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関連審決 不服2002-20490
関連ワード 協議 /  インターネット /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  優先権 /  国内優先権 /  クレーム /  実施 /  交換 /  対価 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  国際公開 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10374号 審決取消請求事件
原告株式会社オサマジョール
訴訟代理人弁理 士保立浩一
被告特許庁長官 鈴木隆史
指定代理人久保田健
同 藤内光武
同 小山和俊
同 山本章裕
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/08/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-20490号事件について平成19年9月10日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない前提事実
1 特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「電子請求書管理システム」とする発明について,平成13年3月16日(国内優先権主張平成12年12月28日)に特許出願(以下「本願」という。)をし,平成14年9月17日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月22日,これに対する不服の審判(不服2002-20490号事件)を請求し,平成19年6月25日付け手続補正書(甲8)により本願に係る明細書を補正した(以下,この補正後の明細書を「本願明細書」という。)。
(2)特許庁は,平成19年9月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本が同年10月3日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の記載(以下,この記載の発明を「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「電子請求書を発行する請求人が有する情報端末である複数の請求人情報端末と,電子請求書によって支払が請求される被請求人が有する情報端末である複数の被請求人情報端末との双方に,ネットワークを介してつながっている電子請求書管理システムであって,前記複数の請求人端末の各々から送られる電子請求書を受信する受信手断と,前記受信手段が受信した電子請求書について,所定の期間内に同一の被請求人に対して異なる請求人から発行された電子請求書を集めてそれらの電子請求書の支払を一括してできるようそれらの電子請求書に含まれる情報をとりまとめるとりまとめ手段と,とりまとめ手段がとりまとめた情報を所定の時期にその被請求人が有する被請求人情報端末にネットワークを介して送信する送信手段とから成り,前記受信手段が受信した電子請求書の中から,その電子請求書における請求人が誰であるかに関する情報である請求人情報と,その電子請求書における被請求人が誰であるかに関する情報である被請求人情報と,その電子請求書における請求金額の情報である金額情報と,その請求金額が対価として請求されるに至った原因に関する情報である原因情報とを,それぞれ抽出する抽出手段を備えており,前記とりまとめ手段は,抽出手段が抽出した情報のうち,請求人情報,金額情報及び原因情報とを前記同一の被請求人ごとにとりまとめてリスト化した請求リストを作成するものであって,前記送信手段はこの請求リストを送信するものであり,前記とりまとめ手段は,請求リストにある請求金額の合計を算出してその請求リストに表示されるようにするものであり,さらに,請求人に自分が発行した電子請求書の支払状況についてモニタさせる支払状況モニタ手段が設けられており,前記請求リストは,請求リストに含まれる個々の電子請求書について,個々に支払いの意志の有無を入力する欄を有しており,支払状況モニタ手段は,前記請求リストを受信した前記被請求人端末において,前記支払の意志の有無の欄に意志有りが入力されて送信されると,その電子請求書を発行した請求人が有する請求人情報端末に,その支払意志有りの旨のデータを送信するものであることを特徴とする電子請求書管理システム。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その要旨は,本願発明は,引用例(R・M・Y著「Electronic Bill Presentment and Payment(EBPP)サービスモデルの比較分析」(電子情報通信学会技術研究報告・Vol.100 No.206。平成12年7月12日。7頁〜14頁。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知例1,2(甲2,3)記載の周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
