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関連審決 不服2005-12831
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10370審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10140審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10228審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  一定の効果 /  物の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  単一性 /  分割出願 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  審判制度 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶審決 /  審理終結通知 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10020号 審決取消請求事件
原告株式会社アデランスホールディングス
原告フ ォンテーヌ株式会社
両名訴訟代理人弁理士平山一幸
同 篠田哲也
同 小川耕太
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人増澤誠一
同 川本眞裕
同 高木彰
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/06/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2005-12831号事件について平成19年11月27日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告らが,名称を「自毛活用型かつら及び自毛活用型かつらの製造方法」とする発明につき後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が補正を却下した上,請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,本願補正発明が特表平4-505188号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(発明の名称「ヘアピース」,出願人A,公表日平成4年9月10日。以下「引用発明」という。)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項)等である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告株式会社アデランスホールディングス(旧商号 株式会社アデランス)及び原告フォンテーヌ株式会社は,平成12年10月6日,名称を「自毛活用型かつら及び自毛活用型かつらの製造方法」とする発明について特許出願(以下「本願」という。請求項の数18。特願2000-307987号。甲6)をしたところ,特許庁から拒絶理由通知(甲7の1)を受けたので平成16年12月27日付けで特許請求の範囲等を補正(第1次補正。甲9)したが,平成17年5月31日付けで拒絶査定(甲10)を受けた。
これに対し原告らは,平成17年7月7日付けで不服の審判請求(甲11)をし,同請求は特許庁において不服2005-12831号事件として審理されることとなった。その中で原告らは平成17年8月8日付けで特許請求の範囲等を補正(第2次補正。請求項の数16。以下「本件補正」という。甲1)したが,特許庁は,平成19年11月27日,本件補正を却下した上「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は平成19年12月19日原告らに送達された。
(2) 発明の内容ア 本件補正前本件補正前(第1次補正後)の請求項は1ないし18から成るが,そのうち請求項2は,次のとおりである(以下「本願発明」という)。
「【請求項2】かつらの隙間から装着者の自毛を引き出してかつらに取り付けた擬毛と混ぜ合わせて装着する自毛活用型かつらにおいて,線状に形成した複数本のリブだけで構成すると共に,該複数本のリブを組み合わせてかつらのアウトラインを形成しないよう骨格様のフレームワークを形成し,この骨格様のフレームワークに多数の擬毛を取り付けて周縁枠を有しない植毛フレームを構成し,上記植毛フレームの間から出した装着者の自毛と上記リブに取り付けた擬毛とを混ぜ合わせて装着することを特徴とする,自毛活用型かつら。」イ 本件補正後本件補正後の請求項は1ないし16から成るが,本件補正前の上記請求項2に対応する請求項2は,次のとおりである(下線は補正部分。以下「本願補正発明」という)。
「【請求項2】かつらの隙間から装着者の自毛を引き出してかつらに取り付けた擬毛と混ぜ合わせて装着する自毛活用型かつらにおいて,線状に形成した複数本のリブだけで構成すると共に,該複数本のリブを組み合わせてかつらのアウトラインを形成しないように,且つ,各リブの先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置するように骨格様のフレームワークを形成し,この骨格様のフレームワークに多数の擬毛を取り付けて周縁枠を有しない植毛フレームを構成し,装着者の頭部に載せて,上記植毛フレームの間から出した装着者の自毛と上記リブに取り付けた擬毛とを混ぜ合わせて装着することを特徴とする,自毛活用型かつら。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願補正発明及び本願発明は,引用発明に基づいて容易に発明することができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない等とするものである。
イなお,審決が認定する引用発明の内容,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
〈引用発明の内容〉「かつらの間から着用者の毛髪を引き出してかつらに取り付けられた補助毛髪とを混合して装着するかつらにおいて,複数のロッドは,結合部品から放射状に,自由端で終わる生え際に向かって,伸びて支持部材を形成し,複数のロッド及び結合部品からなる支持部材に多数の補助毛髪を取り付けて周辺に枠を有しないヘアピースを構成し,着用者の頭部に載せて,ヘアピースのロッドの間から引き出した着用者の毛髪とロッドに取り付けた補助毛髪とを混ぜ合わせて装着するかつら。」〈一致点〉両者は,いずれも「かつらの隙間から装着者の自毛を引き出してかつらに取り付けた擬毛と混ぜ合わせて装着する自毛活用型かつらにおいて,骨部材で構成すると共に,かつらのアウトラインを形成しないように,骨格様のフレームワークを形成し,この骨格様のフレームワークに多数の擬毛を取り付けて周縁枠を有しない植毛フレームを構成し,装着者の頭部に載せて,上記植毛フレームの間から出した装着者の自毛と上記骨部材に取り付けた擬毛とを混ぜ合わせて装着する,自毛活用型かつら。」である点で一致する。
〈相違点1〉骨格様のフレームワークを形成する,骨部材について,本願補正発明では,線状に形成した複数本のリブだけで構成されているのに対し,引用発明では複数のロッドと結合部品とから構成されている点。
〈相違点2〉骨格様のフレームワークについて,本願補正発明では,骨格様のフレームワークを形成する各リブの先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置するように形成しているのに対し,引用発明では骨格様のフレームワーク(支持部材)を構成する複数のリブ(ロッド)はヘアライン,天頂部との関係が不明な点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,本件補正を却下し,かつ請求項2のみについて判断しその余の請求項についての判断を示さなかった審決は,以下のとおり誤りであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(相違点認定の誤り)(ア)審決は,本願補正発明と引用発明との相違点が相違点1と相違点2だけであると認定しているが,次の相違点3を看過しているというべきである。
〈相違点3〉「骨格様のフレームワークについて,本願補正発明では,線状に形成した複数本のリブを組み合わせて構成されているのに対し,引用発明では,複数のロッドが結合部品に放射状に結合されて構成されている点。」(イ)すなわち,本願補正発明の「骨格様のフレームワーク」の形状・構造についてみると,下記?@〜?Bの特徴を備えている。
?@ 線状に形成した複数本のリブだけで構成されていること?A複数本のリブを組み合わせてかつらのアウトラインを形成しないように構成されていること?B各リブの先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置するように構成されていることこのように,本願補正発明の「骨格様フレームワーク」は,?@「線状に形成された複数本のリブだけ」で構成されているのみならず,?A「該複数本のリブを組み合わせて」構成されている。
「リブ」とは「肋骨」を意味する英単語「rib」の意であることは明らかである。これに加えて,疑義をなくすため本願明細書(甲6)の段落【0023】にも「複数本のリブ13の組み合わせは,丁度,人の肋骨のような,或いは魚の骨パターンのような,或いは木の葉の葉脈パターンのような骨格様のフレームワークを呈し…」と記載されており,さらに,段落【0026】には「木の葉の中央脈(midrib)」との記載がある。なお,特許庁の審査基準(甲13)では,「(2)ただし,請求項の記載が明確であっても,請求項に記載された用語(発明特定事項)の意味内容が明細書及び図面において定義又は説明されている場合は,その用語を解釈するにあたってその定義又は説明を考慮する。」とされている。
したがって,本願補正発明における「リブ」の語は部材自体の形状を表すと共に他の部材との位置関係をも表した語である。このことは,本件補正後の請求項2(本願補正発明)において「線状に形成した複数本のリブだけで構成すると共に,」として部材の特徴を表し,続いて「該複数本のリブを組み合わせて」として部材同士の関係を表していることからも明らかである。
本願補正発明における「線状の複数本のリブを組み合わせて」とは,複数本の線状の骨部材が肋骨状に組み合わされた状態,すなわち部材同士の関係に注目すると,線状の部材同士が互いに対等な一対一の関係で交点で組み合わされた状態を意味することがわかる。なお,本願補正発明は物の発明であるから,「リブを組み合わせて」の記載が完成形状を表していることはいうまでもない。
一方,本願補正発明の「骨格様のフレームワーク」と対比される引(ウ)用発明の「支持部材」の形状・構造についてみると,「…『複数のロッド…』は,結合部品から放射状に,…伸びて…骨格様のフレームワークを形成している…」(審決5頁15行〜17行)。すなわち,引用発明の支持部材は,結合部品から複数のロッドが放射状に伸びて形成されている。また,「結合部品」は,「…例えばそこからロッドが放射状に伸びる円板である。」(甲3,2頁右下欄20行〜21行)。
したがって,引用発明の「支持部材」は,ロッドを支持するための円板状の部品である「結合部品」の円周面に,結合部品に結合支持させるための線状の部材である「複数のロッド」が,全体として放射状になるよう接続されて構成されている。
(エ)そこで,本願補正発明を引用発明と対比すると,引用発明では,円板状の部材(結合部品)と多数の線状の部材(ロッド)とが,支持する部材(結合部品)と支持される部材(ロッド)という主従かつ多対一の関係で接続されているし,複数のロッドは結合部品に対してそれぞれが片持ち梁式に個々に接続されており,交点を形成していないから,線状の部材(リブ)同士が互いに対等な一対一の関係で交点を形成している本願補正発明とは異なるのであり,引用発明は,本願補正発明の「リブを組み合わせ」た状態とはいえない。
以上のように,引用発明の「支持部材」は「複数本のリブを組み合(オ)わせ」たものと認定することはできず,本願補正発明と引用発明は,上記相違点3において相違している。
(カ)なお,被告は,乙1(実願昭59-244号[実開昭60-113321号]のマイクロフィルム,考案の名称「かつら」,出願人B,公開日昭和60年7月31日),乙2(特開2000-34612号公報,発明の名称「おしゃれ増毛装具」,出願人株式会社アートネイチャー)を提出するが,乙1及び乙2は,相違点3が存在することを前提として,相違点3の構成を想到することの容易性そのものを立証する新たな引用文献に他ならず,単に技術水準を知るとか刊行物の記載内容を明らかにするという類いのものとは異なる。したがって,本件において審決の当否を判断するに当たり,乙1及び乙2を参酌することは許されるべきではない。
また,乙1に記載されたものは,「くし」に毛を取り付けたものにすぎない。「くし」というからには,一方向に整列して配置された「くしの歯」とくしの歯を一端で支える「支持基材」が存在するのであり,くしの歯だけでくしが成り立っている訳ではない。したがって,乙1に記載されたものは,一方向に配列されているにすぎず,本願補正発明の「リブ」のように互いに組み合わさって形成されておらず,また,リブに相当するくしの歯だけで構成されてもいない。この点は,乙2に記載されたものも全く同様であり,「弾性線状部材13」は幅状の「保持部材11」に一端を支持されて一方向に整列して配置されているにすぎず,「弾性線状部材13」同士が互いに組み合わさっている訳ではない。したがって,乙2において,「弾性線状部材13」の形状が本願補正発明のリブを構成する細線の形状に類似するとしても,これらが互いに組み合わされているものでもなく,リブだけで構成されてもいない。
以上のように,乙1及び乙2は,本願補正発明の進歩性を否定する根拠となるものではない。
