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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 19年 (ワ) 32525号 特許権侵害差止請求事件
東京都新宿区<以下略>
原告株式会社クローバー・ネットワーク・コム
訴訟代理人弁護 士石嵜信憲
同 山中健児
同 柊木野一紀
同 林康司
訴訟復代理人弁護 士永田早苗
補佐人弁理士高橋和夫 東京都千代田区<以下略>
被告株 式会社ジンテック
訴訟代理人弁護 士野口明男
同 吉利果慧
同 飯塚卓也
訴訟代理人弁理 士原島典孝
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/07/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の装置を製造し,使用してはならない。
2 被告は,前項記載の装置を廃棄せよ。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,「電話番号情報の自動作成装置」に関する発明の特許権の特許権者である原告が,被告による別紙物件目録記載の装置(以下「被告装置」という。)の製造,使用が原告の上記特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づき,被告装置の製造,使用の差止め及び廃棄を求める事案である。
2 争いのない事実(1) 当事者ア原告は,インターネットを利用した各種情報サービス業,電子計算機器に関するソフトウェア開発,販売及び保守等を業とする株式会社である。
イ被告は,情報処理サービス業,情報提供サービス業,コンピュータソフトウェアの開発,販売,電話番号の案内業務等を業とする株式会社である。
(2) 本件特許権原告は,発明の名称を「電話番号情報の自動作成装置」とする特許権(平成8年10月9日出願,平成19年8月17日設定登録,特許番号第3998284号。以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である。
(3) 本件発明ア本件特許権の特許出願に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,を備えたことを特徴とする電話番号情報の自動作成装置。」イ 本件発明は,次の構成要件のとおり分説される。
A市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段と,B前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,C前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,Dを備えたことを特徴とする電話番号情報の自動作成装置。
(4) 被告の行為被告は,業として,被告装置を製造し,使用している。
なお,被告は,被告装置を使用して得られた調査結果に基づいて電話番号データベース(名称「NCOT」)を作成し,そのデータを記録媒体及びインターネット(電話番号利用状況検索サービス)によって顧客に有料で提供している。
3 争点本件の争点は,被告装置が本件発明の構成要件を充足し,本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1),本件特許に本件発明の進歩性の欠如による無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点2)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(構成要件充足性)について(1) 原告の主張被告装置は,以下のとおり,本件発明の構成要件AないしDをすべて充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
構成要件Aについて(ア) 構成要件Aの「番号テーブルを作成」の技術的意義本件発明は,「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブル」を用いて電話番号情報を作成するという構成を採用することにより,無駄な発呼を回避しながら刻々変化する電話番号情報を迅速かつ正確に把握することを可能とするものである(本件明細書(甲2)の段落【0005】,【0010】,【0036】)。すなわち,構成要件Aの「番号テーブル」を用いることによって,日本全国の電話番号についての情報を網羅的に自動作成して蓄積することを可能とするものであり,これは,本件発明の特徴の一つである。
(イ) 被告装置の構成要件A充足性被告装置では,「DVDに記録した番号テーブルを読み出しハードディスクに登録する手段」を備えているから,DVDに記録した番号テーブルを読み取り,読み取ったデータの再生(すなわち,読み取ったデータをハードディスクに登録するデータとして再構成すること),再生されたデータのハードディスクへの登録というプロセス(データ・コードのプロセス)が行われている。
そして,この読み取ったデータから番号テーブルを再生するステップは,構成要件Aの「番号テーブルを作成」に該当すると解される。
したがって,被告装置は,構成要件Aの「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段」を備えているといえるから,構成要件Aを充足する。
構成要件Bについて(ア) 構成要件Bの「接続信号」の意義a平成元年9月30日発行の「IEEE電気・電子用語辞典」(甲9)によれば,電話交換システムや電気通信の技術分野において,「信号」とは,「宅内機器と交換機,交換機相互など,装置と装置の間で制御,監視のために送受信する情報」を意味する。