4 審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点(1) 一致点「電子請求書を発行する請求人が有する情報端末である複数の請求人情報端末と,電子請求書によって支払が請求される被請求人が有する情報端末である複数の被請求人情報端末との双方に,ネットワークを介してつながっている電子請求書管理システムであって,前記複数の請求人端末の各々から送られる電子請求書を受信する受信手断と,前記受信手段が受信した電子請求書について,所定の期間内に同一の被請求人に対して異なる請求人から発行された電子請求書を集めてそれらの電子請求書の支払を一括してできるようそれらの電子請求書に含まれる情報をとりまとめるとりまとめ手段と,とりまとめ手段がとりまとめた情報を所定の時期にその被請求人が有する被請求人情報端末にネットワークを介して送信する送信手段とから成り,前記受信手段が受信した電子請求書の中から,その電子請求書における請求人が誰であるかに関する情報である請求人情報と,その電子請求書における被請求人が誰であるかに関する情報である被請求人情報と,その電子請求書における請求金額の情報である金額情報と,その請求金額が対価として請求されるに至った原因に関する情報である原因情報とを,それぞれ抽出する抽出手段を備えており,前記とりまとめ手段は,抽出手段が抽出した情報のうち,請求人情報,金額情報及び原因情報とを前記同一の被請求人ごとにとりまとめてリスト化した請求リストを作成するものであって,前記送信手段はこの請求リストを送信するものであり,前記集約された明細請求情報を受信した前記被請求人端末において,支払いの承認が入力されて送信されることを特徴とする電子請求管理システム」(2) 相違点?@前者の電子請求書管理システムは,電子請求書を発行する請求人が有する情報端末である複数の請求人情報端末と,電子請求書によって支払が請求される被請求人が有する情報端末である複数の被請求人情報端末との双方に,ネットワークを介してつながっているのに対して,後者の電子請求書管理システムは,電子請求書を発行する請求人が有する情報端末である複数の請求人情報端末とは通信回線を介してつながっており,電子請求書によって支払が請求される被請求人端末である複数の被請求人情報端末とはネットワークを介してつながっている点。
?A前者のとりまとめ手段は,受信手段が受信した電子請求書について,所定の期間内に同一の被請求人に対して異なる請求人から発行された電子請求書を集めてそれらの電子請求書の支払を一括してできるようにそれらの電子請求書に含まれる情報をとりまとめるものであるのに対して,後者のとりまとめ手段は,受信者が受信した電子請求書について,所定の期間内に同一の被請求人に対して異なる請求人から発行された電子請求書を集めてそれらの電子請求書の支払を一括してできるようそれらの電子請求書に含まれる情報をとりまとめるものであるが,それらの電子請求書の支払を一括してできるようになっているか,不明な点。
?B前者の送信手段は,とりまとめ手段がとりまとめた情報を所定の時期にその被請求人が有する被請求人情報端末にネットワークを介して送信しているのに対して,後者の送信手段は,とりまとめ手段がとりまとめた情報を所定の時期にその被請求人が有する被請求人情報端末にネットワークを介して送信しているが,その送信時期は,不明な点。
?C前者では,とりまとめ手段は,抽出手段が抽出した情報のうち,請求人情報,金額情報及び原因情報とを前記同一の被請求人ごとにとりまとめてリスト化した請求リストを作成するものであって,前記送信手段はこの請求リストを送信するものであるのに対し,後者では,とりまとめ手段は,抽出手段が抽出した情報のうち,請求人情報,金額情報及び原因情報とを前記同一の被請求人ごとにとりまとめてリスト化した請求リストを作成するものであるが,リスト化した請求リストを作成するのか,不明であり,送信手段はこの請求リストを送信するか,不明な点。
?D前者のとりまとめ手段は,請求リストにある請求金額の合計を算出してその請求リストに表示されるようにするものであるのに対して,後者のとりまとめ手段は,この点が不明な点。
?E前者では,請求人に自分が発行した電子請求書の支払状況についてモニタさせる支払状況モニタ手段が設けられているのに対して,後者では,この点が不明な点。
?F前者では,請求リストは,請求リストに含まれる個々の電子請求書について,個々に支払いの意志の有無を入力する欄を有するのに対して,後者では,この点が不明な点。
?G前者では,支払い状況モニタ手段は,前記請求リストを受信した被請求人端末において,支払いの意志の有無の欄に意志ありが入力されると,その電子請求書を発行した請求人が有する請求人情報端末に,その支払い意志有りの旨のデータを送信するのに対して,後者は,そうでない点。
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,特許法29条2項進歩性の判断に当たり,(1)引用例が情報抽出手段を有しているとして,この点で本願発明と引用発明と一致すると認定した誤り(取消事由1),(2)技術分野が不特定な周知例に基づいて周知事項を認定し,また一つの文献のみから周知事項を認定し,本願発明が容易想到であると判断した誤り(取消事由2),(3)支払指示と支払意志が支払の承認という概念で共通するとの理由で,本願発明が容易想到であると判断した誤り(取消事由3)がある。
(1) 取消事由1(引用例が情報抽出手段を有していると認定した誤り)ア審決は,「引用例は,受信手段が受信した電子請求書の中から,その電子請求書における請求人が誰であるかに関する情報である請求人情報と,その電子請求書における被請求人が誰であるかに関する情報である被請求人情報と,その電子請求書における請求金額の情報である金額情報と,その請求金額が対価として請求されるに至った原因に関する情報である原因情報とを,それぞれ抽出する抽出手段を有する点において,本願発明と一致している。」旨認定した(審決書5頁以下)。