イ 取消事由2(推考容易性についての判断の誤り)(ア) 相違点1についての判断の誤りa審決は,相違点1について,「後者における結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さくすることも当業者であれば,当然のようになし得ることであり,そうした場合,ロッドだけで骨部材を形成することになる。」と認定している(6頁9行〜12行)以上の認定のうち,「そうした場合,ロッドだけで骨部材を形成することになる」との一節について考察すると,審決は「当業者であれば当然に,結合部品を限りなく小さくし,その結果,完全になくすことができる」ことを前提としているといえる。しかし,引用発明における「結合部品」は,「…例えばそこからロッドが放射状に伸びる円板である。」(甲3,2頁右下欄20行〜21行)。「結合部品」には,その名の示す通り,複数のロッドを結合し,支持するという技術的意義が存在する。「ロッド」と「結合部品」とは「支持される部材」と「支持する部材」の関係なのであって,「支持する部材」なしに「支持される部材」のみが成り立つことはあり得ない。引用例(甲3)には「結合部品」の存在を前提とした態様のみしか開示されておらず,また結合部品を小さくすることについての動機付けや示唆となる記載もなされていない。それにもかかわらず,審決は何らの証拠を挙げることもなく,これを小さくし,はては無くすことも当業者であれば当然できるとすることははなはだ不当である。
また,引用例(甲3)の「FIG.1」,「FIG.1A」,「FIG.2」,「FIG.3」の各図に表れているように,結合部品11は一定幅の面積及び厚みを有する円板状の部材であって,その外周面部分にロッド12,13が固定されて支持されている。とすれば,結合部品は複数本のロッドを合計したサイズよりも少なくとも幅広に形成されていなければ支持できないはずであるから,「結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さくする」ことは,技術的には製作不可能である。
さらに,ロッド12,13の本数や太さを変化させずに結合部品11の面積を小さくしていくと,結合部品との結合部位周辺におけるロッド12,13同士の隙間14は狭くなる。ロッド同士の間隔が狭いと,ロッド同士の隙間14から自毛を引き出すことが困難となるから,この周辺においては,引用例の自毛活用型かつらの前提である「かつらの隙間から装着者の自毛を引き出してかつらに取り付けた擬毛と混ぜ合わせること」ができない。引用例(甲3)の2頁右下欄下6行〜下5行には「ロッドの狭い配置によって生じる鋭角部は毛髪の引き出しを妨げる…」と明示されていることから,引用発明では,ロッドの本数を減らすことなく結合部品を小さくしていくことは好ましくないと考えていることが理解される。一方,ロッドの本数を減らせばかつらとしての機能を十分に発揮し得ないことは明らかである。したがって,引用発明において結合部品を小さくする態様を採用することについては技術的に阻害事由があるといえる。
以上のように,引用例のかつらにおいて,「結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さくする」ことや「ロッドだけで骨部材を形成する」ことは当業者の想定するところではないし,事実上不可能である。
さらに,審決が認定しているように,「かつらにおいては,外からかつらを装着しているとわからないように,骨部材を小さく目立たなくすることはかつらにおける当然の要請」(6頁8行〜9行)であるにもかかわらず,引用例において依然として「結合部品11」が「限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さく」はなっておらず,またこれについての示唆となる記載もないことは,上述のように当業者においてこのような態様はなし得ないことを裏付けている。
したがって,審決の「後者における結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さくすることも当業者であれば,当然のようになし得ることであり,そうした場合,ロッドだけで骨部材を形成することになる。」との上記認定は誤りであり,「よって,後者において線状の複数本のリブ(ロッド)だけで骨格様のフレームワークを形成することは,かつらにおける当然の要請の点から,当業者であれば容易に想到し得ることである。」(6頁13行〜15行)との判断も誤りである。
bなお,被告は,引用発明において結合部品が必須の部材はないことを理由付けるために,「引用例の特許請求の範囲の請求項1には,『頭頂部区域から始まり,その自由端へと連続して伸びる中間区域(14)を一対で規定し,自由端で終わるロッド(12,13)によるかごとして備えられている支持部材を有することを特徴とする,湾曲したウエブより成る毛髪支持部材を有するヘアピース。』と記載されており,この記載は,結合部品が必ずしも必須のものでないことを裏付けている。」と主張するが,請求項にどのような構成要素を記載するかは出願人の選択事項であり,ある構成要素が記載されていないからといって,その構成要素が必須のものでないことの裏付けとはなり得ない。
また,被告は,「引用例において,複数のロッドを結合部品に結合するに当たり,例えば,結合部品近傍のロッドの直径を小さくして径の小さい結合部品に結合したり,あるいは,それぞれロッドの端部を薄く形成してそれらの端部同士を積み重ねるように相互に結合し,その結合した部分の厚さを低く抑えるなどして,結合した部分の径をより小さくするような技術手段を講じることは,当業者であれば必要に応じて適宜行うことである。」と主張する。しかし,引用例(甲3)には,結合した部分の径をより小さくするために,「結合部品近傍のロッドの直径を小さくして径の小さい結合部品に結合」するとか,「それぞれロッドの端部を薄く形成してそれらの端部同士を積み重ねるように相互に結合し,その結合した部分の厚さを低く抑える」というようなことについては記載も示唆もなく,そもそも,「かつらが頭皮から浮き上がってしまうことを防ぐと共に多くの自毛を引き出すために面状部材を排除する」といった動機付けとなる記載も全くないのであるから,被告の上記主張は,本願補正発明の相違点に係る構成を知って後から論理付けしたもの,すなわち後知恵というほかない。
(イ) 相違点2についての判断の誤りa審決は,相違点2について,「かつらにおいて,かつらを装着していることが外観上わからないようにするため,リブを短くして,ヘアライン(毛髪の生え際)に達することなく,天頂部側に入り込んで位置するように骨格様のフレームワークを形成することも,かつらにおける当然の要請であって…」(6頁17行〜20行)と認定している。
かつら製作において,「かつらを装着していることが外観上わからないようにする」ことが当然の要請であることは認められる。
しかし,かつらは通常,擬毛が取り付けられる部材(これを総称して「被植毛部材」という。)に擬毛を取り付けて構成されるから,被植毛部材がない部位には擬毛を取り付けることができない。したがって,擬毛を配置するためにはその場所に被植毛部材を配置することが必要であるから,かつらを装着していることが外観上わからなくするためにリブを短くすることが当業者における当然の要請であるということはできない。「リブを短くして,ヘアライン(毛髪の生え際)に達することなく,天頂部側に入り込んで位置するように骨格様のフレームワークを形成すること」が「かつらにおける当然の要請」とする上記認定は誤りであり,「後者における,骨格様のフレームワーク(支持部材)を構成する複数のリブ(ロッド)を短くしてヘアラインに達することなく,天頂部側へ入り込んで位置するように形成することは,かつらにおける当然の要請の点から,当業者であれば容易になし得ることである。」(6頁20行〜24行)との判断も誤りである。
bなお,相違点2は,正確には,「骨格様のフレームワークを構成する骨部材について,本願補正発明では,その先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置するのに対し,引用発明ではその自由端はヘアライン,天頂部との関係が不明であるが,固定端は頭頂部区域に位置する点。」と認定されるべきである。
ウ 取消事由3(本願補正発明の効果についての判断の誤り)審決は,「そして,本願補正発明を全体としてみた効果も,引用発明から当業者であれば予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。」(6頁26行〜27行)と判断しているが,本願補正発明は,引用発明との相違点1及び相違点3によって以下のような顕著な効果を奏するものであるから,この判断は誤りである。
(ア) 効果1(相違点1に起因する効果)骨部材について,引用発明では複数のロッドと結合部品とから構成されているのに対し,本願補正発明では線状に形成した複数本のリブだけで構成されている(相違点1)。
引用発明では,「面状の」部材である「結合部品」が不可欠な部品として存在する。結合部品11がその機能(ロッドの支持)を発揮するためには,その外周面11aの円周長が各ロッド12,13の直径dの和よりも大きい必要がある。また,被植毛部材の存在しない部位に擬毛を取り付けることはできないから,ロッド12,13の本数は装着者の希望する髪形や薄毛の程度に応じて規定されるのであり,結合部品11の面積は装着者の希望する髪形や薄毛の程度により規定されるといえる。
したがって,結合部品11の面積を自由に小さくすることはできない。
そのため,結合部品11の面積分,自毛を押さえつけ上方へ引き出すことができず,装着者の自毛を有効に活用することができないばかりか,かつらが頭皮から浮き上がってしまい,かつらが露見されやすくなる。
これに対して,本願補正発明では,骨部材が「線状に形成した複数本のリブだけ」で構成され面状の部材が無いことから,かつら装着者の自毛を押さえ付けてしまうようなことがない。したがって,本願補正発明は,かつらが頭皮から浮き上がらず,しかも,引用発明でいう「結合部品」の下に位置するかつら装着者の自毛も有効に活用することができるという,引用発明にない顕著な効果を奏するものである。
(イ) 効果2(相違点3に起因する効果)本願補正発明では,骨格様のフレームワークは複数本のリブを組み合わせて構成されているのに対し,引用発明では,複数のロッドが結合部品に放射状に結合されて構成されている(相違点3)。
「かつらにおいては,外からかつらを装着しているとわからないように,骨部材を小さく目立たなくすることはかつらにおける当然の要請」(審決6頁8行〜9行)である(要請1)。一方,骨部材の存在しない部位に擬毛を取り付けることはできないから,装着者の希望する髪形や薄毛の程度に応じて骨部材を配置しなければならない(要請2)。
また,骨部材同士の間隔について考えると,骨部材同士の間隔が狭すぎる場合には,骨部材同士の間に櫛の歯が入り込むことができないから,自毛を引き出すことが困難となる。その結果,骨部材が自毛を押さえつけてしまい,かつらが頭皮から浮き上がってしまうと共に,自毛を有効に活用できず,その意味においてその部分に面部材が存在するものと変わらないこととなる。そのため,骨部材同士の間隔を一定以上に保つことが好ましい(要請3)。一方,骨部材同士の間隔が広すぎる場合には,かつらを装着した状態での装着者の髪の密度にムラができてしまい,疎密の差が目立って自然な髪形とならないから,骨部材同士の間隔は一定未満であることが好ましい(要請4)。
このように,骨部材を使用したかつらには複数の相反する要請があるところ,各要請を満たす最良の形態について考えると,要請3及び4より,骨部材同士の間隔は,毛髪を容易に引き出すことができかつ装着者の髪の密度にムラができない程度であり,要請1及び2より,装着者の自毛の密度が低い部位では密に,逆に自毛の密度が高い部位では粗にというように,装着者の望む髪形や薄毛の程度に応じて自由に設定できることが望ましいといえる。
ここで,引用発明においては,ロッド12,13の一端が結合部品11に固定され,自由端側が放射状に延びている。そのため,固定端側におけるロッド同士の間隔14aは,自由端側におけるロッド同士の間隔14bより必ず密になってしまう。自由端側の密度により固定端側の密度が規定されてしまうのである。したがって,ロッド12,13同士の間隔を装着者の自毛の密度分布に応じて自由に設定することは不可能である。
また,引用発明ではロッド12,13が放射状に備えられている以上,自毛を引き出すことが困難となる部分が生じてしまう。具体的には,頭の平面視直径Dを20cmとした場合,装着者の髪の密度にムラを生じないためには,頭の平面視における円周付近においてロッド12,13同士の間隔を4cm以内とする必要があるから,平面視において中心から2.5cm以内,すなわち直径5cmの円形の領域内ではロッド12,13同士の間隔が1cm未満となり,事実上これらの間から装着者の自毛を引き出すことができず,自毛を押さえつける結果となってしまう。
一方,本願補正発明は,「線状に形成した複数本のリブを組み合わせて」骨格様のフレームワークを構成したことにより,リブ同士の間隔を自由に設定することに成功したものである。具体的には,リブ同士を互いに一対一の関係で組み合わせることにより,装着者の自毛の密度が低い部位ではリブ同士の間隔を密に,逆に自毛の密度が高い部位では粗にするなど,装着者の薄毛度合いや要求する髪型に応じて自由に組み合せて配置することができる。さらに,リブ同士の間隔を部位ごとに任意に定めることができるから,装着者の頭の全体にわたって自毛を引き出すことが可能であり,かつ髪の密度にムラができることもないようにリブを配置することができる。
(ウ)以上のように,本願補正発明は,引用発明との相違点に起因して引用発明にない特段の作用効果を奏するものであって,「そして,本願補正発明を全体としてみた効果も,引用発明から当業者であれば予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。」との審決の上記判断は誤りである。
エ 取消事由4(本件補正を却下すべき旨の判断の誤り)(ア)審決は,「以上のことから,本願補正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許をすることができない。」(6頁27行〜29行)と判断し,本件補正を却下している。
しかし,上述のように本願補正発明は引用発明と相違しており,これらの相違点は当業者にとって当然に想到し得るものではないから,本願補正発明は引用発明に対して特許に値すべき十分な進歩性を備えている。