そして,CCITT(国際電信電話諮問委員会)によって1984年(昭和59年)にISDNの基本構成やサービス機能に関する基本勧告がされ,更に1988年(昭和63年)に詳細な勧告がされたことを背景として,1980年代の終わりころから,日米欧をはじめとした各国でISDNの商用サービスが開始され,甲9が発行された当時,ISDNは既に商用化レベルに達していたこと(甲10,12ないし14),甲9に「ISDN」(integrated services digital network)の用語が掲載されていることに照らすならば,甲9に掲載された「信号」の用語は,ISDNを含めた電話交換システムを前提にしている。
また,「信号」にアナログ形式の信号とデジタル形式の信号があるのは技術常識であり,甲9の「信号」は,この両方を包摂する用語として使用されている。
b加えて,?@構成要件B及びCの「電話をかけたときの接続信号により」との記載,?A構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに基づいて」との記載,?B本件発明が電話をかけて電話網から返ってくる情報を用いて網羅的で即時的な技術を提示するものであることは,本件明細書の段落【0007】ないし【0015】に示されていること等に照らすならば,構成要件Bの「接続信号」とは,データ形式がアナログか,デジタルかを問わず,「電話を発呼したときに電話網から返ってくる信号」すなわち「宅内機器から交換機への発信(送信)に対して交換機から受信される情報」を意味する。
(イ) 被告装置の構成要件B充足性a被告装置は,「上記発呼を行ったときデジタル信号からなる切断メッセージが返された場合に,切断メッセージ中の理由番号に応じて」との構成を備えており,上記「切断メッセージ」はデジタル信号からなる「接続信号」であることは明らかである。
したがって,被告装置は,構成要件Bの「電話をかけたときの接続信号により」との構成を有している。
bまた,被告装置は,「切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」・・・にそれぞれ分類してハードディスクに登録する手段」を備えているから,構成要件Bの「接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する」との構成を有している。
c以上によれば,被告装置は,構成要件Bの「前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段」との構成を備えているといえるから,構成要件Bを充足する。
構成要件Cについて(ア)構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに基づいて・・・仕分けして」との構成の充足性a構成要件Cの構成は,接続信号中の応答メッセージに基づいて電話番号を3種類(新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号)に分類することを骨子とするものである。
甲9によれば,「メッセージ」は,「任意の量の情報。その始めと終りは定義されているかあるいは暗黙にある。」を意味し,合目的的な情報のまとまりである。
そして,被告装置は,「デジタル信号からなる切断メッセージが返された場合に,切断メッセージ中の理由番号に応じて」電話番号の分類を行っており,「切断メッセージ」は構成要件Cの「接続信号」に,「切断メッセージ中の理由番号」は構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に相当するから,被告装置は構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに基づいて・・・仕分けして」との構成を有している。
b被告は,構成要件Cの「応答メッセージ」は,「応答音」(本件明細書の段落【0011】)としての「音声メッセージ」を意味すると主張するが,「音の信号」に限定されるものではない。
すなわち,本件明細書の段落【0011】には,「応答音」の記載のほかに,「接続信号とは電話を発信したときに発信側に返戻される信号音のことであり,これが着呼音(呼び出し音),極性反転,あるいは話中音であるときに」との記載もあり,ここでいう「信号音」がいわゆる「音」でないことは,例示として「音」以外の信号である「極性反転」(電気の極性が入れ替わること)が挙げられていることからも明らかである。つまり,「信号音」は「信号の音」ないし「音の信号」を意味するものではなく,信号(シグナル)と同義で使用されている。また,仮に「応答音」を「音の信号」と理解したとしても,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の「応答メッセージ」(構成要件C)は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載の実施例の範囲に限定されるものではないから,「音の信号」に限定されるものではない。
(イ)構成要件Cの「新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして」との構成の充足性a構成要件Cの「接続信号により電話番号としての無効性を判断し」,「無効となった電話番号の中で,・・・新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして」との文言によれば,構成要件Cの「無効」は,3種類(新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号)の分類(3分類)を包摂する概念である。
ところで,被告装置は,「切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」,「無効」,「移転」,「都合停止」,「エラー」,「局預け」,「再調査」,「INS回線有効」にそれぞれ分類してハードディスクに登録する手段」との構成を備えているところ,甲4(被告装置の説明書)によれば,被告装置において,「移転」とは「欠番かつ電話番号案内が流されている状態」を,「無効」とは「欠番(現在使用されていない状態)」を,「都合停止」とは「お客様都合により電話不通の可能性が高い状態」を指している。