イしかし,引用例は,その図6のモデル(甲1の12頁)について,コンソリデータ(サービス統合提供者)が「抽出手段」を有する旨の説明をしておらず,各請求事業者において請求明細情報をコンソリデータに送る際には,送る請求明細情報をTransPointのデータセンタで利用可能なデータフォーマットに変換するとしていることに照らすならば(甲1の11頁右上段),請求明細情報の送付を受けた後にコンソリデータが更に情報を抽出するのではなく,BISの提供を受けた各請求事業者の側において,情報の抽出や変換を行っているものと考えられる。したがって,審決が,引用例は,情報抽出手段を有しているとし,この点について,本願発明と引用発明とは一致していると認定した点(審決書5頁以下)に誤りがある。
この点について,被告は,各請求業者からの請求明細情報を特定のサービス利用者ごとにとりまとめることを,各利用者ごとに抽出することと同義であると主張する。しかし,「とりまとめる」とは,「あれやこれやを一つにまとめる。」等を意味するのに対して,「抽出する」とは,「抜き出すこと。ひき出すこと」等を意味するから(甲29),両者の意味は異なる。そもそも引用例は,「集約する」という語を用いているが,「集約する」とは,「あつめてまとめつづること」を意味しているから(甲29),「抽出する」との意味を含まない。
以上のとおり,引用例に「抽出手段」があるとした審決の認定は,誤りである。
(2)取消事由2(技術分野が不特定な周知例に基づいて周知事項とし,また一つの文献のみから周知事項と認定して,容易想到であると判断した誤り)ア 周知事項1について審決は,特開平7-249145号公報(甲2。以下「周知例1」という。)及び国際公開第2000/072245号パンフレット(甲3。以下「周知例2」という。)に基づき,「とりまとめた複数の請求書についてその支払を一括してできるように,複数の請求書をリスト化し,請求リストに含まれる個々の請求書について,個々に支払指示を入力する欄を設けること」(以下「周知事項1」という。)は,本願の出願前に周知であると認定した。
しかし,審決の上記周知事項の認定には,以下のとおり誤りがある。
(ア)まず,周知例1(甲2)は,「紙」による請求書の処理に係る「料金自動受付機」の分野に係るものであって,「電子請求書」を取り扱う技術に関するものではないから,周知例1を根拠にして電子請求書に係る周知事項1を認識することはできない。
進歩性判断の前提としての周知事項は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」(以下「当業者」という。)を基準にして判断され,技術分野を特定せずに周知事項を認定することは許されない。しかるに,審決は,周知例2については,何ら技術分野を特定しないまま,前記周知事項を認定しているから(審決書7頁以下),誤りである。「請求書の決済に係る技術分野」というような抽象的な技術分野は存在しない。したがって,周知例1(甲2)は,本願発明とは別の「紙」による請求書の処理に係るものであるから,本願発明と同一の技術分野について周知技術を開示するものではない。
そうすると,周知事項1を開示しているのは,周知例2(甲3)のみである。周知事項とは,当該技術分野において広く知られた事項をいうから,一般的には公知文献が多数存在する場合をいう。一つの文献のみから周知事項1を認定した点において,審決には誤りがある。
(イ)周知例2(甲3)は,一つのみの文献であるから,周知例ではなく,公知例として取り扱われるべきである。審判体は,特許法159条2項で準用する特許法50条の規定により,再度拒絶理由を発するべきであったのに,これをしなかったから,違法である。
(ウ)被告が本訴において提出する証拠中,米国特許第6070150号明細書(乙2)のFig.8やFig.9の記載は,一つの請求書における個々の請求項目(line item)のリストであり,「複数の請求書をリスト化し」たものではないから,これによって周知事項1を認定することはできない。また,乙3及び4は,「支払伝票」に係る証拠であるが,「支払伝票」が「請求書」との間に類似性はない。
イ 周知事項2について審決は,国際公開第99/05628号パンフレット(甲5。以下「周知例3」という。)に基づき,「請求人に自分が発行した電子請求書の支払状況についてモニタさせる支払状況モニタ手段を設けて,支払状況を送信すること」(以下「周知事項2」という。)は,周知な事項である旨判断した(審決書12頁,13頁)。
しかし,審決の上記周知事項の認定には,以下のとおり誤りがある。
(ア)周知事項2を開示している文献は周知例3のみであるから,審決が,これを根拠として周知事項2を認定した点において誤りがある。
そして,周知例3(甲5)は,一つのみの文献であるから,周知例ではなく,公知例として取り扱われるべきである。審判体は,特許法159条2項で準用する特許法50条の規定により,再度拒絶理由を発するべきであったのに,これをしなかったから,違法である。
(イ)被告が本訴において提出する証拠中,米国特許第5699528号明細書(乙5)は,クレーム1の記載に関し,“The server computeralso electronically routes the payment information to the payeeto update its records.”と説明するのみであり,“bill payment signal”や,“payment information”が具体的にどのような意味内容を有するのか,“bill payment signal”を“payee computer”ないし“payee”に対して“route”することが,具体的にどういう結果をもたらすのかについて,何ら説明をしていない(乙5の第2欄57行以下)。よって,明細書(乙5)が周知事項2を記載しているとはいえない。