したがって,本件補正を却下すべき旨の審決の判断は誤りである。
(イ)本願に対応する特許出願は複数の外国で特許性が認められ,特許権が成立している。
例えば,本願に対応した米国特許出願は,米国特許庁における審査が既に終了しており特許が認められている(甲20)。また,米国のみならず,中国(特許第00131863.2号),インドネシア(特許第0014602号),韓国(特許第10-0598708号),マレーシア(特許第125205号),シンガポール(特許第105470号),タイ(特許第22342号),台湾(特許第165667号)において特許権が成立している。これらの事実からも,本願補正発明に特許性があることは明らかである。
(ウ)なお仮に,本件補正が却下すべきものであったとしても,本願発明は,引用発明と上記相違点1,3において相違するため,進歩性を有する。
オ 取消事由5(請求項2以外の請求項に係る発明についての審理不尽)(ア)原告らは,特許庁の審査における拒絶査定を不服として平成17年7月7日付けで審判請求(甲11)をし,平成17年8月8日付けで本件補正を行い,これによって補正された特許請求の範囲請求項1〜16に係る各発明について審判官の合議体による審理を求めた。
また,原告らは,本件補正とともに,本願補正発明以外の請求項1,3などについても,本願補正発明と同様に引用された先行技術に対して特許性があることを詳細に主張した理由補充書(甲2)を特許庁へ提出している。
しかし,この審判における審理では原告らに意見などを述べる機会が一切与えられず,特許庁より原告らに対して平成19年11月13日付けで審理終結通知(甲4)がなされた。
この通知に対し,原告らは審判長宛に上申書(甲5)を提出し,本件補正後の請求項1〜16に係る各発明が特許要件を具備することや,先行技術とのより一層の差別化を図るための補正案を提示し,原告らが補正の準備があることを上申した。
しかし,このような上申も一切考慮されることなく,審決では,本願補正発明についてだけ判断が示されている。
(イ)以上のように,複数請求項に係る各発明について審判官の合議体による審理を求めたにもかかわらず,1の請求項以外の請求項に係る各発明について何らの審理判断がなされることもないとすれば,特許法1条に謳われている発明保護の法目的に反し,衡平の原則にも反する。
また,審判請求人は,拒絶査定に瑕疵があると判断した場合に,3人又は5人の審判官の合議体による,審査よりさらに慎重かつ厳格な判断を受けるために審判を請求するのであり(特許法121条),基本手数料に加え,請求項数に一定額を乗じた金額を納付しなければ審判を受けることができない(特許法195条2項別表)。これに対し審判官の合議体が最低一つの請求項だけについて判断することで審議が足りるとすれば,民法1条2項及び民訴法2条に定められている信義誠実の原則に反することとなる。
特許査定は行政処分であり,民事訴訟とは異なる性質を有している。
しかし,特許出願から特許権の付与に至る過程は,特許庁及び出願人の双方が意見を交わす手続により権利形成をするという性格を有するものであり,特許権が出願から20年という長期間にわたる権利であることに鑑みれば,特許出願手続は信義誠実の原則に則って行われるべきである。このことは,先行技術文献の開示制度(特許法36条4項2号)の導入趣旨からも明らかであり,出願人に信義誠実義務が課せられている以上,特許庁も当然これを遵守すべきである。
したがって,複数の請求項を含む出願において,一つの請求項についての拒絶理由に基づいて拒絶審決をすることができるとしても,他の請求項について判断も示唆もせず,しかも判断しない理由を何ら示さない審決については,事件が審決をするのに熟さないままなされたものであり審議不尽の違法があるといえる。
(ウ)特許法49条2号を形式的に解釈すれば,審判段階のみならず審査段階であっても,一つの請求項に対する拒絶理由のみを通知すれば拒絶の査定をすることができることになる。しかしそれでは,一つの請求項のみについてしか判断されない事態も生じ得るから,「密接に関連する一群の発明をもれなく一つの出願に含めて記載することができるように」し,「単一性の要件を満たす限り,同一発明か別発明かの区別をなくすることによって出願手続の簡明化等を図ることができるようにする」という多項制の趣旨を滅却することとなる。
このような事態を避けるため,特許庁の審査基準(甲22)では,「拒絶査定に際しては,解消されていないすべての拒絶理由を示すとともに,その拒絶理由がどの請求項に対して解消されていないのかがわかるように,簡潔かつ平明な文章で記載する。」とされており,また審査ハンドブック63.06には「拒絶の理由を発見しない請求項を含む出願について拒絶理由を通知する場合には,…拒絶の理由を発見しない請求項を明示する」と明記されており,出願人の特許を受ける権利を保護している。
さらに,審判便覧の「61-00」(甲23)では,拒絶査定不服審判に関し,「新特許制度では,拒絶査定不服審判は審査のレビューの側面が重視されることになる。また,…補正の適正化と関連して補正の適否判断,最初の及び最後の拒絶理由通知のあり方等について,審査基準に盛り込まれた取扱いを踏まえた運用を行う。」と明記されている。このように,「拒絶査定不服審判は審査のレビューの側面が重視される」べきであるところ,本件では1の請求項についてのみ判断を示し,他の15の請求項に係る各発明について判断を示していないから,到底,審査のレビューをしているとは認められない。
(エ)拒絶査定不服審判は,審査の続審である。ここで続審とは,「審査においてした手続を土台として審理を続行する」ことを意味する。確かに,拒絶査定において指摘された請求項のうち,いずれか1の請求項に係る発明に特許性がなければ原査定の結論は維持される。しかし,本件のように1の請求項に係る発明についてのみ審理し,他の請求項に係る発明について全く審理がなされない場合には,審理を続行したということはできない。
(オ)東京高等裁判所平成12年(行ケ)第385号審決取消請求事件(以下「第1事件」という)及び平成13年(行ケ)第105号審決取消請求事件(以下「第2事件」という。)では,本件と関連した論点について争われたが,いずれの事件においても,「特許法49条は,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが特許法29条等の規定に基づき特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。」として,請求が棄却されている。原告らはこの法解釈については論じない。
いずれの事件においても,判決は,「出願人は,拒絶理由通知の制度,並びに,同通知の前及び同通知の後の所定の期間内における補正又は分割出願の制度により,適切な対応をすることが可能なのであるから,49条についての上記解釈により出願人が不利益を被る結果となることについては,十分な手続的な担保がなされているとみることができる。」としている。第2事件の判決は,「出願人は,もともと請求項ごとに出願する自由も有しているのであり,この場合には,当然のことながら,すべての請求項について判断を受けることができる。」としている。
しかし,出願人が審判官の合議体による慎重な判断を受けるために,拒絶理由の通知されているすべての請求項について分割の手続をとらなければならないとすれば,出願人にとって時間的,経済的,手続的に過大な負担となるのみならず,これでは実質的に多項制の意味がなく,その趣旨を滅却する結果となる。
また,いずれの事件においても,判決は,「大量の特許出願について迅速な処理をすべき要請がある」とし,特に第2事件の判決は,「特許制度のあり方を考えるときは,一出願のみに着目してその出願人の権利・利益の保護をいかにして図るかという観点のみから決することは許されず,…特に,前者の出願が最終的に拒絶されることになるものであり,後者の出願が特許の認められるものである場合を考えると,拒絶されるべき出願のために,認められるべき出願をした者の利益が損なわれることになって,その不都合が明白となる。…また,特許成否の行方に利害関係を持ち,これを注視する第三者の負担をも考慮する必要がある。これらの観点からするときは,一出願についての審理事務の増大・遅延の防止は,他の出願との関係などを含む特許制度全体との関係で,極めて重要であることが明らかである。」としている。
しかし,出願人は通常自らの発明を「特許が認められるものである」と信じるものであり,このため審判官の合議体による判断を受けるのである。この場合にすべての請求項について分割の手続を行うとすれば,すべての分割出願について審査段階からの「覆審」を受けることとなる。そして,現実的には多くの場合,先の出願と同じ審査官に審査され,その結果先の出願と同様の拒絶理由を受け,審判請求を経て再度審判官の合議体により審理されることとなる。これでは,審判制度を続審制とした意味がなく,無用な審査手続が増える結果,出願人に多大な時間的,経済的,手続的負担を強いるのみならず,かえって「大量の特許出願について迅速な処理をすべき要請」に反し,「他の出願についての処理の遅れをも必然的に招き,その限りでは,他の出願をした者の利益を損なう」結果となるから,審判経済,訴訟経済に反し本末転倒である。また,平成18年の特許法改正にみられるように,昨今の分割制度の濫用が問題となり,これを防止する必要性が叫ばれている。審判官の合議体による判断を受けるために分割の手続をとらなければならないとすれば,時代の要請にも反する。
さらに第1事件の判決には,「審査官が審査の段階で全請求項について審査したとしても,これは,拒絶査定がされた後,出願人が審判を請求するときに補正が可能であることを考慮しての単なる運用というべきものであり,…審決がこのような事項についてまで詳細な理由を付さなければならないということもできない。」との記述がある。また,第2事件の判決では,「拒絶理由通知において,各請求項ごとに理由が明記されるのは…その後の補正や分割出願の対応の便宜を図るためであると解することができる。しかし,拒絶査定不服審判で請求不成立の審決を受けた後は,補正の機会はなく,同様に,分割もできないのであるから,それらの便宜を図る必要はない。そうである以上,この点につき,審決を拒絶理由通知と同様に解すべき理由はない。」としている。
しかし,出願人が上記判決の示唆に従い審査段階で分割出願をし,もとの出願については審判段階へ移行した場合において,審決時に各請求項ごとの判断が明記されてさえいれば,分割出願について審査請求をしないという選択肢も考えられる。このような示唆を何らすることもなく拒絶の審決を行うことは無用な審査の増加を招き,出願人に無用な負担を課すこととなるとともに審査迅速の要請に反するものである。
(カ)以上のように考えると,特定の請求項についてのみ判断をし,他の請求項について判断をしないまま審決を下すことは,審議不尽に他ならず,違法である。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア原告らは,審決は,「骨格様のフレームワークについて,本願補正発明では,線状に形成した複数本のリブを組み合わせて構成されているのに対し,引用発明では,複数のロッドが結合部品に放射状に結合されて構成されている点。」という相違点3を看過していると主張する。
しかし,原告らが主張する「線状に形成した複数本のリブを組み合わせて」なる点は,「線状の複数本のリブ」から「構成されている」形態のものであれば,どのようなものでも含まれるものと解されることから,審決では,相違点1として,「骨格様のフレームワークを形成する,骨部材」について,本願補正発明では「線状に形成した複数本のリブだけで構成されている」のに対して,引用発明では「複数のロッドと結合部品とから構成されている」点をあげ,「組み合わせて」の点は,相違点1における「構成されている」という表現の中に含めて認定したものである。
そして,原告らが主張する相違点3についての判断は相違点1についての判断の中で行っている。
したがって,相違点3を看過しているとの原告らの主張は失当である。
イ原告らは,「本願補正発明の『骨格様フレームワーク』は,?@『線状に形成された複数本のリブだけ』で構成されているのみならず,?A『該複数本のリブを組み合わせて』構成されている。」と主張し,また,「本願補正発明における『線状の複数本のリブを組み合わせて』とは,複数本の線状の骨部材が肋骨状に組み合わされた状態,すなわち部材同士の関係に注目すると,線状の部材同士が互いに対等な一対一の関係で交点で組み合わされた状態を意味することがわかる。」と主張する。
しかし,特許請求の範囲には,「線状に形成した…複数本のリブを組み合わせて」と記載されているだけであって,その記載が「複数本の線状の骨部材が肋骨状に組み合わされた状態」を意味するとも,「線状の部材同士が互いに対等な一対一の関係で交点で組み合わされた状態」を意味するとも記載されているわけではないから,そのように限定して解釈しなければならない理由はない。
したがって,原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから,失当である。
仮に,「線状の複数本のリブを組み合わせて」なる記載が,原告らの主張するように「複数本の線状の骨部材が肋骨状に組み合わされた状態」あるいは「線状の部材同士が互いに対等な一対一の関係で交点で組み合わされた状態」を意味するとしても,そのようなヘアピース(かつら)は,例えば,前記乙1,乙2などに見られるように,従来周知のものであって格別なものではない。
(2) 取消事由2に対しア 「相違点1についての判断の誤り」に対し(ア)引用例(甲3)には,結合部品について,次のような事項が記載されている。
a「3.前記頭頂部区域は前記ロッド(12,13)を放射状に広げる結合部品(11)を備えることを特徴とする,請求項1のヘアピース。
4.前記頭頂部区域は前記支持部材(100)を横切って横に伸びる結合部品(30)を備え,かつそれから前記ロッド(31,32,33)が相互にほとんど平行に始まっていることを特徴とする,請求項1のヘアピース。