そうすると,被告装置において,「移転」は構成要件Cの「新電話番号を案内している電話番号」に,「無効」は構成要件Cの「新電話番号を案内していない電話番号」に,「都合停止」は構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」にそれぞれ該当するものである。
したがって,被告装置は,構成要件Cの「新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして」との構成を充足する。
b被告は,被告装置で「都合停止」と分類される電話番号に電話をかけた場合に流れる音声メッセージは「お客様がおかけになった電話はお客様の都合で通話ができなくなっています。」というものであるのに対し,構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に電話をかけた場合に流れる音声メッセージは,本件明細書記載の「おかけになった電話番号はお客様の都合で一時取り外しています。」(段落【0021】)とのメッセージであって,両メッセージは明らかに異なるから,被告装置で「都合停止」と分類される電話番号は,構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に該当しないと主張する。
しかし,両メッセージは明らかに異なるものとはいえないこと,本件明細書の段落【0021】には,上記記載部分に続いて「その他類似メッセージがある」との記載があること,構成要件Cにおける3分類の仕分けの内容に照らすならば,被告装置で「都合停止」と分類される電話番号が,構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に該当することは明らかである。
(ウ) まとめ以上によれば,被告装置は,構成要件Cの「前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段」との構成を備えているから,構成要件Cを充足する。
構成要件Dについて前記アないしウのとおり,被告装置は,構成要件AないしCを充足する。
そして,被告装置は,「NCOT(National Change Of Telephone-number)という名称を有する電話番号データベースの生成に用いられ」る装置であり,構成要件Dの「電話番号情報の自動作成装置」に該当するから,構成要件Dを充足する。
オ まとめ以上のとおり,被告装置は,構成要件AないしDをすべて充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。したがって,被告による被告装置の製造,使用は,本件特許権の侵害に当たる。
(2) 被告の反論被告装置は,以下のとおり,構成要件AないしCをいずれも充足しないから,本件発明の技術的範囲に属さない。したがって,被告による被告装置の製造,使用は,本件特許権の侵害に当たらない。
構成要件Aについて被告は,外部業者に委託して作成させた番号テーブルを記録したDVDを納品させ,被告装置において当該番号テーブルをハードディスクに登録し,電話番号の有効性・無効性を調査しており,被告装置は構成要件Aの「番号テーブルを作成」する手段を備えていない。したがって,被告装置は,構成要件Aを充足しない。
構成要件Bについて(ア)本件明細書の段落【0011】ないし【0013】,【0026】,【0032】の記載に照らすならば,構成要件Bの「電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断」するとの構成は,電話を発信したときに発信側に返される「接続信号」(すなわち,応答信号)が,着呼音(呼び出し音),極性反転信号又は話中音のいずれかである場合に,当該電話番号を「有効」な電話番号と仕分けすることを意味するものと解される。すなわち,本件発明は,電話網に接続された機器から電話をかけて電話網を通じて電話回線がつながった際に返される音や信号を使って電話番号を仕分けるものである。
これに対して被告装置においては,ISDNの「非制限64kbit/s回線交換」サービス(端末装置からISDN回線を通じてデジタルデータ通信が可能な機器等との間でデジタルデータ通信を行うことを目的として利用されるISDNのサービス種別の一種。以下「非制限デジタルモード」という。)を用いて発呼を行い,発呼が切断されるときに自動的に返信されるデジタルデータである「切断メッセージ」中の「理由番号」に基づいて電話番号の分類を行っている。そして,ISDNの「切断メッセージ」は,構成要件Bの「電話番号としての有効性を判断」するときの「接続信号」である「着呼音(呼び出し音),極性反転信号又は話中音」のいずれをも含むものではでない。
また,本件明細書には,ISDNの「切断メッセージ」が本件発明の「接続信号」に含まれることの記載や示唆はない。
したがって,被告装置で用いられる「切断メッセージ」は,構成要件Bの「接続信号」に当たらない。
(イ)以上によれば,被告装置は構成要件Bの「接続信号により電話番号としての有効性を判断」するとの構成を有していないから,構成要件Bを充足しない。
構成要件Cについて(ア)構成要件Cの「応答メッセージ」の用語の意義は直ちに明らかではなく,本件明細書中にも「応答メッセージ」の用語についての直接的な説明はされていない。もっとも,本件明細書には,「着呼音,極性反転,あるいは話中音のいずれも認識されず,所定の応答音があるとき,無効電話番号であると判定し」(段落【0011】),「ステップA0034において無効と判断するときの応答音としては,音声メッセージが認識される。」(段落【0028】)との記載があることに照らすならば,構成要件Cの「応答メッセージ」とは,この「応答音」としての「音声メッセージ」を意味するものと解される。