(3)取消事由3(支払指示と支払意志が支払の承認という概念で共通するとの理由で,本願発明が容易想到であると判断した誤り)ア審決は,本願発明にいう「支払の意志」とは,「支払の承認」に他ならず,また,引用例にいう「支払指示」も「支払の承認」の意志を含むものであるから,両者は,「支払の承認」という概念で共通しており,本願発明において「支払の意志有りが入力されて送信されること」と,引用例において「支払指示が入力されて送信されること」とは,「支払の承認が入力されて送信されること」という概念で共通する旨認定し,それを前提として,相違点?F,?Gが容易想到であると判断した(審決書13頁)。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りがある。
イ「支払の意志」とは,ある人がある金銭について支払う意志があることを意味するのに対し,「承認」とは,ある人が別の人の行うことを認めて許すことを意味するから,「支払の承認」とは,ある人が支払について別の人に認めて許すことを意味することになり,それらの意味は異なるので,これらを共通の概念であるとする審決の認定は誤りである。
ウ「支払指示」(引用例)とは,支払を別の者に指示することを意味するのに対して,「支払の意志を入力する欄を有する」(審決のいう周知事項)とは,支払の意志があることを示すための入力を行う欄があることを意味する。金融機関に対して支払指示をしてしまえば,後は支払が行われるだけであるから,さらに「支払の意志」を示すことに意味はない。他方,「支払の意志」を示すことは,請求人において被請求人が支払の意志があることを確認でき,支払を受けられる期待感が生じる。「支払指示」の欄が設けられているのみでは,実際に支払が行われるまで(「支払指示」の欄が入力されて送信されるまで),支払を受けられるかどうか不明であり,このような期待感は生じない。両者にはこのような顕著な相違があるから,両者の相違を,「当業者が適宜設定することができる設計的事項にすぎない。」とした審決の判断は,誤りである。
エこの点について,被告は,引用例において,明細請求情報が未払のものであることや,図6においてTranspoint(コンソリデータ)と金融機関(CSP)とが双方向の矢印で結ばれていることを根拠にして,支払指示があったかどうかの情報がコンソリデータに送信されていると解するのが合理的である旨主張している。
しかし,BillerはACHから支払があったことを知らされるのであり,明細請求情報が未払のものであることは,支払指示がコンソリデータに送信されることの根拠にはなり得ない。また,引用例の図6における双方向の矢印は,両者の契約関係について示したもので,支払指示の有無に関する情報がコンソリデータに送信されていることを示すものではない。
2 被告の反論(1)取消事由1(引用例が情報抽出手段を有していると認定した誤り)に対して引用例の図6に記載されたサービスモデルにおいて,各請求業者はコンソリデータの提供するBISによって明細請求情報をコンソリデータの利用可能なフォーマットに変換している。各請求業者からの明細請求情報については特定のサービス利用者ごとにとりまとめて各サービス利用者に対して送信をするのであるから,コンソリデータが各請求業者からの明細請求情報を各利用者ごとに抽出していると理解できる。よって,審決が,引用例の図6に記載されたサービスモデルにおいて,「コンソリデータが抽出手段を有している。」と認定した点に何ら誤りはない。
(2)取消事由2(技術分野が不特定な周知例に基づいて周知事項とし,また一つの文献のみから周知事項と認定して,容易想到であると判断した誤り)に対してア 周知事項1について(ア) 周知技術に係る技術分野について周知事項1に係る技術分野も本願発明の「電子請求書管理システム」に係る技術分野も,インターネット等の知識と現実の商取引や商取引に伴う決済処理の知識を有する者にとって,共通の技術分野であるといえる。
(イ) 一つの文献から周知事項1を認定したとの主張について周知例1は,「料金自動受付機」に係るものであるが,挿入口から挿入された複数枚の請求書の請求金額を読み取り,読み取られた後の複数の請求書がリスト化され,この請求リストに含まれる個々の請求書について,個々に支払指示を入力する欄を設けることが記載されているから,周知例1には,周知事項1が開示されている。
また,周知事項1は,米国特許第6070150号明細書(乙2の1頁11〜42行のABSTRACT)にも開示されている。なお,同文献では,個々の請求項目(line item)は,「購入日,注文番号,送り状番号,アイテム番号,アイテムの説明,量,価格,合計,税,総額」を含むと記載されているから,個々の請求項目も,個々の請求書であるといえる。
さらに,特開平10-40318号公報(乙3)及び特開平10-40294号公報(乙4)には,請求書ではないが,請求書と類似する支払伝票をリスト化して表示し,個々の支払伝票について,個々に支払承認を入力する欄を設ける技術が開示されている。
以上のとおり,周知事項1が本願の出願前から周知の事項であると認定した審決には何ら誤りがなく,したがって,再度の拒絶理由を発する必要はない。
イ 周知事項2について周知例3は,周知事項2の例示の一つとして挙げたにすぎない。
周知事項2は,米国特許第5699528号明細書(乙5)にも記載されている。すなわち,同明細書(乙5の第2欄57〜59行)には,「The server computer also electronically routes the payment information to the payee to update its records.」と記載されており,payee(受取人)にroute(送る)する「payment information」は,payeeのrecordをupdateするためのものであるから,「payment information」は,「paymentrecord」に該当し,「bill payment record (請求支払記録)」に,支払状況が含まれることは明らかである。したがって,同明細書(乙5)においても,「請求人に自分が発行した電子請求書の支払状況についてモニタさせる支払状況モニタ手段を設けて,支払状況を送信すること」が記載されているといえる。