5.前記ロッド(112,113)の少なくともいくつかは取り外し可能に結合部品(111)に接続されていることを特徴とする,請求項3又は4のヘアピース。」(【特許請求の範囲】)b「頭頂部はそこからロッドが星形に伸びて行く結合部品を備えている。この場合結合部品は例えばそこからロッドが放射状に伸びる円板である。それによって生じる中間区域はほぼ三角形をしている。ロッドの狭い配置によって生じる鋭角部は毛髪の引き出しを妨げるので縦形の結合部品が好ましい。このような結合部品は支持部材を横切って伸びロッドはそこから相互にほとんど平行に伸びるのでそれらはほとんど矩形の区域を規定する。縦形の結合部品は頭からほとんど耳殻の端部までの間の連続線をつなぐ棒状部材である。結合部品は各々ヘアピン又はへアグリップのような締め具のための通路となることもできる。
結合部品及びそこから放射状に伸びるロッドはプラスチック材料から一体として押し出し成型によって作ることができる。」(2頁右下欄19行〜3頁左上欄3行)c「毛髪はロッドに接着,締め付け又は溶着によって直接に取り付けられる。この状況において結合部品はロッドが取り外しできるように連結される分離部材として設計されることが好ましい。」(3頁左上欄15行〜18行)d「更にヘアピースは使用者自身の毛髪を染める前に染色後の効果の良い印象を使用者に見せて色を選ばせるための,例えばさまざまな房の色の実演モデルとして使うことができる。交換可能に接続できるように,結合部品はロッドが交換可能に差し込めるような放射状ポケットの付いた板として備えられても良い。」(3頁左上欄20行〜25行)e「支持部材の確実な保持は支持部材の自由端で終わるロッドを人自身の毛髪の内に差し込むことによって達成される。しかし,さらに他の取り付け方法も実行可能である。これを取り付けるために取り付けピンが結合部品内の通路を通して結合部品の下の毛髪の結び目内に差し込まれる。」(3頁左上欄26行〜右上欄3行)f「図4は改良されたロッドを備えた結合部品であり,」(3頁左下欄24行)g「各ロッド12,13及び結合部品11は使用者の頭と反対側の面上に毛髪を付けており,その毛髪は選択的に染められ,及び/又は捲縮されても良い。(図14)。ヘアピースは結合部品11が後頭部の上に係合するまでロッド12,13の自由に垂れた端がその頭の皮膚上を滑るように後から使用者の頭上に押される。それから生え際にとがった物が当てられ,即ちすべてのロッド12,13の自由端区域においてこの物体が頭の皮膚の上を各三角形区域14を通って結合部品11の方向へ引かれる。こうすることによって使用者自身の毛髪21(図1A)は容易に引き出され,補助毛髪20と均一に混合され,これによって使用者自身の薄い毛髪21はヘアピース120によって充足され,このようにしてたっぷりした髪型が得られまた生え際は自由端で終わるロッド12によって自然な感じに保たれる。」(4頁左上欄6行〜18行)h「ヘアピンは頭上にヘアピース120を固定するために円筒形の一様なロッド12,13の間の結合部品11の範囲内に差し込まれる。
各ロッド112,113は互い違いに(図4)開口部分が結合部品111の方向を向いているさかとげ16で縁取られているので頭の皮膚上を移動する物体によって矢印Aの方向に使用者の毛髪を引き出すに当たってさかとげ16は邪魔にならない。図4の実施態様において結合部品111は頂部及び底部に開いた中央孔19を有する円板17として形成しているので,それを通して頭の後の毛髪の結び目にライダーピンと呼ばれるものを向きを変えて差し込むことができる。」(4頁左上欄19行〜右上欄1行)i「図1から3及び4に示す実施態様においては結合部品11又は111は円板であったが図7から10に示す支持部材100の結合部品30はその縦方向軸がへアピースの着用者の両耳面内に伸びている縦方向棒として備えられている。縦方向結合部品30は後頭部の上部に位置する頭頂部範囲を形成し,そこからロッド31,32,33は支持部材100を頭にぴったりはまるかご状の形をした構造体として形成するように曲って周辺的に伸びている。ロッド31,32,33は弾性的なので支持部材100はいろいろな形及び寸法の頭に適合する。結合部品30は縦形をしているので前面ロッド31と後面ロッド33は結合部品30から大部分は平行に伸び,かつ中間区域34は上端及び下端においてほとんど同じ幅で伸びることができる。鋭い角度を避けることによって着用者自身の毛髪をロッドの間から容易に引き出すことができる。それらの曲率に加えて結合部品30の両端に組み合わされた前部ロッド31aは頭の形に合わせて頭表面の平面にそって少なくとも一回曲げられ,そこで髪型に合ったヘアピースの毛髪の方向に自然らしく適合することができる。」(4頁右上欄19行〜左下欄8行)j「押出成型によりロッド31,32,33と一体に作られている結合部品30は結合部品30の下の毛髪の組み結び目の内に差し込まれ,支持部材100を移動しないように固定するヘアピン及び類似の物の通路として作用する中央縦形小穴36を有する。」(4頁左下欄12行〜15行)k「それぞれのホース40の長さはそれが予定されているロッド31,32,33の長さに一致する。ロッド31,32,33をホース40としっかり接続するためにホース40がロッド上に滑入される時,結合部品の近傍でロッド31,32,33から突出ているピン41を受止める孔が,ホースの一端に,毛髪を有する側に設けられている。(図11)。」(4頁左下欄21行〜25行)(イ)これらの記載事項によれば,引用例には,結合部品の形状については,円板の結合部品だけでなく,「FIG.7」〜「FIG.10」に示すような縦方向棒の結合部品なども記載されており,結合部品が必ずしも円板の結合部品に限定されているわけではないことは明らかである。また,引用例には,結合部品の大きさについては特に何も記載されていない。
また,原告らは,引用例には「結合部品」の存在を前提とした態様のみしか開示されていないと主張する。しかしながら,引用例の記載によれば,結合部品は複数のロッドを結合するための,いわば「結合手段」にすぎず,複数のロッドを結合することができさえすれば,結合手段たる結合部品はどのようなものでも構わないと解される。例えば,引用例の特許請求の範囲の請求項1には,「頭頂部区域から始まり,その自由端へと連続して伸びる中間区域(14)を一対で規定し,自由端で終わるロッド(12,13)によるかごとして備えられている支持部材を有することを特徴とする,湾曲したウエブより成る毛髪支持部材を有するヘアピース。」と記載されており,この記載は,結合部品が必ずしも必須のものでないことを裏付けている。
そして,その中間区域(14)から,自毛を上方に引き出すことができることは,引用例(甲3)の「…すべてのロッド12,13の自由端区域においてこの物体が頭の皮膚の上を各三角形区域14を通って結合部品11の方向へ引かれる。こうすることによって使用者自身の毛髪21(図1A)は容易に引き出され,補助毛髪20と均一に混合され,これによって使用者自身の薄い毛髪21はヘアピース120によって充足され,このようにしてたっぷりした髪型が得られまた生え際は自由端で終わるロッド12によって自然な感じに保たれる。」(4頁左上欄11行〜18行)との記載から明らかである。
(ウ)一方,引用例において,複数のロッドを結合部品に結合するに当たり,例えば,結合部品近傍のロッドの直径を小さくして径の小さい結合部品に結合したり,あるいは,それぞれロッドの端部を薄く形成してそれらの端部同士を積み重ねるように相互に結合し,その結合した部分の厚さを低く抑えるなどして,結合した部分の径をより小さくするような技術手段を講じることは,当業者であれば必要に応じて適宜行うことである。
(エ)審決は,以上のような事項を踏まえ,?@引用発明の複数のロッドを結合する部分を結合部品と認定し,?A相違点1の判断において,当該引用発明の結合部品を小さくしていくことが,当業者であればなし得ることであり,しかも,その究極の構造は,それはロッドだけで骨部材を形成することと何ら相違するものではない,としたものである。
(オ)原告らは,結合部品は複数本のロッドを合計したサイズよりも少なくとも幅広に形成されていなければ支持できないはずであるから,「結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さくする」ことは,技術的には製作不可能である,と主張するが,上記のとおり,結合部品の大きさは,必要に応じて様々な大きさとすることが可能であるから,原告らの主張は理由がない。
また,原告らは,「ロッド同士の間隔が狭いと,ロッド同士の隙間14から自毛を引き出すことが困難となる」と主張する。しかし,ロッド12,13の本数や太さを変化させずに結合部品11の面積を小さくしたとしても,結合部品11の面積が小さくなれば,小さくする前に結合部品11の下に押さえ付けられて隠れていたであろう自毛の一部を引き出すことができるようになるから,結合部品を小さくすれば,小さくする前に比べてそれだけ多くの自毛を引き出せることができることは明らかである。
(カ)以上のとおりであるから,審決の相違点1についての判断に誤りはない。
イ 「相違点2についての判断の誤り」に対し引用例(甲3)に「本発明の目的はウエブの間の開口部を通して着用者の毛髪を引き出し易くし,生え際を含めて混合した毛髪が自然な外観を備えるように,湾曲したウエブより成る毛髪の支持部材を有するヘアピースを改良することである。」(2頁左下欄5行〜8行)と記載されているように,引用発明は,使用者自身の毛髪と補助毛髪(擬毛)とを混合して自身の毛髪を引き出して装着するものである。使用者自身の毛髪と被植毛部材に取り付けた擬毛とを混合するのであるから,自身の毛髪が生えていない部分に被植毛部材が伸びている場合,混合すべき毛髪が存在しないため,被植毛部材と擬毛だけが目立ち,かつらを装着していることが外観上すぐにわかってしまう。そうであるから,使用者自身の毛髪と擬毛とを混合して用いるかつらにおいては,かつらを装着していることが外観上わからないようにするため,リブを短くして,ヘアライン(毛髪の生え際)に達することなく,天頂部側に入り込んで位置するように骨格様のフレームワークを形成することは,当業者であれば普通に考える程度のことであり,むしろ当然のことであるといえる。
審決が,「当然の要請」(6頁23行)と表現した点は,表現として必ずしも適切ではなかったかもしれないが,使用者自身の毛髪と擬毛とを混合して用いるかつらである以上,外観上わからないようにするためには,当然に採用するであろう手段にすぎず,だからこそ,それを当然の要請と表現したものである。
したがって,審決の相違点2についての判断に誤りはない。
(3) 取消事由3に対しア 「効果1(相違点1に起因する効果)」に対し原告らは,結合部品の面積を小さくすることができないものであるかのように主張しているが,上記(2)アで述べたとおり,結合部品を限りなく小さくすることにより,線状に形成した複数本のロッドだけで構成されるものとすることは,当業者が容易に想到できたことであり,その結果,ロッドだけで骨部材を形成することになる。そして,結合部品を小さくしても,中間区域14(引用例の請求項1)から自毛を上方に引き出すことができることは,上記(2)ア(イ)(オ)で述べたとおりであり,その点については,作用効果の点で引用発明と本願補正発明との間に格別の差異はない。
したがって,原告らが主張する効果1は,引用発明から当業者であれば予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。
イ 「効果2(相違点3に起因する効果)」に対し上記(1)イで述べたように,「リブ同士を互いに一対一の関係で組み合わせる」ことは,本件補正後の請求項2には記載されていないから,そのことに起因する効果は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
引用発明においても,ロッドの長さや間隔を調整することによって,装着者の自毛の密度の粗密に応じて,補助毛髪(擬毛)の取り付け具合を調整でき,装着者の薄毛の度合いや要求する髪型に応じて自由に組み合わせて配置することができる。その点では,作用効果の点で引用発明と本願補正発明との間に格別な差異はなく,出願人の主張する「リブ同士を互いに一対一の関係で組み合わせる」ものでなければ,そうした作用効果を奏することができないものではない。
したがって,原告らが主張する上記効果も,引用発明から当業者であれば予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。
(4) 取消事由4に対しア本願補正発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に誤りはない。
他の国において,特許が認められたからといって,日本で特許になるかどうかはまた別問題である。
イ上記のとおり,本願補正発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの審決の判断に誤りはないから,この判断を前提とする,本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断にも誤りはない。
(5) 取消事由5に対しア特許庁が申し立てに応じて審理を再開しなかったことの手続違背をいう原告らの主張は,法の定める補正可能期間を過ぎたのちに終結された審理を,補正可能期間を過ぎた後の補正を認めるために再開せよということに帰し,このような主張は,補正を補正可能期間に限って認めることとした特許法の定める補正制度と相容れないものである。
特許法の定める審理再開制度(156条2項)は,審理の万全を期するために,審判長が特に必要と認めた場合に行われるべきものであって,このような補正を認めるための審理再開は,審理再開の制度の予定していないところである。
イ特許法49条は,「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定しているが,この規定によれば,一つの特許出願に複数の請求項に係る発明が含まれている場合であっても,そのうちのいずれか一つでも特許法29条等の規定に基づき特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解され,審決は,この規定に従ってなされたものである。
そうであるから,請求項2に係る発明に進歩性がない以上,請求項1及び請求項3〜16に係る発明の進歩性を論じるまでもなく,本願は拒絶されることとなる。
したがって,審決が,請求項2以外の請求項に係る発明について進歩性の判断を示さずに審決を行ったことを違法ということはできない。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願補正発明の意義(1)本願の本件補正後の特許請求の範囲「請求項2」は,前記第3,1(2)イのとおりである。