さらに,前記イ(ア)のとおり,本件発明は,電話を発信したときに発信側に返される「接続信号」が着呼音,極性反転信号又は話中音のいずれかであるときに,当該電話番号を「有効」な電話番号として仕分けしていること,本件明細書の段落【0012】,【0014】,【0027】及び【0028】の各記載に照らせば,構成要件Cの「電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして」との構成は,当該電話番号に電話をかけた場合において,着呼音,極性反転信号又は話中音のいずれも認識されず,かつ,応答音として取得される,「おかけになった電話番号は,現在使用されていません。」,「・・・お客様の都合で移転しました。新しい番号は○○○○番です。」,「・・・連絡先が変りました。新しい番号は○○○○番です。」,「お客様の都合で一時取り外しています・・・」等の「音声メッセージ」があるときに,無効電話番号であると判定し,かつ,当該「音声メッセージ」に基づいて無効電話番号の下位概念として「新電話番号を案内している電話番号」,「新電話番号を案内していない電話番号」,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の3種類に仕分けるという意味であると解される。
(イ)a被告装置は,ISDNの切断メッセージに基づいて電話番号の分類を行うものであり,着呼音,極性反転信号又は話中音の有無と音声メッセージの存否をもって無効電話番号と判定する技術思想を用いるものではないので,構成要件Cを充足しない。
すなわち,被告装置では,ISDNの非制限デジタルモードを用いて発呼を行うことにより発信側に返される「切断メッセージ」に含まれる「理由番号」が,「欠番」を意味する「1」であるときに,当該電話番号が無効な電話番号であると判断する。そして,この理由番号は単なるデジタルデータにすぎず,「音声メッセージ」としての「接続信号である所定の応答音」にも当たらないから,被告装置は,構成要件Cの「電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断」するとの構成を備えていない。
b次に,被告装置は,構成要件Cの「無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして」との構成を備えていない。
すなわち,被告装置においては,切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」,「無効」,「移転」,「都合停止」,「エラー」,「局預け」,「再調査」,「INS回線有効」に分類するが,「無効」と分類されるのは欠番の場合のみ(理由番号「1」)であって,「移転」や「都合停止」は「無効」と並存する別分類であり,「無効」の下位概念に位置づけられているわけではない。
c被告装置における「都合停止」は,構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に相当するものではない。
すなわち,被告装置の「都合停止」に分類される電話番号に普通に電話をかけた場合に流れる音声メッセージは,「お客様がおかけになった電話は,お客様の都合で通話ができなくなっています。」というものであり,これは,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の音声メッセージである「お客様の都合で一時取り外しています」というメッセージとは明らかに異なる。また,本件明細書の段落【0021】に,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」とは,「所定の繰り返しでメッセージを終了する特徴をもっている」との記載があるのに対し,被告装置で「都合停止」に分類される電話番号に,普通に電話をかけた際に発信側に返される上記音声メッセージは所定の繰り返しで終了するものではなく,永久繰り返しのメッセージであり,この点からも被告装置における「都合停止」は,構成要件Cの「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」に相当するものではない。
(ウ)以上によれば,被告装置は,構成要件Cの「電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして」との構成を有していないから,構成要件Cを充足しない。
2 争点2(権利行使制限の抗弁の成否)について(1) 被告の主張本件発明は,進歩性を欠くものであり,本件特許には特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
ア 引用発明の内容乙7(特開平7-177214号公報)には,?@特許請求の範囲として,「【請求項5】クリーニング処理しようとする電話番号リストをメモリに読み込む手段と,前記メモリに格納された前記リストの電話番号を順番に読み取り,その番号のダイヤル信号を公衆電話回線網に送出する発呼手段と,前記発呼手段によるダイヤル信号の送出動作に対する回線上の反応を監視する回線監視手段と,前記回線監視手段により発呼後の所定時間内に呼出音が検出された場合,および呼出音の検出前に極性反転が検出された場合に,発呼した電話番号を有効電話番号と判定する有効判定手段と,前記回線監視手段により発呼後の所定時間内に前記呼出音および前記極性反転および話中音のいずれも検出されなかった場合に動作し,回線上に所定の音声信号が送出されていればそれを認識する音声認識手段と,前記音声認識手段により番号移転の案内メッセージが検出された場合に,メッセージ中の新しい電話番号を有効電話番号と判定する移転番号認知手段と,前記音声認識手段により番号移転の案内メッセージが検出されなかった場合には,発呼した電話番号を無効電話番号と判定する無効判定手段と,前記有効判定手段,前記移転番号認知手段,前記無効判定手段の処理結果に従って前記有効電話番号と前記無効電話番号とを区別したリストを作成する出力リスト作成手段と,を備えたことを特徴とする電話番号リストのクリーニング装置。」との記載があり,?A「発明の詳細な説明」(段落【0023】,【0030】ないし【0032】等),【図2】及び【図3】には,上記?@の「電話番号リストのクリーニング装置」においては,ある電話番号の発呼に対して話中音も極性反転も呼出音も検出されない場合には発呼した電話番号を無効電話番号リストに記入すること,また,ある電話番号の発呼に対して話中音が検出された場合には発呼した電話番号を有効電話番号リストに記入することが開示されている。