また,請求書と類似する支払伝票を発行した者に支払承認の状況を送信することも,特開平10-40318号公報(乙3)及び特開平10-40294号公報(乙4)に記載されている。
以上のとおりであるから,周知事項2が本願の出願前に周知の事項であったと認定した審決には何ら誤りはなく,したがって,再度の拒絶理由を発する必要はない。
(3)取消事由3(支払指示と支払意志が支払の承認という概念で共通するとの理由で,本願発明が容易想到であると判断した誤り)に対して請求書に対しての被請求人の応答を「支払の意志」として受け取るか,「支払指示」として受け取るかは,請求書に対する被請求人の応答をどの段階で受け取るようにするかという設計的事項にすぎない。「支払の意志」の段階でその応答を受け取るようにすれば,支払を受けられる期待感が生じるが,そのような点も,設計事項にすぎない。
引用例(甲1の13頁)には,「Biller主導EBPPサービスモデル」の請求業者のメリットとして,「Interactive性があり,サービスに応用性(特にCRM(Customer Relationship Management))が持たせられる TCO(Total Costof Ownership)の削減が見込める(現状では余り評価されていない)」との記載があり,同記載によれば,請求業者情報端末は,コンソリデータのコンピュータシステムから,情報を得ることができる。そして,コンソリデータは,各請求業者からの明細請求情報をサービス利用者ごとに集約し,提供するところ,この明細請求情報は未払のものであるから,コンソリデータにおいて,サービス利用者に提供した明細請求情報に対する支払指示の有無が把握可能であると解される。したがって,支払指示の有無の情報は,コンソリデータに送信されていると解される。なお,引用例の図6に記載されたサービスモデルにおける双方向の矢印は,原告主張のように契約関係を示すものではなく,インターネット上の電子信号のやりとりを示すものである。よって,審決には,原告主張のような誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張に係る取消事由は,いずれも失当であると判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1引用例が情報抽出手段を有していると認定した誤り(取消事由1)について(1) 引用例(甲1)の記載甲1には,以下の記載がある。
ア「あらましネットワークの進歩,ハードウェアの普及,Web技術の発達といった背景をもとに,ECに代表されるようなネットワークサービスが一般生活に浸透し始めている.Electronic Bill Presentment and Payment(EBPP)サービスは,明細請求情報をネットワーク経由で利用者へ電子的に提示し,ネットワーク上で決済処理ができるサービスである.米国では,既に実サービスとして提供され,普及している.本報告では,実際にサービスを提供する米国でのEBPPサービスモデルを比較し,各モデルが提供しているサービスの特徴を明らかにする.」(7頁8〜13行)イ「1.はじめにWorld Wide Webの進歩および普及により,インターネット上で提供されるサービスが急激な発達を遂げ[アドバ00],急速に社会的に受け入れられ始めている.請求が発生する商取引には明細書や請求書が発行され,利用者もしくは支払者に支払請求をし,支払決済を行うが,それらの作業をインターネット上で電子的に実施するサービスが,Electronic Bill Presentment and Payment(以下,EBPPと呼ぶ)サービスである.米国では既にAT&TやMCI/Worldcomといった通信業者[Tel99]をはじめとする個別企業によるEBPPサービスや,CheckFree Corporation[Che00],TransPoint LLC[Tra00]といったサービスプロバイダによる共同利用型のEBPPサービスが,実際に提供を行っている.日本では,決済方式が米国とは異なるため,Electronic Bill Presentment(以下,EBPと呼ぶ)サービスからではあるが,株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ[ドコモ00]をはじめとする個別企業によるサービス提供が始まっている.また,1999年7月に発足され,EBPPサービスのビジネスモデルや技術仕様の検討を目的とした,インターネット明細情報サービス推進協議会[推進協99]や,2000年5月に発足され,日本特有の決済方法からのアプローチによるEBPPサービス提供の検討を目的とした,日本マルチペイメントネットワーク推進協議会[マルチ00]といった,コンソーシアムによる実現検討も行われている.本報告では,先行してEBPPの実サービスを提供している米国における,実フィールドで起こっているサービスモデルの推移を報告すると共に,各サービスモデルを比較分析した結果について述べる.第2章では,これまで米国での先行民間3社が提唱するEBPPビジネスモデルや,NACHA(National Automated Clearing House Association)の請求支払委員会が中心となり提唱しているモデルを報告する.第3章では,現在のEBPPビジネスモデルの発達背景を検証する.そして第4章では現行で主要となっているEBPPサービスのサービスモデルを分析比較し,それらEBPPサービスのサービスモデルの本質的違いを考察する.」