また,本願明細書(出願当時の明細書[甲6]を第1次補正[甲9]と本件補正[甲1]によって補正したもの)の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。
ア 【発明の属する技術分野】「この発明は,装着者の頭部に生えている自毛をかつらから外方へ引き出して,かつらに取り付けた擬毛と混ぜ合わせるようにした自毛活用型のかつらに関し,特に,数多くの自毛を万遍なく容易に引き出すことができる自毛活用型かつら及び自毛活用型かつらの製造方法に関する。」(段落【0001】)イ 【従来の技術】「従来のかつらは,一般に,かつらの全体形状,即ちアウトラインを画成するかつらベースに多数の擬毛を取り付けて形成されるが,このうち,所謂自毛活用型のかつらは,かつらベースに複数の孔又は網目を形成して,その孔又は網目から自毛を引き出してかつらの擬毛と混ぜ合わせる形式のものであり,例えば図19に示すように構成されている。」(段落【0002】)「図19に示す自毛活用型のかつら70は,かつらベースとして目の粗いネット部材で形成したネットベース71が使用されていて,そのネット形状は菱形状,矩形状などのクロス目を有するものが知られている。このようにクロスさせて縦横に配置したネットベース71には,予め擬毛72(図面には一部の毛髪だけが示されている。)が多数取り付けられている。ここで,擬毛の材料としては,一般に,人毛又は合成繊維で作った人工毛髪が用いられ,本明細書ではかつらに取り付ける人毛又は合成繊維で作った毛髪材を擬毛と称している。」(段落【0003】)「上記自毛活用型のかつらを頭部に装着する場合は,ネットベース71の空間から整髪用ブラシなどを用いて自毛Hを引き出し,次いで引き出した自毛Hをかつらの擬毛72と混ぜ合わせ,かつらの裏面に取り付けたストッパーなどを用いてこのストッパーにて装着者の自毛を挟着することにより,自毛を活用してかつら70を装着する。」(段落【0004】)ウ 【発明が解決しようとする課題】「しかしながら,このような自毛活用型のかつら70を頭部に装着すると,多くの自毛が縦横のネットベース71の下側でネットベースに押しつけられてしまうので,下側に押しつけられた多くの自毛Hがネットベース71に挟まったままとなって,整髪用ブラシを用いて自毛Hを引き出そうとしてもネットの目から自毛の引き出しが容易に行なず,多くの自毛Hが活用されないままとなってしまう。また,ブラシの櫛歯先端が網目内に入るとこれに引っかかり易く,ブラシを引き抜く際,無理な力が加わってネットベース71が切れてしまったり,ブラシが破損したりする恐れがある。」(段落【0005】)「さらに,図19に示すような従来のかつらベースの場合,ネット部材を縦横に張設して湾曲状態を保持しなければならないので,かつらベースの重要な要素として必ず周縁枠部材73を必要とする。すなわち,ネット部材によるかつらベースの周縁は,かつらの形状とサイズを画成する周縁枠部材73によって補強されていなければならない。この周縁枠部材73は,一般に,従来の自毛活用型かつらの外形となるアウトラインを構成しており,かつらベースの型くずれを防ぐため,通常周縁部が幅広の布テープやポリウレタン樹脂コーティングなどによって比較的肉厚に且つ剛性に縁取りして形成されている。その結果,ネット部材及びこの周縁枠部材73により装着者の自毛Hを押さえ付けるようにしてかつら70を装着せざるを得なかった。この周縁枠部材73は,下側に押さえつけられている自毛Hを上方へ引き上げることに一層大きな障害として作用する。また,周縁枠部材により装着者の頭部がある程度圧迫して締めつけられるため,頭皮からの発汗作用が妨げられる。」(段落【0006】)「従来型の自毛活用型かつらに不可欠の周縁枠部材のさらに深刻な不利な点は,この周縁枠部材が第三者に露見し易いということである。自毛活用型かつらが図19に示すような部分かつらとして形成されている場合,この部分かつらは浅い椀状を呈しており,これを装着者の頭上に被せたとき装着者の特に前額部では,周縁枠部材73が前額部の生え際に沿って横方向に配置される。このため,もともと周縁枠部材73が頭部のほぼ半周にわたって前額部を左右に横切る方向に配置されていることで露顕し易いことに加え,前額部の領域に生えている自毛Hが周縁枠部材73の下側で押しつけられてしまうので生え際がかつら70と馴染まず,かつら70の前縁が浮き上がって,不自然な状態になってしまう。このことは,かつらの周縁を露見し易くすることを一層助長してしまう。また,周縁枠部材73に取り付けられている擬毛72は,ヘアスタイルによっては毛流方向が自毛Hの流れと大きく異なるため,擬毛72と自毛Hとを混ぜ合わせることが難しい。その結果,パーマネント,アイロン,ドライヤーなどでカールをつけながら擬毛72と自毛Hとを混ぜ合わせなければならず,所望のヘアスタイルを醸しだすのに手間のかかる作業が必要となる。」(段落【0007】)「上記周縁枠部材の存在により,装着者の後頭部においても問題がある。周縁枠部材73が後頭部の領域の自毛を押さえ付ける結果,かつら70の周縁74が浮き上がり,かつらの擬毛72と装着者の自毛Hとの間で段差が生じて,その境目が周縁74に沿って段状の横筋となって顕れ,かつらを装着していることが視認されてしまいがちになる。」(段落【0008】)「従って,この発明の第一の目的は,多くの自毛を容易に引き出すことができ,かつら装着者の自毛をかつらの擬毛と混ぜ合わせて万遍なく有効に利用し全体として毛量を豊かにし得る,自毛活用型のかつらを提供することにある。この発明の第二の目的は,周縁枠部材並びにネット或いは人工皮膚等の椀状又は帽子状のかつらベースを廃止することにより,かつらの周縁が容易に視認されることのない自毛活用型のかつらを提供することである。本発明の第三の目的は,上記自毛活用型のかつらの製造方法を提供することである。」(段落【0009】)エ 【発明の実施の形態】(ア)「以下,図面を参照しつつ本発明の実施形態を具体的に説明する。
図1乃至図3は本発明の第一の実施形態に係る自毛活用型かつら1を示す斜視図及び平面図並びに装着状態の斜視図である。この自毛活用型かつら(以下,単にかつらと称する場合がある。)は,頭部の所望の位置に載せて,植毛フレーム10に取り付けられている擬毛15と装着者の自毛Hとを混ぜ合わせて装着するようになっており,装着に際して,植毛フレーム10の間から自毛Hを容易に引き出して擬毛15と十分に絡ませることができる。」(段落【0021】)「図1及び図2では,植毛フレーム10の構造を分かり易く説明するために,植毛フレーム10に取り付けた擬毛15の描写を僅か数本だけ描くに止め大部分を省略しているが,擬毛15は実際には,植毛フレーム10の全体にわたって上方へ突出させて緻密に取り付けられている。
このかつらは,図2において上側が装着者の前額部側に位置し下側が後頭部側に位置するようにして,図3に示すように装着されるようになっており,全体が装着者の頭部の例えば薄毛部分を覆う形状及びサイズとなるよう調整されている。植毛フレーム10は,図1に示すように,装着者の頭部形状に沿うように頂部側が膨出した湾曲状に形成されている。なお,図3はかつらを装着者の頭部の適宜の位置に載せた状態を示し,植毛フレーム10から数本の自毛Hが突出した状態が描かれているが,実際は,装着者が本かつらを装着した状態で自毛Hの大部分を万遍なく引き出すことができる。」(段落【0022】)「さて,図1〜3に明瞭に表れているように,本発明の自毛活用型かつら1は,基本的には複数本のリブ13に多数の擬毛15を取り付けることにより形成した植毛フレーム10だけの構成で成っている。複数本のリブ13の組み合わせは,丁度,人の肋骨のような,或いは魚の骨パターンのような,或いは木の葉の葉脈パターンのような骨格様のフレームワークを呈しており,細い骨状のリブだけを組み合わせることにより構成したものである。図示例では,6本のリブ13a〜13fは装着者の頭部の前後方向に略平行に配置され,前額部及び後頭部付近,特に前額部付近において,各リブの先端が不揃いとなるように互いに異なる長さで,中側の二本のリブ13c,13dが最も長く,外側のリブ13a,13fに行くにつれて次第に短くなっている。」(甲9,段落【0023】)「このように中央のリブ13c,13dの先端を最も突出させ,左右に位置するリブ13a,13b,13e,13fを徐々に引っ込めるように配置すれば,一般的なヘアラインL(図3参照)に沿った配置となる。このリブ13は装着者の自毛Hの粗密の程度によりその数を適宜増減することができ,そのパターンも後で詳述するように種々の形状を採り得る。」(段落【0024】)「これらの複数本のリブ13a〜13fをばらけないよう,本実施例では一本の連結用リブ14が用いられている。連結用リブ14は,例えば図1及び図2に示すように,上記複数本のリブと同一部材で略直線状に形成され,複数本のリブを並置した中央位置で横方向に配置されて,各リブ13a〜13fと連結固定されている。このように,植毛フレーム10の骨格は,リブ13a〜13fと連結用リブ14とを所定形状になるよう適宜に組み合わせて,それらの交点を接着,結着,縫着,溶着などで連結させることにより形成されている。」(段落【0025】)「第一実施形態のかつらの植毛フレーム10を構成する骨格様のフレームワークのパターンは,あたかも木の葉の中央脈(midrib)とそれから分岐する葉脈(vein)の如き形態を示しており,葉脈の如き各リブ13a〜13fはそれぞれ約1〜2cmの間隔を開けて中央脈の如き連結用リブ14に連結されており,図2から分かるように,リブ13同士の間隔は,先端に行くにつれて次第に幅方向に間隔を広げて形成されている。植毛フレーム10を構成する上記骨格様のフレームワークの重量は,その材質にもよるが,せいぜい約1〜5g程度と軽量であり,例えばテニスのガットのような直径1mm程度のナイロン製の細線とすれば,約1〜3g程度となり,これに擬毛15を密生して取り付けても,総重量は約5〜10グラム程度と非常に軽量に作ることができる。」(段落【0026】)「上記骨格様のフレームワークは,従来のかつらにおいて必須であった,かつらの外形ラインを具備するかつらベースのような,アウトラインを画成するラインが存在しないように形成される。即ち,本発明におけるフレームワークは,かつらの外形を画定する外郭となる周縁枠を有さず,リブの先端部のみが外郭部位近傍に配置されて構成される。植毛フレーム10は,このようなフレームワークに擬毛15が取り付けられて形成され,従来技術に示すかつら70の周縁枠部材73を備えていない。」(段落【0027】)「各リブ13a〜13f及び連結用リブ14は,装着者の頭皮を傷つけるおそれがなく,またドライヤー等の熱の影響を受けにくい材料,例えばナイロン(ポリアミド系合成繊維),ポリエステル等の合成樹脂材料が好ましく,その他,金属,硬質紙,硬質ゴム,木,竹,ガラス繊維,カーボン繊維等の弾性及び剛性を備えた材料が使用でき,例えば直径0.1〜3.0mm程度のナイロン繊維の撚り線で形成すると好ましい剛性と弾性のリブが得られる。このリブ13には多数の擬毛15を取り付けるので,その全体重量に抗して頭部形状に沿った湾曲状態を維持できる程度の剛性と弾力性を有する材料で構成することが必要であり,例えば頭皮の形状に沿って湾曲し,形態復元性に優れる形状記憶樹脂から構成すれば一層好ましい。」(段落【0028】)「各リブ13,14の先端は,図2に示すように,好ましくは,膨出部13gが形成される。この膨出部13gを略球形状に膨出して形成することにより,リブ13に取り付けた擬毛15が抜け落ちるのを防ぐとともに,頭皮との接触をソフトにして,頭皮を傷つけるのを防止することができる。」(段落【0029】)「リブ13,14に取り付ける擬毛としては,人毛の他に,ナイロン,ポリエステル等で作った,例えば直径0.05乃至0.2mm程度の人工毛髪が好適であり,リブに結着,縫着,或いは巻き付けて接着し,多数本を所定の方向に突出させて取り付ける。従って,ここに植毛フレームの「植毛」とは,リブに擬毛を植え付ける場合のほか,結着,接着,或いは巻き付けて接着するなど,種々の態様で固着する場合を含む。擬毛15は,装着者の自毛Hと同色或いは,ファッション性を好む場合は,自毛Hとは異なる色彩を取り付ければ,おしゃれ用のかつらとすることもできる。」(段落【0030】)「この発明による自毛活用型かつら1は以上のように構成されており,装着する場合には,図3に示すように,先ず上記自毛活用型かつら1を装着者の頭に載せて位置合わせする。装着者の頭部に載置する部位は,図3に示すように,各リブの先端部がヘアラインLから数センチ天頂部側へ入り込んだ位置にセットする。続いて,自毛Hの引き出し作業を行なう。この場合,かつら1を頭の上から一方の手で押さえつつ,ブラシや櫛を用いて,好ましくはリブ13の長さ方向に向けてブラッシングする。ここで,装着者は,連結用リブ14を境に,前側は前方に向けて,後側は後方へ向けてブラッシングすることにより,かつら1に抑え込まれている自毛Hをリブ13の間から上方に引き出すことができる。