以上によれば,乙7には,上記?@及び?Aの構成を有する「電話番号リストのクリーニング装置」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
イ 本件発明と引用発明との対比本件発明の要旨は,特許請求の範囲の請求項1記載のとおりである(前記第2の2(3)ア)。
そして,本件発明と引用発明とを対比すると,次のとおりの一致点及び相違点がある。
(一致点)電話番号のリストが記録された番号テーブルを記憶手段に登録する点,番号テーブルを用いてオートダイヤル発信手段を用いて電話をかけ,呼出音,極性反転,話中音のいずれかが検出された場合に,当該電話番号を有効電話番号として分類する点,番号テーブルを用いてオートダイヤル発信手段を用いて電話をかけ,呼出音,極性反転,話中音のいずれも検出されなかった場合に,当該電話番号を無効電話番号として分類する点。
(相違点1)本件発明は,市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成するのに対して,引用発明は,番号テーブルの作成機能を有していない点。
(相違点2)本件発明には,無効となった電話番号の中で,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」という分類が存在するが,引用発明には,このような分類が存在しない点。
ウ 相違点に係る本件発明の構成の容易想到性(ア) 相違点1の容易想到性映画「ウォー・ゲーム」(原題「WAR GAMES」)は,1983年(昭和58年)に米国及び日本で公開された(乙10は,そのDVD)。
映画「ウォー・ゲーム」には,入力されたエリアコードと,局コードと,連続する4桁の加入者番号からなる電話番号リストを作成するシーンがあり,市外局番と市内局番と,連続する4桁の加入者番号を組み合わせて電話番号リストを作成する電話番号リスト作成手段が開示されている。
映画「ウォー・ゲーム」の公開により,上記電話番号リスト作成手段は,本件特許の特許出願前に,日本国内において公然知られた発明となり,また,上記映画フィルムは,「日本国内又は外国において,頒布された刊行物」に該当するから,上記電話番号リスト作成手段は,特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に該当する。
そして,本件特許の特許出願前の技術水準ないし技術常識(乙14,15)を踏まえれば,当業者であれば,引用発明に上記電話番号リスト作成手段を組み合わせて,相違点1に係る本件発明の構成(「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成する」構成)とすることは容易に想到し得たものである。
(イ) 相違点2の容易想到性電話番号の分類に当たり,どのような電話番号を有効に分類し,どのような電話番号を無効に分類するかは,当業者が適宜選択しうる事項であり,単なる設計事項にすぎない。仮に一時取り外し案内の音声メッセージを流す電話番号があるのであれば,それを認識して分類に加えればよいだけのことである。
したがって,当業者であれば,引用発明において,相違点2に係る本件発明の構成(「無効となった電話番号の中で,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」という分類」の構成)を採用することは容易に想到し得たものである。
エ小括以上によれば,本件発明は,引用発明等に基づいて容易に発明をすることができたから,進歩性を欠くものであり,本件特許には特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものである。
(2) 原告の反論被告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点1(構成要件充足性)について被告装置は,本件発明の構成要件Cを充足するものとは認められないから,被告装置は本件発明の技術的範囲に属さないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」の意義についてア本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,を備えたことを特徴とする電話番号情報の自動作成装置。」というものである(前記第2の2(3)ア)。
そして,上記特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明は,「接続信号中の応答メッセージ」に基づいて,「新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の「3種類の番号に仕分け」する構成(構成要件C)を有していること,「応答メッセージ」は,「電話をかけたときの接続信号」中に含まれる構成要素であることが理解される。
ところで,「メッセージ」は,電気・電子の技術分野においては,「任意の量の情報。その始めと終りは定義されているかあるいは暗黙にある。」(甲9)を意味する一方で,一般の用語としては,「?@伝言。ことづて。口上。挨拶。?A言語その他の記号(コード)によって伝達される情報。」などを意味する(平成3年11月15日発行の「広辞苑第四版」2520頁),多義の語である。