(8頁左欄1行〜右欄3行)ウ「2.EBPPサービスの一般モデル米国AT&T,Intuit,Just in Timeの3社は,1998年春にOpen InternetBilling Model(以下,OIB Modelと呼ぶ)として,Direct Model,ThickConsolidation Model,Thin Consolidation Modelの3方式を提案している[OIB98].またNACHAでは,請求書支払い委員会が中心になり,BillerDirect Model,Service Provider Consolidation Model,Customer Consolidation Modelの3つのモデルを提唱[日経デ99-1]している.NACHAの提案は,OIB Modelを受け包含しているが,OIB Modelで区別している二つのConsolidation Modelの差異性が次第に意味をなさなくなった背景を受け,Service Provider Consolidation Modelとして一つにまとめている.(中略)2-2.Service Provider Consolidation ModelBiller Direct Modelに対し,サービス利用者の個人情報や明細請求情報を請求業者から預かり,サービス利用者への明細請求情報の提示や支払処理を委託代行するコンソリデータ(サービス統合提供者)が介在するモデルが,Service Provider Consolidation Modelである.このモデルは,請求業者が共同利用型コンソリデータを利用することにより,サービス利用者が複数請求業者の明細請求情報を一括して参照し,支払処理をすることができる.また,Service Provider Consolidation Modelには,コンソリデータに転送する情報の範囲によって大きく,2種類のモデルに分けることができる.」(8頁右欄4行〜9頁左欄6行)エ「4.サービスモデルの推移これら請求業者や金融機関のコスト削減重視のEBPPサービスモデルにおける,サービス利用者の直接的な利益としては,郵送コスト(1件あたり35セント)を削減することができる点と,請求書の開封から小切手の郵送までの手作業が一括でネットワーク上において処理できる点を挙げられる.しかし,顧客ニーズの欠落がマーケット反応により顕在化している.本稿では,これら請求業者や金融機関のコスト削減重視のEBPPサービスモデルをBiller主導EBPPサービスモデルと呼び,それに対しサービス利用者ニーズ解決重視のEBPPサービスモデルをConsumer主導EBPPサービスモデルと呼ぶ.Harvard Businessによるeカンパニービジネスモデルの一般化表記[ダイヤ00]を用いて,Biller主導EBPPサービスモデルとConsumer主導EBPPサービスモデルを図6,図7に示す.」(11頁左欄25〜41行)オ 「4-1.Biller主導EBPPサービスモデル図6は,TransPoint LLC[Tra00]の例を用いたBiller主導EBPPサービスモデルである.このモデルはThin Consolidation ModelをベースとしたCheckFree Corporation[Che00]やTransPoint LLCが提供するEBPPサービスのサービスモデルである.各請求事業者は,予めコンソリデータと契約をし,明細請求情報をオンラインでコンソリデータに送信するための準備を必要とする.TransPointの場合,各請求業者の持つ明細請求情報を,TransPointのデータセンタで利用可能なデータフォーマットに変換するために,BIS(Biller Integration System)と呼ばれるツールを提供している.各請求業者は,定期的に明細請求情報をコンソリデータに送り,コンソリデータはサービス利用者毎に情報を集約し,提供する.前述のTransPointの例では,請求者はBIS経由で明細請求情報をTransPointに送り(図中?A),集約された明細請求情報は,TransPointが契約し,かつサービス利用者が取引を行っている金融機関(TransPointではCSP,Consumer Service Providerと呼ぶ)の内,サービス利用者が取引しているCSPに送られる.各サービス利用者は,集約された(図中?B)明細請求情報を,CSPを通して確認(図中?C,?D)し,CSPを通して支払手続きを実施する(図中?E).」(11頁左欄42行〜右欄23行)カ甲1の12頁の図6(Biller主導EBPPサービスモデル)には,サービス利用者が「支払指示」を金融機関(CSP)に出すと,ACH(Automated Clearing House)において,決済処理がなされ,ACHからは各Billerに支払処理がなされることが記載されている。
(2) 情報抽出手段の開示の有無についての判断引用例(甲1)は,明細請求情報をネットワーク経由で利用者へ電子的に提示し,ネットワーク上で決済処理ができるサービスである,Electronic Bill Presentment and Payment(EBPP)サービスモデルについて,比較を行い,各サービスモデルが提供するサービスの特徴を比較した文献である。
以下の点にかんがみれば,引用例には,情報抽出手段に関する開示があると判断される。
ア上記(1)ウ,オ,カの各記載及び図6によれば,Biller(請求業者)主導EBPPモデルにおいて,サービス利用者への明細請求情報の提示や支払処理を委託代行する「コンソリデータ」(サービス統合提供者)が,複数のBiller(複数の請求業者)から定期的に送られる明細請求情報を,サービス利用者ごとに集約して提供することが記載されている。
そして,図6に記載されたEBPPサービスモデルにおいて,コンソリデータは,各請求業者から,コンソリデータが利用可能なデータフォーマットに変換された明細請求情報を定期的に受信して,サービス利用者に対して,サービス利用者ごとに集約された明細請求情報を送信する。また,各請求業者から受信した明細請求情報は,「定期的に」送られるとの記載から,各請求業者からの明細請求情報には,所定の期間内に,その請求業者と商取引をした,複数のサービス利用者(顧客)の明細請求情報が含まれる。