その場合,各リブ13がブラッシング方向に沿って互いに平行に延びているから,ブラッシング中にブラシや櫛がリブ13に引っかかることはなく,また自毛Hがリブ13に絡まることもなく,ほぼ100%近くの自毛Hを簡単にリブ13の間から引き出すことができる。また,リブ13の先端へ向けてブラッシングすることで,リブ13が頭皮に圧接されるので,リブ13の浮き上がりを防止できる。一方,リブの先端側から基端に向かってブラッシングしてリブ13がたとえ上方へ浮いたとしても,このリブ13は弾力性があるため形状復元性があり,頭形に沿った元の形状にすぐに復元することができる。」(段落【0031】)「そして,上述のように自毛Hをかつら1の植毛フレーム10の外面に引き出したところで整髪用ブラシ等により軽くブラッシングして,自毛Hと擬毛15とを混ぜ合わせながら所望の髪型に整髪することにより,かつらの装着が完了する。なお,かつらの頭部への固定は,公知のかつら用ストッパーをかつらの裏側へ固着しておき,このストッパーにて自毛Hを挟着して固定すれば便利である。」(段落【0032】)「本発明の自毛活用型かつらを装着した場合,十分な間隔で頭部の前後方向に互いに平行に延びている各リブ13とこれを連結するリブ14だけで構成されているので,装着者の生え際や後頭部において,従来の周縁枠が存在するかつらのような周囲に沿った横方向のヘアラインが存在せず,従って,かつらを装着していることが露見しない。また,特にヘアラインの領域においても,自毛Hと擬毛72との毛分かれが生じず,毛分かれによる段差も発生しない。」(段落【0033】)「また,第一実施形態に係る自毛活用型かつら1は,従来のかつらベースの外形を画成するような周縁枠部材が存在しておらず,ヘアラインで囲まれた中央寄りに自毛の中に埋入されるようにして装着されるので,装着者の自毛Hを十分にかつらの隙間から引き出すことができるとともに,自毛Hと擬毛15とが相互の混ぜ合いによって互いに良好に馴染み,これにより,装着者の,特に前額部及び後頭部で,植毛フレーム10の頭部からの浮上りが生じない。また特に前額部においては,リブ13が直面することになるので,長さが不揃いであることと相俟つて,装着者の自毛Hの生え際が自然に見える。そして,かつらの外形を画成するアウトラインが存在しないので,周縁枠部材を構成しないことから,植毛フレーム10が自毛中に完全に隠蔽され,頭部から露見するようなこともない。」(段落【0034】)「このように,第一実施形態に係る自毛活用型かつら1は,自毛Hの引き出しが容易であることから,自毛Hを十分に生かすことができて,自毛Hが擬毛15と馴染み易くなる。そして,かつらの周縁付近に於いて,違和感のない自然さが生じることから,かつら1の視認性が低減される。さらに,植毛フレーム10の骨格が,リブ13,14を組み合わせたフレームワークだけで構成されることで,通気性に富むとともに,極めて軽量に形成することができる。」(段落【0035】)「なお,上記かつら1は,男性用かつら,女性用かつらとして用いることができる他,おしゃれ用のファッションかつらとしても適用でき,いずれの場合にも,自毛の引き出しが容易にできるので,自毛を十分に活用することができる。したがって,自毛との馴染みが良好でかつらの周縁の生え際に違和感がなく,自然なヘアスタイルを作ることができる。」(段落【0036】)(イ)「次に,図4及び図5を参照して,本発明の第一実施形態の第一変形例を示す自毛活用型かつら2を説明する。図4に示す植毛フレーム11は,図示の場合上下方向,即ち,装着者の頭部の前後方向に互いに間隔を開けて略平行に延びる複数本,図示の場合7本のリブ13と,これらのリブ13の各両端から引っ込んだ内側にて,各リブ13と二点で交差する1つの環状の連結用リブ14とで構成される。このように各リブ13はこの環状の連結用リブ14でそれぞれ二点で連結されることにより,フレームワークがより強固に保形される。」(段落【0037】)「さらに,このフレームワークは,外側に湾曲した二本の補助連結用リブ16を備えている。これにより,フレームワークの型がより強固に保持され,特に頭部の左右両サイドへの密着が向上する。また,図4に鎖線で示すように,この補助連結用リブ16を利用して自毛活用型かつら2を頭部に固定保持するためのストッパー17を取り付けるようにすることもできる。これら,複数本のリブ13,環状の連結用リブ14及び補助連結用リブ16は,全て同じ細線材料から構成されて剛性と弾力性とを有している。」(段落【0038】)「次に,図8を参照して,本発明の第一実施形態の第二変形例を説明する。図8(A)に示す自毛活用型かつら3は,フレームワークを図1〜図3に示す自毛活用型かつら1と同様に複数のリブ13及び連結用リブ14を組み合わせて構成されるが,縦方向に並置した複数の各リブ13が,図8(B)に示すように,長さ方向の途中の部位13hから外方へ屈曲して浮き上がり,この屈曲した箇所13hから先端に向かって頭部形状100に沿うように湾曲し,その先端が頭皮に接するように形成されている。このように,リブ13の一部が浮き上がって頭皮から離れている。」(段落【0047】)「このような自毛活用型かつら3を頭部に装着した場合,リブ13の一部が頭部から浮き上がっているので,ボリューム感を出すことができる。例えば,屈曲部位13hに取り付けた擬毛15は,図8(B)に示すように,上方へ突出させた後,途中から後方へなびかせることができるので,毛髪が立ち上がることによりボリューム感を出すことができ,特にオールバックのヘアスタイルを現出するのに好適である。」(段落【0048】)「ところで,フレーワークとしては,上記図1,図4及び図8に示すものの他,図9〜15に示すように,種々のバライティに富むパターンに形成することができる。例えば,本発明に用い得るフレームワークは,装着者の髪型に適合するように,髪の分け目の種類に応じた分髪部タイプ,毛髪のボリュームを変化させるのに適したボリュームアップタイプ,各種のヘアスタイルに適した毛流タイプ,それらの混合タイプ,など装着者の好みに応じた形態に形成することができる。図9〜図15はかつらを頭部へ装着した状態の平面図であるが,各かつらの擬毛15や自毛Hの記載を簡略化している。」(段落【0050】)「先ず,図9に示すかつらは,頭部のほぼ中央に作った分け目に在る自毛を引き出して活用するとともに,後頭部の増毛を図るタイプのものである。このため,図9に示すように,装着者の分髪部P(図9中に示す二点鎖線)に在る自毛を引き出し易くするために,分髪部Pを挟む二つのリブ13c,13dは,他のリブ同士の間隔よりも広げられている。」(段落【0051】)「また,各リブ13はそれぞれ,前後方向に略並行に配置されており,装着者のヘアスタイルとして,分髪部を中心にして頭部の左右の側面に向けて髪を流すヘアスタイルに好適である。さらに,このフレームワークは,二本の連結用リブ14を後頭部の部位に並置して設け,その領域にネット部材を張って増毛領域Nを設けており,緻密に擬毛を取り付け得るようにしている。」(段落【0052】)「次に,図10に示すフレームワークは,図9と同様に,頭部の中央部に自毛による分髪部Pが形成されており,ヘアスタイルは,頭部の全体の髪を後側に流すタイプのものである。このため,フレームワークは,図10に示すように,分髪部を挟むのに好適な幅を持って形成されているU字状のリブ13-1とそれから枝のように分岐して前方へ向かいつつ左右側面に向けて湾曲した複数のリブ13-2とで構成されている。」(段落【0053】)「図11に示すフレームワークは,図9及び図10に示すものと異なり,装着者の分髪部Pの自毛が薄い場合にその部分の増毛を図るとともに,分髪部Pが頭部の左側にある場合に好適なタイプのものである。このフレームワークは,分髪部を挟むのに好適な幅を持って形成されているU字状のリブ13-1とそれから枝状に分岐して取り付けられている複数のリブ13-2とで構成されて,分髪部Pにはネット部材を張って増毛領域Nが形成されている。この増毛領域Nには,分髪部Pを形成するように擬毛15が取り付けられる。」(段落【0054】)「次に,図12〜図15に,主としてボリュームアップタイプのかつらを示す。図12に示すかつらは,V字状に屈曲させた複数のリブ13を連結して構成されており,各リブ13の隣接する距離間隔を狭くすることで,擬毛15の密度が高くなるようになっている。なお,図12に示すフレームワークは,頭部全体にわたってリブ13が配置されることから,頭部の残毛状態が全体的に少ない場合に好適に増毛できるタイプのものである。」(段落【0055】)「一方,図13に示すかつらは,前額側のボリュームアップを図るものであり,フレームワークは,各リブ13の隣接する距離間隔を前額側において狭くして,各リブ13,14を組み合わせて構成されている。
特に,毛流を後側に流すバックスタイルに好適に整髪できるタイプである。」(段落【0056】)「また,図14に示すかつらは,天頂部に位置するリブ13の密度を高くして,天頂部の増毛効果を高めるものであり,このフレームワークは,つむじ部分を囲む環状の連結用リブ14と,その外側に配置した半環状の連結用リブ14-1と,環状の連結用リブ14から放射状に伸びて配置されている複数のリブ13とで構成され,さらに,環状の連結用リブ14内に,ネット部材を張って増毛領域Nが設けられている。この増毛領域Nには,つむじを形成するように擬毛15を取り付ける。図14に示すかつらは,天頂部,特につむじ領域の残毛が少なく,その周辺も薄くなっている人に対して,好適に増毛を図ることができるタイプのものである。」(段落【0057】)「さらに,図15に示すかつらは,天頂部の残毛が少なく,ヘアスタイルが側方から後方へ流れているヘアスタイルの場合に好適に増毛できるタイプのものである。このフレームワークは,毛流方向に曲げられた複数のリブ13が連結用リブ14に連結して配置され,さらに,後頭部側でリブ13と連結用リブ14の近接距離を狭くすることで,後頭部の毛量密度を高めるものでもある。」(段落【0058】)「以上のように,湾曲した骨格状のフレームワークを種々のパターンで配置構成することができ,何れのものも,毛流方向へのブラッシングによって自毛の引き出しを容易に行なうことができるとともに,ブラシや櫛がブラッシングの際にリブ13,14に引っかかることがない。前記増毛領域Nは,ネット部材の代わりに人工皮膚で形成されてもよい。」(段落【0059】)「なお,フレームワークは,上記に示した他に様々な形態に形成することができるのは言うまでもない。また,フレームワークは,一本の長いリブを所望の形状に屈曲させて,かつらの周縁枠を形成しないようにして構成してもよい。」(段落【0060】)オ 【発明の効果】「本発明によれば,容易に自毛を引き出すことができる自毛活用型かつらが得られ,装着者の自毛を万遍なく有効に利用し,全体として毛量を豊かにすることができる。また,フレームワークを剛性と弾性を備えたリブを用いて骨格状に形成することにより,従来のかつらに必要であった周縁枠部材が本発明では不要となり,従って,かつらの外形を構成するアウトラインが存在しないので,かつらの周縁が容易に視認されることのない自毛活用型のかつらが提供される。」(段落【0069】)(2)上記(1)の記載によると,本願補正発明は,「かつらの隙間から装着者の自毛を引き出してかつらに取り付けた擬毛と混ぜ合わせて装着する自毛活用型かつら」であって,?@線状に形成した複数本のリブだけで構成されていること,?A複数本のリブを組み合わせてかつらのアウトラインを形成しないようにしていること,?B各リブの先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置するように骨格様のフレームワークを形成していること,?C骨格様のフレームワークに多数の擬毛を取り付けて周縁枠を有しない植毛フレームを構成していること,という各構成を備え,装着者の頭部に載せて,植毛フレームの間から出した装着者の自毛とリブに取り付けた擬毛とを混ぜ合わせて装着するものであると認められる。そして,上記(1)の記載によると,本願補正発明は,?@容易に自毛を引き出すことができ,装着者の自毛を万遍なく有効に利用し,全体として毛量を豊かにすることができる,?A従来のかつらに必要であった周縁枠部材が不要となり,かつらの外形を構成するアウトラインが存在しないので,かつらの周縁が容易に視認されることのない自毛活用型のかつらが提供される,という効果を有するものであると認められる。
(3) そこで,本願補正発明にいう「リブ」の意義について検討する。
ア 辞典類には,「リブ」について,次のような記載がある。
(ア)広辞苑第四版(1991年11月15日第一刷発行,株式会社岩波書店)2688頁(甲24)には,「リブ【rib】」について「(肋骨の意)牛の肋骨前半の上部の肉。リブ-ロース」と記載されている。
(イ)研究社新英和大辞典(1986年第5版12刷発行,株式会社研究社)1816頁(甲25)には,「rib」について,「肋骨(ろっこつ),あばら骨」,「肋骨状のもの」,「(田畑の)あぜ」,「(織物・編み物の)うね」,「(こうもりがさの)骨」,「葉脈の中の主な脈」などの意義が記載されている。
(ウ)図説建築用語事典(昭和62年8月30日第8刷発行,実教出版株式会社発行)458頁(甲26)には,「リブrib」について,「一般に,変形防止のために取り付ける突起物」と記載されている。
イ以上のアの記載によれば,日本語の「リブ」及びその語源となった英語の「rib」には,「肋骨」又は「肋骨状」という意味があるものの,それ以外にも多く意味があり,何らかの「突起した物」を意味するということはできるものの,「肋骨」又は「肋骨状」を意味すると一義的に特定されるものではない。
本願明細書(甲1,6,9)には,上記(1)エ(ア)のとおり,図1〜3記載の第一実施形態のかつらについて,「複数本のリブ13の組み合わせは,丁度,人の肋骨のような,或いは魚の骨パターンのような,或いは木の葉の葉脈パターンのような骨格様のフレームワークを呈しており,細い骨状のリブだけを組み合わせることにより構成したものである。」(段落【0023】),「第一実施形態のかつらの植毛フレーム10を構成する骨格様のフレームワークのパターンは,あたかも木の葉の中央脈(midrib)とそれから分岐する葉脈(vein)の如き形態を示しており,」(段落【0026】)との記載がある。しかし,これらは,いずれも【発明の実施の形態】における記載であり,本願補正発明の実施例を記載したにすぎないものである。
また,本願明細書には,上記(1)エ(イ)のとおり,上記第一実施形態以外の図4〜15記載の様々な実施形態が記載されているが,これらは,必ずしも「肋骨状」であるとか「複数本の線状の骨部材同士が互いに対等な一対一の関係で交点で組み合わされた状態」であるということができないものである。本願明細書では,上記(1)エ(イ)のとおり,これらの実施形態についても「リブ」という用語が用いられている。
ウそうすると,本願補正発明にいう「リブ」については,何らかの「突起した物」を意味するということができるのみで,「肋骨」又は「肋骨状」を意味すると限定して解釈することはできず,「本願補正発明における『線状の複数本のリブを組み合わせて』とは,複数本の線状の骨部材が肋骨状に組み合わされた状態,すなわち部材同士の関係に注目すると,線状の部材同士が互いに対等な一対一の関係で交点で組み合わされた状態を意味することがわかる。」との原告らの主張を採用することはできない。
3 引用発明の意義(1)引用例(特表平4-505188号公報,甲3)には,次の記載がある。