そこで,請求項1の「接続信号中の応答メッセージ」の意義を解釈するため,本件明細書の記載を参酌することとする。
イ(ア)本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある。
a「・・・現状における電話番号情報は電話帳に掲載されている情報に限られており,実在する電話番号を知り得る方法がなかった。また,実在する電話番号の変更情報を全て得るためのシステムは未だ実現されていない。」(段落【0005】),「本発明は,上記問題点を根本的に解決するためのものであり,実在する電話番号を収集し,加えて,実在する電話番号を基に適時有効あるいは/および無効なものに更新される電話番号を収集し,正確な電話番号の利用状況を示す電話番号情報として提供することを目的とする。」(段落【0006】)b「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の電話番号情報の自動作成装置は,市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを生成しハードディスクに登録する手段と,番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集しハードディスクに登録する手段と,番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集しハードディスクに登録する手段と,を備えることを要旨とする。」(段落【0007】)c「接続信号とは電話を発信したときに発信側に返戻される信号音のことであり,これが着呼音(呼び出し音),極性反転,あるいは話中音であるときに,有効な電話番号すなわち実在する電話番号であると判定し,有効電話番号の記憶領域に記憶する。着呼音,極性反転,あるいは話中音のいずれも認識されず,所定の応答音があるとき,無効電話番号であると判定し,無効電話番号の記憶領域に記憶する。」(段落【0011】)d「上記した接続信号には,以下のようなものがある。
▲1▼ 着呼音(呼び出し音,またはリングバックトーン)呼び出し中であることを意味し,発信側に知らせる音であり,所定の周波数で所定の周期および継続時間で繰り返される断続音である。
▲2▼ 話中音相手話中,または中継回線話中を表わす音であり,所定の周波数で所定の周期および継続時間で繰り返される断続音である。
▲3▼ 未使用電話に対する音例えば,「おかけになった電話番号は,現在使用されていません。」「・・・お客様の都合で移転しました。新しい番号は○○○○番です。」「・・・連絡先が変りました。新しい番号は○○○○番です。」「お客様の都合で一時取り外しています・・・」等の音声メッセージがある。
▲4▼ 発信音受信準備完了を知らせる音であり,所定周波数の連続音である。
▲5▼ 電話をオフフックしたときの極性反転信号この時電話回線へ遮断されていた電流が流れる。
▲6▼ その他非課金のための特殊呼び出し(フリーダイヤル,お話中調べ114,電話呼称113,他104,115等)において,「極性反転が発生しない特殊電話番号」等がある。」(段落【0012】)e「上記無効すなわち未使用電話番号についての音声メッセージは,所定メッセージを繰り返した後,終了する特徴がある。そこで,特定の電話番号を無効であると判断するためには,例えば,上記のような音声メッセージを認識する。そのため,例えば,この音声メッセージをディジタル信号に変換して記憶領域に記憶し,所定のサンプリング音声と,サンプリング音声幅(音声の開始から終了までの時間幅)との2点において基準音声メッセージと比較し,判定する。この音声メッセージの判定により未使用電話番号を,▲1▼新電話番号を案内している電話番号,▲2▼新電話番号を案内していない電話番号,▲3▼一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類に仕分けすることができる。」(段落【0014】)f「【実施例】・・・図1は,本発明による実在する電話番号情報の自動作成装置の実施例の全体構成を示すブロック図である。本装置は,CPU1,コントローラ2,メモリ3,I/Oボード4,キーボード5,プリンタ6,ハードディスク7,音声・回路ボード8,ディスプレイ9およびフロッピーディスク10から構成されている。・・・」(段落【0016】),「・・・ハードディスク7に記憶された応答信号が予めハードディスク7に記憶されている所定の信号パターンの周波数と一致するかを判定する。予め記憶されている信号パターンは,呼び出し音および話中音の2種類である。極性反転は,特に図示してはいないが,ループ電流の遮断を電気回路により検知する。着呼音,話中音あるいは極性反転以外の音声が認識されたときは,音声の繰り返し開始から終了までの時間をカウントする。音声のカウント時間が所定の時間を過ぎても終了しない場合は,「おかけになった電話番号は,現在使用されていません・・・」等の永遠繰り返しメッセージの未使用の電話番号である。」(段落【0020】),「所定の時間で終了するメッセージとしては,「おかけになった電話番号は移転のため電話番号が変りました。新しい番号は○○○○番です。」,「おかけになった電話番号はお客様の都合で電話番号が変りました。連絡先の電話番号は○○○○番です。」,「おかけになった電話番号はお客様の都合で一時取り外しています。(このメッセージは新しい電話番号を案内していない。)」,その他類似メッセージがあるが,新しい電話番号を案内しているメッセージと一時取り外しを案内しているメッセージとは所定の繰り返しでメッセージを終了する特徴をもっている。これを利用して,無効電話番号のうち,▲1▼新電話番号を案内している電話番号,▲2▼新電話番号を案内していない電話番号,▲3▼一時取り外し案内しているが,新電話番号を案内していない電話番号,の3種類に自動仕分けし,ハードディスク7に記憶する。」