そうすると,コンソリデータが行う「集約」のための情報処理の過程において,各請求業者から受信した,複数のサービス利用者(顧客)の明細請求情報の中から,特定のサービス利用者に関する明細請求情報を「抽出」する「抽出手段」が含まれると解するのが自然である。
イ図6のEBPPサービスモデルにおいては,明細請求情報は,複数の請求業者のうちのいずれかの請求業者から,サービス利用者への明細請求情報の提示や支払処理を委託代行するコンソリデータに送信され,その後,複数のサービス利用者のうちのいずれかのサービス利用者に届けられることが示されている。
そして,明細請求情報には,請求人と被請求人とを特定する情報,及び請求金額及び請求の発生原因に関する情報を含むこと,そして,コンソリデータが特定のサービス利用者に関する明細請求情報を抽出する場合に,明細請求情報の中から,請求業者情報(請求業者が誰であるかに関する情報)と,サービス利用者情報(サービス利用者が誰であるかに関する情報)とを抽出することは明らかである。そうすると,上記のコンソリデータにおける抽出手段は,上記明細請求情報の中から,その明細請求情報における請求金額の情報である金額情報と,その請求金額が対価として請求されるに至った原因に関する情報である原因情報を,それぞれ抽出しているといえる。
ウしたがって,審決が,引用例の図6に記載されたサービスモデルにおいて,「コンソリデータが抽出手段を有している。」と認定した点に誤りはない。
(3) 原告の主張に対しアこの点につき,原告は,引用例においては,各請求事業者が請求明細情報をコンソリデータ(サービス統合提供者)に送る際には請求明細情報をTransPointのデータセンタで利用可能なデータフォーマットに変換するものとされている上,「集約」するという引用例の用語の意味に照らしても,コンソリデータが送付を受けた請求明細情報から更に情報を抽出するとは考え難く,抽出作業は各請求業者がしていると考えられるから,引用例が情報抽出手段を有しているとの審決の認定は誤りである旨主張する。
イ しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,データのフォーマット変換作業と抽出作業とは全く別個の作業であって,各請求業者がコンソリデータに対して請求明細情報を送る際にデータのフォーマットの変換作業をしているからといって原告主張のように各請求事業者の側で情報の抽出作業までしているものとはいえない。
そして,引用例の図6に記載されたサービスモデルにおいては,各請求業者からの明細請求情報については特定のサービス利用者毎にとりまとめて各サービス利用者に対して送信するものとされているのであるから,コンソリデータ(サービス統合提供者)において各請求業者からの明細請求情報を各利用者ごとに抽出しているものと認められる。
2取消事由2(技術分野が不特定な周知例に基づいて周知事項とし,また一つの文献のみから周知事項と認定して,容易想到であると判断した誤り)について(1) 周知事項1についてア技術分野が不特定な周知例に基づいて周知事項を認定した誤りの主張について原告は,被告主張のような請求書の決済という抽象的な技術分野は存在せず,電子請求書に係る当業者は紙媒体の請求書に係る知識を有しないから,紙媒体の請求書に関する周知例2について何ら技術分野を特定しないまま別個の電子請求書の技術分野において周知事項1を認定した審決は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,周知例2が,決済処理に係る分野に属することは,「とりまとめた複数の請求書についてその支払を一括してできるように,複数の請求書をリスト化し,請求リストに含まれる個々の請求書について,個々に支払指示を入力する欄を設けること」との記載に照らして明らかである。
この点は,請求が紙媒体によるか電子情報によるかによって左右されるものとはいえない。なお,電子請求書の決済業務に従事する者は,電子的な方法による情報交換のみならず,紙媒体による決済業務に関する知識経験が必須であるといって差し支えないから,紙媒体の請求書に係る周知例2を電子請求書に係る周知事項1の認定に用いた審決は相当である。
したがって,これらに反する原告の上記主張は,理由がない。
イ 一つの文献のみから周知事項を認定した誤りの主張について原告は,周知例1(甲2)は「紙」による請求書の処理に係る料金自動受付機に係るものであって,「電子請求書」を取り扱う技術に関するものではないから,本願発明と同一の電子請求書の技術分野について開示しているのは周知例2(甲3)のみになるところ,一つの文献のみから周知事項を認定することは許されないから,審決には誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,請求書が「紙」か「電子情報」かの相違を問わず,「請求書の決済処理」という同一の技術分野において,周知事項1が周知例1に記載されているといえるから,審決が周知例2(甲3)のみから周知事項1を認定したことにはならない。
また,特開平10-40318号公報(乙3)及び特開平10-40294号公報(乙4)には,支払伝票をリスト化して表示し,個々の支払伝票について,個々に支払承認を入力する欄を設けるようにすることが記載され,「請求書」も「支払伝票」も,金銭の支払に関する情報であり,それをまとめて一覧表示させ,そこに記載された内容に従って金銭を支払うものである点において共通するので,上記各資料を周知事項1を根拠付けるために用いることは許される。