ア特許請求の範囲「1.頭頂部区域から始まり,その自由端へと連続して伸びる中間区域(14)を一対で規定し,自由端で終わるロッド(12,13)によるかごとして備えられている支持部材を有することを特徴とする,湾曲したウエブより成る毛髪支持部材を有するヘアピース。」「3.前記頭頂部区域は前記ロッド(12,13)を放射状に広げる結合部品(11)を備えることを特徴とする,請求項1のヘアピース。」「4.前記頭頂部区域は前記支持部材(100)を横切って横に伸びる結合部品(30)を備え,かつそれから前記ロッド(31,32,33)が相互にほとんど平行に始まっていることを特徴とする,請求項1のヘアピース。」「5.前記ロッド(112,113)の少なくともいくつかは取り外し可能に結合部品(111)に接続されていることを特徴とする,請求項3又は4のヘアピース。」「6.前記ロッド(12,13;143)の外表面は直接毛髪で覆われていることを特徴とする,請求項1から5の1つによるヘアピース。」イ 明細書(ア)「本発明は湾曲したウエブ(薄い金属板)から成り毛髪を支持する部材を有するヘアピースに関するものである。
かつらの支持部材は頭の形に適合するようにぴったりと着用される繊維製品の土台から成り,その内に人工又は天然の「にせ」毛髪が結び付けられている。このような支持部材は帽子のように頭の上に乗せられ,かつらをかぶった人の本当の毛髪を完全に覆ってしまうので着用者自身の毛髪は役に立たない。かつらを頭にしっかりと止めておくためには,それが頭上できつく伸張されなければならない。が,これによって使用者はかつらを思った通りに取り外しできなくなる。更に頭の皮膚は呼吸できなくなる。帽子のような支持部材によるかつらの欠点を克服するために自分自身の毛髪と人工又は天然の補助毛髪とを組み合わせることができ,使用者自身の毛髪を補助するヘアピースが備えられた。」(2頁左上欄2行〜15行)(イ)「本発明の目的はウエブの間の開口部を通して着用者の毛髪を引き出し易くし,生え際を含めて混合した毛髪が自然な外観を備えるように,湾曲したウエブより成る毛髪の支持部材を有するヘアピースを改良することである。
この目的は,頭頂部から始まりロッドの自由端までの間で連続的に広がり一対で中間区域を規定する,自由端で終わるロッドからなるかごである支持部材を備える本発明によって解決される。
この手法においてかごを形成するように放射状に広がって湾曲したロッドは実質的に”かご”の底である頭頂部分が脳天の近くに位置するまで頭の皮膚の上を自由端で滑り,後から頭の上を押されて,蜘蛛状構造が得られる。本質的に安定した弾力性を有するロッドはすでにこの段階で使用者自身の毛髪の下に沈んでいる。ロッドの間から人自身の毛髪のすべてを外に引き出すためにロッド間のそれぞれの区域内の毛髪は容易に引き上げられ,とがった物,即ちヘアピン又は柄付き櫛は生え際からヘアピースの頭頂部の方向へ引かれる。この手順は手早く容易に行うことができ使用者自身の毛髪と補助毛髪との均一な混合物は自然な外観を持ったふさふさした毛髪となって支持部材上で引き続いて櫛けずられる。ロッドも生え際の内で自由に終わるのでこの境界区域は前へ開いておりロッドは自然の生え際へ向かって横方向に境界を作ることなく伸びる。」(2頁左下欄5行〜26行)(ウ)「頭頂部はそこからロッドが星形に伸びて行く結合部品を備えている。この場合結合部品は例えばそこからロッドが放射状に伸びる円板である。それによって生じる中間区域はほぼ三角形をしている。ロッドの狭い配置によって生じる鋭角部は毛髪の引き出しを妨げるので縦形の結合部品が好ましい。このような結合部品は支持部材を横切って伸びロッドはそこから相互にほとんど平行に伸びるのでそれらはほとんど矩形の区域を規定する。縦形の結合部品は頭からほとんど耳殻の端部までの間の連続線をつなぐ棒状部材である。結合部品は各々ヘアピン又はへアグリップのような締め具のための通路となることもできる。
結合部品及びそこから放射状に伸びるロッドはプラスチック材料から一体として押し出し成型によって作ることができる。補助毛髪を高密度に備えるために多数のロッドが備えられるがしかし合理的な区域の中が着用者自身の毛髪を容易に引き出すことができるように開かれていなければならない。三角形の区域の角度,又は平行なロッドの距離は変化しても良く,このようにして使用者自身の毛髪の異なった密度及び髪型に適合できるものとなる。」(2頁右下欄19行〜3頁左上欄9行)(エ)「毛髪はロッドに接着,締め付け又は溶着によって直接に取り付けられる。この状況において結合部品はロッドが取り外しできるように連結される分離部材として設計されることが好ましい。このようにしてヘアピースの使用者は補助毛髪の希望する密度及び/又は着色房の差し込みの調節を自分でロッドを取り外したり付け加えたりして行うことができる。更にヘアピースは使用者自身の毛髪を染める前に染色後の効果の良い印象を使用者に見せて色を選ばせるための,例えばさまざまな房の色の実演モデルとして使うことができる。交換可能に接続できるように,結合部品はロッドが交換可能に差し込めるような放射状ポケットの付いた板として備えられても良い。
支持部材の確実な保持は支持部材の自由端で終わるロッドを人自身の毛髪の内に差し込むことによって達成される。しかし,さらに他の取り付け方法も実行可能である。これを取り付けるために取り付けピンが結合部品内の通路を通して結合部品の下の毛髪の結び目内に差し込まれる。」(3頁左上欄15行〜右上欄3行)(オ)「縁なし帽子のような形状をした,ヘアピースの支持部材10は実質的にはプラスチック材料,好ましくは透明な材料から成る複数の弾性的なロッド12及び13から成っており,これらのロッドはかごを形成するように湾曲して,円形の結合部品11から放射状に伸びており,長さはいろいろであってもよい。板状の平らな結合部品11は押し出し成型方によってロッド12,13と一体的に成型されて支持部材10を構成し,ロッドは円形又は平たくされた断面と突起の無い滑らかな外表面とを持っている。図1から3の実施態様において結合部品は使用者の頭の後部にとまるように,頭の半球に関して編心的に配置されている。前部ロッド12は頭の前部に組み合わされ,それらが自由端で終わる生え際に向かって伸びている。それぞれの生え際の方向及び要求される髪型に従ってロッド12は切断して短くすることができる。ロッド13は前面ロッド12より短く結合部品11から頭の側部及び後部を横切って放射状に伸びている。使用者の頭の形及び髪型に及ぼす一定の効果,及び適合性がロッドの不均一な長さによって得られるように,これらのロッドを選択的に切断して短くすることも同様に可能である。
ロッド12及び13はほとんど三角形の区域14を一対で囲んでおり,その三角形の頂点は結合部品11上にあり,三角形は横方向のウエブ無しにその全拡張領域に広がっている。ロッド12,13間の角度は使用者自身の毛髪の密度に応じてロッド12,13の数を変えるためにロッドのグループ内で同一であっても異なっていても良い。」(3頁右下欄5行〜4頁左上欄1行)「各ロッド12,13及び結合部品11は使用者の頭と反対側の面上に毛髪を付けており,その毛髪は選択的に染められ,及び/又は捲縮されても良い。(図14)。ヘアピースは結合部品11が後頭部の上に係合するまでロッド12,13の自由に垂れた端がその頭の皮膚上を滑るように後から使用者の頭上に押される。それから生え際にとがった物が当てられ,即ちすべてのロッド12,13の自由端区域においてこの物体が頭の皮膚の上を各三角形区域14を通って結合部品11の方向へ引かれる。こうすることによって使用者自身の毛髪21(図1A)は容易に引き出され,補助毛髪20と均一に混合され,これによって使用者自身の薄い毛髪21はヘアピース120によって充足され,このようにしてたっぷりした髪型が得られまた生え際は自由端で終わるロッド12によって自然な感じに保たれる。
ヘアピンは頭上にヘアピース120を固定するために円筒形の一様なロッド12,13の間の結合部品11の範囲内に差し込まれる。各ロッド112,113は互い違いに(図4)開口部分が結合部品111の方向を向いているさかとげ16で縁取られているので頭の皮膚上を移動する物体によって矢印Aの方向に使用者の毛髪を引き出すに当たってさかとげ16は邪魔にならない。図4の実施態様において結合部品111は頂部及び底部に開いた中央孔19を有する円板17として形成しているので,それを通して頭の後の毛髪の結び目にライダーピンと呼ばれるものを向きを変えて差し込むことができる。」(4頁左上欄6行〜右上欄1行)「毛髪20をロッド12,13又は112,113に取り付ける方法は図5及び6に図示されている。毛髪を取り付ける各ロッド12,13,112,113の表面を拡大するために,ロッド12に関する図5及び6に示すようにロッドは好ましくは円形部分を外方に向けた半円形断面を形成するのが好ましい。図5によれば長い毛髪及び/又は短い毛髪20はロッド12の全長にわたってその半円形の外表面上に接着又は溶着される。
図6においてロッド12は留め空所12a内に取り付けられている毛髪20によって縦方向に分割されている。ロッド12の縦方向半球はいずれもその後で接着的に接続されている。」(4頁右上欄9行〜18行)(カ)「図1から3及び4に示す実施態様においては結合部品11又は111は円板であったが図7から10に示す支持部材100の結合部品30はその縦方向軸がへアピースの着用者の両耳面内に伸びている縦方向棒として備えられている。縦方向結合部品30は後頭部の上部に位置する頭頂部範囲を形成し,そこからロッド31,32,33は支持部材100を頭にぴったりはまるかご状の形をした構造体として形成するように曲って周辺的に伸びている。ロッド31,32,33は弾性的なので支持部材100はいろいろな形及び寸法の頭に適合する。結合部品30は縦形をしているので前面ロッド31と後面ロッド33は結合部品30から大部分は平行に伸び,かつ中間区域34は上端及び下端においてほとんど同じ幅で伸びることができる。鋭い角度を避けることによって着用者自身の毛髪をロッドの間から容易に引き出すことができる。それらの曲率に加えて結合部品30の両端に組み合わされた前部ロッド31aは頭の形に合わせて頭表面の平面にそって少なくとも一回曲げられ,そこで髪型に合ったヘアピースの毛髪の方向に自然らしく適合することができる。」(4頁右上欄19行〜左下欄8行)「押出成型によりロッド31,32,33と一体に作られている結合部品30は結合部品30の下の毛髪の組み結び目の内に差し込まれ,支持部材100を移動しないように固定するヘアピン及び類似の物の通路として作用する中央縦形小穴36を有する。
図示された実施態様においてロッド31,32,33は円形断面をしている。」(4頁左下欄12行〜17行)ウ 図面(ア)「FIG.1」(図1),「FIG.1A」(図1A),「FIG.2」(図2),「FIG.3」(図3)には,毛髪20が取り付けられる複数のロッド12,13が,頭上の円形の結合部品11から放射状に,髪の生え際に向かって線状に伸びており,自由端で終わっているかつらの図が記載されている。
(イ)「FIG.4」(図4)には,中央孔19を有する円板17である結合部品111に,ロッド112,113が取り付けられている図が記載されている。
(ウ)「FIG.5」(図5),「FIG.6」(図6)には,半円形状のロッド12に毛髪20が取り付けられている図が記載されている。
(エ)「FIG.7」(図7),「FIG.8」(図8),「FIG.9」(図9),「FIG.10」(図10)には,毛髪が取り付けられる複数のロッド31,32,33が,頭上の棒状の結合部品30から放射状に,髪の生え際に向かって線状に伸びており,自由端で終わっているかつらの図が記載されている。
(2)上記(1)の記載によると,引用例(甲3)には,審決(4頁13行〜23行)が認定するとおり,次の発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
「かつらの間から着用者の毛髪を引き出してかつらに取り付けられた補助毛髪とを混合して装着するかつらにおいて,複数のロッドは,結合部品から放射状に,自由端で終わる生え際に向かって,伸びて支持部材を形成し,複数のロッド及び結合部品からなる支持部材に多数の補助毛髪を取り付けて周辺に枠を有しないヘアピースを構成し,着用者の頭部に載せて,ヘアピースのロッドの間から引き出した着用者の毛髪とロッドに取り付けた補助毛髪とを混ぜ合わせて装着するかつら。」(3)さらに,上記(1)の記載によると,引用発明の複数のロッドは,円形又は半円形の断面を有する線状のもので,毛髪を取り付けて,着用者の頭部の上に載せるものであるから,前記2の本願補正発明における「リブ」の意義に照らしてみると,引用発明の複数のロッドは,本願補正発明にいう「線状に形成した複数本のリブ」に相当するということができる。
4 取消事由1(相違点認定の誤り)について(1)原告らは,審決は,〈相違点3〉(「骨格様のフレームワークについて,本願補正発明では,線状に形成した複数本のリブを組み合わせて構成されているのに対し,引用発明では,複数のロッドが結合部品に放射状に結合されて構成されている点。」)を看過していると主張する。
しかし,原告らが上記主張の根拠としている「本願補正発明における『線状の複数本のリブを組み合わせて』とは,複数本の線状の骨部材が肋骨状に組み合わされた状態,すなわち部材同士の関係に注目すると,線状の部材同士が互いに対等な一対一の関係で交点で組み合わされた状態を意味することがわかる。」との原告らの主張を採用することはできないことは,前記2で述べたとおりである。
(2)また前記3のとおり,引用発明の複数のロッドは本願補正発明にいう「線状に形成した複数本のリブ」に相当し,引用発明においては,それらが(結合部品を介しているものの)組み合わされていることは明らかであるから,引用発明は,線状に形成した複数本のリブを組み合わせて構成されているものであって,この点において本願補正発明との間に相違点はない。引用発明においては,結合部品が用いられており,「線状に形成した複数本のリブ」のみで構成されていない点が本願補正発明と異なるが,この点は,審決において〈相違点1〉として検討されている。
(3)したがって,審決が上記〈相違点3〉を看過したということはできないから,取消事由1の主張は理由がない。
5 取消事由2(推考容易性についての判断の誤り)について(1) 「相違点1についての判断の誤り」につきア引用発明においては,前記3のとおり結合部品が用いられている。そして,この結合部品は,円形(結合部品11,111)又は棒状(結合部品30)のものが記載されている。
