を装着するにあたって,同作業具を脚部において止着するために,脚部を挿通するようにした環状帯を用いることが記載されていることが認められる。
イ実公昭52-14102号公報(甲第3号証)には,次の各記載がある。
「マヂツクテープ(マヂツクは登録商標,以下全て同じ)4,4’を取付けた胸帯2及び腹帯3を袋状に形成した胸当布1,1’の上下両端面に縫着し,該マヂツクテープにより胸当布1,1’を連結可能にすると共に,この胸当布1,1’の下辺に継帯5A,5B,5Cの一端を縫着し,他端を腰帯6に着し,更に大たい部帯7,7’と腰帯6とを継帯8,8’で縫着すると共に,胸帯2の背面より腰帯6,及び大たい部帯7,7’にそれぞれゴム帯9A,9B,9Cを取付けて伸縮可能にし,該腰帯背面より先端にマヂツクテープ11を取付けた股帯10を,この腰帯6の前面に連結すると共に,一端を胸帯2に他端にマヂツクテープ13,13’を取付けた肩帯12,12’を胸当布1,1’に着脱可能に連結して成る老人用健康下(実用新案登録請求の範囲) 着」「・・・両足をそれぞれ大たい部帯7,7’に入れ,下着全体を引き上げると大たい部帯7.7’は大たい部により係止され,更に肩帯12,12’を肩から回して胸当布1,1’にマヂツクテープ13,13’により調整しながら連結し更に胸当布1,1’を胸幅に合わせて胸帯2と腹帯3のマヂツクテープ4,4’を連結させることにより,下着の背面に取付けたゴ(2欄25 ム帯9A,9B,9Cが緊張し体が背面に引張られ,前屈姿勢が矯正される。」〜34行)これらの記載によると,甲第3号証には,老人用健康下着を装着するにあたって,同下着を脚部において止着するために,脚部を挿通するようにした環状帯を用いることが記載されていることが認められる。
ウ上記ア,イによると,本件特許出願時において,人体に装着する各種の補助具を脚部で止着するために,脚部を挿通するようにした環状帯を用いることは周知の技術であったいうことができる。
(2)以上を踏まえて,引用例記載の発明に基づいて,上記1(4)において認定した相違点2に係る構成とすることが,当業者にとって容易かどうかについて検討する。
引用例記載の発明である「パッド付き股関節用サポーター」は,人体のうち,特に腰部から大腿部にかけて装着するものであり,その装着にあたり,左右大腿部ベルト73,74を大腿部に巻き付けて面ファスナーにより止着するものであるから,左右大腿部ベルト73,74の止着状態における形状が環状裾口形状となることは明らかである。
そして,伸縮性のある裾口に脚部を挿通することによって,脚部において下着等の止着位置を定めることは日常的に見られることであるから,上記「パッド付き股関節用サポーター」の左右大腿部ベルトを予め環状の裾口形状の構成とし,これに大腿部を挿通することによって大腿部に止着可能となることは,当業者であれば当然理解し得る程度のことである。
また,上記(1)において認定したとおり,人体に装着する各種の補助具を脚部において止着するために,脚部を挿通するようにした環状帯を用いることは,本件特許出願時において周知の技術であったことからすると,引用例記載の発明において,股関節用サポーターを左右大腿部に止着するために脚部を挿通するようにした環状帯を用いるようにすることは,当業者が適宜なし得る程度の設計的事項であるというべきである。
原告は,当業者は上記の周知技術を引用例記載の発明に適用することについて動機付けられないと主張するが,上記周知技術は人体の形状を利用して衣類等の装着物を止着しようとするものであるから,引用例記載の発明に係る「パッド付き股関節用サポーター」を止着して上方へのズレを防止しようとする当業者が,止着部分に上記周知技術を適用しようと動機付けられることは明らかである。
なお,原告は,補正発明の「腰部ガードル」は,ガードルのよさを生かし,腹部,臀部及び大腿部を覆い,全体的に均一に締め付け,保護帯の下端に足を挿通する伸縮性の環状の裾口を設けることにより,長時間の装着に際しても使用者に負担を感じさせることなく腰痛を効果的に緩和し,腰部ガードルの上方へのズレを防止し,装着に際して高齢者が一人で簡単に装着することを可能とし,素肌に直接装着しても排泄時における支障を回避し得るという目的を達成するものであるから,補正発明における「保護帯の下端に足を挿通する伸縮性を呈する素材で形成された環状の裾口」だけが分離して理解されるべきものではないと主張するが,補正発明が腹部,臀部及び大腿部を覆い,全体的に均一に締め付けるものであるとの点については,特許請求の範囲に記載がないといわざるを得ないから,相違点の判断において,補正発明が原告主張のようなものであることを前提とすることはできない。
(3)原告は,引用発明に接した当業者は,X形状の圧迫部材上のパッドが大転子からずれないようにし,皺の発生を防ぐためには,腰部と大腿部は両方とも面ファスナーで固定すべきものと考えるのであり,引用発明に周知技術を適用して相違点(相違点2)に係る構成とすることには阻害要因があると主張するが,当業者が引用例記載の発明に環状の裾口を設けるに際して,サポーターを大腿部に止着するために必要となる保持力を得られるようにするとともに,想定される装着者の大腿部の太さに合わせて環状帯のサイズを定めることは,当業者であれば当然に考慮すべきことであるから,原告主張に係る阻害要因があるとは認められない。
また,原告は,取消事由1の主張として,補正発明の「腰部ガードル」は素肌に直接装着したままで排泄の際に生じる尿・便の飛散による汚損を防ぐようにしているものであるところ,引用発明のサポーターを長時間装着すると素材と肌との擦れ合いによる不快な摩擦感,皮膚の炎症を生起し,また,肌側にある「パッド」が素肌に食い込むことから苦痛に感じることになると主張しており,この主張は取消事由2における阻害要因の主張と捉えることもできるが,引用例記載の発明におけるパッドは脱着可能なものであること,X形状の圧迫部材の材質については「本体と同等又はそれ以上の高伸縮性の素材からなる」ものではあるが,それ以外の点で素材に限定はないことからすると,引用例記載の発明に環状の裾口を設けたものが,素肌に直接装着することができないということにはならないし,そもそも補正発明に係る「腰部ガードル」が必ず素肌に直接装着されるものであるということもできないから,原告の主張は失当である。
(4)以上によると,審決の相違点についての判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(本願発明についての判断の誤り)について上記1,2のとおり,取消事由1,2はいずれも理由がないというべきであり,審決が,本件補正を却下し,本願発明の要旨を前記第2の2(1)のとおり認定したことに誤りはない。
そして,補正発明における「環状の裾口」について「伸縮性を呈する素材で形成された」との発明特定事項を欠く点のみが実質的に異なる本願発明についても,上記1,2と同様の理由により,当業者が容易に発明することができたものというべきであるから,本願発明についての審決の判断にも誤りはなく,取消事由3は理由がない。
第6結論以上のとおり,取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求を棄却すべきであるから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記