(段落【0021】)g「発信された番号について,着信認識処理(A003)を実行する。この処理においては,オートダイヤルで発信されてからS秒間の応答信号を認識する。すなわち,タイマーのカウント開始(T0 秒)によりS秒間の応答信号認識処理を開始し(ステップ A0030),応答信号が着呼音,極性反転,話中音であるかを判定し(ステップ A0031〜A0033),それぞれがYESであるとき,その番号は有効な電話番号であると判断して,有効電話番号としてハードディスク(図1)に登録する,すなわち,有効電話番号テーブルを作成する(ステップ A0035)。」(段落【0026】),「応答信号が上記したもののいずれでもなければ,上記以外の音声であるかを判定し(ステップ A0034),YESであればその番号は無効な電話番号であると判断し,無効電話番号としてハードディスク(図1)に登録する,すなわち,無効電話番号テーブルを作成する(ステップ A0036)。」(段落【0027】)h「ステップ A0034において無効と判断するときの応答音としては,音声メッセージが認識される。この音声メッセージをディジタル信号に変換して記憶領域に記憶し,所定のサンプリング音声と,サンプリング音声幅(音声の開始から終了までの時間幅)との2点において基準音声と比較し,判定する。判定結果は,▲1▼例えば「・・・移転のため電話番号が変りました・・・」や「・・・お客様の都合で連絡先が変りました・・・」のように,新電話番号を案内している電話番号,▲2▼例えば「・・・現在使われていません・・・」のように,新電話番号を案内していない電話番号,▲3▼例えば「・・・お客様の都合で一時取り外しています。」のように,一時取り外し案内しているが,新電話番号を案内していない電話番号,の3種類に判別し,自動仕分けする。」(段落【0028】),「S秒間何ら音声を認識しないかあるいは,上記した3種類の音声メッセージ以外の永遠繰り返しメッセージが返信されるとき,すなわち,タイマーのS秒カウント終了(TS 秒)によりS秒後に認識処理終了となった(ステップ A0037)場合は,回線を切断し(ステップ A0038),ステップ A001に戻って,再度同一の番号をダイヤルする。図2のフローチャート中には詳細に示されてはいないが,この繰り返しは,例えば,3回繰り返し,再度何ら音声が認識されないときは無効電話番号として処理する。その番号について有効あるいは無効を認識した後,すなわち,有効あるいは無効電話番号の登録後,回線は切断され,次の番号をダイヤルする。この処理は,番号テーブルが全件終了するまで繰り返される。」(段落【0029】)i「【発明の効果】本発明による電話番号情報の自動作成装置によれば,▲1▼有効(実在する)電話番号情報▲2▼無効(未使用)電話番号情報▲3▼無効電話番号の中からある時有効となった電話番号(新設電話番号)情報▲4▼有効電話番号の中からある時無効となった電話番号(廃止電話番号)情報を得て,刻々変化する電話番号情報を細大洩らさず迅速かつ正確に把握することが可能となり,例えば,電話を利用した販促・販売方法に必要とされる正確な電話番号の利用状況を逐次情報として提供することができる。」(段落【0036】),「また,有効電話番号情報についてその市外局番および市内局番と該当する住所エリアの情報を利用して,利用者の住所情報を得ることができ,したがって,本発明は,今後益々発展する電話を利用したコミュニケーション機器等の効率的な運用に,また,大量顧客を保有する企業の住所変更管理情報等に利用することができる。」(段落【0037】)(イ)上記(ア)の記載及び図面(甲2)によれば,本件明細書には,?@「接続信号」とは,「電話を発信したときに発信側に返戻される信号音」であり,「接続信号」には,発信音,着呼音,話中音,「未使用電話に対する音」(例えば,「おかけになった電話番号は,現在使用されていません。」「・・・お客様の都合で移転しました。新しい番号は○○○○番です。」「・・・連絡先が変りました。新しい番号は○○○○番です。」「お客様の都合で一時取り外しています・・・」等の「音声メッセージ」),極性反転信号,「極性反転が発生しない特殊電話番号」等があること,?A本件発明において,「音声メッセージ」は「無効と判断するときの応答音」として認識されること,?B本件発明の実施例として,「音声メッセージ」は「ディジタル信号に変換して記憶領域に記憶」され,「所定のサンプリング音声と,サンプリング音声幅(音声の開始から終了までの時間幅)との2点において基準音声と比較」することにより,新電話番号を案内している電話番号(例えば「・・・移転のため電話番号が変りました・・・」や「・・・お客様の都合で連絡先が変りました・・・」),新電話番号を案内していない電話番号(例えば「・・・現在使われていません・・・」),一時取り外し案内しているが,新電話番号を案内していない電話番号(例えば「・・・お客様の都合で一時取り外しています。」)の3種類に判別し,自動仕分けすることが記載されていることが認められる。また,上記(ア)fのとおり,本件明細書において,「メッセージ」の語は,交換機から応答される音声アナウンス(音声の伝言)として使用されている。
(ウ)他方で,本件明細書中には,「応答メッセージ」の語は使用されておらず,また,「音声メッセージ」以外の接続信号に基づいて,3種類の電話番号の判別・仕分けを行うことができることについての記載も示唆もない。
ウ上記ア及びイの認定事実を総合すれば,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「接続信号中の応答メッセージ」(構成要件C)は,「電話を発信したときに発信側に返戻される信号音」のうち,交換機から応答されて回線網を経て通知される「音声メッセージ」,すなわち,「音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報」を意味するものと解するのが相当である。