しかし,前記3(1)アのとおり,引用例(甲3)の【特許請求の範囲】請求項1は,「頭頂部区域から始まり,その自由端へと連続して伸びる中間区域(14)を一対で規定し,自由端で終わるロッド(12,13)によるかごとして備えられている支持部材を有することを特徴とする,湾曲したウエブより成る毛髪支持部材を有するヘアピース。」というものであって,引用例においては,結合部品が必然のものとはされていない。また,結合部品の形態も上記のとおり複数の形態が示されており,その形態が円形又は棒状のものに限定されるとまでは解されない。さらに,前記3(1)イ(ウ)のとおり,引用例(甲3)には,「結合部品及びそこから放射状に伸びるロッドはプラスチック材料から一体として押し出し成型によって作ることができる。」(3頁左上欄2行〜3行),「押出成型によりロッド31,32,33と一体に作られている結合部品30は…」(4頁左下欄12行〜13行)と記載されているから,引用発明において結合部品とロッドは同一材料で一体的に製造されるものである。これらのことからすると,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,引用発明から,引用発明における結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほどのものとすることを容易に想到することができるというべきである。
イ原告らは,「結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さくする」ことは,技術的には製作不可能である,と主張する。
しかし,上記のとおり引用発明において結合部品とロッドは同一材料で一体的に製造されているのであって,その製造に当たり,「結合部品を限りなく小さくしてロッドに対して無視し得るほど小さくする」ことが技術的に不可能であるということはできない。
ウ原告らは,「ロッド12,13の本数や太さを変化させずに結合部品11の面積を小さくしていくと,結合部品との結合部位周辺におけるロッド12,13同士の隙間14は狭くなる。ロッド同士の間隔が狭いと,ロッド同士の隙間14から自毛を引き出すことが困難となるから,この周辺においては,引用例の自毛活用型かつらの前提である『かつらの隙間から装着者の自毛を引き出してかつらに取り付けた擬毛と混ぜ合わせること』ができない。」と主張する。
また,証拠(甲14〜16)及び弁論の全趣旨によれば,引用発明の結合部品11の直径をそれぞれ5cm,4cm,2cm,1cmとした場合に,結合部品直近の太さ1.2mmのロッド同士の隙間から標準的なブラシ(櫛歯の長さが1.8cm程度,櫛歯の間隔が0.8cm程度)を用いて自毛を引き出すためには,ロッド間の角度がそれぞれ約20度,20度,30度,50度必要であること,50度のロッド開き角度を必要とすると,ロッドの本数は,360度÷50度=7.2(本)となり,人の頭を上面視した際の直径を20cmとすれば,20×π÷7=8.97であるから,ロッド同士の間隔は9cmほど開くこととなることが認められる。
しかし,結合部品付近から毛髪を引き出すことが困難となり,それがかつらとして支障になるのであれば,当業者は,ロッドの太さを変えるなどの工夫をするものと考えられ,それを後知恵ということはできないから,原告らが主張する上記の点は,引用発明において結合部品をなくすことに技術的な困難性があることを認めるに足りるものということはできない。
エそうすると,相違点1については,引用発明から容易に想到することができたというべきであり,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
(2) 「相違点2についての判断の誤り」につきア前記3のとおり,引用発明は,かつらの間から着用者の毛髪を引き出してかつらに取り付けられた補助毛髪とを混合して装着するかつらであるから,自身の毛髪が生えていない部分にロッドが伸びている場合には,混合すべき毛髪が存在しないため,ロッドと擬毛だけが目立ち,かつらを装着していることが外観上わかってしまうおそれがあるものと考えられる。また,前記3(1)イ(オ)のとおり,引用例(甲3)には,「図1から3の実施態様において結合部品は使用者の頭の後部にとまるように,頭の半球に関して偏心的に配置されている。前部ロッド12は頭の前部に組み合わされ,それらが自由端で終わる生え際に向かって伸びている。それぞれの生え際の方向及び要求される髪型に従ってロッド12は切断して短くすることができる。ロッド13は前面ロッド12より短く結合部品11から頭の側部及び後部を横切って放射状に伸びている。使用者の頭の形及び髪型に及ぼす一定の効果,及び適合性がロッドの不均一な長さによって得られるように,これらのロッドを選択的に切断して短くすることも同様に可能である。」(3頁右下欄12行〜22行)と,ロッド12を切断して短くすることが記載されている。そうすると,使用者自身の毛髪と擬毛とを混合して用いるかつらにおいて,かつらを装着していることが外観上わからないようにするため,ロッドを短くして,ヘアライン(毛髪の生え際)に達することなく,天頂部側に入り込んで位置するようにフレームワークを形成することは,当業者であれば,引用発明から容易に想起することができると考えられるから,「骨格様のフレームワークを構成する骨部材について,その先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置する」相違点2に係る本願補正発明の構成を容易に想到することができたというべきである。
イなお,原告らは,相違点2は,正確には,「骨格様のフレームワークを構成する骨部材について,本願補正発明では,その先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置するのに対し,引用発明ではその自由端はヘアライン,天頂部との関係が不明であるが,固定端は頭頂部区域に位置する点。」と認定されるべきであると主張する。その趣旨は,引用発明では固定端が頭頂部区域に位置することを明示すべきであるというものと解されるが,この点を相違点2の認定に加えたとしても,上記アで判示したところからすると,当業者が「骨格様のフレームワークを構成する骨部材について,その先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置する」構成を容易に想到することができることには変わりがないというべきである。
ウしたがって,相違点2については,引用発明から容易に想到することができたというべきであり,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
(3) 以上のとおり,取消事由2の主張は理由がない。
6 取消事由3(本願補正発明の効果についての判断の誤り)について(1) 「効果1(相違点1に起因する効果)」につき原告らは,引用発明では,「面状の」部材である「結合部品」が不可欠な部品として存在するから,結合部品11の面積分,自毛を押さえつけ上方へ引き出すことができず,装着者の自毛を有効に活用することができないばかりか,かつらが頭皮から浮き上がってしまい,かつらが露見されやすくなるところ,本願補正発明では,そのようなことはないと主張する。
しかし,前記5(1)のとおり,当業者は,引用発明において結合部品を除いたものを容易に想到することができるところ,引用発明において結合部品を除いたものについては,原告らが上記で主張するような問題はなく,そのことは当業者が容易に予測できる範囲内のものであると考えられる。
(2) 「効果2(相違点3に起因する効果)」につき前記4のとおり,本願補正発明と引用発明との間には,〈相違点1〉のほかに,原告ら主張に係る〈相違点3〉が存するとは認められないから,「効果2(相違点3に起因する効果)」についての原告らの主張を採用することはできない。
(3)したがって,本願補正発明が格別の効果を奏するということはできないから,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできず,取消事由3の主張は理由がない。
7取消事由4(本件補正を却下すべき旨の判断の誤り)について(1)前記5のとおり,当業者は,本願補正発明と引用発明との相違点1,2を容易に想到することができるのであり,前記6のとおり,本願補正発明の効果も格別のものということができないから,本件補正を却下した審決の判断に誤りがあるということはできない。
なお,本願に対応する特許出願が複数の外国で特許性が認められ,特許権が成立しているとしても,特許性を認めるか否かは各国が独自に判断すべきものであるから,外国で特許性が認められたからといって,本件補正を却下した我が国の審決の判断に誤りがあるということはできない。
(2)原告らは,仮に本件補正が却下すべきものであったとしても,本願発明は進歩性を有する等と主張するが,本願発明は,本願補正発明から,「各リブの先端部がヘアラインから天頂部側へ入り込んで位置するように」,「装着者の頭部に載せて」との発明特定事項を省いたものであるから,本願発明と引用発明との間には相違点1があるが,前記5(1)のとおり,当業者は,相違点1を容易に想到することができたものである。そして,前記4で述べたものと同様の理由により,本願発明と引用発明との間には,〈相違点1〉のほかに原告ら主張に係る〈相違点3〉が存するとも認められないから,本願発明は引用発明から容易に想到することができたものと認められ,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。
(3) 以上のとおり,取消事由4の主張は理由がない。
8取消事由5(請求項2以外の請求項に係る発明についての審理不尽)について(1)本願に適用される平成14年法律第24号による改正前の特許法49条は,次のとおり規定している。
「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
1 (省略)2その特許出願に係る発明が第25条,第29条,第29条の2,第32条,第38条又は第39条第1項から第4項までの規定により特許をすることができないものであるとき。
3〜7 (省略)」また,特許法51条は,次のとおり規定している。
「審査官は,特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない。」(2)以上の規定によれば,特許法は,特許出願ごとに,その出願に係る発明について特許法29条等により特許をすることができないものが存するときは,拒絶の査定をし,そのような拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならないと規定していると解することができる。
したがって,その出願に係る発明中に特許法29条等により特許をすることができないものが存するときは,その特許出願は全体として拒絶されることになるのであって,その理は,審査官による審査においても拒絶査定不服審判においても異なるところはないものと解される。
(3)そして,上記(2)のように解したからといって,特許法1条が規定する発明保護の目的や衡平の原則に反することはないし,民法1条2項及び民訴法2条に定められている信義誠実の原則に反することもない。拒絶査定を受けた出願人は,基本手数料に加え,請求項数に一定額を乗じた金額を納付しなければ拒絶査定審判を受けることができないこと(特許法195条2項別表「11」)は,特許がされる場合にすべての請求項について審理判断がされることに対応するものであって,上記(2)の解釈が信義誠実の原則に反することを基礎付けるものではない。
また,上記(2)のように解したからといって,特許法49条が定める拒絶理由がなければ,その出願に係る発明すべてについて特許を受けることができるのであるから,「密接に関連する一群の発明をもれなく一つの出願に含めて記載することができるように」し,「単一性の要件を満たす限り,同一発明か別発明かの区別をなくすることによって出願手続の簡明化等を図ることができるようにする」との多項性の趣旨が没却されるとも解されない。特許庁の審査基準(甲22)では,「拒絶査定に際しては,解消されていないすべての拒絶理由を示すとともに,その拒絶理由がどの請求項に対して解消されていないのかがわかるように,簡潔かつ平明な文章で記載する。」とされており,また審査ハンドブック63.06には「拒絶の理由を発見しない請求項を含む出願について拒絶理由を通知する場合には,…拒絶の理由を発見しない請求項を明示する」と記載されているとしても,これらの扱いは,拒絶理由通知及び拒絶査定において出願人の便宜を図る観点から規定されたものと解され,上記(2)のように解することを左右するものではない。
さらに,原告らは,上記(2)のように解すると,無用な分割手続が増えて審判経済,訴訟経済に反するとか,審決時に各請求項ごとの判断が明記されていれば,分割出願について審査請求をしないという選択肢も考えられるとも主張するが,既に述べた特許法の解釈からすると,一部の請求項に拒絶理由があるために特許出願全体が拒絶されることを避けるために分割出願の手続を採ることは,出願人にとって有用な方法であって,それをもって審判経済,訴訟経済に反するということはできないし,また,審決時に各請求項ごとの判断が明記されていれば,分割出願について審査請求をしないということがあり得るかもしれないが,特許法は,そのような目的のために審決において請求項すべてについて判断をするとの制度を採用しているものではないことは明らかである。
(4)以上のとおりであるから,本件において,審決が本願の請求項のうち請求項2についてのみ拒絶理由があるかどうかを判断して,請求不成立の審決をしたことに,審理不尽の違法があるということはできない。
なお,拒絶査定不服審判において,審理終結通知がなされた後に出願人から補正案が提示された場合に,特許庁が,それについて補正を行う機会を出願人に与えるべき法的義務はないと解されるから,本件において,原告らに対して審理終結通知がなされた後に補正の機会が与えられなかったとしても,そのことをもって違法な手続ということはできない。
(5) したがって,取消事由5の主張も理由がない。
9結論以上のとおり原告ら主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海