(2) 周知事項2について原告は,審決が一つの文献(周知例3)のみを根拠として周知事項2を認定したから誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,審決が認定した周知事項2,すなわち「請求人に自分が発行した電子請求書の支払状況についてモニタさせる支払状況モニタ手段を設けて,支払状況を送信すること」は,周知例3(甲5)のほかに,米国特許第5699528号明細書(乙5。平成9年12月16日特許)にも記載がある。
また,請求書類似の支払伝票を発行した者に支払承認の状況を送信することは,特開平10-40318号公報(乙3の【0032】,【0033】,【0035】)及び特開平10-40294号公報(乙4の【0032】〜【0037】,【0048】)の記載から認めることができる。
以上のとおり,審決は,周知例3を周知例の1つとして例示していたにすぎないのであって,「請求人に自分が発行した電子請求書の支払状況についてモニタさせる支払状況モニタ手段を設けて,支払状況を送信すること」(周知事項2)は複数の周知例により本願の出願前周知の事項であったと認めることができる。
したがって,一つの引用例に基づき周知事項2を認定したことが誤りであり,公知事項として再度拒絶理由を発するべきであったのにこれを怠ったから審決には手続的に違法がある旨の原告の主張も理由がない。
3取消事由3(支払指示と支払意志が支払の承認という概念で共通するとの理由で,本願発明が容易想到であると判断した誤り)について(1)原告は,「支払の意志」とは,ある人がある金銭について支払う意志があることを意味するのに対し,「承認」とは,ある人が別の人の行うことを認めて許すことを意味するから,「支払の承認」とは,ある人が支払について別の人に認めて許すことを意味することになり,それらの意味が異なるから,これらを共通の概念であるとする審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。すなわち,「債務承認」という法律用語が示すように「承認」の意味は,必ずしも別の人の行為を認めて許すことには限定されないから,そのような限定を前提とした原告の上記主張は採用することができない。
(2)また,原告は,「支払の意志」は,支払を受けられる期待感を請求人に生じさせることになるのに対し,「支払指示」の欄を設けたのみでは,実際に支払が行われるまで(「支払指示」の欄が入力されて送信されるまで),支払を受けられるかどうか不明であって,期待感は生じず,両者には顕著な相違があるから,これを設計的事項にすぎず,容易想到であるとした審決の認定は,誤りである旨主張する。
しかし,原告の上記主張も,以下のとおり失当である。すなわち,実際に支払う前の段階において被請求人に回答を求めるようにシステムを設計すれば支払意志の有無の回答を求めることになり,被請求人の肯定的な回答については将来の支払に対する請求人の期待が発生するのに対し,現実に支払指示をした段階において始めて被請求人に回答を求めるようにシステムを設計すれば,その支払指示がされるまでは支払に対する期待を生じないことになるのは当然のことであり,それは被請求人に対してどの段階でどのような回答を求めることにするかという相違にすぎないから,請求リストに含まれる個々の電子請求書について個々に支払の意志の有無を入力する欄を設けることは当業者にとって困難とはいえない。したがって,これと同旨の審決には誤りがなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
(3)さらに,原告は,明細請求情報が未払のものであることも,引用例の図6の矢印が双方向であることも,支払指示がコンソリデータ(サービス統合提供者)に送信されることの根拠にはなり得ないから,引用例においては支払指示の有無の情報がコンソリデータに対して送信されているとの審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,この点の原告の主張も,以下のとおり失当である。すなわち,引用例の「Electronic Bill Presentment and Payment(EBPP)サービスは,明細請求情報をインターネット上で利用者へ電子的に提示し,インターネット上で決済処理ができるようにしたもの」である上(甲1の7頁),引用例の図6にある矢印は契約関係が存在すると考えられる関係者の間でも必ずしも双方向とされているものではなく,一方向の矢印もあるから(甲1の12頁の図6及び図7),双方向の矢印は,電子信号のやりとりの双方向性を示すものであると認めるのが相当である。双方向の矢印は,契約関係の締結を示すものであるとする原告の主張は,この点において前提を欠く。
そして,引用例(甲1の13頁表1)には,請求者主導のEBPPサービスの請求業者側のメリットとして,「Interactive性があり,サービスに応用性(特にCRM(Customer Relationship Management))が持たせられる。TCO(Total Cost of Ownership)の削減が見込める(現状では余り評価されていない)」旨が記載されているから,請求業者情報端末はコンソリデータのコンピュータシステムから情報を得ることができるものと認められる。さらに,コンソリデータは,各請求業者からの明細請求情報をサービス利用者ごとに集約し,提供するものとされており,かつ,その明細請求情報は未払のものであることにかんがみると,支払指示の有無に係る情報が図6の矢印のとおり被請求者から金融機関を介してコンソリデータ(TrannsPoint)に対して送信されているものと認めるのが相当である。したがって,これと同旨の審決の認定には誤りがなく,この点に関する原告の主張も理由がない。
4 結 論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