そして,本件発明においては,音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報である「応答メッセージ」に基づいて,「新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の「3種類の番号に仕分け」していること(構成要件C)が理解される。
(2) 被告装置の構成要件C充足性被告装置は,発呼を行ったときデジタル信号からなる切断メッセージが返された場合に,「切断メッセージ中の理由番号」に応じて「無効」,「移転」,「都合停止」等に電話番号を分類しているが,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」は,デジタル信号で表された番号(数字)の情報であって,音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報に該当しないから,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に当たらない。
したがって,被告装置は,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに基づいて・・・3種類の番号に仕分け」するとの構成を備えていないから,構成要件Cを充足しない。
(3) 原告の主張に対する判断ア原告は,「メッセージ」は,「任意の量の情報。その始めと終りは定義されているかあるいは暗黙にある。」を意味し,合目的的な情報のまとまりであり,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」は,本件発明の構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に相当する旨主張する。
しかし,前記(1)ウで説示したとおり,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「接続信号中の応答メッセージ」(構成要件C)は,「電話を発信したときに発信側に返戻される信号音」のうち,「音声メッセージ」すなわち「音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報」を意味するものである。
加えて,本件発明は,「無効となった電話番号」を「接続信号中の応答メッセージに基づいて・・・3種類の番号に仕分けして」(請求項1)おり,構成要件Cの「応答メッセージ」は3種類の番号に仕分けするよりどころとなるものでなければならないが,原告の主張を前提とすると,「応答メッセージ」には,「応答情報あるいはその情報のまとまり」であれば,いかなる情報も含まれることになって,3種類の番号を仕分けするよりどころとならない情報をも含むものと解釈せざるを得なくなること,また,前記(1)イ(イ)及び(ウ)認定のとおり,本件明細書には,本件発明は,接続信号中の「音声メッセージ」に基づいて3種類の電話番号に仕分けすることが記載されている一方で,「音声メッセージ」以外の接続信号に基づいて3種類の電話番号の判別・仕分けを行うことができることについての記載も示唆もないことに照らすならば,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」が,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に相当するとの原告の主張は採用することができない。
イ次に,原告は,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「応答メッセージ」(構成要件C)は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載の実施例の範囲に限定されるものではなく,「音の信号」に限定されるものではないから,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」は,本件発明の構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に相当する旨主張する。
しかし,前記アで説示したところと同様の理由により,原告の上記主張は採用することができない。
(4) まとめ以上によれば,被告装置は,構成要件Cを充足するものと認められないから,本件発明の技術的範囲に属さない。したがって,原告主張の被告による被告装置の製造,使用は,本件特許権の侵害に当たらない。
2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録NCOT(NationalChangeOfTelephone-number)という名称を有する電話番号データベースの生成に用いられ,下記(1)ないし(3)の構成を有するTACS(TelelistAutomaticCleaningSystem)からなり,下記(1)の手段により市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルをハードディスクに登録し,当該番号テーブルに登録された電話番号に下記(2)の手段により発呼を行うことによる当該電話番号の現在の利用状況の調査装置。
(1)DVDに記録した番号テーブルを読み出しハードディスクに登録する手段,(2)ISDNのサービス種別「非制限64kbit/s回線交換」を用いて,上記番号テーブルから読み出した電話番号に発呼を行う手段,(3)上記発呼を行ったときデジタル信号からなる切断メッセージが返された場合に,切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」,「無効」,「移転」,「都合停止」,「エラー」,「局預け」,「再調査」,「INS回線有効」にそれぞれ分類してハードディスクに登録する手段
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研